雨の日は流石にいないと思うじゃん?いるんだよなぁ、グレートな奴がよお ♯6
6話
「ったく、今日は定休日だってのに。急に呼び出しやがって...」
「まあまあ、龍二。ちゃんと金払うからさ。」
「たりめえだ、ダァホ!」
鬼塚とタメ口でしかも強気で話す龍二に感心する穂乃果。
「おお!先生に対してすごい!」
鬼塚は、軽く龍二のことを紹介し、希の話を聞いた。龍二は、雰囲気から大切な話をする事を察し、カウンターで雑誌を眺めていた。
「実は...噂なんやけどね?海未ちゃんがよく隣町に行ってるって小耳に挟んだんよ。」
「隣町?買い物かなんかじゃねえのか?」
鬼塚は、とりあえず思いついた事を言ってみたが希にあっさりと否定される。
「わざわざ買い物しに隣町なんて行かへんやろ...それに海未ちゃんは、家でのお稽古もあるし、あと行きはバスなのに帰りはいつも徒歩なんやて。」
希の話には、不可解な点があり、鬼塚達はそれに気づいていた。穂乃果は希に尋ねた。
「希ちゃん、それ誰から聞いたの?」
「隣町の学校のスクールアイドルに知り合いがおんねんけど...ほら、μ'sってそこそこ有名だったやん?それで偶然歩いている海未ちゃんを見かけたって。」
μ'sは、大会優勝候補にまで上がる実力を持っていたグループであり、知名度は高い方だった。そんなグループのメンバーを見間違えたりする可能性は低く、鬼塚は、海未が何故そんな不可解な行動をとっているのか考えた。
そんな中、鬼塚の携帯が鳴った。
「あ、悪いな2人とも。って二宮からじゃねえか。」
以前、今回の件で調査を依頼した二宮からの連絡だった。鬼塚はすぐさま電話に出る。
「鬼塚か?俺だ。若えもん使ってこの間の件でわかったことがある。」
二宮から語られたのは、以前自分の舎弟をしていた康太という男は現在、隣町に住んでおり、穂乃果の一件があった時期とちょうど同じ頃、頻繁に音ノ木坂のある街に出向いていたとのことだった。
「さすが情報通...助かった!」
鬼塚は二宮から有益な情報を得ることができた。二宮は、引き続き康太という男について調べると言葉を残し電話を切った。
「どうやら段々繋がって来たみてえだな。」
鬼塚がそういうと希は、1つの推測を話した。
「たしか、その康太って人は、海未ちゃんやことりちゃんとも関係を持ってたんよね。まさか海未ちゃん...」
希がそういうと龍二が飲み物を3人に運んできた。そして口を開いた。
「海未ちゃん、もしかしたらその男に会いに行ってるかもしれねぇな。悪い、盗み聞きしちまった。」
「龍二さんなら全然大丈夫だよ!でも、なんで...康太さんとはもう関係は終わったはずじゃ...」
穂乃果は海未に対して疑問が残っていた。しかし、穂乃果との関係を康太が終わらせた後に次の標的として海未を選んだのではないかと希は推測した。
「もしそうだとしたら...園田が危ねえな。」
「英吉、あんま突っ走んなよ。今日はもう遅い。明日の放課後、一緒に隣町に行くぞ。ついてってやる。」
龍二は、親友である鬼塚に協力することにした。翌日の放課後、鬼塚と龍二はコソコソと隠れながら海未を尾行した。
「ずっとスマホいじってんな。」
「きっと連絡をとりあってんだろうな。」
鬼塚と龍二は、放課後から頻繁にスマホを操作する海未の後を追った。そして、バスを利用し、隣町にやって来た。すると、途端に海未が走り出した。
「やべっ!見失うぞ!」
「お、おい待て英吉!」
鬼塚は、龍二の制止を振り切り海未の後を追った。しかし、道の曲がり角を曲がると海未が鋭い目つきで待ち伏せしていた。
「げっ!そ、園田!」
慌てる鬼塚を見て呆れる龍二。
海未が口を開く。
「教師が生徒の尾行とは、聞いて呆れますね。」
後戻りができないと悟った鬼塚は、海未に行った。
「園田、お前の家こんなとこにねーだろ。何しに来たんだ?」
「先生には、関係ありません。」
海未は、鬼塚を冷たくあしらう。そして、話を続けた。
