2018-03-19 14:21:18 更新

概要

過去の大戦に縛られ「クズ鉄」の烙印を押された戦艦。彼女に残された最後の手段。それは忌まわしき因果を背負う「航空戦艦」への改装だった。『完結』


前書き

上「立ち上る雲―航空戦艦物語―」←イマココ
中「立ち上る雲-雷雲戦隊奮戦記-」


下「立ち上る雲―海軍演習血戦記―」



【第一章】おるすばんせんかん



「おおおおおおおん」


 雄叫びのような声を受け、飛行機が飛ぶ。

 高く舞い上がった機体は太陽を隠しながら高空を滑空し、少女の指先の動きに合わせ、くるくると曲芸のように宙を舞った。緩やかな海面がゆらりとひるがえり、降り注ぐ日光を反射して瞬いている。その照り返しを受けて、機体の両翼が深く鮮やかな緑色に輝いていた。


 飛行機が円を描きながらゆっくりと高度を下げる。飛行場の代わりに高く掲げられた少女の手の中に、機体はすっぽりと納まった。


「上手いものだな」


 後頭部に声を投げかけられ、少女は驚いて背後を振り返った。生垣の高い草に隠れるように、建物の窓が並んでいる。そのうちの一つから恰幅の良い女性が窓枠に肘を乗せて顔をのぞかせていた。少女と目が合うと、軽く腕を上げて挨拶した。


「見てたんですかい、旦那もお人が悪い」


 巡洋艦「加古」は艦載機をしまいながら、ぼさぼさの頭を掻き毟った。視線を逸らして、唇を尖らせる。


「あたしなんかまだまだでさぁ、古鷹の奴なんか今日もこの後出撃だっつて、あたしゃあ置いてけぼりですよ」


「私もさ」


 哀感漂うその言葉に、加古は驚いて顔を上げた。しかし、すぐさま高い汽笛の音が鳴り響き、窓の女性と共に後ろの海を振り直った


 桟橋を滑り降りるように数人の少女達が海面に降りていく。着水した者から先陣を切り、美しい隊列となって航行する。

 先頭を走るのはセーラー服の小柄な少女だ。ともすれば女子高生にも見まごう出で立ちだが、その清楚な顔立ちに似合わぬ重厚な艤装が彼女の姿をまさしく軍艦たらしめていた。眩しく輝く左の瞳が一瞬だけ陸に向けられる。

 巡洋艦「古鷹」を旗艦とし、続々と後続の船がそれに続いた。

 その中の一隻、一際目を引く長身の艦娘を見て、加古は声を上げた。


「見てくださいよ旦那、金剛型ですぜ」


「ああ」


 最後に水に足を付けたのは巫女のような白装束に身を包んだ、身の丈のある美女だ。腰まで伸びる長髪は、まるで宝石のようにキラキラと眩くきらめいている。背中に背負った主砲は他の艦とは比較にならぬ重厚さで、他艦の追随を許さぬ力強さを醸し出していた。整った輪郭の中の、一際大きな瞳がカッと見開かれた。


「HEY!ミナサーン!何があっても、ワタシがいればNo Problemデース!」


 英語交じりの、奇妙な言葉使い。

 戦艦「金剛」。巡洋戦艦から高速戦艦へと改装された、まさしく次世代型戦艦とも呼べる軍艦であった。


 窓枠に肘をついた女性は、その堂々たる後ろ姿を複雑な表情で見送る。彼女も、また戦艦であった。かつては旗艦として隊を先導し、海戦においては自慢の火力で敵陣を薙ぎ払った。しかし、そんな栄光も今や過去の産物。


 戦艦「日向」は大きくため息をつきながら、部屋の中に身を引っ込めた。差し込む日の眩しさから逃げるように、大股で廊下を歩く。


「私だって仕事が山積みなんだ」


 この後は盤木を船渠(ふろば)に運ばなきゃならんし、食堂に顔を出して人が少なければ米炊きくらいは手伝える。午後は演習艦の仕事が立て続けに入ってるし、その後は報告書の催促にも回らなければ。


「…なんだかな」


 日向は曲がり角の影で立ち止まり、両の拳を固く握りしめた。

 出撃割に最後に名前が挙がったのはもう半年も前の事だ。かつて艦隊一と謳われた火力も装甲も、今はただ薄暗い倉庫の中で錆び朽ちるのをひっそりと待つだけだ。


「日向様」


「ただの戦艦の時代は終わったか…」


 ひとりごちる。

 ただもどかしく、無為な日々を過ごす。戦えない私はいったい何者なのか。

 日に日に全身の細胞が死んでいくのを感じる。毎日の訓練を欠かした事は無い。それでも、あの戦場の「空気」の様な物が、私を艦娘たらしめていたのは疑いようも無い事実であった。


「日向様」


 せめて戦いの中で死んでいくものとばかり思っていた。いや、戦えぬ私など、今は死に体も同然なのだろうか…。


「ひ・ゅ・う・が・さ・ま!」


「ん?」


 ふと視線を上げると、自分の目の前に小柄な少女が両手を腰に当てて仁王立ちしていた。長い黒髪の内側で両の瞳がしっかりと日向を見上げている。


「初霜か…、急に大声を出すんじゃない」


「急ではありませぬ。この初霜、ずっと日向様の御傍についておりました」


 初霜が握り拳を作りながら声を張り上げた。どうやら考え事に夢中で気づかなかったらしい。


「そうか…。で、何か用か」


 そう声をかけて再び歩き出す。初霜はまるで日向の従者の如く、彼女にぴったりとついて歩いた。


「はっ、提督がお呼びです」


「提督が?今更私に何の用か、さては私もついに解体に名が挙がったか」


「日向様!そのような事を言ってはなりませぬ。提督は日向様に大層期待を寄せておられます!」


「ならいいがね」


 そっけなく答える日向に、並び歩く初霜は眉を「へ」の字に曲げて、頬を膨らませた。


 提督の司令室はこの棟の三階にある。

正面扉に背を向け階段方面へ足を歩を進めると、日向は突然キュッと靴の先を鳴らして立ち止まった。

 先導していた初霜は、その音を聞いて不思議そうに日向を振り返る。前方に視線を戻す前に、背中にどんと強い衝撃がぶつかった。

 倒れ込む初霜に日向が手を伸ばす前に、ぶつかった少女が二人の間に割り込む様に立ちはだかった。


「ご機嫌よう、日向さん」


 絡みつくような声に、うんざりとした様子で日向は返した。


「榛名か…」


 日向と向かい合った戦艦「榛名」は、先ほど出撃を見送った「金剛型」の3番艦である。

 金剛と同じ白装束に、袴の様な赤いスカートを履いている。麗しい黒髪をなびかせる少女は、艶やかな髪をかき上げながら、まるで可哀そうな物でも見る様な目で日向をねめつけた。


「「榛名か」は無いでしょう?私(わたくし)達午後の演習相手ですのよ」


 露骨に視線を揃えてくる榛名を、日向は真っ向から相手しようとはしなかった。その顔を一瞥し、足元の初霜を心配そうに見つめた。

 榛名の顔を見ることなく、気が抜けたような声で呟く。


「お手柔らかにな」


 自分の目を見ようともしない日向の様子に、榛名は真意を推し図るかの様に訝しげに目を細める。しかし興味を無くしたのか、ため息をつきながらも身を翻し日向に道を譲った。


 日向が初霜に手を伸ばす。その一瞬、屈んだ耳元に榛名が口を寄せた。


「鉄クズにはせいぜい私の「的」役がお似合いですわ」


 日向の眉間にすぐさま血管の筋が浮かび上がる。榛名はそれを見て口の端をいやらしく吊り上げた。


「あらあら、私ったらはしたない。それでは御機嫌よう日向さん」


 言ってひらひらと手を振りながら榛名は踵を返した。


「日向様…?」


 初霜の不安げな声が響く。日向はその手を強く握って、精一杯微笑みかけた。


「立てるか?」


「はい、少し足をくじいただけです」


 日向の手を取って立ち上がる。榛名は結局一度も初霜を気にかける事は無かった。


「日向様、私あの方は好きませぬ」


「そのような事を言うものじゃない。同じ鎮守府(いえ)の仲間同士だ」


 握られた手に力がこもる。「痛い」と声に出す事は、今の初霜には憚られた。







「じゃあ、行って来る」


 司令室の前で日向は足元の初霜に言った。視線を下ろすと、ちょうど自分を見上げている彼女と目が合った。


「初霜もお供いたします」


「お前は関係無いだろう」


「初霜は日向様の盾でございます」


「話し合いに盾は必要ないだろう」


 そう言われて初霜は「ふむ」と顎に手を当てる。数秒の思考の後、大真面目な顔で答えた。


「精神的ダメージがあるかもしれませぬので」


 それを受け、今度は日向が考える。


「守ってくれるのか…」


 日向は一つ息をついて扉に手を掛けた。


「心強いな」


 まるで台本があるかのようなやり取りだが、二人は至って真剣であった。




「入るぞ」


 ノックも早々に扉を潜る日向の後を追うようにして、初霜も慌てて部屋に足を踏み入れた。とたんに香ばしいコーヒーの香りに包まれる。

司令室の中は美しい調度品に囲まれた、まるで豪華な洋館の一室のような空間であった。


 アンティーク・テーブルに専用にあつらえたソファー。海を見渡せる大窓は、冊子部が小さなカウンターのように突き出している。職務用の机はピカピカに磨かれ、今は書類の束の代わりに小さなコーヒーメーカーがぽこぽこと可愛らしい音を立てていた。


 机の前に立っていた長身の男性が、音に気が付いて振り返る。赤み掛かった髪に、肩ごしに視線を向けられる。

 

「いらっしゃい」


 提督は手にコーヒーカップを持ったまま振り返った。両手にソーサーを持ち、まるで着崩した学生服のように軍服を肩から羽織っている。軍服の下は黒のタンクトップで、筋肉質な体を覆い隠している。


「お、おてつだいします」


 初霜が駆けて行ってコーヒーを受け取る。

 提督はわずかに目尻を下げると、切れ長の目で薄く笑った。


「サンキュー、初霜」


 無意識に初霜の頬が朱に染まる。


(こんなにカッコよくっちゃあ、少しくらい動揺しちゃうのも仕方が無いよね)


 初霜はコーヒーを机に運ぶと、提督の椅子を引いて自分もその向かいに腰を下ろした。初霜の隣には日向が座る。提督は一口だけカップに口をつけ、ゆっくりソーサーをテーブルに置いた。


 並んで座る二人を見つめて、提督は面白そうに口を開いた。


「あんた達ホントに仲良いわねぇ」


 しゃなりと、指の先が形のいい顎に触れた。男とは思えない細く繊細な指の先は、ピンクのネイルにコーティングされピカピカと輝いている。


(オネェじゃなければなぁ…)


 初霜は、はあとため息が漏れそうになるのをコーヒーの苦みで何とかごまかした。日向は流石に見慣れているのか、涼しい顔でミルクをかき混ぜている。


「まあいいわ。日向、最近の調子はどう?」


 提督がシュガーポットを取り出しながら聞いた、中から色とりどりの角砂糖を取り出し、軍服から引っ張り出したレースのハンカチの上に等間隔で並べ始める。


「知ってるだろう、風呂焚きに掃除にと引っ張りダコだ」


 日向が砂糖を一つつまみあげてコーヒーに落とす。一口つけて、再度別の砂糖に手を伸ばした。


「それは結構。ならもう一度戦場に出る必要はなさそうね?」


 砂糖の色を選んでいた日向の指がピタリと停止する。


「今更こんな旧式に何の用だ、浮き砲台か何かか?」


 皮肉ではない。本心からの疑問であった。

 提督もそれを知っての事か、苦い顔ひとつしない。代わりに、口をつけたカップに広がる波紋を、長い時間かけてじっくりと眺めた。


「金剛ちゃんの事はご存じ?」


 知らない訳は無い。

 英国かぶれの高速戦艦姉妹の1番艦。

 鎮守府の最強の一柱にして、艦隊のエースオブエース。

 最新型戦艦の……あ。


「近代化改修、か?」


 近代化改装とは一定練度以上の艦娘が特定の設備により「肉体」と「艤装」を強化する改造処理の事である。「限定改造処理」とも呼ばれ、艦娘の専門を細分化し、より限定的に調整する事で稼働能力の最大値を大幅に上昇させる作業だという。


「イエース。ただね、女の子にはちょっと負担が大きいかもと思ってるのよ、アタシはね」


「金剛型が高速戦艦になったような?」


 提督は大きく頷いた。


「大がかりな作業(手術)になるわ。多分だけど、元の体に戻る事も出来ない」


「ほほう私の次は何だ?宇宙戦艦か?」


 日向は流星の合間を縫って航行する自分の姿を想像し「悪くない」と小さく頷いた。しかし、日向の冗談にも提督は眉一つ動かす事なく、机の一点を見つめている。


 提督は一瞬目を伏せ、次の瞬間まっすぐに前を、日向を見据えた。


「航空戦艦って知ってるかしら?」


 黒い水面が、動揺したようにゆらりと揺れた。




【第2章】てんさいと ちくわ




「航空戦艦…だと」


 日向の呟きを受け、提督は大きく頷いた。コーヒーカップをソーサーに置き、机の上に両肘をついて組んだ指の上に顎を乗せた。


「そ、戦艦の装甲と火力、空母の制圧力を兼ね備えた新時代の軍艦ってわけ」


 日向もぐっと肩を突き出して提督に顔を突きつける。お互いの息が吹きかかるような距離で、視線を合わせ睨み合った。


「私に空母の真似事をしろと」


「実際に航空戦も賄ってもらうわ」


 提督がにっこりとほほ笑んで顔を離した。足を抱えながらソファーによりかかり、ソファーの横のサイドテーブルに手を伸ばす。手に取った紙を日向の方へ指で弾いた。日向はふわふわと漂うそれを、器用に空中でキャッチした。

 

 受け取った方眼紙には戦艦の全容の俯瞰のスケッチが描かれていた。描かれている艦は、戦艦の船体後部に大きな五角形の甲板が貼り付けられている。


「以前事故を起こした5番6番主砲を取っ払って、そこに飛行甲板と新型のカタパルトを搭載する。艦載機を収容するスペースが必要だから副砲も削って場所を作る事になるわ」


「火力を下げるのか?」


 日向の顔が露骨に曇る。提督は小さくため息をついた。手のひらを天井に向け、肩をすくめた。


「多少のパワーダウンは仕方ないわね。そのかわり航空隊の編成と対空砲撃の強化を行う」


「発艦はいい、だがこんな小さな滑走路では着艦はできまい。そこはどうする?」


 それに今度は提督が顔をしかめる番だった。日向から視線を外し、顎を触って口元を隠した。


「…それはおいおい」


「話にならんな」


 受け取った設計図を、日向は受け取った時と同じように指先で弾いて返した。提督はそれを受け取らず、紙は風に乗ってゆっくりと床の上に落ちた。


「解体はしないが実験台になれという事か」


 苛立ちを含む日向の声、提督は気にする事も無く再度コーヒーのカップに手を伸ばした。


「戦艦の新時代の為よ。テストは必要と思っているわ」


「ならせめて私を納得させる口説き文句を考えてから出直すんだな」


 腰を上げる日向を提督は黙って見送った。コーヒーカップに口をつけたまま、おたおたと動揺する初霜に目で促す。


「ご、ご馳走様でした!」

 

 扉の閉まる音を聞きながら、提督は角砂糖を一つかじった。





 昼過ぎの食堂。

 艦娘(ふね)もまばらになったホールの中心で、日向は柱を囲む様に組まれたベンチに腰かけていた。

 天井から吊り下げられたテレビモニターでは現在出撃中の艦隊の様子が映し出されている。映像はビデオカメラを積んだ特別飛行艇から送信されていて、金剛が砲撃を繰り返す姿が数カットに分割され映し出される。敵艦が煙を上げて体勢を崩すと、テレビの前に陣取っている駆逐艦達がワッと沸いた。


 日向はその様子を只ぼんやりと眺め、体を広げて大きく伸びをした。後頭部を柱にこすり付けると、見覚えのある黒髪がさらりと顔に掛かった。


 頭頂部を柱に預け天井を向く日向を、ベンチの上に立った初霜が覗き込んでいた。


「伊良湖さんが今日はもうあがって良いとの事です」


「そうか」


 日向は垂れ下がる髪を手で払い、肩を手で押さえながら立ち上がった。両の肩を回しながら、ぐりぐりと首をひねる。


「まさかお前がウェイトレスをしているとはな」


「申し訳ございません、お付き合いさせてしまって」


 初霜がエプロンを外しながら頭を下げる。日向は目を細めて、その頭をぐりぐりと撫でまわした。


「いいんだ、私も仕事が欲しい」


「伊良湖さんがまかないを用意してくださるそうです」


「そりゃあいい」


 日向と初霜は揃ってカウンターに向かった。そこではエプロン姿の給糧艦がせっせと洗い物を片付けている。


「手伝おうか?」


 声をかけると、カウンターの中で結わいたポニーテールが小さく跳ねた。


 給糧艦「伊良湖」は日向の姿を見つけると、濡れた手をエプロンで拭いながら小走り駆けてきた。カウンターを挟んで、小柄の少女が柔らかく微笑みかけてくる。


「お疲れ様です、日向さん。初霜ちゃんも」


「お疲れ」


「お疲れ様です」


 日向がカウンターに肘を乗せて身を乗り出す。小さな伊良湖を見下ろす様に上から声をかけた。


「私たちも、そちらに回ろうか?」


 奥の流し台にはまだ多くの食器が積んである様に見える。日向の指指す方を振り返ると、伊良湖はいやいやと両手を横に振った。


「いいんです、お昼のピークも過ぎていますから。それよりお二人も何か食べて行ってください」


 そう言ってメニューを差し出す。しかし、二人ともメニューには目を落とさずそろって声を上げた。


「カレー」


「カレーひとつ!」


 重なった声を聞いて、思わずお互いを見返す。


「ごめんなさい、お昼のカレーはもう一食分しか残っていなくて」


 見つめあう二人に、伊良湖は申し訳なさそうに告げた。


「では…」


「じゃあ私はうどんにしよう」


 言うより先に、日向はハシを取ってカウンターを後にした。取り残された初霜は伊良湖と日向の背中を交互に見回し、伊良湖に一礼すると遠ざかる背中を追いかけた。



 テーブルにつくと、吊り下げられたテレビから大きな爆発音が響き、二人ともそちらに目を向けた。画面の中の巡洋艦「五十鈴」が背負った艤装から爆雷をバラ撒いていた。

 海中にて展開した爆雷が炸裂する。くぐもった爆発音と共に立ち上った泡がぼこぼこと海面を揺らした。


「不毛な話題かもしれませんが、軽巡洋艦最強は五十鈴さんかもしれませんね」


「天才だからな」


 答えながら日向は汲んできた水に口をつけた。

 

