2021-05-05 17:18:10 更新

概要

艦娘強化訓練島の日常・登場キャラクターの設定集になります。
勿論ネタバレ全開ですが、本編で触れられていない部分は伏せてあります。
彼らの過去やその後を描いた物語も載せておりますので、本編と併せてお楽しみください。


前書き

物語の流れによっては、追加・変更もあり得ます。
その場の思い付きで書いてる弊害ですね。
"飽き"とは本来、満足したからもういいやという意味なのですが・・・。
私が正しい意味で"飽き"を使える日は来るのでしょうか。


黒霧 時雨


・基本情報

呼名:くろぎり しぐれ

特徴:白い髪・紅い瞳

身長:平均より少し高い程度

体格:痩せ型


性格:マイペース・温和(冷徹・サディスト)

表と裏の二面性を持つ多重人格者。

意図的に人格を創り出すこともできる。


趣味:裁縫

細かい作業が得意。

自身が身に着けるものは全てお手製。


嗜好:黒いもの

苦手:騒がしい場所


所属:魔王の懐刀

役割:暗殺・諜報

自称:僕


種族:魔族<黒霧の一族>

暗殺を生業とする一族。

神々との聖戦の果てに滅んだ。


能力:凶化

始祖の血を覚醒させ、肉体に秘められた力を解放する能力。

代償として始祖の残虐性と闘争本能が呼び覚まされる。


能力:原初の霧

万象の素である原初の霧を操る能力。

世界の始まりに関係する能力のひとつ。

<創造>

原初の霧から万物を生み出す。

但し、構造を完全に把握しておく必要がある。

<崩壊>

万象を原初の霧に還す。

魂や時間といった概念も、その例外ではない。

<再構築>

崩壊させたものを再び創造する。

構造の解析目的で行われることが多い。

<強化>

擬似筋肉を創造し、身体能力を向上させる。

状況に応じて肉体の性状を変更できる。

<恩恵>

原初の霧を他人に分け与え、能力を授ける。

原初の霧の譲渡には粘膜接触が必須となる。


武具:妖刀<烏羽玉>

自ら所有者を選ぶ、黒霧の妖刀。

始祖の魂が封じられている。


装束:黒外套・仮面

任務中は仮面を着ける。

原初の霧による分身を創る際に構造を簡略化する目的があるらしい。



・たとえ僕が僕でなくなったとしても


黒霧という一族は血脈を守ることに囚われた一族だ。

始祖を崇め、始祖と同じ高みに行き着くことを目指していた。

だからこそ隠れ里に暮らし、不純な血が混じることを防いでいたわけで。

その結果、黒霧時雨は産まれた。

黒霧の歴史上、最も始祖に近き暗殺者と謳われた僕が・・・。


そもそもの話。

黒霧の一族はどのようにして興ったのか。

それを語るには神話の時代まで時を遡る必要がある。


神話の時代。

それは現在に残る、若しくは過去に存在した一族の始祖達が覇を競い合った時代。

黒霧の始祖もまた、争乱の中に身を置く雄のひとりだった。

長老の口伝を鵜呑みにするならば、彼は相当に残虐な暗殺者だったらしい。

依頼さえあれば女も子供も躊躇無く斬り捨てる。

そんな彼の在り方は暗殺者の鑑として黒霧の里に語り継がれていた。


まぁ、それはそれとして。

生命を狩ることを生業とした彼も、終には生命を育むことになる。

恋をしたのか、将又されたのか。

今となっては、その結果しか判らない。

それにしても世界最高の暗殺者と謳われた彼を堕とすだなんて・・・。

どんな女性なのだろう。

一度、会ってみたいものだね。


黒霧の始祖は三人の子を成した。

それが男なのか女なのかは判らない。

何たって、彼に関する文献は一切遺されていないのだから。

而して、確実に言えることがひとつある。

それは彼の暗殺術がその子らに受け継がれたということだ。

今の黒霧に伝わる技術を彼らは父たる始祖から学んだ。

研鑽を積み、己の技術へと昇華させ、それぞれの道を選び取った。

そして彼らも子を成し、黒霧の血脈は世界中に散りばめられていった。


幾世代かの時が流れた頃。

始祖の血を継ぐ者達、つまりは黒霧の祖先達にある異変が起こる。

始祖の血を継ぐ証である能力、"凶化"を使えない子供が産まれたのだ。

我らが祖先は相当に慌てふためいたことだろう。

何せ凶化は、血の繋がりを証明する能力なのだから。

この子は誰の子だ。

誰と浮気しやがった・・・なんてね。

まぁ、実際は誤解もいいところだったわけだけど・・・。


凶化が受け継がれなかった真の原因は、始祖の血が薄まったことにあった。

黒霧の暗殺術は確かに受け継がれていた一方で、暗殺者としての質が落ちていたことから何処かの誰かが気付いたらしい。

そういう技術があることは知っているけれど、誰も使える者が居ないのは何故か。

そうか。

始祖の血が薄まっているからだ・・・と。

実に安直な発想だ。


発想基の正誤がどうであれ、彼らは問題解決の糸口を確かに掴んでいた。

血が薄まってしまったのなら、もう一度濃くしてやればいい。

黒霧の血を継ぐ者同士で契り、その子らをまた契らせる。

これを繰り返していくことで我々は再び始祖に近づけるのではないか・・・。

何度でも言おう。

実に安直な発想だ。


而して黒霧は、こんな莫迦げた議論の御蔭で一族の形を成すことになった。

それが良いことなのかどうかは判らない。

だけどひとつだけ、確かに言えることがある。

それは、かの先人達がこの答えに行き着いていなければ、僕はこの世界に存在すらしていなかったということだ。


僕が産まれてきたということ。

当の本人である僕からすれば、それは感謝しなければならないことなのかも知れない。

だけど黒霧の、一族としての在り方には色々と物申したいことがある。


先にも話したとおり、黒霧には血脈を守る為に一族の中だけで契るという掟がある。

それは黒霧が一族としての形を成した時から継承されている掟だ。

而してその一方で、変化した掟もあった。

まぁ、変化と言うよりは追加と言ったほうが正しいのかも知れないけれど。


黒霧の悲願は、始祖と同じ高みに到達することだった。

それを達成する為には、とにかく始祖の血を濃くしなければならない。

更にそれを達成する為には、とにかく大勢の子孫を残さなければならない。

更に更にそれを達成する為には、とにかく数を・・・もういいや。

そんな議論の果てに、この掟は追加された。


契る男女は里長たる長老が決定する。

最低ひとりの子を成すまでは毎夜契ること。

また、産まれた子は専任の者に預け、教育を施すこと。

存分に産み増やしなさい。


要するに・・・。

子供の世話は任せろ。

後先考えずに産みまくれ!

・・・とまぁ、そういうことだ。

だから僕は思う。

親と子の絆を軽んじるな・・・と。


黒霧の子供達は自分の親を知らない。

里に居る大人の誰かとまでは判るけれど、それ以上は調べようがない。

何しろ、親のほうだって自分の子が誰かなんて把握できていないのだから。


黒霧の親と子は産まれたその日から離れて暮らすことになる。

産まれた許りの赤子の顔と、成長した子供の顔。

一致するわけがない。

中には判る者も居るみたいだけど、それを証明するものは何も無い。

あの子供達の輪の中に自分の子が居る。

親はそう信じ、ただ見守ることしか許されていなかった。


何故、親と子を引き離すような掟をつくったのか。

それは多分、家庭毎に色を着けたくなかったからだ。

子供の教育を各家庭で行えば、その家の色が出る。

家系的に得意なこと、不得意なこと。

その差を生みたくなかったのだろう。

暗殺者としての質を落とさない為に・・・ね。

だって人は、教えられてもいないことをできるようにはならないのだから。


親ができないことは子もできない。

教えることができないからね。

そうなってしまうと、技術は廃れていく許りだ。

黒霧が一族の形を成す前の時代。

暗殺術が廃れていったのも、それが原因なのかも知れない。


皆が一様に技術を学ぶ機会を得る。

それは良いことだ。

その中で大成する者、落ちぶれる者が出てくる。

而してそれは暗殺術に限った話であって、落ちぶれた者でも何か他に才能を備えているかも知れない。

別の道を模索することで、皆に誇れるような才能を開花させる者が現れるかも知れない。

黒霧にさえ、産まれていなければ・・・。


黒霧の一族は暗殺を生業とする一族だ。

時に悪を挫き、時に正義すらも狩る。

そうして自らの生を繋いでいる。

黒霧にとって暗殺術とは、正に生きる術であり、その才能が無い者は生きる価値が無いとまで言われる。

運悪く、若しくは血の組み合わせが悪く、暗殺術の才を持たずして産まれた者は里中の者から誹られ、排斥される。

僕の双子の姉もそのひとりだった。


違和感を覚えたのは、暗殺術の稽古が行われるようになってすぐのことだった。

皆が僕に向ける視線と姉さんに向ける視線が明らかに違っていた。

姉さんは莫迦だから気付いていなかっただろうけど、あの視線は相当にまずいものだった。


黒霧の里では突如として子供が居なくなることがある。

大人達は"神隠し"だ、なんて言っていたけれど、それが嘘だということくらい子供ながらに判っていた。

何しろ消えた子供達は皆、暗殺術の稽古で才能が無いと判断された者だったのだから。

いずれ、姉さんも消されるだろう。

だから僕は、姉さんの側を離れなかった。

片時も、一瞬だって離れなかった。

力や技術では大人達に敵わない。

だけど僕には、"崩壊"の能力がある。

直接触れずとも万象を崩壊させるこの能力は、数々の死地を経験している大人達にとっても充分に脅威なはずだ。

姉さんに近寄る奴は消す。

そんな瞳で周りの連中を睨んでいた。


暫くして、僕と大人達との静かな闘いは人知れず幕を閉じることになった。

というか、そんな闘いの幕は上がってすらいなかった。

どうやら姉さんは神隠しの対象でなかったらしい。

確かに暗殺術は全く習得できていないけれど、武術には優れていたから。

神隠しの条件は、戦力として期待できるかどうかだったみたいだ。

やれやれ。

今までのことが全て僕の独り相撲だったとは・・・。

笑えないよ・・・まったく。


そんな僕の様子を微笑みながら見守る女性が居た。

多分、僕達の母親だ。

姉さんが組み手で無双している時。

僕が姉さんを護ろうと必死になっている時。

彼女は必ず僕達を見守ってくれていた。

遠く離れた所から、そっと・・・。

僕はそれに気付いていたし、彼女もまた気付かれていることに気付いていた。


どうして彼女は僕達が自分の子だと判ったのだろう。

そんなことは誰も疑問に思わない。

だって、僕達の世代に双子の姉弟は一組しか居ないのだから。


母は僕達を誇らしく思ってくれていただろうか。

暗殺術はさっぱりでも、黒霧随一の体術使いである姉さん。

何でもそれなりにこなす僕。

母の顔を見れば、その答えは自ずと伝わってくる。

母の瞳に期待の色は無かった。

ただ無事に、健やかに育ってほしい。

そんな想いが伝わってきた。

而して、その想いが報われることはない。

裏の世界で生きる者に、平穏は似合わない。


暗殺者の一族として名を馳せる黒霧に持ち込まれる依頼は面倒なもの許りだ。

何処に潜んでいるのかも判らない者の暗殺。

超厳重な警備の中に居て猶、警戒を怠らない小心者の暗殺等々・・・。

実力や能力に応じて、その依頼は一族の誰かに割り振られる。

従って、潜入を専門にする者だったり、陽動を専門にする者だったり・・・。

ある程度、受け持つ依頼に偏りが出てくる。

僕が主として任されていたのは単純に強い奴の暗殺と厳重な警戒線が敷かれている状況での暗殺だった。


闇に紛れ、標的に気付かれることなく生命を狩る暗殺者は、正面切っての戦闘が苦手だったりする。

だから、姉さんは例外として、仮に一対一の状況になったとしても、正々堂々には程遠い戦法をとることが多い。

僕自身も原初の霧で創った分身に殺気を預けて敵を惑わせるなんてことをしている。

気配に敏感な者ほど、深みに嵌まっていく戦法だ。

いやらしい奴だって?

暗殺者とは、そういうものだよ。


人は暗殺者と聞いて、どんな人物を思い浮かべるだろうか。

一言で纏めるならば、"狂人"。

これがしっくりくる。

而して、どんな暗殺者も始めから狂っていたわけではない。

誰にだって無邪気な時代はある。

嘗ての僕が姉さんと一緒になって莫迦をやらかしていたように・・・。


暗殺者は命の喪失に触れ、その果てに狂っていく。

僕に限って言えば、大人達への不信感に始まり、正義の無い暗殺に心を砕かれていった。

何故、僕は生命を狩るのか。

生きる為だ。

何故、悪の依頼で善を狩らねばならないのか。

それが仕事だからだ。

まるで記念日をすっぽかした男の言い訳みたいだ。


納得のできない返答がもたらすものは何か。

・・・破滅だ。

黒霧として成すべきことを為し続けてきた結果。

"僕"という人格は砕け散り、その欠片から新たな人格が幾つも生まれた。

意図的にも、自然的にも発生するそれは今でも僕の中に渦巻いている。

御蔭で生命を狩ることに何の躊躇いも後悔も抱かないようになっていた。

暗殺者としては最良の変化なのだろうけど、人としては終わっている。

僕の中に居る"僕"が皆、暗殺者の鑑だったなら、今此処に僕は居ないだろう・・・。


情けは人の為ならず、という諺を知っているだろうか。

訊くまでもなく知っているだろうが、この諺の意味を正しく認識している者は意外に少なかったりする。

人に掛けた親切心は廻り廻って自分に返ってくる。

そんな意味だ。


黒霧の一族は、神々との聖戦の果てに滅んだ。

生き残ったのは僕と姉さんと血の繋がらない妹の三人だけ。

而して、本当に三人だけなのかどうかは判らない。

禁じられた古代兵器によって黒霧の里は焼き尽くされ、誰の骸かも判らない何かがそこら中に散らばっていたのだから。

逃げ延びた者が居るのか、或いは全滅か。

正直、僕にはどうでもよかった。

黒霧という一族には何の思い入れも無かったから・・・。


ところで、どうして僕達は生き延びることができたのだと思う?

それは僕の中にまだ暗殺者らしからぬ人格が残っていたからだ。


神々との聖戦が始まって後、僕は単独での任務に勤しんでいた。

世界樹の聖域へ赴くこともあれば、神々の住まう天上へ潜入したこともあった。

そして刃を振るい、生命を狩った。

それも大して戦う力を持っていないような弱き者許りを・・・。


そんな時だ。

僕は天上の牢獄で彼女を見つけてしまった。

態々手を下さずとも勝手に逝ってしまいそうなほどに憔悴した彼女を。

地を這い、力無く手を伸ばすその姿は、いつか姉さんが話していた古井戸の怪そのものだった。


僕は彼女を保護し、里へと連れ帰った。

そして娘を可愛がるかのように世話をした。

着がえの手伝いから食事の面倒、入浴の補助まで。

後は、リハビリの監督なんてことも。

娘として少女を養育することは、僕にとって初めての経験ではなかった。

だけど、彼女の相手をするのは何と言うか、面倒だった。

自分の意志で行動しないからだ。

決して、できないわけではないのに・・・。

自己主張の強いあの娘とは正反対。

為すがまま、為されるがまま・・・。

まるで幼い頃の僕を見ているようだ。

子供はある程度、我儘なほうがいい。

僕は改めてそう思った。


今回のことは、決して彼女の為を想ってしたことではない。

何なら自己満足の為と言っていい。

だけど、結果的に彼女は僕に親愛の情を抱いてくれた。

情けは人の為ならず、と言ったね。

僕にとっては彼女が、正しくその言葉を体現する存在だ。


黒霧の一族が滅びたその日。

僕と姉さんは確かに徒花を散らした。

姉さんは、その身体が射貫かれることも厭わず敵陣へと突っ込んで・・・。

僕は彼女の盾となり、光の矢を全身に浴びて・・・。

だから実質生き延びることができたのは、里の外で迷子になっていた妹と僕が命を賭して護り抜いた彼女だけだった。

而して僕は生きている。

いや、正確に言えば"生きて"はいないのだけど・・・。


妹には魂を現世に喚び戻す能力がある。

その能力によって、僕と姉さんの魂は現世へと戻ってきた。

だけど、それだけでは死人を甦らせることはできない。

依代を持たない魂は、いずれ摩耗し、消滅してしまうからだ。

まぁ、依代があったところで魂の限界は高が知れているけれど。

そんな時、都合良く彼女が能力に目覚め、魂の限界という問題は解決された。

僕と姉さんの魂から時間の概念を奪うことによって・・・。


そんなこんなで僕と姉さんは二度目の生を受けた。

しかも僕の魔力が尽きない限りは永久に不滅なんて肉体で以て。

こんなことを望んだ憶えはないけれど。

世界の理に反しまくっていることだけど。

ふたりのその不細工な顔を見てしまったら、もう何も言えない。

まったく、元は美人なのに・・・。

思わず、笑いが溢れた。

それを彼女達が見逃すはずもなく、泣きながら怒られてしまった。


僕の中には様々な人格が渦巻いている。

肉体を共有している状態にある姉さんが、その内のひとつだ。

他にも・・・。

姉さんを愛し、またとある女性を愛するオリジナルの僕。

暗殺者として、躊躇無く刃を振るう僕。

恐怖、絶望、悲哀に歪んだ表情に興奮を覚える僕。

なんてものがある。

これら全てが、僕というひとりの魔族の中に息づいている。


きっと僕の中の僕は、これからも増えていくだろう。

何せ僕は、人格の創り方は知っていても人格の消し方は知らないからね。

まるで人格の坩堝だ。


時が経てば経つほどに、僕は僕でなくなっていく。

それは身を以て実感していることだ。

その度に思い出すのは、何の為に闘っているのかということ。

僕の原点。

決して失ってはならない大切なこと。

それは、"護る為に闘う"という信念。

たとえ僕が際限無く生まれ続ける僕に押し潰されようとも、これだけは変わらない。

きっと・・・多分。



・・・たとえ僕が僕でなくなったとしても ~完~



黒霧 茜


・基本情報

呼名:くろぎり あかね

特徴:白い髪(腰程度の長さ)・紅い瞳

身長:女性の中では高め(時雨とほぼ同じ程度)

体格:痩せ型(グラマラス寄り)


性格:武士道・戦闘狂(泣き虫)

我が道を行く阿呆。

精神的に打たれ弱い。


趣味:鍛錬

毎朝、弟を叩き起こして体術の稽古に付き合わせている。

身の回りのことはやらせないが吉。


嗜好:闘い

苦手:言葉責め


所属:なし

役割:なし

自称:私


種族:魔族<黒霧の一族>

暗殺を生業とする一族。

神々との聖戦の果てに滅んだ。


能力:凶化

始祖の血を覚醒させ、肉体に秘められた力を解放する能力。

代償として始祖の残虐性と闘争本能が呼び覚まされる。


能力:堕落

心の闇を解放し、支配する能力。

純粋な心の持ち主には効果が無い。

<闇の鼓動>

奥底に眠る欲望を解き放つ。

欲が無い者や元から欲望に忠実な者には意味が無い。

<闇人形>

欲望に呑まれた者を操る。

欲望の内容までは操作できない。


武具:徒手空拳

体術の技能は黒霧でも随一。

怪力の所為で武具をすぐに壊してしまう。


装束:黒外套・ロングパンツ

絶対にスカートは穿かない。

何故なら、恥ずかしいから。



・黒の双星


仲が良い。

人は何を以てそれを判断するのだろうか。

互いをよく知っていることか。

それとも、喧嘩をするか否か・・・。

若しや、愛しているか否か!?

