2019-08-10 02:55:24 更新

概要

信義と共に の第2章となります。
内容はややシリアスになりますのでご注意を。完結しました。


前書き

日常編からそう時間が経たない鎮守府が舞台です。

見苦しい文書が続くかと思われますが、お付き合い頂けたら幸いです。


この作品は前作の設定や世界観を全て引き継いでおります。

初見の方は此方からどうぞ。



前作







Day After Day







ーーあと、どれくらい続ければ良い





ーー明日か、明後日か、1年後か、10年後か





ーー誰か、教えてくれ





ーーもう、疲れたよ……













太平洋側に数多く点在する鎮守府の1つに篠原 徹と言う男が提督を務める鎮守府があった。

かの者は、まだ着任して間も無い内に多くの実績を残した英雄的存在である。

それ相応の厳しい訓練と実戦を重ねて来た彼は、その事を決して驕らず、力の使い方を示し、そして仁義に厚い。


彼の普段の人柄の良さと、隠し切れない情熱と信念から、人々は親しみを込めて、“サムライ”と呼んでいた。

それは日本が誇る気高き戦士の姿。

また、“お侍さん”とも呼ばれて多くの人々に愛されている篠原だが、そんな彼が今非常に情け無い事態に直面しているなんて事は、皆知る術も無いだろう。


「……提督、北上さんはまだ着任しないのですか?」


「落ち着け大井、俺だって姉妹艦には合わせてやりたいし、努力はしている」


「なら早く建造して下さい。 もう50時間以上会えていないんですよ?」


執務室で、篠原に詰め寄る彼女の名は、軽巡洋艦 大井。

3日前に建造された彼女であるが、現れるなり姉妹艦である北上を要求し続けている。


「受け入れる準備をしてからだ。 下手に人員を増やしても他の艦娘への負担が増えるだけで効率が落ちる」


「北上さんが皆の足を引っ張るとでも⁉︎ 魚雷ぶつけますよ?」


「頼むから納得してくれ……、姉妹が来てないのはお前だけじゃないんだぞ?」


篠原は新年初の建造を4回同時に行った。

戦艦レシピを1回、駆逐艦レシピを3回施工し、これで駆逐艦達の姉妹艦が誰かしら着任するだろうと篠原は考えていた。


だが、現れたのは軽巡の大井、駆逐艦の朝潮、不知火、曙。 見事にひとりっ子が4人増えてしまったのだ。

篠原は、この鎮守府に毎月貨物船護衛でやってくる大本営の朝潮と不知火と面識があり、2人のある程度の性格を知っていたのだが、曙が「こっち見んなクソ提督!」と挨拶をしてから朝潮はずっと怒りっぱなしだ。

他にも問題発言だと曙を咎める艦娘が居たが、篠原がその呼称を容認すると矛を収めた。

だが朝潮はそうも行かないようだった。


大井は大井で、北上を求めて隙あらば直談判をするようになっていた。


「では、受け入れる準備とやらを早くして下さい!」


「それはお前がここに馴染んだら、だ」


「もう馴染んでます!」


「昨日は神通と香取の訓練中に倒れてなかったか?」


「ぐぬっ⁉︎ ……あれ死にますよ⁉︎ 何で土嚢担いでぬかるんだ道延々走らないと行けないんですかッ⁉︎ ペース落ちると模擬弾飛んでくるし!」


「わかるわ……、アレ死ぬ程辛いよな。 因みに新人訓練は1週間続く。 あと4日頑張ってくれ」


「この鬼畜‼︎」


大井はそう言い残し執務室を後にした。 恐らく訓練の休憩の合間に小言を言いに来たのだろう。


因みに新人訓練プランは神通と香取が協力して作り上げた訓練内容であり、今回が初の取り組みとなる。

既存の艦娘である大和、金剛、時雨、夕立、島風が実際に試し、問題無いと判断して実施された訳だが、やはり着任間もない艦娘にとってはかなり辛いようだ。

秘書艦である神通は今、訓練に付き合っている為不在だ。


窓際に立ってやり取りを傍観していた大淀は篠原に話し掛けた。


「大井さんは気が強い人ですね」


「何だかんだ言ってちゃんと訓練参加するし、脅すような言葉を使うが、根は良い子じゃないか?」


「提督は甘いんですよ。 曙ちゃんのアレだって本来なら厳罰モノですよ?」


「曙に関してはコレを予め見てたしなぁ」


篠原はそう言ってデスクの引き出しから艦娘カタログを取り出してページを捲ると大淀の目の前に翳した。

大淀はそこに記された文章を音読し始める。


「……綾波型 8番艦 駆逐艦 曙……。 備考、口調にトゲがあるが実は心優しい健気な娘、慣れると可愛い。 ……何ですかコレ」


「……お前が持ってきたカタログなんだがな」


「大本営大丈夫ですかねコレ」


「艦娘は深海棲艦に対抗できる唯一の希望だからな。 どんな娘が出て来ても慎重に観察して研究した結果なんだろう」


「……気になって神通さんのページ開いたんですけど、やっぱりここの神通さんは普通では無いようですね。 おどおどして大人しい娘らしいですよ」


「まぁその辺は経験で変わってくるのかもな。 にしても参ったな……、姉妹艦が多過ぎる……」


「揃う方が珍しいんですからね、一応」


艦娘とは基本的に姉妹仲がとても良く、行動を共にしている事が多いようだ、

だがしかし、姉妹とは言え性格は三者三様で纏めるのは提督の裁量に委ねられるだろう。


「まぁ駆逐艦が増えたのは良い事だな。 訓練が終われば遠征部隊の負担が減るだろう」


「現在14隻ですね。 対潜に優れている艦も多いですし、警備も出来て運用コストも安くとても頼もしいですね」


現在所属している駆逐艦は暁、響、雷、電、吹雪、初雪、白雪、叢雲、夕立、時雨、島風、朝潮、不知火、曙の14名で、同じ駆逐艦でもそれぞれ得意分野を持つようだ。

篠原は所属艦娘のリストを眺めながら言った。


「しかし面白いものだな。 電とかはカタログスペックだと他に譲るモノが多いが、模擬戦だとそうでも無いんだよな……」


「そこはやっぱり経験の差でしょうか」


「暁も普段あんななのに、出撃すると一気に頼もしくなるからな……。 最早警備リーダーだ」




「あんなって何よ! ぷんすかぷんすか!」


いつの間にか執務室に居た暁はぷりぷり怒りながら肩のライトを篠原に向けチカチカ点滅させ始めた。


「うわっ、眩しっ! おい照らすな、照らすなって」


「少し早めに遠征任務完了したのです!」


「司令官寂しくなかった?」


「ご褒美の催促に来たよ」


続々と集まって来た第六駆の面々。

篠原はひと通り顔を見回しながら言った。


「本当に早いな? でもノックはしなさい」


「執務室の扉が開けっ放しだったの。 それで部屋の中覗いたら司令官が失礼なこと言ってるんだもの! ぷんすか!」


篠原は開けっ放しなのは大井の仕業だろうと頭を掻きながら考えて取り繕った。


「それはすまなかったな……。 それで、遠征結果はどうだ?」


「勿論大成功よ! 一人前のレディなら当然よね?」


「同伴した島風はどうした? 今回テストも兼ねていただろう?」


「2ノットしか違わないのに先行するから少し揉んであげたのです。 今は疲労で倒れているのです」


「ダー、私達はそれよりずっと速い背中を追いかけて来た。 アレじゃあ合格点には及ばないね」


「なのです」


今回遠征の帰りが早かったのは、どう揉んだのか判らないがそう言った経緯があったらしい。

幼さの残る容姿でありながら、言う事やる事が頼もしくなりつつあるようだ。


「とにかく確かに報告書も受け取った、艤装の補給を済ませたら休んで良いぞ。 寒かっただろうし食堂でココアでもどうだ?」


「レ、レディはそんなココアなんかよりコーヒーを所望するわ!」


「いやいや、レディこそココアを飲むんだよ。 特に寒い時はな」


「えっ、そ、そうなの?」


「ココアは美味しい滋養強壮剤だ。 血流が良くなって身体の代謝に働きかけて疲れ難くなる上に、レディなら見過ごせない体臭や身体のむくみ等緩和させる。食物繊維が豊富だからダイエット効果もあるし、本当に至れり尽くせりなんだよココアは」


ダイエット効果はアイスを入れたり砂糖を入れたりするので、実はあまり効果は無いが篠原はこの時あえて言及しなかった。

暁は篠原の言葉を間に受けると満足そうに頷いた。


「そうだったのね、だったらレディとして沢山飲まないと! ほら皆行くわよ!」


そう言って暁はさっさと執務室から出て行き、残った3人も慌てて追い掛けて行った。

電が最後にお辞儀して扉を閉めて行くのを見送った大淀は、篠原に話し掛ける。


「先程の話……本当なのですか?」


「本当さ。 まぁ飲み過ぎは良く無いけどな、砂糖沢山入ってるし」


「沢山飲むと意気込んで居ましたが……」


「皆細過ぎるし、少しは肉つけた方がいいんだよ……」


「て、提督っ⁉︎ まさかそれでアイスを入れたりして……⁉︎ か、艦娘を太らせる為だったのですか⁉︎」


その言葉を聞いた篠原は、悪巧みをする様なわざとらしい笑みを浮かべた。


「フフフ、クリスマスと正月は沢山食べただろう? ケーキひと切れ400Kcal以上、お餅はひと切れ120Kcal以上はあるぞ? 更に増えたチーズ類の料理、チーズは高カロリーで有名だったか? さぁて皆はどれくらい食べたっけなぁ……?」


「……鬼、悪魔、女の敵‼︎」


「ほーう? 因みに今夜は某有名温泉旅館から特別に取り寄せた温泉豆腐と豚しゃぶが振舞われるが……、大淀は食べないのか?」


「ぐ……っ⁉︎ それ絶対美味しいやつじゃないですか……!」


「大丈夫だ大淀。 豆腐はヘルシーだから問題ない」


「……そ、そうですね……、お豆腐は、ヘルシーだから……大丈夫、大丈夫……」


豆腐だけがヘルシーな事については、篠原はこの時あえて言及しなかった。

温泉豆腐は身体がポカポカと温まる、真冬にありがたい絶品である。

この日の晩は普段よりひと割増食堂が賑わっていたと言う。



そして4日後。


新人訓練プランを終えた4名は最終試験が行われる事になり、篠原もその場に立ち合う事にした。


グラウンドで神通の前で整列する大井、不知火、朝潮、曙。

彼女らは全員、目が据わっていて訓練内容の厳しさが伝わってきた。

そんな4人を前に、神通は言った。


「コレより、最終実技試験を行います。 この試験を通して合格点に至らなかった者は、3日の休息の後にもう一度訓練を行なって頂きますので覚悟する様に」


訓練をもう一度、たったそれだけの言葉に4人の顔は青褪めた。

しかし何も言わずに黙って指示に従い行動を始める辺り、口答えするとどうなるか良くわかっているのかも知れない。


1回目は海上射撃、2回目は対空射撃、3回目は回避行動、4回目は全行程を含めた会敵からの流れを模擬戦を通して行われた。

会敵報告、敵艦種報告から砲雷撃戦に移り、戦闘後の戦況報告まで行われて試験は終わった。


神通はスコアを記載したクリップボードを片手に、何やら考えるように顎に手を添えている。

4人はそれを緊張した趣で見守り、ただ沈黙の時間だけが流れていた。

やがて、神通は顔を上げた。


「……まだ伸び代がありますが、及第点でしょう。 全員合格です。 訓練お疲れ様でした」


その言葉が聞こえた途端に4人は崩れるように膝をついた。


「は、はは……、生きてるって素晴らしいわ……」


「でもこれでやっと……」


「し、不知火は大丈夫です……」


「2週目入ったら絶対に死んでたわよアレ……」


訓練が終わった安堵の息をつく4人だが、大井はすぐに立ち直り傍観していた篠原の方へと詰め寄った。


「提督! 私、耐えましたよ⁉︎ これで北上さんと会えるんですよね⁉︎」


「……わかったわかった。 今日は貨物船が来るからその前に建造するよ」


「ええ、北上さんをお願いします!」


篠原はこうなる事が分かっていたようで覚悟も早かった。

しかし、ここで神通の声により待ったが掛かる。


「いえ、その前に貴女方には提督がどんな方か知って頂きます。 知った上で、ここに残るかどうか各々判断して頂きます。 提督もこの事を承認していますので、共に戦えないと言うのなら大本営と掛け合い席を移す事が出来ますので、遠慮なく申し出て下さい」


