2021-07-26 20:09:34 更新

15話


美紅は、悔しかった。自分や黒羽だけではどうしようもできない。他に身寄りもおらず、いるのは最低な自分の父親と友人の母親だけ。そんな状況から早く脱したかった。訳もわからず黒羽と共に夜道を走り続けた。

気づけば自分がどこにいるかわからなかった。無我夢中で走ったのは生まれて初めて。どこに行ってどうすれば良いのかわからなかった。


「ごめん、黒羽。勝手なことして。」


「良いよ別に。美紅の気持ちわかるから。」


2人は一旦落ち着き、静かに歩き始めた。

ふと黒羽が話し始めた。


「こんな時さ、鬼塚だったらどうするんだろうね。」


「ダチがピンチだって言って向かってくるんじゃない?」


2人は笑いながら話していた。そして、気づいた。自分達は今まで、誰かを傷つけたり、陥れたりでしか笑っていなかったことを。


「なんかさぁ、捻くれちゃったね、私達。」


「ほんとね、なんでだろ。」


そんな話をしていると見覚えのある道に出てきた美紅と黒羽。


「あ、ここに繋がってたんだ。丁度満喫あるじゃん!あそこいこ!」


美紅はそう言うと走り出した。


「ちょっ!美紅!」


黒羽は、美紅を追いかけようとした。しかし、美紅は黒羽の目の前で突然無灯火で走っていた車に接触してしまった。


「み、美紅!?」


翌日、美紅が交通事故に遭い、病院に運ばれたと言う連絡を鬼塚は受けた。偶然一緒に話していた穂乃果、麻耶と共に病院へ急いだ。病室では、ベッドに横たわる美紅とうつむき続ける黒羽がいた。


「美紅...黒羽、なにがあったの!」


麻耶が黒羽に話しかけても、黒羽はショックからか返事をすることができなかった。その時、黒羽の父親と美紅の母親が荒々しく病室の扉を開けて入ってきた。


「お、いい感じだなぁ。そのまま逝ってくれ。」


「これでやっと保険金がおりるね!そのお金で旅行でも行こうよ!」


もはや2人の会話は、人間がしているものだとは思えなかった。麻耶はそんな2人に言った。


「ちょっと待ってよ...仮にも家族でしょ?なんでそんなひどいことを堂々と言えるの?」


「あ?おめえか、美紅と黒羽に虐められてた奴は。よかったな、これでお前いじめられなくなるぞ?それに家族って言ったか?」


「産まれてきてほしくない子をなんで家族として見なきゃいけないのよ?」


2人は麻耶にそう答えた。麻耶は、美紅と黒羽にいじめられていたとはいえ、一緒にいた時間が長かったからか、2人に怒りを覚えた。


「さぁて、とりあえずこいつの死に様見てえから部外者は帰んな。俺たちはカウントダウンして...」


黒羽の父親がそう言い終えようとした瞬間、鬼塚の拳が黒羽の父親の顔面にめり込んだ。病室内で殴り飛ばされた黒羽の父親に馬乗りになった鬼塚は目を真っ赤にしてただひたすら殴り続けた。


「な、な、なによあんた?!ちょっとあんた達!見てないで警察呼びなさいよ!?」


美紅の母親がそう叫ぶが、穂乃果も麻耶も黒羽も誰も警察を呼ぼうとしなかった。鬼塚は、ゆっくりと立ち上がり、口を開いた。


「勝手に生まれてきただと?はやく死んでくれだと?それがてめえの家族に言う台詞かよ。」


鬼塚の凄みに押されるも美紅の母親は反論した。


「あ、あんたには関係ないでしょ?!人の家庭に口出ししないでよ!?」


「散々人間扱いしなかったくせに家庭なんて言葉使ってんじゃねえぞクソババア!!」


鬼塚の怒号が病室に響き渡った。


「てめえの子ども1人まともに見れねえ奴がなんで子どもなんか産んだんだよ!守ってやれねえでなにが家庭だよ!どんだけ美紅と黒羽を傷つけりゃ気がすむんだてめえらは?!」


