2022-08-06 15:29:30 更新

概要

異世界を渡り、歴史を正しく導く使命を帯びた青年がいた。彼の名は、黒霧時雨。結婚の概念を持たず、恋慕の情すら知らない環境で育った、そんな彼が初めて妻に迎えた女性。彼女の名は、スフィア。これは、彼らが出会い、愛を育み、そして永遠を誓う物語。


前書き

概要のとおり、この物語の主人公は艦娘強化訓練島の日常にも登場しました黒霧時雨とその初めての伴侶、スフィアになります。外伝にも出会いの場面だけは書きましたが、なんだか書き足りなかったもので、この話だけで一本書いてみようかということになりました。途中で諦めてしまわないことを祈って、ごゆるりとお楽しみください。


だから両生類は嫌い


沈みかかった夕陽が紅く染める空に、重い溜息を吐く。


下ろした視線の先にあるのは、蒼く、深い、湖・・・。


その中を揺らめく黒い影・・・。


水面に波をつくりながら悠々と泳ぐ其れは嘲笑うかのように口許を歪ませていた。



はぁ・・・。



また、溜息をひとつ。


重たい腰を持ち上げ、陸の淵に足を掛ける。


覚悟を決め、重心を前に・・・。


倒れる寸前で軽く曲げていた膝を跳ね伸ばし、宙へ舞う。


美しい弧を描き、水飛沫も上げぬ見事な飛び込みを・・・魅せたまでが華だった。


正直、私は水中戦が苦手だ。


だが決して泳ぎが苦手というわけではない。


ただ、潜水ができないだけだ!



両の手を揃え、前方に突き出し、弧を描くように掻き寄せる。


足首の力は抜き、一定のリズムで脚をバタつかせる。


泳ぎの形は間違っていないはずなのに・・・何故だろう。


藻掻けど藻掻けど、一向に潜れやしない。


ずっと同じ場所で無様を曝している。


そして、そんな私をじっと奴が見ている。



くそ。他人の無様を見て愉しいか。


あぁ、愉しいだろうさ。愉しいだろうよ。


陸では手も足も出なかった相手が、水中ではこんななのだからな。


陸では手も足も出なかった相手が!



魔獣相手に虚勢を張ったところで意味は無いというのに・・・。


私は心の中で喚き散らしていた。


いや、若しかすると声にも出していたかも知れない。


どおりで息が苦しいわけだ。


白い泡に遮られた視界の先、黒く歪んだ世界に揺らめく紅い瞳が、恐らくは一直線に迫ってくる。


口に加えた剣は右手に、腰に据えた盾は左手に備え、体勢を整える。


ずしん・・・と、重い一撃。


反り返る上半身を、盾の縁に右膝を押し当てて支え、勢いに耐える。


水圧に暴れる左脚は魔獣の下顎に引っ掛けて固定する。


握り締めた剣は狙いを定め、煌々と光る紅い瞳に一閃・・・。



ぎゃおおおお!



水中に轟く、悲痛な叫び。


剰りの轟音に身を縮こまらせた刹那、死角から尾の打ち上げが襲う。


何とか盾で直撃は阻止するものの、腹に一撃を受けた所為で肺に蓄えた空気が抜ける。


尾の勢いそのままに空中へと打ち上げられ、くるりと一回転。


しかと両足で着地を決める。


我ながらこの身体能力の高さには感心する。


剣を腰の鞘に納め、遠ざかる魔獣の気配を見送る。



はぁ・・・。今回も失敗。



私はこれまで水中戦が絡む依頼を達成したことがなかった。


陸だけの依頼では失敗したことがないというのに・・・。



これだから両生類は・・・!



私は今日も両の膝を地に着ける。



そんなことってある?


「なぁ、あれ。金等級のスフィアさんだよな?依頼失敗したのか?」







このSSへの評価

このSSへの応援

1件応援されています


SS好きの名無しさんから
2022-08-07 06:57:13

このSSへのコメント


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください