提督は感情を出さない
「遂にここに来れた…!」憧れの提督のいる鎮守府に着任した吹雪。しかしそこで吹雪が再会した提督は!?
初作品です!2020の10月(この作品の最初の登校日を確認記録しておきます。)
完結までどこまでかかるか分かりませんが頑張ります
クオリティはあれですが本当にしゃーねぇーなくらいの気持ちで見ていってください!
「頑張りなさい…」
彼女に送られた、その頑張りなさいはあまりも冷たいものだった…
時は少し遡る
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吹雪「今日から配属になります!特型駆逐艦1番艦吹雪です!よろしくお願いします!」
その元気の良い声が執務室に響きわたる。
本日の秘書艦である赤城は少し驚きつつも期待の視線を彼女に送った。
現在、先程の吹雪の発言通り、着任の挨拶を行なっている。因みにここの鎮守府は最優秀鎮守府と呼ばれるくらいには有名な所だ。
その呼び名の由縁はここの提督で、大本営にも一目置かれている程には優秀だった。
さて、そんな鎮守府に配属された吹雪だが、実は元々吹雪はかなりの落ちこぼれだった。
海の上を走ることすらままならず、出撃の機会など一切現れなかった。
そんな彼女の事を周りはやってたかって、落ちこぼれ、と心ない言葉を掛けていた
そんな彼女に転機が訪れる。ある鎮守府から最優秀と言われる提督がここに出張してきたらしい。
しかし、彼女にそんな事を気にする余裕はなく、落ちこぼれと言われ続け、1人で泣く日々が続いた。
そんな時、いつも通り泣いてる彼女の元に彼は現れた。
そして彼女の話を聞いた彼は、2、3度頷いた後、こう言葉をかけた…
提督「大丈夫、君は落ちこぼれなんかじゃない、きっとできる。君は出来る子だ。」
提督「だから、頑張りなさい」ニコッ
その言葉を聞いた吹雪は泣き崩れた。初めてもらう優しい言葉、励ましの言葉、その眩しいまでの笑顔と「頑張りなさい」と言う言葉は
確実にその時の吹雪を救ったのである。そして、吹雪はこの時ある事を決心し、それを伝えた。
吹雪「提督!」
提督「なんだい?」
吹雪「私、いつか提督の鎮守府に行きます!」
吹雪「だからもし、私が行けたら、また頑張りなさいって言って下さい。」
吹雪「そしたら私絶対に提督のお役に立ちます!そして…お役に立てたなら…」
吹雪「その時は…私に頑張ったねって言って下さい…」
提督「…」
吹雪(やっぱ…私なんかじゃだめだよね…そうだよ…私は落ちこぼれで…この人は優秀…仕方のな…)
提督「分かった。」
提督「約束しよう。だから絶対に来なさい、うちに来るのは大変だけどそれでも来なさい。」
提督「私は君が来るのを楽しみにしてるよ。」ニコッ
吹雪「はい!」
それから吹雪はみちがえる様に成長した。戦果を重ね、周りからの評価も上がっていった。
そして遂に、その努力が実り、現在吹雪はこの鎮守府に立つことができているのだ。しかし…
提督「…頑張りなさい…」
その頑張りなさいはあまりにも冷たかった。言葉に感情はこもっておらず、あの眩しい笑顔などなかったかの様に冷たい目をした提督が
そこにはいた。
吹雪「はい…頑張ります…」
その余りにも受け入れがたい現状に吹雪の声は力を失っていた。吹雪はそのまま力なく執務室を去るのだった…
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〜自室〜
その後自室に案内された吹雪は考え事をしていた。案の定提督の事である。
(どうして…提督はあんなに冷たく…あの笑顔は…?優しい言葉は…?全部嘘…?)
嫌な考えが吹雪の頭によぎる…
(約束も…覚えてない…?)
その考えが頭に浮かんだ瞬間、吹雪の周りが真っ黒になる。
吹雪「うそ…そんなの…嘘…!」
現状を受け入れたくない悲痛な叫びが響き渡る。その叫びはしだいに言葉だけではなく涙も呼び起こす。
吹雪「そんなの…あんまりだよ…」
吹雪「ひっぐ…ひっぐ…」
涙を止める術はもう吹雪にはない。ただ、泣き続ける。しかしそれ程までに、提督との約束は吹雪にとって大事なものだった。
今の吹雪を作ってきた全てだった…それが今壊れた…
ギュッ
吹雪「…!」
抱きしめられている、数秒経ってから吹雪は気付く。ルームメイトの如月だ。
如月「大丈夫?辛い顔して…」
如月「今は、好きなだけ泣いて良いわよ。」ギュー
吹雪「如月ちゃん…」
吹雪「うわぁぁぁん!!」
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如月「大丈夫?もう落ち着いた?」
吹雪「うん…ありがとう。如月ちゃんいなかったら私…」
如月「良いの良いの、それやり何があったの?」
如月「あっ嫌だったら言わなくても良いからね?」
吹雪「如月ちゃん…膝枕して…」
如月「あらあら、甘えん坊さんね。」
ヒザマクラ
吹雪「ありがとう…実はね…」
如月に頭を撫でられながら吹雪はぽつりぽつりと言葉を紡いだ。
説明中…
如月「成る程ねぇ…そんな事が…」
如月「でも、みんな思ってるわ。」
如月「確かに司令官は優秀だし、艦娘を無下に扱わない、大破進軍なんて絶対しないし、それで持って勝利は掴む。」
如月「でも、私達とは距離を置いている…」
如月「それもどこか遠くに…」
吹雪「でも、提督…元々そんな人じゃ…」
如月「これは聞いた話なんだけど…ある事件以降提督は感情を出さなくなったらしいわ…」
吹雪「ある事件…?」
如月「詳しくは私も知らない…実際この鎮守府にも当時の事を知っている人もいるけど…誰も口を開かないわ…」
如月「でも、吹雪ちゃん」
如月「貴方なら、提督の心を開く事が出来るって私信じてるわ。」
如月「だって、提督の思い1つでここまで来れたんだもの。」
吹雪「如月ちゃん…」
吹雪「分かった、私頑張るよ!絶対提督を心を開いて見せる…!」
如月「フフッ、その意気よ♪」
如月「さ、ご飯食べに行きましょ、睦月ちゃんがまたくたびれてるわ。」ニコッ
吹雪「うん!」
(提督…貴方に何があったか今は分かりません…でもきっと…私が貴方の心をもう一度開いて見せる。)
(だって…あの日、あの時から貴方は…)
(私の憧れだから…)
「…もう…感情は出さないつもりだったんだが…」
その言葉を、その人をは悲しそうに笑いながら溢した…それは…
私の知っている…そして見たかった…提督の顔だった…
ーーー
ーー
ー
話は遡る…
〜提督の自室にて
自室にて提督は考え事をしていた。つい先月着任した特型駆逐艦吹雪の事である。
吹雪が来た時、提督はもう艦娘達に感情を出すのをやめてそこそこの時が経っていた。
だが、感情を出さなくなったとは言え、彼は覚えていた。
吹雪との約束を…そう…感情を出さなくなったとは言え約束は約束。落ちこぼれの吹雪が、最優秀と言われる自分の鎮守府に着任する。
もし、着任出来たならまた、「頑張りなさい」と言ってあげる。彼女が自分の役に立てたなら…私は「頑張ったね」と言葉を送る。(※詳しくはエピローグ参考)その約束をしっかりと、彼は覚えていた…
