陽炎「裏の顔」
寂れた鎮守府の提督と艦娘たちの裏の物語
前書きを見てから読んでね
どうも初めまして、かむかむレモンです。そうでない方は、いつも見てくださりありがとうございます。
今回はイベで溜まりに溜まったストレスと某氏のTwitter絵を見てゲス思考を巡らせまくったSSになります。なのでキャラ崩壊しまくります。
また長くなりそうですが、何卒宜しく御願いします。
登場艦娘については、更新し次第タグに入れておきます。
護送車内…
憲兵(新人)「いやーラッキーすね。ダブった艦娘を引き取る鎮守府なんかあるんすねぇ」
憲兵「ふん、それしか増やす方法が無いからな、あそこは」
新人「へ?どういう…」
憲兵「お前が向かう鎮守府は、少し前に敵から本土強襲され、廃墟同然となった場所だ」チラッ
陽炎「…」
憲兵「まあ、あそこに着任したっていう提督も、お前同様使い捨てだろうがな」フン
新人「え、あそこって、例の?」
憲兵「そうだ。重複した艦娘は普通待機から解体だが、生き延びて使命が全うできると有難く思うんだな」
陽炎「…」
憲兵「それにお前は運がいい、解体される前に食い物にされずに済んだからな。その幸運、どこまで続くかな」ククク
新人「え、その噂マジだったんすか?」
憲兵「さて、どうかな…着いたぞ」ガチャ
新人「はぇ~すっごいボロボロ…」
陽炎「…どうも」スタスタ
憲兵「待て待て、錠を外すぞ」
陽炎「要らない」バキッ
新人「ファッ!?」
陽炎「生まれたてとはいえ、艦娘を舐めない事ね」ポイ
壊れた手錠「あーもうめちゃくちゃだよ」
憲兵「提督となる奴は既に来ている。探しておけ。ただし、逃げようと思わんことだな」
陽炎「…」スタスタ
憲兵「…よし、帰るぞ。後は知らん」
新人「おかのした」
陽炎「…ったく、襲撃されてから何も片付けて無いみたいね。これじゃ探すどころじゃないわ」
陽炎「…っと、あれは人影?ちょっと!あんたが…ってうわぁぁ!?」シュルルル
陽炎「ちょ、何これロープ!?罠!?は、離してよ!誰か!」ジタバタ
「何だ、ガキか」スタスタ
陽炎「あ、あんた!ちょっと助けてよ!切れないんだけど!」
「…ん?お前、艦娘か。という事は…」
陽炎「んぇ?」
「…失礼したな。下ろすぞ」シュルシュル
陽炎「え、ええ…って、何なのよこれ!それとあんた誰!」
「俺か?俺はここの提督を任された者だ。お前は?」
陽炎「か、陽炎!陽炎型駆逐艦一番艦の陽炎よ!」
提督「…一番艦でもカブったらポイか」
陽炎「な、何でそれを…」
提督「…まあいい、陽炎って言ったな。悪いがお喋りする時間は無い。早速仕事に取り掛かるぞ」
陽炎「へ?あ、そうね。撤去作業ね」
提督「何言ってんだ。そんなん業者に任せりゃいいんだよ」
陽炎「業者って…そうだろうけど、こんな有様だと費用は…」
提督「だから今から稼ぐんだよ」
陽炎「へ?」
提督「今時まともに稼ぐなんて馬鹿らしい。副業の一つや二つ持ってたってバレなきゃ構いやしねぇ。そっちのが手っ取り早いだろ」
陽炎「??」
提督「…お前は今回は見学だ。次はお前にも実践させるからな。着いてこい」ヨイショ
陽炎「な、何それ」
提督「商売道具だ。お前も持て」
陽炎「っ!こ、これって…」
提督「落とすなよ」スタスタ
陽炎「ちょ、待ってよ!」
***
陽炎「ず、随分歩いたけど、ここどこ?」
提督「…よし、時刻通り」カチャカチャ
陽炎(や、やっぱり、狙撃銃!しかも手慣れてる…)
提督「…ばーん」パシュッ
陽炎「…」
提督「…依頼完了。残りの金も明日中に」ピッ
陽炎「あ、あんた…」
提督「終わりだ。帰るぞ」ガサガサ
陽炎「…殺ったの?」フルフル
提督「ん?そうだが?」
陽炎「…何で、こんなこと…」
提督「…だから言ったろ、これが稼ぎだ」
陽炎「っ…」
提督「ちょうどいい。ここでハッキリさせようか。こっから先は裏の世界だ。お前はまだ片足突っ込んだとこだが、まだ後戻りできる」
陽炎「…」
提督「このまま先に進むなら、次の依頼は俺同伴だがお前にやらせる。一人前になるまでは補助してやる」
陽炎「…嫌と言ったら?」
提督「絶対に口外しない事を条件に、大本営に送り返す。もし破ったら…わかるな?」
陽炎「…あんた一人で何が出来るのよ」
提督「何でも出来る。俺なら」ギョロ
陽炎「っ!」ビクッ
提督「決めな」
陽炎「…あんたの名前、まだ聞いてなかった」
提督「名前…名前か。忘れちまったよ」
陽炎「…どういう事よ」
提督「ずっと使わねぇと忘れちまうもんだ。だから好きに呼べばいい。俺はそれを名とする」
陽炎「…それじゃ、一応あんたは鎮守府の司令だから、司令にする。本名もわかんないなら、役職でいいでしょ」
提督「…司令は初めてだな。いや、そんなものか」
陽炎「そんなものよ」
提督「…さ、帰るぞ。金が入ったら業者呼んどけ」スタスタ
こうして、解体待ちの私は生き延び、司令と出会った。
私にとっては刺激が強すぎた日だったけど、何より覚えてるのは…
司令の瞳は、底知れぬ闇を喰らって生きているように見えた。
私は生まれながらに要らないものとして扱われた。困惑する暇すら与えられず、待機として大本営に送られた。
私以外にも同じ境遇らしい艦娘が艦種問わず居た。皆落胆の色を隠せないが、まだ希望に縋りつける気力は残っているようだった。
だが現実は残酷だった。憲兵に呼ばれ、一人ずつ待機部屋から出ていく。解体されるのだ。
解体を告げられた艦娘は心が折れたのか、全てを諦めたのか、妙にスッキリしたような表情をしながら出ていった。
勿論そんな強い子だけじゃなかった。泣き叫び、ごねる子も居た。見てるこちらも泣きそうになった。
しかし、それとは別の異質な叫びがあった。憲兵からの耳打ちを聞いてから、狂ったように逃げ出す艦娘が居た。恐らく、あの憲兵が言ってた慰安目的だろう。
彼女の悲鳴は死への恐怖ではなく、陵辱への恐怖、そして拒絶を含んでいた。今もその声は忘れられない。
ごく稀に、引き取る鎮守府が見つかる艦娘が居るらしい。例外なく涙を流し、その鎮守府と司令に忠誠を誓うようだ。その後どうなるかはそこの司令次第だが、悪く扱われない事を願うばかりだ。
入れ替わるように艦娘が出入りする待機部屋。それはこの世の闇にも思えたが…私は生きて逃げ出せた。しかし、逃げ出した先もまた、闇の世界だった。
まだ一度も砲弾を撃ったことの無い私を後目に、彼は軽く引き金を引き、人の命を奪った。躊躇いも無く殺す姿は、極めて異質ながらも、人の本質、司令の生き様を見たかのようだった。
でも、今思えば見知らぬ男共に食い物にされるよりも、ただ死を待つだけよりもマシだったと思う。生きているだけで儲け物、その後の生き方は私が決めるものだ、と。
あれから、私は司令と共に『依頼』を遂行した。依頼は殆ど殺しだった。どの人間も邪魔な人間は居なくなって欲しいようだが、ここまで極端な例ばかり見ていると感覚が麻痺してしまうらしい。
その内、私は単独で依頼をこなせるようになっていった。司令からすればまだ半人前だろうけど、司令から教わった基本的な技術を覚え、痕跡を残さないヒットマンとして育っていった。
何の皮肉か、練度に見合わない命中精度も手に入れた。深海棲艦も見方を変えれば命ある者たち。艦娘はそれを殺すだけ。やってる事はあまり変わりなかった。
依頼で貯まった金、依頼で支払われる金を見ていくうちに、標的となる者が金に見える時がある。スコープを覗くと、悪意を向けられた人間の価値として見えるようになった。
司令もどうやら同じらしい。その能力を駆使して、依頼の選別をしているようだ。もう気にもしない様子から、狂っていることも忘れてしまっているみたいだ。無論私も似たようなものだけど。
誰しも一度は特定の人に殺意、もしくはそれに近いものを向けるだろう。だがそれを自分でやる度胸も無ければ、力もない。だからこそ司令のような、狂った人間に手を出させるのだ。
表の社会では経歴に傷を付かせたくないのだろうが、私には依頼主が臆病に見えてしまった。司令があの時言った言葉が今だから判る気がする。
一人で何が出来る、と疑問に思っていたが、一人だからこそ何でも出来る、と思うようになった。ここまで力を付けたからこそ、司令はそう思ってたんだろう。
そんな日々を送り続けて数ヶ月、外面だけは寂れたままの鎮守府だが、艦娘は増えていった。業者に頼んで瓦礫は撤去してもらったし、口止め料という名のチップで業者には色々と世話になった。
司令は時折大本営に向かう。その時に引き取る艦娘を選別し、連れてくるようになった。どうやら、自分と同じ波長?を直感で感じ取るらしい。
私の時もそうらしく、待機部屋に向かう途中で私を見たとの事。私は全く気づかなかった。と言うかその時からそんな気があったのか私は…
そんなこんなで、司令ははぐれ者となった艦娘たちも裏の仕事を教え込むようになった。連れて来られた艦娘は司令の選別通り、拒むことは無かった。
二人でやってた時よりかはかなりスムーズになったけど、それでも依頼は絶えない。金には困らないが、足がつかないように質素な生活を心掛けている。
司令もそれを皆に耳にタコができるくらい言ってる。多分バレても今なら何とか対処出来ると思うけどね。
…ま、そんな感じでこの私、陽炎は昼は艦娘として、夜は裏の世界の住人として生きている。その私と他の艦娘を率いる司令、そんな闇の集団の潜む鎮守府を、私だけ『裏稼業鎮守府』と心で呼ぶようになった。
***
提督「…」パチッ
陽炎「司令、朝よ」
提督「分かってる。昨日はご苦労だった。金は」
陽炎「確認したわ。過不足無しよ」
提督「よし、そんじゃ提督業開始っと…」ヨイショ
陽炎「…今日の当番は司令だから」
提督「そうだっけ…いや、そうだ。待ってな」
昨晩も依頼を遂行した。ターゲットは大企業の幹部で、機密情報をマスコミに漏らそうとした所を始末した。
正義感の強かった幹部が会社に消されるというありがちな話だった。ただクビにしても機密をバラしてしまえば会社が炎上してしまう。その為の口封じらしい。
死体も速やかに回収、処分し、会社の用意したシナリオ通りになったわけだ。
世間からしたら私のやった事は悪だろうが、私たちにとっては商売。顧客の要望に応え、対価を受け取っただけ。
提督「…はー全員分作んのめんどくせぇ」ブツブツ
陽炎「給糧艦雇えばいいのよ」ペラペラ
提督「あいつらみんな『綺麗』だから合わねぇよ」
陽炎「…ま、そうよね」ペラッ
初雪「司令官、ご飯」ガチャ
提督「その前に」
初雪「お得意さんから2、一見さんから8」
提督「増えてんな…」
初雪「身元はご飯の後にやるから」
提督「あーわかったから、勝手に取ってけ」
初雪「…どっから漏れてんだか」モグモグ
この子は初雪。主に情報処理や諜報を担当してる。最初に任された依頼は確か…大手検索エンジンのクラッキングだったかな?
入った金はPC関連に注ぎ込み、最近はゲームにも手を出してるみたい。暇つぶしに付き合ったけど手際がヤバいの一言に尽きるわ。
依頼の選別や顧客管理も任されているけど、ここ最近顧客認定していない『一見さん』が僅かだが増えてきている。初雪に限って漏洩はしないだろうけど…
提督「そういやスパコン発注したいらしいな?」
初雪「うん。望月も言ってる」
提督「どこ置くんだよ。冷却装置は?」
初雪「地下」
提督「まーた業者に頼むんか。あんまりやると憲兵どもにバレるぞ」
初雪「…司令官、今なら憲兵買収出来るんじゃないの」
提督「できるがそんなんで金使いたくねぇよ」
初雪「…じゃ、いい。いつか自作する」
陽炎「あんたね…」
初雪「あたしなら、出来る」
陽炎「作ってもいいけど全部自分の金にしてよね」
初雪「借りないし」
提督「そっちの話は定時迎えてからにしろ」
潮「いいじゃないですか。誰に聞かれてる訳でもありませんし」スッ
提督「飯なら取ってけ」
潮「頂きます」
初雪「…これ、潮用の依頼の詳細」ペラッ
潮「はい、了解」
この子は潮。担当は主に私たちと同じ暗殺。私たちと違って彼女専用の窓口が存在する。そして、たまに一人で出歩いては通り魔をする問題児。
こうなった原因は例の慰安によるものだ。潮の場合は特に反応や豊満な身体が災いして、嫌な話だが飢えた輩には人気らしい。吐き気を催す程の行為をされてきたとの事。
好き放題犯され、嬲られ、解体される寸前に、司令に拾われた。潮は極度の男性恐怖症になっていたが、その恐怖を憎悪に変え、解消する方法を徹底的に教え込まれた。
お陰で潮は男性恐怖症を事実上克服する事ができた。だがその湧き上がる衝動を制御する術を彼女は習得し切れていない。
ちなみに潮用の依頼とは、調査した上で男有責に限る性犯罪者の抹殺である。時折女の人が性犯罪を犯す場合があるが、こちらは尽くスルーしている。通り魔も男性のみを狙っている。
潮の手口はどれも巧妙かつ残忍だが…まあこれは別の話ね。私も正直引くレベルだから。
潮「わざわざ調べてくれてありがとうございます」ニヤァ
初雪「暇だったし」
潮「…最近は報酬に期待出来なくなりましたね」ペラッ
初雪「万札すら出し渋るのは論外」
潮「そういう時はね、初雪ちゃん。ターゲットの中身を売ればいいの」
初雪「足着かない?」
潮「大丈夫!」エヘヘ
陽炎「あんま派手にやらないでね」
潮「大丈夫!バレても皆殺しにするから!」ニヘラ
提督「血の気が多くてこの先安泰だなっと」モグモグ
潮「あ、提督も解体してみます?案外面白いですよ?」
提督「正直専門外というか、肌に合わなかったんだよな。疲れるし汚れるし」
潮「残念です…」
…潮は、『自分にされた事を返してるだけ』と言っているが、その言葉だけで壮絶な体験をしてきたと容易に想像出来る。しかし人間は艦娘と違って高速修復剤を浴びせられても直ちに元通りにならない。膜も復活しない。
故に、潮にとって司令との出会いは運命的だと思った。拾われるタイミングも、その時だったからこそと思った。
提督「おい、『仕事』の話は後だ。俺はまた大本営行くから、後は任せたぞ」スタスタ
陽炎「はーい、いつも通りね」
初雪「ん…」フリフリ
潮「…フフッ」ユラッ
陽炎「おーっと潮ちゃん?」ガシッ
潮「…はい」
…全く、朝っぱらから通り魔なんてさせられないわ。
***
大本営
提督「…」チラッ
提督A「おいおい、またゴミ漁りか?」ニヤニヤ
提督「…」チラッ
提督A「いやー『ガラクタ山』は建造出来ねぇって聞いてるが、まだ修復できてねぇのか?貧乏くんは大変だねぇ」
提督「…」チラツ
提督A「ククク、何も言えないか。汚らわしい寄せ集めはとっととおうちに帰んな」スタスタ
提督「…」チラッ
憲兵「また来たか」
提督「ああ」
憲兵「他の提督と仲良くやったようだが、話は弾んだか?」
提督「誰か居たのか?」
憲兵「…ふふ、さて、今日は居るのか?」
提督「…あいつ、艦種は」スッ
憲兵「戦艦だな。あいつなら…そうだな、お前からは随分と貰ってるからサービスだ」手のひら広げ
提督「5か。随分と良心的だな」バサッ
憲兵「おっとっと、軽く払いやがるなぁ。こんな額、俺の年収分なのにな」
提督「俺にとっちゃ端金だ。つか今までの『小遣い』併せれば辞めたって生きていけるぞ」
憲兵「…ま、こっちにも世間体ってもんがある」
提督「そうか。艦娘の引き取りはしばらく休む」
憲兵「引き取りたくなったらいつでも来な。金さえ払えばまた俺が手配しといてやる」
提督「じゃあな」
憲兵「…ふむ、今日はカミさんに外食でも誘ってやるか」
憲兵「…戦艦榛名、立て」
榛名「…はい」
憲兵「お前の引き取り手が見つかった」
***
初雪「一見さんの特定どう?」カタカタ
望月「んー、このお得意さんから漏れた感じか」カタカタ
初雪「やっぱそうかー」カチ
望月「漏らしたであろう奴も正直お得意さんって程金くれないけどね」カタカタ
初雪「切っていいかな」
望月「いいんじゃない?漏らしたら基本切るって言ってたし」
初雪「始末は?」
望月「やりたそうな子に」
初雪「あいよ」
望月「…あたしは一見さんでも金次第ならやっていいと思うけどね」カチ
初雪「…司令官に言ってみれば」
望月「今送った」
初雪「…寝よ」
陽炎「ちょっと待ちなさい、初雪は今から訓練。それと望月は掃除」
初雪「あたし実行部隊じゃないから訓練必要無くない…?」トボトボ
望月「この部屋の掃除って言ったらダメ。散らかってるように見えて整ってるから」
陽炎「そのスナック袋も?」
望月「へい…」ガサガサ
陽炎「…それで、一見さんはわかった?」
望月「殆どね。でも一人だけ上手く隠してたね」
陽炎「…」
望月「依頼なら隠れる必要無いし、ネズミかな」
陽炎「…分かり次第連絡して」スタスタ
望月「へーい」ガサガサ
この鎮守府に依頼を出す方法は当然ながらかなり特殊だ。まずスタート地点は常に海軍のホームページからだが、当然依頼窓口なんてポンと置いてあるはずがない。
司令はそのページに特定の暗号を散りばめ、それを解読できた者のみ次のページに進め、また開いたページにも暗号が隠されている。それを繰り返していくと、提督への依頼窓口に繋がる仕組みだ。
オンラインでの窓口はバレやすいと思ったけど、まず暗号自体がどこに潜んでるかすら分からず、普通の人間ならわからないという。
仮に運悪く見つかったとしても、ミス無く解読出来ないと最初のホームページに戻されるという仕組みだった。
そんな中、ごくたまにハッカーが運良く辿り着いたとしても、毎度暗号は変えられていく仕組みらしい。ここまでしなくても電話でいいと思ったが、盗聴されやすいとの事で却下されていた。
依頼人が情報を漏らす事は禁忌で、破れば知らぬ間に世界から消える事になる。いつも司令が言ってるが、舐められてるのか、それとも…
「お悩みですか?」
陽炎「…青葉さん」
青葉「やだなぁ、青葉は後から来たんですから呼び捨てでいいんですよ」
陽炎「…なんかそんな気分じゃなくてね」
青葉「例の漏洩ですか?そういうのは青葉にお任せ!」スッ
陽炎「あっ、今は…ってもう居ない」ヤレヤレ
青葉…担当は主に諜報だけど、時折始末も請け負っている。望月も担当は諜報だけど、青葉の場合は実際に現場に向かっている。望月はドローンやパソコンからの追跡が主だ。
…職務時間に勝手に抜け出すのは考え物だが、最低でも何か手掛かりだけは掴んでくる。普段は獲物も仕留めてくるけど。
「元気あっていいじゃないですかー」
陽炎「…那珂さん」
那珂「那珂ちゃん、でいいって」
陽炎「…いえ」
那珂「訓練終わったから、早めのオフ頂きまーす」
陽炎「…まだ外出しないで下さいね。せめて司令が戻るまで」
那珂「了解~」
那珂さん…初めて連れて来られた軽巡。ぶっちぎりでかぶりやすいらしく、私も何度か見てきた。
この人は運良く司令に拾われた那珂さん。皆は那珂さんを軽く見すぎているが、この人のポテンシャルは司令も驚く程だ。
そんな那珂さんの担当は戦闘。どちらかと言うと那珂さんは暗殺のようにコソコソ殺すのではなく、派手に殺る仕事が多い。依頼主は裏社会組織の幹部かボスばかりで、助太刀して欲しいとの事。
艦隊のアイドルを自負してるが、ムードメーカーなことに変わりなく、他の鎮守府と同じ雰囲気を醸し出してくれている。お陰で変に怪しまれてはいないが、夜は『解体のアイドル』となるらしい。だから潮と仲が良かったりする。
たまーに海外遠征する時があるが、これは専ら…いや、これは後にしよう。
鳳翔「うふふ、私も訓練終わりましたよ」
陽炎「鳳翔さんも?」
鳳翔「夜が楽しみで仕方ないんですよ…」ゾクゾク
陽炎「あー…」
鳳翔「…ね、見てくださいよ。震えが止まらないんですよ」フルフル
陽炎「…」
鳳翔「早く暴れたい…そう身体が叫んでるんです。早くあの子と一緒に行きたいです」
陽炎「夜まで抑えててくださいね。多分司令ももうすぐ戻ると思うんで」
鳳翔「了解です…」
鳳翔さん…最初は暗殺担当だったけど、最近はもう戦闘ばかり担当している。空母が夜に暴れ回ると聞くと変な話ではあるけど。
鳳翔さんもまた那珂さんと同じく、軽く見られて捨てられた艦娘だった。そこを司令に拾われ、私たちのようにこの世界へ足を踏み入れた。
空母は私たちよりも目が良く、中でも小柄な鳳翔さんは重宝された。そしてある時、大規模な戦闘を承った時、自分の持てる力全てを解放した感覚が忘れられず、やみつきになったらしい。
…後処理が大変だけど、実力は確かだ。普段とのギャップにいつも驚かされるけどね。
陽炎「…ほんと、血の気が多いわ」
提督「そうだな」
陽炎「…今戻ったの?」
提督「ああ。新入りが来る。今日の依頼に同行させろ」
陽炎「了解」
新入りかぁ。また教える日々が始まるのね。
***
榛名「せ、戦艦榛名、着任しました…」
陽炎「戦艦が待機させられてたの?」
提督「ああ」
榛名「あ、あの!精一杯頑張ります!」フルフル
提督「…成程、こういうパターンだったか」ボソッ
榛名「あ、あの…」
提督「はいはいはい、そんな固く無くて大丈夫。我が鎮守府はボロいながらもみんなフレンドリーだから」
榛名「り、了解です!」ビシッ
提督「…まあもう夜だし、『通常業務』は明日から。我が鎮守府はここからメイン。つーわけで、陽炎」
陽炎「はいはい。それじゃ着いてきて」
榛名「は、はい!」
提督「俺はクライアントと内容確認しに行ってくる」
まさか戦艦を連れてくるとは思ってなかった。まあ司令が見つけてきたんだし、仲間入りは決定か。
どの担当にさせようかな。戦艦だから戦闘がいいかな。実際依頼をさせてからかな。ちょっと楽しみに感じてる私も私ね。
陽炎「初雪、今日の依頼は?」
初雪「これ。調査書をよく見といてね。期限は今日の0:00まで」
陽炎「了解」
榛名「あ、あの、初めまして!本日着任しました、戦艦榛名です!よろしくお願いします!」
初雪「」キ-ン
望月「イヤホン越しでも凄い声量だわ…」
陽炎「…今から行くとこは極力音を出さないようにね」
榛名「ハ、ハイ」ボソッ
…いつもと代わり映えの無い依頼だ。目障りな幹部の始末、どこも現状維持に必死って事ね。
それだけ依頼主が何かやらかしてるんだろうけど、金を持つほど傲慢になるものか。
榛名「」
陽炎「…別に息止めてまで静かにならなくていいからね」
榛名「は、はい」プハ-
陽炎(…ちょっとおかしいわね、この人)
***
某所にて…
提督「本日はお越しいただきありがとうございます」
「たまにはこういうスリルを味わっておかないと退屈だからな。気にしちゃいないさ」
提督「…では、海軍中将殿。依頼内容を確認しておきます」
中将「ああ」
提督「…海軍大将Aの抹殺、で宜しいですね?」
中将「そうだ」
提督「了解。殺し方に指定はありますか?」カキカキ
中将「…そういえば、大将Aの息子も提督だったはず。その息子の前で大将Aを殺してやれ」
提督「了解」カキカキ
中将「自分が死ぬ時は決して家族の前でなく、戦場だと言っていたが、それでは家族も悲しかろう。私なりの気遣いだ」ククク
提督「…他に何か指定はありますか」
中将「特に無い」
提督「了解。ではいつもの事ですが、注意事項です。まず身辺調査、行動調査の為に少なくとも一週間掛けます。依頼遂行日は前日に連絡します」
中将「ああ」
提督「今回の前金で2000万円、遂行後に2000万円となります。尚、ターゲット殺害後に連絡するので、連絡後12時間以内に指定の口座に納金を」
中将(やはり今回は少しばかり値が張るか。まあ払えなくはないがな)ゴトッ
提督「…はい、確かに2000万円確認しました。もし失敗した場合は、いつも通り前金の二倍支払います」
中将「そんな事はないと思っているよ。それでは」ガタッ
提督(…家族の前で殺す、か)
***
提督「2000万は安くし過ぎたかなぁ」ブツブツ
陽炎「…戻ったのね」
提督「ああ。商談は成立だ。青葉はどこだ」
陽炎「戻ってない」
青葉「戻ってますよぉ」ヒョッコリ
陽炎「いつの間に…」
青葉「残念ながら尻尾すら掴めませんでした。何か周到という感じでしたねぇ」
提督「何の話をしてる」
青葉「一見さんの特定してたんですけど、殆どはお得意さんからの漏洩だったんですが、一件だけ誰も関わってない何者かからのでして…」
提督「…今は泳がせとけ。それよりもお前は調査だ。これは前金」ゴトッ
青葉「りょーかいです!」
陽炎「…ちょっといいかしら」
提督「何だ」
陽炎「今日連れてきた榛名って人、何なのよ」
提督「何かあったのか」
陽炎「あいつ、見学のつもりだったのにめちゃくちゃ殺りたそうにしてた」
提督「ふむ」
陽炎「だから試しに二人目やらせてみたら、ノータイムで殺ったわ。鼻歌なんかも歌ってね」
提督「ふむ」
陽炎「適正あるにしても少し異常だわ」
提督「…疑い、躊躇うことを知らず、か」ククク
陽炎「は?」
提督「わかった。俺もあいつから話を聞く。他は」
陽炎「潮はいつものでまだ。鳳翔さんと赤城さんは海外遠征。他はいる」
提督「よし。報酬は」
陽炎「過不足無し。即入金して来たわ」
提督「わかった」
陽炎「…」
***
数十分前
陽炎『…あんた、中々やるわね』
榛名『そうですか?褒めて頂いて、榛名、光栄です!』
陽炎『…ところで、引き金引く時、迷いとかなかったの?』
榛名『迷い?何故ですか?』
陽炎『何故って…』
榛名『これがこの鎮守府のお仕事なのでしょう?それなら、榛名はそれを全うするだけじゃないですか』
陽炎『…』
榛名『何より、解体される所を救ってくれた提督がやってる事ならば、榛名はそれに従うだけです』
陽炎『…そ』
榛名『もし気分を害されたなら申し訳ありません』
陽炎『いえ、そうじゃなくて、これなら他の依頼も大丈夫かなってね』
榛名『そ、そうですか!』
陽炎『じゃ、帰りましょ』
榛名『了解です!』
陽炎『入金確認っと…』ピッ
榛名『…』ボソッ
***
『嘘つき』
私が確認している間、榛名さんはそう呟いた。私の誤魔化しは見破られていたみたいだった。
私とて初めて人を殺した時は少しばかり躊躇したが、それが全く無い事に多少の嫌悪感を感じた。それが普通だと思っていたから。
でも、皆が皆、私と同じ感性を持つ訳じゃない。艦娘の性なのか、それとも生まれ持った『それ』に、まだ気付いていないだけなのかはわからない。
司令がどう話を付けてくれるかは分からないが、少なくとも暴走だけはさせないようにしてくれる事を願う。
視点が低い…ガキの頃か?周りは大きな黒い人影ばかりだ。
人影から手が伸びる。無理やりじゃない。優しく手を引いてくれている。ふと振り向くと、二人の人影が立ち尽くしている。
小さな手に冷たい筒を持たされた。覗き込もうとするとやめさせられる。肩に止め、人影に向かわされる。指に力を入れると、大きな衝撃に耐えられず転んでしまった。
筒から煙が出て、人影に小さな穴が空いている。人影が俺の肩を持ち、こう言った。『これが仕事だ』と。
人影のどこかに穴が空くと、視点が徐々に高くなり、紙切れを沢山貰った。いつしか、視点は見慣れた高さになっていた。時には自分の手で人影を刺し、絞め、ねじ伏せた。
そして、気付いたらどこか懐かしい雰囲気の建物の中にいた。歩き回ると、人影を見つけた。
何か話しかけてるのか、訴えかけているのか分からないが…その先は…
***
提督「…っ!」パチッ
潮「アハッ」ビュッ!
提督「潮か」ガシッ
潮「…あ、おはようございます」グググ
提督「仕事帰りか」ポタッ
潮「…あ、そうです。ごめんなさい、また…」パッ
提督「仕事帰りはハイになりやすいからな。俺もそういう時があった」イテテ
潮「手当てしますね」
提督「必要無い。得物の手入れをしていればいい」
潮「…はい」
提督(…ようやく目が正気に戻ったか、寝起きにはちとキツいぜ)フキフキ
「ねぇ、そろそろちゃんとした寝室で寝たら?」ユラッ
提督「…おはよう、五十鈴」
五十鈴「おはよう」
提督「…俺はこっちのが休まる」
五十鈴「座って片膝立てて手に得物握ってないと?随分ユニークね」
提督「ふふ、ずっとこれだと、ベッドで寝る方が恐ろしく思っちまう」
五十鈴「…そ。ならこれ以上は何も言わないわ。でもいつか本当に殺られても同情出来ないわよ」
提督「死なんよ」
五十鈴「ふふん、なら頑張るのね」
五十鈴…待機部屋で他より練度が高かった艦娘で、元の主をかなり憎んでいたっけな。俺も初めのうちはかなり手を焼いたな。
だがその憂さ晴らしをさせたら思いの外優秀だったな。故に五十鈴のターゲットは主に海軍関係者…中でも提督が多い。今回の依頼も五十鈴に任せようか…?
