2021-04-08 15:03:24 更新

概要




本編では語られることの無かった、裏の顔のメンバーの物語集




前書き




どうも皆様、かむかむレモンです。

初めての方は初めまして。そうでない方はいつも閲覧ありがとうございます。



今回は外伝ですので、『陽炎「裏の顔」』を見ていない方はまず本編から見ることをおすすめします。


ガバガバ時系列や設定がないよう心がけますが、もしあったら遠慮なく指摘下さい









青葉の物語









青葉「…んふふ、今日も今日とてスクープが舞い込んで来ますねぇ!」コソコソ


衣笠「まーた盗撮?」読書中


青葉「失礼なっ!青葉はジャーナリストとして活動してるだけですよ!」


衣笠「それ言って何度提督に怒られた?」


青葉「数えるのをやめて久しいです…」


衣笠「百歩譲って鎮守府内だけでそれやるならまだいいけどさ、外部でやったらさすがにやばいからね」ペラ


青葉「や、やりませんよぉ」


衣笠「提督宥めるのも大変なんだから」


青葉(これじゃどっちが姉かわかりませんね…)







提督C『くぉら青葉ぁ!空母から盗撮の嫌疑が掛けられてるから今すぐ執務室に出頭しろぉ!』






衣笠「…」


青葉「…行ってきまーす」


衣笠「もう私は助けないよ」







***








青葉(こっぴどく叱られました…しかしカメラとボイレコを手放そうにも身体が拒否しています)トボトボ


青葉(何か使命感に近いものを感じるのです…だから、まだこれらは捨てるべきじゃないような…ん?)






提督C「…」







青葉(…ん?何でしょうか、誰かとお話中のようですが)


青葉(…気になる)ソワソワ







提督C「…」コソコソ


怪しい男「…」ニヤッ







青葉(…青葉秘密道具、指向性マイクです!)サッ


青葉(さて、何を話しているのやら)







提督C『…で、例の件は』


怪しい男『まあ待てよ。買い手が沢山居るしサツの目もあるんだからよ』


提督『場所は確保してあると言ったはずだ』


怪しい男『ちょっとした手違いがあったんだよ。運搬役がパクられて』


提督『…なら、違約金を取りたい』


怪しい男『だからその為に今日は倍持ってきたじゃねぇか』


提督『…』


怪しい男『それでも不服ならボスにナシつけてくれや』







青葉(…何のことでしょうか。あまり良い話では無いように思えましたが)


青葉(…スクープ魂、燃えてきましたよ)







***







数日後、深夜







青葉(…あれから特に動きがありませんでした。司令官の部屋を漁ってみても何もありませんでしたし)


青葉(ただ、あの時の言葉は決して良いことでは無いはずです。司令官が何を企んでいるかを解き明かす、ただ青葉自身の正義感に則って動くのみです)


青葉(…あの時、誰と何を話していたのでしょうか。それだけが気がかり_ん?隠しカメラに誰かが…)チラ








提督『…』








青葉(あら、司令官ですね。こんな夜中にどこに行くつもりでしょうかね)コソッ








数十分後…







青葉(…暫く尾行しましたが、なんだか人気の無い所に来ちゃいましたね。周りに光が無くて少々不気味です)


提督「…」ギィィ


青葉(おや、あそこは使われてない空き家ですね)


提督「…」バタン


青葉(中に入っていきましたね。後方警戒しつつ指向性マイクの時間です)スチャ






『…話とは?』


『ええ、大規模な農場を用意したので苗の提供を頼みに来ました』


『どこだ』


『鎮守府の地下です』


『足が着くんじゃないかね』


『電力については夜間訓練や整備開発の為と言えば文句は言われません』


『…ふん、まあいい。おい』


『…ありがとうございます』


『売上が伸びたら増やしてやる』








青葉(…な、何と!これはもしや!)





「…ん?誰か居るのか?」ガサガサ



青葉(や、やば!撤退!)ガサッ



「誰だ!追え!」ズダダダダ



青葉(ひええ!撃ってきます!ヤバいやつですよぉ!)






***








青葉「…」ゲッソリ


衣笠「また寝不足?今日の秘書艦大丈夫なの?」


青葉「…きついです」


衣笠「真夜中なんかやってたみたいだけど、何してたの?」


青葉「…いつものやつですよぅ」


衣笠「呆れた」ヤレヤレ


青葉「とりあえず…行ってきまぁす」







青葉(…めちゃくちゃ顔合わせたくないです。正直夢であって欲しいです)


青葉(…でも、あんなの聞いたら疑わざるを得ないです。どう考えても大麻栽培の話じゃないですか。こんなの洒落になりませんよ)


青葉(これはとんでもないスキャンダルですよ。流石に流せる問題じゃありません。今すぐにでもこの情報を上層部に報告すべきなんですが…そうなると、ガッサや他の子たちはどうなるんだろう…今の生活は悪くないんですが、あんなの知ったらどうしてもしこりが残っちゃいますよ…)


青葉(…データは残してあるし、万が一のために複製もしてありますが…今の生活のままでいるか、犯罪を許さず突き出した方がいいのか…)









提督C「なーにウロウロしてんだコラ!遅刻だぞ!」


青葉「うひっ!?すす、すいません!」


提督C「ったく、お前のやるやつだ!」ドサッ


青葉「うへぇ、これじゃあ鎮守府内広報の編集時間が…」


提督C「まだそんなの作ってたのか…今日限りで終わりだよ!」


青葉「そんなぁ!」


提督C「仕事しろ!」







青葉(…やけに荒れてますね。やはりあの後お流れになったとか?)


提督C「終わったらそのまま待機しておけ」


青葉「えぇ?」


提督C「命令だ」







青葉(…ん?何だろう、急に心音が…)









そして…







青葉「あー終わったぁ」クタッ


提督C「…まあいいだろう。ご苦労」


青葉「今日はもうペン握りたくないですね」


提督C「ああ、もう握らなくていいぞ」


青葉「っ!」ゾクッ


提督C「コソコソ嗅ぎ回るネズミめ」スチャ


青葉「ちょ、何ですか!」


提督C「あぁ!?すっとぼけんな!大本営の犬がよ!」ズドン!


青葉「痛った…え!?」


提督C「さあ吐け!誰の差し金だ!」ズドン!


青葉「ちょ、危なっ!」


提督C「早く吐きやがれ!」


青葉「ちょ、何で青葉が…」


提督C「あ?そんなん決まってんだろうが。記者の真似事しつつ俺を探ってたんだろ?だから昨日俺を尾けたんだろ?」


青葉「んぅ…」


提督C「てめぇのお陰で俺のプロジェクトはお流れだ!ヤク売り捌いてこんなクソみてぇな仕事から抜け出そうと思ったのによぉ!」


青葉(や、やっぱり…と言うか、ただの銃弾じゃないですね…仮にも艦娘の身体を撃ち抜けるなんて)


提督C「今すぐ吐くかそのバカ頭に弾ぶち込まれるか、どっちだ!」


青葉「そ、その前に…その銃は…何ですか…」イタタ


提督C「あ?これはてめぇみてぇなバカな艦娘を殺す為に作られた提督専用の銃だ。先人たちが死ぬ思いで捕獲した深海棲艦から剥いだ素材だからな」


青葉(き、貴重なデータを護身用にするなんて…)


提督C「もし艦娘が反乱を起こした時のため用とか言われた時は馬鹿らしいと思ったが、こんな形で使うことになるとはな」


青葉(…艤装は、動く)


提督C「さあ、答えろ」グイ


青葉「…青葉は」


提督C「…」グググ


青葉「…知りません!」ピカッ!


提督C「ぐおっ!」


青葉「逃げなきゃ!」


提督C「た、探照灯か…クソっ!」フラフラ







青葉(痛…逃…どこに…誰…助け…)ハァハァ


青葉(痛った…深海棲艦製の銃弾なんて…聞いてないよ…撃ち抜かれた部位が想像以上に痛む…)ズキズキ


青葉(ほんとに…どこに行けば…あ、データが…まだ青葉の部屋に…このままだと全部…)


青葉(ガッサ…届けてくれるかな…)ピッ






衣笠『青葉!?』


青葉「あはは、ガッサ」


衣笠『何があったのよ!いきなり提督が押し掛けてきて青葉探してるっぽかったけど!?』


青葉「話すことが多すぎて今は無理だけど…ガッサ、青葉の机にあるメモリーを持ってきてくれませんか」


衣笠『…どこに行けばいいの』


青葉「詳しい場所は後で教えますから、今はメモリーを…」ピッ





青葉「ガッサ…持ってきて…くれそう…痛っ!」ズキン!


青葉(応急処置しないと…)







***







青葉「痛…」


衣笠「青葉!」


青葉「ガッサ…」


衣笠「ちょ、何その怪我!今すぐドック行かないと!」


青葉「も、もうあそこ戻れませんよ…それより、メモリーは?」


衣笠「あ、これよね」


青葉「ありがとうございますございます…」


衣笠「…何があったのよ」


青葉「聞いて驚かないで下さい…司令官は、なんと」






ズドン!