・・・と、いくら私が頭を悩ませたところで答えは出ない。

そのことが判っていても、つい考えてしまう。

それもこれも全て彼奴の曖昧な態度の所為だ。


私には双子の弟が居る。

よく出来た弟でな。

姉である私を敬い、付き従う。

何時、如何なる時も・・・。

その一点にだけは私も満足している。


朝、目が覚めた時。

その時には既に朝餉の用意が済んでいる。

つくったのは勿論、私の弟だ。

丁度、私が目覚める頃を見計らって・・・。

私が身体を起こす気配を気取れば、温めた濡れ手拭を投げて寄越し、髪を梳かしに背後に回る。

一寸の無駄もない洗練され尽くした動き。

流石、飽きることなく毎朝これを繰り返しているだけのことはある。

飯も美味い。

此奴は良い嫁になるだろう。


昼、訓練の合間。

私と違って将来を期待される弟は莫迦みたいな量の訓練を課されている。

だから私は弟を引きずり回し、適度に訓練をサボらせた。

野山を駆け、魔獣を狩り、肉を喰らい、共に笑った。

普段は無表情を貫いている彼奴も私とふたりの時だけは微笑む程度に笑った。

その顔を見るのが好きで幾度となく連れ出した。

何度、大人達に怒られても・・・。

何度、兄弟姉妹に誹られても・・・。


夜、一日の終わり。

怒られて、誹られて涙を流す私と優しく抱き締める弟。

それが訓練をサボらせた夜の常だった。

一頻り泣いた後は、弟のつくった夕餉を共に食した。

時に食べさせ合いもした。

そして笑い合った。

良いものだな、姉弟というものは。

何かつらいことがあったとしても、共に支え合うことができる。

姉弟だからといって、それができない者達も居るようだが・・・。

私達は仲の良い姉弟だからな。


深夜、秘密の時間。

私達姉弟は、決まって深い時間にふたりで風呂に入った。

彼奴が私の髪を洗い、背中を流し、次は私の番・・・。

と、張り切ってはみるものの、それが訪れることはなかった。

弟は、私が背中を流してやろうとすることを頑なに拒んだ。

姉弟とはいえ双子なのだから、何もそこまで気を遣うこともないだろうに・・・。

まったく、偶には私にもお返しをさせてくれ。


深夜、温もりの時。

私達は同じ布団で眠った。

抱き付き癖のある弟を胸に抱きながら・・・。

時に抱かれながら・・・。

此奴はとても寝付きが良い。

人肌が余程心地好いのか、私に抱き付いてすぐに眠ってしまう。

しかも一度眠ってしまえば、命の危機を察知しない限りは目を覚まさない。

だから私は、好機と許りに此奴を撫でる。

そして愛を囁く。

私を護ってくれてありがとう・・・と。


護ってくれるといえば、あれを語らないわけにはいかない。

弟は常に私の側に寄り添い、周囲に睨みを効かせている。

彼奴は崩壊の権能を持っているから、大抵の者はそれで撃退できる。

だが、睨みを効かせるだけでは退けることのできない者達が居る。

その内のひとりが"紫の悪魔"だ。


紫の悪魔とは、薬の調合を生業としている紫苑の女のことだ。

偶の行商で里にやってきては、色々とちょっかいを掛けてくる。

抱き締めるのは序の口として、身体中を弄り、風呂に乱入し・・・。

挙句の果てには、弟の・・・は、初めてを・・・。

絶対に赦さん。


紫の悪魔は、私達姉弟を標的にしていた。

あれの内に在るのは純粋な愛なのだろうが・・・。

その表現方法があまりに過激。

肉体への接触、抱擁、接吻、同衾・・・。

挙げ始めればキリがない。

何故そう私達に愛を注ぐのかは判らないが、私にとってそれは迷惑でしかなかった。

恐らくは弟にとっても迷惑だっただろう。

少なくとも、他人の前では無表情を貫いていた彼奴が、その顔を顰めるくらいにはな。


紫苑の里と黒霧の里はかなり離れた場所に在る。

だから紫苑の行商隊は、幾日もの時間を掛けて里にやってくる。

仕事とはいえ、決して楽ではない旅をしている彼らを、労いもせずに追い返すほど黒霧は薄情でない。

それ故に、紫苑の行商がある時は紫の悪魔も暫く里に滞在することになるのだ。

この僅か数日の為だけに、あれは綿密に計画を練ってくる。

一寸の無駄もなく、私達を愛でる為に・・・。


私はあの悪魔に対して、これといった抵抗ができなかった。

というのも、私が暴力で以て抵抗することが判っていて策を練ってくるからだ。

対策をされたのでは、頭の弱い私にもう打つ手は無い。

だから、あれの搦手には弟が対応してくれた。

時には己を犠牲にして・・・。

而して、彼奴も永久に悪魔の相手をできるわけではない。

いずれ体力が・・・というよりは、精魂が尽きてしまう。

そうなれば次の標的は私だ。

弟を喰って、より元気になったあれに襲われる。

セクハラの枠をぶち抜いたあれの行動は、私の涙腺を崩壊させるに剰りあるものだった。


無様なものだ。

本来であれば、姉として弟を護らなければならないというのに。

その弟に護られ、挙句号泣する姿を曝してしまうとは・・・。

幻滅されただろうか。

弟の前では、威厳ある姉で居たかったのだがな。

強い姉として、弟の憧れで居たかった・・・。

が、そんな心配は無用だった。


号泣する私を見て、弟は激怒した。

静かに、だが激しく、怒ってくれた。

あの悪魔に対して・・・。

元から口数の少ない弟だから、声を荒げるでなく、暴力に訴えるでなく、濃密な殺気を浴びせて怒った。

初めてだった。

弟が本気で怒った姿を見たのは。

流石は最も始祖に近い黒霧というべきか。

ただ睨むだけで生命の活動を強制終了させてしまいそうな殺気だった。


あまりの衝撃に呼吸すらも忘れてしまったかのように固まる悪魔を他所に、弟は私を抱き締めてくれた。

その胸に私を抱き、優しく頭を撫でてくれた。


姉さんは、僕が護るから・・・。


その一言で、私は悟った。

弟にとって私は、"護るべき存在"だったのだ・・・と。

威厳ある姉だの、強い姉だのと、私は夢を見ていたようだ。

彼奴は始めから、私を姉として期待などしていなかった。

幻滅など、されようがなかったのだ。

それはそれで寂しい気もするが・・・。

私の弟は・・・こうも、頼もしかったのだな。


誰かと同じ時を過ごす。

一口にそういっても、その"誰か"が己にとってどのような存在であるかによって時間の質は異なる。

そしてそれが同じ誰かであったとしても、時間の質は変化することがある。

丁度、胸の奥に秘めた想いに気付いてしまった時のように・・・。


黒霧の里には、里長の決めた相手と契るという巫山戯た掟がある。

時が来れば私にも、何処ぞの馬の骨が宛がわれるのだろうが・・・。

案の定だった。


その夜、私は私達を姉・兄と慕う妹擬きと共に寝た。

弟は里長の決定に従って別の女の許に居るし、私はといえば相手を殴り飛ばして拒絶した。

この身体、弟以外の男に触らせるつもりはない。

今まで散々、私のことを誹ってきた奴らだ。

そんな者達に、心は無論、身体だって、許してなるものか。


私の隣りから弟の姿が消え、数ヶ月が経った。

一日一日がどうしようもなく永い。

彼奴が側に居ないというだけで・・・。

我ながら女々しいものだな。


私にとって彼奴の存在は、あまりに大きくなり過ぎていた。

それはもう、姉弟であることをやめてしまいたくなるほどに。


昼間、遠目に見る彼奴の周りには黒い靄が漂ってみえた。

心が不安定になっている証拠だ。

それは日に日に濃くなっているように思う。

私と一緒に居られない時間が永くなればなるほどに。

やはりお前も、そうなのだな。

この気持ちは、私だけのものではないのだな・・・!


そして、その時は来た。

姉弟としての関係を終え、新たな一歩を踏み出す時が。

今夜私は、一線を越える。


冷えた手が頬に触れ、唇が優しく重なる。

仄かな灯に照らされ、紅い瞳が微かに煌めく。

互いの視線は交じり合ったまま・・・。

その後のあれこれは私達だけの秘密だ。


時雨との間に娘を授かった私は、少しだけ夫婦生活というものを経験した。

身重の私の為に、時雨は色々と世話を焼いてくれた。

食事の支度やら、入浴の補助やら・・・。

いつも、どんな時も、側に寄り添って・・・。

それで気付いてしまった。

姉弟だった頃と何ら変わりないという、どうしようもない事実に。


娘が産まれ、ふたりだけの生活は静かに幕を閉じた。

一線を越えたというのに、私達の関係が・・・。

いや、彼奴の態度が変わることはなかった。

私はこんなにもお前を想っているというのに。

お前にとって私は、所詮少し仲が良い程度の姉でしかないのか?

護るべき、か弱い存在でしかないのか・・・?

確かに私は泣き虫かも知れない。

だが、私は黒霧最強と謳われる闘士なのだぞ。

組み手でも、私は負けたことがないのだぞ。

お前にだって、お前にだって・・・。

私がお前を護ってやることはできないのか・・・?

私がお前と並び立ち、対等な関係を結ぶ日は・・・。


今となっては叶わぬ夢だ。

ひとつとなってしまった私達が互いを護り合うことなど、もうできはしない。

それどころか、隣りに寄り添い温もりを与えることさえも・・・。

私はお前で、お前は私だ。

運命共同体・・・。

そう言えば、聞こえは良いかも知れないな。

別々の肉体があれば・・・の話だが。


近過ぎたふたつの星は、互いの引力で引かれ合い、ひとつとなった。

最早、双星が並び輝くことはない。

ならばせめて・・・。

お前の中で、お前の輝きを護っていたい。

それくらいのことはしてやってもいいだろう?

私はお前のたったひとりの姉で、お前は私の愛する弟なのだから。



・・・黒の双星 ~完~



黒霧 神命


・基本情報

呼名:くろぎり みこと

特徴:白い髪(ボブ)・紅い瞳

身長:女性としては平均的

体格:細身(スレンダー)


性格:青天白日・楽天家(戦闘狂・マゾヒスト)

落ち込み知らず、阿呆の極み。

痛みに快感を覚える特殊な・・・うん。


趣味:兄様探し

いつも時雨を探し回っている。

迷子になっているのは神命のほう。


嗜好:兄様

苦手:一人旅


所属:なし

役割:なし

自称:私


種族:魔族<黒霧の一族>

暗殺を生業とする一族。

神々との聖戦の果てに滅んだ。


能力:凶化

始祖の血を覚醒させ、肉体に秘められた力を解放する能力。

代償として始祖の残虐性と闘争本能が呼び覚まされる。


能力:魂の巫女

魂を自在に操る能力。

使役や精神操作は能力の範疇外。

<英霊召喚>

過去に存在した英霊を実体化させる。

但し、そこに主従の契約は無い。

<御霊卸し>

英霊の魂を肉体に卸し、能力を借り受ける。

肉体を乗っ取られないように注意が必要。

<融合>

複数の魂をひとつに纏め、魂の強度を向上させる。

融合には強い絆で魂同士が結ばれていることが前提となる。

<分霊>

魂を分裂させ、命のストックを増やす。

分霊箱に封じられた魂は、本体の消滅を感知すると近くの胎児に宿る。

<鑑定>

魂の色から系譜を大まかに判定する。

近縁か遠縁か、また無縁かの判断はできるが、それ以上の精度は期待できない。


武具:徒手空拳

体術は比較的得意。

不器用過ぎて武具が使えない。


装束:黒外套・ショートパンツ

スカートは恥ずかしくて穿けない。

でも、脚を魅せて兄様にアピールしたい。



・願い叶うまで


生物は恋をするものだ。

種族によってはただ単に子孫を残す為の感情であったりもするけれど、人間は違う。

だって、ふたりの間に産まれた子供を恋の結晶とは言わないでしょ?

人間は恋をする。

そして愛を育み、結ばれる。

それは魔族だって同じこと。

少し人間の常識から外れたところもあるけれど・・・。

これは私が恋をして、儚い願いを叶えるまでの物語。


黒霧の里には、有名な人物が三人居る。

暗殺者の才を持たずして、黒霧最強の称号を得た闘士・茜。

天賦の才を持つ、冷酷非情最凶の暗殺者・時雨。

そして、黒霧の狂犬と呼ばれた私。

奇しくも同じ世代に生まれた私達は黒霧最強の三姉妹と謳われていた。


私達の出会いは何と言うこともない、至って普通のものだった。

組み手の訓練で偶々一緒になり、姉様の気まぐれで何故か私が相手をする羽目になった。

いつもは兄様と組み手をしているのに・・・。

それが契機となって、私は姉様と兄様と深い繋がりを持つことができた。

それは感謝している。

だけど、どうして私だったのかは未だに判っていない。

だって、姉様自身が憶えていないから。

私が言うのもだけど、姉様は気まぐれが過ぎると思う。


姉様と兄様の組み手は、兄弟姉妹の中では見世物のようなものだった。

同時に始めたはずなのに、どの組よりも長く組み手をしているから。

自分の組み手を終えて、ふたりの組み手を眺めるのが私のちょっとした楽しみだった。

出鱈目な型で猛攻を仕掛ける姉様。

それを軽くいなす兄様。

そんな遣り取りが半刻くらい続き、最終的には体力お化けの姉様が勝利する。

だけど、私には兄様が姉様を勝たせてあげているようにしか見えなかった。

実際にふたりと組み手をするまでは・・・。


兄様との組み手は、何と言うかモヤモヤした。

だって、私のしたい動きを一切させてくれないから。

実力者同士の闘いでは、間合いの取り方が勝敗を分ける。

剣豪の間合いが剣の結界なんて言われるように、組み手の間合いにも絶対領域がある。

一撃必殺の攻撃を撃ち込める間合い。

普通は間合いの外に逃げる。

間に合わないなら、横にでも飛ぶ。

だけど兄様は前に出る。

その上で攻撃を躱し、受け止められる程度のカウンターを放つ。

だから、兄様の攻撃が私に中たることはない。

それと同時に、私の攻撃が兄様に中たることもない。

互いに決定打の無いままに時間は過ぎ、徒に精神だけが削られていく。

私が抱いた兄様の第一印象は、"いやらしい人"だった。


一方で姉様は真っ直ぐだった。

それはもう、気持ちのいいくらいに。

私がどう動こうが関係無い。

ただひたすらに、前へ、前へ・・・。

私は悟った。

だから兄様は姉様に勝てないのだと。

兄様のとる戦法は考えない相手には通用しない。

予想外の動きをされた時の一瞬の躊躇が、兄様の術中へと誘う片道切符だ。

姉様にはそれが無い。

強引にでも自分のペースを押し通す。

そんな姉様を相手にすれば、流石の兄様も後手に回らざるを得ない。

兄様の弱点は判った。

後は、実践あるのみだ・・・。


それから私は考えることをやめた。

元々、私は頭で考えて動くタイプじゃない。

感覚に従って動くことは容易に習得できた。

その恩恵か、反応が早くなった。

相手の動きがよく見えるようになったし、組み手の勝率も格段に向上した。

今や姉様と兄様以外には負けないほどだ。

だけど、それも今日まで。

姉様には勝てる気がしないけど、兄様には勝つ。

勝ってみせる。


・・・負けた。

普通に負けた。

・・・なんで?


それからというもの、私は幾度となく兄様に挑んでは、その悉くで敗北した。

あんまり兄様を独占したものだから、姉様に絞られたりもした。

でも、御蔭で漸く気付くことができた。

姉様と私の、どうしたって埋められやしない、絶対的な差に・・・。

姉様に較べて私は、身体がひとまわり小さい。

だから、一撃一撃が軽い。

その分、動きは速いかも知れないけど、兄様はもっと速い。

私が勝てる要素があるとすれば、耐久力くらいなもの。

だけど、攻撃が中てられないのなら、敗北は時間の問題でしかない。

勝てる道理が無いと悟ってからは、兄様は憧れの人に変わった。

勿論、姉様にも憧れはある。

だけど、私がどう頑張ったって姉様のようにはなれない。

だって、姉様はあまりに力任せ過ぎるから。

私の戦闘スタイルは、どちらかと言えば兄様に似ている。

速さで圧倒し惑わせた後、不意の一撃をくらわせる。

比較的軽いその一撃も、防御体勢が整っていないのであれば、それなりに効果がある。

まだまだ兄様には及ばないけれど、頑張れば、いつか兄様と肩を並べることができるかな。


丁度、この頃からだったと思う。

私達が三姉弟と一括りにされるようになったのは。

その理由は、単に一緒に居る時間が長いから。

正確に言えば、姉様の後ろを付いて回る兄様に私が付きまとっていただけ。

どうしてそうなったのか、そんなことは私にも判らない。

だって私は、感じるままに動く。

それだけだから。

兄様も嫌な顔をしないし、いいでしょ?

