北上さんと真夜中缶詰めパーティー
北上さんと深夜に缶詰をつつく、お主も悪よのう的概念
どもども、初めましての方は初めまして。かぴおさんです。
今回は北上さんと缶詰のお話、読み切りですらちょっとした空き時間のお供によろしければ。寒い日が続きます、風邪にはお気をつけて、行ってらっしゃい。
「終わったぁぁぁ!」
時計の針の音だけが規則正しく鳴る執務室。
書類の山に囲まれたその中心で、提督は思い切り声を上げる。
現在時刻は24:30、鎮守府の消灯時間は22:00。
提督の勤務時間も後者の時間になるので、大体2時間半の残業である。
まぁ、この職業、たった2時間半の残業で済めばマシな方なのだが。
「提督に労働基準法でも適用されたら大変だな。」
提督はそう言って、1人このブラック職業を嘆く。
提督…。
海を脅かす謎の生物深海棲艦に対抗する為に作られた艦娘を指揮統率する職業。
最前線の指揮官となる為、給料も高く、その上可愛い子達に囲まれて仕事、何てイメージを軍部がアピールした為に倍率はかなり高い。
まぁ実際の所、書類仕事は山ほどあって、常に片付け無ければ行けないし、その上で部隊の編成、作戦の立案、戦術の考案、更には艦娘1人1人とのコミュニケーションやメンタルサポートまでまで。
それだけでは無い、上のご機嫌取りはしなければならないし、戦果を上げなければクビ。
そして何より、自分にのしかかる100人以上の艦娘の命。
精神的にも肉体的にも、ブラック職業である。
「まぁ…。」
そう言って、提督は机の上に置いてある写真を手に取る。
写真に写っているのは、鎮守府の集合写真。
どの艦娘も楽しそうに笑っている。
「愛着湧くよな、家族愛って奴かな。」
「家族の為なら頑張れるって、うちの父親も言ってたけど、こういう事何だろうなぁ。」
提督はそんな独り言を並べながら物思いにふける。
結局の所、この職業を続けられるのは、艦娘に愛着が湧く人間か、よっぽど愛国心のある人間くらいである。
因みに、艦娘によこしまな考えだけを持って入る者は、大体上からの罵詈雑言と書類仕事で辞めていく。
このブラックさが逆にセクハラ対策になるとは皮肉な物だ。
でも、お互い好き同士になる提督と艦娘もいる。
そう言う場合は逆に戦果がたくさん上がるらしいんだけども。
「それにしても。」
提督はそう言って腹をさする。
そう言えば、仕事を終わらせなければと言う一心だったので夕飯を食べていない。
グーっとなる音で身体が食を欲している。
しかし困った、とばかりに提督は頭を悩ませる。
何か食べようにも深夜、とっくに消灯時間は過ぎて鎮守府は寝静まっている。
食堂?いやいや間宮さんも鳳翔さんもとっくに寝ている。
今から外に…いやこれもダメだ。
無闇に夜中に出歩くと後々うるさい立場が提督だ。
と言うかこの残業ばかりで疲れた体で、深夜に飲みに行くなど身体が持たない。
さてどうしたものか…。
数十秒悩んだ後、提督は1つの結論に辿り着いた。
「食堂にカップラーメン置いてあったよな。」
非常用のカップラーメンである。
健康に良くないので間宮さん達にバレると、
「どうして起こしてくれなかったんですか!」
何て怒られるのだが、流石に起こせるわけないだろう。
まぁこっそり食べてこっそり捨てれば大丈夫だろう。
提督はそんな事を思いながら食堂へと向かうのだった……。
……
「そういや、何が残ってたっけ。」
最低限の灯りだけが着く廊下で、そんな事を呟きながら提督は食堂に向かっていた。
この職業、やはりカップラーメンとはもはや相棒様な関係であり、どのメーカーが美味い、この味が好き、何て色々と好みも出てくるものである。
全て5分か3分あれば完成して食べられる、と言う時間においての圧倒気優位性。
それに加えてのこの豊富さである。
提督業の相棒になるのも頷ける。
「……?」
などど、提督がカップ麺への拘りを脳内で解いているうちに食堂が近ずいてきた。
しかし何かがおかしい。
「明かり…?」
そう、食堂から明かりが漏れ出ている。
この時間、食堂を切り盛りする間宮さん達は居ないので明かりが着いている事などまず無い。
不審者?まさか鎮守府に?
