2018-07-08 07:28:07 更新

概要

黄金のハイビスカス入手のため、明石えもんの世界に訪問。ゴーヤ達はひみつ道具を駆使して戦うレースの優勝賞品が黄金のハイビスカスだと知る。北極海からオリョールまでを泳ぎ抜ける潜水艦ズの戦後任務編です。


前書き

最終話を頭に。

↓注意事項をご確認ください。

※8割方字の文、読みにくし!

・シロートの拙い台本形式、一人称、三人称、複数視点、お話ごとに変わって読者の混乱を招くと思われます。 なお今回の伊58の戦後編は伊58、伊401、伊19による三人称複数視点です。

・相変わらずの誤字脱字。気を付けますが、前以て。

・誤字脱字修正の更新多し。

・顔文字や絵文字の使用を不愉快に思う方。

・本編の更新に間が空くのを嫌う方。

相変わらずやりたい放題なので穏やかな海のように広い心をお持ちの方のみお進みください。





*最終話







「小さな手でお花を愛でる少女から」




こどもの頃、花と人は似てるって思ってたよ。


私は赤ん坊の頃から同じ場所に長くいてね。

みんなも大体そうじゃないかな。


家とか学校とか、同じ場所に長く根付いたようにいる。


時に枯れたり、萎れたり、

刺があったり、茎が伸びたり。


時にやる気がなくなったり、落ち込んだり、

人に当たったり、背が伸びたり。


あれ、人間と花ってよく似てる?


並び生えた草の造形文字の草冠にお化けって字が加わってお花になるから、草がもしも化けたら人間になるんじゃないかな、と真面目に考えたことがある。背は1メートルもなかった頃かな。そういうよく分かんないことを真面目に悩んだりしなかった?


同じ場所に咲く同じ花でも、一つ一つ個性が違うのもそう。ダメになっちゃったお花を見ると、私も枯れたり、萎れたり、刺が出たりしていた。でも、育てた枝葉の形を観たり、咲いた花の香りを嗅ぐと、しあわせな気持ちになる。



だから、人に対してもそう。


そういうのもあって、

最初に先生に質問して教えてもらった英単語は、

『flower』と『human』だったかな。


勇気が持てなかったから、積極的に人に関わっていくような子じゃなかった。だから、人に優しくすることも出来なかった気がする。

それでも、花が咲くように笑う人を見るのは好きだったかな。特に変なこどもじゃないとは思うけど、そういうところが戦争に出兵した理由っていえば、変わった子ってなるよね。


そして私は軍艦へ。


英語で『Warship』なのです。知ってた?

ふふ。


そこは個性の強いお花ばかりだから、楽しい。


想像を越えて、枯れたし、萎れたし、刺が生えたり、茎は、ノーコメント。ええ、はい、私はまだ牛乳の力を信じているのです。


たくさんのお花が咲くのも見ました。

最後に見たのは、悲願の彼岸花でしたね。


花が咲かない花もある?

それはそれで愛でるに値するのです。

それ1つだけでも私には綺麗に見えるのです。


1つだからこそいいのです。

たった1つで大丈夫なのです。

当然たくさんのお花を束ねるのも美しいのです。


君はずいぶん背が伸びたね。

あの頃みたいな日々には戻れない?


ううん、あの時のような日々は決して、

小さい頃だけのものじゃないと思う。


もうそろそろお別れだね。

へ? 名残惜しいって?

駆逐艦電である私と過ごした日々が愛しい?


ふむ、電にはよく分からないのです。

初期官は司令官さんにとって特別という話は聞きますね。


うーん、私は船じゃなくなるから仕方ないのです。

でも、それでもいいじゃないですか。そんなにいうのなら「電さん」でも「ぷらずまさん」でも好きに呼べば?


私はそっぽ向きますけどね。

つーんって、露骨に。


ふふ、再会した時から一緒にいたので、

こう言うのもおかしいですが、

やっと君と再会できた気がします。





もう。良い歳して泣いちゃダメなのです。





そんな司令官さんにはまだ船である

電から、このお花を贈るのです。



フリージアのお花の球根です。



私が込めた花言葉?



ヒントをあげます。

あの彼岸の海で電が積んでいた装備なのです。



お友達?


むむ、判定に困りますね。

正解でもいいか。


なぜ落ち込んでいるのです?


ああ、そういえばそんな話をどこかで知りましたね。漫画の図書館にあった気がします。


お友達は英語で、

『Friend』だから『end』で終わるって。


司令官さん、安心して欲しいのです。


正解でもいい、とはいいましたけど、

正確にはちょっと違うのです。

その花言葉の終わりは『end』ではありません。


仕方ないですね、分かりました。



答えを教えてあげるのです。



友達、じゃなくて、
















友情。
























Warshipはこれにて卒業。



















その花の言葉は、




これから君と私で育ててゆく――――































Friendshipなのです。

















【1ワ●:深海のグロリアス】


悲願。


そんな言葉がある。

仏の慈悲の心による誓願、そして悲壮、

悲しみの中に雄々しさを秘めた願いという意味だ。

これは本来、深海棲艦には存在せず、艦兵士のほうが持つ感情である。建造による精神影響は夢見により実施される。それは映画とは違う。美しく視聴者のために洗練されたドラマではなく、流れていく事象をただ見つめるような感覚だ。


此方「産まれた私と同じくね」


あくまで『人間』として、というのがミソである。


戦争は良いか悪いか、という問いの答えは難しい。仕方のないこと、戦争に悪も正義もない、と達観した顔でいうには彼女達はあまりにもその血文字で強力に刻み込まれた悲願の意味を知り過ぎている。これは艦兵士の精神影響調査ではあるものの、適性率70%以上ある彼女達に「戦争の善悪」を問えば、最も多い回答が「悲しいこと」だったという。比較的平和な時代の十や二十の女の素体に船の記憶を宿すのだから、その艦兵士人生は絶望から始まるといってもいい。


青山開扉准将――あの面白い名前の読みだった提督が、深海棲艦の建造工程の真実を暴いたのはまだ記憶に新しい。建造でリンクした艤装には今を生きる艦兵士の感情採用、想力がまとった通電により、艤装に強くトレースされる。艤装のほうは大戦時で生きた想を主に構成されているので、その中にあるのはやはり比較的、悲しい感情、それに海で戦う少女達の感情が蓄積されてゆく。


此方「反転建造」


深海妖精によってその艤装を核にして、肉をまとう。人間をベースに船を装備する彼女達とは違い、船をベースに人間を装備させる建造工程の全体を指す技術である。


すると、どうなるか。


積みあげられた人間をベースにした少女達の綺麗な願いを灯台に、大戦時の憎悪が躍動を始める。


そうして三大欲求が牙を剥くのだ。


会いたい=帰る。

許さない=倒す。

生きたい=戦う。


その図式をエンジンにする建造工程が浮かび上がる。深海棲艦が殺人衝動を持って産まれるのは、その生命が誕生した瞬間に、まず艦兵士に選ばれた彼女達の清く美しい光の感情を知るからである。


それこそ深海棲艦が鏡に映った人間であるとされる理由だった。


光を知らずして憎悪は完成しない。


戦後復興妖精「なぜかといわれたら、そりゃ人間だからだろう」


深海妖精論、これは海の全てを記した論文ではないものの、この海における宇宙の法則に繋がる樹形図である。仕官妖精、深海で確かに見た妖精の記憶を信じ、二十年近く、准将が練り上げてきたものだ。これもまた血文字の滲む彼の悲願といえよう。


本来、殺戮の軍艦である深海棲艦は、悲願などという概念はその頭からかき消されているが、大きな理性を手にした深海棲艦となると話は変わってくる。


有名なのは中枢棲姫勢力、空母水鬼と深海鶴棲姫も同じく『人間をなるべく殺さないよう努める』のだ。思考機能付与能力は、深海棲艦に理性を与える海の傷痕のシステムだが、これを使った深海棲艦はその殺人衝動を人間的に肯定化する方向へと導かれている。


此方「中枢棲姫勢力が此方をブッ殺す航路を取ったように」


雨村「つまり結局は強く海へと楔を打ち込まれるだけだ」


元帥「雨村、お前は先見の明が有りすぎる」



お褒め頂き至極光栄でございます――――


このわたくしの想力工作補助施設、

正式名称:Intangible Energy

個人能力:反転鏡面彼岸海


その回収された艤装欠片にある想力データにて、

解明された通りでございまして、


4次の世界を礎とすることで、理想の世界となります。


世界が次へと進むための未来型の想力資本主義社会。


元帥「どうでもいいよ」


元帥「わしらに敵対するのかしないのか」


元帥「例えば、お前にべったりな艦兵士が世界を滅ぼせる力の類を持っているとして、それを放置にしておけるほど社会は優しくねえんだわ。徹底的に抑圧するか、そうするために戦争だわな。そうだろ。お前の一言で転覆させられるような国家体勢にならねえようにすんのが基本なんだよ。いっそのこと、国家設立しちまえ」


元帥「そんなもんだろ、お前の未来だなんて」


元帥「提督の枠を明らかにはみ出してる」


戦後復興妖精「決裂ですかね」


戦後復興妖精「『決裂』ですかね」


元帥「『だろうな』」



――――大丈夫ですか。


私を殺すと




“210億人の犠牲者が出ます”



出来まい。今の社会国家に根付くあなた達には

それが出来る訳がない。戦争のつけを払ってきたあなた達なら尚更だ。繰り返すのか。国家として転覆しかねないほどの悪名を――――



提督《やかましいです》


提督《不出来とは正にこのこと》



――――まだ足りない。

土俵にあがらなきゃ。


神風に感謝しなよ。あの女の願いのせいで、僕を賭博させるまでに追い込むことが出来たのだから。


彼女達は僕の最高の船達だよ。

意思を持った完全な『軍艦』だ。

210億の人間が搭乗した軍艦を沈めて、世界最高英雄とは逆の世界最悪の英雄の勲章も持って行けよ。


そちらの『軍艦』どもがどんな装備を積んで来る気なのか。


提督《結果で証明するのみ。いつも通りだ》


提督《丙乙甲元、海の傷痕&戦後復興妖精さえ》


提督《はね除けた》


提督《鎮守府(闇)の伝説に》


提督《土をつけてみたまえ》


ああ、そのつもりだ。

不来方フレデリカが辿り着けなかった、

『艦隊これくしょん』の究極の叡知を持ってそちらの軍艦を沈めさせて頂く》


深海の核棲姫で――――


提督《双方の人間をモノのように呼ぶのは止めろ》


提督《彼女達は艤装で誰も沈めないとの誓いを立てた優しい人間です》


雨村《モノはいいようだね。攻撃する兵器を積んでも沈めなければってことか》


提督《彼女達が選んで積んだのは》


提督《友愛のみです》


雨村《まだそんな戯れ言を――》


提督《戯れ言、ですか》



提督・雨村《もう、いい》













――――その船と運命をともにしやがれ!






2





鬼ヶマス到達。

そこは過去の残骸で構築された遺跡のような海だった。見覚えのある軍艦幻想の残骸をこの身体は通り抜け、たくさんの彼岸の花が散りばめられた最下層の海の上を往く。砲雷撃の爆音や、空から降り注ぐ280億の断末魔が鼓膜を殴打して、魂を軋ませた。


深海棲艦姫種。

歴戦の兵士達が乗る軍艦をその場で鎮座したまま圧倒する様から名付けられている。


深海棲艦鬼種。

これは鬼のように強いという単純な命名で、その砲は鬼の金棒のように強力無比。


その金棒を血で濡らすことに悲しみを知ってしまった一人の鬼と、寄り添う姫の嘆きの声。



此方「やあ」



「ようこそ。私達は別に海の傷痕に恨みつらみはありませんよ。産まれたことで幸せを享受できましたから。ただそうですね」




「次からは」



「電ちゃんみたいな優しい子が――――」













「躊躇わないように『完璧な化物』の造形にしろよテメエ!?」






絶叫の金切り音。

ここから先は言の葉を語らず、深海棲艦の口上が続いて、その後すぐに戦闘に入る。






「そうそう! なんで人間の形にしたの!?」



「ふざけないでよ! 誤解するじゃん!?」



「船じゃなくて人間として生きていけるかもって夢を見ちまったじゃん!?」



「誤解した日は笑ってたんだぞ!?」



「私とお姉ちゃんは、きっと世界で一番綺麗な顔で笑ってた!」



「なのに、なのに! なんて滑稽で犬も喰わねえ喜劇だよこれは!?」



「中途半端に反転した私達を見ろよ!」



「仲間ヲ愛シタお前の記憶ノせいで、マリアナやレイテの海戦記憶のせいで『誰カヲ清ク愛セル』って、私達はお前らみたいな素敵な夢を殺し合いながらも見ちまってただろうが!?」




「なんなんだよ!? この怪物ども、ここは私達が生きることを許された唯一の世界まで壊しに――!」




「電も! リコリスとともにいたわるさめも分かるだろう!? 分かると思ってたのに、答えはそれかよ――――わるさめエ!」



「この彼岸の花の言葉が! 土足で踏みいって私が大切に生けた願いの彼岸花を踏み散らしてッ! もう私達の世界ヲ壊すナ、入ってくるナヨオ!」


「この反転鏡面彼岸海に、深海の栄光の世界に」


「ああ、憎いウザイ悲シイ――!」




「最後にこれだ、これだっ、うあっ、これだけ――」


「ソウダ! お姉ちゃんこうしよう!」


「ええ、はい。そうしないと」


「もう本能に身を委ネテ――」











「「アッハハ!! 手前等も!!」










「「抱いた船の記憶を人の憎悪で醜く焼いて!!」











「「人域では営めぬ暗くて冷たい」




「「彼岸の咲き誇る深海に!!」」
















トビー&ズズム「「沈ミヤガレエエエッ!!」」










――――戦闘開始。

















【2ワ●:ノン・ネリネ・マーメイド】


提督「という訳で命からがら撤退してきました」


元帥「聞く耳ねえんだもんよ」


戦後復興妖精「参っちゃうね」


此方「最初のは顔見せ顔見せ。初めに最終マップのボスマスに到達する提督は最初から刺し違えて倒そうだなんてしないですからね。まずは海域の情報収集に努めます」


提督「その上で何度も攻めて相手を叩きのめすのです」


戦後復興妖精「締め出しくらっちまって最下層まで入れねえな」


元帥「わしと此方ちゃんは会議あるので失礼」


元帥「ああ、准将は今回、倫理課のほうで忙しいからあまり関わっていられん」


提督「たまっているので。なにか必要が生じれば参加します」


一同「」


わるさめ「ちょっとちょっと! トビー&ズズムちゃんと仲良くなり隊長だった時雨姉とか今回の件でガチへこみしているし、円満解決のためにも司令官はこっちにも頭を回すべきじゃないかなあ!」


提督「作戦自体は明確なので、細かいことは戦後復興妖精さんからお聞きください。自分、まだ軍在籍なのに倫理課の仕事もやらされて死にそうなんです」


提督「こちらの世界のこともやらなきゃなりません。でも、安心してください。丙少将、乙中将、甲大将、北方さんも力を貸して頂けるそうなので」


わるさめ「ふむ」


戦後復興妖精「はい、皆さん」


戦後復興妖精「イベント海域説明に入りますよ!」



2



戦後復興妖精「この擬似ロスト空間だが……」


戦後復興妖精「箱庭形成は空母水鬼と深海鶴棲姫を閉じ込めるためのものじゃないね。この大樹のために作られた空間で二人はそこに閉じ込められたに過ぎねえ」


戦後復興妖精「この大樹にいくつもの深海棲艦艤装と艦兵士艤装が絡み合っているだろ。そしてその想力が外に漏れ出してる」


戦後復興妖精「擬似ロスト空間の想力の海に浸かっているせいで艤装は生きている状態だけど、大樹だけに植物状態とでもいいますか。動かせはするね。燃料だけは大樹の想力乗った植物油で補給されているといった感じ」


戦後復興妖精「そして大樹そのものが艤装で、その装備スロットに深海棲艦や艦兵士の艤装が入っているようなイメージで」


戦後復興妖精「一言でいうと木材と鋼材と想力で出来た『軍艦』だ」


戦後復興妖精「それで大樹の隙間に穴があるだろ。その先には世界がある」


戦後復興妖精「こっちの世界のイフワールドみたいなもんだ。今いるこの箱庭は海の傷痕でいうあの丸太小屋の製作現場(オフィス)で、中にふっつーの世界がある。ああ、パラレルワールドが近いかな。雨村が作ったと思われるファンタジー世界があるんだ。この大樹はそっちの世界のメインサーバー君の役割に近くて、処理しているのは」


戦後復興妖精「各世界のバランス」


戦後復興妖精「ああ、『艦隊これくしょん』がない世界じゃないぞ」


戦後復興妖精「運営していたのが私達じゃなくて雨村なだけ。だからあっちの世界の艦これはマーマの居場所を作るための戦いでもなく、当局もそのためにあの日の戦争終結イフの妖精化もしていない。内側からは戦争のゴールが用意されていない世界だ」


戦後復興妖精「終わりはこっちの世界(製作側)の都合でゴール(サービス終了)以外ない」


戦後復興妖精「もともとあいつらは最終的には自分達に都合の良い世界に引きこもるつもりだったんだよ。兄貴のオープンザドア君の人生とは逆流したクローズドドアな人生設計だな」


戦後復興妖精「んで、今の戦争終結の波で上手くサーフィンして支持率80%を記録してる内閣が直々にこの件に首を突っ込んできてる。理由は主に1つ」


戦後復興妖精「雨村レオン。一言でいえば先進国の中で頭一つ抜けた想力産業への懸念だな。元帥と甲大将が対応する予定だ」


戦後復興妖精「はい皆さん、理解しましたか」


鎮守府(闇)一同「さっぱり」


丙少将「すまん俺も分からん」


乙中将「僕もいまいち」


北方提督「_(   _ *`ω、)_スヤア」


戦後復興妖精「准将、頼むわ」



3


提督「こほん」


提督「いうならば、この世界とロスト空間の関係です。この世界では死んだ人間の想がロスト空間に流れて行っていた。それと同じく、三つの世界は本丸のいる雨村御一行の世界へと繋がっている。雨村のいる世界は想力を燃料としていますから、あの全ての世界を管理するために他の三つの世界から想力を補給していなければ維持に支障が出ます。その想力の資源こそあの三つの世界で生きる210憶の人間ですね。それらの世界は想力自家発電所みたいなものです。これが断絶しながらも、箱庭を維持出来ていた理由ですね。その世界を繋いでいるなにかがあるはずです。それこそ、今回の『鬼ヶマス』へのギミックです。三つの世界でそのギミックを探しだして利用するんです。後は想力工作補助施設の力で、本丸へと攻め込むことができるのです」


提督「その各サーバー三つにチートアカウント作って違法ログインする。ウイルス、ですかね。内部から雨村御一行のいるメインサーバーのアカウントに異動申請願いして侵入、奴らをひっ捕える、または鍵を内側から破壊する。戦後復興妖精が想力を電子に乗せ、スマホを通して自分達を疑似ロスト空間にログインさせた手法で行けます」



瑞鶴「うーん」











瑞鶴「うるさい」




卯月「こっちは司令官みたいに変態じゃないぴょん」


わるさめ「遊びじゃねーんだぞ!」


提督「すみません……」


戦後復興妖精「鹿島お前、練巡だろ」


鹿島「……間違えて解釈していたらすみません」


鹿島「そうですね、みなさん、黒板に注目です。まとめますと、以下が戦後復興妖精の箱庭調査で判明した雨村レオンについての真実です」



【其の一・箱庭形成能力は『四つの独立した宇宙を創造して運営する空間』である】



【其の二・空母水鬼および深海鶴棲姫を改造した深海妖精もどきの工作能力は、本来、其の一をメンテナンスするための管理保守能力である】



【其の三・『本心を喋らせる力』と『本心を実行させる力』は其の一および其の二を権利として確立するために政治世界における謀略手段として開花した力である】



【其の四・トビー&ズズムは雨村レオンの創造国家において核兵器に位置する軍事力である】



わるさめ「あー、最下層以外の人口は70億ずつ? だから210億人か」


提督「イエス。今回は想力工作補助施設の力は名の通り、サポート程度にお考えください。想力はあくまで人間の可能性の力であり、創作短縮力のため、不可能を可能にできない。あの世界には『パス設定』があり、想力の弱点を突くかのようにあの世界は円周率を延々と割っており、『円周率の終わりの300桁をパスワードに設定』しているみたいなので」


卯月「司令官は黙ってろし。こんがらがる」


提督「スミマセン」


初霜「鹿島さん、お願いします」


鹿島「好き勝手あの世界を塗り返られないだけで、突破口はあります」


鹿島「黒板に注目です。ゲーム会社で例えますね」



・ゲーム会社の建物=箱庭鎮守府



・ゲーム会社の社長と従業員=雨村御一行



・各三つの世界=各三つのサーバー



・雨村御一行のいる世界=製作オフィス



鹿島「ゲーム会社の建物は差し押さえました」


鹿島「会社の人達は違反した事項があるので、私達は立ち退きを要求しました」


鹿島「すると社長達はオフィスの中に鍵かけて引き籠もりました。世間体のために警察には通報したくありません」


鹿島「致し方ないので、オフィスの鍵を壊して彼らを引っ捕らえます」


鹿島「以上ですね」


一同「分かりやすい」


わるさめ「さすが鹿島っち……!」


鹿島「ええと、それで任務地のサーバー世界の情報です」



――――――――――――――――――――


・サーバー1 明石えもん界


入手目標 黄金のハイビスカス


ログイン可・丙少将および潜水艦種。



・サーバー2 ?


入手目標 サクラのトロフィーか人型のトンボ


ログイン可 アンノウン



・サーバー3 ?


入手目標 マーシュローズのバラ?


ログイン可 アンノウン



・サーバー4 最下層 反転鏡面彼岸界


撃破目標 雨村レオンおよびトビー&ズズム


ログイン可 アンノウン。


――――――――――――――――――――



鹿島「それぞれの目的の物を入手する任務ですね」


鹿島「今後とも解析班がサーバーの解析を進めます」


鹿島「ご都合主義偶然力で目標のモノとは出会えるように想力で加工して世界に飛び込んでもらいます」


提督「皆さん、分からないことがあれば鹿島さんにお聞きください」


一同「了解」


陽炎ちゃん「で、私が呼び出されているのは?」


戦後復興妖精「私の秘書官兼派遣艦兵士、基本このオフィスでサポ」


陽炎ちゃん「正気か? 前世代不知火の因縁忘れてんの……?」


戦後復興妖精「軍の仕事だぞ。昨日の敵は今日の友にもなるだろ。ケリついたことにいつまでもうっとうしい」


陽炎ちゃん「無関係って訳じゃないけど軍に籍置いてないわよ! お前のせいでな!」


戦後復興妖精「それはごめんなさい」


提督「お願い出来ませんか。報酬は弾みます」


陽炎ちゃん「報酬の問題ではないので断ります」


提督「では陽炎さん不知火さんからもお願いできますか」


不知火「ヒーロさんお願いします」


陽炎「この通り!」


陽炎ちゃん「准将お前に貸しな。この仕事終わったら大人の話あっから覚えとけよ」


提督「はい……」


陽炎ちゃん「条件。出来る限り抜錨はしない。私はこの件に興味ないってことと、深海棲艦嫌いだから相手したくないっつう理由ね。深海棲艦としての死に損ない、人間としての成り損ないなんかどーでもいいんですわ」


提督「了解」


提督「ゴーヤさん秋津洲さん、ちょっといいですか」


伊58「サーバー1は任せるといいでち」


提督「ええ、心配はしておりません」


秋津洲「かも?」


提督「ニムさんと双子さん、シオイさんのいる南方についてなのですが、自分、あそこのことよく知らなくて、彼女達のこともあまり」


提督「第2南方って確か、ゴーヤさんと秋津洲さんがうち来る前にいた鎮守府でしたよね。あそこの提督さんは合同演習後、個人的に連絡したんですけど音沙汰なかったんですよ。避けられてるとは秋津洲さんから聞きましたけども」


伊58・秋津洲「あー……」


秋津洲「あたしは最終世代の潜水艦だとしおいちゃんとニムちゃんとゴーヤちゃんはよく知ってるよ。ろーちゃんとヒトミちゃんとイヨちゃんは接点が薄かったかも」


伊58「第2南方って代々変わってるか、黒めな提督が着任しているでち。第1と第2南方はけっこう仲良いんだけど」


秋津洲「南方のラスト1年は最後の海の防衛戦以外は平和だったみたいだね。この鎮守府は常時イベント海戦みたいな感じだったし、提督はあまり接点に恵まれなかったんだと思うよ?」


提督「第1が瑞鶴さん翔鶴さん、加賀さん陽炎ちゃんと黒潮さんのところでしたよね。あそこの人、今はもう出世して内陸勤めでしたっけ」


秋津洲「かも。瑞鶴さんの例の解体事件で軍が飛ばしたんだよ。あれはきちっと処理すると、色々と飛び火するトラブルだったから、軍法会議やったけど、一応は出世って名目で丸く収めたって聞いたかも」


伊58「南方は第1第2ともに所属兵士も少ないよ。元帥艦隊がよく駐屯していて、後は甲が南方の管理責任だったでち」


秋津洲「確か『協調性がない。定期連絡とか哨戒とか仕事はやってくれっけどさ、プライベートじゃ総じて付き合い悪イ。北方程じゃねえけど、忘年会誘っても来るの千歳と千代田と足柄くらいだったぞ』っていってたかな」


提督「ああ、足柄さんは飲み好きですもんね……」


わるさめ「司令官、今回の件だけど」


電「どのレベルの難易度なのです……?」


提督「うーん、海の傷痕がレベル10だとすれば」


電・わるさめ「すれば?」


提督「レベル4くらい」


電・わるさめ「低っ!」


提督「ただ血は流れますし、死者も出します」


電「やはり雨村は……」


提督「ですね。別に殺しても、死なせる訳ではありません。復活させる方法ならあるのですよ。要はそこ利用してあいつをこっちに引き込めば終わりです」


わるさめ「いや、現場にいたけどさ、あいつはヤバいよ」


電「はい、手綱を握れるようなやつではなかったのです」


提督「我々の歴史なんてつい最近まで未知の技術に頼りきりなわけで、今は全てが解明されております。それが使える以上、どうとでもなるんです」


提督「別にトビーさんは雨村さんが大事でも、どうもそこに人格的な面は必要ないようです。要はトビーさんは『歪んだ愛情』で、しょせん深海棲艦の愛です。彼をまともにしようとする努力がない訳ですから、彼と過ごせればそれでいいんです。二人で生きてさえいけたら、それで」


電「……ふむ」


提督「ぶち転がした雨村レオンを『制限のある妖精』として復活させます。有無をいわさずですね。それが出来たら雨村さんは人形も同然です。ズズムさんいわく、トビーさんは雨村さんが生きてさえいれば生きていけるとのことですので」


提督「ズズムさんは雨村さんとはあくまでビジネスライクなので、交渉の余地が生まれてきます」


提督「どうせ『返せー』とか『お前らはまた深海棲艦をー』って駄々こねてくるので、そこを納得させるために1度、沈めます。力でねじ伏せなきゃ、交渉すらまともに聞いてくれないのはお二人も先のキマイラとの争いで理解したかと思います」


提督「以上、彼女達がどうなるかはあなた達の頑張り次第です」


提督「不測の事態が起きなければ、です。提督勢の間ではこの方向で話はまとまって、内閣に話が行きます。今の内閣は我々にずっぷりですから、元帥と甲大将で大臣を丸め込めるはずです」


わるさめ「あー……まあとりあえず、さすしれ」


電「誰が手にかけるのです」


提督「なるべく提督勢。対深海棲艦海軍は自衛隊ではないので、そこの訓練も自衛隊以上に受けております。最初期での艤装周りのテロの名残で、世界の深海棲艦海軍共通でこのようなテロリスト相手の殺人作戦を想定されているんですよ」


提督「あなた達は1にも2にも深海棲艦の対処ですし、まあ、日本海軍に至ってはそのような対処の経験は乏しいのですが」


提督「ロボットのように命令され、引き金を引く」


提督「自分、才能すらありますよ」


わるさめ「確かに……」


電「PTSD(戦争後遺症)とも無縁そうなのです……」


提督「お仕置きです」


提督「引きこもりなのに世界に迷惑かけるとかとんでもないやつらです」


提督「それと今回、自分は倫理課のほうで忙しく1から10お手伝いできません」


わるさめ「そっちも大事だもんなあ……体調壊さないようにねー」


電「とりあえずゴーヤちゃん達に頑張ってもらうのです」



4



伊58“提督が 百だといえば 千をやる それがゴーヤの オリョクル道”


呂500“アトミラル なにもせずとも ろーがやる きばり続けた 北方道”


伊26“ニムニムです お花見好きです ニムニムです!”


伊14“晴嵐 なぜか飛ばすと お腹減る 深海棲艦? なんとかなるなる!”


伊13“みんないう ダークでエロイ 潜水艦 私は独身 未亡人でもないです……”


伊401“仕事終え 飯喰い風呂にて 酒食らう じっちゃん家 ハナをペカらせ その後寝るのが日課じゃマーメイ道”


伊19“私まで 悪戯すると 終わるので かなり真面目に 仕事したのね”


乙中将「イクちゃんがストッパーに回るって相当だよね……」


提督「短歌? 川柳? なんですこれ」


伊58「あ、合同オリョクル終わってから第2南方鎮守府のある辺りでよく遊んでたでち。8月の終わりに鎮守府も含まれている地域で行われた川柳大会で書いたやつだよ。見ての通りのノリだけど」


戦後復興妖精「みんなも南方の潜水艦連中のことあまり知らないだろ? これはキャラが一発で分かる自己紹介になってるし、ちょうど良いと思って持ってきた」


丙少将「俺んところ潜水艦いねえしな……伊58と伊19以外は最後の海で初めて顔合わせて喋ったレベルだ。適性データは見てるから把握はしているが、やっぱり適性率のブレのキャラ崩壊はあるんだなあって」


北方提督「なあ、みんなそんなことよりいわせてくれ」


北方提督「その自己紹介謎川柳から判明したんだけど」


北方提督「どうも対深海棲艦日本海軍は麗しのマーメイドの中にオッサンの侵入を許してしまっているようだね」


提督「白ワンピと麦わら帽子より、☆のグラサンとメキシカンハットが似合う伊401ですよこれは」


伊58「……(メソラシ」


丙少将「ゴーヤ、嘘だといってくれよ」


乙中将「シオイちゃんといえば『南国の人魚』といわれている子だろ?」


北方提督「シオイが面白いのは分かった。シオイの他になにか私達とイメージが食い違うような子はいるかい?」


伊58「うーん。特には。あっ」


伊58「ヒトミは彼氏持ちでち」


北方提督「なんだって!? ヒトミは男がいるのかい!? 私のメンバーだったけど、そんな面白いことは一言もいってないよ!」


伊58「いうことでもないでち。海外にいるから遠恋だよ」


乙中将「でもヒトミちゃんは分かる気がする」


戦後復興妖精「でち公の記憶をメモリーにして出してやろうか」


伊58「そんな事できるんでち!?」


丙少将「頼むわ。俺が指揮を執るんだから把握しておきてえ」



5 メモリーズ ~沖縄・潜水艦ズの仕事終わり~



伊26「(゜ρ゜)ポケー」


ろー「でっちと一緒にインディーズバンドのライブハウスに行ってきたですって!」


伊58「魂に響く音だったよ。思わずファンになっちまったでち!」


伊26「(゜ρ゜)ポケー」


伊401「めっちゃいい! くそ、なんだこれ!」


伊19「シオイ、飲み過ぎなのね!」


伊401「涙がとまんねえのさあ! こんなのBEGINの一五一会の『防波堤で見た景色』聴いた時以来だよおおお! それにこのボーカルの人の三味上手いじゃん! イケメンだし!」


伊26「(゜ρ゜)ポケー」


伊13「酔いすぎです……」


伊401「なんだヒトミごるあ! 彼氏いるからってなんだごるあ! わたしの電話より、彼氏の電話優先しやがってさあ! こうやってわたしたちは疎遠になっていくんだよなあ!?」


伊13「ち、違いますよ!」


伊14「そーそー。私達はずっと仲間だよ!」


伊401「シンカジャドゥシジャカクインカイッレテネーンダシニイワジワジイ!」


伊58「落ち着くでち! 回ってない呂律とガチ方言で意味不明だよ!」


伊19「そんなに羨ましいなら男を紹介してもらうといいのね」


ろー「あ、ろーも楽しく遊びたいですって!」


伊401「っしゃ、ろーちゃん! 今度、男でも捕まえてみるか!」


伊401「逆ナンじゃ逆ナン!」


ろー「楽しそう! ですって!」キャッキャ


伊26「(゜ρ゜)ポケー」


伊401「ABC無視した一夏のメモリイイイズっ!」


ろー「無視したメモリーズ!」


伊401「あっはっは! おっぱい出しまーす!」


伊13・伊14「これは収まるまで待つしかないか……」


伊401「ほらほらろーちゃんも!」


ろー「おっぱい出しますって!」キャッキャ





提督・丙少将・乙中将「余りにもひどすぎる……」


乙中将「麗しのマーメイドと専らの彼女達はしょせん幻想か……」


提督「鶴の恩返しで鶴覗いたほうがマシな光景」


戦後復興妖精「こんなもんよ」


伊58「ダメでち! ゴーヤ達はろー以外はお酒が飲めて、親しき仲だけど礼儀なしを地で行くから、み、見ないほうがいいよ!」


伊58「提督達が潜水艦ズに、変な幻想抱いているのも知っているから余計でち!」


乙中将「ニムちゃんパねえ。ずっとあほ丸出しな顔でポケーっとしてたぞ。僕ら提督勢がマーメイド達に抱く幻想を全て破壊する映像だよ」


提督「見てはいけないものを見てしまいましたか」


丙少将「見た景色は墓まで持っていこうぜ」


提督・乙中将「必ずや」


伊58「ニムやシオイの名誉のためにいわせて欲しいでち!」


提督「願ってもない……」


伊58「ゴーヤ達は潜水航行でよく耳や鼻とか水着の中に漂流物とか、小魚とか入ったりするんでち! みんなそれが分かってるから、潜水艦しかいないと平気で鼻とか耳をほじるし、胸とかもさらけ出すんだよ! ニムはこの日はたまたまギリギリの深度まで潜っていたせいで、頭がふわふわしてぽけっとしてただけ!」


伊58「い、いや、普段からニムはぽけっとしてる時が多いけど、これは本当にひどい時で」


伊58「シオイは羽目の外し方があれなだけで普段は割とまともなやつでち! 南国の人魚と呼ばれる時のシオイも確かにいるから! 普通に考えて、これが普通な訳がないでち!」


北方提督「シオイ、か。こんな面白伏兵がまだいたとは」


北方提督「怒髪天を衝く。よくもうちのろーを穢してくれたものだ。シベリア送りだ。北方の天使を汚した罪は死でも償えない」


提督「止めてください」ガシッ


北方提督「私を止めても、神風が首を落とすだけだよ!」


提督「あなた達は本当に……」


戦後復興妖精「ああ、そうだ。准将と相談して決めたんですが」


戦後復興妖精「今回の皆のリーダー的存在」


戦後復興妖精「発表します」


戦後復興妖精「呼ばれた者は前へ」



――――わるさめちゃん



わるさめ「はい!」



「「「壮絶な意義あり」」」



わるさめ「!?」


瑞鶴「わるさめはおっかしいでしょ!?」


龍驤「うちらを殺す気か!?」


神風「今回ばかりは物申します! 私達にノリとテンションで沈めと!? ネタ的に沈んでいく面白い死に方をさせられますよ!」


陽炎「司令考え直せ! そいつは歴代兵士トップクラスで旗艦適性ないでしょうが!」


瑞穂「こいつとは裏でも表でも付き合い長いからいうけどさ、それ生涯後悔する判断になり得るわよ」


提督「瑞穂さんの説得力が半端なく魂に響く……」


提督「……先のキマイラとの騒動でわるさめさんは状況判断力は意外と高いと判断しました。ここは安心してください。相手のことを考えると意外と合理的です。あの手の深海棲艦への理解はうちではわるさめさんか、ぷらずまさんです。わるさめさんは意外にもズズムさんにも気に入られているみたいですしね」


瑞鶴「おちびもなんかいってやりなさいよ!」


電「いや……わるさめさんでいいと思うのです。もちろん司令官さんの判断であることも踏まえて信頼は出来ます」


瑞鶴「おちびがわるさめを肯定しただと……」


わるさめ「司令官が意外意外と心外ですが、そゆこと(キリッ」


電「烈火の反対はテメーの日常態度のせいなのです……」


わるさめ「さあ、新旧鎮守府(闇の)メンバーよ」


わるさめ「最後の仕事の始まりだぜ!」


わるさめ「戦争じゃないし、殺しはしないさ。深海棲艦と私達という国の和平のために殴り愛して首を縦に振らせるだけだろ」


陽炎「それを戦争っていうんだけどホント大丈夫か」


戦後復興妖精「大丈夫だって。戦闘指揮なんて取らないと思うから。皆を盛り上げる役みたいなもんだと思ってくれたらそれで合ってる」



5



丙少将「よし、みんなそろったな」


丙少将「今回、俺が皆の提督だ」


伊58・伊19・伊13・伊14・伊26

「(`・ω・)ゞ」


ろー「明石えもん! ひみつ道具の世界!」キラキラ


丙少将「なにろーちゃん、好きなの?」


ろー「はい! 明石えもんはよく分かりませんが、ドラえもんの映画、みんなと観に行きました!」


丙少将「潜水艦ズは仲良いねえ」


コツコツ


伊401「うぃーす……すみません寝坊しました」


丙少将「おっぱいは出すなよ」


伊401「朝早くからセクハラお疲れ様です」


丙少将「仕事中は真面目だとは聞いているけどさあ」


伊14・伊26「大丈夫大丈夫!」


丙少将「楽観勢の大丈夫は当てにならねえよ。伊19の顔を見ろ」


伊19「ま、まあ、大丈夫だと、思うのね。多分」


伊19「ゴーヤとろーちゃん、しっかりルールは守るのね」


ろー「バナナはおやつに入りますか!」


伊58「ゴーヤの心配は要らないでち」


伊401「まー……こっちの本丸からは干渉が大分制限されているって話だけども、偶然力あるならなんとかなるでしょ」


伊401「黄金のハイビスカスとやら」


丙少将「では、盛り上げ隊長から一言」


わるさめ「でち様、みんな」


わるさめ「南の海のバカンス……まあ、潜水艦のみんなにとっては通勤路みたいなもんだと思うけど、トビー&ズズムちゃんのためにも、がんばってね!」


わるさめ「戦争終結してる世界らしいし難易度はそう高くないみたいだから、バカンス気分でフラフラしていたら目的の黄金のハイビスカスと出会えるはずだからさ!」


潜水艦ズ「(`・ω・)ゞ」


丙少将「沖縄ならハナハナ打ちてえなあ」


伊401「地元だし、バカンスにならねえや。手に入れたら私は帰る」


伊58「南の海ならみんなにとって地元みたいなものだけどねー」


伊13「みなさん、特A任務ですよ……」


ろー「テンション低いですって!」キラキラ


伊14「ひみつ道具がある世界なんだよ!」キラキラ


伊26「面白いものたくさんありそうだよねー」


伊19(だからこそ、なにが起きるか分からなくて怖いのね……特にろーちゃんとかニムとかイヨ、どんなトラブルを起こすか分からないの)キリキリ


伊19(胃が……)


丙少将(イクからこれまでの苦労が伝わってくる……)


伊58「よし、先陣はゴーヤが切らせてもらうでち!」


わるさめ「でち様、行ってらー!」


伊58「わるさめは労いの準備でもしておくといいよ!」









【3ワ●:戦後任務編 潜水艦ズ with 丙少将】


           🚃


ザブン。身体が海に投げ出されて、水しぶきが舞った。身体とともに海に入り込んだ大気に海水が覆いかぶさり、水中に居残った空気がブクブクとした気泡になって水面に向かっていく。すぐに海水温の高さを潜水艦としての肌が察知し、ここが30℃を越えている南の海だと導き出した。白い空気の粒々が視界から消えると、海面から差し込む太陽光が作るオーロラが見えた。岩礁近くを泳ぐ色とりどりの回遊魚には元気がなく、熱の高さで死滅した白い珊瑚達が海面にわかめのように浮いている。どうやら嵐に恵まれなかった夏の海のようだ。


水深を下げて海底の白砂の上に座り込んだ。


じっと岩のように座っているゴーヤを珊瑚だとでも思っているのか、黄色の小魚達がまとわりつき始める。群れを成して一つの大きな魚のように擬態している小魚達にふうっと酸素を吹きかけてやると、細かく散り散りになり、すぐにまた元通りになる。相変わらずこの海の小魚はゴーヤよりも隊列を組み直すのが素早い。歴史の中で積みあげてきた生命の技にとりあえず拍手だ。


時間に余裕があれば流れに乗る魚群と行動を共にしてみるのもいいのだが、とりあえず今日はこの世界にあるギミック解除という任務で訪れているので、仕事モードに切り替え、一旦、海面に浮上する。


伊58「潜水艦のみんなもこの世界に飛び込んだはずだけど、姿が見当たらないでち」


見知った海だった。こういう時は南方第2鎮守府かシオイの実家に集まる。陸地の島の景色も記憶にしっかりあってこの位置がその近くだと分かる。


伊58「沖縄かー……」

嫌いな海じゃないけども、人間との意思疎通にたまに困る。方言だ。


ろーが「望月ちゃんに教えてもらって日本語を全方位で完全習得しますた」そんなネットの言葉まで使うようになった頃、沖縄に来て、そのどぎつい方言に絶句していた。その時はたまたま「ちゃー(ずっと、いつも)」という端的な言葉をよく耳にしたらしく、沖縄ではたむけんが大人気だとドイツのマックスとレーベに伝えて、ドイツの対深海棲艦海軍の中でたむけんが流行った、という流れを思い出した。それも仕方ない。大シケの海と同じく、物事の流行も流れがめちゃくちゃになれば思わぬ方向に流されるものだ。


ゆっくりと泳いで浜へと向かおうと身体を動かした時、妙な違和感を覚えた。


海流の突発的な変化だ。例えるのならば、地震の揺れにより、海面が揺れたようだった。気になって再度、潜水航行を開始した。海底をカレイのように沿って進む。水深は20メートルといったところの水底に明らかな人工物を見つけた。砂の上に、加工された金属が敷かれている。


そして先ほどと同じく、ズシン、とした揺れを感じて、体幹が狂った。プレートのズレの揺れとは違う。長年潜水艦兵士をやっていて初めての感覚だった。


身体を半回転させた時だ。

目前にその加工された金属が現れる。指で触れた時に気付いた。その金属は『濡れていない』のだ。海の底にありながら、乾いている。なんだこれ。


形自体はレールに似ているな、と思った直後だった。


海水の中を猛烈に疾駆する車両が目に飛び込んできた。

大慌てでレールから離れた。


伊58「一体なにがなんだか分からないけど」


ただ一つ最悪な未来だけが頭を過ぎった。あれに当たったらガッツが取り得のゴーヤでも肉片チャンプルーになってしまう。岩礁の隙間に身を隠して、その走る海の謎を眺めた。


列車が速度を落とした。指定の駅に停まるように、のろのろと進み、ゴーヤの前で甲高い金属音がして止まる。その漆黒の車両には黄色で『たから』と文字がある。名前からオモチャの電車を連想したけど、よく見れば車体が黒でごつごつしているのもあってSLっぽかった。おもちゃの列車を秘密道具で大きくしたような印象だ。海底を走る列車といい、ここは『ドラえもん』の世界なのでは、とすら考えた。


伊58「明石えもんの発明なのかなあ」


列車が完全に停車すると、車体の周りの水がまるで磁石のように離れた。最新のコーティング剤を生産する会社もびっくりの超撥水力だ。車体の塗装の表面に樹脂は塗ってあるようで、弾いた水滴が重力に従って滑り落ちていた。プシュー、と地上の電車と同じ圧縮空気が排出される音とともに扉が開いた。


扉の向こうから誰かが現れる。白いワンピースを着ていた。滑らかな白いロングヘアと肌、薄幸の美少女といった風で響と似たものを感じる。白い帽子をかぶっていて、なぜかあほ毛が二本、帽子を突きぬけているのか、ぴょこんとしている。ガラス玉のように透き通る青い瞳がこちらを見た。


その時にようやく気付く。

下半身が鯨を模した艤装だった。


潜水新棲姫だ!


こんな陸に近い場所で姫種なんて、島に警報が鳴り、近隣住民が避難を行う緊急事態だった。海軍の哨戒船はなにしているんだ。鎮守府の艦兵士の哨戒がなくとも、海軍が安全海域を偵察し、ソナーや電探に深海棲艦反応があれば鎮守府へと連絡がすぐに渡るはずだ。そして、ゴーヤ達は防波堤として悪意の波を受け止めるべく戦闘準備に移るのだ。ゴーヤの正義の心が、付随させている酸素魚雷の発射準備を急かした時だった。


深海新棲姫「めんそーれー(こんにちは)!」


あいさつされた。潜水新棲姫が沖縄の方言を喋り、海底を進む謎の列車の車掌でもしているのか?