想定しない神通の言葉に、大井は唖然としていた。

朝潮、不知火、曙も困惑の表情を浮かべている。

まだ状況が飲み込めない4人に篠原は後に続いて言った。


「そう言う事だ。 転属届の用意も出来ているから先に渡しておこう」


そう言って篠原は4人に承認印が押された転属届の書類を差し出した。後は名前を記入するだけで効力が現れる代物だ。

4人は戸惑いながらも受け取ると、神通に連れられ本館の中へと入って行った。

神通は過去の防衛戦映像を見てもらった後にここの鎮守府の在り方を語り、改めて覚悟が出来るか問い質すつもりなのだ。


篠原は彼女達の背中を見送ると、1人工廠へと向かい、中で待っていた大淀と落ち合った。


「待たせたな大淀」


「いえ、では早速行いますか?」


「そうだな。 彼女達が残っても結局やる羽目になるからな……」


本来なら転属を希望する艦娘が現れたら再び建造する予定だったのだが、大井の強い希望によりどの道建造する羽目になっていたのでこの際丁度良かったのだろう。

大淀は楽しげに笑って眼鏡の位置を直した。


「ふふっ、また勝ってしまうのでしょうね」


「何に対してだ。 とにかく軽巡レシピを回そう……、北上が現れてくれると良いが……」


篠原は妖精に指示を出して建造を行った。

カプセルに資材が投入され、流れる様に高速建造材と言う名のバーナーが使われる。

その火力にまだ慣れない篠原は顔を顰めていたが、間も無くカプセルから光が溢れ出した。


「最上型3番艦 重巡洋艦 鈴谷だよ〜! よろしくね〜!」


まさかの重巡で篠原は面食らっていた。


「お、おぉう……、俺が提督の篠原だ……、よ、よろしく頼む」


「えっ、何その反応?」


「いや、その……」


篠原は大淀に目配せすると、大淀も苦笑いしていた。


「軽巡レシピでしたから……、鈴谷さんの登場が予想外だっただけですよ?」


「えっ? なにそれ〜、鈴谷いらない子?」


「いや、重巡も3人だけだったし、そんな事は無いぞ。 ……最上型は君が初めてだけどな……」


またひとりっ子を増やしてしまった篠原は、再び建造する為、鈴谷にはその場で待って貰う事にした。


再び軽巡レシピを指示し、高速建造材を使い、そしてカプセルから光が放たれる。


「吾輩が利根である! 吾輩が艦隊に加わる以上、もう索敵の心配は無いぞ!」


利根型1番艦 重巡洋艦 利根。 言うまでもなく利根型は初の着任となる。

篠原は何か察しながら挨拶をした。


「……俺はここの提督の篠原だ。 よろしく頼む」


「うむ! くるしゅうないぞ!」


そして話して分かる個性の強さに当てられながら、篠原は大淀に話し掛けた。


「大淀、これ多分、北上来ないやつだ」


「見事にひとりっ子が増えて行きますね」


「なんじゃ? 筑摩はおらんのか? つまらんのぅ」


「提督〜、鈴谷お腹がすいてきちゃった」


更に見て分かる新任のマイペースぶりに篠原は動揺は隠しつつ、再び建造をする様だ。


「泣いても笑ってもコレが最後だ。 ……フッ、この後俺はイクの玩具にされるだろうなぁ……」


「提督、お気を確かに……。 大丈夫です、必ず北上さんは現れますって!」


「北上とやらはどんな艦娘なんだろうな? 史実では知っているが……」


「ヤダ、提督ってば会ってもいない艦娘にご執心なの? ウケる」

「青春じゃのう……」


鈴谷と利根は並んで生暖かい目線を篠原に送り出した。

篠原はこの時、せめて北上で無くとも空気の読める艦娘が現れる事を切に願っていた。

あまりに個性が強くマイペースな娘が相手だと、自分の歳と裁量に限界を感じる事があるからだ。

伊19と遊ぶ時は大体彼女の良い様にされている、それが篠原である。

夕立もマイペースではあるが、彼女は相手のペースの中で全力で遊ぶので篠原でも十分に相手が勤まったのだ。

しかし伊19は常に想定外の流れを持ち出してくるので篠原は翻弄されがちである。


間も無く、資材が投入されたカプセルから光が放たれ人影が浮かび上がった。


「アタシは軽巡、北上。 まーよろしく〜」


篠原は心の中でガッツポーズをした。

心境的にギャンブルの勝ちに近かったが大淀が睨むと思い口には出さなかった。


「俺はここの提督の篠原だ。 よろしく頼む」


「ふーん。 あっ、大井っちはいる?」


「一応居るが……。 まぁコレで定期的なお小言とはおさらばだ!」

「毎日隙あらば催促してましたからね大井さん……」


訓練の日程が進む程大井の催促もレベルを上げていたのだ。


その後、鹿島に新任の案内を任せた篠原は執務室へと向かった。

そして新たな新人訓練期間と、教官を務める神通の日程調整を始めた。


「神通にも休憩が必要だろう……、2日、いや3日休めば元気になるかな?」


「実際指導する側の負担の方が大きかったりしますからね、訓練は……」


「教官は手本にならないといけないからな。 今回は重巡メインだが……、高雄、愛宕、青葉は人に厳しくと言うのには向いてない様に見える」


「どちらかと言うと優しいお姉さんタイプですからねぇ……」


「……艦娘の射撃の理屈が俺にも分かれば教える事も出来るんだがな……。 正直言って、艤装の不可解な型の銃身で、何で狙撃出来るのかが全くわからない」


「何でと言われましても……」


「人は狙撃を行う場合、目の高さから銃身が離れる程精度が極端に低下していく。 これは科学的に根拠がある。 しかし艦娘は顔よりずっと下の腰の位置、しかも視界の外に銃身があろうとも狙撃してみせる、凄く納得がいかない」


「艦娘は艤装を身体の一部の様に扱えますから……」


「うぅむ……」


艦娘の砲撃の理屈が篠原には判らず、射撃訓練ではアドバイスも出来ずにいたのだ。

軍艦であれば、厳密な測定により砲撃を行っていた。

敵艦の方位、距離、速度、進路を測定して進路予測地点に試射を行い着弾箇所からズレを計算して修正、再び砲撃を行う。

そして確実に当たるであろう位置を割り出せたなら一斉射撃で一気に叩き潰す。


しかし艦娘は違う。


偵察機を用いて観測射撃を行えるが、そうでない場合は肉眼を持って砲を構え狙いを付ける。

海上で人の身程度の視野では見える範囲も狭まり、必然的に軍艦とは比較的近距離での撃ち合いになるが、篠原の目には、それが軍艦の撃ち合いとは違う様に見えていた。


第1に砲撃までの厳密な測定が省略されている。

敵を射程内に捉えたなら“構えて”、そして“撃っている”。


この時点で、射撃に関して何も言う事が出来ないと篠原は判断していたのだ。

吹雪の構え方が比較的自分の知っているフォームに近いと考えた時期もあったが、小さな砲身が2つ並んで上下に動く物を手に持って構えていたので即座に諦めていた。

そして、その構えとやらも、反動を受け止めるだけに過ぎないのだろうと、篠原は考えた。


その後、魚雷攻撃と空母の発艦を見て篠原は考えるのをやめたのだ。

篠原は魚雷攻撃の時点で、ロケットランチャーの弾頭を発射管を用いずに直接投げて使う様な異様な光景に見えていた。

その事から思わず「ダーツかな?」と零したら「その手があったのです」と返ってきて一部駆逐艦の命中精度と弾着速度が上がった。

艦載機の発艦を見た篠原は鳳翔に「弓いるの?」と聞いたら何故か空母の速力と発艦の根拠の説明を受けていた。

短い滑走路でどうやって戦闘機が飛び立てるのか改めて学んだ篠原の思考回路は強引に加速と弓矢を結びつけて事なきを得たが、後の龍驤により完全停止していた。


そして考えるのをやめた。


島風の砲撃を見る頃には何も感じなくなっていた。

まして艤装である筈のそいつがひとりでに歩き回って執務室に入って来たのを見ても最早動じなくなっていた。 お菓子をあげたら食べ始めた時は流石に驚いたし島風にも怒られたが。


その事を懐かしむ様に思い出していた篠原だったが、執務室にやってきた朝潮が尋常では無い緊張を露わにして涙を流しながら敬礼を始めたお陰で現実に引き戻されていた。


「あ、あさっ、この朝潮!感服っ、感服致しました!」


「……」


「この命燃え尽きるまで獅子奮迅の勢いで働く覚悟です‼︎」


「……うん、ありがとう。 これから頼りにするぞ」


「も、ももも勿体無き御言葉‼︎ 恐悦至極で御座いますッ‼︎」


篠原は何処かデジャヴを感じていた。

その後残りの3人も執務室にやってきたが、全員が転属届を返却しに来ただけであった。

大井はどこかバツが悪そうに、不知火は「より一層のご指導ご鞭撻を」と言い、曙は「2、3週回ってやっぱりアンタはクソ提督ね」と言った所、朝潮とキャットファイトを繰り広げ始めた。