 長良型二番艦「五十鈴」。彼女は巡洋艦きっての天才と鎮守府内でその名を轟かせていた。

 着任当日より高い対潜能力で注目され、1週間で1番艦「長良」を抑え主艦隊入りを果たす。得意な対潜攻撃はもちろん、砲撃、雷撃にも隙が無く、艦載機運用能力を捨ててなお索敵に優れるなどまさに「天才」の名を欲しいままにしてきた。

 巡洋艦の中でも軽級の者は鎮守府中でも層が薄く、誰も彼女を追随できるものはいないのが現状だった。


「おまちどうさま」


 しばらく画面の中で揺れるツインテールを眺めていると、伊良湖が注文の料理を持ってやってきた。両手にトレイを掲げて、腰をかがめてテーブルに並べる。やってきたうどんのどんぶりを、日向はじっと見つめた。


「それはサービスです」


 日向の視線の先、二人の料理の上には、きつね色に揚がったちくわがどんと自らを主張していた。

日向はいい、どんぶりの真ん中に巨大な磯辺揚げが浮かんでいる。程よくうどんの汁を吸って、サクサクの衣から立ち上る油の匂いが食欲をそそる。

 しかし、初霜はどうか。山盛りのカレーライスの上に、一本のちくわが絶妙なバランスで乗っかっている。できの悪い島風カレーのようなその風貌に、日向は眉をひそめた。

 初霜の顔を覗き見る。彼女は以外にも目をキラキラと輝かせていた。


「おいしそうっ!」


「そうかな?」


 日向の呟きには気づかず、伊良湖は「ごゆっくり」とテーブルを後にした。

 初霜は手を合わせると、スプーンで器用にちくわを一口サイズに切って、カレーと共に口に運んだ。

 日向もちくわの端を汁に浸して、その先端にかぶりついた。サクサクの衣とふわふわ弾力のあるちくわが、絶妙に口の中で混ざり合う。どんぶりを持ち上げて汁をすすると、口の中の脂っぽさを押し流して、濃い出汁の味がしっかりと口内に広がった。


 顔を上げると、初霜がスプーンを持ったまま、思いつめた様に日向を見つめていた。不思議に思い、日向は正面から初霜に向き合う。日向がどんぶりを置いたのを確認すると、初霜が口を開いた。


「日向様は、これでよろしかったんですか?」


「ん?ああ、いいんだ。カレーを食べねば死ぬ訳でもなし」


「いえ、そうではなく」


 初霜がスプーンを置く。


「近代化改装の件です」


 日向はその言葉を聞くと、「くだらない」とでも言いたげに再びどんぶりと向き合った。テーブルの端の木箱からプラスチックのれんげを取り出し、汁の中に差し入れた。


「お前も話を聞いていただろう、あんな行き当たりばったりな計画に艦生賭けられるか」


 れんげの中にできた汁の水面に自分の顔が浮かぶ。琥珀色をした自分の顔は、達観し諦めた様に小さく笑っていた。


「しかし、提督の事ですから何の算段も無いとは思いませぬ」


「さてね、設計上の欠陥を直接本人に説明したり、テスト等と言う言葉選びを見ても、あの男は私に「断わる」と言って欲しいようにしか聞こえなかったがな」


 それを聞いて初霜は首をかしげた。


「どういう意味です?」


「それこそ私が知る由も無い」


 日向が興味無さそうにうどんをすする。初霜もそれ以上言及するような事はせず、再び巨大なちくわと向かい合った。





 時刻一五〇〇時。

 ガラガラと鎮守府の時鐘が響く中、演習場に二つの艦隊が入ってきた。事前に水に足をつけていた日向は、自陣とは反対側のゲートをくぐってくる戦艦とゆっくりと目線を交わし合った。

榛名は日向に視線を返すと、単艦で海上を滑り日向の目の前までやって来た。


「宜しくお願い致しますね」


「ああ、宜しく」


 短いあいさつを交わして、日向が先に拳を突き出した。榛名もそれに合わせ、右の拳をぶつける。

 ガツンとお互いの拳骨が衝突し、反動で二人の体が後方に流れた。そのまま背中合わせに主機を入れ、お互いの艦隊に向き直る。


 ルールは4対4の砲雷撃戦。

 砲雷撃戦演習は、その名の通り通常の砲雷撃戦を想定した演習である。両者事前に申請した船数で艦隊を組み、合図に合わせて攻撃を始める。開幕雷撃は無し、前段航空戦も無し、さらに奇襲戦を想定している為、索敵機の発艦時間すら用意されていない。着弾観測射撃を行う際は、戦闘中に隙を見て艦載機を発艦させる必要があった。

 

「やるぞ」


「やりますよ」


 二人の掛け声に、隊のメンバーは一同強く頷く。

 判定員の声が演習場全体に響き渡った。


「これより砲雷撃戦演習を行う!」


 艦隊がゆっくりと海上を航行(はし)り始める。二つの艦隊は、お互い単縦陣のまま平行に航行を続ける。

 先頭の榛名がぐっと日向に距離を詰めた。お互いの瞳が覗き込めるような近距離で睨み合う。榛名が挑発するように艤装をぶつけてくる、日向の鋭い視線に榛名は楽しそうに目を細めた。


「解体してあげますよ、ガラクタさん」


 金属がこすれ合う甲高い音が響く。日向の拳が榛名の装甲に打ち付けられていた。榛名は薄気味悪い笑みを崩さぬまま、反動に従って距離を取る。平行に並んだ互いの艦隊が、先頭から二つに分かれた。


「演習はじめっ!」


 火蓋は切って落とされた。




【第3章】はるなと たて




「「同行戦っ!」」


 演習開始直後、二人の戦艦の声がそろって響いた。共鳴する怒声が、周囲の海面を震わせ、波を荒らす。反響し増幅されたその声の音圧に、後続の艦はびりびりと身を震わせた。

 がこんと主砲の射角が調整される。四門の35.6cm砲が空高く掲げられ、お互いを照準の真ん中に捉えた。


「「目標っ!」」


 両者高らかに謳う。


「金剛型戦艦!」


「伊勢型戦艦!」


 お互いに速度を落とさずに、ぎりぎりまで的を絞る。加速が最大まで達した時に、両者弾かれた様に声を張り上げた。

 

「「撃てええええっ!」」


 重なった爆発音が、風圧の様な音撃となって艦隊の間を駆け抜ける。迫り来る風の音を「超える」と、一瞬の無音の後に頭上より打ち上げ花火のような高い笛の音が聞こえてくる。徐々に増大する風切り音が艦隊の真横に突き刺さり、巨大な水柱となって降り注いだ。


「きゃああああああっ!」


「落ち着け!至近弾だ、隊列崩すな!」

 

 大きく海面が震え、それに翻弄されるかのように隊列が崩れる。

 うろたえる艦隊をあざ笑うかのように、二機の零式偵察機が、水柱をよけて頭上を通過していった。およそ100mほど飛んだ後、日の丸を翻し反転して帰ってくる。


「速い!!川内か!」


 戦艦同士の撃ち合いに乗じて発艦したのだ。攻撃機でこそないものの、今の砲撃の着弾位置は確実に測定されただろう。


 次は当ててくる。日向は唇の裏に舌をこすりつけた。


「初霜は対空を重視、敵艦載機を迎撃せよ。江風は初霜に付いて雷撃準備、敵の魚雷の警戒を怠るな。名取は私と砲撃だ。駆逐艦は任せたぞ!」


 矢継ぎ早に指示を飛ばす日向を遠くに見て、対する榛名は軽く舌を撃った。

 

「外しましたか…」


 榛名は一旦速度を落とし、自分の砲弾の行く末を見守っていた。

 日向の放った徹甲弾は、砲の角度から測定して大きく着弾位置がそれると予想できていたので、目立った回避行動はとらずに川内に偵察機を飛ばさせたのだった。


「川内は引き続き偵察機を飛ばし続けて。涼風さんと野分さんは私の指示に合わせて雷撃位置についてください」


 榛名の指示を受けて、部隊は各々の装備の確認をする。川内は次の零戦をカタパルトに誘導し、涼風と野分はお互いの魚雷発射管の位置を点検し合っている。


 軽巡洋艦「川内」の無線に声が飛び込んだのは、次発の零戦がカタパルトに収容された瞬間の事だった。聞こえてくるハキハキとした喋り方は、駆逐艦の「涼風」である。


「榛名さんはどうしてあんなに相手の御大将を目の仇にしてるんで?」


 当然とすら言える素直な疑問に、後続の駆逐艦「野分」も回線に割り込んでくる。


「たしかに榛名さんは悪趣味で陰険、へそもつむじも曲がってて、いいとこと言えば顔くらいなもんですが、あの人に対する執着は異常です」


 容赦や空気を読む事を知らぬ駆逐艦の追及に、回線の主である川内は頬を引っ掻きながら答えた。


「それ聞いちゃうかね?あのね、あっちの日向っていう戦艦。あれ榛名さんのお姉さんの金剛さんの…」


「ちょっと、カワウチ!艦載機が落とされてるわよ!サボってないで、手ぇ動かしなさい!」


 榛名のヒステリックな声が回線に割り込んでくる。榛名は普段個人の回線を閉じているので、先ほどまでの会話は聞かれていないはずだ。


「あー、またあとで」


 川内は強制的に会話を打ち切ると、右肩に取り付けられたカタパルトをぐいと体の内側に引き寄せた。左手で右手首をしっかりと固定し、エルボーの様に肘の先を敵の進行方向に向ける。発艦の衝撃に備え、薄く目を瞑ったが、射出方向である敵艦隊の動きを目で追うと、閉じかけた目を勢いよく見開いた。


「榛名さんっ!」


「わかってる!涼風、野分!雷撃準備!」


 榛名が足を止めたスキをついて、日向達は舵を大きく左に切っていた。同行戦の撃ち合いの後に大きく榛名達を引き離すと、取り舵を切って前方から榛名の艦隊に向かい合うように迫って来ていた。


「舵を切る一瞬、T字戦になりますよ!こちらが不利です!」


(馬鹿川内!日向(アイツ)の最大射角じゃ、ここへは届かないわよ。しかし…)


「榛名さん、艦載機!」


 上空をみやると、日の丸を携えた観測機が隊を組んでぐんぐんと距離を縮めてきていた。全部で4機。榛名の艦隊の上空を通過すると、2-2の部隊に分かれて引き返していく。


 日向は長期戦が不利だと踏んだか、この一合のカチ合いで決めるつもりだ。


「反抗戦に入ります!涼風野分はすれ違いざまに雷撃をぶち込んで!目標敵旗艦、伊勢型日向!」





 日向は艦載機を飛ばすと、すぐさま無線を飛ばした。


「反抗戦来るぞ!名取、水平射用意!目標駆逐艦!同距離にて水雷戦を妨害せよ」


「りょ、了解」


 軽巡洋艦「名取」がうわずった声で答える。構えた主砲は本人の心意気に反して、ガコンと重々しい返事を返した。後ろでやや距離を取って航行する駆逐艦の「江風」が、名取を押しのけるように回線に割り込んでくる。


「旦那!江風達は!?」


「駆逐艦(お前たち)は温存だ、先ずは榛名たちを消耗させる。長期戦に持ち込むぞ。反抗戦後、一斉回頭して追撃戦に入る。進行ルートをふさぐ様に雷撃だ」


「こ、攻撃艦は私だけですか!?」


 喉をひきつらせた様な名取の声。日向はそれを聞き、思わず腰を折って笑いをこらえてしまった。

 だが、名取の不安も当然だ。日向の積む35.6cm砲はその巨大さ故、近距離での水平射撃ができない。そんな事をすれば反動で砲そのものが自壊してしまう。反抗戦の短いすれ違いで戦艦が機能するとすれば、近距離で他艦の盾になる事くらいだと思っているのだろう。

 日向は小さく背後を振り返り、不安げに見上げる名取を一瞥して口の端を上げて笑った。


「攻撃はお前と「私」だ」


 日向は主砲を折り畳み、腰に差した刀に手を添えた。金属の鵐目(しとどめ)に指を乗せ、とんとんと指先でたたく。そのまま片手で鍔をはじくと、右手で柄を握り一気に抜き放った。

 ざらりと刀が鳴く。水平に風を裂き、真横に構える。剥き出しの刀身に紫電が揺らめき、濡れた刃が妖しく光った。

 伊勢型「八式艦刀」。深海棲艦殲滅兵器として鍛えられた、正真正銘の「斬艦刀」である。


 約20人の鍛冶師に打ち鍛えられ、専用のトラックで運搬するこの特二大刀を振り回せるのは、艦娘多しと言えども伊勢型を置いてそうはいない。もともとは飾り刀として用意した特一大軍刀を、とある艦娘が戦場で振り回した事から生まれたとされる「深海棲艦殲滅兵装」の一つである。


 深海棲艦殲滅兵装、通称「深滅兵装(しんめつへいそう)」は艦娘が用いる近接兵器の総称として定義されている。しかし砲撃艤装と違い、攻撃性能が艦娘本人の技量に大きく依存している事、近距離での殴り合いを前提として作られている為に艦隊運動とは相性が悪い、などの点から愛用している艦娘はごく僅かだ。


 その為伊勢型の艦刀は深滅兵装第一号として実装されたものだが、他艦への普及率は決して高くは無い。それは最新型の金剛型しかり、である。


 日向はそれを軽々と扱い、左手に持ち替えた刀を肩に担ぐように構えた。


「ぶつかるなよ」


刃越しに背後を振り返ると、後続の名取がちょうど半身を引いたところだった。こういう所も、艦隊運動には向いていないと言える。


「全艦、梯形陣をとれ!」


 日向を先頭として、後続の艦が半身づつ位置をずらす。榛名の隊と向かい合い、全艦の射線が一本に通った。

 距離は5000。日向は深く刀の柄を握り直した。後続の艦が息を飲むのが聞こえる。


「うまくやり過ごして敵の背後を取るのが目的だ。肩に力を入れ過ぎるなよ、チビッコども」


 日向の内線を受けて、航行する二人の駆逐艦が声を張り上げた。


「がってンだぜ、旦那!轟沈(お)ちやしないから、安心しろやい!」


「日向様、くれぐれもお気を付け下さい」


 最後尾を航行する初霜が、日向の個人回線にそれだけ呟いて回線を閉じた。小さく頷いて、正面へ向き直る。距離3000、前方から火の手が上がった。


「戦艦榛名、砲撃確認!」


 偵察機からの報告を受け、日向は顎を上げた。黒々とした火の玉が高速で上空に飛翔していく。高さ、距離、そして何より梯形陣の先頭を狙い撃つ角度調整は、完全に日向を狙って撃ったものであった。日向は隊をふりきり、先行して一杯まで加速した。後方で水が叩き付けられる音が響く。日向はそれを無視して、急加速を続けた。距離1000。ふてぶてしく笑う榛名の顔が見えてくる。互いの視線がぶつかり合うと、榛名も単艦で主機を限界まで回した。まるで引かれ合う様に、両者は急速に肉薄した。


「榛名、覚悟!」

「目障りだよ、旧式!」


 両者が衝突する直前、日向が左肩を軸にして右手で大きく刀を振り下ろした。両腕の筋肉が何倍にも膨れ上がり、爆発的なタメを作り出す。左手で峯を押すように支え、思い切り叩きつけた。水面にぶつかる剣圧に、噴水の様な水柱が辺り一帯を覆い隠した。

 榛名は肩の装甲でそれを受けるが、正面の壁の第一層は見事にまっぷたつにされ、二枚の鉄板が音を立てて海中に没した。


 その様な壮絶な有様の中でも、ガッチリと噛み合ったお互いの視線は1ミリも外れる事は無い。水柱の内側から現れた日向の研ぎ澄まされた眼光は、榛名に襲い来る次の危機を察知させるには十分すぎる圧を携えていた。

 切り落とされた装甲をかばいつつ、強引に上半身をそらして後退する。榛名が顎を引いたのと、再度水柱が上がるのがほぼ同時だった。


 轟音を伴い、榛名の眼前を剣先が通過する。水面に叩きつけた刃を反転させてV字に切り上げたのだ。

 冷たい刀身が頬を撫でる。弾かれたように右に身をそらし、そのまま日向の脇を抜けてその背後に離脱した。二人とも瞬時に回頭し、再度対峙する。この間、僅か2秒半の出来事である。


 日向が刀を構え直す。右手で持った刀を再び左の肩の上へ、しかし今度は刃を肩と水平に揃え、峰をえぐる様に強く首に押し付けた。


 対する榛名はと言うと、自らの頭部を押さえ、わなわなと腕を震わせている。その顔は、怒りと憎悪でおぞましく変貌している。


「は、榛名の、電探をおおおっ!」


 切り落とされた電探が海中に沈んでいく。対峙してから一度も切られることのなかったその視線が、この一瞬だけ海中の一点に注がれていた。


「もらった!」


 首を狙った横凪ぎ。刃が首筋に触れるその瞬間まで、榛名の視線が日向に戻る事はなかった。


 鮮血がほとばしる。榛名の首に食い込んだ刃。そして刀身を「掴む」二本の腕。この三点で「止められた」刀は、日向がどれだけ力をいれようとそれ以上刃を進める事はなかった。


「榛名、貴様!」


 バシャバシャと海面が血に染まっていく。刀をつかんだ腕はズタズタに引き裂かれ、痛みと緊張でぶるぶると震えている。それでも榛名の視線は日向に向くことはない。まるで興味を無くしてしまったオモチャのように、ずっとその「背後」を見つめていた。

 日向がその事実に気づいた時全ては手遅れであった。自分が榛名と再対峙した時、彼女の本隊に背を向ける形にあった事、まんまとこの形に誘い込まれ、今榛名に行動を制限されてしまっていること。


 榛名が日向の胴着の襟を掴んで、ぐいと体を密着させてきた。耳元で小さく囁く。


「動いてはダメですよ」


ぞわりと身が凍る。

まるで相手を気遣うようなその言葉。彼女の声に慈悲と優しさが混ざる時は、死んでいく者への憐れみと優越感があるからにほかならない。


「各発射管一番、二番、発射っ」

「3本」

「4本!」


 背後から声。魚雷か!