しかし、その後彼は変わった…あの時と優しく、眩しいまでの笑顔を放つ彼の面影は無くなった。いや…自分の内側に引っ込めたのだ。
そうして自分から感情を出す事をやめた彼、だが約束は守る気でいた。しかし…感情を出さず、冷たく彼から送られる「頑張りなさい」が、
明るい彼しか知らず、その彼に憧れ、またあの眩しい笑顔でその言葉を掛けてもらう為に頑張ってきた吹雪にとって酷でしかないという事は、
提督が1番痛いほどに分かっていた。だがそれでも…彼は、約束を守り感情を込めずにその言葉を送ったのだ…
提督(約束は守ったが、感情は込めなかった…)
(理由は簡単、それは許されない事だから…)
(悪いな…吹雪、あの日、あの時から、俺はお前らに感情を出すなんて事は許されちゃ居ないんだよ…)
〜執務室にて
「特型駆逐艦吹雪、ただいま帰投致しましたっ!」
相変わらずの元気な良い挨拶をするのは先月より着任した吹雪だ。現在は、戦果の報告中である。
因みにだが吹雪は今、水雷戦隊の旗艦を務めている。と言うのも、着任後の吹雪は
(もう1度提督の心を開きたい、その為にはまずは提督のお役にたとう)
そう強く思い、着実に戦果を上げ、遂には旗艦の位置にあるわけである。吹雪元々落ちこぼれだった。しかし提督の一言で救われた彼女は、
提督への思いだけで、見違えるように成長し、この最優秀と言われる鎮守府に着任したほどだ。
そんな彼女だ。提督への想い一つで、ここまで出来るのも、彼女の場合苦では無かった。
吹雪「では、失礼しました!」
報告を済ませた吹雪が自室を出ると…
如月「吹雪ちゃん、お疲れ様。」
睦月「吹雪ちゃんお疲れ様!」
夕立「お疲れ様っぽい」
彼女達は着任にしてから吹雪と特に仲がいい駆逐艦の子達だ。如月に関しては着任初日の出来事(※エピローグを参照)もあってとても信頼していた。
吹雪「皆んなありがとう〜」
如月「さっ、吹雪ちゃんの報告も終わったみたいだし、4人で間宮堂行きましょうか。」
吹雪「うん!」
睦月「もうお腹ペコペコだよ〜」
夕立「糖分補充するっぽい」
〜間宮堂にて
間宮堂に着いた後3人は甘味を楽しむ中、1人吹雪は考え事をしていた。
(着任してから1ヶ月、旗艦には選ばれ、提督のお役には立てていると思う。)
(だけど…提督の心を開くきっかけが全く見つからない…相変わらず提督が感情を出す様子はない…こっちの進展ゼロはだなぁ…)
そんな事吹雪が考えていると、3人が心配そうにこちらを覗き込んでいる。
睦月「吹雪ちゃん、大丈夫?」
睦月「凄く難し顔してたけど…」
夕立「悩み事っぽい?」
如月「もしかして…提督の事?」
心配そうに見つめる3人に、吹雪はため息をつきながら返した。
吹雪「そ〜何だよぉ〜」
いつもと違い、珍しくやる気のない吹雪の声が響く
吹雪「提督の心を開くきっかけが全く見つからなくてさ…」
吹雪「それどころか、戦果報告以外で話せる事ほとんどないし…」
如月「んー…吹雪ちゃん、もっとぐいぐい行っても良いかもしれないわね」
吹雪・睦月・夕立「ぐいぐい?」
如月「そう、提督とそもそも関わる機会が少ないのは、そもそも提督が私達と距離をめっちゃ遠くに置くからじゃない?」
如月「だったら、多少無理矢理でもぐいぐい行った方が良いのかもしれないわね」
吹雪「ぐいぐい…かぁ…」
ふむふむっという感じの顔を吹雪がしていると
睦月「吹雪ちゃん、頑張ってね!私達も出来る事があったら手伝うし、それに」
夕立「私達も、吹雪ちゃんがよく言ってる明るい提督見て見たいっぽい。」
その言葉に吹雪は少しの笑みを見せ
吹雪「うんっ」
と答えた。吹雪は提督の心を開くと言う決意をもう1度再確認するのであった
〜自室にて
吹雪「あ…後、1週間後…」プルプル
カレンダーを持つ手をプルプルさせながら吹雪はそう言った。何故吹雪がこんな風になっているのか。
それは簡単、1週間後は吹雪の
「秘書艦担当日」
なのである。秘書艦、その日は提督の執務室で提督のサポートをする仕事。秘書艦には、執務能力、実戦での戦果、提督からの信頼度、
主にこの3つから何人かが選ばれ、ローテーションで回っていく訳だ。吹雪は最近戦果を積み重ね、先輩艦からの評価も高い。
そんな吹雪が秘書艦組に選ばれる事は誰もが予想していた。そして遂に1週間後、吹雪の秘書艦の日が迫ってきている訳である。
流石の吹雪もこれには緊張していたが、これは提督の心を開く機会になるかもしれない、そう思い自分を鼓舞していたのだが…
吹雪「やっやばい…秘書艦なんて初めて…もし何かやらかしたら…」
やっぱり結構緊張に負けていたのである。すると…
ギュゥーーー
吹雪は一瞬きょとんとして、数秒後抱きしめられていると気づいた。抱きしめているのは如月だった。
如月「吹雪ちゃん…大丈夫?」
如月「緊張で押し潰されそうな顔してたわよ?」
心配そうに如月が呟く。一方の吹雪は如月の包容力に当てられ平静を取り戻していた。そして吹雪は着任初日の事を思い出していた。
吹雪「如月ちゃん、ありがとう。もう大丈夫。」
吹雪「でも…こうしていると思い出すなぁ…」
如月「思い出す?」
吹雪「うん…思い出す…着任初日の事。」
吹雪「初日もそうだった…泣いてて、どうしようもない私を、如月ちゃんは抱きしめて、心配してくれて…」
吹雪「あの時は本当に救われたよ…」
吹雪「私、救われてばっかりだなぁ…」
その言葉に如月は抱きしめる力を少し強くしながら言った。
如月「そんな事ないわ…私だって吹雪ちゃんに沢山助けられてる…お互い様よ。」
吹雪「如月ちゃん…」
吹雪「ありがとう…だいぶ落ち着いたよ。」
吹雪「私、頑張って秘書艦のお仕事努めてくる!」
如月「そう、その元気こそ吹雪ちゃんよ。」
如月「それに、提督の心をもう一度開くためのチャンスよ?私も応援してる。」
如月「だから頑張ってね!」
吹雪「うん!」
その後緊張のほぐれた吹雪は久しぶりにぐっすりと眠れたのであった…
〜5日後
秘書の日2日前、いよいよ秘書艦の日が迫ってきていたが、吹雪は緊張をしていなかった。
(執務については秘書艦の中でもベテランの赤城先輩に大まかに説明も受けたし、後は寝不足などにならない様にしよう)
そんな事を考えながら吹雪がベットに入ろうとした、その瞬間だった。
鎮守府に警報が鳴り響いた。しかもこの警報は聞く事は一度も無いと、そう思っていたものだった…
他の艦娘達も起き上がる。
睦月「吹雪ちゃん!今のって…」
吹雪「うん間違いない…この警報は…」
吹雪「鎮守府が襲われた時の警報…!」
如月「これはまずいわね…」
夕立「深海姫凄艦がここまで来るなんて予想外っぽい…」
その瞬間、館内放送が流れた。」
⁇「鎮守府にいる艦娘は直ちにに集合!出撃せよ!」
⁇「繰り返す!こちら旗艦長門、直ちに迎撃せよ!」
長門「私もこれより出撃する、後は提督の指示を信じるのみだ。」
長門「各員、一層奮励努力せよ、以上だ。」
吹雪「皆んな行こう!」
睦月「うん!」
如月「ええ!」
夕立「1人残らず追い払うっぽい!」
吹雪(絶対…ここで追い払わなきゃ…まだ…私は何も出来てない…)
(だから絶対守り通すし、沈まない、絶対に…!)