衣笠「え…」バタッ


青葉「ガッサ…?」


衣笠「」


青葉「そ、そんな、ガッサ、嘘…」






提督C「あーあ…お前のせいで他人が死んだぞ」ゼェゼェ


青葉「っ!?」


提督C「尾けて正解だった…クソが…てめぇも死ね!」ズドン


青葉「うわっ!」ヒュン


提督C「まだ動けんのか…!」ズドン


青葉「ガサ!」ダキッ


衣笠「」グラングラン


提督C「…逃げられた、か」カチカチ








青葉「ガサ…ガサ…いきなり寝るなんて酷いよ…」ゼェゼェ


衣笠「」ユサユサ


青葉「んん…また胸が大きくなったみたいですね、少し妬いちゃいますよ…」ポロポロ


衣笠「」


青葉「ガサぁ!起きてよぉ!」ボロボロ


青葉「こんな事って…青葉のせいなの…?」


青葉「…逃げなきゃ…どこか遠くに…あれ、ここどこ…痛っ」








「…ん?あなたは」


青葉「んひっ!すいませんすいません!見逃して下さい!」


「ちょ、落ち着きなさいよ。何もしないわよ」


青葉「へ…?」


「…ワケありみたいね。着いてきなさいな」


青葉「あ、あの、あなたは…」


「艦娘よ」


青葉「あ…」


「大丈夫よ。私もあなたと同じワケありだから」


青葉「…あの、お名前は」


「陽炎よ。あと、『それ』も持ってきなさいな」








***








青葉「…あの、ここ廃墟じゃないですか」


陽炎「嫌なら帰っていいわ」


青葉「うわー!泊まるには勿体ないぐらい美しいですね!」アセアセ


陽炎「司令!いる!?」


青葉「…」






提督「…何だそいつは」ゴトン


陽炎「死体背負って歩いてたから拾った」


提督「ったく…お前、名前は」


青葉「あ、青葉です…それと…」


提督「それの名前は聞く必要無い」


青葉「き…」


提督「さて青葉、脳天ぶち抜かれた死体をおんぶしてピクニックでもしてたのか。流石の俺もそんな狂ったマネはしないが」


青葉「…その、これは…」








青葉、説明中…








提督「…ふむ、ヤクの売人から逃げてきたってか」


青葉「…はい」


提督「そりゃ気の毒だったな」スタスタ


青葉「あ、あの…」


提督「何だ」


青葉「…何も、しないんですか?」


提督「何をするって?」


青葉「だ、だって!薬物ですよ!?仮にも司令官という立場にあるのに、反社会的な行為に…」


提督「そんなん知るかよ」


青葉「そ、そんな…」


提督「お前、身の上話聞けば助けてくれるとでも思ったのか?俺は甘ちゃんじゃねぇんだよ」


青葉「…」


提督「ボランティアなんて利益の出ない活動なんか真っ平御免だ。俺を動かしたいなら金を積め。ビジネスしか受けん」


青葉「…人でなし!」


提督「人でなし。その通りだが、何か問題でも?」


青葉「こ、こっちは!目の前で!大好きな妹が殺されてるんですよ!」


提督「尚更知るかよ。そんなん見ちまったお前が悪い」


青葉「!」


提督「それに死ぬ瞬間なんか艦娘は見慣れたもんじゃねぇかよ。深海棲艦ぶち殺しまくって平然として、身内が死ぬとワンワン悲しむ?俺にとっちゃどっちも変わらねぇ。生物が死んだ、それだけだ」


青葉「っ…」


提督「死にゃ全部『モノ』だ。お荷物だ。とっとと捨てちまえ」


青葉「この…!」ブチッ


提督「手負いとて艦娘に遅れは取らねぇぞ」シュッ


青葉「っ」ピタッ


提督「…そうだな、金になるものがあれば先程の発言は訂正しよう。物によっちゃお前の『依頼』も受けてやらんでもない」


青葉「え…」


提督「そこに転がってる死体も丁重に葬ろう。お前を狙った奴らを返り討ちにもしてやろう。それに値するモノがあればな」


青葉「…これは」スッ


提督「何だ」


青葉「…メモリーです。売人のデータをまとめたものです。音声も入ってます」


提督「…ふむ」スッ


青葉「…」


提督「…いいだろう」カチカチ


青葉「な、なら!」


提督「治療ぐらいはしてやる」


青葉「そ、それだけ…」


提督「銃創を見せろ」


青葉「…」スッ


提督「…ふむ、面白いな」


青葉「へ?」


提督「傷の表面を何かが侵食するように止血やら回復を妨げてるみたいだ。これは見たことがないが…」


青葉「…深海棲艦製の銃弾」ボソッ


提督「ほう。そんな弾があるのか」


青葉「…はい」


提督「…青葉と言ったか」


青葉「は、はい」


提督「俺のおつかいをできたらここに身を置かせてやる。金には困らなくなるぞ」


青葉「…」


提督「依頼があれば社割にしてやる」


青葉「…何をするんですか」


提督「お前を撃つのに使われた銃弾を盗んでこい」


青葉「ぬ、盗む…ですか?」


提督「必要なら殺しも構わん」


青葉「そ、そんなこと、出来ませんよ…」


提督「…ならこれはいらねぇ」ポイ


青葉「あ、め、メモリー!」キャッチ


提督「帰れ」


青葉「わ、わかりました!やります!」


提督「良し。傷が治り次第行け」スタスタ


青葉「…ガサ」









***






翌日・深夜







青葉「ドック使っても一日かぁ…相当な回復阻害効果があるんですね…」サス


青葉「…盗みかぁ。盗撮はちょっとしてたけど、物を盗むのなんて初めてだし…」


青葉「…見えてきた、大本営だ」







憲兵「…」キョロキョロ


青葉「…」コソッ


憲兵「…ふぁぁ、眠…」


青葉(今っ!)コソッ


憲兵「ったく、こういうのは警備員とかにやらせろよ…」ブツブツ


青葉(…バレてないですね)







青葉(特殊弾の開発をしてるならきっと研究室とかあるはずなんですが…どこだろ)


青葉(…ガイドブックとかあればいいんですけど、あはは…あれ?)


青葉(化学研究…室?あそこだけ灯りがついてる)コソコソ






青葉(…人の気配がしない。不用心というかなんというか)ギィィ


青葉(…何か変です。研究室という割には実験器具?が少なすぎますね。その代わり防腐剤に浸かった標本ばかり…ってこれ、よく見ると深海棲艦の…体組織?)


青葉(気持ち悪っ!まだ動いてる!これを銃弾に仕込んだ?)カシャッ


青葉(あっ、癖でカメラ撮っちゃ…っ!?)ビクッ





提督「カメラを撮らなきゃまだ良かったな」


青葉「し、司令官!?何故ここに!?」


提督「…まあ、試験監督みたいなもんだ。今日は俺は仕事無かったしな」


青葉「…尾行されてたんですね」


提督「ああ」


青葉「…凄いですね。全く気付かなかったです」


提督「お褒めの言葉どうも。それで、お宝は見つかったか?」


青葉「…まだです」


提督「そりゃそうだ。お前は見学中だったからな」


青葉「…」


提督「まあ今回は下見無しだから多少は大目に見るが、こんなホルマリン漬けと睨めっこしてもお宝は出てこねぇんだよ」


青葉「…申し訳ございません」


提督「お宝ってのはな、普通は大事にしまってたりするもんだ。さて、どこだろうな?」


青葉「…金庫らしいものは見当たりませんが」


提督「そうだな。でも他にあるだろ?」


青葉「…すいません、わからないです」


提督「…なら答え合わせだ。まずは特殊弾はどこにあるだろうか。これは簡単だ、この部屋には無い」


青葉「…どこですか?」


提督「開発部門に決まってるだろ。研究室ってのは目標までの過程を明らかにするのが目的だ。データさえ取れば後は大量生産出来るプロセスを見つけりゃいい」


青葉「…」


提督「つまり、ここには何がある?」


青葉「…元データ?」


提督「正解」


青葉「…」ホッ


提督「お前は図らずとも隠された俺の第2のターゲットに近づいてたわけだ。最初はこっちかと思ったらやっぱり分かってなくて少々残念だったがな」ククク


青葉「…」ムスッ


提督「それじゃ、どこにあるでしょうか」


青葉「…金庫?」


提督「だからここには金庫みてぇな物はねぇだろ?もっと単純に考えろ」


青葉「…引き出し?」


提督「そんなわけないと思うだろ?ある訳よ」スッ


青葉「えぇ…」


提督「研究データってモノは量がクソほど多くなる。それでいてお持ち帰りも出来ねぇのよ。含まれるデータが危険になればなるほどな」


青葉「…」


提督「そういう大事なデータを直ぐに用意するには手元に近い、しかし最低でも鍵付きである場所だ。馬鹿らしいと思うだろうが、こんなもんだ」ポイ


青葉「あっあぶなっ!」パシ


提督「それがあれば俺んとこでも作れるようになる。なんなら売って金にしてもいい。そのデータは高いぞ」スタスタ


青葉「ど、どこに」


提督「決まってんだろ。メインターゲットを頂戴するのよ」


青葉「か、開発部門なんて分かるんですか」


提督「俺は艦娘拾いに来つつ大本営を嗅ぎ回ってんだ。存在は知ってる」


青葉「…あれ、陽炎さん以外に居るんですか」


提督「いるよ。何なら今回はそいつのおねだりと言っても過言じゃねぇかな」


青葉「へぇ…っ、誰か来ます!」








研究員「…ん?電気つけっぱなしにしちゃったか」スタスタ


提督「…」コソコソ


研究員「早く帰…」


提督「こんばんわ」ガシッ


研究員「もがっ!?」


提督「開発部門の倉庫の鍵はどこだ」


研究員「た、助け」


提督「早く言わないと綺麗な白衣が真っ赤になるぜ」


青葉「ちょっ」


研究員「こ、これです」チャリン


提督「おお、ありがとな」グサッ


研究員「かはっ…!」


青葉「え、えぇ!?」


提督「という訳だ。お前、行ってこい」ポイ


青葉「ちょ、ナイフと一緒に投げないで…って、殺す必要あったんですか!?」


提督「あった。どっちにしろブツを頂戴すりゃこいつが責任取らされんだから変わらねぇよ」


青葉「…」フルフル


提督「俺がこいつを片付けるまでに終わらせとけよ」ズルズル


青葉「…」







青葉(…どうして、あんな簡単に殺せるの?)


青葉(どうして、躊躇いも無く殺せるの?)


青葉(…なんだろう、青葉が何もしなくても、もう後戻りが出来ないようになってる気がする)






青葉「階段を降りて…奥…倉庫っぽいの…ここかな」


青葉「鍵…開いた…」ガチャン


青葉「…っ!」ガラガラ












提督「おい、あったか」


青葉「…」ペタン


提督「…うはは、こりゃすげぇ。まさか『試し撃ち』もしてたらしいなここは」


青葉「…あ、あれって、艦娘ですよね?」


提督「艦娘じゃねぇよ。死体ってんだ」


青葉「…蜂の巣ってレベルじゃないですよ…もう、殆ど原型を留めてないじゃないですか!」


提督(…まだ新しいのか、片付けられてない感じか。確かに肉塊ばかりだが、艤装の一部があるな)


青葉「こんな…こんなのって、有り得ないですよ…」


提督「だが、こうして人間は艦娘から優位に立つ手段を得たって訳だ」


青葉「…何がそんなに怖いんですか!青葉たちは…艦娘は!よっぽど酷いことされなければ何もしませんよ!」


提督「その『よっぽど酷いこと』をする奴らが多いだけだ。階級だけは上でも所詮は人間、いざとなりゃ深海棲艦よりもあっという間に殺される可能性があるだろ」


青葉「…」


提督「力を持たず、尚且つ傲慢な者はどうにかして優位に立って安心したがるもんだ。今回はこれだっただけだ」


青葉「…」


提督「答え合わせはここら辺でいいだろ。持てるだけ持ってずらかるぞ」


青葉「…艦娘を、殺すんですか」


提督「他に何がある」ヨイショ


青葉「…あんたも!あいつと!変わらないじゃないですか!」ガシャン!


