提督「化け物の暴走」三
*本作品は"提督「化け物の暴走」二"続編となっております。
[無人島に来て4ヶ月]
〈北方海域 無人島近海〉
「ふぅ…………」
採掘した鉄鋼と燃料を背負い、ふと海を眺めた。
寒い。海も空と真っ青で、飲み込まれてしまうような風景が視界一杯に広がっている。それはさながら常夏のリゾートのような開放感があり、頭上で燦々と輝く太陽もあるというのに、ここは一体寒かった。
生前、北方海域に来たことはないが、あと1ヶ月も経てば雪が降り始める。ここは海域でも南の方だからまだ降ってはいないが、もっと北に行けば違うのかもしれない。艦娘にとっても深海棲艦にとっても、海上での雨や吹雪は厳しいものだ。
風が吹いた。寒さでつい身を震わせ身体を摩る。しかし考えてもみれば私の身体(既に深海化が起きている部分)はもう冷たくなってしまっていて、おおよそ体温なんて気にする必要はないのだから、無意味なことなのかもしれない。今だって寒いと感じているのは胸から上くらいなもので、それ以外は特になにも感じない。低体温症とか、壊死とか、典型的な寒さによる怪我は起きやしない。
深海棲艦となってしまったところは徐々な広がってきている。生活に支障はないが、たまにくるあの激痛と、人の域を超えた身体能力がこの頃顕著に現れてきた。例えばこの資源回収がそうだ。
鋼材にしても燃料にしても、人一人が持てる量には限界がある。艦娘に換算して、例えば駆逐艦一人分の燃料であるなら、およそ人が持ち歩ける3人分の量を必要とする。つまり単純計算で、艦娘と人間との間には三倍以上の効率差があるわけだ。しかし今の私はその差を埋め、人間5人分くらいの量を背負って移動できる。
いつのまにか装備できるようになった兵装にしても同様だ。艦娘や深海棲艦は容姿はある程度違えど大きさはほぼ人間と同じ。彼女らの装備の重さを鑑みればその力の差がわかろうというものだ。駆逐艦の単発砲ですら重さ、衝撃において人が使用できるものではなく、異常に砲門を設けている山城や扶桑と比べれば月とスッポンほどの差があるのだろう。
しかし今の私はそれを装備している。金属バットや刀と同じ、或いはもう少し軽い程度の重さしか感じない。腕に装備した兵装を振り回したり、試しに投げてみたりすれば、自分の桁外れの力に驚かされる。
一方で、あの激痛はたまに、しかしだんだんと頻度が高くなりながら起きるようになった。プロボクサーにボディーブローを打ち込まれたような苦しさ、或いは猛毒蜂に刺されたような痛みが現れ、数十秒で消える。深海棲艦は皆こうなるのかと思ったが、ヲ級たちはそんなそぶりを見せない。特に解決策もないので放置しているが、やはりこのアザと関係あるということは分かっている。
この身体能力の代償だというなら理解はできる。なんならお釣りがくるくらいである。だが、原因不明の痛みというのはどうにも気持ちが悪いもので、さらにタイミングもよく分かっていないのでなかなかに手に負えない問題だ。
徐々に、そして確実に進行していた深海化が今顕著に現れてきた。人を辞める、ということはすんなり受け入れることはできたが、畢竟私はどうなるのだろうか。今の私の身体には、未知のブラックボックスがあるわけで、言いようもない不安が少しだけ、私の心に巣食っている。
「まあ……どうしようもないか。うじうじ悩んでも、何も分からんのなら」
必要分の資源を回収し、私は無人島を戻り始めた。帰路はなんとなく感覚でわかる。風か波の流れなのか、或いは深海化のせいなのかは定かではないが、その方向に仲間がいる、という予感がするのだ。
[同時刻]
〈北方海域統括鎮守府 執務室〉
北方提督が本日集めた艦娘は全員で6名。Roma、zara、pola、嵐、萩風、江風である。皆練度が高く、装備も上等な物を提供されている、謂わば主力メンバーである。
「本日集まってもらったのは他でもない。お前たちには戦線拡大の一環として例の無人島の先、つまり未踏の海域に進撃してもらうためだ」
全員に指令書を配りながら言うと、まず質問をしたのは江風だ。
「あの無人島、拠点作るとかなんとかがあるんじゃない?そっちの任務は?」
「勿論それもある。しかしその拠点、単なる資源輸送航路のための拠点には惜しいということでな。急遽複合軍事施設として計画されることになった。戦線の拡大はその計画の一つだから、今回の出撃はまあその前段階のようなものだな」
「ふーん。それならいいけど」
「提督」
「なんだ、Roma」
「出撃は構いませんが、この鎮守府の資源はあるのですか?戦艦である私を出撃させるわけですから、ある程度備蓄されてないと」
