「地図に無い島」の鎮守府 第十話 動き出す世界
提督を中心として、いよいよすべてが動き出す。
武器商人ハンドレッドと、日本の関係。
誰も知らない提督の過去。
そして、『三女神』「属性」「艦娘」のかかわり。
アメリカさん側は大変な事に。
初風と曙のやり取りと、提督と漣のアクシデントが見所です。
どうやら人類はかなり劣勢であることがわかる第十回。
背景が複雑なので前回、今回と設定的な話が多いですが、
次回からやっと艦これらしくなってきます。
[第十話 動き出す世界 ]
―堅洲島鎮守府、特殊訓練施設内のどこか。
姫(やはり、わたしが動いて正解ね。彼らは半信半疑のせいで、まともに深海勢力・・・いいえ、姉さまたちに対抗する事が出来なくなっている。わたしでさえ、この有様だというのに)
―姫は自分につながる、非常に細い意識の抜け道を通り、視点を宇宙からのものに切り替えた。太平洋の中ほど、マリアナのあたりに、巨大な台風のように黒いもやのかかっている海域があった。
姫(ああ、やっぱり活発化している・・・。思っていたより急がなくてはダメね。・・・ん?この感じ、しまった!)
―姫は何者かの意識が自分に向かうのを感じ、一瞬で意識を、自分の本体の場所に戻した。
姫(おかしい。以前は30分は見つからなかったのに、今回は一瞬で意識がこちらに向かってきた。集めた『彼ら』を使って、何かを稼働させ始めているわね。まずいわ・・・。本当に見つかってしまったら、ここに人工衛星を落とすことも厭わないでしょう。もうじき、「接続」も難しくなるわね・・・)
―横須賀、対深海勢力特殊作戦総司令部、参謀執務室。
参謀「驚いたよ。おそらく『姫』の差し金だろうが、『ハンドレッド』を動かしてあの提督と会せるとは。私の考えが間違っている可能性が濃厚という事か。認めたくはないが」
女科学者「若さもありませんしね」
参謀「・・・」ジロリ
女科学者「なんて言われないようにしないといけませんね」コホン
大淀「私は何度も申し上げましたよ?あの深海勢力の猛攻では、今の堅洲島の防衛施設でも不十分ですと。私は今でも、あの夜の事を思い出してしまい、お酒がないと眠れません。アルコールをあんなに軽蔑していたのに、です」
女科学者「率直に言って、参謀も私たちも、積極的にあの提督と鎮守府を支援して結果を出さないと、不必要の烙印を押されかねませんね。偉い人たちは自分たちのアイデンティティに関わる、『姫』とその姉妹の事を頑として認めようとしませんが、通信網と空と海を抑えられている時点で、もう負けているようなものですし」
参謀「『三女神』と『ヒューマン・ディープアトリビュート』と『艦娘』・・・これらを合わせて考える事さえ、老人たちには難しいだろう。私だって今でも理解はできていない。本能が認めたがらないのだ。認めたくないのが自然な事であり、そのせいで対応が後手後手に回る、という悪循環を、分かっていて繰り返さざるを得ない。それがまた、彼女たちの手のひらの上のようで気にいらないのだ」
大淀「でも、現実は見ないといけません!都市伝説に過ぎないとされていた『ハンドレッド』まで、『姫』が動かしました。危険と、等しく可能性もあるという事だと思います」
参謀「わたしもそう思いたいがね・・・これを見たまえ。本日朝一番で私のところに回ってきた命令だよ」パサッ
女科学者「・・・あーあ、馬鹿ばっかりだわ」
大淀「・・・こんな、こんな・・・!」ワナワナ
参謀「このままでは、我々は負ける。負けるべくしてね。流石に自分の中の何かに火が付く思いだよ」
大淀「『姫』と話してみます!」ガチャッ、バタン!