提督「…そうだな、お前を襲った人間と然して変わらんだろう。だがな、使うのは俺じゃねぇ。お前と同じ艦娘だ」


青葉「え…」


提督「さっき言ったろ。何なら駆逐艦だぞ」


青葉「艦娘が…艦娘を…殺す…?」


提督「詳しいことは本人に聞きな。お前艦娘なんだから俺よりも持てるだろ。早くしろ」


青葉(…どういうこと…?)ヨイショ








***









提督「ふう、流石艦娘。積載量が段違いだ」


青葉「…」ゼェゼェ


提督「お使いは果たした。ここに置いてやる」


青葉「…青葉は」







暁「司令官、お疲れ様」


青葉「え」


提督「お望みのものですぜ」


暁「…いつも通りでいいのに」


提督「一応『依頼人』ですので」


暁「じゃあ、その話し方やめて」


提督「承知」


青葉「…あの、まさか」


暁「あ、噂の新人さんね。初めまして」


提督「暁だ。今回の依頼人だ」


青葉「…どうして」フルフル


暁「…理由なんて単純なものよ。暁は復讐する」


青葉「ふ、復讐!?」


暁「話せば長くなるから、後でね」スタスタ


提督「仕事は明日の夜。お前も来るか?」


青葉「…」










***









青葉(何となく見学って体で来てみたけど…)






暁「ッー!」


提督「ー、ーー」






青葉(遠くに居るから何を話してるのかは聞こえない。でも、確かに感じ取れるものがある)


青葉(どうしようもないぐらい深い怨嗟と、あの子から溢れるような哀しみ)







暁『ぁぁぁぁぁぁあああぁあああ!!!!!』







陽炎「はぁ、はぁ、終わったから帰るわよ」


青葉「…」


陽炎「青葉さん?」


青葉「…はっ、はい」


陽炎「…終わりましたよ」


青葉「…わかりました」


陽炎(…魅せられてたようね)






青葉(燃え盛る鎮守府を背にして慟哭を上げる姿は、ある種の名画のように青葉の脳裏に焼き付いた)


青葉(…あんな小さな子が修羅に変わっていた。私は…青葉は、何をしていた?)








***








数週間後、鎮守府(アジト)









提督「…あーもう疲れた。やっぱ1億はサービスし過ぎた」


陽炎「暁からの払込は確認したからね」


提督「ご苦労。やっと全部済んだし、デカい戦闘の事後処理はもうやりたくねぇな…」






青葉「…失礼します」


提督「何だ」


青葉「…青葉も、依頼します」


提督「ふん、そうか。金は」


青葉「…お金は無いですけど、私の持つ情報と」


提督「ダメだ。金」


青葉「…じゃあ、前に言ってた、社割ってやつで」


提督「はぁ?」


青葉「…」カチ




提督『…そうだな、金になるものがあれば先程の発言は訂正しよう。物によっちゃお前の『依頼』も受けてやらんでもない』





提督「…ちっ、仕方ねぇ。情報は」


青葉「青葉の居た鎮守府の情報全てです」


提督「…内容は」


青葉「はい、まず…」






***







提督「…1000万が良いとこだな」


青葉「…それは、どのくらいなんですか」


提督「俺としちゃ動く最低限だ」


青葉「…暁ちゃんのは?」


提督「ありゃ億単位だ」


青葉「…参考までに聞いても?」


提督「そうだな…お前んとこはヤクを育てて作って売ろうってんだろ?大層な計画立ててんだろうが、所詮は末端と変わらんのよ」


青葉「…」


提督「大元も押さえられるってんならもっと跳ね上がったが、ターゲットがその提督だけってんならこんなもんだ。これでもだいぶ高いと思うけどな」


青葉「…そうですか」


提督「暁の方は弱肉強食を体現したとこだったが、実際かなり成果を出してる上にターゲットが複数居て尚且つ殆ど艦娘だったからな。お前んとこはそこまでじゃねぇし、ヤクに手を出すぐらい金に困ってたと見える」


青葉「…」


提督「まあ全部憶測だがな。さて、依頼内容は提督の抹殺でいいんだな?」


青葉「はい。でも、色々と条件がありまして」


提督「何だ」


青葉「やるのは青葉だけ。司令官は事後処理だけで大丈夫です」


提督「…ふむ」


青葉「…ここにいる以上、青葉も変わらなければならないってわかったので」


提督「…クク、そうか。いいだろう、契約成立だ。一つ言わせてもらうなら、殺るなら3日以内の方がいい」


青葉「はい」スタスタ









***








青葉の居た鎮守府









提督C「…」イライラ






「最近提督ピリピリしてない?」「近寄らない方が良さそう…」「衣笠さんと青葉さんも行方不明だし…」






提督C「…てめぇら、無駄口叩く暇があるならとっとと仕事やれ!」


提督C「クソっ…」







青葉「…」コソッ


提督C「こうなったのも全部アイツのせいだ…借金だけ残っちまったじゃねぇか…!」ブツブツ


青葉(…)


提督C「リターン取れる時にはとっくに期限過ぎちまう…!」


青葉(…やはり)


提督C「こうなったら艦娘を『売り』でもしねぇと…そうだ、アイツ確か…」


青葉「あなたは消えるべきです」スチャ


提督C「んなっ!?て、てめぇ!」


青葉「反吐が出ますよ」グイッ


提督C「ま、待てよ。俺を殺せばお前だってタダじゃ済まないぞ。上官殺しは即解体だ」


青葉「…もうあなたは青葉の上官でも何でもありません。ただの人殺し…衣笠の仇、取らせてもらいます」グググ


提督C「ま、待ってくれ!」


青葉「遺言なら一言だけ聞きましょうか」


提督C「…本気なようだな。なら俺も腹を括ろうか」


青葉(…?)


提督C「俺はこんなとことっとと辞めて遊んで過ごしたかった。短期間で金を集めるなら危ねぇとこに手を出すしかないからな」


青葉「自分語りは興味無いです」


提督C「死ぬ前にマフィアの事を教えてやる。あいつらは大陸の連中を中心とした麻薬シンジケートだ」


青葉「…それじゃ」コツッ


提督C「これが最後だから聞けよ。俺みたいな悪党がこうやってベラベラ喋る時はどんな時だ?」


青葉「知りませんよ」


提督C「答えはな…ふんっ!」ガシッ


青葉「なっ!?」


提督C「勝利を確信した時だ」


青葉「しまった…!」


提督C「馬鹿が。飛び道具ってのはな、遠くに居るから有効なんだよ。掴める範囲まで押し付けるたぁ随分甘ちゃんだな?」ククク


青葉(くっ…)


提督C「お前には本当に手を焼かされたなぁ、クソみてぇな記者の真似事して、クソみてぇな記事書いて、そんで俺が余計な仕事増やされて…ほんとゴミだったな!」


青葉(このままじゃ…)


提督C「そんで現状俺は金が無くなっちまった。全部てめぇのせいだ!だが…それもこれで終わりだ!死んじまえ!」スチャ


青葉(ガサ…!)













パリン












提督C「は…?」パスッ


青葉「…?」


提督C「」バタン


青葉「…撃たれてる…誰が?」キョロキョロ










「…依頼完了」ガチャガチャ






***








青葉「…」ガチャ


提督「戻ったか」


青葉「…司令官、横取りですか?」


提督「は?」


青葉「青葉は、事後処理だけと言いました。依頼の反故です」


提督「待て待て、何の話だ」


青葉「とぼけないで下さいよ!助けたつもりですか!?」


提督「…あー、なるほど。そういう事か」ククク


青葉「…」


提督「そうかそうか。五十鈴の依頼人とターゲットが被ったわけか」


青葉「は?」


提督「詳しいことは本人に聞きな」ガタッ


青葉「ちょ、どこに」


提督「これから面談だ」スタスタ


青葉「…」






五十鈴「…失礼、初めまして」


青葉「…あなたは」


五十鈴「五十鈴よ」


青葉「…あの」


五十鈴「ごめんなさいね。まさか標的が同じだとも知らずに。ずっとおしゃべりしてるものだから同業じゃないと思ったの」


青葉「っ…」


五十鈴「あ、そうそう。助けた訳じゃないからね。あんたが脳みそぶちまけた後でも良かったんだけど、後処理がもっと大変になりそうだったからよ」


青葉「…それは、どうも」


五十鈴「同業ならこれから伸びてね。まあ嫌でも伸ばすんだけど」


青葉「…はい、よろしくお願いします」


五十鈴「よろしくね。それじゃ」


青葉「…あ、あの!」


五十鈴「何?」


青葉「依頼人は…誰ですか?」


五十鈴「…もう終わりだから守秘義務は無いか。マフィアの頭だったかな。使えない下っ端を消してくれってさ」


青葉「…」


五十鈴「それだけなら五十鈴じゃなくて良かったけど、提督だって言うからやったわ。ご丁寧に情報まで貰ったから少し値引きしたけど」


青葉「…そう、ですか」


五十鈴「五十鈴の標的は提督に限ってるの。マフィアの下っ端とは世も末ね」


青葉「…」


五十鈴「それじゃあね」スタスタ





青葉(…すぐ、撃てばよかった。話なんか聞くんじゃなかった。お陰で…復讐も出来なかった)


青葉(…青葉は、何を伸ばせばいいの?何をしたらいいの?ここでやって行くには、力不足過ぎる)


青葉(…どうすればいいんだろう)







