雨の日は流石にいないと思うじゃん?いるんだよなぁ、グレートな奴がよお ♯9
9話
翌日、穂乃果は海未と一緒に登校。教室に入るとクラスメイトは全員2人を見て小声で話していた。
「園田さんどうしちゃったの?急にコロッと高坂さんと仲良くして。」
「きっと脅されてるのよ。鬼塚先生にさ。」
「うわー、可愛そう...」
その話は、小声ではあるがたしかに2人に聞こえていた。もちろん内容は根も葉もないものだが海未は、不登校前後の穂乃果がいかに辛かったかを痛感した。
「穂乃果、放っておきましょう。」
「う、うん。」
海未は、穂乃果にそう伝えるがいち早くこの事態を終息させたかった。鬼塚は、1ヶ月しか音ノ木坂にいない。果たして鬼塚が去った後、穂乃果を自分1人で守りきれるか不安だった。
「おはようみんな!」
明るい声色で教室に入ってきたのはことりだった。ことりは、チラッと海未と穂乃果を見た後何事もなかったかのようにクラスメイトと話し始めた。
穂乃果へのいじめは、鬼塚によって僅かながら減少したもののそれは目に見えるものだけであり、陰口やわざとらしい小声での暴言などは続いていた。そんな事態をどうすれば終わらせられるか海未が考えていた時、何故か黄色の長袖に太ももが見えるほどの短パン、メガネをつけた鬼塚が教室に入ってきた。教室の空気は一気に凍った。
「よーし、おめえらホームルームだ。」
鬼塚の呼びかけに誰も反応しなかった。いや、出来なかった。穂乃果は「おお!のび◯君だ!」と反応を見せたが、海未はため息をつき呆れていた。
「一体何を考えてるんですか...鬼塚先生...」
そう呟く海未の声を鬼塚の地獄耳は聞き逃さなかった。
「な、何を言ってるんだ海未ちゃん。僕は野比のび◯だよ。」
「気色悪い声を出さないでください!」
鬼塚の弱々しい声を聞いて海未は、とっさに反応してしまった。
「いやぁよぉ。俺はいじめられたことねえけどおめえらがあんまりにも高坂いじめをやめねえから少しでもいじめられっ子の気持ち理解しようと思ってな。」
その結果がのび◯コスプレだった。
そんな話を聞いた生徒達は突然笑い出した。
「せ、先生!それは卑怯だよ!」
「の、の、のび◯だ!本物ののび◯だ!」
教室内が一気に笑顔であふれた。穂乃果も海未もそれにつられて笑い始めた。
「なんだよ、みんな一緒に笑えんじゃねえか。」
鬼塚がそう言った瞬間、生徒達は自分達が以前のように一緒になって笑っていることに気づいた。
「そうやってダチと一緒に笑って楽しむのが学校ってもんだ。誰かいじめて笑うよりよっぽど気持ちいいだろ?」
鬼塚は、そう言うと出席をとりはじめた。
昼休み、数人だが穂乃果のもとへ足を運んだ。
「な、なに?」
穂乃果は、覚悟は決めていたが予想しなかった展開が訪れた。
「高坂さん...その、ごめんなさい。」
「私も根も葉もない噂信じちゃって...」
「でも、鬼塚先生のあれ見たら...人を馬鹿にして笑ってるのが恥ずかしくなってきて...」
全員ではない、数人だけであるが穂乃果への今までの仕打ちを謝罪しはじめた。生徒達は、鬼塚の言葉を聞き、少しだけ心を動かし始めていた。嬉しさのあまり涙目を浮かべる穂乃果。
「い、いいんだよ!よかった、わかってもらえただけでも充分だよ!」
海未は、そんな穂乃果の姿を見て少しだけ安堵した。放課後、海未と穂乃果は部室に向かおうとすると廊下の方でヒソヒソとまた声が聞こえた。また、自分の陰口かと思っていたが違った。
「なんか飽きたよね、鬼塚もいるし。」
「じゃあ今度はさ...」
会話の内容に違和感を覚えた穂乃果だが海未に声をかけられ、話の途中で穂乃果は2人で部室へ向かった。
鬼塚は、まだのび◯の格好をしており、部室内は、笑いすぎたのか腹痛で声を出せないメンバーの光景が広がっていた。
「せ、先生!まだそんな格好していたのですか!?」
「い、いいじゃないか、海未ちゃん。」
「だから気色悪いのでやめてください!」
鬼塚と海未の漫才のようなやりとりにより、さらに笑いに耐えられず中には倒れこみながらも笑う者もいた。話し合いなどできるはずもなく、その日は他愛のない会話をして終わった。
翌日、鬼塚はあくびをしながら教室に向かう。
「さてさて、今日はどんなコスプレをしてやろうか。」
そんなことを企みながら教室に入ろうとするが、なにやら教室内からざわつきが聞こえた。不審に思った鬼塚は、今日に入る。
「お、おう。お前ら、どうしたんだよ?」
全員が鬼塚に気づくが全員困惑した顔をしていた。
「せ、先生!大変だよ!」
そんな中、穂乃果と海未が慌てて鬼塚のもとに駆けつける。そして、穂乃果が指を指す方を見ると、ことりの机に暴言の数々が書かれていた。
「な、なんだよこれ...」
鬼塚は、予想外の展開に驚きを隠せなかった。そして、タイミング悪くことりが教室に入ってきた。
「みんなおはよう!どうした...!!」
ことりは、自分の机を見るや否や周りの生徒達を押しのけて自分の机を目の当たりにした。
「ど、どうして...だって、みんな高坂さんのことを...」
ことりは、涙目を浮かべながら教室を出て走り去っていった。
「南!」
鬼塚は、ことりの後を追う。穂乃果と海未は、状況が一変したことに困惑と怒りをあらわにした。
「ひどいよ!一体誰がことりちゃんにこんなことを!」
「酷すぎます!穂乃果だけじゃなくことりにまで!」
穂乃果と海未の言葉に反応したのは、昨日穂乃果に謝罪しなかった者たちだった。
「このクラスの人じゃないかもしれないじゃーん」
「すぐ私達疑うなんて最低ー」
その言葉に反抗しようとする穂乃果。しかし、その中の1人が穂乃果の胸ぐらを掴み上げる。
「お前のいじめなくなっただけ感謝しろよ。なんならもう1度やってあげようか?」
その言葉に恐怖を感じた穂乃果はなにも言えなかった。
「やめなさい!」
すかさず海未が穂乃果を解放し、助け出した。
「なに急に手のひら返してんだよ...あんただって最近まで同じだったじゃん!」
海未は、そう言われると自分が今まで穂乃果にしてきたことを思い出し、息苦しくなった。すると理事長が教室に入ってきた。
「みなさん、事情は鬼塚先生に電話で聞いてます。席に着いて鬼塚先生が帰ってくるのを待ちなさい。それまで私がこの教室にいますから。」
理事長がそういうと気まずい空気を残しながら生徒達は席へ戻った。
一方、鬼塚は学外へ飛び出したことりのことを追いかけていた。
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