 刀を引き、切っ先を榛名の腹に向けるが、堅い装甲に阻まれて逆に脇でしっかりと刃を封じられてしまう。


「じゃれんなよ鉄クズ、お望み通り解体の時間だぜ」


 雷跡が迫る。もう、間に合わない!


 日向の背後で立て続けに爆発音が響いた。炸裂の衝撃と、つんざく爆音、荒れる波に揺られて、あらゆる方向感覚を狂わされる。

 魚雷が全て水柱に変わったあと、その合間から自らを主張するように火柱が高く上がった。


 榛名は日向の襟を固くつかんだまま、小さく身をかがめて爆発に耐えていた。日向の体が崩れ落ちた瞬間、彼女を捨てて隊の旗艦に戻る。


 その予定だった。


 突如、榛名の両腕を日向が強く握り返した。驚愕に顔をあげる前に、ボディに渾身の前蹴りが叩き込まれる。

榛名がよろけた際に海面に落ちた刀には目もくれず、日向は黒煙が上がる自分の背後を振り返った。


「初霜ぉ!」


 そこには火柱の中にうずくまる、小柄な少女の姿があった。





【第四章】くちぶえ ぴゅーぴゅー





「初霜っ!」


 日向はすぐさま初霜の襟首を掴んで、その場を離脱した。指先が火に炙られるのも構わず、限界一杯まで加速する。主機が重苦しく唸りを上げ、足元の水を跳ね上げた。

 

「逃がすかっ!」


 うずくまった榛名が素早く肩の主砲を稼働させる。危険な近距離での水平射であったが、日向の背中を射抜くような眼光に躊躇は微塵も感じられなかった。見開いた右の瞳の中に、照準の十字が浮かび上がる。緊急射撃用の照準器は本来副砲を撃つ為に使用されるものだが、同じ演算装置を使用している為、専用に弾道計算をしてやれば戦艦クラスの主砲にもほぼ流用可能であった。

 ブレが誤差の範囲に収まるまでじっくり呼吸を整える。指の震えをトリガーで抑え込んで、手のひらでじっとりと湿った汗を拭いとった。深く吸って息を止め、指に再度力を込めた瞬間、照準の円の中に黒い影が飛び込んできた。


「日向さんっ!」


「くそっ!」


 舌打ちして、顔を上げる。軽巡洋艦「名取」が腰だめに構えた主砲を榛名に向けていた。頭につけたカチューシャが、太陽を反射して眩しく光っている。日向への射線をふさぐ様に、榛名の前に身を呈して立ちふさがった。


「旦那ぁ!」


 その後方で声を上げるのは、最後尾を航行していた江風だ。高速で波を切り、日向と初霜に接近する。アイコンタクトを交わしつつ日向と交差し、微量の距離を取って停止した。日向も主機を止めてその背中を振り返る。その背中は、迫り来る榛名の分隊をじっと見つめていた。


「撃つぜ!温存は次に「お預け」だ!」


 言うや否や、両足に固定した魚雷管を両手でぐるりと一回転させる。膝を曲げて乱暴に射線を固定すると、通過する隊列の横っ腹にむけて4本の魚雷を投下した。

 伸びる雷跡とすれ違うように、隊の進行が大きく逸れた。体勢を立て直した榛名が、離れていく艦隊の最後尾に曳航されていくのが見える。


「初霜っ!」


 日向は眼前の危機が去ったのを確認すると、艤装の腰の部分から棒状の消火剤を取り出した。細長い棒の先端のキャップをひねり、溢れ出した消火剤を初霜の缶に吹きかける。高く上っていた火柱が、たちまち小さな燻りとなって勢いを無くしていく。完全に火が消えると、黒く煤けた缶の間から、弱々しい笑みが日向に向けられた。


「まったく、お前はいつも無茶をする。いや…」


 日向はほっと息をつくと、初霜の手を取って立ち上がらせた。


「感謝しなくてはな」


「初霜さん!」


 波を蹴って名取と江風が合流する。二人とも慣れない緊張の連続に、額にびっしりと汗をかいていた。


「急に速度を上げるのでびっくりしました」


 名取が青い顔をして駆けてくる。初霜の手を取って、思ったより損傷が大きくないのを確認すると、大きくため息をつきながら、小さく笑った。


「申し訳ございません、ご心配おかけ致しました」


 初霜が全員を見回して頭を下げた。ぺこりと腰を折ると、背負った缶からもうもうと黒煙が上がる。中破と大破の境目と言った所か。その表情からは読み取れないが、相当無理を推しているのは間違いない。


「日向様、いかが致しますか?」


 思考を巡らせていた所に、初霜の声が割り込んでくる。視線を下げると、気後れするほどのまっすぐな瞳が自分に向けられていた。

 日向は初霜の期待に押されるように、すぐさま頭の中の考えを整理していった。


「予定通り追撃戦に入る。敵部隊の背後に付き、安全を確保しながら徐々に消耗させる」


 日向の力強き言葉を受け、見つめ合った全員が大きく頷く。その言葉の内に潜む不安と、押し寄せる疲弊を感じ取れる者は、この時隊の中には誰もいなかった。




 演習開始より30分が経過しようとしていた頃、日向達一行は単縦陣を組んで榛名達の艦隊へ追撃戦を仕掛けていた。日向、名取、江風の順で、最後尾の江風が負傷した初霜を牽引して曳航している形だ。榛名の艦影を遠目に確認しながら、日向は現在の時刻を確認した。


「速いな…」


 もう榛名の艦隊を追いかけて五分以上が経過している。しかし、その姿は近づいて来るどころか、どんどん離れていっている様にすら感じる。傷ついた初霜を引っ張っているせいもあるが、何より戦艦と「高速」戦艦のスペック差が、大きく互いの距離を生み出している言わざるを得なかった。


 金剛型の速度は平均30ノット、比べて伊勢型の最高速度は25ノット。時速換算で10km近い速度差がある事になる。その速さを同方向の航行で埋めるのは至難の業ではなかった。追撃戦と銘打っているものの、互いの艦隊の距離が離れすぎていた。もし一斉回頭(斉Z)されれば、一気に不利な反抗戦に持ち込まれる可能性がある。しかし、幸運な事に敵部隊からはそう言った攻撃の気配は感じられない。前方を駆ける列の間から飛び立つ艦載機に、日向は目を細めた。




 昇って行く零戦を見送った後、川内は自分の前方で艦隊を先導する麗しき戦艦様に視線を向けた。普段は戦場においても優雅さを損なわない金剛型(彼女達)であるが、今日ばかりはそうも行かぬ様子で、大血を垂れ流す自らの手のひらを、榛名は忌々しげに見つめていた。


「大丈夫ですか?」


 川内の声を無視して、榛名は返す。


「艦載機の様子はどうですか?」


 榛名の突然の問いかけに、川内はあわてて上空を見上げた。渦を巻くように旋回する艦載機たち。その中の一機が、ひときわ大きく雲を沸き立たせた。


「予定数には足りませんが、大方想定通りかと」


 川内が再び顔を榛名に向けると、彼女も先ほどまでの川内と同じように大きく顎を上げて上空を見上げていた。航行の速度が先ほどまでに比べ、だいぶ遅くなっている。とろとろとした足取りを受け、「今日はよく止まるな」と川内はどうでもいい事を考えた。


「頃合いですね」


 飛び回る艦載機を目で追いながら、榛名がひとりごちる。


 日向に対して当てが外れたのは確かだ、奴はこちらの消耗を狙って長期戦に持ち込んできている。しかもその「読み」は大方当たっていると言えるだろう。露骨な消耗戦に持ち込まれれば、攻撃艦の少ないこちらは「もろい」。だが、無駄撃ちによる消耗だけを狙った長期戦なら、それは「そちら」の失策だ。


「勝ったぞ…日向!」


 自分の横で川内がカタパルトを撃ち放つ。

 上空を旋回する偵察機。その数はゆうに20を超えていた。




 日向は頭上に展開されている「陣」に圧倒されていた。上空を飛び回る偵察機の大群。対空射撃にて数を減らせども、その勢いは収まる所を知らず、ぎらぎらと偵察の目を光らせている。こちらの一挙一動を切り抜き、測定し、その全てを本隊へ報告されている。


「何故だ、数が多すぎる…」


 巡洋艦に搭載できる機数には上限がある。艦娘といえどもそれは変わらない。特に索敵を目的とした巡洋艦が、火力と両立して艦載機を運用するには、2~5機程で収容スペースに限界が出る。日向が見た所では艦載機を飛ばしていたのは軽巡洋艦である川内だけの筈だ。空母や水母ならいざ知らず、これだけの機体数を扱うとなると、主砲を積んだ巡洋艦では絶対に手に余るはずだ。

 主砲を積んでいれば、だが。


「まさか…」


 初めの同行戦で砲撃したのは旗艦の榛名のみ。これは射程の関係と、川内に艦載機を飛ばせるためだと思っていた。

 その後反抗戦の前に至近弾を出したのも榛名の主砲。川内はあのタイミングでまたも艦載機を発艦していた。

 お互いの距離が離れ、榛名の主砲範囲に入っても川内はまだ艦載機を飛ばしている。


「川内は艦載機運用特化、積んだ主砲はフェイク…」


 導き出した答えに愕然とする。この演習において榛名はこの「陣」を形成する事のみを念頭に入れて立ち回りを制限していたのだ。その中で日向をあしらいながら、砲雷撃戦の違和感なく演習をこなしている。それこそ、この演習が始まる前から榛名は隊の役割分担を徹底していた。日向への執拗な挑発も、川内の異変に気付かせないようにする為の囮。

 隊はまんまと狩りのテリトリーに追い込まれていた。四方八方を艦載機に取り囲まれた逃げ場のない海のど真ん中は、この海域そのものが榛名の照準の円の中と言っても過言ではなかった。

 速度を上げながら通信機の艦を最大まで広げる。途端に、耳元で小さな爆発が連続した。調子はずれの機械音を響かせながら、最後の水音を境に無音の報告を続けている。次々とこちらの偵察機が落とされている。考えうる最悪のタイミング。いや、むしろ陣が完成するまで泳がされていたというのが正解だろう。

 困惑する日向。その異変性を感じてか、隊全体が不安に浮き足立っていた。自分のすぐ後ろを航行していた名取が、日向の顔色を窺おうと速度を上げて先頭の日向の横に並ぶ。


 突如、爆発音と共に水柱が上がった。


「きゃああっ!」


 大きく波が揺れ、日向が咄嗟に名取の肩を掴んだ。本日何度目かの砲撃。この衝撃と威力、やはり榛名の主砲だ。


「各艦最大船速!足を止めるなっ!狙い撃ちにされるぞ!」


 悩んでいる暇はなかった。この陣を突破して榛名の目から逃れなければ、なぶり殺しにされるのは目に見えていた。こちらに勝機があるとすれば、この陣を抜けて有利位置より再突撃を仕掛けるしかない。これだけ大掛かりな陣ならば微量な距離調整にも多少は時間がかかるはずだ。その時に風上より距離を詰められれば、再度砲雷撃戦を仕掛けるチャンスがある。

 最短距離で海域を突っ走る。できるだけ被弾を避ける為、名取と日向が先頭となる複縦陣での航行だ。波を蹴り、水しぶきを上げ、一直線に海域を横切る。隊の後方で再度水柱が上がった。


 高速で景色が流れる。そんな中、視線の端の只一点、青い海の隅に高速で近づいてくる艦影が見えた。敵駆逐艦、野分と涼風。本隊を離れ、たった二人の水雷戦隊が並んで距離を詰めて来ていた。


「名取っ!10時方向より雷跡!」


 日向が叫ぶその瞬間まで、名取の視線は二人の駆逐艦に注がれていた。爆発の寸前に視線が足元に落ち、「え」と声が漏れたかと思うと周囲を轟かすような爆音が暴風を引き連れてあたりに響き渡った。火柱が上がり、粉々に飛び散った偽装の破片が周囲に飛び散る。日向は左手で顔を庇いながら、伸ばした右の腕で転倒する直前の名取の襟首を掴んで自分の方へ引き寄せた。必然足が止まる。どこかで引き金が引かれる音が聞こえた様な気がした。


 か細い口笛が上方で鳴り響く。初霜が江風の背を押し、日向は持ち替えた右の腕で江風を抱きしめた。負傷した名取と江風を腕に抱き、彼女たちに覆いかぶさるように空に背を向けた。 口笛はどんどん大きくなる。腕の中の江風と目が合った。彼女の瞳は限界まで見開かれ、表面を覆う水の膜はその身を震わせる恐怖に揺れている。日向はぐっと腕に力を込めると、彼女の頭を抱いて自分の肩に強く押し付けた。初霜は自分の隣で上空を見つめている。日向は左手に名取と江風を抱き込んで、右手で初霜の腕をつかんで引き寄せた。力無い上体が崩れ、その表情は驚いたように日向を見つめている。日向はすぐさま襟を掴み直してその小さな体を腕の中へ。口笛はもう聞こえない。迫りくる風切り音は、暴音とすら呼べる気流の悲鳴となって、頭のすぐ上まで迫って来ていた。


 一撃目の衝撃は、内臓を内側から押し潰される様な強烈なものだった。


 再度腕に力を込め、腕の中の感触を確かめる。初霜が何か叫んでいる。ああもう、何も聞こえない。聞こえるのは次の口笛だけだ。

 二度目の衝撃は後頭部への激痛。頭が割れ、視界が赤く染まる。泣くな初霜、泣きたいのは私の方なんだ。次の口笛が聞こえる。

 三度目は熱。背中の艤装が燃えている。私の消火剤は初霜に使ってしまったから、もう火を消す事はできない。口笛が聞こえる。

 四度目は破壊音と水音。崩れた主砲が海面に没していく。こんなにも火が燃えているのに、指先が冷たい。口笛がする。

 五度目は背中に直接熱した鉄球を叩き付けられる。暴れるな初霜。口笛の音。

 何度目かの衝撃、激痛、口笛。


 痛みと熱と衝撃と、震えと苦しみと恐怖と、腕の中の温かさ。


 ぐちゃぐちゃに泣き腫らした初霜の顔が見えた。



 演習は一六〇〇時に終わった。




【第5章】はろーはろー、ずいうん


「いーっやほ!」


 空中で手のひらがぶつかり合い、ぱちんと乾いた音を立てる。

 駆逐艦「涼風」と「野分」は一足先に桟橋を上がると、お互いの手を取り合って小躍りし始めた。その後ろからやや大型な二人の艦娘が海水を含んだ重い足を上げた。

 軽巡洋艦「川内」が先に埋め立てられたコンクリートの上に足を乗せた。


「こらー、はしゃぐな駆逐艦」


 腰に手を当てながら声を張り上げる川内の後ろで、榛名が服の表面についた潮を手で払った。


「放っておきなさい。川内(お前)を守りつつ単艦の私を回収し、私の射程内に敵を釘付けにする為の水雷戦隊をも成す。駆逐艦(かのじょたち)は十分すぎるほど働きました」


 川内は驚いて背後を振り返った。同じく駆逐艦の背中を見つめる榛名の横顔に「機嫌イイですね」と軽口を叩くと、とたんに深くなった眉間の皺から目を逸らす様に、再び駆逐艦に向き直った。


「いやしかし、勝ててよかったですよ」


 川内が足元の艦載機を拾い上げながら言った。


「砲弾も魚雷も積むなとおっしゃられた時はどうなるかと思いました」


川内の安心したような声。榛名はほっとひと息つくかのようなその響きに、腕を組んで得意げに口元を歪めた。


「これが次世代の軍艦の戦い方ですわ」


 艦隊の分隊運動、単艦での超接近戦、どちらも旧軍艦では成しえなかった戦法の数々。もちろん川内を偵察機運用特化(キャリアー)にしたのも榛名の指示によるものだ。


「そもそも大敗を喫した旧帝国海軍の兵法を模した海戦をする事自体がナンセンスなのです。軍艦と艦娘は別物。これからはそう言う物の考え方が戦争を有利に進めるのです」


「艦隊の二つの分けたのも?」


 榛名は大きく頷く。


「そう。艦娘は軍艦と違い旋回加速に長け、咄嗟の行動に抜群の対応力があります。攻撃を主とするならば、それこそ私の様な戦艦の単艦特攻こそ最もローリスクでハイリターンな戦いの形なのです」