***







提督「ふーん、じゃあ情報集めでもやれば」


青葉「…」


提督「訓練はやってもらうが、お前は情報収集。その過程で殺しが必要ならするって感じで」


青葉「…」


提督「お前は殺すの下手そうだし、それならウチとしちゃ『耳』が少々足らねぇしな」


青葉「…下手、ですか」


提督「五十鈴から聞いた話だとターゲットに返り討ちに遭いそうになったらしいし」


青葉「…」


提督「俺らはターゲットの自分語りを聞く必要はねぇの。とっとと殺して金入ってるの確認して掃除しておしまい。そんだけ」


青葉「…はい」


提督「本当にわかってんなら早速情報収集だ。ほら、行け」ペラ


青葉「わっ」


提督「この仕事はスピードもそうだが情報も命だ。迅速で正確な程後がやりやすい。それを意識してやれよ」


青葉「…了解」


提督「戻ったら訓練だ」








そして…










青葉「…ん」ウトウト


五十鈴「あらお目覚め?」


青葉「はい」ノビ


五十鈴「徹夜明けご苦労さま。周辺の情報、役立ったわ。ありがと」


青葉「…えへへ、どうも」


五十鈴「それにしてもあんたは大変そうね。毎回現場行って情報集めてはここまで帰ってきて。国ごとに拠点構えた方がいいんじゃないの?」


青葉「…いえ、ここが帰る場所なので」


五十鈴「…そう」


青葉「それに、昔を思い出してたら、あんまり日本に居たくなくなっちゃいまして。あはは」


五十鈴「…あんたもよく成長したわ」


青葉「いえ、青葉はまだまだ伸びます!なので、これからもよろしくです!」









青葉の物語・終わり
















初雪と望月の物語













…面倒、非効率な行動が嫌いなだけだった。やるのなら直ぐに終えられるようにしたかっただけだった。




人間は大きな変化を嫌うみたいだった。それが自身に有益であっても。








初雪「…だるい」


提督D「こらこら、大事な書類なんだからサボっちゃダメだよ」


初雪「…何で手書きなの」


提督D「重要書類ってのは、手書きである方が安全なんだよ」


初雪「…そこにあるパソコンはなんなのさ」


提督D「これは君たちのデータを集計するものさ」


初雪「…」


提督D「…初雪、君の言いたい事は分かる。でもな、これは決まりなんだ」


初雪「…絶対全部パソコンでやった方が時間取れるって」


提督D「案外手書きも悪くないぞ?」


初雪「…だるい」






前時代的。昔からの習わし。私はそういうのが好きじゃない。



過去から学ぶことはあるし、大事だとは思う。でもそれを無理やり押し付けたりするのはどうなのかな。



民間だとデータも書類もパソコンで済ませてるって言うのに、何が手書き。何が決まり。



百歩譲ってサインだけならともかく、文章全部は…





初雪「…司令官」


提督D「なんだい?」


初雪「…私はパソコン買うから」スクッ


提督D「遊び目的ならやめてくれ」


初雪「…こっちの方が効率的だって証明してやるから」スタスタ







やってられない。手が疲れた。ペンだこ出来てるし。



…いざ言ってみたものの、この鎮守府は電子機器の類が古く、世間から置いてけぼり気味。特に携帯端末。噂だとパカパカ式からタブレット?タッチパネル?というのになってる。



電話で注文もだるいし、買いに行くのもだるい。行ったとしても誰かに見つかりそうで気が引けるし、どうしたものかな…






望月「おーまたサボりか」


初雪「…ん」


望月「いやぁ分かるよ。くっそ多い紙とずっと睨めっこしてたんじゃ気が滅入るよねぇ」


初雪「…ん」


望月「…ここだけの話、最新型のパソコン買おうかと思ってんだよね、司令官に秘密で」


初雪「…マジ?」


望月「マジマジ~」


初雪「何で?」


望月「実はね、私個人のスマホ買ったんだよねぇ。まー便利なんだなこれが!」スッ


初雪「おおお!こ、これがタ、タッチパネル?」


望月「そうそう。触るだけでアプリが起動するわブラウザで調べたいもんがほら、こんなに楽々~」タタタタ


初雪「これは買いだわ」


望月「初雪はさぁ、全然金使ってないから有り余ってんでしょ?この際一緒に買おうよ」


初雪「渡りに駆逐艦とはこの事か」


望月「…語呂悪いから船でいいって。ん?てことは元から買う気があったん?」


初雪「さっきね。手書きはうんざりだからパソコンの優位性を証明するって」


望月「…どうだかねぇ。うちの司令官は厳しくはないけど融通利かないから無駄骨になりそう」


初雪「…なら、私だけ効率を求めるからいい」


望月「…わかった。パソコンはこっちで注文しとくよ。スマホどうする?買うならさすがに外で見た方がいいかもしれないけど」


初雪「行く」ギラギラ


望月「うぉぉ…すげぇ目。そんじゃすぐ行こう。どうせあの司令官だししばらく執務室から出て来ないでしょ」


初雪「だね」







こうして、私は望月が勧めたスマホを買った。当然だけど、今まで持ってたものよりも遥かに使いやすく、直ぐに覚えられた。



パソコンの注文もスマホから電話なしで出来る事にも驚いた。やっぱり時代の流れに乗らないと生きていけないよね。非効率で時間を浪費するのは勿体ない。



また、望月の言ってた「アプリ」というものも教わりつつスマホに入れてみたが、これもいい暇つぶしになった。今まで読書だったから新鮮さがある。



読書は嫌いじゃないし、むしろ好きではあるけど、さすがに何十回と繰り返すと飽きる。実際嫌いになり掛けててそれが嫌だったけど、これなら新しい本も…







望月「ふふふ、紙媒体もいいけど、スマホで本も行けるんだよ」


初雪「マジか」






…やっぱり、最先端の技術を手にしないとね。とても有益で、効率的な時間を過ごせて心が躍った。やっぱり時間は余すことなく使わないとね。









程なくして私はPCを手に入れ、早速ソフトの勉強をした。そっちに没頭するあまり、書類の処理がかなり遅れてしまった。



司令官はそれ見た事か、と言ったような顔で自分の書類を片付けていた。それが、私の動力源となった。



やる気が出ればこっちのもんだ。そう思い、私は書類毎のフォーマットを完成させ、認印と署名以外は全て融通が利くように作り上げた。







初雪「…おわり。それじゃ」ガサガサ


提督D「…まだチェックが済んでないだろう」


初雪「パソコンが校正してくれてるから大丈夫」バサッ


提督D「自分の目で確かめろ」カリカリ


初雪「だからパソコンがもうやってくれてる。これで提出して訂正喰らったらもう歯向かわない」


提督D「…」カリカリ







初雪「…ふー、仕事も早く済んで、増えた自由時間を有意義に使わないとね」カタカタ


望月「使いこなしてるみたいだね」カチカチ


初雪「慣れればこっちのもん」カタカタ


望月「おー、表計算どころかマクロも組んでるんだ」


初雪「組む時もミスあったら指摘してくれるしほんと便利よ」


望月「そいや訓練は?」


初雪「…ちゃんとやるし」


望月「戻ったらゲームやろ」


初雪「いいね」









提督D「…訂正無し、ですか?」


『うむ。中々優秀じゃないか。ワープロなどミスに気付かん者が多いというのに』


提督D「そ、そうですね…」


『それにしてもこれは読みやすい。やはり手書きを良しとする慣習に囚われてはいけんな。将来的にこの様式にすることも検討して…』


提督D「…」









その頃…









提督「…書類つーか、データが多くなってきたな」


陽炎「見ればわかるわ」


提督「見てるだけで嫌気がする」


陽炎「…そうね」チラッ





書類「」ド-ン






提督「…仕方ない。データ処理が得意そうなやつを連れてくるか」










***











初雪「はい、書類」


提督D「…」カリカリ


初雪「それと今週の書類のフォーマット」


提督D「…」カリカリ


初雪「署名だけで済むやつ」


提督D「…」カリカリ


初雪「あと申請書のフォーマット」


提督D「…」カリカリ


初雪「…司令官も頑固だね。でも証明出来たから。それじゃ上がります」スクッ


提督D「…」バサッ


初雪「ちょ、散らかさないでよ」


提督D「…わかった。わかったよ。私の負けだ」


初雪「…」


提督D「君のような天才は私みたいな凡人の元では狭かったんだな。そうだったんだ」


初雪「?」


提督D「だが私は仮にもこの鎮守府の長だからな。転属は容易いが…どこか行きたい所はあるかな?」


初雪「ちょ、どうしたのさ」


提督D「だってそうだろう?私がやれば1週間掛かる仕事をものの1日程度で済ませるのだから」


初雪「いやこれパソコンなら普通…」


提督D「普通じゃない。少なくとも、私には合わなかった。だから手書きにしていたんだよ」


初雪「…」


提督D「いいかい?君の言う『普通』と、私たちの『普通』は同じ言葉出るが意味が全く異なるんだ。才の差によるものだ。これも分からないか?」


初雪「いやだからさ…」


提督D「同じことを言わせようとしないでくれ」


初雪「…」


提督D「とにかく、君は転属させるから。私よりも理解ある提督に紹介しておくよ」


初雪「いやちょっと待ってよ!いきなり過ぎて話が…」


提督D「…」


初雪「…もういいよ。司令官頑固だから」ドタドタ










望月「…おーい司令官さぁ、うちのルームメイトかすっごい不機嫌だったんだけど、何かやったの?」


提督D「…君は、自分の才能について何か思うところはあるかな?」


望月「はぁ?」


提督D「私はね、何も持たずに生まれてきた。得意な事など無かった。何をしても、何を競っても下から数えた方が早かった」


提督D「何か一つでも誰かより1歩先に出ているものが欲しかった。才を渇望した。そんな中で見つけたのが、文字を書くことだった」


提督D「字が誰よりも綺麗だと言われたし、尚且つ書くのが早いと褒められた。初めて自分の存在を肯定された気がした」


提督D「まあ他が人より劣っていたから色々と苦労したが、私は何の因果か、この職に就けた。奇跡と言ってもいい。体力テストは最下位だったが、他が評価されたんだろうな」


提督D「そして電子機器では傍受される可能性があるとして、書類は手書きを推奨していた。私にとってはこの上ない喜びがあったよ。傍受の危険性は理解したし、何より私自身、あの無機質な書体に嫌悪感を抱いていたからね」


提督D「…でも、それを知らない初雪は書類を全て済ませてしまった。1週間の書類を前倒しにする程に。私の才の無さより、彼女の輝かしい才能が眩しすぎた」


提督D「嫉妬よりもね、この才能をここで枯らしてはいけないと思った。だから、転属させようかと思った」


望月「…そーいうことね」


提督D「…そうだな、提督B辺りは実力至上主義者だから」


望月「あたしも抜けるわ」


提督D「…?」


望月「司令官のこと、よくわかったよ。あたしも司令官とは合わなそうだし」


提督D「…そうか」


望月「正直がっかりしたよ。才能が無かったんじゃない、結局は自分の劣等感に負けただけじゃん」


提督D「…何?」


望月「勝手に比べればそりゃ頑固になるよ。司令官に必要だったのは受け入れる姿勢じゃないの?」


提督D「…」


望月「何か初雪が飛ばされるようなやらかしをして逆ギレしたのかと思ったらそうじゃなくて良かったわ」


提督D「…お前に何がわかる!?今までずっと比べられて生きてきたんだぞ!?俺はもう若くないのに、ここまで歪ませられたのに!」


望月「あたしも似たようなもんだよ。駆逐艦の中でも非力な睦月型」


提督D「…」


望月「そうして生まれたなら仕方ないじゃん。受け入れて他にできることをするだけ。初雪は私よりかパワーあるけど所詮は駆逐艦だし、裏方仕事が多いけど、やることやって受け入れてんじゃん」


