2017-10-17 23:48:18 更新

概要

( 'ω')っこの4編前半のサブタイトルを後書きに追加したくらいです。


前書き

ぷらずまさんのいる鎮守府(闇):終結

の続きの蛇足編です。

【注意事項】

↓新たなオリキャラ注意です。

・悪い島風&悪い連装砲君。


【艦隊これくしょん Android】
・悪い島風ちゃんが想の力で海の傷痕が製作した艦隊これくしょんをモチーフに製作したスマホゲームです。


※蛇足編はやりたい放題および勢いの投げっぱとなります。気分でお話ごとに台本形式、一人称、三人称だったりするかもしれません。海のように広い心をお持ちの方に限りお進みくださいまし。

※不定期更新です。


前回の戦後日常編のお話。

提督は陽炎と不知火が抱えていた
前世代陽炎との問題を解決し、
艦これAndroidに新システムが解放された。


以上!




【1ワ●:ぷらずまさん、総統になる】

 

 

3年前に最寄りに駅が出来て、街のほうから電車に乗って終点で降りると、そこには緑に溢れた田舎があります。とある山の麓には、その自然と相反した王国があります。

 

 

もともと人が住むところではなかったのですが、森林事業により木々が伐採されるなら、と、その土地に1つの町を造ることにしたのです。四方を山に囲まれたこの町に住む人はなんと一万人以上もいるのです。田舎だから不便かな、と思いきや、それがそうでもなく、その王国内にはそこらの街のように物資の流通に飛んでいます。そうなったのも、次々と事業を開拓し、都会のほうからもこちらに移り住む人も増え、年々、人口は増加しています。今ではど田舎というほどでもないけど、都会というほどでもありません。そのくらいが住み心地が良くてポイント高いのです。

 

 

そんな王国の創設者は、共栄自律教団。

 

 

某ネズミランドのようなお城が不似合いにそびえ立ち、あそこのお姫様の間に我が姉の一人、雷お姉ちゃんがいます。戦争終結の時、雷お姉ちゃんのストーキング能力の高さを知り、前々から訪れてみたいとは思っていたのです。

 

 

ちょうど、使命(リユウ)が出来ましたしね。

 


しかし、想像以上ですね。私の鎮守府(闇)とは比較にならない土地の国なのです。さすが我が姉の一角と誉めてやるのもやぶさかではありません。

 

 

駅のベンチに腰を下ろして、お友達を待ちがてら休憩するとします。先に司令官さんから連絡が来まして、慌てて雷お姉ちゃんのところまで引き返してきました。

 


司令官さんの艦これに新たなシステムが解放されたみたいなのです。そのシステムは『友軍艦隊』なのです。その解放された司令官の友軍艦隊システムには支援として駆り出せる戦力の指定がありました。その一人が私、とのことです。

 

 

他の面子と行動を共にして欲しいとのことで、ちょうどメンバーの位置的に集合しやすかったここに集まろう、とのことで、お友達を待っている訳なのです。

 

 

電車がやって来ました。

扉が開くと、お友達の一人がホームに降り立ちました。帽子を前後ろ逆にかぶって、サングラスをかけた顔を太陽に向けて「ослепительный」とロシア語をいいます。サングラスかけて眩しいとは。

 

 

2

 

 

響「久しぶりだね。元気にしていたかい」

 

 

電「もちろんなのです。響お姉ちゃんはなんというか、戦争終結してからはっちゃけ始めたのです」

 

 

響「自由になったからね。やりたいようにやるさ。軍ではこういう響の適性者をフリーダム響というらしい」

 

 

電「なんなのですそれは……」

 

 

響「時に電、闇のLINEグルはあまり見ないのかい?」

 

 

電「見ませんね。あれ、軍内部の駆逐の会とか、色々と通知がうっとうしくて切っているのです。でも、呟くほうはたまに見るのです。皆さんがどういう風に過ごしているのか気になりますから。まあ、悪い島風さんのせいで闇丙乙甲の面子の大多数は色々と大変ではあるのですが……」

 

 

響「納得したよ。それならいいんだ。むしろ今あのグルのは見ないほうがいい。これはお姉ちゃんからのお願いだ」

 

 

電「?」

 


…………………

 

…………………

 

…………………

 

プシュー

 

 

グラーフ「Guten Tag」


 

電・響「ぐーてんたーく」

 


グラーフ「全く今日は山風がようやく覚悟を決めた、甲の鎮守府は例のゲームに挑戦する予定だった。次から次へと……休む暇がない」

 

 

電「甲のところは明石君が代理提督とか心中お察しするのです。闇の同胞といえど、あいつに提督の才は皆無なのです」

 

 

響「彼は自制心に欠けているところがあるからね。でも、アッキーと明石さんがついているなら大丈夫じゃないかな。ところでグラーフさん、もう一人は?」

 

 

グラーフ「乗る電車を間違えて行ってしまったので置いてきた。子供でもあるまいし、その内来るだろう」

 


グラーフ「ところでここが例の雷の王国領土なのか?」

 

 

電「なのです」

 

 

グラーフ「……てっきり発狂していると思ったが」

 

 

グラーフ「電、貴様はもしかして知らな、」

 

 

響「おっとグラーフさん、わざわざいう必要もない。そうだろう? もしもの時、電を止められるというのなら構わないけど」

 


グラーフ「……止めておこう」

 

 

………………

 

………………

 

………………

 

 

プシュー

 

 

ガングート「ослепительный」

 

 

グラーフ「……」

 

 

電「また会いましたね。おはようなのです」

 

 

ガングート「ああ、おはよう」

 

 

響「……」キラキラ

 

 

響「サングラスが似合う……!」

 

 

ガングート「貴様、Верныйか」

 

 

響「私は響だよ。でも、この胸のペンダントは Верныйの艤装の一部なんだ。肌身離さずずっとつけている。私は響でありながら、 Верныйとしても生きている響改二なんだ」

 

 

ガングート「了解した。Верныйが響を名乗るならそちらを尊重しよう」

 

 

響「товарищ Гангут……」

 

 

ガングート「この世で最も完成された」

 

 

響「社会主義」

 


響「ソ連は今も」

 

 

ガングート「我らの中で生きている」

 

 

ガングート「ああ、私は直接的に貴様とは面識がないが、同志なのだから些細なことだ。噂通りに元気そうなちびっこだな!」

 

 

ガングート「товарищ Верный!」


 

響「(・∀・*)ゞビシッ」

 


グラーフ(今のやり取りはなんだ……)

 

 

ガングート「なに、准将には借りがある。ゲームといえど、あの化物の性能を考慮すれば戦争といっても過言ではないな。まあいずれにしても……フハハハ」

 

 

ガングート・響「ソ連の敵ではない」


 

電(……響お姉ちゃんがソ連艦と共鳴を始めて私以外は海外艦の空気ですね。響お姉ちゃんとガングートさん、なんか危険そうな心で通じ合い始めましたし……)

 

 

グラーフ(………本当にこの面子で友軍艦隊として機能するのか甚だ疑問だ)

 

 

グラーフ(この中で旗艦適性があるのは私とガングートだが……あいつにはこの連合艦隊の旗艦は任せられん)

 

 

電「グラーフさん、小声で失礼しますが」コソコソ

 

 

電「この面子を仕切るのは私に任せて欲しいのです。グラーフさんが適任でしょうが、ガングートさんとの折り合いの悪さを見るにここは私が適任だと思うのです」コソコソ

 

 

グラーフ(……暴走という面ではお前が一番怖いんだが、電のいうことにも一理あるな)

 

 

グラーフ「……そうだな、任せた。フォローはしよう」コソコソ

 

 

電「なのです」コソコソ

 

 

電「さ、それでは雷お姉ちゃんのところに向かうのです。お部屋は用意してくれているそうなので、親好を深めて、司令官さんからの連絡を待ちますよ」

 

 

3

 

 

ガングート「ずいぶんと活気があるな。この辺り1面が私有地なのだろう。この人口、もはや町と変わらん」

 

 

電「そうですね、見て分かる通りに、この私有地の中にもいくつか職場がありますので。隣町も田舎さんなので、電車や山道を通ってここまで買い物に来ますから、ここらなら都会に行くより交通費も安く済みますしね」

 

 

響「そこが雷のすごいところだね」

 


ガングート「……なるほどな。この国は宗教に対して良いイメージを持たないやつが多いだけに、確かにこの新興宗教ほど馴染まれているのは珍しいか」

 

 

グラーフ(……十中八九、戦後復興妖精が支援しているのはそこらだと思うがな。共栄自律教団は少しクリーン過ぎるし、なにか手を出そうとした輩は落とし穴にはまって自滅していったパターンも多い)

 

 

電「……あ、雷お姉ちゃんなのです」

 

 

雷「皆さんお疲れ様! これ差し入れね! 春といっても気温は高めだから、こまめに水分補給してね。塩飴もはい!」

 

 

電「相変わらず人の周りを飛び回って世話焼きしていますね……」

 

 

雷「あ、響も来たのね! グラーフさんとガングートさんもいらっしゃい。話は聞いているから、お部屋まで案内するわね!」

 

 

響「雷、ここでは皆のお手伝いをしているのかい?」

 

 

雷「そうね。解体作用を受けて力仕事は今はもう不得意になっちゃったけど、人手が足りないところがあれば頼りにしてもらってるわ!」

 

 

ガングート「スパシーバ! 噂に違わぬ世話焼きのちびっこだな。第6駆はみんな元気が良さそうでよろしい!」

 

 

雷「さ、行きましょ!」


 

4

 

 

雷「ここね。一通りの通信設備は整えているし、司令のスマホだけでなく、そこの器具から鎮守府にも通信は飛ばせるわ」

 

 

グラーフ「予想以上の設備だ。礼をいう。Danke」

 

 

雷「気にしないで。私で頼りになれることならなんでもいってね! 物理的に可能な望みの大抵は叶えられると思うから!」

 

 

響「雷、そこのクローゼットにあるのはなんだい?」

 

 

雷「あー、衣装セットね。色々とあるわ。私がこの間、演劇に参加して、そこに置いてあるだけね。もともとこの部屋は空き部屋だったのを最近、改装したからその名残」

 

 

響「ソ連軍服のオーバーコート」キラキラ

 

 

雷「もう使わないし、ここにあるのは欲しければあげるわよ?」

 

 

ガングート「一色揃ってるな。そっちのはドイツか?」

 

 

グラーフ「総統服だな。サイズが小さいが」

 

 

ガングート「待て。それは……本物か」

 

 

響「それは」

 

 

ガングート「狙撃手用の双眼鏡か」

 


響「!」キラ


 

ガングート「響、それにはあまり触らないほうがいい。狂っても、問題ないだろうが……ピントの合わせが恐ろしく繊細で素人が直すのは難しい」

 


響「宝の山だ……!」キラキラ

 

 

雷「……ねえ、響」コソコソ

 

 

響「ん、なんだい?」

 

 

雷「電、あの画像は見てないのね?」コソコソ

 

 

響「みたいだね。大丈夫だよ。電の目に入らないように皆が全力で流してくれたそうだし、仮に闇のグルを開いても見ることはないはずだ」コソコソ

 

 

雷「そうよね。電が見たら発狂モノだものね……」コソコソ

 

 

 

 

 

 

 

 

 


雷「司令官と陽炎さんのキス画像……」

 


響「……」

 

 

雷「鎮守府は大丈夫かしら……」

 

 

 

………………

 

………………

 

………………

 

 

龍驤「陽炎不知火! なんとかせいや!」

 


間宮「……あー、なるほどです。提督さんの好みって陽炎さんみたいな子だったんですね。私とはタイプが全く違いますし、もうダメです。私の春はもう終わりを告げ……」

 

 

龍驤「裏手の畑で体育座りしながらずっと土弄ってる! あの画像をグルにあげられた日から間宮さんずっとこの調子で、うちらの飯のグレードめっちゃ落ちてるんやで!」

 

 

陽炎「だから何度もいったってば!」

 

 

陽炎「あ、あれは悪い島風が仕組んだ事故で、お互いが合意の上で致した行為ではないんだって!」

 

 

間宮「……はあ、陽炎さん顔赤いですし、満更でもなさそうです。まさか陽炎さんという伏兵が」

 

 

陽炎「い、いや、私は単にその手の話に耐性ないだけで深い意味はないから、ドツボにはまらないで!」

 


………………

 

………………

 

………………

 

 

響「ってのは暁から聞いたよ」

 


雷「鹿島さんも瑞鳳さんも出払っているみたいだし、代わりに料理出来る人いないから大変ね……」



3

 

 

電「グラーフさん、携帯眺めながらどうしました。顔面蒼白なのです」

 


グラーフ「漣から連絡が来た…………」

 

 

グラーフ「私とガングートが収録したふざけたCMがアップロードされている、と……!」

 

 

ガングート「なんだと……?」

 

 

響「コメント蘭で笑い者にされてる」

 

 

グラーフ「おい……我が祖国の同胞と思わしきコメントが」

 

 

プリンツ《あははっ、グラーフさん、可愛いですね!》

 


ビス子《あなた、ガングートと仲がいいのね。ちょっとバカっぽいけど(笑》

 

 

ろーちゃん《あはっ、楽しそうですって!》

 

 

グラーフ「プリンツとろーちゃんはともかく、ビスマルクに笑われるとは……!」

 

 

グラーフ「Demütigung:屈辱……!」

 

 

島風《ガングートさんなにやってるの?w》

 

 

天津風《北方の第一艦隊旗艦とは思えない醜態ね。遊んでいる場合じゃないでしょ……》

 

 

ガングート「北方の同志から手痛い言葉が……」

 

 

電「全く、二十歳越えてこの程度で冷静さを失うとは、あなた達の素質が知れるのです。敵がいる以上牙にならないプライドなぞ持つだけ荷物なのです」

 

 

電「ん、私のスマホにも、これは瑞鳳さん?」

 


瑞鳳《電ちゃん? さっきから私にたくさんLINE飛ばしてるけどどうしたの?》



瑞鳳《例の件なら私はよく知らないよ》



電(はあ? 私は瑞鳳さんに連絡していないのです……)



電「……、……」



電《……ええ、その件のことなのです》



瑞鳳《提督のあのキスは事故だって予想できるよね?》



電「……は?」



電「……あ?」



電《あの司令官さんが不健全行動を? 瑞鳳さんと?》



瑞鳳《え》



電《はあ、私は司令官さんの言葉は全て覚えているのです。最後、帰投してそれぞれ言葉をもらいましたが、瑞鳳さんにはこういっていましたね》



電《『本当のあなたは、もっと性的な人ですよね。この鎮守府が支援施設として機能する間、あなたともっとお話して、腹を割って仲良くなりたいな、と自分は思っています』と》



瑞鳳《あの時はもう起きてたんだ!?》



瑞鳳《っていうか覚えてないよね!? 性的じゃなくて個性的だから! 一文字足りないだけでただの下ネタにしか聞こえないよ!》



悪い島風《失礼します。お詫びの資材、燃料のお届けに参りました》



悪い島風《≧∀≦)っ『陽炎と司令官さんのベーゼ画像』》


 

電「……」ホウ





電《悪い島風さん》

 

 

 

電《契約、しましょうか》

 

 

響「電、怖い顔してどうしたんだい?」

 

 

電「まさか陽炎さんが司令官さんに気があったとは……響お姉ちゃんが闇グル開くな、とはこういう」

 

 

響・雷「!?」

 

 

雷「ち、違うわよ。あくまで事故みたいだから」

 

 

電「陽炎さん、目を閉じていますが? その気があったということでは?」

 

 

響「見せて」

 

 

響(加工されてる……)

 


響「電、これは私が見たのと違、」

 

 

悪い島風【呼ばれて飛び出て島風ちゃんです! 契約書だよ! 力が欲しいんだよね!】

 

 

電「はい、髪をどうぞ、なのです」

 

 

雷「ちょ、電!? 話を聞きなさい!」

 

 

悪い島風【ちなみに艦の兵士の皆さん、この契約書に書いてある通りすでに不死仕様で死にませんから!】

 

 

電「その総統服に着替えます」

 

 

響「電」

 

 

電「響お姉ちゃんも司令官さんのこと気に入っているはずなのです。このゲーム、さっさと終わらせるために友軍艦隊として死力を尽くすのみです」

 

 

電「甘えは切り捨てるのですよ」


 

響「あ、悪い島風さん、私も契約いいかな?」

 

 

雷「響!?」

 

 

響「心配ないさ。私は支援艦隊として信頼の名をもう一度この身にまとう必要があるだけだから」

 

 

悪い島風【もっちろん! ラストバトルの響改二仕様にしてあげますよ! あの時の響、くっそ強いですしね!】

 


グラーフ「……落ち着け」



悪い島風【へへ、空気読んでくださいよー。少し教育してやりますね】



悪い島風【Trance:Welcome to my home!】



………………


………………


………………



悪い島風【お待たせ! この動画を見てください! 超スピードで洗脳してきました!】



雷「煙の立ち込めた部屋に危険な説法が延々と流れてる……」



グラーフ「……戦争は悲しいことだ」



 

電「なのです。グラーフさんガングートさん」

 

 

グラーフ「終結させる。必ず早期に、だ」

 

 

ガングート「……、……」



ガングート「今回ばかりは異存なし、だ。友軍艦隊の任、しかと果たすぞ」

 

 

電「決まりですね。雷お姉ちゃん」

 

 

電「その総統服を借りるのです」

 

 

雷「……あわわ」

 

 

悪い島風(みんなノリいいなー……)

 


4

 

 

天津風「携帯、さっきから鳴っているけど」

 


提督「……雷さんからの着信と、悪い島風さんから動画?」

 

 

陽炎「ちょっと司令も間宮さんあやすの協力しなさいよ!」

 

 

龍驤「キミの一言で元気になるやろーしさあ!」 


 

提督「その気がない自分がなんと声かけすればいいのですか……というかお待ちを」

 

 

提督(……友軍艦隊の皆さん、確か雷さんのところに集合しているはず。あれ、これなんだ……)

 

 

提督(初めてぷらずまさんに拷問された時のようなおぞけが……)

 

 

不知火「司令、どうかしましたか?」

 

 

提督「……動画が届きました。再生するのでお静かにお願いします」

 

ポチッ

 

 

ぷらずま《Dear司令官さん、そして闇のお友達よ》

 


ぷらずま《友軍艦隊司令官ぷらずまから電報を》


 