提督は考える。
人間離れした力を持つ艦娘のいる鎮守府に侵入する者など居るだろうか?
居るとしたら大馬鹿者だな。
と言うか侵入したら警報のひとつくらいは鳴っているだろう。
とにもかくにも、部屋に入らない事には始まらない。
念の為、腰に付けてある警棒を構える。
護身用で配給されるものだが、もし不審者が、と考えると拳銃くらいは欲しいものである。
だが今は贅沢を言っても仕方ない。
取り敢えずは、明かりの主を突き止めなければ。
警棒を構え、提督は勢いよく食堂の中に入り叫ぶ。
「誰かいるのか!!」
「はえ?」
……帰ってきたのは、なんとも気の抜けた可愛らしい声だった。
不審者かも、と言う不安はこの時点で提督からは消えた。
黒髪ロングで、右肩から垂らした三つ編み。
気だるげそうな声。
間違いなく、艦娘の1人。
"北上"だった。
「びっくりした…北上かよ。」
「何提督〜?不審者とでも間違えた〜?」
「酷いな〜まったく。」
「誰だってこの時間に明かりが着いてたらそういう心配もするよ…。」
自信の不安が無くなった事で提督は安堵のため息をついた。
それと同時に、提督に新たな疑問が浮かんだ。
北上はここで何をしているんだ?
見てみると、北上はエプロンと三角巾を付け、食堂のキッチンで何やら鍋で何かを暖めている。
かなり沸騰しているのか、湯気がこちらにも漂ってくる。
「ところでお前…それ何してるんだ?」
「え?あぁこれ?」
「ちょっと待ってね〜。」
そう言うと、北上は何枚か皿を取り出し、鍋の中から暖めていた何かを菜箸で取り出して行く。
「よしっ。」
北上は何処か自慢気にお皿をもち、こちらに振り向き歩みよってくる。
「正解は〜こちら。」
「缶 詰 です!」
どやさ。と言えば良いのだろうか。
そんな感じで北上は缶詰を差し出して見せる。
「缶詰?」
「そそ、缶詰夜食をしに来てたんだよ〜。」
「定期的に食べたくなるんだよね、缶詰ってさ。」
「あっそれは分かるかも。」
確かに、缶詰は特別美味しいという訳で無いのだが、なんと言うか、地味に美味しい。
だからこそ、定期的に食べたくなるし、夜中の夜食何て持ってこいである。
北上の性格を考えれば、夜な夜なこっそり食べている姿も容易に想像できる。
「でしょ〜?」
「因みに今取り出したのが、焼き鳥と塩味とタレ味ね。」
「あと他に、サバ缶と、大和煮、角煮それから〜…。」
「おい待て、そんなに取り出したら間宮さん達に絶対怒られるだろそれ。」
うげっと、北上が顔を歪ませる。
「いやでもさ、偶にいっぱい食べたくなるといいますか、悪さがしたくなるんだよね〜。」
「そこら辺さ、提督の権限でどうにかならないかな?」
「ならん。」
「即答だね……。」
「毎日美味しいご飯を作ってくれてる人に逆らえる訳ないからな。」
「そりゃ確かに。」
「ただまぁ。」
「共犯になる事はできるぞ?」
そう言って、ニヤリと提督は笑う。
実際の所、提督もかなり空腹に限界が来ていた。
ましてや缶詰飯何て通な所を突かれると、缶詰が食べたくなってしまう。
どうせカップラーメン食べても後々怒られるし、ここは北上と共犯となって缶詰を食べた方が楽しいだろう。
そんな事を考えての提案だった。
「提督…。」
北上は片手を頬にやり、ヒソヒソと提督に話し掛ける。
「お主も悪よのう。」
にししっと笑う北上。
ここに来てなんだか提督も楽しくなってきた。