「しかし単艦では轟沈の可能性はぐんとあがります」


 当然とも呼べる川内の指摘に、榛名は困ったように口の端を吊り上げた。腕を組んで唇を尖らせる。


「そうね。艦娘は決死兵器として見れば旧海軍の潜水艦なんかとは比べ物にならない戦果を挙げられます。が、相手もまた深海棲艦という底の見えない相手である以上、むやみに消耗しても長期的に見て不利になるのは免れない。艦娘もタダではありませんしね」


「なので、今回の様に作戦中に隊を分断し行動力を上げると…」


 顎に手を当てて唸る川内、その背後に巨大な影が音も無く忍び寄った。大柄な影の主は川内の肩をつかむと、大型の動物が鎌首をもたげるように、ヌッと背中から身を乗り出した。


「イエース!それこそワタシやハルナの目指す『KANMUSU_REVOLUTION』デース!」


 戦艦「金剛」は川内の体をがくがくと揺らしながら、周囲に聞き散らさんが如く大仰に声を張り上げた。


「お姉さま!」


 姉の姿を視界に収めると、榛名は両の手を打ち合わせて顔をほころばせる。そのまま小走りで駆けて来て、邪魔な川内を押しのけて無理やり金剛の前に躍り出た。


「作戦お疲れ様です!」


 金剛は大きく手を広げて妹を迎えた。


「yeah! バッチリPerfect Gameネ!」


「さすがお姉さま!」


 榛名も姉に答えるように腕を広げる。そのまま大柄な姉に包み込まれるかのような、豪快なハグを交わした。


「Nice Fightだったネ、ハルナ」


「やりました!」


 見た事も無いような榛名の満面の笑みに駆逐艦達が目を丸くしている。川内はその様に思わず肩をすくめた。金剛の視線が榛名の肩ごしに川内に向けられる。


「センダイも、ハルナのNonsenseに付き合ってくれてThank Youデス」


「ナンセンスではございません、お姉さま!知的戦略です!」


 榛名が腕の中でぱたぱたと暴れるが、彼女を抑え込む金剛は嬉しそうに上から覆いかぶさっている。身の丈180近い金剛が他の戦艦と比べてもさほど大きくない事を考えると、むしろ榛名が戦艦としては小さいという事なのだろう。


 榛名はすぽんと腕の中から抜け出すと、ふるふると首を振って乱れた髪を整えた。広がった髪を手で押さえながら、まっすぐに金剛を見上げた。


「お姉さまもご無事で何よりです」


「YES。優秀なFlag shipのおかげですネ」


 ニコニコと似合わぬ笑みを浮かべていた榛名だが、その言葉を聞いてとたんに眉をしかめた。金剛から顔をそむけると、背を丸めて親指の爪に歯を立てる。


「け、本当ならお姉さまに旗艦を譲るべきですのに。あの重巡風情が」


「Non、ハルナ。フルタカは立派なLeaderデース。Secretary shipの称号は飾りじゃないわ」


 金剛達の旗艦を務めた重巡洋艦「古鷹」は、鎮守府で唯一「秘書艦(Secretary ship)」と呼ばれる提督補佐を務める事を許可されている艦娘である。

 秘書艦は鎮守府内で最も練度が高い艦娘のみがつくことを許されていて、提督補佐としての事務処理仕事と最前線への連続出撃を両立させなければならない過酷な役職だ。

 古鷹型ネームシップの彼女は、その秘書艦の席を提督の赴任以来一度も他艦に譲った事は無い。それは彼女が重巡洋艦の最強である事と共に、「経験」と言う点において鎮守府に並ぶ者なしという事実を証明していた。


 榛名はかねてよりこの古鷹という艦が苦手であった。


 あらゆる面において冷静沈着。面倒見がよく他艦より慕われる面もある傍ら、戦場においては一切の感情の動き無く他者の命を奪う姿から「殺し屋」などと周りから揶揄されていた。この二つ名は単なる皮肉にとどまらず、去年二人の軍人殺しが露見した事によってより彼女を象徴する単語と化した。

 そんな事実があってなお古鷹があのような地位にいるのは、殺された二人の軍人があのオカマ野郎と対立する派閥の佐官であった事と無関係ではないだろう。

 火の無い所に煙は立たぬと言うが、あの二人の周りはまさに海軍部内において火の海の様な有様であった。どんな傲慢な大将であろうと、「あの」提督にまくしたてられ、背後の古鷹に睨まれればたちまち失禁しながら「楽に殺してくれ」と泣きわめくような有様である。


 榛名はちらと鎮守府の司令室あたりに目をやった。この演習は提督も見ているはずである。今にもカーテンの隙間からあの忌々しく輝く左の眼光が漏れ出すかと思うと、ぞっとする。


「Oh」


 榛名の気をよそに、金剛が海を見つめて声を上げた。背後から聞こえる騒がしい怒鳴り声とガチャガチャと艤装がこすれ合う音から榛名は振り返らずとも後方で展開されている大方の事態を察した。金剛が呟く。


「ハルナはちょっとヒューガに厳しいネ」


 大破した日向を背負って艦隊が桟橋に足をかけていた。江風と名取が先に陸に上がり、日向を背負った初霜の腕を引っ張り上げる。その様を見て榛名は無表情で言った。


「彼女は立派な軍艦ですわ」


「Oh」


「へぇ」


 金剛が横目で榛名を見る。川内も思いもしなかった榛名の言葉に腕を組んでその続きを待った。榛名は注目が自分に集まっている事に気が付くと、「こほん」わざとらしく咳払いして二人に振り直った。


「主力戦艦(わたくし)が心地よく戦えるよう、身を呈して努めてくださるんですもの。彼女は立派な「演習戦艦」ですわ」


 ぎらぎらと目を輝かせ高笑いを響かせる榛名の姿に、二人は「やっぱりね」と心の中でため息をついた。






「日向様っ!日向様、日向様、日向様、日向様!」


 初霜は背負った日向を桟橋の横にもたれかけさせると、名を叫びながら急いで袴の帯をほどき始めた。江風と名取は日向の両腕を持ち上げ、背負った艤装を外そうと悪戦苦闘していた。


「すまんなぁ、初霜、皆…」


「しゃべらないでください、傷に触ります」


 江風が日向の腕を後ろに回し、すかさず名取が自分の腕を艤装の裏側に差し込んだ。主砲と対空砲の接続部のネジを外し、指先をアームの隙間に捻じ込んだ。痛みを噛み殺しながら、艤装の硬く噛んだ接続部に指先を推し進めていく。噛みあった艤装の間に握り拳が入るくらいに隙間を作ると、立ち上がって艤装の後ろ半分を靴のかかとで勢いよく蹴り飛ばした。


「いてぇ!お、重い!」


 日向の背負っていた艤装が二つに分解する。悲鳴を上げたのは主砲を抱えていた江風だ。腰の部分で固定されていた後部の主砲が支点を無くし、重力に従ってごとんと音を立てた。

 反動を受けた日向の顔が苦痛に歪む。初霜は日向の背中に手を回すと、ゆっくりと腰を浮かせて、傷ついた背を庇うようにその背後に回った。背後から首に腕を回して、強く指を絡めた。


「日向様…」


 日向は眠ってしまったかのように瞼を落として項垂れている。しかしその呼吸はまだ荒く、大量の出血から大きく衰弱しているのは明らかであった。


「医療班…」


 名取が呟いたのと、押しのけるように肩がぶつかったのが同時だった。名取は驚いて背後を振り返り、ぶつかった少女に道を開けた。少女は自分の背後に人がいた事に驚愕して、持っていたパイプから手を離す。金属同士がこすれる音と共に、甲高い反響音が空に昇って行った。


「こら、神通。しっかりせ!」


 パイプの反対側を掴んでいた加古に、神通と呼ばれた少女は小さく頭を下げた。


「す、すみません」


 足元のパイプを持ち上げると、張った担架の布が日光を反射して白く光った。今度はしっかりと背後を確認し、倒れた日向の横に二人はゆっくりと担架を下ろした。


「初霜、旦那連れてくぜ。お前もついて来るんだ」


 加古は慣れた手つきで日向の肩の下に手を差し込むと、腰を浮かせて担架の上に滑るように移動させた。神通が足の先を担架の端に収め、せーので日向の巨体が宙に浮いた。

 二人が歩き出すと初霜がその後に続く。彼女らに道を開けるように、江風と名取はぴんと背を伸ばした。その前を寝かされた日向が通過していく。初霜は日向の寝かされた布の下を押し上げるように、その横について歩いた。


 名取と江風は、その後ろ姿が小さい黒点のかけらほどになるまで、動かずにじっと見つめていた。黒点が建物の影に消えると、名取は小さくため息をついた。


 自分の責任だ。


 自分が水雷戦隊に気を取られず、しっかりと回避に専念できていれば、隊の足を止めずに榛名の照準から脱出できていたかもしれない。いや、それ以前に…。


「名取っ!」


 突然背後から名前を呼ばれ、名取はびくりと身を震わせた。声のした方を振り返ると、勝気そうに吊り上げられたターコイズブルーの瞳とまっすぐに目が合った。


「っ!五十鈴ちゃん…」


 立っていたのは、名取と同い年くらいのセーラー服を身にまとった少女であった。襟や袖にブラウンのカラーの入った制服は、長良型の共通のデザインである。胸の前で腕を組んで、威圧するように名取と向かい合った。

 

「なによ、あの演習!」


 再び名取の肩が震える。

 五十鈴は気まずそうに目を逸らす名取を一瞥すると、深い海色のツインテールを揺らしながら、一歩深く彼女に詰め寄った。


「あんた、なんで榛名を撃たなかったの?あの初霜(チビ)が撃たれて、アンタ達が仲良く助けに行った時よ!」


 トゲの目立つ五十鈴の物言いに、名取は恐る恐る言葉を返した。


「あ、あの時は、初霜ちゃんを助けるのが先決だったから…。そ、それに、軽巡なんかの火力じゃ戦艦は傷つかないでしょ…」


「そうね、「あんた」の火力じゃ榛名は落とせなかったかもね。でもね、あんたの火力の問題と、「榛名に目ぇつけられないようにわざと撃たなかった」のは別問題よ!」


「そっ、そんなこと!」


 言いかけて口を紡ぐ。口をついて出た反論の言葉だったが、それを肯定するはずの二の句はあまりにも弱々しく、か細かった。


「そんなこと…ない、よ」


 小動物の様に縮こまる妹の姿に、五十鈴は腰に手を当てながら大きくため息をついた。


「…もういいわ。行くわよ」


 つかつかと歩いてきて、かすめ取る様に名取の手を握る。名取は五十鈴に引っ張られるままに、二人してその場を去って行った。


 残された江風は、ぽかんと二人の後姿を眺めていた。


「あれが「仲がいい姉妹」ってンなら、アタシはゴメンだね」


 落ちかけた太陽が呆然と立つ少女を見下ろしながら、その影を長く、長く引き伸ばしていった。





 眼前に広がる真っ白な天井を見て、日向は全てを察した。

 皆に背負われて桟橋に来た時はかろうじて意識を保っていたはずなのだが、その際の記憶は彼女の中からすっぽりと抜け落ちていた。自分が覚えているのは、赤く燃える海と背中を炙る炎、そして…。


「初霜…」


 小さく首を持ち上げると、幼き従者は日向の眠るベッドの横で、備え付けのパイプ椅子に腰を下ろしていた。だらんと手足を伸ばし、俯きながらだらしなく口を開けている。病室には息をひそめたような、小さな寝息が充満していた。

 その手に、何かが握られている。


 上体を持ち上げて、ゆっくりと手を伸ばす。背中がじくじくと痛む、肩が外れそうになるまで腕を伸ばすと、やっと指先が硬いそれに触れた。手に取ったそれは、一機の飛行機であった。


 前頭部が尖った、砲弾型のボディ。主翼が小さく、正面から見ると翼の両端がややU字型にせり上がっている。「逆ガル」と呼ばれる翼の形で、爆弾を積みやすくする為に機体の全体の高さを抑える意味合いがある。たったそれだけで、この機が攻撃に特化した艦載機である事がうかがえた。


「ダメよあんた。絶対安静」


 カーテンの奥から白衣の女性が顔を覗かせる。

 美しく染まったグレーの髪を頭の後ろで結い、古風な額当てで前髪の長さを揃えている。大きな黒縁眼鏡で輪郭を隠しているが、それでも線の細い日本式な美人である事がうかがえた。


「お前だって、禁酒してたんじゃなかったのか」


 日向の言葉を受けて、白衣の女性は苦笑いする。伸ばした彼女の手には、巨大な一升瓶が握られていた。


「あれはダメよ。やっぱり人間の医者はヤブね。お酒やめたら次の日から頭痛が止まらなくて、決死の迎え酒により昨日無事生還した所よ」


 女性は言いながらくわえた煙草を揺らした。先に火が灯っているが、煙は出ていない。他の患者に配慮して、煙の出ない煙草を吸っているのだ。だったら吸うなと言えば、きっと彼女は酒の量を倍にするだろう。


 軽空母「千歳」はそんなやさぐれ医師であった。





 千歳は仕切りになっていたカーテンを大きく開くと、隣のベッドからパイプ椅子を持ってきて、日向の隣にどっかりと腰を下ろした。胸のポケットから取り出した筒状の灰入れを親指で弾くと、煙草を吐き出してすばやく蓋をした。それを再度胸元に収めながら、組んだ足に肘をついて寝ている日向に顎を寄せた。音を立てて一升瓶を足元に置くと、中の液体が海原の如く飛沫を上げて波打った。


「そんな事だから医務室の蟒蛇(うわばみ)などと囁かれるのだ」


「蛇介っていうのは間違ってないんじゃない?健康の秘訣は「酒」「煙草」「SEX」、これだけはやめられないわ」


 三本の指を立てて千歳はげらげらと笑った。日向はため息をつくのも億劫だと言った様子で、依然眠りこけている初霜に目を向けた。


「二度と初霜の前でそんな事言うなよ。こないだなんかキミに処方されたと言って、べろべろに酔っぱらって帰って来たんだ」  


「だって、可愛いんだもんカノジョ。お酒弱いくせに、真っ赤な顔でヒューガサマヒューガサマってさ。あたしならほっときゃしないのに」


「よしてくれ、君と一緒にするんじゃない」


 日向がぶんぶんと腕を振るう。

 千歳は同性愛者であった。医務室の扉に張られた「看護婦募集中」とはすなわちそういう事である。

 そんな事だから怪我人すら寄り付かんのだ。


「あら、流星がお好み?」


 日向の手の中の艦載機を見て、千歳が小さく笑った。


「あんたには似合わないわ。航空甲板なんてね」


 彼女の酒臭い声が1トーン下がったのを、日向は聞き逃さなかった。


「提督から聞いたのか」


「あいつったら、さっきまで初霜とあんたの寝顔を見てたのよ。真剣な顔しちゃってさ、気持ち悪いっちゃありゃしない。あんた男らしいからね、ケツの穴狙われてるかもよ」


「ややこしすぎやしないか…」


 




「航空甲板なんてつけたってイイコトないわよ、あたしみたいにね」


「君が言うと重みが違うね」


 軽空母千歳はかつて、水上機母艦と呼ばれる艦載機運用を主とした軍艦であった。多数の水上機を搭載し、移動基地として活躍していた。しかし、深海棲艦との戦いにおいて空母の重要性が高まるにつれ、予備空母としての扱いが増えていく。そしてついに4年前に妹艦の千代田と共に軽空母へと改装された。二人の新型空母は目覚しい戦果を上げたが、目まぐるしい戦闘機の進化について行けず、任期後期には事故が多発。結果的に妹艦千代田の轟沈という形で千歳型航空母艦は艦娘としての幕を閉じた。

 姉の千歳は轟沈こそ免れたが、両足を負傷、右足を切断し、1年以上の療養期間を経て医療婦艦として復帰した。兼ねてより大酒飲みであったが、復帰後は「依存」「中毒」と言って差し支えないほど酒に溺れ、鎮守府ではそんな彼女を煙たがる者も少なくない。


「あんたは古臭い戦艦がお似合いよ。無理に背伸びしたって大事な物を失うだけよ」


 千歳は右足を引きずりながら、日向の方へ体を傾けた。開いた足を強くさするその仕草は、さながら歴戦の老兵を思わせた。


「上の軍人どもがどれだけ無計画で行き当たりばったりな艦隊運用をしてるか知らない訳じゃないでしょう?あんたがどれだけ無策無謀の戦闘狂で、代々きっての死にたがりでもあたしは止めやしない。でもね、手前の我侭に初霜を連れてく様な事があれば、あたしはあんたを絶対に許さない」


 千歳は落ち着いた、静かな声で告げた。日向の心臓をなでるその冷たい切っ先は、彼女の昂ぶりかけた精神を冷やすには十分すぎる鋭さを兼ね備えていた。


「わかってるさ、甲板を積めばそれだけで強くなれるとは思っていない」


 今日の演習の結果だけを見ても、私と榛名の差は単純な性能差だけではなかった。

 随伴艦に艦載機を満載し、榛名のみを砲台とする奇抜な戦法。それを可能とする個としての性能と旗艦としての指揮能力。少数精鋭で的を小さくし旋回能力を上げ、砲撃に集中する為に自らには艦載機を乗せずに大型電探を積んで感を強める。自らの火力に対する自信と、艦隊運用能力が両立できていなければ成立しない戦法だ。

 

 艦隊戦闘の形を維持しながら、大戦時代ではなしえなかった「艦娘としての戦い方」に特化させた戦略と戦法。次世代を体現しているのは榛名の艦娘としての「全て」だ。


「あんたの貧弱な甲板じゃ流星は操れない」


「そして艦隊運用を前提とした船はもう古い。わかっているさ」


 それでも、それでも私は…。


 ひょいと手の中の流星を取り上げられる。千歳はそれをベッドの横の小机の上に戻した。よく見ると、他のベッドにも別々の艦載機が飾られている。千歳なりのインテリアか何かなのだろうか。


「…なんだあれは?」


 無意識に声が漏れる。千歳は一度日向の顔を覗き、すぐさまその視線の先に目を向けた。


「あれって、瑞雲の事?」


 日向の視線の先、壁際のベッドのそばに先ほどの流星と同じように一機の飛行機が飾られている。しかしその「足」には、流線形のフロートが取り付けられていた。


「ずい、うん?」


 日向はつぶやく。さっきから頭に浮かびあがった事を口から垂れ流している気がする。それくらい、日向の頭は真っ白だった。ただあの淡い緑色の機体に魅せられていた。自分の中の夢と期待が、飛行機の形をして現界したかの様なそのフォルムに、焦る気持ちを隠せないでいた。


「偵察機か…」


 その言葉は、自分の意志とは逆の事を言っている。私が本当に聞きたいのは、私が本当に望むのは…。


「瑞雲は攻撃機よ。多目的水上機、と言った方が正しいでしょうけど」


「非戦闘機である事」(それ)の否定。


 これが、日向と「導きの雲」との出会いであった。





【第6章】きめた!こうくうせんかん!