天津風「中二心をくすぐる黒い軍服に、軍帽子、そして黒外套という総統のセンスはなによ……艤装が電艤装だから電だとは分かるけど……」

 

 

提督「なんでそんな服を……」

 

 

不知火「帽子の唾を下げて顔は隠れていますが、声的にも電さんですね」

 


龍驤「あ、これあかんやつや……」

 

 

ぷらずま《この闇のグルにあげられた陽炎さんが司令官さんに性的暴行をした決定的な証拠写真を見て、思ったのです》


 

陽炎「性的暴行って……はあ」

 

 

ぷらずま《どうやらお友達はすでに平和ボケをしているようで、残念なことにこの私の逆鱗に触れるという恐怖を忘れてしまっている。なんて罪深いのです……》



ぷらずま《ダボどもはこうも歴史を繰り返させる……》



ぷらずま《悪い島風という敵がいるのにも関わらず、色ボケした挙げ句に私の司令官さんへの性的暴行に加担するという》



ぷらずま《お友達は調子に乗りすぎた》


 

陽炎「この感じ、初期の電の雰囲気よね……」

 

 

提督「これダメなやつです。近頃はすっかりあの闇の雰囲気は落ち着いていたのに、トリガーによって再発してしまっている……」

 

 

不知火「響さん雷さんグラーフさんとガングートさんがいるはずなのにどうしてこうなったのでしょう……」

 

 

響《司令官》

 

 

提督「響さん……」

 

 

響《あなたの真実探求の才能は決して埋もれてよいモノではない。よってこの友軍艦隊としての働きの報酬》

 

 

響《……私の夢は知っているね》

 

 

響《生涯、私の秘書官として働いてもらおう。私と司令官ならこの世界を改革できるはずだ》

 

 

響《理想の社会主義国家へと》

 

 

響《あなたはそのために生を受けたんだ。司令官が生涯、私の片腕となるようすでに悪い島風さんと契約をした》

 

 

提督・龍驤「」

 

 

ぷらずま《『敵は命と引き換えにしても仕留める』、そして『必ず《駆逐:デストロイ》』するため、今ここに》

 

 

ぷらずま《日独露の三国同盟が成りました》

 

 

悪い島風・わるさめ【「ジークハイル! ジークハイル!」】

 

 

グラーフ「総統、そろそろ時間ですので」


 

ぷらずま「ええ。では秘書官さん、各々の戦場へ向かいますよ」

 

 

ぷらずま「さあ、我が新たなる同盟者(お友達)よ」

 

 

ぷらずま「聖戦(ジハード)」

 

 

 

ぷらずま「な!!!」

 

 

ぷらずま「の!」

 

 

ぷらずま「death!!」

 

 

グラーフ「Lichten des Ankers. 航空母艦Graf Zeppelin」ジャキン

 

 

響「Понял、さて愛しのВерный、殺りますか」ジャキン

 

 

ガングート「Понял! 艦隊旗艦Гангут!」ジャキン

 

 

グラーフ・響・ガングート「出撃するッ!」

 

 

グラーフ・響・ガングート「Ура――――!」

 

 

ぷらずま《これより我が艦隊は個々の戦場へと支援艦隊を差し向けるのです。生温く成り果てたお友達に勝利とかいかにつかみ取るものか思い出させて差し上げるのです》

 

 

ぷらずま《司令官さんならこれで察してくれるでしょう。最後に帽子のつばをあげておきます》クイッ

 

 

 

 

 

 


 


 

 

 

●ワ●


 

 

 

 

 

 

 

 

 


――――皆さん、不死なんですよね……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 


――――陽炎さんの意図しない不健全行動のように、

 

 

 

もしかしたら――――

 

 

 

 

 


 

――――『事故』

 

 

 

 

 

 

が起きるかもしれないのです。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

ぷらずま「●ワ●」ニタニタ


 

 

 

 

 

 

 



その日、鎮守府(闇)一同は思い出したという。

 

 

 

 

 

 


 

機嫌1つで蹂躙されかねないあの化物の力を。 

 

 

 

 

 

 

 


支配されていたあの頃の恐怖を。

 

 

 

 

 


 

 

by 悪い島風ちゃん♪

 


……………

 

……………

 

……………

 

 

提督「雷さん、響さんとグラーフさんガングートさんにもなにかあったんですか? 本人達、ですよね?」

 

 


雷《違うわよ! 司令官、今回もう私の手に負えない! 私、監禁されてこの部屋から出られないの!》

 

 

雷《電が私と似ていることを利用して教団の人達に危ない思想を植え付け始めてるみたいだし! 》


 

提督《グラーフさんは止めなかったのですか?》

 

 

雷「最初は止めていたけど、悪い島風さんが天国へ誘うお香を炊きながら危ない説法をヘビロテしたせいで洗脳されちゃったわ……!」

 

 

提督「」

 

 

天津風「……はあ、くっだらない」


 

龍驤「天津風、知らんのやね……」

 

 

天津風「な、なによ龍驤さん。泣きそうな顔して」

 

 

龍驤「あの状態の電は『Rank:SS』、軍隊が動くレベルなんやで……!」

 

 

天津風「!?」

 

 

天津風「え、SSって、確か国家転覆レベルの危険指数よね……」

 

 

提督《く、そこにいるのは真面目な面子のはず……違うってどういうことですか?》

 

 

 





 

 

 


 

 


雷《ここにいるのはぷらずまとフリーダム響とグラ子とガン子っ!!!》


 

 

 


 



 

提督「……」

 

 

提督「久しぶりにお世話になりますか」

 

 

提督「頭痛のお薬に」


 

【2ワ●:リアル連動型桃鉄 2】



丙少将「早速異常事態だ……」



丙少将「画面見つめてコントローラーで、じゃなくて、マジでこの身で駅を回る羽目になるとは……」



わるさめ《加賀社長が田子に停まりました。あ、にんにく畑を買い占めましたね。田子独占でっす!》



丙少将「加賀ア! お前さっき遠野に止まった時、グッズ店はスルーしてジンギスカン店と小料理店だけ買い占めたよな! ゴールは出雲なのに迷わず北陸方面行って食べ歩きしてんじゃねーぞ!」



わるさめ《これ食べ物ならリアルに戻った時、土地ごとは無理だけどお土産として用意してあげるからね! もちろん体験しての通り、ここで食べることも出来るよー! 資産は減るけど!》



加賀《SKK(さすがに気分がry)》



わるさめ《おおっと、雪風社長が特急カードでゴールに到着! 資産+三億円! ちなこの世界では1000万イコール1万円換算です! お前ら借金背負ったまま終わるとその分の負債が悪い島風ちゃんによって口座から引き落としされるからマジで気合い入れたほうがいいよ!》



わるさめ《そして加賀やん! 欲望まみれのお前にボンビーだよ!》



丙少将「いわんこっちゃない!」



《加賀社長! 売れる物件がもうありませんぞ!》



加賀《ああああああ――――!》



加賀《雪風、あなた私をはめたのね……》



雪風《そんなつもりはありません! ゲームの仕様上、仕方ないんです! 加賀さんはいい加減に目を覚ましてください!》



丙少将「おっしゃる通りだ!」



わるさめ《お! 次のゴールは那覇だよ! 天城っちがうろついているところ! このサイコロ振ればすぐにゴールできるかも……》



わるさめ《天城っち……なぜぶっとびカード使うの……》



天城《周りにない黄色のマスにいちかばちか……負債帳消しの徳政令カードがあれば、私がボンビーを引き取って負債を肩代わりできますから!》



丙少将「それは悪手だから! 1人凹みは悪くない手だがプラスのお前じゃなくそのまま加賀につけときゃいいんだよ! お前の資産は雪風の次に大きい8億だろーが!」



天城《ああ、青色のマスに》



《♪》



丙少将「この音楽は間違いねえ……シルバーダンディだ!」



天城《?》



わるさめ《そーいえば天城っち確か銀座の料亭の娘さんだよね。そいつもね、料亭の子供なんだよ。ぐれちゃったけどー……》



天城《気持ちは分かりますね……》



《天城社長は8億5600万円を奪われた!》



丙少将「全額いったスリの銀次いいいい!」



天城《へ? こ、こんなのスリってレベルの金額じゃないですよ! 犯罪史に色濃く残る大泥棒じゃないですか!》



丙少将「気にするところそこじゃねえだろ!」



丙少将「おいわるさめ! 食欲の加賀を実直真面目な大鳳に、箱入り娘の天城を常識人枠の伊勢か黒潮に替えてくんねえかな! こいつら向いてねえわ!」



わるさめ《無理に決まってんじゃーん。あ、でもこの桃鉄にはオリ要素がいくつかあるから、見つけて活用するといいかも。もしかしたら他の仲間が介入できるカードとかあるかもよー?》



丙少将《く、曖昧な言い方だぜ。っと、俺の番か。名古屋から、沖縄……まあ、行くか》



加賀《味噌カツ丼とソーキそばの場所ですね》



丙少将《お前はいい加減に懲りろ!》



加賀《仕方ないわね……》



加賀《で、どうします。確かに1人が負債を負うのは名案かと。天城のいう通り、徳政令カードがキーかと思いますが、それさえあればこのゲームのクリアの前に使えばマイナスはゼロまで繰りあがるのでしょう?》



丙少将《ああ。徳政令だけじゃない。3年後の君へカードは3年後に0になるし、最下位カードも0まで持って行ける。ただな、それらを手に入れて持っていても、マイナスイベントでカード失うこともあるんだよな……》



丙少将《とりあえずお前ら立ち回り下手だから俺がボンビー引き取りに行く。雪風につけとけばそんなにマイナスにならないかもだが、幸運方向によっては誰かに飛び火しかねないから、俺が割を食うポジションがよさそうだ。お前らは資産増やしまくれ。マジで頼むわ》



天城・加賀・雪風《了解です》






丙少将(よしよし、みんなの資産が合計で50億を越えた……)



丙少将(……俺の負債は34億とまだ四人合計だと余裕で+だ。キングボンビーになっちまってるけど、ボンビラス星に連れていかれる事態は避けられている……俺のツキも捨てたもんじゃねえな)



《カードを手に入れました》



丙少将《なんだこりゃ。突然、手持ちのカードのいずれかが自動で発動する?》



丙少将(まあ、大したカード持ってねえし、別にいいか)



丙少将《あ? うん? ギャハハ》



《丙社長は行動不能になった!》



丙少将「1人笑いカード効果発動しやがった。くっは、まあ、いいか。ギャハハ」






加賀《あの向こうの禍々しい空はなにかしら……》



天城《次のゴール地点の名古屋ですね。丙少将がいるところです。ああ、たくさんの悪魔が舞っています……》



天城《雪風さんのそのエンジェルに癒されます》



雪風《あ、ミカエルさんに進化しました!》



加賀《丙少将、早くどっか遠くへ行ってください。ゴールできません》



丙少将《酷いな! 待ってくれ! 俺は北に行く!》



加賀《ならこのタイミングで10億円カードでも使っておきます》



天城《あ、高知のアイスクリン屋さんから臨時収入です》



天城《頂きましたが、美味しかったんですよね。あ、お二人もいかがです?》



加賀《ありがとう》



雪風《美味しいです!》



天城《丙少将にも……と思うのですが、すれ違えばボンビーさんが憑いてしまいますし、渡せないですね……》



わるさめ《みなさん大変っす、モモスラのたまごが名古屋に発生しましたー》



加賀《?》



丙少将《モンスターの卵だよ! 8か月後に孵化して被害出るやつ! そういやそろそろドジラも来かねない年数だし、モモタロマンカード誰か持ってねえか? 持ってなければ誰か手に入れて使っといてくれ!》



加賀・天城《ありません》



雪風《了解です! 雪風もありません! 探しに行って参ります!》



加賀《のぞみカードもあるし、ゴールに向かおうかしら》



天城《ではお任せします。私は物件を買ってきますね。丙少将が桃太郎ランドを押していたので、それを見に行きたいです。来年の決算が楽しみです。各地のご当地グルメも手に入れましたし、今晩は豪華ですね!》



雪風《さっき銀河鉄道カードを使いましたが、素敵な宇宙の旅が出来ました! カード、面白いの多いです!》



加賀《銀河鉄道カードいいわね。……うん?》



雪風《あ、加賀さんの電車に妖精さん達が手を加え始めました!》



天城《あ、すごいです! のぞみに改装されました!》



キャッキャ




丙少将(楽しそうでいいな……俺は胃に穴が空きそうだよ……)



【3ワ●:ぷらずま&わるさめランド、ヒビキングカード】



天城《丙少将、岡山の土地に到着しましたが》



天城《桃太郎ランドなんてありません》



天城《あるのは『ぷらずま&わるさめランド』という物件ですが……10億円で買えます。これはいかがいたしましょう》















丙少将《絶対に買うな。名前からして相当な問題物件だと分かる》













丙少将《そして見なかったことにして速やかにそこから離れるんだ》




天城《はい、そっとしておきますね……》






雪風《丙少将、モモタロマンカード入手しました!》



丙少将《さすが雪風よくやった》



雪風《ですが、カードの名前は『ヒビキングカード』です! 効果を見てみるとモモタロマンと同じ効果だと書いてあります! 使ってもよろしいでしょうか!》



丙少将《友軍艦隊解放による支援カードと見た!》



雪風《なら名前からして響さんですね!》



丙少将《使っていいぞ! 雪風が引いたってこともそうだが、響の支援なら信頼できる!》



雪風《了解です! 使っておきますね!これでモモスラ被害とドジラのほうも安心できます!》



丙少将《引き続き、資産を増やしてくれ》



雪風《お任せを! 次のゴールの長崎に向かいます!》






わるさめ《きんきゅうニュースです! ドジラがあらわれました! しゅうへんのかたがたはじゅうぶんにお気をつけください!》



丙少将「青森に来たか? そこには天城のリンゴ園があるが……」



わるさめ《雪風社長がヒビキングを待機させています。しゅつどう命令が出ました! ヒビキングさんがあらわれます!》



響「丙さん、お待たせ。私に任せて」



丙少将「響、お前怪獣並にでかいな!」



響「ドジラを倒すためにこっちも大きくないとね」



わるさめ《ドジラが青森をおそいました! 青森に物件を持っているのは天城社長です! 4億円の損害が出ました!》



丙少将「なあ響、青森がウルトラ焼きリンゴ畑なんだが……」



響「あの怪獣は悪いやつじゃないかもしれない。だから怪獣が暴れてから倒しにかかる。それがヒーローの矜持というものさ」



丙少将「ざっけんな! 意味ねえじゃねえか!」



響「本当のヒーローというのは敵を倒すのではなく、敵を隣に並べて同じ景色を眺めることで平和を手にする」



丙少将「いや、すごい良いこといってるけどさあ!」



響「しかしだ。悲しいけれど、罪なき人々を焼き払う悪いやつのようだね」



響「ヒビキング、戦闘開始する」



響「ウラー!」



ドジラ「GYAO――――!」



わるさめ《挑戦者ヒビキングの先制が刺さる――――っ! ヒビキングの正確無比なタックルがドジラを吹き飛ばす! ドジラの巨体が滑る先に、佐世保の造船所! 我らが佐世保造船所に被害です! 所有しているのは加賀社長! 3億2000万の損害です!》



丙少将「造船所お――――!」



わるさめ《おっと、ゴジラが自らの足元に火を吹いた! 引火! 引火して佐世保に爆発が起こり、煙渦巻く火の海です! その熱風に煽られてなおドジラは全く熱がる様子もなく、その顔つきは涼やかだ! もはやその火の海は王者の荒々しい出陣の演出となっております!》



わるさめ《ドジラ選手! にやついている! ヒビキングという強敵と巡り会えたその歓喜が、まとっていたコートに意気揚々と手をかけさせる! あのコートを脱ぎ捨てれば筋肉のマリアナ海溝と賛美される怪獣界きっての肉体線が披露されることになります! ドジラ、大胆不敵! かかってこい、といわんばかりに海の王者の余裕をその口許に張り付けている!》



丙少将「なんだこの展開は!」



響「上等だね。軍学校で学んだ体術を思い知るといい」



わるさめ《響選手が近くの貸ビルを草木のように引っこ抜いた!人民を守るその正義の心は武器使用に対しての躊躇いを消している! ドジラの首根にビルが、鋭利な人類の文明が食い込んだ! しかしさすがのドジラ、人類文明を意に介した様子もなく響選手の腕をつかむ! 雄々しき尾を地面に滑らせ、響選手の足を凪ぎ払い、体勢を崩した響選手を巨体に似合わず俊敏な動きで乱暴に投げ捨てた――――!!》



わるさめ《なんてことだ! 人類のデータにはありませんッ!》



わるさめ《ドジラ選手、間違いなく仕込んできた! 対天敵のヒビキング用にまさかの柔術を仕上げてきている! とんでもない新たな武器を引っ提げて、陸に上がってきた!》



響「……く、まさか柔術とは。2つの意味で一本取られたな」



わるさめ《さすがの響選手も動揺を隠しきれておりません!》



わるさめ《ヒビキングが飛ばされた場所は新潟です! 被害の報告です! 笹団子屋、柿の種屋、南蛮エビ屋コシヒカリ水田、コシヒカリ水田コシヒカリ水田サッカースタジアム、国際会議場が瓦礫の山です終了です! 独占していたのは現在トップの雪風社長です! 雪風社長の幸運をも力で捩じ伏せるその様は盛者必衰の理を呼び起こした! 総資産に多大な影響! 2位に転落です!》



丙少将「新潟のやつがなにをしたというんだ!」



響「しかし、ここまでだ。デストロイする――――!」



わるさめ《響選手、勇敢にヒーローとしての使命を果たしに突撃する! ああ――――!? ドジラ選手が首根を抑えて嗚咽を漏らしています! 響選手なにをしたのか! ドジラ選手は尻尾を横に何度も振っている! レフェリー抗議の合図だ!》



悪い島風【うーん、これ首からぶら下げてた艤装のペンダントか。セーフです!】



わるさめ《Верныйは響の一部という判断が下された模様です! 納得行かずドジラが不愉快気に尻尾を大きく振るう! 振るった先には緑豊かな農林業の秋田県ッ! 被害の報告をします!》