女科学者「大淀が怒るのも無理ないですよ。私も、この仕事を少しだけ辞めたくなりました」
―同施設、特殊帯通信室。
大淀「『姫』、大淀です。答えてください!」
姫「来る頃だと思っていたわ。老人たちがつまらない命令の山を出してきたんでしょ?それね、全部そのまま、命令の通りに、あの提督に振って大丈夫よ。だからそう怒らなくて大丈夫」
大淀「なんですって?こんな雑務に近い仕事をですか?」
姫「それ、私がそうしたのよ。老人たちは見事に彼に振ってきたわね。ほんと、使いやすい人たち。ふふ」
大淀「何のために、そんな?」
姫「それ、本当に雑務だと思うかしら?一つ一つの案件は、解決させたら強力な戦力が増強されるものばかりよ?そして、みんな彼を認めざるを得ない。・・・何より、あなたも艦娘ならわかるでしょう?その子たちを助け出せるのは、彼くらいなのよ。そして、そういう力が何より大切なの。この戦いにはね。あなた、『漣』のフレームを見たでしょう?」
大淀「あれは、どういう事なんですか?姫クラスの攻撃さえ、あの子には通じないレベルの輝度でしたが。あそこまで艦娘のフレームを光らせた人は、最近失われた、公称練度155の金剛とケッコンしていた提督だけでした。それでも、二年半近くかかっていましたが」
姫「それがあの島の提督の「力」または、「アトリビュート」つまり「属性」なのよ。それが、彼が選ばれた理由の一つであり、早くもその力を示し始めているわけ。これは本来の「ケッコン」で発現するはずだった効果ね。でも、私が期待しているのは、まだまだ、こんなものではないわ」
大淀「!」
姫「さあ、わかったら時間は貴重よ。あなたの仕事に取り掛かりなさい」
―マルロクマルマル、堅洲島鎮守府、提督の私室。
曙(ふふ、クソ提督、たまにはわたしが起こしてあげるわ)ガチャッ、キイッ
曙「え?あなた、なぜここにいるの?」
―曙が部屋に入ると、提督はまだ寝ていたが、初風がカーテンを開けようとしていたところだった。
初風「おはよう、曙」
曙「何でここにいるのかって聞いてんのよ!」
初風「何でって、私の部屋、決まらないままだったんだけど。歓迎会をしてくれたのは嬉しかったんだけど、私も言うのを忘れていたわ。提督の部屋の場所は歓迎会中に聞いていたから、ここに来たのだけれど、提督は疲れているみたいで、ずっと眠りっぱなしよ」
曙「あっ・・・ごめん、そうだったかも。・・・声をかけて起こしたりしなかったの?」
初風「私、やっとまともな提督と出会えたと思っているの。疲れているようだったし、昼間も忙しそうだったから、声を掛けるのは躊躇われたわ。どんな人かも良く見てみたかったし」
曙「まさか、寝てないの?」
初風「あまり寝てないかな。提督の読んでいる本に目を通していたら、面白くてこの時間になってしまったの。でもね、心は疲れてないわ。だいぶ休まった感じ」
曙「・・・さっきは、きつい言い方して、ごめん。まだクソ提督を起こす時間じゃないし、良かったら一緒に何か食べない?甘味が良いなら奢らせてもらうわ」
初風「ありがとう。いただくわ」
―ガチャッ、バタン
―『軽食・甘味処まみや』仮店舗
間宮「おはようございます。あら、珍しい組み合わせなのね!」
曙「朝早くからごめんなさい。あの、ココアでお願いします。・・・あなたは?」
初風「コーヒーでいいわ。提督仕様ので」
間宮「はい、かしこまりました!ちょっと待っててね」
曙「さっきはごめんね」
初風「いいのよ。逆の立場だったら、たぶん誰だって穏やかじゃないと思う。好きな人を起こしに行ったら、良く分からない女の子がいるシチュエーションなんて」
曙「そっ、そういうんじゃないから!あなたの事が良く分からないから警戒しているだけよ」
初風「一理あるから、突っ込まないわ。代わりに、私の事を話してもいい?」
曙「・・・聞きたいわ」
初風「私ね、一か月と少し前、鮎川鎮守府というところの子たちに見つけられて着任したの。でも、そこの提督は必要最小限の艦娘しか運用しないし、レアな子や、司令部の大規模参戦にも否定的な人でね。すぐに違う鎮守府、大洗鎮守府に移動になったのよ」
間宮「お待たせ!正式にはあなたたちがお客様第一号になるから、このお菓子はサービスにしておくわね!」
曙・初風「ありがとうございます!」
初風「でね、大洗鎮守府は、なんて言ったらいいのかしら?見た目が幼い子しか良い扱いをされないところだったの。私はすぐに、資材と引き換えでまた移動になってしまったわ。見た目で提督の好みではなかったのね・・・」
曙「戦艦や空母は?」
初風「もちろんいたわよ。練度も高かった。けれど、彼女たちは大破しても高速修復なんて使ってもらえないし、提督も最小限しか会話しない。駆逐艦の子たちは必要なら個室もあてがわれたけれど、戦艦や空母の子は相部屋で間に合わせだった。だから、上下関係がおかしくて、作戦もいつもスムーズじゃなかったみたい」
曙「本物のクソ提督ね・・・」
初風「あなたの言う、クソ提督の、本物と偽物の違いについて、一度じっくり聞いてみたいわね」
曙「んー・・・」
初風「その後は、剣崎鎮守府に異動よ。もうこのあたりから、私の心は不安と不信でいっぱいだったのだけれど、ここの鎮守府は結構よかったのよ。ただ、提督と深い関係の子が、艦種問わずちょっと多いのは気になったかな。少しだけ平穏の日々が続いていたんだけど、12月に入って少ししてから、私の艤装服がコレに変わったわけ。それから全部おかしくなってしまった」
曙「どういうこと?」
初風「そこの提督はどうやら、サンタコスが大好きだったみたい。とにかく毎日口説かれたり、私室に呼び出されたりしてたんだけど、解体申請をしたら態度がガラリと変わってしまったのよね。地下の機械室に呼び出されて、手錠で配管に繋がれたの」
曙「えっ、まさか・・・」
初風「下は少し脱がされたけど、異常に気付いた憲兵さんがワッズ(非致死性弾)を提督に撃って、ギリギリ助かったのよ。提督は裁判にかけられることになるし、他の子たちからは罵られるし、最悪だったわ」
曙「怖かったどころじゃないわね・・・」
初風「ひどい事をされた後に解体されるのよ。要するに私は使い捨てって事じゃない。真面目に好意を示してくれたり、口説いてくれるのならわかるのよ?でも、そんな感じじゃないんだもの。流石にいろいろ諦めたわよ・・・」