「そう、それもまた問題なんだ……。鋼材はあるが燃料が無くてな。できればその確保もして欲しい。あの無人島の近くには、燃料が取れる場所があるらしいからな」
「それなら、私を入れる意味は?」
「まだ見ぬ海域に行くんだ、戦力を温存して、艦隊全滅なんてことになったら大変だ。ある程度実力も必要なのだよ」
「………なるほど、分かりました」
Roma以下6名は任務を了解すると、執務室を出てさっそく工廠へと向かった。
〈工廠〉
整備してもらった兵装を装備しつつ、Romaは珍しく不満を漏らした。
「大規模作戦が近いのだし、やっぱり兵力を温存すべたきだと思うのだけど」
「まあまあ、今回は半分偵察半分遠征、みたいな任務ですから」
「でも確かに、なんだかんだ皆忙しかったですし、Romaさんの言うことも分かります。飲まなきゃやってられませんよね〜」
「あんたはただ飲みたいだけだろ……。まあなんにせよ、あの海域も開放したばかりだ、気を抜かないようにしなくっちゃな」
「そうね。なるべく接敵せずに、低コストで成功させたいわ」
他のメンバーはそこまで重く受け止めていないやうだった。自分が深く考えすぎなのか、とRomaは少し己を疑ったが、それでも彼女の心の中には、払拭しきれない予感があった。
「あの無人島………」
「え?」
「最後の出撃の時、確かに私たちはあそこを陥落させたけど、何か違和感があるのよね……」
「特に何も感じませんでしたが………」
「私もー」
「何か、仕留め損ねたような気がするのよね……。撃ち漏らしというわけでもないけど」
「うーん、ちょっと分からないですね。私はあの出撃には行ってませんし飲みたいですし」
「気のせいなんじゃねぇか?今までかなり苦労したんだし、ちょっと不安なくらいが普通だぜ」
「そう………」
Romaの胸の内の不確かな危機感は、思い込みと言われればそんな気がするし、忘れようとすれば少し引っかかる、宙ぶらりんなものだ。自分以外が抱いていないというのだから、私がおかしいだけなのだと思い、すぐに意識を出撃へと切り替えた。
「とにかく、そろそろ行きましょう。実際にあの無人島のそばに行けば、何か分かるかもしれない。
〈北方海域 無人島〉
「ただいま」
《あ、おかえりなさい》
《ヲー》
獲得した資源を軽巡棲姫に渡し、艤装を外していく。相変わらず洞穴には私と軽巡とヲ級しかいないから寂しいが、それでも彼女たちの表情は少し明るくなったようだ。
資源を回収し始めて暫く経った。二人の傷は癒え、もう二人も艤装さえ足りていればすぐに出撃できる状態だ。気持ちの面はさておき、身体は前と変わらない、深海棲艦としては健康体となぬていた。
《これだけあれば、あと1回分くらいの資源があれば誰か一人を蘇生できるかも》
「………まずは中枢か?」
《うん。優劣をつけるわけじゃないけど、やっぱりリーダーがいないと》
「そうか。ヲ級もそれでいいんだな?」
《ヲ!》
「分かった。暫くしたらまた出る。まだ日も高いし、今日は特に海も荒れてない」
《無理はしないでね。貴方までいなくなったら私たちは………》
「問題ない。私だってもう死にたくないからな。敵が現れたらすぐに逃げるさ」
虚栄心のつもりはない。私は軍人だが、死が怖くないとか、戦場で命を散らせることが本望とか、そんな武人的考えはない。"武士道とは、死ぬことと見つけたり"とはあまりにも有名な言葉で、軍部にはそういう思考の持ち主もいる。しかし私はそれとは相入れない。命より大事なものなんてありはしないのだ。武士でも戦士でもない臆病者だ。しかしそれの何が悪いのか。玉砕覚悟の精神はあの大戦で終わったのだ。
しかし確かに、自分が死んで誰かが助かるのなら、私と命を差し出すかもしれないが。
不安を消し去ることができないまま、無理に笑みを浮かべる軽巡の頭を優しく撫で、一旦部屋に戻って準備することにした。
疲労は殆どない。この体になってからあまり感じなくなった。
[数時間後]
〈北方海域 旧油田地帯〉
本日二度目の資源回収。日に幾度も襲撃する艦娘は、このように戦場でありながら少し退屈な思いをしているのだろうか。接敵したいわけではないが、このただただ広いだけの海で同じ行為を繰り返すというのは、あらゆる自由から放り出されたような、開放的軟禁状態だ。
孤独だからか?それもあるかもしれない。あの鎮守府での孤独も、ここでの孤独も変わらない。苦しくはなかった。私はいつだって最善を求めているのだ。虚無も喪失も味わうことはない。
「さて、またこれを運ぶとするか……」
中枢が復活し、他の連中も可能な限りそうできれば……………いや待て。それは同じことが再び繰り返されるだけなのでは?いたずらに命を復元し、また死の恐怖を与えるのか?