提督D「…」


望月「…そういう訳だから、あたしも転属よろしく」スタスタ








***








護送車内…







初雪「…そういやパソコン」


望月「いいよいいよ。また買い直せばいいじゃん」


初雪「いやあれ結構したんだけどね」


望月「大事なのはデータのバックアップだけだから。ああいうのは常に最新式が出回るから」つUSB


初雪「あなたが神か」


望月「いやこれあたしのだけだから」


初雪「神は死んだ」ゴロン


望月「嘘だって!ほら!」スッ


初雪「神は生き返る」ケロッ


望月「あんた芸達者だね」







憲兵(何故こいつらはこんなに呑気なんだ…?)ヒソヒソ


憲兵(さぁな。周りのことより自分のことで頭がいっぱいなんだろ)


憲兵(それにしたって昨日の大襲撃は嫌でも耳に入るはずなんだが…)









***








初雪「…へ?B鎮守府壊滅?」


望月「…アイツマジでB鎮守府推薦してたんか」


初雪「…でもさ、行くとこないからずっとこのまんま?」


望月「…あたしら駆逐艦だし受け入れ先無くね?」





『イヤァァァァァ!!!!離して!!助けてぇぇ!!!』





初雪「…」


望月「穏やかじゃないね…待機って」


初雪「…」


望月「周りも大体同じ艦娘だし、頭おかしくなりそう」


初雪「…もうやだ」


望月「…これは計算外だったわ」


初雪「…逃げよ」


望月「いや無理でしょ 」


初雪「…トイレって言えばさ」


望月「いやベタすぎる」


初雪「やればできる」スクッ


望月「…あーわかったよ、どの道助からないなら」ヨイショ










初雪「す、すいません」


憲兵「勝手に動くな」


初雪「その、と、トイ…」


憲兵「あ?」


望月「そ、そのさぁ、憲兵さんさぁ、仮にも女の子なんだからさ、ハッキリ言うのはちょっと…」


憲兵「知るか」


初雪「…と、トイレ」


憲兵「…」


望月「…あ、ち、ちなみに、あたしも…」


憲兵「…逃げようとしてもムダだからな」ガタッ


初雪「…」


望月「…」








初雪「…キツそう」トボトボ


望月「…うーん」スタスタ


初雪「…」


望月「…」


初雪「…艤装はさすがに…」


望月「それはマジでやばいからやめよ」


初雪「…で、でもさ、さっきのあれ、聞いたらさ、その…」


望月「あたしだってそんなのわかってるけどさ…でもさ、あたしらみたいなちんちくりん相手にされないって」


初雪「…解体されるの待つの?」


望月「…短い人生、いや、艦生だったなぁ」


初雪「うぉぉい」


望月「…じゃあどうしろっての」


初雪「そんなの分からないって」


望月「…はぁ、どうし…うわっ!」ドシン






提督「…あ?」






望月「あ、す、すいません」ペコ


初雪「…すいません」


提督「…」ピクッ


望月「…」


初雪「…」


提督「…おい」


望月「あ、な、何ですか。すいませんけど案内出来るほど大本営には」


初雪(すっごい敬語)


提督「…ふむ、お前ら見ない顔だな」


望月「そ、そうなんすか?あたしら今日来たばっかなんで、そのー」


初雪(見ない顔?何度もここ来てるのかな?)


提督「お前ら、データ処理は得意か」


望月「あ、ま、まあそれなりには…」


初雪(…??)


提督「…具体的に」


望月「えーと、あたしらが使ってた時のやつは…」ペラペラ


初雪(…何か引っかかるなぁ)


提督「…お前も使えるってことで良いのか」


望月「そ、そうっすね、な?初雪」


初雪「んぇ?」


望月「パソコンは使えるだろ?って聞いてんだよこの人」ヒソヒソ


初雪「…んまぁ、やれば出来ますけど」


提督「…よし、待ってろ」スタスタ









望月「…何だ?あのおっさん」


初雪「…司令官用の軍服だから絶対それでしょ」


望月「いやいやいや、普通パソコン使えるかどうかなんて聞く?どっちかっていうとパソコンの練度より艦としての練度じゃない?」


初雪「…そこなんだよね。引っかかるの」


望月「…机仕事出来ない系?」









提督「聞こえてるぞ」


望月「ひぇっ!?」ビクッ


初雪「うおっと」ビクッ


提督「喜べ。お前たちの再稼働先が決まった」


望月「…あんたのとこ?」


提督「そうだ。お前たちの能力、見させてもらおうか」


望月「…うっす」







この時は、正直スピード再着任ラッキーとも思ってた。けど、司令官が言った言葉は少し違った。



稼働の本当の意味を知るのは、もう少し先の事だった。









***










望月「ったく…人使い荒すぎるって…」


提督「ふむ、快適快適」ペラペラ


初雪「今まで誰が管理してたのさ…」


提督「青葉」


望月「誰だよ…」


青葉「私です」


提督「てめぇ仕事行けや」ドカ


青葉「ちょ、女の子蹴るなんて!」


提督「なーにが女の子、だよ」


望月「…つーかさ、司令、官…?」


提督「あんだよ」ペラペラ


望月「…そもそもさ、何のデータ整理させてんの。艦隊運用とは思えないんだけど」


提督「俺らの生計を立てるためのだーいじな仕事だ」


初雪「…すっごい嫌な予感がするんだけど」


提督「おめぇ、中々優秀だな」


初雪「ん…」


提督「気に入った」フフン








司令官は不敵に笑う。すっごい嫌な雰囲気。笑顔が怖いと思ったのは初めてだった。



だけど、私は同時に魅入られる。いや、魅入られてしまった。










提督「…ふむ、あれだけ荒れてたデータがこんなにも綺麗になるとは。素晴らしい、上出来だ」


望月「丸一日掛かったんですが…」


提督「むしろもっとかかるものだと思った。合格だ」


初雪「…どうも」


望月「…そ、それじゃ、上がりまー…」


提督「俺らはこれから本業だ」


望月「サビ残…じゃないっすよね?」


提督「サビ残?何を馬鹿なことを」


望月「定時過ぎてんすけど」


初雪(…)ゾクッ


提督「気になるなら来るか?大仕事で儲かりまくりだ」ククク


望月「…いや、また今度」


提督「あっそ」スタスタ


望月(え、何この切り捨ての早さ…)


初雪「…行く」


望月「へ?」


提督「…クク、そうかそうか」


初雪「…え、私…」


望月「初雪!?」


提督「いい子はおねんねしてな」


望月「あ、あたしもやっぱ行くから!」


提督「…ふん」


望月「ちょ、鼻で笑うなって!」









***








望月「こ、これは…ウップ!」ゲロゲロ


初雪「…」ワナワナ


提督「依頼完了。口座には速やかに」ピッ


望月「うぇぇ…」


初雪「…まさか、あのデータ…殺した人のこと?」


提督「大体合ってるが、あれは依頼人の整理」


望月「…確かに同じ名前とかあった気がするけど、殺しすぎでしょ…」


提督「お前らが守ろうとしてた人間の本質だ。どうだ?面白ぇだろ?」


望月「いや…」


提督「ともあれ、これで俺らは生計立ててんだよ。お前らが望むPCも作り放題買い放題。何ならもっと高いもんも手に入る」


初雪「…」


提督「どうした?罪悪感で押しつぶされそうか?」クク


初雪「…」


提督「だがお前は動じない。お前は楽をする為なら他を切り捨てられる。そうだろ?」


望月「へ?初雪?」


提督「俺もそうさ。金稼いで新しいもん買って結果的に楽できる。その方がいいに決まってる」


初雪「…」


提督「それに、大本営にバレなけりゃ何したっていいんだよ。まあ俺はバレようが構わんがな。お前らも鎮守府見ただろ?あんなクソみてぇな拠点渡すんならそれなりの反抗ぐらいいいだろが」