 頭の裏側で、ごうごうと風が舞っている。その音は深く深く、精神の奥から体の中に響いてくる。ゆっくりと目を開ける。音が消える。

 不思議な気分だ。


「作業中はずっと目を瞑っている事」


 千歳はそう言って作業場の奥に消えて行った。それが今から約二時間前。日向は一人狭い部屋の中でずっと風の音を聞いていた。飛行機が風を切る音、カタパルトがはじける音、滑走路を走るタイヤの音。波と風。揺れる視界。大声で合図を出し合う男達。目を瞑るとあらゆる光景が瞼の裏に写り込んだ。


 日向は音も光も遮断された部屋の中で、小さな椅子に腰かけていた。しかし、音も景色も見えている。目を瞑ればまるで目の前に広がっているかのような鮮明な光景が移り込む。音も間近に聞こえる。しかし、本当は何もない、真っ暗な部屋の内側でただ座っている。不思議な気分だ。


 この部屋は千歳曰く只「暗室」と呼ばれている部屋らしい。近代化改装を控えた艦が艤装の改装がひと段落つくまでの間、この部屋で精神統一を行う。らしい。

 千歳から聞いた事が全てなので詳しくはわからない。何故私の頭の中にこんな記憶があるのか、この部屋は何故それを増長させるのか。知らされていないし、きっと千歳も知らないのだろう。

 私は2時間前に暗幕の外に消えて行った友人の事を考えていた。


「航空戦艦になるぅ!?」


「ああ」と日向が改めてそう告げた時、そんなのお構い無しとばかりに千歳は声を荒たげた。


「あんたねぇ、あたしの言った事まっっったく聞いてなかった訳!?」


「もちろん聞いていたさ。その上での結論さ」


 千歳の狼狽ぶりに比べ、ベッドに腰掛けた日向は落ち着いている。よほど気に入ったのか手のひらで瑞雲を弄び、指でプロペラをくるくると回した。


「…何か思いついたのね。言って見なさい」


「これさ」


「瑞雲?」


 手の中で光る鈍い緑色の輝きを、窓から差し込む夕日に照らして日向は満足そうにうなずいた。


「そうだ。爆弾を詰める水上機を中心に航空隊を組む。それなら甲板に着艦できなくても、海面に着水した直後に僚艦に拾わせられる。トンボ釣りの要領だな」


 航空戦艦の短い甲板では、艦載機を着艦させる事はできない。それは今まで何度も議論してきた事だった。しかし水に浮けるフロートをもつ水上機なら、甲板に着艦しなくても安全に着水ができる。それを後から回収すれば、飛行機の消耗なく作戦行動を行える。もちろん随伴艦は必要になるが、空母でなければいけないなどという縛りは無い。駆逐艦や巡洋艦、戦艦だって水面の飛行機を拾い上げる事ならできるはずだ。


「それで?」


 千歳は納得しない。いくら落水の心配がないからと言って、広い海の中で長時間水上機を浮かべている訳にはいかない。作戦も回収もスピード勝負。編成や作戦状況によっては多くの水上機が犠牲になりかねない。いや、水上機ならともかく回収の為に艦娘そのものが危険を冒す可能性だって出てくる。

 しかし、日向はなんでもないといった風に首を横に振った。


「それだけだ」


「おい」


「そう怖い顔をするな」


 向けられた視線を軽く受け流し、日向は唇を尖らせる。


「やれる気がするんだ、瑞雲(コイツ)とならな」


 日向は暗室の闇の中で、深く息を吐いた。

 しかしあの千歳が自分の立会人を買って出るとは意外だった。彼女は医務室で日向の申し出を聞くと、手に持った一升瓶をぐいと呷った。豪快に瓶を持ち上げ、ぐいぐいと中身を減らしていく。


「おっしゃああああ!あたしが面倒見てやるわよ、こんの馬鹿野郎!」


 そう言って病み上がりも気にせずここまで連れて来られてきた。提督の許可は要らないのかと聞けば、工員達はすでに提督から指示を受けて作業の準備を進めていたという。てっきり彼に言われてここに来たのだと思ったと笑われてしまった。

 あの男の思惑通りに動かされていると思うと癪だ。そういえば千歳によれば、医務室の瑞雲はあの男が日向が目覚める前に置いていったものらしい。ますますあの男の得意面が目に浮かぶ。瞳を閉じてため息をついても、頭に浮かぶのは見知らぬ空の光景であることだけが唯一の救いであった。


 青い空と反射し合う甲板の上、数人の軍人達が巨大な布の塊のようなものを運んでいる。船は基地に停泊していた。甲板の上に戦闘機の姿は無く、波も穏やかだ。

 ふと、視界が陰る。上空を一機の飛行機が通過していった。

 戦闘機だ。驚くほど薄い羽と、しなやかなフォルム。飛び去っていく後姿に見入っていると、突如背後でテーブルをひっくり返したような騒音が響き渡った。

 大勢の足音が響く、爆発と悲鳴、ぞくりと広がる悪寒。背後を振り向く事ができない。そうしよう力を込めても、足が棒のように固まって動けない。ガラスがはじけ、何か棒のようなものがメキメと音をたてて倒れる。悲鳴と共に水に飛び込む音、そして最後に「カチリ」ととても嫌な音が煙の中から聞こえた気がした。


「ぅが…、日向っ!」


「……!」


 目の前にはあの狭い暗室と、勢い良く肩をゆする千歳の姿があった。


「少し、眠っていたみたいだ…」


 額の汗をぬぐい、びっしょりと手を濡らす。千歳の肩にもたれかかるようにして、ゆっくりとタラップを降りた。暗い部屋の外が震えるほど寒く感じる。よろよろと工廠内を歩き、むき出しの鉄塔に寄りかかりながら、ずるずると床に腰を下ろした。


「相当参ってるわね」


 千歳が水の入ったペットボトルを差し出す。日向はうつむいたままそれを受け取った。


「何なんだあれは。夢か幻か、それとも…」


「あれは、アンタ流に言えば「航空戦艦の記憶」よ」


 鉄塔に寄りかかったまま、千歳はワンカップのふたを持ち上げた。


「旧戦(かこ)の記憶…」


 日向がうなだれたまま返す。あごから滴った汗が、床の上に落ちて水たまりを作っていた。


「艦娘(あたし達)が過去の軍艦を元に設計されてるのは、今更言うまでも無いわね?でもね、その再現の為には当時の資料や生の情報が沢山必要なの」


「そんなの軍の資料を漁ればごまんと出てくるだろう」


 軍事資料館や相応の専門機関など、世界は情報にあふれている。日向だって、鎮守府の図書館で何度も日向(じぶん)の事を調べた。

 しかし千歳は渋い顔をして手に持ったカップを揺らして見せた。


「そうでもないのよ。当時は情報管理もびっくりするくらいずさんだったし、しかも日本は敗戦国で隠蔽や証拠隠滅の為に沢山の資料を破棄している。現代で確認できる事なんて上っ面だけ、生の情報となると尚更よ」


 日向は千歳の特異な言葉遣いに目を細めた。


「そもそもお前の言う「生の情報」とはなんだ?」


 日向が問う。千歳は言いずらそうに、肩をすくめた。


「それが「暗幕の中の世界」よ」


「航空戦艦の記憶?」


「あんたが見たのは戦艦や戦闘機の姿だけ?」


 日向は少し考えた後、首を横にふった。


「いや、武器を取る人々の姿や戦闘機に乗り込む兵士達。それから…」


 日向は苦虫を噛み潰したような顔で、忌々しげに吐き捨てた。


「気持ちの悪い精神」


「戦争で戦った人達を侮辱したくなるでしょう?」


 千歳の言葉が、ずしんと胸にかかる。

 嫌になるくらい健全で、堂々とした「人殺しの精神」。それが戦争の記憶。

 何故ああも簡単に人を殺し、そして死ねるのか。いや、簡単なはずが無い。しかし彼らは殺しも死も「戦争」として受け入れ、驚くぐらいそれに納得している。重圧も恐怖も全てを内に秘め、勝利の名の下に結託している。


「人間同士っていうのは実に歪だ」


 日向の呟きに呼応するかのように、工廠の天窓から風が抜けて行った。走り抜ける風が日向と千歳の間の淀みを連れて、二人の髪を揺らした。

 千歳は気持ちよさそうに風を受けながら、日向を見下ろし唇をゆがめた。


「そこまでにしときなさい。命は尊い、戦争は悲しい記憶。それでいいのよ。思い出しすぎるのも考え物よね」


「で、あの記憶を資料にして艤装に反映するのか」


「そこから先は妖精達の仕事だから詳しくは無いけどね。大方間違っていないと思うわ」







「そもそも何故我々は過去の軍艦をモデルにされたんだ?近代兵器やイージス艦ではだめなのか?」


 工廠から戻る途中、日向が千歳にそう投げかけた。日光の差し込む窓を眺めていた千歳は、日向の質問に視線を廊下の先に戻した。


「イージス艦レベルの高度な情報処理システムを艦娘が背負うのは無理があるのよ。イージスシステムは「索敵」「情報処理」「攻撃」の三つの要素を連続させつつ、同時に管理・計算を行うシステム。でもその維持にはとんでもないエネルギーと設備が必要なの。もちろんお金もね」


 まるで教師のように言葉を区切る千歳の話し方に、日向はひとつの解を得ていた。親指で顎を撫でて、ポツリとつぶやく。


「艦娘用にレベルを下げている?」


「ご明察。艦娘運用のレベルにあわせつつ、最大の戦果を挙げる為に旧戦中の兵器の再現が最も効率が良いと結論が出たの。これは妖精のスピリチュアルな計算式で導き出したんじゃなく、軍上層部が円卓で肘を付き合せて決めたモノよ」


 足音を響かせながら千歳が続ける。珍しくぺらぺらと話す唇を気にしながら、ワンカップを呷ってその潤いを維持していた。

現在時刻は午後六時。艦娘がやっと気兼ねなく酒を口にできる時間だ。もちろん彼女がそんな事を気にする訳が無いのだが。

 日向はそんな千歳の様子に呆れながらも、頭の片隅では近代化改装の行く末の事が引っかかり続けていた。戦艦を捨てるという事、在りし日の記憶をめぐり、航空戦艦に「成る」という事。


「日向は航空戦艦の事、どれくらい知ってる?」


 まるで日向の表情を察したかのように千歳が切り出した。それに特別驚いた様子も無く日向は返す。


「ミッドウェー敗戦を区切りに空母不足に悩まされた旧日本海軍が、その穴を埋めるために建造し(つくっ)た軍艦。戦艦の砲撃力と、空母の航空制圧力の両立を目指して計画が立てられた」


 迫りくる戦闘機を航空戦で圧倒し、敵艦の装甲を主砲でなぎ払う。海と空との立体的な戦術展開により戦場を切り開く。それが「求められた」航空戦艦の姿であった。


「……」


 千歳は日向の話に黙って耳を傾けている。まるで聞き飽きたおとぎ話を、まどろみの中に聞き流すかのように。口を挟む事も無く、唯々熟知した結末を待っている。


「しかし現実は違った」


 日向の口調が、少し引き締まったものに変わった。ワントーン下がったその声を響かせる心情は、戦艦としての過去に起因するものなのか、それとも航空戦艦としての未来に向けられたものなのか。


「その甲板から戦闘機が飛ぶことは無かった。戦況が彼女を空母として活かす事を拒んだ」


「そうね」


 千歳は日向の言葉を遮らない様に小さく頷いた。


「無理して描いた理想が現実を追い越してしまう事は、往々にして良くある事だわ」


 その言葉に日向は何を返す事も無く、唯黙々と歩を進めた。医務室の扉が見えてくる。直前の角を曲がった所で千歳が早足で先行し、背後へ振り返った。腕を組んで見上げるように日向と視線を合わせた。


「心配?」


「どうだろうな。艦暦と艦娘としての性能が吊り合わない事など、珍しくも無い事だ」


 足を止め少し考え込む。目を瞑って唸るような仕草をした後、ゆっくりと時間をかけて言葉を捜した。医務室の中で、ガタンと物音が聞こえたような気がする。


「負けられない理由もある。運命や理想に振り回されてやる余裕も無いしな」


「それって榛名ちゃんの事?あんまりムキになっちゃだめよ」


「それだけではないさ…」


 音を立てて医務室の扉が開いた。

 顔を出したのは初霜だ。小さな影は慌てたように廊下を見回し、扉のサッシに足をとられて勢いよく廊下に飛び出した。


「それだけでは、な」




【第7章】とべよずいうん


 雲一つない快晴の空、穏やかな波。遠方の島には新緑が伺え、海鳥の影が夏の始まりを思わせる。

 闘争とは無縁の静かな海。その只中に日向は一人佇んでいた。僚艦もつけず広大な海にただ一人、海の彼方を眺めている。体を持ち上げて艤装を背負い直す。新品の航空甲板が、眩しいほど日の光を照り返していた。

 耳にはまったインカムを指で押さえ、日向は水平線の遠くに目を向けた。


「準備はいいか?」


 数秒のタイムラグの後、電子音に乗って澄んだ声が飛び込んでくる。


「こちら初霜。ブイの設置完了」


 日向はその声を受け、誰にともなく頷いた。


「了解。2000まで距離を取り待機。弾着頼むぞ!」


 マイクに話しかけながら艤装を展開する。

 両肩に背負った主砲が、駆動音を響かせながら駆動する。右手で腰の下のレバーを引き、主砲の角度を調整する。手元の安全装置を握りながら、車のギアを操作するようにレバーを左右に切り替える。その上で脊髄と直結した艤装が、脳からの電気信号を受けて大きく左右に開いた。

 主砲そのものを固定するアームを停止させ、その後砲角を調整する。標的の姿は見えないが、電探とつながった神経を通して頭の中でしっかりとブイを捉えていた。


「第一から第四まで砲門開け!」


 号令と共に砲に弾を込める。ドカンと鉄蓋を閉める音が聞こえ、同時にアームが少し沈んだ。微調整はしない。計算の上での先の展開だ。

片目を瞑ってじっくりと照準を絞る。黒点と化した初霜の離脱を確認してから、思い切り引き金を引いた。


「全門斉射っ!」


 轟音と共に巨体が震える。激しく左右に揺れる振動を、足の筋肉だけで無理やり制御する。後方に流れる勢いには逆らわず、海面を後退しつつ反動を逃がした。

 黒煙を纏った徹甲弾は、瞬く間に空の中に消えていく。遥か遠くで水柱が上がると、日向は素早くインカムを指で押さえた。


「第一射!遠近よし!」


 初霜の弾着報告。

 本来であれば瑞雲を飛ばして確認を仰ぐ所だが、今日は別の任務で水上機は出払っていた。無計画で海上に出た挙句、どうしたものかと思案していた所に、待ち構えていたかのように初霜が現れたのだ。


「どうだ?」


 日向が先を促す。停止した的相手に電探で位置を把握していれば、この距離であろうと命中は難しくない。日向が気にしているのは、その後だ。


「駆逐艦大破、戦艦小破!」


 その報告に、日向は小さく肩を落とした。


「轟沈(お)とし切れないか…」


 航空戦艦になって3日目。2回目の訓練。

 新しい艤装を体に馴染ませる為の、艦隊も組まない流し訓練である。しかし慣れない己の性能に、日向は早くも難色を示しつつあった。


 一番の弊害は火力の低下である。なにせ主砲を2本も撤去してしまった為、単純な砲撃火力は大幅に低減してしまっている。しかしそれは改装前から了承済みの事であって、現在の火力不足には、また別問題が絡んでいた。

 流星隊の解体が、ここにきて大きく響いていた。

 本来航空戦艦へ改装後、主砲の撤去によって低下した火力を補うのは戦闘機による航空攻撃であった。艦載機による爆撃と、砲撃を両立させる事による立体的な攻撃こそ航空戦艦の強みであった。

 しかし、航空火力は改修前の予定より大幅に低下してしまっている。艦上戦闘機を撤去し、多目的水上機「瑞雲」を中心とした航空機運用に切り替えたためだ。

 瑞雲も「偵察」「爆撃」「観測」と幅広く運用可能な高性能機であるのは間違いない。しかし攻撃に特化した機体に比べると瞬間的な火力には劣るうえ、全隊を攻撃に割けない以上スペック通りの成果は出せないでいた。

 砲塔より伸びる煙を眺める日向に、遠方より影が迫る。視線を空に移すと、隊列を組んだ11機の瑞雲が頭上を大きく旋回した。Uターンの際に左右二組に別れ、次々着水していく。日向は足元に滑ってきた一機に手を伸ばし、救い上げるように機体を持ち上げた。甲板の上に置き、状態を確かめる。