…戦闘は熾烈を極めてた。生憎、戦艦と空母がタイミングよく出払っており、こちらの戦艦は長門のみ。後は駆逐艦が多数を占めていた。
また唯一鎮守府で、待機していた空母である赤城も殆ど艦載機を使い果たしている。それでも提督の指揮もありなんとか防衛ラインを保った。
その後も彼女らは必死に戦ったが数に押されそうになったその時、出払っていた艦隊が到着し、敵は撃滅された。
しかし、それでも被害は大きい。幸い、沈没艦がいなかった事はここの提督の優秀さを表している。だがそれでも駆逐艦の殆どが大破。
吹雪も例外でなく、他の子達と入沐しようと風呂に向かっていた。その途中吹雪は一瞬だけだが提督と目が合った。
向こうはこちらに気づいたのかすぐに去っていったが、吹雪はある事に気づいた。それは…
吹雪(あの目…いつもの感情のない冷たい目じゃない…)
(あれは…確実に私達を心配する目…)
大破した駆逐艦達を見る提督の目は、一瞬だけであるが、心配していることが伝わったし、何より昔の提督の目だった。
そして…それに気付いたのは吹雪だけでは無かった…
〜執務室
長門「報告は以上です、私自身は小破ですが、その他の艦は殆ど大破です。」
提督「了解した…下がっていい…」
長門「提督が、駆逐艦を心配そうに見つめるとこを見ました。」
提督「…」
長門「提督…もう良いのではないですか」
長門「罪悪感を、責任を感じるのは分かります。ですが…」
長門「ですが、もう充分です…」
長門「貴方は…何かあったら心配して、楽しい時は笑って、そうしている貴方が、本当の貴方です。」
長門「だからもう…感情を出さないなんて…」
提督「長門…」
提督「それ以上は…良い…」
それからの発言は長門に向けての物ではなく、自分に、戒めの様に言い聞かせる物であった。
提督「私には…許されない…」
提督「あの子達を表立って心配し労うことも、あの子達と仲睦まじく笑い合う事も、許されていない…」
提督「長門…今日はもう下がれ…」
その言葉に長門は何も言えず…部屋を去った。
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ーー
ー
〜次の日
夜になりようやく修復を終えた吹雪は先日の事を思い出していた。
吹雪(昨日の提督の心配そうな目、やっぱりそうだ…)
(提督は…本心では私達の事を思ってくれてる…ただ感情を出そうとしない…何かの戒めの様に…)
(明日は秘書艦の日…あの事件…提督が感情を出さなくなった原因…)
(聞くなら…明日しか無い…)
吹雪はそんな決心を固め、眠りについた…
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〜執務室
吹雪「本日の秘書艦を務めます!吹雪です、よろしくお願いします!」
提督「書類が溜まっている…3分の1くらいがそっちにある。」
提督「それが今日の仕事分だ…」
その後はお互い沈黙の中書類仕事を進めていた。昨夜、決心を固めた吹雪だが、中々言い出すタイミングが見つからない…
そんな状態が続き、気づけばお昼休みとなっていた。
吹雪(この時間なら、仕事から一旦離れる…言い出すなら今しか無い…!」
吹雪「提督!」
提督「なんだ…」
吹雪「担当直入に言います…何故私達に感情を見せないんですか…」
提督「…!」
僅かな提督の動揺が見えたが、提督はすぐに冷めた表情になり、
提督「これは仕事だ…仕事に私情は挟まない…」
提督「これで満足か?」
その言葉に吹雪は叫んだ。
吹雪「ウソです!!!!」
吹雪「だったら、昨日のあの目は何ですか!提督の言う通りなら、何であんな心配そうな目をするんですか!」
提督「」
返答はない…吹雪はさらに大きく叫びながら言葉を紡いだ。
吹雪「私は知ってます!提督が優しくて皆んなを大切にしてるって!」
気付けば吹雪には涙が流れていた、それでも吹雪は言葉を紡ぐ
吹雪「提督は、私を救ってくれました…あの眩しい笑顔と、優しい言葉で…」
吹雪「私には、落ちこぼれと言われて、どん底にいた私には、それがどれだけ救いだったか…」
吹雪「だから、今度は私が提督を救いたいんです…」
吹雪「貴方に…もう一度…笑って欲しい…」
吹雪「貴方のその眩しい笑顔は…そして貴方自身が…私の光だから…」
吹雪「だから話してください…あの事件の事を…」
吹雪「全部…全部…どんな事であろうとも…私が受け止めます…」
しばらくの沈黙が続いた…その後提督はぽつりぽつりと、言葉を溢した…
提督「もう…感情は出さないつもりだったんだが…」
その顔は笑っていた…とても…とても悲しそうに笑っていた…でもその目は、吹雪がよく知っていて、そして見たかった、優しい目だった…
提督「君には…話さなきゃ行けない気がする…あの事件の事…」
提督「だから話そう…あの事件を…」
そうして…提督は語り出すのだった…
提督「あの日の事は今でもよく覚えている…」
ーーー
ーー
ー
提督「んー疲れたぁぁぁぁぁ」
出向から戻ってきた私は、執務室にて背伸びをしていた。に、してもだ。吹雪という子だったか。あれは期待の新人だな。
提督「フフッ」
期待が高まり思わず笑みが溢れる。
「何か良い事でもあった?」
提督「ん?あぁかなり期待の新人を見つけ……!」
提督「お…前…」
そうあの日、それはあいつと俺が再開した日だった…
ーーー
ーー
ー
〜現在〜
吹雪「あいつ…?」
提督「あぁ…まずはそこから話した方が良さそうだな。」
提督「あいつ…」
提督「瑞鳳との出会いを…」
俺が、まだ駆け出し提督の時だ。提督って言うのは着任して最初は初期艦を選ぶ。
基本的に駆逐艦なのだが、俺の場合少し事情あり、ある一隻の軽空母が初期艦として就いた。名前は…
瑞鳳
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ー
〜過去〜
瑞鳳「この度、初期艦として配属されました。軽空母の瑞鳳です。よろしくね、提督さん。」
提督「あれ?初期艦は確か駆逐艦のばずだけど…」
瑞鳳「それが何か向こうで不都合があったらしくて…異例だけど私が配属される事になったの。」
瑞鳳「それとも、私じゃ嫌だった…?」
提督「いや、別にそんな事はないよ。瑞鳳、これからよろしく。」
瑞鳳「うん!よろしくね!提督さん。」
これが、あいつと俺の出会いだった
〜現在〜
提督「そのあと、俺達は鎮守府に到達した。」
提督「それはそれは、ちっぽけでオンボロな鎮守府だったよ。」
提督「でも…今でも覚えてるよ…そん時のオーバーリアクションなあいつの顔といったらな。」クスッ
提督は、少し悲しげな目をしながらも昔を懐かしむ様に小さな笑みを溢した。
その笑みに、吹雪は気持ちが少し嬉しくなるのを感じた。
当たり前である。今までずっと見たかった提督の笑顔、それを先程やっとみることができばかり…
こうやって小さな笑みをこぼす事でさえ、吹雪にとっては嬉しいものだった。
提督「さて、話を過去に戻そう。」
〜過去〜
瑞鳳「えぇぇぇぇ!?」
驚愕の声が響き渡る。
提督「なんだよ、静かにしてくれ。」