望月「うへぇ…」


提督「このメガネはよく分からんが、お前は俺と同類だ。そうだろ?」


初雪「…それは、違うかも」


提督「どうかな…さあ、戻るぞ。データ処理の給料払ってやる」ガチャガチャ


初雪「…」


望月「…初雪」


初雪「…私は、違う」


望月「…そ、そうだよな!」


初雪「…違う、はず」








***








望月「…すっげ、めっちゃ金貯まってる」


初雪「…」


望月「け、桁一つ間違えてるんじゃ…」トントン


初雪「…」


望月「いや、間違ってない…マジであれだけでこんな貰えんの…?」


初雪「…PC買えるね」


望月「いやいや、買えるなんてもんじゃないよ!最新パーツ買い合わせてめちゃくちゃいい自作PC何百とも組めるよこれ!」


初雪「そんなにいらない」


望月「例え話じゃんか…」


初雪「わかってる」


望月「…これが人殺しとかに関わってる金ってのは分かるけどさ、いざ貰うと少し震えるね」


初雪「…ん」


望月「ま、まあここは出撃あんまやらないみたいだし、うちらは事務だけやればいいみたいだから、それだけなら普通にいいとこだよね…?」


初雪「…うん」






そう。望月の言う通りだ。事務仕事だけやって、現場に出る必要が無いなら願ってもない事だった。適材適所、効率重視ならこれが一番だと思ってた。




でも…









提督「お前らの力を見せてみろ」


望月「え?」


初雪「…何すんの」


提督「なぁに、ちょっと大手の検索エンジンをクラックさせて欲しいだけだ」ペラ


望月「…は、はぁ!?マジで言ってんの!?」


提督「マジだ。ちなみにこれは俺の依頼でもあるから報酬は出す」


初雪「…」


望月「…ここうちらも普通に使うサイトなんだけど」


提督「別にそこに限らず検索はできる。ほんの一週間でいい。力試しだからな」


初雪「…なんで、そういう事をするの」


提督「言ったろ。お前らの力を見せて欲しいだけだ」ククク


初雪「…クラッキングとかできないんですけど」


望月「そ、そうだよ。セキュリティなんかも調べなきゃいけないし、何ならメインサーバーがどこにあるかとか…」


提督「依頼書をよく見ろ」


望月「…」ペラ


初雪「…本気で言ってんの?」


提督「ただの事務仕事だけならお前らに限らず出来るやつはいる。俺が招き入れたのは、将来的に俺らの仕事に役立ってくれると踏んだからだ」


初雪「…」ブルッ


提督「武者震いか?上等だ」


初雪「ちがっ…」


望月「ということは、将来的にこういう感じのことをまたやるってこと?」


提督「…正直なところ、まだ決めてはいない。明確な未来像が見えてないからな」


望月「…」


提督「いやなら他の案件を回す。こっちは現場だ」ペラ


初雪「…っ!」


望月「…こ、これって、人を殺すの?」


提督「そうだ。自由に選ばせてやる」


望月「…どっちもやらないってのは?」


提督「お前らを追い出す。尤も、記憶を消すかこの世から消すかのどちらかだがな」


初雪「…そんなん、一択みたいなもんじゃん」


望月「…うん」


提督「よし、期限はまだ余裕があるから必要な機材があれば至急伝えるように」


望月「…」


初雪「…」


提督「…まあ、今はこれでいいが、お前らもいずれ『現場研修』をやる覚悟だけはしておけ」スタスタ


望月「っ…」


初雪「…」









***








初雪「…嘘」


望月「…ま、まさか、出来たなんて」









…やってしまった。いや、出来てしまった。



まさか本当に出来ると思わなかった。大犯罪に直接関わってしまった実感が湧かなかった。どうせ最初の段階で詰まると思っていた。



世界が混乱した。SNSではクラッキングで持ち切りだった。自殺者も出たらしい。司令官がくれたたった一つのメモを頼りにやっただけなのに。






クラッキングから復旧するのに一月掛かった。その会社は大きな大きな損害を出した。噂では不渡りを出すとも言われていた。しかし、大勢の人を不幸にしたのに、私はそこまで落ち込まなかった。








提督「情報を渡したとはいえ、これは上出来だ。最早イタズラの域を超えて死者も出ているからな」


初雪「…」


望月「…あ、あのさ、司令官」


提督「なんだ」


望月「そ、そのー、今回はさ、お金はいいから、暫く休みが欲しいかなって…な、初雪?」


初雪「…」ウツムキ


提督「おいおいおい、それは契約違反になるだろうが。仕事をやった以上、報酬は必ず受け取ってもらう。金がいらないなら俺に依頼を出せばいい」


望月「それはあんまし意味無くて…」


提督「まさか、汚ぇ金を貰いたくないってか?それなら尚更ダメだ」


初雪「…」


提督「金にキレイも汚ぇもクソもあるか。金は金だ。働いて得る対価だ。その額はお前たちに対する期待と信頼だ。それが受け取れねぇってんなら…」


望月「…」


提督「…この業界において信頼は最も重要な通貨だ。それが受け取れねぇとなると仕事への信頼度も無くなる。どんなにいい仕事したって評価されねぇし、何ならボランティアよりひでぇ事になる」


提督「だから受け取るまでが仕事だ。そんなに嫌なら例の潰れかけの会社に寄付でもすりゃいい。とんだマッチポンプだがな」ククク


初雪「…望月、いいよ」


望月「…」


初雪「…貰ったお金は自由に使う。いいんだよね」


提督「言うまでもない」


望月「…初雪」


初雪「…もう、悔やんでも仕方ないじゃん。やっちゃったんだし」


望月「そうだけど…」


初雪「…無理に受け止める必要は、無い。今はここに所属してるんだから」


望月「…」


提督(…ふむ)


初雪「何に使ってもいいなら、また自作PC作ろうよ。今度は色々凄いのが出来そうだし」


望月「初雪…」


初雪「…じゃ」スタスタ


提督「おう」


望月「…失礼しました」スタスタ







初雪「…」フルフル


望月「…初雪、やっぱり」


初雪「…やっぱり、一日だけ休も」


望月「…うん」









***









その日から、私たちの心はゆっくりとヒビが入り、音もなく壊れ始めた。自分に言い聞かせるように、『仕方ない』『これでいい』と、自分を騙し続けた。



それがいつか、本物の自分に成り代わった。貯金が貯まっても前ほど心躍らず、ただの数値としか見なくなった。罪悪感も昔ほど感じなくなった。



最近は望月も笑顔が増えてきた。本物の笑顔とは違うかもしれないけど、生きていくためにはこれしかないんだ。







『現場研修』もしばらくしてやらされた。思ったよりも呆気なかった。標的の境遇?前歴?そんなの考えても直ぐにどうでも良くなった。



私たちの生きる術は『現実逃避』だから、目の前の紛うことなき真実から目を背け続けた。一つの仕事として、過程として処理した。



だから、世界を再び破滅させる手助けをしても、結果的にあまり気負わなかった。これもまた、逃げ続けるから。



逃げて逃げて、いずれ受け止める日が来ようとも、また逃げ続ける。何故こうなったかも考えない。考えてもすぐにやめるし、そもそもそんなに暇も余裕もない。








だから、今日もまた、私と望月は現実から目を背け、悪魔に手を貸し、地獄を作り続ける。










初雪と望月の物語・終わり









那珂の物語












提督「お前が力を得たら、何をしたい?」







私が提督に拾われた時に問われた言葉だ。







那珂「誰かに向けて、理不尽にぶつけたい」





私の答え。問に対して直ぐに言ったと思う。







私はよく建造やドロップで会う。だからほぼ解体に回される。挨拶を最後まで聞いてくれた試しがない。だから、私はアイドルなんかじゃなかった。



まず第一声はため息。時折怒号。そして後は言うまでもない。この景色が何十、何百も続き、突然私に降り掛かってきた。



私は何人目の私なのか分からない。私以外にも解体に回される私がいるから、一日何体とか何十体というレベルでもあったから。



でも、これまでの扱いを私は知っていた。私が私に教えてくれた。だから、私はいつもの挨拶をしなかった。それを見た男は気味悪がって解体に回した。



理不尽ではあるが、少しだけマシな方なのかもしれなかった。というか、出鼻を挫いてやったまであったと思う。どうせ死ぬ身だし、失礼をはたらいても関係ないとも思ってた。







解体待ちは中々に闇だった。同胞の悲鳴がしばしば響く。これから解体されるのか、それとも玩具にされてから死ぬのか。これに関してはもうどうでもよかった。



どうせ死ぬんだから、目を背けたくなるようなプレイをされても、死を前にしたらあまり苦でもなかった。これは先人たちのささやかな贈り物だろう。お陰で恐怖ではなく、倦怠が勝っていた。



何百回目か分からないけど、私は玩具にされなくなった。積み重ねてきた『私たち』のお陰で全ての私がマグロだと思われたのだろう。枕営業なんて向こうの一方的なヤリ目でしかないからね。








そして、また何百回目…いや、数えるのを止めて久しくなった時に、彼と出会った。彼は私を見て笑った。待ち焦がれてたようにも見えた。








提督「…フフ、これっぽっちも希望を感じさせない顔してんな」







確か…これが第一声だったかな?ため息以外は久しぶりだったから。







提督「喜べ。お前は俺が引き取る」







耳を疑う。私を引き取る?何で?何が目的なのだろうか。




身体目当てにしたって他に豊満な艦娘はいるし、そもそも私は過去の私たちのお陰で何も感じないし反応もしないだろう。







提督「お前は期待とは無縁の世界で生まれ落ちた奴だ。そういう奴にしか出来ない表情だった。違うか?」







ほんの僅かだけど、私の中で何かが動き出した。寸分違わず言葉にされたが、怒りは感じなかった。むしろ、私が期待してしまった。







提督「俺んとこは他とは違って海の上より何倍もスリリングな世界だ。その面白さと、面白く思えるための力を与えてやる」






私は本能的に理解した。いや、どちらかというと魅せられたのかもしれない。表向き、私の提督となる男の危険さに。







提督「お前が力を得たら、何をしたい?」








そして、こう問われた。








那珂「誰かに向けて、理不尽にぶつけたい」








これが私の答え。やっぱり直ぐに答えたと思う。











***









私は『艦隊のアイドル』を自称していた。一時だけど二水戦のリーダーやってたし、あの頃はホントにピリピリしてたから今は皆を元気づけたかったから。



曲がりなりにも姉2人が超絶エリートだから、私も身体を動かすのは得意だったし、実は神通ちゃんよりも運動神経は良かった。



でも、砲雷撃戦はてんでダメだった。川内ちゃんの方が感覚が鋭く、神通ちゃんは判断力に長けていた。私は何がダメなのかよく分からなかった。



その代わり2人よりも対潜が得意だった。海上は姉に任せて下は私が守れれば最強!ってね。まあそんな理想編成は無かったんだけどね。






でも、私は海に出ることが少なかったし、艦隊にいるよりも解体に回されるから、『解体のアイドル』なんてあだ名が付いた。駄洒落にしては流石に笑えなかった。



私だって解体されたくて生まれてきたのではないし、何なら枕営業なんてこれっぽっちもしたくなかった。戦って、勝って、勝鬨を上げたり、他のみんなと勝利の余韻に浸りたかった。



何が、解体のアイドル。何が、2-4-11。私は罵られるために生まれてきたんじゃない。私は資源の一部となるために生まれてきたんじゃない。



私は皆の元気づいた姿が見たかったけど、それを拒むなら望むところ。私は私のために生きて、私を捨てた全てを理不尽に屠る。








提督「…はぁ?砲雷撃戦が苦手?マジか」


那珂「すいません」


提督「…別に責めてる訳じゃねぇ。となると…徒手空拳か、暗器の方がいいか」ボソッ


那珂「え?何て?」


提督「よぉし、おいお前ら。組手出来るやつはいるか」


陽炎「そんなん居るわけないでしょ。ここに居るのみんな飛び道具使いなんだから」


提督「…それもそうだが、潮は」


陽炎「あの子は組手出来るタイプじゃないでしょ」


提督「…そうだった」


陽炎「司令しかいないのよ。それじゃ、ガンバ」


提督「マジか」


那珂「…あなたが、組手を?」


提督「流れでそうなっちまったが、殺さない程度にしてくれ」









艦娘と人間。圧倒的な力の差があるから、死なない程度がよく分からなかった。生まれたてとはいえ、人間よりも遥かに上であることは理解していた。



それが慢心であると理解したのは直ぐだった。私は何も出来なかった。かすり傷すら付けられなかった。私が想定していた人間の動きを、見事に裏切った。









提督「…いやいや、嘘だろ」


那珂「…」


提督「確かに筋はいいし、まだ練度も低いから多少は渡り合えると思ったけどよ、なんなのお前。実戦だったら…って、艦娘に人の武器はあんま通用しないか」


那珂「…」


提督「変だな…割と半殺しは覚悟してたんだが…」


那珂「…やっぱり、私は、ダメなんですか?」フルフル


提督「?」


那珂「わ、私は、確かに、上2人より、才能は無いかも知れません。で、でも、対潜は得意で、その、感覚とかは、川内ちゃんの次ぐらいだと、思ってて」カタカタ


提督「…ん?」


那珂「判断力とか、観察力とかは、神通ちゃんの次ぐらいだと思ってて、その、わ、私は…」カタカタ


提督「…ちょい待ち。俺を見ろ」


那珂「…?」


提督「これ、どう見える」シュッ


那珂「…何ですかそれ」


提督「ジャブ」


那珂「…私をバカにしてるんですか?ジャブは、もっと速いでしょ!?何でそんな型みたいな動きを見せるんですか!」ワナワナ


提督「…あー、分かった」


那珂「もう、いいです…私は帰って、解体…」


提督「まあ待てや」スチャ


那珂「今度は…っ!」


提督「」ズドン!