想力の浸透した世界ではあるとは事前に聞いていたので、このような幻想染みたなにかがあると頭の隅にはあったけど、まさか深海棲艦がこんなにフレンドリーだとは予想外だった。恐る恐る近づいてみる。


潜水新棲姫「うんじゅ、ぬゆん(あなた、乗る)?」


方言きっつい。意味が分からないけど、親指でくいっと車内を指差したので、乗車をたずねられているとは分かる。どうやらなんとか意思疎通は可能のようだ。この不思議な光景について聞いてみる前にまずはこれだ。「標準語はしゃべれるでち?」


潜水新棲姫「もち」とぐっと親指を立てた。笑顔だ。


伊58「海底列車って、深海棲艦は『明石えもん』を知っているのー?」


潜水新棲姫「もちろんだとも。英雄だ」


伊58「ドラえもんは」


潜水新棲姫「初めて聞いた」


文化の垣根があるようだ。ろーの誤解で流行したお笑い芸人のことを思い出す流れだ。潜水新棲姫は「同じ仕事をしているとは、マークしとかないと」とライバル視を始めている。「最悪、潰しておかないとね」と怖いことをいう。


そんなことをしてると、扉が閉まって列車が出発した。しまった。






この電車はとあるレースのため、1日中、特別な走り方をしているようだ。北極海と聞いて、腰が抜けそうになった。フィリピン、沖縄、静岡、択捉島、そして北極の間の乗り換え線までの路線海域をぐるぐると回るようだ。色々とこの電車のことを教えてもらって、切符を持っていない、といえば、降りる時に車掌にいえば割高の料金を払うことで降車できるとのことだ。その点は戦後復興妖精の指示で財布は持ってきているので心配なかった。


潜水新棲姫「仕事に戻る」


ゴーヤはお礼をいってデッキから車内へと向かった。


ゴーヤが乗った4号車内の乗客は艦兵士2割、深海棲艦8割といった風だった。争う様子もなく、平和だった。深海棲艦は工作でもされているのか、下半身に足がしっかりついている連中がほとんどだった。ハ級などの深海棲艦は、タンクローリーみたいに進んでいる。猫のように体を持ち上げて、うんしょうんしょ、とペアシートに這い上がり、横たわっている。車内の通路や、シートの感覚は異様に広かった。深海棲艦は身体が大きいことを思うと、空間の広さには納得できる。車内の壁や床、天井、シートも特別製なのか、鋼鉄の彼らが座っても破れるどころか傷すら見当たらないほどだった。


4号車へと続く最奥から二番目の座席に見知った顔を見つける。


間違いなくゴーヤだった。


ピンクの髪とあの丸顔、ゴーヤは思わず窓に移る自身の顔を確認し、もう一度、彼女を見る。間違い探しをしても、着用している服装以外に違いはなかった。もう一人のゴーヤは白の無地のTシャツにホットパンツという格好だ。窓外を見つめて、物憂げな顔をしている。本丸の世界では同じ艦兵士が複数、存在することはなかったので興味が湧いて隣に失礼するとした。


伊58「御隣、失礼するよ」


「どうぞー」気の抜けたような声だ。そっくりさんがお隣に座っても、驚いた様子はなかった。この世界では同じ自分が存在することは珍しいことではないのかもしれない。同じ顔をした自分が何人も存在するのは気味が悪く思えた。


「あれ、あなたもゴーヤなんだね」


振り向いた時に驚いた。右目が黄色だった。木曾も瞳の色が違うので、こういったこともこの世界ではあるのかもしれない。それともオシャレにカラコンとか。


黄瞳の伊58「海兵服でち? コスプレ?」


ペアシートの座席に座ると、向こうから声をかけられる。「戦闘服でち」と正直に答えておいた。白の海兵服の正面には『伊58』と、背中には『鎮守府(闇)』との金色の刺繍がある。年中、水機で鎮守府内をうろつくな、という提督の指示から着ることとなった。本来の機能美溢れるスク水はこの下に着用しており、潜水航行において支障は全くないので提督と指示に従い愛用している。


伊58「あの、悪いけど、色々と電車で分からないことあって聞きたいことがあるんでち」自分がどういうやつかは自分がよく知っている。


黄瞳の伊58「なにー?」やはりだ。


質問をいくつか投げた。聞きたいことは山ほどあったが、なるべく絞った。

質問した点は三つだ。


まずはこの電車は何なのか。どうやら太平洋を走り回る海の列車で、深海棲艦が経営する鉄道会社の電車のようだった。


聞き覚えのある国や街の名前を出された。海の中を走ってこそいるものの、乗降する時は電車がゆっくりと水面に向かって走り、陸地で乗降するようだ。さっきゴーヤがいたところも駅のようで、主に潜水艦種が乗降する沖縄の駅の一つのようだった。荷物や人を運んだり、と電車の用途は同じだったので理解には困らなかった。


そして二つ目の質問は「この世界の深海棲艦ってどうやって誕生するんでち?」の点だった。そんなことも知らないのか、という顔をされたが、「忘れっぽくて」と苦笑いしたら、「大変でちね」と真面目な顔で心配されたので、罪悪感があった。別世界から来たとはいえない。


この質問の答えに仰天した。艦娘が沈んだらそのまま丸ごと深海棲艦になる。深海にて特殊な反応が起こり、艦娘は深海棲艦に化けて、深海棲艦が特定の状況下にて沈むと、また艦娘に戻るといった輪廻転生を繰り返すそうだ。記憶は維持したままだそうだ。


伊58「戦争していたんでちか?」


黄瞳の伊58「偉大なる発明家が終わらせてくれたんだ。深海棲艦を大人しくさせるアイテムを作ってね。ゴーヤ達が沈んだ時に機能するようになっていて、建造する時の資材にプラスするんだけど」とそういって、見せてくれたのは、スプレー缶のような形状のモノだった。


黄瞳の伊58「『感情エネルギ~ボンベ~』」


説明を聞いてびっくりした。この世界にはくまなく、マリアナ海溝の水底にもこの装置の効果が行き届いており、深海棲艦の攻撃性の感情を吸い取って、それを想力エネルギーに変換しているそうだ。想力の文明もある今、深海棲艦も立派な資源を提供してくれる社会の歯車にしっかりと組み込まれていた。もともと深海棲艦も湧き上がる憎悪で戦闘をしていたため、その感情が失われると「悪い夢から覚めたかのようだ」と好意的な反応を示し、今は人間と講和を結んで共存しているそうだ。


ほら、とスマホの画面を差し出された。黄金の暁の水平線を背にして深海棲艦と元仲間の艦娘が抱き合っている感動の再会の一枚だった。こんな風に深海棲艦と抱き合う場面が世界中で繰り広げられて、戦争終結を迎えたようだ。ほろり、とゴーヤの瞳から涙が一粒、落ちたのだった。


伊58「泣けるでち。でも、こんな素敵な世界でなにを憂欝そうにしていたの?」


黄瞳の伊58「実はクルージング・リレー・デッドレースに出ることになって」


伊58「クルージングレース……」その言葉からどういったものかは予想出来た。「それって強制参加なの?」


黄瞳の伊58「『君ならチームメンバーとして信頼できる』って誘われたでち」物憂げな顔に戻って睫毛を伏せた。「戦争中、オリョールの海で幾度も戦ったヲ級さんで、今はお友達でち。そのヲ級さんはこのレースで優勝したら好きな人にプロポーズをするんだって」


深海棲艦には生殖機能もなく、性別もないそうだ。単純に心で惹かれ合ったようだった。ゴーヤは自らが経験してきたオリョールの海の強敵達を思い出す。今となっては敵ではなく、これといった憎悪もなかった。傷つけ合った過去があっても、このような世界ならば好意的に接しても不思議ではないようにすら思える。


黄瞳の伊58「引き受けてしまったけど、ゴーヤはダメダメな艦娘だったから、期待に応えられるとは思えないし、今更、断ることも出来ないんでち。事前に色々と調査をしたんだけど、今回のレースはヤバいんだ。レース内では砲雷撃戦が認められているから、卑劣な手を使うと思われる奴らがいっぱい。普段のストレス解消に暴力を振るうために参加するやつもいるほどでち」


レースというのは速さを競うものである以上、危険はつきまとうものだろう。


どういったレースなのか、も聞いてみた。


なんと参加したチームには、感情エネルギーボンベのようなアイテムを運営サイドから各チームに与えられるようだ。それと本来の艦としての性能を駆使して戦う。コースは北極からオリョールの海までというロードレースもびっくりの長距離戦だった。


そして彼女に与えられたのは、


黄瞳の伊58「『タケコプター』だよー。頭につけると空を飛べる。ハズレでち」


伊58「そのアイテムをハズレといっちゃうんでちか!?」


黄瞳の伊58「薄装甲の潜水艦が空を飛んでどうするの。艦載機の良い的でち」


あ、確かに、とゴーヤは納得する。


伊58「『ドラえもん』はここでもやっぱり国民的なんでちか?」


黄瞳の伊58「なにそれ?」首を傾げていった。「『明石えもん』のアイテムだよ」


伊58「ああ、そうだった。明石えもん」


どういう事情かは知らないが、この世界のドラえもんは明石えもん、にすり替わっているようだった。様々な発明を聞くが、スモールライトやビッグライトのようにドラえもんそのままの発明だ。この世界の明石はドラえもんを知っていて、パクっているんじゃないだろうか、とさえ思えた。


黄瞳の伊58「あ、そうでち! 突然で悪いけど、良かったらあなたも出場しない?」


伊58「ええ……? ゴーヤは」


黄瞳の伊58「ゴーヤ達は無謀にも二人の参加なんだよ。だから、枠に余裕があるんだ。同じゴーヤのよしみで協力してもらえないかな。もちろん危険だけど、報酬は弾むようにヲ級さんにいっておくでち。あ、レース中は攻撃ありだけど、こういうところにいる深海棲艦を攻撃するのは罪になるからね」


考える。戦後復興妖精いわく、偶然力で導かれるようになっているという。ならば好き勝手行動しても御望みの品には出会えるのではないか、という考えが過った。そして目前の自分と過去の自分をどうしても重ねてしまう。南方鎮守府でなにをやってもダメダメだった自身のように思えて、放置しておくのも気が引けたのだった。しかし、与えられた任務が気がかりだ。


伊58「優勝したらなにかもらえるの?」


黄瞳の伊58「『黄金のハイビスカス』」


伊58「手伝うでち! 優勝した暁の報酬はそれが欲しい!」


即決だった。それこそ手に入れてこい、といわれた任務なのだ。やはり偶然力はその効果を発揮している。要はこのレースで勝利して任務達成、そしてもう一人のゴーヤも助けることが出来る。一石二鳥の選択だ。黄色瞳のゴーヤは「本当でちか! ありがとう!」と手放しで喜んでいる。


黄瞳の伊58「夢のアイテムっていっていたし、良かったら、このタケコプターもあげる」


伊58「いいの!? 太っ腹でち!」


タケコプターを手に取った。ちょっと席を離れることを告げた。丙少将に通信を入れるべきだろう。電話のご利用はデッキでしたほうがいいだろう、とのマナーだ。席を立って、5号車のほうに続く扉に向かった時だ。すぐ後ろに座っているチ級が、ピンクの枠に覆われた四角い液晶画面を見つめていた。そこに映っていたのは、どこかの室内の天井にゴツっゴツっと何度も衝突しているヲ級の頭艤装だった。


チ級には面白く感じるのだろうか。口元の端を吊りあげている。


チ級「お前こっち見るなよ。なんでもないからな」


慌てた様子でその持ち手のある液晶テレビを簡素なバッグの中にしまった。


こいつ、臭い。

単純な臭さだった。体臭なのか、それとも他のなにかか分からないが、とにかく悪臭がする。ゴーヤは息を止めて、デッキのほうへとそそくさと向かった。


3


戦艦水鬼「出来レースか。お前達、神聖なレースを穢すつもりか」


鎌倉なヲ級「承久の乱を知っているか。1221年に起きた日本至上初の武家政権と朝廷の戦いだ。本来ならば朝廷が持つ者を武家政権が謀りやがったんだ。今の状況はそれと同じだ」


デッキに入った時だ。ヲ級フラグシップと戦艦水鬼がいた。ヲ級は青いシャツの柄に雪の鎌倉のような模様の入ったシャツが特徴的だった。出てくる例えは鎌倉時代のことばかりだった。古めかしい時代とは逆に、右手には未来の光線銃のようなモノを持っており、その銃口は艤装のない戦艦水鬼に向けられている。


戦艦水鬼は両手をあげて降参のポーズをしていた。手になにか大砲のようなものをつけていた。ヲ級フラグシップが引き金を引く。戦艦水鬼の身体が一瞬だけびくっと震え、白目を剥いてその場に崩れ落ちる。


伊58「な、なにが……むぐっ」


鎌倉なヲ級「お前、今の話を聞いただろう。安心してくれ。我々は六波羅探題のような正義の組織だ。六波羅探題って知っているか。朝廷を監視するための組織なんだが、承久の乱で朝廷に与した大名や武家の領地を没収し再分配、京都周辺の軍事を解体したことで治安が悪化してしまってね。それで検非違使と……」


伊58「知らないよ! 離して欲しいでち!」


なにやら物騒な現場を目撃してしまったようだった。思わず暴れるが、さきほど戦艦水鬼に発射した銃を即答部に強く押しあてられ、ゴーヤはお手上げのポーズを取った。


その拍子に手からタケコプターが落ちた。ゴトゴトとした電車の振動で揺れて転がり、倒れた戦艦水鬼のもとへ転がった。


即答部から光線銃が離れた。ヲ級は元来た道を引き返すように戻った。


戦艦水鬼が、倒れた軌跡の過程を辿るように起き上がる。


そしてゴーヤが来た時のように、対面する形に戻る。


そこから更にヲ級は光線銃をジャケットの内側に戻し、我に帰ったように顔をハッとさせた。


鎌倉なヲ級「貴様、今のは『明石えもん印の逆時計』か……?」


戦艦水鬼「それと空気砲ね!」


戦艦水鬼が空気砲を撃ち放つ。ヲ級が吹き飛び、壁に衝突してずるずると崩れ落ちた。戦艦水鬼はすぐにジャケットから光線銃を奪い取った。「ふう」と一仕事終えた時のように額の汗を拭った。「さて」


その光線銃を向けられた。ピンチは脱していなかったようだった。


伊58「なんでケンカなんか……」


列車の振動でぐったりとしたヲ級が頭をもたげる。


ちょうど床に転がっていたタケコプターがその大きい頭艤装にピタっとくっついた。すると、ヲ級の頭は鎌首をもたげ、浮遊を始めた。ヲ級は目を覚ますと、その頭の上のタケコプターに手を伸ばそうとするが、頭頂部には届かない。


鎌倉なヲ級「くそ、こんな間抜けな……!」


帽子艤装から頭が外れて、床に落ちた。艤装を失ったヲ級はその場で白目を剥いて倒れて動かない。天井を見上げると、ゴツッ、ゴツッ、と天井に衝突するヲ級艤装だけがある。つい先ほど、チ級が観ていた映像と全く同じ光景が展開されていることに気付いた。まさか、とゴーヤは思う。


あの機械もひみつ道具なのか、と思い至ると、有名なひみつ道具が脳裏に過ぎる。チ級が持っていたのは過去や未来を視ることが出来る『タイムテレビ』なんじゃないか。形状も似ていた。


戦艦水鬼「ごめんなさい。倒させてもらうわね」


光線銃の引き金を引くのを視た直後、視界が激しく揺れた。身体の内側で魚雷が爆破したような衝撃だ。薄れゆく景色の中、身体はそのショックを耐えようと、反射的に舌を噛んでいた。


戦艦水鬼「うそだろオイ! ショックガンを耐えた!?」


目を丸く見開いた。

耐えたら反撃動作までがワンセットだ。艦兵士人生で培った経験だった。意識が途切れることで戦闘継続不可は恥だと、電によって身体に叩き込まれ続けてきたのだ。


電車が大きくカーブしたのか、強い重力が加わった。


戦艦水鬼がよろめいた。バランスを取ろうとしたのか、足を動かした先にはヲ級のはだけた鎌倉シャツがあった。重力によってヲ級がごろんと転がると、戦艦水鬼は足を滑らせて、後頭部を強く床に打ちつける形で地に伏せた。ヲ級と同じく、白目を剥いている。


伊58「これも偶然力のお陰でち? あっ!」


デッキの向こう側にある五号車、六号車の近くのほうの扉が空いて、車掌服を着たル級が通路を真っすぐ歩いてくる。報告したほうがいいのだろうが、「こういうところの深海棲艦に危害を加えたらダメだからね」とさきほどの黄瞳ゴーヤの言葉を思い出した。


上手くこの状況を説明できるか。出来たとしても、身分を証明しろ、といわれるんじゃないだろうか。別世界から来ました、とか信じてもらえるだろうか。


数秒迷った末にヲ級の腕を取り、トイレの中に引きずり込んだ。


車内もそうだったが、大型の深海棲艦にも配慮してあるのか、本丸の世界の電車よりも広々としていて快適だった。


続いて天井にぶつかり続けて、奥へと移動していたヲ級の帽子艤装をジャンプしてキャッチした。捕まえたが、ゴーヤの身体が浮いてしまった。タケコプターのパワーが半端ない。


伊58「そうだ!」戦艦水鬼がはめている空気砲を装備した。タケコプターに向けて空気の砲撃を放つ。弾け飛ぶようにして外れた。帽子艤装もトイレの中へ、そして戦艦水鬼も同じく引きずり込んで、すぐに鍵をかけた。


伊58「ど、どうしよう。ゴーヤ、捕まっちゃうのかな……」


任務という使命を帯びてここまで来たのだ。

任務失敗だけは避けなければならない。

普段あまり使わない頭を全力で回した。


伊58「泥棒が泥棒の被害に遭って警察に通報する?」という疑問に至った。この人達も悪いことしていたから、起きてもゴーヤを通報しないかもしれない。


天井を見上げると、巨大な通気口があった。あそこに隠しておこう、と閃くが、運搬方法が思いつかない。


しばらく考えて、ひみつ道具に目をつけた。


ゴーヤは空気砲を通気口に向かって撃つ。よし、ステンレスの通気口カバーが上手く外れた。ゴーヤは自らの頭にタケコプターを装着して、ヲ級の腕を持って浮遊する。巨大な通気口の内部までヲ級を上手く運ぶことが出来た。


伊58「とりあえずこいつらに持たせておくのは危険でち」


ひみつ道具だけは奪っておこう。

さて、ここからどうするか。



           🌺



伊401「黄金のハイビスカスはどこ~」


丙少将「戦後復興妖精のやつは沖縄のここ辺りであることと、黄金のハイビスカスってことしかつかめなかったらしい。確か沖縄の日本海軍の水上基地に金属で出来たハイビスカスの飾りがあった気がする。そこに行けば戦後復興妖精がご都合主義の偶然力で転がり込むようにしてくれるんじゃねえのかって感じで歩いている」


丙少将「他の潜水艦メンバーは?」


伊401「別々の場所に落ちたみたい。戦後復興妖精さんが偶然力を使っていて、みんなどうせ都合の良い場所まで導かれるからほっとけばいいって」


丙少将「てっきとうなやつだよな。この気温の対処も頼みてえわ。あっぢい……」


丙少将は上着を脇に抱えて、夏の猛暑の象徴な太陽を真っ向から恨めしげににらみ、すぐさま、目を逸らす。そりゃそうなる。すでに暑さにやられている様子で、大量の汗をかいて足取りはゾンビのようにぺたぺたとしていた。


シオイは一人でさとうきび畑に現海界し、見慣れた土地を適当に歩いていると、バス停の日陰になっているベンチで、セミを頬にくっつけてぼうっとしている丙少将を見つけたので声をかけて合流していた。


丙少将「シオイ、お前って実家から鎮守府に通っていたって話はマジなの?」


伊401「まじ。鎮守府だとルールたくさんあってだるいじゃん?」


門限とか報告義務とか細かいし、宿舎の部屋の壁も某ガオーマンションのように薄いから色々と気を使うのだ。そのうえ、南方第2は将席鎮守府のように広くないので4人の共同部屋だった。なら、すぐ近くの木造の二階建ての実家から通えばいいんだよ、と携番と自宅の電話番号を提督に叩きつけた。職場までなんと徒歩3分もかからない。


伊401「丙少将は沖縄に来たことあるー?」


丙少将「あるよ。高校の時の修学旅行にゃ参加したからな」


目にとまった古びた旅館を指差していった。


丙少将「この旅館だよ。ここはだな、男風呂から壁一枚挟んだ向こうに女風呂があって、なんと隔てる壁の下に5センチくらいの隙間があるんだ。風呂の時間になると、その情報が男子の間で即座に出回った。俺は友達と迅速に旅館を抜け出して潜水セットを買ってきたよ。その日はゴーグルをつけて、その隙間から女湯を覗きまくっていたんだよな。良い思い出だ」


なにが良い思い出だよ、変態じゃねーか。とそうは思うものの、その馬鹿な行動力はいかにも男子高校生らしい。


学生といえば季節は夏休みだ。部活帰りなのか、商店街には女子高校生の姿がある。女子の夏服と麦わら帽子のセットの夏の風物詩だ。


丙少将が露天でなにか買っていた。麦わら帽子だ。


丙少将「欲しそうに見ていただろ?」


伊401「まあ……」


さすが丙少将だ。噂通りになかなか気の利くイケメンオッサンである。駆逐のみんなを街に連れ出して世間とズレないように、と戦争から抜けた後のことまで考えて鎮守府を運営していることは有名な話だった。南方第2のおっさん提督は「子供は子供同士で遊べば」とバッサリだった。


伊401「帽子、くれるの?」


丙少将「おう。おっちゃんからのプレゼントだ」


伊401「ありがとー!」


丙少将は麦わら帽子を自分でかぶった。くれないのかよ。

その後、シオイの頭のうえにメキシカンハットをかぶせ、☆のグラサンを装備させた。


伊401「予想斜め下の行動だね。可憐な私が麦わら帽子で、そっちがメキシカンハットとグラサンじゃないかね」


丙少将はデイゴの花のシャツを買って着て、往来の闊歩を再開する。完全に観光客の楽しみ方をしている。


伊401「食べ歩きは止めなって。沖縄の名物を食べたい気持ちは分かるけどさ」


丙少将「この商品名も思い出の塊だなあ。なんとか女子にいわせようと夜通し考えたものだよ」


伊401「ちんすこう……なる。帽子とグラサンの礼に私がいってあげるよ。ちんこ」潜水艦になってから羞恥が割と行方不明気味だ。なぜかは考えない。ご想像にお任せします。


丙少将「お前みたいなアホな10代女は好きだわ。ちんこやるよ」


伊401「このセクハラ提督が軍の提督の中で世間から一番評判が良いっておかしいよねー」


艦兵士の中で一番人気な提督は甲大将である。もしも異動するなら、とアンケートを取れば間違いなく8割方の兵士が甲大将の部下になることを望むだろう。丙乙は仕事の時以外はアホであるとは有名だった。元帥鎮守府はこちらからの異動願いでは籍を移せない。闇と北方は提督と一部所属艦兵士が狂人だと専らだった。半信半疑のところがあったが、ゴーヤとろーの話からしてそれが100%真実と知り目眩がしたのを覚えている。


ちんすこうかじりながらしばらく通りを歩いて、南方第2の鎮守府へ向かっていた途中だ。


戦後復興妖精から通信が入ったようだった。丙少将が「どうもこの辺りらしい。どこかにハイビスカスはあるのかよ?」と辺りをキョロキョロとし始める。通りを抜けたこの辺りは自然が豊かになりつつある。周囲にはハイビスカスの花は見当たらない。


丙少将「まさか個人宅の中じゃないだろうな」


玄関先で立ち話をしているおばあちゃん達に歩み寄ったので慌てて止めた。あの人は有名なお喋りシーサーおばちゃんである。誰かが命名した通りシーサーのように掘りが深く、威圧感のある目をしている。そして終わりが見えないまでにしゃべりまくる。


丙少将「おばちゃんいるいるだろ。すぐにキリあげてくるから大丈夫だ」


伊401「行ってしまった。観光客、とか、男、とかそんな珍しくもない要素で軽く3時間は喋るのに」


お喋りシーサーおばちゃんの家の屋根を見上げた。


あの家の屋根にソーラーパネルがついていることに違和感を覚えた。この世界のあの家ではないけども、前に何回か同じように軒先で立ち話をしているのを見かけて、その度にソーラーパネルを売りに来る営業マンを追い払った話を繰り返していた。今はソーラーパネルの魅力を語って勧める人になってしまっていて、丙少将に太陽光発電の話をしていた。「100万もしたのよあれ。100万分喋らないと損じゃないの」


別世界だしね、とシオイは適当に納得して、踵を返した。


観光客向けの出店で売っていたハイビスカス・ソーダを買った。視界に税務署の近くに見慣れない大きな建物が見えた。デザイナーの腕を感じるハイセンスな外観である。シオイの記憶にはなかった。あの辺りは確か変哲もない建売住宅が並んでいたはずだ。


丙少将に報告しようと引き返した。真夏の軒先の下でお喋りシーサーおばちゃんの会話にまんまと飲み込まれて中々、抜け出せない様子だった。「じゃ、じゃあ俺はこれで」と去ろうとすると、「ああ、そうそう、最期にね」と捕まえて放さない。その最後は日が暮れるまで続く場合もある。


伊401「用事に間に合わなくなるので、これにて失礼!」


そういって丙少将の手を引っ張って逃げた。丙少将はぐったりとしていて、遅かった。すぐに立ち止まって、荒い呼吸を整えながら額の汗を腕で拭った。「シーサーって確か口を閉じているほうが雌だろ。見てくれの威圧感といい、雄なんじゃねえのか」


伊401「失礼な。その前に人間だよ。営業マンや宗教の勧誘家にすら避けられるほどの人ではあるけどさ。あ、そうだ」


シオイは疑問に思ったおばちゃんのパネルのことと、あの記憶にない建物のことを話す。すると、丙少将いわく、あのおばちゃんからあの建物の話をしていた途中だったという。つい最近に出来た最新技術の粋を使った娯楽施設であるとまで聞いたようだ。


伊401「じゃ、念のためにハイビスカスあるか確かめに行こうか」


出発進行。観光客向けの通りなので、そこらにハイビスカスなんてたくさんあるにはあった。そもそも黄金のハイビスカスというのが抽象的だ。ストラップなのか、それとも髪留めなのか、それがギミック解除に繋がるというのもいまいち理解していなかった。


想力も訳が分からない。人間がその可能性で作った時空とか、あの海にいてなおシオイにはお手上げだった。


伊401「大体、想いの力ってなんだよ」

想いの力でここまで世界を構築できるというのは理解出来ても、それは空想であった場合だった。准将が見ている景色だと、感情が電気信号と思っている人間が原始人に見えていたりするのだろうか。


丙少将「なあ伊401、ハイビスカスって食べ物じゃないだろ」ハイビスカス・ソーダを指差していった。「でもそういうのを飲んだらハイビスカスの風味がするってなるよな。人間の空想が産んだアイデアだ。それを実現するのが想力だぞ。現海界とか聞くと、ワープすげえとかってなるけど、もともと人間が可能に出来るものでしかない。准将の言葉を借りると、こうだな。我々はまた鏡に映る人間(ファンタジー)を見て驚いている。何度目のオチだよってな」


准将がそんなことをいったのかは疑問だけども、なんとなくつかめてきた。土産屋にある『明石えもん』のキーホルダーが目に入る。でいごの花の模様のシャツを着ていた。この世界では「明石えもん」という『ドラえもん』のパチもんが幅を利かせているという情報は事前に聞いている。


伊401「じゃあ、想力で『ドラえもん』も造れるってことか!」


想力のすごさが私にも十二分に伝わった!