鬼塚の言葉は、まるで本当の父親のようなものだった。黒羽はそれを聞き、涙を流し始める。意識のないはずの美紅の目からも涙が落ちた。


「今までこいつらがどんなに寂しい思いしてきたと思ってんだ?!どんなに辛かったと思ってんだ!?こいつらは、居場所作るのに必死で、あんたらのことを少しでも忘れたくて、自分達のやってることが正しいのか間違ってるのかもわからねえ中でどんだけ頑張って生きてきたか知ってるか?!知らねえよなぁ、子どものことはほったらかして男と女と遊ぶのに必死だったんだからな!!」


鬼塚は、自分でも無意識に怒りの中涙を流していた。そんな中、騒ぎに気づいた病院のスタッフが警察を呼んでおり、数名の警察官に鬼塚は取り押さえられ、強引に病室から引き摺り出された。そして、警官が2名ほど残り、美紅の母親に紙を見せた。


「お前達2人に詐欺の疑いがある。現行犯逮捕させてもらうぞ。」


「ち、ちょっとなによそれ?!私知らない?!」


意識を失いかけている黒羽の父親と美紅の母親は、手錠をかけられ連行されていった。その瞬間、美紅が静かに目を開けた。


「美紅!」


黒羽が美紅が目覚めたことに気づいた。


「全く...あの先生、あまりに大っきい声出すから...寝てられなかったよ。」


冗談を交えながらそう話す美紅。黒羽はそんな美紅を抱きしめた。


「よかった!本当に良かった!」


「い、痛いって!黒羽...麻耶、高坂さん、きてくれたんだ。」


美紅は、麻耶と穂乃果の存在に気づいた。2人の目は、怒りや憎しみはなく、優しいものだった。


「美紅、本当に良かった。」


麻耶の言葉は、今までいじめてきた者に対してのものではなかった。


「2人とも、なんで?散々ひどいことしてきたのに...」


美紅の言葉に穂乃果は答えた。


「だって同じクラスメイトなんだよ?仲良くしたいじゃん!」


穂乃果の言葉は、美紅と黒羽の笑顔を誘った。数日後、鬼塚は冴島のおかげでなんとか刑務所行きを逃れ学校に復帰、黒羽の父親は詐欺行為をしており、知らず知らずのうちに加担させられていた美紅の母親と共に刑務所行きとなった。

黒羽と美紅は、あの日以来、鬼塚と龍二が共同生活している家で過ごしていた。その日の放課後、屋上で景色を眺めていた。


「どうする?これから。」


「いつまでも先生と龍二さんの家に厄介になるのも癪だしね。」


そんなことを話していると後ろから鬼塚が話しかけてきた。


「なに水くさいこと言ってんだよ。」


鬼塚の存在に気づいた2人は鬼塚に話した。


「私達さ、どこか施設に入ろうかと思ってるんだ。」


「お金は全然ないから、その施設に就職して働いて返していこうかと思って。」


2人はしっかりと将来のことを考えていた。それを聞いた鬼塚は言った。


「おめえらはまだ若えんだ。なんだってできるさ、さぁてついてこい」


鬼塚は、2人を部室に連れてきた。扉を開けるとμ'sのメンバーがいきなりクラッカーを鳴らし始めた。


「誕生日おめでとお!黒羽ちゃん!美紅ちゃん!」


黒羽と美紅は何が何だかわからなかった。部室は色とりどりの装飾がされており、ケーキやチキンなどが用意されていた。


「お前ら2人揃って今日誕生日なんだってなぁ。だから、誕生会やりたいって麻耶が聞かなくてよ。」


「せ、先生!それ内緒だって!」


部室には麻耶もおり、麻耶は顔を赤らめていた。


「ど、どうして...高坂さんも麻耶も...」


黒羽と美紅が戸惑っていると穂乃果は、2人の手を握って言った。


「もういいんだよ!私達クラスメイトじゃん!辛いときは助け合うもんだよ!」


穂乃果の顔は、嘘をついついるものではなかった。穂乃果のお人好しには2人は呆れるどころか笑みがこぼれた。そんな2人に鬼塚は口を開く。


「こっからまたやり直そうぜ?お前らだけじゃねえ、ここにいる奴ら全員、これから嬉しいことも辛えことも沢山あるんだ。今のうちに作っておこうぜ、そんなことを分かち合えるダチをよ。」


鬼塚の言葉に、黒羽と美紅は涙を流した。それは悲しさからではなく喜びから出たものだった。


「ありがとう、高坂さん、麻耶...ごめんね」


黒羽と美紅は、ようやく穂乃果や麻耶と改めて友人になることができた。


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