丙少将「」



響「とどめだっ」



わるさめ《響選手、間接を極めた! お馴染みの勝利確定、グローリーの決め技が容赦なくドジラ選手の左腕を捻りあげる! ドジラ選手、苦悶の火を吹くも王者の意地かタップしません! ああ、肉が千切れる音がした! 響選手、怪獣界のマリアナ海溝と謡われた肉体美を断絶した! 勢いよく吹き出す血は響選手を称える祝福の活水か、それともドジラ選手の敗北を嘆く血の涙なのか! ただ一ついえることは、未知のマリアナ海溝の肉体美に流れていたあのドジラ選手の水脈も我々と同じく赤いということです!》



わるさめ《きんきゅうじたいです。名古屋のモモスラのたまごがふかしました。おや、都市を……?》



わるさめ《昆虫特有のキモい羽をはためかせ、こちらに飛翔しているとの報告です! おっとモモスラ選手! 響選手の顔面に体当たりをかました!》



わるさめ《ドジラ選手、力が緩んだその隙に間接技から逃れ出る! モモスラ選手、まさかの支援介入です! 今にも倒れそうなドジラ選手のバランスを空から支えている! モモスラ選手はパワーこそないものの、ヒビキングと争い敗けるも必ず周辺都市に被害を与えて去る執念の外敵です! 力のドジラに、心のモモスラ! 双方を補いあう最悪なタッグがここに誕生してしまいました!》



丙少将「もうどうにでもなれよ……」



丙少将「いいよ、もう。響が変わらず元気そうで。もうなんかそれでいいわ……」






加賀《この国が壊滅してしまいそうね……》



丙少将《まさかの落とし穴だったわ! ヒビキングカードはよお!》



雪風《ど、どうしましょう!》



天城《響ちゃん達の乱闘被害で4人の総資産がマイナスになっています! 次のターンの決算とともにこのゲーム、終わりですよ! このままでは丙少将の貯金が切り崩されてしまいます!》



丙少将《……、……》



丙少将《岡山に行ってくれ。ちょうど近いだろ。もう不確定要素に頼るしかねえ》



丙少将《鬼が出るか蛇が出るか》



丙少将《ぷらずま&わるさめランドを買うんだ》







天城《到着です。電車から降りますね! ぷらずま&わるさめランド10億円っと》


ポチットナ




《ようこそ、ぷらずま&わるさめランドへ》



《ここではメモリーの一部が隠されています》



ぷらずま「●ワ●」



天城「い、電さん」



ぷらずま「相変わらず不健全な身体なのです」



天城「い、痛いですよっ! 胸をつかまないでください!」



ぷらずま「その胸の谷間にメモリースティックを挟んでおきました。ただ渡せといわれていただけで、中身がどんなモノかは私も知りません。ただここを買って正解なのです。ぷらずま&わるさめランドには、全てがあります」



ぷらずま「本当はもっとドロドロした人間の汚さを拝めるかと思いきや、さすがあの海を乗り越えた鎮守府だけはあり、それなりのダボではあるようなのです」



天城「……どうも。でも、その状態だと思い出しますね」



ぷらずま「なにをです」



天城「オールトランスしていたあなたを新種の深海棲艦だと思って、逃げてしまったことをです」



ぷらずま「なにをいうかと思えば間宮さんみたいなことを。んなのちっとも気にしてねーのです。気にするくらいならこのクソゲー終わらせることに悩んで欲しいのです」



ぷらずま「戦争中の私ならこういうでしょうね。深海棲艦だと思ったのなら殺せ、と」



ぷらずま「ま、あの時攻撃されてたら沈んでいたと思うので、ありがたいのですけどね」



天城「……あはは……その頃の雰囲気とは違いますね」



ぷらずま「当たり前なのです。もう、飲まれる訳がありません」



天城「安心しました」



わるさめ「で、天城っち」



わるさめ「ここ、1つだけどこの物件でも買えるよ。どんなカードでも1枚だけもらえる。もっと早く買っていればゴールドカードとかでお買い物も捗ったけど、まー、私達の名前だし、嫌な予感しかしないよねー……」



天城《ええ……》



天城《物件一つでは……カードのほうを……あ、これ!》






天城《丙少将、私のターンですね! これを使います!》



《丙社長を選択。好きなカードを交換できます》



加賀《……素晴らしい》



丙少将「天城! あっりがとう! 感謝する!」



雪風《雪風のターンです! そのボンビー、雪風がもらいます!》



キングボンビー《ボンビラス星にはかねなどいらんのだry》



《雪風社長は21億円、うしなった》



雪風《被害はなんとかプラスの範囲に収まりました!》



丙少将《さすがだな! 俺のターンで、天城からもらったこれを使う!》



《丙社長が徳政令カードを使用しました。借金がゼロになります》



加賀《最後のゴールです》





《ゲームクリア:おめでとうございます》




※無事に全員生還しました。がんばったで賞としてわるさめちゃんから、ご当地グルメのお土産をたくさんもらってその晩の丙少将鎮守府はたいそう豪華なお食事になったそうな。



めでたしめでたし!



【4ワ●:戦後日常編:暁】



Ⅲ型。暁型1番艦暁。



最近どうもやることがハッキリしなくて、身体が重苦しい。自由なのにどこか窮屈を感じる。あの時に似ている。特型の革新的な性能を承ったかと思えばいきなり頭を重くされて、波に弄ばれる欠陥判明してけっこう自慢だった速力低下してた。戦争が終わってどこにでも行けるすごい性能を手に入れたのに、どこに行けばいいか分からなくて鈍足になった今と悪い意味で酷似してるわね。



そういえば乗員はみんな変な人ばっかりだし。というのは当時は軍人というのをよく理解していなかったからだと思う。男臭い宴とか重々しく交わす杯とか男臭くて嫌い。でも明日の生死も不透明な彼等の船出の前に馳せた家族や恋人達への想いが、温かい。そこは好き。



この私を誇りに思ってくれて、まるで恋人みたいに優しく扱ってくれる。その中で名前も知らないあの人の手が好きだな。あのソロモン海戦の日、散りゆく中、最後に無機物の私を撫でてくれた、あの優しい手を私はきっと一生、覚えている。まるで恋人に触れるかのように優しかった。あんな風に扱ってもらいたいんだけど、みんなが私を撫でる手はどこか違うのよっ。



第二次世界大戦は終結したのに、この間までその夢の中で輪廻夢想していた。艤装の記憶の夢だけでなく、私自身も戦争を経験してちょっと分かったかな。兵士さん達が金属と液体臭い私の上ではしゃいでいた理由とか。きっとあれがあの時代のたくましいといえる生き様だった。あの人達が挫ければ、きっと多くの人がその臆病に犯されてしまうからね。



電も司令官も、歴史は繰り返し続けるって悲しそうにいうけれど、仕方ないのかも。

後に続いた電車が同じ線路を辿れば先に続いた電車と同じ駅に向かうみたいに、悲しみは悲しみに向かって続くみたい。



あの焼けるような記憶とともに、また暁は出航。一度目は軍艦として、二度目は艦娘として、そして三度目は普通の女の子として。今度の私は鉄や男臭いモノなんてない。オシャレに舗装された街を自分の足で歩くのに艤装なんて必要ないものね。



だからといって私が暁の艦娘だって歴史はずっと残っていくわけで。その歴史は遥か昔に終わった過去の大戦と、今を生きていた私を交差させた艤装の存在のように、あり得ないはずの奇跡によって描かれた軌跡だったのだ。

その軌跡は知らないところで大きく影響をしていた。あの日、私が暁のかっこよさに感染したみたいに。



始まりは海辺の道に散歩に出かけた日だったかな。

暁型一番艦の想が詰まった夢見を繰り返してみると、昭和2年の頃からの歴史からようやく解き放たれたと思えた瞬間。そんな運命の朝に、少しだけ幻影が見えたのはお告げなのかもね。



いつの日かの記憶。旗艦から相図として放たれた空よりも濃い青の旗流信号だ。



目的地も特に決めてないけれど、手に入れた未来をたしなみに出撃です。どんなことが起きるか、楽しみだ。それを考えるだけで、私は幸せな気分になれる。



そういえば、苺みるくさんの名前を決める時も楽しかったな。命名に悩んでいると、電が「牛乳」と意味不明なことをいった。今、その手に持っている物の名称を名前として出すくらい、どうでも良さげ。「私は苺牛乳が好きだな」と響が相変わらずズレたことをズレたまま拾って、雷が「横文字のほうがかっこいいわよね。男の子だし」と独自のセンスを語り出した。でも、苺。これは可愛いと思う。色々と合併して私が苺みるくさんの名前を決断した。そんな戦争の最中の楽しい思い出だった。



戦争終結、そして迎春です。

あの日、拾ったもうすぐ一歳になる弟。

私の勇気と希望と、臆病と絶望を測量されたお話だ。



よくあるライクとラブのたくさん詰まったありふれたお話なのです。



【5ワ●:ライクとラブの違いから】



投げたフリスビーは空で大きく弧を描いてカーブした。開いている男性寮の窓に吸い込まれるようにして入ってしまった。苺みるくさんは賢い上に盲目的な忠犬でもあって、私が制止の声を出す前に渡り廊下のほうから館内に入って姿を消してしまう。ああ、どうしよう。館内に入れてしまったら司令官に怒られちゃう。慌てて追いかけようとすると、声が降ってくる。



菊月「苺みるくさんがのぼって来たぞ。そっちに連れて行くから待ってろ」



暁「ありがとー!」



窓から顔を出した菊月はエプロンにはたきを持った清掃の服装だ。そういえば今週の男性寮と女性寮の館内の掃除当番は睦月型だったっけ。菊月が苺みるくさんを追ってくるような形で、中庭に戻ってきた。「暁、フリスビーが漫画の上に載っていたから、漫画ごとくわえて持っていってる」という。苺みるくさんは私の前まで来ると、お座りをして、口からボトンと漫画とフリスビーを落とした。よだれがついたブックを拾い上げる。



暁「ああ、中までよだれがついちゃってる……謝らないと。どっちの部屋?」



菊月「明石君のほうだな。あいつが良かったら中まで掃除しといてくれって伝言があってな。適当に掃除機をかけた後に換気中だったから扉を開いておいた。それが仇になったな……ちょっと貸してくれ。多分、漫画の図書館のやつだと思うし、司令官に報告しておこう」



菊月が本を開いた瞬間、凍りついたように動かなくなった。



菊月「な、な、にゃ……」



本が手から滑り落ちてもそのままの体勢でよく分からない声を出している。本が落ちたせいで、蒸気でもあげそうなほどに赤い顔がこんにちわしていた。なんなのよ、もう。落ちた本を、苺みるくさんが律儀にまたくわえて差し出してくる。ああもう、またよだれがついちゃった。



菊月「おっと暁! 色々な意味で汚れるからこのよだれまみれの本は触らなくていい!」



そこまでいわれたら内容が気になるものの、菊月はぴゅーっと走り去ってしまった。ただよだれでカバーの一部分が破れて、タイトルだけが見えた。ライクとラブの違い。おーたむくらうど?



暁「苺みるくさん。ライクとラブの違いってなんだろ」



苺みるく「ぼくに聞かれても」


絶句した。



2



中庭の鳩時計がくるっぽーと鳴くまでの十分間、苺みるくさんを注視した。今、確かにしゃべったように聞こえたが、それ以降、しゃべりかけても言葉は返ってこない。尻尾を振りながら、フリスビーをくわえてこっちを純粋な目で見つめてくるだけだった。



暁「気のせいよね……」



理屈では分かる。友達はライク、に分類される。家族、恋人を思い浮かべたらラブに近かった。日常を手に入れたからだろう、家族といって思い出したのは、暁になる前の血の繋がった家族のほうだった。ピエロットマンの世界でも思い出した。『待て』をしている今の苺みるくさんのように忠実に『待て』の命令を守っていた。だけど、それきり姿を消してしまった飼い主だ。



暁「フリスビーはおしまいね。朝のお散歩に連れていってあげる」



そういうと言葉が伝わったかのように、苺みるくさんはワンと大きく吠えて周りをぐるぐると駆け回った。小屋にあるリードを首輪に繋げて、袋にはスコップを入れていざ散歩へと。いつもは鎮守府の近くをぐるりと回るだけなんだけど、今日は天気も良いし予定もなかった。



少し遠くまで行ってみようかな。



3



海辺の道を歩いた。



日に焼けちゃうから優雅に日傘を差して、とも考えたけれど、両手が塞がるから今回は我慢しておいた。苺みるくさんは好奇心旺盛なせいか、すれ違いの歩行者や自転車に反応する。リードが引っ張られて危ないのだ。強くリードを引いて「めっ」と叱ると大人しくなるのだけど、何回注意してもこればかりは治らない悪癖だった。どうも人間を見ると、構いたくなるみたい。



暁「もう、日に日に力が強くなっていくわね。私じゃ散歩してあげられなくなるかも……」



苺みるくさんは雑種だけど、分類でいえば大型犬に当たると司令官から聞いてはいた。ラブラドールと柴犬の交配種らしい。図書館で調べたところ、柴犬というのはウルフライクというオオカミの遺伝子傾向があるとか。苺みるくさんはそちらのほうが色濃いからこんな性格なのかも。毛並みのほうはラブのほうになめらかだけど、ブラシをしてあげてもやんちゃな性格が祟って、寝起きの響みたいにところどころ跳ねている。その結果、雷みたいな癖毛になってしまっている。そして電みたいに目の前に虫がいると避けて通るのよね。なんだか苺みるくさんは私の妹達を混ぜ合わせたような犬だった。親と子は似るように、飼い主と犬も似るのかしら。



ウルフライクとラブラドールの単語で、ライクとラブの違いの本を思い出した。苺みるくさんは、どっちに当てはまるのかな。



暁「……ん、あのお店って」



エレガントなレンガ造りのカフェがある。ただのオシャレカフェかと思いきや、正面のガラス張りの向こう側には毛並みの良い犬が椅子に座ってお手をするようにテーブルに手を乗せていた。犬が店内にいるカフェテラスだった。雑誌で読んだことがあるけれど、実物を見るのは初めてだ。



暁「ふわあ、これがドッグカフェ……」



犬を連れて素敵なテラスでカフェを優雅に楽しむ婦人を見て、思う。レディだ!



たまにはいつもと違う道を歩いているものね。遠出になるから飲み物でも買おうと思ってお財布を持ってきて良かった、とさっそく突撃してみる。カランカラン、と木彫りの扉にくくりつけられている鐘の音が鳴る。店名と犬の刺繍が可愛いエプロンをまとった女性店員さんに出迎えられる。



苺みるく「わん!」



暁「もう、静かにしなさいよね。めっ!」店員さんに飛びかかろうとする苺みるくさんのリードを強く引っ張って止める。「ごめんなさい。ちょ、ちょっと人懐こい男の子で……」



店員さんは、微笑しそうに苺みるくさんに目をやった。その眼差しから、犬好きの愛を感じられた。



海辺の席は埋まっていたので、カウンターの席に案内してもらった。周りを観察してみると、一番多かったのは小型犬だった。ダックスフンドに、ダルメシアン、あれはシェパードかな。



みんな知的なオーラをまとっている上に毛並みもいい。服を着ている子もいる。なによりみんな大人しくして、このカフェにしっかりと無害に溶け込んでいる。苺みるくさんは賢いし、忠実な子ではあるのだけど、毛並みは荒れているし、やんちゃなところもあるし、残念な子のようにすら見えてしまうほどだった。注文したカフェラテを持ってきた店員さんがいう。



「そのカフェラテとサンドイッチは私からのサービスでございます」



暁「ふぇ? さーびす?」



「ええ、暁型の制服を着ていますし、最寄りの鎮守府の暁型一番艦の暁さんですよね」店員さんは3型を示すバッジを見つめながらいった。「このお店をこの場所に開くことが出来たのは対深海棲艦海軍の皆さんのお陰です。海の見える場所でドッグカフェを開くのが私の夢だったんです」



ビシっと対深海棲艦海軍形式の敬礼をする。なかなか面白い女の人のようだった。



暁「そ、そうなんだ。お力になれて、その、ええっと、光栄、です?」



店員さんは今日の海のように穏やかに笑った。



「ところで、鎮守府ってわんちゃん飼えるんですねー」



暁「え、ええっと、本来はダメなんだけど、あの鎮守府は特殊で、支援施設としての側面があるから、司令官にお願いしてみたら、お世話することが条件で許してもらえたから、かな」



「支援施設、ですか。そういえばここの辺りから教員が鎮守府に行っていたような気もしますね。そのわんちゃんは見たところ、雑種ですよね。ラブちゃんと、秋田犬……か柴犬ですかね」



暁「よく分かったわね……」



「なんとなく、です。暁さんの司令官ほどは当たりませんよ」



続いて驚かされる。司令官が有名人になっているのは知っているけれど、あの司令官のすごいところも知れ渡っているようだった。なんだか嬉しいな。



ごゆっくり、と店員さんが席を離れると、カフェラテを飲みながら、時間を過ごした。うーん、誰か誘えばよかったかも。ちょっと喋り相手が欲しくなってきた。



あ、両手でグラスを持って飲むよりも、あの女の人みたいに髪をかきあげて、ストローで飲む仕草のほうがなんだかレディっぽい。真似してみる。



ふふっ、とカウンターに戻っていた店員さんが笑った。



暁「な、なによもうっ、失礼ね!」



「すみません。苺みるく君ですね。この子、暁さんに忠実だなって思いまして」



暁「そ、そっちか。でも、そうかしら。周りのわんちゃんと比べると、落ち着きが足りないというか」



「めっ、て怒ってからその子、ずっと暁さんの足元でお座りして大人しくしていますし」



いわれてみればそうだ。苺みるくさんは尻尾こそ降り続けているけれど、その場から動かずお座りの体勢で大人しくしていた。純粋無垢な瞳でじいっと見上げている。



店員さんが苺みるくさんとの馴れ初めを聞いてきたので、カフェラテを味わいながら、お話するとした。あれは鹿島さんが着任した日に、響と雷と散歩に出かけた。鎮守府から出られないのでいってらっしゃいなのです、と花壇のお花を世話していた電の腕を強引に引っ張って連行した秘密のお出かけの日でもあった。




【6ワ●:あの日の裏話】



鎮守府沿いに段ボールの箱に子犬の苺みるくさんが入っていた。餌箱が入っていたけれど、中身はもうなくなってしまっていた。私が足を止めて、「鎮守府に連れていく」と言い放った。最悪な思い出の一つが脳裏に過ぎったのだ。少しのコインを持たされて、置いて行かれた記憶が脳裏を過ぎった。この子の境遇があの日の自分と重なって、放ってはおけなかった。