世界が熱中するのも頷ける。


しかし、丙少将はこんなことをいう。


丙少将「実際に『ドラえもん』が出来たら世界はどうなる?」口の端をつりあげた。「空想は空想だからいいと俺は思うんだよ。想力っていうのは夢があるようで、意外とないのかもな。失うモノのほうが多いと思うぜ。俺達が今まで利便性を手にして失ったモノがあるようにな」


伊401「分からないでもないけども、そこの意見は千差万別じゃないの?」戦争終結後に想力という人間から抽出できる資源は、今、あっちでは宇宙すら巻き込む大渦と化していて、抜け出せるとは到底、思わなかった。「もう好きなだけ渦巻かせて収まるのを待つしかないよね」


丙少将「『艦隊これくしょん』だってそうだろ。設定だけ見れば明らかに空想染みた戦争だった訳だ。あんな風に『ドラえもん』も出来てしまえば、いつの間にかいるのが日常になってしまうものなんだと思う。少なくとも深海棲艦よりあの愛嬌のある青狸のほうが遥かにマシではあるな」


伊401「同意ですー。でもどこでもドアとかあればなー。スモールライトとかあったら、ほら、丙少将が言ってた覗きも楽に出来たんじゃないの?」


丙少将「確かにな。でもそんな楽にできたら苦労した俺らが馬鹿みてえじゃねえかよ」


隔てる壁下の五センチの隙間から女湯覗くために潜水セット即買いに行く行動そのものが馬鹿であることに気づいていない様子だった。


例の建造物に到着した。

大規模かつ最新の娯楽施設なだけあって、駐車場で止める場所を探して車がさまよっていた。映画館やゲームセンター、ショッピングモール、最上階はなんだろうな。ドームのように天井が吹き抜けだった。


そしてハイビスカスを発見した。その娯楽施設ではなくて、その道路を挟んだ側にあるお店のほうだ。確かに店の前にはハイビスカスの花がプリントされた旗がずらりと並んでいた。


パチンコ店。


シオイはじっちゃんが実機を持っている実機を思い出す。退職金と年金の夢の老後暮らしで、悠々自適と店通いをしているのだ。家に一台だけ買ったのが置いてあって、風呂の順番待ちをしている間、よく触っていた。アイスくわえてテレビを寝ころびながら見て、暇を持て余している足でバーを蹴り飛ばして、そのまま足の指でボタンを押すのが日課だった。面白いとかそういうのではなく、ただ自分ルールで何回以内にペカったら明日は良い日になるとか、そんなこと考えていただけだ。


丙少将「青葉の報告によれば雨村の自宅にもパチスロ関連のもんがあったようだぜ」


伊401「ハイビスカスがハナハナを示唆していた可能性があると?」


丙少将「『ハイビスカス→ハナハナ→景品交換→ストラップとかそういうのの黄金のハイビスカス』の図式が思い浮かんだが」


確かに関連性は今までの中では一番だ。しっくりは来ない。対深海棲艦海軍の任務で、パチンコ店でギミック解除するってなんだ。


丙少将「せっかく来たんだから本場で打っておきてえな」と本音を漏らした。バカンス気分だ。「私はこの巨大娯楽施設を調べてくる」二手に別れることになった。



2



自動扉が開く。涼しい冷房が蒸した肌を冷やした。騒音がうるさく、ちかちかとランプの点灯していた。どうやら入った場所はゲームセンターのようだ。子供の姿が少なく、大人や老人の姿が多かった。辺りを見回しながら、店内をうろついた。


ここにもハナハナがある。

ろーちゃんを自宅に招いた時に、ハナハナの実機を見て、「ドラえもんさんのパーツがある!」と騒いだことがあった。小さな頃からアニメを見ていたシオイでも中々、気付かなかった。


そう、赤いレバーである。ドラえもんの尻尾によく似ているのだ。ドイツ出身の子だからかか、ろーの個性なのかは迷うところだけど、日本文化に馴染んでも、ベクトルが違った面白い発想をよくするのだ。


伊401「ろーちゃんはどこにいるんだろう」

ニムと二人で行動していないことを切実に祈った。あの二人だけで行動すると、好奇心と天真爛漫のアクセル踏みっぱなしで、なにやらかすか分からないのだ。そこに楽観的かつ基本イエスウーマンなイヨの3人だけで町に出る事態が最悪だった。


階段をのぼって最上階へと向かった。あの吹き抜けの場所が気になっている。


なんと、正面には海が見えた。そして左には巨大なディスプレイがあった、映し出されているのは海だった。すぐにどこか分かった。潜水艦にとって道場と同じようなもので、一礼で始まり一礼で終わる聖域、オリョール海である。フィリピンにあるのだが、最初期に深海棲艦に地形がえぐられるほど破壊されたので、けっこう広い海域となっている。


そして店員と思われる人が髪にハイビスカスの花を挿していた。


目前には50メートルのプールがある。何の変哲もないプールだった。


伊401「あの、屋上はプール施設なんですか?」


「ええ、オープンしたばかりですが、全く儲からないんですよ」と店員は苦笑いした。


伊401「沖縄で海水浴といえば海というイメージが強いのは全国共通ですよね」


地元民のシオイですらそうだった。観光客は、基本的に奪い合いである。沖縄にはプールもあるにはあるのだが、レジャー会社は例えば海だと子供を目の届く距離で、といった親心のニーズを満たすために、子供向けのウォータースライダーという機具をたくさん設置していたり、アロマやマッサージ、紫外線が気になる人へのサービスがあったり、人が多い遊泳区域では味わえない静かな海をセールス文句にしていたり、戦略は少なからず見て取れたのだった。それでも沖縄に泳ぎに来た大勢の人は海へと流れてしまうのだ。なのに、目の前にあるプールは大した工夫もないただの水の桶である。


「もともと用途的に来る方も少ないんでしょうけどね」


伊401「用途?」


「ええ、想力の特殊加工で見た目よりずっと水深が深いんですよ。オリョールの海くらいはありますね。バシーの水深にも設定できます」


なんだそれは。


その時、ディスプレイが切り替わり、海の映像から世界地図になった。フィリピン周辺が拡大されて、そしてオルモック湾の海まで落ちると、マップが現れた。


海軍のエリアマップのボスマスだ。


潜水艦の間では鬼ヶマスと呼ばれている。あの周辺はあの海域で強い敵がいる時が多く、それまでの道のりでなにかしくじった時、あそこへ行ってしまう。そうなると持ち帰る資源が少なくなってしまうのだ。資源マスと呼ばれる場所をより多く通り、余裕があるのなら、補給艦マスにいるワ級を上手く壊して燃料や弾薬を強奪してフィニッシュが理想の流れである。コツをつかみ始めると、補給マスを線で繋いで出来る△の付近でどう動くかが重要だと理解してくる。


いかに短い時間で大量の資源を集められるか。この安全を度外視した命知らずな挑戦を限界オリョクルという。


また映像が切り替わった。ボスマス付近の海域は、なぜか人工物で彩られていて、浮きで線を敷かれていた。そして男の人の声で実況が聞こえた。次に映し出されたのはリレーのスタートのように並ぶ深海棲艦の姿だった。そしてピストルの音で一斉に航行を始めた。一体なんなんだよ。目前のプールと同じ円形の形をしているルートを三周して越えると、人工物の障害物のせいで思うままに進めないジグザグのコースになる。ここでようやく分かった。


伊401「レース……?」


「オリョール海でのクルージングレース。今、流行している新競技ですよ。賭博の対象ですし。次大会は北極からオリョールまでの超長距離のデッド・レースですね」


なんとクルージングがギャンブル娯楽の対象と化していた。詳しく聞くと、出場する参加者に賭けて予想が的中したら、その配当分、返ってくるようだ。競艇みたいなものだろうか。そして店員は最後にこういった。「優勝チームには『黄金のハイビスカス』が贈られます。純金で出来ている訳ではないのですが、歴史のある貴重なモノです」


伊401「次の大会には誰でも参加できるんですか?」


「艦娘と深海棲艦だけですよ。それに次大会は最大五名のチームリレーです」


伊401「なるほど」


疑問だった『なぜレースなのに速力の低い重巡や戦艦が参加しているのか』が氷解していく。赤いラインで覆われた特定のエリアに入った瞬間、砲雷撃戦が開始された。速力の高い駆逐が編成に多いのは単純な速度と、対潜要員も兼ねていると思われた。カ級が爆雷に被弾していて、木端微塵にされている。


伊401「深海棲艦だけあって、死傷者を出すことに躊躇いがない」


にやりと笑った。


クルージングレースだなんて願ってもいない。最速オリョクル王者のろーちゃんにガチムーブを頼みこみ、そこにゴーヤの補助を加えれば優勝は不可能ではない。


選手の航行模様を見て確信した。


伊401「勝機はあ――――る!」

ゴーヤやろーちゃん、ヒトミ、イヨ、イク、ニムと比べても選手達は上手くない。レースというだけあってロードが制限されていて、自由気ままに泳げないという問題点はある。何度かターンする場所があるけど、あれはむしろ好都合といえた。


潜水艦といっても、マーメイドのような潜水艦娘には潜水航行において独自の技術が積み上げられている。深海棲艦は基本的に回避が下手で、撃てば当たる時も多いが、シオイにいわせればそんな動きはあり得ない。特に潜水艦娘は1回の回避ミスで大破なぞ珍しくもないのだ。


選手達はターンする際に、速度が著しく落ちていた。


ふむ。あれでプロなのか、と物を申したい気分だ。


シオイはろーちゃんがゆーだった頃から潜水航行を教えており、おじーが持っている漫画で観た技をなんとか実現しようと、二人で開発していた潜水航行術をいくつか習得していた。その中で最も難易度が高かった秘技を血の滲むような特訓の末にろーちゃんは習得してみせたのだ。


伊401「ぜひとも太陽燦々きらめくオリョールの海で華麗に決めてもらいたい!」


あの伝説のVモンキー・潜水艦娘VERをね!



           ⚡



現海界地点、北極だ。


正確には北極海に浮かぶ氷の島のようで、人間の生活の営みがそこにはあった。想力が普及されており、深海棲艦と仲良くやっている世界だということは事前に聞いていたが、やはり実際に飛び込んでみると、興味がつかないのだった。


このスク水一つで凍える外を歩いても、寒くもない。

快適な氷の上にある町には、氷に杭が打たれて、テナントがいくつも設営されていた。大きいかまくらのような建物は特殊な鋼材を使っているようで、想力の技術を生かして軽くて丈夫、寒さをしのげるうえ、艦爆を落とされても壊れないとか。


北極には確かな人の営みがあった。電気も通っており、スマホのネットも使えるらしい。その深海棲艦と艦娘、一般人が織りなす数々の珍しい光景に興味が尽かない。200年先の未来なのだから探ればもっと面白いはず、とイクは周りに視線を巡らせる。


伊14「北極ってまだ行ったことないんだよね。ペンギンさんはいないのかなっ!」


伊13「イヨちゃん、ダメ……」


氷の上でピョンピョンと跳ねるイヨへの注意なのだろうが、伏し目がちで吐息に乗せるものだから、無駄に艶やかだった。この二人は双子なだけあって外見こそよく似ているが、性格は全然違う。明るく楽観的な少女がイヨで、ダークでセクシーなほうがヒトミだ。


伊19「でも、ペンギンちゃんと一緒に泳いでみたいのね!」


初めての北極訪問に根っこにある無邪気が顔を出した。


伊13「北極に、ペンギンはいなかったはず、です。北極でペンギンは暮らしていけないとか。南極にはペンギンさんがいるみたいですが、ほら皇帝さんです」


皇帝ペンギンは南極のほうにいるようだ。駆逐艦娘の中でも小さい睦月型くらいの背丈をしているという。一度、会ってみたかったというのはある。さすがに潜水艦娘でクルージングをしていても、任務海域を遠く離れた場所まで行こう、などとはならず、水族館も行ったことがなかったので実物も見たことがなかった。


海面には様々な大きさの氷が張っている。カワサギ釣りの時のような丸い穴から、顔を出した。まず、鈍重な雲から発される稲妻の光と轟く雷鳴に、身が竦んだ。空は現海界した時から、ずっとゴロゴロと不機嫌の極みのようで、いつ雷を落としてきても不思議ではない悪天候だ。


伊13「あ、れ?」


ヒトミが見ている先に、ペンギンがいた。体長は70センチくらいだろうか。くちばしが長い。お腹と目の辺りの羽毛は白く、そして他はツヤのある黒だ。イメージ通りのペンギンだった。短い両の翼をはばたかせ、ぺしぺしと水かきがついた足を忙しく動かしてこちらに向かってくる。


伊19・伊14「ペンギンちゃん!」


想像通りの可愛さにテンション爆あげである。ペンギンはイクの前で足を滑らせて、転んだ。つるるっとカーリングのように滑ってきて、イクの豊胸にダイブした。そのするどいくちばしが怖くもあったが、攻撃をしてくる気配はなかった。もっとも、想力をまとっている以上、このペンギン程度の攻撃はかゆいで済むので、ここは遠慮なく抱きしめるとした。冷たくて、温かい。


伊19・伊14「可愛い!」


イヨがペンギンの頭を撫でる。どうもこのペンギンは人なつっこい、というより、甘え声で泣いて人間が餌を与えてくれる存在であるかのように、人慣れしているような感じさえした。


伊13「オオウミガラス?」

驚いた顔をしている。


伊14「ヒトミちゃん、知っているの?」


伊13「小氷期から乱獲の被害に遭っていました。数が少なくなって希少価値があがると、少なくなった残りも乱獲されて絶滅してしまったはず、です。やっぱりこの世界は違いますね」


それはむしろ好都合だった。このような絶滅した生物に会えるだなんて、この任務も少しは役得だと思えるものだ。「イクちゃん、私にも抱かせてー」とイヨがいったので、ペンギンさんを持って渡す。イヨの腕の中でも大人しい。イクは氷の上にあがって、付随している浮遊ユニットの装備を確認する。異常はなしだ。やはり、この海域自体が想力で住みやすく加工されているようだ。


伊19「それでみんな情報は集めてきたのー?」


伊13「それが、目的の『黄金のハイビスカス』を見つけました」


伊19「さすがご都合主義☆偶然力の力なのね!」


伊14「あ、私も見つけたよ! レースの優勝商品なんだって!」


今いる地点をスタートとし、ゴールをフィリピンのオリョールまでとしたクルージングレースのようだ。冗談ではないのね、とイクは話を聞いて絶句した、北極海からオリョール海まで不眠不休の全速前進で最短距離を進んでも、恐らくは一カ月以上は確実にかかる距離だ。


伊13「あ、大丈夫です。色々と想力による補助がありまして」


懸念していた北極海での長距離航行自体は想力コーティングが施されるため、心配ない。燃料と弾薬もレース中は自動補充される仕組みだそうだ。もっとも即補充ではなく、弾薬においては回復に30分ごとに魚雷が一つ撃てる程度の回復で、燃料のほうは即補充とのこと。


戦い、奔れ。

今回のこのレースのキャッチコピーのようで、シンプルにどういったレースなのかが伝わる。


北極海から択捉までおよそ2800海里、イク達の潜水速度を考え、到着時間を考えると、全速前進の単純計算で2週間以上の時がかかる。イヨとイクは驚愕し、顔を真っ青にした。


伊13「そこも、大丈夫、です。一部、航路にワープ地点があるそうで」


この世界の経済上、北極海周辺はロシアと中国の共同極秘天然資源採掘事情により、一部、どうしても通過できない場所があり、ワープ地点と呼ばれる場所から一気に太平洋まで出られるとのことだ。


システムは聞いたところ、向こうの世界でいう一部現海界機能(ワープ)を誰でも通ることのできるゲートにしたようなモノらしい。思いの他、距離が短縮されている。1日程度でゴールのオリョール海まで辿り着ける。


ここまで説明を聞いて、丙少将に連絡を入れた。


丙少将《やっぱり導かれていたか。スタートは2人で頼む》とのことだ。


シオイは沖縄にいて、そこは三番目のランナーの地点だった。


ろーちゃんはフィリピンにいたようで、最終走者のバトンの受け渡し地点が近い。


そしてニムとゴーヤだが、ゴーヤとはまだ連絡がつかないとのこと。


丙少将《ニムは俺の補佐に回す。まあ、合流させておくよ。5名の参加で二人余るし、沖縄からはシオイのほうが速いみたいだし》


伊19《ゴーヤが心配なのね》


丙少将《偶然力を信じるのなら、足りない穴、二番手に交代する択捉諸島にゴーヤがいるはず。三番手の静岡にゃニムがいたからな。沖縄に越させるけどさ》


伊19「けど、ゴーヤと連絡がつかないのなら選手として登録するのは賭けなのね」


最も危惧することは、そこだった。リレーでバトンを渡す次走者がいないのは致命的な事故だ。


聞けばこのレースは指定海域で妨害してもいいという命賭けのレースだというではないか。


そのため、引き継ぎ地点まで損傷によってはリタイアということもあり得た。


恐らく参加者は潜水艦対策もしてくるはずだ。耐久数値的に、ちょっとの被弾が中破や大破損傷に繋がるイク達にとっては、引き継ぎ地点でバトンを受け渡す無傷の新戦力は必要といえた。


そこにおいてゴーヤとろーちゃんは潜水艦娘の中でも常軌を逸した根性値が売りの頼れる戦力であった。簡単にいえば息ある限り、動き、死ぬまで自我を保つ。速度含め全体的な潜水航行術はろーちゃんだが、魚雷命中精度は最終的にゴーヤがトップに躍り出た。そして、その二人の耐久力は横並びだ。その上位二人の下にイク達は横並びといった風である。上位の片割れである超攻撃的なゴーヤと連絡がつかないというのは明白な戦力的損害だった。


太陽燦々の南方第二から闇へと異動した最終世代伊号第58潜水艦


通称、出血公。


女神や応急修理要員を装備しておらずとも、魚雷を接射で当てにかかる。魚雷の破片が顔面の至るところに突き刺さり、焼きただれた皮膚でなお敵を倒したことを喜ぶのみのゴーヤはなぜ終戦まで生き残れたのか不思議でしかない。


真面目に考えたところ、ヒトミとシオイとともに精神科の通院を勧めた程である。いくら考えても、そういった回天染みたことを嫌うはずのゴーヤに、特攻確殺戦法を馴染ませたあの鎮守府の戦争終結の信念に潜む闇の深さが垣間見えるだけなのだった。


丙少将《ヒトミを静岡に行かせてくれ。イクとイヨは損傷がなければ引き継ぎ地点で補給をして、そのままヒトミに付随してくれ。お前ら二人で北極からスタートだ。北極海なんて慣れない海を一人で泳がせるのも危険だろ。二人でがんばれ》


伊19《了解。いかにも丙少将らしい指揮なのね》


ゴーヤと連絡が取れない以上、戦力を割いて万が一を防ぎにかかる。本来ならばスタートは北方周辺で冷えた海での潜水経験豊富なろーちゃんが第一か第二走者、そして中部周辺の太平洋から沖縄まではイクかゴーヤ、そこからオリョールまでなら潜水艦の皆の通勤路といってもいい。なので、その配置采配が理想的ではあるが、よく分からない世界であれこれ動かしてしまうと、今のゴーヤの状態のようにレースに支障が出る危険性もある。賭博を嫌う固い安全策だった。イクとしても、こういう指揮が最も安心できた。


丙少将《お前らに合った指揮を執るため、念のために聞いておきたいんだ》


伊19「うん?」


丙少将《『ガンガンいこうぜ』がゴーヤとろーちゃん。『いろいろやろうぜ』がイヨとニムとシオイ。『いのちをだいじに』が、イクとヒトミで合っているか?》


伊19「合っているのね」その例えは適切だ。「ただゴーヤとろーちゃんは、めいれいさせろ、も強く意識させておくべきだと思うのね。常時ぱるぷんて(なにやるか分かんない)状態なのね」


丙少将《了解だ。一応、提督も指揮出していいみたいだけど、レースのモニターからじゃ情報が少なすぎるんだわ。かといって細かい状況把握して指揮を出すのも、今回は難しそうだ。モニターから得られる情報で重要なものも通信入れるけど、なにかあればそっちからも頼む》


急な参加であるため、作戦に曖昧な部分が生じても仕方はなかった。


丙少将《ある程度は、臨機応変に対応していく、としかいいようがない》


これからやるべきことは限界までレースの情報を収集すること、そして作戦を考えることだろう。航行ルートも考えておく必要がある。砲雷撃の妨害がある以上、最短ルートは常に激戦区になってもおかしくない。急がば回れ、が正解になることも十分に考えられた。レースの参加自体は窓口が広いが、過酷なレースなため、参加者に深海棲艦が多くなるのも大体、想像がついてきたのだった。


オリョールの海のあるフィリピンへと向かう航路は、ユーラシア大陸の北を東に沿って進み、ロシアとアラスカの間を通り、太平洋へと出るのだが、そのロシアとアラスカの間の海域が陸地に迫られて狭い。


集団とともにその周辺に行くと、戦闘に巻き込まれる恐れが大きいので、トップで潜り抜けるのが理想的だ。しかし、潜水艦の航行速度を考えると難しい。


ならばあえて遅れを取ったほうが良いようにも思える。レース中もっとも長い航行路と厄介な戦闘周りがイクの頭を悩ませた。


まずはヒトミに静岡の中継地点への移動を伝えなければ。


伊19「ヒトミ、それなにかされているのね?」


ペンギンが顔を上にあげて鳴き、前を歩くヒトミの後を健気について回っていた。


伊13「た、たぶん、求愛行動」


ヒトミは頬を赤らめながら、困ったような顔をしている。



2



伊14「うー、参加選手多いんだね。控え室が狭い……」


イヨは密集したところが嫌いだから、という理由で学校の教室から逃げ出して潜水艦になったという変な志望動機の艦兵士だった。街に出て遊びに行く時も満員電車にはてこでも乗りたがらない。姉のヒトミのほうも満員電車に乗って痴漢の被害に遭ったことがあって苦手なようだ。


「分かる分かる」と会話に入り込んで来たのはヲ級である。「人、邪魔だよな」


邪魔なのはさっきからイクの肩に当たっているお前のでかい頭の艤装なのね、といいたい気持ちをイクはなんとか堪えて「なのね」と同調しておいた。


ヲ級は腕を抱えた。「うーん」悩んでいるような声をあげて、言葉を続けた。「最初は俺も人間って狭いところに密集しているから、人間って寂しがり屋なんだなって思っていたんだ。上へ昇るのにも、下へ降りるのにも、進んだり戻ったりする時もそうだ。狭い場所に限ってなぜか人間は密集しているんだ」


伊19「のぼりおりはエレベーター? 別にさびしがり屋だからじゃなくて、向かう先がたまたま同じな人が多いからだと思うのね」


「なぜ同じ方向に向かうという要素だけで密集する必要がある。密集して擬態する小魚は分かる。あれ、身を守る術だからな。ペンギンも寒いから身を寄せ合うのは合理的だな。人間は本当に不気味な生き物だと思う」