曙「もしかして、提督ってそんなのばかりなの?」
初風「決してそうではないと思うわ。悪いところばかりに当たったと思いたいけれど・・・」
曙「あ、話の腰を折ってごめんなさいね」
初風「いいのよ。それで、次は東京新海堡第四鎮守府に移動になったのだけれど、鎮守府は表向きの話で、ここにはおかしな力が働いていたのよ。任務は何もせず、書類のみ。着任してくる艦娘は姿を消すし、殆んど自由に出歩けない、提督は不愛想なおばさんだったし、おかしな鎮守府だったわ」
曙「気持ち悪い鎮守府ね・・・」
初風「でしょ?ある夜、私は急に呼び出されたの。どこか海外に着任になるからって。で、鎮守府の地下船渠で憲兵、と言うよりは私兵かしら?提督の部下や提督と一緒に待っていたら、古い外国の船が入ってきたんだけど、そのあとすぐに、武装したゴムボートが入ってきて、私と艦娘以外の人間を皆殺しにしてしまった。外国の船の乗組員もね」
曙「えっ・・・どういうことなの?」
初風「私がここに来た時に、一緒に歩いていた女性の私兵が二人いたでしょ?ゴムボートから降りてきた兵士のうち、二人はあの人たちだった。連れられて執務室に行くと、あの武器商人、ハンドレッドがいたのよ。役人に成りすましていた害虫の駆除をした、と言っていたわ。売国奴の最期などこんなものだ、ともね」
曙「それって・・・」
初風「おそらく、みんな海外のスパイだったのよ。後でわかったけれど、あの提督も女性の人権活動とか、そんな事をしながら、艦娘の排斥運動をしていた人だったみたいだし」
曙「なんで艦娘を排斥するわけ?みんな必死で戦っているのに」
初風「さあ?たぶん、魅力的だからじゃないかしら?良く分からないけれど」
曙「ほんと、よくわからないわね」
初風「それで、あの武器商人に拾われて、その後正式な手順を経て、ここに着任になったというわけ。ただ、私はあの武器商人、ハンドレッドとの窓口として必要な幾つかの教育は受けているわ。連絡の取り方とかね」
曙「あの武器商人、ハンドレッドっていうの?あの人は何者なの?」
初風「私も分からないわ。日本に入ってくる武器は必ずあの人たちを経由することと、ハンドレッドは一人ではなく、複数名いること、彼らはみんな自分をハンドレッドと呼び、個別の名称は持っていない事、くらいしか。・・・あ、ハンドレッドという名前には理由があると言っていたわ」
曙「百人いるとか?安直かしら?」
初風「・・・曙、日本国内で拳銃を一般人が携帯する事って可能だと思う?」
曙「無理に決まってるじゃないそんなの。誰でも知っていることよ」
初風「私もそう思っていたわ」
曙「え?どういう意味?」
初風「銃刀法をよく読むと、実は日本国内では、百人だけ、拳銃を所持できる。それは本来、彼らハンドレッドの為の法律だったらしいのよ。幕末の英雄にも、拳銃で有名な人が居たでしょ?」
曙「坂本龍馬かな?」
初風「そう。あの頃から始まっていることらしいのよ。そして、あなたたちの提督は、なぜか拳銃の携帯ができる立場になってしまうみたいで」
曙「まさか、クソ提督もそのハンドレッドに組み込まれた?」
初風「よく分からないのだけれど、妙に高く評価されているわね。実際、拳銃を携帯したほうが良いのは事実だけど、あの武器商人の考えていることは、私には読み切れないわ。・・・あ、女性の兵士の一人が、提督の事を『ラスト・スタンディング・マン』と呼んでいたことがあったかな。意味が分からないのだけれど」
曙「わからない事ばかりね・・・」
初風「私も、今は深く考える心のゆとりもないし、艦娘本来の毎日を送りたいの。心を煩わせるのはこりごりだわ」
曙「無理もないわね。わたし、あなたの事を警戒しすぎていたかも。その・・・ごめん、ね」
初風「そういう気持ちはそのままの方が良いと思うわ。あの提督、いずれ敵が増えていくそうだから。無理もないわね。戦況をひっくり返すのであれば。実際に見てきたけれど、上層部にも鎮守府にも、スパイが入り込む余地さえあるわけで。気を抜いてはダメよ」
曙「そうなるわよね・・・」
初風「ところで、私も一つ聞いていいかしら?」
曙「何かしら?」
初風「駆逐艦・曙と言えば、どこの鎮守府でも提督や仲間に突っかかってる子ばかりだったのに、あなたは全然違うわね。まるで、提督が大好きみたい。なぜあなたはそうなの?」
曙「なっ!・・・はっ?・・・えぇ・・・。や、やっぱりあなた、気に入らないわ!わたしがどうしてクソ提督なんかを大好きになるのよ!」
初風「落ち着いてよ。私はどうしてそうなったか聞きたいだけ。大好きって部分は抜くわ」
間宮(朝から楽しそうね、この子達ったら)
曙「・・・勝手な事をして迷惑を掛けちゃったからよ。何のおとがめも無かったけれど、わたしは納得してないの。それだけ!借りを返しているだけで、大好きなんてことは絶対にないから!」
初風「よくわかったわ。じゃあ、遠慮する必要は無いわね」
曙「えっ?」
初風「昨日ね、ここで、提督が間宮さんに頼んだお菓子を幾つか食べたの。私が好きな味とぴったり。それに、提督も言っていたでしょ?『大変だったかもしれないが、ここに来るまでの運命のねじれと解釈したらいい』って。そう考えると納得できるもの。いままでの理不尽さえ。幸い、特定の仲いい子もいないみたいだし」
曙「・・・そう、好きにしたらいいじゃない。そんなの、あなたの自由よ」
初風「あなたは借りを返すだけじゃなく、もっと色々見た方が良いと思う」
曙「そういう勘違いした気遣いは無用だわ!」
初風「ごめんね、でも、これだけは覚えておいて。私、あなたと友達になりたいの。一緒に何かを食べるこの時間も、凄く嬉しかったのよ」
曙「!・・・良かったじゃない。こんなのでいいなら、ま、また呼ぶわ。話はこれくらいでいいかしら?」
初風「うん、ありがとう(優しい・・・)」
曙「ああもう!調子狂うわね。またね!・・・間宮さん伝票お願いします」
―その頃、提督の私室。
漣「あれ?ご主人様、ぼの来てませんかー?」
提督「・・・んあ?来てない、と思うぞ?おはよう漣。最近忙しくて・・・」スゥ
漣(また寝ちゃった・・・)キュピーン!