瑞鳳「いやいやいや。」
困惑顔で瑞鳳が詰め寄る。
瑞鳳「何も思わないんですか!?何ですかこの執務室は!」
瑞鳳「ダンボールだけって!ダンボールだけって!」
その様子はもはや漫才のツッコミのそれである。
対する提督は冷静に物を言う。
提督「んまぁ、当たり前だろうな。」
瑞鳳「当たり前?私達まだ駆け出しなんですよ!?」
提督「駆け出しだから、だろ。」
瑞鳳「ふぇ?」
瑞鳳が疑問符を浮かべる。
提督「よく考えても見ろ、今は戦争中だ。」
提督「普通、良質な装備、環境を駆け出しのやつに提供するか?」
提督「いいやしない、するわけもない、そんな事するより上位の奴らに提供するのが当たり前だ。」
瑞鳳「そ、そんなぁ…」
がっくしと肩を落とす瑞鳳。
提督「まぁ、みんな最初はそうだからな。」
提督「ていうか、今上位にいる奴らも相当な努力してるからな、元はあいつらもダンボールからスタートしてる。」
瑞鳳「そうなの!?」
どびきりの衝撃を受けた顔で瑞鳳が答える。
提督「お前…随分と感情豊かなんだな…」
瑞鳳「そういう提督は冷静すがない?」
瑞鳳「なんて言うか、感情が表に出てないと言うか。」
提督「感情はあまり出さないタイプだ。」
瑞鳳「え〜?勿体無いよ。もっと感情出してこうよ〜」
提督「勿体ない…ねぇ…」
瑞鳳「そう!勿体無いんだよ!」
瑞鳳「だってさ、感情出さないって事は皆んなと喜びあったり、一緒に泣いたりとかできないんだよ?」
瑞鳳「言わばそう、人生に色が無くなっちゃうの!」
提督「色が無くなるか…」
瑞鳳「そうだぞ〜灰色の人生になっちゃうぞ〜」
手でお化けのポーズを作りながらそんな事をいう瑞鳳。
提督「一応訂正しておくが…別に意図して感情を出さない訳じゃない…」
瑞鳳「へ?そうなの?」
提督「苦手なんだ…感情を出すのが…どうやって感情を表現したら良いのか昔から分からない…」
提督「皆んなと喜びあったり、泣き合ったり、そう言うことをしてみたいって思いはあるさ…」
瑞鳳「そっか…」
瑞鳳「ならこれから一緒に頑張ろう!私と一緒に感情豊かになってこ!」
提督「ふむ、期待はしないが、そうなる事を望むとするよ。」
瑞鳳「きっとそうなるよ。」
瑞鳳「さっご飯食べよ、2人だから私が作るね!」
提督「料理作れるのか?」
瑞鳳「卵焼きだけなら…」
提督「いやなんで卵焼きだけなんだよ…」
瑞鳳「たっ卵焼きの道を極めてるから…」
提督「絶対それ今思いついたろ。」
瑞鳳「とっとにかく、私は卵焼きマスターだから任せておいて!」ドヤっ
提督「フッ…何だそれ。」
瑞鳳「あー!今笑った!笑った笑った!」
ぴょんぴょんと跳ねながら瑞鳳がそんな事を言う。
提督「…」
提督「気のせいだ…」
瑞鳳「気のせいじゃないよ、ほらもっかい笑って!」
提督「そんな事言われても分からん…」
瑞鳳「え〜。」
提督「分からないもんは分からないんだよ。」
瑞鳳「まっ!これから感情豊かになっていけば良いんだよ!だから…」
瑞鳳「これからよろしく、提督!」
提督「よろしく、瑞鳳。」
ーーーーーー
ーーー
ー
〜現在〜
提督「これが、俺と瑞鳳の出会いだ。」
提督「そしてあいつは宣言通り、俺を感情豊かにしていった。」
提督「日を重ねるごとに、自分の生活に色がついていくのがわかった。」
提督「そんな頃だ、俺には転機が訪れた…」
ーーーーーー
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〜過去〜
瑞鳳「提督、お昼の卵焼きだよ!」
お昼時、元気よく瑞鳳が卵焼きを運んでくる。提督にとって、最近になっては見慣れた光景だ。
瑞鳳「食べりゅ?」
提督「プッ…相変わらずそこは噛むんだな。」クスクス
瑞鳳「また馬鹿にして…」グヌヌ
提督「まっお前の卵焼きは相変わらず美味しいけどな。」
瑞鳳「本当!?」
瑞鳳がぴょんぴょんと跳ねる
提督「本当だよ。」
提督「に、してもさ。」
瑞鳳「ん?」
ちょこんと、瑞鳳が小首を傾げる。
提督「着任当日、お前が卵焼きマスターとかなんとか言ってたけどさ。」
瑞鳳「ちょ!?それは忘れてよぉ!」
実はあの日、瑞鳳は自信満々で卵焼きを作ったのだが…結果は丸焦げ。結局提督がレトルトを買ってくるという羽目になっているのである。
言わば、黒歴史、である。故に瑞鳳にとっては掘り返される度に、頬を赤く膨らませるのだった。
提督「まぁ確かに、あの時の卵焼きは凄かったが…」
提督「今はこんなにも美味しい。」
提督「案外、今は卵焼きマスターなのかもしれんし、俺からすれば立派な卵焼きマスターだ。」ニコッ
瑞鳳「そっそれって…褒め言葉なの?」
提督「もちろんだとも。」
瑞鳳「そっか!なら嬉しい!」
瑞鳳「提督、よく笑う様になったよね。」
提督「お前のお陰だよ。」
提督「お前には色々と教わった、人と何かを共有できる嬉しさ、笑うことの気持ち良さ、辛い時にそれを仲間に吐き出せる安心感…」
ニコリと瑞鳳に笑い掛けながら提督は言葉を紡ぐ。
提督「全部お前が教えてくれた、お前のお陰で人生に色がついた気がする。」
提督「お前のお陰だ、ありがとう、瑞鳳。」ニコッ
瑞鳳「…何か、急に言われるとむず痒いね。」ニコッ
提督「それは俺もだ、こうやって正直に気持ちを伝えるのは今でも恥ずかしいしむず痒さはあるよ。」
瑞鳳「ねぇ、提督。」
提督「なんだ?」
瑞鳳「最近、提督の軍人としての評価が上がってるのは知ってるよね?」
提督「まぁ、それなりに戦果は上げたが…」
瑞鳳「大本営からは、最優秀指揮官の呼び声も高い、未だにこの小さな鎮守府において置くわけにはいかない。」
提督「…」
瑞鳳「ねぇ提督、来てるんでしょ?」
瑞鳳「昇進と…転属のお話。」
提督「どこで…それを知った…」
驚いた顔をしながら提督が問う。
瑞鳳は、苦笑をこぼしながら答えた。
瑞鳳「分かるよ、それくらい。」
瑞鳳「と言うより、私からも説得しろってお話が来てるんだよね、上から。」
提督「余計なことを…」
瑞鳳「…」
少しの沈黙が流れる。このような気まずい雰囲気は、2人にとって初めてだ。
少し悲しそうな笑みを作りながら、瑞鳳が静寂を破る。
瑞鳳「悪い話じゃ無いんじゃ無い?」
提督「…俺は転属するつもりはないよ。」
瑞鳳「どうして?昇進転属なんて軍人として喜ぶべきことじゃない。」
瑞鳳「これは大出世のチャンス、勿体ないよ。」
提督「お前を置いてか?」
その言葉に、瑞鳳は一瞬固まる。
しかし即座に、仕方ないというような笑みを作り言葉を紡ぐ。
瑞鳳「…私がついていけないのは仕方ないでしょ…」
提督「なら行く必要はない、お前が居なければ今の俺はない。」
提督「お前を置いてどこかに出世して行くよりも、ここでお前といる方がいい。」
瑞鳳「その気持ちは嬉しいけど…」
瑞鳳「上は…きっとあなたの転属拒否を認めない…」
瑞鳳「そりゃもちろん、私もついて行きたいけど、それは出来ない。」
瑞鳳「でもそれでも、提督は行くべきだよ。」
提督「それでも、俺は行かな…「分かってるでしょ」
瑞鳳が提督の言葉を遮る。
瑞鳳「これは命令、逆らえないんだよ…」
苦笑しながら瑞鳳は言葉を紡ぐ