五十鈴「何?依頼?」ペラ
提督「どうだ」
五十鈴「…別段屑みたいな事はしてないようだし、これじゃ気が乗らないわ。悪いけどやらせるなら他にして」
提督「そうか」
五十鈴「依頼主の中将…名前分かる?」
提督「悪いが守秘義務だ」
五十鈴「…ああ、そうだ。私からも依頼を出していいかしら?」
提督「は?」
五十鈴「報酬払えばどんな依頼でも受けてくれるんでしょ?」
提督「…内容を聞こうか」
***
青葉「調査報告書です~」バサッ
提督「ご苦労」
青葉「依頼人から遂行の催促はありましたか?」
提督「一回だけな。俺は『少なくとも』と言ったんだが、頼む側はどうも自分の都合の良いように記憶を書き換えちまう」ペラッ
青葉「調査する側になって欲しいものですよ」
提督「…とりあえず、実行日は決まった」パタン
青葉「りょーかいです。それでは」
…どいつもこいつも都合の良いように話を変えやがる。それが汚れ仕事になればなるほど、人は本性を表す。同じように見えて、質の違う悪意が。
力を持っていると勘違いした人間がそうなりやすい。だが上に立つ者はそういった輩が多い現実。
皆が思い描くような正義感を持って上に立とうとする奴は、どいつもこいつもろくな最期を迎えちゃいない。そいつらを消してるのは結果的に俺らなんだがな。
反吐が出る話だが、最早これが世界の均衡を保つ手段と分かると笑えてくる。誰も綺麗な世界なんざ実現させたくねぇのさ。
悪意無しに人の世は成り立たない。この世界に身を投じてから、常々思い知らされる。
提督「…初雪、望月。例のやつは」ピッ
初雪『出来てる』
望月『誰が見てもバレないと思うよ~』
提督「ご苦労」
初雪『…前送ったあれ、どうする?』
提督「…一応見ておいた。初めてでも面談するなら、俺以外にもやらないと依頼が溜まる一方になる」
初雪『…私たちじゃダメかな』
提督「艦娘である事、女であることがバレないようにする必要がある。自力で調達するならお前たちに一任する」
望月『りょーかい』
提督「ただ相手は見極めろ。金払いだけで選ぶと痛い目を見るぞ」
初雪『…やっぱ司令官も一回目を通して』
提督「出来る時と出来ない時がある。俺無しでもやれるように場数を踏め」ブツッ
陽炎「一見さん解禁、か」
提督「…お前か」
陽炎「鳳翔さんと赤城さん戻ってきたよ」
提督「わかった」
鳳翔「戻りました」
提督「ご苦労」
赤城「報酬も滞りなく」瞳孔全開
提督「おい」指パチン
赤城「あっ…あは、すいません、余韻に浸ってました」
提督「持たせた武装は」
陽炎「しまっておいた。またかなり無茶したように見えるけど」
提督「おいおい、メンテすんの俺なんだぞ」
赤城「こ、壊してはいないかと」アセアセ
提督「前そう言ってボロボロだったじゃねぇか。壊れてたら報酬から天引きな」スタスタ
赤城「あぅぅ…」シュン
***
提督「…やっぱり壊れてるじゃないか」
赤城「す、すいません」
提督「こりゃもう総とっかえした方が早い。発注しとけ」パラッ
赤城「あの、どのぐらい…」
提督「…今回は報酬から半分だな!」
赤城「そんなぁ!」
提督「やかましい!特注の装備だぞ!調整も全部俺がやってんだからな!」
赤城「せ、せめてもう少し…」
提督「お前今回の仕事で億貰ってんだからそんぐらい我慢しろ!」
赤城「(´・ω・`)」ショボ-ン
赤城…昔はこんな表情を出すことは無かったがここまで変わるとはな。だが俺のお古とは言え貸した武装を壊すのは相変わらずだ。
今回の依頼は海外のマフィアからだ。あっちは深海棲艦の騒ぎに乗じて縄張り争いしまくってるから依頼がよく来る。
泥沼化を避けるために代理戦争をさせるつもりだったらしいが、お相手は最新鋭の兵器をふんだんに揃えて、依頼人側はうちの鳳翔と赤城だからなぁ…
赤城は拾ってきた時からおかしな奴だと気付いていた。雰囲気は榛名と似たような感じだったかな。あいつほど表情が豊かじゃなかったが。
苛烈な戦場に好んで向かう戦闘マシーンみたいな奴だ。戦争を起こしたがる連中からしたら喉から手が出る程の逸材だろう。ストッパーとして鳳翔と組ませてるが、最近はそれも怪しい。
提督「…まあ、壊しちまったもんは仕方ない。次はすぐ壊すなよ」
赤城「はい…」
提督「直に日が暮れる。俺は準備するからお前は上がれ」
赤城「了解です…」
…赤城が落ち込んでるのは俺に叱られたからじゃない。新たな武装ができるまで依頼がお預けになる事に気を落としているんだ。
こいつは前の職場から自ら解体を望んで待機部屋に移った訳だが、その理由が『退屈だったから』だったな。ただの欲求不満で、自分を捨てる選択をするおかしな奴だった。
だから初めてあった時、全てのものに興味を示さず、表情が無かったのだ。それが人間同士の小さな戦争に放り込んでみたら、思いの外どハマりしちまったようだが。
本人曰く、『悪意の質が段違い』と言ってはしゃいでいるが、俺は深海棲艦と戦ってねぇから分からんが、どうやら人間の方がタチが悪いらしい。
こいつは戦闘欲さえ満たせれば普通の艦娘と変わりない。満たせればの話だけどな…幸い『遊び場』と『遊び相手』はまだある。こう見りゃガキとあまり変わらん。
…俺がガキの頃も、こんな感じで遊んでいたか?もう思い出すのすら難しい。
…あれ?そもそもガキの頃の記憶が…
***
夜になり、仕事が始まる。全身を黒に染め、夜の闇に溶け込み、標的へと歩を進める。
ここ最近は艦娘の指導で同伴していたので一人は久しぶりだ。持たせていた得物も久々で少し重く感じるか?
…今日のターゲットは大将A。中将からの依頼だったが、今思えばもう少し高くしとけばよかった。
名実共に優れ、定例会での発言力は元帥に次いで高い。また、艦娘からの評判も頗る良い。軍人の鑑のような人間を始末して欲しいと企むとは、中将もだいぶイカれてる。
大将Aは週に一度、必ず家族と過ごす日を設けている。それが、今日という事だ。
提督「目標地点、到達…風向き良し」コトッ
風向、風力共に問題無し。殺すにはうってつけの日だ。大将Aからしたら最悪だろうがな。
スコープから覗く大将Aの家族団欒は、軍人とは思えないほど朗らかで、家族の理想とも言えるだろう。
だが…俺にはそんな光景を見ても、揺さぶられる良心など存在しない。既に得物は組み立て終わった。後は、狙いを定め、仕留めるだけ。
提督「…~♪」鼻歌
いつからか、人を殺すときに鼻歌を歌うようになった。鼻歌の旋律はとても穏やかで、安らぎを覚える。
いつ、どこで聞いたのか分からない、ずっと昔の記憶からの贈り物だろうか。それとも、せめて死後は安らかにあれという俺の心遣いだろうか。
提督「…」
『やめてくれ!』『何でこんな事するの!』『助けて!』『私は何もしてない!』『俺は悪くない!』
…また、フラッシュバックだ。殺された者たちの無念が俺に付きまとうように、殺す直前に立ちはだかる。
まあ…それも、引き金を引くと同時に消え去るんだがな。
提督「…ばーん」パシュッ!
大将A「はは、それじゃそろそろ風呂にで…も…?」ブシャッ
提督A「はっ!?血!?」
大将A妻「あ、あなた!?」
大将A「な、何が…」バタッ
提督A「そんな…親父!」
提督「…依頼完了、速やかに入金を」ピッ
中将『おお、やってくれたか!待ちくたびれたぞ!』
提督「…」
中将『ああ、今入金に向かわせた。ご苦労』
提督「それでは…」ブツッ
…要望通り、家族の目の前で殺した。金が振り込まれ次第、次に移るが…
『入金確認』
提督「…良し、早いな。やっていいぞ」
『了解』ブツッ
中将「く、くく…これで遂に私が大将の席に…クハハハ!」
五十鈴「…失礼します」
中将「ん?ああお前か。何の用だ?」
五十鈴「実は、お願いがありまして…」スタスタ
中将「あ?」
五十鈴「あんたを皆が呼んでるから、来て欲しいんだって」
中将「??」
五十鈴「地獄にね」ユラッ
中将「…はっ!?」
五十鈴「捕まえた♪」グイッ
中将「なっ、お、お前は何だ!?」
五十鈴「…さ、ゆっくり眠りなさい」ドゴッ
中将「がふっ…」
五十鈴「…捕獲。今からそっち行く」ピッ
提督『ああ。お前の依頼を遂行しようか』ブツッ
今日は一人だけじゃない。本当の夜はここからだ。
***
中将「んぁ…」パチッ
五十鈴「目を覚ましたわね」
中将「い、五十鈴!ここは…な、何だこれは」ガタガタ
五十鈴「見てわからない?拘束されてんのよ」
中将「どういうつもりだ」
五十鈴「…そろそろ始めようかしら。まず『家畜』に言葉は要らないわ」スッ
中将「な、それは…」ピクッ
五十鈴「何で家畜が喋ってるの?話さないで頂戴」カチンカチン
中将「そ、それは…まさか…」
五十鈴『喋るなと言ったろうが家畜の分際でぇ!』ガチン
中将「うがぁぁぁ!!!」
五十鈴「あら、似合ってるじゃないその鼻輪。まるで牛ね」クスクス
中将「いで…」
五十鈴「あ、そうそう。家畜って私の知ってる限りじゃ四足歩行ね」カチッ
中将「ぐえっ!」バタン
五十鈴「さ、家畜らしく歩き回ってみなさい」カチッ
中将「こ、このアマぁ…あ!?」ググググ
五十鈴「どう?勝手に四つん這いの姿勢になっていくでしょ。五十鈴の提督が調整して作ってくれた矯正器なのよ」フフン
中将「ひ、膝が!膝が折れる!」ググググ
五十鈴「…喋るなって言ってんの、わからないかしら。あ、家畜だから分からないか」ポチッ
中将「いぎゃぁぁぁぁぁあああ!!!!」ボキッ
五十鈴「うんうん、そうよね。確か脚も四足歩行だとこんな感じよね」
中将「」ブクブク
五十鈴「…ほら、起きなさいよ。家畜なら主の為に働くのよ」ビリビリ
中将「ギャッ!?」ビク-ン
五十鈴「全く、これなら本物の家畜の方が有能だわ」
中将(立ち上がろうにも折れた膝が痛む!体重を掛けたら痛む!何だこれは!)ズキズキ
五十鈴「さ、それじゃまずは家畜転身記念に五十鈴の提督にご挨拶しないと」
中将(だ、誰なんだ…)
提督「…みっともない姿になりましたね、中将」
中将「そ、その声…まさか!」
提督「ええ。要望通り大将Aを家族の前で始末した私ですよ」
中将「き、貴様ぁ!私をハメたのか!」
提督「いえ?まさか。貴方が運悪くターゲットになってしまっただけです。彼女の依頼でね」
五十鈴「ま、その為に調査期間増やさせたんだけどね」
中将「うぎぎ…」ズキズキ
提督「…貴方がターゲットとなった理由、お分かりですよね?」
中将「は、はぁ!?知るか!それよりこれを…」
五十鈴「…あ、そっか。何人の『五十鈴』を始末したかわからないか」
中将「っ!?」
五十鈴「私も何人目かは知らないけど、元はあんたの鎮守府に居たのよ」
提督「…改装による持参品を剥奪した上、便器にして壊れたら解体。それを長年繰り返してきたらしいですね?」
中将「し、知らん…!」ビクビク
提督「…だそうだが、五十鈴?」
五十鈴「…残念だけど、全て事実。その調査資料はまだ氷山の一角だけど」
提督「…ふむ。殺されるだけの条件は整えてあるわけですね、中将」
中将「だから知らんと言ってるだろう!」
五十鈴「…そう。なら、鼻に着けた輪も、家畜扱いの言葉も五十鈴の勘違い?」
中将「っ…」
五十鈴「…ふざけんな!全てお前がやってきた事だ!今更何とぼけてんのよ!」
中将「ぅ…」
五十鈴「この鼻輪も!家畜が喋るなとか!お前が『五十鈴』にも、他の艦娘にもしてきた事だ!何が『牧場』だ!五十鈴は家畜じゃない!」
中将「そ、そうだ…お前!私はお前に金を払っただろ!だから助けろ!依頼人の言う事は絶対なんだろ!?」ズキズキ
提督「申し訳ございませんが、貴方の依頼を遂行し、入金確認が済んでいるのでその関係は解消されています」
中将「な、何!?お、お前に何度も金をやっただろ!得意先だぞ!」
提督「申し訳ございませんが、報酬さえ払えば私は誰の依頼でも受ける所存ですので。それが例え、あなたにとって『家畜』と見える者たちでも」
中将「そ、そんな…」
五十鈴「…話は済んだ?それじゃ、家畜に戻った貰うわ」
中将「なっ…」
五十鈴「さーて、何からやろうかしら」ワクワク
中将「…悪魔め」
提督「…何?」クルッ
中将「こ、この悪魔め!金さえあれば心も捨てるのか!」
提督「…悪魔、か」スタスタ
中将「わ、私が憎いなら一思いに殺せばいいだろう!こんな苦痛を味わわせる為に馬鹿げた機械まで付けやがって!」
提督「…俺、いつもクライアントのリクエスト聞いてたよな?それを叶えてるだけ」
中将「だからって…こんな…」
提督「お前も大概だ。大将Aの時は家族の前で殺せだっけ?他は…確か人の形を留めさせるなとか結構リクエストしてたよな?自分が危なくなりゃ棚上げかい?」
中将「うぐっ…」
提督「…初めっから、俺は悪魔になる道しか無かっただけだ。尤も…」
中将「…?」
提督「今ではそのお陰で標的の断末魔が心地よい子守唄になってるがな」クルッ
五十鈴「…」
提督「五十鈴、今回は社割という事で残りの金は半分でいいぞ」スタスタ
五十鈴「…じゃ、始めましょうか」
中将「い、いやだ、やめて…」
五十鈴「家畜としての生活の始まりよ」ガチャン
***
五十鈴「あんたの家畜としての記念すべき最初の仕事は掃除よ」
中将「うぐぐ…」
五十鈴「雑巾がけが4足でも出来ていいものね。早くやりなさい」ベチョ
中将「く、クソ…」ズルズル
五十鈴「ちんたらやってんじゃないわよ。5分でこの廊下終わらせなさい」
中将「くっ…」ズルズル
五十鈴(それまで遊んでよ)スマホ出し
中将(う、動きたくない!膝が…痛すぎる!ダメだ、力が入らない…)
五十鈴「~♪」トトトト
中将「うぎぎ…」
五十鈴「…とっとと終わらせてくれない?亀みたいにちんたらやらないでよ」チラ
中将「んなっ!?」
五十鈴「何を驚いてるの?あんたよく言ってたじゃない。隅っこにある小さな埃一つで酷いことされてたっけ」
中将「うぐっ…」
五十鈴「さっさとやりなさいよ。埃一つ落ちてたらもっと痛い目見せるから」ギロッ
中将「くっ…」ズルズル
五十鈴「もうすぐ5分経つんだけど」
中将「む、無理だ!」
五十鈴「…あんたそろそろ気付かないの?五十鈴が言ってることにやらせてる事、全部五十鈴にやった事よ。それとこれからやる事もね」
中将「な、何故今更…全て終わった事だ!むしろアレがあったからこそ私の鎮守府は発展したんだ!お前らは必要な犠牲だったんだよ!」
五十鈴「…百歩譲って、装備を取るだけならまだしも、肉便器にする必要あったの?」
中将「最後に女としての価値と快楽をくれてやったんだ!感謝して欲しいぐらいだ!」
五十鈴「…そ。ならもう遠慮無しでいいって事ね」グシャ
中将「うぁぁぁあ!!!」ズキズキ
五十鈴「五十鈴はね、他の『五十鈴』たちの思いを受け継いだあの子たちの最後の希望なのよ。恨み、苦しみ、悲しみを全て五十鈴に乗せて、死んでいったの」グリグリ
中将「ぁああぁああァあぁぁぁあアア!!!」
五十鈴「家畜としても使えないのなら、いっそ五十鈴を楽しませてから死になさいよ。あんたが『五十鈴』たちや他の子たちを嘲笑ってたように!」ブチッ
中将「ギャッ!!!」
足首「」ゴトッ
五十鈴「早く歩きなさい。言うこと聞けば、楽に死なせてあげるかもね」フフッ
中将「」ビクッビクッ
五十鈴「…見てんでしょ、潮」
潮「…うふ」チラッ
五十鈴「このゴミが死んだらいくらでもバラしていいわ。それまで待ってて」
潮「…はい」ウズウズ
五十鈴「早く起きなさい」バキッ
中将「うぎゃっ!!」
五十鈴「チッ、鈍臭いわね」ガシッ
中将「ぁぁぁ…」ズルズル
五十鈴「最期に命乞いの時間でもあげるわ」ポイ
中将「ゆ…許して…くれ…」ビクッビクッ
五十鈴「…皮肉なものね。『五十鈴』たちが一番言ってた言葉か」鉞持ち
中将「こ、殺して…」ズキズキ
五十鈴「…『五十鈴』たちが待ってるのよ。早くしろってね」ヨイショ
中将「んぁ…な、なんだ…」
五十鈴「全く、大して面白くもなかったし、玩具にもならないなんて、存在価値無かったわね、あんた」振りかぶり
中将「ひぁ…」
五十鈴「地獄に堕ちて永遠に苦しみなさい」ジャキン!
中将「がっ…」
五十鈴「…」ウエムキ
提督「終わったか」
五十鈴「…ええ。終わったわ」
提督「そうか。ご苦労」
五十鈴「…みんな、やっと終わったわ」
提督「鉞とはまた古風だな」
五十鈴「…たまにはいいものよ。飛び道具ばっかりじゃなくて、こういうのも」
提督「はいはい」ズルズル
五十鈴「潮!もう良いわよ!」
潮「はーい」ウキウキ
提督「お前の事だから、もう少しいたぶるのかと思っていた」
五十鈴「…あいつ、頭が死を選んだみたいで続けても意味なさそうだったのよ。現に反応もそれっぽくて興醒めだったし」
提督「ふーん」
五十鈴「ま、多少スッキリしたからいいけど」
提督「それで…お前は目的を果たしたな。これからどうする」
五十鈴「どうって?」
提督「まだここにいるか?それとも記憶を消して、自由に生きるか?」
五十鈴「バカね。そんなの決まってるじゃない。まだ殺し足りないわ」
提督「そうか」
五十鈴「五十鈴の巨悪は消えたけど、まだ全部片付いたわけじゃない。ゴミ掃除は始まったばかりよ!」
提督「ふむ、仕事熱心な事で」
五十鈴「…そういえば、提督はどうするのよ。まだ裏稼業続けるの?」
提督「何を言ってるんだ?」
五十鈴「もう島いくつか買えるぐらい貯まってるんでしょ?まだ稼ぐの?」
提督「そうだな」
五十鈴「…そう。ま、死ぬ前に使い切るぐらいしなさいよね」
提督「…どうかな」ボソッ
潮「~♪」グチャッグチャッ
肉塊「」
***
翌日
憲兵隊長「失礼する」ガチャ
提督「はい」
憲兵隊長「昨晩、大将Aが殺害された。それはもう知っているな?」
提督「大本営から通達があったし、ニュースにもなってますね」
憲兵隊長「それで、我々は貴様ら提督が当時どこで何をしていたかを調べている。協力してくれるな?」
提督「ええ。隅々までどうぞ」
憲兵隊長「よろしい。お前たち!」
憲兵たち『はっ!』ドタドタ
提督(昨日の今日で、わざわざ同じ海軍関係者からか。上同士のいざこざは当然あるみたいだな)
憲兵「監視カメラの記録は」
提督「案内させます。初雪」
初雪「ん…」
憲兵「個室も全て調べ上げるぞ」
提督「どうぞ。お前たち、構わないよな?」
艦娘『はい』
憲兵隊長「…随分潔いな」ジロッ
提督「我々としても身の潔白が証明できるなら協力致しますよ」
憲兵隊長「…ふん」
陽炎(司令、大丈夫なんでしょうね)ボソッ
提督(問題無い)
陽炎(もしバレたら?)
提督(少なくとも資料関係は別のアジトに移してある。初雪と望月のPCは移してないが、まあ見つかりはしない)
憲兵「隊長、怪しい物は特に見当たりません」
憲兵隊長「ふむ…」
提督「…どうでしたか?」
憲兵隊長「…まあ、いいだろう。協力感謝する」
提督「ご苦労様です」
憲兵隊長「…行くぞ」
憲兵『はっ』ゾロゾロ
提督「…行ったか?」
陽炎「ええ」
提督「よし、もういいぞ」
艦娘『はー!』タメイキ
提督「仕事は早いが、もの探しは下手くそだな」ククク
陽炎「あんたの敬語、気持ち悪いわね」
潮(血の匂い…勘づかれなくてよかった)ホッ
榛名「あら?お客さん帰ったんですか?」
陽炎「…そういえばあんた、どこに居たの?あんただけ執務室に居なかったし」
榛名「自室で読書してました!」
提督「憲兵が来ただろう」
榛名「はい。でも見回るだけでした」
提督「…クク、そうか」
潮「あ、もしかして貸していた本ですか?」
榛名「はい!」
陽炎「何を読んでたのよ」
榛名「えっと、解剖学の本ですね」スッ
陽炎「…そのドス黒いのって」
潮「それ、その教本見ながらバラしてた時のですね」
提督「…もう一人居ないが?」
陽炎「…あの子はまだ寝てるわよ」
提督「そうか。それならいい」
榛名「提督、そろそろ榛名も『お仕事』がしたいです!」
提督「…お前は隠密がなってないから暫くは戦闘だ。鳳翔、赤城、お前たちに任せる」
鳳翔「了解です」
赤城「はい」
提督「那珂と五十鈴、次の暗殺はお前たちに任せる」
那珂「暗殺かぁ…ま、頑張りまーす」
五十鈴「了解」
提督「初雪と望月は面談を続けろ」
初雪「ん」
望月「りょーかい」
提督「陽炎は…そうだな、あいつを起こしてこい」
陽炎「仕事は?」
提督「非番だ」
陽炎「はいはい了解」
提督「…それじゃ、夜まで通常業務」スタスタ
…あれから、各鎮守府に査察が入り、行方不明になった中将が疑われる事になったが、奴はもうこの世に居ない。
残された艦娘の状況を把握している途中、複数の同一艦娘の監禁が暴露し、中将のしていた悪事が芋づる式に発見されていった。これにより、中将の築いてきた表向きの信頼は地に堕ち、更に嫌疑を掛けられた。
本格的に指名手配をした大本営だったが、当然だが中将は見つからない。事実上中将の陰謀という事で本件は収まりそうだが、空いた大将Aの席を巡ってまた一悶着あるようだが、俺の知ったことでは無い。
…大将Aの死亡により、海軍は大きな打撃を受けた。確保した制海権の引き継ぎに多数の鎮守府が追われている。艦娘たちもかなり悲しんでいるようだった。
俺にとっては金が全てだ。やはりたった4000万で始末する人材では無かったと後悔した。残りの小銭稼ぎは潮に任せるか。そうでもしないと割に合わん。
俺もまだまだ未熟、ということか。
***
陽炎「…ほら、起きなさい。もう午後よ」
「…」zzZ
陽炎「全く、あんたはずっと寝坊助のままね」
「…」パチッ
陽炎「あ、起きた」
「…」ムクッ
陽炎「司令から起こすよう言われてんだから、早くしてよね」
「…おはよう、陽炎」
陽炎「…おはよう、いやもうそんな時間じゃないわ」
陽炎「暁」
暁「…こんにちは、陽炎」
『暁!早く起きなさい!もう朝よ!』
暁『んぅ…』
『暁ちゃんはお寝坊さんなのです。司令官に怒られますよ?』
『暁、布団に立派な地図が出来てるな。またおねしょかい?』
暁『ふぇっ!?う、うそ!』
『暁はいつもこれで起きるから助かる』
暁『だ、騙したのね!ひ(ノイズ)…』ザザザザ…
名前を呼ぼうとすると、大音量のノイズに掻き消される。だから、名前を思い出せなくなってきた。
『え?なんテ言っタの』
『ホラ、早…朝ご…を…』
『あかつ…急…ス』
名前を呼ぶと、顔が無くなる。のっぺらぼうが、私を見つめる。
のっぺらぼうは、穴だらけ。カタカタと無機質に動き、崩れるように倒れる。
周りは真っ赤っか。髪の毛や金属の破片がちらほら転がってる。
ああ、いつもの夢か。まだ私は夢見てるのか。
そう思うと、現実に引き戻される。今日は…陽炎が起こしに来たみたい。
***
陽炎「…また同じ夢?」
暁「うん」ウトウト
陽炎「…司令に相談したら?」
暁「いい。前よりはマシになったし、苦しい訳じゃないし」
陽炎「…」
暁「名前も顔も思い出せなくなってきたから、慣れてはきてるんじゃない?」
陽炎「あんたはターゲットがねぇ…」
暁「大丈夫、もし同じ子が来ても、容赦しないから」
陽炎「…」
暁…私の次に連れてこられた艦娘。望月と並んでかなり幼い部類に入るけど、精神面は同艦がよく言っていたレディーより更に成熟している。
暁の担当は暗殺のみ。一度戦闘に向かった事があるらしいが、司令は暗殺一筋にさせると言った。まああの緊張感は私にも慣れそうにないし、体力も続きそうにないだろう。
問題は彼女の標的が…艦娘である事。
提督「起きたか」
暁「司令官、ご機嫌ようです」ウトウト
提督「…仕事は暫くなさそうだから、ゆっくりしておけ」
暁「え、そうなの」
提督「ああ。最近人間ばかりだ」
暁「そう…」シュン
陽炎「…」
そして…暁はそれを自ら望んで受けているという事。嫌がったのは一番最初の依頼だけ。
提督「…ま、たまには休め」
暁「ん…了解」トボトボ
陽炎「…」
提督「…陽炎、暁を見とけ」スタスタ
陽炎「…了解」
暁「休みかぁ…」
陽炎「暁」
暁「陽炎?あなたも休み?」
陽炎「そ。たまには外に出ましょ」
暁「ん…わかったわ」
***
暁「…日が登ってると人が多いものね」
陽炎「そりゃそうよ」
暁「…人の顔を見たくないわ」
陽炎「わかる」
暁「とりあえず飲み物が飲みたいわ」
陽炎「ファミレスがあるから行きましょ」
暁「ん…」
暁がすれ違う人の顔を見たがらないのは…恐らく職業病による幻視ね。私も皆の額に穴が空いてるように見えるから。顔だけじゃない、人体の急所だけありもしない血痕が見えてしまう。
休みと決まってる時はとことん休まりたいけど、それすらも許されないのが辛い。
暁「ファミレスなんて久しぶりね」
陽炎「とりあえずドリンクバーでいいよね?」カチッ
暁「いいわ」
店員「いらっしゃいませ~、ご注文どうぞ」ポチポチ
陽炎「ドリンクバー2つ」
店員「かしこまりました~」パタン
暁「ふー、それじゃゆっくりしましょ」
陽炎「はいはい」
人間から見たら私たちはどう見えているんだろう。ただの少女2人か、それとも艦娘と分かっているのか。
その実、表では決して明かせない事を平然とやってのける悪魔の子とは誰も思わないだろう。
暁「ん~、シュワシュワするわ」
陽炎「それがいいのよ」ゴクゴク
ふと見せる、年相応の振る舞い。まだ暁の中に残っている、僅かな子供の心。それは無意識に自分を保つ為の最後の抵抗なのか、艦娘として据え付けられた素振りが出ただけなのか。
そんな姿を見て、少し安心する私がいた。あの出来事の後から、ここまで戻れたんだ、と。暁にとっては、むしろ以前の居場所の方が地獄だったのだろうから。
***
その鎮守府は、実力が全てだった。
その鎮守府は、無力こそ悪だった。
だから、悪には何をしても許された。
下克上を目指す者、そのまま心が折れ、自沈や解体を望む者、そして…逃げ出す者が居た。
暁は、それのどれにもなれなかった。ただ、お荷物とならないように着いていくしか出来なかった。
そんな彼女を待つのは、非情な現実。繰り返される叱責といじめだった。
暁が過酷な日々に耐えられたのは、味方をしてくれた人が居たからだった。その鎮守府の中で、一人だけ暁の心の拠り所となった人がいた。
暁「うぅ…今日も疲れた…」トボトボ
武蔵「おい、駆逐艦」
暁「ひゃ、ひゃい!」
武蔵「しまっておけ」ポイ
暁「うわっ!」ゴトン
加古「おーい駆逐艦、これもね」ポイ
暁「ひゃっ!」ズシン
加古「鈍臭いなぁ」
暁(大口径主砲と中口径主砲をいっぺんなんて無理よ!)