「可哀想だけど、止めておこう。私達は兵士だ」と響はいった。



戦争が終結してからだけど、聞いた。響も不幸で家族を失っている。院に入った時に飼っていた犬とはお別れする羽目になった。きっと響にとって辛い思い出の一つだったのだろう。



「ダメに決まっているのです。同情は必要ないのです。一人で生きられないやつはどうせ野垂れ死ぬ。街でも海でも人でも犬でも同じということですね」と電は吐き捨てるようにいった。あの頃の電だからこその台詞ね。あの頃の電は戦争終結とともに自害を決意していた頃だった。その台詞は色々な意味が含まれている、と察した。なおさら、見捨てる訳には行かない。この子を見捨てることは電を見捨てることと同じように思えたのだ。



雷「よいしょっと。まず鎮守府に運びましょ。可哀想だけど、段ボールの蓋をして密輸ね」



雷は予想通りの雷らしい反応だった。もともとこういったことを良き方向に運びたがる性格だ。電の台詞の意味も察して、電は見捨てないという意志表示もしたのだろう。電は気分を害したのか、忌々しそうに舌打ちして一人で先に帰っちゃったけど。



「やれやれ、どうやら流れは止められないね」と響が帽子のつばを降ろした。「仕方ない。そこに生えている猫じゃらしを遊び道具として持っていこうか」犬なんだけど。



そうして第6駆の部屋に苺みるくさんを運んで、司令官の説得の方法を考えた。わんわん、と鳴いてしまう子だけれど、「めっ」と叱ってみたら大人しくなった。尻尾はスクリューみたいに動いている。猶予は朝まではあると思っていたけれど、すぐに就寝時間の巡回に来た鹿島さん、それに声が聞こえたらしく龍驤さんに見つかってしまった。判決は司令官に委ねられる。なんとかがんばってみたけれど、あの時の司令官はさすがのひとことを放った。捨ててこい。



駄々をこねるなか、電は面倒臭そうな顔をした。正直、申し訳ないと思った。きっと電はこのパターンを予想していた。私も響も雷も捨てることはしない、と読んでいたのだろう。辛い役を電に押し付ける羽目になってしまった。私は電についていった。



門の外に子犬を離して、電は容赦なく門を閉めた。



電「さあ暁お姉ちゃん、戻るのです」



電に腕をつかまれた。抵抗したけれど、電が怖い顔をした。「空母棲姫艤装で大破させられたいのです……?」と最悪な脅迫もしてきた。「わん」という声を聞こえて、私は振り返った。苺みるくさんは、門の外で大人しくお座りをして待っている。電と私が苺みるくさんが見えなくなる玄関まで離れた時だろうか。ガンって、音が聞こえた。苺みるくさんが門に体当たりしながら「わん、わん」と吠えている。私達の姿が見えなくなったから、動揺しているのかな。短時間でも私達にすごくなついていたし。



まただ。あの頃の私と重なる。置いていかないで。

門に頭をぶつけて、ガンッ、と鳴る音はそんな言葉を発していた。私は堪え切れずに、苺みるくさんのもとへと飛んだ。門を開いて、苺みるくさんを迎え入れた。胸に抱えると、電が「トランス」と声を発した。凶悪な艤装を展開していた。



暁「もう一度、お願いしてみる」



私は真正面から赤黒く濁った電の瞳を睨みながらいった。



電「はあ、戦争拠点で愛玩動物を飼うなんて。丙のところなんかに籍を置くから、要らない情にほだされて余計な悩みが増える。丙の鎮守府出身者はダボばかりで嫌になるのです……」



といいつつも、艤装をロストさせた。苺みるくさんは私の胸から飛び降りて電のところに走った。電が怖くないのだろうか。電の足をぺろりとなめて、尻尾を振っている。電は足を止めて、苺みるくさんをじいっと見下ろしていた。そのまま歩き始める、苺みるくさんと私は後をついてゆく。



電「捨ててきましたが、ついてくるのです」



電が、折れた。ここそとばかりに攻めに攻めて司令官を説得した。私達全員分の一生のお願いも使った。結果は成功して、司令官は私達が世話をすること、を条件に許可してくれた。この時、思った。この人、けっこう良い人なんじゃないかなって。私達は明日は早くから遠征だから眠れといった。その日は名前を決めるために夜更かししていたけれど、その時、大人達は犬小屋を作ってくれた。どうやら司令官は電に弱いところもあるみたい。司令官が電と幼馴染だったなんて本当にびっくりしたけど、納得。



翌日に司令官が苺みるくさんの検査をしに病院に連れていってくれるとのことだったが、あの頃は中枢棲姫勢力決選が控えていて忙殺の日々だ。司令官に用事が出来たから、代わりに鹿島さんが司令官の車を借りて、動物病院まで連れていってくれた。私と響と雷も時間を作って同行した。



お医者さんが、苺みるくさんの耳を触った。苺みるくさんがグルル、と威嚇する。耳触られるの嫌みたい。お医者さんは「あれ、この子、一カ月前くらいの……」といった。どういうことかと聞いたら、衝撃の事実が発覚した。なんと苺みるくさんはこの病院で三匹の兄妹とともに産まれたと。



鹿島さんとお医者さんがお話をしていた。

お薬をもらって、私達は鎮守府に帰った。その帰り道、車のなかで鹿島さんに聞いた。お薬、と聞いて、どこか身体が悪いのか心配で仕方なかったからだ。電が拳銃砲を突きつけると、鹿島さんが「ひ」と悲鳴を漏らして、車体が揺れた。雷が電をなだめている間に、響が「私達が世話をするんだから知っておかなくちゃならない」といった。私も「覚悟はあるわ」と説明を求めた。



どうやら一カ月前にあの病院で出産をした時に産まれたわんちゃん達を検査して、一匹だけ、心臓が弱い子がいたそうだ。苺みるくさんを検査してみると、医者は確信を持っていったとか。間違いなくこの子だ、と。



信じられなかった。生まれつき身体が弱いからって理由で、この子だけ捨てられて一人ぼっちになっていたということだった。響が珍しく怖い顔をしていたのを覚えている。でも、実際の苺みるくさんは元気だった。本当に心臓が弱いのか疑問に思えるほど、元気に走り回る。



一応、ごはんにお医者さんからもらったお薬を入れてあげている。ちょっと値の張るお薬代は司令官がなんとかするといってくれたけれど、甘えるわけには行かなかった。私達のお給金で払う、といっておいた。がんばって出撃をこなす、と意気込む私達を見て司令官は「ならそれで」と答えは決まった。



それからの海は終わりに向かって一直線で、対深海棲艦の歴史のなかでも断トツの大荒れだったから、あまり苺みるくさんに構ってあげられなかった。でも、鎮守府のみんなもお世話を手伝ってくれたし、遊んでもあげてもくれていた。思えば、私は十分に構ってあげられなかったかも。



だけど、これからは朝から日が暮れるまで、遊んであげられる。こうやってちょっと遠くまで散歩に出かけたり、ドッグカフェに連れてきたり、ね。お仕事で忙しかったけれど、今は落ち着いたからたくさん遊んであげられる。ちょっとお母さんの立場になった気分だ。



「犬は人間をよく見るんです」店員さんは話を聞き終えると、なぜかしみじみと、そういった。「あの鎮守府のあなた達の背中を見て育ったこの子はきっとすごい犬に成長しますよ」



この子はスーパーヒーローになりますね、と意味不明なことを確信めいた風にいった。



【7ワ●:撃沈メーターを】



海にはもう深海棲艦もいなければ鎮守府から物騒に抜錨する兵士もいない。暁の水平線に勝利を刻んだ今、海から黒い煙は立ちのぼらず、ただ空の天気で色が変わり、穏やかで心が休まる景色がある。この周辺は閑静な場所だったけれど、海を平和にしたことで、あのカフェもオープン出来たという。眺めの良い海辺沿いの春は植物たちだけでなく、色とりどりの人工物の芽が吹き始めているようだ。



あれ、と思って、足を止めて斜め前のマンションの二階の階段の踊り場を眺める。リードを持たない左の服の裾で目元をゴシゴシ、と拭ってもう一度、見上げた。目をぱちくりとさせる。どうやら見間違いではないらしい。なぜかは知らないけれど、小さな男の子が柵の上に立っている。2階といえど、落ちた先は駐車場のアスファルトだった。



即座にテンパってしまって、危ない、という声が喉奥でひっかかって、声として出なかった。



だから、足を動かした。マンションのほうへと駆ける。解体作用を受けてから体力は格段に低下したものの、百メートルほどの全力疾走程度なら息は切れない。不意にゴミ捨て場の透明な資源のゴミ袋の中にある魔法のステッキを見つけた。アレを振って魔法を扱う魔法少女になれたのなら、と余計な思考がなぜか、めぐる。それはさすがに無理だ。



元気な苺みるくさんに付き合って走り回ってついた体力が役立つ時だった。前にはなぜか苺みるくさんが走っている。速かった。持っているリードに引っ張られるようにして速度があがる。



落下、した。落下してきた。



苺みるく「きゃうん!」



苺みるくさんが悲鳴をあげた。不意に上空から人が振ってきて、苺みるくさんは下敷きにされてしまった。【あ、すみません。ちょっと現海界の地点をミスりました】と、島風の格好の上に黒いパーカーを背負った女の子がそういった。うさ耳のようなカチューシャ、目元は司令官のように黒い隈がある。この人が悪い島風なのだろうが構っている場合ではなかった。



テンパって時間を取られてしまった。苺みるくさんは悪い島風がどくと、すぐさま走り出した。私も後を追う。苺みるくさんが先についても、どうしようもないだろう。走り出した私の横を一陣の風が吹き抜けていく。綺麗なほうの島風だった。ジャージ姿だ。



島風「ばっびゅ――――ん!」



速い。苺みるくさんとの距離すら詰めているほどの速度だ。さすがは速さが自慢の駆逐艦島風の適性者だけはある。「暁ちゃん、私に任せて!」と島風の言葉に安堵して、私はスマホを取り出した。念のために救急車と警察を呼びにかかる。苺みるくさんが大きく吠える。その連続の犬吠えに辺りの人の視線が集中する。周囲も、緊急事態に気付いたのだろう。



だけど、その場で救出に動いているのは、苺みるくさんと島風だけだった。周りの人は指を差して戸惑いの声をあげるだけで、足を動かしてなどいなかった。私はスマホのタップをミスってしまって、司令官にかけてしまった。ああ、しまった。「どうかしま」との司令官の声が聞こえたが、通話を即座に切った。「あ、危ない!」と誰かの声で視線は男の子のほうに向く。



男の子が体勢を崩して、前のめりになる瞬間をこの目は捉えた。



景色が、スローモーションになった。頭から落下していく男の子、キャンキャン、とすでに到着している苺みるくさんが吠える。島風がもうすぐ落下地点に辿り着く。二階の高さなら、抱きとめるだけでも、アスファルトに頭から落下するよりも惨事にならないはずだ。



「間に合え――――!」



島風に向けられた声だ。皆の声が嵐のように激しく重なった。あの最後の海、電が海の傷痕に放った12.7センチ連装砲に向けられた鎮守府(闇)のみんなの声援のように一丸としていた。島風がスライディングの体勢に入る。斜めになった上体で手を背中とひざ裏に回したのが見て取れた。ぎゅっと胸に抱き締めて、アスファルトの上をずざざと回転する。駐車場の車のタイヤのホイールに、島風さんの後頭部が激突した。



島風「おう"っ!」



お馴染みの声が大きく響いてから、しばらくの沈黙が、空間を支配する。



島風が立ち上がり、男の子を天に掲げるように持ちあげた。オリンピックで一位を獲ったメダリストのようだ。「大丈夫、怪我はないよ! 普通に意識もあるみたい!」と声高らかに、元気いっぱいに笑顔で叫んだ。金メダル級のパフォーマンスを讃えるかのような歓声が、爆発した。








引っ越し業者が荷物を運ぶ際に、置き場所に困った荷物を階段の踊り場に置いていたのが原因。あの小さな男の子はその段ボールを階段代わりにのぼってしまったようだった。島風が「暁ちゃんが慌てていたから気付いた」と説明し、私も大層に親御さんから感謝された。男の子はお母さんからこっぴどく怒られていた。「めっ、だからね」と釘を刺していた。私と苺みるくさんに似ている。好奇心旺盛でやんちゃな子は、目を離しちゃダメよね、とそうしみじみ思う。



騒ぎが落ち着いたらもう一悶着だ。



島風「一回、会ってみたかったんだよね。どーして私の姿を真似ているの?」



きょとん、と首を傾げて、島風さんはそうたずねる。



対する悪い島風さんはなんだか親の仇でも観るかのように険しい表情をしている。



悪い島風【姿に関しては適当に選んだつもり。ハッキリいってお前は最上位で嫌いだけど、もしかしたら無意識なのかも。私が機械的じゃなくなったのはお前のせいといっても過言じゃないですし】



お前のせい、とはいったが、お前のお陰、と脳内で自動変換してしまうくらいに、どこか声音が優しかった。額縁に飾った思い出を慈しむかのような優しげな雰囲気でもあった。もしかしたら悪い島風さんはあの本官さんのように優しいのかも、との予感が過ぎる。



悪い島風【そういえば、その犬は静かですね。お利口さん?】と話題を逸らした。



そういえば苺みるくさんはずっと静かにしている。こんなに人がいるのに大人しいのは珍しいことだった。お座りをしている苺みるくさんの前脚の脇に手を差しこんで持ち上げてみる。「くうん」と鼻先をなめられる。後ろの右脚、覆っている白い毛並みが赤く染まっている。



暁「け、怪我しちゃってるうううううう!」



悪い島風【うわ、やっべ。それ私が落下して下敷きにしちゃった時かもしれません】



島風「近くに動物病院なかったっけ?」



悪い島風【あー、今回はちょっと私の不手際ですし、この程度の怪我なら無料で治して差し上げますよ。皆さんが艦これしてくれているおかげで順調に我が社は黒字、想力を貯蓄しています】



そのささやかな還元として、と悪い島風は苺みるくさんの足に触れる。



悪い島風【……ちょっと待って。現海界の地点がズレたのはこいつのせいか。暁ちゃんがハッピーな想を感じたからそこに繋いだつもりが、こいつのせいで、落下地点が微妙にズレた……?】訳の分からないことをぼそぼそと呟き始める。【ん、この子……マジですか!?】すっとんきょうな声をあげた。



島風「どうしたの?」



悪い島風【確かこの犬、鎮守府内で放し飼いだよね。例えば慰霊碑のとこまで行ける?】



暁「行けるけど……」



悪い島風「やっぱりそれかなー。こいつ、中枢棲姫勢力の艤装の肉か破片を喰ったな。恐らくあの勢力の艤装の一つ、想の溜まり場になっちゃってたのかもですね。確かめた時には、全員普通に無機物と化していたから気に留めなかったんですけど、私が調べた時には溜まり場として消失しちゃってた、のかな。その溜まり場となっている時かな? よーするに普通の犬じゃなくなってるよ」



暁「つ、つまりどういうこと」



悪い島風【ああ、驚いたんですけど、想の力が微弱ながら感じられます。中途半端に思考機能付与能力が発動していて、ちょっとだけ妖精化傾向があります。めちゃくちゃ賢い犬になっていて、人間の言葉も普通に伝わるスーパードッグにバグっちゃっていますね】




暁「そ、そういえば、今朝、苺みるくさんがしゃべったような。気のせい、だと思ったけど……」



悪い島風【しゃべったのは気のせいです。深海棲艦のように肉体改造を施したわけでもあるまいし、身体の構造は犬なので、人間の言語を発するのはあり得ませんね。ですが、それ恐らく妖精の意思疎通と似たようなものかと。つまりこのわんちゃん、声には出せずともその想いを伝えられる可能性はありますね……】



それなら怪我はこれで治せますね、と右手に缶を出現させた。蓋を開けて中身のクリームを指ですくうと、苺みるくさんの怪我した右脚に塗りたくる。「きゃん!」と嫌がってはいたけど、傷口は高速修復材を使ったように塞がっていく。



暁「ふ、塞がった。ありがと」



島風「この私って思ったより良い人なんだね」



悪い島風【今サーチした時に気付いたんだけど、この子、心臓が弱い?】



暁「う、うん、ご飯にお薬を混ぜているけど、見ての通りずっと元気よ」



そう答えると、悪い島風はあっけらかんとした顔でいう。





悪い島風「この子、いつ死んでもおかしくないと思いますー」





暁「笑えない冗談は止めてよっ! この子、めちゃくちゃ元気だし!」



島風「……もしかして例のごとく騙そうとしてる?」



悪い島風【信じなければそれでいいです。けど、きっとこの子は明るく振る舞っているだけで本当は走るのも辛いはずです。そんな風に気を遣うようになったのも中途半端に人間を理解できるようになってしまったからですね。あなた達に心配をかけないようにしているのかな?】



信じられない。いや、正確には信じたくない、だった。



もうすぐ死ぬかもしれない。

それにしては元気だ。考えてみても、死ぬよりも死なないと思える根拠のほうが圧倒的に多かった。怪我の治った苺みるくさんの様子はすでにいつも通りだし。いちかばちかで苺みるくさんに「苦しいの?」と恐る恐る聞いても、今朝のように想いは言葉として伝わってこなかった。その純粋無垢な瞳を見ても、なにも分からない。



悪い島風【暁ちゃん、私と契約しますか】悪い島風はとたんに笑顔になる。【真実かどうかを確かめるために命のメーターを表示するようにしてあげます。そのパラメータは艦これのシステム流用ですが、耐久数値を出して損傷具合を小破、中破、大破で診察してあげますよ。そうですね、それが嘘かどうか分かるように、その苦しみの少しを暁ちゃんにも伝わるようにしてあげましょう! ほんの少しだけ、少しの時間だけね!】



つらつらと契約内容を提案してくる。



暁「ま、万が一、苺みるくさんが……」



悪い島風「それはまた別途ですね。信じたら、またその続きのお話を、でどうです。ちなみに今回の契約の代償はなんと特にありません。これは私の善意と思っていただいて結構です。ただ私の予想が当たっていて、なんとかしたい、という場合、その時は新契約、代償も発生します。あ、ご安心を。本契約までサインは結構ですから。私が怪我させちゃったお詫びということで」