那珂「…く、空砲ですか!?さっきからなんなの!?イタズラしたくて仕方ないんですか!?」


提督「…驚いた。こりゃいい」


那珂「何なんですか…」


提督「那珂、お前『鋭過ぎる』んだよ」


那珂「…?」


提督「恐らくお前の言う姉2人よりも優れた動体視力と判断力だ。俺は殺すつもりで撃ったが、最小限の動きで躱されてる。さっきのジャブだって、俺は真面目にやったんだぜ」


那珂「…??」


提督「理解出来てないって顔だな。そりゃそうだ。お前練度最低なんだから感覚掴めてないのは当然だ」


那珂「…どういう…?」


提督「そうかそうか。それなら火器よりも近接戦闘の方がいいわな。飛び道具が遅く感じるんなら暗器のがいい」


那珂「…」


提督「喜べ。お前は姉を遥かに超えた才を持ってる」


那珂「…それは、喜ぶべき事?信じられないんですが…」


提督「姉らは自分の能力を見極めて、それを最大限利用してるからだろ。海戦でも攻撃が止まって見えるから攻撃と思わなくて当たるタチだろお前」


那珂「…」


提督「方向性は決まったが、暗器は今のご時世足がつきやすいんだよなぁ。一応銃の扱いぐらいは教わった方がいいが…いや、今は感覚に慣れて自分のものにする所からだな」


那珂「…」


提督「よし、お前は練度を上げつつ精神鍛錬をやれ。俺が仕事出来る程度には動きを教えてやる。その先は自分で決めて伸ばせ。以上」


那珂「…精神鍛錬って、何をすればいいんですか」


提督「知らん。ソナーとか電探じゃなくて自身の感覚だけで気配を探るとか、座禅組めばいいんじゃねぇの?」スタスタ


那珂「ちょ、アバウトも良いとこなんだけど!?」











提督「…居るならお前が組手やれよ」チッ


陽炎「嫌よ。というか、言ってた事本当なの?」


提督「嘘に決まってんだろ」


陽炎「へ?」


提督「いや、半分嘘ってとこか。練度低いからへなちょこってのはマジだ。多少実戦経験を積まないと感覚ってのは分からず終いだ」


陽炎「…姉を超えてるってのは嘘なのね」


提督「まぁな。参考にはならないが、暁の件で死にかけの神通を見た事があるが、あれは『本物』だった」


陽炎「本物?」


提督「死にかけではあったが、正直撤退を考えたレベルだった。もしまだ戦う意思があったら、死にかけでなかったらと思うと身震いがするぜ。まあ那珂とは練度とか場数がダンチだから比較対象にはならんがな」


陽炎「…ふーん」


提督「それだけ洗練された雰囲気を那珂が出せるかと聞かれたらNoだ。そんな将来が見えてこなかった。今だけかもしれんがな」


陽炎「じゃあ、何でそんな嘘を?」


提督「思い込みってのはな、想定外の伸び代を作り出すんだよ。嘘も方便となるかもしれんだろ?バカには出来ねぇ」


陽炎「…で?本当になるまで世話するの?」


提督「現場に出すまではな。後は相談ぐらいだな」


陽炎「ふーん、お優しいこと」


提督「お前はホント可愛くねぇな。誰に似たんだか」


陽炎「愚問ね。それじゃ」スタスタ








***








あれから数日、提督の指示通り、海に出て実戦経験を積み、帰ったら鍛錬をしていた。練度は着実に上がったけど、砲戦はどうにも肌に合わなかった。



鍛錬は提督の動きを真似て、その後組手。毎日転がされたり痣が出来る。酷い時は擦り傷や切り傷も出来た。艦娘はドックに入ればそう言った傷は治るけど、やっぱり修復前に見るとショックを受ける。艦娘とはいえ女の子なんだから顔はやめてよ、と思う。



しかし、慣れとは恐ろしいもので、そう考える日が少なくなり、同時に傷も僅かながら減ってきた。むしろ提督に小さな傷を付け始めてきた。成長を実感するとやる気が出る。



本当に、お姉ちゃんたちよりも才覚が優れているのかな。私が気づいていなかっただけなのかな。提督だけが、それに気づいていたのかな。









提督「…もういいだろ。仕事をやる」ゼェゼェ


那珂「ありがとうございました」ペコ


提督「…これを読んどけ」イテテ


那珂「…暗殺?」


提督「あぁ…理不尽をぶつけてやれ」ゼェゼェ


那珂「…」


提督「流石に素手は足が着く。得物を忘れるなよ」フゥ


那珂「…はい」スタスタ


提督(…やべぇな、これ以上やってたら流石に俺が壊される。他の連中の教育もまだあるってのに…)ズキズキ









紙に書かれてたのはただの一般人。だが暗殺を願われる程の人間だった。



内容は単なるパワハラ上司と言った所だったが、殺害を依頼される程だから特に酷かったんだろう。依頼主も恐らく一般人だけど、理不尽をぶつけるには丁度いい標的だった。








そして…










那珂「…」ツカツカ


上司「ちょ、何だよ!何だってんだ!」


那珂「…」ツカツカ


上司「そ、そんなもん持って何しようってんだ!?俺は重役なんだぞ!?俺が消えたら他の奴らが…」


那珂「知らないよそんなの」ズバッ


上司「かっ…」





那珂「偉そうに、お喋りしてるの見ると、すっごい、腹立たしいの」ザクッ


那珂「あんただけの、力で、辿り着けた訳じゃ、無いでしょ!」グチャッ


那珂「必死に努力した、人よりも、更にもっと、頑張って、上り詰めた、訳じゃないでしょ!」グシャッ


那珂「本当に、頑張った人は、お前みたいに、吠えないの!」ベチャッ!








…この時は、姉2人の姿が浮かんだ。当然、私自身の記憶ではないけど、どっちも生まれ持った才能に胡座をかいてた訳じゃなかった。



おちゃらけてる川内ちゃんは寝る間も惜しんで訓練をしていた。口癖のように言ってたアレは夜戦が好きなのもあるけど、自分を奮い立たせて訓練に身を置かせるためだった。



神通ちゃんも負けないぐらい努力家だった。私がお化粧しないと小さな傷が見えるぐらいで、痛ましくも勇ましかった。水雷戦隊の中では必ず憧れとして挙げられてた。



でも、上が無能なら正当な評価もされない。何なら飼い殺しになってポイだ。私はその段階にすら辿り着けてなかっただろうけど、どこの世界でもそれを見ると無性に怒りが込み上げてくる。



虚勢を本物と勘違いし、甘い汁だけを啜る、この世に蔓延る悪。理不尽を何の悪気も無くぶつける傲慢。その罰は何倍にも膨れ上がる。



私はただの人間に艦娘の本気をぶつけ続けた。人間は最早肉塊すら留めていなかった。ただ、私はこれをやり過ぎとは思わなかった。当然の報いが下っただけだ、と。






しかし、帰ったら提督に怒られた。










提督「バカタレ。事後処理しきれないぐらい遊んだら足がつくって散々言ったろうがよ」


那珂「…すいません」


提督「…やっちまったもんは仕方ないが、報酬は半減だ」


那珂「…はい」


提督「ったく、解体屋やってんじゃねぇんだぞ。暴れたいなら…」


那珂「…解体?」ピク


提督「あ?そうだろ。普通に殺って現場を元通りにして退散で丸く収まったんだ」


那珂「…そっか、解体…か」


提督「…解体なら屠殺場に行けよ」


那珂「…家畜なんか殺して何になるんですか」


提督「…それもそうだが、五十鈴がいる時にそれ言うなよ」


那珂「五十鈴?」


提督「新入りだ。会ったら挨拶ぐらいしとけよ」


那珂「…はい」


提督「…さっき言いそびれたが、そんだけ派手にやりてぇってんなら海外にでも行ってもらう。国内はそんな依頼は少ないからな」


那珂「?」


提督「例えば…これだ。代理戦争、抗争、鉄砲玉…」ペラペラ


那珂「これは、今来てる依頼ですか?」


提督「過去のものだ。今は何も来てない」


那珂「そうですか…」


提督「…ま、今後は増えてくかもしれん。そうなった時はお前に回しといてやる」


那珂「…ありがとうございます」


提督「なんだ?嬉しくねぇのか」


那珂「…ねぇ提督、私、解体のアイドルって呼ばれてたって、知ってます?」


提督「耳にしたことはある」


那珂「本当は、艦隊のアイドル、なんですよ?」


提督「ふーん」


那珂「…それなら、本当に解体のアイドルになりますよ。今度は私がバラす側ですけど」


提督「…好きにすりゃいいが、今回みたいに戦場で悠長に出来ると思うなよ。解剖学を学んでおけよ」


那珂「へ?」


提督「教養の無いアイドルは売れねぇぞ」スタスタ


那珂「…りょーかい」








遠回しにバカは使わないと言ってるように思えた。教養って言っても解剖学かじってるアイドルなんてこの世に居るのか。



しかし、海戦で多少は慣れているから言いたいことはわかる。今回の件は時間を掛けすぎている。しかも、場を荒らし過ぎた。



如何に効率よく動くには、技術を得て、無駄を削ぐ。結局の所、これに尽きる。姉さんたちと同じように、努力を積み重ねればいいんだ。



その為にはまず人の体を知ることから始まる。そして、それは向こうからやってきた。








潮「…あなたが、バラしたい人?」


那珂「…何か色々省いてる気がするけど、そんなとこ」


潮「…ウフフッ!いいですねぇ!いいですねぇ!楽しいですよ!」キャッキャ


那珂「…そ、そう」ビクッ


潮「あなたは何をされたんですか?穴という穴にドリル?それとも四肢?眼窩にぶっかけ?百人連続とか?それとも、直接子宮でも…」


那珂「ッ…いやいや!?何もされてないよ!?というか、即解体されてただけっていうの!?」


潮「即解体!?ということは、バラバラにされてきたんですか!つまり、残った肉を使われた感じですか…」ブツブツ


那珂「か、解体って、あれだよ?建造の逆の方だよ」


潮「…なーんだ」ハァ


那珂「…と、とりあえずさ、名前は?」


潮「潮です。以後お見知りおきを」


那珂「…私は那珂」


潮「…で、解体したいんですか?それならこれをお読み下さい」ズッ


那珂「…本?」


潮「とりあえず1度全てに目を通してからまた来てください。実演しますから」


那珂「…うん」


潮「あと、お気に入りがあったら付箋でも貼っといて下さい。それでは」スタスタ


那珂「…」








恐らく提督が呼んだんだろうけど、明らかに異常な子だった。あの子の発言を鑑みるに、言葉にすることすら憚られるような経験をしていると嫌でもわかった。



何?ドリル?入れられたの?眼窩?くり抜かれたの?直接子宮?これ1番謎だけど、恐らく開腹でもされたのかな?誰に?提督?それとも他の誰か?