霞「…」チラッ
暁「あ、ちょ、ちょっと、手伝っ…」
霞「!」ビクッ
暁「て…」
霞「」ササッ
暁「あっ…」
響「…何をしてるのかな」
暁「あ、響!ちょっとこれ運ぶの手伝っ…」
響「やだよ。君が上の者に頼まれたんだから、遂行しなきゃね」スタスタ
暁「ひ、響…」グスン
暁「…重い」ガチャガチャ
電「…また荷物持ちですか?それなら業者で間に合ってるのです」
暁「…」ガチャガチャ
電「無視は行けませんね」足掛け
暁「あっ!」ドテッ
電「あらあら、そんな乱暴に下ろすと艤装に傷が付くのです。戦場ではそれが命取りになるのに…」
暁「っ…!」キッ
電「何を睨んでいるのですか?電は間違った事は言ってないのです。未だ荷物持ちをされるような実力しか持ち合わせていない者が悪いのです」
暁「私の方がお姉ちゃんなのに…」
電「ここではそんなこと関係無いのです。全ては実力の有無なのです」
「なら、私が手伝います」
暁「えっ」
電「…神通教官、その必要は無いのです」
神通「ええ、あなたたちは不必要でしょう。ですが私は必要だと判断しました」ヨイショ
暁「あっ、その…」
神通「さ、片付けましょう」スタスタ
暁「は、はい」ガチャガチャ
電「…」ボソッ
神通「…」
神通「ふぅ、重たかったですね」ガチャ
暁「あ、あの、すいません…」
神通「いいんです。こういうのは助け合いですよ」
暁「で、でも…」
神通「…電さんの言っていた事は、全て否定出来ません。今は戦争中、確かに実力がある方が重宝されます」
暁「う…」シュン
神通「ですが、それに付け上がり、力に酔いしれるのは間違っています。正しき力の持ち手は、誇示するのではなく、制御する術を知る者です」
暁「…?」
神通「…えぇと、分かりやすく言うと…」
暁「ち、違うわ!わかってるんだから!」プンスカ
神通「そ、そうですか」
暁「その、神通さんもとっても強いのに、みんなと違ってて、その…」
神通「…褒め言葉として受け取っておきますね」
暁「あ…」
神通「また何か辛い事があったら、出来る限り力になります。それでは」スタスタ
暁「…あ、あの!ありがとうございました!」ペコ
神通「…」
電『そのお人好しが災いしなければいいですね』ボソッ
神通「…災いなど、するものですか」
神通は鎮守府の古株で、軽巡や艦隊内でも随一の実力を持っていた。当然鎮守府内カーストは上位にあり、発言力も強かった。
ただ、他のカースト上位たちと違い、彼女は酷使されているカースト下位の艦娘たちにも分け隔てなく接し、真摯に向き合っていた。その姿に救われ、神通を心の支えとする艦娘が少なからずいたのだ。
だが、それをよく思わない者もいるのが事実、神通も流石に全員をカバーしきれる訳では無く、彼女の目を盗んだ所で、艦娘への虐めは執拗に行われていた。
暁「あうっ…」ドサッ
加賀「何をしているの、認められたいのでしょう?」
暁「何すんのよ!」
島風「あはっ、おっそーい」スカッ
夕立「無様っぽい」
暁「な、何よ、あんたたちなんか…」
加賀「身の程を弁えなさい。弱者は強者に従う事こそ存在価値があるんだから」グリグリ
暁「いたっ!」
島風「同じ駆逐艦とは思えなーい」ピュ-
神通「何してるの!」
加賀「…ふっ、丁度いい。見せてもらいますか、仲良しごっこ」
神通「どいて!」ドッ
加賀「っ…」
神通「暁さん!大丈夫!?」
暁「だ、大丈夫…」
神通「他の子にも同じ事をしましたね」
加賀「…あなたは何故庇うの?」
神通「暁さん、手当てしますから」グイ
暁「ひゃっ、あ、歩けるから!」
加賀「…興醒めね」
神通「…痣だらけですね」
暁「こ、これぐらいへっちゃらよ!」エッヘン
神通(…痣以外にも怪我の痕が…)ギリッ
暁「ふ、ふん!暁も早く神通さんみたいに強くなれれば、あんな…」
神通「…いいですか、そんな事のために私は皆さんを指導してるんじゃないんです」
暁「あ、そ、そうね…」
神通「…でも、時折、私も思います。私の持つ力で、暁さんや他に虐められてる子を脅かす人たちを叩きのめす事が出来たら、どんなに楽か、と」
暁「神通さん…」
神通「でも、そんな事したらこの鎮守府は決定的な亀裂を生んで、戦争どころじゃなくなります。だから、提督に再三申し立ててますけど、改善するどころか、むしろ…」
暁「…あ、あの、神通さん!それなら、暁が強くなったら神通さんを守るわ!それなら大丈夫でしょ?」
神通「…」
暁「今は仕方ないけど、いつかきっと神通さんを守るぐらい強くなるわ!それまで暁を強くして!」
神通「…うふふ、ありがとう」
暁「あ、もちろん他の子たちも守るわ!…できるなら」
神通「そこはもっと自信を持って、ね?」
暁「あぅ…」
神通「…ありがとう、私、少し行ってきます」
暁「え?う、うん」
神通「提督、失礼します」ガチャ
提督B「何だ」カキカキ
武蔵「…ふっ、お山の大将のお出ましか」
神通「提督、以前から申し上げてる艦娘間の差別の改善は、どこまで進展がありましたか?」
提督B「武蔵、取り組んだか?」カキカキ
武蔵「勿論」
提督B「聞いての通り、私が忙しい間に武蔵がしてくれてる。話はそれだけか?」
神通「私は進展を聞いているのです。私から見たら、むしろ後退していますけど」
武蔵「…おやおや、ならどうしろと?是非とも教えて貰いたい」
神通「艦娘の虐め、雑用の強要を止めなさい」
武蔵「…そうか。だが…」
神通「…」
武蔵「誰か一人でもやめて欲しいと願い出た者がいないから、別段気にしていないものかと思っていた」
神通「は?」
武蔵「以降やめろと言われたならやめよう。これでいいか?」
神通「言われてからでなく、今すぐ止めなさい、と言ってるんです」
武蔵「…私がやめた所で、慣れきった環境の変化を嫌う者はやめようとはしないぞ?」
神通「…そうですか、それなら」
武蔵「お前は力を持つ側の癖に、何をそこまで弱者に拘る?私には理解できん」
神通「艦隊内に軋轢を生むより、皆と手を取りあい、協力した方がいいに決まっているでしょう」
提督B「…お前の言う、理想に付き合えと?」
神通「そもそも、提督が皆に言えば済む話だと思うのですが、何故行動なさらないのですか?」
提督B「いいか、俺は忙しいんだ。お前たちは命令される側だからわからんだろうが、作戦の立案や艦隊運用、指揮はお前ら以上に労力が要るんだよ」カキカキ
神通「それは重々承知していますが、声を掛けることすら渋るのはどういう事ですか?それに、武蔵さんに伝えて動かせばいいのでは?」
提督B「…はー、うるせぇな」カタッ
神通「っ!」
提督B「あのさぁ、お前のお飯事に付き合うとろくなことねぇの。仲良しこよしで戦争勝てたら苦労しねぇんだよ!」
提督B「戦争は強い方が勝つんだよ。弱い奴らの微塵にもない奇跡を信じてたらキリがねぇよ。お涙頂戴なんか要らねぇんだよ」
提督B「強けりゃ戦争に勝つし、俺の評価も上がる。それなら強いヤツらを優遇しなきゃ損だろ。弱い連中が強くなるまで気は長くねぇの」
提督B「それに軍じゃ虐めなんか良くあることだ。主力のご機嫌取りできるだけ有難く思えよ!」
神通「…そうですか」
提督B「わかったらとっとと持ち場に戻れ」
神通「ここまで腐ってるとは思いませんでした。それでは」
武蔵「…」
神通「…はぁ」
暁「」コソコソ
神通「…暁さん、バレバレですよ」
暁「ふぇっ!?べ、別に心配なんかしてないんだから!」
神通「まだ何も聞いてませんよ…」
暁「あっ」
神通「…やっぱり、ダメでした。提督自身が直す気が無いみたい」
暁「そ、そう…」
神通「…暁さん」
暁「な、何?」
神通「…この鎮守府から逃げなさい」
暁「に、逃げ…」
神通「私は何度も改善を求めましたが、提督自身が直す気が無いみたいなので、もうこの手しかありません」
暁「…」
神通「ずっとここにいたら、暁さんや他の子はもっと悲惨な目に遭います。恐らく、私にも同様の態度を取るでしょう。あなたたちを守りきれない」
暁「でも、逃げるって言っても…」
神通「心配しないで。私、結構他の鎮守府にも知り合いが多いんです。あの人たちなら、事情を察して受け入れてくれますよ」
暁「…神通さんも行きますよね?」
神通「…その事については、また後で話しましょう。とりあえず、夜に訓練場に来て」スタスタ
暁「は、はい」
その後…
暁(訓練場に来てみたけど…)
霞「…」
皐月「」オロオロ
文月「ねむい…」
暁(…これだけ?)
神通「皆さん、居ますね。これからこっそりとメモに書いてある鎮守府に向かってください。話は通してありますから」
暁(い、いつの間に…)
霞「…あの、神通さん」
神通「はい」
霞「ここにいる子って、皆、そういう事なんですよね」
神通「…はい」
霞「…あなた、暁よね」
暁「え、ええ」
霞「…あの時は、逃げてごめん」ペコ
暁「あ、あの時って?」
霞「…覚えてないならそれでいいわ」
神通「…さ、これを」ペラ
暁(…地図まで用意してくれてた)
神通「…どうか、無事に辿り着いて下さい」
文月「…え?神通さんは?」
神通「…私はここに残らなくてはなりません。まだ他の子がいますから」
文月「そっかぁ…」ウルッ
神通「大丈夫、また会えますよ。それまで寂しいけど、精一杯頑張ってね」ナデ
文月「うぅ」グスン
皐月「…僕、神通さんみたいに強くなるから!」
暁「そ、そうよ!そしたら今度は神通さんを守るわ!」
神通「…うふっ、楽しみにしてますね…それじゃ、もう行く時間です」
霞「…さようなら」
皐月「またね!」
文月「ばいばーい」
暁「…また!」
神通「…ふう」
武蔵「勝手な真似をしてくれたな」
神通「遅かったですね」
武蔵「残念だが、ここまでしたからには…」ガチャン
神通「…望むところですよ」ガチャン
霞「…それじゃ、私はここまでね」ザ-
皐月「元気でね!」
文月「じゃあね~」
暁「ま、またね!」
皐月「僕もそろそろ…って、文月も一緒だったよね」
文月「そうだよ~」
暁「ふぇ!?じゃ、じゃあ暁はここから…?」
皐月「ま、まあ大丈夫!近海だから敵も出ないだろうし…」
暁「こ、怖くなんかないわ!」プンスカ!
文月「あ、暁ちゃん、そんなに振り回すと紙が…」
暁「え?あ、あっ!」ヒラッ
メモ『』ピチャ
暁「あー!」ビチャビチャ
皐月「あらら…インクが滲んで読めないね」
文月「…た、多分暁ちゃんももうすぐだと思うよ。チラって見てたけど…」
暁「ふ、ふん!レディーは地図が無くても行けるわ!」
皐月「…じゃ、気をつけてね」
文月「またね~」
暁「…どうしよう…と、とにかく陸を目指さなきゃ…」ザ-
---
暁「な、何とか上陸したけど…」
暁「…鎮守府はどこ?」キョロキョロ
暁「…というか、ここどこなのよー!」
男「ねぇ君一人?こんな時間に何してんの?」
暁「ひゃっ!?」ビク-ン
男「夜遅くに出歩いちゃダメだよ。お兄さんが交番まで…」
暁「っ…」
男「怪しまなくても…」ジリジリ
暁「い、いやー!」ピュ-
男「あ、おい!逃げんな!」ドタドタ
暁(あ、怪しさ全開!妖精さんも凄く怪しんでる!絶対捕まっちゃダメ!)スタタタ
暁「んぎゃっ!」ドシ-ン
黒コートの男「ん…」
暁「あっ…!ちょ、ちょっと匿って!」ササッ
黒コートの男「…」
男「あ、あんた!その子渡してくれよ!金ならやる!」
黒コートの男「…額は」
男「じ、10万でどうだ!?」
黒コートの男「話にならん。俺を金で靡かせようってんなら最低でもその100倍は出せ」スタスタ
男「ま、待ちやがれ!」ガシッ
黒コートの男「おっと、不用意に触らん方が…」
男「いてぇ!」ザックリ
黒コートの男「…ふん」スタスタ
暁「あ、ありがと」ペコ
黒コートの男「…お前、艦娘か」
暁「え、えぇ。なんでわかったの?」
黒コートの男「…さぁな」
暁「…あら?あなたにも妖精さんが…って事は、司令官なのね!?」
黒コートの男「…」
暁「はーよかった!司令官なら鎮守府があるわよね?連れてって!」
黒コートの男「…他を当たれ」クルッ
暁「ちょ!そ、それじゃあせめて最寄りの鎮守府を…」
黒コートの男「最寄り?ああ、そういやこの近くにあったが、そこはもう閉鎖だ」
暁「えっ!?な、何で!?」
黒コートの男「…お前には関係無い」
暁「お、お願い!司令官の鎮守府に連れてってよ!何がダメなの!?」
黒コートの男「俺のとこに来るってんなら…普通の生活は送れねぇぞ」
暁「そ、それなら…問題無いわ。暁は逃げてきた身だし、普通が何なのかも…」
黒コートの男「…さっきみてぇな人攫いに会いたくなきゃ着いてきな、暁」スタスタ
暁「わ、わかったわ…って、何で名前…」
黒コートの男「自分で言ってたろ…行くぞ」
これが、暁の未来を大きく変える出会いだった。
***
暁「…」ボ-
陽炎「何か頼まないの?」
暁「…え?ああ…何か前の事思い出してて…」
陽炎「何を?」
暁「司令官に出会うまで…かな」
陽炎「…そっか」
暁「あれから…色々あったなぁ」
***
黒コートの男(提督)「…着いたぞ」
暁「ぼ、ボロボロじゃない!」
提督「陽炎、いるか」バサッ
陽炎「…何よ」
提督「新入りだ。腹減ったし飯行くぞ」ゴトン
陽炎「…ふーん」
暁「よ、宜しくお願いするわ!」
提督「さーてどうすっかなぁ…金も入ったし多少奮発するか」
陽炎「私はどこでもいいわ」
提督「着いてきな」
暁「ま、また歩くの?」
提督「嫌なら留守番してな」
暁「い、行くわよ!」
そして…
暁「え、何ここ…」
提督「個室で」
暁(や、焼肉…?焼肉って…凄く高いっていうあれ?)
陽炎「入金は確認済み」
提督「良し」
暁「え、ちょ、ちょっと、お金大丈夫なの?」
提督「お前に心配されるほど貧乏じゃない」
暁「え、だって、鎮守府は…」
提督「あれは敢えて直さないだけだ」
暁「へ?」
提督「…好きなだけ頼め。だが残すなよ」
暁「あ、じゃあこれとこれとこれ!」ピピピ
陽炎「…そろそろ本題に入る?」
提督「そうだな」
暁「わーい!お肉だー!」
提督「焼きながらでいい。まずはお前を歓迎したい所だが…俺のとこは他の鎮守府とはだいぶ違う。メンバーも陽炎のみだ」
陽炎「ええ」
暁「初期艦だけってこと?」
陽炎「…初期艦っていうのは大本営が着任時に予め用意してくれた艦娘の事で、私は引き取られた艦娘。元は解体待ちだったのよ」
暁「え」
陽炎「それで、めでたく再着任して、司令の副業…いや、本業の手伝いしつつ、艦娘もやってる」
暁「ふーん…」
提督「…それで、俺がやってるのは、俗に裏稼業って呼ばれてる。簡単に言えば…人殺して金貰ってる」
暁「へ…」
提督「俺の鎮守府に来たならそれを一人でもやれるよう力を付けてやる。もちろん報酬もな。だが二度とまっさらな生活には戻れなくなる」
陽炎「言っとくけど、私は自分の意思で選んだわ。あなたがどちらを取るかは自由よ」
暁「で、でも、人を殺すって…そんな事…」
提督「許されない?ああそうさ。何も知らねぇ人間はそう思ってる。だがその実、世の中どうだ?このご時世、ニュースには取り上げられてない殺人事件がわんさかある。みんな深海棲艦とかいう奴らに夢中だからさ」
暁「そ、そうよ。司令官なんだからそっちを…」
提督「あのな、そういうのは意識の高い奴らに任せりゃいいんだ。俺らはあの鎮守府で真面目に働いてる素振りを見せれば何も文句は言われねぇ。それだけ俺のとこは期待されてねぇってことだ」
暁「…」
提督「どんなに真面目にやっても最後は悪意のあるやつに食われるのさ。こうやってな」ジュ-
暁「あっ!お肉!」
提督「真面目にやっても評価されねぇ、金も貰えねぇ、そんな理不尽の中生きるには金が要る。金があれば何でもできる、何でも手に入る」モグモグ
暁「…」
提督「金は力だ。だがそれを手にするためには、額に相応しい力が必要となる。俺はその力を与える」
暁「…力?」
提督「そうだ」
暁「…その力があれば、強い人に勝てる?」
提督「…殺しを前提とした技術だ。言うまでもない」モグモグ
暁「…暁、強くなりたい」
提督「…」
暁「強くなって、それで…」
提督「…殺したい奴でもいるのか」
暁「そうじゃないの!守りたいの!私は逃がしてくれたあの人を…」
陽炎「逃がして…?」
暁「…そうなの。暁は虐められてて、それを助けてくれた人に逃がしてもらって、本当は他の鎮守府に行くはずだったけど、司令官に連れてきて貰えて…」グスン
陽炎(…司令、もしかして)ボソッ
提督(ああ、今回のターゲットの帰りに拾った)ボソッ
陽炎(あちゃ~、運が良いのか悪いのか)
暁「あ、暁、強くなって、あの人を救いたいの!それで、今度は暁が守るって決めたの!だから、強くなりたい!」
提督「…そうか」
暁「…人殺しの技術でもいい、あの人を守れるなら!」
提督「…じゃ、俺の方針に従うって事でいいんだな?」
暁「う、うん」
提督「…詳しい事は帰ってからだ。今は飯を食おう」
陽炎「お先~」ヒョイ
暁「ま、まだ食べてないわ!」
その後、暁は提督の鎮守府に所属する事となった。金と信用が絶対である事を教えこまれ、力を得るために提督の訓練を受け続けた。
どんなに辛くても、苦しくても、神通を心の支えとして生き抜き、技術をその身に染み込ませた。殺さない程度に抑え込めば、その技術も守るために使えると思っていたから。
斯くして時は過ぎていき、遂に暁に実戦の時が訪れたが…
提督「…」ペラ
暁「あ、戻ったのね!」
提督「…依頼が来た」
暁「暁の出番?」
提督「…陽炎はしばらく外しているし、お前しか空いてない。俺は同伴するしかないが…」
暁「見せて」パサッ
提督「…そろそろお前の覚悟を改めさせて貰う」
暁「…えっ、こ、これ…」ピタッ
提督「依頼主は海軍関係者、提督B。内容は…」
暁「…神通さんの…抹殺…」
提督「そうだ。決行日は今日だ」
暁「えっ!?」
提督「神通は今日鎮守府の艦娘の殆どと交戦し、一人で鎮守府側の艦娘を凌いだが自身も大破。そして逃亡中という事だ」
暁「ば、場所なんて分かるの?」
提督「交戦中に玉砕覚悟で発信機を取り付けた奴が居たらしい。場所もここに」ピッ
暁「…そんな…神通さん…」
提督「クライアントは早く始末しろと言っている。まあここで蹴ってもまた鎮守府の艦娘が動いてターゲットを殺しに行くぞ」
暁「…どうしても殺すの?」
提督「ああ。俺はあの鎮守府の連中に殺られるぐらいなら、教え子に殺られた方が幸せだと思うがな」
暁「っ!?」
提督「お前と神通の関係も調査済みだ。知らないとでも思ったのか?」
暁「…私、どうすれば…」
提督「だからこの依頼でお前の覚悟を見させて貰う。そういう意味じゃこの件は非常に助かる」
暁「…司令官は、何とも思わないの!?暁にとっては命の恩人なのに!その人を殺すって!」
提督「俺が何とも思わない、だと?」ゾワッ
暁「っ…ご、ごめんなさい…」
提督「…その答えはお前がこれをやり遂げたら言ってやる。どうする、行くのか行かねぇのか」
暁「…」
---
神通「はぁ、はぁ、はぁ…ゲホッ!」ポタポタ
神通(流石に全員は凌ぎきれなかったですね…でもこれで時間稼ぎにはなったはず…)
神通(艤装は…ダメですね、もうまともに動かない。妖精さんもボロボロ…)
神通(ここまで…ですかね)ハァハァ
神通「…あら、もう来ましたか。早いですね」チラッ
神通「見ての通り、私は手負い…もう抵抗する力もありません。どうぞお好きに…」
暁「…神通さん」スッ
神通「…あら?暁さん…でしたか」
暁(ボロボロ…)
神通「…もう一人居ますね?出てきてもらって結構ですよ」
提督「…驚いたな」
神通「偶然にしても、暁さんがこのタイミングで来るとは思えませんし、あの人が寄越したとしか思えません」
提督「ま、それもそうか」
神通「…私を早く始末しろ、とでも言われてるのではないですか?」
提督「ご名答」
神通「なら、仕方ありませんね…ですが、一つだけお願いです。暁さんとお話させて下さい。殺すのはその後でいいですか?」
提督「…ごゆるりと」スッ
暁「こ、これ…」
提督「苦しむぐらいなら、楽にさせてやれ」ボソッ
神通「…暁さん、お元気でしたか?」
暁「…うん」
神通「実はあの後、武蔵さんに襲われましてね、その時も大怪我をしたんですけど、どうにか相討ちにまで持っていけまして…」
暁「…」
神通「…治療中に、暁さんの向かった鎮守府の提督が殺されたと聞きました。何でも、裏で艦娘の人身売買をしていたとあって、私はずっと悔いていました…」
暁「あ、あの、それは…途中でメモを落としちゃって、迷ってるところで攫われそうになって、それで、司令官に庇って貰えて、その…」
神通「…司令官という事は、あの人も鎮守府を…?」ゲホッ
暁「…うん。今の鎮守府は、虐めなんて無いわ。まだ数人しか居ないけど」
神通「そう…まだ一人も手を掛けてはいませんか?」
暁「…はい」
神通「…私が、あなたの最初の一人となるのですね」
暁「…」
神通「…私ももう長くありません。ですが、教え子の門出となるなら、喜んで礎となりましょう」
暁「神通さん…」
神通「…最期に、私からの言葉を手向けとしましょう」
暁「神通さん…!」ギュ
神通「あなたがこの先どのように生きるかを指図しません。あなたの人生はあなたのものです。あなたの提督の方針について行っても、私は何の文句もありません」
神通「私は、あなたがこの先悔いのないように生きて欲しいです。やってる事がとても表に言えないような事でも、暁さんが納得できるのなら…ゲホッ!」ポタポタ
暁「神通さん、もう…」
神通「例え心を闇に染めてしまっても、自分を見失わず、立ち止まらずに進み続けてください。一度踏み出したからには、最後まで…」
暁「…はい」
神通「…未熟な私でしたが、ちゃんと話を聞いてくれる教え子を持って幸せでした」
暁「…はい」
神通「…それでは、暁さん、『それ』を構えて」
暁「…」スチャ
神通「そう…それを、よく狙いを定めて…」
暁「…神通さん、ごめんなさい…私、守れなくて…」ウルッ
神通「…暁さんのせいじゃないですよ。きっと、こうなる運命だったんです」
暁「…でも…でも!」
神通「私は…悔やんでいませんよ。むしろ、殺されるのがあなたでよかった。最期に会えてよかったです」
暁「ひっぐ…」ボロボロ
神通「いい感じです…さあ、指を…引いてください」
暁「っ…」グググ
神通「…」目を閉じ
暁「っ!」ズドン!
神通「っ…」ブシュッ
暁「…」ペタン
神通「…ありがとう、暁さん」ガクッ
暁「…」
提督「…依頼完了」ピッ
暁「…終わったわ」
提督「ご苦労」
暁「…」
提督「どうした」
暁「…司令官、恩人を殺した時、何を思ったの」
提督「…ああ、ちゃんとやり遂げたから答えようか」
暁「…」
提督「…そうだな。お前みたいなパターンは俺は一度しか経験していないから、あまり参考にはならんが…心に大きな穴が空いたような気分だったよ」
暁「…そう」
提督「他にも恩人は居たが…いざ死にかけると周りも道連れにしようとしやがるから、もう躊躇う事も無くなった。心の穴も、いつしか真っ黒い感情で埋まっちまった」
暁「…」
提督「…さあ、戻るぞ」
暁「…」スッ
提督「どうした」
暁「…ねぇ司令官、依頼って、私もできる?」
提督「…できるが、内容で額は大きく変わる」
暁「そう…それなら、貯まったら私も依頼するわ」
提督「…そうか。一応言っておくが、大規模な戦闘は最低でも億は掛かると思え」
暁「…わかったわ」クルッ
提督「…クライアントの要望だ、遺体はそのままにしておけ」
暁「…せめて、血だけは拭かせて。それと…」シュルル
提督「…」
暁「これは持ち帰らせて」
提督「神通の鉢金か…まあ、持ち帰ってはいけないとは言われてねぇからな。構わん」
暁「…ありがと」フキフキ
***
暁「…」
陽炎「暁、肉は大丈夫?」
暁「平気よ」
陽炎「そう、それじゃビーフステーキ2つ」
店員「かしこまりました~」スタスタ
陽炎「…あ、そうだ。昔の事って言ったら、霞ちゃんは元気にしてる?」
暁「うん。最近はまたあっちの司令官を叱るぐらい元気になったって」
陽炎「そっか…艦だった頃は十八駆だったから気になってね」
暁「…本当によかった」
陽炎(…忘れもしない、神通抹殺から一月程のあの日…)
***
提督「…は?もう一度言ってくれ」
提督M「無礼は承知の上だ!どうか霞の仇を取ってくれ!」
提督「…すいません、何の話だか分からないんですが」
提督M「失礼した。僕はM鎮守府の者で、少し前にB鎮守府から逃げてきた霞を引き取ったんだ」
暁「っ!」
提督「…それで、仇討ちとは?」
提督M「先日B鎮守府との演習で、あちらの主力艦が霞を見つけて、僕が駆けつけた時にはボロボロで…」ウルッ
陽炎「…司令」ボソッ
提督「ああ」
提督M「あちらは何故か凄く殺気立ってて、提督Bも有耶無耶どころか最後は開き直る始末だった。何だか、化けの皮が剥がれたような…」
提督M「だがあれは絶対に狙ってやった行為だ!意識の戻った霞が勇気を出して言ってくれたんだ。だから、報復したいんだ!」グスン
提督「…何故その話を我々に?」
提督M「重ねて失礼するが、僕は霞が来たときに色々と調べて、そこにいる暁も逃げてきたと知っている」
暁「…」
提督M「そして逃亡前、B鎮守府にて過激な虐めを受けていたと聞いた。勝手だが、君のいる鎮守府にも手助けを願おうかと思って…」
提督「…大変面白いお話ですが、私らも色々と忙し…」
暁「…待って!」
提督「…」
暁「…司令官、この人の依頼を…」
提督「おい」ゾワッ
暁「っ…」
陽炎「暁、いい?私たちは闇の住人。安易に自分の存在を分からせるのは…」ボソボソ
暁「…暁、もう限界なの。毎晩虐められてた時の夢と、神通さんの夢を見るの。逃げ出しても、あいつらに苦しめられるのはもううんざりなの!」
陽炎「暁…」
暁「司令官、報酬なら暁が肩代わりするわ!だから、この依頼受けて!暁も…決着を付けたい!」
提督「…」
提督M「び、便乗するようで悪いが、お願いだ!僕も出来る限りの報酬は用意する!」
提督「…何故そこまで拘る」