暁「万が一の場合は助けてくれるの?」



悪い島風はもちろん、と笑った。



暁「そ、それならとりあえず代償なしのほう……」



悪い島風【じゃ準備が出来次第、そうなるようにしておきますね。それじゃ!】



そういってロストしてしまった。



島風「とりあえず、鎮守府に戻ろっか」



苺みるくさんは島風の周りを走り回っている。とても辛そうには見えなかった。



その帰り道、さっそく悪い島風の想力によるものと思われる現象が起きた。苺みるくさんの頭上に、パラメータが見える。小破の黄色の文字が浮かんでいた。動揺した。苺みるくさんの様子はいつもと尻尾をスクリューみたいに振っていて、元気そのものだった。悪い島風さんの言葉を思い出す。あなた達に心配をかけないようにしているのか、と。



続いてドッグカフェの店員さんの言葉を思い出した。犬は人間をよく見るんです。あの鎮守府のあなた達の背中を見て育ったこの子はきっとすごい犬に成長しますよ。



私達の背中か。確かに、と納得もできる。私達は海に抜錨して大破して帰って来ても、みんなに迷惑をかけないように大丈夫、と答えるのはもはやあいさつの一つといっても過言ではなかった。もしかして、そういうところを真似しているのだろうか。だとしたら、本当に人間をよく見ている。



苺みるくさんがジョギングしている島風の横で並走を始めた。



暁「……痛っ」



その途端、胸がチクリ、とわずかに痛んで、とっさに胸を抑えた。これがトレースした苺みるくさんの心臓の痛みなのか、それとも心の痛みなのか、判別は出来ないまま、家路に着いた。晴天の向こう、西の空からどんよりとした雲が風に運ばれてゆっくり流れて来ていた。



【8ワ●:大破した】



弥生「……人、なつこくて、可愛いですね」



苺みるくさんは弥生に頭を撫でられて、じいっとしている。



鎮守府に帰ると、今日の出来事を司令官に報告した。今日の秘書官は弥生がしているせいか、執務室には無機質なまでに会話が存在しなかった。ちょっと雰囲気が暗かった。司令官に報告を終えると「了解しました」と頷いた。



念のため、と病院で検査しに連れていってもらった。獣医さんは持病が悪化した風でもない、といつものお薬をもらって帰った。杞憂というやつなのかもしれない。苺みるくさんのパラメータはいつの間にやら入渠を終えた艦娘のように全回復していて、元気はつらつの様子だ。胸を撫で下ろす。



提督「暁さん、苺みるくさんを引き取る時の最初の約束は覚えていますか」



暁「忘れてない。ちゃんと面倒を見ているじゃないっ」



提督「分かっております。ただ今回は大丈夫にしても、犬の寿命は人間よりも遥かに短いのです。いつの日か訪れる別れも、お世話の一つです。苺みるくさんは鎮守府の一員、響さんは暁型五番艦苺みるくさんともいっていましたね。一つの命に対する慈しみと敬意をお忘れなきよう」



今のタイミングで聞きたくない台詞だった。「うん」と力弱く答えて、逃げるように執務室の扉を開いた。「ぎゃんっ」鼻をぶつけて、尻もちをついた。誰かとぶつかった。



わるさめ「暁か。ノックするの忘れていたや。ごめんごめん」



暁「もう、気をつけてよねっ」



弥生「どうか、したんですか?」



わるさめ「いやいや、ざっくりと報告と質問が一つずつ。疑似ロスト空間から追い出されちゃった。行き来のパスも使えなくなっちゃって向こうに行けないし、悪い島風ちゃんと連絡も取れない。疑似ロスト空間、完全にシャットダウンっていうのが報告」



提督「……了解。それで質問のほうは?」



わるさめ「あー、雷のところに落とされて、ぷらずまと響のやつも引き連れて鎮守府に帰ってきたんだよ。なんか、悪い島風ちゃんが苺みるくさんもうすぐ死ぬって断定の書き込みしてさ……」



どたばた、と廊下のほうから慌ただしい足音がする。



雷「司令官、闇のグルに悪い島風さんが書きこんだことって本当なの!?」



執務室に飛び込んできたのは、雷だった。遅れて響もやってきた。グルのメッセージを確認すると、見慣れぬアイコンから苺みるくさんが死んでしまうという書き込みがあった。少しでも優しいのかも、と思った私が間違ってた。あまりにも性質が悪い冗談だった。



暁「大丈夫だから。獣医さんにも診てもらったけど、特別悪化もしていないみたいだし」



弥生「この通り、元気」



雷「うん、私にもいつも通りにしか見えないわね。安心したわ。というか苺みるくさん、なんか汚れているわね。ちょっとお風呂に入れてあげようかしら」



響「暁、世話を任せきりで悪かったね」



暁「仕方ないわよ。戦争終結したからこそ、雷も響もやることはあるし」



提督「弥生さん、お疲れ様でした、最後にちょっと館内放送で鎮守府の大人を集めてください。悪い島風さんについて、島風さんからも色々と聞きましたからね。少し説明しておくことが」



弥生「了解、です」



雷「私達はいいの?」



提督「はい、とりあえず、苺みるくさんを水浴びさせてあげてやってくださいな」



暁「じゃあ、雷、行こっ」



館内放送を入れ終わった弥生が連絡を入れ終わる。



弥生と雷と一緒に部屋を出ていった。廊下には電が執務室に向かって歩いてきていた。暁型の制服を着用している。「わん!」と苺みるくさんが電を見て、飛びかかろうとする。電は頭を撫でて、一瞥すると、なにもいわずに執務室の中に入っていった。








翌日、朝目覚めると、お部屋に苺みるくさんがいた。頭上のメーターは満タンだ。二段ベッドのはしごのそばで猫のように毛づくろいをしている。そういえば綺麗に洗ってあげてから、そのままお部屋に入れて眠りについたのだった。まだ明け方で薄暗い時間帯だった。妹達はまだ寝ているようだ。



暁「みんな寝ているから、吠えちゃダメだからね?」



お部屋の扉を開けると、苺みるくさんは走って行ってしまう。階段を下りていったし、自分の寝床へ向かったのかもしれない。枕が違うと眠れないのと似た感じで、普段と違う寝床ではよく眠れなかったのだろうか。だとしたら悪いことしたな。



中庭へと降りる。寝ぼけてパジャマ姿のまま着てしまった。



苺みるくさんは自分のお家の中にいた。尻尾を振っているのが見える。珍しい光景を見た。司令官が苺みるくさんの頭を撫でている。作務衣姿だけれど、確かあれは司令官の寝巻だと初霜から聞いたことがある。次の瞬間、雷に撃たれたような衝撃を受けて、完全に目が覚める。



提督「良い子良い子、お前は今日も元気だね。もうすぐうちに来て一年になるかな?」



あの司令官があんな優しい声と言葉を出すなんて驚愕の一言に尽きる。そういえば昔、陸奥さんから聞いたことがある。露天風呂に入っていた長門さんが、野生のリスを抱き締めて「でちゅねー」と頬ずりしていたことがあるらしい。動物の無垢は人間に伝染するのかもしれない。



提督「そういえばお前は六駆の中じゃ暁ちゃんに一番懐いているとか」



暁、ちゃん。あの司令官が、ちゃん付けをしている。サンダーの衝撃に打たれたばかりなのに、次はブリザードが背筋を撫でてゆく。もう耐えられなかった。苺みるくさんのところに走る。提督がぎょっとした顔をしたが、聞いていない体を保つことにした。うん、優しさゆえね。



暁「司令官、おはよう、なのです。朝ごはんをあげるから、ちょっと横に」



提督「……おはようございます、了解です」



表情を隠そうとする時の癖なのか、司令官は帽子かぶっていないのに、つばの部分をつまんでくいっと下げる仕草をした。まだ寝ぼけているのか、それともテンパっているのか、どっちだろ。



提督「犬は、良いですよね」苺みるくさんの餌箱にお薬とドッグフードを入れた時、司令官がそういった。「自分は一時期、酷い人間不信だったために共感できた言葉があるんですよ。結構、有名な言葉ですが、『車で犬を轢くくらいなら、人間のほうを轢く』というやつですね」



暁「司令官……本当に危なそうなら強引にでも精神科医に連れていくからね」



提督「人間不信になると、人間を観察すればするほど犬のことが恋しくなる」



暁「……」



提督「こういう言葉もあります。『彼は死ぬその時まで忠実誠実で、あなたのモノであり続ける。あなたはこの無償の愛に応える義務がある』と。人間なんて意地汚い欲望を持った穢れたやつらばっかり。確かに犬よりもそんな人間を轢いたほうが、マシだと心の底から思ったんです」



暁「……」



提督「この場に深海棲艦がいたとします。艤装のない暁さんが怯えても、苺みるくさんはあなたを守るように深海棲艦の前に立ち向かうでしょうね。覚えているかは分かりませんけれど、最後の海でこの鎮守府を破壊される可能性も考慮して苺みるくさんも拠点軍艦に運ぶよういいました」



暁「うん、知っている。秋津島さんが運んでくれたって」



提督「ですね。秋津島さんから聞いたのですが、海の傷痕のほうを見て威嚇の声をあげていたみたいです。19世紀戦争史の妖精、あの海の傷痕ですよ。きっとそんな風にどんな恐ろしい敵が来ても、勇敢に立ち向かってくれるのでしょう。自分やぷらずまさんだって恐怖するような敵だったのに、この自分の手にすっぽりと頭が収まるような小さい命が、です」



司令官は苺みるくさんの頭を撫でる。ガルッ、と司令官の手に噛みついた。ご飯食べている時に触られるのは嫌がるのよね。手が耳にも当たっていたから二つの意味でぷんすかされたのだろう。確かに苺みるくさんは勇敢だ。司令官に噛みつくなんて、私には出来なかった。司令官に危害を加えると、電が悪魔のような態度に豹変するからね。この鎮守府の暗黙の了解ですらある。



暁「司令官、今日は雨?」



提督「午前中の降水確率は30%です。午後からは50%ですね」



暁「なら今日は遠出せずに鎮守府のグラウンドで苺みるくさんと遊ぼうかな」



ご飯を食べ終えて満腹になったのか、ごろん、と横になった。そういえばいつも、その布切れの上で寝ている。要らない布、出撃してボロボロになった暁型の制服をいくつも縫い合わせたお粗末なお布団だけれども、なんか苺みるくさんは気に入っているみたいだった。



提督「しかし、柔らかいし温かくて触り心地がいいですね」



暁「もうっ。寝ている時に触らないであげてよっ。それに司令官は犬小屋作ったきり全然お世話しないし、そうやって可愛がるばっかりなんだからっ」



提督「ごめんなさい」







10:00の時間になると、グラウンドに元気な駆逐艦達が集合した。由良さん率いる長月&菊月&卯月の水雷チームAと、阿武隈さん率いる響、雷、電の水雷チームBだ。みんなジャージに着替えている。ラインカーで白線を引いて、ドッジボールをするみたい。長月と菊月が全国大会の予選に出場するらしく、その特訓だそうだ。



弥生「暁ちゃんは、混ざらないんですか」



暁「嫌よ。ドッジなんてレディーっぽくないし痛いし。そういう弥生はやらないの?」



弥生「……いつか、混ざりたい。今は激しい運動は、怖いです」弥生は膝の上に座っている苺みるくさんの頭を撫でた。「私、医療目的の建造、だったんです。この子と同じ、心臓が弱くて、病弱でした。運動すると、心臓が痛くなって、あんまり運動は、好きじゃない、かな」



暁「そ、そうだったんだ。でも、建造してからは治ったんだよね?」



こくん、と頷いた。



艦娘の頃はドッジとは比較にならないほどの運動量と痛みを経験してきたはずだ。なんといっても五年前のキスカではあの海の傷痕を撤退まで追い込んだ奇跡の艦隊のメンバーの一人だ。阿武隈さんと卯月と組まされるレベルなんだから、素質は上位のはずだ。



弥生「海の運動は平気、でも、陸の運動はちょっと、怖いんだ」



暁「気持ちは分かるわね。あの海を経験しても、怖いことって、ある」



弥生「暁ちゃんにも、ある、の?」今度はきょとんと首を傾げる。表情に色がないからか、お人形のような印象を受ける子だ。「もしかしてピエロットマンの世界に関係、あることかな。あの時、司令官、暁ちゃんにトラウマがあるからって、助けに行った」



暁「うん。私も苺みるくさんみたいに、捨てられたから……」



弥生「ごめん……」



暁「き、気にしてないからっ」



なんだか今日のお天気みたいに暗くなっちゃったな。そんな曇天模様を吹き飛ばすかのようにドッジをしている皆から明るい声が飛んでくる。



電「はあ? 卯月さん、この程度も処理できないのです?」



卯月「く、屈辱ぴょん……まさか天才のうーちゃんにも苦手分野があったなんて……」



あの卯月にも苦手なことがあるようで、すぐにアウトになって外野の長月とチェンジしていた。



菊月がボールを投げた。菊月と長月はかなり鋭く獲りにくそうな場所を狙っているし、技術的な上手さもある。雷がなんてことなさそうに受け止めているのは驚いた。菊月が目を見開いている。雷と響は、地味に運動神経あるのよね。菊月がいった。



菊月「さっきも雷に受け止められたが……自信を失くしてしまうな」



雷「あのね、ドッジのボールなんて怖くないわ。ちょっと身体の位置を変えて、正面で受け止めるよう関節を曲げて体勢を整えるだけで誰でも受け止められるんじゃないかしら。このドッジって、ちゃんと終わるのかしら?」



菊月「それがそんな簡単に出来てたまるか!」



響「人の心だって真正面から受け止めて抱き締めてきた雷には朝飯前だよ」



長月「関係ないだろ上手いこといったつもりか! というか響、さっきからカバディみたいな動きで回避しているが、お前も相当なんなんだよ!」



響「心外だな。私は至って真面目だ」



響に限っていえばなめているのではなく、単純にふざけているだけね。ほら、自由人だし。



雷「はい電。ボールをあげる」



電「ありがとう、なのです。ところで由良さん」



由良「な、なにかな?」



電「さっきから狙われる度に『ひっ』だなんて怯えた声をあげていますが、この場で発情期迎えても寄って来る男なんていないのでさっさと本性出して欲しいのです。もしかして危ない薬にでも手を出したのかと思ったら不安といら立ちが募り、さっきから発狂衝動に駆られているのです」



由良「ずいぶんと妄想が軌道に乗った解釈したんだね!?」



電「全く。フレデリカのところにいた時は瀕死の深海棲艦を沈まないよう抱きとめて『おら、歌えよ』とトドメを刺していましたよね。血飛沫の歌い手とは思えない醜態なのです」



由良「そんな恐ろしい沈め方したことないからね!?」



阿武隈「まあ、よく歌いながら深海棲艦を沈めてはいましたけどねっ!」



想像すると、とっても怖い。



卯月「はあ、うーちゃんも見学ポジに混ざるぴょん」



卯月が弥生の隣に腰を降ろした。



弥生「お疲れ」



卯月「うむ。こんな雨降りそうな日は引きこもってゲームやるに限るんだけど、司令官がゲーセン設備を撤去しやがったぴょん。閉店時間までアーケードやりてーけど遠出したくないし……」



暁「漫画の図書館とか映画館とか色々あるじゃない」



卯月「漫画も大体読み尽したし。艦これの運営も止まっているから予定されていた遠征もなくなったから時間も空くし。全く、ゲーム内で遠征させられると意識なくなるとかクソ仕様だし」



暁・弥生「完全に同意……」



卯月「そういえば、今日辺りにいろんなやつが鎮守府に戻ってくるはずだぴょん。秋津島と金剛榛名はイギリスにいるから遅れるみたいだけど、はっつんも来るって」



暁「はっつん……って確か大本営でお仕事しているのよね?」



卯月「だなー。海の傷痕関連の任務を司令官から託されたみたいだけど、いったん帰ってくるぴょん。悪い島風のやつが、その犬っころ、苺みるくさんがどうこうの書き込みしたから、みんな心配だからって鎮守府に戻ってくるとか。この鎮守府はこのわんこのハーレムだぴょん」



苺みるく「わん!」



嬉しそう。



この通り、元気なんだけども、だからこそ帰ってきたみんなも安心できるはずだ。戦争終結して政府に各々が拘束されて、解放された後もお里に帰ったり、家族に会いに行ったり、とそれぞれやることがたくさんあったから、この鎮守府にみんなが集まるのは戦争終結したあの日以来ね。



卯月「島風天津風と、陽炎不知火わるさめはー?」



弥生「島風さんと天津風さんは、秘書官だね。他は間宮亭」



その三人は間宮さんからお料理を教わっているらしい。なんだか不知火さんが料理を教えてくださいって頼んだら間宮さんはあのショックから復活したみたい。なんでかはよく分からないけど、間宮さんにとっては相当に嬉しい頼みだったようだ。私もそっちに顔出せばよかったかも。



しばらくドッジボールは続いて、お昼頃になると、雨が本降りになったのをきっかけにお片づけに入った。苺みるくさんは食堂には連れて行けないから、犬小屋でお留守番してもらわないと。雨が本格的に振ってきて、黒い雲が空を覆い始めた。大きな雷鳴が響いた。



暁「ぴぎゃ、かみなりっ」



雷「かみなりじゃないわ!」



雷が条件反射した。というか、かみなりだから。



空を覆う雲に雷光が迸り、景色がピカピカと光った。光に置き去りにされた音が到着して、一際大きな雷鳴を轟かせる。これは酷い天気だった。雨も叩きつけるような振り方に変化してきている。みんなは片付けを放り出して、館内へと避難を始めた。



電「……?」



激しい雨に打たれるのも構わないといった風に、電が突っ立っている。表情から色が消えていた。



暁「電、なにぼっとしているのよ、風邪引くから早く館内に避難するわよっ」



電が無機質な声で、いう。少しだけ感情を押し殺した風にも聞こえる。



電「早急に苺みるくさんを病院に運ぶのです……!」



暁「ふえ?」



電の視線の先にいる苺みるくさんを見る。



地面の上に四肢を投げ出して、力なく横たわっていた。びくんびくん、と身体が跳ねるように振動していた。体力のパラメータは赤かった。同じく赤色の大破の文字が、頭上に見える。同時に、私の胸も激しい痛みに襲われた。



【9ワ●:命の燃料は補給できません】



天井が斜めっている。ずるずると床を滑るような感覚にとらわれ、どこかつかめるところを探すように手足を必死で動かした。転覆寸前の反射的な行動、いつの日かの暁の夢という記憶がそうさせる。艦内部に浸水してくる海水は、空間を隙間なく埋めていく。衝撃で海水が跳ねる。引火した弾薬庫、ありとあらゆる死の波が押し寄せてくる夢だった。



