2021-08-02 00:03:51 更新

17話


康太は、ゆっくりと部屋に入り口を開いた。目の前には意識を失った穂乃果、それを気にかける海未とことりがいた。


「3人ともいるね、偉いよ。無駄な抵抗もなく待ってられるなんてね。」


康太の姿は、暗闇で見えないが、声を聞くだけで海未は怒りがこみ上げた。


「あなたは最低です!自分のために多くの人を傷つけて!きゃあ?!」


康太は、暗闇の中でも海未の姿を捉え頰を叩いた。


「自分達は、これからどうなるかわかってないようだね。」


康太はそう言うと部屋の明かりをつけた。そこにはおびただしい数の凶器が飾られていた。海未とことりは、ようやく康太が自分達に何をしようとしているかわかった。


「ち、ちょっと待ってよ...いくらなんでもそれは...」


ことりは涙目になりながら声を震わせてそう言った。しかし、康太は顔色1つ変えずにノコギリを手にした。2人は確信した。この男は本気で自分達を襲おうとしていると。


「や、やめて!お願い!!」


「せ、せめて2人は逃してください!私だけで充分です!!」


ことりと海未は恐怖から声を荒げるが、康太は海未の口を手で塞いだ。


「強がってるけど怖いよね?その表情最高だよ、これをこうしたらどうなるかな?」


康太は海未の首にノコギリの刃を当てた。いくら海未でもあまりの恐怖に涙目を浮かべ叫けびながら暴れようとしたが口を塞がれ思うように体を動かせなかった。


「動いたら痛くなるよ?いいのかな?」


不気味に笑みを浮かべる康太、あまりの恐怖に体が固まってしまう海未。ことりは、海未を助けようとするも腰がぬけてしまい、動けないでいた。


「最初は海未ちゃんからにするかな。」


康太は、そう言うと口から手を離し、全身で海未の体を押さえつけた。


「い、いや!いやぁぁ?!」


海未は暴れるが男である康太の体はビクともしなかった。


「海未ちゃん!やめて!お願い!!」


ことりの叫びも康太の耳には届かなかった。そして、康太は、海未の首に再びノコギリを当てた。しかし、その時、防音室であるはずの部屋に少しだけ音が聞こえた。


「ん?なんだ?」


康太は、耳をすませると小さいが足音が聞こえた。そして、それはだんだんと防音室に近づいてきていた。


「な、なんで僕達以外の人間が家の中にいるんだ!?」


康太が戸惑っていたその時、防音室の扉強い力で破られた。そこには康太を睨みつける鬼塚と二宮がいた。


「お、鬼塚先生!!」


鬼塚と二宮は、何も言わずに部屋にゆっくりと足を踏み入れる。


「二宮、3人を頼む。」


「あぁ、思いっきりあばれろよ。」


鬼塚と二宮はそう話した後、二宮が3人を部屋の外へ誘導する。防音室は、鬼塚と康太の2人だけになった。


「お、お前か...僕の楽しみを根こそぎ奪っていったのは...ど、どうしてくれるんだよ!?」


康太は、鬼塚にそう言うが鬼塚は、顔色1つ変えずに康太の持つノコギリを奪った。そして、体に思い切り力を入れ、ノコギリの刃をへし折った。


「俺は楽しみにしてたぜ、お前に会えるのを...こうやってぶっとばせるんだからな!?」


鬼塚は、そう叫ぶと思い切り康太の顔面を殴りつけた。康太の体は壁に叩きつけられ完全にのびてしまった。

数分後、警察が到着し、康太は連行された。

それと同時に穂乃果は目を覚ました。


「せ、先生...やっぱり来てくれたんだね。」


穂乃果は、ポケットに入れていた壊れかけの携帯を取り出した。海未とことりはそれを見て驚いた。


「ほ、穂乃果!それって...」


「いつだったか先生が龍二さんのお店で壊した携帯。まだ使えるようにしといたから一応持っとけって龍二さんに言われたんだ。」


穂乃果はそう言った。すると康太が大声を出しながら警察に取り押さえられながらも抵抗している姿があった。穂乃果は、警察に連行される康太を見て、足を進めようとした。しかし、鬼塚に肩を掴まれた。


「先生?」


「まだ謝らせようってんならやめとけ。」


鬼塚は、そう言うと穂乃果に康太の姿をじっくりと見させた。


「待ってくれよ!俺は殴られたんだぞ!あいつを先に捕まえてくれよ!まだ楽しみたいことが山ほどあるんだよ!!」


康太は、最後の最後まで反省の色を見せなかった。そんな姿を見た3人は、拳を握りしめ後悔した。一度でもあんな男を愛してしまったのかと。そんな3人に鬼塚は言った。


「世の中にはよ、何を言っても...何をやっても自分を省みねえクソみてえな奴だっているんだよ。そんな奴にいくら謝らせても、いくら痛い目見させても、自分の心は何も変わんねえ。」


鬼塚の言葉を聞いた穂乃果は涙目になりながら鬼塚に言った。


「それじゃあ先生...私や、海未ちゃんとことりちゃんがつけられた傷は...奪われた時間は...どうすればいいのさ...泣き寝入りなんて...泣き寝入りなんて悔しいよ!!」


そんな穂乃果に鬼塚も同情したのか、声を震わせながら、優しいながらも力強い口調で言った。


「乗り越えるしかねえんだ。どんなに辛くても、悔しくても...つけられた傷は無くならねえ、時間も戻ってこねえ。だからよ、一緒に乗り越えて、埋め合わせんだよ。あんな男のこと忘れてよ。これから作っていこうぜ、新しいグレートな思い出をよ。」


穂乃果は、鬼塚の言葉を聞き、鬼塚に抱きついた。そして、赤子のように思い切り泣いた。そんな穂乃果を鬼塚は抱きしめ、頭に優しく手を置いた。


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