神通が戻り咳払いすると、2人は即座に離れて姿勢を正していたが。


「ああ、そうだ大井。 無事、北上が着任したぞ。 ……一緒に働けるかはまだ判らないが、今は鹿島の案内を受けている筈だ」


「ほ、本当ですか⁉︎ こうしちゃいらないわ!」


骨髄反射的な速度で大井は執務室を飛び出して行った。

彼女が去り開け放たれたままの扉に朝潮は叫ぶ。


「大井さん! 退出の許可と挨拶をちゃんとするべきです!」


最早声は届いていないだろう。

篠原はそんな朝潮を見ながら言った。


「朝潮は真面目だな」


「はっ‼︎ いえっ、当然の事です!」


「もう少し肩の力を抜いていいぞ?」


「はっ! 司令官が肩の力を抜けと言うのなら、肩の力を全力で抜き続ける覚悟です!」


「何それ全力で肩凝らなそう」


篠原がそう言うと大淀は吹き出した。


「くふっ……、提督センスありますよ」


「……もう大本営から来る朝潮君と会わせてみるか」


「すごい絵になりそうですね」


間も無く来るであろう大本営の貨物船に備え、篠原は朝潮、不知火、曙を連れてドッグに向かい待機をしていた。

するとすぐに貨物船ともう一隻、大型のクルーザーが港へと入って来た。

そのクルーザーを見ながら篠原は大淀に言った。


「あれが所謂、指揮艦になるのかな?」


「そうなりますね。 司令部を設けているので、遠い海域では提督が乗って指揮をする事になります」


「おお……いいね、映画で見る金持ちの船のようだ。 ……沖に出て釣りとか」


「当然ですが私用は厳禁ですよ!」


早速釘を刺された篠原は、すぐに取り繕ってドッグに入って来た大本営の朝潮達を出迎えた。


「篠原司令官! 資材とコマンドシップをお持ちしました!」


「お疲れ様だ朝潮君。 コマンドシップって呼ぶと何かカッコいいな……」


「篠原司令官の船は特別に水上バイクの格納が出来るタイプのようです。 それから人員増加に伴い間宮さんと明石さんもお連れしました!」


大本営の朝潮はそう言って同伴していた2人を篠原に紹介した。


「初めまして、工作艦 明石です。 私は泊地修理が行えますが、ここではコマンドシップの操縦などを担当する為に派遣されました。 よろしくお願いします」


「私は給糧艦 間宮です。 戦闘には参加出来ませんが、お料理などを承らせて頂きます。 よろしくお願いしますね」


「おお……、至れり尽くせりだな。 知っているとは思うが、俺が提督の篠原 徹だ、よろしく頼む」


一通り挨拶を終えると、篠原は自分の鎮守府の朝潮と大本営の朝潮を立ち会わせてみた。

若干大本営の朝潮の方が大人びていて白いボレロを羽織っているので見分けがつくが、やはり瓜二つである。


「初めまして、大本営の物資護送を務める朝潮です」

「初めまして、1週間前にこの鎮守府に着任した朝潮です」


「大本営の朝潮君は毎度お世話になっているからな、これから会う機会があるかもしれない」


「此方こそ、いつも美味しいパフェをありがとうございます! そ、その……今日は……、ありますか?」

「……⁉︎」


大本営の朝潮は何か期待するような瞳を篠原に向け始め、篠原の朝潮はその事に目を丸くして驚いていた。


「用意してあるよ、ドッグは寒いから食堂に案内しよう」


「お心遣いありがとうございます!」

「……し、司令官におねだりするなんて……!」


「朝潮も俺に遠慮はいらないぞ?」


「はい、心得ました!」

「そ、そんな事……⁉︎ って、あ……えっと、あ、朝潮さん?」

「はい何でしょうか?」

「司令官にその様な無礼は……」

「遠慮をすれば篠原司令官は悲しいと言っていました。 時には礼儀よりも気持ちに応える事が大事だと思います!」

「そ、そんな……」


本人達は普通に話している様だが、同じ声なので篠原は若干戸惑い始めていた。

そしてその横では大本営の不知火と篠原の不知火がお互い黙ったまま見つめ合っている。

少し不気味であるが篠原は臆せず話し掛けた。


「な、なぁ……そろそろ……」


その言葉を発した途端に2人は振り向いた。


「不知火に何か」

「落ち度でも?」


「やめないか」


同型同士シンパシーを感じていたのだろうか。

篠原は、心なしか2人のテンションが高い様な気がしていた。無茶苦茶気が合うのかも知れない。

その光景を曙と霞は呆れた表情をしながら眺めていた。


「バカばっか……」

「ホントね」


「ちょっと! 自分の司令官に対してバカとは何事ですか!」

「そうですよ! 訂正して下さい!」


「うわっ、朝潮が両方こっち来た! 霞あんたちょっと何とかしなさいよ! 姉妹なんでしょ⁉︎」

「そうだけど2人も相手に出来る訳ないじゃない‼︎」


そして一気に喧しくなったドッグに、篠原は思わず頭を抱えた。

大淀はそんな彼に話し掛ける。


「案の定ですね提督」


「……鎮守府に同じ艦娘が現れなくて本当に良かった」


その後なんとか食堂に誘導出来たので、篠原は恒例のパフェを振る舞い、更にココアもオマケしてその場を離れようとした所、大本営の不知火に呼び止められた。

大本営の不知火はハンカチを手に持っている。


「篠原司令、不知火もサインが欲しいです」


「サイン……?」


「はい。 朝潮が自慢してくるので悔しさのあまり夜しか眠れませんでした」


不知火の言葉に篠原は朝潮の方へ顔を向けると、彼女は照れ笑いを浮かべていた。

前回、朝潮がここに訪れた時に「サッカー少年とサイン」の話をして、帰り際に朝潮はハンカチにサインを求め、篠原はそれに応えたのを思い出した。


「あ、ああ……自慢出来るんだな私のサインは。 えぇっと、不知火君へ でいいかな?」


「あ、ありがとうございます。 光栄です。 あと敷紙も用意したので此方は10枚程……、えっと、それぞれ陽炎型の名前でお願いします」


「お、おぉう……」


「ありがとうございます。 これで私は駆逐艦ヒエラルキーのトップです」


大本営の不知火は中々に強かであるようだ。

その後、パフェを食べ終わった大本営の朝潮達は元気よく挨拶をして大本営へと戻って行った。


間宮は鳳翔と話し合いを始め、篠原は明石と共にコマンドシップと呼ばれたクルーザーの中に乗り込んでいた。

中には通信機やモニターなど指揮に必要な設備が揃えられ、寝泊まりする個室まで設けられているようだ。


そして格納されている水上オートバイは、篠原は初めてみるタイプの物だった。


「……少し大きいな、このバイクは」


「いわゆる特殊モデルですね〜。 一般向けの水上オートバイより速く、燃料タンクも大きく長い距離走る事が可能ですよ」


「と言うと、重くなったのか?」


「そうなりますねぇ、ただ時速160以上出ますし、かなり高性能ですよ」


「恐ろしいスピードだな……。 流石に慣らさないとダメだな」


「試運転しますか?」


「勿論」


明石の操作によりクルーザー背面の格納ゲートが開かれ、水上オートバイが海上に押し出された。

ウェットスーツに着替えた篠原は水上オートバイに跨ると、エンジンの具合を確かめるように港内をぐるぐると回り始めた。

その光景はそれなりに目立っていたのだろう。

篠原は試運転中に加賀が何とも言い難い表情で桟橋からこちらを見ていた事に気が付き、すぐ側まで水上オートバイを走らせた。


「こんな所までどうした?」


「い、いえ……、提督が水上バイクに乗っているものだから……、その……」


「……ああ、それもそうだっな。 失念していた」


気が付けば港には他にも艦娘の姿が何人も伺え、何か心配する様な不安な視線を向けている。

海上最速の機動力を活かした水上オートバイを使った部隊は、かつて篠原が率いた囮部隊。

深海棲艦から時間を稼ぐ為に水上オートバイで特攻し、偉大な功績と共に命を散らした仲間達。

そして1人生き残ってしまった隊長こと篠原。


少なくともここの鎮守府の艦娘にとって、水上オートバイはただの乗り物では無くなっていたのだ。 そう割り切るには因縁が深すぎた。


篠原はその印象を払拭したかった。

だから不安そうな瞳をする加賀に話し掛けた。


「加賀、今は艤装をつけているか?」


「……? いえ、着けていないわ」


「なら、後ろに乗ってみようか」


「えっ?」


艦娘は艤装を展開していなくても、装備しているだけで乗り物には乗れないのだ。

艤装が艦たらしめる部分であるからか、着けたまま乗ると、乗り物の駆動部に異常が発生し機能しなくなる。 その為、篠原は加賀に艤装の有無を確かめたのだ。


加賀は戸惑いながらも、篠原が真剣な目で見ている事に気がつくと、桟橋からゆっくりと水上オートバイの上に跨った。


「艦がこんな小さな船に乗るなんて……」


「小さくても凄いんだぞ?」


篠原はそう言ってアクセルを軽く握り、ゆっくりと桟橋から距離を取った。


「俺の後ろのシートに取っ手があるだろう? そこを握って身体を支えるんだ」


「こ、これかしら……」


「そうそう、身体をシートに押しつける様に引き込むんだ」


「……確かに安定して来たわ」


「そうか。 そう言えば加賀」


「何かしら?」


「このバイク時速160km出るらしいぞ?」


その言葉を聞いた加賀は暫く硬直していたが、やがて小さく口を開いた。


「……降ろして」


「港じゃ流石にそこまで飛ばさないさ。 今日は試運転だから軽く回すぞ」


「……提督、貴方は意地が悪いわ」


「ん? 160出してみたかったのか? 仕方ないな……」


「そう言う意味じゃないわ!」


その後、篠原はゆっくと水上オートバイを走らせ、身体を傾けて重心移動を行なったり加速に緩急をつけて具合を確かめ始めた。

アクセルを握りながら篠原は加賀に話し掛ける。


「これが大体40ノットだな。 どうだ加賀、島風の見る世界だぞ?」


「これでも十分速いわ……。 それに凄く揺れるのね」


「重いから揺れない方なんだけどな。 しかし加速がスムーズだしエンジン静かだなぁ……」


「て、提督? 少し速すぎる気がするのだけど」


「今は大体86だな、もう少しで90いく」


「無理です、死にます」


「大丈夫だ、もう桟橋に戻るよ。 どうだ加賀、水上オートバイは楽しいだろう?」


「……今が真冬じゃなければ明るい返事が出来たと思うわ。 さっきから水飛沫が痛いほど飛んできて冷たいの」


「ははっ、それもそうか」


篠原は笑いながら桟橋まで水上オートバイを寄せた。

加賀が桟橋に足をつけると、別の艦娘が勢い良く駆け寄って来ていた。


「加賀さんだけずるいっぽい〜! 夕立も乗る〜〜っ‼︎」


そう叫びながら走って来る夕立を見た篠原は、若干顔を引きつらせた。


「……うーん、この後の流れが分かる気がする」


「自業自得ね。皆の前で私を乗せたのがいけないのよ」


「加賀、少し怒ってるか?」


「いえ、それなりに楽しませて貰いました。 気が向いたらまた乗せてくれると嬉しいわ」


加賀はもう不安な瞳を向けてはいない。

まだ思う所はあるかもしれないが、多少の悪印象は払拭出来ただろうと篠原は思う事にした。


そして夕立の背後に続く艦娘達の人数に溜め息を吐くのは、もう間も無くの事だ。












2月に入ると、新人訓練を終えた鈴谷、利根、北上が転属を希望せず改めて仲間になっていた。

これで篠原の鎮守府に所属する艦娘は非戦闘員の大淀、明石、間宮、そして派遣の香取、鹿島を除き36隻。


駆逐艦の吹雪、白雪、初雪、叢雲、暁、響、雷、電、夕立、時雨、朝潮、不知火、曙、島風


軽巡の川内、那珂、神通、天龍、龍田、北上、大井


重巡の高雄、愛宕、青葉、鈴谷、利根


戦艦の金剛、大和


航空戦艦の扶桑、山城


軽空母の龍驤、鳳翔


空母の赤城、加賀


潜水艦の伊58、伊19


中規模に差し掛かりつつあるが、篠原はまだ不安があった。

執務室のデスクに腰掛けた篠原はリストを片手にぼやき始める。


「……現状では海域開放の為に進撃となれば、空母や戦艦の艦娘に負担が集中しそうだな……。 だけど足回りは大分理想的になって来たんじゃないか?」


その言葉を神通が拾った。


「そうですね。 それと負担についてですが、現状でコンディションを持て余す艦娘が多いくらいですよ? それに扶桑さん山城さんに限っては敵はぐれ部隊発見の度に出撃に呼ばれて幸せそうですし」


