雨の日は流石にいないと思うじゃん?いるんだよなぁ、グレートな奴がよお ♯7
7話
あれから3日、鬼塚は、二宮から定期的に連絡をもらっていた。3日間連続で海未は、康太に金銭を渡していた。しかし、そんな日は長くは続かなかった。
「すみません、康太さん...私のお小遣いや貯えはこれが最後で...」
良い家系であるとはいえ、所詮は高校生。多額な金など持っていないのは当然。海未の最後の金銭を受け取った康太は海未に言った。
「良いんだよ、海未ちゃんが僕を助けてくれて本当に助かるよ。」
「えっと...そのもし良ければ今度の金曜日の放課後、デートして頂けませんか?何だかんだまだ1度も2人で出かけていませんし。」
海未は、顔を赤らめながら康太に言った。
「そうだね、仕事の関係で少し遅いけど...待ち合わせ場所はメールで送るね。」
「嬉しいです!ありがとうございます!」
海未は、嬉しそうにその場を去った。何だかんだで好きな男性と2人で出かけることをしたことがなかった海未。そんな姿を見て康太は小さく呟いた。
「海未ちゃんは、どんな顔をするんだろうな」
康太は、笑みを浮かべていたがそれは喜びのような正の感情ではなかった。
しかし、そんな様子を気付かれることなく見ていた男がいた。二宮だった。
「ほんと足洗わせて正解だったぜ...クソ野郎が。」
二宮は、会社に戻るとすぐさま鬼塚に今日の出来事を話した。鬼塚は、昼休みに希、穂乃果の3人で部室に集まっていた。
「今度の金曜の放課後だな。」
「あぁ、だがすまねえ。場所までは特定できなかった。」
「気にすんな、ありがとな。」
鬼塚は、二宮にそう言うと電話を切った。
「今度の金曜の放課後、園田は康太と会うらしい。夜遅くにな。」
「いよいよ怪しくなって来たやんな。」
希は、鬼塚の話を聞き、嫌な胸騒ぎがした。
「どうしよう...」
穂乃果は、どう海未を止めるか考えたが何も考えつかなかった。
そして、金曜日の放課後。海未は、親をうまくごまかし、弓道部を終えた後待ち合わせ場所に向かった。
「待ち合わせ場所は...隣町ではないのですね。」
海未のスマホに送られてきた住所は、自分の住んでいる地域のものだが自分でも行ったことのない場所だった。慣れない夜道を歩く海未、少し恐怖心はあったがそれよりもデートということにうかれてしまっていた。
そして、待ち合わせ場所にたどり着き、康太を待つ。
「少し早かったですね。しかし、弓とバッグ置いてくればよかったですかね。」
海未は携帯で時刻を確認しながら康太を待った。すると、ふと警官に声をかけられた。
「ちょっと君、こんな時間に何してんの?」
「あ、えーと...親がこの近くで働いていて迎えにきたんです。なかなか来なくて。」
「ふーん、もう遅いから気をつけるんだよ?あとかわいいから連絡先教えてもらえる?」
慣れない嘘をついたばかりか何故かナンパのようなことをしてくる警官に戸惑う海未。
「冗談だよ、気をつけて。」
そう言うと警官はその場を自転車を走らせて去った。海未は、日本の警察はどうなってるんだと感じていた。しかし、警官は誰かに連絡をとっていた。無線ではなく、携帯で。
「間違いないっすよ、早く行ってあげて下さい。英吉さん。」
海未は、康太が現れるのをひたすら待った。予定よりも早く来すぎてしまったこともあり時間が長く感じた。すると、不意に肩を叩かれた。
「康太...さん?」
海未の期待は大きく裏切られた。そこにはガラの悪い男が何人も不敵な笑みを浮かべていた。
「な、なんですかあなた達!」
その場から逃げ出そうとするも腕を強く捕まれ、身動きが取れない海未。
「なんで嫌がってんだよー、ほらこれ見ろよ。これ君だろ〜?」
男はスマホの画面を海未に見せた。そこには出合い系サイトで海未の写真を載せられ、現在の居場所まで書いてある画面が映し出されていた。
「な、なんですかこれ...わ、私じゃありません!」
海未は、出合い系サイトなど全く身に覚えもなく強く否定したが、男達は聞かず、海未を連れ去ってしまった。