「いやいや、今度は救ってみせる。次は私が……………」
その時だ。小さな声が耳に入った。
「!」
遠い。声は複数だ。移動する波の音も聞こえる。どこだ。あれか。今はまだ点程度にしか見えないが、しかし確実にいる。逃げるか。荷物を持っては無理だ。ならば捨て置くか。それでも形跡は残る。そもそもあちらからと見えているのではないのか。それならば既に手遅れだ。
「よし………よし、逃げよう。私は今は一人だ。見逃して貰えるかもしれない。…………無人島の方に逃げてはダメだ。それより真逆の方向に逃げるんだ」
燃料と鋼材を海に落とし、先には水平線しかない、帰りとは正反対の方向に駆け出した。全速力だ。なんなら艤装も捨ててしまいたいところだが、丸腰はまずいから、その分足を速く動かす。
後ろを振り返ると、点が広がり明らかな人影に見えてきた。数は6人。シルエットからしておそらくここらの海域を担当している艦娘だろう。艦種までは分からないが、一人では太刀打ちできない。
恐ろしいことに、なんとその人影が段々と近づいてくる。一人なら見逃してもらえるなんてとんでもない。向こうのほうが私より速いのか、差はどんどん縮まってくる。
「くそっ!ここまでか…………」
立ち止まり、まだ少し遠い艦娘たちに対峙する。艤装を構え、しっかり前を見据える。
少しずつ、彼女らがはっきりと見えてくる。髪の色や顔立ち、艤装、風貌、そして目の光まで捉えられている。やがて彼女らは止まった。ざっと20メートルくらいの位置に6人。陣形は組んでおらず、すぐに戦闘になるわけではなさそうだ。
6人の視線は私に注がれている。依然艤装を構えたままだが、特に気にする様子もなく、じっくりとかんさつしているように見ている。
しばらくして、互いの無言を破ったのは、ピンクとも赤とも取れる髪色の駆逐艦だった。
「なんか珍しいタイプだね」
「ええ。普通の深海棲艦とは違うわね」
「まず男……。この時点で姫級とも異なります。人型という点は理解できますが、これは一体…………」
「一人ってところも気になるな。なんか妙な雰囲気だぜ」
「なんでしょう、他とは違うこの感じ……」
「艤装は特におかしくないが……」
ぼそぼそと何か考察をしているようだった。一向に攻撃してこないので、一人構えている自分がおかしく思えてくる。
「(駆逐艦3、戦艦1、重巡2か…。装備からして相当練度は高いな。攻撃してこないのは余裕の現れか?すぐに殺されるよりマシだが………)」
「おい、お前」
コミュニケーションをとってきたのは、男子のような口調の駆逐艦だ。名前は分からないから、赤髪の駆逐艦としよう。
「……………………………なんだ」
「おっ?こいつ、話せるのか!?」
「姫級なら話せる奴もいるけど、それでも片言だからね。これは驚きだ」
「おい、お前、どうして言葉が話せるんだ?」
「(元人間なんて言っても信じてもらえないだろううし……)………答える義理はない」
「おいおい、この数相手にその態度はやべえと思うぜ?命が惜しかったら、素直になることをお勧めする」
「やめなさい、嵐ちゃん。不用意な威嚇はしないで頂戴」
「はいはい、すんません」
「ねえ貴方、会話ができるなら少し質問したいのだけれど」
「……なんだ」
「男の深海棲艦なんて見たことがないわ。貴方以外もいるものなの?」
「………いや、私だけだ」
「そう………。どうして?何か理由があるのかしら」
「………人に語るようなことではない」
「(会話が成り立つなんて珍しい……。姫級以上の個体なのはわかるけど、一人でいるのは何故………?)貴方、仲間は?」
「(仲間?はて、どう答えたものか。適当にごまかしておくか)………仲間とは、はぐれた」
「特に怪我してないようだけど………」
「…………あ、嵐に遭って、その時に……」
「そう………」
「(どうするんでしょう、Romaさん)」
「(あちらに敵意は無いようですが)」
「(しかし深海棲艦だし…)」
「(戦闘か?)」
「(でも無抵抗ですから……)」
Romaはじっと考えた。旗艦である彼女の指示がない以上、五人は動かないわけで、その上五人は目の前の男の深海棲艦の扱いなど考えもせず、彼女に任せてしまっていた。
「(なんとか言いくるめることができたのか?あちらが応答しないとこちらも動きようがないな。いっそ逃げる………と追いかけられるか。戦闘は勿論ありえないし……) なあ」
「何かしら?」
「君達はよくここにいるのか?」
「…………まあ、そうね。この海域を任されている艦娘だから」
「そうか。私はここをたまたま通りかかっただけなんだ。君達と戦う気なんてない。どうだろう、どうか見逃してくれないか?お互い無益な争いは嫌だろう?」
私の提案には流石に困ったようで、6人は互いに顔を見合わせた。
「見逃す……のか?Romaさん」
「そうね……戦う意思がない相手を殺す趣味はないわ」
「賢明な判断かと」