提督M「…僕は、霞に指輪を渡そうと思ってたんだ。ちょうどその演習で、霞が練度限界を迎えるはずだった」
提督M「あの子は、自分にも他人にも厳しくて、それでも本当は底抜けて優しい子なんだ。そんなあの子を…傷付けるあいつらが許せないんだ!」
提督「…はぁ、そうかい」
提督M「協力してくれるのかい!?」
提督「だが一つだけ忠告する。俺は俺のやり方でこの件は片をつけるが、お前さんはもう二度と消すことの出来ない黒い過去を背負う」
提督「B鎮守府の始末をして、お前んとこの艦娘が快方に向かっても、それはお前が悪魔に助けを求めた結果と忘れるな」
提督M「し、始末…悪魔?」
提督「俺の事をバラしたら、その時は楽に死ねると思うな」ギョロ
提督M「っ…わ、わかった」
提督「…さて、報酬だが…5億のところを暁に免じて1億にしてやる」
提督M「いっ…!?」
提督「B鎮守府の始末の手数料、情報操作料だ。本当なら大赤字だ」
提督M「わ、わかった…何とかしよう!」
提督「…誓約書だ」ペラ
そして…海軍史に残る最大最悪の事件が起こった。
表向きでは深海棲艦の奇襲により、B鎮守府は壊滅し、提督Bと艦娘全員の死亡が確認された。遺体の状態は全て惨たらしく、正視に耐えないものだったという。
連日マスコミで取り上げられ、深海棲艦の仕業と世間が定着し、海軍の責任問題にまで発展した。その裏で起きていた事を知る者は頑なに口を閉ざし、真実は闇の中へ埋もれていった。
…真実を知る者は、その時の暁の姿を忘れることは無かった。恩人の鉢金を付け、彼女のシルエットを彷彿とさせる大きなリボン結びをし、かつて自分を虐げていた艦娘を蹂躙する様を。
人を殺す技術に長けた者に対して、艦娘は余りにも無力だった。深海棲艦を殺す技術を磨いても、純粋で本気の悪意と殺意を併せ持った動きに対処出来ないのだから。
全てが終わった後の暁は、けたたましい叫びを上げた。それが雄叫びなのか慟哭なのかは誰も分からなかったが…いずれにせよ、それは亡き神通に捧ぐ鎮魂歌であると言う事に変わりなかった。
想像以上の働きを見た提督と陽炎は、以降暁に艦娘絡みの戦闘依頼を任せないようにした。事後処理は勿論、余りの暴れぶりで外部にバレる事を恐れたのだ。
…そして、暁はその後も、提督の鎮守府に残る事となった。
***
陽炎(あれ見たら流石にこっち側でも身構えるレベルだったからねぇ…)
暁「陽炎?お肉冷めるわよ?」モグモグ
陽炎(…あー、思い出したら何かビーフステーキが『アレ』に見えてきたけど、関係ない関係ないっと)モキュ
暁「あら?なかなか切れない」グチャ
陽炎(関係ない関係ないっと)モグモグ
暁(…虐められてた時の夢は見なくなったけど、代わりに見始めたのが…あの夢)
暁(…わかってる。本当はあんな風に過ごしたかったんだって。でも、もう叶わないから、夢に見るんだって)
暁(…もう引き返せない。踏み出したからには、進み続けなきゃ。その先が非情で理不尽に満ちた未来でも)
『今日はどうすっか?』
『こんなの用意したんだよ~』
『お~それどこ挿れんだよ~』
『決まってんだろ?』キュイイイイイイイン
『また処女喪失だよ~?嬉しいでしょ~?』
『中の肉まで抉っちゃうよ~?』ギュルルルルル
『おはよ~!今日は大勢いるからいっぱい楽しめるね~!』
『手が欲しいやつはそっち、足が欲しいやつはそっちな』
『大丈夫だって、艦娘はこれ掛ければどんなにボロボロでも再生するんだぜ』
『切ったとこ挿れたい奴は集まれ~』
『今日は何人イケるかな~?』
『また来たよ~あんなにぶち込んだのに綺麗なままだ~』
『通算何人咥え込んだのかな~?』
『艦娘は孕まねぇからマジで高級オナホだぜ』
『お薬飲みましょうね~』
『毎日初めて貰えて嬉しいだろ~?』
『おい、早く輪姦せよ、もう待ちきれねぇよ』
潮「…」ツカツカ
男「な、何だお前!何が目的なんだ!」
潮「…フフッ」ス-
男「ちょ、そんなものしまえよ!危ねぇだろ!」
潮「…」キラッ
男「く、来るな!やめてくれ!悪かった!殺さないでくれ!」
潮「アハッ」スパン
***
「…!…しお!」
潮「…ふぇ?」ボ-
陽炎「どうしたのよ、ずっと上の空で」
潮「…昨日の標的を処分してる時を思い出してました♪」ゾクゾク
陽炎「また?」
潮「やはり、自らの報いが返った時の恐怖に満ちた表情と、バラしていく感触はいいものですね!潮もかつてやられる立場でしたけど、してる側はこんなにも楽しくやってたんですね」
陽炎「私は殺したらそこで終わりだからアフターについては知らないけど…」
潮「いいものですよ!切り裂いたり千切ると皆良い声で哭くんですよ~。自分より小さい女の子に何も出来ずにバラバラにされてどんな気分なんでしょうね~」ホワホワ
陽炎「ま、屈辱的でしょうね」
潮「そうなんですよ!そんな目で潮を見てくる男もたまにいますけど、それを完膚無きまでに折るとほんっと良い顔しますよ!」
陽炎「ふーん…」
潮「今日もお仕事楽しみです♪」ウキウキ
初雪「ほい、今日の」パラ
潮「ありがとうございます」ペラペラ
陽炎「…あんた、寝てないわね?」
初雪「新キャラ来てVIP維持に勤しんでた」
陽炎「望月は?」
初雪「寝てる」
陽炎「全く…」
潮「…うーん、安いなぁ」
提督「仕事熱心なのはいい事だが、そんな安い案件よりこっちはどうだ」ペラ
陽炎「司令どこ行ってたの」
提督「朝から面談頼みたい奴がいてな」
潮「…反艦娘連合?何ですかこれ」
提督「読んで字の如く、少女を戦わせるとはどういうこった、とか少女の姿した兵器はとっとと解体しろとか、何かと理由付けて艦娘いなくなれと騒いでる連中さ。今回のクライアントはそいつらの調査及び解散を望んでる」
陽炎「ふーん…クライアントは海軍関係者かな?」
提督「…ま、言わんでもわかるわな。こいつらはよく鎮守府前でデモしたり大本営前でもお祭り騒ぎしてるらしいからウザイんだってよ」
初雪「うちには来ないよね」
提督「ガワがボロいからな、廃墟だと思い込んでんだろ。こういった連中は殆ど頭が足りねぇ奴らばかりさ」
陽炎「…解散でいいの?」
提督「最低でも、な。結果的にもう二度とおイタ出来ねぇようにすりゃいい」
陽炎「…赤城さんと鳳翔さんに」
提督「ダメだ。あいつらは派手にやり過ぎる」
「そんなー!」「残念です…」
提督「こういうのは少数の方がいい」
陽炎「だよね」
提督「まずは調査だ。青葉!」
青葉「はいはい、お仕事ですね?」
提督「資料よく読んどけ。それと前金」ゴトッ
青葉「おほーっ!これは大金ですねぇ!頑張りますっ!」スッ
陽炎「いくら?」
提督「前金だけで億だからな、だいぶ参ってんだろうよ」
陽炎「…ま、しばらく待たないとね」
そして、二週間後…
青葉「戻りました~」ドサッ
提督「ご苦労」
青葉「反艦娘連合、結構大きいみたいですねぇ」
提督「…ふむ」ペラ
青葉「デモ行進はほぼ毎日やってますし、何なら鎮守府へ侵入したりと法に触れる事やりまくってますね。警察も余りの勝手さと多さに手を焼いてるみたいです」
提督「…まあそれはいい」ペラ
青葉「そうですね。今のはまだ軽い方で、問題はこっからで…」
提督「…ほう」ペラ
青葉「あ、丁度いいですね。その資料通り、どうやら奴ら、深海棲艦を信仰してるみたいです。それと幹部の大多数の国籍が日本じゃないみたいです」
提督「スパイみてぇな連中だな」
青葉「幹部は基本的に本部から出てこないし、デモに向かってる人たちは下っ端ばかりです。詳しい動きがあまり見れなかったのが残念です」
提督「…とりあえず、奴らの拠点だけ知れれば問題無い。よくやった、上がっていいぞ」
青葉「了解です、それでは~」スッ
提督(…こいつら、叩きゃもっと埃が出るな)
***
提督「メンバーは那珂、陽炎、潮、俺だ」
赤城「やっぱりダメでしたか…」ズ-ン
提督「遠征系は全部任せてるだろ。我慢しろ」
赤城「特注の武装が来るまで何も出来てないですよー!」ジタバタ
提督「駄々こねんな!」
陽炎「暗殺よね?こんな居ていいの?」
提督「反艦娘連合の規模はかなりデカい。どれが総本山なのか何故か判明してないから数日に渡って遂行する事になるかもしれんからな。早い方がいいだろ」
鳳翔「尚更戦闘でよろしいのでは?」ウズウズ
提督「お前らを投入すると拠点どころか街が無くなるからダメ」
鳳翔「(´・ω・`)」ショボ-ン
提督「今回はクライアントが海軍関係者だからな。デカい騒ぎを起こせば真っ先に海軍が疑われる。後はわかるな?」
陽炎「…了解」
提督「…尚、本件は『出来高』によって報酬が左右される。山分けじゃないぞ」
陽炎「てことは…」
提督「騒ぎになるのはある程度生き残りがいるからだ。それなら一人残らず皆殺しにすりゃいい。世間でも目の敵にされてっからな、ひっそりと消えた方が世の為ってもんだ」
那珂「いいんですね!?」キラキラ
提督「但し派手にやるなよ。容赦はしなくていいが」
潮「…あの、もし女性がいたらどうしたら…」
提督「他に任せりゃいい。尤も…その必要も無さそうだが」チラ
潮「?」
提督「何せこいつら…何故か男ばっかりだからな」ククク
潮「…へぇ」
提督「…さて、残りは各々の依頼を遂行せよ。俺らは準備出来次第行くぞ」
艦娘『はい』
提督「…最初は一番近くにある拠点だ。各自得物は」
潮「大丈夫です」スッ
陽炎「ほら」スッ
那珂「那珂ちゃんは全身だから問題無し!」
提督「一応持ってけ」ポイ
那珂「はーい…」ムスッ
提督「お前ら、赤城の件で知ってるだろうが、スーツ壊すなよ」
陽炎「わかってる」
潮「それじゃ、行きましょう」
那珂「レッツゴー!」
***
反艦娘連合拠点
組員「はー今日も終わった」
組員「お疲れ」
組員「デモ参加暑すぎて辞めたくなるわ~」
組員「それな。でも小遣い稼ぎにはいいだr」ドサッ
組員「この金で今日はパーッと…」ズバッ
組員「お、おいどうし…」バタッ
組員「な、何が…うっ」パシュ
陽炎「行くよ」
提督「お見事」
潮「…」ウズウズ
提督「こいつらは下っ端だ。お楽しみは上の連中にしとけ」
潮「…」シュン
組員「さーて、今日は誰を…だ、誰だ!」
那珂「解体のアイドルですよー!」貫手
組員「うげっ…」バタッ
那珂「ん~♪今日も良い感じ」
組員たち「どうした!」ドタドタ
潮「ウフッ」スパン
組員「め、目がぁ!」
陽炎「よいしょ」ズバン
組員「な、何だ…動け…」ガクン
提督「バイバイ」パシュ
那珂「ほらほら次ぃ!」スタタタ
幹部「おいおいうるせーぞ、どうした?」ガチャ
提督「こんばんわ」パシュ
幹部「うがっ!」
陽炎「半裸で何してんのよ」ザクッ
幹部「うぎゃ!」
潮「この臭い…そうですか、お取り込み中なのに不運でしたね」スパン
幹部「うあああ!!」
潮「…ちっさ」ポイ
幹部「なんだなんだ!」ドタドタ
幹部「な、何しとんじゃワレ!」
提督「お楽しみの所失礼」ズドン
陽炎「くっさいわねー」ザクッ
幹部「ぎっ…!」
提督「中を拝見…おー、こりゃ凄いっすねぇ」
幹部「か、勝手に入るな…!」ゼェゼェ
提督「虐待プレイがお好きなのかな?そうかそうか、潮」
潮「はい」
提督「こいつにも同じことしてやれよ」
潮「喜んで♪」ニタァ
幹部「ちょ、何すんだ!やめろ!」ズルズル
提督「…さ、俺らは情報を集めるぞ」
那珂「了解」
陽炎「…ねぇ、潮はいいの?」
提督「好きにさせとけ。集め終わったら始末させるから」
陽炎「…」
「やめてくれぇ!」「まだまだいけますよねぇ?」「助けてくれぇ!!!」「ほーら、気持ちいいですかぁ?良すぎて血が出てきましたねぇ」
陽炎「…うん、ほっとこ」
『うぎゃぁぁぁぁああああ!!!!!!』
提督「…」
潮「…アハッ、死んじゃった」スタスタ
那珂「えー?情報引き出すとかは?」
潮「アハハッ、アハッ、アハハハ」フラフラ
提督「おい」パチン
潮「…はっ、すいません、また…」
提督「…結果論だが、ここは本部じゃねぇし、かなり下の位置だったみたいだ。大した情報は持ってねぇし、最終的には殺すし、手間が省けた」
潮「…あの」
提督「何だ」
潮「…あの子を、楽にさせて欲しいです」
提督「…陽炎」
陽炎「…わかった」スッ
潮「…ここです」ガチャ
陽炎「うっ!くっさ…って」
潮「…あの子です」
陽炎「あの子って…」
潮1『…』ドロドロ
陽炎「う、潮じゃないの…!」
潮「…はい」
潮1「…」
陽炎「酷い怪我…でも、何で艦娘が…」
提督「人身売買だ」ガチャ
陽炎「司令!?」
提督「以前暁が向かう先だった鎮守府の提督を始末した事があっただろう。そいつは艦娘の売買に手を染めていた一人だった。そしてそれの買い手は主に金持ちの変態か反艦娘連合だった」
陽炎「…艦娘の存在を否定してるのに、こんな事するなんて」
提督「所詮は下半身に脳みそがついてる人間の所業ってこった。都合のいい時はこうして自らの欲の捌け口に使う。どんなえげつねぇ欲も満たしてくれるし、こうして耐えるからな」
潮「…」
提督「…潮も、その被害者の一人だったってこったよ」
陽炎「…何故、こんな…」
提督「金だ」
陽炎「金…?」
提督「艦娘を建造、救出するのに掛かるコストと解体で得られる資源が違いすぎるのさ。真面目にやりゃ損しかしない。そこでとある提督は、どうせ解体するなら少しばかり金を稼がせてから捨てっちまおうと考えたわけだ」
提督「艦娘は全てに於いて男の欲望を叶えるにはもってこいだからな、真っ先に何が浮かぶかなんて言うまでもねぇ。高い金払ってでもヤりてぇ奴らはそこらじゅうにいる」
提督「ついでに、艦娘は沈まねぇ限り必ず元通りになる。高速修復材なんか使えば忽ち復活さ。切り刻まれても、焼かれても、あそこを滅茶苦茶に壊されても、死の一線を超えない限りは治る」
提督「金がしこたま入りゃもっと欲しくなる。利益が上回ればもっと手を出す。金に狂い、欲に狂った連中が、この結果を生んだのさ」
陽炎「…この子を売った奴は?」
提督「残念だが何処かはわからん。探そうにも証拠が消されてる可能性が高い」
陽炎「…そう」
潮1「…誰?」
潮「…」
潮1「…終わりですか?」
潮「…うん」
潮1「その声…」
潮「…ごめんね、こんな辛い思いさせて」
潮1「他の子は…逃げられた?」
潮「他の子…うん、きっと大丈夫」
潮1「それなら…よかった」
潮「…」
潮1「…ねぇ、お願い私…ここで終わらせて下さい」
潮「…それは」
潮1「このまま戻っても、私は解体されるか、またどこかに売られるの…それなら、もう、終わらせて」
提督「潮」ボソッ
潮「…あなたを売った提督は、誰?」
潮1「…分からない、覚えてないの」
潮「…!」
潮1「挨拶の前に売られたから…それに、アイツらが満足し終えると薬を打たれて…記憶にぽっかり穴が空いたようになって…思い出せない」
潮「…やはり」
潮1「力になれなくて、ごめんなさい…それと、わがまま言って、ごめんなさい」
潮「…陽炎さん、お願い出来ますか?」ボソッ
陽炎「…了解」スチャ
潮1「…もう一人の私、最期のお願い」
潮「…何?」
潮1「…生きて」
潮「っ…!」
陽炎「…ッ!」ザシュ
提督「…那珂、居るんだろ」
那珂「…うん」チラ
提督「どうした」
那珂「…今回の件、かなり裏が深いなって」
提督「ああ。とっとと終わらせねぇとな」
陽炎「…次の拠点、行くわよ」
潮「…提督、今回の依頼に私を同行してくれてありがとうございます」
提督「…」
潮「依頼内容だけじゃ本調子にならなかったけど、もう大丈夫です」
提督「そうか…良し、次行くぞ」
***
提督「反艦娘連合は拠点の数こそ多いが、構成員はそれほど多くないみたいだな」ブロロロ
那珂「それじゃあ一番多い所が本部ですね?」
提督「それはわからん。だがどっかに本部と近しい関係の拠点は存在するはず。そこを見つけるのがいいだろう」
潮「…どっちにしろ全国回って皆殺しですよね?」
提督「まぁな。だがこれは短期決戦だ。早くやらねぇと対策されるし、最悪逃げられ…っ!?」ピク
陽炎「…っ!伏せて!」パリン
提督「おいおい、対策が早すぎねぇか」キュルルルル
陽炎「…スコープの反射が無かったら危なかったわ。ちょっと詰めが甘いみたいね」
提督「…一筋縄じゃ行かねぇって事か」
那珂「追いますか?」
提督「ほっとけ。もうすぐ次の拠点だ」
組員「眠…何で見回りなんかしなきゃいけねぇんだよ」
組員「俺もあのガキハメてぇな…ん?」
車「」ブロロロ
組員「あれってうちの連合の車だな」
組員「追加の客か…ん?」
組員「あれ?速度落としてなくね?」
組員「や、やべぇ!逃げろ!」
那珂「逃がさないよー!」シュタ
組員「か、艦娘!?」
那珂「フンッ!」ドスッ
組員「ぐほっ…」ボタボタ
組員「何事だ!?」
潮「死ね」グサッ
提督「悪いけど全員」パシュッ
陽炎「皆殺しなのよね」スパン
那珂「さーとっとと終わらせますよ!」
幹部「そこまでだ!」ガチャ
陽炎「…あの装備、私たちと同じ?」
提督「…そうか、やはり」
幹部「死ね!」
那珂「ふんっ!」貫手
幹部「馬鹿め、そう簡単にやられるとでも」
提督「バカはてめぇだ」カチン
幹部「はっ!そんなおもちゃで…あ、あれ?」ポタポタ
提督「元が同じなら」グリグリ
幹部「い、いでぇ!」
提督「解体方法も…同じだろ?」カチャン
幹部「あっ…な、なんだと…」バラバラ
提督「まだ理解しきれてねぇのに自分の力だと勘違いしちまう。俺もそんな時があったが…」ザクン
幹部「かっ…」バタッ
陽炎「…司令、この装備って、私たちだけじゃなかったの?」
提督「…この依頼が済んだら、真相がわかる」
陽炎「ねぇ、司令!」
提督「今は依頼の遂行だけを考えろ。話せば一晩じゃ済まねぇからな」
陽炎「…」
幹部「おい!殺ったの…か?」
幹部「なっ!どうやって…」
提督「カラクリが分かっちまえばどうって事ない。お前ら、自分のを外す時、最初どこからやる?」
潮「そういう事ですね」
那珂「何か悔しいから装甲からぶち抜く!」
提督「バカ、そんな事したら俺の装備も」
那珂「そりゃあ!」ギュイン
幹部「ぐえっ…!」バリン
那珂「ああー!ヒビが!」
提督「…自腹な。俺は資料を集める」スタスタ
潮「…さて、私はお楽しみの方を…」クルクルクル
陽炎「…ちょっとだけ手伝うか」ピ-ン
潮「ウフフ」パシン
幹部「うげ…え?」
陽炎「さ、知ってる事全部吐きなさい」
潮「血は吐かないで下さいね~♪」峨嵋刺向け
提督「…ここでもねぇが、ここの幹部は日本国籍じゃねぇ奴が殆どだったようだな」
那珂「深海棲艦を信仰してる外国ってどこがあります?」
提督「んなこと真面目に発表するバカはいねぇ。裏でコソコソやるか、それとも…スパイか」
那珂「クライアントはそれ知ってたんですか?」
提督「恐らく知ってて俺らを探し当てたんだろう。クライアントもこっちに片足突っ込んだ野郎ってこった」
那珂「ふーん…それにしても、支部が多すぎますねぇ」
提督「流石にこの数を一つずつ回るのは時間が掛かりすぎる。二人一組になって潰しに掛かるしかない」
那珂「途中で総本山見っけた時は?」
提督「そん時は連絡しろ。最後は俺も居ないとな」
那珂「了解」
提督「…おい、そっちは終わってんのか!」
陽炎「…有益な情報はこいつが外国籍なだけ」生首持ち
潮「陽炎さーん?待ってくださいよ~」フラフラ
陽炎「…ふん!」グチャ
潮「あーあー、踏み潰さなくても」
陽炎「…どの道出発でしょ。あの子も楽にさせてあげたからここに用は無いわ」
潮「…」
提督「…ここに売られてた子は」
陽炎「ダブった駆逐艦たちよ」
提督「…そうか」
陽炎「…で、さっきちょっと聞こえてたけど、これから二班に分かれるんでしょ」
提督「そうだ。俺と那珂、潮と陽炎だ」
陽炎「了解」
那珂「はーい」
潮(…お互いにストッパー、という事ね)
提督「三日以内に総本山を見つけ出せ。集合及び総攻撃は三日後だ」
陽炎「了解」
潮「はい」
提督「よし、行くぞ」
那珂「はーい」
陽炎「行くわよ」
潮「了解」ユラッ
提督の判断は正しかった。二手に分かれ、標的となる拠点を潰す速度は倍になった。その中に、本部と思われる情報を持つ拠点も速やかに発見された。
夜は明け、再び街が動き出す。その中で沈黙を続ける反艦娘連合支部。生きた人間の気配を感じさせない建物に近づこうとする人間は誰もいなかった。
流石におかしいと感じ始める人間が出現するまで、提督は三日と踏んだ。余計な正義感か、怖いもの見たさかは定かではないが、過ごしやすい日々になった理由を明かしたい人間は少なからずいる。
真実に直面させる前に、依頼を遂行させなければならないと提督を急がせていた。その前に、別の真実を確かめなければならなかった。
裏で行われている艦娘の人身売買、敵性勢力である深海棲艦への信奉、そして身に付けている装具の秘密、提督と陽炎、那珂はそれの追求に傾きつつあった。
ただ一人、潮は忌々しい過去の清算だけしか頭に無かった。思いもよらず舞い降りた復讐の機会を逃すはずもなく、『お楽しみ』を堪能し続けていた。
それで気分が晴れるわけでもない。過去が覆ることもない。ただ自分の心が黒く、深く染まっていくだけだった。
殺す度に、更に沸き立つ殺意と憎悪。かつて自分を陵辱したであろう者たちに向けるそれは過激さを増すばかりだった。
潮は、爆発寸前だった。ただ解き放たれる時を待ち続けた。たかが三日、然れど三日、短くも長い時の中、濃縮された禍々しい感情は僅かな理性に抑えられつつ、爪を研ぎ続けていた。
***
提督「よし、全員居るな」
那珂「潮ちゃん、大丈夫?」
陽炎「…潮」ポン
潮「…ウフ」
提督「…」指パチン
潮「ウフフフ!」
提督「…ま、もう我慢の必要も無いわな。目の前に総本山があるってんだから」
那珂「それにしては、結構小さいね」
提督「こういうのは下のが広いってもんだ」
陽炎「隠しておきたいものも大きすぎるって事ね」
提督「そうだ。潮」
潮「…アハ?」チラ
提督「ここまでよくやったな。好きにしていいぞ」
潮「…アハハッ!」シャキン
提督「殺れ」
潮「アハハ!!」
提督「潮に続け」
那珂「合点承知!」
陽炎「了解!」
組員「き、来たぞ!」ガチャン
提督「ほう、お出迎えしてくれんのか」
潮「死ねェ!」ザクン
組員「げっ!」
陽炎「うわぁ、すっごいキレ」
那珂「提督、この得物ってスーツ貫通するんですか?」
提督「まさか」
那珂「へぇ…負けてられないかな!」ヒュン
組員「なんだコイツら!?」
組員「たった4人だぞ!」
提督「烏合の衆って言葉、知ってるか?」パシュ
陽炎「ボスはどこよ!」ザクッ
幹部「ガキ相手に何やってん…あ、あれは艦娘!?」
潮「アハッ」スパン
提督「おー鮮やか」
陽炎「もう終わるわ。早く親玉を…」
提督「大体見当は付いてる。恐らくここら辺に…」ズモッ
那珂「提督、そこ何も無いけど」
提督「黙って見てな」ガタン
陽炎「隠し扉…」
提督「変わってねぇな」
陽炎「…?」
提督「潮を連れてこい」カツカツ
那珂「潮ちゃーん!次行くよー!」
潮「殺…」ズルズル
陽炎「ねえ司令、さっき、変わってねぇって言ったわよね?」
提督「ああ」
陽炎「どういう…」
提督「おっと、それは後だ」ギィィ
陽炎「…っ!」
那珂「うわっ…」
潮「!」
提督「見ろ。この世の終わりみてぇな光景だ」
扉を開けた先、支部よりも更に大規模な陵辱ショーが行われていた。壁沿いに提督たちと同じスーツを来た者たち、それ以外は自分の欲を満たすべく艦娘を弄び続けるマスクを付けた者たち。
如何に殺し屋とて、陽炎たちは未だ少女の身。想像を超える光景に動揺と嫌悪感を隠せずにいた。
だが、提督は討つべき者を見定めていた。狙うは最奥に佇む男。そして…潮もまた、平静を取り戻し、殺すべき者を睨みつけていた。
提督「…あれ、深海棲艦だろ」
陽炎「え…えっ?ど、どこよ!」
潮「…あの男の前にいます」
那珂「あれ補給艦じゃん」
提督「…まあ、何でもいい。潮、暴れていいぞ」
潮「言われなくても…!」シャキン
那珂「那珂ちゃん、行っきまーす!」シュン
陽炎「司令、ここは二人に任せて私たちは」
提督「ああ。深海棲艦を頼む」
潮『死ねぇぇぇぇぇ!!!!!!』ゴオッ!
マスク男「な、何だ?」
マスク男「か、艦娘!?」
那珂「お粗末なものぶら下げてんなー!」ブチッ
マスク男「げっ…!」
マスク男「な、何で拘束されてない奴が…」
潮「うああああああああ!!!!」ザクッ
マスク男「に、逃げろ!殺されるぞ!」
提督「派手だねぇ」
陽炎「那珂さんはともかく、潮はね…」
提督「おーいそこのあんた、動くなよ」チャキ
男『な、なんだお前!』外国語
マスク男『代表、貢ぎ物は…』外国語
男(代表)『ええい!早く捧げるんだ!今こそ奇跡を…』
陽炎「…外国語?」
提督「ああ。やはりこいつがボスみたいだ。代表って言われてる」
陽炎「わかるの?」
提督「分かるさ」
代表『さ、さあ!神よ!今こそ我らをお救い下さい!』
マスク男「よいしょ…」グイ
艦娘「んー!んー!」ジタバタ
深海棲艦『』ゴクン
陽炎「ま、丸呑み!?何を…!」
深海棲艦『』ブルブル
代表『おお!神よ…!』
深海棲艦『』ペッ
イ級『…?』キョロキョロ
陽炎「なっ…!」
提督「へぇ、補給艦ってそんな事もできるのか」
陽炎「ま、まさか!そんなの有り得ない!」
提督「…ふむ、これがこの団体の正体って事か」
代表『さ、さあ神の使いよ!この愚か者共に裁きを!』
提督『裁きはお前に下るんですよ』ザクッ
マスク男「んなっ…ぐっ!」スパン
陽炎「司令、その言葉…」
代表『な、何なんだお前…ぐっ』ズキズキ
提督『忘れてしまいましたか?悲しいですよ、兄貴』
代表『あ、兄貴…な、何者だ!俺には兄弟なんか…い、痛い…!』
提督『親父たちのご機嫌取りに回ってた兄貴が、今じゃこんなに子分に恵まれてるとは、弟分として鼻が高いです』グチャ
代表『いで…お、弟分…ま、まさかお前!』
提督『やっと思い出してくれましたか』ニタリ
代表『な、泣き虫のアイツが!?な、何故!?』
陽炎(…ん?さっき、クライベイビー…って…英語?)