「遠慮しないで〜、お嬢様1名ご案内〜」
「や、やめて!誰か助けて!」
嫌がる海未を無理やり人気のない倉庫に連れて来た男達。
「や、やめて下さい...け、警察を呼びますよ!」
海未は、慌ててスマホを取り出すがいとも簡単に男達に奪われてしまった。
「大丈夫、大丈夫ーすぐ終わるからさ。」
男達は、涙目になりながら怯える海未に手を伸ばした。その時、倉庫の扉が開いた。
「海未ちゃん!」
それは穂乃果だった。穂乃果は、鬼塚達と一緒にいたが海未の状況を知り、1人で駆けつけたのだ。穂乃果はズカズカと男達に近づく。
「こ、高坂さん...どうして...」
海未は、穂乃果が自分を助けに来たことが信じられなかった。
「へ〜海未ちゃんのお友達かわいいね、俺が相手してやるよ。」
数人の男達が穂乃果に近づき手を伸ばす。しかし、穂乃果は男達への怒りで無意識に1人の男に平手打ちをし叫んだ。
「私の友達に手を出さないで!」
穂乃果はそう言うと海未を守ろうと男達の前に立ちふさがった。
「いってぇな。調子こくなよクソガキが。」
頰を叩かれた男は穂乃果の顔面を殴りつけた。それだけで終わらず、穂乃果は男達から殴られ、蹴られ、血を流し始めた。
「うぅ...」
「おいおい、そこらへんにしとこうぜ。2人の女楽しめるなんて最高だなー。」
男達は、海未だけでなくて穂乃果にまで暴行を加えようとした。
「こ、高坂さん...やめて、やめて!」
海未がそう叫んだ瞬間、突然強い衝撃音とともに倉庫の扉が壊れた。男達は入り口の方に目をやった。
「よお、おめえら。よくも俺の生徒に好き勝手やってくれたな。」
そこにいたのは鬼塚とバットを構えた希だった。
「お、鬼塚先生...」
予想外の展開に海未は呆然としていた。
「も、もう...遅いよ...先生」
穂乃果は、血を流しながら気を失った。
「穂乃果ちゃん!」
希は、穂乃果に駆け寄りたかったが男達が邪魔でできずにいた。
「待ってろ東條。今道作ってやるからよ」
そう言うと鬼塚は、男達の中に飛び込んでいった。
「な、なんだてめえはあ!」
男達は鬼塚に殴りかかるが見るも無残に返り討ちにあってしまう。
「て、てめえ...なにもんだ...」
「ただの高校教師だ。いいか覚えとけ...俺の生徒に手出す奴は...誰だろうと許さねえんだよ!!」
男達は、鬼塚の迫力に圧倒されその場から逃走して行った。
「穂乃果ちゃん!大丈夫?!死んでへんよね!?」
「い、生きてる生きてる...ちょっと寝ちゃったけどね。」
穂乃果の言葉は、心配する希を安心させた。4人は倉庫から出て、ひと段落つかせた。
「ったく。何も考えずに飛び込むなよ、高坂。」
「えへへ、ごめんごめん」
鬼塚に笑いながら謝る穂乃果。穂乃果は、希の肩を借りてなんとか歩けていた。そして、なんとか無事でいられた海未に声をかけた。
「え、えーと...海未ちゃん、怪我...してない?」
穂乃果の言葉に時間がかかりながらも海未は返した。
「え、ええ。」
しかし、目を合わせようとはしなかった。
「そ、そっか。海未ちゃんが無事ならそれでいいんだ。」
穂乃果は自分の身よりも海未のことを気遣っていた。本来なら海未は穂乃果に感謝をする立場だろう。しかし、海未の頭の中は、穂乃果ではなく康太がいた。
「う、海未ちゃ...」
「もう名前を呼ばないで下さい!」
穂乃果の言葉を遮る海未の突然の言葉に鬼塚達は黙ってしまった。
「た、助けてくれたことは感謝します!でも、あなたを許したわけではありません!こんなことで友達に戻れると思わないで下さい!これっきりです、もう私に関わらないで下さい!」
海未からの拒絶の言葉は、穂乃果の心を大きく傷つけた。感謝されたかったわけではない、穂乃果はただ親友として海未を助けたくて行動しただけだった。しかし、それは今の海未には伝わらなかった。
「そ...そん...な...私は..」
「海未ちゃん!いくらなんでも酷すぎよ!康太って男は、海未ちゃんを騙したのよ!?」
泣き崩れる穂乃果を抱きしめる希。普段、京都弁で場を和ませる希も今回ばかりは素がでてしまっていた。