そういいながら、意味不明ににやつくその笑顔のほうが不気味である。


伊19「ならなぜあなたはこの満員のここにいるの? それが答えなのね」


「あ、なるほど」


そもそも、このように流暢に物をしゃべる深海棲艦とあまり会話したくないというのがイクの本心だった。この世界の深海棲艦には思考機能付与が当たり前であることは周りの深海棲艦を観察していれば、すぐに判明した。ヲ級は不気味な笑みを貼り付けたままいう。


「少なくとも俺はこのレースに勝つためにここにいる」


俺、という一人称に違和感があった。しかし、よくよく見れば深海棲艦達は普通に私服を着ている。このヲ級は八分のズボンと、『誠実』の日本語が入った黒Tシャツ、そして指輪のようなアクセサリを首からチェーンでぶら下げている。


伊19「ヲ級さんは黄金のハイビスカスが欲しいの?」


誠実なヲ級「伊号潜水艦よ、俺のことは誠実なヲ級と呼んでくれ。それもある。俺達がまだ艦娘と争っていた頃、オリョールの海を一滴の血も流さずに講和まで導いた賢い深海棲艦がいた。今は訳あって死んでしまったのだが、彼女が持っていたもので大層に価値がある。『平和の象徴』であり、『戦後も胸を張ることができる私達深海棲艦の誇り』なんだ」それと、とつけ加えた。「このレースを優勝した暁にはプロポーズしようと思う」


伊19「プロポーズ……!」


深海棲艦の間でもケッコンがあるのか。大層なロマンを感じざるを得なかった。


伊19「色々教えてくれてありがとうなのね! 勝負とは別に応援してる!」


誠実なヲ級「そりゃどうも。俺は一人の深海棲艦として悔い改めたのだよ。我々が最も愚かだったのは、聞く耳を持たなかったことだ。立場や産まれに甘んじて、激情をぶつけることしかしなかった。これは大変な過ちだった」ヲ級の表情に影が差し、伏し目になった。「今の俺は決して聞く耳を持たず、文明を焼き払うようなことはしない。人の話に耳を傾け、聞かれたことにはしっかりと答える。なにがあってもな。その上で決めたことに対して真っすぐ進むのだ」


良いヲ級だ。


誠実なヲ級「ところで君達はなぜこのレースに? 命のリスクを背負ってまで出るようなレースではないはずだ。深海棲艦側のお祭りのようなレースだから、艦娘の参加は珍しい。ルールだってたくさんあって覚えるのに苦労するだろう」


伊19「え、えと、その……」


今回の任務は『特A級』の任務である。この世界の住人からしたら、イク達は他世界からやってきた異世界人だ。他の時空からやってきた連中だ、といえばどんな顔をされるかは、本丸世界(オフィス)からやってきたイクには理解できた。


この他にも三つの世界はそれぞれが独立しており、延々と『イフの艦これ』が続く設定なのだ。管理運営するオフィスの存在まで辿り着けば、この世界が「なに者かによって意図的に作られたもの」だと終わりまでのゴールを示してしまうことになる。本丸の世界で深海妖精を発見し、海の傷痕のいるロスト空間を知り得たように、だ。


少なくともこの世界の深海棲艦はこの通り、艦兵士を見ても襲いかかってはこず、会話が出来るレベルで意思疎通可能だった。ならば平和的共存は可能なはずだ。この世界の真実を教えたら、戦争が勃発するという危険があるため、イクはその点において堅固に口を塞ぐのだった。


伊19「『黄金のハイビスカス』が欲しいのね」


誠実なヲ級「ふむ、これは親切心だが、気をつけたほうがいいぞ。今レースはヤバい連中がたくさん参加している。潜水艦の君達には遠回りのルートを勧めるよ」


伊19「ヤバい、連中?」


誠実なヲ級「俺達、深海勢力の中でもとんでもない悪党どもだ」顔をしかめた。「あそこにいるリ級改は通称『死の翻訳者』といって、日本人が無知に着ているシャツのアレな英文字を読みあげて、恥をかかせることに躊躇がない。あそこのル級は『コイン・シューター』だぜ。白昼堂々と自販機の下を漁り、交番に届けずにネコババするのをいきがいとしているイカレたやつだ」


伊19「確かにイカれているのね……」


本来ならば、とイクは思う。艦兵士ならともかく、深海棲艦を沈めることに躊躇いなんてない。雑魚を見つけたらとりあえず沈めておけ、とアカデミーで習うレベルである。仲間が傷つき、沈む光景も見てきたイクにとって、任務のためにこの空間の深海棲艦を殲滅し、黄金のハイビスカスを奪う強硬手段に出ても良かった。正し、それが任務遂行するにおいて最も有効的であると判断した場合だ。本音をいえば、平和的に解決したいのだが、最悪、手段を選んでいられない。


誠実なヲ級「呼ばれたな。チーム・オーネストだ。それでは」


伊19「色々ありがとうなのね!」


選手は順番にアナウンスに呼び出され。控室の人が空いていっていた。


スタートは同時ではなく、登録したほうから先だ。血の気の多い連中が多く、すぐに砲雷撃を始めるのが定例だという情報もある。単純に航行で競うのではなく、相手を沈めてリタイアさせればいいじゃないか、という考えは、深海棲艦らしいといえよう。それに加え、奇妙な明石えもんの道具のことも考えれば速くスタートしたほうが絶対的な有利ではないといえた。過去に第一走者が優勝をしたこともないという。第一走者の最重要事項はリタイアせずに次走者に届けることだと、丙少将からの指示ももらっている。知らない世界に飛び込んだため、レースの観察、敵の情報取得、出来ればひみつ道具の奪取、色々とこなさなければならない役割がある。


今回『当たり』を引いた。


ランダムで各チームに配布されるレースのためのひみつ道具だ。


バッグの中に折りたたんで入れているのは『なんでも空港』だった。その名の通り、これを広げたら空を飛んでいるものが着陸してくる。厄介な対潜艦載機に対する術だった。ハズレだと何の役にも立たない道具もあるというので、ツイている。チーム名がアナウンスで呼ばれて、イクは控室を後にした。



3



スタート。


同時に大きな雷鳴が鳴った。どこかに落ちた、と確信するような大きい音だった。


イヨとすぐさま海中に潜って、第一ワープ地点を目指す。


しばらく海中を進んだところでシロクジラに絡まれたが、この手のトラブルの対処法は心得ている。言葉が通じない相手なので、少し乱暴な対処で追い払った。その途中、砲雷撃の音を察知し、警戒しながら水面に顔を出した。潜望鏡の機能もある両の瞳で遠くの様子を伺い、聴力も活用する。


伊19「別チームの艦娘……?」


その子はロシア仕様のモコモコした薄い桃色の防寒着を着ていた。帽子の耳のファーがくすぐったいのか、指でいじくり、内側に丸めて入れた。敵意は全く感じられないが、周りの深海棲艦は沈んでゆく。まるで羽虫でも払う程度にしか考えていないような、そんな戦い方だった。


雷鳴が鳴った。何度も、しつように、ゴロゴロと、暗雲に電気が迸る。


そこには雷を越える人的な焦げる憎悪が炸裂していた。


その子の胸に、特Ⅲ型のバッジがある。















●ワ●







伊19「なのねえええええええええ!」


カニのように口から泡を吹いたが、全身全霊で意識を繋ぎとめる。


伊14「ど、どうしたの!?」


伊19「あ、ああ、あああっ」


イクの艦兵士人生の中でトップに君臨する恐怖が脳内を過ぎる。


それはあの最後の開催となった合同演習、鎮守府(闇)と戦った時のことだ。


空母棲姫の艤装に意識を取られ、潜水棲姫の艤装を展開していることに気付かず、潜水艦としての恥である魚雷の被弾を許した。元帥艦隊旗艦に抜擢され、初戦で大破の無様を公衆の面前で晒した。


それだけに留まらず。


あの電は戦艦棲姫艤装による弾着観測射撃により、命を完全に断とうとしたのだ。


アレは天使の顔をした悪魔である。離脱意向信号が発されてリタイアになったから良かったものの、イクは記録されていた映像で、あの電が警告されて舌打ちをしていた光景を見たのだった。その日はずっと泣いていた。鎮守府(闇)の旗上げのために贄とされたあの合同演習はイクにとっていまだにトラウマだ。


伊19「こ、この世界の『ぷらずま』さんが参戦しているのね!」


伊14「か、合戦準備いいいいい!」


伊19「戦っちゃダメなのね!」


アレとは敵対行動はギリギリまで取ってはダメなのだ。同じ艦娘にも容赦がないのは身を持って思い知っている。しかし、その原理は深海棲艦を殲滅するための戦力であるため、という考えが根底にあった。ブラック上等、死が怖いのなら去れ。やる気があるのならついてこい。あの鎮守府はその姿勢で戦争終結まで駆け抜けた。それもたったの一年だ。なにもいえないのが、悔しかった。


事前に打ち合わせてしていたのか、「おい、さっそくきたぞ!」深海棲艦達は隊列を組み始め、前方に立ち塞がるデーモンに向けて砲撃を開始していた。ル級改やリ級改の砲撃を向けられて、あの電がなお余裕の顔をしているのが、イクには潜望鏡を通さずとも視えるのだった。


トランス。


そんな言葉が耳の鼓膜を揺らしたようにイクは感じ取る。この世界には深海妖精はいなかったはずだ。どういう建造方法でタイプトランスに改造したのか。


イヨの顔から表情が消える。


伊14「あの深海艤装、なに……?」


ぷらずまさんが参加していた場合、不確定事項その1、一体化して扱うことのできる深海棲艦艤装は何なのか。オリジナルの世界とは明らかに違った。艦載機の発艦数からして空母艤装だという推測はしたが、イクの知識にその形状の艤装はない。


伊19「艤装が氷で出来ているのね……?」


まるで氷ブロックを人工的に積み上げて船にしたかのようだった。その氷の上に飛行甲板が敷かれていて、そこから飛び立つ深海棲艦型の艦載機はよく訓練されたパイロットのように高密度の空襲を行っている。


「気をつけろ! 深海の氷姫だぞ!」


伊19「深海の氷姫?」


聞いたことのない姫種だった。


すぐにこの異常事態を丙少将に報告した。この世界のことをシオイと調査していた丙少将はその船の情報を持っていた。ヨーロッパからの北極航路にて出現した姫、目が覚めるような美しい容貌、氷をまとった艤装が特徴的な基地型の深海棲艦だそうだ。


公式登録名、深海預言氷姫。

艦種は空母。

対潜哨戒機を、

200機搭載している対潜水艦の姫種。


殺される――――


その情報を聞いた瞬間、情報収集を捨て、イヨとともに全速でその地点から離れた。


イクの頭のなかで、一つの史実が掘り起こされた。イギリス海軍がドイツの潜水艦に対抗するために、特殊な氷ブロックを利用して移動式の海上航空基地を建造しようとした計画だ。


伊19「もしかしてハバカク計画の基地型深海棲艦なのね!?」


伊14「え、それってええと、人造氷で水上航空基地作ろうみたいな計画だよね!?」


伊19「うん。でも、あの計画って頓挫して実現には至らなかったはずなのね!」


氷山航空母艦という名にインパクトがあり、記憶には鮮明に残っていた。ハバカクは旧約聖書で預言者にちなんでいたはず。きっとあの計画がとん挫することなく実現し、その船が沈んで深海棲艦となった。深海預言氷姫、という名もそのままだ。そうに違いない、とイクは確信する。


絶対にあれと関わってはダメだ。

任務失敗に直結する。


潜水航行を始めようとした直後、ル級改、コイン・シューターが沈んだ。


今のはなんだ。艦載機の攻撃ではなかった。あの電が瞬き数回の間に、500メートルの距離を詰めて、そのグローブを装着した左で顔面を殴り飛ばしたように見えた。疑似ロスト空間で戦後復興妖精と戦った時の神風を彷彿とさせる神速に戦慄を覚える。


なにかのひみつ道具だとイクは直感した。


伊14「こ、こっちに来ている対潜哨戒機を対処しないと!」


イヨが慌てて晴嵐のカタパルト射出の作業に入った。長いレールを進み、空を飛ぼうと晴嵐は進み始めるが、その途中、操縦席の前からゴポゴポと燃料が噴水のように噴き出した。「ああ、しまった。急ぎ過ぎてエンジンが!」操縦席の正面が黒く染まり、妖精さんは操縦どころではない。


伊19「任せるのね。こっちは大丈夫なの!」


イクは自らの晴嵐を上手く空へと送ることが出来た。


空へと高度をあげていく途中の出来事だ。

晴嵐が木端微塵に空中分解した。


伊19「どうして」

原因に頭をひねらせた途端、肩を叩かれた。


ぷらずま「『けんかマシンセット』、目にも止まらぬ速さを得る『いなずまソックス』。強烈なパンチ力を宿せる『パワー手袋』、相手を煽る『入れじた』の三点で一つのひみつ道具なのです。入れじたは捨てましたけどね。デフォで装備していますので」


赤黒い瞳がすぐ正面にあった。放出されているぎらぎらとした殺意は、落ち着く前の頃の電のそれだった。加えてひみつ道具も最強の類だろう。勝てっこない。


ぷらずま「チーム・潜水艦ズでしたか。艦娘の潜水艦の参加チームなぞ珍しいので覚えていたのです。その通信機、こちらの世界で普及しているのと形状が違いますね。それに良い歳こいてプライベートでスク水とか戦争時の古代種ですかね。妙なやつらなのです」


伊19・伊14「あは、は……」


イクは無意識に離脱意向信号を探していた。

当然、ありはしない。



           🚃



あれから席に素早く戻り、丙少将との通信を試みたが、この電車内では通じなかった。戦後復興妖精は特殊な妨害がなければ、大気圏突破さえしなければ通信できる、といっていたのに。黄瞳のゴーヤに聞けば、この電車は特殊な想のコーティングで覆われており、この世界に普及している有名どころの通信機のいずれかでなければ電波が届かないとのことだった。それでも、声は途切れ途切れに届いた。「沖縄九州、海底列車」の単語だけを呪文のように呟いておいた。


黄瞳の伊58「呪いでちよ」


愚痴の洪水を黙って聞いていた。彼女は建造された時から災いばかり身に降りかかるという。例えば兵士時代は、艦隊に入れば必ず羅針盤が逸れたり、道中で誰かが大破する、といったことだったり。ただの被害妄想のようにも聞こえた。


「ねえ、ゴーヤちゃん達、質問いいかしら」と声をかけられた。


通路を歩いてきたのは南方棲鬼だった。艤装はない。クネクネとなまめかしくセクシーにポーズを取っていた。「うっふ、ああ、初めましてね。私は観ての通り鬼種の深海棲艦、色気な南方棲鬼というんだけど」


伊58「なにか用でち?」


色気な南方棲鬼「赤いジーンズを着た戦艦水鬼が通らなかった?」


伊58「知らないでち」ハッキリとそう伝えた。本当は知っている。さっき通気口の裏へ隠した戦艦水鬼が赤色のジーンズを履いていた。ここで正直にいえば、鬼種に絡まれてしまうかもしれない。方便だ、と自分にいい聞かした。じいっと見つめられる。


色気な南方棲鬼「そう。ありがとう。それじゃあね」


軽くウインクして五号車のほうに向かっていった。あのデッキにあるトイレの中を調べないか、ハラハラしながら観察していたが、気にする様子もなく、次の車両へと歩いていった。お隣の黄瞳のゴーヤが険しい顔で席を立った。


黄瞳の伊58「あいつは要注意人物でち」


伊58「要注意人物?」


黄瞳の伊58「レースは深海棲艦にとって大きな意味のあるものなんだ。色々な派閥があるんでちが、このレースで優勝すれば幅を利かせることができるみたいで、ずるして勝とうとする奴らがいるんだよね。あの南方棲鬼は5年前にズルをしたんだ。またなにか悪さするかもしれないし、尻尾をつかんで運営委員に報告してやればチームごとリタイアでち。レースは穢させないよ」


少なくとも仲間の戦艦水鬼は悪いことをしていた。


レースはすでに北極からスタートしている時間なので、あの二人はもしかして択捉、静岡、沖縄、フィリピン、そのどれかに向かう選手を妨害して戦闘不能にしたり、レースに有利なひみつ道具を奪おうとしたり、そんな諍いをしていたのではないだろうか、とゴーヤは推測する。確かに登録した選手は入れ替えられないし、闇打ちは効果的といえる。だが、これはスポーツだろう。そんなことしてもレースが穢れるだけじゃないか。


もしかしたら戦争に近いのかもしれない。鎮守府(闇)もそうだった。なり振り構わずルールの範囲内で価値をもぎ取ってきた中、卑劣な手段を何回も使った。一部の深海棲艦にとっては、そのような勝負なのかもしれない。だが、それで後ろに手が回るのも自己責任だろう。ゴーヤは後を追うことにした。


黄瞳の伊58「うわ、あなたなんか変なモノを食べた?」


鼻を押さえている。

責めるような視線の先にはあの臭いチ級がいた。ゴーヤはあれがタイムテレビなのか聞いてみたかったが、とっさに隠したことを思うと、それを聞くことでまたトラブルに巻き込まれあいか、不安になり、自重する。「風呂は入るでち、それじゃ」彼女はそそくさと行ってしまう。


臭うチ級「そのことなんだが聞いてくれよ」フランクに会話を試みてきた。「俺は戦争終結した五年後からずっと憧れの山暮らしをしていたんだ。海ばかりにいたから楽しかった」


薬草の作り方や火の焚き方、太陽や月を視て時間予測、人里ではない山奥の小屋にでも住んでいるのか、といった生活知識を自慢気に語り出した。「ゴーヤも田舎だったなあ。携帯電話の電波が立たなくて」小、中と全校生徒8人の田舎、野山と海を駆け回って過ごしたもので、都会は大地の上にいれば、携帯の電波がどこにいても立つことに感動したものだった。


臭うチ級「俺、一年前までクソを食べていたんだ」


伊58「え?」


臭うチ級「だから排泄物のクソだよ。食糞っていうんだろ」


愕然とした。なぜ、と聞く前にチ級は続けた。


臭うチ級「人に恥をかかせるのが好きなリ級改と、友達だったんだ。あいつは俺が無知なのをいいことに『京都では鹿のクソをみんな食べる』って嘘を教えたんだ。京都なんてオシャレな街にいる人間が鹿の糞を食べるって聞いたから、俺は真似して山で鹿を捕まえてそのクソを食べていた」


伊58「鹿の糞、だよね。それ、お菓子の商品名でち……」


臭うチ級「らしいな。海で生物を殺戮するだけの深海棲艦だった俺はそうしていることで、自然の営みの一部として世界に存在を許してもらえたかのように感じていた。俺も人を殺すことなく生きていけるのか、と高潔に暮らしていたんだが、その実、超低劣なことをしていたわけだ。195年間も本物の鹿のクソを食っていたわけだからな」


割れた仮面に覆われていない右瞳から強い怒りを感じる。


臭うチ級「それを周りに広めやがったあいつだけは絶対に許さねえ。俺の艤装には弾薬の代わりにクソが詰まっているって噂が立って、その山が『うんこ山』と呼ばれるようになったのは記憶に新しい。ふもとの村はうんこ村と呼ばれて地元の皆様が激怒し、俺は追い出されてしまった」


間違いない。そのリ級改は絶対に許されてはいけない。


伊58「これ、あの、あげる。口臭を消すクールミントのタブレットでち」


持ってきていた一粒をプレゼントした。


臭うチ級「ありがとう。いただくよ」


素直に受け取り、口の中に放り込んだ。やはりというか、あまり効果がなく、まだその吐息は臭かった。座席の上に芳香剤が置いてある。悪臭は消えるどころかごまかせもしていない。虚しい慰めだった。周辺の座席がいやに空いていたのはそういうことか。ゴーヤは納得する。口呼吸だからか、気にならなかった。


「どういたしまして」と返して、黄瞳のゴーヤの後を追った。



2



南方棲鬼は7号車と6号車の間のデッキにいた。6号車には六つある座席に一般人と思われる人間の母親達が座っており、子供達が固定されたオモチャで遊んでいる。キッズルームだろうか。子供が泣いているマークの上から深海棲艦はノー、という張り紙がデッキから六号車に続く扉に貼り付けてあった。どうやら深海棲艦は入れない車両のようなので足踏みしているようだ。


色気な南方棲鬼「だから、仲間がひみつ道具を持ってこの電車で引き取る予定なのよ」


黄瞳の伊58「奪い取るつもりなんじゃないのー?」強い眼差しの目で問い詰めている。「お前はレースに参加もしていないのに派閥に属したチームを勝たせようとして妨害しまくって、肩を持ったチームは5年間の欠場処分になったよね。その前科がある限り、信用できないでち!」


色気な南方棲鬼「心外ね。あの時はむしろレースを守ろうとしたのよ。黄金のハイビスカスが期限を過ぎて優勝者から返還される年は出来レースだって知ったのよ」


唇にリップを塗りながら、器用に喋る。


色気な南方棲鬼「一部、ズルをしている連中が必ずいるわ。信じてもらえないだろうけど、運営委員の手先がいるのよ。去年はそいつらを排除するために派手に暴れただけ。無駄に終わったけど、今回は違うわ。しっかりとレースに参加して勝つの。私の派閥は様々な協力関係を結んでレースに臨んでいる。今、探している戦艦水鬼は『当たりのひみつ道具』をもらえたの。受け渡しの時間になっても姿を現さないから列車に乗り込んで探しているってわけ。正直に打ち明けたわ。本当よ?」


疑わしい、とゴーヤは思った。出来レース。あの鎌倉なヲ級もそういっていたのを思い出した。戦艦水鬼が争っていた理由は、その出来レースの手先を潰すためだったのだろうか。その場面にたまたま遭遇して巻き込まれたのか。確かに、空気砲はともかく、時間を撒き戻せる『逆時計』や一撃で大破のようなショックを味あわせる『ショックガン』のひみつ道具は大当たりといえる。


黄瞳の伊58「じゃあ、その運営の手先が誰か教えるでち」


色気の南方棲鬼「教えてもいいけど、厄介事に巻き込まれるって分かっているかしら。奴らを潰さなくちゃ優勝できないわけ。その覚悟があるの」南方棲鬼は返答を聞く前にいった。「今回は『チーム・イナズマ』よ。構成メンバーはあの駆逐艦電をリーダーにして、沖縄でのサポートに鎌倉好きなヲ級」


黄瞳の伊58「まさか、あ、あの、電でちか?」


南方棲鬼は苦笑いした。あの電、というとどの電だ。鎮守府(闇)の電を連想した。


恐る恐る質問してみたところ、深海棲艦艤装を展開できるあの電のようだった。この世界にもいたのか、とゴーヤは驚愕した。ただトランスタイプといっても、仕組みが違った。意思疎通により展開されるのは同じだが、深海棲艦艤装の核を想力としてコンパクトにして身にまとって、それが意思疎通により、質量を持って展開されるようだ。ロスト空間を通さず携帯しているとのことだ。


色気な南方棲鬼「普通にやったら負けるわ。もうレースの参加者の五割がやられたらしいし」はあ、とため息をついた。「出来レースっていったけど、あの電は許可されているひみつ道具の中から好きな物を選ばせてもらえたみたいね。運営もギリギリ正攻法で来たのよ。だから今回はレース中に潰すしかないの。そのために参加者チームで協力し合って沖縄からフィリピンの間で必ず潰す計画なの」


伊58「か、勝てるんでち?」


色気な南方棲鬼「勝つのよ。ひみつ道具を駆使したら刺し違えることくらいの希望はね?」


聞いていた限り、こっちの電と脅威は同じだ。しかも、わざわざ深海棲艦を沈め尽くそうとしているところから、性格も似ているような気さえしたのだった。


黄瞳の伊58「分かったでち、ゴーヤが目撃情報を聞いてくるよ!」


伊58「迂闊でち」

今の話を完全に信じているようで、キッズ車両へと行ってしまった。


伊58「ねえねえ、そのバッグから顔を出している本を貸してもらっていいでち?」


色気な南方棲鬼「ええ。列車の時刻本だけど」


ありがとう、と差し出された本をめくった。今、乗車している列車は普段は沖縄と九州の間をぐるぐると回るそうだが、レース開催日の今日はいくつも駅を飛ばす特急になっており、沖縄、フィリピン、静岡、択捉諸島、北極海への乗り換え路線を一日中、回るようだ。さきほどのアナウンスが北極海線への乗り換えとアナウンスされていたので次は択捉へ、そして静岡、次は沖縄に戻り、最後にフィリピンへ向かう。