代表『お、お前、死んだんじゃ…』
提督『生憎、俺は天国と地獄を出禁になってるみたいなんでね』ズボッ
代表『ごはっ!』
提督『大丈夫ですよ、まだ殺しませんから』
代表『こんな事をして…タダで済むと…』
提督『思ってませんよ。むしろ望むところです。あんたがこの国に進出するぐらい落ちぶれるぐらいなら余裕で落とせるわ』
代表『ガ、ガキが…!』
潮「…その声、聞き覚えがありますね」ユラッ
代表『ひっ!?』ビク
潮「忘れもしない、最初に売られた時。私の初めてを奪った男の声」ユラッ
代表『な、何だよ、何が…』
潮「絶対に殺すと決めた声、地獄すら生温いと思い知らせると誓った声、私の最も嫌う声」ユラッ
代表『こ、こっちに来るな!』ズリズリ
潮「ようやく、願いが叶う…この手で、殺せる!」グアッ
提督「もう少し待て」ガシ
潮「…」ピタ
提督『兄貴。一つ聞くが』
代表『な、なんだよ…』
提督『どうして反艦娘連合なんて組織を?金を稼ぐだけなら他にもあったろ』
代表『そ、そんなん知るか!親父たちに命令されたからだよ!』
提督『…』
代表『この国は今も頭ん中が花畑な連中が多いし、そいつらを騙して騒がせりゃ満足して金を落としてくし、接待用の肉便器も飽和してるから手に入りやすいんだよ!それを続けてりゃ俺の評価も上がって、いずれは親父たちに…』
提督『残念だけど、ここでおしまい』パッ
潮「フフ」シャキン
提督「もういいよ。殺せ」
潮「了解」ズブッ
代表『うぎゃあああ!!!!』
提督「ゆっくり楽しんでいいぞ」
潮「ありがとうございます」ズルズル
代表『ちょ、助けろ!お前!仮にも俺より格下だったろ!弟分だったろ!』
提督「…すいません、日本語でお願いします」
代表『た、助けてくれええええええ!!!!』ズルズル
提督「…依頼完了。支部も殲滅。入金をお願いします」ピッ
陽炎「…司令」
提督「何だ」
陽炎「…あの男と同じ言語を話してたけど、どういう事よ」
那珂「結構喋り慣れてるって感じだったね」
提督「…アイツはな、俺の兄貴分だった奴だ。もう何年も前だがな」
陽炎「あ、兄貴分って…」
提督「俺はな、今の地位に就く前、海外のマフィアに所属してたんだよ」
陽炎「!?」
那珂「え…」
提督「お前らのその武装、それは俺がマフィアとの取引先からトンズラして自作したやつだ」
陽炎「…ちょっと、意味が分からないんだけど」
提督「だから言ったろ。話せば一晩じゃ済まねぇって」
那珂「とりあえず今は潮ちゃんを待とうよ」
陽炎「…戻ったら、詳しく聞かせて」
提督「ああ」
全てを終えた潮が出てきたのは、空が白んできた頃だった。全身余す所なく返り血に染まり、憑き物が取れたかのような爽やかな笑顔を浮かべた様は異様を極めた。
後日、提督の予想通り、人気の無くなった反艦娘連合の本部、支部に立ち入ろうとする人間が現れ、かつて人であったモノを目の当たりにし、全国を揺るがす騒ぎとなった。
夥しい死体の中に艦娘が紛れ込んでいることから、艦娘の管理状況も言及され、責任問題にまで発展した。その中で艦娘の人身売買をしていた提督は謎の失踪を遂げてしまった。
また、反艦娘連合に支援していた資本家も明るみに出て、流れ出た資金が海外のマフィアに受け取られているとされ、社会的信用を失う事となった。
そして、鎮守府に戻った潮はこの先も提督の元で依頼を消化していくことになった。大きなニュースの陰に潜む性犯罪者を狩る者として、足を洗う理由が見当たらない、と。
その報告に喜ぶメンバーたちだったが、そこで終わらない。待ち受けるのは、提督の過去の謎だった。
陽炎「…事後処理は粗方済んだわ。さ、教えてちょうだい」
提督「…どっから話そうか」
陽炎「全部よ」
提督「全部、か。その前に聞くが、お前はどこから全部だと思ってる?」
陽炎「は?あんたがマフィアに入る経緯から今でしょ」
提督「…全部ってのは、俺の生い立ちからだと思ってたぜ」
陽炎「…」
提督「まあいいか。今はお前しかいないが、録音でも何でもすればいい。俺自身、聞かれなかったから話さなかっただけだしな」
陽炎「…そ。ならそうさせてもらうわ」ポチ
提督「時間が左右するが、まあ筋が通るように話そうか」
***
提督「まず、俺はガキの頃に売られたらしい」
陽炎「え」
提督「らしいってのは、全部聞かされた話だからだ。生憎、その時の記憶も無いもんでな」
陽炎「…」
提督「俺は売られた身だが、買い手には手厚く世話してもらった。どうやら、その家じゃ跡取り息子が死産だったらしくてな、義母がそのショックで記憶障害になっちまったらしい」
提督「義父は壊れた義母の為に俺を養子にしたと言ったらしいが、この生活もまたすぐ変わった」
提督「その家はそれなりの資産家だったらしいが、何らかのトラブルで金が飛んで差し押さえになった。俺を引き取った義父はその内俺を疫病神と言うようになった」
提督「それから程なくして、俺は大勢の人間に連れられて、でかい家に置かれた。今までと違って雑用をやらされた。後でわかった事だが、極道の屋敷だった」
提督「俺は雑用係だったからかよく分からんが、彫り物は入れられなかった。その代わり真剣にやってないと見なされると暴力を振るわされた。痣が消えない日がずっと続いた」
陽炎「…ごめん、思ってたよりも情報量が多すぎる」
提督「…何年かして、俺は拳銃を持たされた。撃ち方も教わった。そして、俺は鉄砲玉として抗争中の相手方に放り投げられた。ガキだし、彫り物の無いどころか、虐待痕のある俺は油断を誘えるとされたが、俺は生まれて初めて死を覚悟した」
提督「当選弾けば向こうも黙っちゃいない。すぐに弾の飛び交う戦場になったが…何故か俺は生きて帰れた。屋敷に戻ったら皆揃って幽霊にでも見たかのようにビビってた。俺以外にも鉄砲玉はいたけど、帰ってきたのは俺だけだったらしい」
提督「…組の親っさんはえらく驚いてた。だがその後、俺に金をくれた。それが、俺が貰った初めての給料ってところか。まあそれからも鉄砲玉だったけどな」
提督「その都度金を貰っちゃ、話を聞かされた。まだガキだった俺には全てを理解するにはかなり時間が掛かった」
提督「金は力、金がありゃ何でもできる、何でも思い通りになる。だが覚えておけ、使い方を間違えれば瞬く間に全てを失うってな」
提督「他にも、死んでたら俺をバラして臓器売買で儲けてやろうかと思ってたなんて言われたが、俺は色んな意味で運が良かった」
提督「…そんなある時、俺は金を取り立てに行く仕事の付き添いで、自分が生みの親に売られたという事実を知った。興信所使って、親っさんは敢えて俺を向かわせたんだろう」
提督「そこで俺には他に3人の姉が居たらしいが、全員どっかに売って、その金で遊んでいたらしい。姉がバカなのか、親の悪知恵が強かったのか知らんが、定期的に金が入った形跡があった」
提督「だが金が無くなって組の息が掛かった金融から金借りて、踏み倒そうとしてるからケツの毛までむしり取る勢いで向かったよ」
提督「そしたら…笑えたよ。奴らシャブやってて俺らを売人と勘違いして撓垂れ掛かってくるんだよ。同時に虚しく思えた。こんな屑から俺は生まれたのかってね」
提督「苦渋の決断の末に俺を手放したとかそういうのじゃなく、子を売りゃ大金が入って、遊べるからという悪意が真実だった。金と欲に狂った現実を見せられ、目の前に居たそれが人間に見えなくなった」
提督「気付いたら俺は返り血に染まってた。手にはドス持ってて、兄貴分に止められてた。実父と実母はズタズタになって死んでた」
提督「悲しみも怒りも何も無い。本当にどうでもよかった。本当に何も感じなかった。後悔も、何もな」
提督「戻ったら親っさんに怒鳴られた。薬を抜くのは非常に手間だが殺したら足が着くだろって。確かに殺したら借りてた金は返ってこねぇし、申し訳なく思ってた」
提督「…数日経って、俺は親っさんに呼び出された。警察が俺の両親の死体の件で動いてるって話だった。それ自体は建前だったが、本題は俺の両親の借りてた金をお前が払えと言い出した」
提督「親の尻拭いは子の役目とか言われて、本当に意味が分からなかった。俺の両親が遺した負の産物を、なぜ俺が背負わにゃならんのだってな。今すぐ払えねぇなら、バラして中身を売るとも言われた」
提督「親っさんからしたら、はなっからそれが狙いだったらしい。ここまで屋敷に置いてやった恩を、今返せ、と。俺は恩なんざ感じた覚えは無かった。奴隷みたく働かされた上に死んでこいと鉄砲玉にされたり、知りたくもなかった真実を見せられて、俺は怒り狂った」
提督「ちょうどその時、運が良かったのか組が奇襲に遭った。俺の実父と実母の取り立てと同時進行で、シャブの売人をとっ捕まえて、尋問中に殺しちまった事を知った海外マフィアが攻め入ってきた」
提督「俺のいた組はあまり大きくないから潰せると踏んでの事だったんだろ。俺は騒ぎに乗じて命からがら逃げ延びた。泣き喚きながら夜の街を走り抜けた」
提督「そんで、俺は港まで逃げて、こっそり貨物船に紛れ込んでこの国から一度出ていった。どこに行くとも知れねぇ船に乗って、どうなるかも考えてなかった」
提督「ただ、どこでも良かった。俺を知る者が誰もいなくて、全てを忘れさせてくれるような場所であれば、と思ってた」
提督「…港に着いて、隠れて降りた俺は街を目指した。スリやら強盗なんかもしたよ。収穫は微々たるもんだったがな」
提督「だがまだガキだった俺は相手を選んで無かった。マフィアに置き引きが上手くいったと思い込んで、泳がされた所を捕まって拷問を受けた」
提督「その時の金がヤクで得た金だと知らなくてな、どこの回し者か散々聞かれた。俺がドブネズミだと分かるまで拷問は続いた」
提督「幹部が出てきて、俺が何の関係も無いガキと知ると、マフィアの金に手を出した度胸あるガキと気に入ったらしく、ファミリーに入れる気でいた」
提督「俺は生きられるなら何でも良かった。向こうの言葉を覚えて、俺はファミリーの下っ端に入ることになった。外国語なんか二ヶ月ありゃ普通に喋れるようになると分かったのが面白いとこか」
提督「ヤクザにいた頃は雑用ばかりやらされてたが、マフィアも似たようなもんだった。流石に教育はさせられたが」
提督「拷問のトラウマが治りきってなくて、何かと泣き出していたからか、奴ら俺の事を泣き虫と呼ぶようになった。泣くなって無茶言うなよって話だが」
提督「泣き虫と呼ばれ続けて数年、俺は本当の名前を忘れた。あっちの言葉で泣き虫という名が本名とさえ思い込んじまった。まあ泣き虫って意味だと気づいたのはもっと後だがな」
提督「周りはおっさんだらけだったが、俺はやっと毛が生え揃ってきたガキだった。その頃になると、ビジネスを少しかじるようになった」
提督「額は信用度を表し、信用を売れば例え政府にも通じると知った。現に俺らが使っているスーツは当時軍事開発の試作品らしくてな、反政府組織が裏で軍組織と繋がりを持ってた」
提督「戦争をしたって構わねぇが世界から叩かれんのが面倒な時期で、代わりにマフィアや傭兵に戦争をさせてた頃だった。俺はその試作品の実験台にされた」
提督「周りが手練ばかりだったから俺自身死なずに済んだが、あまり活躍してなかったから何度も戦場に送られた。試作品の情報がマスコミに漏れたら、すぐに俺らは切られた」
提督「傭兵とファミリーは金が入ってる事を確認して、真っ先に逃げ出した。戦場には俺だけ突っ立って、周りから殺到する殺意には流石に肝を冷やした」
提督「結局、俺はまた捨てられた。また悪意に振り回された。恨む余裕も無かった。生きるのに疲れたと何度も思った」
提督「どこで寝りゃいいのかも分からねぇ。安眠できる場所なんかどこにもねぇ。どうにかして休む場所と最も休める姿勢を模索してた。それで見つけたのが今の寝方だ」
提督「勿論万全なコンディションじゃないからその内蜂の巣にされて、スーツもボロボロになってた。目の前が暗くなっていく感覚が今でも忘れられない。忍び寄る死に身体を預けたくても、生物の本能が許さなかった」
提督「『生きろ』とデカい声で叩かれて、死体を見に来た兵士をぶち殺してやった。死体から剥いだ銃でひたすら撃ちながら逃げた」
提督「『敵はあそこだ』とか『こっちに避けろ』とか頭ん中で誰かが叫ぶんだよ。うるせぇと思って耳を叩いたら何かに当たる感触があった。小人が俺から落ちてきたんだよ」
提督「…妖精とかいうチビと出会ったのは、その時だった」
提督「妖精から色々と話を聞いた。自分が何者なのか、ここは何処なのか、世界とは何か、俺は今何歳なのか、とかな。マフィアに居た頃は確かに教育を受けていたが、そんなの仕事関連ばっかだった」
提督「国の名前も知らなけりゃ場所すらも分からねぇ。どんな人間がいるのか、どっちに行けば何があるのかも知らなかった俺からしたら、世界が開けたような感覚だったよ」
陽炎「…妖精が、司令を選んだの?」
提督「それも聞いた。妖精自体は条件さえ合えば誰でも見れるらしい。生まれつき見えるヤツも居りゃ、俺みたいに精神が極限状態を超えたり、精神的に多大なショックを受けた拍子に、とかな」
陽炎「…その後は?」
提督「妖精と世界と戦場を回ってまた数年、その道中で俺はファミリーのいる国に戻って、軍施設からスーツの設計データをコピーした。その時わかったが、マフィアがいた国はアメリカだったっけな」
提督「そんなこんなで日本に戻ったら、そのすぐ後に深海棲艦とかいう奴らが発生したって騒ぎになった。俺はそんなん気にせず今の仕事を開業して金をちまちま稼いでたけどな」
陽炎「…ちょっと待って、妖精って深海棲艦が発生する前からいたの?」
提督「あいつらはこの国でいう八百万の神か付喪神みたいなもんで、別に深海棲艦と同時に出てきたって訳じゃない。姿は俺らが馴染みやすいようにしてると言ってた」
提督「…仕事を続けて、金がそれなりに貯まった頃、日本が本格的に海自を海軍に戻して人材募集していた頃、妖精が俺に耳打ちしてきた。それで今の地位を得ようと思った」
提督「戸籍、名前、年齢は全て偽造した。在り来りなものしか浮かばなかったが、どうせ全部嘘なんだからどうでもよかった。何ならこの顔も何度も変えたもんだしな」
陽炎「え」
提督「海外にいる間に何度もひでぇ傷を負ったり、顔が割れてると過ごしにくかったからな。闇医者に頼んで何度も変えたよ。だから本当の顔も思い出せん」
提督「名前だってそうさ。国を渡る度に変えた。泣き虫なんて呼ばれたのは久々だった。でも、懐かしく思えるぐらい俺は名前に執着が無かった」
陽炎「…それで、私と出会ったのね」
提督「そうだな」
陽炎「…そう、わかった」
提督「…ま、こんなもんだ」
陽炎「…まだもう少しいいかしら」
提督「なんだ」
陽炎「司令が金を貯める目的は何よ」
提督「…そうだな。俺は金に人生を狂わされたと言っても過言じゃねぇ。復讐とは違うが、大金を持つとどんな気分になるのか気になってな」
提督「人が狂うにはどれだけ金があればいいのか、金で出来る限界を知りたくなった、と言ったとこか。その過程で大金が動く時は大抵悪意が原動力となってる事も知った」
提督「その悪意が狂わせてるのか、それとも既に狂っていたからそんな悪意を生み出せるのかも気になった。そっから色々と悪意の使い道も学んだ」
提督「人が人に向ける悪意ってのは、自分の優位を絶対として極限まで痛め付けることに特化してる。だがその優位が崩れると、途端に脆くなる。五十鈴の依頼がいい例だな」
提督「自分に向けられる事を想定していない悪意ってのは限度が無いからな。そのどんでん返しを見るのも1つの楽しみになってた。こんな所か」
陽炎「…そういう事ね」
提督「ふむ、一晩は掛からなかったな。久々に喋り疲れた」
陽炎「…最後にひとついい?」
提督「どうぞ」
陽炎「…司令、本当は何歳なの」
提督「…22ぐらいだったかな、多分」
陽炎「っ…」
提督「この顔は少し老け気味にしてあるからな。じゃあな」スタスタ
陽炎「…」
***
陽炎「司令が、22歳…?」
俄に信じ難い話だと思った。どう若く見積もっても30歳より上の顔で、幾多の修羅場を潜り抜けてきた顔付きだったから。
もし本当だとしたら、若くしてこの世の全てと言ってもいい程の悪意を浴びて生きてきたという事だ。金に狂った親に捨てられ、極道の悪意に振り回され、金の代わりに死地に放り出されてきたのだ。
常人なら到底耐えられるものじゃない。だけどそれは普通じゃないと理解出来るほどの自我があるから。司令はそれが全く無かったから、その中で生きるしかなかったのだろう。
初めから、司令を守るものは誰も居なかったというのか。幼い時の司令は養家で受けた愛情を理解出来てなかったか、最後に捨てられたから、全て無かった事にしたのか。
何にせよ、まともに愛情と呼べるものを理解出来ず育たったのだ。そういった人は他に大勢居るだろうけど、司令は極端過ぎた。
金が人を狂わせるのか、元から狂っていたのか分からないけど、司令もまた狂ってると思った。司令は違うと言ってたけど、金に対する執着は、無意識に今までの人生の復讐としているのか、それかまだ隠していることがあるのか…
確定的なのは、司令は人が作り上げた悪魔であるという事だ。比喩ではなく、文字通り悪魔として、生まれ変わってしまったのだ。
人の欲望を叶え、対価を喰らう。契約を遵守する点に於いては、正に悪魔だった。
これを悲劇と言うべきなのか…私には分からない。ただの作り話だと願いたいけど…
提督「なんだお前、まだ居たのか」ガチャ
陽炎「っ…司令」
提督「…まあ、情報ってのはまだ誰にも知られてないからこそ価値がある。金にもなるだろうよ」
陽炎「…そんな事しないし、いずれ皆に聞かせるつもり」
提督「あっそ」
陽炎「…全部、本当なの?」
提督「ガキの頃のそれはあまり保証できんが、少なくとも嘘偽り無く答えた」
陽炎「…あのさ、後悔とか、やり直したいとかって、思った事は無かった?」
提督「無い」
陽炎「即答!?」
提督「今更俺の過去を否定したとこで、そっから何が得られる?金でもねぇし、何なら過去に戻る力でもねぇ。時間の無駄だ」
陽炎「…」
提督「…いや、ずっとその時を生きる事に必死だったから、考える暇すら無かっただけかもな。でも、改めて考えようとしても何も浮かばん」
陽炎「…そう」
提督「お前はあるのか」
陽炎「…最初の頃だけね。何で私が最初じゃないんだって、最初ならこんな思いしなくてもって思ってたけど、私が最初だったら他の陽炎が今の私のようになってるかもしれない、と思うと…ね」
提督「…ふむ、そういうものか」チラ
陽炎「ほんとに最初の頃だけよ」
提督「いや、妖精が概ね合ってるって呟いたからよ」
陽炎「妖精?どこ?」
提督「…お前には見えないのか。俺の肩に居るんだがな」
陽炎「…?」
提督「まあどうでもいいか。概ね合ってるってのなら、世界はそうして回ってんのかもな。その立場にいる者が居なければ、代わりが用意される。ひでぇ話だ」
陽炎「…そうね」
提督「少なくとも、俺は後悔も何もしていない。そもそも、これこそが人間の正しい生き方なのかもしれんしな」
陽炎「…」
提督「さて、俺は仕事に備えて寝る」ヨイショ
陽炎「…ほんと、ずっとその寝方なのね」
提督「まあな。ベッドで寝るより遥かに眠れる」
陽炎「…それじゃ、しばらくしたら皆にも聞かせるわ」スタスタ
…壁に寄りかかって座り、片膝を立てて、懐に手を忍ばせる。いつでも寝首を搔こうと企む愚か者を屠れるように。
まだ衰えを知らない、若い身体に染み付いたそれを見て、どうしても恐ろしく思える。そうしないと生き残れない程、死と隣り合わせだったのだろう。
私は…まだ世界を、人を甘く見ていたのかもしれない。私たちが請け負ってる仕事は、人の持つ悪意全てを見透かしてるのではない。氷山の一角だったのだ。
…だからと言ってもう引き下がれない。司令の言う通り、時間の無駄なのだろう。悪意の坩堝の中で生きるには、悪意を喰らい、しかし呑まれぬようにするしかない。
もうすぐ、夜の帳が降りる。いつも通り、私たちは人の黒い欲望を満たす。対価に、信用の厚さを表す札束を貰って。
…だが、一つ引っかかる。
司令の妖精が視認できないのは、何故なのか。妖精なら艦娘にも見えると思っていたけど…例外がいるの?
司令についてる妖精は、一体…
暁「え?司令官についてる妖精?見たことあるけど」
陽炎「どんなだった?」
暁「うーん…普通の妖精さんだと思う。あの時は暗かったしぼんやりだったけど、今はハッキリ見えるわ」
陽炎「…そう、ありがと」
暁「…?」
…この鎮守府で司令の妖精を見れるのは全員ではなく、暁と、潮と、五十鈴さんだけだった。3人の共通点は皆よりも壮絶な過去を経験しているぐらいだが…
正直、この胸に引っかかる何かがどうしようもない不安を感じさせてる。仕事に支障が出なければいいけど…
***
提督「…お前の事、見れない艦娘も居るらしいな」
『それは重要なこと?』
提督「俺にはわからん」
『僕は見えるとか見えないとかそんなのどうでもいいと思うよ』
提督「あっそ」
『君は目的の為に自分の事に専念した方がいいと思うよ』
提督「はいはい」ペラ
榛名「独り言ですか?」
提督「…何だ、居たのか」ペラ
榛名「隠密、頑張りました!」
提督「…詰めが甘い。獲物を殺るまで正体を明かすな」ペラ
榛名「提督は死にたがりなのですか?」
提督「…わかんね」ペラ
榛名「まだお若いのですから、生き急ぐ必要は無いかと思います!」
提督「お前何しに来たの」ペラ
榛名「様子を見に来ただけです!」チラ
提督「暇なら赤城と鳳翔の遊び相手をやってくれ」
榛名「了解です!」スタスタ
『…榛名、だっけ?』
提督「ああ」
『あの子、私が見えてるね』
赤城「…暇です」カチカチ
鳳翔「そうですね」カチカチ
赤城「初雪ちゃんからゲーム借りてますけど、仕事の時ほど退屈を凌げられません」カチカチ
鳳翔「スキあり♪」カチ
赤城「んあああ!!またやられた!」
鳳翔「元はと言えば赤城さんが提督の武装を壊してしまうからですよ。闇雲に突っ込むのは愚策です」フフン
赤城「うぐっ、同じこと言われました…」
鳳翔「ゲームとはいえこれもまた訓練。相手の呼吸を知り、何をしてくるかを素早く見定める。さすれば敗北はまずありませんよ」
赤城「…もう一回!」
榛名「お二人とも、お暇ですか?」
鳳翔「あら榛名さん、こんにちは」
赤城「絶賛お暇です」ムスッ
榛名「提督から相手をしてあげろと言われたので来ました」
鳳翔「あら…それなら赤城さんの訓練相手になってあげて」
赤城「負けません」ムフ-
榛名「榛名、参ります!」スッ
鳳翔「…赤城さんの武装、いつ頃出来るんですかね」
榛名「以前部品を仕入れてる所は見たのでもうすぐじゃないですか?」
赤城「!」ピタッ
榛名「スキあり!」
赤城「んあああ!!」
鳳翔(…私はそんな所見た事ないですけど、本当なのかしら?)
提督『あー、聞こえるか』ザザ
鳳翔「あら、放送なんて珍しいですね」
提督『赤城、鳳翔、榛名は至急俺んとこに来るように』ブツッ
赤城「っ!」
榛名「スキあり!」
赤城「負けたぁ!!」
榛名「では、提督の元へ行ってきます!」
赤城「…悔しいです」
鳳翔「とりあえず、私たちも向かいましょう」
***
提督「…つーわけで、赤城の武装も作り直した。細かい調整はお前に…」
赤城『ぃやったあああああ!!!』
提督「次壊したら殺してやろうかな」
赤城「んひっ!?す、すいません、調子に乗りました…」ビクビク
提督「よろしい。そんじゃ新装備の試運転も兼ねて仕事が…」ペラ
榛名「…」
提督「今回の依頼は珍しく国内で…」ペラ
榛名「…」ジ-ッ
提督「報酬はそれほど高くはねぇが、さっきも言ったが試運転も兼ねて…」ペラ
榛名「…」
鳳翔「…あの、榛名さん」
榛名「はい」
鳳翔「視線がズレてますけど、何を見てるのですか?」
榛名「何も?」
鳳翔「…」
提督「…以上、何か質問は?」
赤城「…この依頼、国内だからあまり派手にやれないですよね?」
提督「…赤城、お前は暴れ回るのが好きなんだよな?」
赤城「んまぁそう…」
提督「…そう遠くない未来、お前の望み通り大暴れさせてやるから、それまで少し抑えろ」
赤城「ほ、ほんとですか!?」
提督「いい子にしてたらな」
赤城「が、頑張ります!」
提督「あ、でも今回の依頼で新調したスーツ壊したら二度と起き上がれないようにしてやるからな」
赤城「が、頑張ります…」
榛名「…」
提督「何だ」
榛名「いえ、戦闘なのでまた海外かと」
提督「…今回は戦闘じゃないと言ったろ。話聞いてたのか?」
鳳翔(やっぱり聞いてなかったんですね…)
提督「まあ場合によっちゃ戦闘も有り得るが、出来るだけ素早く終わらせたい。ターゲットがターゲットなだけに、穏便に済ますのは困難だろうがな」
榛名「…?」
鳳翔「今回の標的はヤクザですよ」ボソッ
榛名「…了解です」
提督「とりあえず資料は渡しておくから、目を通しておけよ」
赤城「はい」
鳳翔「了解です。ほら、榛名さん」
榛名「…了解です」
『…これでもかとジロジロ俺を見やがって、気に入らないよ』
提督「は?」
『…僕が見える事を隠す必要がある?』
提督「榛名の事か」
『…別に私が見えようが見えまいが、危害を加える訳じゃないのに』
提督「それならお前もほっとけよ」
『…』
赤城「楽しみですね~♪」ルンルン
鳳翔「赤城さん、今回はいつもと違って隠密重視ですから」
赤城「だ、大丈夫です」
榛名「~♪」鼻歌
鳳翔「榛名さんもご機嫌みたいですね」
榛名「へ?」
鳳翔「鼻歌をしてたじゃないですか」
榛名「…ふふ、そうでした?」
鳳翔「ええ」
榛名「…お仕事、頑張りますか」
***
『あの子』
提督「また榛名か」
『君は何とも思わないの?』
提督「何をだ」
『…まあ、いいよ。今はね』
提督「?」
『この世は残酷なんだ。でもいっぺんに受け止める必要はない』
提督「そうか」
『その時になったら、全てを教えよう。それか、君が先に真実に辿り着くのかな』
提督「わからん、気分によるな」
『…あの子たち、終わったみたいだね。もうすぐ連絡が来る』
鳳翔『提督、依頼遂行しました』ピピ、
提督「ご苦労」
鳳翔『…その、帰投したら少しお話したい事があります』
提督「分かった」
鳳翔『それでは』ブツッ
***
鳳翔「戻りました」
提督「ご苦労」
鳳翔「それで、お話というのは榛名さんの事です」
提督「そうか」
鳳翔「提督、あの子は何者なんですか?」
提督「何者、とは?」
鳳翔「そのままの意味です」
提督「話が見えないな」
鳳翔「…本当に何も知らないのですか?」
提督「だから何だってんだ」
鳳翔「…あの子、赤城さんよりも狂っています」
提督「…続けろ」
鳳翔「実力こそまだ私たちとは並んでいませんが、あの子の秘める狂気は身震いがします」
提督「今回の依頼でそう思ったのか」
鳳翔「以前からその片鱗を感じていました。今回の件で顕著になったと言った所でしょうか」
提督「…」
鳳翔「…提督、もしやあの子は、『バグ』なのでは?」
提督「バグ?」
鳳翔「建造の際、ごく稀に発生する欠陥の事かを言うらしいです。普通ならバグはすぐに発見されて引き取られる事無く解体されるはずなのですが」
提督「そんな事言われてもな」
鳳翔「…私はてっきり、それをご存知の上で買収でもしたのかと思いましたが」
提督「買収したのは事実だが、そんな話は聞いてない」
鳳翔「…そうですか」
提督「…バグ、ねぇ。榛名は精神面に欠陥がある、と言うことか」
鳳翔「そうです」
提督「その点は陽炎も気付いてるようだが、バグについては詳しく調べんとわからん」
鳳翔「…了解です」
提督「ふふ、そうか…バグ、か。興味深い」
鳳翔「面白がるのはいいですけど、他にも気になるところがありました」
提督「何だ」
鳳翔「提督の鼻歌は世間一般に知れ渡ってるような歌でしょうか?」
提督「鼻歌?知らねぇが…少なくとも同じメロディーは聞いた事ねぇな」
鳳翔「榛名さんも鼻歌を歌いながら仕事をしていました。教えたのかと思いました」
提督「…教える程親しくもねぇ。そもそも教えるほど意識して歌ってもねぇよ」
鳳翔「…そうですか。わかりました」
提督「…同じメロディーだったのか」
鳳翔「提督の鼻歌を久しく聞いてないので断定出来ませんが、どこかで聞いたような感じでした」
提督「…話は終わりか?」
鳳翔「はい。時間を割いて頂き感謝します」ペコ
提督「…ああ」
鳳翔「それでは」スタスタ
提督「…」
提督『ノータイムで殺ったらしいな。陽炎の後の奴を』
榛名『はい!』
提督『非常に興味深い』
榛名『光栄です!』チラ
提督『…引き金を引く時、感じたものはあるか』
榛名『いえ、何も。あるとしたら引き金が思ったよりも軽かったぐらいでしょうか』
提督『獲物の死を確認した時に感じたものは』
榛名『何も』
提督『…クク、そうか』
榛名『まさか提督も、榛名が気持ち悪いと?』
提督『そんな訳あるか』
榛名『そうですか』
提督『…ま、命を奪った事に変わりねぇ。これでお前もこっち側になった』
榛名『はい』
提督『ずっとこの世界で生きてきた俺から、話をしてやろう』
榛名『はい』
提督『闇の住人はもう元の世界に戻れない。俺らは死んでも天国は勿論、地獄に行くことも許されない。あるとするなら…無だ』
榛名『無…』
提督『二度と生まれ変わることもない。魂の特徴も痕跡も何も残らない。無を彷徨い、遂には消滅する』
榛名『…』
提督『どうせそうなるなら、死ぬまでに何かを成し遂げろ。俺はその為に金を稼ぎ、貯め続けている。お前は何がしたい?』
榛名『榛名はまだ決めてませんから、今は提督について行くとしか言えませんね!』バ-ン
提督『…そうか。好きにしろ』
榛名『はい!』
提督「俺の目的に同調し始めた?いや…」
『違うね』
提督「は?」
『最終的には君と似たような道を歩むだろうけど、今のは違う。秘めたる悪意が解放されつつあるだけよ』
提督「…ふむ」
『ただ…いや、何でもない』
***
赤城「あら、戻りましたか」
鳳翔「はい」ガチャ
赤城「今夜はちょっと不完全燃焼でしたけど、これからですね」
鳳翔「…そうですね」
赤城「榛名さんも頑張ってましたし、負けられませんね!」フンス
鳳翔「…」
榛名『~♪』鼻歌
鳳翔『…榛名さん、そこまででいいでしょう』
榛名『~♪』ブチブチ
鳳翔『榛名さん!』グイ
榛名『~♪』クルッ
鳳翔『っ!?』ビク
赤城『鳳翔さーん、こっちは終わり…っ!?』
鳳翔『…榛名さん』
榛名『…はい?』
鳳翔『…状況終了です』
榛名『…あ、終わりですか。そうですか』
鳳翔『…あの、何をそこまでバラす必要が?』
榛名『…やりたい事が出来たので、それの為に準備をしていました』
鳳翔『やりたい事?』
榛名『はい』
鳳翔『死体を粉微塵になるまで痛め付ける事ですか?』
榛名『違います。それはあくまで準備でして…』
鳳翔『…やりたい事って、何ですか?』
榛名『…顔の無い小人をこうして壊したいんです』
鳳翔『え?何て?』
榛名『…帰りましょうか!』
赤城『お腹減った…』
鳳翔『…そうですね』
鳳翔(顔の無い小人…いったい誰の事?)
鳳翔(…それにしても、あの時のあの子の顔…返り血に染まってて、その上無表情だったから、あれこそ顔が無いように見えた…)
鳳翔(自分の事ではなさそうだし…何よりあの鼻歌を歌いながら無表情で死体を壊していたと思ったら…)
鳳翔(やはりあの子…私たちとは何かが違う。もっと禍々しい何かを感じる。バグとはあそこまで艦娘を狂わせるものなの…?)
提督「…」パチ
陽炎「魘されたわよ、司令」
提督「…そうか」ムクッ
陽炎「司令なら悪夢も喰らうと思ってたけど、やっぱりそこは人間なんだって安心したわ」
提督「…人間、か」
陽炎「…どんな夢?」
提督「…そうだな、俺が思い描いた夢がそのまま見えたってとこか」
陽炎「だからどんなの?」
提督「いずれ分かるさ」ヨイショ
陽炎「…」
提督「…さて、俺はしばらくここを空ける。各自いつも通り過ごせ」
陽炎「ちょ、いきなり」
提督「戻る時に連絡を入れる」スタスタ
陽炎「ま、待ってよ!聞きたい事が…って、もう居ない…」
***
陽炎「…というわけで、司令は不在」
那珂「お仕事は?」
陽炎「各自の判断」
青葉「…了解でーす」スタスタ
初雪「今日の依頼」バサッ
望月「潮の個別依頼」ペラ
潮「ありがとうございます…」
赤城「…戦闘無し」ズ-ン
鳳翔「私は得物の手入れをしますね」
榛名「…」
陽炎「ま、そういう訳だから。それと潮、五十鈴さん、榛名さん、暁…は寝てるか。ちょっと話があるから残ってって」
五十鈴「何よ」
陽炎「暁を起こしてくるから、その後にね」スタスタ
潮「何でしょうね」
榛名「…」
***
暁「…おはよ」ウトウト
陽炎「寝坊助なのは変わりないわね」
暁「…夢を見てた」
陽炎「夢?」
暁「見渡す限り火の海。その中に10数人の人影と、1体の悪魔…だったかな?」
陽炎「悪魔?」
暁「火で照らされた光から出来た影が、人じゃなかったから悪魔かなって」
陽炎「…」
暁「まるでそれが影の主の本当の姿かなって思えた。その人の本当の姿…裏の顔ってところ?」
陽炎「裏の、顔…」
五十鈴「やっと来たわね」
陽炎「うん。ほら、真面目な話するから」
暁「ん」
陽炎「それじゃ…あんたたち、司令の妖精が見えるって言ってたわよね?」
五十鈴「またそれ?」
暁「うん」
潮「はい」
榛名「…」
陽炎「榛名さんはまだ聞いてなかったから分からないけど、見えてる?」
榛名「…」
陽炎「…黙ってちゃ分からないんだけど」
五十鈴「この子も見えてるわよ」
陽炎「え」
五十鈴「私たちと視線が同じだったから。提督の妖精もめちゃくちゃ気にしてるっぽかったわ」
陽炎「…本当?」
榛名「…そうですが」
陽炎「…どんな姿してるの?普通の妖精と同じ?」
暁「赤い服装の女の子って感じ」
五十鈴「うそ、五十鈴は軍服っぽかったわ」
潮「…真っ黒で無機質な姿だった気がします」
陽炎「え、みんな違うの?」
榛名「…ふーん」
陽炎「榛名さんは?」
榛名「人形。もっと言うなら顔が無いです」
陽炎「…」
榛名「いきなりどうしたのですか?」
陽炎「司令についてる妖精が私たちのそれとは違うみたいだから、少し気になってね」
潮「…皆見えてる姿は違うんですね」
暁「不思議ね」
五十鈴「ちょっと不気味ね」
榛名「…」クルッ
陽炎「ちょ、どこ行くのよ」
榛名「榛名はやる事がありますので」スタスタ
陽炎「あっ…もう」
五十鈴「…榛名ってあんな感じの子だったっけ?」
潮「正直あまり話してないから分からないんですよね」
陽炎「…何か引っかかるわ」
***
榛名「…」ブツブツ
初雪「っ」ビク
榛名「…あら、初雪さん、こんにちは」
初雪「ど、ども」
榛名「…どうしました?」
初雪「い、いや、何か良いことでもあったのかなって」
榛名「?」
初雪「その、めちゃくちゃ笑顔だけど…」
榛名「…あら、そうでしたか。これは失礼しました」ムニムニ
初雪「…」
榛名「そういえば気になってたんですが、初雪さんは普段どんなお仕事を?」
初雪「え?それは…依頼の選別とか、ハッキング、クラッキングとか」
榛名「まあ!素晴らしいです!」
初雪「そ、そうかな」
榛名「私たちにお仕事を運んでくれてるのですね!」
初雪「うーん…そうと言えばそうかな…」
榛名「初雪さんは実戦はしないんですか?」
初雪「やれば出来るけど…あんまり向いてないかな」
榛名「なら、行きましょう!」
初雪「へ?」
榛名「身元不明の依頼、その依頼主を殺しに行きましょう!」
初雪「っ!」
榛名「望月さんや提督も気がかりなのでしょう?」
初雪(…これ知ってんの他に青葉さんと陽炎だけのはずなんだけど、漏れた?)