「まだ燃料にも余裕があるし、飛行は順調か」


 拾い上げた瑞雲を甲板の裏側のスロットに収容する。甲板の裏には艦載機をセッティングする「マガジン」が取り付けられている。今そこに待機しているのは、「装填」済の11機。そこに今の1機を足して合計12機。


 甲板から突き出した二門のカタパルトを雲の隙間に向ける。マガジンよりエレベーターによって押し上げられた瑞雲が、甲板の上をレーンに沿って滑る。流線形の機体が、カタパルトの先端に納まった。日向は甲板を支える左腕を持ち上げるように、右手を添えて構えを取った。

 一瞬の沈黙の後、吠える。


「第二次隊、発艦はじめっ!」


 金属の衝突音に重なり、風が唸る。

 弾かれたカタパルトの勢いに沿って、緑色の機体が空高く上がった。

それに続き、二門のカタパルトが次々に水上機を射出していく。中央のエレベーターがせわしなく動き、カタパルトが交互に唸りを上げる。その間日向は甲板が大きく動かないように、波の上で己の巨体を支えなければならなかった。


 最後の一機が上空に放たれた時、日向はやっと静止を解いて素早く時間を確認した。

 12機発艦まで6分8秒。その数字に日向は何とも言えない表情を見せた。1機の発艦にかかる時間およそ30秒。この数字は決して遅くは無い。いや、むしろ妖精機を飛ばすには十分すぎる速度を保っていると言える。しかし、通常の巡洋艦や戦艦の様に2~3機の偵察機を飛ばしている訳では無い。10機~20機の航空隊を操る艦娘としてはむしろ時間がかかっている方と言える。

 現に大航空隊を操る空母艦娘にカタパルトを搭載している艦は存在しない。ほとんどの者は矢に封じた妖精機から高速で機を撃ち放つ。術式甲板より式神を打ち出す者もいるが、初速を取るか機体数を取るかで原理は同じだ。


 海上で動けぬ五分間。戦場においてこれが無視できぬ時間である事は誰にでも想像がついた。


 雲の中に消える瑞雲を見送り、日向はため息をつく。課題は山積みだ。


 ふと視線を落とすと、足元に先ほど帰投した瑞雲がぷかぷか浮かんでいた。気が付いて周りを見渡すと、10機の瑞雲たちがわらわらと日向の周りを囲むように浮かんでいる。


「これを全て私で片さねばならんのか…」


 課題は山積み。

 日向は再度大きくため息をついた。





「おや、旦那」


 訓練を終えた昼過ぎの食堂。ウエィトレスとして走り回る初霜を横目に、日向はまたあのスクリーンを眺めていた。声のした方を振り返ると、窓際に座る加古がこちらに手を上げていた。


「おう」


 椅子に寄り掛かったまま、気だるげに肘から上を持ち上げる。すると加古の向かいに座る女性に気が付いて、日向は重い腰を上げた。


「この間は世話になったな」


 椅子を引きずって来て、二人の座る机に寄せる。窓際の席はかすかに太陽の匂いがした。


「覚えていてくださいましたか」


 女性は日向の方へ体を向けて、長髪を揺らしながら微笑みかけた。清楚な顔立ちながら、どこか影のある雰囲気が哀愁を誘う。加古は親指を女性に向けて紹介した。


「コイツは神通」


「神通、というと二水戦の?」


 日向の問いに、神通は少し悲しそうに笑った。


「元、です」


「え?」


「おい、神通」


 話し始めようとする神通を加古が止める。しかし、神通は優しくそれを制した。

 視線を加古へ向けて、左右に首を振る。


「いいのです。日向さんが悪い方ではないのは知っていますから」


 そう言われるとさすがに加古も引き下がる。加古が腰を下ろすのを確認してから、神通はゆっくりと話し始めた。


「クビになったのです。艦隊を」




「演習中の衝突事故で、海に出るのが…お、恐ろしくなってしまったのです」


 語りながら、神通の目線が深く沈む。重苦しい沈黙に耐えかね、苦しそうに目を瞑った。その仕草だけで、彼女がどれほど深い闇の底を覗いて来たかが伺える。


 日向も事故は多いが、そのほとんどが艤装の不具合や管理不手際から起こる個人的な事故だ。だが神通のそれは違う。連係ミスや天災によって船の玉突き事故が起こると、取り返しのつかない結果になる。自分が轟沈ちるならともかく、もし自分以外の誰かを沈めてしまったら…。

 それは悲惨だ。海に出る事を恐れるほどに。


「そんなんで、アタシが『医療』に誘ったんスよ。怪我人が出れば出撃して、暇な時はここで「こうやって」、気楽なもんスよ」


 明るい声でそう口をはさみながら、加古がテーブルに置かれた将棋盤に目をやった。横一列に並んだ「歩」の一つを手に取り、それを音を立てて打ち込んだ。


 乾いた木の音に神通の表情が少し和らぐ。加古と一瞬目配せして、自分の駒に目を落とした。「飛車」と書かれた大きな駒を手に取り、それを「王」の目の前に滑らせる。


「ほう…」


「面白いでしょ、こいつ」


 日向が唸り、加古が笑いをこらえたような声を漏らす。


「中飛車か」


 それを聞いて神通は小さく首を振った。瞳の中に見える輝きは、すっかり魂を取り戻していた。


「いえ、これが私の衝角突撃です!」






「負けました…」


 がっくりと肩を落とす神通に、勝負の一部始終を見ていた日向は端的に結論を述べた。


「下手の中飛車だな」


 加古が同調したように頷く。

 初手に飛車を玉将の前に振る「中飛車」は、一般的に初心者の打ち回しとされている。勝てぬ中飛車は「下手の中飛車」と呼ばれ、格下を表す言葉として広く浸透していた。


「へ、下手って言わないでくださいぃ!」


「下手なんだよなぁ…」


 その後再三指し合った挙句、日向まで相手をさせられたが、結果は神通の全敗であった。そして神通の初手は全て中飛車であったそうな。





「そういえば、観艦式の事聞きました?」


 将棋盤を片付けながら加古が漏らす。それに日向が首肯した。


「ああ、今年も横須賀(うち)でやるらしいな」


 観艦式は年に一回、その年の代表の鎮守府で行われる。一般人の入場は無く、主に軍人たちと艦娘のお祭りであると言える。

 彼らは日本全国からこの式典の為に集まり、祭りを盛り上げる。華やかな宴の裏側で官僚たちの腹黒い派閥争いが繰り広げられているという噂もあるが、いかんせん艦娘達には関係の無い事だ。


「旦那は航空甲板のお披露目ですかい?」


 加古が、からかい交じりの視線を向けてくる。日向は努めて冷静にそれに返した。


「どうだかな。戦艦なら金剛型の方が華があるし、あの榛名だってあれでもお偉方には人気があるんだ。黙っていればアイツも大概いい女だからな」


「お淑やかに箱に納まっているような性質ではないがね」と日向は付け加えた。指先で駒を弄び、ピンと指ではじく。音を立てて倒れた駒には「金」の字が彫り込まれていた。


「初霜が今年もポップコーンをやるらしいから、私はその手伝いだな」


 観艦式当日の出し物は、そのほとんどが艦娘達が運営する。

 開催鎮守府の艦娘はもちろんの事、許可をもらえば他の鎮守府の艦娘も出し物に参加できる。その場合、前日に鎮守府に入って設営を進めるのだ。

 初霜のポップコーンは艤装の「缶」の中にポップコーンの種を入れて、駆動しながら調理する。海上を航行しながら公開演習の最前列に配って歩いたりと、艦娘達からも人気が高いのだった。今年は味の種類も増やしたいなどと言って、こないだ予備の缶の清掃を手伝わされたばかりだ。


 来る日の観艦式を想いながら話が弾む中で、隣に座った神通だけが全く会話に参加していないのに気が付いた。彼女は二人の話を聞きながら、腑に落ちないとでも言いたげに首をひねっていた。


「おかしいとおもいませんか」


 神通が交互に二人に目を向ける。神妙そうなその面持ちに、日向も加古も首をかしげる。


「?」


「何の事だ?」


「だ、だって去年もウチで観艦式があったんですよ。それでまた、今年もなんて」


「敷地が余ってるからだろう。にぎやかになって良いじゃないか」


「神通は騒がしいの苦手だからな」


 わははと湧き上がる場に反して、神通はわなわなと拳を震わせる。そしてついに堰が切れたかのように怒鳴りたてた。


「人が死んだんですよ!去年の観艦式で!みんな忘れてしまったんですか!」


 場がしんと静まり返る。自分のテーブルだけでなく、周りのテーブルで食事をしていた者達ですら、何事かと神通に視線を向ける。真っ赤な顔で睨みつけられた二人は、お互いの顔を見合わせ一つ頷いた。


「まあ」


「人くらい死ぬでしょ、お祭りなんだし」


「ど、どこの野蛮民族ですか!あの事件、西のお偉方はうちの提督が首謀者だと疑っているという話じゃないですか!」


 神通が周りからの視線を気にして、浮いた腰を下ろす。その間も、日向と加古は頷き合って意見を同調させていた。


「そら、西はそう言うわな」


「しかも古鷹がやったとはいえ、あの事件は将官が捕まって解決しているはずだ」


 観艦式さなかでの指揮官殺し。

 その実行犯は何を隠そう横須賀の秘書官である古鷹であった。彼女は観艦式が行われる裏方で二人の佐官を殺害し、出頭した。彼女は犯行を認めたが首謀者の名は語らず、後日同派閥の少将が殺人教唆で捕まった。

 古鷹本人も解体を余儀なくされたが、捕まった少将の後釜に座った丁嵐誠一(あたらしせいいち)、つまり今の提督によって救われて今に至る。


「今回の観艦式は提督を罠に嵌める算段かもしれないって言ってるんです!」


「なんだ?お前、誠に惚れてるのか?」


「げ、顔はいいんだけどなぁ。アタシはパス」


「そうじゃなくって!」


 神通は再び拳を振り上げ一同を黙らせた後、テーブルの真ん中に顔を寄せた。日向と加古もそれに倣う。二人と目を合わせた後、神通は声をひそめて言った。


「今回の招待客に紛れて…」


「うん…」


「暗殺者が送り込まれるかもしれないって言ってるんです」


 驚愕の発言に二人は仰天する。日向は腕を組んで唸り、加古は苦悶の表情を浮かべ頭を抑える。そして…

 

「お前…」


「神通…」


 二人同時に口を開いた。


「「映画の見過ぎだ!」」







「映画の見過ぎですかね…」


 男は受話器を片手にそう返事をした。貼り付けたような笑みを崩さずに続ける。

 

「こういう物って、私の様な『当事者』には声がかからないものだと思っていました」


 男性にしてはやや高い声。左前の髪だけを長く伸ばした奇妙な髪形。そこから見える肌は異様に白く、覗いた片目は開いているのかわからないほど薄く線を引いている。


『適任はお前しかいない。小娘との水遊びで腕を鈍らせてはいないだろうな』


「ご冗談を」


 歌うような口調で男は返す。


『横須賀の観艦式を血に染めろ。「意趣返し」だ』


「私も大概ですが、貴方も随分と趣味がよろしいですねぇ」


 電話越しの物騒な言葉選びに、男は笑みを深めた。心なしかその声色は高揚を含んでいる様にも聞こえる。


『職務を果たせ「呉の亡霊」』


 そう言って一方的に電話は切られた。

 男はゆっくりと受話器を置くと、自分の机に肘を付いて、薄い瞳で部屋を見回す。部屋の隅で書類を書いている女性は、男の期待の籠った視線を感じて手を止めた。自分の書いた文字に目を落としたまま問いかける。


「任務ですか、松崎提督」


 その質問に、男は「よくぞ聞いてくれた」とばかりに声を弾ませる。


「ええ。楽しい楽しい、お仕事の時間です」


 芝居がかったその返事に、女性はうんざりと眉をしかめた。顔を上げずとも男の目障りな笑みが手に取るようにわかる。


 男は気にした様子も無く、椅子から腰を上げた。立ち上がるとひょろりと長く、細い手足と相まってまるで海の幽鬼を思わせる。そのまま部屋の窓際まで歩いていき、カーテンを思い切り開け放った。

 降り注ぐ木漏れ日が、暗い部屋の中に男の影を張り付けた。


「今年の観艦式は、きっととても面白くなりますよ」


「もちろん大淀さんもいっしょですよ」と付け加えると、女性は頬をひきつらせて万年筆を取り落とした。床に転がるそれを見つめながら、大きくため息をこぼした。





【第8章】おまつりのかおり



 部屋中に柔らかな茶葉の香りが広がる。横須賀の提督、丁嵐誠一は大きな職務机に寄り掛かりながら窓の外を眺めていた。手に持ったティーカップの表面がたゆたう。赤みがかった髪を掻き上げ、優雅にカップの縁に唇を寄せる仕草はまるで洋画の一場面を思わせた。

 整理されたテーブルの上に、一枚の書類が風に揺れている。その名簿を手に取って、秘書艦である古鷹が告げた。


「初霜がポップコーンの屋台の設営に、第二演習場を希望してきていますが…」


 第二演習場は横須賀唯一の陸上戦闘用の演習場だ。出撃用の桟橋から近く、海沿いに面した広い敷地である。観艦式の季節になると、公開演習の客席が近い事もあり出店の申請が集中する激戦区と化す。最終的な申請の承諾は、提督である丁嵐に一任されていた。


「アタシの分のポップコーンを確保するという条件で許可しようかしら」


「提督、それは賄賂というものではないでしょうか。私の記憶の限りでは、大変な規則違反であると記憶しております」


「古鷹、あんただってあのおチビの新作食べたいでしょ?」


 古鷹は表情を変えずに、丁嵐の視線を追って窓の外を眺めた。そこには訓練より帰投する航空戦艦と黒い従者の姿があった。


「はい。私もぜひ頂きたいです」


「なら素直にアタシに従ってなさい。去年の人気を見てもあの子が妥当な事くらい他の子だってわかってるわよ。この様子じゃあね」


 そう言いながら丁嵐は自分の傍にあった書類を古鷹に向けて滑らせた。それも初霜のものと同じ出店のスペース確保の申請書である。六駆のかき氷や足柄のカレー、霧島のメガネ屋など押しに押されぬ人気店揃いだが、彼らが指定しているスペースは激戦区の第二演習場では無く第三航空演習場だ。

 第三航空演習場、通称「三空」は新着の空母が陸上で発艦の訓練をするスペースである。数少ない陸上演習場の一つで、こちらもたがわず人気が高い。しかし公開演習場から遠く、客寄せという点においては第二演習場に続く二番手に甘んじているというのが現状だ。

 彼女達があえてこの場所を選んだのは、第二は今年は初霜に取られると確信があるからだ。第二の抽選ではじかれて遠くのスペースをあてがわれるより、初めから三空の空きスペースを確保しておこうという魂胆だろう。それほど去年の初霜のポップコーンは凄まじかった。今年はそれを目的にやってくる者達も多いだろう。今年の経営申請にポップコーン屋が3つもある事からも、どれだけ初霜が意識されているかが伺える。


「出し物と言えば、日向の件は?」


「それは、アタシから伝えるわ」


 カップの縁をなぞりながら丁嵐が漏らす。窓から差し込む光に照らされた横顔は、堀の深い顔により色濃く影を落としていた。


「提督の招待リストも届いています」


 古鷹が自分の持っているボードに目を落とす。指で文字をなぞりながら、上から順に読み上げた。


「佐世保の栄吹中将と秘書艦の長門、ブインの田中大佐と秘書の那智、A-4基地の荒神中佐と秘書艦補佐の霞、それから呉の松崎…えっと」


 古鷹の言い淀む仕草に、丁嵐は小さくカップを鳴らした。その音に気付き、古鷹が名簿から視線を上げる。


「じょうすい」


「え?」


 脈略の無い丁嵐の発言に、古鷹が首をかしげる。丁嵐はカップをソーサーに上において、窓の外を見つめたままぽつりと呟いた。


「呉の松崎城酔(まつざきじょうすい)、アイツが来るのね」


 呉鎮守府現提督「松崎城酔」。階級は丁嵐と同じ少将。陸上がりの変わり者で、最前線の呉を統率する古兵。その経歴には謎が多く、海軍に入ってからの情報すらはっきりしない。


 この松崎という男。海軍内で対立する「大島派」の唯一の少将でもある。同じく大島派の大古株の佐世保からは、丁嵐より階級の高い中将が訪問してくる。


 観艦式に乗じて派閥の人間が派遣されてくる事はあらかた予想通りであったが、そのどちらもが特務権限を持つ将官。しかも「呉の亡霊」まで引っ張ってくるなんて…。


「目障りなブタ共」


 醜く肥え太った豚と、死臭に這い寄る亡霊。

 丁嵐は歯噛みした。


 障害、邪魔者、害獣、害悪、目障り、害虫、害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫害虫


 ドンと机を蹴り飛ばしながら立ち上がる。丁嵐は薄笑いを浮かべながら、持ったカップを古鷹に手渡した。目を丸くする古鷹を無視して、一人優雅な足取りで入り口に向かう。呆然と見送る秘書艦を残して、音を立てて司令室の扉を閉めた。


(誰もアタシの邪魔はさせない。もし奴らがその気なら、アタシがヤってやる)


『去年と、同じように』








 沈みはじめた太陽が、穏やかな海を赤く染めあげる。桟橋の近くのベンチで、加古と江風が向かい合って座っていた。組んだ足にひじを乗せて唸る江風、木漏れ日に照らし出された盤面から加古の指が離れた。突如自陣に現れた「たたきの歩」に江風は頓狂な声を上げた。