戦場は死と隣り合わせだった。いくつも波のように死の要因が訪押し寄せてくる。艦載機が対空射撃を通り抜けて、敵陣へと押し迫っていく。絶え間なく殉職者が出ていくその空から飛行甲板に戻ってきても、またすぐに同じことを繰り返す羽目になる。迫り来る死を乗り越えるのは困難だ。



じゃあ、その死を乗り越えるために必要なモノといえば、なんだろう。



ある者は勇気だといった。死を恐れぬ生への執着がないと判断が鈍る。勇気があるかないかで、生存率は大幅に変わる。それ以外の生存者は大抵がただの運だ。そんなものには縋れないだろ。ある者は必要なのは臆病だと返した。名采配というのは臆病があるから成り立つ。そもそもパイロットになったり、艦橋なんかに立つもんじゃない。大人しく後方支援部隊に行けばいい。情報部か。死ねば全滅の危険だから、みんなから死ぬ気で守ってもらえるんじゃないかな。腰抜けだが。

勇気と臆病の話は、名誉と命のお話に変化していく。



不意に探照灯に照らしあげられて、その暁の夢から覚める。



意識が覚醒した。斜めっている天井が特徴的な部屋だった。この構造は間宮亭の三階にある間宮さんの居住スペースだ。照らしているのは探照灯ではなく、天井の電球だった。煙だと思ったのはお盆の上にある湯のみと追わんから立ち込める湯気だった。



雷「大丈夫?」



雷が視界の端に座っている。



暁「大丈夫。それより雷、これ苺みるくさんを病院に連れていって戻って来たってこと?」



雷「そうね。お医者さんいわく、いつ逝ってもおかしくない状態。響、電、私の希望で鎮守府に戻すことにしたんだけど、暁ってゲージみたいなのが見えるんでしょう。司令官がそれのほうが信用できるって判断しているみたいなんだけど、どうなっているのかしら?」



隣にある毛布の上にはぐったりと横たわっている苺みるくさんがいる。損傷具合は黄色の中破のままだった。三分の二近くの体力ゲージが削られている。毛並みを撫でる。肋骨の辺りに手が触れた時、温かい鼓動が伝わる。小さいけれど、力強いリズムで脈を打っている。



暁「半分よりちょっとないくらいの中破……」



まだ予断を許さない状態なのだろう。艦娘の中破ではまだ航行も出来るし、戦える。まだ死が強烈に頭を過ぎらない損傷状態だった。中破は、もうダメという絶望よりも、まだなんとかできる、という希望色のほうが濃い。今の心中も同じだった。苺みるくさんはまだなんとかできる。



暁「少し下から司令官の声が聞こえるけれど、作戦中?」



雷「終わったはずよ。ねえ司令官から聞いたんだけど、暁はもしかしてこう思っているんじゃないかしら。いざという時は司令官がなんとかしてくれる。あの人はそういう人だって」



暁「そうね。だってあの司令官、何度もあり得ないことをしてきたし」



私達だって終わらないはずの戦争を終結させて世界を救ったのだ。それに比べたら、一つの命を救済するということなど何度も押し寄せて、乗り越えてきた苦難の波の一つに過ぎない。



雷「あの司令官は英雄になったけれど、側にいたら分かるでしょう。あの人も欠点だらけだってこと。今回は難しいと思うから、覚悟は決めておいたほうがいいわ」



雷はたまにすごく大人びた表情をする。素性はもう知っているけれど、どんな経験してきたかはあまり想像がつかない。人助けばかりしていたというけど、街での問題を抱えていたあそこの人達は一筋縄ではいかない事情のはず。雷は慣れているのだろうか。私は雷みたいに割り切ることは無理そう。



暁「……死なないわよ。だからそんな覚悟、必要ないし」



自分自身におなじないをかけるように、何度もいい聞かした。



その呪文が発動したかのように、苺みるくさんがゆっくりと前脚に力を入れて、起き上がり始める。産まれ落ちたばかりの子鹿のように拙い動作でよれよれと足腰に力を入れるその姿に、命の儚さと強靭さを感じる。いつも通りにお座りの体勢になると、わん、と元気に吠えてみせた。



胸がまた痛む。少しだけ痛みをトレースしているという、この胸の痛みで分かる。恐らく苺みるくさんは強がっている。そしてこの頭上に表示されたパラメータに嘘偽りはなかった。あの時、確かに苺みるくさんが危篤状態に陥った時、ゲージは赤の大破になっていたのだ。



尻尾を振って、私の服の袖に頭をこすりつけてくる。この仕草は散歩に連れていけ、と催促する動作だった。苺みるくさんは辛いはずなのに、視覚から得られる情報からは、いつも通りの元気そのものにしか見えなかった。



その姿から戦場の私達が思い浮かぶ。



中破したら、まだなんとかなる、と命を燃やす。だけど、撃沈の有無を大きく左右する燃料漏れが発生している時も珍しくはなかった。自分の意思とは無関係に航行出来なくなっていく。そして最悪、沈んでしまうのだ。残った燃料でもがくその姿は、正しく中破だった。命の燃料は補給できない。なぜならば命はモノじゃないからだ。損傷した燃料庫を修復したり、私の燃料を分け与えることは出来なかった。



暁として駆け抜けた海の戦争。あの海では損傷した味方をドッグに連れていって高速修復材を使えば、すぐに命の危険から脱することが出来た。私達が軍艦や防波堤、と一部から物認識をされていたのにも根拠があった。命とモノの違いを思い知らされる。



司令官に、苺みるくさんが散歩にでかけたがっている、と伝えた。夜でも許可してくれた。いつも通りの司令官だったけれど、どことなく苺みるくさんみたいに無理しているように感じる。なにか思うことがあるのかもしれない。電が「大丈夫です」と優しくいった。さっき苺みるくさんに気を遣われた私みたいだった。



でも、そう。大丈夫だ。そう信じるしかなかった。



そんな未来、いくらなんでも悲し過ぎる。



苺みるくさん、まだうちに来てから一度もお誕生日を迎えたことがないもの。



お散歩にはなんだかずいぶんと大勢で行くことになった。いつもは餌やりくらいしかやらない電も、自発的に着いてきた。みんな、苺みるくさんの容体が気になって帰ってきているようだ。でも、苺みるくさんがいつも通りだからか、みんな安心している風だった。その日は少しだけ寄り道をして、小さな神社のほうに出かけた。私は神様に、生涯で二度目の一生のお願いをした。



暁「どうか、苺みるくさんが一歳の誕生日を無事に迎えられますように」




――――うん、わかった。




確かに聞こえた。昨日の朝に聞こえた声と同じだった。苺みるくさんの声だった。私は苺みるくさんと視線を合わせて、飼い主として、絶対に守るように苺みるくさんに司令官のように命令をした。暁型一番艦として、暁型五番艦の弟に姉として教育した。



【10ワ●:乙中将に聞いてみる】



翌日、苺みるくさんの容体に変化はなかった。中破ゲージのまま下がることもなく、上がることもない。ただ今日は鎮守府に帰ってきた皆が構いたがるので、私は少し苺みるくさんから離れることにした。今日は今日でやることはある。なにか現状を解決する方法を模索する時間が欲しい。



間宮亭の一階には司令官と乙中将がいる。ゲームの艦隊これくしょんの運営が停止して、その空いた時間にこの鎮守府で一連の騒動の情報整理及び会議をしよう、と思い立ったが吉日みたいな感じで乙中将達がこの鎮守府にやってきたみたいだ。朝の食事が終わってから、お昼までは間宮亭はお昼の仕込みで忙しいのだが、厨房には瑞鳳さんと鹿島さんと、翔鶴さんもいる。司令官カウンターでノートパソコンのキーボードを叩いて、乙中将はその隣で昼間から酒浸りだ。



暁「そうだ、乙中将っ!」



名案が思い浮かんだ。乙中将は歴代の提督のなかでも妖精意思疎通分野の才能は1番だという。あの人は動物と会話が出来るとかって聞いたこともある。私には妖精可視の才はなく、だから、苺みるくさんの声があまり聞こえないのかもしれない。乙中将なら会話できるかも。



暁「苺みるくさんと意思疎通して、えっと病気の具合を聞いてみて欲しいの」



乙中将「暁ちゃんは僕をなんだと思っているのかな……」



提督「そういえば明石さんが卯月艤装のメンテに来た時に自分も聞きました。『あの人、動物とも会話できるとか。あはは』と笑っていましたが、もしかしたらあなたなら、と半信半疑で」



暁「うん。なんかお家が自然と対話したり、とかって。動物、特に犬を信仰していたとか」



乙中将「そうだね。家がガチでそんなことばかりやっているから僕は小さい頃、犬しか友達がいなかったあり様だよ。妙な宗教の家だと思われて、腫れモノ扱いの思い出……夕立と時雨も犬っぽいけどさあ、なんか僕の人生、わんこと絆が出来てばかりな気がする」乙中将はグラスを煽る。「僕は動物と喋れません。けど、もしも暁ちゃんが動物と喋れるっていうのを信じるのなら、僕の家のことを教えてあげようか。自然信仰することで超能力に目覚めるかもね」



暁「乙中将の嗅覚、海の傷痕お墨付きの超能力レベルだって聞いた」



乙中将「勘に過ぎないからね。それでは僕の家の歴史を少しだけ教えてあげる。僕等のところはさ、その家ごとに風習が違ったりするくらいに信仰が細分化しちゃっているんだけど、僕の家になぞらえて話すからね。それ以外、あんまり知らないし」



暁「お願いしますっ!」



乙中将「うん、礼儀正しくてよろしい。それじゃ」



僕の家では魂のことをカムイって呼んでいた。汎心論みたいなもんかな。この世の形あるものないもの関係なく、そこには魂がある、と思ってる。そしてそのカムイには、僕達から見て良きモノと悪しきモノがある。僕等が健やかに暮らせるために力を貸してくれているモノが良きカムイ、僕等の生活を脅かすモノが悪いカムイだ。例えば僕んところの良きカムイの代表は犬だった。作物が害獣とかに荒らされるのを吠えて教えてくれたり、縄張りを監視してくれたり、狩りだって手伝ってくれる最も身近な生き物のカムイだ。僕の家では熊は悪いカムイだった。もともとは悪くはなかったんだけど、昔に山のクマが人を喰い殺したから、クマは悪いカムイに犯されてしまったって先祖の考え方が残ってそのまま悪いカムイに、ね。深海棲艦? もちろん悪いカムイだよ。



だけど、良くて悪くもあるカムイがいる。天候とか道具だね。例えば雨だ。雨は恵みの雨だけど、降り過ぎると災害となる。火もそうだ。温もりや食物の調理に役立つけど、火事で人を焼き殺すし、風だって涼しいけれど台風みたいに強いと屋根が吹き飛ぶ。刃物だって、僕等を傷つけるモノになるよね。そんな感じ。ちなみに人間もこのカテゴリだ。



天候のほうに関していえば、災害が起きるのはカムイを怒らせてしまったから、という考えだった。例えば川が氾濫した時はね、水周りのことに気を配る。僕等が水を粗末に扱ったから水のカムイが怒ったんだって考えるから。だから怒ったカムイを鎮めるために、必要以上の水を川から汲まないように、とか。水周りの清掃をする、とか。今、思えば僕の家だけだね。あれ、絶対に僕の教育の意味合いで導入した後付けだよ。そんな理由で雑用みたいなことばかりやらされていたし。



おっと、話が逸れてしまった。



カムイにはカムイの世界があって、僕等もその一部でしかないから、あまり傲慢なことはしないように、と自分達を戒める。じゃないと、僕等はこの世界から追い出されてしまうからね。だから、僕等はそのカムイの恩恵を受けている身として様々な恵みへの感謝を忘れないんだ。



カムイにはカムイの世界があって、役目を終えた……死んだ後、儀式をして見送る。そうやって丁寧に感謝を捧げて天国へ送ると、カムイ達が僕達のところにまたやってきてくれるのさ。だから、またカムイ達は僕等に恵みを与えてくれる。そんなことを願って、儀式をする。



魂を大切にすると、魂から愛されると信じている。



地域の伝承に過ぎないけれど、そうやって感謝を忘れない一族の家系には、稀にカムイに愛された子が産まれることがあると信じられている。様々なカムイと意思疎通が出来る人はよくいるけれど、その子にはまだこの土地に根付いてくれているコロポックルといった伝説上の存在が見えて、様々な恩恵をもたらす救いの子となるって。その子なら動物ともおしゃべりできるかもね。



身の周りのモノは大事にしなきゃ、バチが当たるよってこと。大事にしていれば、いつか必ずまた魂は僕等のもとへ、恩恵をもたらしてくれるから、お世話になっている命には敬意を払おうねってことかな。暁ちゃんもそうしなきゃ、悪いカムイが幸せを奪っていっちゃうよ。



暁「……えっと、魂に感謝して、真摯な行動を日ごろから心がけましょうってこと」



乙中将は言葉を返さずに、柔らかく笑った。



しばらくカムイについて考えていると、間宮亭の扉が開いた。



時雨「乙さん、丙少将が乗った船が見えたよ」



夕立「っぽい」



時雨さんと夕立さんだった。そういえばこの二人はそれぞれ猟犬とか狂犬とかって通り名がついている。わるさめさんもぽ犬姉、とかいうし、いつも乙中将の側にいる印象がある。二人を動物に例えるのなら間違いなく犬だった。だから乙中将と相性がいいのかな、と考えてしまう。



時雨「准将さん、こんにちわ。何気に初対面ですよね」



提督「そうですね。初めまして、という気はしないほど白露型の面々のお噂は至るところで」



時雨「悪い噂じゃないと信じたいよ。というか准将、春雨も大分落ち着いたね。さっき会ったんだけど、夕立や僕のことを姉と呼んだ時はさすがに驚いたよ。七年振りくらいじゃないかな。戦争が終結してから段々と当時の優しさが戻っているみたいな気がする。なんだか嬉しいな」



提督「時雨さん風にいうと、止まない雨はない、ですね」



時雨「あなた風にいうなら、止まない雨もある。なぜなら自分次第だから、だ。阿武隈さんへの口説き台詞はけっこう広まっているよ。意外と女の子を口説くのがお上手な方みたいだね」



提督「ありがたいことです。その口説きの全ては戦争終結のためのみでしたが」



時雨「噂通りの人なんだね……」



乙中将「いいなあ。口説くの得意とか。戦争終わったし、僕も彼女欲しいんだけど」



提督「職場的に出会いに恵まれているかと」



乙中将「僕がモテればの話だけどね……」



提督「……乙中将は人気ないのですか?」



時雨「そんなことはないと思うけど、乙中将は乙中将で、それ以上でもそれ以下でもないというのかな。まあ、距離が近すぎるっていうのも考えモノだよね」



夕立「夕立は好きっぽい!」



時雨「この通り夕立はすごく懐いているし、多分いえばなんでも聞くと思うよ。でも、ほら、夕立の愛は夕立の愛というカテゴリだしさ」



提督「なるほど。すごくいいたいことが伝わりますね……」



乙中将はチャンネルを手に取って、テレビをつける。NHKの番組が流れる。自然溢れる緑に満ちた光景だった。ナレーションが、現地の説明をしていた。北海道のようだ。シンプルな春先の服装に身を包んだおしとやかな女性が画面に移る。とたんに乙中将の表情が強張った。時雨さんがテレビをじいっと見つめている。ナレーションが、あの現乙中将のー、といった。



《そうですね、息子がお国の役に立てたのなら母としても誇らしいですね。もう終わりの報告も頂きました。あの子は我が一族にとってカムイに愛された子、これで安心して私達の家を継いでもらうことが出来るというものです。お嫁さん候補でも連れてきてくれるといいんですけどね?》



乙中将「このババア全国放送でなにブチかましてんだよ!」



乙中将がすぐにテレビの電源を消した。



提督「へえ、綺麗なお母様なんですね。嫁を連れて戻ってこい、だそうですよ」



乙中将「今の景色、見ただろ! あんなネット環境も整っていなくて自然しかない場所に嫁入りしてくれる子なんか少数派だろ! 少なくともうちの鎮守府ではいないっていう結論が出たしね! あの扶桑さんにすら苦笑いではぐらかされたよ!」



乙中将「血筋からは逃れられないのか……」



血筋からは逃れられない。ホントだとしたらちょっと嫌だな。



夕立「夕立はあそこ好きっぽい。嫁入りとかはよく分からないけど、乙さんのことは好き!」



乙中将「ありがとう! でも僕はそんな夕立が好きなんだ!」



なにやら世間話に流れてしまったけれど、私はずっと乙中将から話してもらったあいぬの風習を考えてみる。動物、犬は一番身近なカムイだという。カムイに感謝して、真摯な行動を日ごろから心がけましょう。意味ならちゃんと分かる。乙中将は馬鹿らしい、というけれど、私はそうとは思わなかった。全てのモノには魂がある。艤装にだって、確かにあったもん。



時雨「准将、悪い島風さんのことだけど、疑似ロスト空間というのはロスト空間となにか違うのかな、ロスト空間自体、僕等はあまり情報をもらっていないんだ。史実砲で飛ばされたけれど、あの時は無我夢中でよく分析する時間もなかったし……」



提督「創作短縮空間ですね」



時雨「具体的にいうと?」



提督「んー、そうですねー……暁さん」



暁「なに?」



提督「唐突ですが、質問です、赤ちゃんはどうやって出来るでしょう」



暁「え、えっと、そんな恥ずかしいこと聞かないでよっ」といいつつ、聞かれたので答えるとした。「響から聞いたから知っているわ。好きな人とキスするとコウノトリがって」



提督「正解です。正しい不正解をいえば、それはそれで肩の荷が降りる面もあるのですが。今後において差し支える面も出てきますね……しかし、自分では……」



司令官がぶつぶつと呟き始める。



正しい不正解ってなんだろ。正解なのに、なんだか間違ったことをいったような気分だ。時雨さんが「なるほど、すごく分かりやすい」と苦笑いした。なんなのよ、もうっ。



【11ワ●:丙少将に聞いてみる】



丙少将「おう暁か。久しぶりだな」



日向・伊勢「うーん、ちょっと元気がないな(ね)」



暁「うん、お久しぶり。元気がないのはそっちの瑞鶴さんじゃないかしら……」



瑞鶴さんはげんなりとした顔をしている。一体なにがあったのか。というか、丙少将達となにをしていたのか少しだけ気になった。日向さんがいう。



日向「どうした、無理やり瑞雲祭りに駆り出された時のようなジト目をして」



瑞鶴「それそれ。それが原因よ。なんで瑞雲を積めない私が参加させられなきゃならないわけ……?」



伊勢「といいつつ付き合ってくれるあたり瑞鶴は人付き合いがいいよね」



瑞鶴「別に……」



日向「ジト目が可愛いって褒められていたじゃないか」



瑞鶴「嬉しくないし、フォローにもなっていないからね……?」



日向「フォローしたつもりはないぞ。それより会議に来たんだろ。早く終わらせよう」



瑞鶴「あーもう……日向さんのマイペースはどうにかならないのかな……」



無理、と丙少将と伊勢さんが同時に答える。この二人が無理というのなら無理なのだろう。そもそも私が丙少将の鎮守府に着任した頃から、日向さんはマイペースなうえに、よく分からないところがある。ひょうひょう、としている、というのかな。つかみどころがないイメージだ。