「北上様には及びませぬ。」
「「にっしっし」」
時代劇でしか使わなさそうな笑みだ。
「じゃっ提督、始めますか。」
「北上さん主催!深夜の缶詰パーティー!」
……
「にしてもまぁ……」
提督は目の前の机に並ぶ品々を見て呟く。
「これは思っていた以上に背徳。」
焼き鳥、コーン、角煮、サバ、大和煮、etc……。
どれもこれも、高級食材という訳ではない。
なのに何故だろう、深夜という時間の魔法なのか、あるいは背徳感という魔法なのか、提督はすっかり気分が上がってしまっていた。
「でしょ〜?」
対面に座る北上。
この缶ずめパーティの主犯である。
「たまの深夜にひっそり缶ずめを開けてつまむ!いや〜たまりませんなぁ。」
「やっている事が中年だぞ…。」
案の定提督はそんなツッコミをする。
まぁ、この北上という子はそこも含めていい所ではあるのだが。
「さて、提督。」
「おう。」
2人は手を合わせ、缶ずめに一礼しながら、声を合わせる。
いただきます__。
1口目、2人は恐る恐る焼き鳥を1つつまむと…
顔を見合せ、何度か頷く。
食堂の法律を犯すという、最終確認を済ませ、パクッと焼き鳥を口に放り込む。
「「うまっ。」」
2人の声が重なった。
特別……美味しい訳では無いのだが。
この時間帯に食べるという魔法1つでこれは…
「まずいな…これは堪らん。」
提督にとっても…
「背徳ですなぁ〜。」
北上にとっても、最高の調味料だ。
スムーズに箸を進め、時折顔を見合せグッドポーズを送る。
そんな時間が流れていた…その時、
「提督……。」
北上が突然立ち上がる。
「どっどした?」
流石に提督も困惑である。
「私はもう我慢出来ん……!」
そう言うと、北上は食堂の奥にある冷蔵庫へと駆けてゆく。
そして……何かを抱え……机に戻ってくる。
提督はその何かを視認すると……
「おい。」
即座に突っ込んだ。
「なんでしょう旦那。」
「お前……それは何だ?」
すると……北上はバツの悪そうに視線をそらし、口笛を鳴らし始める。
とても綺麗な口笛だ、全国大会があれば優勝できるであろう。だがそんな事は今どうでもいい。
「もう一度聞く、それは何だ?」
すると、今度は開き直ったのか……悪びれもせず……北上は
「ビールです。」
と答えた。
「アカンわ!!!」
即座に突っ込みを入れる提督。
別に……酒がダメでは無いのだ。
今この時間に飲むのが行けないのだ。
こんな深夜に飲めば確実に明日に響く。
と言うより、北上は飲んで大丈夫なのだろうか。
制服来てるし高校生っぽい気もするが、北上が飲んでるかと聞かれると、こいつは休みの日は普通に飲んでる。
朝潮型とか…そこら辺は絶対ダメなんだろうけど、駆逐艦でも浜風とかなら違和感無い。
ここら辺どうなのかは後々持ち帰って吟味するとしよう。
それとは別に……
「明日任務あるだろ、ビールしまってきなさい。」
「なんで!?」
「何でもだよ!!」
逆に何で、なんて発想辞めて欲しいものである。
「いーじゃん!お世話するし〜ちゃんと餌あげるし散歩もさせるし〜。」
彼女にとってのビールは何なのだろうか。
「ダメったらダメだ!休日まで我慢しなさい。」
「ちぇ…提督ケチだな〜。」
諦めた様にその場に座り込む北上……。
その様子に提督は気を緩める。
だが……それが間違いだったのである。
プシュッと炭酸が抜ける音がする。
しまった……!即座に止めなくては…!