「そうですね。私たちも戦いが避けられるならそれが一番ですし」
「逃してくれるのか!?」
「ええ。でもさっさとこの海域から出て行きなさい。次会った時、同じようにするとは限らないから」
「………恩に着る」
深々と頭を下げて、私はすぐにその場を去った。そして、彼女らの姿が黒い点になり、やがて全く見えなくなったのを確認してから、無人島へ戻った。
[同時刻]
〈○△鎮守府〉
自分で言うのは何だが、僕はその辺の医者とは比べものにはならないほどの名医だと自負している。それは実戦経験と手術の精度やスピードから判断している。士官学校時代から周りからもその才だけは高く評価されていた。
手に取るように症状が分かる。縫合も切開もカテーテルも、テストの答案用紙に自分の名前を書くように丁寧にかつ簡単にできる。セカンドオピニオンだとか、特効薬の開発などは必要ない。全て僕の診断と治療で終結する。
人の身体は熟知した。それは確かなことだ。しかし、対照的に分からないものがある。それは"心"と呼ばれる正体不明の器官だ。
「さて長門くん」
気まずそうに目を逸らす彼女は、突然僕の元へ相談に来た。僕には到底解決し得ない悩みを抱えて。
「休暇が欲しい、と?それも艦娘全員に?」
「はい……」
いつになく覇気がない。あの威厳と豪傑の風格と実力を持つ彼女らしくない、頼りなさと疲れを感じる。
隣には困ったように微笑する陸奥の姿もある。彼女の付き添いで来たのらしいが、とうとう二人して困り果てているようだった。
「理由が知りたいな。大規模作戦前、確かに休養は必要だけど、全員いっぺんに休暇というのは……」
「疲労が問題ではないのです、黒崎提督。我々には心を休める時間が必要なのです」
「(心を休める……?)というと?」
「………前任提督が殉死したことに立ち直れていない艦娘がいます。黒崎提督が着任し、通常任務に戻ったものの、未だ心の整理がつかないままに日常に戻ってしまったので……」
「はあ…………」
何とも、雲を掴むような話である。まるで具体的ではない。心とかいう曖昧な定義のものに、休養とか整理とか、哲学の問答をしかけられているのだろうか。
精神的(これもかなり曖昧な言いようだが)休息が必要なのはまだ理解できるが、それにしても全員が全員心に限界がきているのだろうか。或いは別の問題か。
「心の疲労………」
「はい?」
「他者の心の状態がどうして分かるのか。戦績報告に来る艦娘は皆そんな素振りは見せなかった。無機質な反応だが……」
「そうですね………それはまあ………」
「………」
なんだ、妙に歯切れが悪い。いつもとはまるで別人ではないか。問い詰めてやろうか。無理にでも言わせるべきかもしれない、否、確実にそうしないと僕の好奇心が許さない。
しかし、何が言いたいんだと、そう問おうとした矢先、突如として執務室の扉が開けられた。
「長門さん」
「朧?どうしたんだ?」
「実は………」
こちらには聞こえないよう長門に耳打ちすると、長門は少し目を見開いて、そして次に呆れたような顔をした。疲労の色が更に濃くなり、彼女らしからぬ憂鬱が見て取れる。なるほど、彼女の患いに関係あるようだ。
「失礼ですが、提督」
「いや、気にしないでいい。君の多忙さは僕も理解している」
「感謝します。代わりに陸奥が説明を、」
「それには及ばないよ。朧くん」
「は、はい!」
「場所はどこかね?」
〈食堂〉
要約すれば、朧が報告してきたことは艦娘同士の衝突である。そして、長門を悩ませていたのもこれだ。まるで一昔前のヤンキー高校生のような争いの頻度に、長門は対応できるわけもなかった。
今回の争いは霞と潜水艦たちだ。正確には朧が霞を擁護していたので多勢に無勢とはいかなかったようだが、それでも我々が到着すると泣きはらした霞が地面にへたり込んでいた。そばには潮の姿もある。
長門と共に現れた僕の姿を見たその場にいる艦娘たちは一瞬間顔を強張らせた。明らかに、「来て欲しくない奴」を認識した時の顔だ。悪戯がバレてしまった子供のような焦りと不安を感じているようだ。
最初に話しかけてきたのは鳳翔だ。なるほど彼女なら場を収めることも容易いのかもしれない。
「提督、何故……」
「何やらハプニングが起きているようじゃあないか。いやはや水臭いなぁ!僕を差し置いてみんなでワイワイ盛り上がって!」
「ええと…提督がわざわざ来ていただくまでもないことですから、執務を続けなさって構いませんが……」
「おいおい、せっかく来たってのにまるで追い出したいみたいな言い方だなぁ。あんまりじゃあないか、鳳翔くん」
「す、すみません。そんなつもりは……」
鳳翔が取り繕おうと言葉を選んでいるのを無視して、件の霞のそばによる。目元がやや赤い。あまり話したことはないが、気の強い少女だった気がする。もっとも年頃の多感な女の子の気持ちを推し量る気量はないから、やはり確信はないが。
「何があったんだい?霞くん」