「恐らく、高坂さんの差し金でしょうか。全く、たった1人の生徒にたぶらかされるなんて...教師として恥だとは思わないんですか?」
自分だけでなく、穂乃果のことを悪く言った海未に対し、鬼塚は苛立ちを隠せなかった。
「お前、なんでそこまで高坂を悪く言うんだ?恋人とられたから根に持ってんのか?」
鬼塚の言葉に若干戸惑った海未。しかし、海未は、穂乃果に対しての暴言をやめなかった。
「高坂さんから聞いたんですね...相変わらず口が軽いですねあの人は。どうせ自分の都合のいいように話されたんでしょう?」
それはかつての穂乃果の親友とは思えない言葉だった。鬼塚にとって友人はかけがえのないもの、穂乃果も別ではなかった。しかし、海未の言葉、態度は明らかに穂乃果を軽蔑したものだった。
「なんでだよ...なんでダチをそんな簡単に捨てられんだよ。」
「所詮その程度の人間だったということですよ。これ以上後をつけるなら警察に通報しますので、それでは。」
鬼塚に冷たい言葉を浴びせた海未は、どこかへと去ってしまった。
「英吉、ひとまず帰ろう。しかし、あれはやべえぞ。」
龍二も海未の穂乃果に対する言葉に驚いていた。鬼塚と龍二は、ひとまず帰宅することにした。
龍二のカフェに戻って来た2人が目にしたのは、店の前で待つ穂乃果と希だった。
「お前ら、ずっとここで待ってたのか?」
そんな鬼塚に対し、2人は心配そうな表情をしていた。
「海未ちゃんに会えたの?」
「あぁ、でも...結局後つけてたのバレちまってな。ひどく突き放されたよ。」
鬼塚を心配する穂乃果に、鬼塚はそう答えた。そんな息苦しい雰囲気を龍二はひとまず断ち切りたかった。
「とりあえず店入れよ。2人もよかったら夕飯でも食ってかねえか?」
龍二の誘いを受け、穂乃果達も店の中に足を運んだ。しかし、鬼塚はひどく難しい顔をしている。
「なぁ、龍二。俺たちってダチだよな?」
「なに当たり前なこと聞いてんだよ、らしくねえ。」
龍二は、鬼塚にそう返した。
「だよなぁ。高坂も東條も俺のダチに変わりはねえ、宝もんだ。」
「えっ?うちも?」
鬼塚の言葉に反応した希。最初は突然友人と言われたことに驚いたが、希はすぐにそれを受け入れることができた。
「先生にそう言ってもらえるのはうれしいな、もちろん穂乃果ちゃんも大切な友達や。」
「ありがとう希ちゃん。でも...やっぱり海未ちゃんのことは...なんか悲しいな。」
希の言葉は、穂乃果にとって嬉しいものであるはずだがふと海未のことを思い出し、涙を隠しきれない穂乃果。希は、そんな穂乃果の頭を優しくなでていた。
そんな時、鬼塚の電話が鳴った。二宮からだった。
「おお、二宮。どうした?」
「お前らこっち来てたろ?尾行下手すぎだろー、なんかすげえ近寄りずれぇ空気だったぞ。」
鬼塚は驚いた。二宮もあの場にいたと言うのだ。しかし、鬼塚も龍二も、ましてや海未も全く気づいていなかった。
「若えもんばっかに頼るのもダセエから久しぶりに隠密行動なんてしたけどよ...海未だったか?お前らと別れた後、康太に会ってたよ。」
二宮は、鬼塚と龍二が町を離れた後も海未を尾行し、行動を観察していた。そして、康太と接触し、さらには金銭を渡していたと言うのだ。
「どうやら康太は今無職らしい。中々の額もらってたよ。海未ちゃんのことも少し調べてよ、そこそこ良い家らしいが、いくらなんでもあんなの長続きしねえぞ。」
二宮の言葉は、鬼塚達を驚愕させた。
「女子高生に金たかるとは...とんだクズだな。」
龍二は、心の声を出さずにはいられなかった。それは、穂乃果と希も一緒だった。
「そんな...海未ちゃん、そんな人じゃないのに...どうして?」
「いくらなんでも普通やない。こんなん騙されてるに決まっとるわ。」
鬼塚は、二宮に礼を言い電話を切った。その途端、鬼塚は携帯を床に叩きつけた。鬼塚の顔はまるで鬼のようだった。
「ぜってぇぶっ飛ばしてやる。」
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