すぐに手を伸ばす提督……しかし。
北上は既に……その黄金の液体を喉に流し、してやったり、という顔を浮かべていた。
「プッハ〜!!やはり缶ずめにはビールですなぁ。」
やられた……時すでに遅しである。
「あぁもう、ほどほどにしろよ?」
こうなっては提督もこう言うしかない。
「提督も真面目だな〜」
ビールを飲みながら、そんなことを言う北上。
「誰だって明日仕事あるのに深夜には飲まんわ。」
「そかな〜?少しくらいは飲むと思うけど、その頑固さの理由は北上さん気になるな〜。」
「お前なぁ……。」
「別に教えろとは言ってないけど、提督滅多にお酒には手出さないからさ、何かあるのかなと思ったわけですよ。」
すると、その発言に提督の返答が帰ってこず…しばらくの沈黙がつづいた。
流石に何も帰って来ないと、北上とて気になるものだ。
「あの〜そこら辺どう思い……」
北上が聞き直そうとした、その時だった。
その発言に被せるように
「命…預かってるからな。」
提督はそう言った。
「別に酒が嫌いな訳じゃないし、普通に酒飲みたいなって思うこともあるし。」
「俺は元々そんな頑固な人間じゃない。」
「でもな……。」
提督は椅子に背中を任せ、天井を見上げながら言葉を続ける。
「酒飲んだ次の日に、敵の襲撃があったらどうするよ。」
「酔っ払っていい加減な指揮をして…お前達が沈んだら……どうするよ。」
珍しい、真剣な顔で提督は…
「酒が飲めないより、俺はお前らが死ぬほうがよっぽど嫌だね。」
「提督……。」
「提督はさ…」
同じ様に天井を見上げながら、北上は問い掛ける。
「何で赤の他人の…いや、兵器である私達にそんなに責任を感じるの?」
「だってそんなの、私だったら頑張れる気がしないし。」
その問いに…提督は少し笑いながら答えた。
「家族だからな。」
「昔、うちの親父にどうして仕事頑張れるのかって聞いてみた。」
「そしたら言うんだよ、お前達家族の為だよって。」
「今ならその意味がわかる、俺にとって、お前達は家族だから、これだけ頑張れる。」
「ただそれだけだよ。」
北上はその答えに何も返さず、ビールを飲み干すと……。
「いや、やっぱり今日はこれで終わりにしとくよ。」
そう言って、残りのビール缶を持ち上げる。
「どした?珍しいな。」
「別に〜?バレたら間宮さん達怒られるしね〜」
そう言って、ビールを冷蔵庫にしまって北上は席に座り直す。
「さて、提督。」
「缶ずめはまだまだ残ってるよ〜?」
「共犯なのだから付き合ってもらうよっ!」
そう言って、北上は笑いかける。
それに答えるように、提督も笑を零しながら答えた。
「しょうがなぇな、付き合ってやるよ!」
翌朝……普通にバレて間宮さんに怒られた2人だった。
おしまい。
寒い!はいどうもかぴおさんです。
最近寒くないですか!さみぃ!
僕最近普通の風邪引いたんですよ、でも普通の風邪も普通にキツいんだなこれが。皆さんもお気を付けて。ほんとに寒いですからね!
まったり書いていきます、ご指導ご鞭撻よろしくお願いします。
ほなまた。
この緩くも何処か温かい話と北上さまの相性バッチリですね
北上と提督の悪友のような掛け合いがとても面白かったです
こういうサブストーリーのような話はとても好きなのでかなりお気に入りです
>>1さんありがとうございます!そう言っていただけると嬉しいです!
ハーメルンでも読んだけどこういう雰囲気の好きよ
>>3さん!!ありがとうございます!!