2020-05-28 00:06:26 更新

前書き

ちゃっちい短編です。
シリアス気味です。





貴方はずっと、嘘が下手だった。


嘘をつくや否や目が泳いで声が大きくなって、吃る。


でもそういう真面目すぎる所が私は好きだった。 


…そうね。

私は、加賀は。貴方を愛している。いつからか、私の感情は貴方に向けられるようになっていた。


貴方の指揮に、人間性に、優しさに。どれかはわからないし、そのどれもかもしれない。

貴方を好きになっていた。



だから提督。貴方に指輪を渡されて、私本当に嬉しかったわ。表現の少ない、つまらない女かと思ったかもしれないけど、心の底では跳ね回っていたのよ。


跳ね回って、浮かれて、私が私じゃないみたいだった。貴方の為なら何でも出来ると思った。その気持ちは嘘じゃないと、今でも言える。


でも、気持ちや感情だけで何かを成し遂げられるならきっとこの戦争は終わっていて。

多分、気持ちの浮つきは戦いの邪魔にしかならなかったのだ。



運が悪かっただけだと、皆言う。

貴方も、赤城さんも、五航戦の子も。


私だけが。私を赦せていない。



あの日、あの時。

あり得ないような奇襲を許してしまったのはきっとそんな私の、緩みのせい。

張り詰めた弓の弦が、心の糸が緩んでしまっていたから。


だから、かつてないほどの乱戦になった。

不倶戴天の敵である、深海からの使者との、血みどろの戦い。

それは、巻き込ませてはならない人を、貴方を巻き込む程に戦火を広げてしまった。


だから、貴方は大怪我を負った。

左腕を丸ごと喪う程の。



「なあなあ、見ろよこれ!

かっこよくねぇか!」



喪った腕の代わりにつけた装身具を、そう皆に笑いながら見せびらかす貴方は、まるで何も気にしていないようで。


顔にまで巻かれた、痛々しい包帯の印象まで払拭するくらい、あくまで明るく振る舞っていた。


彼が入院し、どこか仄暗いものがあった鎮守府の空気を、いとも容易く明るくしてくれた。彼は、帰ってきたのだ。



「いやぁ、この義手のお陰で、ちびっ子共からも大人気よ。折角なら大砲でも仕込んでくれりゃあ良かったのにな」



医療用の眼帯がようやく取れる頃、彼は私にそう言った。


ただ、その声は。私と二人の時だったからか。それとも私の思い込みか。どこか、辛そうに聞こえた。



息が詰まった。

意味のない、謝罪が喉から溢れた。


無駄な謝罪はするつもりがなかった。

すれば、彼は必ず笑って赦してくれる。

赦される事すら、私にとって赦せなかった。彼に赦される事は、赦されない。


そう思っていたのに。脳が青ざめ、口から懺悔がこぼれ落ちる。



「大丈夫、大丈夫だって。

だから、な?泣くなよ」



ああやっぱり、貴方は笑うのね。

哀しそうに。でも、笑ってくれる。



心が、脳に服従しない。いつだって冷徹に自分の事などコントロール出来た筈なのに、出来るようにしていたのに。


一番の被害者である彼に、加害者である私を赦させるなんて、させてはならなかったのに…




その時が、決定的な境目だったと思う。


私は彼の嘘がわからなくなった。


提督自身が心を偽る事が上手くなったのか、私が彼に、向き合えなくなったのか。

どちらもかもしれない。


彼が、笑う。

私が、それを聞く。

いつも通りが帰ってきてと、私の脳髄が不安感に屈する。雁字搦めのままになる。


でもそれでも、もう良いとも思っていた。


彼がまた笑い、それを見て周りが笑う。

それに変わりは無い。

その幸せな空間に代わりは、無いのだから。


身勝手で、最低でも。この罪の意識も時が風化させてくれるならそれでいいと。

自己嫌悪に苛まれながらも思った。




ある夜。


夜中に目が覚めた。



横を見ると、其処に居る筈の提督が居なかった。就寝している筈の彼が。

枕元には、義手が置いたままに。


最悪の場合が頭に浮かんで浮かんで、血の気が引く。弓だけを手に取り、部屋を走り去る。

もし、このまま彼が居なくなってしまったなら。考えることすらしたくなかった。



心配をよそに、少し探した先に彼は居た。

月光が照らす海の近く。潮が満ちた砂浜に一人立ち尽くしていた。


入水か?と、頭によぎる。

違う、違う筈だと自らに言い聞かせ、でも声をすぐにかける勇気すら出なくて、ただ遠くで見つめる。


私の事には気付かなかった。

代わりに今は無い左腕のその幻影を追うように、虚空を右手で掻いた。


月明かりが照らす、傷に塗れた貴方の顔。

その頬に一滴が垂れた気がして。



私は、提督の近くに行った。

思いやりや、優しさよりも、居た堪れなさに耐えられなくなっての行動。



(嗚呼、私はつくづく)




足音に、彼が私の、加賀の存在に気付く。




「…こんな所に、いたのね。

心配してしまったわ」



「悪い。ちと、夜風にな」



そう言う、彼の顔を見た。

薄暗い月明かりの下でならば、貴方の顔を真面に見る事が出来た。



…しまったと、言うような。君に見せてしまうつもりはなかったと言いたげな、気まずげな顔。あの事件以降、見たことも無かった顔だった。


唇を噛む。何も言えはしなかった。

何を言って、肯定されても、否定をされてもきっと私は耐えられなかった。



貴方が、その弱みを見せたくなかったのは何故?申し訳なさ、遠慮、優しさ?

それとも、恨み?


じくじくと、腐食のように心が膿んでいく。



その、言わないつもりであった感情が、何から来ているものなの。その想いは、何なの。



嘘でもいい。

一言、行って欲しい。



嘘もつけない、貴方の真面目さが好きだった。筈なのに、私は。

それなのに、私は!





(…嘘でもいい、愛だと言って)





おわり



後書き

以上です。
加賀さんとひたすらイチャラブしたいです。


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