礼をいって本を返したと同時に、通信が入った。丙少将だった。


伊58「ちょっと失礼するよ!」


このデッキにあった喫煙スペースに飛び込んだ。中には幸い誰もいない。通信に応答した。


丙少将《はあ、やっと繋がったか。こっちから機具を調達してお前に繋げるのにかなり苦労した。状況報告を頼む。もう色々な不測の事態が列車のごとく駆け抜けていて無茶苦茶だわ》


苦労が滲んだため息が聞こえる。得た情報の真偽は定かではないが、状況整理が追いつかないので、そのまま丙少将に報告する。


裏で大規模な画策が成されていること。


表のレースで電ちゃんとよく似た驚異的な戦闘力を持つ駆逐艦電が運営の手先ではないか、という情報。


厄介ごとに巻き込まれたごと。


レースは『オーネスト』のメンバーとして参加登録したとのこと、参加者から入手したひみつ道具があること等々だ。その後にイク達の情報を入手した。


ゴーヤとニムを除いた5名で参加しているとのことだった。


そしてひみつ道具は『なんでも空港』のようだ。これまた当たりを引いたようだが、レース中に例の電に目をつけられたとのことだ。


しかし、場を切り抜けた。イクが「共闘、共闘を申し込むのね!」と命乞いをしたところ、受諾されたようだった。しかし、ライバルであり、どこかでどうにかする策を展開しなければならない。丙少将はそこに頭を悩ませているようだった。いつ共闘を放棄してくるか分からないとのことだ。


丙少将《『オーネスト』は、ヲ級とそっちにいるゴーヤ二人か。南方棲鬼にも協力関係を結べないか聞いてくれないか?》


伊58《信用できるか分からないでち。ゴーヤは構成員に襲われたし》


丙少将《フィリピンに到着する前に電を刺す。イク達に電の事を調べてもらうよう伝えてある。お前らんところに行く前にその情報を伝える、それを南方棲鬼に教えるよう取引を持ちかけてくれ。信頼関係を築いてからトラブルに巻き込まれたことを伝えてくれよ。現場での交渉は臨機応変としかいえんから、とにかくそこは相手の激情に触れないよう気を配ってくれ。最悪、俺に代わりゃいい》


伊58《了解したでち》


通信を終えて、喫煙所から出る。ちょうど列車は海面に浮上し、外には薄暗い水の景色から晴れた日差しに照らされた海上の駅が見えた。駅を挟んだ向こう側の路線に静岡行きの電車が停車している。確かあの黄瞳のゴーヤ、静岡で降りるといっていたが、大丈夫だろうか。


色気な南方棲鬼「ねえあなた」デッキを出ると、声をかけられた。「識別コードは?」


伊58「へ? しきべつ、こーど?」


色気な南方棲鬼「そう。個人情報なんだけど、私達、同じ個体が存在するから身分証明の一つとして登録してあるの。三桁の数字で1から999まである。こんなの建造された直後に知ることで常識の中の常識だし、知らないとはいわせないわ。ちょっと、あなた変なのよ。レースに参加するにしてはこの電車のことも知らなかったみたいだしさ。だからさ、教えてよ?」


どうしよう。そんなのがあったのか。識別コードなんてなかった。


色気な南方棲鬼「いえないんだ。怪しすぎるわね」


少し目を細めて敵意を出した。紛れもなく冷えた憎悪を感じる鬼種の笑みだ。


伊58「え、えっと、765、でち」


色気な南方棲鬼「実は識別コード4桁なのよ。お前、なに者だ」


レザーズボンのポケットに手を忍ばせて折り畳み式のナイフを取り出した。


どうしよう、とゴーヤは狼狽するが、次の瞬間には「きょ、共闘しないでちか。電の情報を持っているでち」口から言葉が飛び出ていた。


伊58「『チーム・潜水艦ズ』はゴーヤの仲間でち。ちょっと事情があって、ゴーヤは参加登録できずにあの黄瞳のゴーヤのチームで参加登録しているんだけど、きょ、共闘。さっき提督さんからも許可はもらって、共闘を打診してもらえるよう、指示が来て」必死だ。


色気な南方棲鬼「ふうん。あの飛び込み参加の潜水艦娘のチームね。電の情報は?」


丙少将から与えられた情報を開示する。別の世界から来ました、と信じてもらえれば全て筋の通る答えとなるのだが、答える訳には行かなかった。この世界は雨村レオンという男によって創造された世界であり、その雨村レオンを捕縛しようと、そのために黄金のハイビスカスが必要なんです。丁寧に説明する時間だけでレースが終わりかねない程に湧く疑問点に答えてはいられない。


色気な南方棲鬼「『けんかマシンセット』ね。なるほど、どこでもドアとか爆発コショーとかどこでも大砲等々のすぐにゴールまで行ける移動系は禁止だから、戦闘力、特に速度強化は配布している中では、このレースにおける最高峰のひみつ道具ね。確かにそれならあの電の動きにも納得出来る。そうね、目的は黄金のハイビスカスだったかしら。共闘してあげてもいいけど、条件がある」


白い紙袋を懐から取り出した。紙に書いてあるのは英文字だが、そのまま呼んで『KESSHIN CONCRETE』だ。ケッシンコンクリート。


色気な南方棲鬼「参加チームからハズレのひみつ道具を売ってもらったの。モノは使いようよね。これを飲めば決心を貫き通すことができる、『南方棲鬼を裏切らない』と決心して飲み込める?」


伊58「なるほど、こっちとしても手っ取り早いでち。でも、黄金のハイビスカスは……」


色気な南方棲鬼「あげるわよ。優勝に意味があるから黄金のハイビスカスはどうせこういった交渉事に使うことも考えていたし、何なら私も決心を固めてあげる。これ以上の信頼関係が結べる?」


伊58「分かったでち」


色気な南方棲鬼「『私が優勝した暁にはチーム・潜水艦ズに黄金のハイビスカスをあげます』」そういってサラサラとした粉を口から飲み込んだ。ゴーヤも貸してもらって、「『南方棲鬼を裏切らないでち』」と決心を固めた。これで契約成立だった。やっぱりひみつ道具はとても便利だ。


色気な南方棲鬼「電は沖縄からフィリピンの航路で仕留めるわ」


伊58「なにか作戦があるの?」


南方棲鬼「その航路の近くにかつての深海棲艦の基地があったの。今は小さな無人島なんだけど、その所有者も今は私達の派閥が持っていてさ、そこに『明石えもん印の無敵砲台』があるのよ。思うままに誰にでも砲撃できるアイテムね。必殺よ。誰だろうと一撃で大破以上には追い込める」


伊58「おお! それに協力すればいいんだね!」


南方棲鬼は右目でウインクした。


黄瞳の伊58「聞いてきたよー」


色気な南方棲鬼「ありがとう。それと、こっちのでっちが私達と電を倒すための共闘関係になったから」


黄瞳の伊58「なに勝手なことしてるんでち!?」


伊58「ご、ごめん」


南方棲鬼「でも電は倒さなきゃならないでしょ。けんかマシンセット持ってるようだしね。あなたのところのリーダーにいってみたら、きっと理解を示してくれるはずよ」


黄瞳の伊58「まあ、聞いてみるでち」


黄瞳の伊58「ああ、それと戦艦水鬼なら前の車両に行くのを見かけたって。なんか鎌倉のシャツを着たヲ級の後すぐに五号車を出て行ったとか。前の四号車はゴーヤ達がいたけど、戦艦水鬼なんて視ていないでち。降りたんじゃないのー?」


色気な南方棲鬼「降車するのなら私に連絡が来るはずだもの。でも、鎌倉ヲ級に返り討ちに遭った線はあるわね。危険を感じて鎌倉ヲ級は降車しちゃったのかしら。なら不味いわね……」


黄瞳の伊58「なにが不味いの?」


色気な南方棲鬼「鎌倉ヲ級は電の補佐なのよ。沖縄で彼女の補給物資、ああ、日用品とか食べ物とか渡したり、艤装のメンテをしたりする仕事なの。あいつはもともと私と繋がりのある派閥、『返り咲きプリンセス』所属のやつでね、正義だの鎌倉だのうるさいけど、今のあいつの正義は金銭だから、電が沖縄に来る前に丸めこもうと思っていたの。ああ、艤装の燃料に細工してもらって、『無敵砲台』がきちんと当たるように電が燃料切れで航行に不備に出た直後を狙う予定だったのよ」


話そう、とゴーヤは決意を固めた。信頼関係は結べた。正直に事情を話して許してもらおう。隠しごとは全てなくしておいたほうが良い、と判断した。


伊58「実は、戦艦水鬼とヲ級がケンカしている場面に遭遇したでち」ぎらり、と鋭く睨まれて、慌てて言葉を続ける。「きゅ、急に襲われたから無我夢中でち! その二人を四号車と五号車の間にあるトイレの天井の大きな通気口にか、隠してあるでち。死んではいないと思う、けど」


色気な南方棲鬼「ああ、あの艤装置き場と繋がってる空気口か。詳しくは戦艦水鬼のやつから聞くわね。鎌倉なヲ級も一緒にいるのなら問題はないから黙っていたのはそっちの事情を考慮して許してあげる。さあ、戻るわよ」


巨大な獣のため息のような噴射音が鳴り、扉が閉まった。


伊58「そういえば乗り換えで降りなくて良かったんでち?」


黄瞳の伊58「あ、しまった!」

どうしよう、とその場をぐるぐると慌ただしく動き始める。

ぴたり、と止まった。「で、でも、まだ時間は十分あるし、大丈夫か。共闘のことをとりあえず聞いて指示を仰ぐでち」



2



鎌倉なヲ級「全く。鬼種の平手は効くな。だが、その額で俺を動かせると思うなよ」南方棲鬼は三本目の指を伸ばした。ヲ級は唇の端を愉快気につり上げる。「お前は旗艦をよくやっていたが、才能はない。色気の南方棲鬼のインディーズバンド、熱狂的な人気があるそうじゃないか。後鳥羽上皇を思い出すな。将軍の才能はないが、歌を作る才能はある。新古今和歌集は名作だと思わないか」


色気な南方棲鬼「これで求心力は?」指を五つにする。「これ以上は出せない」


鎌倉なヲ級「将軍殿、六本目の指を出せ。後鳥羽上皇が承久の乱でなぜ敗北したのかを考えてみたまえ。御家人が朝廷を敵に回すことに逡巡し、それを北条が上手く操り、討つべきを上皇としなかった。私もあの電に半旗を翻し、討たれたり島流しにされたりしたら溜まったものではないという不安があるのだ。そうだな、今回の一件を鎌倉時代で例えるとだな」


色気な南方棲鬼「分かったわ。六が限界よ。これ以上は問答無用で消すわ。もちろん、亡命先も用意してあげる。私か駆逐棲姫の管理下になるけど、万が一の場合は匿うわ」


鎌倉なヲ級「憂いなし。契約成立だ。その決心コンクリートの力を貸せ」


誓いが立ち、例の電をフィリピン周辺で沈める手配は完璧だ。上手く行っている。これも偶然力の力なのだろうか。ならどんなことがあっても良い方向に転がるのかもしれない。このレースへの不安がなくなっていくのだった。後はゴーヤがチーム・オーネストを勝利に導くか、イク達のサポートをすれば良かった。南方棲鬼達が勝っても目的の黄金のハイビスカスは入手できる。万全だ。胸を撫で下ろした。


鎌倉なヲ級「ところでお前、我々からひみつ道具を奪っただろう。どこだ」


伊58「あ、席のバッグに置いてあるでち」


色気な南方棲鬼「無防備ね、逆時計なんて超強力アイテム、盗られたらどうするのよ」


潜水新棲姫《えー、間もなく大きなカーブとなります。お立ちのお客様はご注意ください》


慌てて、デッキを抜けて座っていた席に戻った。シートの足場に、バッグはある。中身も確認したところ、タケコプター、空気砲、ショックガン、逆時計もしっかりとあった。南方棲鬼が「私が預かっておくわ。タケコプターは返す」と手元にタケコプターだけが返ってきた。前の空いている座席を回転させて、向かい合う形にして座る。


黄瞳の伊58「その『明石えもん印の逆さ時計』って効果が限定的だったよね?」


色気な南方棲鬼「そうね。合計四人の時間だけを戻すのよ。今、使えばデッキでの立ち話の位置に戻るんだと思うわ。それと、最高で10分前ね。万が一、電を仕留め損なってもゴールしそうな時もこれがあれば保険として使える最高のひみつ道具よ。許可されているものだからルール違反にもならないしね。今回、優勝は必ずもらうわ。あなた達とよしなにするのはそれまでだからね」


黄瞳の伊58「その逆時計の対策も考えておかなきゃね」


色気な南方棲鬼「あら、鎌倉ヲ級のやつは?」


そういえば、いない。

また三人でデッキへと引き返した。鎌倉なヲ級はトイレの扉に背中を預けて、座り込んでいた。「まだ頭が痛くてだな、少し休憩させてくれ」と艤装の上から頭をさすっていた。


色気な南方棲鬼「しっかりしてよね。しくじったら報酬はあげないわ」


その時、またまた電車が大きく揺れた。さっきのアナウンスが注意喚起していたカーブが来たようだ。大きく重力がかかり、ゴーヤはバランスを崩して倒れ込んだ。


その時、偶然にも右手に持っていたタケコプターが鎌倉なヲ級の頭頂部にピタっとくっついてしまった。


鎌倉なヲ級「うわ――――!」


前回と同じように天井に頭をぶつけていた。「ご、ごめん!」と大慌てでヲ級の足を引っ張りつかむが、それも前回と同じなことに気付く。黄瞳のゴーヤが「それ貸すでち!」と南方棲鬼が持っていた逆時計を奪い取って、針を戻すためにネジを巻き始める。


色気な南方棲鬼「黄瞳のでち公! 戻し過ぎよ!」


ゴーヤ達の時間が巻き戻る。全く同じ行程をそのまま、逆戻りした。


タケコプターがゴーヤの手に戻り、

ヲ級が後頭部をさすり、

ゴーヤがこける前に戻る。

三人はデッキを後ろに戻ったところで、

閉まっている扉が開き、座席に座った。

同じ言葉を逆さからしゃべり、

席を立つと、南方棲鬼が座席を前向きに戻す。

後ろ足でデッキへと引き返し、

先程の交渉会話を繰り返した。

南方棲鬼がヲ級を通気口の奥へと再び戻して、ゴーヤ達は五号車と六号車の喫煙所があるデッキへと辿り着く。ちょうどゴーヤ達の誓いが終わった時で身体の自由を取り戻した。


伊58「周りから超不審な目で見られていたでち……」


黄瞳の伊58「ご、ごめんなさい」


色気な南方棲鬼「ああもう! ヲ級を意識覚醒させるところからやり直しじゃない!」


五号車を抜けてトイレに引き返すと、南方棲鬼は便座にのぼり、通気口からヲ級と戦艦水鬼を引っ張り出した。


ヲ級は気絶している。


南方棲鬼が強い平手で頬を打った。さっきは一発で意識を取り戻したものの、今度は白目を剥いて気絶したまま起き上がってはこない。南方棲鬼が更に強い平手を何度も浴びせたが、結局、鎌倉なヲ級の頬がおたふくのように腫れあがったのみで意識は戻らなかった。


その場で全員が意気消沈し、同じ言葉を漏らした。


どうしよう。



           🌺



丙少将「とんでもねえな。俺さ、あの店で1ゲーム目で中断チェリー引いて、次ゲームでカナちゃんがペカッたんだ。あれを放置して終わりとか一生、後悔するわ」


伊401「優先事項ってものがあるでしょ」


丙少将「分かってるから通信機の増設に走ったんじゃねえか」


タクシーを捕まえて沖縄の中継地点へと向かっている途中だ。目的地は沖縄の糸満市にある水産海洋技術センターの近くにある。ちょうど南方第二鎮守府の近くだった。


シオイはイクとイヨの頑張りをネットで放送されているレース中継で確認している。最初はあの電に沈められて終わる未来しか見えなかったが、どういうことかあの電はイクの共闘を受け入れてすでに択捉諸島の地点まで残り10キロといったところだ。


静岡県まで行けばヒトミがいるので、無傷なイクとイヨとヒトミの三人が沖縄へとやってくる。恐らく電が共闘をしているのはなにかレースに勝つ以外の裏があるのだろう。いつ裏切って攻撃してくるか分からず、シオイは内心でハラハラしていた。些細な動きでも攻撃準備動作に見えてしまって心臓に悪い。


レースのルールブックを広げて目を通す。


何度確認しても、共闘は禁止されていない。ゴーヤの話からして、このレースは裏でいくつも妨害工作をたくらむ深海棲艦達がいるようだ。チーム・潜水艦ズも実際に共闘を結んでいる。ゴーヤが所属するオーネスト、南方棲鬼所属のサウス・セクシーズ、そして南方棲鬼と共闘していて駆逐棲姫をリーダーに据えたチーム・返り咲きプリンセス、電のチーム・イナズマも含めると、四つのチームと共闘関係にある。電は例外だが、他のチームとの目的は、あの電をリタイアさせることだ。あれは必ず立ち塞がる壁といえるので、共闘は正解だという結論に至った。


タクシーが駐車場に入って止まった。民宿のような家の軒先には『ソーキそば』ののれんがあった。腹ごしらえするつもりなのか。ちょうどなにも食べていなかったので、この寄り道には賛成だ。丙少将は言い訳をするように「時間はある。偶然力があるから、気ままに行動してみたら良い方向に転がるかもな」といった。そうだね、と相槌を打っておいた。お腹すいたのだ。


軒先をくぐると、狭い通路と座敷と、色の暗い木製のテーブルと椅子が整然と並んでいて、会計場のほうの壁には有名人のサインが並んでいた。古い駄菓子屋にありそうな瓶の飲み物が入っているクーラーボックスの前を横切り、奥の座席の少し汚い畳にあがった。住人の生活がにじみ出たようなアットホームな店内だ。赤い座布団の上に座って丙少将はメニューを広げた。


丙少将「なあシオイ、沖縄そばってソーキそばと違うのか?」


伊401「ええと、違うかなあ。沖縄そばの中にソーキそばがある。ソーキって甘く似た豚肉のことで、ソーキそばってそれがトッピングされたやつだよ。このクソ暑い中で私は食べる気はしないから、冷やし中華でお願いします」


丙少将「へえ、店内は冷房が聞いているし、俺はソーキそばにしとくか」


店員に注文を終えると、あごを机に乗せて、一息ついた。


丙少将「大丈夫かよ。お前がろーちゃんに繋ぐ沖縄とフィリピン区間が電との勝負どころだぜ。なにもなければイクとイヨとヒトミで対処できるし、それまでにレース中に奪えそうなひみつ道具があれば電にばれないように回収しておけ、と指示は入れてある」


伊401「特に強いのは、逆時計、けんかマシンセット、タイムテレビか」


配布されるひみつ道具もルールブックに記載されていた。各チームが一つずつランダムに配布されて、今回はレース参加者が例年より少なかったとのことであまりもいくつかある。しかし、どれが配布されていて、どれが配られていないものなのかの判別は出来なかった。調べたところ、ネット情報いわく、その三点が今回のレースにおける大当たりの三強アイテムのようだ。イク達が引いたなんでも空港も当たりといわれているが、あの電を抑えられるほどじゃない。


丙少将「次点でビッグライト、無敵砲台だな。ビッグライトは台風の目になり得るよな」


誰か一人、ビッグライトで巨大化させて電を蟻のように潰してしまえるのではないか、と考えたが、電が持っているひみつ道具はけんかマシンセットだ。イナズマのように早く動けて、敵を倒すパンチ力を捻り出す。大きくなった相手の口や鼻から体内に侵入し、内蔵をグチャグチャにしてきそうだ、と考えるとぞっとした。


注文した料理が運ばれてきた。丙少将は器から立ち昇る湯気を鼻ひくひくさせて嗅いでいた。


丙少将「良い匂いだな。この上に乗っている手の平サイズにでけえのが豚肉か」


食事を始めようと割り箸を割ると、入店を知らせる涼やかな風鈴の音が鳴った。ぎょっとした。入店してきたのは、じゅうたんのような厚いマントで身体を覆い隠し、首から上は黒いターバンで顔が見えなくなるくらいぐるぐる巻きにしたマミーのようなやつだった。


「ふう、ああ、涼しい」


ターバンを解いてマントも外した。人目を釘つける異様に白い肌、そして同じく白い髪の毛先は紫がかっており、へそ出しの黒い短い制服には紫のリボンがついている。駆逐棲姫だ。頭の金属帽はないが、足はしっかりとある。鎮守府(闇)のわるさめを疑ったが、あれと違って雰囲気が固い。


丙少将「シオイ、偶然力を信じるか?」


伊401「まさか『返り咲きプリンセス』の駆逐棲姫!?」


高貴な駆逐棲姫「貴様ら高貴なプリンセスである私のファンか。食卓を囲むことを許す」


歩み寄ってきて、座敷にあがると、丙少将の隣に腰を降ろした。

店員がお冷を持ってくる。


高貴な駆逐棲姫「ソーキそば、豚肉なしだ。いいか、肉は入れるな。その分、値段を下げてくれ」そんなことをいい始めた。断られると舌打ちをして「一番やすいそばを」と注文を変えた。


伊401「とても高貴なプリンセスの振る舞いとは思えないよ」


高貴な駆逐棲姫「黙れ。私はこのレースで優勝し、姫の座に返り咲くのだ」頬を少しだけふくらました。「貴様らは高貴な私を知っているようだが、まさか潜水艦ズのシオイか」


伊401「そうだね。知っているなら話が早い。共闘のことは?」


高貴な駆逐棲姫「無論だ。南方棲鬼から連絡が入っている。しかし、奇妙な偶然だな。中継地点に着いてから貴様等を探すか、南方棲鬼のほうにいるでち公を通して待ち合わせを指示しようとしていたが、その手間が省けた。私から貴様等に話があったのだ。ありがたく思え」


丙少将「電を潰す作戦か?」


高貴な駆逐棲姫「それが終わった後だ。南方棲鬼をともに潰さないか」


丙少将「ほお」そばをすする手を止めた。「確かに無敵砲台と逆時計持ちは怖えな」


高貴な駆逐棲鬼「あれは脅威だ。もちろん、黄金のハイビスカスはくれてやる。このままだと勝つのは南方棲鬼だ。あいつらの無敵砲台と逆時計で私達は仲良く潰されてしまうぞ」


丙少将「そうならないために指揮官として俺がいる」


高貴な駆逐棲姫「いいや、力及ばずリタイアだ」鼻で嗤った。「私のチームが持っているのは『タイムテレビ』だぞ。南方棲鬼が勝つ未来が視えたから、それを変えようとこの話を持ちかけたのだ。ただあれも試作品でな、未来は変わるのだ」


丙少将「ひみつ道具を見せてくれ」


高貴な駆逐棲姫「参加登録した時にひみつ道具は配布されるだろう。奪われないように、私の信頼できる側近に預けてある。人里から離れた山奥に住んでいたやつでな、タイムテレビを輸送してもらっている。今は海底列車に乗っていて、待ち合わせ時刻にタイムテレビを受け取るつもりだ」


高貴な駆逐棲姫「ああ、そうだ。チ級のやつから報告が入った。鎌倉なヲ級、電のメンバーだが、あいつがリタイアする未来を観たそうだ」


高貴な駆逐棲姫「とりあえず昨日の時点では南方棲鬼が優勝すると映像が出ていた。それを確認してもらう。それまでに共闘の返事を考えておけ。指揮官殿、私達が手を組んでも未来が変わらない場合の作戦も考えようではないか」


丙少将「そのチ級は本当に信頼できるやつなのか」


高貴な駆逐棲姫「もちろんだ。タイムテレビを輸送しているチ級とは何度も艦隊を組み、私の窮地を救ってもらった。あいつは私の命令に忠実だった。私を待たせるな、と命令すれば、待ち合わせ場所に六時間前に待機しているようなやつだ。今回は十二時間前から指定の列車に乗っている」有能な家来を自慢する姫様のように誇らしげだ。「南方棲鬼派閥は本当の悪党だぞ」


エピソードを語り始めた。


駆逐棲姫の派閥が住んでいた島が台風による被害を受け、木造の屋根が吹き飛んでしまった。困っていた彼女達の前に現れたのが、南方棲鬼だ。欠乏していた物資を通常の相場の三倍の値段で売りつけてきたようだ。当時は物資が手に入らなかったため、泣く泣く買う羽目になったとのことだ。


伊401「困っている人達の足元を見るだなんて確かにひどいね」


高貴な駆逐棲姫「こっちの派閥に入ったら安くしてやる、といって大勢が流れて私の派閥は少人数になってしまった。戦争終結して自由を手にした今、その選択を尊重することしか出来なかった。それから私は転落人生だ。お城のような家も失い、今では鶏小屋に等しい家で暮らしているのだ」


丙少将「深海棲艦も色々あるんだねえ」


丙少将と同じ気持ちだった。ただ深海棲艦とこうして食卓を囲んでご飯を食べるのは新鮮のように思えて、殺し合いを続けていたからか、そういった話は平和的に聞こえるのだった。


丙少将「なんか飯でも追加するか。未来のお姫様に献上しますぜ」


いかにも下郎な風に下手に出た。


高貴な駆逐棲姫「なかなか分かっている人間だな。褒めてつかわすぞ」


ご満悦に浸った様子で、恍惚ふんだんな鼻息を出した。ちょろくて可愛らしいお姫様だった。


丙少将「中継地点から歩いてきたのか?」


高貴な駆逐棲姫「財産である車で来た。黒のランクルだ。あれはいいぞ、かっこいいし、なにより背が高くて前の車を踏み潰せそうだしな。高貴な私に相応しい車の一つであるぞ。それともう一つは車の中にあるバングルだ。宝石や金がいくつか細かく埋め込んである」


丙少将「へえ。あ、店員さんが来たぞ。好きなもん頼め」


駆逐棲姫が好きに注文を始める。それからは気楽な雰囲気なまま、世間話を交えた作戦会議をした。丙少将が何気なく振る世間話もこの世界の謎についてのことで、情報収集の一環のように思えたのでシオイはなるべく静聴に勤め、彼女から得る情報を頭の中で吟味した。


食事を終え、外に出る。そのターバンとマントはどうも日焼けを塞ぐためのものらしい。乗ってきたタクシーは停まったままだ。


高貴な駆逐棲姫「ランクルごとバングルがない」ターバンとマントを脱ぎ棄てて、駆け出した。


高貴な駆逐棲姫「なんじゃこりゃあああ!」太陽に向かって吠えた。なにがないのか、と思えば乗ってきたという黒のランクルが駐車場に見当たらないようだ。「鍵を挿しっ放しだった!」


伊401「ばんぐるないさー」


高貴な駆逐棲姫「なんくるならんわ! 我が王国の財の全てだぞ!」


丙少将「なにかあったのか?」

会計を終えた丙少将が軒先から出てくる。


高貴な駆逐棲姫「ランクルごとバングルがないのだ! 鍵を挿したままだったから盗まれた可能性が高い! 貴様、作戦考える提督だろう! ランクル見つけてこい!」


丙少将「らんくるないさー」


高貴な駆逐棲姫「いい加減にしろ! まだ時間はあるからあの車を見つけるのだ! じゃないとタイムテレビは貸してやらんぞ! これは姫の私からの命令だから何事にも優先されるのだぞ!」


適当に調査すれば偶然力で見つけてしまえそうではある。シオイはため息を吐いた。特徴を聞いたところ、№を教えてもらった。助手席のグローブボックスに一枚の音楽のCDがあるようだ。駆逐棲鬼が戦争中から聴いていて、今や姫の王国の国家ともなっている歌だそうだ。歩いて帰ろう。


伊401「寄り道なんかしてたら、置いてかれるよー」


高貴な駆逐棲姫「貴様、二世紀も前のその歌を知っているのか」びっくりしたような顔だった。「やはり名曲は人類が存続される限り、色あせないものなのだな。貴様の高尚な耳を褒めてつかわす」


伊401「そりゃどうも」


高貴な駆逐棲姫「あの歌を聴いた時、疑問に思ったものだ」駆逐棲姫はゆっくりと流れる羊雲を仰ぐ。「私は足のない深海棲艦だったからな。歩いて帰る、といった表現がよく分からなかったのだ。しかし、今なら分かる。今日は歩いて帰ろう。良い言葉だ。長くなるがあの歌について語ろうではないか。高貴な姫である私からのありがたき言葉だ。ひれ伏しながら拝聴せよ」


長くなりそうだったので、タクシーの運ちゃんから目撃情報を聞いてみたところ、うとうとしていたので全く覚えていないとのことだ。丙少将が後部座席に乗り込んだ。駆逐棲姫が「おいシオイ、扉を開けろ」とあごで使ってくる。運ちゃんがボタンを押すと、自動で開いた。


高貴な駆逐棲姫「おい提督、余裕そうだが、アイデアはあるのか?」


丙少将「姫様、『タイムテレビ』を使うのはどうでございますか」


素晴らしいアイデアだ。シオイは拍手した。


高貴な駆逐棲姫「ふ、ふん。た、た、試しただけだぞ。私もそのつもりだったさ」


嘘は苦手のようだ。

しかし、このようなドジなお姫様と手を組んで大丈夫なのだろうか。



2



チ級とは沖縄の中継地点で待ち合わせをしているようだった。駆逐棲姫がチ級に持たせてある通信機からチ級に連絡を取り、タイムテレビでその車を調査してもらったところ、食事を取ったお店の近くの空き地に乗り捨ててあることが判明した。タクシーの運転手にその場所に送ってもらったら、路中に扉が開いたまま、放置してあった。鍵は挿しっ放しでエンジンはかかったままだ。


伊401「これ、もしかしてレースの妨害でさ、タイムテレビを狙ったんじゃないのかな」


高貴な駆逐棲姫「その線が濃いな。思えばやけに後ろについていた車があった。ふう、やはり私が所持しておかないで良かったな。あれを盗まれたら勝ち目がなくなってしまう」


丙少将「南方棲鬼にもタイムテレビの情報を流しているのかよ」


高貴な駆逐棲姫「電に関する情報は事前にいくつか渡しているが、逐一あいつらに有利になる情報を教える訳がないだろう。タイミングを見計らって、タイムテレビで嘘を教えて意地悪してやろうと考えていたが、あいつらは電を潰すのに必要な戦力だからな。共闘が決裂しないよう慎重に行動している」


そんなペラペラと電を倒せば敵になる私達に教えてもいいのか、とシオイはこの姫様と共闘をしていることに不安を覚え始める。わざと、という線も考えたが、文字通り胸を撫で下ろして、「次からは鍵をちゃんと抜く」心から安堵している姫様を見ている限り、そんな風には思えない。


高貴な駆逐棲姫「褒美をやろう。特別に我が宝に乗せてやる」


助手席に乗り込んだ。ふかふかの黒シートにもたれた。背の高い車で、フロントガラス越しに前を通ったタクシーを見下ろせた。駆逐棲姫はグローブボックスを開いた。そこにはCDがいくつか入っていて、その他にもカセットテープも入っていた。この車、カセットテープも聴けるのか。


伊401「カセットテープ?」


200年も先の未来の世界だと聞いていたが、こんなものがまだ車で聴けるのか。


高貴な駆逐棲姫「変なことを聞くやつだ。我々の戦争の傷痕のせいで、文明は150年も文明の進化が遅れたみたいだぞ。確かにカセットテープを再生できる車は稀だな。これは私が部下にいってつけさせた機能だ。個人的な趣味でもあるが、なによりカセットは安いから助かるのだ。それはどこかの店の先のワゴンでまとめ売りをしていた沖縄ソングとか色々入っている。計100曲で百円なんだぞ。電子の世界よりも安い。音質は勝てんが、味があるのも事実だ」


伊401「へえ、でもこれ空けてないね」


ビニールの封でカセットが包まれていた。


高貴な駆逐棲姫「ああ。聴いてみるか」


封を破って一番上のカセットを入れてみた、シオイも知っている有名な沖縄ソングの曲が詰まったテープだ。テープが機具に吸い込まれて、読み込みを始める。一番目の曲は涙そうそう。耳に馴染んだ柔らかく穏やかな前奏が始まる。歌いだしは知っている。古いアルバムめくり、ありがとうってつぶやいた。歌が始まった。


《ぶうるういー、あるがむう、めえええくりい、ありが》


駆逐棲姫がテープを止めた。「シオイ、今の歌声は気のせいか」


伊401「気のせいじゃないよ!」


聞こえたのは女性ではなく、明らかに謎のオッサンのダミ声だ。駆逐棲姫は恐る恐るといった風に震える指先で再生のボタンを押した。《とうって、ささやいたああああ、うー》


高貴な駆逐棲姫「謎のオッサンの下手くそな歌、しかもうろ覚えじゃないか!」


伊401「最後、うーって独自のアレンジ入れてきてたよ!」


高貴な駆逐棲姫「くそ! あの店、このレースが終わったら覚えておけ!」


駆逐棲姫はテープを出してゴミ箱に捨てていた。


丙少将「ふう、すまん。タオルねえか。汚れた」頬を黒く染めている、「ああ、念のために車に変なもんつけられていねえか確かめさせてもらっていた。レースの事情的に最悪、爆弾とかあったら溜まったもんじゃねえしな。妙なパーツや加工はなかったから安心だ」


伊401「丙少将、車いじれたんだ」


丙少将「一時期、遊び呆けていた時期にツレから車を安く売ってもらって、改造して遊んでいたことがある。あいつは良いやつだが荒れていてな、風の噂でヤクザになっちまったって聞いた。獅子っていうあだ名なんだが、ケンカが強くて面倒見が良くて人望があるやつだったよ」


高貴な駆逐棲姫「ご苦労、布は適当に後ろの荷物から使うのを許可しよう」


丙少将が後部座席に乗り込み、扉を締めた。キィを捻ってエンジンをかける。駆逐棲姫はサイドミラーを見てから身体を曲げて、目で後方確認をすると、ウインカーを出してアクセルを踏んだ。車はゆっくりと走り始める。「沖縄って戦地だったんだろう」と駆逐棲姫はいう。


伊401「あ、うん、そうだね」


後部座席の丙少将が後ろにあったバッグに無造作に手をつっこみ、取り出したなにかで顔を拭っていた。丙少将はタオルではない、と思ったのか、それを広げる。ぱんつだ。お姫様の下着で顔を拭く丙少将を視線で批難する。「違う」「気付けよ」「違うんだ」丙少将は下着をバッグの中に戻す。


高貴な駆逐棲姫「戦争終結した時に戦後処理で慰霊碑がたくさん増えた」


伊401「深海棲艦のも?」


高貴な駆逐棲姫「当然だ。私は戦争終結してから艦娘の慰霊碑のところへ出かけた。当時は石を投げられたものだが、見ておく必要があった。お互いに否定し合う戦いの中、失われた命の名を覚えておこうとしたゆえなのだ。その行為は正しいと思っている。だが、我々と艦娘の違いがあった。艦娘は戦後30年は深海棲艦の慰霊碑の前に現れなかった。これについては我々と艦娘のどちらが正しいのか、分からなかった」


深海棲艦と講和しており、このように姫種と日常の中にいるから、深くは考えなかったが、この世界には思いの他、戦争の傷痕があるようだ。


高貴な駆逐棲姫「艦娘や深海棲艦は寿命が通常の人間よりも遥かに長い。その歴史の傷痕は後世に残っていくが、決して次世代の不幸の種にしてはならないと私は考えている」


確かに過去の過ちを憂う者のか細い声だった。


高貴な駆逐棲姫「あの戦争の中で生き残った者同士だ。仲直りとは行かんが、いつかは未来のために手を取り合える仲になれたら良いと思っている。それこそがあの戦争で死んだやつらへの手向けだろう。そのほうが皆が喜ぶはずだ、と勝手ながら私は考えている。そのためにこのレースで優勝して私は返り咲き、深海棲艦達と人間、艦娘の世界をそんな未来に導こうと思うのだ」


丙少将「すごいな」目を丸くしている。


抽象的で幼稚な感想だったが、シオイも全く同じことを思っていた。駆逐艦種の長である駆逐棲姫だ。戦争中、深海棲艦の中で最も犠牲者が出たのは駆逐だろう。なにもしていなくても沈められるような弱い駆逐の深海棲艦がたくさんいたはずなのだ。それを踏まえてこの答えを出せる彼女は本当に高貴でお姫様に相応しい心の持ち主なのではないだろうか。胸を打つ告白だった。


伊401「夢を視たことがあるんだ。そう、変な夢」そう強調して続けた。「もしも深海棲艦が戦争に負けて全滅してその生き残りがいたとして、彼等は何を望むと思う?」


バックミラーに映る丙少将の表情が引き締まる。このように考える深海棲艦ならば今、向き合っているトビー&ズズムの心境が分かる答えを持っているのではないか、という純粋な興味だ。


高貴な駆逐棲姫「そうだな、ひっそりと暮らすか、死ぬだろうな」


伊401「もしも助けようとしてくれる艦娘がいたら?」


高貴な駆逐棲姫「難しいところだ。少なくとも生き残ってしまった、という思いが強くなるはずだ。逆の立場で想像してみろ。周りに人間がいなかったらどう思うんだ。深海棲艦一匹を残らせておくよりも、禍根を完全に絶つために殺したほうがマシだと思うがな。私ならそうするだろう。そのほうがお互いのためになるはずだ。200年経過した今だって溝は埋まらないままなのだぞ」


伊401「憲法があるよね。生きていくのを保証する権利とか、深海棲艦も人間なんだよね」


そんなことを口走る。シオイは憲法のことを漠然としか把握していなかった。納税とか宗教の自由とか勤労とか、そういったことが保証されているのなら、いくらでもやりようはあるんじゃないかな、とほとんど蜘蛛の糸にすがるような気持ちだった。


高貴な駆逐棲姫「自由で公正な社会だろうが、結局は人間の多数決次第だ。シオイのいう問題は権利うんぬんではないのだよ。お前、兵士でありながらそんなことも分からないのか」


もしかしたら深海棲艦から人間に変えて生きるという選択肢は間違いだったのかもしれない、という疑問が産まれた。駆逐棲姫がいう通り、彼等が人間になっても深海棲艦だった過去は消えない。200年経ってもそうならば深海棲艦として長い年月を経てこの駆逐棲姫のように遥か遠い未来の先に向かう必要があるのではないか。


小難しい理論が脳内で展開されて頭がショートしそうになる。


シオイは准将のことを人間的に好意的に捉えていなかった。


戦争中は電もだったが、今だと准将のみだ、妙な不信感が捨てきれずにいた。合同演習時からの先入観が強いだけかもしれないが、周りがいうように変わったとは思えなかった。例えるのならどす黒い固形物の塊が、色をそのままに柔らかくなったような感じだ。固形物の機械がその硬度で人を傷つけることから、柔らかく包み込み溶かすようなそんな手法に変わっただけのような印象だ。


電やわるさめ、神風、准将と親しい人達よりも、私のように一歩距離を置いた場所から観察している人からの評価のほうが的を射ている場合もあるのでは。シオイはそう考えている。


シオイがアカデミーにいた頃、ちょうど准将が軍学校に在籍していた。


提督のほうと合同で行う訓練もあった。その時にあの特徴的な風貌は一度だけ見て、覚えてはいた。フレデリカの瞳からは妙な怯えの色を感じ取ったのだが、准将の瞳はただの穴に見えた。石を投げ込んだらスコーン、と音が返ってきそうな空洞だ。


車の速度がゆっくりと落ちていった。


子供が横断歩道を渡るために押しボタン式の信号を押したからか、信号が黄色に変わっていた。


准将がロボットだとか機械だとかいわれる根本はあの仕組みと同じだろう。


准将は逆らえない力でボタンを押されたら、あの信号と同じく電気を伝って赤色から青色に変化するかのように、その手に構えた銃の引き金を引いて、人間の命を奪えるのではないだろうか。戦争後遺症とも無縁そうな性格をしているし、兵士としての殺人には才能がありそうに思えた。


人間次第だ、と駆逐棲姫の言葉も理解した。発射された銃弾は瞬間的に偉大な憲法を人生ごと木端微塵にするだろう。今回の雨村レオンとトビー&ズズムの問題は難解だ。


伊401「なにさ」バックミラーでにやにやしている中年オッサンの顔に向かっていう。


丙少将「ちょっと今、脱皮しそうになってた」


伊401「なんだそれ。私はサナギかよ」


丙少将「でかいことを真剣に悩んでいただろ」


伊401「なんであんたは今そんな悩みがなさそうなんだ」答えでも出ているとでもいうのだろうか。楽観的なイヨと比較し、丙少将はそれに加えてどっしりと構えているように見えた。「答えはあるなら教えてよ。提督じゃん。ほら、悩める美しい艦娘が目の前にいますよー」


丙少将「なぜお前は真剣に悩むんだよ」明らかな含みのある笑いだった。「終わり」


伊401「なんじゃそれ。役にも立たない提督だなあ」


高貴な駆逐棲姫「いや、教育者としては中々よく出来た提督だと思うぞ。腹立つのは同意だが」駆逐棲姫は眉間に皺を寄せる。「私達にも良き提督がいたら、どんな未来になっていたのだろうか」


丙少将「俺は深海棲艦が好きじゃねえ。こうやって喋れているのも、共闘の目的があるからだ。だが、お前らみたいな連中に紹介してやりてえ提督はいるんだがな」


高貴な駆逐棲姫「ほう、どんなやつだ」興味深そうだ。


丙少将「このレースに電いるだろ。深海棲艦よりも性質が悪い」


高貴な駆逐棲姫「そうだな。あいつは人間だからこそ最悪だ」忌々しそうにいってから、悪寒を感じたかのように身体を震わせた。「あの悪魔は艦娘のくせに提督も兼ねている。暴君だ」


丙少将「そいつが命を捧げて忠誠を誓う。あの電が普通の女の子みたいに丸くなるんだぜ」


准将か、とシオイは納得した。確かにこちら側で誰が深海棲艦と上手くやれそうか、というと、やはり深海棲艦と妖精に対して理解が深く、電とわるさめの手綱を握り、強い信頼関係を結べた准将だろう。中枢棲姫に「艦娘なら、あなたの秘書官をやってみたい」とまでいわせた提督だ。


高貴な駆逐棲姫「それはどこの国の二次創作だ」信じられない、といった顔だ。「もしかして貴様はこの高貴な姫である私を巧妙に騙そうとしているのではなかろうな」


丙少将「俺は『全員生還』の指揮を取っているんだ。そこ周りはまだ真面目に悩める」


高貴な駆逐棲姫「どういう意味だ」


丙少将「そいつはとにかくすごいやつなんだ。お前らの問題も一気に解決しちまうだろう」


丙少将と准将は仲がよろしくないことで有名だった。このような台詞を吐くことに違和感があった。丙少将野含み笑いは消えていない。明らかになにかを企んでいる。


高貴な駆逐棲姫「しかし、あの電を御せるくらいの提督でないとこの高貴な私の指揮は取れんな。話を信じてはいないが、そいつはさぞかし素晴らしい提督なのだろう。シオイ、そうだろう」


伊401「へ、あ、うん。世界を救う戦いで最高勲章をもらうような提督だよ」


高貴な駆逐棲姫「なんだそれは。やはりホラ話か」


丙少将「ホラ話じゃなかったらどうする」


丙少将はなにか准将に押し付けようとしているように思える。もしも彼等のように温厚で面白い深海棲艦が准将と出会えたのなら、どんな風になるのかな、少なくとも戦争になる気はしない。


高貴な駆逐棲姫「私の高潔なオヘソにキスさせてやってもいいぞ」


丙少将「そいつにその権利をやってくれ。その栄誉は俺には身にあまる」


高貴な駆逐棲姫「ふむ、承知した」


そんなあほなやり取りをしていると、目的地の中継地点に辿り着いた。



3



夜はこの車で明かすこととなった。イク達がやってくるのは順調に行けば朝方だった。交代で睡眠を取り、なにか非常事態が起きたり、通信が入れば、丙少将を叩き起こす役目を担った。ただイク達からの通信は電がいるため、なるべく控えることにしているようだ。こまめに放送を見ているが、電と仲良く、といった風ではないものの、着実に沖縄へと向かっている。がんばれ、と応援した。沖縄からフィリピン区間は任せろ。


車の中から抜け出て、駐車場に出た。


深夜だからか、人気がなくなっている。いつもなら終電の時間なのだが、レースのため、ゴーヤが乗っている列車はぐるぐると海底の線路の上を走っているのだろう。駅の蛍光灯の明かりをぼけっと見上げた。小腹が空いたのでなにか買いに行こうと構内に入った。


売店はまだ開いていた。牛乳と菓子パン、それと暇潰しになるものを求めて雑誌コーナーに向かった。


伊26「(゜ρ゜)ポケー」


ニムが口からよだれ垂らして突っ立っていた。


伊26「えへ、えへへえ」


仲間のニムなのか、他のニムなのか、観察していた。動物の雑誌を広げて、可愛い子犬達の写真を眺めている。


伊401「ニムじゃん。着いたなら連絡入れなよー」


伊26「あ、シオイちゃん。ごめんごめん、ちょっと飲み物買ってから連絡入れようと思っていたんだけど、この子達が可愛くてねえ」雑誌と、スポーツドリンクを取ってレジへと向かった。


シオイも目的の菓子パンと牛乳を買って、売店を出た。


伊26「いやー、びっくりしたよ。いきなり静岡で誰もいないし、深海棲艦とか街中にいるもん。幸い、鎮守府(闇)とそう離れていなかったから、なんとか場所は分かったけどさ、自由に泳いで移動するのは禁止されているみたいだから戸惑ったよー。海底列車で来られたから良かったよ」


伊401「この世界には変なルールがたくさんありそうだよね」


ニムは丙少将の指示で今回はレースには出ずに道中、レースやこの世界のことの情報を集めながら来るように、と指示されている。


伊26「色々と調査したよ。ほら、例の電ちゃんだけど、色々とあったみたいだね」


伊401「そりゃ3世紀くらいも生きてりゃ色々とあるよねえ」


伊26「青山開扉と出会っていたみたい」


伊401「え。でも人間だから寿命的に死んでるよね?」


伊26「死んでる、けど、寿命じゃない。殺されたみたい」


ニムは悲しそうに、瞳を伏せた。

聞けば、あの電と提督のコンビはこの世界でもオラオラしていたそうだ。明石えもんのひみつ道具により戦争終結した後も、深海棲艦に恨みを買われていて、殺されてしまったようだ。ならば、あの電は激昂したはずだ。


伊401「犯人の深海棲艦は?」


伊26「まだ捕まってるって。電ちゃんはなんでか報復をしていないみたいだね」


伊401「なんかひっかかるね」


鎮守府(闇)の電ならば、もしも准将が殺されたのならば間違いなく、その相手を許さず、放置もしておかないだろう。こちらの電と青山開扉の絆はそれほど愛憎に染まっていないのだろうか。それとも電には他に優先する目的があるとか。考えてもキリがないので、ほどほどにして、思考を牛乳パックと一緒にゴミ箱に捨てた。


ニムと駐車場で世間話が弾んで、深く話し込んだ。眠気は訪れず、朝日が来たほど新鮮な世界での話は尽きなかったのだった。太陽が空を白く染め始めた頃、駆逐棲姫とと丙少将を起こした。二人ともよく熟睡出来たはずだ。