瑞鳳「ねぇ提督、貴方はもう大丈夫。」
瑞鳳「きっと向こうでもやっていける、今の感情豊かな提督ならきっと向こうの子達とも仲良くなれるよ。」
提督「それでも…俺は…お前が…!」
帽子で顔を覆う提督から、一筋の光が見える。
そう、もう彼の中で瑞鳳はかけがえのない存在となっていた。
今まで提督と言う人物は、周りに誰も寄ってこなかった。
感情の出さない彼は、周りの人から見ればただの冷たい人間としか見れなかったからだ。
しかし瑞鳳は違った。そんな事何一つ感じず真正面から提督に関わってきた。
感情の出し方が分からない提督を、色のない牢獄から、感情の色に染まった世界に引きづり出した。
初めて感じた人の優しさ、初めて感じた嬉しさ、初めて感じた辛さ、そんな時に人がいることの安心感
全て、全て、瑞鳳が教えてくれたものだ。
だからこそ、提督にとっては受け入れがたい別れなのだ。昇進などどうでもいいのである。
瑞鳳はもう提督にとってはかけがえのない存在なのだ。
初めて…涙を流すほどに…
瑞鳳は、提督を見て目を見張っていた。
提督が涙を流すなど初めてだし、しかも自分との別れが嫌で泣いてくれてからだ。
瑞鳳「嬉しいな…そんなにも大切に思ってくれてたなんて。」
瑞鳳「ねぇ提督?一つ約束しよっ 。」
提督「約…束…?」
瑞鳳「うん、約束。」
瑞鳳「私がきっと、貴方のところへ行く。頑張って戦果を上げて昇進する。」
瑞鳳「だから、また会う時まで頑張ろ?」ニコッ
その言葉に、提督は涙を拭い、目を赤く晴らさせながら
提督「あぁ、約束だ。待ってるから、お前が来るのを。」ニコッ
瑞鳳「うん、約束だよ…提督。」
そうして、2人は指切りを交わすのだった…
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ーー
〜現在〜
提督「ここまでが、俺とあいつとの出会い。」
提督「そうして俺は転属、ここに来て、今お前が知ってるような評価を貰った。」
提督「その時の俺は、まさにお前が好きだった俺だな。」
提督「ここに来て、ここの子達と信頼関係を築くのにも時間は掛からなかったさ…」
提督「まぁ順調といえば順調な日々を過ごしたさ。」
提督「さて、やっとここまで話が戻るな。」
提督「あいつと俺との再開の日、そしてあの事件を話すとしよう…」
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〜過去〜
提督「瑞鳳…お前なんでここに…」
そう発言する提督の顔は、喜びと驚きが混じっている。
瑞鳳「だって、約束、したでしょ?」
にぱっと、笑みを浮かべながら瑞鳳が返す。
提督「お前…本当に…守ってくれたんだな…!」
瑞鳳「当たり前でしょ〜?私は約束を破る女じゃないぞ〜。」
瑞鳳「全く、そこそこ長い付き合いなんだからそれくらい分かっ…
ーー ダキッ ーー
提督「瑞鳳…!」
瑞鳳「ふふっ、提督ってこんな積極的だったけ。」
提督「うるさい…」
瑞鳳「ありゃ、ツンデレ属性も追加されたな?なーんて。」
瑞鳳「…」
瑞鳳「ただいま、提督…」
提督「あぁ、お帰り…瑞鳳。」
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ーー
〜現在〜
提督「これが、あいつとの出会いと再会。」
提督「このまま…幸せな日々が続くと思ってた。」
提督「信頼する仲間と、大切な存在である瑞鳳と。」
提督「ただ感情の出し方を知らなかった奴が、感情を教えられ、感情のある世界を知る。ただそれだけの物語で終わるはずだったのに…!」
提督「でも…あの日、あの時、事件は起こった。」
提督「いや、起こしてしまった、俺が起こしてしまった。」
提督「俺は知らなかった…」
提督「感情は確かに世界を豊かにする、でも時に、自分の感情が原因で罪を犯すことがあるって事を…」
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ーー
そして、その日はやってくる…
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ーー
提督「大規模作戦…?」
長門「はい、大本営によりますと、深海凄艦が集合しているとの情報が多数確認されたため…」
提督「そこを叩く大規模作戦を実行すると…」
長門「はい。」
提督「ふむ…」
提督が、少し考える仕草を見せる。
長門「何か気にかかる事でも?」
不思議そうな顔をしながら長門がとう。
提督「いや、そういう訳では無いのだが…」
(確かに、ここで大量の敵を叩ければこちらとしては好都合…)
(だがなんだ…この胸騒ぎ…何か嫌な予感がする…)
提督「取り敢えず、編成はいつも通りでいこう。」
長門「…それが。」
提督「…?」
長門「上から、残す戦力は最低限に、出来るだけ多くの戦力を本作戦に投入すべし、と。」
提督「それはまた、かなり大胆な気がするが…」
長門「恐らく、大本営はここでなんとしてでも叩きたいのでしょうね…」
提督「分かった、主力艦は本作戦に8割投入、ここに残す戦力は…軽空母を軸とした小規模な戦力だけ残すとしよう。」
長門「了解しました、して、旗艦は?」
提督「瑞鳳にしよう。」
長門「即答とは、相変わらず信頼しているのですね。」
真面目な顔とは打って変わり、柔らかな表情で長門がそんな事を言う。
提督は、クスッと笑いながら答える。
提督「当たり前だ。」
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瑞鳳「大規模作戦ねぇ、残る艦隊の旗艦が私なんかで良いの?」
長門との話し合いが終わり、提督は瑞鳳を執務室に呼んでいた。
提督「それだけ、お前を信用してる。それじゃダメかな?」
ぶんぶんと首を振りながら瑞鳳が答える。
瑞鳳「そんな事ないよ、充分です。」ニコッ
提督「そうか、それは嬉しいよ。」
提督「規模が規模だ、しばらく本部に召集されて離れられない。留守を頼むぞ。」
瑞鳳「うん!任せておいて。」
提督「それから…この作戦が終わったら伝えたいことがある。」
瑞鳳「その伝えたい事ってきっと同じ事かな…」
提督「あぁ、そうだな。」
瑞鳳「じゃあさ、もっかい約束の指切りしよっか。」
瑞鳳「また提督と出会えたみたいに、今度もまた生きて会えますようにって。」
提督「あぁ、約束だ。」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
提督「長門、状況はどうだ?」
長門「今のところは異常はありません、偵察機によると敵の戦力はやはりここに集結しているようです。」
長門「現在、向こう側がこちらに気付く可能性ありません、このままいけば作戦は成功すると思われます。」
現在、作戦の真っ最中にあった。主力を担う提督の艦隊は、慎重に作戦を遂行していた。
提督「了解だ、気を抜かずそのまま進んでくれ。」
(今のところは異常はない、このままいけば作戦は成功するだろう。)
(結局、あの胸騒ぎは一体…)
ガチャン!!