「……………」
「沈黙か。うーん、まあ、ある意味最適解ではあるけれど、こっちとしては困るよなぁ」
「…………別に、何も」
「何もってことはないだろう。どんな些細なことでもいい、言ってみればいいじゃないか。艦娘の内情に首を突っ込むつもりはないけれど、しかしこういう機会は逃したくないんだよ。相互理解のためにもね」
「…………言いたくありません」
「マジ?そしたら誰に聞けばいいんだ?ん?潮くんか?」
「わ、私ですか?」
「潮は何も知りません。……もういいでしょ、どっか行きなさいよ。あたしたちの問題なんだから」
「えー、しーりーたーいー。どうしてもダメー?なんかケチくさくなーい?」
「(ウザ……)」
すると、潜水艦たちが深く溜息をついて言った。
「身の程を弁えないからいけないんでち」
「ん?」
「………」
「ちょ、ゴーヤちゃん!」
「まるで自分も反省してる、みたいな態度をとっているけど、それでもやったことに変わりはないんでち。それなのに、いきなり逆ギレされても困るでち」
「確かに………今回はそちらに非があるかと」
「8ちゃんまで!」
「おやおや、一体………」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
[十数分前]
「それでさー、あら?」
「あ、ゴーヤちゃん」
「お疲れでちー。8ちゃんと19もいるでち」
「お疲れ様です」
「お疲れなのー」
「遠征だったの?」
「はい。少し遠い海域で、しかも今日は海の中の視界が悪くて………」
「そっか。これから大きな作戦もあるっていうし、資源は確保しないとだからね」
「あたしたちも、今日は遠征尽くしだったわ」
「互い苦労が絶えないでちね」
「せめて大本営からもう少し資源が配られてもいいと思うのね」
「それはまあ、仕方のないことだよ」
「ええ。………これから、あの新しい提督と一緒にやっていきましょう」
「そうね……といっても、あの提督特に何もしてないけどね」
「明らかに向いてないでち。白衣着てたらしてとても提督には思えないでち」
「でも、前もあたしたちだけでやってきたようなもんだし、大丈夫でしょ。提督がいなくてもやっていけるわよ」
「…………」
「…………」
「…………」
「ま、まあ、今の提督も、提督なりに頑張ってると思うよ!霞ちゃんも、提督がいればもっと上手くやれると思うでしょ?」
「別に。まあいてもいなくてもどっちでもいいわ。前もそうだったし、その前も………」
「………」ガタッ
「え?」
「………」ガタッ
「………」ガタッ
「ど、どうしたの、3人とも……」
「……………気に入らないでち。まるで反省の色がないというのは、見ていて不快でち」
「………は?」
「多少は改善されるかと思いましたが、こうも意識が低いとは……」
「一緒にいたくないのね」
「ちょ、ちょっと3人とも……」
「はあ?別にこっちが悪いわけじゃないでしょ。前の提督が殉死して、少し罪悪感を持つのは分かるけど、だからといってあいつらへの憎しみが消えるわけじゃないし。いない方がお互いのためでしょう」
「宮本提督は、最後までみんなの為に頑張っていたはずでち」
「で?その頑張りが何になるっていうの?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「それでかっとなってゴーヤくんが突き飛ばして、負けじと霞くんも平手を……」
「双方、謝りなさい。手を出したのならお互いに非があります」
「……………ごめんなさい」
「……………すまなかったのね」
「すみませんでした」
「……………こっちこそ悪かったわ。ごめんなさい」
鳳翔のおかげで、四人は形だけかもしれないが、一応仲直りできた。喧嘩両成敗とは英断である。ここで是か非かを裁くのは、彼女らの未熟にとっては酷であろう。
しかし、それよりも気になることがある。おそらく僕の視点からは、最もそれが重大な要素を含む内容であり、彼の親友である以上、知るべきことがある。
「仲直りは結構だけど……少しいいかな?」
「なんでしょう?」
「君達と宮本くんって………何かあったの?」
[夜]
〈無人島〉
空気が乾燥しているからか、はたまた北方海域ではよくこうなるのかは知らないが、綺麗な夜空が広がっていった。無数の星に、楕円形の月。視界一杯にそれらが広がると、まるで夜空に落っこちているような幻覚を感じる。
僅かに回収できた資源を運び終えると、軽巡は少しだけ険しい顔をして言った。
《いよいよ、中枢を蘇生させるわ》
「……そうか」
集めた資源の数を鑑みれば確かに、今回のでようやく必要な量は集まった。私自身、蘇生の成功例であるから期待はしている。しかし果たして正しい判断かと言われれば、疑問の余地があるのを隠せない。
もし中枢が目覚めなかったら、と思うと、叫びたくなる。悪い考えを消し飛ばして、ポジティブに発想できればどんなにいいか。こういう時、私はいつも悪いことを優先して考えてしまう性分なのだ。