―漣は提督の布団をはがすと、薄い毛布越しに馬乗りになった。
漣「お・き・て・♡・ご主人様ぁ!(一度やってみたかったのよね!)」
―コンコン、ガチャッ
磯波「おはようございます、提督。磯波、参りました!・・・あっ!」
漣「あっ!」
提督「・・・ん?どうした?」ガバッ!
漣「うわっと!」
提督「危ない!」ガシッ!
磯波「す、すいません、もう少し後にまた来ますね!」ガチャッ、バタン
提督「・・・ん、何が何やら。磯波はどうしたんだ?漣もふざけ過ぎだって。危なかったろう、今の」
漣「はにゃ・・・・」マッカ
提督「ん?漣どうした?」
漣「・・・朝から元気ですね、ご主人様。この姿勢、思いっきり対面なんちゃらだし、その・・・当たってます。たぶん、大事なとこどうしが・・・」マッカ
提督「あっ、ごめん」ストッ
漣「ちょっ、ちょっとさすがに赤面マックスなので、いそっちかぼのを呼んできますね!ごめんなさーい!」タタッ
提督「・・・今日も一日、忙しそうだな」フゥ
提督「お前も大変だろ?だがまあ、男には通すべき筋があるからさ」
―提督は自分の股間に話しかけた。いいじゃないか、疲れているんだから。
―ヒトマルマルマル、鎮守府付近の道路、ジープで移動中。磯波は提督の私物のコートに身を包んでいる。
磯波「あの、すいません。今朝はとんでもない誤解をしちゃって。わたし、てっきり、その、そういう事かと・・・」
提督「いや、あれは誰でも誤解する。昼メロだと、あそこでショック受けた磯波が、『この泥棒猫!』とか言いながら包丁を握ったりしてもおかしくない。・・・まあ、朝からどれだけ元気なんだよ!ってツッコミはあるものの」
磯波「昼メロって、・・・ふふ、面白いです。そのあと、血みどろの展開から誤解が判明して、みたいな流れですよね?」
提督「そうそう、まさに誤解。『こんな、こんなはずじゃ、いやぁぁぁ!』みたいな」
磯波「でもわたし、思うんですけれど、ああいうネガティブな展開ばかりって、視る人にはネガティブを楽しめるだけの心のゆとりがあるって事ですよね。良い事だとは思うんですけど、わたしはあまり・・・」
提督「好きではない、かな?」
磯波「はい」
提督「よく分かる。おれもだ。いつでも最悪と隣り合わせの毎日を経験すると、ああいうものを楽しむのは心のゆとりの悪趣味な発露のように思えてしまってさ。ついでに言うと、遊園地なんかの絶叫マシーンも嫌だ。事故の発生率を極限まで下げることを心がけていると、その発生の確率が少しでも上がることはしたくない。同様に、今こうして車を運転していても、あまり抜け道ばかり使うのは気が引ける。事故率が上がるからね。・・・ここには抜け道なんてないけどさ」
磯波「わかります。わたしも、放置されてからちょっと変わりました。眼が冴えちゃった感じというか。少し寂しい気もするんですけれどね。でも・・・」
提督「ん?」
磯波「今朝の事もそうなんですけど、ここは毎日色々あって、かえってホッとしたりします」
提督「・・・成長したんだな、きっと」
磯波「提督、成長するって、時に悲しい事だったり、寂しい事だったりしますか?」
提督「そうだな・・・おれは、時々わからなくなる。こんなに寂しかったり、悲しいなら、成長なんてしないほうが良かったんじゃないか?とね。磯波くらいの頃は、誰よりも成長したくて仕方がなかったくらいなのにな。だがやはり、それでも成長するって事は大切だと思うよ。生きるってのはそういう事だと思うからさ。・・・今なら、何となくわかるんじゃないか?」
磯波「はい、何となくですけど。提督の言っているような気持ちも、ちょっとわかります」
提督「まあ、結局は全ての価値が上がっていくから、成長することは幸せなんだと思うけどな。一杯の水さえ、味が変わっていくのだから・・・」
磯波(なんとなく、わかる。助けられてからの毎日は、以前よりずっと色彩豊かな気がする。じゃあ、提督も、一杯のお水の味が変わるくらい、色々な経験をしてきたんですね・・・)
提督「しかし、今日も寒いな。寒いとちょっとホッとする。・・・今日は、酒屋と八百屋と、米屋さん、その他の商店を色々と回るよ。伝票で買い物ができる状態にしつつ、間宮さんとこの材料をできる限り買わなくては駄目だ。あとは、余裕があれば水も汲んでいこう」
磯波「わかりました!」
―同じ頃、横須賀。対深海勢力特殊作戦総司令部。
内閣府の役人「政府側からの書類は以上です。また、現時刻から堅洲島鎮守府は銃器の携帯・使用の許可が下ります。使用の判断は提督に一任され、銃及び弾薬の補充は『初風』経由でお願いいたします」
参謀「銃刀法の超法規的措置に、兵装試験特区化ですか。もうじき、ASU-DDBの運用許可も下りる見通し、と。政府もついに重い腰を上げたのですかな」
内閣府の役人「政府も老人ばかりではありませんし、自分たちに危害が及べば、事態の深刻さも呑み込めるというものです。先日、頭の固い老人たちの、膨大な量のスキャンダルが、否定しようのない裏付けとともにまとめられた資料の形で、老人たちと、彼らに抵抗する勢力に一斉に配布されました。詳細な衛星写真やら、携帯での通話記録やら、非常に詳細なものです。裏金、性的スキャンダル、幾つかの犯罪の教唆・・・、正直、申し開きが不可能なレベルです。そして、あのような資料をまとめられるのは、『三女神』の誰かしかいないと、政府の閉鎖型コンピューターも結論を出しました」
参謀「やったのは『姫』かね?」
内閣府の役人「それが、閉鎖型コンピューター『オモイカネ』は、『姫』ではないと」
参謀「馬鹿な!あり得んですぞ!」
内閣府の役人「『姫』の力も恐るべきものですが、一年半ほど前の大規模侵攻の時に、超干渉能力で深海勢力を止めてくれたではないですか。あの時に姉からウィルスを受けてしまい、現在は以前ほどの干渉能力も無く、完全に敵側のものとされてしまっている情報通信網の中の無数のゲートを通るのも難しくなっています。よって、このスキャンダルの取りまとめは『姫』ではありません」
参謀「となると、『次女』しかないではないか。彼女は行方不明のはず」
内閣府の役人「伊達に『三女神』とまで呼ばれている存在ではないですから、人知の及ばないところだと思いますよ。我々は、できることをするだけです」
参謀「そうだな、全くその通りだ」
内閣府の役人「ところで、これはオフレコですが、今月の初めに、東京新海堡第四鎮守府が、外患誘致罪で粛清されました。これを皮切りに、旧態で選別された提督は全て罷免となり、全鎮守府の再編が行われます。面白いと思いませんか?『三女神』の誰かが教えてくれた方法で選別された提督の鎮守府は全てトラブルもなく回っていて、老人たちの方式で選ばれた人材の鎮守府が問題ばかりと、はっきり結果が分かれたのは」
参謀「・・・私はね、三女神が提唱していた『人間の深属性』つまり、『ヒューマン・ディープアトリビュート』は実在すると思っているよ。元警官だった私の立場からは、なおさらね。皮肉な事だが。こんな事は言っちゃいけないが、犯罪を犯すものの顔や体形、考え方には、ある程度共通の特徴やグループがあると言わざるを得ない。そうでなければ、有能な警察官に経験など必要なくなるではないか」
内閣府の役人「自分たちで、神に近い存在を作り出した結果、自分たちは何か?という疑問に向き合わざるを得ない・・・皮肉な話ですよ」
参謀「もしかして、あなたも『属性判定』の結果で今の仕事に?」
内閣府の役人「これは、ばれてしまいましたか。そうでなければ今でも、学歴格差のある田舎で、くすぶりながら食うや食わずの半農半漁生活だったと思います」
参謀「やはりそうでしたか。言う事が役人のそれではない気がしたものですから」
内閣府の役人「恐縮です。しかし、そんな『三女神』が選んだ堅洲島の提督・・・彼は何者なのでしょうか?」
参謀「なんですと?政府の方には彼の詳細な資料があると思っていましたが」
内閣府の役人「履歴書に毛の生えた程度の情報しかありませんが、幾つかの工事に監督や技術者として参加していたこと、幾つかの資格を持っていること、くらいでしょうか。あとは、中国戦線に義勇兵として参加した記録や、オーストラリア、アフリカに何年かいたらしい記録がある程度です。完全に、無名の人だったようです。ただ、深海勢力の台頭に合わせて、彼が政府に送った幾つかの論文や上申書は、なかなか興味深い物でしたが。彼の予測と現状は見事に一致していますしね」
参謀「謎が増えるだけ、か」
―同施設、会議室。
女科学者「『姫』もまあ、よくこんなに意味の分からない案件を集めたものだわ」
大淀「でも、全てに意味があるという事ですよね?」
女科学者「全て、困っている人が居る案件なのは間違いないけれど・・・」
大淀「この案件、不気味じゃないですか?波崎鎮守府のこれ」
女科学者「なになに?練習巡洋艦『鹿島』を毎回大規模作戦のたびに複数見つけてきては・・・」
大淀「一か月に一人のペースでロスト又は解体しているわね。でも、練度155の鹿島とケッコン関係にあり、その子は健在ね。憲兵ももう三人も行方不明になってる・・・何か嫌な予感がします」
女科学者「ちょっと、横須賀鎮守府の『榛名』の案件もあるわよ!」
大淀「知ってます。『榛名』なのに、すごい素行不良の子ですよね?」
女科学者「そうそう。タバコ吸ってるし。すごいキレイな子なのに、すっかりグレちゃって」
大淀「これ・・・青ヶ島鎮守府の提督さんの案件もありますよ?」
女科学者「公称練度155の金剛とケッコンしていたのに、金剛が轟沈してしまった提督さんよね。でも、二代目の金剛がもうじき練度99でしょ?」
大淀「それが・・・かなり問題が発生していて、提督さん、もう提督を辞めたいと相談を受けたばかりです」
女科学者「はぁぁ?どういうこと?あの鎮守府が稼働しなくなったら、大変よ?」
大淀「最初の金剛との事が忘れられないって、泣いていました」
女科学者「そっか・・・あの提督さん、なかなかいい男だよね。自衛隊あがりだし。でも、泣いてたか・・・」
大淀「わたしには、あんな男泣きを見たら、引き留めるなんてとてもできませんでした。責任感で提督を務めて下さっていますが、これ以上無理は言えないと思いました」
女科学者「・・・いいや、もうさ、今日の午後からでも堅洲島に飛んで、全部あの提督に振っちゃいなよ。何とかしてくれるって事なんでしょ?信じがたいけどさ」