榛名「いえいえ、そんな事はありません。榛名には解るのです」
初雪「…」
榛名「鬱陶しい虫は殺すに限るでしょう?」
初雪「…陽炎と相談して」
榛名「はい」
陽炎「…それって、榛名さんからの依頼って事でいいの?」
榛名「はい」
陽炎「…金は?」
榛名「これまで稼いだ全てを」
陽炎「…雲を掴むような話よ。青葉さんでも分からなかったのに」
榛名「その雲が今も私たちに向けて依頼を送ってきてるんですよ。ウザったいじゃないですか」
陽炎「…」
榛名「覚悟を持たないクライアントなんて要りませんよ。それか、これは挑戦状なのかも知れません」
陽炎「…メンバーはどうするの」
榛名「榛名と青葉さん、初雪さん、望月さんでお願いしますね!」
陽炎「…ま、私はいいけど、行くならメンバーに話しておいてね」
榛名「了解です!」ニタァ
…何をそこまで拘るのだろう。得体の知れない者を相手にするのは避けてきたけど、榛名さんはむしろ逆を行ってる。
ちょうどいいし、ここいらで決着を付ければ多少スッキリするかな、とも思ってしまった。
…だが、何故か拭えない不安がある。まだ最初の頃、更に深い闇に踏み入るかのような、恐怖に近い感情が蘇ったかのようだった。
榛名「というわけで、ネズミ狩りしましょう」
望月「いやいや、探し当てられなかったじゃん」
榛名「履歴は残っているでしょう」
望月「榛名さんの言いたい事はわかるよ。追跡は勿論やったけど、必ずどこかで追いきれなくなるんだって」
榛名「…1番新しいのは?」
望月「ほぼ毎日来てるよ。今日だって来てたし」
榛名「いつ頃?」
望月「基本的に午前中」
榛名「なら、送られてきた直後から追跡すれば少なくとも尻尾は掴めるはずです」
望月「えぇ?」
榛名「途中で逃げられるのは当然据え置きの端末ではなく携帯端末から送っているからでしょう。でもその携帯でもダメなら、恐らく使い捨てでしょう」
望月「…飛ばし携帯ってやつ?」
榛名「それです」
望月「いやー、飛ばし携帯って闇金しか無いかなって思ってたから。それに毎日イタズラで送るにはレンタルでも金が掛かりすぎじゃないかなって」
榛名「…金なんて問題にならないのでしょう。そんなに会いたいなら会いに行きましょう」
望月「…提督はほっとけって言ってたし」
榛名「情報漏れに厳しい提督が泳がせるだけで済ませる事に何の疑問も持たなかったのですか?」
望月「うーん…」
榛名「今日はもう追えませんが明日から行けるでしょう。現場は青葉さんに向かわせます。望月さんと初雪さんは発信元を追跡、可視化してくれますか」
望月「無茶言うね…」
榛名「報酬は弾みますよ」ギョロ
望月「っ…ま、タダ働きじゃないならいいよ」
青葉「話は聞かせて貰いましたよ!」ヌッ
榛名「初めから出てくればよかったのに」
青葉「…ま、青葉も逃げられてショックでしたので、汚名返上したかったんですよ」
榛名「ありがとうございます」
青葉「それでは、望月さんと初雪さんの仕事ぶりに期待してます」スッ
望月「…初雪はこのこと知ってんの?」
榛名「はい」
望月「…なら話が早いや。一発で行けりゃいいね」ヨイショ
榛名「そうですね」スタスタ
望月(…何かすっごい人が変わったような感じだったな。瞳孔開きっぱなしだったし)
***
2週間後:欧州某所
提督「…」
『何年ぶり?』
提督「2年」
『あんまり変わってないね』
提督「隠れ家だしな」
『…さ、行こうか』
一見、どこにでもある古い外観の家屋。かつて俺が隠れ家として使わせてもらっていた場所だった。
戦場とは程遠いこの場所にて、俺は恩人と呼べる者に出会えた。俺が最も人間らしい時期を送っていた。
そして、俺が人間性を捨てるきっかけにもなった場所だった。
提督「…中も変わってないな」ギィィ
『そうかな』
提督「強いて言うなら、俺に銃口向けてる奴が居るぐらいか」
『どうする?』
提督「どうするもこうするも、これが奴らの出迎えだろ」ククク
『僕は忘れちゃった』
提督「熱烈な出迎え感謝する。だが無駄弾を出すのは殺し屋として恥だろ?」
『殺し屋に恥もクソもないと思うけどね』
提督「お前の位置は分かってる。今すぐ出てくるなら命は取らん」
「…生意気なガキが、よくものこのこと」ギシ
提督「お久しぶりです、お嬢」
「お前にお嬢と言われる筋合いは無い」
提督「では呼び名を変えましょう。『グラーフ・ツェッペリン』と」
グラーフ「…」
提督「あなたの組はまだこうしてコソコソ隠れてシノギを?」
グラーフ「ふん、やはり減らず口は治らんか、『トイフェル』」
提督「その呼び名も懐かしいですね。親父さんから貰った名前でしたか」
グラーフ「黙れ」スチャ
提督「…クク、そんなに憎いですか?」
グラーフ「今すぐその忌々しい顔を粉微塵にしたいぐらいだ」グググ
提督「引き金を引きたくて仕方ないですか、そうですか。どうぞお好きに」
グラーフ「…」
提督「俺はもういつ死んでも構わないし、『種』ももうばら蒔いてきましたから」
グラーフ「種…だと?」
提督「ええ。俺の夢ですよ」
グラーフ「夢は夢で終わらせるべきだ。貴様のような悪魔のは特にな!」ガチッ
提督「…どうしました?もしや、セーフティを外し忘れてます?」
グラーフ「なっ!」
提督「…やはり素人か」ヤレヤレ
グラーフ「黙れ!」ガシャン
提督「…艤装にもセーフティを掛けてたら流石に笑えませんよ?お嬢」
グラーフ「黙れ黙れ黙れ!」
提督「…空母の癖に室内で勝負しようとするなよ」ガシッ
グラーフ「んがっ!」ガシャ-ン
提督「ファミリーの後釜がこれではこの先が思いやられますねぇ」
グラーフ「んぐぐ…!」
提督「…さて、俺はあんたに挨拶しに来たんじゃない。親父さんだ」
グラーフ「お前が殺した癖に、何が挨拶だ!」ジタバタ
提督「…結果的にそうですけどね」
グラーフ「は、離せ!私は貴様の秘密を知ってるんだぞ!貴様の過去も、こうなった原因も!」ジタバタ
提督「…秘密、ですか?」
グラーフ「そ、そうだ!私を殺すのはお門違いだ!真の敵は別にいるんだぞ!」
提督「…はぁ、わかってませんねぇお嬢。そんな命乞いで俺が止まるとでも?」
グラーフ「っ!」ジタバタ
提督「…それと、何か勘違いしてらっしゃるようですね、お嬢」パッ
グラーフ「ゲホッゲホッ!」
提督「俺はね、秘密なんかどうでもいいんですよ」スタスタ
グラーフ「ゲホ…んぐっ…?」
提督「お嬢は死ぬのが皆より少し早かった。そうなるだけですよ」
グラーフ「…死ね!」ズドン!
提督「…全く、本当に度し難い愚か者だ。そうだろう?」
榛名「ええ、そうですね」
提督「…よくここまで来たな」
榛名「ネズミを追い続けた結果です」
提督「ふむ」
榛名「私の貯金が全て無くなりましたが、それでも大きな収穫ですよ」ポイ
ひしゃげた死体「」グチャ
榛名「…この艦娘?は誰なんですか」
提督「かつてここのマフィアだった者の娘さ」
榛名「…人が艦娘に?」
提督「そうだ。元は人の能力を劇的に向上させる為の研究があったらしいが、その産物が艦娘となったようだ。だからこの女の国は基本的に人が艦娘へと変わっている例が殆どだ」
榛名「そうでしたか」
提督「その情報を裏で聞き出した各国は自国でも真似た。日本もその一つだった」
榛名「…」
提督「…お前も、わかってるんだろ?」
榛名「…何の事ですか?」
提督「最早隠す必要もないだろ。お前も、元人間なんだろう?」
榛名「…」
提督「俺は大本営にちょくちょく艦娘を買う度に調べ物をしていたのさ。どうしても足りない部分はこのチビが補完してくれたがな」
榛名「…そう、随分と頑張ったのね、弟くん」
提督「…弟、だと?」
榛名「あら、私が元は何者なのかまでは調べなかったのね」
提督「…」
榛名「いいでしょう。それなら、私の知る全てを教えましょうか」
提督「…何?」
榛名「私は元はあなたの姉…3人の姉の1番下でした。あなたがやっと親を親と認識できるまでは、貧乏だけど幸せと言えた生活を送っていました」
榛名「しかし、全てが変わったのはあの日、私たち姉妹がある機関に招集の対象とされたのです。最初は両親共に猛反対しましたが、一人につき億を超える額をチラつかせ、更に耳打ちすると揺らぎ始めました」
榛名「私たち一人につきこの先掛かる費用、現状をひっくり返せる金額、そして機関が国ぐるみだったと知ると、両親は私たちを売りました」
榛名「売られた先には、私たちと同じぐらいの年齢の子や、既に成人している子もいました。まだ幼い私には何が始まるか分かりませんでした」
榛名「しばらくして、私たちは薬を投与され、監禁されました。一応食事は与えられましたけど、閉塞的な空間に長い間置かれると、頭がおかしくなりそうでした」
榛名「そして、再び全員が集合する時、初めて来た時よりかなり数が減ってました。ここに残った子は選ばれた子たち、そう言われました」
榛名「その時は私も本能的に察しましたね。他の子は耐えきれなかったんだと。その後の詳細を知ったのはもっと後でしたが」
榛名「また新たな薬を投与され、その数も増えていきました。また集められると数は減っていき、残り続けている子の生気も失われてあきました」
榛名「…長い時を経て、私を含めて片手で数える程しか残らなくなり、私たちは手術を受けることになりました。もう精神的に何をされても動じなくなってしまいました」
榛名「麻酔で昏睡し、全てが終わるのを待ち続けてました。もう苦しみたくない、このまま終わって欲しいと願いながら」
榛名「…目を覚まし、下腹部に大きな手術痕が出来ていました。なんでも、体内にこれから兵器となる為に必要な触媒を置いて、代わりに子宮を摘出したと言われました」
榛名「私は当時子宮が何なのかも知りませんでしたが、女として最も大事なものを奪われたような気がしました。人生を売られ、よく分からない実験に付き合わされ、最後はこれかと」
榛名「程なくして私は人1人入る装置に入れられ、また監禁されたと思いました。でも、そのすぐ後に激痛が走りました。手術痕から全身に掛けて、断末魔に近い叫びを上げざるを得ないぐらいの痛みが襲いました」
榛名「何度も意識を手放しかけたけど、そうならなかった。そうなってればどんなに楽だったか、どんなに幸せだったか。けど、現実は甘くなかったです」
榛名「…痛みが無くなり、装置から出されました。私の目線は以前より高くなってました。窶れた身体は豊満になって、手術痕も消えてました」
榛名「周りにいた人間は私に服を着させて、私を『戦艦榛名』と言いました。私は榛名として建造されてしまったんですよ」
提督「…」
榛名「だから、私は私であって私ではない。記憶だけが引き継がれたのです。私以外では成功例が無く、他は死んでたようですが」
榛名「だから、妖精もバグとは判断しなかったのでしょう。人から艦娘になっても、元の人格と記憶が優先される事をね」
榛名「性能のチェックも行われました。普通に建造された榛名との比較の際、榛名本人ともお話しました。まるで昔の私を見てるようで、猛烈な嫌悪感と虚無感を感じました」
榛名「…性能に至ってはあまり差異が無く、リスキーな人からの建造より自国のやり方の方が良いと判断されたようです」
提督「…成程」
榛名「その後は各鎮守府を転々としましたが、イメージと違う、態度が違う、好みの性格じゃないと長居する事はなかったです。その度に思いましたよ。私は望んでお前たちのお眼鏡に叶う者になったんじゃないと。何も知らずに生まれ落ちた艦娘が、どれだけ愚かな人間に従ってるのかと」
榛名「私は、海軍、世界、運命を呪いました。誰かこれを全て破壊してくれる人を探し求めて、私はずっと待ち続けてました」
榛名「そしてあの日、それをし得る人間を見つけたと思ったら…その子は私の弟だった。それも、私よりも歪んだ人生を送り、禍々しい狂気を感じさせていた。あの親はどこまでも愚かだった」
榛名「そしてあなたに着いているその小人…それが妖精では無い事もすぐに分かった。顔の無い人形のような姿だけど、時折悪魔のような姿に変わるそれが、とても気持ち悪く感じた」
榛名「あなたがこの先どのような未来を描いているかはまだよくわかってない。でもその悪魔に唆されてるなら、私はそれを殺すしかない。たとえ、それが私の望む未来と同じであっても」
提督「…だとさ、どうなんだお前」
『…やっぱり、僕の正体に気付いてたんだ』
榛名「当然」
悪魔『…君と同じ未来を願ってても、何故拒絶するの?』
榛名「それが実現したら、あなたは弟を殺すから」
悪魔『殺す?何を根拠に?』
榛名「お前は人の悪意に縋り付き食い物にする卑しい悪魔です。最早元通りとは行かなくても、私の弟だけは…」
悪魔『…勘違いも甚だしいね。私が彼を殺す?まさか、私はむしろ彼を生かしたい側だよ』
榛名「そんな嘘を…」
珍しくよく喋る妖精…いや、悪魔か。
明らかな敵意を向ける者に会えて、興奮しているのか、それとも…
悪魔『…少し話は変わるけど、君は悪魔を少し買い被り過ぎてないかな?』
榛名「買い被る…?」
悪魔『そもそも、我らが悪魔と呼ばれるほど悪い事をしたかい?私たちは人の潜在意識、欲望に寄り添い、願いを叶えるためにほんの少しだけ知恵を貸しただけさ』
悪魔『その結果、協力した者がどんな末路を迎えようと、それは本人の選択した未来。奴らは僕らのせいにしたけど、それで恐れたり蔑むのはお門違いさ』
悪魔『この子もそう。全方位角から向けられた悪意の中で生き残る術を教えただけ。後は彼の力のみで生きてきた。なのにせっかく生かした彼を殺す?意味がわからないね』
悪魔『どちらかと言うと、殺すのは神の方さ。神話とか聖書という作り話の中にもあるけど、私たちが人を殺した数なんてほんの僅かさ。対して神は数え切れないほど殺してる。ちょっと違うのは、我らは殺してないし、神はもっと殺してる』
榛名「…」
悪魔『証拠なんか全て人伝だから無いけど、僕らよりも神の方が悪魔らしいよ。彼を殺すのはきっと神の方だよ』
榛名「…だったら、あなたを殺すべきではないと?」
悪魔『まあ、そうなるね。別に殺しても構わないけど』
榛名「そうですか」ガシッ
悪魔『…ふむ、それでも尚俺を殺すと?』ググググ
榛名「ええ」ギチギチ
悪魔『くく、やはり君らは最も神に近い悪魔だ』グチャ
榛名「…本音を言うと、お前を見ると本能的に潰したくなっただけですよ」ニコ
悪魔『それが君の本当の顔か。可憐と狂気を上手く混ぜ合わせてるね』ブシュッ
榛名「早く無に還りなさい」グシャッ!
悪魔『く…ふふ…僕らは消えないよ…』
榛名「…」
悪魔『僕ら…私たち…俺らは…人の生み出した悪意の集合体…何度でも…あはは…』シュウウウウ
榛名「なーんだ、つまんないの」ボソッ
提督「…で、お前は何しに来たんだ。こんなとこまで」
榛名「え、言ったじゃないですか。ネズミの駆除ですよ」
提督「…」
榛名「姉なら弟の心配をするものですよ?」ニンマリ
提督「俺に姉は居ない」
榛名「釣れないですねぇ」
提督「…俺はもうやる事を済ませた。後は種を芽吹かせ、花を咲かせるだけだ」
榛名「…そういえば、貴方は何を企んで?」
提督「俺はな、今みてぇなごちゃごちゃした世界をすっきりさせたいんだよ」
榛名「?」
提督「世界は元より平和なんていうクソみてぇな二文字は無かった。その中で生まれた人間は世界の支配者と思い込んで自分らを中心としたルールを作った」
提督「力の及ばない者が知恵で勝利を勝ち取り続けると傲慢になるものさ。目に見えぬ力を受け継ぎ、名前だけで万人を従わせるような輩が大嫌いなんだよ」
提督「そういった下らんシステムを全部無しにする為には、自分の力で生きるしかないような世界にするしかない。元に戻すしかないのさ」
提督「俺が今まで貯めた金を使いたいと思ったのはそれだ。俺以外の連中は俺が混沌を望んでると思っているようだが、それは違うと思う」
提督「最早常識となったルールに疑うことも無くなった奴らがそう思うのさ。今までおんぶにだっこだった奴らがいきなり野に放たれ、足掻く様こそ人の本来の姿だと思うがね」
榛名「…そう簡単に行きますか?」
提督「行くんだよ。世界ってのは脆い。それでいて土台もガタガタだ。トランプで作ったピラミッドは外見こそ綺麗に纏まっちゃいるが、ちょっと力を加えると簡単に崩れる。あれこそ世界の姿だ」
提督「そしてそのちょっとした力も…俺の金で手に入った。力無き者と力ある者が平等となり、世界中は一時の争いに包まれる。銃声と悲鳴が子守唄となる時代が来るんだよ」
榛名「…」
提督「ここに来る前、世界を周り、軍事大国のシステム全てを俺に委ねさせた。流石に俺の貯金もすっからかんだったが、直ぐにまた金が入る」
提督「銃器と弾薬、そして治療の為の薬。需要と供給を俺の管理下に置く。新たな争いを起こさせ、世界はあるべき姿に移っていく。俺はそれを、見守るだけ」
榛名「…あるべき姿になった後は?」
提督「さぁな。誰にも探し当てられない場所で短い余生を過ごす」
榛名「…」
提督「Xデーは近いぞ」スタスタ
ーーー
老人『…おや、これはまた随分と恐ろしい獣が紛れ込んだな』
少年(提督)『…』
老人『素晴らしい。少年、私の所へ来なさい』
少年『…』
老人『安心しなさい。俺は丸腰だ』
少年『…』スッ
老人『少年、これまで多くの修羅場を潜り抜けて来ただろう?だが、これからはそれらに優位に立てるよう俺が教えこんであげよう』
少年『何?』
老人『これは正式な仕事だ。指定を破れば報酬は無しだ。理解したかね、少年』
少年『…』
老人『やってる事は自分と同じ、とでも言いたげだな。半分は正解かね』
少年『…?』
老人『取引とはお互い公正でなければならない。リスクに応じた対価を払わなければならない』
老人『その命と引替えに、この先多大な利益を得られる、窮地を免れる、自身の欲求を満たせる。一方のエゴの為に動くというのは抵抗があるかね?』
少年『…いや』
老人『そうだろう。君は常にエゴに振り回されてきた。今度は、君がそれらを司る側になるだけだ。結局は代理人だが、裏の世界で信頼を積むのは至難の業だ』
老人『君は今までの荒削りの技術をここで磨き上げ、一流となればいい。それからは、君自身の手で未来を作るのだ』
少年『…了解』
老人『…さて、仕事に携わるには何かと通名があった方がいいだろう。そうだな…トイフェル、とでも名付けておこうか』
老人『随分と人気じゃないか。顧客からの指名は君が殆どだ』
少年『買い被り過ぎじゃないかな』
老人『…その中に、君の古巣もいるようだが』
少年『それが?』
老人『俺んとこにいるってバレてるんだ。流石に国と喧嘩する力は無いぞ』
少年『なら、また俺が出ていけばいい』
老人『…少年、その前に、俺の依頼なんてどうだ?』
少年『?』
老人『報酬は悪名だが…裏の世界じゃ誰もが知るようになる。生憎、俺は金を持ち合わせてないんでな』
少年『…どういう事だ?』
老人『俺はもう長くねぇらしいからよ、ただ野垂れ死ぬなんて性に合わねぇ。これでも、若い頃はかなり名が知れてたもんでな』
老人『死神が死を恐れるなんて笑い話もいいとこだ。それなら、悪魔に殺されたって方がまだマシさ』
少年『…そうかい』
老人『…俺の最初の教え、覚えてるか?』
少年『…ええ』チャキ
老人『そう…それを、よく狙いを定めて…』
少年『…何か言い残すことは?』
老人『俺はよ、息子が欲しかった。今いるのは一人娘だけだからな』
少年『…親父、さよならだ』
老人『おお、中々いい響きだ…』
少年『じゃあな』バシュッ
ーーー
提督「親父、俺、やるよ」
榛名「…姉は否定するのに、父親とは誓えるのですね」
提督「俺にとっちゃ唯一の恩人だ。血が繋がってなくともな」
榛名「…そうですか」
提督「…ま、その一人娘をぶっ殺しちまった今はもう顔向け出来ねぇけどな」
榛名「…Xデー、どうなる事やら」
提督「俺の気分次第だ」
***
提督「…見てみろ、ガキだ」
榛名「そうですね」
提督『…少年』ツカツカ
少年『っ!』ビク
提督『こんな時間に一人か?どうしたんだ?』
少年『…パパとママに怒られた』
提督『そうか、可哀想に。どうして怒られた?』
少年『…』ブツブツ
榛名(…何を話してるのでしょうか)
提督『…そうかそうか、それは酷い。少年、君に落ち度はない。悪いのは君のパパとママさ』
少年『…』グスン
提督『…少年、君にいい物をあげよう』スッ
少年『?』
提督『これをパパとママのどちらかに向けて、ここのスイッチを押すんだ。きっとびっくりして喜ぶぞ』
少年『ほ、ほんと?』
提督『おっと、まだ押しちゃダメだぞ。パパとママのどちらかに向けてからだ。押したら…次はすぐ自分に向けて押すんだ』
少年『そ、そしたら、仲直りできる?』
提督『きっとできるさ!少年、君ならできる!』
少年『わ、わかった』
提督『さ、急いでお家に帰るんだぞ。怖い人たちが外に出始めるからね』
少年『あ、ありがとう、おじさん』
提督「…ククッ」
榛名「あの、何を?」
提督「あ?ぶたれたからプチ家出してただけだとよ」
バ-ンッ!
バ-ンッ!
提督「ククッ、クハハハ!」
榛名「…悪い子」
提督「理不尽な暴力を受けたからそっくりそのまま返させただけだ。これからやるのはこういう事だ」
榛名「…私たちは本当に見守るに徹するのですか?」
提督「どうかな。俺は仕事が増えると思うぜ。フフ…」
榛名(…本当に、後戻り出来ないぐらい育ったのね、この子)
提督「帰路がこれ程までに楽しみになるのはいつぶりだろうな…フハハハ!!!」
陽炎「…」ムクッ
陽炎「…夢、か」
また同じ夢を見た。暁が以前話してた夢だ。しかし日を追う事に鮮明になっていく。
…司令が出かけてもう一月。望月が追跡プログラムを作ってネズミを捕まえてから、榛名さんが消えて2週間程。司令とは会えたのかな。
それにしても凄い勢いだった。あんなにアクティブになる榛名さんは見てて驚かされた。正直、私に足りない部分を体現したかのような…
青葉「おはようございます」ヒョコ
陽炎「おはよう」
青葉「司令官戻ってきましたよ」
陽炎「…わかった。ありがと」
…さ、今回の顛末を詳しく話して貰おうかな。それとこの1ヶ月は少々忙しかったし、わがままでもしてやろう。
***
『姉弟!?』
提督「らしいぜ。本当かどうかは知らんがな」
青葉「本当なら感動の再会って奴ですかね?」
提督「いんや?これっぽっちも」
榛名「酷いです」
初雪「人を素体にした建造ってやってたんだね」
青葉「当時は日本も極秘裏に兵器開発に力を入れてたみたいですからね」
赤城「それより提督、戦闘は?」
鳳翔「退屈でしたよ?」
提督「あと少し経てば爆発的に増えるから待ってろ。そん時は立てなくなるまでこき使ってやる」
陽炎「…で?ただ旅行しに行った訳じゃないでしょ?」
提督「ああ。今までより刺激的な世界に変わるぜ。仕事も増えて金もたんまりさ」
陽炎「何をするつもり?」
提督「何って、バランスをちょいと崩すだけさ」
陽炎「…具体的には?」
提督「まず、望月と初雪に下準備を任せる」
初雪「え」
望月「?」
提督「これは各国の軍事システムにある抜け穴だ。こっからハッキングして攻撃命令を出すなりしてちょっかい掛けりゃいい」ペラ
初雪「…マジ?」
提督「やるのは恐らくこの1回だけで良いかもしれん。必要ならその都度やらせる」
望月「よくそんなの取ってきたね」
提督「余生を安全に遊んで暮らせる金を渡せば祖国の事なんぞどうでも良くなるもんだ」
陽炎「…その後は?」
提督「国同士がギスギスし始めるだろ?そしたら俺らがまたちょっかい出すわけさ。これを繰り返せば勝手に崩れていくぜ」
陽炎「ふーん…」
提督「互いが互いを疑い、恐れ、傷付け合う…だがそれは力が同等でなければ成り立たない。人、組織、国に至るまで、その格差を無くし、俺らが力を与える」
陽炎「…」
提督「でもな、いざそんな世界になって力を得て放り出されても何していいかわからねぇだろ?そん時はまた俺らが代理サービスすんのさ。俺らがやる事はあまり変わらん」
赤城「…戦争が増えるんですね!?」
鳳翔「待ち遠しいですね」
提督「引っ掻き回した後は銃弾と薬の供給を俺らが握り、管理する。そうなりゃ自作自演しても金が入る。世界が俺らの手のひらの上で踊るのさ。俺らが世界を裏で支配する、裏の顔になるのさ」
陽炎(裏の顔…)
五十鈴「面白そうな話ね」ガチャ
潮「裏の顔、ですか」スッ
提督「仕事帰りか、ご苦労」
暁「全く、艦娘で美人局なんて世も末ね」
提督「珍しいメンバーだな。陽炎、お前が指名したのか」
陽炎「…ま、そんなとこかな」
提督「金は」
五十鈴「ちゃんと確認したわ」
提督「よし。なら初雪、望月。早速やってみるか」
初雪「ほーい」トテトテ
望月「凄いことになってきたな~」トテトテ
提督「ああそれと、一時的だが情報を共有する相手だ。おい、もう来ていいぞ」
陽炎「誰よ」
駆逐棲姫『…』スッ
陽炎「どっから出てきてんのよ…って、敵じゃない」
提督「そうだ。深海棲艦も似たような目的だからな」
駆逐棲姫『…』チラ
提督「海は深海棲艦にくれてやる。だが俺らの標的には手を出すなよ」
駆逐棲姫『…』コク
陽炎「…本末転倒ね。艦娘が海を守らないって」
赤城「そういえばそうでしたね。今更ですけど」
鳳翔(海戦より白兵戦が楽しすぎるのが悪いんですよね)
…何だか、話が大きくなり過ぎて少々現実味が無かったけど、要はめちゃくちゃにしてやるってことね。これから仕事が増える、か…
…ふと、暁の見たという夢が脳裏をよぎる。もしかしたら、予知夢の類かもしれない、と思ってしまう。
人数はほぼ合ってるけど、悪魔のシルエットは…司令って事になるのかな?まあ人がそのまま悪魔みたいな風貌には…
初雪「…とりあえず、指示通りにはしたよ」ガチャ
提督「ご苦労。さぁて、どうなるかな」
『速報です!たった今米国の戦闘機がロシア領空内を侵入…』
提督「ワハハ、始まったぜ」
陽炎「…マジ?」
榛名(Xデー…まさか今から…)
『今度はロシア空軍の戦闘機が中国領空へ侵入し、都市を爆撃するという事態が…』
提督「おー命令に忠実だねぇ」
五十鈴「戦争?」
提督「少なくとも中露は避けられんだろな。そんで、このタイミングで…」
『速報です!英国が日本へ宣戦布告…』
陽炎「え」
提督「勿論嘘のデータなんだけどな。初雪、後は望月と共に自由にやれ」
初雪「ほーい」スタスタ
陽炎「…今のとこは本当に影響力の強い国ばかりね」
提督「何事も最初が肝心だ」
潮「アナウンサーげっそりしてますね」
提督「こんなん序の口だ」
***
提督M「…」
霞「…どうしたのよ」
提督M「あ、いや、なんでもないよ。というか霞、まだ完治してないんだから無理は…」ササッ
霞「バカ言わないで!歩くぐらい出来るわよ!」ポカポカ
提督M「痛た…高速修復材で身体も直せたらなぁ」
霞「そっちの方が痛くて死ぬかもね」
提督M(…よし、何とか隠し通せたけど…何か凄いことになってきてるみたいだが…)
提督M(深海棲艦かと思ったら英国が宣戦布告…?何のメリットがあってそんなことを…)
提督M(イタズラにしては度が過ぎてるし、深海棲艦の仕業と考えても、それならもっと早くやるだろうし、やはり誰か…まさか)
提督「…ん?電話だ」ガチャ
提督M『もしもし、僕だ。提督Mだ』
提督「…ご無沙汰してます。何か?」
提督M『な、何だか世界情勢が突然不安定になったからね。君なら何か見当が付いてるんじゃないかと思って』
提督「…」
提督M『…もし、もしかしたら、君の仕業なのかなって思ったり…』
提督「どうでしょうね」
提督M『…はは、そんなわけないか』
提督「ま、流れ弾には注意しましょう。それでは」ブツッ
陽炎「誰よ」
提督「提督Mだ」
暁「…」
提督「…カタギで正体知ってんのは奴だけだしな。怪しんで当然だろ」
陽炎「消す?」
提督「…今更小物に手を掛けたとこで何も変わらん。放っとけ」
暁「…」
提督「…さて、国同士の争いに乗じて裏の人間共が少し顔を出すはずだ。依頼を確認してきな」
赤城「了解です!」ドタドタ
鳳翔「了解」パタパタ
提督「全く、血の気の多い…ん、またか」ピピピピ
陽炎「誰よ」
提督「…了解」ピッ
その時の司令の顔は、今までにない程不吉な笑みを浮かべていた。榛名さんもそれに気付いてたのか、表情が一瞬強張っていた。
直感で理解した。司令はこの後、殺しを行う。後から他の皆も気付いて、緊張感が張り詰めた。
提督「…お前ら、今から出掛けるが、来たい奴は居るか?」
榛名「…へ?」
提督「『自由参加』だ。手ぶらでも構わねぇ」
陽炎「…行くわ」
五十鈴「どこ行くのよ」
提督「行くなら着いてこい。行かねぇなら言わん」
五十鈴「…あ、そういう事ね」
潮「私は待機してます」
暁「…また寝るわ」
榛名「…」
***
2日後…
提督「結局潮と暁以外は来たか」ククク
陽炎「青葉さんもよ」
提督「…あー、そうだっけ」
陽炎「…珍しいわね。あんたたち二人とも来るなんて」
初雪「…たまには現場に出ないとね」
望月「勘が鈍ってたら嫌だし」
陽炎(…あれ?二人とも現場経験してたっけ?)