「扶桑、山城が居ると一瞬で終わるからな……、資材には優しくないが。 でも本当に頼り過ぎているきらいがある」


「ふふふ、艦娘は沢山出番があると嬉しくなるのですよ?」


「そういうものなのか? まあ、だとしてもだ。 進撃の留守中を守るにも同じぐらいの戦力を残しておきたいんだよな。 そう考えるとまだまだ俺の鎮守府は伸び代がある」


「そうなるとやはり空母でしょうか?」


「そうだな……。 まぁ今は育成に専念したいから後回しだな。 新人が増えたから暫く建造は無しだ」


そう言って篠原はリストを仕舞うと、ソファーの方へ顔を向けた。


「……で、お前は何か用事があるのか? 北上」


「んー?」


ソファーには北上がだらし無く座って本を読みながら寛いでいた。


「なによー、用事が無かったら来ちゃダメなの〜?」


「そう言う訳では無いが。 お前が来ると大井に睨まれるんだよ……」


「あ〜〜、大井っちね。 根はいい子なんだよ?」


「そうみたいだな。 俺にだけ目付きが鋭くなる事が最近わかった」


「そーなんだ? よく見てるねぇ〜。 でもさぁ、アタシより寛いでる艦娘が目の前に居るんだけど」


北上が視線を送る先には利根が煎餅を齧りながらソファーに寝そべっていた。


「筑摩がおらんからのぅ……。 提督よ、手が空いたなら吾輩を構え」


「いやね、俺だって姉妹艦を一緒にしてあげたいんだよ? でも建造する度にひとりっ子増えちゃうの、わかって?」


「建造って極低確率らしいけどさぁ、そのへんやっぱ提督ぶっとんでるよね〜」

「完全に建造したら増える体で話しておるしのぅ……。 だったら揃うまで建造すれば良いではないか、資材も余裕があるのだろう?」


「俺の鎮守府を烏合の集にさせてたまるか。 全員に教育を行き届かせて全体の練度をあげたい。 そうした方が出来る事は飛躍的に多くなるんだぞ?」


篠原がそう言うと、利根は笑みを浮かべた。


「うむ、その心意気は嫌いではないぞ。 筑摩がおらんのは確かに寂しいが、吾輩だって我慢くらいできるからのぅ」


「なんか大井っちが凄く我儘みたいだよね」


「言うな。 その我儘のお陰で吾輩達はここに来れたんじゃ」


「それもそっかぁ……」


利根と北上のやり取りを見ていた篠原は、ふと浮かんだ疑問を尋ねてみた。


「まだ間もないのに、随分ここを買ってくれてるんだな?」


「食堂にある掲示板を見たからのぅ。 皆楽しそうじゃ、今年も餅つきをやって欲しいところじゃな」

「ね〜、クリスマスパーティーとかもでっかいケーキの写真もあったし、少なくとも悪い所じゃないって事が分かるよね〜」


「ふふふっ、神通のお陰だな」


篠原の言葉に、利根と北上は首を傾げ、神通は照れくさそうに僅かに頬を染めていた。

神通達が作り上げた大きな掲示板は、本来なら執務室に置かれる所だったのだが、皆の目の届きやすい食堂へと場所を移されたのだ。


青葉の手により、既に沢山の写真が飾られている。


そのお陰もあってか、青葉がカメラを手にしていても皆以前より警戒をしなくなった訳だが、その事をいい事に偶に自制が効かなくなるのはまた別の話だ。


その後、篠原が執務に当たっていると本日の秘書艦補佐である山城が入室してきた。


「失礼致します。 提督、海上訓練用の標的が不足しているようです。 また人数が増えたお陰で胴着なども不足気味です……」


「やっぱり急に増えるとそう言う事になるか……。 判った、早急に対処しよう。 山城、度々悪いが他に不足がないか調べてくれないか? 寮内の備品とか日用品の類もだな。 有事に余裕が持てる程度の在庫を用意しておきたい」


「はい、承りました」


「場合によっては増築も検討する。 神通、山城1人じゃ大変そうだから一緒に行ってくれないか?」


「はい、判りました。 増築と言うと新たな建物も……?」


「そうだな。 格闘技の類も戦力に繋がると結果が出ているし道場の建築予定はある。 予算に余裕がある内にやるつもりだ」


「それは楽しみですね。 山城さん、分担して念入りに調べましょう」


「はい、神通さん!」


山城と神通が執務室から退室するのを見送った篠原は再び執務に取り掛かった。

新しい建物と、食堂の拡大等の審査と申請書類など手を付けなければならない執務は多かった。

短期間で艦娘が増えて非戦闘員も含めれば41名。

束の間の激務と言う訳だが、篠原は悪い気はしていなかった。

そこへ、いつのまにか篠原の背後へと回り込んでいた北上が、彼の両肩に手を置きながら話し掛けた。


「……提督ってさぁ〜」


「ん? なんだ?」


「……もし、自分の命と引き換えに敵を倒せるとしたら、迷わなそうだよねぇ」


「んん?」


少しばかり重い話の内容に篠原は振り返ろうとするが、北上が体重を乗せて来たので顔を見る事は出来なかった。


「……実際、どうなの提督」


「自分の命と引き換え、ね。 ……確かに、それでも迷わない時期はあったな」


「なんで?」


「それだけの意味があるからだ。 そうだな……、あの時、それが出来たのなら、俺の仲間は生き残っていたのかもしれない。 そんな心当たりが沢山あるんだよ」


北上は両肩に置いた手の力を若干強めた。


「……うん。 だよねー。 そう言うと思った」


「ま、それも出来なかったからな」


「アタシはそれで良かったと思ってるよ。 深海棲艦なら北上様に任せておけば良いんだよ。 だから約束だよー? そんな事はしないって」


「扱き使えってか? ま、言われなくてもそうするつもりだけどな」


「うむ、宜しい」


北上がそう言い終わると同時位に、執務室の扉が勢い良く開け放たれた。


「あーーーーーーっ⁉︎ 提督、北上さんに何ベタベタしてんですかぁぁぁぁ⁉︎」


「うわっ、出た」

「やっほー大井っち〜」


「ああん北上さん今日も素敵ですぅ♪ ……で、提督、出たとは何ですか人をそんなオバケみたい言って‼︎」


大井は一人二役を演じながらデスクの前にツカツカと詰め寄り始めた。

利根は顔を顰める。


「……煎餅が不味くなるから静かにして欲しいんじゃが」


「利根さんこんな所に居たんですか⁉︎ 鈴谷さんが探してましたよ」


「こんな所で悪かったな」


「吾輩は鈴谷の香水が苦手なんじゃ……、煎餅が不味くなる」


一気に騒々しくなった執務室に、篠原は苦笑いを浮かべた。


「お前は煎餅基準なのか」


「執務室は良い感じに静かなんじゃがなぁ……。 吾輩が来ると北上が来る」


「利根さんのお煎餅美味しいしねぇ」


「北上が来ると嵐が来るからのぅ……。 大井、お主もう少し静かになれないのか? 先程は扉の前で静かに聞き耳を立てていただろう?」


「えっ⁉︎ はっ⁉︎ えっ⁉︎ な、な、な、何を言っているのかしら⁉︎」


大井は取り乱し始め、篠原は訝しい表情を彼女に向けた。


「聞き耳を立てていた?」


「はっ、はぁぁぁ⁉︎ ち、違いますけど⁉︎ デタラメな事を言うと魚雷ぶつけますよ⁉︎」


「神通呼ぶぞ」


「ごめんなさい、私が悪かったです」


大井が一気にしおらしくなったので、篠原はそれ以上何も聞かなかった。

北上はそんな大井に同情する様な視線を送っていた。


「確かに厳しいもんねアレ。 でも大井っちずっと励ましてくれたかんね。 “ここはやるだけの価値はある場所”だってさ、良かったね提督」


「き、北上さん⁉︎」


「へぇ〜……、大井がなぁ……」


「提督何笑ってるんですか⁉︎」


執務室の騒がしさの雰囲気が変わって来た。

大井は強気であるが、弄られると滅法弱いらしい。


一方、山城と神通は2人並んで歩きながら陽気な話をしていた。


「神通さん、もう2月ですね」


「はい、早いものですね」


「2月と言えば、バレンタインですよね……」


「バレンタイン……、そ、そうでしたね……‼︎」


バレンタインに浮き足立つ艦娘達がちらほらと現れる季節だ。

まもなく到来する大きなイベントを前に、気合を入れ始める艦娘は多く居た。

第六駆は既に団結し、作戦を練り始めているようだ。


「ここはレディとして絶対に手を抜けないわ! 日々の感謝を込めてとびっきり甘いチョコレートを用意しないと!」


「ウイスキーボンボンとかどうかな?」


「響ちゃん、それは多分甘くないのです。 ほろ苦いのです」


「……酔わせれば、あーん もしてくれるかも知れないわね……! 響、スピリタスを用意するわよ!」


「はわっ⁉︎」


吹雪達も部屋で話し合いを始めていた。


「やっぱオンリーワンを目指すべきですよね。 チョコで五重塔を作りましょう」


「……あんたそれ食べさせる気あるの? 自分でやってみたいだけでしょ! 食べる側の気持ちを考えなさいよ!」


「気持ちが大事……、つまり市販のでもいい……」


「ええっ、でもそれじゃあ他の娘達に負けちゃう」


「やっぱインパクトですよ‼︎ 五重塔作れるのは多分吹雪型しかいません!」


「私達を巻き込むな! やるなら1人でやりなさい!」


川内と那珂も楽しげに話していた。


「うーん……、みんな騒がしいと思ったらチョコかぁ」


「那珂ちゃんはぁ〜、アイドルだからNGかもぉ……」


「あ、そ。 じゃあ那珂は渡さないんだね。これで一気に出し抜かれるね」


「な、那珂ちゃんはファンを大事にするアイドルなんだもん! チョコくらいサービスサービス!」


それは赤城や加賀も例外では無いようだ。


「恐らく、提督は沢山チョコを受け取ると思うんですよ」


「なるほど……。 でしたらクッキーとか……軽い物の方が喜んで頂けるかも知れませんね」


「何言ってるんですか? 食べ切れない分を貰いに行きましょう!」


「頭に来ました」


「か、加賀さん⁉︎ それは人に向けて良いものじゃありませんよ⁉︎」


皆、それぞれの想いを胸にその日を待ちわびているようだ。

書類に忙殺されている篠原は、その事をまだ知る事は無い。




だが、次の日、そんな楽しい日は訪れない事を示唆する重大な問題が発生した。


早朝、緊急招集により全員が集まった食堂にて、篠原は書類を手に静かに打ち明けたのだ。


「……恐らく、艦娘史上最悪の事態が発生した。 皆、心して聞いて欲しい」


ただならぬ雰囲気を纏う篠原に、艦娘達は息を呑んだ。

緊張の漂う食堂にて、その内容が発表された。


「ここから離れた島にある鎮守府にて、謀反を起こした提督がいる。 奴は艦娘に命令を下し、憲兵隊及び島の住民を虐殺、そして現在も泊地に籠城している……」


耳を疑う様な内容に、皆言葉を失っていた。


「……艦娘が人を殺す。 提督が“敵”と認識して攻撃を命じたなら、逆らえないのだろう。 この事が知れ渡れば新たな戦争の火種となる。 我々はそれを阻止しなければならない!」