伊26「ふわあ、眠い……駆逐棲姫さんだっけ、初めましてえ」


高貴な駆逐棲姫「初めまして。そうだ、貴様は選手登録はしていないんだろう。この車にレースが終わるまで乗っていてくれないか。報酬は弾むぞ。寝ているだけで、バングルをやろう。この車がまた盗まれないか心配なのだ」


伊26「ふぇ、丙少将どうすればいい?」


丙少将「ニムにゃ中継地点でマネージャーみたいに働いてもらおうと思っていたんだが、まあ、俺ががんばればいいか。ここで寝てくれてもいいが、勝手な行動は慎め」


伊26「はーい。ではおやすみなさーい!」


後部座席で横になり、眠り始めた。


丙少将「シオイ、お前徹夜していたみたいだが大丈夫なの」


伊401「よゆーよゆー」


丙少将「若いねえ……」


高貴な駆逐棲姫「お前ら、早く行くぞ」


後部座席のバッグの持ち手をつかんだ時だった。

窓から集積地棲姫が中を覗き込んでいた。


高貴な駆逐棲姫「逃げろ! こいつは南方棲鬼の派閥に所属するキラーだ!」


集積地棲姫「タイムテレビはどこですかー。車を返してからも後をずっとつけていたけど、タイムテレビを取り出した気配がないですよね。もう直接聞きに来ましたー」


ガラスにタオルを押し付けて、その上から銃口を押し当てていた。


全員で逆の扉から飛び出した。


ニムは寝ている。

呼んでも、一向に起きる気配がなかった。



           ⚡



静岡の中継地点はお通夜だった。応援の熱を感じる手作りの鉢巻や旗が虚しくコンクリートの上に転がっており、深海棲艦達は地面を殴りつけたり、流す涙の滴がアスファルトを濡らして丸い染みを作っていたりと、お祭りの賑わいは全くなかった。北極海からここに来るまでの間、電がチームの8割を沈めた。砲雷撃や攻撃のひみつ道具もイナズマソックスの速度によって封殺され、戦艦の装甲も一撃で砕くパワー手袋により、一撃で撃沈して海の藻屑へと化したのだ。


伊13「い、イヨちゃん、がんばって。負けないで」


伊14「うえええ、ヒトミちゃあん」泣いている。「こんなの共闘というか奴隷だよお!」


その通りだった。イヨと静岡で合流したヒトミは、電がくつろぐボートにくくりつけられ、生きるエンジンとして稼働させられている。イクは晴嵐を飛ばし、辺りの偵察に専念している。なにか重大な情報を見落とせば共闘を破棄して沈める、と宣言されたため、海鳥一羽さえ見落とさないよう神経を張り巡らしてきた。すでに赤疲労だった。航行する足が鉛のように重い。


ぷらずま「ダボが。私が悪者みたいな言い方は止めて欲しいのです」


ゲシゲシとイヨの頭を蹴っている。


ぷらずま「あなた達もこれが勝利するためだと納得しているからこそ、甘んじているのではないのですか。扱いが嫌なら共闘を放棄すればいいだけの話ですよね。私は共闘を申し込まれたので受けてやったのです。嫌ならばいつでも襲いかかるなり逃げるなりすればいいのでは」


なにも言い返せなかった。あの電もそうだった。こんな風に王様を気取るが、その発言内容に理があるのだ。深海棲艦との戦争中ならば、こんな風にプライドをズタズタにするだけでは済まないだろう。戦争終結を掲げて、甘えたことを発言したのなら、三途の川が見えるに違いない。


伊14「で、でも、もう疲れたよ。北極海からずっと引いてきて」


ぺっと電がイヨの顔に唾を吐きかけた。


伊14「う、うええええええん!」


とうとう派手に泣き出した。その泣きっ面にまた唾を吐きかけ、ゴミを視るかのような目を向けていた。ヒトミが大きく両手を水面に打ちつけて、きっと電をにらみつける。


伊13「我慢の限界ですっ。イヨちゃん、泣いているのに……!」


ぷらずま「はあ、仕方ないのです。ボートに乗るのを許可します」電はイヨの身体のロープを解くと、片腕をつかんでボートの上へと乗せた。「そろそろ黙らないと痛くするのです」


伊14「う、うん。あ、ありがとう。ヒトミちゃん、イヨは大丈夫だから……」


ぷらずま「私の足をマッサージする役目を与えてやるのです」


正しく暴君として君臨している。その保護下にいる代わりに奴隷のように働かされる。


伊19「イヨ、ヒトミ、沖縄につくまでの我慢なのね……!」


丙少将からの連絡は途絶えていた。通信は届いていても、応答はなかった。電に余計な情報を与えないためだろう、とイクは判断した。


そして電の存在を把握しているはずなので、無策でいる訳がない。この静岡から沖縄へのルート、それか沖縄からフィリピンのルートで策が展開されるはずだ、とイクは考えていた。そう考えないと精神が持ちそうになかった。


シオイ、ニム、ろーちゃん、ゴーヤもただ祈っているだけというのはあり得ない。今はただリタイアせずに繋ぐことが役割のはずだ。


いつもは広大で雄大で至って穏やかな海なのだが、ハリケーンの時よりも心身が悲鳴をあげていた。通勤路といってもいいルートに入ってなお、電が時折、醸し出している殺気と敵意が、岩窟機のようにゴリゴリと精神を削ってくるのだ。あの渡り鳥のように翼が生えて国境を越えてしまいたい、と妄想をかき消すように、電が声を投げて来た。


ぷらずま「識別№0001の工作艦明石、通称、明石えもんとかいうやつを知っていますか」


伊19「い、色々とひみつ道具を作った人なのね」慎重に言葉を選んだ。今までも何度か会話を投げてきたが、なにか的外れな返答をすると、誰かが殴られるのだ。「それがどうかしたの?」


ぷらずま「ダイイングメッセージが発見されたのですよ。機密なのです。『私は世界の真実を知ってしまった、神のシステムに殺されてしまうでしょう』なのです。気になりましてね、個人的に調べているのですが、世界の真実がなにを示して、神というやつの尻尾もつかめておりません」


伊19「そ、そう。イクにもさっぱりなのね」


ぷらずま「ちょっと人里を荒らす深海棲艦勢力をまとめて沈めてしまったのですが、そのせいで懲役刑を150年も喰らってしまいましてね、なかなか再調査に乗り出せなかったのですが、今回のレースの存在を知って、とあるひみつ道具の奪取のために参加したのですよ」


伊14「何のひみつ道具?」


ぷらずま「『タイムテレビ』なのです」腕を組んで、眉間に皺を寄せる。「あの未来や過去を視ることが出来るひみつ道具ならば、明石を殺した犯人も分かるはずなので、政府がお縄にしていないとおかしいのですが、そのような情報はありません、なにか臭いと思いませんか」


雨村レオンの想力工作補助施設が関わっているのかもしれない。そうとしか考えられなかった。もしかして明石えもんはこの世界の真実を知り、殺されてしまったのではないだろうか、とイクは推理した。細かい手法は全く分からない。こういうのは提督勢に知らせるのが賢明だ。


ぷらずま「まあ、明石の開発したひみつ道具なので欠陥が備わっているオチもありますけどね。逆時計みたいに明石えもん印のマークが半分だけしかなければ、機能がかなり限定的なことを示すので、タイムテレビを手に入れて確かめてみるのです」


伊14「でも誰が持っているか分からないんだよね」


ぷらずま「多分ですが、タイムテレビを持っているチームはそう簡単にリタイアしないのです。事前に未来を視ることができるのですから対処はしてくるはずです。そして私を必ずどこかで沈めようとしてくるでしょう。逆時計の所持チームならば、使うべきタイミングは二つです。私を沈めにかかる時でしょうね。その時に敵を鹵獲し、拷問してでも吐かせてやるのです」


電はため息をついた。「南の海域で仕掛けてくるはず。私のハバカクは氷の艤装なので展開時間が大幅に制限されますからね。有利な場所で仕掛けてくるのは間違いないのです。それも、勝利の未来を確信して」


伊14「そだそだ。トランスできる深海艤装は1種なの?」


何気なく重要な情報を探りに出た。恐らくイヨにその意図はない。電の眼つきが変わった。イヨの頬を両手でサンドして、「オイ」と地を這うような声を出した。「トランスってなんだ」


伊14「え、だから引き出しはあの氷の艤装一つなの?」


ぷらずま「私の深海艤装は電艤装の装備スロットに想を入れて身にまとうのです。トランスって表現は初めて聞いたのです」


伊19・伊14「あ、しまった」


ぷらずま「テメーらの識別コードを述べろ。五秒数えます」パアにした手の平がグーの形になっていく。五秒では上手い言い訳を考えつかなかった。「一体なに者なのです」


初めて警戒するような眼差しを向けられた。


伊13「取引をしませんか」力強くいった。


ぷらずま「テメーらの口を割らせることなぞ」


伊13「死んでも喋りません。でも、取引をしてもらえるのなら、知っていることをレースが終わった後にお話します。その明石えもんの死の真相も解けるかもしれません。私達が欲しいのは『黄金のハイビスカス』です。それと引き換えにあなたが気になっている情報を話します」


ぷらずま「約束できるのです?」


伊13「はい」


二人はしばし見つめ合う。


ぷらずま「へえ、ちゃんと兵士の顔を出来るではないですか。構いませんよ。黄金のハイビスカスに興味はありません。深海棲艦にとって大事なものなので、このレースは私以外を血祭りにあげ、それを奴らの前で破壊してやるのです、程度にしか考えていませんでしたからね」


伊19「ひ、ヒトミ、感謝するのね!」


伊14「さすがヒトミちゃん!」


災い転じて福と成す、とは正にこのことだった。対等であり、最強の味方を手に入れたといっても過言ではなかった。心なしか、身体が軽くなった。景色が眩しく見えた。イクはカタパルトに着艦した晴嵐の映像を確認し、妖精さんから報告を聞いた。敵機を発見していた。


伊19「ぜ、前方に、せ、戦艦仏棲姫なのね!」


遠くにうっすらと見える。その小さな形は異常な速度で巨大になっている、近づいてきたのではない、と判断した頃には空を見上げていた。巨大化した。大きな波の揺れを感知した。津波が来る、イヨとヒトミも感知したようで、海中に慌てて潜った。


伊13「ひみつ道具?」


伊19「きっと『ビッグライト』なのね! 配布アイテムの中にあったし!」


伊14「ゴジラみたいな大きさだったんだけど!」


あのサイズでは装備している兵装では歯が立たない。基地からレールガンのような兵器を持ってきても勝てるかどうか。海の底が悲鳴をあげるかのように、振動した。砲撃をぷっぱしたのだろう。振ってきた砲弾は海に風穴を開けるかのように遠くで海底へとストレートに直撃した。周辺を泳いでいたサメが水中で何度も回転していた。海の怒りのような一撃だ。


伊19「とにかく全力で逃げるのね。迂回してあの怪獣を避けて沖縄に進むのね!」


伊13「電さんと相討ちしてもらえれば願ったり叶ったり、ですね」


その通りだ。全速前進で潜水航行を開始した。


何度も身体が水の振動で揺らぎ、舵が狂った。ヒトミが足を捻ったのか、足首をさすっていた。その手を取って引き寄せて牽引した。五分程度、進んだところで海の狂乱が静まった。まさか電を倒したのか、と海面に向かった。少しだけ確認をしようと、海面から顔を出した。


血が噴き零れている。


電が神速で海を駆け、その巨体をパワー手袋で殴りつけていた。「アッハハハ!」電の高らかな笑い声が聞こえた。痛みに身をよじった深海仏棲姫の口の中に飛び込んだ。鼻の穴からイナゴの大群のように対潜哨戒機が飛び出して、また口の中に侵入した。「ウアアアア!」断末魔の叫びが轟く。体内に侵入した無数の艦載機が暴れ回っているのだろう。身体の内側から蜂の巣にされている。


その巨体がよろけて、前のめりに倒れて、水しぶきが爆ぜた。


伊19「けんかマシンセットと電の組み合わせ、強すぎるのね」


乾いた笑いが出る。水とともに固形物が顔を打ちつけた。波の上に揺れていたのは懐中電灯のような形状をしたものだ。ビッグライト、と予想が過ぎり、すぐさまそれを手に取って、ポーチの中にしまい込んだ。強力なアイテムだ。なにか使える時が来るかもしれない。


伊14「イクちゃん、早く逃げなきゃ。とっととシオイのところへ!」


ぷらずま「全くなのです。逃げるだなんて悲しいのです」


俊足。


ぷらずま「全く、あの深海仏棲姫には無能な指揮官でもいたのでしょうかね。ルール上、この海域ではビッグライトは使用禁止だったはずなのです。裏をかいたつもりなのでしょうか」


伊19「え、ええと、その」


ぷらずま「黄金のハイビスカスを渡せばいいのですから、あなた達を半殺しにしても契約違反にはなりませんよね。ああ、でも疲れたので私を背中に乗せて沖縄の中継地点まで泳いでもらいたいですね。嫌ならボートにしてさっきみたいに双子に引いてもらうのです。対等ですから選んでくれて構いませんよ。文句があるのならどうぞ。さあ、早くなにかいうのです」


伊19「了解なのね。イクの背中を貸すの」命惜しさに敬礼した。


願わくは明日が欲しい。ただそれだけを思った。


あの鎮守府(闇)がどういう場所だったのか、身を持って思い知った瞬間だった。



           🚃



夜が明けても、鎌倉なヲ級は起きない。

沖縄へと向かう電車、その四号車両、向かい合った座席はどんよりとした重い闇が圧し掛かっている。黄瞳のゴーヤ、南方棲鬼、そしてその隣にはいまだに意識を取り戻さない鎌倉なヲ級と戦艦水鬼が並んでいる。鎌倉なヲ級を利用して、電の艤装に細工しようという試みは失敗濃厚でその代打案が思いつかないまま会話は途切れ、各自頭をひねらすも、雰囲気は鉛のように重くなり、絶望を予感し、今は毒でも含まれているかのような瘴気すら漂い始めている。


丙少将から連絡が来た。

《どこにいる?》


伊58「列車だよ。もうすぐ沖縄。ゴーヤは頭を使いすぎて眠いでち。そっちにつくまで少し目を閉じているでち」


通信を切った。


黄瞳のゴーヤが連絡のやり取りをしている。チームは誠実なヲ級というリーダーがこのレースを死地と定めるかのような決死の輝きを放ち、北極海から沖縄のコースを一人で奔走しているようだ。そのガッツの源が愛だというのだから、ドラマチックだ。しかし、そろそろ限界が近いとのことで、「ゴーヤ君、着いたら後は任せたぞ」との言葉が聞こえた。


黄瞳の伊58「ご、ゴーヤのチーム、1位みたいでち。電の前にいる」


色気な南方棲鬼「まあ、潜水艦ズのお陰でしょうね、なぜだか知らないけど、電はあの連中に興味を抱いて会話に興じているみたいだからね。フィリピンと沖縄周辺で仕掛けられるのも気付いたのか、それまでの航路は八割をリタイアに留まった。最悪、全滅するかと思っていただけに、これは吉報といえるわね。私達のチームはがんばってくれているわ」ニュアンスから感じるのは自嘲だった。「でも、一位だからなによ。電のいなずまソックスがある以上、その気になれば抜かれるだけ」


伊58「それをいうなら電を倒せばいいだけでち」


そう言い返した。誠実なヲ級ががんばって沖縄に一位でそのバトンを届けに来たことを、鼻で嗤った南方棲姫が癪だった。とんでもないお祭りレースではあるものの、少なくともそのがんばりは神聖で、こんなところで地団太を踏んでばかりのゴーヤ達がけなしていいものじゃない。


色気な南方棲鬼「じゃあ、どうするのよ」


伊58「倒せばいいんでち」


丙少将から通信が来た。すぐに応答する。《良い案が浮かんだ》最初の一言はそれだった。詳しく話を聞いたら、なんと電を倒すために焦点を当て、策を考えたとのことだ。交渉がかったるいから、電と実際に戦闘するのは潜水艦ズが担当し、十秒の足止めを行えたら、合図を行い、逆時計で時間を巻き戻す。そのタイミングを示し合わせて、無敵砲台で仕留めるとの算段だった。


その案を南方棲鬼に伝えると、露骨に嫌そうな顔をした。


色気な南方棲鬼「それで仕留め損なったらどうするの。逆時計は対象を視界に捉えていないと作動しないのよ。失敗したら逆時計のアイテムを持つやつを沈められる、アイテムが奪われたら絶望ね。タイムテレビを見て仲良くトドメ刺されて、ルーザーパーティーの準備でもするのかしら」


伊58「他に案があるの?」責めた。「このレースはあくまで最初にゴールしたやつが優勝するんだから、お前は最後の手段として逆時計を取っておきたいから躊躇っているだけじゃないの。だって、ゴール付近で電ちゃんから10分以内の時間差でゴールできるやつがいたのなら、そこで逆時計を使えば勝ったも同然でち。それは他のチームに対してもそうだよね?」


頭に浮かぶ言葉を並べ立てた。これは沈黙の時間で考えていたことだった。無敵砲台ではなくとも、逆時計は強力なアイテムだ。その逆らえない力は体感している。使用を躊躇うのは万が一にでも奪われたくないだけ。だからそれ以外の方法を探していたに違いない。それがゴーヤの結論だ。


潜水新棲姫《ええ、車掌よりお知らせです。近場の海域に怪獣が出現、運航中の列車に激しい揺れが伴います。そのため御乗りのお客様は近くの座席にお座りいただくか、バーにお捕まりください。揺れが来るまで残り一分です。繰り返します》


黄瞳の伊58「近場の海域に怪獣が出現とか初めて聞いたでち」


車両の中の乗客がざわついた。異常事態のようだ。みなが座席に座ったり、取手の棒を握ったり、と揺れに備え始めていた。


少し経った後に、電車が震えた。携帯の振動のように、ぶるっとした揺れだ。その後に、誰かが車両をつかんで揺らすかのようなシェイクな振動が始まった。シートの上にある荷物の置場から、バッグやカバンが落下し始めた。


色気な南方棲鬼「きゃあっ」


揺れで尻が浮いて、お隣の鎌倉なヲ級にもたれかかる。その拍子に、地面に逆時計が転がった。ゴーヤはすぐさまその逆時計に飛びついた。勢いよく、飛び出したので、顔を地面にぶつけた。しばらくすると、振動が収まった。スク水の胸口を広げてそこに逆時計を収納しておく。


潜水新棲姫《えー、今から係の者が各車両を見回ります。今の揺れで御怪我をなされたお客様がおりましたら大至急、近くの職員にお声をおかけください。ご乗車のお客様にご迷惑をおかけして大変、申し訳ありません。次は終点、沖縄の中継地点です。フィリピン線はここで御乗り換えです》


色気な南方棲鬼「ちょっと、そのひみつ道具を返しなさいよ!」


伊58「これは対電ちゃんに使うでち。安心して。裏切るつもりはないからね、ケッシンコンクリートで誓ったから裏切りはしないと約束できるし、信用できるはずでち」


色気な南方棲鬼「わ、分かった。それを対電に使いましょう。でも、逆時計は私が持って使う。じゃないと、電をリタイアさせた後にどんな風に悪用されるか分かったものじゃないし、あなたが裏切らなくても、誰かの手に逆時計が手に渡るのは不味いって分かるわよね。これでどう?」


伊58「そっちはゴーヤ達を裏切ることができるんだよね」


思えば南方棲鬼がケッシンコンクリートで誓ったのは、『私が優勝したら黄金のハイビスカスを渡すこと』だ。疑心暗鬼なのかもしれないが、私というのは南方棲姫を差していて、チームではない。ゴールする予定の走者が南方棲鬼ではない場合、その契約は違反にならないのではないか、と今さらだが、気付く。この南方棲鬼というのはきっとあまり良い性格をしていない。信用できない。


色気な南方棲鬼「返しなさい!」


力任せに奪おうとしてきた。海兵服の中に手を入れられた。黄瞳のゴーヤが大きな声で叫ぶ。「痴漢でちー! 車掌さん、痴漢だよ!」「なんだと!」三号車のほうから巡回に来たスマートなル級改が駆け寄って来る。


色気な南方棲鬼「ち、違うわ。ただじゃれていただけで」と言い訳をする。「そうなのか」とル級改の問いに「そ、そうでち」と答えた。裏切りには該当するようで、ケッシンコンクリートの強制力が発動していた。ル級改は「あまり騒ぎを起こさないように」と注意して身を翻した。


黄瞳の伊58「次にその子の胸に触ったら、また痴漢と大声で叫ぶでち」


色気な南方棲鬼「このでち公ども、後で覚えておきなさい」


頭がごっつんこしている鎌倉なヲ級と戦艦水鬼を真っすぐにし、シートにもたれさせた。


臭いチ級が倒れていた。六号車へと続くデッキがさきほどの揺れで壊れたのか、扉が開きっ放しになっている。さきほどの強い振動であのチ級は頭でもぶってしまったのか、デッキの中で横になっている。《真空管に異常が発生しました。お近くの人間および水上機型は車両のほうに移動ください》とよく分からない機械声のアナウンスが五号車から発された。


伊58「あれはなんでち?」


色気な南方棲鬼「ああ、車両の間のデッキの外の水気圧の防護数値が下がったのよ。多分、さっきの振動ででかい魚か岩にでも衝突したんじゃないのかしら。その場合、外の海水を一部、吸いこんでそれを固形化して連結部にするから、あそこがパージしちゃっても列車が分解することはないわ」


伊58「未知の技術は難しいでち。つまり?」


色気な南方棲鬼「あのデッキは丸ごと海水で満ちてプールになるってこと」


なるほど、だから人間や水上機型に警告が出されたのか。ゴーヤは大慌てでぷかぷかと浮かんでいるチ級を救助しに向かった。天井に達するまで水で満たされたら、溺れて死んでしまう。チ級の右手を引っ張って、引きずり出した。濡れてしまっているが、気を失っていたようなので定位置の座席のシートへと横にして寝かせておいた。


ちょうど海底列車は浮上を始めた。水面にあがって数秒の内に沖縄の中継地点が見えるはずだ。そこで丙少将とシオイ達と合流し、話をしてから、ゴーヤもオーネストの一員としてレースへと出る。黄瞳のゴーヤとともにレースへと参加し、例の電の対処に当たる。ようやくこの蟻地獄のようだった海底列車から解放されると思うと、気分が晴れ晴れとした。


黄瞳の伊58「あ、ゴーヤのチームが到着したって! ナイスタイミングでち!」


色気な南方棲姫「とっても良いアイデアが浮かんだわ」


そういって鎌倉なヲ級の服に手をかけて、脱がし始める。


伊58「へ、変態でち! 見た目の超露出からして変態だと思っていたけど!」


色気な南方棲鬼「泳ぐR18にいわれたくないわよ。黙っていなさい」


忌々しそうに歯軋りするが、ヲ級のズボンを脱がしにかかっている。


列車の到着時の景色を初めて、ゆっくりと観た。


船着き場のような人工コンクリートの足場に向かって走ってゆく。その船着き場には駅のように人々が定期的な感覚を空けて、ずらりと並んでいた。その人間を覆い隠すかのように、コンクリートから透明なシールドが空に向かって伸びる。恐らく電車が客に水飛沫を浴びせないための処置なのだろう。列車がその速度を落とし、やがて停まった。シオイ達と合流しなければ。


小さな噴射音を発し、扉が空いた。


降車すると、まず大きく深呼吸した。沖縄の乾いた空気を肺に吸い込んだ。


誠実なヲ級「やっと、着いたか」ふらふらとした足取りでヲ級がやってくる。オーネストの英文字と八分のズボンだった。頭の艤装はベルトがついているようで、麦わら帽子のように背中にあった。深海棲艦はもともと顔色が悪いので体調の良しあしが見た目から判別できなかった。しかし、髪型的に男性の印象を受ける。なかなかの美青年なヲ級だった。


黄瞳の伊58「後は任せるでち! がんばるよ! 後、このスポドリを飲んで欲しいでち!」


誠実なヲ級「ありがとう。後は任せた。これがタスキだ。私もまだリタイア