《気持ちはわかるわ……。私も怖い。失敗が怖いというより……失敗した後、上手くやっていけなかったらと思うと、前に踏み出せなくなる》
「だが、何かしなければ始まらない」
《そうね。上手くいくことを願いましょう》
例の水槽の部屋は、大量の資源が運び込まれており、洞穴特有の匂いに加え、オイルの匂いも混ざっていた。今にも動き出しそうな、しかし今のままでは決して動かない中枢たちは、巨大な水槽の中に浮かび、その復活の時まで未だ沈黙を保っている。
いつかの、彼女の顔を思い出す。笑顔も泣き顔も照れた顔も疲れた表情も、ありありと思い出せる。他の者もそうだ。最初は敵と思っていた自分が不思議なくらい、私は確かに彼女らに再び会えることを願っている。また、あの顔を見たい。その一心である。
《始めるわ》
《ヲ》
「ああ」
水槽のそばの精巧な機械を操作し、ヲ級は水槽の中へと次々に資源を投入した。それは酸に入った肉片のように、たちまち溶け出し、やがて消えた。原理仕組みは全く理解できないが、しかし二人の懸命な作業には、緊急の患者の手術を行う外科医のような、手に汗握るものがあった。
私にできるのは資源回収までだ。私にできるのは祈るだけだ。
《宮本》
「なんだ」
《…………きっと上手くいくわ。少なくとも私はそう思ってる》
《ヲヲ!》
《そうね、貴女もね。ふふ》
「……信じてるさ。絶対に成功する」
その時だった。
「……………ッッ!!」
突如、全身を、心身を悪寒が駆け巡った。
鳥肌が立ち、冷や汗が噴き出す。背後に感じる絶対の敵意と脅威の気配を、深海化の影響か、それとも軍人としての性質か、私は気のせいと思い込まないほどに感じ取ってしまった。冷たい刃をぴったり背中につけられたような気分だ。殺気だけで人が殺せるのなら、私は既に死んでいるだろう。
軽巡たちは気づいていない。必死に作業に取り組んでいて、さっきの発言以来こちらには目もくれずに黙々と行なっている。私だけだ。無人島の外、すぐそこまで敵が来ているということを知る者は、幸か不幸か私だけだ。
私は黙って外に出ることにした。彼女らの作業がいつになれば終わるのかは知らないが、この敵がその間に仕掛けてこないはずがないのだから。
〈無人島 近海〉
昼間見た艦娘たちが、そこにはいた。
夜空は未だ爛々と星々に輝いている。月も表面がくっきり分かるくらい照らされている。風はなく、雲もなく、そして私にはもう戦う以外の術はなかった。背水の陣、どころか、私は心臓を掴まれたようなものなのだ。
「こんばんは、昼間のお兄さん」
ピンク色の髪の駆逐艦が、捕らえた獲物を見るかのような不敵な笑みを浮かべて言った。私の状況を十分理解した上で、もうこいつには後がないことを分かった上で、そう言うのだ。
「尾けて……いたのか」
「まあね。一度逃した振りをして、しっかり後を追っていたの。遮蔽物のない海とはいえ、完全に隠れられないとは限らない。波に紛れた上手く身をこなせば、尾行くらい簡単だよ」
「凄いな。いや、本当に感心するよ。相当な手練れとみえる」
「練度だけならそうね。貴方一人くらいなら簡単に倒せるわ。………いえ、あの島一つも容易い」
「………やれやれ、困ったものだ。タイミングの悪さといったら………」
「貴方にはここで沈んでもらうわ。そしてあの島は私たちがいただく。あそこに何があるかは知らないけど、どうも私の直感が囁いているのよ。見逃してならない者がいる、って」
「それが私か?」
「さあ。でも、敵なら結局殺すしかない」
艤装を実際に使ったことはない。試し撃ちは幾度かしたが、的に当てる練習ができるほどの資源は当然なかった。そんな状態で相当な練度の艦娘を6人………勝てるわけはない。ならばせめて刺し違えてでも深傷を与えるだけでも……。
「この人数で寄ってたかって……というのは流石にあれね。過小評価しているわけではないけど、私一人で行かせてもらうわ」
戦艦の艦娘……名はRomaと言ったか。名乗りを上げると静かに艤装を展開した。月夜に輝く砲身と美しい毛並みは、艦娘としての品格を表すと同時に、命を刈り取る死神のような気迫を感じさせた。強い弱いの問題ではなく、戦いになるのか、という点から既に力の差が大きすぎた。
「やるしかないか……」
「みんな手を出さないで頂戴」
五人が離れると、なんの合図も予兆もなく戦いは始まった。
Romaは瞬時に砲身をこちらに向け、掛け声も何もなしに、ただ大きく目を見開いてそれを放った。目にも留まらぬ速さで撃ち出されたその砲弾は、真っ直ぐ私の腹部目掛けて突っ込んでくる。
「ぐあああッッ!!」
「………」
条件反射で、無意識に艤装で腹部と顔をガードした。しかしかわりに艤装は衝撃で爆発した。爆発による痛みなど経験はあるはずもなかったので、この未知の痛みは相当効いた。痺れと信じられないのほどの熱、そしてそのすぐ後に腕全体に現れた鈍痛が、腕だけではない、まるで水の波紋のように全身に流れた。