大淀「そうですね、ちょっと連絡を取ってみて、都合が合えばすぐに行きます」
―昼頃、堅洲町、角田酒店
提督「いやー、まさかこんな本格的な酒店があるとは。これだけでもいい島と言えますね」
酒屋の店主「提督さんほめ過ぎだよー!ほら、この島はさ、お偉いさんのリゾートだったからね。高い酒や珍しい酒も必要とされるし、贈り物には日本酒の高いやつって事で、それなりの店にする必要があったんだよね。もう商売あがったりかと思ったんだけど、提督さんたちが来たお陰で、また盛り返せそうだ。ありがたいねぇ」
提督「いやこちらこそ。命の水がないとろくに戦えませんからな。注文はひとまずこれらで、あとは私費で買いますよ。・・・そこの展示のスキットルは売り物ですか?」
酒屋の店主「提督さんは洋酒派だね。バーボンが多い。こりゃあれだね、ハードボイルドってやつかな?スキットルは在庫があるから売れますよ」
提督「いやいや、そんな。じゃあ、それも!」
酒屋の店主「まいどありー!」
―店を出ると、ジープの後部座席に荷物を積み込んだ。ここで、SNSの通知音が鳴る。
提督「どーもこんにちは。買い出し中の提督です。お手伝いに来るんですか?大淀さん」
大淀「時間があればぜひご一緒したいところですが、急な任務がいくつかありまして、夕方ごろにお邪魔しても大丈夫か、確認を取りたかったのです」
提督「いいですよ。せっかくなのでクッキーでも食べていってください。それでは」プツッ
磯波(なんか、大淀さんには冷たいような・・・)
―横須賀、総司令部食堂。
大淀「またあっさり切られちゃった。ほんと、余計な会話をしない人ね」
女科学者「意図を見透かされて避けられてるんじゃないのー?感覚の鋭敏な人は、声音で相手の意図を読み、出方に先手を打てるのよ?あなたってわかりやすいから」
大淀「どうせ私は、分かりやすくてつまんない女ですよ!」
女科学者「そんな事ないわよ。(むしろ、あなたは『大淀』っぽくない。まるで普通の女の子みたいよ。これも謎ね)」
―堅洲島漁協、食堂。
磯波「こっ、この海鮮丼、すごく美味しいです!」キラキラ
提督「このウニ丼もうまい。やはりこういう物は、足を運ばないと食べられないもんだな」
組合長「ここの魚はうまいよー!良い魚を優先的に納品していいってお達しなんで、良いのをたくさん納めさせていただきますよ」
提督「よろしくお願いいたします。もう、冷凍室は稼働しておりますからね。明日からでも納品可能ですよ」
組合長「わかりやした!ところで、提督さんは、釣りとかするの?」
提督「釣りもするし、投網も打ちますよ」
組合長「お、いいね。鎮守府側の海岸は、良い釣り場だから、楽しめると思うよー!」
提督「そうですね、時々、息抜きに遊ばせてもらいますよ」
―ヒトサンマルマル、深浦乾物・粉店。
店長のおばちゃん「いんやー、役所の人から提督さんて人が来ると聞いても、何のことかわからなかったんだけどね、やっとわかったよ。うちの乾物はお勧めだからね、お菓子でも何でも、良い材料になるよー!」
提督「ん、確かに物が良いですな。松の実もある。これ、ふた袋下さい。これは現金でお願いします」
店長のおばちゃん「あら、若いのに松の実が好きなんて珍しいね。誰か年配の方に教わったの?」
提督「はい、祖父のおすすめでした。頭がはっきりするから、常に食べておけと言われていました」
店長のおばちゃん「スーパーの食べ物だけじゃあ、本当に豊かな生活なんて送れないのよ。良いおじいちゃんねー」
―提督は小麦粉やきな粉、ドライフルーツ等を大量に買い込むと、それらをジープに積んだ。
提督「ほら、磯波、食べてみ。松の実は頭がスッキリするぞ」
磯波「あ、いただきます」
提督「さて、頭がはっきりしたところで、これ以上荷物を積むのは難しいと判明したわけだが。その他の店には明日以降、曙と来るか・・・。よし、ひとまず帰ろう」
磯波「あっ、和菓子屋さんにも寄るんですよね?」
提督「そうそう。衛兵さんへのお土産も買わなくては」
―ヒトヨンマルマル、堅洲島縦断道路、ゲート。
衛兵「や、すいませんな、手土産を頂いて。冬はあまりやる事も無いので、お茶が唯一の楽しみですよ。ありがとうございます。・・・ところで、漣さんは大丈夫でしたか?」
提督「色々悩んだようですが、もう大丈夫ですよ。貴重な情報、ありがとうございました」
衛兵「いや、話してよかったものか、ちょっと気になっていたからね。ところで提督さん、良かったら、ここの湧き水汲んどこうか?ポリタンクをたくさん持ってきてくれれば、運動がてら汲んでおくよ?」
提督「おお、ありがたいですねそれは!さっそく二つ、置いていきます。その分、何か食べ物やお菓子等、良いものを持ってきますよ」
衛兵「取引成立だね!じゃあ、そういうことで!」
―夕方、執務室。
大淀「説明は以上です。本日ヒトマルマルマルより、堅洲島鎮守府は提督以下、銃器の携帯、提督の許可による使用が認められています」
初風「弾丸や新規の装備の注文は、私に。初歩的な射撃や、銃器の扱いは、私が指導できるわ」
提督「初風、よろしく頼むね。物騒な話だが、狭い世界を生きる自分の宿命かな」
一同(えっ?どういう意味?)