「知りません!私は明日弓道部の朝練があります!今日帰ってからも授業の予習復習があるんです!失礼します!」
海未は、目の前の状況を理解したくなかった。1度も穂乃果のことを見ずにその場を去ろうとした。泣き崩れる穂乃果、それを慰める希。本来なら穂乃果を全力で介抱するだろう。しかし、1人だけ違った。
海未は、その場を去ろうと歩いていると誰かに強く肩を掴まれ、強引に振り向かされた。
「お、鬼塚先生...」
海未は、自分の肩を掴んだ鬼塚の顔を見て何も言えなかった。今までに見たことない、正に鬼の形相だった。鬼塚は、海未の持っている弓とカバンを強引に奪い取り、海未を突き飛ばした。
「ちょっ...何するんですか!?」
鬼塚は、弓を袋から取り出すとその場でへし折ったのだ。あまりに予想外の出来事で希も穂乃果も海未も言葉が出なかった。
「や、やめてください!」
海未は、鬼塚に掴みかかり抵抗するが再び突き飛ばされ、鬼塚はカバンの中の教科書やノートを全て破り捨て、カバンにライターで火をつけ燃やしてしまった。折られた弓や破かれた教科書もカバンの火がうつり、無残にも燃え上がる。
「な、なんて...ことを..ひどい...」
海未は、その場で座り込み涙を浮かべ始めた。しかし、鬼塚は言った。
「なんだよその顔。」
鬼塚の言葉に海未は反応し、鬼塚を見た。
「こんないくらでも変えの効くもん失くしたくれえで...なんで高坂と同じ顔してんだ!?」
鬼塚の怒号が海未に向かって放たれた。海未は、その迫力から何も言い返せなかった。
「高坂は、おめえにどんなに拒絶されてもずっとおめえのことダチだと思い続けて来たんだぞ。だから、こんなんなってまでおめえを助けようとしたんだろうが!!」
鬼塚の言葉を海未は、ただひたすら聞くことしかできなかった。
「なんで高坂をもっと見てやんねえんだよ!?なんでもっと信じてやんねえんだよ!?高坂と初めてダチになれた時、おめえはどう思ったんだよ...すっげえ嬉しかったんじゃねえのか!?おめえにとって高坂は、こんなもんと一緒だったってことか?!そんなんだったらハナっからダチになんかなるんじゃねえよ!!ダチってのはなぁ、変え効くような薄っぺらいもんじゃねえんだよ!!」
鬼塚は海未に対して怒号を浴びせた後、希と穂乃果に声をかけその場を去った。海未は、慌てて3人に声をかける。
「ち、ちょっとまっ...」
通り過ぎる穂乃果の姿を海未は、初めて見た。その姿は、服はボロボロになり、血を流しながら涙を浮かべていた。そんな姿を見て、海未はようやく自分の今までの言動や行動を思い返した。そして、燃えさかる炎を見ながら穂乃果との出会いを思い出していた。
小さい頃、穂乃果が声をかけてくれたから自分は初めて友達をつくることができた。誰かと一緒に遊ぶ楽しさを知ることができた。そんなかけがえのない思い出をくれた人を自分は拒絶してしまった。海未の心の中に今までの自分の行動、言動に違和感をようやく抱き始めた。
希の肩を借りて歩き続ける穂乃果。すると、自分の体に後ろから何かがぶつかった感覚がした。後ろを向くとそこには涙を流しながら穂乃果の背中に抱きつく海未の姿があった。
「海未...ちゃん?」
「ごめんなさい...ごめんなさい...穂乃果ぁ!!」
海未の言葉を聞いた穂乃果は、一瞬頭が真っ白になった。自分を拒絶していた親友から随分と久しぶりに名前を呼ばれた。そして、ようやく海未が自分をまた受け入れてくれたことがわかると今まで以上に涙を流し、海未を抱き返した。
「海未ちゃん、良いんだよ...無事で、無事でよかったあ!」
「穂乃果!私が...私がバカでしたあ!許してくださいぃ!!」
2人はお互いを慰め合いながら泣き崩れた。そんな姿を見た希も涙を浮かべていた。
「もう...よかったやん、2人とも。」
そんな希に鬼塚は言った。
「だから言ったろ、宝もんだって。」
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