篠原は声を張り上げた。


「現在、横須賀と呉鎮守府が協力して奴の戦線拡大を押し留めている。 当然、前線では艦娘の実弾による殴り合いが行われ、士気は最低だ。 よって俺には特務が与えられた


「泊地に潜入し、そこの提督を殺す」


艦娘達はただ言葉を失いながら、篠原の激しい怒りが孕んだ瞳をただ見つめていた。


艦娘が人を殺し、艦娘を沈める。


人と人が艦娘を使い戦争を起こす。

それは深海棲艦との戦争とは比較にならない程の血が流れる事になるだろう。


篠原には、それを刺し違えてでも阻止する覚悟が既に出来ていた。


泊地内部に侵入し、指揮を執る提督を殺害する事により従える艦娘達を無力化させる。

それは最も理にかなったやり方であるが、篠原の艦娘達は、先ずはその事態について抗議をした。

何故人が艦娘を使って殺戮行為に走ったのか、そんな疑問が真っ先に浮かぶのは至極当然の事であろう。

夕立と時雨は声を荒げて席を立つ。


「そんなのおかしいっぽい……! なんで、なんで艦娘に人を襲わせるの⁉︎」


「そ、そうだよ……、僕達は人々を守る為に生まれてきたんだ! 人間にとって、敵は深海棲艦じゃなかったの⁉︎」


篠原は2人の言いたい事を痛い程わかるつもりだった。

しかしいくら考えても答えが浮かばなかったのだ。

彼は苦悶に満ちた表情で代わりの言葉を吐き出した。


「結局……ヒトを滅ぼすのは、ヒトなのだろう……」


失望の色が濃いその言葉に、皆は悲壮に顔を歪めていた。

それでも神通と川内は悲しんでいる場合では無いと表を上げた。


「……ヒトを救うのはヒトです、提督。 貴方は既に戦う覚悟が出来ているのですよね」


「私達は負けないよ。 何をすればいいの?」


その2人の切り替えの早さに、篠原は微かに笑みを浮かべる。


「そうだな……、先ずは泊地に乗り込む必要があるからーー」


「ちょっとまって‼︎」


大井が席を立ち、篠原の言葉を遮った。


「提督が乗り込む気⁉︎ ……艦娘と戦うと言うの⁉︎」


その言葉に、何名かの艦娘が反応した。

朝潮、不知火、曙が席を立ち声を張る。


「司令官! お考え直しください! 艦娘の実弾が直撃したら、ひとたまりもありませんよ!」


「その通りです。 司令、不知火達が戦います」


「そうよ! 目には目を……、艦娘には艦娘よ!」


同調し、同じ様に考え直す様に声を上げる艦娘が何名か現れ始めた。

篠原は叫ぶ。


「お前達に人を殺させるものかッ‼︎ 艦娘を沈めさせるものか‼︎ 俺達の敵は、深海棲艦だ!」


その言葉の後に、神通が続く。


「……だからこそ、私達は今、盾となりましょう。 相手の息の根を止めれば全てが片付くのですから、提督が最も適任なのです。それまで艦娘達を抑えるのです」


食堂は静まり返り、これ以上抗議の声が上がらない事を確認した篠原は、説明を再開する事にした。


「……我々に特務としてこの任務が降り立ったのは、格闘技など陸上訓練に最も長けた鎮守府だからだな。今回は泊地に潜り込む必要がある、更に陸上が舞台となり艤装は持ち込めない、よって同行出来る艦娘は1人までだ。 それ以上は定員オーバーだ」


艤装を外した状態の残り香のような加護を頼りにしなければならない。

至近弾1発でも身に受ければ、艤装が無ければ艦娘ですら怪我をするだろう。


1人だけ、と言う言葉に真っ先に反応したのが神通だった。


「でしたら、私が。 近接格闘には自信があります」


神通はこの鎮守府でもトップクラスの実力を誇る。

陸上での訓練も誰よりも積んでいる上に、体術の心得まである。 同行する事に誰も反論しないだろうと思われた。

だが、川内の声によって待ったが掛かる。


「いや何言ってんのさ。 神通は秘書艦だから、提督の留守中の指揮も執らないといけないんだよ?」


川内はそう言いながら神通の前に立った。


「せ、川内姉さん……⁉︎」


「私が行くよ。 ね、提督、それでいいよね?」


川内も実力はトップクラスに違いないが、あまりに目立たなかった。

疑問の声まで上がっていたが、篠原は川内の目を見ると、すぐにその要求をのんだ。


「わかった。 川内、世話になるぞ」


「任せてよ、提督」


「ね、姉さん……どうして……」


「たまには姉として頼れるところ見せないとねぇ」


川内は笑いながら神通の肩を叩いた。


「……本当は不安なんでしょう? 姉だからわかるよ。 そして皆も不安なんだ。 だから神通、留守の間皆を引っ張ってね」


「姉さん……。 もしかして、私を秘書艦に立候補させたのも……⁉︎」


「さぁてね? それじゃ提督、私はどうすればいいの?」


川内は神通の話を遮り、篠原と向き合った。

篠原は応える。


「1時間後に鎮守府を出る。 それまでに準備を整える。 作戦がうまく行けば日が暮れる前に終わるだろう。 ……だが、その前に、確かめたい事がある」


食堂の艦娘達を神通に任せて、篠原と川内は場所を移した。


そこは出撃ドックの中で、篠原は普段とは全く違う格好へと着替えていた。

黒い長袖のインナーに、黒い厚手のベスト、そして黒いボトム。

身体の至る所にプロテクターが貼られている。

全身を黒一色に染めて、メリケンのついたグローブを嵌め込み肌の露出は一切無く、厚手のベストにはセラミックプレートが仕込まれ、防御力の高い防弾チョッキとなっている。

胸にはナイフとマガジンポーチが括られ、腰にはハンドガンを収めたホルスターと、トマホークと呼ばれる小型の斧がぶら下がっている。


そして手には近距離銃撃戦を想定してドットサイトをつけたM4A1アサルトカービン。

小型ながらハンドガンより遥かに威力が高く、安い防弾チョッキなら容易く貫く高速弾を毎分900発ばら撒く凶悪な代物だ。

篠原の持つM4A1は、ハンドガード部分をレール付きの物に付け替えられ、アンダーレールには筒状の擲弾発射器が取り付けられて、グリップなど至る所に改造が施されていた。


川内はその殺意の高い格好に目を丸くしていた。


「……て、提督?」


「野戦時はいつもこんな格好だった。 それよりも……」


篠原は海の方へと顔を向けた。

そこには艤装を展開した大和が海の上に立っていた。


「……大和、後悔はしてないな?」


「はい。構いません、いつでもどうぞ」


「怖くないのか?」


「はい。 提督の為になるのなら、この程度……」


その言葉を聞いた篠原は、銃口を大和へと向けた。


「俺は……震える程怖いんだがな……」


そう言って、篠原は引き金を引いた。


大きな炸裂音と共に放たれた音速を超える銃弾は、真っ直ぐ大和の艤装目掛け放たれる。


しかし、銃弾は艤装に触れた途端に弾けて消える。


何かに当たる音すらせず、その異様な様子を前に、篠原は少しばかり肩を落とした。


「……至近距離で5.56mm NATO弾が効果なし……か……」


「……はい、艤装の損傷は一切見られません」


本来なら薄い鉄板すら貫く威力が秘められている物だが、艤装の前には無いにも等しい様だ。


続いて、篠原は川内にその銃を持たせた。

ストックの長さを調整して、川内に完璧と呼べる射撃姿勢を取らせた上で銃身を手で支える。


「いいか? ドットサイトは10mの距離でゼロイン調節している。 ちょうど大和の位置だ。 反動も強い、絶対に生身の方へ銃弾が行かない様に射撃するんだ」


「う、うん……」


川内は額に汗を浮かべながら、ドットサイトの赤い点を睨み付けた。

銃口が1mm横にズレただけで10m先では2〜3cmのズレに広がる。

1cmも揺れれば明後日の方向へと弾は飛ぶだろう。


篠原は銃身を支えながら、短く息を切り始めた川内の背中をさすった。

すると川内は大きく息を吸ってひと呼吸入れると、引き金を引いた。


銃声と共に放たれた銃弾は大和の艤装と衝突し、鋭い金属音を響かせて跳弾し、海の中へと消えていった。


篠原はその様子を食い入る様に見つめ、言った。


「や、大和……⁉︎」


「……極僅かですが艤装が傷付きました……。 ですがこの程度では……とても戦闘が成り立つとは思えません……」


「いや、それでもこの事実は収穫だ。 川内も、嫌な事を押し付けて本当にすまなかった……」


「ううん……、平気だよ。 ……本物の銃って反動が凄いんだね、ガスも噴き出るし……」


艦娘と艦娘ならば、近代兵器の類は威力を持つようだ。

それが例え取るに足らない僅かな物だったとしても、この事実で出来る選択肢は確実に増えた。


続いて、大和はドックに上がると篠原と向かい合った。


「では、どうぞ、提督」


「あ、ああ……」


篠原は大和の首に手を掛けると、徐々に首を絞め始めた。

しかし、その手には違和感が生じていた。


「大和……、何も感じないか?」


「は、はい……。ただ触られている感触だけ……」


「俺もかなり力を入れているつもりなのだが……」


神通は長門を絞め落としてみせた。

しかし、篠原の手は大和の気道を塞きとめる事も、血管を抑える事も叶わなかった。


「ありがとう大和。 ……もう十分だ」


「て、提督……、これでは……」


「ああ、判っている。 艤装を展開した艦娘にはどうやっても勝ち目は無いのだろう」


「やっぱり危険過ぎます! ……大和も連れて行って下さい……!」


「すまない、定員オーバーなんだ。 納得してくれ」


「そんな……」


「後は神通の指示に従ってくれ。 では……」


「提督……、どうかご無事で……」


大和と別れ、篠原と川内はドックを後にした。


そして門までの路地を歩いていると、北上が待ち構えていた。

北上は腕を組んで壁にもたれていたが、篠原の姿を見るとすぐに駆け寄った。


「……提督、約束したかんね」


「ああ、判ってるさ」


「アタシは一緒に行けないから、せめて門まで見送っていい?」


「ふふっ、それは頼もしいな」


北上も混ざって、3人で門前まで行くとそこには鎮守府の艦娘達が全員集まっていた。

そして篠原の姿を捉えると、一斉に整列して揺るがない敬礼を始めた。

先頭に立つ神通が声を張り上げる。


「艦娘一同、提督……、いえ、篠原様のご健闘を心よりお祈りしています!」


「……は、ははっ、壮観じゃないか」


「私達の事は心配ありません。 ですから必ず、必ず無傷でご帰還されて下さい! ……それが一同の、心よりの願いです」


「ああ、約束しよう」


篠原はそう言って敬礼を返した。

そして門の奥に停まる装甲車へと足を運ばせた。

篠原が振り返る事なく装甲車の座席に乗り込んだのに対して、神通の声により川内だけは呼び止められていた。


「姉さん!」


川内は顔だけ向けて耳を傾けた。


「……提督を、お願い……」


その言葉に、川内は黙ったまま二本指で敬礼を飛ばして座席に乗り込んでいった。


神通が、妹として姉に願いを頼んだのだろう。


川内が敢えて返事を口にしなかったのは、その事が判って、言葉など無粋だと捉えたのかも知れない。

少なくともその時の川内は、神通にとって誰よりも頼もしく見えていただろう。

走り出した装甲車を見送る神通の表情に、僅かな笑みが残っていた事がその証明になっていた。


移動を始めた車内で篠原は川内に話し掛けた。


「……川内、やっぱり妹は可愛いんだな」


「ん? そりゃそうだよ、何いってんのさ」


「いや何、今日のお前は頼もしい。 ……同時に、やっぱり罪悪感がな……」


川内はムッと顔を顰めた。


「戦いに巻き込んだ〜……、とか月並みな台詞吐いたらグーで殴るよ提督」


「ははっ、そりゃ勘弁だ。 それとお前も着替えた方が良いな」


篠原はそう言って座席の収納から黒い服を取り出して川内に手渡した。


「女性用の防具一式だな。 後はフルフェイスもあるから、そのお洒落なツインテールも目的地までには解いておいてくれよ?」


「うん、わかった。 ……いやちょっと待って、車の中で、しかも提督の前で着替えるの⁉︎」


「……あー……」


「完全に忘れてたって顔してるよ提督‼︎ やっぱ殴る! 殴らせて!」


早くも無傷の帰還が叶わなくなりそうな篠原は、慌てて川内を落ち着かせようと説得を試みた。


「落ち着け川内……! 窮屈かもしれないが、服の上からでも良いぞ!」


「提督って今だけはデリカシー無いよね」


「……いや本当すまん……」


提督としての威厳は何処へやら、流石に見兼ねたのか運転手が助け舟を出した。


「急ぎなんで寄り道は出来ませんが、膝掛けならありますよ?」


「あっ、ありがとう運転手さん!」


そう言って防寒毛布を差し出すと、川内は受け取って身体を隠すように広げた。

そして僅かに頬を紅潮させながら篠原を睨む。


「……提督、絶対にこっち見ないでよ? あと運転手さんも今だけバックミラー曲げて!」


「わ、判った」

「は、はっ!」


まもなく、川内は器用に身体を隠しながら装備を着込み始めたのだが、ふと湧いた疑問を口にしていた。


「なんか妙に硬い服だね。 ゴワゴワしてる」


「ああ、ハーネスを繋げるし、結露もしにくいんだ」


「へ? 結露?」


「まぁなんだ、今は気にしなくて良い」


「そう言えばこの車、海とは正反対の方角に向かってる気がするんだけど……」


「はははっ、不思議だなぁ」


「……提督、離島に行くんだよね? どうやっていくのさ」


篠原はその時、適当にはぐらかして答えなかった。



その一方で、問題の離島近海を包囲する艦娘達の戦場は惨状のひと言に尽きる有様であった。

辛うじて均衡を保ち、戦線維持を保っているが限りなく士気は低い。


『どうすれば良いの……⁉︎ これ以上攻撃したらあの子が沈んじゃう……!』


『第2艦隊陸奥、砲撃により三隻中破……ッ‼︎ 提督、これ以上の継戦は厳しいわ‼︎』


『こちら第1艦隊長門……、駆逐艦が大破した、一隻撤退させる』


横須賀の佐々木提督は、足の速い高速艦と装甲の厚い戦艦を持って離島泊地の艦娘の進撃を抑え込んでいたのだ。


コマンドシップからその通信を受けていた佐々木は苛立ちを隠せずにテーブルを殴りつけた。


「クソォォッ! なんでこんな事に……‼︎」


横須賀の大淀が指揮の補佐を務めているが、やはり表情は暗い。


「……これ以上攻撃すれば……相手の艦娘が沈んでしまいます……。 ですが……攻撃せずにいれば、いずれ我々も……!」


「……呉の東郷提督と通信を繋いでくれ」


「は、はい……」


佐々木は、呉鎮守府を纏める東郷 弘と言う名の提督と通信を試みた。

呉の東郷もまた大規模鎮守府を纏め、日本で唯一超弩級戦艦 武蔵 の建造にも成功している名だたる人物である。

そして佐々木の同期でもある。


『東郷だ。 どうした佐々木』


明らかに不機嫌な声で東郷は通信に応じた。


「戦況はどうだ?」


『最悪以上の言葉があるのか? もしあったならここで口にしたい気分だ』


「……此方も、これ以上の戦線維持は厳しい。 ……攻撃もやむなしか」


『……チッ』


通信は切られ、佐々木は回線を切り替えて長門に繋いだ。


「……長門、よく聞け」


『……なんだ』


「お前は、俺の命令に従って攻撃をする。 ……判ったか?」


『……判らんな。 私は……、例え相手が艦娘であろうと……仲間を失うくらいなら、沈めてみせる』


「……すまない長門……すまない……」


通信を終えた佐々木はその場で脱力し、深く椅子にもたれかかった。

同士討ちをさせる命令を下さなければならなかった佐々木の心境を、長門はそれどころでは無いと言うのに案じていたのだ。


海上に立つ長門は涙を散らして声を張り上げた。


「全艦隊、主砲用意ッ‼︎」


その言葉に、横須賀の艦娘達は動揺しながらも砲を構え始めた。


長門は砲撃合図の為に腕を高く振り上げたが、その手は震えている。


砲身が向く先には自分達が追い込んだ艦娘がいる。

全員が満身創痍で、けれど撤退も許されずに絶望した瞳で此方を見続けている。

一切の希望も無く絶望に染まる瞳はまるで深淵に至る闇のようで、何も映さない。


長門は目を逸らしてしまいそうになる心を踏み躙り、歯を食い縛って耐えていた。


掲げた腕を前に振り下ろせば、砲撃が始まる。 砲撃を行えば、間違い無く彼女達は沈むだろう。

覚悟など出来る筈もない。


そんな長門に、陸奥は話し掛けた。


「……手、震えているわよ? ……私が合図を送るわ」


「やめろ‼︎ 震えてなどいない……‼︎」


そう言って長門は自分の振り上げた右手に目を向けた。

その直後、震えが収まり、腕をゆっくりと右に払った。


その仕草は合図の取り止めであり、やがて長門は膝から崩れ落ちて大粒の涙を零し始めた。


陸奥はその様子を見て、哀しげに眉を顰めながら言った。


「長門……貴女やっぱり……」


「………が……た……」


長門は震える小声で何か呟くが、陸奥は上手く聞き取れずに聞き返した。


「え? なんて言ったの……」


その直後、長門は大きく声を張り上げた。




「……来たぞ、サムライが来た……‼︎」




“サムライが来た”。

たったそれだけの言葉に、ここにいる艦娘達の多くは救われた筈だ。

少なくとも横須賀の艦娘達からは歓声が上がるほどだった。


長門はすぐに佐々木に通信を送る。


「提督……! 賽は投げられた……、繰り返す、賽は投げられた……‼︎」


『……ッ! ……第3、第4航空艦隊、用意‼︎』


その通信を受け取った佐々木も素早く通信を回し始めた。

横須賀の艦娘達、呉の艦娘達の瞳に一気に色が舞い戻る。

“絶対に助けてやる”と熱い炎までも灯され始めたのだ。


長門が見出した希望。


それは、長門が自分の掲げた右手を見上げた時の視界の端に捉えた影だった。


雲の上を行く、小さな影。


切れ目から微かに姿を見せた、紺色の飛行機。


長門は何か祈るように、その影を見送り続けていた。





その影の正体こそ、サムライこと篠原であった。



高高度を飛行する人員輸送機の内部では、同行する川内が篠原に激しく抗議していた。


「エアボーンって何さ⁉︎ 私てっきり水上オートバイ使って神懸かりな運テクで乗り込むかと思ってたんだけど⁉︎」


「こっちのが確実なんだよ。 速いし」


「せめて事前に説明してよぉぉぉぉ‼︎」


「説明したら高度5000m以上の高さから飛び降りる覚悟が出来ていたのか?」


「出来るわけないよ‼︎」


川内は半泣きで喚き出すが、既に彼女の背中は篠原の身体とハーネスで頑丈に繋がれていて逃げ出す事は出来ない。


1人しか連れて行けない理由はこの為だったのだ。


雲の中を突き抜ける為フルフェイスも被り、パラシュートも装備していつでも降下出来る段階だ。

降下座標までもう間も無くと言った所で、篠原に通信が入る。


『おっせぇぇぇぞ篠原ァ‼︎ 待たせやがって、せめて一報送れや‼︎』


「すいません佐々木提督。 説得に時間が掛かりまして」


「説得出来てないからね提督⁉︎ 無理矢理ハーネス繋いだじゃん!」


『……まぁいい、頼むぜ、サムライ』


佐々木の声は高揚を隠せないものだった。

通信が切られて間も無く、パイロットが声を掛ける。


「降下地点上空です。 篠原さん、ハッチを開けます」


「お願いします」


「……グッドラック」


輸送機後部のハッチが開かれ、けたたましい風の音と共に流れる雲海が姿を現した。

篠原は一歩ずつ進み始める。


「見ろ川内、雲の海なら怖くないな? 艦娘と海は綿密な関係だしな」


「ちょっと待ってちょっと待って無理無理無理無理無理‼︎」


「落ち着け、俺を信じろ」


「無理無理無理無理無理無理無理無理⁉︎ ああぁあぁぁーーッ‼︎」


最早壊れたラジオの様に同じ言葉しか発せなくなった川内。

篠原はそれでも歩みを止めないが、川内を勇気付けようと陽気に歌を歌い始めた。


「ハーレルヤ♪ ハーレルヤ♪ ハレルヤ、ハレルヤ、ハーレールヤー♪」


「何その歌⁉︎ やめて⁉︎ 落ち着かせる気あるの提督⁉︎」


状況に対して不吉を感じた川内はすぐに抗議した。

とにかく漸く言葉が耳に入ったと捉えた篠原は歌うのをやめて川内に言った。


「よし、カウントだ」


「……うぇえぇ」


川内は最早どうにでもなれの精神で挑む事にした。

いきなり上空に連れてこられて覚悟など出来る筈なかったからだ。

最早、身体半分を空の上に投げ出している川内は、流れる雲海を見て息を飲んだ。


「て、提督……、最後に深呼吸だけ」

「3、2、1……行くぞッ‼︎」


「あああぁぁぁぁーーーーーーッ⁉︎」


篠原は容赦無く雲の上へと飛び降りた。


空に投げ出された篠原は身体を大の字に広げて風を受け止める。

対する川内は、あまり意味は無いが手を背中に回して篠原の身体を掴んでいる。


「あああぁぁぁーーッ! し、死……! 提督‼︎ 私が死んだら毎晩化けて出てやる‼︎」


「毎晩枕元で夜戦と騒がれたら寝れないな……。 それとあんまり喋るな、顎紐がズレたら首が締まるぞ?」


「んーーーーッ‼︎」


川内は口を強く結びながら文句を言い始めた。激しい抗議の声が口内で押し込められるが篠原は知る術もない。

やがて雲の中に突入すると、そこは濃い霧に囲まれた様な空間だった。


氷の粒がビシビシと身体に当たり、こびり付いた水滴が風で冷やされ霜になって張り付き始めた。


そして雲を抜けると広い海と離島が視界に広がった。


海上では艦娘同士が交戦を続けていて、その光景を前に川内の表情に真剣味が舞い戻った。

フルフェイスに搭載された通信を使い、話し掛ける。


「提督……」


「なんだ?」


「早く終わらせよう」


「ああ」


海上で交戦を続ける艦娘達。


横須賀と呉は大量の艦載機を持って対空砲火の矛先を偏に集めているのだ。

離島泊地の艦娘は艦載機に夢中で、篠原の影に気付く気配すらない。


仮に、ここが深海棲艦の領域であったなら輸送機は使えなかった。

皮肉にも相手が艦娘であり、鎮守府近海に深海棲艦が居なかったからこそエアボーンは行えた。


篠原は空中制御で巧みに自由落下を操り、真っ直ぐ泊地総司令部の建物を目掛けて降下を続けた。


そして視界一杯に大地が迫るとパラシュートを開いた。


「ぐぅ……ッ‼︎」

「提督ッ⁉︎」


自由落下により加速された2人分の体重が篠原を襲い、思わず声を漏らしていた。

そして回り込む様に旋回して海側から建物の影に隠れる様に雑木林の中へと降り立った。


パラシュートが枝に引っ掛かるも、木々の背が低く簡単に抜け出せた篠原は、ハーネスの連結を解いて川内を解放した。

そしてパラシュートを切り離した篠原は肩の具合を確かめながらホルスターからハンドガンを引き抜いて川内に手渡した。


「本物のM92Fだ。 念の為な……」


「う、うん……。 それより提督は大丈夫?」


「問題ない」


篠原は首をコキコキと鳴らして、背中に回したM4A1を引き出して構えた。


「行くぞ川内。 10分で蹴りを付ける」


「わかった‼︎」


間も無く、2人は建物目掛けて疾走した。

大半の艦娘が出回っていると想定し、白昼堂々と建物に近付く。


しかし、その行く手はすぐに阻まれる事になった。

初めから陸上にいてパラシュートに気が付いたのだろう。 ボロボロになった艦娘が1人、震える手で弓を構えて立ちはだかる。


「ししし侵入者……こ、殺さな……殺さなきゃ……」


痛んでボサボサとした黒い髪の毛と、殴られたのか頬が腫れた顔は痛々しく、篠原は可能なら目を背けたかった。


「川内」


「……ごめんね」


弓が番られるよりも速く、川内はその艦娘に詰め寄ると鳩尾目掛けて鋭い突きを放った。

あまりの衝撃に胃液を吐き出す艦娘の背後に回り込んだ川内は、彼女の両膝を蹴り地面に伏せさせると弓を取り上げた。


「うぐっ、ぅぅぅ………」


「……」


艦娘は力無く地面に伏したまま呻き声をあげている。 無力化を確認した篠原はすぐに走り出し、川内も後を追い掛けた。


建物の入り口には3名の艦娘の姿が見え、全員が此方を見ていた。


「川内!」


「判った!」


篠原の合図により、川内は筒状のカプセルを取り出してピンを抜くと艦娘に目掛けて投擲した。

そして素早く目を瞑り、フルフェイスの隙間から手をねじ込んで両耳を塞ぎ口を開ける。



キィィンッ‼︎と耳を突き刺す甲高い音が響くと同時に真っ白な光に包まれる。

艦娘の手により武器の効果が艤装の加護を貫くのなら、閃光手榴弾は銃以上の効果を示す筈だ。

その光量は艦娘達を一時的に失明させ、行動不能に陥らせる。


「突入する! 川内、背中は任せた!」


篠原は倒れ込む艦娘を飛び越えて入り口から堂々と侵入すると通信室を目掛けて真っ直ぐ突き進んだ。

道中、何名かの艦娘と遭遇するが、建物内となれば艤装が無くとも川内の方が圧倒的なアドバンテージを誇り、次々と無力化させていく。


そして通信室のドアの前まで辿り着き、ドアに向けて何発か盲撃ちした後でノブに手を掛けるも案の定鍵が掛かっている。


篠原は舌打ちをしながらドアノブに1発の銃弾を撃ち込んで破壊すると、そのドアを蹴破った。


銃を構えたまま通信室に入るも、既に人の気配はない。

ただ盲撃ちにより撃ち抜かれた椅子が転がっているだけだ。

川内は通信室の窓が開いているのに気が付く。


「に、逃げられた⁉︎」


「そのようだ。 だが第1目標は達成した」


篠原はそう言って、まだ電源の入っている通信機を手に取った。


「離島泊地所属の全艦娘に告ぐ、ここの提督は大本営の意向により全権限が剥奪された。 既に君達の提督ではない。 繰り返す、既に君達の提督ではない、即刻、帰投されよ」


それは海上に出た全ての艦娘に送られた終戦の報せである。

窓の外を警戒しながら、川内は必死に通信をする篠原の姿を見て少しばかり安堵の表情を浮かべていた。


しかし、その瞬間。

川内は迫る気配を察知して咄嗟に声を張り上げた。


「提督、危ない‼︎」


「ッ⁉︎」


篠原は咄嗟にその場を飛び退くと同時に乾いた銃声が響いた。

銃弾は先程まで篠原が弄っていた通信機を破壊し、火花を散らせた。


篠原は素早く身体を翻して銃声の方へと顔を向けると、通信室の入り口に拳銃を構えた白い制服を着た男がたっていた。


「チッ‼︎」


男は舌打ちをしながらその場を走り去る。

篠原は素早く追い掛け始め、川内もそれに続いた。


その男は建物を飛び出し、駐車場の方へと走り抜けると車を盾にして拳銃を構え始めた。

建物の入り口からその様子を確認した篠原は、呆れたような声を漏らした。


「あいつ、軍を敵に回した事を理解していないらしい」


「……提督?」


篠原はM4A1を構えたまま入り口を飛び出すと男が狙いを定めるより素早く車を照準に捉えて引き金を引いた。

それは銃のトリガーではなく、M203グレネードランチャーと呼ばれる擲弾発射器の引き金である。


ポン!と気の抜ける音と共に放たれた40mm榴弾は横を向いた車のドアに当たると炸裂し、爆発と共に衝撃で車ごと男を弾き飛ばしていた。


「ぐぁああッ!」


吹き飛ばされた男はアスファルトに叩きつけられ、前後不覚に陥りながらも何とか立ち上がり、逃げ出そうと走り出した。


刹那、タタン!とテンポの良い銃声が響くと同時に、男の膝から鮮血が舞い上がった。


「ぎゃぁぁああーーーーッ⁉︎」


篠原が2点射撃で膝を撃ち抜いたのだ。


男は膝を抱えて地面に転がり呻き声をあげ始める。

篠原はM4A1を男に突き付けたまま歩み寄りながら、川内に指示を出した。


「川内、倒れた艦娘達と、それから寮の様子を見てきてくれ」


「……わ、わかった」


最早勝敗は決している。

川内が建物の中に入って行ったのを見送った篠原は、這い蹲る男を見下ろした。


「さて、陸軍式だ。 覚悟しろ」


既に男は身体中から血を流しているが、篠原は胸倉を掴み無理矢理引っ張り立たせる。

膝から血が吹き出し、男は大きな悲鳴をあげるが篠原は構わず腕を捻り上げ強引に歩かせた。


「ガァァッ‼︎ んぉアッ⁉︎」


「いいから歩け」


激痛に悶え苦しむ男を歩かせて建物の壁際まで歩かせると、そこで思い切り突き飛ばした。

顔面から壁に突っ込んだ男は悲鳴と共に崩れ落ちてうつ伏せに倒れ込んだ。


篠原は男の両腕を結束バンドで拘束すると、腕を掴み仰向けの姿勢にさせると言った。


「さて……、お前には殺戮行為と反逆行為……更に新たな戦争を扇動する行為……、まぁその他諸々で立派な戦犯になる訳だ」


「へ、ヘヘッ……それがどうしたってんだよぉ!」


男がそう口にした瞬間、篠原はメリケンの付いたグローブで顔面を殴り付けた。

メキッと何かが潰れる音が何度も響き、両手を拘束されて襟元を手繰り寄せられた男は篠原の拳を前に防ぐ術は無く、やがて最後に振り抜かれた拳と為に突き飛ばされた男は、芋虫の様に地面をのたうち回る。


「あぐゥ……ッ‼︎ ……ッぐぅ……」


「痛がってる場合じゃないぞ? 何で艦娘を使って殺戮行為を働いたか理由を聴こうか」


男は鼻血で顔を染めながら、呻くように呟く。


「艦娘、を、……連れてた、な? ……お前も、提督なら、知ってんだろぉ……? 艦娘も……深海の化け物も……、対して変わりゃしねぇ……‼︎ 兵器が通用しねぇのも艤装をつけた艦娘も同じだ。 それに深海の連中は艦娘が使う資材を落とす、もうただの偶然とは思えねぇよなあ?」


「……」


「5年間、毎日、毎日毎日毎日毎日毎日ずっと戦って、戦って、戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って……‼︎ それでも何の進展もありゃしねえ。 いつ終わるんだよ……、いつ終わるんだよ戦争はッ‼︎ いつだよ⁉︎ おい答えろよッ⁉︎ しらねぇのか? そりゃ答えられねぇよなぁ⁉︎」


男は続けた。


「この戦争は奴等が仕込んだ茶番だからなぁ‼︎ 深海も艦娘も無ぇ、奴等が飽きるまで戦争は終わらねぇ! クソみてぇな茶番で遊び尽くされ死ぬのがオチだ‼︎ 艦娘は希望だと? バカ言え、戦争を無駄に長引かせてるだけの悪魔だ! 無駄に戦って無駄に苦しんで少しずつ人間は数を減らしていく……、そりゃそうさ、全て仕込まれてんだからなぁ! 奴等のゲームなんだよコレは‼︎


「だから殺してやった‼︎ 艦娘も、深海の化け物共も俺の邪魔をする奴も、皆殺しだ‼︎ アハハハハハハハハッ‼︎ 殺戮? 戦犯? 知るかよ、どの道嬲り殺されんだよ俺達はよぉぉ‼︎ ギャハハッ‼︎」