瑞鶴「それで暁、苺みるくさん犬小屋にいるの?」



暁「いるはずよ。ちなみに心配ないからねっ」



瑞鶴「ならよかった」



暁「ねえ丙さん」



丙少将を呼びとめる。苺みるくさんの一件に関して、頼りにするのは司令官よりも適しているかもしれない、と思った。だって丙少将、みんなの損傷を減らす指揮が得意だし。全員生還。正しく今、私が望んでいることだ。アドバイスしてもらうため、呼び止めた。



暁「苺みるくさん、生まれつき心臓が弱いの。どうしたら治る?」



丙少将「苺ミルクの心臓が弱い? 暁、春の日差しで脳みそがメルヘンに溶けたのか?」



伊勢「この鎮守府にいるわんちゃんの名前だから」



丙少将「あー、そういやいたな。なんかこの子の成長にとって大きく影響しそうな質問を突然されたんだが」



伊勢「真面目に答えてあげるべきかな。頼りにされたってことなんだから」



丙少将は腕を組んで、低い声で唸る。この人を持ってしても、難題なのか。



丙少将「乙さんにも聞いたか。あの人、犬と縁のある人生送っているんだぜ?」



暁「聞いたわ。カムイについて。ちょっと酔っ払っていたみたいだけど」



伊勢「お酒飲みながらって、乙さん……」



丙少将「俺は犬の身体のことはよく分からねえよ。でも、諦めないっていう気持ちが大事だ。医者が無理っつっても覚悟は決めなくてもいい。お前らは仲間が大破した時、もうダメだって覚悟を決めてきたか。そうじゃないだろ。最後まであがけばいい。ダメだった時は、覚悟なんか関係なく、どうせ受け入れるしかなくなるだけだ。自分が後悔しないように選べばいいんだよ」



丙少将の答えは、シンプルだった。だけどどこか大人で、悟った風でもある。私はそんな風に割り切って考えられない。ダメだった時のことなんか、考えたくないし、来ても受け入れることを拒み続けるだろう。



丙少将がカバンから、封筒を取り出した。ほれ、と差し出される。



暁「なにこれ?」



丙少将「俺の鎮守府に響と一緒に着任した時、うちの鎮守府の恒例の質問をされたろ。将来の夢はありますか、ってな。その時、お前は一人前のレディーになるっていったよな。その時、話の流れで未来の自分に手紙を描いただろ。渡しておこうと思って持ってきたんだよ」



暁「内容なんだっけ。丙さんが『笑えねえ手紙になる』っていったのは覚えているけど……」



暇な時にでも読んでみろよ、と強引に押し付けられる。



うん、今は忙しいから後で読むとしよう。



【12ワ●:妹達に聞いてみる】



慰霊碑の丘に響と電がいる。電と響は恐れ多いことに、中枢棲姫勢力の艤装の上に腰かけて、海のほうをぼうっと眺めている。苺みるくさんが、電の隣でお座りをして同じく水平線を見ている。落ち着いているのか、尻尾は大人しく、そしてゲージが少しだけ減っている。



響「暁、苺みるくさんのゲージはどうだい?」



暁「……大丈夫」



しばらく、波と風の音しか聞こえない沈黙が流れる。苺みるくさんのじわじわと減っていく体力ゲージを見ながら、思う。苺みるくさんの体力がじわじわと時間をかけて減ってゆく様は、寄せては返す波がこの丘を削り取ってゆくのと似ている。カムイとカムイは影響し合う世界のこと、なんとなく分かった気がする。



響「最後の海の戦い、改造の影響で長い夢を見ていた。そのせいで遅刻したけれど、苺みるくさんが私の頬を舐めてくれたお陰で意識は覚醒したんだ。苺みるくさんがいなければ私は暁達の救援に間に合わなかったかもね。そう思うと、苺みるくさんも戦ってくれていたってことだね」



暁「すごいわよね。苺みるくさんも司令官も艤装ないのに、戦い抜いた」



響「ああ。苺みるくさんはこの丘によくいたとか」



思えばこの場所は抜錨地点から海へと出撃した兵士が、見える。この高い場所で障害物のない丘からなら、背の低い苺みるくさんも私達が水平線の点になるまで、ずっと見ることができる。そういえば拾ったあの日、一度だけ捨てることになって、門の外に出した。門に頭をぶつけながら、私達を追いかけようとしていた。ここで私達を見送って帰ってくるのを待っていたとしたら、苺みるくさんは出会ったあの時から成長しているんじゃないかな、と考えた。



暁「電は、普段とあまり変わらないわよね。苺みるくさんとのお別れ、怖くないの?」



電「怖いのです」あんまり怖くなさそうにいう。



暁「でも、電はいつも通りに見えるけど」



電「ゲージ、着実に減っているのでは」



鋭かった。私達の中では、一番お世話していないのが電だった。もともと電は飼うのに反対だったし、あまり構うこともしなかった。あの頃の電にそれを咎めることもしなければ、苺みるくさんの存在が死にたがりの部分が変わってくれるといいな、と考えていた程度だ。でも、電は確信を持ったかのようにいった。まるで電にもゲージが見えるのではないか、と疑ったほどだ。



電「身も心も死線は幾つも越えてきましたが、今の苺みるくさんの苦しみはまだ経験したことないのです」電は海の彼方のほうを向いたままいう。「もう深海棲艦はいないのです。ずうっとここにいても、砲弾や艦載機が飛んでくることはない平和を勝ち取りました。何度も死線を潜り抜けて」



暁「……」



電「砲弾や魚雷に被弾して死にかけたことくらい腐るほど経験してきたのです。でも、私達は軍艦化した兵士でした。資材を使えば、全て元通りになったのです。だから、分からないのですよ。ゆっくりとでも確実に歩み寄ってくるゆるやかな寿命的な死は実感湧かないのです」



暁「でも、あの時の電は深海棲艦を殲滅し終えたら死を覚悟していたっていっていたじゃない。司令官はそれでも歩みを止めずにこの海を追い詰めていった。それって、ゆるやかだけど、確実な死っていうのに近づいているんじゃないのかしら。電なら分かるかも、と思ったけれど」



電「自分で選択して覚悟した死と、受け入れるしかない死は決定的に違うのです」電は振り返ると、親指で首をかっきる仕草をする。「電はすぱっと死ねるほうが楽だと思うのです」



響「比べるようなものでもないけどね。暁の質問の答えは海屑艦隊の皆さんなら答えられるかもしれない。彼等は海の傷痕を倒して暁の水平線に勝利を刻めば死ぬと分かっていたんだから」響が電のほうを向いた。「最後、彼等をトランスしてどんな精神をその身に受けたんだ。そこから彼等の考えが導き出せるかもしれない。あの人達の経験は人間の人生では得られない財産だ」



電「最後の違法改造(建造)で分かったのは、あいつらが深海芸人だということなのですが……」



電は仕方ないですね、とくるり、と身体をこちらに向けた、



電「司令官にも教えていないのですが、中枢棲姫決戦時、中枢棲姫さんにいわれたのです」誰も知らない物語を紐解くように、語り始める。「『深海よりも高い場所で生を受けたあなたが最初にその目に写したのは闇ではなく光、若き翼、勇気を抱いて偉大なる踏み込みを。深海ではなく、どうかどこまでも高く透けた空に向かって。化物でもぷらずまでも電の役割でもなく、あなたという個人の想の願い。その使命を果たしてくださいね。どうか明日の君も優しくあられますように』」



あの深海棲艦がひどく人間的なのは知ってはいる。だけど、あの戦いはレ級の叫びくらいしか知らなかっただけに、少し驚いた。あの頃からそんなこちら側を気遣うような台詞を吐けたのか。わるさめさんがあの人達と時間を共にしていたことにも、納得できる人間らしさ、だ。



電「あなたという個人の想の願い、もしかしたら戦争終結した後の意味合いも含まれていたのかもしれませんね。だから、私達がこの海で戦争終結を成した意味を考えるべきなのです。兵士なら誰もが夢見ました。今ら何度も死にかけて手にした平和な海が広がっているのです。今、私達は百年を越えて夢想されてきた世界にいる。今もその夢の中なのです」



電は肩をすくめる。死ぬと決まったわけじゃないのに、そこまで時間を割いて悩むだなんてずいぶんと平和になったのです、と電はけだるそうにいう。



電「というかこの手の相談は私より雷お姉ちゃんが適任だと思うのです。ほら、いつも事あるごとに頼れ頼れうるさいんだから、こういう時くらい役に立てばどうなのです?」



雷「辛辣ね……この件に関しては月並みの言葉しかいえないわよ。私はきっと見た目相応だからこそ、当たり前のように困っている人達を助けようと思えていたのかも」



響「でも雷は経歴的には電や私よりもよほど命と触れ合ってきたはずだ。だって苦しんでいる人達に手を差し伸べてきたから、雷の家は多くの人達の拠り所になったんだろう?」



雷「命は儚いわ」



暁「短っ! 凝縮し過ぎよっ!」



雷「うーん、どうもね、生きる力って私達がそうだったみたいに土壇場で試されるみたいなのよね。死んでたまるかって思えることがあればとりあえず生きてはいけるんじゃないかって思う。明るい話じゃないけど、そうね。世の中がよく分からないっていうのが、よく分かるお話があるわ」



そういって雷はとある人間の人生を語り始める。



食べ物に困った二人の人間がいました。その内の悪いほうはこういいました。もうなりふり構っていられないから悪いことをしよう。もう片方の良い人間はいいました。犯罪はダメだ。意見が別れて、二人は袂を分かちました。良いほうの人間はなんとか真っ当に生きていこうとする道を模索しますが、状況は一向によくならなくて、どうにもなりません、苦しい毎日を送ります。そんな日々が続きます。悪いほうの人間は計画を立てて強盗を働きました。そして奪ったモノで窮地を脱することができました。雷はそこまでいうと、ペットボトルに口をつけた。



雷「やっぱりこの話は止めようかしら」



響「続きが気になる」



と響がいえば、雷はまた語り始める。



雷「良い人間のほうが馬鹿を見るお話だけどね」



犯罪を悪いことだから加担しない、といった良い人間のほうは結局、状況は一向に好転せずに、路上でその生涯を閉じました。悪いほうの人間は警察に捕まって牢獄に送られました。その牢獄で六年経つと、外に出ることが出来ました。それから、海外に行きました。今は結婚もして、普通に過ごしているみたい。ほら、なんかよく分からないでしょ、と雷はいった。



電「良い人間が馬鹿を見るっていうその生々しい社会の闇の話はなんなのです……」



雷「正直ね、悪いほうの人間は人から好かれるような性格ではないわね」



電「当然なのです……」



響「強盗されたほうの被害者は民事訴訟を起こさなかったのかい?」



雷「そうねえ。その悪い人間の手元にはなにも残っていないみたいだったし、またそんな悪い人間との厄介事に関わるよりも、犬にでも噛まれたと思うことにしたみたいね。その悪い人間としゃべったことあるんだけれど、厚顔無恥な人柄ねえ。きっとあの人は死なないわね。悪い人間のほうは、死ぬくらいならきっと誰かに迷惑をかけながらずっと生きていくんだと思うわ。そうならないように変わってくれたらいいのだけどね、あの人、今は海外で身柄を拘束されていたかしらね……」



響「難しい話だ」



電「また一つ街が怖くなったのです……」



暁「そ、その人はその捕まって反省して、改心しなかったの……?」



そういうと、雷は純粋な子供でも見るのように、苦笑した。なんだか違和感だ。こういうところだろうな。私達は見た目こそ肉体年齢相応だけど、実際の生きた年月は、同じ背丈の子供とは違っている。雷は腕を組んで、低い声で唸った。



雷「気になったから、うちに在籍していた刑務官さんがいたから聞いたことあるわね。あそこはもう受刑者を社会に戻すための支援をするところではなくなって来ているんだって。反省はせずに、逆恨みしたり、どうして自分がって嘆く人ばかりで嫌になるって、再犯率の高さがそれを如実に表しているとかなんとか。お前らが教育しないせいだって、隣で飲んでいた教師をブン殴っていたわね。思えばあの刑務官さんも悪い人間のほうな気がするわ……」



暁「雷が、すごく社会的な話をしている。私のほうがお姉さんなのに……」



雷「私達の見た目はこんなんだけど、生きている年数を考えれば多少は大人の事情も分かるわよ。海に縛られているせいで、見た目相応の面もあるみたいだけど」雷はいう。「生きられるのに死ぬ人がいれば、生きられなくて死ぬ人もいるし、死んだみたいに生きている人もいるわ」



響「おっと、そこまでだ。暁はまだ赤ちゃんをコウノトリが運んでくると信じている」



暁「なにその言い方。響、もしかして私を騙したのっ」



雷「重症ね……必要なことだと思うし、司令官と鹿島さんに報告したほうがいいかしら」



電「おっと、不健全な話はそこまでなのです」電がいう。「暁お姉ちゃん、わざわざこの海の戦争に参加したからには、私達はきっと生きられるのに死んでしまう人の性質なのです。さっきの雷お姉ちゃんの話を聞きましたね。私は良いほうの人間になるのです。どうせいつか死ぬのなら、生きるか死ぬかより自分の気持ちを大事にしたいと思うのです。苺みるくさんが死んだら悲しいですが、愛情は相手の幸福の価値観を尊重してなんぼじゃないですか。苺みるくさんが自らの命よりも大事なモノがあれば、その想いを尊重します。私達が逃げずに命を賭けて海の傷痕に挑んだように、今度は私達が苺みるくさんの戦いを見送る番なのです」



響「そうだね。そのためになにが出来るか。それすらも難題だ」



電「苺みるくさんが私の艤装になったらその気持ちも分かるのですが」



なんか怖いことをいい出した。



電は苺みるくさんの頭を撫でる。あの仕草で、夢の光景を思い出した。最後に私を優しく撫でたあの乗員のように、慈愛に満ちている動作だった。もしかしたら私達のなかでは最も電が命についての理解が深いんじゃないかな、となんとなく思う。なんだか妹達が私よりずっと大人びているように感じる会話だ。戦争は終結したのに、悩みは次から次へと波のように押し寄せてくる。



【13ワ●:置き去りにする】



暁「……え」



苺みるくさんのゲージがいつの間にか赤くなっていた。目をこすって確認する。赤の大破だ。背中から強い風がすくいあげるようにして吹きつけて、苺みるくさんの上体がふわり、と揺らめいた。頭のほうから、転落してゆく。「あ」と間抜けな声が出た。



悪い島風【おっと、なんか落ちてきたから拾ってあげましたよ】



崖の下から声がする。落ちないように、四肢をついて顔だけ崖先から出して、下を見る。ちょうど下のほうに崖がコの字に削れていて、人が入るスペースがあった。悪い島風が、その空洞に苺みるくさんを抱えて座っている。視線が合うと、唐突にロストした。「あらよっと」と背後から声が聞こえて振り返る。悪い島風は背後にアライズしていた。苺みるくさんを足元に優しく落とす。



暁「このゲージ、嘘っぱちね。赤い大破になっても、苺みるくさん元気じゃないっ」



悪い島風は腰を降ろして苺みるくさんをじろじろと観察する。



悪い島風【そのゲージは正確無比だよ。この子が、すごい。そりゃ落ちもするね。こうやって座っていられることも奇跡だ。これが命の強度ですかね】心底、驚いたような顔だった。【でも残念な宣告をしよう。この子は持って1日だね】


1日? そんな馬鹿な。

苺みるくさんは一見、いつも通りに見えるが、前脚がかすかに震えていた。尻尾を全く降らなかった。どことなくいつもの純粋な瞳は少しでも力を抜けば、瞼が落ちてしまいそうなほどまどろんで見える。昨日、病院では大丈夫、といわれた。今日のお昼にはいつ逝ってもおかしくない。その判断はまた覆ることはあるのだろうか。一貫して死ぬといっている悪い島風の診断のほうが正しいように思えて仕方がなかった。



電達にはきっと死ぬかもしれない、程度にしか分からないだろう。もうすぐ死んでしまう、と私がみんなに断定したら、返ってくる言葉きっとこうだ。最後まで諦めるな。命を敬え。聞いて回ればそんな答えばかりだったから。でも、このゲージが本当に残りの命の灯を表示しているとしたら、死ぬと分かっているのはこの鎮守府で、いや、この世界に私しかいない。



悪い島風【どうする?】



悪い島風が口元を、三日月のように釣り上げる。ケラケラ、と嗤った。



どうする、というのはきっと本契約をするかどうかの確認だ。苺みるくさんに心で語りかける。あなたは生きたいのかな。きっとそうなのだろう、とは思う。けれど、電の言葉を思い出した。自らの命よりも優先するなにかを苺みるくさんが持っていた場合、それを穢してしまうかもしれない身勝手な判断になるかもしれない。そして続いて雷の言葉を思い出した。良い人間が死んで、悪い人間が幸せになる話だった。あの時、良い人間も悪いことをしていれば助かったのかもしれない。



悪い島風【治し方はこの犬をロスト空間にて建造します。女神は厳密には損傷を戻すのではなく、元の状態に戻すシステムなんで、生き返らせてもどうせすぐ死んでしまいますからね。けれど、建造となると話は別です。初霜とか弥生みたいに身体の不備を治して万全な状態にする行程も建造にはあるのは御存じでしょう。浄化作用を受けても、初霜の足は治ったままだし、弥生も心臓が弱い頃に戻ってはいません。今回は落とし穴なんて用意しませんよ】つらつら、と寄せては返す波のように絶え間なく喋り続けている。【艦これの運営を停止して、わるさめちゃんを追い出して、疑似ロスト空間(サーバー)との繋がりは完全にシャットダウンしてあります。私がそこまでして想力のリターンを見込めるほどの取引を予感しています。苺みるくさんを助けるか助けないか】