憲兵「伝令です!今回の主力を担っている提督はいますでしょうか!?」
提督「私ですが…どうしました?」
憲兵「緊急事態です…鎮守府が…提督の鎮守府が…敵機動部隊による襲撃を受けています!!」
提督「…!」
提督が目を見張る、そう、適中してしまったのだ。
彼の胸騒ぎは…
提督「まさか…あれだけの戦力が囮…だと…?」
提督「すっすぐに瑞鳳に繋いでくれ!」
憲兵「は!」
提督「瑞鳳、大丈夫か!?」
瑞鳳「こちら瑞鳳、正直かなりヤバいかな、ハハッ…」
瑞鳳「戦力差がありすぎるかも…」
提督「すっすぐに、長門たちを引き返させる。長門聞こえたか?今すぐ…!」
長門「むっ無理です…!現在敵艦隊と交戦を開始、そちらに行こうにも…」
提督「クソ…!」
提督「こうなったら無理矢理何処かから引き抜いて…!」
瑞鳳「待って提督、ここは私達に任せて。」
提督「何言ってる…!そのままじゃお前達は全滅だ!」
瑞鳳「でも、今戦力を引き抜いたら作戦は成功しない。」
瑞鳳「大丈夫、敵艦隊を全滅させて、こっちに救援が来るまで持ち堪える。
瑞鳳「ね?提督、私を信じて?」
提督「…ッ!でも…」
瑞鳳「大丈夫、約束、したでしょ?」
瑞鳳「きっと私は今度も約束を守る、だからね、提督。」
ーー 信じて、私を ーー
提督「…分かった…お前を信じる。」
提督「長門、敵艦隊を出るだけ早く殲滅、急いで瑞鳳達の支援に向かえ。」
長門「了解です!」
提督「あぁそうだ、きっとあいつは約束を守る、信じよう、あいつを。」
提督「俺はあいつを信じたい…!」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
戦いは、こちら側有利で進んだ。
長門「提督、敵艦隊、殲滅完了です!」
提督「了解だ、中破以上はそのまま帰投して修理。」
提督「長門、小破以下の艦を集めて救援に行ってくれ、頼む出来るだけ早くだ。」
長門「えぇ、勿論です、絶対間に合わせます…!」
提督「私も鎮守府に戻る。」
憲兵「そうくると思って、車は用意してあります。」
提督「ありがとう、恩に着る。」
そうして提督は鎮守府へ向かっていく…
ーーーーーー
ーーーー
ーー
鎮守府に到着するや否や、提督は走り出す。
提督「瑞鳳…!どこだ!」
鎮守府自体は、長門達が敵を撃退し、建物は鎮火が終わった様子だ。
その建物の中を、提督は走り回る。
彼女の名前を叫びながら…
やがて、長門の背中が見える。
提督「長門…!瑞鳳は…!」
長門「…」ギリ
悔しそうに歯軋りする長門の顔を見て、提督は全てを察する。
しかし彼はそれを受け入れない、信じない。
もしかしたら…それにしがみつき提督は言葉を紡ぐ。
提督「答えてくれ長門、瑞鳳はどこにいる…!」
しかしそれでもなお、長門は何も答えない。
今度はばっと、提督が長門の両肩を掴む。
提督「答えろ!!!!!!!!!」
長門「沈み…ました…」
提督「あぁ…ぁぁぁ…」
瞬間、提督は力なく膝をつく。
長門「皆んなを守るために、自ら敵の標的になっていたそうです。」
長門「そのお陰で、他の子達は沈まずに済みました…」
長門「申し訳ありません…!私の救援が遅かったばかりに…!」
提督は言葉を返さない…ただ頭の中で彼女との思い出とともに思考がめぐる。
提督(どうして…なぜ沈んだ?なぜ守ってやれなかった?)
(深海凄艦のせいか?長門達のせいか?大本営のせいか?)
(良いや違う…俺のせいだ…俺が殺した…思っちまった、あの時…)
ーー 信じて、私を ーー
(信じたいって…あいつを信じたいと…俺が思ったから…俺が…!俺が…!)
感情を出したから…!!!!!!!!!
長門「提督、本当に…」
提督「…ない」
長門「…?」
提督「お前は悪くない、長門。」
それは、今までにない冷たい口調と目だった…
提督「長門…」
ーー 俺はもう、感情を出さない ーー
そうだ、出さなければ、もっと冷静に判断ができる。出来たはずだ。
これから、同じ失敗を、また誰かを失わない為に、感情は捨てよう。
そして同時に俺への罰だ。もう一度、感情を閉ざし戻ろう。
感情がない世界、色のない牢獄へ…
そう、そうして提督は…
提督は感情を出さない
ーーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
提督「これが、俺の過去。」
提督「言ってしまえば俺のせいでこうなった、だから罪を犯した俺には感情を出す事は許されない。」
話終わり、ふぅっと息を吐きながら提督は席に座る。
提督「これで全てだ、満足したかい?」
提督「俺はもう感情を出さない、諦めろ。」
吹雪「…貴方に何があったのかは分かりました…」
吹雪が口を開く。
吹雪「…」
提督「?」
吹雪は下を向いたまま提督の机の前まで歩いてくる、拳を握り締めながら…
そして次の瞬間…
吹雪「この…この大バカ提督!!!!!!!!!」
机を容赦なく叩く音と共に、吹雪の怒号が響き渡った。
吹雪「カッコつけてるんじゃないですよ…!瑞鳳さんが…そんな事望んでると本気で思ってるんですか!」
提督「っ!…」
吹雪「そんな理由で感情を出さなくなるなんておかしいでしょう!?」
吹雪「貴方がすべき方はなんですか!罪滅ぼし?そんな事じゃないんですよ。」
吹雪「貴方がすべき事なのは…」
吹雪「瑞鳳さんの分まで感情豊かに生きる事でしょう!?瑞鳳さんに貰ったその感情で…!!!!!!!!!」
提督「じゃあ…」ギリ
そこで、提督が言葉を遮る。そして歯軋りをしながら答えた。
提督「それでまた仲間を失ったらどうするんだよ…」
提督「そうやって、感情に任せて行動そうした結果がこれなんだよ…!!!!!!!!!」
提督「俺に何の権利が…なんの資格があってそんな事ができる…!?」
吹雪「そんなもの必要ないじゃないですか…!瑞鳳さんの為を思うならその分楽しく生きれば良いじゃないですか!」
提督「あいつが死んだのに、のうのうの過ごせって事かよ…!」
吹雪「違います!瑞鳳さんの為を思うなら、貴方が楽しく暮らす事を瑞鳳さんが願ってる事だって分かるでしょう…!?」
吹雪「提督、もう一度感情を出して、瑞鳳さんの分も…
や め ろ !
そこで提督は頭を抱え座り込む。
目には沢山の涙が溢れていた…
提督「もう嫌なんだ…大切な人を失うのも…周りが悲しむ目をするのも…」
どこか、懇願するかの様に提督が言う。
提督「俺が感情を出さなければ…冷静に判断できる、そんな事はもう起こらない…」
提督「俺の感情が原因で…自分の大切な存在を失うのは…もう…嫌なんだよ…」
吹雪「それでも…私は…貴方をもう一度…」
そこで吹雪は言葉を止める。
そして、そして、そして、しばらくの沈黙の後、吹雪が言葉を開いた…
吹雪「提督、瑞鳳さんが沈んだ場所は具体的に鎮守府近海のどこですか?」
その瞬間、提督は一歩後ずさる…
提督「なんで…そんなことを聞く…」
吹雪「過去を…乗り越える為です。」
そう、提督は過去に囚われている。実は提督は瑞鳳が沈んだ場所に足を運んだ事はない。
未だに信じまいとしているのだ、受け入れようとしていないのだ、瑞鳳の死を…
感情を出さなければ、何も失う事はない。確かに彼がさっきも言ったとうりそれもある。
だが、それ以上に恐れているのだ。感情を出すと言う事は、瑞鳳の死を乗り越えて前に進むと言う事。
乗り越えたくないのだ、感情を出さない自分の間は、瑞鳳と会う前の自分な気がするから…
そう思えば、瑞鳳とは出会っていないと、彼女は死んでいないと錯覚出来るから…
吹雪はそれに気付いたのだ、それを乗り越えなければならないと…
吹雪「提督の話を聞いていた時…途中から誰かに話しかけられた気がしたんです…」
吹雪「提督を…前に進ませてって…きっと瑞鳳さんだと思います…」
吹雪「だから、瑞鳳さんが沈んだ場所に行きましょう、そこに行けば…」
吹雪「きっと、強く願えば、きっともう一度だけ瑞鳳さんに…そしたらお別れを言うんです。」
提督「やめ…ろ、そんな事必要ない…第一強く願ったら会えるなんて都合の良い事なんかあるわけ…」
そこで、吹雪は微笑を浮かべる。
吹雪「そのはずなんですけどね、何だか一度だけなら会える気がするんです、いや呼ばれているがします。」