提督「さてと、ずいぶん色々な案件が来たもんだな。この、波崎鎮守府の件は闇が深い。何が起きているのか、何となく想像はつくが、急がないと次の犠牲者が出るんじゃないかな?」
大淀「実は、波崎鎮守府には内偵を入れています。現在調査中ですが、なかなか、用心深い提督ですので、ここ一か月は動きが見えません。まだ、大丈夫かと思います」
提督「内偵?そこそこ手練れでないと、この鎮守府の提督の裏をかくのは難しそうだがね。おそらく、見えないところに協力者がいる。行方不明の憲兵は、そいつらにやられたな。あくまで勘だが。おそらく艦娘にも協力者がいる」
大淀「(なんで、これだけの資料でそこまで言えちゃうのかしら?)・・・内偵に入っている憲兵は、かなりの手練れです。今までも複数の内偵任務をやってのけた方ですので、大丈夫だとは思うのですが・・・」
提督「なぜかな?おれが見るとどうもうまくいかない気がする。・・・しかし、そういう事ならこちら、青ヶ島鎮守府の件を最初に対応するよ。練度99に近い金剛とケッコンの約束をしていても、前の金剛が忘れられない、か。ごく自然な感情だな。とりあえず、遊びに行ってみるよ」
大淀「よろしくお願いいたします。とはいえ、もうクリスマスです。『にしのじま』も帰還する事ですし、鎮守府は忙しくなると思いますから、全て年明けからで構いません」
提督「この、高練度の朝潮が行方不明になっている件は大丈夫なの?」
大淀「今のところは、追跡と観察はできています。まだ何とか、一人で頑張って生活しているようですが・・・」
提督「父親みたいな提督の遺言を守っているんだな。良い子だ。ただ問題は、こういう良い子に対して、一般社会はクズが多いって事だ。いよいよとなったら、いつでも声を掛けてほしい」
大淀「かしこまりました」
提督「それにしても、何だろうな?この感じ」
大淀「どうしましたか?」
提督「一つ一つはみんな違う案件だが、根底の問題は同じような気がする。『どう接するのか?』というね。・・・まあ、この世のすべての問題は、言ってしまえば何かの過不足なんだけどさ」
大淀「!」
提督「ん?」
大淀「いえ、ちょっと感心しただけです」
提督「そんな部分、ありましたか?」
大淀「私なりには。全て、つながりの良く分からない任務な気がしたものですから」
提督「あなたも艦娘だから、同じ気持ちかと思ったんだけどなぁ・・・」
大淀「・・・」
漣(なんだろ?この空気・・・)
―その頃、特殊輸送船『にしのじま』付近の海域。
卯月「やったぁ!でたっぴょん!卯月でっす!うーちゃんて呼ばれてまっす!」
扶桑「あら、かわいい子ね!」
弥生「・・・久しぶり」
卯月「あっ!弥生がいるっぴょん!凄く嬉しそうな顔してるっぴょん!」
弥生「普通の顔だけど・・・」
五月雨「うう・・・魚雷と爆雷をまちがえたら、そこに潜水艦がいたなんて・・・」
衣笠「まぁまぁ!いい方に考えようよ!これでやっと、ほぼ全員そろったんでしょ?」
陽炎「そうよ!結果オーライでいいじゃない!・・・問題が発生したらちょっと怒るけど!なんてね!」
―一時間後、『にしのじま』艦橋司令室。
陸奥「かなり順調ね!うちの鎮守府、すごく賑やかになるわ!」
叢雲「アイツ、きっと喜ぶわね。向こうも仲間が増えているみたいだし、なぜか間宮さんたちが常駐着任になったり、色々起きているみたいね。じゃあ、陸奥さん、締めをよろしくお願い!」
陸奥「わかったわ」
陸奥(艦内放送)「館内放送、艦内放送!提督代理、陸奥です。本艦『にしのじま』は、これより任務を終えて帰投します。帰投航行中の二日半は、警備・哨戒を除き休暇といたします。各自、自分の生活に必要なもの等、鎮守府の秘書艦に発注お願いいたします。尚、堅洲島鎮守府は本日をもって銃器の携帯許可が下りています。銃器の携帯を希望する艦娘は、島の警備任務に必ず当たる必要がありますが、希望者は早めに連絡をお願いいたします」
叢雲(館内放送)「続いて、秘書艦および提督代理補佐、叢雲からです。提督からの通達ですが、秘書艦が全く足りていないそうです。秘書艦業務を協力したい人は早めに申し出てください。また、当鎮守府は大型リゾート施設を改装したものですが、運営は基本的に自分たちで行う必要があります。様々な役割が不足していますので、これも希望者は早めに申し出ていただけますと幸いです」
―川内型の船室。
川内「ねぇねぇ、バリバリ夜戦ができる特殊訓練施設があるみたいよ?楽しみだなぁ!」