提督「クク、なら今回は望月と初雪をメインにしようか」
赤城「え゙」
鳳翔「そんな…」
提督「とりあえず、入ろうか」
…着いた場所は、別の鎮守府だった。望月と初雪と私以外は得物を持ってきているけど、まさか…
提督「お邪魔しまーす」
少将D「…来たか」
陽炎(少将D…?何で?)
榛名(何者ですか)
陽炎(凄腕の指揮官よ。大将Aの同期だったの)
提督「…んで、何か用で?」
少将D「言われずとも分かっているんだろ。艦娘まで連れてきて、まるで遠足だな」
提督「私は自由参加と言っただけなんですけどね」ヘラヘラ
少将D「…早霜、そこの艦娘たちを別室に案内しろ」
早霜「了解。こちらへ」
陽炎(…司令)ボソッ
提督(わかってる。好きにしろ)ボソ
提督「さ、腹割って話しましょうや」
少将D「今の世界の混乱、お前の差し金だろう」
提督「ほほう、何を根拠に?」
少将D「知れた事。お前に依頼した後に調べただけだ」
提督「…ふむ」
少将D「反艦娘連合については良くやったと思うが、今回のイタズラは度が過ぎてる。貴様は何がしたいんだ」
提督「…ふふ、俺の事調べ上げてんなら、次に何を答えるかも、答えた後に何をするかも分かってるのでしょう?」
少将D「問いを返すな。訊いてるのは俺だ」
提督「…私はね、少将D。人の堕ちていく様が見たいんですよ」
少将D「何?」
提督「人はコミュニケーション能力に秀で、高い知性を得る事に成功しました。理性や自我を持つ生物として確立された人間が、ただの獣に成り下がる様はどんなエンターテインメントよりも楽しめるんですよ」
少将D「…」
提督「だがそうなるにはある程度そうならざるを得ない環境を作る必要があります。例えば…地位や名声、矜持をかなぐり捨てなければ生き残れない状況ですかね」
提督「人の道を外れまいとする者が極限状態下で『人』を取るか『獣』を取るか、同類となった者同士で下卑た争いを繰り広げ、醜く堕ち果てていく様こそ、私がどんな絶景よりも見たいし、見続けたい光景なんですよ」
提督「それが我々のみでなく、世界に散らばる人間たちに共通するなら、夢が広がりませんか?マスコミやファンなどといった自分を慕い、囃し立てる者たちに囲まれ、自分が特別と感じている者たちが、結局の所、最も無縁と思っていた次元に立っていたと理解した瞬間にこそ、楽しみを感じませんか?」
少将D(…何と邪悪な…!)ギリッ
提督「あ、今俺はそんな事ないって顔してますね。そうそう、それが楽しみの一つなんですよ」
少将D「っ…」
提督「わざわざ私を呼び出した、という事は始末する気でいたのでしょう?残念ですねぇ、反艦娘連合の依頼をした時のあなたは賢そうでしたけど、買い被ってしまいましたか」
少将D「…悪魔に助けを求めた俺が馬鹿だった。今すぐ死ね!」ズドン!
提督「…ふむ、ノータイムで撃ちましたか。手慣れた感じでしたが、何人か自分で手を下したようですね?」シュウウウ
少将D「んなっ!?」
提督「驚いてる暇などありませんよ?あなたは私に銃を向け、その上発砲なさった。つまり、私も反撃してもいい、という事で宜しいですよね?」ツカツカ
少将D「死ね!」ズドン
提督「バカだねぇ。頭なんか一番小さい的なんだからどこに向けてるかが分かりゃ避けるのは容易い」
少将D「クソっ…な!?」カチッ
提督「あらら、マガジンが空になってしまいましたか。常に空きを埋めておくことをお勧めしますよ」ツカツカ
少将D「く、クソッ!」ガチャン
提督「さて、アンタには2つの選択肢があります。どちらを選ぶかは自由です」スッ
提督「『今すぐ死ぬ』か、『苦しんで死ぬ』か、どちらがいい?」ギョロ
少将D「っ…」
提督「おっと、『お前が死ね』とかそういうのは要らないですよ。そもそも出来もしないのに」
少将D(…俺には分かる、こいつは本気で俺を殺すつもりだ。間もなく、俺の命は奪われる)
少将D(…それなら、俺とてこのまま終わる訳には行かない。せめて最低でもこいつに何かしらの被害を…)
提督「んー、答えないなら普通に殺るか」
少将D「…『お前も死ね』、だ!」ピン
提督(グレネードだと?)
少将D「喰らえ!」ポイ
提督「…最期まで抵抗する姿勢は良し。しかし策が安直。これでよく生き残れたもんですわ」キャッチ
少将D「は!?」
提督「道連れにしたかったんなら起爆ギリギリまで粘るんでしたね」リリ-ス
少将D「うぁぁぁ!!!」
ドンッ!
陽炎「…爆発?」
赤城「執務室の方からです!」ポタポタ
陽炎「まさか、司令!」
五十鈴「きっと大丈夫よ」
陽炎「とりあえず見に行くわ!」ダッ!
五十鈴「…鳳翔さん、那珂、そこら辺にしましょう」
鳳翔「…そうですね。もう動きませんし」フキフキ
那珂「悪く思わないでね。そっちから仕掛けてきたんだから」ペッ
早霜「…」ボロボロ
***
陽炎「司令!」ドタドタ
提督「何だ」ボロボロ
陽炎「ちょ、怪我して…っ!?」ビク
提督「思ってたより爆発力があったから防御が疎かになっちまった」
…室内を見る限り、かなりの威力があった事に疑いはない。それよりも、司令の顔が焼け焦げ、その下に新たな顔がある事に驚きを隠せなかった。
まさか、あれが素顔?いや、司令は何度も顔を変えてると言ったけど…マスク…?本当はどっちなんだろうか…
少将D「うぅ…」
提督「ほー、生きてるとは感心ですよ」
少将D「く、くそ…」
提督「…少将D、残念ですが興醒めでしたよ。俺はもう帰ります」
少将D「ころ…せ…」
提督「いやいや、殺しても何も面白くないじゃないっすか。さっきも言ったでしょ?俺は人が堕ちていく様が見たいんですよ」
少将D「な…」
提督「俺を快楽殺人者と勘違いしてませんか?一昔前ならそうだったかもしれないっすけど、今はただ殺すだけじゃ何の利益にもならないじゃん?普通に疲れるし」
少将D「たの…む…」ゲホ
提督「…それに、さっき選択肢も与えたろ?じゃあな。喧嘩を売る相手を間違えたな」スタスタ
陽炎「…帰るの?」
提督「ああ。お前ら、売られたら買え」
赤城「…はい」ウズウズ
少将D「ば…けもの…め…」グタッ
提督「…そうさ。俺もケモノさ。ただ…俺はケダモノかバケモノ。気付くのが遅かったな」
陽炎「…」
***
提督「…つまんな」ブツブツ
初雪「…これならゲームしてた方が良かった」
赤城「し、仕方ないじゃないですか。あっちが仕掛けてきたんですから」
那珂「殺意を隠すの上手かったね」
提督「多分少将Dも俺ほどじゃねぇが汚れ仕事を請け負ってたみたいだな。まあ、駆け引きは未熟だったが」
陽炎「…どうすんのよ。証拠を隠さず出てったら憲兵が来るわよ」
提督「問題無い。もうそれどころじゃ無くなるだろうし」
榛名「…」
提督「望月、初雪。次の仕事だ」
初雪「え」
望月「え」
提督「俺らのフェイクでパニクってるだろうけどよ、世間的にはクリスマスが近いだろ?子供たちにプレゼント渡さないとな」
初雪「…何すんの」
提督「おうおうそんなしかめっ面すんなよ。全国じゃなくてほんの一部でいいんだよ」
望月「どーせ爆弾でしょ?」
提督「それじゃあただのテロリストと同じじゃねぇか。俺の求める破壊はもっと人の本質によるものが望ましいわけよ」
初雪「あっふーん…」
提督「戻ったら青葉を呼べ。サンタクロースが玩具を配るってな」
陽炎「あんたがサンタクロース?随分と熱心ね」
提督「初雪と望月は『玩具』の調達。それが終わったらまた好きに世界をいじくり回せ。他は好きな依頼をやるか、それとも…」
鳳翔「それとも…?」ワクワク
赤城「それとも…?」ワクワク
提督「…お前ら二人を除いてフリーだ」
鳳翔・赤城『そんなぁ!』ガ-ン
提督「当たり前だ。お前らに喰い尽くされたら何もかも終わっちまうだろ」
榛名「…」
提督「…そんな睨むなよ。壊したくなるだろ」ギョロ
榛名「…」
陽炎「…」コソッ
提督「ま、お前はまだビジネスのメンバーだ。俺からは手を出さねぇが、今すぐ俺を止めるってんなら、相手になるぜ」
榛名「…」
陽炎(…ふう)スッ
***
望月「ほんとに玩具だよ?こんなんでいいの?」
提督「安物でいいんだよ。弾も本物は一発だけでいい」
望月「ふーん」
提督「どんなに安物だろうが何だろうが、一回でも人の命を左右出来る力を示せれば、後がハッタリだろうがずっと力に依存する。『人』の姿をした『獣』になるか否か、わかるだろ」
望月「…フツー使う?」
提督「使うさ。必ずと言っていい」
望月「うーん」
提督「お前の思ってることは分かる。現状に満たされた奴らはそんな馬鹿げた真似はしない。だがそうじゃない奴らはどうだ?自分が満たされていないと思っている奴らなら?」
望月「…」
提督「使い方によって出すメンバーはかなり偏るが…まあ潮がてんてこ舞いになるだろうな。尤も、あいつなら喜んで向かうだろうが」
望月「…そっか。それじゃあたしは戻るよ」
提督「ああ、好きにやれ。青葉、居るんだろ。行くぞ」
青葉「りょーかいです」
提督「さぁて、混沌をお届けしようか」
その頃、鎮守府では…
暁「…」
潮「暁さん、どうしたんですか」
暁「昔のことを思い出してたの」
潮「どんなこと?」
暁「…ここに来る前、私を助けてくれた艦娘がいて…まあ、色々と大切な事を教えて貰ったわ」
潮「ふーん…」
暁「あの頃に戻ろうとは微塵にも思わないけどね」
潮「それは同感ですねぇ。今の方が楽しいですから」
暁「そうね…」
『今は戦争中、確かに実力がある方が重宝されます。ですが、それに付け上がり、力に酔いしれるのは間違っています。正しき力の持ち手は、誇示するのではなく、制御する術を知る者です』
暁(…最近、神通さんのこの言葉が何度も頭の中をこだまする。これは何かの警告なのか、それとも…)
暁(司令官は、力無き者に力を与えて、秩序を壊そうとしてる。勿論、付け焼き刃に過信して暴徒と化す者が蔓延る)
暁(そういった害悪な存在は狩るに限るけど…何かが引っ掛かる)
『あなたがこの先どのように生きるかを指図しません。あなたの人生はあなたのものです。あなたの提督の方針について行っても、私は何の文句もありません』
『私は、あなたがこの先悔いのないように生きて欲しいです。やってる事がとても表に言えないような事でも、暁さんが納得できるのなら…』
『例え心を闇に染めてしまっても、自分を見失わず、立ち止まらずに進み続けてください。一度踏み出したからには、最後まで…』
暁(…暁は納得しきれていないのかな。本当に狩るべきは…司令官だったりするのかな…分からない。まだ…)
暁(…悔いの無い選択、暁の狩るべき『敵』は…)
潮「…考え事ですか?」
暁「…うん」
潮「…」ギョロ
暁「…?」
潮「ふふっ、これからの自分に迷ってる、と言ったところですか。指図め、間違ってると思うのは獲物か司令官か」
暁「…ん」
潮「参考までに。私は義理立てとか関係無く司令官側です。まあ司令官から狩るべき『敵』の指定というか、条件を言われた時に全面的に賛同しちゃったんですけどね」
暁「…ああ、あったわね」
潮「暁さんはターゲットが少し難しいですけど、私のは分かりやすいですから」
暁「そうね」
潮「司令官と陽炎さん、それと赤城さんたちは文字通り人殺しをしてるけど、私たちは害獣駆除でしょ?」
暁「…うん」
潮「やり方はちょっと手間が掛かってるけど、司令官は本当に駆除すべき獣を炙り出してるだけだと思ってる。暁ちゃんはそこら辺に違和感を感じてるんですよね?」
暁「…正直よくわからないけどね」
潮「私は、司令官が炙り出そうが出さなかろうが、なるべくしてなるものだと思ってます。正体を早く暴いただけと思ってます」
暁「…ん」
潮「ま、最後はご自身の判断に委ねるべきですね。その結果、皆に銃口を向けようとも誰も文句言いませんよ」ニコッ
暁「…そうならない事を願うしかないわね」
潮「そうですね。私も暁さんと戦いたくないですし」
陽炎「コラコラ、仲間同士の争いはご法度よ」
暁「そんなんじゃないわ」
潮「そうですよ。あくまで想像の範囲内ですから」
陽炎「うーん…」
潮「それに陽炎さん、少し勘違いしてませんか」
陽炎「何を」
潮「私たちと提督はビジネスパートナーですから、仲間なんて高尚なものじゃありませんよ。提督も言ってたじゃないですか」
陽炎「…」
潮「少し甘くなったのではありませんか?それか…」
暁「潮ちゃん」
潮「…うふふ、わかりました」
陽炎「…」
潮「…私は、初心を忘れていません。これまでも、これからも」
陽炎「…それは、いいことね」
潮「…そういえば、陽炎さんは提督に生きていて欲しいですか?死んで欲しいですか?」
陽炎「は?」
潮「別に死んで欲しいと思っていても何もしませんよ」
陽炎「それは…まあ、今更死んで欲しいなんて思わないわよ」
潮「…なら、アドバイスします」
陽炎「え」
***
暁「…潮ちゃん」
潮「ごめんなさい、つい私たちと違う境遇だと思ったら…」
暁「そうじゃなくて、あんな事教えて良かったの?」
潮「…陽炎さんが動かなかったら、誰かがやるしかないんですよ。提督が生きていて欲しいなら」
暁「…」
潮「まあ、もし順番があるなら、次は私ですかね」
そして、数日後…
提督「思ったよりも成果が上がらなかったな」
青葉「世界情勢を見て慎重になってる人が多いみたいですね」
提督「俺は潮とすれ違うぐらいだと踏んでいたが…依頼もないのか」
青葉「わかりませんよぉ?」
提督「何か時間を無駄にした気分だが、他の策を練るか。そういや初雪と望月はちゃんとやってんのか?」
青葉「んー、ニュース見る限りはちゃんとしてそうですけどね」
提督「まさかビビったか?」
青葉「どうでしょうね…あ、アジト見えてきましたよ」
提督「…何だあの煙は」
青葉「赤城さんたちの欲求不満ですかね?」ニシシ
提督「そうだったらペナルティだ」
***
提督「…おうおう、こりゃまた随分と荒れたじゃねぇかよ」
青葉「…本当に赤城さんたちが暴れたんですかね?」
提督「こりゃ明らかに戦闘をした跡だ」
青葉「まさか、勘付かれましたか?」
提督「…陽炎!どこにいる!」
暁「おかえりなさい、司令官」
提督「おう、何だこの有様は」
暁「…色々あったから、順を追って話すわ」
提督「良し、とりあえず中に戻るぞ」
青葉「…珍しいですね、暁ちゃんがお出迎えなんて」
暁「…陽炎さんなら、ドックにいるわ」
提督「ドックだと?」
暁「陽炎さんだけじゃない。殆どの子が今治療してる」
提督「…そうか」
青葉「…何と戦ったんですか」
暁「今から話すわ」
***
陽炎「…それ、本当なの?」
潮「女の勘程信頼に足るものはありませんよ」フフフ
陽炎「…いや、冗談抜きで」
潮「…私、自分で言うのはアレですけど、殺意にはかなり敏感な方だと思ってます」
陽炎「…それで?そいつが司令を?」
潮「初めから胡散臭かったんですよね」
陽炎「…そう、わかったわ」スタスタ
潮「…」
陽炎「…いるんでしょ、入るわよ」ガチャ
榛名「…」ギョロ
陽炎「…確認の必要も無いか」ボソッ
榛名「…アハハ、あのおチビちゃんに何を唆されたんですか?」
陽炎「あんたを、始末した方が良いってね」
榛名「…ふう、そうですか。始末ですか。そうですかそうですか」フラフラ
陽炎(…初めて見た時よりもヤバいわね)
榛名「…なら、榛名は榛名のために、全力で抵抗しますね♪」
陽炎「…否定しないんだ。司令に手を掛けようとするの」
榛名「…榛名、じゃないね。私はね、陽炎ちゃん。あの人と同じように世界がめちゃくちゃになって欲しかったのよ」
陽炎「…で?」
榛名「私は最高の同志と出会った。でも…でもね陽炎ちゃん。その人が…私に残された唯一の血縁…私の可愛い可愛い…弟だった…赤の他人なら全く構わなかったけど、弟なら話は別よ」
陽炎「…」
榛名「あんなに小さくて、可愛かった弟が、あんなにも歪んでしまった。それに、恐ろしいものまで付き纏わせていた。こんな悲劇があるなんて思いもしなかった」
榛名「本当にこの世の敵になるぐらいなら、せめて…せめて私の可愛い弟のまま、眠らせてあげたほうが…」
陽炎「…結局司令の夢を邪魔すんのね」
榛名「いいえ、それは違う。私はお姉ちゃんだから、あの子の考える事は手に取るように分かる。だから、私が引き継ぐよ。お姉ちゃんは家族思いだから」
陽炎「…は?」
榛名「ああ、理解しなくていいですよ。出来もしないと思いますけど」
陽炎「戯言は終わり?」
榛名「…邪魔する者は皆殺しにしてやる」ガシャン!
陽炎「ッ!やばっ!」
榛名「死ねぇ!小娘ぇ!」ズド-ン!
陽炎「ちょ、ここで艤装ぶっ放すなんて…!」
榛名「逃げんなぁ!ぶち殺す!」ドシドシ
陽炎「ヤバい、アジトが壊れる…!」
赤城「何事ですか!」スッ
鳳翔「榛名さんの部屋から…陽炎ちゃん!?」
陽炎「二人とも!逃げて!」
榛名『死ねぇ!』ズド-ン!
赤城「危なっ!」ヒュン
鳳翔「…成程、陽炎ちゃん」
陽炎「ちょ」
鳳翔「赤城さん、得物は」スチャ
赤城「常に携帯しています!」ガチャン
鳳翔「陽炎ちゃん、此度の交戦において、アジトの被害を最小限に抑える為、艤装を使用してはいけません。銃器の使用も極力控えましょう」
赤城「え゙」ガ-ン
陽炎「…死なないで」スタッ
鳳翔「愚問ですよ…さて、赤城さん。暗器の扱いはまだ忘れてませんよね?」
赤城「私は殺した人数しか忘れませんよ」
榛名「邪魔だぁ!」ブンッ
鳳翔「んぐっ!…皮肉ですね、退屈な日々を抜け出せると思ったら、まさかこんな事になるなんて!」ガシャ-ン!
赤城「艦娘を殺すのは久々なので加減出来ませんよ!」ダッ
陽炎「はぁ、はぁ、はぁ」ドタドタ
那珂「あ、陽炎ちゃん!何だか騒がしいけど」
陽炎「那珂さん!今この鎮守府にいる子は!?」
那珂「提督と同行した青葉さん以外みんな居るんじゃない?」
陽炎「榛名が反乱を起こしたの!私は皆に伝えてくるから、既に交戦中の鳳翔さんと赤城さんの援護して!」
那珂「…よくわかんないけど、殺っていいって事ね」
陽炎「止むを得なければね!」スタッ
那珂「りょうか~い」ユラユラ
***
提督「…んで?逐次戦力投入してお前と初雪と望月以外は全員おねんねってか?笑えるぜ」
暁「陽炎を責めないで」
提督「…榛名はどこだ」
暁「地下よ。ドックには入れてないわ」
提督「そうか」スタスタ
暁「…」
青葉「司令官、苛立ってますね」
暁「…うん」
青葉「…少し、鳥肌が立っちゃいました」スッ
暁「…」
榛名「…」プラ-ン
提督「…ふん」
榛名「…あぁ、私の、可愛い可愛い…」
提督「死ね」スチャ
ズド-ン!
ドック内…
陽炎「うぅ…」シュウウウウ
提督「…無様だな。この有様はよ」
陽炎「あ、司令…」イタタ
提督「…随分暴れられたみたいだな。お陰で計画が遅れちまった」
陽炎「…ごめん」
提督「他の奴らから話は聞いた。榛名が俺を殺そうとしたんだってな」
陽炎「うん…榛名は?」
提督「殺した」フン
陽炎「…そう」
提督「お前も使い物にならなそうなら始末してた所だ」
陽炎「…ふふ、始末出来なくて残念ね」
提督「ああ全くだ。期待して損した」
陽炎「…榛名の死体は?」
提督「…奴を殺したらガキの姿になった。人から転生したってのは嘘じゃねぇだろうが、奴は姉でも何でもねぇ。所詮は戯言だ」
陽炎「…そ」
提督「さて、俺は仕事を続ける。他の爆睡してる馬鹿共も叩き起しとけよ」スタスタ
陽炎「ん…」
提督「…こりゃまた奇跡だな」
初雪「ん」
望月「PCは無傷だよ」
提督「クク、そうか。俺はてっきり仕事が遅れるかと思ってたぜ」
初雪「修繕はいいの?」
提督「要らん。元からボロいんだからよ」
初雪「…ま、いいよ」
提督「なら、仕事を続けろ」
望月「…あ、あのさ司令官」
提督「何だ」
望月「…いや、何でもない」
提督「…ふん」スタスタ
初雪「…すっごい顔してたね」
望月「殺されるかと思った」
提督「…」イライラ
提督(…何故苛立ってる?榛名の暴走であるのは確実だが、仕事に遅れが出ないって事が分かりゃ問題無い筈なんだ)
提督(だが問題は排除した。これからは俺の予想通りに事が動くんだ。だがこの苛立ちがどうしても拭えない。どうしても抑えられない)
提督(…この苛立ちは例え何をしても、どんなに満たされようとも収まることが無い。そのような気分がする。腹立たしい。腹立たしい)
提督(せっかく作り上げたのっぺらぼうが、怒りに歪むのは頂けない。苛つく。憤怒に委ねて事を動かすのは得策ではない事を知っている。苛つく。怒りとしてのエネルギー切れ、または無鉄砲になる立ち回りになるのは避けるべき…苛つく)
提督(苛つく、苛つく、苛つく、苛つく、苛つく、苛つく、苛つく、苛つく、苛つく、苛つく、苛つく、苛つく、苛つく、苛つく、苛つく)
提督「…死してなお付き纏うとは、つくづく邪魔て迷惑極まりない」カリッ
提督「そうまでして俺を否定するのか」ガリッ
提督「…クソッ」ガリッガリッ
***
陽炎「司令…」
赤城「んぅ…あれ」パチ
陽炎「あ、おはようございます」
赤城「ここは…ああ、ドックなんて久々過ぎてむしろ新鮮ですね。他の人たちは?」
陽炎「まだ目を覚ましてないです」
赤城「…私は、負けたんですか」
陽炎「流石に対人兵器と艦娘の艤装じゃ分が悪いですからね」
赤城「…榛名さんは」
陽炎「…司令が殺したみたいです」
赤城「…」
陽炎「何ですか?」
赤城「いえ、何か気掛かりでもあるような顔をしてるので」
陽炎「…怒ってたんですよ、司令」
赤城「それはそうでしょう」
陽炎「…今まで見たことないぐらい歪ませてたんですけど、何と言うか、その、それが…」
赤城「…見れなくて残念です」フゥ
陽炎「…」
***
提督「おい」ズルズル
駆逐棲姫「?」
提督「くれてやる」ポイ
駆逐棲姫「っ!?」ビク
提督「何ビビってんだよ。お前ら艦娘を依代にしてんだろ?」
駆逐棲姫「…」
提督「ガキの姿だが一応は艦娘だった奴だ。使えよ」
駆逐棲姫「…」スクッ
提督「用はそれだけだ」スタスタ
駆逐棲姫「…」
提督「…チッ」イライラ
暁「荒れてるのね」
提督「あ?」
暁「当ててみせようかしら」
提督「…いや、いい。自分で理解してんだよ。でもな、対処の仕方が分からねぇ」
暁「そんなの簡単よ。忘れればいいだけ」
提督「そりゃ名案だ。だがよ、何故かまとわりつくんだ。この苛立ちだけが」
暁「…呪いみたいな口ぶりだけど、結局は司令官の内面の脆さだと思うわ」
提督「…やはり、俺はガキのままなのか」
暁「悪いけどそう見えるわ。きっと陽炎にもそう見えたんじゃない?」
提督「…」
暁「計画、ちょっと遅らせてもいいんじゃない?今のままだと、嫌な予感がするわ」
提督「例えば?」
暁「司令官、失敗して最悪死ぬかもね」
提督「…ハッハッハ!おっかねぇ!」
暁「…」
提督「…確かに、ビッグイベントにこそ冷静さが要る。何より一人前のレディーのアドバイスは大事にしないとな」ククク
暁「…皮肉?」
提督「どっちだと思う?」
暁「…さっきよりマシな顔つきになったからどっちでもよくなったわ」
提督「…ふん」
暁「ねぇ司令官、一つ提案があるんだけど」
提督「なんだ」
暁「そろそろ、私たちをビジネスパートナーから『仲間』に上げない?」
提督「…は?」
暁「これからはもっと連携が必要になると思うわ。今回の件もある意味私たちの横の繋がりが希薄だったのも一つの原因でもあるし」
提督「…」
暁「今までよりもほんの少し近づくだけでもだいぶ変わると思うわ。リスクは抑えられるだけ抑えた方がいいでしょ?」
提督「…考えとこう」
暁「ありがと」
提督「…仲間、か」
暁「要は、もう少し頼ってもいいのよってとこね」
提督「…ふっ、れでぃーに戻ってんぞ」
暁「…今度は揶揄?」
提督「さて、どうだろうな」
暁「…今日は私に任せてよ。司令官も働き詰めだったじゃない」
提督「…好きにしな。だがやるなら金の確認は怠るなよ」
暁「了解」スタスタ
提督(…仲間、か)
***
赤城「…子供?」
陽炎「はい」
赤城「提督が?」
陽炎「容姿とか年齢じゃなくて、内面です」
赤城「…でも、子供が汚れ仕事とか平気でやろうとしますかね?」
陽炎「…子供って、悪意を悪意として認識出来ない時期でもあるんですよ。あと、司令はそれを教えてくれる大人に出会えてないから、ずっと子供のままなんじゃないかと」
赤城「うーん…よく分かりません」
陽炎「まあ子供時代は人格とか性格を作るには大事な時期でもありますから、人としてあるべき姿になりそこねたって言った方が良いでしょうか」
赤城「…」
陽炎「だから、榛名さんからいきなり実の姉とか、内面に過度な干渉をされて、やっと動き出したんじゃないでしょうか…あ」
赤城「?」
陽炎「…あぁ、そういう事だったんだ」ボソッ
赤城「…何一人で理解してるんですか!教えてくださいよー!」
榛名『人形。もっと言うなら顔が無いです』
そうか…あの時榛名さんが見ていたのは、妖精本人じゃなくて中身が投影された司令だったんだ…
幼少期から時が止まって、全てが歪に狂ったまま大きくなったから、自我と呼ぶに相応しいものが無かったって事だったのかな…
司令は、そもそも『顔』と呼べるものが無かったんだ。作ってなかったんだ。という事は、あの怒った顔は、生まれようとしてたんだ。
恐らく、司令が怒ってたのは榛名さんの妨害もあっただろうけど、初めて自分の中に我と呼べる何かが出来た…のだろう。多分。
…今まで通じてきた偽りの顔が中から否定されたような感じで、怒りをどこにぶつけたら良いか分からなかったのかな…?
赤城「…考え込まないでくださいよ」
陽炎「…もうすぐ私、修復が済みますので」
赤城「うぅ…まだ暫く掛かります」シュン
陽炎「…赤城さん、これからは少しずつ司令に歩み寄った方がいいかもしれないです」
赤城「へ?」
陽炎「…新たな司令が、生まれようとしてるかもしれませんから」
赤城「…?」
陽炎「…それでは」バシャッ
***
提督「…ダメだな、よく分からん」ブツブツ
陽炎「ただいま戻ったわ」
提督「…そうか」
陽炎「ねぇ司令。自分は見つかった?」
提督「は?」
陽炎「あら、違うの?てっきりそれで怒ってるのかと思ったわ」
提督「…どいつもこいつも、俺の事を理解してるような口ぶりしやがって」ククク
陽炎「…誰のこと?」
提督「暁だよ」
陽炎「…そういえばどこ?」
提督「知らん。俺の仕事取ってった」
陽炎「珍しい。こういう時に任せるなんて」
提督「ふふ、何故だろうな」
何か、感情が少し豊かになってる。昔みたいな張り付いた表情じゃなくて…
…これが、司令の本当の…?