暁「助けるわっ」



悪い島風【その代償は、准将の右目としましょうか。そしてこの取引内容を契約する前に誰かに漏らした時点で取引はなしです】「なに馬鹿なこといっているのよっ、そんなの無理に決まっているじゃないっ」【代償は約束ではなく、物々交換とし、かなりお安く設定しました】「ちっとも安くないしっ。司令官の右目が見えなくなるってことでしょ!」【この子、家族なんですよね。家族の命に対して司令官さんの右目一つです。どう考えても破格かと。あなたがその子をたかが犬と思うのなら話は別になるとは思いますけど、そこら辺どうなのでしょう】「家族だからっ! 私だけじゃなくてみんなそういっているもんっ」【ならあのテートクさんも、喜んで身を差し出すはずです。あなたのことを笑って許してくれますよ。決して責めることなんてしません】「そんなの……」



そこで言葉に詰まった。確かに右目一つくらいで家族を救うことができるのなら、という考えが頭を過ぎってしまった。これは後遺症、というやつなのかもしれない。私達はそういう損傷をしてもすぐに治っていたから、身体の一部をたかが、と捉えてしまう。



悪い島風【強制はしませんよ。あ、加えていえば右目もらっても、そこから死なないようにすぐ治療はしますんで、本当に右目失うだけで済みます】



暁「そこじゃないわよっ」



悪い島風「そうですね、残りは1日程度ですし、更なる判断材料を差し上げます。中途半端に作動してしまったみたいな思考付与能力の強化と、あなたとの意思疎通を強化してあげますね】



そういって悪い島風は苺みるくさんに触れる。一見、撫でているようにしか見えないが、想力を利用しているのだろう。苺みるくさんの、声が確かに聞こえた。悲鳴だった。それじゃあ、と悪い島風がまたロストする。残ったのはぐったりと、四肢を投げ出した苺みるくさんと私だけが残る。



お家まで運んだ。



雷鳴が轟いて痙攣していた時とは違う。用意してあげた手作りの布団の上で、横たわって瞼を半分閉じかけている。起き上がろうとはしなかった。このまま衰弱して死んでしまう、と確信させるほど、一気に元気がなくなってしまったように見える。



私は目を背けた。もうすぐ死んでしまうのなら、触れ合わないほうがマシよ。苺みるくさんと関わればそれだけお別れの時に胸が痛んでしまう。会わなくすれば、いないものだ、と振る舞ってしまえば失った時の痛みはきっと浅くなるはずだ。



こんな風に考える嫌な自分を、押し殺した。



苺みるくさんが、起き上がる。

散歩をねだる挙動をした。苦しいの? 苦しくないの? どっちなの。



でも、それが苺みるくさんの願いなら叶えてあげる。散歩、行こっか。

リードをつけて、外へと連れ出した。



2



最寄りの駅の線路をもう少し進んで、次の駅まで歩いた。



緑のフェンスの向こうのホームには人がたくさんいた。ホームの黄色い印電車の扉が来るところに、人の行列が出来ている。犬は連れ込めないから、都心のほうへ、歩いた。最後の散歩になるかもしれない。もう少し遠くまで行ってみたかった。深い意味はなくても、あのドッグカフェを見つけた時のように、新鮮な景色を見たかった。



二駅分は歩いただろうか。二時間は経過していないはずだ。苺みるくさんは普段と変わらない。でも、普段より息があがっている。いつもは私のほうが先に息があがるのに。



名前も知らない大きな公園を見つけた。大きな円形の広場がある。円の外周にそって、ベンチが等間隔で置いてある。北のほうに三角ベースがあった。男の子達が、私服姿で野球をしている。バットの金属音が鳴って、ボールが飛んでくる。



不意にリードが引っ張られて、手から離れてしまった。転がってきたボールに反応したみたい。いつもと変わらないことは良いはずなのに、それが能天気に見えて、嫌な気分になる。なんで、と思う。辛いの、辛くないの。分からないからせめて苦しいなら苦しい風にしてよ。私は苺みるくさんのことでこんなに悩んで苦しんでいるのに、私のことは放置して自分のことばっかり。それにまた知らない人に飛びかかって迷惑かける。苛立ちが暴発した。



暁「もう知らないっ!」



踵を返した。苺みるくさんを置いて走り出した。



2



部屋に閉じこもることにした。電達には悪いけれど、備え付けの鍵を閉めて引きこもるためお部屋へと向かう。早足で向かう中、あの鎮守府のあなた達の背中を見て育ったこの子はきっとすごい犬に成長しますよ、との店員さんの言葉をまた思い出す。飼い主のいうことも聞かずに、すぐ死んでしまう子のどこがすごいのよ。こんな悲しい気持ちになるのなら、拾わなければよかった。



電「暁お姉ちゃん、苺みるくさんの姿が見えないのですが……?」



ノックの音と電の声。

テレビをつけて、ヘッドホンを差した。部屋に閉じこもる。なにもやる気が起きなかった。いつの間にか、外が真っ暗になって、窓を激しい雨音が叩き始めている。もしも、もしも、悪い島風の言葉が本当なら、この夜が明けて太陽が昇る頃には苺みるくさんは死んでしまっている。それを想像して悲しむ自分と、苺みるくさんのいないこの場所にいる自分が分裂していて、胸が苦しかった。ぴかぴかと光る携帯を見る。不在着信が10件あった。折り返しかけることはしない。扉を叩く音はいつの間にか止んでいる。



捨ててきたら。誰かの声が頭に響いた。悪い島風の声に似ているけど、どことなく違う気がする。頭の中をかき乱されるような悪寒が背筋をなぞった。捨ててきたら。頭は良いんだから、捨てられたって分かる。ほら新しく近くに遊園地が出来ただろ。戻って来るに決まっているじゃない。犬みたいにか。でも犬より賢いから、捨てられたって分かる。そのほうが話、早くないか。



暁「……あ、あ」



普通の女の子だった時のこと、思い出した。思い出した、というのは変な表現だ。その会話があったのかは分からない。聞いたことはなかったはずだ。けれど、そういう会話がされていたんじゃないかな、と思うだけの根拠はある。暗い闇夜に包まれた遊園地に、私は一人ぽつんと捨てられた。苺みるくさんを拾った日、門に頭をぶつけて、こっちに来ようとしている光景が蘇る。置いていかないで。なぜか、あの時の苺みるくさんはそういっているような気がしたのはどうして。



ガチャリ、と暗い部屋に音が鳴る。私は振り返らない。足音がする。隣まで来る。誰かが座った。暗闇の中でもそれが響、雷、電よりも大きな気配だと分かる。「明石さんになんとかしてもらいました」と司令官の声がする。「そういえば雷さんも、フレデリカさんに会いたくないから、とつっかえ棒でクローゼットに引きこもりましたよね。姉妹というのは変なところで似ますね……」



暁「しゃべり、たくない」



しゃべりたい気分ではなかった。なにをいわれるのか想像がつく、私は最悪なことをした。もうすぐ死ぬ家族を、遠い場所で置き去りにした。響達は、きっと怒る。もしも、苺みるくさんが見つからなくて一人で死んでしまったら、と考えると、私一人の問題じゃないのは間違いなかった。なんてことをしたんだ。



眩しい光が、放たれた。

発光しているのが、携帯の電子画面だと気付いた。



《怒らないから、話してごらんなさい》



そう文字が打たれる。しゃべりたくない。会話したくないとはいってないと司令官は判断したようだ。屁理屈みたいな方法で会話を試みてくる。



《お望みなら、指揮を執りましょう》



司令官のその言葉は、魔法のような力がある。司令官に作戦を立ててもらえば、なんとかなるような気がするのだ。誰よりも、悪い島風なんかよりもよほど、信頼できた。今の悩みは一つじゃなかった。電の前では絶対にいえない心情を、私はスマホで打ち明け始める。



《戦争、終結しないほうがよかった。夢から覚めて、普通の子だった時を思い出した》



《遊園地のことですか》



《乙中将もいってた。血筋からは逃れられない。海じゃなくて、陸にいた頃の私の中には、あの人達の血が流れてる。だから、私はきっとあの人達が私にしたように、家族を捨てた。そんなのイヤ。私は暁のままでいたい。この名前を捨てて、あの頃に戻るのなんてイヤよ》《怖いからイヤ?》《うん。深海棲艦みたいに怖い思い出がたくさんある》《戦争を終わらせてから、この鎮守府には、たくさんお礼の手紙が届いてる。あなたや軍艦の暁も注目されてる》《だからなに》《さっき丙少将と乙中将から教えてもらったんだけど、最初期が落ち着いた辺りの頃の軍は人手がずっと足りなかった。毎年軍に入りたい人は減っていって、年間で百人未満の年もあったとか。人がたくさん死んで、戦う人も弱音を吐いて、みんなそんな怖いところに自ら行きたくなくなったのかな》《当たり前じゃない》《恐怖は絶望としてみんなに感染していた》《仕方ないわ。怖いものは怖いもの》《今年の海軍への入軍希望者は過去最大の4000人以上とか。すごいことだ》《だから、それがなんなの》《そのほとんどの希望理由に、あなた方のいずれかの名前を出したとか。あなた達はその小さい身体で、憧れの的だ》《そんなのどうでもいい。知らない人達のことなんか》《恐怖は絶望として感染する。でも、その逆もある。あなた達が最後の海で戦った姿がそうした》《?》《勇姿も、希望としてみんなに感染する》



スマホで文字を打ち込む私の手が止まる。



《暁を止めたくないのならば、尚更、立ち向かうしかない》



人々の憧れの勇姿を、暁として示さなければならない。これは大変なことだ、と動揺した。きっと周りが抱いているイメージは、私があの海で戦っていた勇姿だ。あんなのを維持するなんて、難しいなんてものじゃない。本当の私は勇者ではなく現にこうして、逃げているだけの臆病者だ。



ぽすっと、頭の上に手が乗って、わしわしと撫でられる。



いつもの私なら、きっとあの言葉をいうのだろう。今は、その台詞も喉にひっかかって言葉にできなかった。暗闇のなかで発光する電子画面が上にあがっていく。司令官が立ちあがったのだ。画面を向けられる。《どれだけ悩んでも、もう深海棲艦は攻めてこない。大丈夫になってからでいいから、出ておいで》電子画面が消えて、部屋はまた真っ暗になる。



置いていかないで、と口から自然に滑り出る。



分かりました、と声がして、ベッドのほうから音がする、そっちにいるようだ。「部屋に閉じこもることに関しては自信ありますね」とよく分からない自慢をいった。もしかして、笑いを誘おうとしているのかな。この司令官が、そんなことするなんて、珍しい。それでも、まだ完全復活とは行かなかった。今の私の胸の痛みはすぐに治るようなものではないようだ。なんとかしないと、と思える程度には回復した。だけど、上手く手足に力が入らず立てない。苺みるくさんみたいだ。



提督「そういえば、その封筒はなんです?」



暁「あ、これ……丙少将の鎮守府に着任した時にかいた未来の私へのお手紙」



提督「噂のあの鎮守府の将来の夢とかそんな質問ですね」



うちでもそういう面白いことやっておけばよかった、と司令官がいう。



そういえば、内容は忘れていたんだっけ。あの頃はそんなこと真剣に考えてもいなかった。きっと立派なレディーに、とかそういう内容だろうな、と予想がついた。あの頃の私はただの暁で、そんなことばかりいっていた。子供扱いされて怒るような子供だったのは覚えている。



“未来の私へ。立派なレディーになってますか。なってなきゃあなたは私ではありません”



ほらやっぱり。



“もしかして、私が活躍し過ぎて戦争は終わってたりして”



うん?



“きっとそうに違いないわ。五年後の私だもの。最悪な夢の珊瑚の失態の時とは違って、妹達も失わずに戦い抜いて平和を勝ち取っている。そうでしょ?”



まるで未来予知のような内容に思えた。



“丙さんがさっき、教えてくれた。立派なレディーは、自分の思うことをやり遂げられていたら、その時はもう立派なレディーになっているんだって”



“あなたはどう。やり遂げられていますか?”



一度は、やり遂げられた。でも、やり遂げなきゃいけないことにまたぶつかって、うじうじしている。この時の私は今の私よりもずっと小さな子供に見える。それだけ成長はしたのかもしれない。



“もしも立派になっていなかったら、立派なレディーと、お姉さんとして今すぐにがんばること。暁の艤装の夢はきっと覚えているわよね。最後まで立派に戦い抜くように。負けないように。負けていたらその時は未来に行って、頬を張りにいってやるんだから”



19世紀の軍艦暁の勇姿が私に感染している。

その文章を最後に、手紙は途切れていた。そういえば、丙さんがいっていたな。未来の自分に手紙を書いてみろ。笑えねえことになるからって。本当に笑えないことになっている。

乾いた音が鳴る。頬がひりひりする。過去の私が飛んできたかのように、右手で頬を張った。



暁「司令官」



提督「残念ながら捜索隊は苺みるくさんを発見出来ていませんね。足跡のみです。長月&菊月さんの行動範囲内、オオカミ君とコブタ君と同じ小学校の子がそこで野球していて暁さんが犬を置いて走り去ったのを目撃したとか。そこらを中心に探してはいます」



暁「まだ本調子じゃないけど、私も探しに行かなきゃ」



お世話しなきゃ。それが苺みるくさんを飼う時の条件で、やり遂げなきゃ。苺みるくさんに置いてけぼりにしてしまったことを、謝らなければならない。窓からはしらみかけた空が見える。水平線のほうから日はのぼっている。生のタイムリミットは過ぎてしまっていた。



扉の向こうから、声がした。











――――ワン!




提督「マジか」



司令官が、ベッドから転げ落ちた。



【14ワ●:戦後日常編:暁 終結】



扉の向こうに、確かに苺みるくさんの姿がある。私はなかば放心していた。どうやってここまで戻ってきたの。捜索隊はまだ苺みるくさんを見つけていないといった。だとすれば、一人でここまで帰ってきたとしか思えなかった。あんな遠くの知らない土地に置き去りにした苺みるくさんが自力で戻ってくるなんて、そんなことあり得るの。純粋な瞳がこっちを向いている。ワン、と雄々しく吠えた。



暁「ご、ごめんなさ、い……」



苺みるくさんは、今度はくうーん、と声を出した。なんだか悲しい感じだった。苺みるくさんは気にするどころか、こっちに気を遣っているかのようにすら思える。私もあの最後の海で防衛線に深海棲艦が流れてきた時、損傷しているにも関わらず探照灯を使った。雷と電に、大丈夫、といった。その時の私みたいな強がりだ。犬はよく飼い主を見るんです。あの店員の言葉が脳裏を過ぎる。あの鎮守府のあなた達の背中を見て育ったこの子はきっとすごい犬に成長しますよ。すごい強がりな子になった。スーパーヒーローになりますね。その通りだ。私に会いに戻ってきてくれた。生きて帰投した。スーパーヒーローだ。



ワン、と今度は力なく吠えると、頭からよろめいて、その場に横たわる。大破の状態だ。ゲージはもう赤いところも見えないほどだ。ゲージが残っているかも分からないほど損傷している。苺みるくさんは身体を不格好に動かして、立ち上がろうともがいている。



その命の終わりを予感させる動きに、涙が出た。



がる、と力なく手に噛みついてきた。なにするの。



――――だいじょうぶ。立てる。



――――きみを励ましに来たのに、きみの手を借りてっていうのは、だいじょうぶじゃないみたいだ。



――――だから、止めて。



あの日みたいに声が聞こえた。これはきっと苺みるくさんの心の声だ。しゃべらない妖精さんのように、意思疎通によって、心情が言葉として伝わってくる。でも、そんなこといわれたら、弱った姿を眺めていることしか出来ない。辛すぎるよ。



苺みるくさんは死をいとわずに勇姿を見せている。なら私はそれを見守ってあげなければならない。私達が海へ抜錨していたように、苺みるくさんは自分の命よりも優先する戦いをしているのだ。いつもあの丘から私達を見送っていた苺みるくさんのように今度は私がそうする番だ。それが今するべきお世話だ。



苺みるくさんは、自力でお座りの体勢まで、持ち直した。



もう一度、わん、と吠えた。



死なないよ、と聞こえた気がした。



その体勢を維持したまま、動かない。普段通りに見えた。私はいつものように膝を曲げて、苺みるくさんの頭を撫でる。あの暁の夢で観た沈みゆく間際に私を優しく撫でてくれた乗員の手のように、愛おしさを込めた動作でその小さな頭を撫でる。



みんなが帰ってきたのは一時間後くらいだ。苺みるくさんはお座りしたままだ。司令官が、皆に状況を説明している。みんな順番に苺みるくさんの頭を撫でて、声をかけた。苺みるくさんはいつもの通りに尻尾をスクリューみたいに振っていた。本当に元気になった、と私が思うほどだ。でも、響や雷、電は察しているようだった。苺みるくさんの側をずっと離れなかった。



私はまだ上手く笑えない。だって、苺みるくさんが強がっているだけなのを知っているもん。でも、その姿を見ていると病気でもない私が、苺みるくさんよりも元気がないことに嫌気が差した。がんばろう、と思った。勇気が感染した。



なんとか笑えるようになるのに、3日もかかっちゃった。



その日はお祝いした。苺みるくさんがこの鎮守府に来て、一歳のお誕生日のお祝いだった。あの日、確かに神社でした命令を苺みるくさんは完遂してみせた。誕生日を迎えるまで生きてくれた。



乙中将が教えてくれたようにこの魂に感謝の祈りを捧げて、またどんな形であれ、この鎮守府に廻ってまた出会える奇跡を切実に祈った。



私は優しく苺みるくさんを胸に抱きしめて、お礼をいった。

ありがとう。あなたと巡り合えて良かった。私達のところに居てくれてありがとう。伝わるか分からないけれど、ライクとラブ、その両方の気持ちを目一杯込めて、響、雷、電と一緒に暁型5番艦の弟を抱き締めた。



死なないよ。あの時、苺みるくさんはきっと本当にそういった。



ペロリ、と鼻先をなめられる。