「ンぎゃっ!あんまりいじめないでおくれよ姉御」


 泣き面を晒す江風に、加古は白い歯を見せて笑う。


「相手の手駒も見れないようじゃ神通以下だぜ、若造」


 盤面を見下ろしながらうんうんと唸る江風の背後から、小柄な少女が顔を覗かせる。加古はその見知った顔に盤面から小さく顔を上げた。


「お疲れ様です。今日は神通さんではないのですね」


 初霜は江風の後ろから二人の間の盤面を覗き込む。将棋はわからぬが、二人の表情を見るにどうやら江風の劣勢のようだった。


「神通は今日は『あっち』だ」


 加古が親指を突き出して海のほうを指差す。桟橋を挟んで少し離れた海面に、神通が主機だけをつけて浮かんでいる。名取がその側で神通の手を引いていた。

 最近初霜はよくこの面子とつるんでいた。いつもはそばにいるはずの日向の姿は今日は見えない。


「訓練ですか」


「初霜はやさしいね。コイツなんかあれを見て水遊びだとぬかしやがった」


 江風が盤面を睨み付けていた難しそうな顔を、90度回転させ海のほうへ向ける。一定の回転数で小刻みに足を動かす神通を見て、眉間のしわを一層深く刻み込んだ。


「惨めなもンだぜ『鬼の神通』。トーシローでもあるまいし、華の二水戦が聞いて呆れるぜ」


 『鬼の神通』とは水雷屋時代の神通の通り名である。「戦場の華」「水雷の一本槍」「川内型に神通あり」。駆逐艦で神通の名を知らぬ者はいない。華々しい戦果と厳格な性格で『鬼神』とすら恐れられた伝説の巡洋艦。

 そんな神通の衝突事故は駆逐艦の間では大きなニュースになった。夜間の無灯火演習中の出来事であった。神通は隊の駆逐艦と接触事故を起こして大怪我を負ったのだ。続けざまに川内型「那珂」も大破し、未曾有の大事故に発展した。

 神通と衝突した駆逐艦は不運な事に「主機」を損傷していた。主機は艦娘の足に装着している艤装で、高出力ホバーと遠心力で艦娘を海上に浮かべるおおよそを担っている重要な機関である。

 駆逐艦は衝突の衝撃で転倒、沈没。艦娘を海面に浮かべるはずの主機は、皮肉な事にそのまま彼女を沈める重りと化した。神通は衝突の直後に自らの主機を破棄、命令を無視して海中に救助に向かった。一度は艦の引き上げに成功するが、神通本人の損傷と沈没船の重さに耐えかね海中でつないだ手を離してしまう。視界の悪い夜間での事故であった事もあり救助は難航、引き上げ艇が到着したのは事故が発生してから1時間以上も経過した後の事だった。

 

 ゆっくりと海上を滑る神通の後ろ姿を初霜は寂しげに見つめる。その前方で、名取が陸に背を向けて沈む夕日を見つめていた。自分の足元を見ながら航行する神通はそれに気付いていないようだ。二人の距離がぐんと近づき、初霜は思わず声を上げた。


「ぶ、ぶつかりますよ」


「ひゃう!」


 そんなに大声を出したつもりはなかったが、神通が悲鳴を上げて飛び上がった。途端に両足のバランスを崩し、ぐらりと上半身が揺れる。悲鳴に気が付いた名取が差し出す腕に、すがるようにしがみついた。名取が神通の肩を抱き、片手で主機を停止させてやる。

 思わず口をあける初霜を、加古がたしなめた。


「こら初霜、神通に「ぶつかる」は禁句だ」


「す、すみません」


 名取の腕の中の神通は、真っ青な顔で小刻みに震えている。

 神通が受けた傷(トラウマ)は外装の表面を貫き、心の蔵に「膿」のように広がっている。そこから伸びた黒い触手が、彼女の全身を支配していた。

 彼女が恐れるのは自らが沈む事なのか、それともまた誰かを沈めてしまうかもしれないという強迫観念なのか。いずれにせよ責任感の強い神通だからこそ、こんなにも深く強い恐怖が根付いてしまっているのだろう。


「なっさけないねえ軽巡。旦那だってまだ演習の傷が癒えてないのに出撃してるってのに」


 江風がボヤく。その言葉通り、日向は今日の午前中から攻勢作戦に参加していた。彼女としては実に9ヶ月ぶりの出撃になる。


「ま、旦那本人が納得してる訳じゃないだろうがね。あれもあれで複雑なんだろう」

 

 加古が夕日に目を細めながらつぶやく。

 今回の作戦、日向は航空戦艦では無く通常の戦艦として登録している。飛行部隊は搭載せずに、偵察用の瑞雲を数機同行しているだけの普通の戦艦だ。航空戦艦としての運用では無く、昨今の戦艦不足の補充要因としての人選であった。


「今は仕方ありません」


 ベンチに腰を下ろした初霜が強い口調で話す。

 軍はまだ日向一人の「航空戦艦」という艦種を認めていない。明確な運用方法の確立されていない航空戦艦をやすやすと戦略に組み込んだりはしないだろう。発艦時の足止めも、器用貧乏な攻撃力不足も、それを補って余りあるリターンがあると戦術的にも証明できていない。初霜は理解(わか)っていた。今は耐え忍ぶ時だと。


「日向様はきっと戦艦の新時代を切り開いてくださいます」


 真剣な顔の初霜を余所に、江風はちらと隣に座る加古へ視線を送る。加古はそれに気が付いていたが、大して興味が無いのかただ水平線を見つめていた。


「前から聞きたかったけど、二人はどういう関係なンさ?」


 江風の素直すぎる質問に、加古はわざとらしく眉をひそめた。初霜はそれを特別意識した様子も無く答える。


「初霜は、日向様を尊敬しております」


「答えンなってねぇじゃンか」


「江の字」


 向けられた加古の視線は「つまらない事聞くな」とたしなめられているようで、江風は肩をすくめた。面白くなさそうに将棋の駒を手で弄んでいると、高く響く喇叭の音にその場にいた全員が顔を上げた。


「日向様が戻られました!」


 喇叭が鳴り止まぬ間に初霜は立ち上がる。

 誰よりも先に駆け出していくその背中を、江風は実につまらなそうに見送った。







【第9章】おねえちゃんなんて だいっきらい!



 深海棲艦の補給路の分断。それが、今回日向達に下された作戦の概要であった。アリューシャン方面より南下してくる深海棲艦群。それらは度重なる鎮守府の反復攻撃を凌いで、本土に迫ってきていた。

 大湊が中心となり3度に渡りそれを迎撃したが、今奴等は四度目の突撃に向け体勢を立て直している。

 海域上に補給地がある。それが大本営の出した結論だった。


 横須賀のメンバーはこの補給地の探索と、対空部隊の補強に従事。日向は強化された対空砲を使い、迎撃隊として作戦に参加した。大湊について3日の後に戦艦金剛率いる捜索隊が補給地を発見。多数の補給艦を撃沈し、補給路の分断に成功した。その間日向は鎮守府に駐在し、対空警戒と哨戒に努めた。

 その後大湊が4度目の迎撃に成功。殲滅戦に向け進行を開始。金剛隊がそれに続くように殲滅戦に参加。日向と数隻の巡洋艦を含めた対空補助隊は、戦力過多と判断され一足先に鎮守府に帰投した。帰りの作戦報告の中で金剛が敵旗艦を轟沈させたと報告を受けた。


 日向は負傷した駆逐艦を曳航し鎮守府へ。沖からおぼろげに見える鎮守府の灯が、遠い陽炎のようにちらついて見えた。

 重い体を引きずって桟橋に上がると、帰投の喇叭が鳴り止まぬうちに演習場より初霜が駆け寄ってきた。


「ご苦労様ですっ!」


 鋭い敬礼に、その場にいた全員が肩を張る。疲弊した筋肉を無理やり鼓舞して礼を返した。満足したように微笑む初霜の後ろから、白衣の影がのっそりと顔をのぞかせた。


「駄目よ初霜。急に気を張ると貧血を起こす娘だっているんだから」


 千歳がバットを担ぐかのように、手に持った一升瓶を振り上げる。異様なその風体に、並んだ駆逐艦がいっせいに身を引く。赤い顔の千歳は横並びになる駆逐艦を一瞥し、口角を上げて煙草を揺らした。


「初月と皐月はすぐに艤装の調整。他の子はお風呂行っちゃいなさい」


 一瞬放心する駆逐艦たちが、「指示を出された」という事実に気付いていっせいに動き出す。初月と皐月そして日向を残して、どたばたと千歳の脇をすり抜けるように駆け出した。


「高角砲二人はあたしとおいで。まったく、無茶するんじゃないよガキが」


 初月と皐月は襟首を掴まれたまま、ずりずりと引きずられていく。一人残された日向を初霜が見上げる。日向が口を開く前に、二人に声をかけるものがあった。


「お疲れ様です、『航空戦艦殿』」


 いつの間に現れたのか、長身の女性が桟橋の縁に立っている。スラリと足が長く、気怠るそうに胸の前で腕を組んでいる。整ったショートボブが海風に揺れていた。

 初霜が背後を振り返るより先に、日向が初霜と女性の間に割って入った。すばやく自分の後ろに初霜をかばい、自分はぐっと相手へ顔を寄せる。長身の日向の威圧を受けても女性はひるむことなく、訝しげに眉を寄せた。


「私、何かしたかしら?」


「君の「姉」には世話になっているよ」


「そんなに警戒されるほど、榛名が迷惑をかけているかしら」


 女性が顔をそむけながら、鼻の頭に引っ掛けた眼鏡を整える。高速戦艦「霧島」は、ため息をつきながら一歩引き下がった。


「提督が、あなたをお呼びよ」


「これはこれは、かの『高速戦艦殿』がわざわざお使いとは恐れ多いね」


 日向の芝居ががった台詞に、眼鏡の奥で不機嫌そうに瞼が狭まる。不満を隠せぬ正直な瞳の色は、実に榛名に似ていた。


「その程度の嫌味に目くじらを立てていては、金剛型(あの子達)の末妹は務まらないわ」


 つまらなそうに霧島が鼻を鳴らす。その様子を見て日向はやっと警戒を解いた。腰にしがみついた初霜がおずおずと顔を出す。その頭の上にぽんと手を添えた。


「すまない、非礼を許してくれ」


 霧島は口の中でため息を飲み込むと、目をつむって肩をすくめた。羽織った千早の袖が、安堵したかのように左右に揺れた。


「構わないわ。その程度の偏見で気を落としていては、榛名(あの子)の妹は務まらないわ」


 そう言って小さく口の端を緩める仕草には大人びた落ち着きがある。金剛とも榛名とも違う、寛容に物事の成り行きを楽しむ余裕を感じる。次女はもっと活発なタイプだと聞いているので、きっと彼女独自のものなのだろう。

 攻撃的で恐れを知らぬ金剛型の精神だが、霧島にはそこに奥ゆかしい思慮深さを感じる。榛名がその心をひとかけらでも持ち合わせていれば…。


 思い浮かべておいて、自分の考えにあきれる。

 榛名とは傲慢で陰険な精神の代名詞であり、思慮深く寛容な心があればそれはもう「あの」榛名とは別物だ。


 日向の表情を見て、思っている事が知れたのか霧島は口元に手を当ててクスクスと笑った。


「似ていないでしょう。榛名にも、姉様方にも」


「よく言われる?」


「どこへ行ってもよ!もう、偉大すぎる姉を持つのも考えものね」


 肩を落とす霧島に、日向は苦笑する。

 我の強い姉達を見ているからこそ、強くそれらを受け入れられる寛容さがあるのではないだろうか。日向はそう感じていた。



 司令室へ向かう日向の背中を見送った後、霧島は違和感に気が付いてふと視線を落とす。不思議そうに自分を見上げている初霜とちょうど目が合った。

初霜は驚いたように飛び上がり、霧島の視線を真正面から受け止めた。ぎゅっと小さな手を胸の前で固める。

不思議な少女であった。

実直な芯の強さを感じさせる強い瞳。それはあの日向を思わせる。しかし、不用意に他者を傷つけるような気概は持たず、むしろ霧島はこの少女から小動物のような愛らしさすら感じていた。


霧島がそっと手を伸ばす。

 指先がその髪に触れた瞬間に、初霜の体が強く硬直するのを感じた。反射的に指先を話すと、初霜は瞬く間に霧島の脇を抜けて日向の背を追ってしまった。


 小さな背中を振り返り、霧島は悲しそうに目を細めた。


「偉大すぎる姉を持つのも考え物ね…」







「お帰んなさい日向」


 丁嵐は執務机に向かったまま、顔も上げずに日向を出迎えた。いつもは小綺麗に並べられているインクの瓶や文鎮が机の上に雑然と散らばっている。その上にさらに書類を重ねるもんだから、そこら一帯はもう何が隠れているか当人にしかわからないような有り様だった。


「ずいぶんと暇そうだな」


「全くよ。観艦式のスケジュールも出さなきゃ行けないのに、このイレギュラー出撃。お肌が荒れちゃうわ」


 丁嵐は万年筆を置くと、事務用の眼鏡をはずして書きかけの書類の上に立て掛けた。

 バッチリとメイクをしているのはいつも通りだがファンデーションでも隠しきれないくまのあとが、まるで落としそびれたシャドウの様に目の周囲を縁取っていた。


「あんたは元気そうでよかったわ。航空甲板の調子はどう?」


「万全だ、不備はない。これで実際に使わせてくれれば文句はないんだがな」


 嫌味で言ったつもりだったが、丁嵐は存外不機嫌そうに眉を吊り上げた。


「無茶言うんじゃないの。アンタ訓練でもまともに戦術運用できてないじゃないの。報告は上げさせてもらってるわよ」


 痛い所を突かれ、日向も軽く身を引いて見せる。


「試行錯誤はしてるさ、目下検討中というやつだよ」


「あまり悠長にはしていられないわよ。辞令よ、アンタに」


 引き出しから取り出した書類を丁嵐が机に広げる。それを丁寧に折りたたんでいくと、物々しい黄金色の書状が直径20cmほどの紙飛行機に姿を変えた。


「それっ」


 風に乗って漂うそれを空中でキャッチする。固く折りたたまれたそれを再度開いて書面に目を落とした。


『航空戦艦 日向』


 第一文に心が高鳴る。

 航空戦艦

 海軍内で日向しか持たぬ肩書き。逸る心を抑えて、続く文に視線を移した。


『右ノ者ヲ海軍大演習ノ大隊旗艦ニ任命ス』


「海軍、大演習…」


「そ」


 丁嵐が机の上で両の掌を合わせた。


「航空戦艦のお披露目ってわけ」


 海軍大演習とは、観艦式において「公開演習」と呼ばれている演目である。

 幾多の艦娘、軍人が集まる観艦式で「装」と「技」を競う「武の祭典」。観艦式の目玉とも言えるこのイベントは、艦娘の評価や後の武勲と決して無関係ではない。大演習で勝ち名乗りを上げるのは後の武勲艦に他ならないのだ。


「開始時間は?」


「当日一五○○時から。夜戦無しの部の最も遅い時間よ」


 昼の部のラスト、舞台的にも最も注目が集まる時間だ。お膳立ては完璧。ここで航空戦艦の強さを見せつければ、戦略上で大きな意味を見いだせる。

 戦艦の新時代。その言葉が実に現実的な輝きを持って、突然目の前に現れた。

 

「相わかった。大演習旗艦の任、拝命しよう」


 大きく感情に出す事はないが、強く握られた拳に感情の全てを乗せる。堂々としたその立ち姿を見て、丁嵐も安心した様に小さくうなずいた。


「張り切ってちょうだいよ。これに負けたら、大好きな初霜とも会えなくなっちゃうんだから」


「・・・」


 ぞわり と


 冷たい何かが背中をなでる。


 締め付けられた心臓が悲鳴を上げる。


 急に部屋の温度がぐんと下がったように感じた。


 薄暗い部屋の中で、丁嵐の場違いな笑顔が不気味に浮かんで見えた。


「なんの…事だ」


 かろうじでそれだけ声を発した。

 丁嵐が日向の手の中の紙飛行機を指さす。折りたたまれた書状の端、そこにはまだ文章が続いている。


『ナホ、貴艦ガ大演習ニテ敗北ヲ喫シタ場合』


 続く言葉に、日向は愕然とした。

 

『貴艦ノ艦娘ノ任ヲ解キ、【解体】トスル』





「そんなバカな話があるかっ!」


 日向の怒声が司令室中に響き渡る。丁嵐は「きゃっ」と小さく悲鳴を上げて肩を縮めた。


 解体だと?解体とは武装を解除させられ、正式に軍属を離れる事。そんなの納得できるか!