那珂「リゾート施設なら、ステージがあるよね?那珂ちゃん、すごい楽しみ!」
神通「私は、道場みたいな施設があったら嬉しいわ。鍛錬の場は必要だもの」
―妙高型の船室。
妙高「提督がお忙しいなら、私も秘書艦か何かで、お手伝いさせていただこうかしら」
羽黒「あっ、私も、出来ることがあれば、何かお手伝い、したいです・・・」
那智「銃器の携帯・使用許可か。軍らしくて実にいいな。骨のある司令官だと良いが」
足柄「陸奥さんとのかかわりを聞いたかしら?きっと素敵な提督だわ!早く会ってみたいわね。私、秘書艦もやりたいわ!」
―六駆の船室。
雷「うう・・・自分も船だったのに、船酔いがひどいです・・・」
電「でも、うちの鎮守府は間宮さんたちが常駐みたいなので、帰ったら美味しいものが食べ放題なのです!」
暁「お、美味しいコーヒーが飲めそうね。楽しみだわ!」
響「無理しないで普通にお菓子とかを楽しんでいいと思うんだけど」
―吹雪型の船室。
吹雪「提督さん、どんな人なんでしょうね?」
初雪「わたしは、あまりうるさくない人だといいなぁ。あと、こたつ欲しい・・・」
綾波「間宮さんが常駐なんて、楽しみですね!」
深雪「なんかさ、磯波だけ着任してるらしいよな!しかも秘書艦て」
敷波「他の鎮守府で捨てられたのを助けたらしいよね。良い司令官じゃん」
白雪「わたし、銃の携帯許可もらおうかな・・・」ボソッ
一同「えっ・・・?」
―扶桑型の船室。
扶桑「山城、何とか任務を終えて帰れるわね。時間にしてわずかの間だったのに、ずいぶん時間が流れてしまった気がするわ。帰ったら、みんなで一緒に呑みたいわね。提督にも、ちゃんとご報告しないと・・・」
山城「提督ったら、わたしたちの事を忘れてたりしないでしょうね・・・」
扶桑「それはないわ。陸奥や叢雲ちゃんがこっそり教えてくれたけど、定時連絡のたびに、『扶桑と山城は無事か?』って聞いてくださっていたみたいよ?」
山城「そうだったんですか?まさか、史実では欠陥戦艦だから?・・・だとしたら不幸だわ」
扶桑「山城、分かっていて茶化しちゃダメよ?なぜか提督は、最初から私たちを少し、大切にしてくれている気がするの。鎮守府はすごく忙しいみたいだから、戦い以外でもお役に立ちたいわね」
山城「そうですね、姉さま。もうすぐクリスマスですし!」
―同じころ、アメリカ合衆国、太平洋側。海上移動型ロケット発射台船『ダイナソア』。管制室。
管制官「戦略衛星『ゲートブレイカー1』無事、軌道に乗りました!」
―管制室に職員たちの歓声が上がる。
NSA(国家安全保障局)職員「いや、まだだ!本番はこれからだよ」
管制官「おっしゃる通りです。これより、実験を開始します。まず最初に、量子干渉波による、通信網へのアクセスと、可能なら一部の回線の主導権を取り返します」
管制官2「オペレーション・ゲートブレイク、スタート!量子干渉波による、既存通信網の言語書き換え開始!」
―大型モニターに、人工衛星を含めた地球の全通信網と、それらの集中する大型サーバーやコンピューターの位置が表示された。それらは全て、敵の手に落ちていることを意味する赤で表示されている。
―その上部に、先ほど上げた衛星のものを意味する、小さな青い点が点滅し始めた。同時に、モニターの右下に、干渉波の展開時間が表示されている。
管制官「今のところ、順調ですな。・・・むっ?」
―青い点が波紋のような輪を広げ始めると同時に、太平洋上、マリアナのあたりから、赤い大きな波紋が広がり、人工衛星の青い点も一瞬で赤に染まった。
管制官2「実験、失敗です。8.6秒で『ゲートブレイカー1』は逆にプログラムを書き換えされ、敵の手に落ちました。これは、半年を掛けて開発した量子プログラムの言語が、そっくりそのまま相手のものになったことを意味します」
NSA(国家安全保障局)職員「馬鹿な!なんという演算速度だ!やはり、フリートガールを用いるしかないというのか・・・」
管制官3「『E.O.B海域』より、大規模な敵戦力展開の量子波を確認!目標は・・・ここです!」
NSA(国家安全保障局)職員「ここから、どこへ逃げろというのか・・・」
―職員は、カードケースから家族の写真を取り出し、眺めた。
―神なんて作らなければよかったのだ。と、誰かがつぶやいた気がした。
第十話 艦
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