雨の日は流石にいないと思うじゃん?いるんだよなぁ、グレートな奴がよお ♯16
16話
全ての元凶、康太は激しく貧乏ゆすりをしながらパソコンを見つめていた。
「くそ...なんなんだよあの男...邪魔しやがって!?」
康太はパソコン床へ叩きつけた。
「僕の楽しみを奪いやがって...こうなったら..」
自分の欲望を満たせない康太は、イライラしながら次の計画を企てていた。一方、鬼塚は、凛を除いたμ'sメンバーとNAGISAに来ていた。
「違うよ先生!たい焼きはクリームなんだよ!」
「わかってねぇなぁ、高坂。いいか?あんこってのは素朴な甘さに絶妙な風味をだな...」
鬼塚と穂乃果はいかにもくだらない会話を繰り広げていた。龍二がたい焼きを大量に焼いて売れ残ってしまったため、鬼塚達に提供していた。
「龍二さんってなんでも作れるんですね!すっごく美味しいです!」
「最初はなかなか苦労したよ。しかし、おかしいな、おやつ時にはもっと売れると思ったんだけどよ?」
花陽は龍二の作ったたい焼きをモリモリ食べていた。鬼塚と穂乃果は、まだ論争中。
「どっちでもいいじゃないですか、しかしこれだけのたい焼き...た、体重が...」
海未はそう言いながらも美味しいのかなかなか食べるのをやめない。真姫もクールに振舞ってはいるがたい焼きに手を伸ばしていた。
「確かにうちのシェフが作るやつの次に美味しいわね...あ、いちごクリーム美味しい。」
もはやその言葉に説得力などなかった。そんな中、大人数で笑いあうのを久しぶりに見た3年生組はμ'sのことについて話していた。
「穂乃果達もすっかり元に戻ったし、あとは凛が戻れば完璧だけど...ほんとに復活しちゃっていいのかしら?」
絵里は、どんな事情であれ一度解散したμ'sの復活について不安があった。全員があれだけ葛藤してようやく出した答えだったからだ。
「でも後から事情聞いちゃったらさ...そうも言ってられないわよね。」
「せやなぁ、解散は一旦撤回して先延ばしにしてもええんちゃう?」
にこと希はμ'sの復活に何も心配していなかった。すると希は、龍二の元へ行き、話した。
「龍二さん、今度は抹茶ミルクでクリーム作ってみたらええんちゃう?」
「おお、美味そうだな。」
希のいつも変わらない雰囲気に、絵里も不安を感じていたのが馬鹿らしくなった。
「まあ、またみんなで歌うのも悪くないわよね。となると凛か...」
絵里がそんなことを考えている間に今日は解散となった。穂乃果は海未とことりと途中まで一緒に帰り、その後、1人で家に向かっていた。
「たい焼き食べすぎたなぁ...まあ、海未ちゃんもだし許してくれるよね。」
そんな独り言を言っていると穂乃果の前方に1人の男が立っていた。その瞬間、穂乃果の身体は固まり、呼吸も荒くなった。
「ど...どうして...」
穂乃果の前には会いたくもない、思い出したくもない男がいた。康太だった。
「久しぶり、穂乃果ちゃん。」
突然康太が現れたことで穂乃果は封印してきた過去を思い出した。
「ファイトだよ。」
康太から最後に言われたその言葉は、自分の口癖であり、自分に絶望を味合わせたものだった。声を思い切りあげ、今にも暴れ出したかった穂乃果。しかし、不意に鬼塚の顔と言葉が頭の中によぎった。
「おめえのダチになってやるって。助けて欲しかったらいつでも言え。地球の裏側からでも駆けつけてやっからよ。」
その言葉により、なんとか穂乃果は自分を落ち着かせ、何度も深呼吸を繰り返した。そんな穂乃果の姿を見た康太は舌打ちをしながら言った。
「つまんないなぁ...すっかり元に戻っちゃって...」
そんなことを言う康太を穂乃果は睨みつけながら言った。
「あなたは...あなたは私だけじゃない...私の大切な友達にも酷いことをして...絶対許さない!」
「そんな怖いこと言わないでよ。ほらこれ。」
康太は穂乃果の制服のポケットに勝手に手を入れた。
「ちょっ!やめて!」
穂乃果は康太の手を振り払った。慌ててポケットの中を確認すると一枚のたたまれた紙切れが入っていた。
「もしまた僕に会いたくなったらその紙を見なよ。じゃあね。」
そう言うと康太は穂乃果の元を去った。穂乃果は、康太の残した紙を広げるとそこには康太のものと思わしき住所が書いていた。
穂乃果は、康太のことをどうしても許せないでいた。今すぐその紙を破り捨てたかったが、同時に康太に謝罪をさせるチャンスなのではと思った。その様子を見ていた者が1人いた。二宮だった。
翌日、二宮はNAGISAを訪れ、鬼塚と龍二に昨日のことを話した。
「康太が高坂と会ってた?!」
「あぁ、変な紙切れ渡してたよ。気をつけた方がいいぜ英吉。」
二宮とそんな話をしている中、鬼塚の携帯が鳴った。見知らぬ番号だった。
「あ?はい、あんた誰だ?」
鬼塚は慌てて電話に出るが、電話からはか細い穂乃果と思わしき声が聞こえた。
「助けて...先生...」
そして、電話から揉めているような音が聞こえ切れてしまった。鬼塚は、慌ててバイクに乗る。
「英吉!康太の場所わかるのか!?」
龍二は、鬼塚を一旦落ち着かせようとするも鬼塚は何も考えずにバイクを走らせた。
「あの馬鹿...どこに行けばいいのかわかんねえくせに。」
龍二がそういうと二宮は、携帯を鬼塚に繋げた。
「英吉、今から若えのに俺の会社から康太の場所を探らせる。お前は携帯繋げとけよ、GPSでお前の位置把握しながら俺もそっちに向かう。」
「わかった、頼んだぜ二宮!」
二宮は、そういうと龍二に冴島と連絡とっておいてくれと話した後、車に乗り鬼塚の元へ向かった。
数時間前の正午、穂乃果は体調が悪いと言い早退した。しかし、穂乃果の様子は海未とことりから見ればいつもと変わらず、嘘をついているのは明白だった。海未とことりも適当に理由をつけて早退し、穂乃果を尾行した。
「穂乃果、一体何をするつもりですか...」
穂乃果を心配する海未とことり。しばらく尾行をつづけ、隣町まで来てしまっていた。穂乃果は足を止め、1つの住居を見つめていた。そして、穂乃果が足を踏みいれようとした時、海未とことりは居ても立っても居られず、穂乃果の手を掴んだ。
「う、海未ちゃん!?ことりちゃん!?」
「穂乃果!一体何をしようとしてるのですか?この家は一体誰の家なんですか?!」
「教えて!穂乃果ちゃん!」
穂乃果は口を開こうとするとそれよりも先に、家の扉が開き、そこには康太がいた。
「おや?穂乃果ちゃん1人じゃないのかい?」
康太の姿を見た時、海未とことりは驚きと同時に怒りがこみ上げていた。今にも手を出してしまいそうになったが、3人はお互いを落ち着かせた。そして、ことりが口を開いた。
「穂乃果ちゃん、この人の家を知ってるの?」
穂乃果は、昨日の出来事を話した。そして康太が笑みを浮かべながら言った。
「立ち話もなんだから上がりなよ。」
康太は、3人を家にあげ、お茶を出した。普通ならば好印象を与える行為だが、相手が相手だからか、不気味さしか3人は感じなかった。そんな中、穂乃果はお茶を飲み干し、口を開いた。
「お願いです、康太さん!私達に謝ってください!」
穂乃果の言葉に表情1つ変えない康太。海未はそんな穂乃果を止めた。
「穂乃果!まさかそんなことのためこんなところまで?!無理です!帰りましょう!」
「でもこのままじゃ私も海未ちゃんもことりちゃんも報われないよ!」
穂乃果はそう言うと康太は突然床に頭をつけ叫んだ。
「本当に...本当に申し訳ありませんでした!自分の出来心とは言え、か弱い女の子の気持ちを弄んだ僕が悪かったです!許してください!」
康太はあっさりと土下座までして謝罪し始めた。3人は、康太の行動を予想しておらず戸惑った。穂乃果の心のモヤモヤは一切とれなかったが、ここまで全力な謝罪を見たことがなかった。
「本当に...本当にそう思ってますか?」
「はい!警察にでもなんでも突き出してください!」
穂乃果の問いにそう答える康太。穂乃果は、海未とことりの様子を見るが2人は未だに驚いた表情をしていた。
「こ、こんなにもあっさりとしてていいんでしょうか...」
「わ、私もどうしたらいいか...」
驚きを隠せない海未とことり。穂乃果はそんな2人を気にしながらも康太に言った。
「も、もう2度と私達に関わらないと約束して下さい...私のことはそれで許します。」
穂乃果がそう言うと康太はしばらく土下座を維持したまま黙っていた。すると不気味に笑い始めた。
「ははっ!...ごめんなさいとか土下座とかって恥じるべき行為って日本では捉えられてるけどさ...僕、昔からこういうことするのに抵抗ないんだよね。」
康太は不気味な笑みを浮かべながら立ち上がってそう言った。すると、突然、穂乃果はふらつき始めた。
「穂乃果!?」
海未はそんな穂乃果を支えた。よく見ると呼吸が荒くなり、多量の汗をかき始めていた。
「君なら出されたお茶全部飲むと思ったよ、真面目で良い子だからね...残りの2人は想定外だったけどまあいいや。」
康太は出したお茶に睡眠薬を入れていた。反省などしていなかった。はじめから穂乃果を再び絶望させるための演技だったのだ。海未とことりに再び怒りが湧き上がった。
「あ、あなたって人は...どこまで卑劣なんですか!?」
「こんなのひどすぎるよ!」
海未とことりは怒りを隠せなかった。しかし、康太はいきなりことりの頰を叩き、押し倒した。
「ことり!?」
康太は、続いて海未にも同じことをし、3人を縄で縛りあげた。
「さぁて、一気に3人の絶望した顔見れるんだもんなぁ、運がいいや。」
康太は、3人のスマホを取り上げ、部屋の奥へ閉じ込めた。部屋は防音されており、窓1つなく扉を閉められ、真っ暗闇だった。
「開けなさい!誰か!」
海未は渾身の力で叫ぶが、その声は誰にも届かなかった。
「海未ちゃんどうしよう...穂乃果ちゃんが...こ、怖いよ...」
ことりは現在の状況に怯えていた。そんな中、穂乃果も今にも意識を失いかけていた。
「諦めてはいけません!きっと...きっと鬼塚先生が来てくれます!」
海未はそう信じてはいたが、携帯を取り上げられ、連絡手段を絶たれた今、いくら鬼塚でも来られる可能性は低かった。しかし、2人は気づいていなかった。穂乃果は僅かな意識の中、縄で縛られながらもなんとかポケットから何かを取り出した。それは鬼塚の壊れかけの携帯だった。
「先生...助けて...」
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