「私は何の為にこんな体になったんだ!」


 日向の発言は最もであった。

 航空戦艦に改装されてまだ3ヶ月と経っていない。目立った戦果が上がっていないとは言っても、航空戦艦という選択肢を切り捨てるには早すぎる決断だ。

 机に歩み寄り、丁嵐の襟元をぐいと掴みあげる。


「知ってる事洗いざらい全て話せ!」


 今にも喰らい付かんとする日向の圧を受け、さすがの丁嵐も引きつったように口元を歪める。机の上に強引に体を引き寄せられ、積み重なった書類が一斉に周囲に散らばった。日向は怒りに任せて、ぎりぎりと丁嵐の首を締め上げた。


丁嵐の体が宙に浮く瞬間。突如掴んだ腕に衝撃が走った。電流を流し込まれたかのような鋭い痛みに思わず手を放すと、続けざまにわき腹と胸に重い拳が突き刺さった。


「ゲッ、ア…」


 内臓がひっくり返るかのような痛みと不快感。胸を抑え込みながら懐を見やると、腰をかがめた黒い影が今にも日向のわき腹に肘を打ち込まんとする瞬間だった。

 息を吸った瞬間に腹の中に肘が食い込んだ。全身に広がる痛みと嘔吐感に、思考をぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。


「それ以上の狼藉を見逃す訳にはいきません。航空戦艦」


「ふ、ふる…クソが…」


 脇腹を抑えながら、崩れ落ちるように膝をつく。髪をつかまれ無理矢理顔を上げさせられると、だらしなく開いた口からヒューヒューと乾いたそよ風が漏れ出した。自分を見下ろす左の瞳だけが煌々と輝いている。


「やめなさい、古鷹っ!」


 珍しい丁嵐の怒声に、髪をつかんでいた古鷹の手が離れた。はらりと前髪が解け、重力に従い日向の体が崩れ落ちる。


 秘書艦「古鷹」。横須賀の「殺し屋」。

 珍しく姿が見えないと思ったらこれだ。

 

 椅子から立ち上がった丁嵐は、古鷹を下がらせて日向のそばで立ち止まった。膝をついて悶える日向には、そろえた足の先だけが視界の端にちらつく。


「アンタは自分が見捨てられたと思ってるかもしれないけど、上は航空戦艦を切り捨てた訳じゃない。むしろ逆よ。上は一日でも早い航空戦艦の「実用化」を望んでる」


 乱れた襟元を調えながら丁嵐が続ける。


「航空戦艦のテストケースであるアンタをうちの鎮守府でくすぶらせておくわけにはいかないのよ」


 テストケース。

 確か丁嵐が始めて航空戦艦の話を持ち出してきた時も、彼はそう言っていた気がする。 


「目立った戦果があるのならともかく、今のアンタは所謂2軍。でもね、本部の研究者達は喉から手が出るほどアンタを欲しがってる。どんな強引な手を使ってでも、アンタを解体(バラ)して「航空戦艦」を隅々まで調べたがってる」


 馬鹿げてる。

 私の命を何だと思ってるんだ、コイツは。


「フザけやがって…」


「フザケけていられないのはアンタの方よ日向。榛名達はとっくに調整に入ってる。観艦式まで時間が無いのよ」


 突如振って湧いたその名前に、日向は全てを察した。

 拳を地面に打ち付けて、四つんばいになるように上半身を持ち上げる。


「相手は榛名か」


「金剛もよ」


「……クッ!」


 持ち上げた拳をそのまま床に叩き付ける。

 金剛と榛名、鎮守府のツートップを相手に立ち回れというのか。


「それだけじゃないわ。相手の6隻は完璧な「最強」を揃えてる。あたしも上からお達しを受けてるのよ。『日向には絶対に勝たせるな』ってね」


「お前は、私に死んでほしいのか」


「本当に価値があるのが何なのかって話よ。お望み通り戦艦の新時代の礎になれるのよ、少しは喜びなさい」


 丁嵐が日向に背を向ける。

 まるで「話はここまで」とでも言いたげなその背中に、日向は震える声をぶつけた。


「わ、私は解体されるのか?」


「さあね、そこまでは聞いていないわ。ただ一つ言えるのは…」


 一瞬の沈黙。

 振り返った丁嵐の顔は、きっと聖母のように温かで慈愛に満ちているだろう。


「負ければ、もう二度と海に出る事はない。今までお疲れ様、日向」





 古鷹に叩き出される様に司令室を後にし、日向は向かいの廊下で崩れるように壁に手をついた。扉の前で待っていた初霜が不安そうに自分を見上げていたが、とても気になど留めていられなかった。


「解体、解体、解体ね」


 うわごとの様に呟きながら廊下を歩く。

 今まで自分がやっていた事はなんだったのか。航空戦艦とは、戦艦の新時代とは、そもそも艦娘「日向」とは、一体なんだったのか。

 寄りかかった窓に自分の姿が移り込む。鏡合わせの自分は、可笑しくなってしまったかの様に笑っていた。今にも泣き出しそうな、子供のような目をして。あての無い助けを求めて、ただ虚空を見つめている。

 

「ははは、私は、何の為にこんな体になったんだ…」


 女を捨て、人を捨て、体中傷だらけにして。力を追い求め人から離れすぎた体。振り上げられた拳はどこにも振り下ろされる事なく、ただ腐り、朽ちていく。


 よろよろと足を止めては、壁に寄りかかり肩を震わせた。

 

「何の為に…クソっ!」


 怒りのまま壁を殴りつける。

 戦艦の強靭な握り拳が、まるで剃刀を握り締めたかのように痛かった。


「日向様…」


 背後に迫る小さな足音。


 ああ神様、私が何者でもなくなっても、この子だけは絶対に私の隣にいてくれる。それが解っているのに。それが、救いなのに。


「消えろ初霜」


 なのに…。


「…え?」


 足音が、止まる。


「消えろ」


 初霜の心が揺れる。手に取るようにわかる。

 何故だ初霜…。


「は、初霜は日向様の、お側に」


 何故お前は、どこまでも私を追い詰める。


「お前に守られる価値などあるか。こ、この私に」


 初霜につられて、声が震える。 

 

「日向様には、戦艦の未来を担う志がございます。この初霜…」


「お前の期待も憧れも!全部、全部重荷だ!」


「日向様!」


 初霜が、一歩近づく。

 その一歩にどれだけの勇気が含まれているのか。


「五月蝿い」


 その勇気を、私は一蹴した。


「【日向】!」


 ああ、初霜。お前は本当に。


 急に、大声を、出すんじゃない…。


「目障りなんだよっ!【初霜】!」


 ああ、早く。

 早く早く早く。


 足音が遠ざかっていく。

 足音が、遠ざかってく。

 愛しき足音が、遠ざかっていく。


 もうあの足音を聞きながら海辺を歩けないのかと思うと…。


 声を殺して、泣いた。




 遠くの空で、一機の飛行機が高く尾を引いている。

 立ち上る雲が長く、長く青空を二つに分けた。


後書き

次に続きます。→立ち上る雲―雷雲戦隊奮戦記―
------------------------------------------------
「松崎城酔」のキャラクターは『僕と久保』様作、『艦隊これくしょん/木漏れ日の守護者』よりお借りしています。
本編はこ↑こ↓
Pixiv
http://touch.pixiv.net/series.php?id=693268

※2016年6月20日投稿


このSSへの評価

13件評価されています


SS好きの名無しさんから
2017-02-08 07:19:09

SS好きの名無しさんから
2016-10-02 01:58:05

SS好きの名無しさんから
2016-09-23 02:04:42

SS好きの名無しさんから
2016-08-18 21:26:53

SS好きの名無しさんから
2016-08-07 11:11:58

SS好きの名無しさんから
2016-08-05 15:54:52

SS好きの名無しさんから
2016-07-28 12:18:21

くたくたさんから
2016-06-28 02:41:55

SS好きの名無しさんから
2016-06-27 17:34:38

SS好きの名無しさんから
2016-06-21 21:48:25

ようさんから
2016-06-21 19:54:38

SS好きの名無しさんから
2016-06-20 20:56:03

十文字9418さんから
2016-06-20 20:46:22

このSSへの応援

10件応援されています


SS好きの名無しさんから
2016-10-02 01:58:08

SS好きの名無しさんから
2016-09-23 02:04:40

SS好きの名無しさんから
2016-08-07 11:12:03

SS好きの名無しさんから
2016-07-28 12:18:17

SS好きの名無しさんから
2016-07-04 21:14:29

くたくたさんから
2016-06-28 02:41:57

SS好きの名無しさんから
2016-06-27 17:34:27

ようさんから
2016-06-21 19:54:43

SS好きの名無しさんから
2016-06-20 20:56:06

十文字9418さんから
2016-06-20 20:46:09

このSSへのコメント

27件コメントされています

1: くたくた 2016-06-28 02:41:37 ID: Bycd21yU

装甲に傾斜つけて、榛名の砲弾を弾いてしまえ、足を徹底的に狙って、にじり寄って、自慢の打ち刀でナマスにしてしまえ(伊勢型大好きです)
演習の結果が、気になります!

2: しらこ 2016-06-28 15:28:23 ID: V6MNwRlg

>くたくたさん
いつもコメントありがとうございます。
そういえばポン刀担いでましたね。すっかり忘れていました。
どうせなので、適当に刀の設定を考えてみる事にします。
榛名さんは愛され乙女なので許してあげてください。最終回で顔芸しながら爆死します。

ご意見ありがとうございました。

3: 十文字9418 2016-07-04 18:21:34 ID: QntsUTg1

他のssにはない艦娘の組み合わせ、口調…良いですねぇ、痺れますねぇ(某雷巡風)

定期更新はなかなか大変だと思いますが、無理のない範囲で頑張ってください( 'ω')b

4: くたくた 2016-07-04 20:48:30 ID: TzInakgA

先陣を切る戦艦と、勇敢な駆逐艦
楽しみにしてた甲斐がありました!面白いです。
戦闘の迫力が、良いですね。殺気が伝わると言うか

5: ニンニク 2016-07-05 01:17:49 ID: zB2Xnwnn

続きが楽しみです!

6: しらこ 2016-07-05 15:03:09 ID: QdWrtLJU

>十文字9418さん
コメントありがとうございます。
艦娘の組み合わせは日向初霜以外は、ほとんど史実上での絡みの無い艦から選んでいます。ライバルを榛名にしたのは、日向と比較して、進水日と近代化改装時期を考慮した結果です。
他の艦に関しては、登場人物のキャラクター性を先に決めて、それに合いそうな艦娘を後から選定しています。


>くたくたさん
コメントありがとうございます。
戦闘シーンは相変わらず勉強不足な部分が多く、細かい数字や用語などは一般に出回っている旧軍資料や戦記物の小説などを元にイメージで書かせて頂いております。
深滅兵装の設定や、日向の八式艦刀等の艤装は、以前のコメントを参考させて頂いた物になります。今後もご意見等ございましたら、気軽にコメントお願いします。


>ニンニクさん
いつもコメントありがとうございます。
そう言ってくださると、大変励みになります。
このSSは毎週更新を目標に執筆させて頂いていて、予定通りにいけば完成まで5万字ほど、8月中での完結を目指しております。
少々長くなりますが、お付き合い頂けますようよろしくお願いします。

7: SS好きの名無しさん 2016-07-06 20:26:51 ID: X86CKAaC

非常に楽しく読ませていただいています。
しかし、ド旧型の金剛型が最新型なのだけはすごい違和感なんですが。

8: しらこ 2016-07-06 23:16:10 ID: GNX8oFTL

>X86CKAaCさん
コメントありがとうございます。
そもそも作中時間は大戦時とは時系列が違いますので、何を言ってもこじつけになってしまうのですが。
個人的には金剛型(例:一番艦金剛)完成「1913年(当時装甲巡洋艦)」→日向進水「1917年」→金剛第一改装(戦艦化)「1931年」→金剛第二改装(高速戦艦化)「1937年」→◆作中時間◆→日向大型改装(航空戦艦化)「1943年」
↑のような感じで、戦艦になって艦隊の主力になったのは日向進水より後、というイメージで「日向から見て新型の戦艦」という意味で【最新型】という言葉を使っています。こんな感じでご納得いただけないですかね?
ご意見、ご質問ありがとうございました。

9: SS好きの名無しさん 2016-07-06 23:20:32 ID: X86CKAaC

7です。なるほど納得です。ありがとうございます。

10: くたくた 2016-07-18 20:00:29 ID: lmEfdRhe

負けちったか・・・

11: しらこ 2016-07-18 20:45:49 ID: g-BdAozA

>くたくたさん
コメントいつもありがとうございます。
航空戦艦になる前に勝っちゃったら、物語終わっちゃうからね!

12: ニンニク 2016-09-27 22:51:42 ID: a0L8Ehgg

日向が航空戦艦になった今、彼女がこれからどう行動するか楽しみです!

13: しらこ 2016-09-29 09:54:15 ID: PWUcab9d

>ニンニクさん
いつもコメントありがとうございます。
日向も航空戦艦になって、物語もやっと折り返しを迎えました。
この後もまだまだ苦難の連続ですが、日向の快進撃にご期待ください。
(負けないとは言っていない)

14: ニンニク 2016-10-04 08:33:34 ID: LY-CwZZn

不穏な空気が流れ始めてますね、日向も問題を抱えていて一体どうなることやら。続き楽しみです

15: しらこ 2016-10-07 10:27:14 ID: 9L8QB6Un

>ニンニクさん
いつもコメントありがとうございます。
謎の男(手遅れ)は鎮守府側、提督や古鷹を動かすキャラとして登場させています。
今後は謎の男VS提督&日向VS榛名の二面構成で物語が進んでいく予定です。
日向側は変わらずのんびり&まったり。
提督側はほのぼの&エッチな構成を想定しておりますので、ご期待くださいませ。

16: SS好きの名無しさん 2016-10-17 21:32:55 ID: bXUFrb0x

ポップコーンとはまたw害虫連呼は狂気を感じますね、続き楽しみです!

17: しらこ 2016-10-18 11:40:53 ID: w7SxFkk-

>bXUFrb0xさん
コメントありがとうございます。

観艦式では艦娘同士の公開演習が行われます。分かり易く言えば身内の喧嘩です。「艦娘最強は誰か?」鎮守府内で必ずと言っていいほどのぼる話題でしょう、それの一端を垣間見える観艦式は艦娘達の一大娯楽です。実際に観艦式に参加できない艦娘達も、ローカル中継でリアルタイムに試合を観戦しています。
そんな興奮のるつぼで最低限の調和を保とうとすれば、それは口の中に広がるバターとわずかな塩気の和声しかありえません。つまりポップコーン。

害虫連呼は稚拙な表現になっちゃうかなと危惧していたのですが、思い切ってやってよかったです。初めは「障害」を表す単語を延々と羅列しようと思っていたのですが語彙力が足りず挫折しました。

18: ニンニク 2016-10-23 22:32:52 ID: 9pAvEGg0

投稿いつもお疲れ様です。神通ならきっとトラウマを克服してくれると思うけど悲惨な事故ですね、初霜は日向を慕っていて可愛い、これからどうなるか続きがとても楽しみです!

19: しらこ 2016-10-24 15:05:08 ID: A2TKx2-v

>ニンニクさん
いつもコメントありがとうございます。
私の中で神通は「強い」というイメージが先行してしまっていて、二次創作などでキャラクターが固まってしまっている印象がありました。なので、雲の中では「活発な姉妹に押される、ちょっと内気なお姉さん」という艦これ初期のイメージを推して描写しています。
衝突事故自体は史実を参考にしたものですが、最上や深雪に比べあまりフィーチャーされていないので面白い題材だと思い採用しました。

 日向が物語をひっぱるキャラクターだとすれば、初霜はその日向を支える存在です。ただの引き立て役ではなく、時には日向のしるべとなり、また日向の行動目的となるキーキャラクターでもあります。ただの付き添いキャラではなく、どういう心境でお互いに身を寄せているか考えて頂くと、物語がちょっと深く理解できるかもしれません。

20: ニンニク 2016-11-11 14:56:58 ID: URIfsFUe

霧島は普通なのか・・・?ちょっと身構えてしまいました。
日向は次から次へと大変だ一体どうなることやら続きが楽しみです。

21: しらこ 2016-11-13 14:59:56 ID: gSEx-xr-

>ニンニクさん
コメントいつもありがとうございます。

金剛型は皆普通じゃないみたいな言い方ヤメロォ!
作中でも日向が感じておりますが、霧島は金剛型のまとめ役であり、長女である金剛の勢いに流されがちな姉妹を軌道修正する役を担っています。その為本人は常識的思考の持ち主であり、姉妹の仲でも高い信頼を得ています。

ただ高速戦艦姉妹の振り回す物騒な艤装は、全て彼女が技術大佐と共同して設計を手がけているという設定もあります。そういうマニアックでサイコな部分も作中に出していければと思っています。

以上。
最近実は日向嫌いなんじゃないか疑惑が出ている作者でした。
好きですよ日向。いぢめたい。

22: ニンニク 2016-11-14 10:22:00 ID: AT5TYw5P

前編完結大変お疲れ様でした、とても長い間投稿されていてすごいです。
霧島はかなり優秀ですね、艤装の設計まで手がけているのは流石。

この世界は人間ベースの艦娘って設定なのかな?
日向がどんどん追い込まれていく、これからどう展開していくか楽しみです。

23: しらこ 2016-11-14 22:31:35 ID: p3FfJZR3

>最後までコメントありがとうございます。

言うて5ヶ月ほどの更新期間ですけれども、ここまで続けられたのは読んでくださった方々。そしてコメントくださっていた方のお力あっての事です。本当にありがとうございました。
しかし、日向の物語はまだまだ続きます。まだ半分です。

立ち上る雲の艦娘は人間ベースで書いています。正直「もぐりこみ」の様に深く考えてはいないのですが、志願兵という言葉をモチーフに考えています。
キリシー含め、金剛型はいうてキーキャラクターなのでできれば全員出したいと思っています。

これからも日向をよろしくお願いします。(酔)

24: SS好きの名無しさん 2017-04-07 18:06:26 ID: lSlbiFcH

深海棲艦「とりあえず金剛と榛名は最優先攻撃目標な、いくら敵でもあの女(日向)可哀想だわ」

25: しらこ 2017-04-07 21:49:16 ID: 3q-WJpSN

>lSlbiFcHさん
コメントありがとうございます。

鎮守府にロクな奴がいないので、実際に深海棲艦が出てきたら頂いたコメントのような優しい奴等になりそうですね。
このSSには今のところ深海棲艦の登場予定は無く、設定も曖昧です。ですが、いつか深海棲艦がモチーフの物語も書きたいなー、なんて思っています。
その時はぜひお手に取って頂けると幸いです。

26: SS好きの名無しさん 2017-07-11 20:30:13 ID: abRDtuR4

今日の演習から来ましたwww

27: しらこ 2017-07-11 23:33:52 ID: U62F5uuh

>abRDtuR4さん
コメントありがとうございます。

なwwんwwとwww。
自分でも演習台詞に設定していたのすっかり忘れていました。
こんな所まで見に来てくださるとは、もしよろしければ少しでも作品世界を感じて帰って頂ければ幸いです。ではまた、佐伯湾で。


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください