2021-07-24 03:06:20 更新

8話


「おにづか先生ぇ?」


放課後、理事長室に呼ばれた海未、穂乃果、鬼塚。しかし、理事長が鬼塚に鬼の形相で詰め寄る。鬼塚は、珍しくビクビクしていた。


「いや、だからその...俺は、ダチの大切さ...をね?」


「だからって生徒の私物を壊す教師がいますか!!しかも燃やしてますし!?」


理事長は、海未と穂乃果が和解したことを聞いたが、それと同時に鬼塚が海未の私物を壊したことも聞いた。


「り、理事長!大丈夫です!親にはしっかり説明して了承を得ていますから!」


「そ、そうですよ!鬼塚先生は、大切なことを教えてくれたんです!」


海未と穂乃果は、理事長をなだめるがなかなか理事長の怒りは収まらない。


「なんとか新しい品を注文できたから良かったものの!できなかったらどうしてくれてたんですか!?」


「だ、ダチは金にも変えられないし、新しく注文することもできないっす!園田と高坂が和解できたんだし良かったでしょ?ね?」


鬼塚は、必死に弁明をする。


「たしかに...高坂さんは登校できるようになったし、園田さんと和解できて着々と前には進んでいますね。」


「でしょ?だから言ったじゃないすか〜。」


理事長は、一旦納得したように見せた。しかし、鬼塚はそれを見て油断をしていた。


「友達はお金には変えられませんものね。では、園田さんの部活用品や教科書代は鬼塚先生のお給料から差し引いておきます。」


「でえ?!そんな、バイクの支払いも家賃も色々あるのに?!」


理事長の鬼塚へのペナルティは、鬼塚にとっては痛手だった。それだけで済んだのは不幸中の幸いだが。

3人は、一緒に部室に向かう。


「ったく、教科書代に部活用品に...おいおい、いくらすんだ?」


「なんだかすみません、鬼塚先生。全部私の責任なのに...」


海未は、鬼塚に助けてもらったにも関わらず、損をする鬼塚に対し罪悪感を抱いていた。


「なぁに、気にすんな。俺たちはダチだろ?大切なダチにこんだけの金払わせられるか。それに、高坂と仲直りできたんだ。それでチャラだろ。」


鬼塚の言葉に少し安心感を持てた海未。今朝、海未は穂乃果と一緒登校した。和解後、少し海未は穂乃果に対してギクシャクしていたが、段々と昔のように戻っていた。


「そうだよ海未ちゃん!こうしてまた仲良くなれたんだもん!」


「穂乃果...ありがとうございます。」


そんな2人の様子を見た鬼塚は、教師としてのやりがいをかみしめていた。しかし、穂乃果が口を開く。


「で、でも...海未ちゃん。ことりちゃんは、なんか言ってた?」


穂乃果は、もう1人の親友であることりのことが気になっていた。


「え、えぇ。昨日の夜に、穂乃果と一緒に登校することをメールで伝えたんですが...」


海未は、そう言いながら携帯でことりからの返信メールを見てため息をついた。鬼塚は、海未の携帯を取り上げた。


「あっ、ちょっと...」


「なになに...なんだこりゃ?」


鬼塚は、ことりの返信を見て眉間にしわを寄せた。メールには、


『何があったのかわからないけど残念だな。』


とだけ書かれていた。


「ったく、ダチが仲直りしたってのに、もっと喜べねえのかよ。」


鬼塚は、ことりに対して不満を露わにしていた。穂乃果のクラスでのいじめは鬼塚が赴任したことで減少しているが、鬼塚がいなくなった後、海未だけで穂乃果を守れるかどうかが不安だった。そんなことを考えながら、3人は部室へ足を運ぶ。


「お、お久しぶりです。」


海未は、久々に部室へ顔を出した。


「くうおおおらああぁぁ!!」


「きゃあ!」


突然、海未の目の前に誰かが突っ込んできた。それは、怒りながらも若干嬉しそうにしたにこだった。


「あんたというものが!穂乃果と仲直りするのが遅いっての!!」


「ひいい!申し訳ありません!?」


にこの怒号は、珍しく海未に謝罪を言葉を出させた。しかし、怒りは一瞬で沈み、涙目にしながら海未に抱きついた。


「無事で良かった...本当に良かった!」


にこは、海未に抱きつきながら子どものように泣き始めた。海未もつられて涙目を浮かべたが先に部室にいるメンバーに感謝の言葉を述べた。


「ま、結果良ければ全て良しやね。」


希がそういうと海未は、にこの頭を撫でながらいつもの定位置に座り、話し始めた。


「康太さんのことは、本当に今でも自分が愚かでした。つい浮かれてしまった私の失態です、責任を持ってここで切腹しま...あいた?!」


そう言う海未の頭を鬼塚は、そこらにあった本でポンっと叩いた。


「ったく、おめえが死んだらまた高坂が泣きじゃくるだろうが。もうごめんなさいはなしだ。」


「わ、わかりました...」


海未は、そう言うとことりのことを話し始めた。


「恐らくですが...康太さんが穂乃果を弄び、その次に私を標的にしたとなると...μ'sで康太さんと関係をもったのはことりです。もしかしたら...」


海未は、康太の次の標的はことりだと推測した。海未を陥れる計画が失敗したとなると早い段階でことりに手を出すに違いないと。


「そ、それじゃあ!はやくことりちゃんに知らせないと!」


「ダメよ、花陽落ち着いて。海未があいつに洗脳されたように...ことりも今の様子じゃ何を言っても信じてくれないわ。」


絵里は、慌てる花陽を引き止めた。今回のことを康太自身が知らないはずもなく、次は海未の時と違って手を変えてくるだろうと全員考えていた。


「しゃあねぇ、また手伝ってもらうか。」


鬼塚は、携帯を取り出し誰かに連絡を取ろうとしていた。


「あ!もしかして二宮さん?」


「いーや、今回は国家権力よ。」


鬼塚は、穂乃果の予想と違う人物に連絡をとった。そして、龍二の店で待ち合わせをすることになった。鬼塚は、予定の空いていた穂乃果と海未を連れ、NAGISAへ足を運ぶ。


「英吉さん!やっぱ頼りになるは国家権力っすよね!」


警察官の格好をした若者が鬼塚に親しげに近づいてきた。海未は、その警官に見覚えがあった。


「あ、あなたはあの時の...」


海未が、鬼塚と穂乃果に助けてもらう直前に会っていた警官こそ鬼塚の知り合いの冴島俊行だった。


「はっ!?海未ちゃんの隣にいるその美少女は?!」


冴島は、穂乃果に向かって指を指す。


「μ'sのリーダー高坂穂乃果ちゃん!!実物だとなお美しい!」


「い、いや〜そんなぁ〜」


べた褒めする冴島、まんざらでもない穂乃果。冴島は、鬼塚にさらに詰め寄る。


「ちょっと!英吉さんの行く学校はなんでこんなにも美女ばっかりなんすか!紹介してほしぃっす〜」


「お前...そんなんだから吉祥寺からここに飛ばされたんだろ。」


どうやら冴島は、元は吉祥寺に勤務していたがこの性格のためか今の地域に飛ばされたらしい。龍二は、冴島の腹を殴り気絶させた。


「悪りぃな2人とも。ケーキ食うか?」


龍二の力技に圧巻されながらもケーキを頂くことにした穂乃果と海未。冴島は、その場で泡を吹きながら放置された。


「しっかし冴島に用があったのに気絶させるなんてよ〜。」


「こうでもしねぇとこいつうるせえだろ。起きたら伝えとくから話聞かせろよ。」


鬼塚にそう答えた龍二。鬼塚は、今後の動きについて龍二に話した。


「なるほどな、そのことりちゃんってのは会ったことねぇがどんな様子なんだ?」


「はい、今のところ以前の私のように穂乃果をクラスメイトと一緒に拒否している状態でして...」


龍二の問いに辛そうに答える海未。今の海未にとってクラスメイトやことりの状態は異常にしか見えず、以前まで自分も同じ状況だったと思うと胸を締め付けられるようだった。


「潜入捜査なら任せてください英吉さん!二宮さん程ではないですけど国家権力見せてやりますよ!まずは、海未ちゃんと穂乃果ちゃんと一緒に隣町まで行って、そこから俺は2人で夜の飲屋街を...」


いつのまにか目を覚ましてご機嫌な冴島。企てた計画を言い終わる前に再び龍二に腹を殴られ、泡を吹いて気を失った。


「だ、大丈夫かなぁ...」


穂乃果は、そんな冴島を見て不安を覚えた。


「大丈夫だ、やる時はやる奴だよこいつは。」


龍二は、そう答えるが海未と穂乃果はいまいちピンとこなかった。


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