雨の日は流石にいないと思うじゃん?いるんだよなぁ、グレートな奴がよお ♯5
5話
昼休み
いざ登校したものの、高坂は1人寂しく過ごしていた。落書きだらけだった机や椅子は新しいものに変えられたもののまた同じことをされるのではないかと不安に思っていた。そんな時、高坂に聞こえるようなわざとらしい声で話し声が聞こえた。
「あー、私の彼氏もどっかの誰かにとられなきゃいいなー。」
「平和な学校生活だったのに、あの新人教師も余計なことしてくれるよねえ」
「てかちょっとおっきくなってないー?あれでアイドルだったとか笑えるわー」
それは、明らかに穂乃果に向けられた言葉だった。しかし、ここで反応してしまってはまた何を言われるかわからない、そう思った穂乃果はただ聞こえないフリをしていた。
「...つまんな。高坂さーん、ちょっと髪伸びたんじゃないのー?髪切ってあげるよー。」
先程まで悪口を言っていた同級生は、穂乃果の髪を思い切り掴み上げ、ハサミを構えた。
「痛い!や、やめて!!」
穂乃果は、既に涙をこらえるのに必死だった。しかし、溢れる出す涙を隠しきれなかった。
「泣くほど喜んでくれるんだーうれしいー」
穂乃果に向けられたハサミは徐々に穂乃果の髪に近づいて行く。
「や、やめ...」
同級生を睨みつけた穂乃果だが何か違和感を感じた。そして、違和感の正体がわかった途端急に笑い出した。
「はっ?何笑って...ってなあ!?」
気づくと同級生の髪の毛はまるで重力に逆らったかのように垂直に逆立っていた。
「おー、ネットで買ったこの下敷きすげえな。こんなに静電気が出んのか。」
同級生の髪は、下敷きの静電気で形を変えていた。それをした正体は、鬼塚だった。
「ちょっ?!なんてことしてんのよ!毎朝1時間かけてセットしてんのに!!」
「へー、そんな髪をいとも簡単に変えちまうなんてさすがダマゾン、海外輸入品は違うなあ。」
鬼塚は、生徒の言葉を受け流しつつ、自分の物に対して関心を持っていた。
「あんた...教師がこんなことしてどうなるかわかってんの!?」
「わかりまちぇーん。」
鬼塚は、生徒の言葉を巧みにかわしつつ高坂を救った。気づけば昼休み終了のチャイムが鳴っていた。
「ほら、おめーらさっさと席つけ。授業始まるぞ。」
「ちっ...」
生徒は、皆席に着き、鬼塚は微笑みながら去り際に穂乃果に拳を向けた。鬼塚の行動に、穂乃果は少し学校への不安を解消することができた。
放課後、鬼塚に助けてもらったがやはり不安は残っており、さっさと帰り支度をしていた。すると校内放送が流れる。
『みなさま、放送部です。今日も1日お疲れ様で...うわ!なんですかちょっ...わあああ!』
いつもとは違う校内放送に生徒たちはざわついていた。すると聞き覚えのある声がスピーカーから流れ始めた。
『えー臨時放送臨時放送。スクールアイドルグループμ'sの元メンバー達にご連絡です。放課後、部室に集まりやがれ。』
電車の放送と勘違いしているような声で放送していたのは鬼塚だった。あの人また何か企んでる、と穂乃果は思いつつ部室に向かった。
部室
「呼び出されるのは良いんだけど...集まりやがれって何よ、やがれって!」
「ま、真姫ちゃん!落ち着いて!」
赤い髪をくるくると指で巻く彼女は西木野真姫、その隣で真姫をなだめるベージュの髪をした小泉花陽。
「急だもん、仕方ないやんな?」
「まあ、呼び出し方に問題はあるけど...このメンバーで集まるのは久しぶりね。」
京都弁を話す東條希、金髪美少女のクオーター絢瀬絵里。
「は、早くしてほしいものね!弟達を迎えに行かないと行けないんだから!」
どこか嬉しげに強がる矢澤にこ。
そこに部室の扉が開く。
「ど、どーもー...」
「ほ、穂乃果ぁ?!」
穂乃果のらしくない挨拶だけでなく、その存在に驚くμ'sの元メンバー達。
「ほ、穂乃果ちゃん!いつから復帰してたの!?」
「き、今日からだよ。半ば強制的にだけど。新しい担任の先生のおかげなんだ。」
戸惑いながらも涙を浮かべ喜ぶ花陽に戸惑う穂乃果。冷や汗を軽くかいていた。
「あー、だから朝あんなに騒がしかったのね。2年生の階。」
真姫は、髪の毛をくるくると巻き、戸惑いながらも納得していた。
「でも、会えて嬉しいわ穂乃果。」
絵里だけでなく、誰もが穂乃果との再会に嬉しさを隠せなかった。そんな中、呼び出した張本人の鬼塚が部室に来た。
「よーよー、集まったなお前ら。おっ、ポスターで見たまんまだな。」
突然の鬼塚の徴集にメンバーは戸惑っていたが、ようやく理由を聞くことができると思ったにこは鬼塚に問いかけた。
「あんたが新人の教師ね。穂乃果を復帰させたのは感謝するけど、これは一体どういうことなのか説明してもらうわよ。」
教師に対しても威圧的なにこ。周りはそれを止めようとするが鬼塚が口を開いた。
「ん?なんで小学生がここにいんだ?」
「私は高校生よ!こ、う、こ、う、せ、い!」
「まじか。」
鬼塚とにこの漫才のような会話の後、鬼塚はようやく本題に入った。
「理事長の許可をもらってな。今日からこの部活の顧問になった。」
「えっ?!」