吹雪「提督、過去を…乗り越えましょう。」
提督「い…やだ、俺は…俺は…過去を乗り越える必要なんか…」
ーー ギュッ ーー
提督「え?」
困惑する提督に、吹雪は、泣きながら…しかし笑みを見せながら応える。
吹雪「大丈夫、私もついて行きます、一緒に過去を乗り越えましょう。」
吹雪「確かに、罪を感じてしまうかもしれない…自分のせいだと思うかもしれない…」
吹雪「でも、そうやって感情を出さないのは、逃げなんです…立ち止まってるだけなんです…」
その言葉の後、しばらく沈黙が続いた…
そして、提督の言葉が沈黙を破る。
提督「そうか…瑞鳳、そうだよな。」
提督はそろりと立ち上がり、徐に引き出しを開け地図を出した。
その地図のある場所にピッと指を差す。
提督「ここだ…ここで沈んだと聞いている…」
吹雪「分かりました、いきましょう提督。」
吹雪が手を差し出す。
提督「…」
提督は、少しだけその手を取ることを躊躇う。これから彼女の死を受け入れなければならいから。
そんな提督の手を、ギュッと吹雪が掴む。
吹雪「大丈夫です、私が付いてますから。」
吹雪「さぁ、過去を…乗り越えましょう。」
その言葉に、提督は吹雪の手を握り返しながら…
提督「そうだな…お前の言う通りだ。あいつは感情を出さない俺なんて望んでない。」
提督「あいつとしっかりお別れして…」
提督「感情出さない提督を…終わらせよう。」
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー
…そこは、とにかく静かだった。
浜辺から、2人は海を眺める。
吹雪「ここが、瑞鳳さんが沈んだ場所…」
静かに、吹雪が呟く。
提督「あぁ…ここなんだな…ここでお前は…」
過去を思い出し、悔しそうに拳を握りしめる提督。
何を悔しんでいるかなど、もはや言う必要もないだろう。
吹雪「提督…」
心配そうに、吹雪が提督の顔を覗き込む。
提督「いや…大丈夫だ。ちゃんと向き合うって決めたからな。」
そのまま海を眺め続ける…
何の変化も起こる事はなく、穏やかだ…
吹雪「提督…申し訳ありません、さっきは勢いであんな事…」
提督「良いさ、元々そんな都合の良い展開になるはずがない、仕方ないさ。」
提督「むしろ感謝してるくらいだ。」
その言葉に吹雪が首を傾げる。」
吹雪「感謝…ですか?」
提督「あぁ、ここに俺が足を運ぶ勇気をお前がくれた。」
提督「お前がいなきゃ…俺は大好きなこいつにちゃんとお別れも言えなかった。」
吹雪の顔を見つめ、優しい笑みを浮かべながら提督は言葉を紡いだ。
提督「お前のお陰だ。」
その言葉に、吹雪も優しく笑みを返した。
提督「瑞鳳、お別れを言いにきたよ…」
提督はその言葉とともに、波が届く位置まで歩く。
そして、そこに座り込み、静かに手を触れた…
ーー その瞬間だった ーー
ぱぁっと、提督の触れた手から光が溢れ出し、提督を飲み込んだ。
次の瞬間、目を覚ますと、そこは何もない白い世界だった。
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーーー
提督「ここは…」
ーー 提督 ーー
背後から、声。それは、聞き覚えのある声。
長い間、聞けなかった、もう聞けるはずのない声。
聞きたくて、聞きたくて、どうしようも無くなる、そんな声
最愛の人の…声。
背後から聞こえるその声に…
提督は抑えきれない涙を流しながら振り返る。
提督「何で…何で…お前がいるんだよ…!」
悲しみと、後悔と、嬉しさと、色んな感謝がぐちゃぐちゃに混じり、涙は止まる事を知らない
その顔見た瞬間、提督は子供の様に泣きじゃくる。
そこにいたのは、提督の最愛の人、そして提督を愛した人、瑞鳳だった。
泣きじゃくる提督を、瑞鳳は優しく抱きしめる。
瑞鳳「ありゃりゃ、暫く会わない間に泣き虫さんになっちゃったかな。」
提督「会いたかった…!ずっと…!ずっと…!」
提督は、叫ぶ。
ーー ずっとお前に会いたかった…!!!!!!!!! ーー
その言葉に、瑞鳳は優しく、強く言葉を返す。
瑞鳳「うん…!私も…会いたかった…!」
提督「でも…どうして…」
その言葉に、瑞鳳は静かに答える。
瑞鳳「この海で、眠ってた…はずなんだけど。」
瑞鳳「いきなり、呼び起こされた。きっと提督が起こしてくれたんだね。」
瑞鳳「だからこうして会う事ができる…最後に一回だけ…」
その言葉に、悔しそうに、キュッと提督は口を噛み締める。
提督「ッ…!」
そんな提督の様子を見て、瑞鳳は申し訳なさそうな言葉を掛ける
瑞鳳「ごめんね、あの時、約束守れなくて。」
その言葉に、即座に提督が叫ぶ。
提督「お前は悪くねぇよ…!何で、お前が謝る必要があるんだよ…!」
提督「本当に…謝らなきゃいけないのは俺で…」
瑞鳳「それも違う。」
その言葉と共に、瑞鳳は抱きしめる力を強くする。
気が付けば、瑞鳳にも涙が溢れていた。
瑞鳳「きっと…本当は誰も悪くない…ただ、運が悪かっただけだよ…!」
提督「瑞鳳、あの時お前に言えなかった事がある…」
瑞鳳「うん…」
提督、一度深呼吸を挟み…
その言葉を…紡いだ…
提督「愛してる…!」
提督「俺はお前を…瑞鳳を愛してる…!」
提督「お前のドジなとこも、誰かの為に行動する所も、誰にでも分け隔てなく接する優しさも…」
提督「辛い時でも笑顔を絶やさない所も、お前の卵焼きも、何よりお前の感情豊かな所が、俺は好きだ。」
提督「お前が俺に全部をくれた、だから…だから…だから…」
提督「俺はお前を愛してる…!」
提督「愛してるよ、瑞鳳。世界で誰よりも…お前を愛してる…!」
その言葉に、瑞鳳は提督の両手をぎゅっと握りながら答えた。
瑞鳳「提督、私も愛してるよ…」
瑞鳳「不器用で、でも真っ直ぐで、厳しそうに見てて本当は優しくて…」
瑞鳳「実は凹みやすいとこが可愛くて、でも凄く頼り甲斐があって、何やり私をこんなに愛してくれる貴方が好き…」
瑞鳳「だから提督、きっと世界の誰よりも…あなたを愛してる…!」
瑞鳳がその言葉を言い終えた瞬間、世界が薄れ始める…
提督「もう…終わりか…」
瑞鳳「見たい…だね。」
ゆっくりと、提督が立ち上がる。
提督「行くよ…」
涙を拭い、瑞鳳を見つめる。
瑞鳳も立ち上がり、少し心配そうに尋ねる。
瑞鳳「大丈夫…?」
その言葉に、今にも溢れ出しそうな涙を抑え込み、満面の笑みで提督が答える。
提督「なーに言ってんだ、俺がこんなとこで落ち込んでたらお前に顔向けできないだろ。」
その言葉に、瑞鳳は提督を弄る様に答える。
瑞鳳「あっれー?私がいなくなって、堅物に戻っちゃったのはどこの誰だったかな〜?」
提督「ちょっ…からかわないでくれ…」
瑞鳳「相変わらず、からかわれると弱いんだから〜」
ニシシ、と笑いながら瑞鳳がそんな事を言う。
瑞鳳「まぁ…」
その笑みは優しく笑みに変わる。
瑞鳳「あなたを見ればわかる、もう大丈夫だね。」
提督「あぁ、それにお前はいつも、俺の心の中にいる。そんな気がするんだ。」
瑞鳳「ベタだね、でも、私もそんな気がするよ…」
提督「もうすぐ、この世界も終わりだ。」
瑞鳳「そうだね。」
提督「瑞鳳…最後に…」
瑞鳳「お?またまた、愛のお言葉ですかな?いや〜提督もデレデレになったもんだなぁ〜」
その言葉に、提督は少し笑みを浮かべながら答える。
提督「いや、ちょっと違う。」
その瞬間、瑞鳳の顔を引き寄せる。
瑞鳳「ふぇ?」
その瞬間…
ーー 2人の唇が重なった ーー
瑞鳳「ッ!?////」
瑞鳳は顔を真っ赤にしている。
提督「責められっぱなしも嫌なんでな。」
そんな事を言う提督に、瑞鳳は顔を膨らませる。
瑞鳳「そんな理由でファーストキスを…!」
提督「俺もファーストキスだ、愛してる。」
その言葉共に、提督は瑞鳳を抱きしめる。これが最後になると噛み締めて…
瑞鳳「ずるいなぁ…もう。」
瑞鳳も抱きしめる力を強くする。
瑞鳳「私も、愛してるよ。」
その瞬間、眩しい閃光と共に、世界は消えていくのだった…
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー
ーー
吹雪「…とく…!
吹雪「て…と…く」
吹雪「提督!」
提督「ん…」
目を覚ますと、視界の中には吹雪が映っていた。
吹雪「目が覚めましたか、良かったです…いきなり気を失うものですから…」
提督「そうか、心配を掛けたな。」
ゆっくりと、提督は立ち上がる。
提督「奇跡は…起こったよ…」
キョトンと、吹雪は首を傾げる。
提督「瑞鳳に会えた、ちゃんと最後に言いたい事を言えた。」
提督「だからもう一度お礼を言わせて欲しい、ありがとう、吹雪。」
その言葉に、吹雪は静かに、しかし笑いながら答える。
吹雪「はい。」
そして、吹雪は海を見ながら、深々と頭を下げる。
(瑞鳳さん、ありがとうございました…)
すると、耳元で何かが聞こえた気がした…
(私こそ、ありがとう、吹雪さん)
吹雪「え?」
(因みに後妻を狙うなら、あの人中々に難攻不落だから頑張ってね〜)
吹雪「ふぇぇ!?」
素っ頓狂な声を上げる吹雪
提督「どうかしたのか?」
不思議そうに見つめながら、提督がそんな事を聞く。
吹雪「いっいえ…!何でもありません!」
提督「ん、なら良いんだが。」
吹雪「とにかく、私達の鎮守府に帰りましょう。」
吹雪「特に、提督は長門さん達には心配掛けたんですから。」
提督「うぐぐ…そこは申し訳ない。」
そうして2人は鎮守府への帰路を辿った…
ーーーーーー
ーーー
ー
鎮守府に戻ると、ちょうど食堂に全ての艦娘が集まっていた。
長門「提督、お帰りなさい。」
食堂全体が少し静かな雰囲気になる。
吹雪「提督…」
提督「あぁ…分かってる。」
長門「?」
次の瞬間、提督は柔らかい笑みを浮かべて応えた。
提督「あぁ、ただいま長門、悪かったな、急に抜け出して。」
その瞬間、その場にいた全員が目を見張る。
長門を含めた感情を出さなくなる前の提督を知っている艦娘達は涙さえ流していた。
そして、提督は高らかに、満面の笑みで宣言する。
提督「皆んな、心配を掛けたな。」
提督「けど、もう大丈夫。」
ーー お前らの提督は感情豊かだ! ーー
完
「……気まずい!!!!」
部屋の中で1人の男性の声が木霊する。
ベットで悶える彼こそ、数ある鎮守府の中で1番艦娘を抱える提督である。
今日は2月13日、時刻は朝の4時。
少し早く起きすぎてしまった提督は色々と物思いにふけっていた。
物思いにふける……となると、やはり思い出すのはただ1つ。
ドライに行動していた、まぁ昔の自分の言葉で言えば…感情を出さないでいた頃の事。
感情を優先した判断から最愛の人を失い、感情を隠すようになったが、かつて自分が励ました1人の艦娘に救われた…そんなお話。
当時からすれば非常に感動的……だったのだが……
「こうやって今冷静になると恥ずい!!」
元より瑞鳳と過ごしていた頃の彼は喜怒哀楽がかなりあった。
そんな元通りになった彼からすれば……
『俺は感情を出さない』
だの……
『色のない牢獄』
だの……
「めちゃくちゃに恥ずかしい……。」
今となっては本当に恥ずかしい限りである。
はぁ……と、提督は大きなため息をつく。
と言うか良く考えれば分かる話だったのだ。
昔の自分に戻って喜ぶ人間何か誰も居なかったし、折角自分を明るい人間にしてくれた瑞鳳が余計悲しむにきまっている。
その事に気付けなかったのは今でも猛省が尽きないばかりだ。
それを気付かせてくれた吹雪には今でも感謝しか無い。
とにもかくにも、こう暇な時間が出来てしまうと過去の自分の行動言動がちょっと恥ずかしいと悶えるのが、最近のこの男に良くあることである。
ベットの横にある小さな机の上にある瑞鳳の写真に手を取る。
「瑞鳳〜…本当にどうしたもんかな。」
「あの後…実は気まずくてまだしっかりとは皆んなに謝れて無いんだよな。」
「吹雪にも…ちゃんともう1回お礼を言わなきゃ行けないし…。」
勿論返答が帰って来る訳でも無いのだが、やはりこの子の写真に話し掛けると提督は多少なりとも落ち着く。
提督は考える…。
昔の自分はとにかく艦娘に心配しか掛けなかった、何かお返しをしなくてはならない。
特に吹雪には…。
と…その時だった。
色々と考えていたからか、手の力が抜け、瑞鳳の写真を落としてしまった。
「おっと……」
慌てて拾おうとする提督……。
「ん?」
写真を拾い視線を上げてみると、カレンダーが目に入った。
今日の日付は2月の13日……。
「なるほど、瑞鳳、そういう事か。」
「1日あれば充分だもんな。」
イベント事に鈍感な提督もここでようやく気付く。
明日こそ、そのお返しにピッタリの日であると。
部屋の時計を見てみる、気付けば朝の五時。
となれば…早起きすぎる彼女が起きている時間だ。
提督は部屋の固定電話から彼女の部屋の電話番号を入力する。
「あぁ、もしもし長門?」
「おう、おはよう。」
「いきなりなんだかな、最近は作戦も終わって落ち着いてきたし、臨時のオフにしようと思う。」
「そう、オフ、明日もオフだけど…まぁたまには連休ってのも良いだろ?」
「ありゃ、勘が鋭いんだな、そうだよ…。」
「ちょっと準備したいことが出来たんだ。」
「恩返しバレンタイン作戦、発令ってな。」
続く?
はい皆さん、こんにちは。更新頻度の遅さこそが取り柄なかぴおです
バレンタインがありましたね、皆様はチョコ貰いましたか?私は貰えなかったので自分で生チョコを作りました。
さてさて今回は、時系列的には最終回の数ヶ月後くらいのお話、後日談ですね。
……書きたくなっちゃたんだよ!後日談!!
という事で、提督は感情を出さない後日談、バレンタイン編……続く……かも?
2023-2-15 byかぴおさん。
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皆さん、遂に完結でぇぇぇぇぇぇす!!!!!!!!!
いやぁ長かった…ここまだ長かった。これ実は初投稿のシリーズなんですよ。めっちゃかかったなって言う。
ここまで読んでくださりありがとうございました!厳しい意見、アドバイス等お待ちしております!
たのしみ
ありがとうございます!
隠れた名作とはこのような作品のことを言うのだと思う、もっと伸びて欲しい、そしてたくさんの人にこの作品を知って欲しい
ふうぇぇぇぇぇ!!ありがとうございます😭
隠れた名作だなんてそんな勿体なさすぎる評価ありがとうございます。
嬉しさで鳥になりました
大切な人が亡くなり感情を出さなくなってしまった提督が心から救われて良かったです!完結お疲れ様でした!
コメントありがとうございます!いやもうここまで読んでくださって感謝感激です!