腕が取れたと思ったが、私の腕は焼け焦げながらもまだ繋がっていた。艤装がバラバラと崩れ落ち、黒ずみ血が絶え間なく流れ出る肉が見えた。情けない悲鳴を上げそうになりつつも、歯を食いしばって耐える。
「まず一つ」
「くっ………!」
「貴方の艤装を一つ一つ壊していきます。すぐにとどめを刺すより、確実に攻撃の手段を消してから始末するということです。我ながら慎重過ぎるとは思いますが」
「ッ…………そう上手くいくわけはないッ!!」
がむしゃらに左手の艤装を向け、煙で相手が見えなくなるまで撃ちまくった。反動で腕はさらに痛むが、使えなくなる前に攻撃するしかない。
しかしそう思った束の間、次は背中を砲撃された。
「があああああッッ!?」
「今度は対空砲です。………鈍いですね。背後に回ったのすら気付かないなんて」
「ゴホッ!ゴホッゲホッ!!………ハァ……ハァ………」
「………杞憂だったのでしょうね」
私が蹲っている間、たっぷりと装填の時間を確保したRomaは、さらに両足を撃った。一度死んだ私でも、すべての攻撃が死ぬほど痛い。というか、もう既に四肢は使い物にならない。まともなのは左腕だけだ。それも辛うじて、だ。
戦いの最中、人はアドレナリンが分泌されて痛みがある程度緩和されるのだとか。しかしこの痛みは戦意を吹き飛ばし、命を手放したくなるような威力を持っている。既に降伏の態度を示す手段もなく、壊れた人形のように私はこの肉体を動かすことはできなかった。
「もう左の艤装はいいです。……………私の予感はあてになりませんね、学びました。それにしても、よくまだ沈みませんね。いくら艤装で防御したとはいえ、なかなかのタフですよ」
「ハァ……ハァ………」
「いや……もう耳が聞こえていないのですか………。なら、いっそ全てを閉じてあげましょう」
耳からはくぐもった音しか聞こえない。視界もぼやけてきた。腕にも足にも感覚がない。蝋人形にされたかのように、私は私のほとんど全てが機能していないことを感じた。そして、すぐそこまで差し迫っている確実な死を感じ取った。
私は、再び死ぬのだ。一度目は艦娘のために、二度目は深海棲艦のために。一度は深海棲艦に殺され、二度目は艦娘の殺されるのだ。なんという皮肉だ。助けたい者は守れず、どころか敵として始末されてしまう。私の正義は、信念は、生きる意義は、いつだって無慈悲に剥奪されるのだ。
Romaが何か話しているが、それを聞き取ることはできなかった。ここまでかと思った時、私はふと、少し離れたところにいる五人の姿を見た。そして不思議なことに、この五人の声が、そばにいるRomaの声より鮮明に聞こえたのだ。
「でも、不思議ですね。まだあの島に深海棲艦が生き残っていたなんて」
「ああ。少し前にRomaさんたちがぶっ潰したんだろ?」
「そう聞いてるよ。運良くその時はいなかったのかな?」
「なんにせよ、もう仲間は始末されてんだ。どの道生きててもしょうがねぇ」
瞬間、言いようもない怒りが怒涛のように私のうちに沸き起こった。
火山の噴火……どころではない。全ての感情が怒りに変貌し、全身の筋肉が硬直した。血管が浮き出るのが自分でもわかる。無力な手足の痛みは怒りとともに霧散した。感情の慟哭が、無音の叫びとなって体内を駆け巡った。
こいつらが、こいつらが皆をやったのか。こいつらのせいで、罪なきものは命を落としたのか。そしてあわよくば、その残滓すら刈り取ろうというのか。
許すまじ、許すまじ。決してこの不条理を許すまじ。この理不尽を許すまじ。私は、こいつらを全イン始末シテヤル。
「………げろ……」
「え?何か言ったかしら?」
「逃げろって言ったんだ…………死ニタクナカッタラナ…………」
[視点変更]
何を言っているんだ貴様は、と口に出そうとした瞬間、ほんの瞬きほどの一瞬の内に、目の前で蹲っていたその男が消えた。そんなスピードで動けるはずがないのに、執拗に機能を破壊した手足しかないのに、悉く消え失せた。
「な、」
「え!?」
「消えた!?」
「なに!?」
「ど、どこにっ」
五人も同じ反応だ。その移動を捉えた者はいない。砲弾程度なら見切れる自分たちが、この鈍重な艤装と同量の装備を身につけた取るに足りない敵を、見ることができない。
凍り付くような恐怖が、心身を蝕んだ。どこにいるかわからない、そのことが悪寒を蛇のようにまとわりつかせる。見えないということが、正体不明の気色悪さを肌に擦り付ける。何より、六対一で、この有様という事態が、恐ろしい。
「Roma!」
「!」
「どこに行ったんですか!敵は!」
「あ……ああ……その、分からないわ……。いや、本当にわからない………」
「は!?」
「わからないのよ……!どこにいるのかッ……………」