考えれば考えるほど狂いそうになる。解剖学の教本を読んでた方が精神的に安定するとは思いもよらなかった。潮…あの子だけは特別ヤバい。それは確信した。










そんな恐怖?から逃れるように一心不乱に本と睨めっこしてたら、存外面白いと思うようで、付箋どころか書き込みをしてしまった。後で盛大に後悔したけど、潮から多少の信頼は得られたようだった。



熱意を感じたから実演張り切っちゃう、とまで言われて一晩中潮のターゲットの解体を見させてもらった。恨みつらみをぶつけ続ける訳でもなく、本当に手際良く人が肉塊へと変わっていった。途中少しだけ潮はちょっかい出してたけど。



驚くことに、潮は解体しつつも、試験体を長く生かし続けていた。普通なら痛みでショック死すると思うんだけど、そうならないように予め脊髄を損傷させておいたとも言っていた。その段階でもよく生きてたなと思った。



実演の後は、実習。もう一体のサンプルで、私は作業を始めた。しかし、潮と比べると明らかに手際が悪い。経験の差ではあるが、教本通りに行かない。百聞は一見に如かず、百見は一触に如かずとはよく言ったものだった。



これはもう動けなくなった身体でやっているが、私の理想は実戦での解体だから、この過程は完璧にこなさなくてはならなかった。それには、何人のサンプルが必要となるのやら…







と思ったが、存外そこまで掛かることは無かった。慣れとは恐ろしいもので、潮の指導回数が日を追う毎に著しく減っていた。動かない身体なら潮並に捌けるようになった時間は、恐らく10日と掛かっていないだろう。



そして、潮からの試験として、動き回るサンプルで解体を行うようになった。制限時間内に、決められた大きさにする。これが出来なければ解体のアイドルと自称出来ない。



サンプルは当然逃げ回り、一筋縄では行かなかった。サイズ超過、時間オーバー、途中で絶命とかあり、まあ合格は出ない。というか、潮の攫ってきたターゲットの量に驚く。



…そんな日も、やがて終わる。極めて健康体のサンプルを時間内に、生かしたまま、サイズを超えず、バラすことができた。潮の拍手と同時に、サンプルは絶命した。



この頃になれば潮とも仲良くなり、お互いに「ちゃん」付けで呼び合う仲にもなった。時々「さん」になったりするけど。



話が伝わるのも早く、提督は手頃な依頼を私に見せてきた。大変珍しい国内での抗争で、助太刀がいるらしい。遂に、実践ではなく、実戦として私は動き出した。







そして…私は技術を存分に使い、ターゲットの原型を崩してまわった。何度かしくじったが、それもまた回数を重ね、無駄を削いでいけば、理想へと近付ける。



評価を聞いて潮ちゃんは自分の事のように喜んでくれた。提督も素っ気ないが褒めてくれた。私はそれが、涙が出るほど嬉しかった。



やってる事はだいぶアレだけど、私は、こういった光景が欲しかったんだ。努力して、それを活かして、評価される。報われる実感が欲しかったんだ。



恐らく、私に至るまでの『那珂たち』が渇望していた光景なんだろう。ずっとずっと、これを求めていたんだろう。だって、私が思ってる以上に、嬉しさが大き過ぎたから。



だから、私は私に出来ることを伸ばし、期待に応えるために磨きをかけようと思った。それで、自身の成長に繋がるなら、どんな困難でもと。







それがかなり後に、打ちのめされる事になるとは予想だにしてなかった。








***









少将Dを始末してから数日後の出来事だった。アジト内で砲音が鳴り響き、音のした方から陽炎ちゃんが血相を変えて走ってきた。唯ならぬ事態である事はすぐに分かった。



どうやら、榛名が突然暴れだしたらしい。そして、鳳翔さんと赤城さんが先に交戦してると聞いた。鳳翔さんと赤城さんの二人掛りなら援護も何も無いと思ったけど、面白そうだから向かってみた。









赤城「つ、強い…!」ハァハァ


鳳翔「くっ…暗器が効かないなんて」ボロッ


榛名「アハハァ…」


那珂「混ざってもいい!?」ザッ


赤城「あら那珂さん!丁度いい所に!」


鳳翔「恐ろしい強さです、油断禁物ですよ」ハァハァ


那珂「…マジですか?」チラ


榛名「お前も邪魔するなら、殺す!」ガシャン!


那珂「…マジっぽい」ブルッ


榛名「ぶち殺す!」ズドォン!


那珂(速っ…!)ヒュン


赤城「危ない…というか、弾速が速すぎます!」


鳳翔「撃たせないようこちらも攻撃を途切れさせてはいけませんね、これは…」






那珂(危なかった…あれは当たったらその後の攻勢に遅れが絶対出る…というか、大破は免れない)


那珂(まだ1発しか撃ってないけど、もしかしたら、赤城さんたちと連携してやっと互角か、それ以上かもしれない…私に出来ること…私は…)


那珂(私は…解体のアイドルなんだから、懐に飛び込むしか…!)ダッ!







那珂「スゥッ!」


榛名「!」


那珂(へその下…丹田に力を込めるように意識…!)


榛名「死ねぇ!」ズドォン!


那珂「ッ!」ダァン!


榛名「…その程度の威力じゃ、一晩かけても、かすり傷すらつかないわ!」シュウウ


那珂(嘘…!効いてない…!?折れもしてない…!?)


榛名「懐に入れば、こっちのものとでも!?甘いわ雑魚が!」ガシッ


那珂「んがっ!」グググ


鳳翔「那珂さん!目を閉じて!」ヒュン


那珂(…!フラッシュバン!)バン!


榛名「くっ…」


赤城「調子に乗るなぁ!」ズダダダダ


那珂「ちょ、室内で艦載機はこっちも危ないですって!」


赤城「普段使ってる得物が効かないなら、こうするしかないんですよ!」ビュゥゥゥゥゥン







榛名『目障りなゴミめ!八つ裂きにしてやる!』







那珂「っ…」ビリビリ


鳳翔「なんと言う威圧感…」


赤城「…陽炎さんの事だから、まだ応援を寄越すはず。その子たちが来る前に片付けたいですね!」


那珂「もう解体されんのはウンザリですからね!」










…その後のことは、途切れ途切れでしか覚えていない。ハッキリ残っている記憶は、赤城さんも鳳翔さんは途中でダウンして、後から応援に来てくれた陽炎ちゃん、潮ちゃん、五十鈴ちゃんも、同じぐらい酷い怪我をして、やっとの思いで榛名を沈黙させたところだった。



赤城さんと鳳翔さんが榛名の戦力を大きく削ってなければ、誰か死んでもおかしくなかった。というか、私か潮ちゃんのどちらかが死んでいただろう。



何より、私は自分の非力さを恥じた。私の攻撃は本当にごくわずかしか効かず、足止めになったのか、というレベルだったと思う。急所はどれも全て捉えていた。渾身の無呼吸運動は目の前に群がる羽虫を払うように伸されてしまった。



その瞬間、私は理解した。艦種の違いではなく、私は自身の力量を見誤っていたのだと。これまで相手にしてきたのは人間だ。なら、どんなに深手を負っても勝利が濃厚なのは艦娘の方だ。比較材料が違かった。



それを、本来の実力よりも高く自己評価していた。その事実が露呈し、私は深く絶望した。私は、弱かった。私が大きく貢献出来ると思い上がっていた。でも、これが現実なんだ。



それなら、まだ潮ちゃんの方がマシだった。潮ちゃんは攻撃せず、防御と援護に徹していた。自分のルールに従って、しかしメンバーを欠けさせないよう立ち回っていた。





こんなことなら、もっと無謀な事をすれば良かった。











五十鈴「それ、二度と言わないで」ザパァ


那珂「…ぇ」ゴポ


五十鈴「自分の命と引き換えに得られるものなんて何も無いわ」


那珂「…」


五十鈴「ましてやあんたは解体されまくってきたんでしょ。私も多少同じ立場の艦娘だったから少しは分かるけど、自分の命を軽く見すぎてない?」


那珂「…そうかも」


五十鈴「提督は私らのうち誰かが死ぬと補充しに行くと思う。それから『仕事』を教えて、技術を教えて、今に至るまでのコストを考えなさいよ。割に合わないわ」


那珂「…」


五十鈴「もし死んでまた次の那珂がここに来ても、記憶は遺伝してるかもしれないけど、身体が技術や経験を覚えてないわけ。振り出しに戻るのって、かなりのストレスよ?」


那珂「…うん」


五十鈴「生き残ったんだから儲けもの。今後をどうするかで腹を決めなさいよ」ザブン


那珂「…」ゴポポ








…五十鈴ちゃんの言う通りだった。似たような境遇だったからこそ、言葉に重みがあった。



…もう二度と、こんな失態は出来ない。伸びしろが無いなら、作るだけ。私が更に高みに行けるように。









***









あれから、肉体への鍛錬が徐々に減った。代わりに、精神統一をする時間が増えた。物を殴りつける稽古が減った。代わりに、型をなぞる時間が増えた。



私は艦娘という予め決められた能力に甘えていただけだった。提督に負けたのは練度のせいだと思ってた。で