μ's元メンバー達は驚きを隠せなかった。既に解散し、名前だけのアイドル研究部の顧問についたと鬼塚は話した。
「ちょっ、何勝手に決めてんのよ!しかもμ'sはもう解散してるし、顧問になってなんの意味があんのよ!?」
「ほー、じゃあ毎日放課後日が暮れるまで部室にいるのだーれだ?」
にこの口答えをあっさりとかわす鬼塚。図星のようでにこは顔を真っ赤にして黙り込んだ。
「にこっち、そうだったん?」
希の問いかけににこはうつむきながら頷いた。鬼塚は、話を進めた。
「ほらみろ、μ'sに心残りがある奴もいるんだぜ?まあ、俺も理事長に聞いただけなんだけどよ。しかも、部活自体は来年まで残るみたいだし、ここはいっちょ再結成といこうじゃねえか。」
鬼塚の提案を素直に受け入れたいと元メンバー達は当然思った。しかし、絵里はそれに反対した。
「だ、ダメよ!μ'sの解散はみんなで決めたことなの!それを安易に覆せないわ!」
「じゃあなんでお前ら不完全燃焼なんだよ?顔に書いてるぜ。」
鬼塚の言葉は、元メンバー達、特に穂乃果にとって図星だった。μ'sの解散、それに伴い穂乃果の突然の不登校、仲違い。後に知ったこととはいえそれで心置きなくいれることはまずないだろう。
「穂乃果...聞くのは悪いことだってのはわかるけど...なんで急に学校来なくなったのよ?」
真姫は、穂乃果の傷をえぐるような質問をするが穂乃果が辛いのは真姫もわかっていた。しかし、聞かずにはいられなかった。それは、他のメンバーも同じだった。
穂乃果は、涙目を浮かべながら小刻みに震えだした。辛い記憶を呼び起こしていた。絵里は、すかさず穂乃果の手を握った。
「大丈夫よ、穂乃果。私たちは絶対にあなたを見捨てたりはしないわ。」
絵里の後押しのおかげで僅かだが穂乃果の震えがおさまった。穂乃果は、μ's解散前後、何があったのか全て話した。中には共に涙を流すもの、怒りで拳を握りしめる者もいた。
最初に口を開いたのはにこだった。
「アイドルの掟を破ったことは、穂乃果、あなたが悪いわ。でも...その男...許せない!」
にこに続いて絵里が口を開いた。
「話を聞くだけでも腹がたつわね。それに海未もことりも...どうして穂乃果のことを...」
「恋心なんてそんなもんよ。本当に大切なものすらも見えなくしてしまうもの。」
真姫の言葉に、にこはすかさず反応した。
「ま、真姫!?あんた恋愛したことあるの?!」
「ま、まさか!彼氏できたことない歴17年だけど、恋くらいしたことあるわ!」
と、今度は花陽が口を開く。
「あれ?真姫ちゃんって今15歳じゃ...」
「う゛え゛ぇう゛?! うるさい!」
真姫は顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。希は、変わってしまった話を元に戻した。
「穂乃果ちゃんは、嘘をつくような子やない。穂乃果ちゃん、随分と辛い思いしたんやね。」
「わ、私の方こそ!気づいてあげられなくてごめんね!穂乃果ちゃん!!」
花陽は、もはや顔の原型がわからないほど泣きながら穂乃果の手を握りしめた。
「い、いいんだよ...掟を破っちゃった私もわるいんだし。」
「それはそれ、これはこれよ。穂乃果。」
穂乃果のフォローをするにこ。そんな様子を見た鬼塚は、微笑みながら話した。
「なんだよ高坂、頼もしいダチがいるじゃねえか。」
「先生...ありがとう!」
穂乃果は、鬼塚に初めて心から笑う顔を見せた。そして、鬼塚はいつのまにかスーツと丸メガネを着用し、マネージャーのような格好をし始めた。
「よーし!おめえら、μ'sが全員揃ったからには不完全燃焼で終わらせねえ!再結成...あ?μ'sってこんな少なかったっけか?」
μ's元メンバーは全員思った、「この人やっぱりどこか変」と。
「そ、そうか。あとは園田に南に...1年の星空だっけか?そいつはどうなんだ?」
「凛ちゃん、星空凛ちゃんは私の親友なの。元々運動神経が良くて、陸上部にスカウトされて今はそっちにいるんだ。」
鬼塚の問いに花陽が答えた。
「そうか...星空は高坂とは仲いいのか?」
「うん、大切なμ'sのメンバーだよ。」
穂乃果の言葉に星空に関してはそこまで問題はないと判断した鬼塚は、まずは園田海未と南ことりの誤解を解くことを優先した。しかし、そんなこんな話しているうちに夕暮れが近づいていた。
メンバーは、それぞれ予定あるようでその日はひとまず解散となった。
鬼塚は、身支度をしてバイクにまたがろうとすると、肩を軽く叩かれる感覚に気づいた。鬼塚が後ろを振り向くとそこには3年生の希と穂乃果がいた。
「どうした?お前ら」
「先生、元ヤンやんな?」
「え!そうなの!?」
他愛のない掛け合いをした後、希が穂乃果と鬼塚に話があるとのことだった。
「ただ、あんまり他の人に聞かれるとまた変な噂流れちゃうからどこか秘密基地みたいなとこで話したいんやけど...」
希の言葉に鬼塚は、「ならいいとこがある」と返し、3人はある場所へ向かった。
鬼塚の親友の1人、弾間龍二が経営するカフェNAGISAだった。
このSSへのコメント