まぁ、姉様は露骨に嫌がってたけどね。


兄様への憧れが恋に変わるまで、そう時間は掛からなかった。

というか、一瞬だった。

始めは、いやらしい人なんて思っていたのに・・・。

まぁ、組み手の時は相変わらずなんだけどさ。


兄様は基本的にされるがままだ。

私が腕に抱き付いても、背中に負ぶさっても、特に反応は返ってこなかった。

髪型を弄ってみても、姉様が爆笑するくらいのものだった。

だけど、無視をされているわけではない。

腕に抱き付いた時には歩く速度を抑えてくれるし、背中に乗ったらちゃんと抱えてくれる。

その所為で、ひとり突き進んだ挙句に不機嫌になる姉様を宥めるのに苦労した。

兄様がね。


私と兄様の仲は決して悪いものではなかった。

それと同時に良いとも言い難いものだった。

だって、端から見た私達はまるでペットとその飼い主なんだもの。

私から近づいていけば、ちゃんと構ってくれる。

だけど、兄様からは何もしてくれない。

思い返してみれば、兄様の声を聞いた憶えが無い。

そんなことって、ある?


兄様は元々口数の多い人ではなかった。

ちょっと聞き込みをしてみたけれど、兄様の声を聞いたことがある者は居なかった。

多分、姉様はある・・・はずだ。

というか、姉様も聞いたことがないともなると、兄様が言語障害を抱えているのではないかと疑ってしまう。

幸い、姉様とふたりの時には一言二言程度喋っているらしい。

私には声を聞かせてくれないのか・・・と少しへこんだ。


兄様を振り向かせる為には、どうしたらいいのだろう。

よくよく考えてみれば、兄様が自発的に行動している姿を見たことがない。

姉様の後を付いて回っていることを兄様が自発的に行っていることと言えばそうなのだけど。

人の後ろを追従することが、果たして自発的な行動と言えるだろうか。

う~ん。

なんで、こんなこと考えてるんだろ・・・。


結論、私が考えても答えは出ない。

だから、この手の話に詳しいと思われる人物に師事することにした。

その人物とは、紫苑茜。

姉様が紫の悪魔と恐れる、愛の狂い人だ。

正直、彼女は兄様に歓迎されていない。

だけど、兄様に怒られた唯一の人物でもある。

兄様との関係を進展させるには、それくらい過激にならなければ駄目だと思う。

これは私の勘だ。

私の勘はよく中たるんだよ?


師匠に師事することになったその日。

早速私は師匠から指南を受けた。

その内容は・・・。


服を隔てるからいけないの。

肌と肌、直接触れあえば、嫌でも意識するわよ。


というものだった。

これは袖無しの服を着るなんて生易しい話じゃない。

師匠が言っているのは、兄様と一緒に風呂に入れということ。

要するに、裸の付き合いだ。

私はこの女に師事したことを早くも後悔していた。


とはいえ、他に策が無いことも事実。

無い頭を使って考えるよりは、当たって砕け散ったほうが幾分マシかも知れない。

嗚呼、さっきから心臓の拍動が五月蠅い。

顔も・・・いや、全身が熱い。

湯船に浸かる前から既に茹で上がっている身体を奮い立たせ、私は浴室の戸を開いた。

湯煙の中、眼前に筋肉質な胸板が現れた。

恐る恐る視線を上げた私は、そのまま意識を手放した。


目が覚めた時、私は何故か水風呂に浸けられていた。

体温が高かったから、冷やすのが良いだろうと考えてのことらしい。

姉様が誇らしげに語ってくれた。

それはまぁ、いいとして。

氷風呂にする必要はないと思うな。

翌日、私は風邪で寝こんだ。


莫迦は風邪をひかないという言葉がある。

自分で言うのもだけど、私は頭が回るほうではない。

だったら、どうして私は風邪をひいたのか。

それは私が莫迦ではなく、阿呆だという証明になるのではないだろうか。

そう・・・。

私は莫迦じゃないやい!


それは置いておくとして、この日は兄様が付きっきりで看病をしてくれた。

姉様が迷惑を掛けたからって。

こればかりは姉様に感謝だ。

姉様も看病しようとしてくれたみたいだけど、兄様に止められたみたい。

部屋の外に気配だけ感じていた。

ありがとう、姉様。


私の看病をする兄様は忙しなく部屋を出入りしていた。

あんまり部屋に長居すると姉様が拗ねるし、あんまり部屋を空けると姉様にしっかり看病しろと怒られる。

兄様は大変だ。

どうして、そんな理不尽に耐え続けることができるのか。

一度だけ訊いてみたことがある。

兄様は答えなかった。

それは私に声を聞かせることを躊躇ったからなのか、特に理由は無いからなのか。

未だに判っていない。

だけど、これだけは言える。

兄様は自ら望んで姉様の側に居るのだ。

そうでなければ、あんな顔で笑ったりしない。

姉様にしか見せない、あの笑顔。

私にもいつか、微笑んでくれるかな・・・。

なんてことを考えていた。

そうでもしなければ、到底耐えられなかったから。

兄様に背中を拭いてもらうことには・・・。

流石に、前までお願いする勇気は無かった。

師匠だったら・・・うん。

全身、拭いてもらうんじゃ・・・いや、何としても拭かせると思う。


そんなこともあって、どうにか混浴作戦は遂行できるようになった。

今となっては、三人で洗いっこをして一日を締め括るのが恒例だ。

私的にはかなりの進歩だと思う。

だけど師匠に言わせてみれば・・・。


で、しーちゃんとの仲に変化はあったの?


・・・一蹴された。


それからの日々はこれと言って変化のない日々だった。

師匠からアドバイスは受けていたけれど、内容が内容だったから・・・。

私にはそれを実行に移す気が起きなかった。

だけど、そうも言っていられない。

近々、子を成す組み合わせが発表になる。

兄様を襲うチャンスは、あと数回しか無い。


草木も眠る深夜。

私は兄様と姉様の部屋の前に居た。

ゆっくりと戸を開き、顔だけ覗かせる。

そこには大の字で寝こける姉様と、そんな姉様に抱き付いて眠る兄様の姿があった。

羨ましい・・・。

少し腹が立ったからか、気恥ずかしさが和らいだ。

無防備な姉様の寝顔を睨み付けながら兄様の隣りに潜り込む。

兄様の背中・・・。

欲を言えば、兄様の胸に顔を埋めたかったかな。

でも、幸せ・・・。

こうして私の夜は更けていった。

翌朝、姉様に絞られたことは言うまでもない。


そして、運命の日はやってきた。

子を成す男女は同じ世代から選出される。

だから私にもチャンスはある。

あることにはあるんだけど、正直望み薄だ。

兄様は黒霧の始祖に最も近い精神を持つと謳われる、稀代の暗殺者だ。

その才能は計り知れず、より優秀な暗殺者を残す為、適切な相手が選ばれるだろう。

一方の私は、方向音痴の所為で暗殺者の才無しと判断された女だ。

暗殺術の習得が絶望的な姉様に較べたら、まだマシだとは思う。

だけど、暗殺者として優秀な娘は大勢とまでいかずとも複数人居る。

だから、兄様の相手に選ばれるのは、きっと・・・。


その夜、私は姉様とふたりぼっちの時を過ごしていた。

幸か不幸か、私は誰の相手にも指名されず。

姉様と言えば、相手の青年を殴り飛ばして拒絶した。

自分より弱い男に抱かれる気はない。

・・・が、時雨が相手ならば考えてやらんこともない。

だってさ。

まったく、姉様は恐ろしい女だ。


姉様と過ごす夜は暫く続いた。

黒霧の一族は生殖能力が低いから、子を成すにはそれなりの時間が掛かる。

それに、子を孕み無事に産み落とすまでは男が身の回りの世話をするなんて決まりがあるから、後三ヶ月は離れ離れだ。

昼間は兄様に会えるとはいえ、夜に一緒に居られないのはかなりつらい。

何故って?

日に日に姉様の機嫌が悪くなっていくからだ。

もう・・・いや。


時は流れ、私が姉様を宥める仕事を放棄して寝た振りをするようになった頃。

兄様は帰ってきた。

嗚呼、これで心穏やかに眠れると思った矢先。

今度は姉様と兄様が子を成すように里長の命が下った。

実の姉弟なのに大丈夫なのかって?

そんなこと、私に判るわけがない。

まぁ、心なしか姉様が乙女チックになってることだし、良いんじゃないかな。

これが契機で落ち着いてくれたら、私の心労が減る。


それから暫くは、独りの夜を過ごした。

何だか不思議な感じがする。

昔は独りが当たり前だったけれど、ここ最近は姉様が、そして兄様が近くに居ることが私の普通になっていた。

人の温もりが無いというのは、こうも寂しいものなのだろうか。

独りの夜は、酷く寒いように感じた。


そして、ふたりは帰ってきた。

不思議なことに、ふたりは契りを交わして猶、姉弟だった。

どんな神経してるんだろ・・・。

寧ろ、心配になった。


黒霧の三姉弟が揃った。

と、思ったのも束の間。

再び兄様は別の娘に宛がわれることになった。

また、姉様の不機嫌に付き合う日々が続くのか・・・。

私は憂鬱だった。

更に悪いことに、その日々はひとり分では終わらなかった。


いったい何人の娘を孕ませたのか・・・。

何なら同じ世代の娘全員と契ったのではなかろうか。

私を除いて・・・。

まぁ、兄様が自らの意志でそうしているわけじゃないから、怒るに怒れないんだけど。

里長に文句でも言ってやろうかな。

そんなことを考えていたら、私にも相手役の命が下された。

嬉しいことは嬉しいのだけど、手放しには喜べないよね。

私は皮肉たっぷりに兄様に言った。


コンプリートだね、兄様。


兄様はもの凄く不機嫌な顔になった。

私、何かまずいこと言ったかな?

うん、間違いなく言ったよね。

だけど、兄様が嫌々関係を結んでいたことが判ってほっとした。

それに兄様が感情を顕わにする瞬間が見られて少し嬉しかった。

まぁ、反応如何によっては殴り倒すことも考えてたわけだけど・・・。


私はひとりの子を身籠もった。

身の回りの世話をしてくれる兄様は、旦那さんというより家政夫さんって感じだ。

だって、兄様の仕事ぶりはあまりに出来過ぎているから。

ストレスフリーなんて、夫婦生活では考えられない。

そんなこんなで時は流れ、私は無事に男の子を出産した。

産まれた子は里の育児施設に預けられる。

そして親は日常に戻る。

私の場合は、黒霧の三姉弟という日常にだ。


あれから私達の間で関係性が変わることはなかった。

相も変わらず姉弟として過ごしている。

その原因は兄様だ。

あまりにも態度が変わらない。

後から訊けば、姉様もその変わりなさ加減にかなり戸惑ったらしい。

だからこそ、元の関係に戻れたというのもある。

だけど、私はそんなことは望まない。

もっと深く、兄様の心に入り込みたい。

それが私の願いだ。


今の私は兄様にとって、ただの妹でしかない。

だから私は彼を"兄様"と呼ぶ。

だけど、この関係はいつか変えてみせる。

多少は私にも話しかけてくれるようになった。

微笑みかけてくれるようにもなった。

そして最後には、言わせてやるんだ。


"愛してる"って。



・・・願い叶うまで ~完~



久遠 真宵


・基本情報

呼名:くおん まよい

特徴:黒い髪・黒い瞳

身長:小学生並み

体格:普通・超筋肉質


性格:悪戯好き・気遣い上手

鋭い観察眼の持ち主。

細かい変化によく気付く。


趣味:読書

哲学書や学術書を好む。

独学で帝王学を修めている。


嗜好:甘いもの

苦手:恋愛・書類仕事


所属:魔王の懐刀

役割:長・魔王

自称:俺


種族:魔族<久遠の一族>

孤高を重んじる一族。

転生により魂を受け継ぐ。


能力:転生

魂の情報を転写する能力。

久遠の生命活動停止と共に発動する。


能力:惑星

重力を操る能力。

物理法則?何それ、美味しいの?

<惑星の抱擁>

局所的に重力を強める。

超重力の力場を発生させるとブラックホールが出現する。

<惑星の別離>

局所的に斥力を発生させる。

斥力を強めると時空に歪みが生じる。

<小宇宙>

無重力空間を形成する。

移動に便利。


武具:なし

能力のみで闘う。

魔力量だけは神の領域に達している。


装束:黒外套・紅玉の首飾り

外套を羽織り、上裸で過ごすことが多い。

首飾りは母の形見。



・孤高の代償


久遠の一族は何よりも崇高なる孤独を重んじる。

人は其れを孤高と言った。

目的を持ち、敢えて独りになることを選ぶ。

人が離れていくのではない。

自ら離れていく。

其れが孤独と孤高の違いだ。

而して、独りであることに変わりはない。

ただ独りになるだけならばいい。

だが、久遠の掟は違う。

血の繋がりさえも絶ち、真なる孤高を求める。

俺はこの掟が大嫌いだ。


久遠の一族には巫山戯た掟が幾つかある。


一つ、孤高を重んじる事。

一つ、他の一族と無闇に関わらぬ事。

一つ、久遠は魂で繋がる一族である事。

一つ、久遠はひとつの時代にひとりである事。


訳するに・・・。

崇高な目的の為、敢えて孤独を選びなさい。

一族の問題に首を突っ込むものではありません。

子供をつくってはなりません。

親族を持ってはなりません。

早々に排除しなさい。

・・・と、そんなものだ。


代々の久遠はこの掟を遵守し、転生を繰り返すことで魂を受け継いできた。

だが、魂の転写は完全には行われない。

回数を重ねる毎に魂の情報は欠落していく。

魂の記憶、人格、情愛、信念・・・と、挙げだしたらキリがない。

久遠は崇高な目的の為に孤独を選ぶというが、崇高な目的とは何だ?

嘗ての久遠達は、其れを憶えていたのかも知れない。

而して俺は、その一片だって憶えていないのだ。

ならば俺が敢えて独りの道を選んだとて、果たして其れは孤高と言えるだろうか。

言葉にするまでもない。

答えは、否だ。


其れをもっと早くに気付くべきであった。

自身が久遠であると自覚した時、俺の頭に或る言葉が響いた。

"崇高なる孤独"。

その言葉に促されるがまま、俺は動いてしまった。


里に響く、怒号と悲鳴。

舞う血飛沫と滴る涙。

俺はその光景を忘れない。


命とは、何と脆いことか。

少し手に力を込めるだけで、肉は捩れ、骨は砕け、その瞳は絶望と恐怖に染まっていく。

恐ろしいものだな。

重力を操る俺には、命が失われていく感覚が残らない。

どれだけの生命を潰しても、その感覚が俺の身体には残らないのだ。

きっと俺はこれからも多くの生命を潰すのだろう。

この身体に、その罪を刻むこともないままに・・・。


里に静謐が訪れた。

残る生命はひとつだけ。

久遠が魂の依代となったこの肉体を産み落とした者だ。

そいつはじっと俺を見つめていた。

命乞いをするでなく、喚き散らすでなく。

真っ直ぐ、俺を見つめていた。


手に力を込める。

白く細い身体が浮き、骨が軋む。

一瞬、そいつの表情が歪んだ。

脂汗が滲み、必死にぎこちない微笑みをつくっている。

自分を殺そうとしている者に向かって。


私ね。

気付いていたの。

あなたの中に、私の知らない誰かが居ることに・・・。

だって私は、あなたのお母さんだから。


こうなってしまうことも、判ってた。

皮肉なものね。

占いで一族が滅んでしまうことが判っているのに、自分達の占いに絶対の自信があるものだから、それを受け入れるしかないなんて。

一族の矜持に縛られて、良いことなんてないのよ・・・。


あなたにも、あるんでしょ?

あなたを縛っている何かが。

そうでなきゃ、あなたがこんなことをするはずがないもの。

絶対に・・・。


だってあなたは、そんな子じゃないもの。

そう・・・信じたい。


過ぎたことは変えられない。

どれだけ後悔しても、失ったものは還ってこない。

私達、占樹の一族は滅びの運命を受け入れた。

あなたは、殺戮の未来を選んだ。

選んでしまった。


あなたは、私を殺す。

殺さなければならない。

あなたにはこの運命を選んだ責任があるから。


最期に、私を母と思ってくれるなら、聴いてほしい。


これからはあなたの信じる道を行きなさい。

誰に決められたものでもない、あなた自身が選んだ道を・・・。


其れが、母の遺した最期の言葉だった。



・・・孤高の代償 ~完~



近衛 東


・基本情報

呼名:このえ あずま

特徴:淡い金髪・蒼い瞳

身長:高い

体格:細身


性格:真面目・誠実(女性不信)

不埒は赦さない正義漢。

規律に厳しいが、頭は堅くない。


趣味:盤上遊戯

智略に長け、搦手が得意。

東を相手にすると、気付かぬうちに自滅の道を歩まされる。


嗜好:地形図

苦手:女性(特に行動の読めない人物)


所属:魔王の懐刀

役割:参謀

自称:俺


種族:魔族<近衛の一族>

要人の警護を生業とする一族。

実力は確かだが、怠け癖のある者が多い。


能力:性愛

異性を魅了し、欲求を解放させる能力。

自身でも調整ができない為、どちらかというと体質に近い。


能力:海神

海を召喚し、自在に操る能力。

海生生物と心を通わせることも可能。

<大海>

魔力を海に変換し、召喚する。

召喚した海は重力の制約を受けない。

<渦潮>

海流を利用した防壁。

物理、魔力共に高い防御性能を誇る。

<海鞠>

海水の玉を形成する。

圧縮率に応じて玉の硬度が変化する。

<海刃>

海流の刃。

金属程度であれば、軽く切断できる。

<海鳴>

海生生物と心を通わせる。

海鳴の一族から教わった能力。


武具:海神の霊弓

魔力の矢を放つ弓。

放たれた矢は自在に軌道を変更できる。


装束:黒外套・眼鏡

海鳴の一族から隠れ、暗い場所で魔術書を読み漁った結果、視力が低下した。

時雨お手製の黒外套をかなり気に入っている。



・雲行き水流るように


どうしてこうなった。

俺はただひたすらに己の出自を恨んだ。

若し、近衛の一族に産まれていなければ・・・。

若し、始祖の血を別の形で受け継いでいたならば・・・。

或いはこんな目に遭うことはなかっただろう。


俺は王の警護を生業とする近衛の一族に産まれた。

歳の離れた姉と、男の趣味が変わっている母と暮らした日々。

今思い出しただけでも吐き気がする。

何故、毎夜家族に貞操の危機を感じなければならんのだ。


近衛の一族には、七つの大罪が一柱・ベルフェゴールの血が流れている。

怠惰の罪を背負い、爛れた生活を送っていたらしいが・・・。

近衛の実情を見る限りは事実なのだろう。

仕事のサボタージュは日常茶飯事。

性に開放的で、毎日が発情期。

まったく、碌な連中じゃない。


而して、近衛の一族は昔から王の警護などという重要な役割を担っている。

不真面目な勤務態度。

他人の都合など全く考慮しない自己中心的な性生活。

近衛の所為で破局した男女は数知れず。

その悪評は魔界広しといえど、知らぬ者は居ない。

どう考えても、王の側近として不適切な人材だ。

ベルフェゴールの血を引いているという事実さえなければ・・・。


当然、王の警護をするのだから、確かな実力を備えていなければならない。

その点、近衛の一族は白兵戦に秀でているから問題はない。

だが、それだけでは足りない。

本来であれば罰せられるべき行為を見逃される。

その域に至るには、実力があるだけでは不充分なのだ。


人を罰する。

それはある種の権力を以て行われるものだ。

そこに個人の実力如何は関係無い。

だが、罰する者と罰せられる者の間に権力の逆転が起きていたら?

権力で劣る者は権力で勝る者を罰することはできない。

絶対にだ。


この世には、法や掟というものがある。

それは多くの者が幸せに過ごす為に守られるべき事項であり、暗黙の了解として世に存在しているものである。

こういったものは人を罰する時の基準になる。

何の罪で裁くのか、という基準に。

従って、法が無ければ人を罰することはできないということになるのだが・・・。

人を裁くのは、飽くまで人であるということを忘れてはならない。

法とは、所詮ただの文字列に過ぎない。

人を罰する基準にはなり得ても、人を裁く力にはなり得ない。

要するに、より上位の権力を持つ者が居て初めて人は罰せられるということだ。


何の因果か。

七つの大罪が一柱であるベルフェゴールの血を継ぐ近衛は、魔王に次いで権力と威光を持つ存在になってしまっていた。

当の本人達は権力になど興味は無く、ただ好きに生きていたいだけだと言うのだから、まだ良いのだが・・・。

これが権力を笠に着て、好き放題やらかしてくれるようだったなら、本当にどうしようもない一族だっただろう。

連中に悪意が無いことがせめてもの救いか、だからこそ質が悪いのか。

未だ俺には、よく判らない。


ところで、我らが始祖・ベルフェゴールには女性不信だったという伝承があることを知っているだろうか。

数多の女性と関係を結んでおいて、何を莫迦なと思うかも知れない。

俺もそう思う。

而して、どうやらその伝承は事実らしい。

そうでなければ俺が近衛に産まれたことを後悔する羽目にはならなかっただろう。


ベルフェゴールの能力には催淫の他に、心の醜い部分を曝露させるというものがあったらしい。

意図してそれを使ったのか、それとも無意識のうちに使ってしまったのか。

そんなことはどうでもいいとして、その能力の所為で現実を知ってしまった彼は女を信じられなくなってしまった。

そういう負の部分が俺に受け継がれてしまったのだ。


先に言っておくが、俺に他人の心を曝露させるような能力は無い。

ただ、女性関係に関して潔癖というだけのことだ。

所謂、潔癖症とは違う。

他人と物を共有することに抵抗は無いし。

幼い頃、姉に口吻をせがんだ憶えもある。

今となっては、消し去りたい過去のひとつだが・・・。

女性に対して誠実で在りたい。

そう思うことは、決して悪いことでも特異なことでもないだろう。

近衛の一族として、生を受けてさえいなければ・・・。


近衛の里に、夫婦は存在しない。

それは一生を誰かと添い遂げるという概念が無いからだ。

当時の俺にも無かった。

誰もそんな概念があるということさえ知らないのだから。

だが俺は、自由奔放な近衛の在り方がどうにも好きになれなかった。

恐らくは俺の身体に流れるベルフェゴールが負の遺伝子の所為で・・・。


俺と姉を産んだ母は、当然ながら独り身だ。

肩に掛かる程度に切り揃えた淡い金髪に、整った顔立ち。

女性にしては高い身長に、主張が過ぎないプロポーション。

何事にも執着しないサバサバとした性格に、太陽のような屈託のない笑顔。

息子の俺が言うのもだが、世界一の母だったと思う。

自由な姉と気難しい俺。

手の掛かる子供ふたりを育ててくれた。

俺達はそんな母に、何も返せなかった。


母が亡くなってからは、姉がその代わりをしてくれた。

無駄に器用な姉は何でもそれなりにこなしてしまう。

家事全般を始め、白兵戦も夜遊びも・・・。

何者にも縛られず、あらゆる生命に憧れを与える自由の象徴。

それが俺の姉だ。


弟~。

結婚しようぜ。


寝言は寝て言え、莫迦。


こんな遣り取りから、俺達の会話は始まる。

まず言っておきたいのは、姉の発言が決して冗談などではないということだ。

何処で覚えてきたのか、結婚という儀式の存在を知った姉はその相手に俺を選んだ。

というのも・・・。


いや~。

近衛の男共は遊び相手として満点なんだけどさ~。

結婚て、ひとりの相手と生涯を共にする誓いを立てることなのよね。

どう考えても無理じゃない?

だから~。


女性関係に潔癖な俺を選んだというわけだ。

他の女に靡かない。

生涯、自分だけに尽くしてくれる。

そういう男がいいらしい。

ならば、奴隷でも買ったらどうだ。


はぁ~?

判ってないわね、あんた。

いいこと?

確かに"愛の奴隷"なんて表現はあるわよ。

この人に私の全てを捧げたい。

尽くしてあげたい。

そういう態度が、まるで奴隷じゃないかって揶揄されて・・・。

でもね。

そこには所謂、"奴隷"と大きく違うものがあるのよ。

それが、"愛"。

愛なのよ!


知ったことか!


ひとりに狙いを絞った姉の行動力には凄まじいものがある。

朝も昼も夜も、どうやってか仕事を抜け出して俺の視界に侵入してくるのだ。

朝、目が覚めた時、まず目に飛び込んでくるのは鼻先が触れるほどに接近した姉の顔。

昼餉の後、何故か眠くなり気付けば姉に膝枕され、短すぎるスカートの中身を見せつけられていて。

風呂に乱入して、強制洗いっこの刑に処され・・・。

挙句、夕餉に薬を盛って一言。


部屋の鍵は開けておくからね・・・。


外から錠前を付けてやった。

まぁ、扉なんぞ軽く蹴破ってしまうような姉だから、大して意味は無いのだが・・・。


暫くして、姉は近衛の里を出ていった。

理由はふたつ。

弟弄りに飽きたから。

そして、俺の面倒を見る必要がなくなったから。

姉さんはどう間違えても尊敬できるような人ではない。

だが、ひとつだけ。

亡き母の代わりとして、俺を育ててくれたことだけは感謝しなければならない・・・かも知れない。

そういえば、母も幼い俺に向かって・・・。


大きくなったら、お母さんをお嫁に貰ってね。


と、言っていたような・・・。

まさかとは思うが、姉さんはそれすらも真似して・・・。

まさか。

まさか・・・な。



・・・雲行き水流るように ~完~



近衛 麗


・基本情報

呼名:このえ うるは

特徴:淡い金髪(肩に掛かる程度)・蒼い瞳

身長:かなり高い(東と同じ程度)

体格:ふふ、脱がなくても凄いでしょ?


性格:移り気・淫猥

興味の対象が廻りに廻る妖艶な美女。

猥談なら任せなさい。


趣味:男漁り

生命力に溢れる男を募集中。

精気を吸い尽くし次第、さようなら。


嗜好:誠実な心

苦手:身体目当ての輩


所属:近衛兵団

役割:王都の警備

自称:私


種族:魔族<近衛の一族>

要人の警護を生業とする一族。

実力は確かだが、怠け癖のある者が多い。


能力:性愛

異性を魅了し、欲求を解放させる能力。

仕草や格好で、ある程度の調整はできるらしい。


能力:淫魔

他人の精気を吸い取り、自身の魔力に還元する。

色香を自在に操り、魅惑の罠に嵌める。

<淫紋>

欲望を増幅させる痕を刻む。

淫紋を刻まれた者は常に精気を吸われる状態となる。

<魔性>

自身の魔力をフェロモンに変換する。

朴念仁もこれでイチコロ。

<魅了>

思考を鈍化させ、判断力を低下させる。

君も彼女の奴隷になってみないか?

<甘美>

精気を吸い尽くす魔の口吻。

違う口だと命も危うい。


武具:特になし

決まった武具は持たない。

何を使ってもそれなりに戦える天才肌。


装束:近衛兵団服

白を基調とした、近衛兵団の制服。

自ら改造を施している為、色々と危うい。



・魅せられて


Wind is blowing from the Aegean~♪

女は海~♪


乱雑に檻が並ぶ部屋の中、優雅な歌は響く。

儚くも散って逝った仲間を悼み。

これから散らされる私自身を憂い。

嗚呼、どうして今日に限って真面目に仕事をしてしまったのだろう。

仲間だと思っていた男に裏切られ、むくつけき男共に囲まれて、寄って集って私を・・・てのは嘘。

実際は単に捕まっただけ。

まぁ、売られた先で似たような目に遭うことは明白なんだけどさ。


私は王都警備隊の隊長を務めていた。

どうして過去形なのかというと、これから私の身に起きることの所為で殉職扱いになってしまったから。

嗚呼、私の働き口が~。

なんて、仕事をしないことで有名な私が嘆くはずもなく。

寧ろ職場のほうも良い厄介払いができたと喜んでいるんじゃないかしら?

そういう意味では、あの男に感謝しないとね。

私を警備隊から除隊させてくれてありがとう。

私とパパを巡り会わせてくれてありがとうってね。


私達を裏切った男は、私と同じような能力を持っていた。

信頼を勝ち取るほどに他人の心に入り込めるのだとか。

正規の方法で警備隊に入隊し、真面目に働いて上司の信頼を得、後輩だけでなく同輩からの尊敬を集める完璧超人を演じる。

いや~、私の趣味じゃないわ。

正直気持ち悪い。

だって、それを私に語って聴かせるんだもん。

あんたの武勇伝なんざ興味無いっつーの。


男がこう面倒な真似をしてまで警備隊に入り込んだのには理由がある。

それはそうよね。

楽に成果を挙げられるなら、そっちのほうがいいに決まってるもの。

重要なポイントはふたつ。

まず、男の能力は信頼を得ることで効果が増すという点。

そして、警備隊での地位を確立することで仕事がしやすくなるという点。

だから男は多大な時間と労力を費やしてでも面倒な道を歩んだ。

まぁ、結果私を捕らえるって目的は達成してるわけだし?

ごくろーさん。

よく頑張ったわね~。


しっかし、これからどうしようかしら。

逃げるにしたって私の能力はあの男には効かないし。

他の連中だって私の能力が効かないように洗脳済みだろうし。

精神支配系の能力ってや~ね~。

孤立無援になった時点で、もう何もできないんだもの。

性格も歪んじゃうし。

それは私だけだって?

そんなことないわよ。

少なくとも、この男だって相当のクズ野郎よ。

そうでしょ?

異論は認めないわ。


さて、それじゃあこの男が如何にクズ野郎かってのを聞かせてやろうじゃない。

男は私を捕らえた後、特に何もしませんでした。

それは商品価値を下げない為。

男は私の記憶を消去するようです。

それは私に能力を使わせない為。

私の能力は精神支配系だもの。

封じない手は無いわよね。

そして男は私の身体を子供の状態に戻すようです。

これも私に能力を使わせない為。

私の能力は、女としての魅力に比例して効力を増す能力だから。

記憶を奪っても、無自覚に能力を発動してしまう恐れは充分にある。

男はそれを理解していて、対策を講じた。

その周到さが気持ち悪い。

真のクズってのは、こういう輩のことを言う・・・と、私は思う。


パパ、お膝。

パパ、抱っこ。

パパぁ、おやすみのちゅー。


突然どうした?

と、言われそうなくらいに急な場面転換。

いや、あの男について言いたいことは全部言っちゃったから。

もういいかなって。

まぁ、簡単に説明すると。

私は記憶を奪われ、ないすばでぇも奪われた。

後は出荷されるのを待つ許りって時に救われた。

誰にって?

パパに決まってるでしょ?


記憶を失い肉体的に子供に戻った私は、本当にただの子供だった。

パパのことが大好きで、パパさえ側に居てくれたら、それだけで満足・・・みたいな。

我ながら重いわ~。

しかもそれは今でも変わってない。

どうしてそこまで懐いてしまったのか・・・。

それは多分、私が父親というものを知らないから。


私には父親が居ない。

正確には、知らない。

何たって近衛の一族は決まった相手を持たないからね~。

母に私を産ませた男と、弟を産ませた男は違う奴だし。

まぁ、母が自分の子供を捨てて遊びに明け暮れるようなクズじゃなかっただけ幸せだったのかしら。

ともかく、私は父の温もりを知らなかった。

パパは積極的に構ってくれる人ではなかったけど、近くには居てくれた。

だから甘えてしまった。

そういう理由もあるのかな・・・なんて。


私が初めてパパを見た時、御人形が動いているのかと思った。

黒い装束を身に纏い、左手に握られた妖艶な刃には血を滴らせて。

私はそんなパパを檻の中から見上げていた。

はっきり言うけど、恐怖しかなかった。

そらそうでしょ?

さっきまで筋肉達磨が嗤ってたかと思えば、次の瞬間には血飛沫が舞って。

もの言わぬ骸になるかと思えば、黒い塵と消えた。

次に消されるのは誰?

私しか居ない。

でも大丈夫。

だって私は檻の中。

魔物の牙でだって壊せない檻の中なんだから・・・多分。

仮面を被ったパパは黒い格子に手を伸ばす。

指先が触れた瞬間、私の世界から黒の縦縞は消え去った。

そしてそのまま・・・。


私は抱き上げられていた。

それはもう父親が娘を抱きかかえるかのように。

温かな胸に受け止められ、仮面の奥に隠れた紅い瞳が真っ直ぐに見つめる。

初めて感じる温もり。

初めて見る色の瞳。

あまりに多くの情報が一気に押し寄せてきて、子供の心はもうパンク寸前。

逃れるなんて、できるわけがない。

色んな意味で・・・。


パパ、私に剣術を教えて。

パパ、私も行く。

パパぁ、行っちゃいやぁ。


パパは暗殺者。

世界で一番の暗殺者。

だから、パパに来る依頼はとっても危険なもの許り。

私を連れて御仕事をするなんて以ての外。

パパが私を愛してくれていたかは判らないけど、大切にしてくれていたことは確かだ。

どんなに難しい任務に就いたって、すぐに帰ってきてくれたから。

でもね、パパ。

パパが御仕事に行っちゃったら、私はお家でひとりぼっち。

要するに孤独だった。

それは、たとえ僅かな時間だって耐えられるものじゃない。

だって私は、まだまだ幼い子供なんだもの。


私はパパの御仕事についてはいけない。

今のところはね。

パパに稽古をつけてもらって、私が充分に強くなったなら或いは・・・。

そんなわけで剣術やら暗殺術やらを教えてもらうことになるんだけど。

私に暗殺者の才能は無かった。

パパからその宣告を受けた時はボロボロ泣いた。


私、剣の扱いは上手でしょ?

私、傭兵の人より強いよ?

私じゃ、パパの御役に立てないの?


人にはそれぞれに才能がある。

だから、自分にできることで人の役に立てばいい。

そんなことを言う者が居る。

なんて物判りの良い、出来た人なんだろう。

私はそんな良い娘ちゃんじゃない。

私に言わせてみれば、同じでなければ意味が無い。

同じ暗殺者としてパパの隣りに立ち、同じ苦しみを背負い、同じ喜びを分かつ。

それはあまりに幼稚で、あまりに我儘な願い。

だけど私にとってそれは、人生を捧げてでも叶える価値のある願いだった。


パパ、この服作れる?

パパ、料理教えて?

パパぁ、おっさんの視線がウザい。


年頃の女子に成長した私は、女子力を気にするようになっていた。

服装に始まり、掃除、洗濯、料理なんて内面的な魅力に至るまで。

何の為に?

それは勿論、パパを籠絡する為・・・。

ではなく、家事万能なパパの娘が家事下手ってどうなの?

なんて考えが頭を過ぎったから。

パパ自身の評価はパパが築いたもの。

それは私が何をしでかそうが覆るものじゃない。

だけど、パパの父としての評価は?

パパ自身よりも、娘の私を通して見られることのほうが多い。

だからこそ私は女子力を気にするようになった。

パパが誇らしく思ってくれるような娘になる為に。


まずは見た目から。

服装には特に気を遣った。

だって、どんなに美しいプロポーションを作り上げたところで、服装を間違えたら全てがぱぁだもの。

勿論、体型の維持・洗練にも努めた。

欲を言えば、化粧もばっちりしたかったのだけど・・・。

パパは化粧をした女性があまり得意じゃないみたい。

まぁ、女性にとって化粧はマナーと同義だから、ノーメイクは流石に・・・ねぇ?

だからしてるかしてないか判別できない程度に留めた。

それにしても、パパってちょっと変わってる。


そして家事スキル。

私が如何に家事ができるかなんて、どうせパパの前でしか披露する機会は無い。

だからといって疎かにするわけにはいかない。

だって私は女性だから。

女性は家事ができて当たり前。

それは偏見で、性差別だなんて言う人も居る。

確かにそうかも知れない。

だけど、できるに越したことはない。

それに差別や偏見をできないことへの言い訳にしたくない。

私が目指すのはパパが誇りに思ってくれるような娘だ。

正直、私にはパパの価値観がイマイチ理解できない。

だから一般的に言う出来た娘というものを参考にしている。

一般的に言う、なんて言葉は正しく偏見の塊だと思う。

要するに私は、偏見たっぷりの目で見られて猶、評価される娘になろうとしていたのだ。


最後に、これを女子力の要素に入れていいものか判らないけど、男の視線。

まぁ、どれだけモテるかってこと。

男の視線を集めるということは、それだけ女性としての魅力が高いということの証になるし。

何より、パパがもっと私を大事にしてくれるかも知れない。

若しかすると嫉妬してくれるかも・・・。

いや、それはないか。

でも、これはちょっと失敗だったかな~。

だっておっさんばっかりが見てくるんだもん。

それもキモい奴ほど、じっとりねっとりと・・・。

久し振りに鳥肌が立ったわ。

やっぱりこの身体が原因なのかしら。

歳の割には大きいと思うけど、言うほどよね。

サラシでも巻いてみようかな。


とまぁ、こんな感じに私の青春は全てパパに捧げた。

ファザコンだって?

ええ、そうだけど何か?

別に悪いことではないでしょ?

みんな、胸を張って言えばいいのよ。

私はパパのことが大好きなファザコン娘だって。

私がその手本よ。


パパ、背縮んだ?

パパ、ぎゅってして?

パパぁ、背中流して~。

あ、序でに前もお願~い。


魔族の寿命は永い。

それは成長が遅いということではなく、青年期が異様に永いというだけのこと。

実は、子供の成長はかなり早い。

幼子にまで戻された私の身体だって、僅か数年で元の状態に成長したのだから。

元の身体に戻って判ったこと。

それはパパの身長が決して高くはないってこと。

私が高身長なのもあって、私は日常的にパパを見下ろす形になっている。

時に身長差をからかうこともある。

するとパパは必ず、私の頭を撫でる。

背伸びして手が届かないようにすると、足払いを掛けられる。

そして膝枕をされながら撫でられる。

パパにも父としての意地があるみたい。


私は未だ、パパにべったりの娘だ。

端から見れば弟愛に狂った姉か、それとも恋人にでも見られるのかしら。

私としてはそっちのほうがいいんだけど・・・。

私とパパは父娘の絆で結ばれている。

でも、私達の間に血の繋がりは無い。

だから恋人になったって、子供をつくったって、誰にも咎められはしない。

尤も、近衛は血の繋がりなんて気にせず契る一族だけどね。

そこはほら、パパの一族がどんな常識を持ってるか判らないから。

パパから手を出してくれたらOK。

出してこないならNGってことで。

パパには色々とちょっかいを掛けていた。


パパにはとある弱点がある。

それはひとりで眠れないということ。

やだ、パパったら可愛い・・・。

産まれた時から双子のお姉さんと一緒だったこともあって、ひとりで寝る機会が無かったらしい。

そしてそれが習慣化した結果、誰かに抱き付きながらでないと眠れなくなってしまったのだとか。

だから私は毎晩パパに抱かれながら寝ている。

そう、元の身体に戻ってパパよりも身長が高くなった今でも抱かれるのは私。

隠語じゃないわよ?

どっちが胸に顔を埋める側かってこと。

体格的にパパが埋めるほうだと思うんだけど、パパは頑なにそれを拒む。

一度、パパが眠った後に位置を交代してみたんだけど。

朝には元の状態に戻っていた。

やっぱりパパにも父としての意地があるみたい。


私とパパには決まり事が幾つかある。

一緒に寝るってこともそのひとつ。

そして私が一番大事にしていたのが、一緒に御風呂に入るということ。

何故って?

そりゃあ、パパの欲情を誘うにはそれがいちば・・・なんでもない。

あまり調子に乗るとパパに叱られる。

鉄拳制裁ではないけど、髪を滅茶苦茶に弄られる。

私はくせっ毛だから、一度乱れると直すのに苦労する。

いっそのこと、殴られたほうがマシなくらい。

パパはそれを知っている。

昔、髪を弄られた経験でもあるのかな?


さてと、身体は元に戻ったわけだけど。

記憶のほうはどうなのかしら。

実を言えば、戻っている。

多分、奪われたのではなく、封じられただけだったのかな。

身体が元に戻った頃に少しずつ思い出した。

パパと出会う前の私がどんな女だったのか。

何をしでかしてきたのか・・・。

それを知った時は、首を吊ろうかと思ったほどだった。

そして記憶が戻ったということは、パパが私を養う理由が無くなったということでもあった。

飽くまでもパパは私を保護したのであって、養子にしたわけではないのだから。

こんな自己嫌悪に陥った状態で、パパと御別れだなんて・・・。

私は本当に命を絶ってしまうかも知れない。

それならいっそ、どうせ死ぬならいっそ、最後の希望に縋っても・・・。

そして私は、言ってはいけない言葉を口にした。


パパ・・・私を貰って。

私をお嫁にして!


これで断られたなら、私はもう生きていけない。

たとえ生き延びてしまったとしても、二度とパパに甘えることはできない。

全てを失う覚悟で・・・いや、正直に言えばそんな覚悟は無い。

ただただ、淡い希望に縋った。

近衛麗ともあろう女が女々しいったら。

パパと過ごしたこの数年で、嘗ての近衛麗は死んだ。

自分はふらふら遊び歩くくせに一途に想ってくれる男がいいだなんて、ほんとに勝手な女。

挙句、実の弟にまで手を出して・・・。

そんな女がパパの横に居ていいはずがないじゃない。

ほんと・・・莫迦な女。


パパは、私の言葉に応えなかった。

何も言わず、いつも通りの日常を過ごした。

そう、いつも通り・・・。

そして朝を迎え、パパは本来の日常に戻った。

私と一片の紙切れを遺して・・・。


僕は麗を誇りに思う。

これまでも、これからも、ずっと。

麗は僕の愛する娘だ。


たった三行の言葉。

それは手紙とも呼べない、拙いものだったけど・・・。

私の胸に届いた。

私は、パパのお嫁さんにはなれない。

だって、私達は父娘なんだもの。

そう、父と娘。

互いを誇りに思い、想い合う父と娘。

私はパパに誇りに思ってもらえるような娘になれていた。

それが何よりも嬉しかった。

人には言えないような過去を持つ私だけど。

そんな私でもパパの誇りになれたんだ。

まぁ、それを今後も続けなさいって暗に釘を刺された気がしないでもないけど・・・。

パパが私を誇りに思ってくれるなら、頑張ってみようかな。


ねぇ、パパ。

若しまた会うことができたなら、甘えてもいい?

私、きっと良い娘のままで居るから。

その時は思いっきり私を甘やかしてね?

約束だよ?


私はパパの娘、麗。

パパが許してくれるなら、黒霧の姓を名のってもいいかな?

なんて・・・ね。



・・・魅せられて ~完~



鳳 紅蓮


・基本情報

呼名:おおとり ぐれん

特徴:紅い髪・金の瞳

身長:平均より少し高い程度

体格:標準・筋肉質


性格:単純・激情家

誰に対しても莫迦正直にぶつかる熱血漢。

東とは馬が合わない。


趣味:筋トレ

四六時中、身体を鍛えている。

何たって、暇だから。


嗜好:血湧き肉躍る闘い

苦手:細かい作業


所属:魔王の懐刀

役割:なし(命令違反の常習犯である為)

自称:俺


種族:魔神族<鳳の一族>

焔の魔神・スルトの肉片から生まれた一族。

強靱な肉体と異常な再生能力を誇る。


能力:超再生

一片の肉片からでも完全に復活できる再生能力。

鳳一族の生殖機能を兼ねる。


能力:大地

地脈エネルギーを操り、地殻運動を意図的に引き起こす能力。

紅蓮は魔力操作が未熟な為、上手く能力を使えない。

<蠢く大地>

プレートや断層を操作し、地震を引き起こす。

地震の発生要因となるものが無い地域では無能。

<大地の怒り>

マグマを地表面に噴出させる。

本来であれば、魔力をマグマに変換することも可能。

<大地の遺産>

地中の鉱物を寄せ集め、形あるものを創造する。

本来であれば、精錬といった錬金術の真似事が可能。

<大地の息吹>

数千度にも達する熱エネルギーを放出する。

細かい調整はできない為、近寄るな危険。


武具:鉱物の大剣

自身の能力で創造した大剣を使う。

不純物が混じっている為、非常に脆い。


装束:黒外套・月夜の耳飾り

耳飾りは深い関係にあった女性の形見。

時雨に暗殺された月の女神・ルミナのもの。



・大地と月


俺とそいつの出会いは最悪だった。

何たってそいつは俺の始祖である魔神・スルトを滅ぼす為に勇者を遣わした月の女神その人だったからな。


焔の魔神は勇者とその仲間達の手によって討たれた。

だが、滅びはしなかった。

勇者の放った渾身の一撃で散り散りになった肉片から俺達が生まれたからだ。

俺はその時のことをよく憶えている。

焔の魔神が抱いた勇者への怨みもな。


何処ぞへ吹き飛ばされた肉片から生まれた奴らも、それは同じだった。

鳳の一族として復活した俺達は勇者を探す為に世界中を渡り歩いた。

道中、仲間に出会うことがあった。

その度に情報交換をしては、それぞれの道を歩んだ。

俺達はどうも群れることが苦手らしい。

お互いに何を言うでもなく、自然と別の道へと歩を進めた。


そんな旅が暫く続いて、漸く勇者を見つけ出した。

野郎、王都で優雅な暮らしを送っていると思ったら、田舎に引っ込んで幼馴染みと家庭を築いていやがった。

村ごと灼いてやったよ。

焔の魔神を倒した勇者様も寄る年波には勝てなかったらしい。

碌に剣も握れねぇ老体相手に仇討ちなんざ・・・。

釈然としなかった。


俺達の存在意義は失われた。

勇者への復讐は果たしたからな。

まぁ、知らねぇうちにくたばってるなんてことにならなかっただけマシってもんだ。

しかし、これからどうするか。

俺達が存在する理由は、俺の手で葬っちまったからなぁ。


そんな時だ。

あいつが俺の前に現れた。

それはもう、怒りなのか恐怖なのか。

感情が渦巻きすぎて、何がなんだかわからねぇ表情をしたあいつ。

月の女神・ルミナがな。


ルミナ自身の戦闘力は然程高くない。

弱体化の能力を持ち、双剣の腕前も中々のものだ。

だが、それだけだ。

一片の肉片からでも甦る俺達を相手にするには、圧倒的に火力が足りない。

ルミナには鳳を滅することなどできるはずがなかった。


生きる目的を失った俺は抵抗しなかった。

棒立ちでルミナの剣撃を受け入れた。

再生するとはいえ、当然痛みはある。

だが、それが唯一俺が生きていると実感できるものだった。

それほどに、あの時の俺は空虚だった。


暫くして、肩で息をするあいつが俺に言った。

何故、私を攻撃しない。

俺は言った。

攻撃する理由がねぇ。

その言葉を聞いて、あいつは激昂した。

では、私の母は殺される理由があったのか・・・と。


聞けば、ルミナの母はスルトの手に掛かって亡くなったらしい。

勇者への怨みで形作られた俺にそんなことを言われても、どうしようもないがな。

焔の魔神が手に掛けた者の顔を一々憶えていると思うか?

答えは、否だ。


俺は問う。

ならば、俺は何をすればいい。

何をすればお前は満足する。

あいつは答える。

私の手で滅び逝け。

俺は言う。

無理な話だ。

あいつは叫ぶ。

ならば闘え!闘って、私を終わらせてくれっ!


この時のルミナの顔は今でもはっきりと憶えている。

様々な感情が入り交じった表情。

無力な自分への怒り。

魔神への怒り。

母を失った哀しみ。

そして、終わりを与えられないことへの絶望。


俺はルミナと刃を交えた。

だが、俺の刃がルミナを捉えることはなかった。

別に、手加減をしている訳じゃない。

剣術なんて碌に習ったことのない俺が、母の仇を討つ為に幾年も修練を積んできたあいつに一太刀さえ浴びせられないのは寧ろ道理だ。

俺とルミナの決闘はルミナの体力が尽きるまで続いた。

膝をついたあいつは決まってこの言葉を口にした。

終わりにしてくれ。

そして俺は決まって言う。

お前はまだ、負けてねぇ。

そんな遣り取りが幾度となく続いた。


ルミナの瞳が絶望に支配されていくのがわかった。

だが、俺はルミナが終わることを許さなかった。

あいつに何を思っていたのか、俺にもわからない。

新しい生き甲斐を見つけてほしかったのかも知れない。

だがその為には、俺を倒す必要がある。

あいつには決して為し得ることのできない壁が、そこにはある。

だから俺はルミナに何もしてやれなかった。


俺に対して怒りと怨みをぶつけていたルミナも、いつしか終わらせてくれと懇願するようになった。

涙を流しながら・・・。

それはもう、仇を討ちに来た娘のする表情ではなかった。

ルミナはただ、死に場所を求めていた。

始めはきっと違ったのだと、俺は思う。

ルミナをそこまで追い詰めたのは、どう考えても俺だ。

哀れだったよ。

母の仇に殺してくれとせがむあいつも、何もしてやれない俺も・・・。


暫くして、ルミナが俺に決闘を挑みに来ることはなくなった。

終に自害でもしたのかと思っていたが、違った。

これは後から判ったことだが、時雨が終わらせてくれたらしい。

俺が魔王の懐刀に招集された時に、時雨から直接聞かされた。


死に際にありがとうと微笑む女神が居たことを・・・。


そしてそいつが、俺の暗殺を依頼したことをな。

幸い、その依頼は依頼主が死んだことで無効となった。

崩壊の能力を持つ時雨なら、本当に俺を殺せるからな。

助かったといえば、助かったのだろうが。

その時、時雨から耳飾りを渡された。

きっとそれは俺の十字架なのだろう。


俺はあいつを忘れない。

終われない苦しみは、これから俺が背負っていく。



・・・大地と月 ~完~



パルテ・ハオ・ライト


・基本情報

愛称:パオラ(パルちゃん)

特徴:緑の髪(ポニーテール)・緑の瞳

身長:女性の中では高め(時雨より少し低い程度)

体格:細身(グラマラス寄り)


性格:好奇心旺盛・自由人

興味が向いたものにはしつこいくらいに付きまとう。

周囲を振り回す元気っ娘。


趣味:観葉植物

珍しい植物の育成に凝っている。

食肉植物が最近のブーム。


嗜好:心地好い風

苦手:時雨の仕置


所属:魔王の懐刀

役割:諜報・偵察

自称:あたし


種族:魔族<世界樹の精霊>(元妖精族)

世界樹と命を共有する聖域の守護者。

世界樹が魔界樹に改変されたことで魔族堕ちした。


能力:生命の樹

魔力を流し込み、植物を操作する能力。

遺伝子を組み換え、新種の植物を創ることもできる。


能力:風の舞姫

風を操る能力。

世界の始まりに関係する"起源の能力"のひとつ。

<辻風>

風の刃を放つ。

不可視の刃を躱すことは困難を極める。

<舞風>

風の揚力を利用して空を舞う。

急な方向転換には向いていない。

<嵐>

暴風による防壁。

体重の軽い者であれば、吹き飛ばすこともできる。

<凩>

凍てつく風。

大気中の水分が凝固し、氷の礫となる。

<凪>

風の流れを静め、特定の波形を強調する。

遠くの音声を盗み聴くのに便利。


武具:宿り木の魔弓

何処までも真っ直ぐに飛ぶ魔力の矢を放つ弓。

普段は手の甲に刻まれた紋章に収納されている。


装束:黒外套・ショートパンツ

空を飛ぶのにスカートなんて有り得ない。

パオラにそんな趣味は無い。



・自由の風と根差す草花


世界樹の精霊は、世界樹によって縛られている。

世界樹とパスを繋ぎ、生命力を分けてもらっている。

だから、あたし達世界樹の精霊は世界樹が健在な限り何度でも蘇ることができる。

言ってしまえば、不老不死の存在だ。

だけど、あたしにはそれがどうしても受け入れられなかった。

何度でもやりなおせる命。

どれだけ彩りに溢れた人生を送ったとしても、決して塗り尽くすことのできない生涯。

始めのうちはいいのかも知れない。

だけど、永く生きるほどに思う。

これほど空しい生があるのか・・・と。


世界樹の精霊は、世界樹によって縛られている。

世界樹の聖域から出ることも叶わず、尽きることのない生涯を過ごす。

世界樹が健在な限り・・・。

時に死者甦生の権能を持つ世界樹の葉、治癒の権能を持つ世界樹の雫を狙う盗賊と戦い。

時に邪悪から世界を護る為に立ち上がった勇者一行を歓迎した。

祝勝の宴、歓迎の宴は華やかなものだったけれど、あたしの生涯を彩るにはあまりに淡いものだった。


もう何度、蛮勇の者達を送り出したか知れない。

世界を救うのは自分だ。

自分にはその力がある。

そう信じる者達。

確かに彼らは、魔神を討ち果たし一時の平和を世界にもたらした。

だけど、邪悪は滅びなかった。


ひとつの邪悪を討つ度に、またひとつ邪悪の灯火が世界の何処かに灯る。

その頃にはもう嘗ての勇者は居ない。

たとえ居たとしても、世界を救うだけの余力は残っていない。

世界に平和をもたらした勇者は何人も存在する。

いや、したのだろう。

だけど、本当の意味で世界を救った者は居ない。

居るはずがない。


善が悪を討ち、善が衰え悪が盛る。

この堂々巡りだ。

今宵もまた勇者を送り出す宴が開かれている。

神に導かれ、世界の調和を乱す一族を討つのだとか。

彼がその使命を全うするかしないかは問題じゃない。

どうせまた、勇者を送り出す宴は開かれるのだ。

世界を救う?

やれるものならやってみろ。

あんたの言う世界とは、あんたの瞳に映る世界でしかないだろうに。


世界樹の精霊は、世界樹によって縛られている。

だからあたしは、この聖域で起こった出来事しか知らない。

偶に訪れる来訪者に外の世界について話を訊くことはあった。

だけど、あまりに時代錯誤があるものだから要領を得なかった。

あたしにとっての世界は、この聖域に収まってしまう。

その程度のものでしかなかった。


勇者様御一行が聖域から旅立つその日。

招かれざる客人が聖域へと足を踏み入れた。

危機察知能力に長けた小鳥達が最大級の警報を鳴らす。

勇者一行は武器を構え、世界樹の精霊も警戒態勢をとった。

だけど、侵入者は現れなかった。

正確には、その姿を捉えることができなかった。

またひとつ、またひとつと精霊の気配が消えていく。

それなのに、誰の瞳にも異物の姿は映らない。

そしてあたしの喉元に冷たい何かが押し当てられた。


失血死をした時、肉体が機能不全に陥った状態でも脳は暫くの間、生きているらしい。

勇者一行を相手に、仮面の青年が舞っている姿をあたしの瞳は映していた。

勇者の剣技、戦士の痛烈な一撃、魔道士の多彩な魔法。

その全てを紙一重で躱しつつ演舞を魅せる黒い影。

致命傷にはならないような浅い傷を、僧侶の魔力が尽き果てるまで刻み続けていた。

人は自身の魔力が尽きた時、生命力を代償として魔法を行使できる。

僧侶の魔力が尽きたであろうその時から、黒い影は一転して深い傷を刻むようになっていた。

僧侶には傷を癒やすような魔力は残っていない。

だからといって、回復の手を止めたら全滅は必至。

僧侶には最早、選択の猶予など残されていなかった。


結局、僧侶はその命尽き果てるまで回復魔法を行使し続け絶命した。

生命力を使い果たした者は、世界樹の葉といえども甦らせることはできない。

恐らくはこれが黒い影の目的だったのだろう。

世界樹の精霊は、世界樹を斬り倒すだけで一網打尽にできる。

しかし人間は別だ。

ただ殺しただけでは甦生してしまう。

だから死者甦生の権能を持つ僧侶を真っ先に潰した。

それも世界樹の葉を以てしても甦生が叶わない遣り方で・・・。

だったら、世界樹を先に斬り倒せばいいのではないかと思うわけだけど。

どうにも黒い影は、あの状況を愉しんでいるように見えてならなかった。

当然、仮面で表情は判らなかったけれど・・・。

何故だか、あたしは確信めいた何かを感じていた。


あたしが憶えているのは、そこまでだ。

その後、勇者一行がどうなったかは結末しか知らない。

まぁ、それさえ知っていれば充分な気もする。

何せ、あたしには勇者に対して何の思い入れも無いのだから。


端的に言えば、全員亡くなった。

僧侶の少女は仲間を護る為、犠牲になった。

戦士の男は僧侶の想いも空しく口無き遺骸となった。

勇者の骸は魔界樹に磔にされていた。

魔道士の少女はと言えば、あたしを受肉させる為の受け皿となった。

勿論、彼女としての人生を終わらせた上で・・・。


妖精族は魔素で己の肉体を形成する。

だから本来であれば、他人の肉体を借りる必要なんてない。

それなのに、あたしが彼女の肉体を借りているのには理由がある。

というか、理由もなくこんなことをする意味が判らない。

それは一旦置いておくとして、あたしを受肉させたのはあの黒い影の仕業だ。

何を思ったのか、あたしを世界樹・・・いや、魔界樹の束縛から解き放ってくれたのだ。


生命の根源たる世界樹は彼の手によって、魔界樹へと創り変えられてしまった。

あたしが伝え聞いた話では、世界樹が倒れた時、海は荒れ、大地は裂け、天の裁きが下されるみたいなのだけど・・・。

どうやらそれは人々の信仰が創り出した妄想に過ぎなかったらしい。

世界樹が司る生命は聖域で暮らすものに限られる。

その証拠に、世界樹と命を共有する精霊達は魔族に堕ち、聖域の植物は魔界の植物へと姿を変えた。

而して聖域の外には、恐らく健全であろう世界が広がっていたのだ。


理由はどうあれ、あたしは彼の御蔭で翼を得ることができた。

果て無き世界へと羽ばたく為の翼を。


どうして妖精族を受肉させたのか。

どうしてあたしだったのか。

その問に彼は答えない。

秘密主義なのか、それとも理由は無いのか。

暫く彼と過ごしてみると後者のような気がしてくる。

彼は頭の回転は早いけれど、時折突拍子もないことをしでかしてくれる。

きっとあたしのことも単なる気紛れだったのだろう。

それでも感謝はしている。

だって彼は、そよ風に吹かれるばかりだったあたしを大空に解き放ってくれたのだから。



・・・自由の翼と根差す草花 ~完~



紫苑 茜


・基本情報

呼名:しおん あかね

特徴:紫の髪(腰程度の長さ)・紫の瞳

身長:女性としては平均的

体格:肉付きが良い(グラマラス)


性格:お淑やか・一途

妖艶なのは見た目だけで、中身は至って真面目。

恋愛のいろはを知らない所為か、愛情表現が過激。


趣味:研究

勉強熱心で数多の薬・毒を開発した実績を持つ。

最近は黒霧姉弟の生態調査に御執心。


嗜好:黒霧姉弟

苦手:怪談話・カナヅチ


所属:魔王の懐刀

役割:御意見番

自称:わたし


種族:魔族<紫苑の一族>

薬の調合を生業とする一族。

茜の功績により、その名は魔界中に広まった。


能力:錬成

物質を構成する成分を原子単位で組み換える能力。

合成獣の研究にも応用されていた。


能力:英知の瞳

知識を蓄えることに特化した能力。

但し、情報の処理は能力の範疇外。

<解読>

あらゆる言語を一瞬で読み解く。

聴覚を介しての言語習得は不可。

<分析>

物質を構成する元素の種類と体系を見抜く。

化学・生物学の知識があって初めて意味を成す能力。

<封書>

得た知識を物体に転写する。

魔力文字によって刻字が為される。


武具:暗剣

飽くまで護身用。

戦闘能力は皆無。


装束:黒外套・ロングスカート

ロングパンツを穿いて、時雨に卑猥だと注意された。

ミニスカートを穿いて、時雨に蔑んだ瞳で見られた。

泣いた。



・紫苑の呪い


その日、わたしの人生は変わった。

これまで灰色だった世界が、再び真白く輝き、彩りが描き加えられていった。

わたしの心を捕らえて放さないのは、陽光に煌めく白髪と純真無垢な紅い、宝石なんかよりも余程美しい瞳だった。


わたしは幼い頃から勉強漬けの日々を送っていた。

誰に強制されたわけでもないのに・・・。

ただ、わたしにとってそれが最善の行動だと信じていたから。


わたしの生まれた紫苑という一族は、始祖の時代から薬の調合を生業としているらしい。

だからなのだろうか。

戦闘能力は皆無なのだ。

多少の運動ができる連中は確かに居る。

でも、その程度だ。

体術を教える者が居ないこの紫苑の里で、戦いに身を投じる段階に到達できるはずがない。

不思議なことに戦闘向きの能力を持って生まれてくる者も居ない。

これは始祖からの御告げなのだろう。

戦いに関わるな、というね。


だからわたしは勉強に励んでいるのだ。

年の近いであろう子供達が遊んでいる時も、わたしはひとり図書館の研究書を読み漁った。

そこいらに生えている雑草を抜いてきては、錬成術の練習をした。

元素を組み換えるイメージを掴むのには苦労した。

だって、目に見えないものをそうイメージしろと言うのよ?

なんて悩んでいたのに、元素モデルをイメージしたら・・・できちゃった。

今まで費やした時間を返してほしいものだ。

それから、わたしが勉強に掛ける時間はどんどん増えていった。


努力は裏切らないというけれど、それは自分を自分で評価する場合に限られる。

だって、他人はわたしの努力を知らないのだもの。

人は誰かを評価する時、どれだけ努力してきたかではなく、何ができるかを見ている。

つまりは目に見えて判る成果を求めている。

わたしが出した成果は、皆からの評価を得るに充分すぎる代物だった。


現在、紫苑の里で調合されている薬の改良。

そして数多の新薬の開発。

ここ暫く停滞していた調合技術の発展を数百年分は早めたとか言われていた。

正直、そんな評価はどうでもよかった。

わたしはただ、もっと良いものを作ることができるという事実に気付き、それを実行しただけだ。

何も特別なことはしていない。

・・・つまらない。

紫苑随一の薬師と持て囃されてはいるけれど、わたしの心が満たされることはなかった。

若しあの時、皆に交じって遊んでいたら・・・どうなっていただろう。

少なくとも、今のような名声は得られていなかっただろう。

だけど同時に、こんなにも空しい気持ちを抱かずに済んだのではないだろうか。

わたしの心には後悔にも似た感情が渦巻いていた。


そんな時だ。

わたしは運命の双子と出会った。

この世のものとは思えないほどの美しさに、わたしの心は一瞬にして奪われた。

嗚呼、なんて美しい姿なのだろう。

調べたい。

その肢体の隅々まで、調べ尽くしたい。

どうしようもなく湧き上がるこの感情は・・・何?

嗚呼、きっとこれが・・・愛、なのね。


愛しているからこそ、その人のことを知りたいと思うのは普通のことだろう。

何もおかしなことではない。

そう何もおかしくなどないのだ。

たとえ服を剥ぎ取り、軀中をまさぐったとしても・・・。

彼らの味を直接確かめたとしても・・・。

何もおかしくなどないはずだ。


最近、彼らの反応が冷たい。

あーちゃんはわたしを見るとすぐにしーちゃんの後ろに隠れる。

そして獣でも見るかのような瞳を向ける。

しーちゃんは基本的に反応が薄いことで有名だけど、わたしが側に行くと露骨に嫌そうな顔をする。

何故・・・。

わたしの愛が足りないから?

だったら、もっと愛してあげないと!


そうしてわたしが手を出したのが、毒薬の研究だった。

暗殺を生業とする彼らならきっと、薬よりも毒のほうが馴染み深いはず。

任務に使うことだってあるだろう。

それをわたしが改良して、より強力な毒を開発できたなら、彼らも喜んでくれるだろう。

わたしは毒薬の調合に没頭した。

寝食も忘れて、ただひたすらに調合を繰り返した。

そして完成させた。

血球と同化することで、体内で生成・保存することができる毒を・・・。


わたしが開発した毒は、生命を脅かすようなものではない。

体内に侵入した別の毒素を攻撃し、無効化する免疫機能を備えている。

謂わば、毒を殺す毒なのである。

この毒を体内に取り込めば、一切の毒が効かなくなる。

これはわたし自身の軀で実証済みだ。

開発の過程で偶然生まれた毒薬は全て試した。

しかし、わたしは生きている。

性能評価には充分すぎるデータだ。


早速、彼らにわたしの毒を届けに行くことにした。

しかし、できなかった。

黒霧が神々と対立してしまったからだ。

わたし達、紫苑は戦う術を持たない。

黒霧との繋がりが知れたら、神々の矛先が紫苑にも向けられることは想像に難くない。

若しそうなってしまったら、紫苑は簡単に滅ぼされてしまうだろう。

二、三日に一度は黒霧に薬を卸しに行くはずの行商も完全に止められていた。

孤立無援。

黒霧の置かれた状況が正にそれだった。


わたしは己が如何に無力かを思い知った。

愛する者達が窮地に立たされている今、わたしは何もできないでいる。

黒霧の里に出向くことは簡単だ。

今や"妖艶の毒師"と恐れられるわたしに近づく者は居ない。

触れるだけで毒気に冒されると噂されるわたしだ。

紫苑の里にわたしを止める勇気のある者は居ないだろう。

だけど、彼らの許へ行ったところで、わたしに何ができる?

何も・・・だ。

彼らに薬は必要ない。

どんなに優秀な薬でも治せないような傷をしーちゃんは治してしまうから。

彼らに毒は必要ない。

毒が回るよりも早く、彼らは息の根を止めてしまうから。

わたしは無力だ。

力が欲しい、とは思わない。

どうせ、そんな願いは叶うはずがないのだから。

まだまだ成長段階にある軀ならまだしも、育ちきった軀のわたしが今から戦闘訓練を始めたところで高が知れている。

だからわたしは資格が欲しい。

戦場で共に並び立つのではない。

彼らがわたしと共に居たいと・・・。

そう求められ、彼らの側に居ることを許される資格が・・・。


わたしは決して犯してはならないことをした。

彼らから求められたいが為、必要とされたいが為に・・・。

彼らに呪いを掛けたのだ。

お姉ちゃんが側に居ないと駄目になる呪い。

あーちゃんと肉体を共有しているしーちゃんにはあまり意味が無いかも知れないと思ったけれど・・・。

やはり肉体があるのと無いのとでは違うらしい。

温もりを感じることが側に居るという定義みたいだ。

しーちゃんとわたしはいつも一緒に居た。

流石に任務にまではついていけなかったから、パオラに代わりを御願いしていた。

あーちゃんの肉体を創造するのは疲れるだろうし、神命ちゃんは妹だもの。

彼女くらいしか、任せられる人は居なかった。

でも、わたしにはそれがどうしても受け入れられなかった。

彼らの隣りに居るのは、たとえそれが戦闘の時であっても、わたしでなければならない。

そんな想いに支配されて、わたしは呪印の複製を試みるのだった。


呪印の複製には成功した。

だけど、わたしの精神が呪印に耐えることができなかった。

自我を失い、暴走してしまった。

瞳に映る者全てに襲いかかるわたしを、しーちゃんが鎮めてくれた。

わたしは取り返しのつかない過ちを犯してしまった。

愛する彼らに消えることのない呪いを遺した挙句、自分が先に居なくなるだなんて・・・。

お姉ちゃん失格ね。

ごめんなさい。

後は、パオラに任せるわ。

しーちゃんとあーちゃんを宜しくね。

勝手なお姉ちゃんを赦してね・・・?



・・・紫苑の呪い ~完~



クラウ・リッパー


・基本情報

愛称:クゥ

特徴:銀の長髪(ふたつに括って垂らしている)・蒼い瞳

身長:小学生並み(歳相応)

体格:華奢


性格:意地っ張り・嫉妬深い

男女を問わず、時雨が誰かと一緒に居ると拗ねる。

必死に背伸びをしているが、努力の方向性がおかしい。


趣味:ゲーム

暇すぎてハマった。

育成・RPGがお気に入り。


嗜好:時雨の膝枕

苦手:人付き合い


所属:時の番人

役割:歴史の正導

自称:私(素が出ると、クゥ)


種族:タイタン族<古の神>

時の支配者・クロノスと人間の間に産まれた半神半人。

先の聖戦で滅んだ一族の末裔。


能力:神の系譜

不滅の魂と永劫の肉体を持つ。

寿命の概念は無いが、死の概念はある。


能力:時の羅針盤

時を操り、在るべき未来を示す能力。

定められた歴史を正しく導くことがクラウの役目。

<時の崩落>

時間という概念を崩壊させる。

朽ちることのない魂と肉体を与えることができる。

<不動の秒針>

世界の時が止まる。

指定された人物のみが能力から逃れることを許される。

<約束の未来>

世界の在るべき未来を予見する。

歴史を正しく導く為、魔王の懐刀は異世界を渡り歩く。

<時渡り>

過去、現在、未来を自由に行き来する。

歴史の改変は禁則事項ですって。

<世界の扉>

異世界への扉を開く。

見送りの抱擁は御約束。


武具:時の大鎌

クロノスから受け継いだ神器。

突き立てたものの時を自在に操ることができるが、重すぎて持てない。


装束:黒の修道服

時雨に作ってもらった服。

汚れないように能力で時の概念を奪っている。



・非情の温もり


小さな風車小屋と一面に広がる麦畑。

絵画にすれば多くの人の心を掴むであろう風景の中に私は暮らしていた。

閉ざされた世界の中、母とふたりで・・・。


私の暮らしは貧しかったのだろうか。

較べるものが無いのだから、結論は出ない。

だけど、少なくとも私は幸せだった。

母の作る焦げ付きのパンに、不揃いなサラダ。

偶に肉が出る時、決まって母の顔は青ざめていた。

料理も肉の解体も苦手な母が、私の為に頑張っている。

自分が愛されていると知って、幸せを感じない事があるだろうか。

私は無いと信じたい。


ところで、私の父はいったい誰なのだろうか。

銀の髪に蒼い瞳。

これは母から受け継いだものだ。

私の外見に父の面影は無い。

母が言うには、目許がそっくりらしいのだが・・・。

その証拠は何処にも無い。

だって、私は一度たりとて父に会った事がないのだから。


なんて考えていたら、父の正体を知る羽目になった。

知らぬが仏とは言うが、無知は免罪符になり得ない。

それが変えようのない事実であれば尚更だ。

私の父は、時の支配者・クロノス。

ガイアとウラノスの子にして、オリュンポスの神々が父。

嘗て神々と対立し滅んだタイタン族の長だ。

今では実の子にして天空の支配者・ゼウスに切り刻まれ、タルタロスの奥底に封印されているのだとか。

天上の遣いから、そう聞かされた。

私はこれから天上の牢獄に幽閉されるらしい。

母とはもう、二度と会う事は叶わないだろう・・・。


冷たい石に囲まれた部屋。

黒い格子の先に見えるのは、また別の牢獄。

小さな窓から入り込む明かりは月光のように弱く、心を蝕んでいく。

何故、私がこんな目に・・・?

それは言うまでもなく、父の所為だ。

私が、タイタン族の血を引いているから・・・。

しかし、それだけならばゼウスを始めとする力ある神々も同じ事だ。

私だけが疎まれ、幽閉された理由は他にある。


ひとつは、私が人と神の血を継ぐ"半神半人"である事。

神話に名を残すような英雄も皆、半神半人だ。

ゼウスが妻・ヘラに試練を与えられたヘラクレス。

誰だったかは忘れたが、とある女神の放った蠍によって星となったオリオン。

彼らは確か、ゼウスが人間の女性と不倫した結果生まれた英雄だ。

そう、半神半人が疎まれる理由は単純明快。

不倫の果てに産まれた子供達だからだ。


私が疎まれる理由は今し方話したとおりだが、幽閉された理由はまた別にある。

それが"神器"だ。

なんでも父・クロノスが神器・時の大鎌が私の身体に封印されているらしい。

まったく、傍迷惑な話だ。

いつか娘の役に立つだろう。

そんな安易な考えで私に神器を授けてくれたのだろうが、その所為で私は幽閉される羽目になった。

しかも取り出し方がわからない。

どう責任を取るつもりだ、莫迦親父。


天上の牢獄に入れられて幾星霜。

何度陽が昇り沈んだのか、最早数える気力も尽きた。

きっと母はもう、物言わぬ骸と化しているだろう。

此処に鏡が無くてよかった。

今、私自身の姿を見てしまったら・・・。

生きる気力さえも無くしてしまいそうだ。


そしてまた陽は巡った。

最近、食事の頻度が減っている。

外で騒ぎが起きているのか、ただの虐めなのかは知らないが・・・。

いい加減、力尽きるぞ?

こんにゃろう・・・。


そこで気付いた。

格子の向こう側に、私を見詰める存在が居る事に・・・。

声を掛けるでなく、ただ私を見詰める・・・。

黒く澱んだその瞳に映る私は、殊の外美人だった。


白髪に紅い瞳の青年に救われた私は、彼に連れられて茅葺きの屋敷で優雅に御茶を嗜んでいた。

もとい、嗜まされていた。

幽閉生活が永過ぎた弊害か、筋力の衰えた私は自力で湯飲みを持ち上げる事すらできなくなっていた。

だから、御茶を飲ませてもらっている。

御飯も食べさせてもらっている。

歩く時には支えになってもらっているし、風呂では身体を洗わせてやっている。

存分に尽くすがよいぞ。


此処は良いな。

暖かな陽光、薫る微風に、清らかな潺。

飯は美味いし、量も申し分ない。

母が如何に料理下手だったかがよく判った。

嘗ての暮らしが貧しいものであったという事も・・・。

だが、此処には絶対的に足りないものがある。

・・・"温もり"だ。


どんなに気候が穏やかでも、その暖かさは心まで届かない。

心を解すのは人の温かみだ。

愛、とまではいかずとも人の情が温もりになるのだろう。

その肝心な情がこの青年には欠落している。

惜しい・・・実に惜しい。

情とは則ち心。

心を開かぬ者に、情を届ける事などできはしないのだ。

これは矯正が必要だろうか。

母よ、見ていてくれ。

私はこれから、非情なる者に愛を教えてやるぞ。

母が私に愛をくれたように。


まずは淡々と世話だけをするこの悪習をどうにかせねばな。

ほれ、口を開けろ。

私からもお返しをしてやろう。

どうだ?美味いか?

美味いだろう。

何せ、絶世の美少女である私が食べさせてやったのだから。


次はそうだな。

偶には私が背中を流してやろう。

おお・・・これは中々・・・。

と、いかん。

煩悩退散!

しかし肌理の細かい肌をしおってからに。

女子か?こやつは。


ふぅ。

御茶は良いな。

心が落ち着く。

こやつの膝も中々座り心地が好い。

もう少し体温が高ければ申し分無しだな。

私の体温は心地良かろ?

何たって、絶世の美少女だか・・・。

おい?何処へ行く?

私はまだ満足していないぞ?

こりゃ!待たんかっ!


と、まぁ。

愛を教えよう大作戦を推し進めて来たわけなのだが・・・。

こやつは本に手強いのぉ。

未だに濁った瞳をしておるわ。

折角、美しい紅色をしているというのに・・・。

勿体ない。

心にも無い微笑みを貼り付けおってからに。

愈々、本腰を上げて取り組まねばならんかの。

ほれ、そこに直れ。

私が直々に"なでなで"というものを実演してやろう。

嬉しかろ?

何たって私は絶世の・・・。

これ。

何故にお前が私を撫でるのだ?

・・・中々気持ちが良いな。

て、そうではない!

私が貴様を撫でるのであろうが!

そこに直れぇ!

・・・そこに跪けぇ!!


こやつと過ごした日々は本に穏やかなものであった。

一言も喋らぬからな。

風に木の葉が揺れる音がよう聞こえた。

それがどうじゃ?

今や、何の音も聞こえはせん。

戦火の燻る臭いだけが漂っておるわ。

のう・・・。

お前は終ぞ、私に声を聞かせる事無く逝ってしまうのだな。

まったく。

本に勝手な男だのう。

勝手に私を救っておいて、勝手に生きる目的を与えて、それで勝手に逝くのか?

私はまだ、お前に何も返していないぞ?

私はまだ、お前に愛を教えきれていないぞ?

私は!クゥはまだ、お前と一緒に居たいのだぞ!


生命の拍動を失った里に美少女の嘆きが木霊した。

この瞬間だけは、その愛らしい顔をぐしゃぐしゃにして・・・。


結局、青年と一緒に居たいという私の願いは叶った。

感情の豊かな者と肉体を共有している影響か。

以前に比べれば、かなり表情が豊かになった。

非情なる者に人並みの情が宿った。

だが、私は知っている。

非情なる者が、非情だからこその方法で温もりをくれた事を。


非情の温もりを・・・。

私は、クゥは知っている。



・・・非情の温もり ~完~



五月雨


・基本情報

愛称:ミーさん

艦種:魔改造駆逐艦

身長:駆逐級

体格:駆逐級


性格:明朗・妹ラブ(戦闘狂)

底無しの明るさで妹達を引っ張るお姉ちゃん。

ドジっ娘属性は訓練の果てに消え失せた。


趣味:トランプ

就寝前の御遊戯が日課。

密かにマジックも練習中。


嗜好:姉妹との戯れ

苦手:砲撃


所属:訓練基地

役割:回避機能訓練の教官

自称:私(お姉ちゃん)


系譜:建造組

時雨と集積によって建造された改造艦娘。

血の繋がりは無いが、一応長女。


恩恵:感知能力と思考速度の向上

異常な回避能力を身に付けている。

また、時雨と集積の魔改造により戦艦並みの装甲を誇る。


艤装:大鎌

反重力の弾を撃ち出せる折りたたみ式の大鎌。

持ち運びに便利。


装束:黒外套・ショートパンツ

黒外套は時雨とお揃い。

動きやすさ重視の格好。



・五月雨より愛を込めて


皆様、おはこんばんちわ。

五月雨ですよ。

今日は何を思ったか、手紙を書いてみました。

早速本題に・・・と思ったのですが、挨拶を縮めるなと南ちゃんが五月蠅そうですねぇ。

大丈夫ですよ。

みんなの前で読む時には省略せずに読みますから。

でも、そうなるとこの文章の意味が無くなりますね。

ま、いっか。

どうせ読み終えたら棄てる予定でしたし。

ではでは気を取り直して本題ですよ。


愛する家族へ


まずは、ヲーちゃんからいきましょうか。


ヲーちゃん。

貴女は私にとって、天使のような存在です。

それはきっと私だけでなく、みんなにとっても同じはずです。

貴女のその笑顔。

お姉ちゃんはそれだけで三日は生きていける気がします。

事実、水無しでも三日は保つらしいので。

おっと、これは余計な事でしたね。


ヲーちゃんは私達姉妹の末っ娘です。

末っ娘と言えば、甘え上手なイメージがありますが、ヲーちゃんは人に甘える天才だと思います。

貴女の笑顔を見てしまったが最後。

誰もがその笑顔の為に行動するでしょう。

貴女の瞳が涙に濡れる事があれば、人はその涙を止める為に邁進するでしょう。

貴女はそれを理解している。

理解した上で利用しているのだから、質が悪い。

まったく、誰に似たのやら。

最近のヲーちゃんは天使と言うよりは小悪魔です。

その小さなお尻には尻尾が生えてるんじゃないですか?

やっべ、小悪魔ヲーちゃんマジ天使。

まぁ、結局ヲーちゃんは可愛いのです。

カワイイは正義。

ならば良し。


はい次、レーちゃん。


レーちゃん。

貴女は私にとって、可愛い妹です。

何が可愛いって?

決まってるじゃないですか。

からかい甲斐のあるところですよ。

お父さん絡みの事になるとすーぐ顔を真っ赤にするんですから。

嗚呼、もう!

どうして貴女達はこんなに可愛いんですか!


失礼。

取り乱しました。

最近のレーちゃんは少しだけ素直になってきました。

甘えたいという感情を恥ずかしがる事なく伝えられるようになりましたね。

御蔭でお姉ちゃんの娯楽がひとつ減ってしまいました。

知ったこっちゃないって?

大丈夫。

お姉ちゃんは娯楽を見つけるのが上手いんです。

またすぐに遊んであげますから、心配しないでください。


次~。


蓮華ちゃん。

貴女は私にとって、先輩なのに妹みたいなよく判らない存在です。

何しろ私は記憶を失っていますからね。

誰かさんの所為で・・・。

まぁ、それは一旦置いておくとして。

蓮華ちゃんと再会した時、私と貴女の立場はあべこべになってしまいました。

貴女は上司であるクロさんの娘でしたし、何より態度が大きかったですから。

記憶喪失なのをいい事に偉ぶっているのかと思いきやですよ。

まさかそれが素だったなんて、お姉ちゃんは吃驚仰天です。


不遜なんて言葉がぴったりの貴女にも、実は可愛いところがいっぱいあります。

例えば、私のことをお姉ちゃんと呼ぶところとか。

実は南ちゃんのことが大好きで、とっても寂しがりなところとか。

顔・・・真っ赤ですよ?

さて、これ以上やると訓練装置にどんな細工されるかわかりませんからね。

このくらいにしておきましょう。


南ちゃん。

もう少し大人の余裕を身に付けましょう。


終わり。


姫ちゃん、もといお母さん。

大好きです。

私を造ってくれてありがとう。

私をお姉ちゃんにしてくれてありがとう。

お父さんのことが大好きなお母さんが好きです。

南ちゃんをからかって遊んでいるお母さんが好きです。

案外直球に弱いお母さんが好きです。

実は運動が苦手なお母さんが好きです。

あの時、私が本当に殴りかかっていたら、きっと私が勝っていたと思います。

割とマジで。

お父さんは南ちゃんにぞっこんだから、あんまり構って貰えないかも知れないけど・・・。

それは娘特権でなんとかします。

この後すぐに。

だから、娘には見せられない事もガンガンやっちゃってください。


ヲーちゃん、耳塞いでた?

頷いたって事は聞いてたなチキショー。


はい、ラスト。


お父さん。

クロさん、なんて呼んでいた頃が懐かしいです。

貴方は本当に趣味が悪いです。

女性を虐めて愉しいですか?

え?レーちゃんを弄ると面白いでしょって?

なるほど。

これは一本取られましたね。

お父さんのそういうところは私にも受け継がれているみたいです。

血は繋がっていないのに不思議ですね。

まぁ、どうせ訊かれてないからと言ってない事があるんでしょうけど。

別に訊く気もありませんが。


お父さんに伝えたい事。

改めて考えてみると、難しいものです。

だって私は思い立った時にちゃんと言葉にして伝えていますから。

今更手紙に書くような事も無いんですよね。

だから、お母さんの秘めきれていない想いを代弁することにします。


今夜"も"お楽しみですよ?

男なら両手に華を抱えて魅せなさいな。


ヲーちゃん、耳塞いでた?

聞こえなかった?

頷いたって事は聞こえてたなチキショーメ。


私の手紙はこれで終わりです。

ですが、最後にひとつだけ・・・。


私の家族がお父さんで、お母さんで、南ちゃんで、蓮華ちゃんで、レーちゃんで、ヲーちゃんで、本当に良かった。



・・・五月雨より愛を込めて



日向


・基本情報

本名:蓮華(れんか)

艦種:工作艦

身長:小学生並み(歳相応)

体格:細身


性格:自由人・父上ラブ

達観したような口振りの時もあれば、子供らしさ全開の時もある。

謎多きファザコン幼女。


趣味:艤装弄り

熱が入ると倒れるまで工廠に籠もる。

倉庫にはよく判らない発明が山積みになっている。


嗜好:風呂

苦手:身長に関する発言


所属:訓練基地

役割:工廠担当

自称:私


系譜:オリジナル

時雨と南方の娘。

南方にとってはひとり娘だが、時雨にとっては次女。


恩恵:空間認知能力と演算能力の向上

独自の艤装製造を支える能力。

実は、戦闘も得意。


艤装:なし

戦闘には参加しない。

だって、工作艦だもの。


装束:黒外套・ロングパンツ

当然、父上とお揃い。

工廠での作業時に肌の露出は有り得ない。



間宮


・基本情報

本名:長瀬 狭霧

艦種:給糧艦

身長:女性として平均的

体格:細身・筋肉質


性格:温和・明朗(無慈悲)

優しく明るい間宮は偽りの顔。

人類滅亡を目論んだ咎人。


趣味:武術

始めは護身術として習わされていたもの。

いつの間にか、自ら進んで稽古に励んでいた。


嗜好:最新家電

苦手:男性との直接的接触


所属:大本営(訓練基地)

役割:物資輸送(衛生管理)

自称:私


系譜:改造組<クローン>

海軍元帥の孫娘として育てられた、海軍元帥の娘・長瀬狭霧のクローン。

自ら志願し、艦娘となった。


恩恵:なし


艤装:なし


装束:例の前掛け



・間宮の手紙


愛する貴方へ。


私は今、真白い世界を漂っています。

これが天国というものなのでしょうか。

極楽とはよく言いますけれど、つらい事の無い世界では娯楽も無いのですね。

だって、心も体も疲れることがないのですから。


ところで、私が書いているこの手紙は貴方の許に届くのでしょうか。

まぁ、それはひとまず置いておきましょう。

私は今、天国に居ます。

もう知ってる?

ええ、そうでしょうね。

だって、私をこの場所に送ったのは貴方なんですもの。

私は地獄に落とされたっておかしくない事をしました。

それなのに、私が送られた先は天の国でした。

きっと貴方が、私の罪を消し去ってくれたのですね。

ありがとう、なんて言いませんよ?

こんな退屈な世界に送られて、私は少し怒っているくらいです。

うふふ、冗談です。

手紙に「うふふ」だなんて、変な感じですね。

でも、いいじゃないですか。

間宮として私が遺せる物は、もうこれくらいしか無いのですから。


思い返せば、色々な事がありました。

海軍元帥の孫娘として産まれた私は、幼い頃から権力を欲する者達の視線に晒されながら生きてきました。

私と結婚すれば、海軍を手中に収めることだって夢ではないですからね。

ですが、孫が可愛いお爺さまは私を嫁に出す気なんてありませんでした。

貴方とのお見合いをした時だって、もの凄い剣幕だったんですよ?

悪い虫が付かないように護身術を習わされもしましたね。

空手に、柔道、合気道、剣道、薙刀に弓道も、後は・・・何でしたっけ?

貴方に訊いても詮無いことですね。

懐かしいものです。

御蔭で筋肉が付いてしまって、危うく女性らしさを失ってしまうところでした。

貴方はよく御存知ですよね?

だって、あんなに激しい夜を過ごした仲なんですもの。

なんて、貴方と肌を重ねたことはありませんでしたね。

もう、貴方が奥手な所為で私は経験をしないままに生涯を終えてしまったじゃないですか。

若し来世があるのなら、きっと奪いに来てくださいね。

これは冗談ではありませんよ?


そういえば、貴方はとっても力持ちでしたね。

私が運んでいる荷物を代わりに持って、平気な顔をしていたのは貴方と日向ちゃんくらいなものです。

他の方々は持てないか、顔を真っ赤にして踏ん張るのが精々でした。

私が他の方に比べて少し、本当にちょっぴり力持ちだってこと。

実は気付いていました。

みんなは必死に取り繕っていましたけれど、気付かないはずがないじゃないですか。

私はそこまで莫迦ではないですからね。


ねぇ、あなた。

憶えていますか?

私達が初めて会った時のことを。

勿論、憶えていますよね。

知っています。

だって、貴方から言い出したことですもの。

貴方が私の最期を看取ってくれたあの時に。

あの言葉に私は負けてしまいました。

貴方のことを本当に愛してしまったのだと、自覚させられたのです。


貴方と初めて会ったあの日。

それは私の身を守る為に仕組まれたお見合いの場でした。

海軍の高官であるお父様が仲人を務めたあのお見合いは、陸軍の憲兵だった貴方にとっても息苦しいものだったでしょう。

そういえば、貴方は私の瞳に感情が宿っていなかったと言いましたね。

まったく、貴方に隠し事はできませんね。

本当は気付いていたのではないですか?

私が以前から企てていた、あの計画のことを。


幸か不幸か、海軍元帥の孫娘として産まれた私は、大人の世界に触れる機会が他人よりも早く、多かったのです。

自分の欲望を満たす為に他人の幸せを踏みにじり、のうのうと生きているあの連中が幼いながらに赦せませんでした。

その中には私のお爺さまも、お父様も含まれています。

血の繋がった家族でさえも信じられなかった私は、仮面を被って生きることを覚えました。

皆の瞳に映る私は、誰にでも優しい和やかな少女だったことでしょう。

私はそんな間宮を演じていましたから。

貴方だけでした。

本当の私を見てくれていたのは。

だからなのでしょうね。

私自身も気付かないうちに、私は貴方に惹かれてしまったみたいです。


お見合いを終えてからの私は本当に頑張りました。

貴方をメロメロにする為にです。

これが冗談でないことは、貴方が一番知っているでしょう?

舞鶴に勤める貴方と大本営に勤める私の間には、どうしようもない距離の隔たりがありました。

それなのに、それなのにです。

私は甲斐甲斐しく舞鶴に通ってはお弁当を届け、夕飯を一緒に食べましたよね。

今思えば、それをつらいと感じたことはありませんでした。

不思議ですね。

私には恋愛感情なんて無かったはずなのに。

うふふ。

これは思い出し笑いです。

あの頃の私は初心でしたね。

男性を口車に乗せることは得意でしたけれど、直接触れられることは苦手でした。

箱入り娘の弊害でしょうね。

貴方との距離が一向に縮まらないことに痺れを切らした私は、お風呂に乱入したことがありました。

水着があればよかったのですが、急に思い付いたものですから、バスタオル一枚の無防備な姿にならざるを得ませんでした。

本当に恥ずかしかったです。

できることならば、時を戻して自分を諫めてあげたいくらい。

結局、背中を流してあげることさえできなかったのですよね。

緊張しすぎて倒れてしまった私を、貴方はずっと看ていてくれました。

普通なら、こんな絶好の機会、逃す手はありませんよ?

夜中に目が覚めて、座ったまま眠っている貴方を見た時は何だか少し悔しかったのを憶えています。

嗚呼、私に女としての魅力は無いのかな、なんて。

貴方は本当に罪な人です。

そんな調子では、地獄に落ちてしまいますよ?


おっと、話が逸れてしまいました。

私が躍起になって貴方を堕とそうとしていたのは、身の安全を確保する為でした。

あの頃の私は命を狙われる立場でしたから。

誰からって、海軍の将校達に決まってますよね。


彼らの悪行は法で裁けるものではありませんでした。

当然です。

裁きを下す立場にある者までもが、腐りきっていたのですから。

孫娘からの進言であれば、或いは・・・なんて、甘い考えでした。

反省します。

だから私は、自ら裁きを下すことにしたのです。

金銭的に破滅させたり、口車に乗せて同士討ちさせたり、深海に情報を流したりして。

幸いにも、口は達者な私です。

暴力に頼らずとも、人を貶めるのは簡単でした。

あまりに事が上手く運んだものですから、私は調子に乗ってしまったのでしょう。

暗殺計画が持ち上がるまでに、男達を弄んでしまいました。


実を言えば、私の身を守ることこそが貴方とのお見合いに於ける最大の目的でした。

若し貴方と結婚することができたなら、私は舞鶴の真宵烏と謳われる貴方の妻になるわけです。

憲兵隊隊長の妻ともなれば、海軍の将校だってそう易々と手は出せません。

それに私は海軍元帥の孫娘でもありますからね。

貴方とのお見合いを断る理由はありません。

まぁ、持ちかけたのはこちらですけれど。

しかし、貴方を堕とすのには本当に苦労しました。

よく頑張ったね、と私を褒めてください。

婚約まではお父様が強引に持っていきましたが、貴方から「結婚」の二文字を引き出すのに何年掛かったことか。

貴方が海軍に転属してきてからですから、えっと、何年でしょう?

忘れてしまいました。

でも、貴方が子供をつくって帰ってきたこと。

これだけは忘れませんからね!


私というものがありながら、他の女と夜を共にして。

しかもそれが深海棲艦だなんて!

まぁ、そういう計画だったということは理解していますから、大目に見ますけど。

聞いた話によると、婚約を破棄させる為にお爺さまが貴方を指名して計画に巻き込んだらしいですね。

お爺さまの思惑どおりになんてさせてなるものですか!

そんな事もあって、貴方が連れてきた日向ちゃんとも仲良くなろうと必死だったのです。


日向ちゃんは難しい娘でしたね。

貴方のことが大好きだから、私をライバルのように見ていました。

ある程度、婚約者として振る舞うことは許してくれていましたけれど、内心穏やかではなかったでしょうね。

貴方が結婚を決意してくれた時も、最後まで反対していたのは日向ちゃんでした。

涙を流しながら貴方に抱き付いていた日向ちゃんの姿は、今でもはっきり憶えています。

それからは早いものでした。

幸せが壊れる時はいつだって、あっという間の出来事なのですね。


時々、違和感は感じていました。

まるで自分が自分でないような、そんな感覚です。

ですが、まさか私が操られていただなんて思いもしませんでした。

集積さんを利用するはずが、私が彼女に利用されてしまったのですね。

彼女が思い描く、楽園を創り上げる為に。

そうして私は貴方の手によって、生涯を終えることになりました。

恨んでなどいません。

これは絶対です。

寧ろ、これで良かったのだと思っています。

だって、私の計画では貴方も始末することになっていましたから。

貴方が居なくなってしまったら、日向ちゃんが哀しんでしまいます。

貴方のことが大好きな日向ちゃんですから、きっと貴方の後を追って自ら命を絶ってしまっていたでしょう。

ええ、絶対にそうなっていました。


居なくなるのは私ひとりで充分です。

これは悪いことではありません。

特に、私にとっては。

だって、貴方のことを本当に愛してしまったのだと気付くことができたのですから。

だから貴方が気に病むことは何もありません。

貴方は幸せを掴んでください。

そして来世では、きっと私を幸せにしてくださいね。

約束ですよ?


私はこれから「転生」というものをするみたいです。

魂に刻まれた記憶も全てリセットされるのだとか。

でも私はきっと忘れません。

いえ、絶対に忘れません。

私が本当に愛するひとは、貴方だけだということを。


この願いが叶うなら、どうか私を見つけてくださいね。

若しかすると、私のほうから会いに行くかも知れませんが。


では最後に。

愛しています。

これまでも、これからも、ずっと。


愛するあなたへ。



・・・間宮の手紙 ~完~



最上


・基本情報

愛称:もがみん

艦種:重装巡洋艦

身長:重巡級

体格:戦艦級


性格:温厚・厚顔無恥

普段はのんびりしているが、実は色々と考えて行動している。

恋愛に興味が無い所為か、恥ずかしいことを平気でやらかしてくれる。


趣味:武器マニア

どちらかと言うと、原始的な武器のほうが好み。

収集癖は無いが、知識がかなり豊富。


嗜好:原始的な武器

苦手:朝


所属:訓練基地

役割:砲撃指導

自称:ボク


系譜:改造組

三隈とは幼馴染み。

両親は流れ弾が家に直撃して他界した。


恩恵:筋力強化・骨格強化・装甲強化

筋力が強化され、骨が丈夫になっている。

戦艦並みの装甲を手に入れた結果、鼻を塞がれて起こされるようになった。


艤装:重艤装

火力重視の重量級艤装を採用。

重すぎる為、反重力の力で浮いて移動する。

<大和砲>

大和型の火力を再現した長距離砲。

全身で支えないと腕がもげる。

<反重力の大盾>

重力の力場を発生させ、砲弾を受け止める大盾。

出力を調整すると、停止、誘導、反射の三種類の機能を使い分けることができる。

<迫撃砲>

殲滅戦用の装備。

榴弾、炸裂弾、焼夷弾、信号弾等の弾を装備しているが、蓮華が独自に開発した殲滅弾はエグいと評判。

<自律型迎撃衛星>

AIを搭載した自律型の迎撃衛星。

機銃しか装備していない為、威嚇射撃程度の用途に留まる。


装束:黒外套・ロングパンツ

銃火器中心の装備である為、火傷対策に長袖を採用している。

ロングパンツにした理由が、なんか似合いそうだからだったら多分怒っていた。



三隈


・基本情報

愛称:みっちゃん

艦種:航空機動巡洋艦

身長:重巡級

体格:重巡級


性格:高飛車・臆病

御高くとまりたい根っからの御嬢様。

過保護に育てられた為、怒られることに慣れていない。


趣味:クラシックバレエ

始めた理由は、なんか御嬢様っぽかったから。

バレエで得た柔軟性は意外と戦闘でも役立った。


嗜好:御嬢様ぽいこと

苦手:家事全般・下世話な話


所属:訓練基地

役割:座学・小隊指揮教官

自称:私(本当は、三隈)


系譜:改造組

最上とは幼馴染み。

仲は良いが、喧嘩が絶えない。


恩恵:動体視力強化・情報処理速度向上

音速を超えた速度で移動するものも正確に視認できる。

頭の回転が早くなった結果、自力で艤装を制御できるようになった。


艤装:飛行艤装

反重力の力場を発生させ、空中を浮遊する。

機動力は駆逐艦のそれを上回る。

<鋼の翼>

刃を仕込んだ折りたたみ式の翼。

飛行自体にはあまり関係無い。

<光熱砲>

太陽光を収束させた光熱兵器。

反射衛星を用いて射角を調整する。

<反射衛星>

プリズムを埋め込んだ衛星。

角度調整は恩恵により三隈自身が行えるようになった。

<電磁小銃>

小型のレールガン。

弾丸の径が小さい為、殺傷能力は低い。


装束:黒外套・ホットパンツ

機動性重視の格好。

制服のまま空を飛んで下着を見られたことがある。



南方棲戦鬼


・基本情報

愛称:南・南方ちゃん

身長:高め(時雨と同じ程度)

体格:ダイナマイトばでい


性格:勝ち気・淡泊

他人に譲られて何かを得ることが嫌い。

執着はしないが、自分が一番でないと気が済まない。


趣味:自分磨き

時雨の気を惹く為の努力が習慣化した。

昔は何もできなかったが、現在の家事スキルは中々のもの。


嗜好:家族の時間

苦手:自分の内に秘める乙女な部分を自覚すること


所属:訓練基地

役割:実戦演習

自称:ワタシ


系譜:クローン<擬似深海棲艦計画>

長瀬狭霧のクローンを基に生み出された深海棲艦。

偽の記憶を埋め込まれており、自分は鹵獲されたと勘違いしている。

時雨の妻となり、蓮華を授かった。


恩恵:自己再生

驚異的な自己再生能力を誇る。

即死でさえなければ、数時間で復活する。


艤装:???


装束:革のジャケット・ロングパンツ

パンク系の格好を好む。

色は勿論、黒。



・南の奮闘記


しくじったわ。

仲間を逃がす為とはいえ、人間に捕まってしまうだなんて。

このワタシが、人間の捕虜。

笑えないわ。

こんなこと、集積に知られでもしたら・・・。

これ以上は止めておきましょう。

ワタシの精神に毒だわ。


数日後。

集積が捕まった。

格子を挟んで顔を合わせたワタシ達は盛大に笑い合ったわ。

文字どおり、"莫迦笑い"というやつね。


実験のモルモットにされることは覚悟していた。

それこそ、死んだほうがマシと思うような実験の。

でも、実際は違った。

研究者達がワタシにしたのは身体検査くらいのものだった。

まぁ、多少血を抜かれたりもしたけれど。

あまりに拍子抜けだった。

集積なんて部屋の出入りを制限されていなかったのよ?

それどころか、彼らの研究に参加しちゃってるし。

何なら、集積の立案した実験が一番酷かったくらいだわ。

というか、何でワタシは外に出ちゃ駄目なのよ!?


彼ら人間のワタシ達に対する扱いが丁寧だったのは、和解交渉を前提にした実験だったからみたい。

人類と深海の不毛な争いに終止符を打ち、お互いに手を取り合っていける未来を模索する。

その為の研究をしているのだとか。

ワタシ達、深海棲艦が陸上で不自由なく生活が送れるかどうか。

そして、人間との間に愛を育むことができるのかどうか。


ワタシにとって、一番辛かった実験がこれよ。

研究施設の中に作られた1LDKの家。

そこで彼と暮らすことになった。

プライバシーの保護だとか言って監視もつけないで。

ワタシを舐めているのかしら。

たとえ丸腰の状態でだって、人間如き、簡単に捻り潰せるんだから。


驚いたわ。

素手でワタシを組み伏せる人間が居るだなんて。

というか、彼、人間じゃないんですってね。

料理は上手だし、必要以上に干渉してこないし、ベッドは譲ってくれるし、最高じゃない。

深海で暮らしていた時より、よっぽど快適だわ。

でも、何か腑に落ちないのよね。

研究者達からの事前説明によれば、これは愛を育む実験。

確かに彼は、生活を共にする相手としては文句無しの好青年よ。

それはワタシが保障するわ。

だけど、今の彼は恋人というより家政夫なのよね。

ワタシが言うのもアレだけど、このままで良いのかしら?


集積がのんびり外で昼寝をしている姿を、ワタシは部屋の中から見ていた。

その時、ワタシがどんな感情を抱いていたか。

言葉にするまでもないでしょう。

この状況に苛立ちを覚えない者なんて居るのかしら?

ああ、居るかも知れないわね。

鼻歌混じりに昼食の用意をしている、この人なら・・・。


現状を整理すると、ワタシは今、愛を育む実験の為に軟禁されている。

ワタシと愛を育む相手は、絶賛家政夫の彼。

彼からのアプローチは一切無いし、手を出す気配も無い。

それ以前に、女として見られているのかさえ怪しい。

何それ、腹立つ。


ワタシ達の格好は、人間からすれば、かなり際どい格好のはず。

研究者達の視線を見ればわかる。

胸元を凝視しながら話すんだもの、あれでバレてないとでも思ってるのかしら。

でも、彼にはそういった行動が見られない。

話す時はちゃんと瞳を見て話すし、事故を装って身体に触れようともしてこない。

かといって、身体的な接触を拒むような様子もない。

女として見られていないのか、単にそういう欲求が薄いのか。

どうして彼が選ばれたのかしら?

どう考えても、この実験に向いてないわ・・・彼。


まぁ、それはいいとして、ワタシに無関心を貫くその態度はいただけないわね。

ふふ、今に見てなさい。

ワタシが本気になれば、どんな朴念仁だってイチコロなんだから!


さて、何はともあれ、心の距離を縮めるにはまず身体の距離からよね。

さり気ないボディータッチで視線を誘導。

そして、上目遣いのコンボ!

どうよ、流石の彼もこれでって。

え?

微笑み返して、終わり?

嘘でしょ。

この男、予想以上だわ!


だったら、これはどうかしら?

料理中、無防備な後ろから突然のハグ。

ワタシはそれなりに大きいほうだから、この密着感はかなり効くはず。

さぁ、どうよ!

え?

もうすぐできるから、待っててね?

いや、別に催促してるわけじゃ・・・ないんだけど。

何だろう、この敗北感。

ワタシって、そんなに魅力が無いのかしら?

確かに、ガサツだし、家事とか全然できないし、集積には身体だけの女とか言われたことあるし・・・。

身体だけって何よ!失礼ね!

って、待ちなさい。

そうよ。

ワタシにはまだあるじゃない。

あの集積が認めた、女の武器が!


その夜、ワタシはソファで眠る彼に迫った。

透過率マシマシのネグリジェを着て。

さぁ、本性を見せなさい。

ワタシにこんなことまでさせておいて、ただ済むと思ったら大間違いよ!

今夜は寝かせてあげないわ。

そして、ワタシ無しでは生きていけないようにしてあげる。

初めてだけど・・・。

ワタシならできる!きっと!


目を覚ました彼は、ワタシを抱えて言った。

そんな格好してると、風邪引くよ?


ベッドにワタシを寝かせて布団を掛け、言った。

おやすみ。


そしてそのままソファに戻り、寝息を立て始めた。


何よ。

そんなにワタシは魅力が無いっていうの?

こんな恥ずかしい格好までして、莫迦みたいじゃない。

初めてだったのよ?

それでも勇気を振り絞って!覚悟を決めて!

何よ、何なのよ、この気持ち。

何でワタシが・・・アンタに振り向いてほしいって思ってるのよ!


ワタシは泣いた。

それはもう無様に泣いた。

その泣き声は当然、彼の耳にも届いたようで、彼はワタシを抱き締めて優しく頭を撫でてくれた。

何も言わず、ワタシが眠りに落ちるまで、ずっと。

ワタシは彼にしがみつき、放さなかった。

眠っているのだから、意識は無かったわ。

だけど、やっと彼のほうから近づいてきてくれたことが嬉しかったのでしょうね。

放してなるものか、と身体が勝手にワタシの心を汲み取り、動いてしまった。

結局のところ、これがワタシ達の始まりだったのかも知れない。


翌朝、泣き腫らした瞳をこすりながらワタシは彼に宣言した。

ワタシはアンタが好き。

だけど、きっとアンタはそうじゃない。

だからワタシは、アンタを惚れさせる。

アンタの心を奪ってみせる。

だから、覚悟して待ってなさい!


ワタシと彼が結ばれたのは、それから暫く経ってからのことだった。

本当に、彼の心を奪うのには苦労したわ。

今では可愛い娘と、愛する彼と三人、幸せに暮らしている。

この幸せはきっと、ワタシが死ぬまで続くわ。

彼も娘も、ワタシの瞳が黒いうちは絶対に死なせたりしないんだから!



・・・南の奮闘記 ~完~



集積地棲姫


・基本情報

愛称:集積・姫ちゃん

身長:女性としては平均的

体格:グラマラス


性格:利他主義・ロマンチスト

自分の幸せよりも他人の幸せを優先する。

意外と夢見がちなところがある乙女。


趣味:研究・実験

気になることがあると確かめずにいられない。

南方棲戦鬼の反応が面白くて、色々とやらかした前科がある。


嗜好:南方弄り

苦手:ストレートな愛情表現・戦闘


所属:訓練基地

役割:衛生管理

自称:私


系譜:深海化した人間

海軍の研究者・小暮菫が深海化した成れの果て。

紫苑茜の魂を宿している。

五月雨、レ級、ヲ級の母。


恩恵:電脳

生体電流を操り、他人の脳を支配する。

思念を電波に変換し、発信・受信が可能。


艤装:???


装束:黒外套・ヘッドホン

懐刀と同じ黒外套を纏っている。

ヘッドホンは能力による盗聴用の装備。



戦艦レ級


・基本情報

愛称:レーちゃん

艦種:戦艦

身長:小学生並み(歳相応)

体格:普通


性格:単細胞・天邪鬼

考えることが苦手で、感じるがままに行動する阿呆。

父ちゃんのことが大好きだが、素直に甘えられないでいる。


趣味:訓練

少しでも憧れの父ちゃんに近づく為に努力している。