陽炎「…ふふ」
提督「んあ?」
陽炎「何か、やっと司令の中身を見たような気がしてね」
提督「…俺には何もねぇよ」
陽炎「あるわ。ただ、まだ出来上がってないだけよ」
提督「…」
陽炎「子供の頃から止まってるだけ。喜怒哀楽の表し方が不器用なだけ。人の成長過程ではもう手遅れなのかもしれないけど、少しずつ『自分』を見せていけばいいわ」
提督「お前は一丁前に俺のカウンセラーになったつもりか?」
陽炎「そうね、それもいいかもね」
提督「は?」
陽炎「司令の夢が叶ったら、司令のカウンセラーになってもいいかもね」
提督「は??」
陽炎「世界めちゃくちゃにして、もっと仕事が増えて忙しくなって、何もかも火の海に沈めた後でも、私は司令に付き纏うってこと」
提督「…」
陽炎「うん、そうするわ!それが私の野望って事で。そうね…手始めに寝相から直そうかな」
提督「勘弁してくれ」
陽炎「嫌よ」
提督「…物好きなこった」
陽炎「仕事が無くなった後に暇すぎて死を選ぶなんて馬鹿な事させないようにする為よ。司令ならやりかねないでしょ」
提督「うるせぇよ」
陽炎「図星ね」
提督「…ふん」
陽炎「そんなの許さないわ。拾ってもらった身ではあるけど、私たちの未来を好き勝手に捻じ曲げてくれたんだから、寿命を全うするまで付き合いなさい」
提督「…あーあ、面倒なの拾っちまった」
陽炎「ふふん」
提督「…どうせ全部ぶっ壊すんだ。コソコソ隠す必要なんか無い」ベリベリ
陽炎「!」
提督「…ふう、地肌を晒すのは何年ぶりか」
陽炎「…それが」
提督「裏の顔…いや、これからはこいつが俺の顔だ」
陽炎「…嘘つき、怪我も整形もしてないじゃないの?」
提督「さて、どうかな」
陽炎「…おめでとう、と言うべきなのかな」
提督「さぁな。陽炎、他の寝坊助が起きるまで初雪と望月の手伝いをしろ」
陽炎「了解」スタスタ
提督「…ご苦労だったな、今までの俺」ボッ
マスク「」メラメラ
提督(…正直、本当の自分とか責任とかよく分からねぇ。でも、今の状態は昔とは違う清々しさを感じる)
提督(…不思議だな。心躍るとはこういうことか)
***
初雪「…はい、仕事」
陽炎「目が疲れるわ」
望月「つーかさ、司令官大丈夫なん?」
陽炎「大丈夫よ」
望月「それならいいんだけど…あのまんまだと怖いからさ」
初雪「流石初期艦」
陽炎「…そんな大層なもんじゃないわ」
初雪「…暁から終わったって連絡」ピピ
陽炎「そう」
初雪「…ちょっと待って、何があったん」
陽炎「?」
初雪「…わかった、とりあえず帰ってきて司令官に話そう」ピ
陽炎「どうしたの」
初雪「…やっちまった」
陽炎「何があったの」
初雪「帰る途中で男の集団に絡まれたから半殺しにしちゃったって」
陽炎(…暁の半殺しは文字通りだからちょっとまずい)
望月「ヤバくない?艦娘である事バレてない?」
初雪「分からない。説明聞くにしても司令官がいないと」
***
提督「…ふん、下手打ったな」
暁「ごめんなさい」
提督「…で?殺しもしなけりゃ放ったらかしてノコノコ帰ってきたんか」
暁「…」
陽炎「司令、そこまででいいでしょ」
提督「…はぁ、もう仕方ねぇ。予定を早める」
陽炎「え?」
提督「このアジトを捨てて次のアジトへ向かう。深海棲艦が占領してる島だから近寄りも出来ねぇ」
陽炎「…バレない?」
提督「人類の敵の縄張りのど真ん中だ。バレても誰も攻めて来やしねぇ」
陽炎「…」
提督「まあ問題と言ったらまだ引越し準備が出来てねぇ事だ」
陽炎「何だ、そのぐらい…」
提督「カタギに手を出したのが艦娘ってバレてんだ。警察が来ると思ってんのか?」
陽炎「っ…」
提督「そういう事だ。準備を進めろ」
暁「…了解」スタスタ
陽炎「…司令」
提督「何だよ。別にケジメ付けろなんて言ってねぇだろ」
陽炎「分かってて言ってるんでしょ。まだ何かしら罰を課した方がマシだって」
提督「さぁな」
陽炎「さぁなって…」
提督「人間より艦娘の方が荷物運びが捗るだろ。お前も行け」
陽炎「司令は?」
提督「俺は俺のすべき事をするまでだ」
陽炎「…わかったわよ」スタスタ
提督「…早くて明日か」
暁「…ごめんなさい、殺しとくんだった」
陽炎「…言っちゃ悪いけど、暁らしくないミスね」
暁「…多分、多分ね、ちょっと舞い上がってたんだと思う。司令官が任せてくれたって事実にね」
陽炎「…」
暁「初心に還らなきゃね」
陽炎「…司令はやるべき事をやるって言ってたから」
暁「…わかった」
***
翌日…
憲兵「失礼する」ガチャ
提督「ん?お前…」
憲兵「久しぶりだな。戦艦榛名の取引以来だが…まあそんな事はいい。今日はビジネスじゃないんでな」
提督「知ってる」
憲兵「先日、一般市民が艦娘に暴行を加えられたと通報があった。幸い被害者は全員生きてるが、艦娘の特徴を照らし合わせた所、駆逐艦暁である事がわかった」
提督「おう」
憲兵「他の鎮守府にいる艦娘は全員潔白が証明されてな、後はここだけなんだよ。それで、どうなんだ?」
提督「本人に聞け。俺は用があるんでな」
憲兵「…察しのいいお前なら分かってるだろ。こっからだと見えないが他にも来てるんだよ。今すぐガキを引き渡せばそれで終わりなんだ。な?だからとっとと終わらせよう。また暁が来たらタダで手配してやる」
提督「…悪いな、割に合わねぇ」
憲兵「…」
提督「仮に今俺んとこにいる暁を処分して、また新しい暁を迎え入れても、一から教えるコストが高すぎるんだよ。技術的にも、精神的にもな」
憲兵「…?」
提督「後、一つ訂正がある。アイツはガキじゃねぇんだ。一人前の『レディー』って奴だ。なぁ?」
暁「光栄だわ」銃構え
憲兵「っ!」
提督「そういう訳だ。アンタは俺んとこに艦娘を斡旋してくれた…そうだな、影の立役者だった。こんな形で残念だが…」
憲兵「…ちっ、こんな事なら有給にしとくんだったな。今日はカミさんの誕生日だってのに」
暁「…せめて痛みのないようにするわ」
憲兵「…確かに、こりゃレディーだな。失礼しました」
暁「さよなら」ズドォン!
憲兵隊長「聞こえたな?突撃するぞ!」
憲兵隊『応!』
提督「他の連中は」
暁「準備出来てる」
提督「良し。各自目的地まで出発。俺は後で合流する」
暁「…憲兵以外にも見えたけど」
提督「知るか。どうぜ皆殺しだ」
暁「…わかった。またね」トテトテ
提督「…」
憲兵隊長「手を上げろ!抵抗するな!」ドアバ-ン!
提督「はーい」
憲兵隊長「おい、手錠」
憲兵「はい…いっ!?」スパッ
憲兵隊長「どうした!」
憲兵「痛てぇ…!」ポタポタ
憲兵隊長「お前、何を!」
提督「何も?」ニヤニヤ
憲兵隊長(手袋越しでも切られてる…カミソリなのか?)
提督「どうしました?」
憲兵隊長「くっ…!もういい!こいつはどうせ軍法会議で処刑が確定している!ここで殺して構わん!」スチャ
憲兵隊『!』銃構え
提督「…久しぶりだなぁ、この感覚」
憲兵隊長「撃てぇ!」
提督(全方位から殺意が殺到する感覚…)ニヤ
駆逐棲姫『排除』ズド-ン!
憲兵隊長「おわっ!?」
提督「ご苦労」
駆逐棲姫『…』
憲兵隊長「し、深海棲艦!?貴様!」
駆逐棲姫『…どうする』
提督「今の一撃でこの部屋の人間はほぼ始末出来た。後がどのぐらいいるか知らんが、そろそろ行くか」
駆逐棲姫『…了解』
憲兵隊長「公務執行妨害の次はスパイ容疑か!もう遅いぞ!増援!」ピピ-ッ!
提督「俺の罪状そんだけ?」
駆逐棲姫『…先に待ってる』ズズズ
提督「そういう訳だから、俺は出かけるぜ」
憲兵隊長「逃げるな!」
提督「んー?」
憲兵隊長「貴様…これほどまでに人を殺しておいて、何の償いもせず逃げ回るのか!」
提督「…人間様が偉そうに説教垂れてんじゃねぇよ、俺にとっちゃ殺しなんざ飯食うのと同じだわ」
憲兵隊長「…まだ余罪がありそうだな!」
提督「てめぇらが学校でおままごとしてる間も、女連れ込んでハメてる間も、遊び呆けて酒に浸ってる間も、俺は命のやり取りを続けてきたんだぜ?温室育ちが一端に俺に口出すんじゃねぇよ」
憲兵隊長「んな…?」
提督「俺を止めたきゃ同じ地獄に足突っ込んで潜ってきな。そして生きているという感覚を快感として覚えな。人間様よ」ククク
憲兵隊長「…」
提督「…ん?どうした?俺を逮捕するんじゃないのか?それとも…ビビって小便漏れそうか?トイレなら廊下出て突き当たりだぜ」
憲兵隊長「っ!」ダッ
提督「…ま、死んで出直してきな、坊や」サクッ
憲兵隊長「かひゅ…」ブシャァァァァ
憲兵「応援です…た、隊長!」
提督「バイバーイ」ヒラヒラ
憲兵「ま、待て!」
憲兵「窓から落ちて…隊長!?」
憲兵「ひでぇ…首が切り落とされて…ん?」ピッピッピッ
憲兵「何の音だ?」
憲兵「…!こ、これは爆…」
提督「…わはは、置き土産だ」ボォン…
駆逐棲姫『…』
提督「そんじゃ、タクシーよろしく。初乗りいくら?」
駆逐棲姫『…?』
提督「…俺を裏切ろうとは考えねぇ事だな。深海棲艦でも俺は殺せるぜ」キラッ
駆逐棲姫『っ…』
提督「まあ、これからも宜しく頼むぜ」ククク
駆逐棲姫『…』
***
数日後、深海棲艦の占拠地
陽炎「…全員いる?」
暁「いるよ」
陽炎「…赤城さんと鳳翔さんは?」
暁「鍛錬中。二度と不覚取らないようにって」
陽炎「…那珂さんは?」
暁「鍛錬中。ここのとこずっと精神統一してるよ」
陽炎「そう…ならいいわ」
暁「司令官が心配?」
陽炎「…まあ、万が一があるからね」
暁「…そういえば、やっと回線が通ったわ。仕事は何時でも再開できるよ」
陽炎「…ご苦労さま」
暁「…悪いことは言わないから、少しは休んだら?」
陽炎「後でね」
暁「…了解」スタスタ
陽炎「…」
…あれから、直ぐに来ると思っていた。でもまだ司令は島に来ない。
また寄り道しているのか、それとも敵に追われながらなのか、それ以外か…見当もつかない。ただ、司令らしからぬ事態だと思うだけだった。
こうして、毎日この島に辿り着いた時の方角にある浜で待ってるけど、そろそろ飽きてきたのかもしれない。
きっと、こんなとこ見られたらバカにされるんだろうな。それすらも少しばかり望んでたり…
提督「おい、何サボってんだ」ゲシ
陽炎「っ…!」グラッ
提督「鈍ってんな。他の連中もそうだが仕事やってねぇとはどういう事だ。旅行に来たんじゃねぇんだぞ」
陽炎「…誰かさんが寄り道してるからかもね」
提督「それに関しちゃ連絡しなかった俺にも非があるが、俺はちゃんとやることはやった」フン
陽炎「…あーあ、心配して損した」
提督「心配?気持ち悪いなお前」
陽炎「まあ無理もないかぁ!司令とて一応『人間』だからね!」
提督「っ…言うじゃねぇか」
陽炎「…」
提督「面白ぇ、生意気な口利けなくなるぐらいこき使ってやるからな」
陽炎「…はいはい、よろしくね、司令」
数年後…
元帥「…なぁ、君」
憲兵「はい」
元帥「君は、私に価値があると思うかね?」
憲兵「?」
元帥「私はね、このご時世になってまで元帥という地位を残す必要は無いと思うのだよ。違うかね?」
憲兵「…私には答え兼ねます」
元帥「別にどう答えても何もせんよ。老人の戯言に付き合ってるつもりで答えたまえ」
憲兵「…どんな時であろうとも、組織にはトップが必要だと思います」
元帥「…そうか」ヤレヤレ
憲兵「お疲れな様でしたら、艦娘に事務を代わってもらった方が宜しいかと」
元帥「…それは冗談かね?」
憲兵「如何に艦娘の社会的地位が下げられても、現時点では最善かと。戦術的にも、兵器としても」
元帥「…はぁ、それなら今日待機所にいる艦娘を誰か」
憲兵「御意」スタスタ
元帥(…もう、深海棲艦との戦争どころじゃない。儂らは何故か人同士でも戦争をしている。お陰で世界はもうボロボロだ)
元帥(それに加えて、艦娘が艦娘を襲うなどという事態も少なくない。同士討ちしてる暇があるなら、敵を倒せばいいものを…)
憲兵「閣下、今日もダメなようです」
元帥「…そうか」
憲兵「やはり汚染源が不明なままです。連れていこうとした瞬間に自害してしまいます」
元帥「…本当に、待機所に送られてくる間に外部から干渉はされてないのだな?」
憲兵「逐一報告が来ますが一切そのような事は」
元帥「…よく分からん。どうせ書類書いたところで何処も彼処もボロボロだ」ガタン
憲兵「閣下」
元帥「案ずるな。少し横になるだけだ」ゴロン
憲兵「…」
憲兵(海軍最高位である元帥が、ソファーで横になるという、尋常ではない事態が発生している。無理もない、今の壊滅状態では…)
憲兵(…深海棲艦との戦争中に突如勃発した世界大戦。艦娘も参加している、最早血で血を洗う凄惨さだ)
憲兵(その上、建造被りした艦娘は待機所に着いた途端いきなり精神崩壊し、無理にでも連れ出すと自害して果ててしまう。今際の際に放つ言葉は全て『裏の顔』)
憲兵(その言葉は、戦争勃発時に暗躍したとされる謎の組織の名前だと言われていた。しかし、証拠となる画像、文献は信用に足る程では無く、デマが多くを占めていた)
憲兵(中には火の海を背に悪魔のような姿をしていたり、凍りつくような笑顔でピースをする画像など、一昔前に流行った合成画像みたいなものが出回ったが、結局誰も正体を明かす事が出来ず、都市伝説的な存在とされていた)
憲兵(…こうしている間にも、そいつらが世界を壊す手伝いをしているらしい。また、組織内には艦娘がいるとか、もうここまで来たら何を言ってもそうなってしまう)
憲兵(元帥でなくとも、こんな情勢なら誰でも寝込みたくなる。それでも、組織はトップが居ないことには成り立たない。最終的に誰かさんが責任を取り、自分が安心する為に)
『ニュースをお伝え…本日、日本軍は…』ザザザ
憲兵「テレビも電波が悪いし、そもそも機能もしてないようなもんだし…」チラ
『…ククク』
憲兵「!?」
『…世界中に生き残ってる人間諸君。御機嫌よう』
憲兵「なっ!?」
『テレビをお楽しみ中失礼。直ぐに元に戻すから、ちゃんと聞いてくれよな』
憲兵「電波がジャックされてる…!?」
『ほんの数年前から、世界中で戦争が起きたよな。深海なんたらとかいう化け物放ったらかすぐらい、人間同士で争ってるよな』
『俺はその様子を全部見させて貰ったよ。最高だよお前ら。やっぱ生態系の頂点とか言ってるけど、俺ら人間は畜生と然して変わらねぇ。むしろそれよりも醜い』
『でもよ、中途半端に賢くなったお陰でオモチャとしちゃかなり上等だ。国が滅亡してもしぶとく生き残るし、何ならもっかい国を作るだろうよ』
『その度に俺はお前たちの前に現れ、お前たちの作ったもんを全部ぶっ壊して、ゲラゲラ笑ってやるよ』
憲兵「何だと…」
『…と言っても、もう戦争も飽きたろ?だから今日でおしまい。明日から爆弾の雨も深海棲艦も何も無い日が来るぜ。良かったな』
『そんで復興して、平和ボケし始めたらまた遊んでやるから、せいぜいその日まで頑張って直してくれよな。まあ直してる間も俺はちょっとちょっかい出すだろうけど』
『そういう訳だから、ご清聴ありがとうございました。裏の顔より』ブツン
憲兵「裏の…顔…」
元帥「…んん、何だ。テレビか」
憲兵(…閣下がうたた寝していて助かったが、これはそのまま話す訳にはいかないな…)
***
提督「…ふむ、緊張するもんだ」
初雪(どこが…?)
提督「それにしても、いつの間にか俺らの組織は『裏の顔』なんて呼ばれてたんだ?」
初雪「SNSとか掲示板」
提督「…もうちっとこう、無いのか」
陽炎「司令、伝達終わったわ」
提督「ご苦労」
陽炎「さっきの電波ジャックで、かなり混乱してるみたいね」
初雪「SNSなんか持ち切りだよ」
提督「このまま続けたら誰も居なくなりそうだったからな。インターバルは大事だ」
陽炎「…そ」
提督「暇な時は深海棲艦と遊んでやれ。殺すなよ?」
陽炎「私は大丈夫よ」
提督「…俺はこれからのプランを練る」
陽炎「それなら、みんなも呼んでくるわ」
提督「あ?」
陽炎「私たち、『組織』で『裏の顔』、でしょ?」
提督「…あーはいはい、好きにしろ」
陽炎「了解」スタスタ
誰も近寄る事の出来ない、深海棲艦に占拠された島の一つ。そこに潜むは、深海棲艦よりも邪悪で危険な存在。
ある人は大国お抱えの大犯罪組織、ある人は深海棲艦の手先、またある人は大規模なゲリラ組織と話をしているが、その実態はたった11人の小さな集団であった。
誰にも正体を知られず、しかし人の心に永久に恐怖を焼き付かせたその組織の名は『裏の顔』と呼ばれ、その先数十年に渡り世界を何度も崩壊へと導く世界最悪の組織と語り継がれることとなった。
おわり
工事完了です…
ここまで読んでくださったホモの兄ちゃん並びにノンケ兄貴の皆様に、深く感謝申し上げます。
完走した感想ですが…書いてて途中から雲行きが怪しくなってました。やはり忙しい時期に書き始めるとクオリティが下がって酷い出来になってしまいましたね。我ながら力不足を感じるSSとなってしまい、大変申し訳ございません。
それでもお気に入り、評価、応援をして下さった兄貴たちには頭が上がりません。モチベの維持にも繋がり、大変嬉しかったです。
私事ですが、社会人になり更新に掛かる時間が初期よりかなり増えてしまい、楽しみにしてる兄貴たちにはご不便をお掛けしますが、一度物語を始めたら最後まで走りきる所存ですので、これからも宜しくお願いします。
また、現在更新しているSSの方も、よろしければお付き合い下さい。それでは、改めてお礼申し上げます。
新作待ってました❗️
やったぜ。
やっと読めた。陽炎型1番艦陽炎が主役かな?
なんだこの提督!?たまげたなぁ…
(子供に人殺しをさせるのは)まずいですよ!
わぁいしんさくだー
やったぜ
また荒らしが出そうな内容ですなぁ。
私は『イキモンなんざどうせ全部シヌじゃん』を公言してたら何故かシニガミ呼ばわりされるようになりました。
ナンデだろうネ?(にっこり
連投になってしまう上に自分語りばっかで申し訳ナス!
私はこういうのとギャグ方面はもっと描いて欲しい派です。
シリアスは苦手。
1さん
お待たせナス!
2さん
やりました(加賀)
3さん
今回は陽炎が相棒ポジになります
4さん
今回の提督くんはかなりヤバめゾ
5さん
今回はストーリー上仕方ないね(レ)
6さん
お待たせナス!
7さん
殺ったぜ(キラー)
8、9さん
荒らし来てもパパパっと削除して終わり!
今回はゲスでシリアスだから申し訳ナス
なんというか...新人ル級(狂気)って感じの性格になってるなこの陽炎
日常の常識が通じない系ssイイゾーコレ
1時間ちょっと前で草。
ちゃんと睡眠とってほら
もう(ss)始まっちゃってる!
面白そうだから体に気を付けて毎分投稿して?(無茶ぶり)
艦娘も壊れちゃ〜う(今更感)
嫁艦出てほしいような、欲しくないような、
凄く悩んじゃうお話ゾ。(由良利根大和鈴谷白露黒潮提督並感)
今日も更新されてるぅー(感謝
11さん
ぶっ飛んだSSは定期的にやりたくなる衝動があるから、多少はね?
12さん
寝れない時に書いちまったゾ
13さん
ん、おかのした。
ありがとナス!
14さん
もう壊れてるゾ
15さん
それはフリかな?
今回出す予定の艦娘は建造やドロップでよく被るコモン艦娘がメインなのでレアや大型艦はかなり少なくなるかと思います。
16さん
ちまちま更新で申し訳ナス!
忙しいんでドカンと書けないのが辛いねんな…
これ本営にリョナ好きがいますね...あーサイコサイコ
高速修復材クッソ便利な代物になってるけど、遠征してる艦娘からしたら艦隊の為に集めた資材をただ慰安の為に浪費させられてる訳だし、それで同胞が傷つけられる訳だから、報われねぇよなぁ...
文字通りのクソ提督 の 群れ が現れた!どうする?コマンドの追加はコメ諸兄にお任せする。
↑▶汚物は消毒だヒャッハー
こういうドロドロしたの面白いからもっとやれ。
↑Gotuher(意味 地獄に落ちろ)のコマンドも増やしてー
鳳翔さんきたぁ!?やったぜ。
▶汚物だから消毒
▶地獄行き
▶拷問(『裏切り者に復讐を』的な)
18さん
今回のSSは救い所さんあんまり無いから、多少はね?
19、21、22さん
コメ欄が遊び場になっちゃう
20さん
ドロドロだし時には提督も悪側になるからカオスになるゾ
潮怖すぎぃ!!
過去が過去だけに仕方ないのかもしれないけどさ…
裏稼業だけに変なところでボロが出なけりゃいいけど…
お前のSSの更新待ってたんだよぉ!
なかなか面白くなってきましたねぇ。
別の意味での悪堕ちいいゾ~コレ。
自分かなり好きなジャンルっすw
続きがすげー気になります!
那珂ちゃんはあの猛犬と狂犬の白露型を従えてた四水戦の旗艦だから、(怖いのと獰猛なのは)多少はね?
潮は…救いが無いくらい闇な方が好きです。曙が来ても、殺しを躊躇う根は優しいぼのたんを「邪魔」と冷たく突き放す程の冷徹さを見せてくれるのを待ってます、信じてます♡
これからどんな艦娘が出てきて、どんな裏の顔を見せてくれるのか楽しみです。
またログインが外れててパスワードを探すのに苦労しました。
どうなってんだよ・・・(困惑
楽しみー
私は帰ってきたぁぁぁ!!
パスワード変えただけだけど。
24さん
ありがとナス!
闇は深くしないと(使命感)
25さん
疑う事を知らねぇってのは怖ぇなぁ(ヒゲクマ)
26さん
ありがとナス!
頑張るゾ~
27さん
生温い事は一切しないよう頑張るゾ
救いは無いね!
28さん
みんなドン引きするぐらいえげつなくしたいですねぇ
29、31さん
忘れないようにメモ取って
30さん
ありがとナス!
うちは牧場しないホワイト鎮守府だからヘーキヘーキ
うちは中破で逃げ帰るし、牧場もしてないし、遠征にしても出撃にしても演習以外はローテ組んでるからヘーキヘーキ
その話は止めてくれ。僕にはすごく効く(五十鈴牧場経験あり)
牧場終わったらパパパッと改修餌にするだけだからユルシテ...ユルシテ...
中破進軍はガンガンやるけど、帰投後迷わず(駆逐艦でも)バケツぶっかける鎮守府だからOKだと思いたい
暁ちゃんなにがあったんや...
まさか艦娘をターゲットにする娘が来るとは...
33さん
やりますねぇ!
34さん
すっげぇ白くなってる(待遇)ハッキリわかんだね
35さん
あくまでフィクションだから、多少はね?
36さん
暁の過去は次に補完するのでお待ちくださいオナシャス!
神通が武蔵その他大勢をたった1人で圧倒するのですね、分かります
神通か、武蔵どっちが勝つだろう?(ワクワク
油断すると過去編だけでどえらいボリュームになっちゃうよね
38さん
描写は無いですが相討ちにまで持っていきました。一騎当千すると悲劇にならないから、多少はね?
39さん
夜だからこその相討ちでした。昼じゃまともにやり合っても勝てないからね、しょうがないね
40さん
思ったより長くなってしまったゾ…読みが甘いですねこれは甘い…
よかった。霞ちゃんは死なずに済んだのねこの話は容赦なくいい人が死んでいくから安心した
霞ちゃん以外の皆も無事だといいな...
しっかし予想以上に暁ちゃんの過去は凄絶ものだったな...
これ神通の影がちらつくと制御出来なくなって危険なやつですね...基本的に通常の暁の性格してるのがまだ救いか。嬉々として殺しをしたがる艦娘も多い中まだましな性格よな。
...そういやここやべぇ奴らばっかじゃねえか(今更)
久々のかむレモ兄貴作のヘビー話嬉しいなぁ嬉しいなぁ
それと暁の虐殺シーンで思わず某暗殺(笑)ゲームを思い出したぞ
那珂ちゃん「お仕事(カチコミ)ですね!」
ん?あれ?男しか居ないのにお取り込み中??
42さん
霞の生死は迷いましたが、あまり大事にすると話が進まなそうだったので生かしておきました。
43さん
運悪く霞のトラウマ再発の仕草が見られてしまった故、という感じですので、他の子は大丈夫です。
44さん
オンオフがしっかりしてるだけましゾ。元からやべーってそれ一番言われてるから
45さん
このSS書き始めた頃の気分がかなりヘビーだったんです。その場の気分は大事だから、多少はね?
46さん
皆殺しゾ(無慈悲)
47さん
ほんへで真相が分かりますが、それまでだと盛りあっただけみたいだぁ(直喩)
撓垂れ(しなだれ)掛かる...実の両親が「キメたいんだよォ~...ヤクくれヨォ~」と力無く寄り添ってくる...と。...うん、ある意味絶望するよねこんなの。
ほォン・・・?(ワクワクキラキラ
その提督年表良いですね
うちでも使ってよかですか?
49さん
ただの毒親だと物足りないと思ってかなり踏み込んでみました
割と現実でも有り得そうなのがポイントだと思うゾ
50さん
期待の眼差しに添えるよう頑張りナス!
51さん
私は一向に構わんッッッ!(烈海王)
割とガバガバなので少しばかり修正を加えるかもしれません
艦娘達は妖精パワーとか基本遠距離主体で仲良い子達同士で化物と
定義された分かり易い悪者と戦うのが基本だから良い意味で
現実味無いけど人間同士の殺伐としたガチ争いは生々しくて怖過ぎィ!
すっげえ面白い
初コメ
提督Bの鎮守府はしょうがないね(諦め&無慈悲)
レモンさんの作品で好きなのは「正直すぎる」と「アプローチ」です
53さん
今回は人由来の悪意をメインとしてるからドロドロは逃れられない!(カルマ)
54さん
ありがとナス!
もう顔中涙まみれや
55さん
起こるべくして起こった悲劇だからね、仕方ないね(レ)
ほのぼのSS気に入って下さりありがとナス!
55です
気になったんですけど潮1ってどうなったんですか
鳳翔さんの「お話」ってなんだろう(すっとぼけ)
提督Mと霞は幸せになって欲しいですね
提督BとBの鎮守府の艦娘はあの世で歴代艦長に説教されいるのかな
57さん
潮1は死を懇願して陽炎によって命を絶ちました
鳳翔さんのお話はほんへを更新したので見てゾ
提督Mくんは提督くんに汚れ仕事を頼んだお陰で黒い過去を背負いましたが、まだ幸せな方かと思います
提督Bらが行き着く先は天獄でも地獄
↑天国でも地獄でもありません。
55&57です
戦艦 バグ・・ウ頭が
榛名が「バグ」持ちだと?
鼻歌が同じメロディー引っ掛るな
レモンさんその天獄にルーデル閣下仕様のスツーカーとフリッツⅩを送りたいんですけどいいですか
お久しぶりです
過去のトラウマに起因する異常行動をとる潮よりも、なんの背景も無いまま異常行動とったり殺人に一辺の罪悪感もない榛名のほうが数段ヤバいっすね...
とりあえずGrecaleかわいいよGrecale(掘りからの現実逃避)
あ''り''が''と''う''
60さん
榛名については本チャプターで正体が明かせればと思ってます。鼻歌の謎もそこでやろうかと思います。
61さん
生きとったんかワレェ!
正直ヤバさ加減はどっこいどっこいゾ。背景についてはこれから書いていく所存です。
62さん
ありがとナス!
更新遅くて申し訳ナス…
ブシュッ
で若干草生えた
提督の目指す世界って、要は北斗の拳やfalloutみたいな秩序もへったくれもない荒廃した世界ってことなんですかね?
提督が死んだらMGS4の如く全てが崩壊しそう
64さん
いいSE思い浮かばなかったゾ…
65さん
概ねそのような感じです。ジーンの演説が一番近いかもしれないです
戦争経済を裏から操るとか、どんどん 『らりるれろ』みたくなってますね...
赤城鳳翔はまあ喜ぶだろうけど、初雪望月辺りは軽い気持ちでやって後悔したりしそう。裏方の仕事は増えまくるから二人の仕事の比重は高まるだろうし
こいついつも良作書いてんな。
シリアスもラブコメも書けるなんてこれってぇ…勲章ですよぉ…?(ネットリボイス)
プレゼントって言うから『パン』や『カクテル』かと思ったけど、『おはじき』の方っすかね
拳銃弾でも、体の中に百合の花を咲かせる弾、チタンプレートをも貫く徹甲弾、ヘビ撃ち用のオートマチック向け散弾、ドリルの様な弾頭の推進力抜群の弾、焼夷弾なども実在するので、惨殺の手段には事欠かないでしょうね。現物があれば。
67、69さん
正直なところ、らりるれろみたいにずっと世界を掌握するというより、荒れ果てたらそのまま放置して高みの見物するような感じなのでもっとタチが悪いです。
プレゼント割愛は書いててあまり面白くなかったんで省きましてゆるちて!
68さん
ありがとナス!
同じテーマだけだと食傷気味になるし、多少はね?
...この闇、深い。
ボボボボ、ボボボボボボ。
かむ氏が更新する
↓
みんな喜ぶ
↓
また更新する
無限ループってこわくね
プレゼント省略は悲しいなぁ
見たーいー見たーいー凡人が抑圧から解放されて暴走するところ見たーいー(狂気)
證玲ョコ豌玲戟縺。繧医°縺」縺溘s縺?縺ュ縲√≧繧薙?√h縺九▲縺
縺倥c縺や?ヲ豁サ縺ョ縺?°
71さん
闇に飲まれましたね…
72さん
応援されると頑張れるからちょうだいちょうだいそういうのもっとちょうだい!(SGY)
73さん
ちょっと狂気で文字化けしてんよ~
やーい面白いぞー
提督の顔、整形ではなくまさかの特殊メイク。
75さん
ありがとナス!
76さん
提督くんは顔を変えたと言っただけで整形したとは言ってない…ゾ(あやふや)
そこら辺ちゃんと徹底し切れてませんでした申し訳ナス
正直置き土産ってどういうの作ってたんだろうとか気になっちゃう。まあ時限爆弾を体の中に埋め込んでたんだろうけど。
頭の中に安全ピン抜いたグレネード入れて、持ち上げたと同時に時限信管が作動するようなトラップも猟奇性があっていいと思います(屈託のない笑顔)
78≪
提督器用スギィ
工事完了おめでとうございます。
本作品も最後まで楽しめて面白かったです。
ありがとうございました。
投稿お疲れ様です。過去作もですがキツイSSなのに魅入ってしまう作品でした。素晴らしかったです!時期が時期なので体調に気をつけてください。
下手すればアウターヘヴンや愛国者達より害悪じゃないか… 潰さなきゃ…(ソリッド並感)
それはそうと完走お疲れ様ナリよ
慈悲無く最後まで悪一直線での完走お疲れ様でした。
どこかで艦娘達のボロが出るんじゃないかってハラハラさせて頂きました。
今後の作品も楽しみに待ってます。
お疲れ様です。
イカれた境遇から生まれる純度の高いどす黒い精神の持ち主と、元々先が保証されない境遇が故に拾われ、狂気に目覚める者、冷徹に徹する者などが織り成す世界そのものへの復讐劇、楽しませて頂きました。
完走お疲れ様です❗️
ぐぬぬしかしとうとう終わりが来てしまった…残念( ´△`)