周囲を見渡す。遮蔽物無し。霧無し。視界良好。しかし敵を確認できず。突然に消えてしまった現象、あくまで"敵が消えた"だけなのに、その存在感がすぐそこにあるかのような違和感が、どうしようもなく恐ろしい。
「なるほどな…………」
「「「「「「!?」」」」」」
声はゆったりと、落ち着いた響きを持っていた。戦場に相応な、雄叫びや悲鳴といった荒々しい要素を含まない、平穏なトーン。それが先程で目の前にいたはずの敵のものだとはすぐに分かった。
すぐさま声の方を向くと、10メートルほど離れたところで、腰に手を当てて観察するようにこちらを見ている奴の姿があった。しかし異質なのはその容貌。先程とはまるで別人である。神は白く瞳はより深紅の輝くを放ち、白い軍服のような(あくまで日本海軍のものに似ているというだけだが)服装だったのが、今では漆黒の軍服に変容している。壊れた艤装はどこかに捨てたのか、奴は丸腰であった。しかしそこには、ある意味重量感を持った敵意が感じ取れた。
「あ、貴方………」
「ん………これは中々……いいものだ……」
「え?」
「何を……言って……」
「今までの私は無力だった。誰かのために頑張っているつもりで、己を信じていた。だが、結局私はいつも守られてばかりだ……」
「は………?」
「口先だけの愚か者だった……男の首を刎ねた程度で、特攻した程度で、まるで役に立ったような気になっていたんだ」
「何を言ってるんですか!貴方、一体」
「しかし、今は違う」
一歩を、こちらに踏み出してきた。男は戦いに高揚するわけでも恐怖するわけでもない、緊張するわけでも怖気付くわけでもない、信念と覚悟を持った、使命感とも言えるものを抱いた表情をしていた。それでいて、何者をも拒絶する嫌悪も抱いているようだった。
「私は今度こそ、私の手で私の守るべきものを守る。そうするだけの価値のある者たちを、必ず救ってみせる。それが…………この死に損ないの生きる理由だ……」
「………ごちゃごちゃうるせぇなぁ!だったらかかって来いよ!この白黒野郎!!」
「下がって!嵐!」
「ああ!?姿が変わったくらいでびびるこたぁねえぜ!丸腰に変わりないんだからな!」
嵐は目の前の異常性をいち早く排除しようとした。艤装を構え、凄まじい速さで間合いを詰めると、およそ距離5メートルの辺りで砲撃した。
弾丸は真っ直ぐ男の顔に直撃し、爆音と煙と衝撃波を放って爆発を起こした。あの距離は最も威力が高い位置である。通常、敵の艤装に応じて間合いに触れないよう遠くから砲撃するのが定石だが、丸腰ならそれを問題とする必要はない。
「よしっ!手応えあり!」
嵐も私たちも、そう感じ取っていた。駆逐艦の火力でも、あの距離なら戦艦でも落とせる。
しかし、
「なっ!?」
「え!?」
煙の中から出てきたものはその予想を尽くうちくだいた。
「やれやれ、どんなものかと思ったが…………やはりこの程度か、駆逐艦は」
「む………無傷だと………?」
「馬鹿な…完全に命中していたはず……」
「嵐!退きなさい!」
「わ、分かってる!こいつはとにかくやばそうだ………ぜ………」
しかし、嵐がRomaに返答するために一瞬、目を離したその隙に、確かに回避行動に移せるだけの距離を保っていたのが、腕を伸ばせば触れられるくらいの至近距離にまで詰められていた。
「(また見えなかった!?スピードというか気配というか、何か今までの敵にない不気味さを感じるぜ!)い、いつの間に……」
「嵐ちゃん!」
「へっ……武器がねぇのにどうすんだよ、コラ!殴り合いでもするってのか!」
「そうだ」
「へ?」
ベキボゴッ!!!
刹那、ほぼノーモーションで繰り出された拳が、嵐の腹部にめり込んだ。
およそ艦娘の肉体からは信じられないようなえげつなさの異音と共に、6人の艦娘の中で、敗北という存在が久方ぶりに現れた。
今年も残りわずか、地域のよっては初雪を観測し、いよいよ冬本番になってまいりました。私も、毎日手足の冷たさに苦しめられる日々です。皆さまはお元気でしょうか。最近は学業の方が多忙であり、中々書き進めることができませんでした。お待ちくださった読者の皆様方には、お詫び申し上げます。
今回はいよいよ宮本提督(正確には元提督)が、化け物と呼ばれるようになる最初の戦いに入りました。少々話が長引いているようにも思えますが、何卒広い心で読んでいただけると幸いです。
というか………、実は今年、受験なんですよ、私。来年の初めには、試験ですよ、試験。それで今は頭が一杯で、もうストレス半端ないですよ。
毎日毎日勉強勉強、勉強のしすぎで死んだ奴はいないって言いますけど、心は確実に蝕まれますね。私はあまり頭が良い方ではないので、なんだか半ば諦めの気持ちすら出てきました。トホホ。
次は2月末の投稿になるかもしれません。次回、またお会いしましょう……。
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