高笑いを始める男に、篠原は黙ったまま銃を突き付けた。

すると男はピタリと高笑いを止めて、血の滴る不気味な笑顔を向けた。


「ヘヘヘヘッ、なぁお前さんよ? 俺を殺して正義のヒーロー気取りか? あ?」


「……例えこの戦争が茶番だったとしても、そこに人の営みがあるのなら、俺は迷わないさ」


篠原は引き金に指を掛けた。


「どんなに涙を誘う感動的な物語があったとしても、お前はこうなっていた。 さて、何か言い残す言葉はないか?」


「ケッ……」


男は鼻で笑って。最後に篠原を睨み付けた。



「くたばれ、偽善者野郎」



篠原は引き金を引き、男の身体は崩れ落ちて赤黒い血溜まりを作り始めた。


これは、悲劇だったのだろうか。

長期化した戦争が人の心を蝕んで行った結果なのだろうか。


篠原も、艦娘と深海棲艦の無視出来ない共通点を知っていた。

今朝、大和に試した銃撃が1番の例だろうか。

銃弾が気泡の様に弾けて消える、それはかつて深海棲艦を撃った時と同じ現象だった。


しかし、それを踏まえても篠原は迷わなかった。


「偽善者でも構わないさ」


男の亡骸にそう吐き捨てた篠原は、踵を返して川内が向かったであろう寮の方へ足を向けると、彼女が慌ただしく玄関から出てきた。


「て、提督! た、大変なの!」


「どうした川内、何があった⁉︎」


「は、早く来て‼︎」


篠原は川内の案内で寮の廊下を走り抜け、1つの部屋のドアの前まで向かった。

川内はそのドアを開けると、篠原に言った。


「ねえ……なんなのコレ……、どうなってるの……?」


「な……ッ⁉︎」


篠原は目の前の光景に言葉を失った。


床も天井も壁も黒い根のようなシミが張り巡らされ、その部屋の中央で白い髪の少女が、黒い靄に包まれて横たわっている。


「お、おい! しっかりしろ!」


篠原はすぐに駆け寄り、少女の身体を起こそうと試みて腕を取るも、氷のように冷たく、どんなに力を込めても腕を持ち上げる事は叶わなかった。

それは張り付いた氷の様で、黒い靄は徐々に少女を包み込む。


「な、なんだこれは……」


「て、提督……、なんか、ヤダ……怖い……!」


川内は震え上がり、その場に蹲ってしまう。


やがて部屋全体を漆黒が蔓延し始めた時、少女の口が僅かに動き、囁くような声が聴こえてきた。


「……人を……殺して……、艦、……殺して……。 守る、為に……生ま……た………筈……な……に……」


微かな声を絞り出すかの様に綴られる言葉は、あまりにも小さく、聴き取る事が難しかった。


篠原は聞き取ろうと、側に屈み込み耳を傾ける。


「何……、……意味……? ……アハッ」


「……お、おい……、なんて……?」


刹那、少女の洞の様な真っ黒な瞳が見開かれた。

深淵を写す漆黒の眼は篠原の眼を捉えて離さない。




「……全て……無クナ、れバ……誰モ、傷、ツかズニ済、ムネ……」




その言葉を発した瞬間、黒い靄は具現して質量を持ち少女の身体に纏わり付き始めた。

黒いシミは一気に侵食を加速させ、ミシミシと音を立てて建物を食い破るかの様だ。

少女はカタカタと狂気に満ちた笑い声を上げ始めた。


「キャハハハハハハハハハッ‼︎ アハハハハハハハハッ‼︎」


川内は堪らず、篠原の手を引いた。


「ダメ……‼︎ これダメだよ! 提督、逃げよう‼︎」


有無を言わさず手を引いて走り出した川内に、篠原は尋ねる。


「何が起きている⁉︎」


「わかんない……! わかんないけど……、アレは……深海棲艦の気配と同じ……‼︎」


2人は建物を飛び出したが、川内が壁に凭れさせた艦娘達からも同じ様に黒い靄が纏わり付いて蠢いている。

闇に浸食されるような光景に2人は言葉を失うが、あまりの異様さと身体から発せられる危険信号が彼女達に近付くのを拒ませた。


泊地全体を覆うような闇から逃れる様に走り抜けると、1番最初に出会ったボロボロの艦娘が横たわったままだった。


その艦娘は黒い靄が現れていなかった。


「……せめて、この娘だけでも」


篠原はその艦娘を肩の上に担ぎ上げると再び走り出し、川内も後を追った。


そして少し走ると、砲撃を受けたのか崩壊した小さな漁村の姿が目に入った。


跡形も無く崩れた民家や商店、火災が起きたのか至る所に焦げた跡が見受けられ、まだ新しいのか煙の匂いが漂っている。


篠原と川内は最早その光景について何も口にせず、桟橋の方へと向かうとまだ動きそうな小さなモーターボートに乗り込んだ。

篠原は燃料が残っている事を祈りながらエンジンを掛けると、唸りをあげながらスクリューが回り水を掻き始める。


そのまま港を出ると、海上にも黒い靄が立ち込めていて、振り返ってみれば島全体を黒い靄が包み込もうとしている様だった。


ここに来て、漸く篠原が口を開いた。


「……遅過ぎたのか……」


篠原は助ける事が出来なかった、ただそれだけは判っていた。

川内は、たった1人運び出す事が出来た艦娘の、痛んだ黒髪を撫でながら言った。


「……どうすれば良かったの……?」


「もっと早く……、どうする事も出来なかった」


「そんな……」


その後、篠原達の乗るボートは長門達により牽引されて、全員がコマンドシップに回収された。


長門の話によると、篠原が通信を行なったであろうタイミングで離島泊地の艦娘達は攻撃をやめたが、その後黒い靄に包まれながら海の中へと沈んでいったと言う。

そして離島を包み込む闇は依然そのまま残り続けている。


今回の作戦で救出出来たのは、たった1人だけと言う結果になった。


それでも、大破した艦娘が続出したものの横須賀と呉の艦娘達の轟沈はゼロに抑える事が出来たのは不幸中の幸いだろうか。


しかし、あまりの後味の悪さに皆表情は暗いまま帰路に着いたという。


そして、篠原が連れ帰った艦娘は瑞鶴と言う名であること事がわかった。

篠原も一度はカタログで目にしていた筈なのだが、あまりの変わり様にひと目みただけでは判らなかったのだ。


そして、離島を包み込む闇。


篠原はそれが何を意味するのか、何となくわかってしまっていた。

コマンドシップの甲板から海を眺めながら、あの少女が口にした呪いの様な言葉を思い浮かべて呟いた。


「全て無くなれば誰も傷つかない……」


隣に立っていた川内は篠原の手を取った。

落ち込んだ表情で、ポソリと口を動かす。


「……そんなの、寂しいよ」


「ああ……、あの闇は、そう言う事なのだろう?」


「……止めないと。 私達が、それはちがうって、教えるんだ」


堕天と言う言葉がある。

とある神話では、悪魔とはすべからく天使が堕ちた姿とされている。

艦娘にも同じことが起こり得るのだとしたら、それはまさしく現状を指すのかもしれない。


後日、大本営は闇に飲まれた泊地に異常個体の確認を一部鎮守府に向けて発表した。


それは“泊地棲姫”と呼称され、夥しい量の深海棲艦を生み出し続けている。

それは資材と設備の残る鎮守府が深海側に付くと、どうなってしまうのか、最悪な形で実証されてしまった事になる。


掃討に向けて大規模作戦が実施されるのは、もう間も無くの事であった。





Life Goes On






艦娘が深海棲艦へと変貌する。

その事が知れ渡れば、艦娘達の人権はどうなるのだろうか。


篠原の鎮守府の艦娘達は、無傷の生還を果たした篠原と川内を大いに祝福して喜んでいたが、同時に告げられた深海棲艦化の事実に衝撃を受けていた。


離島から唯一連れ帰る事が出来た瑞鶴は、篠原の鎮守府で入渠させた後に医務室のベッドで寝かされている。

まだ眼を覚まさない彼女の頬は窶れていて、死相すら浮かんでいるようにも思えるほど弱り切っていた。


愛宕は瑞鶴の世話を任され、早朝から医務室に足を運ばせると締め切ったカーテンを開けて陽の光を室内に入れた。


その光に照らされてた瑞鶴は、眩しげに瞼を強く瞑った後に、薄っすらと視界をあけた。


「ぅ……、……はぅ……」


「あっ、おはようございます。 目が覚めましたか?」


愛宕は瑞鶴のベッドの近くまで駆け寄ると、彼女の容体を確かめ始めた。


「入渠で目に見える傷は治せましたが……、まだ痛むところはありますか?」


「……ぇ、……ぅあ……」


瑞鶴は虚ろな瞳で愛宕を見て、何処か必死に言葉を放とうとしているようだったが、ままならない様子だった。


「……大丈夫、ここは本州の鎮守府です。 貴女を苦しめる者は誰もいませんよ」


安心させるように愛宕は話し掛けるが、瑞鶴が振り絞った小さな声で別の質問をした。


「み……、みんな……は……?」


その問い掛けに、愛宕は答える事が出来なかった。


「……ごめんなさい」


「そん、な……」


顔を俯かせる愛宕の様子から、瑞鶴は何かを察したのだろう。

瑞鶴は静かに涙を流し始め、愛宕は慈しむように彼女の髪の毛を撫でながら囁く。


「せめて、今だけはゆっくりと休んでください……」


瑞鶴は何も答えず、静かに瞳を閉じるだけだった。


その一方で篠原は執務室で対策を練り始めていた。

泊地棲姫と言う個体は離島から離れずに、深海棲艦の数を増やし続けていると言う。

偵察機により入手した画像では、港内の黒く染まった海からぽつぽつと湧き出る深海棲艦の姿も確認されている。


既に数は100を超えて今もまだ増え続けているのだ。


早急な対策が必要とされているが、この事が知らされている鎮守府は篠原の所を含めて、後は横須賀鎮守府と呉鎮守府だけだ。

緊急事態にも関わらず限られた鎮守府でのみ情報が開示されたのには理由がある。


艦娘の力を別の戦争に転用出来ると言う事、そして深海棲艦化すると言う事は粛々と闇に葬るべき事実である、と判断されたからだ。


日本は戦争で最も被害を受けた国だ。 そして敗戦から学び、争わずに文明を開花させた。

そんな国が新たな戦争の火種を作る事を良しとする筈が無い。

幸いにも離島は日本海域の外に位置し、本土から距離がある為すぐに襲撃する事は無いだろう。

その猶予と、3つの鎮守府が持つ実績を頼っての決断であった。


篠原は情報をまとめ、掃討に向けて幅広い敵艦種に対処できる艦隊を組み始めていると、その日の秘書艦補佐を務める電が徐に話し掛けた。


「司令官さん……」


「ん、どうした?」


「艦娘が……深海棲艦に変わってしまうと知った時、どう感じましたか……?」


「やけに唐突だな」


「ごめんなさいなのです……、でもどうしても気になっていたのです」


篠原は電に顔を向ける。

電の表情は真剣そのものだったが、篠原は特に気にする事もなくサラッと答えてみせた。


「別に……、“あ、変わるのか”、位の感想かな?」


「はわっ⁉︎ それだけなのです⁉︎ き、気持ち悪いとか怖いとか、そんな事は思わなかったのですか?」


「いやむしろ、悪さするって見て分かるから助かる位だけどな。 人間のが厄介だぞ? 無害そうな顔してとんでもない事やらかしたりするからな」


「でも……」


「艦娘は変な奴が多いし、たまに変な事もやらかすが、自ら人を傷付ける様な事はしない。 明確な悪意らしい悪意が無いんだよな。 仮に悪意が芽生えても目に見えて深海化するなら、それってかなり親切じゃないか? 例えるなら銀行強盗が予め自己申告してから乗り込むような事だぞ、それが分かったら乗り込む前に何とか出来るだろう?」


篠原がそう言ってのけると、電はその場ではわはわと戸惑い始めていた。

その様子を見ていた神通はクスクスと笑った。


「電さん、答え合わせは済みましたか?」


「想像より遥かに前向きに捉えていたのです……」


電は、篠原が悪い様に捉えていない事は分かっていたようだ。

だが親切とまで言ってのけるのは予想出来ていなかった。

そして、再び篠原に尋ねた。


「でも……元は艦娘なのです……、戦えるのですか……?」


篠原は頭の中で言葉を整理し始め、顎に手を添えて考え始める。

電と、神通もその様子を黙って見守っていると、やがて篠原が話し始めた。


「……あの時、川内がこう言っていたんだ、“それは違うと教えるんだ”と……。 それってもしかして、真理に近いんじゃないか?」


「真理、なのです……?」


「何の為に生まれたのか、では無く、何故生まれたのか、と言う話だが……、艦娘と深海棲艦の無視できない共通点とかを纏めると、何と無く納得出来るんだ」


篠原は言葉を続けた。


「深海棲艦が、かつて軍艦と共に沈んだ強い怨念が形を成したものだとしたら、お前達はそれ止める為にヒトの形を得た御恩なのでは……と」


「止める為、なのです……?」


「お前達が強い意志と想いの力で強くなってみせた事も、ヒトとして共に生きる事が出来る事も……、お前達がヒトと世界を知る事により、怨念に対して“間違っている”と、“それは違う”と声を挙げて唱える事が出来るからじゃないか?」


「それじゃあ深海棲艦と戦うと言う事は……、強い怨みを鎮めると言う事なのです……?」


篠原は笑顔で答えた。


「だとしたら素敵だろう?」


「なんだか強引な気がするけれど、確かに素敵なのです」


篠原は、艦娘と深海棲艦は質量を持つ霊的存在だと考えていた。

霊とは謂わば、彷徨える魂だ。 魂とは意志であり、ヒトのそれと変わりは無い。


よく映画に出る悪霊の類が、一方的に人間に干渉して苦しめるが、対する人間はどうする事も出来ないと言う状態が、現状と重なって見えて、篠原はその発想に至ったのだ。


除霊に欠かせない、清らかな祈りに込める想いの担い手が、彼女達艦娘なのだとしたら。

神通はその先の自論を口にした。


「想いを託されて、私達が強くなった事の証明になりますね。 ここでの日々全てが意味を持つなんて素敵です」


「まぁ……、俺はあんまり自信無いけどな。 こじ付けが酷いし」


そう言いながら篠原はデスクに海図を広げた。

そして海図の離島近海を丸で囲んで、島の港部分にバツ印をつける。

話がひと段落したと見て、仕事を再開したのだ。


「横須賀、呉鎮守府と共に正面から攻撃を仕掛ける算段となっている。 包囲ではなく正面から横に広く戦線を繰り出し歩みを進め、掃討する」


篠原は続けた。


「第1艦隊、加賀旗艦、扶桑、愛宕、神通、吹雪、叢雲


「第2艦隊、赤城旗艦、山城、高雄、川内、暁、響


「第3艦隊、大和旗艦、龍驤、青葉、那珂、電、雷


「第4艦隊、金剛旗艦、天龍、龍田、初雪、白雪、伊58、彼女達はコマンドシップ護衛にあたる」


神通は頷くと共に席を立った。


「はい、招集をかけます」


篠原は中規模鎮守府ながら精一杯の構成を練ったつもりだが、掃討戦と言う質量がモノを言う戦いでは不利に傾く事を理解していた。

横須賀や呉鎮守府の様に戦艦艦隊や空母艦隊をいくつも用意出来ない為、その2つの鎮守府のバックアップを務める事になっている。


まもなく、放送により指名された艦娘が執務室に集まって来た。

第1艦隊旗艦に任命された加賀は敬礼した後、篠原に話し掛ける。


「今回は爆撃機を積まないのですね」


「ああ、空母は試製烈風を装備。 近海に接近する際にとんでもない量の艦載機が飛来すると予想されているからな。 俺達はその露払いを担う。 航空戦までは纏まって行動し、凌いだなら広がって横須賀と呉の背中につく」


「そう、航空戦ね。 腕が鳴るわ」


「ええ、加賀さん。 一航戦の誇りをお見せしましょう」


「大和、金剛は今回が初のリーダーとなるが、その事に囚われず支援に勤めてくれ」


「はい、わかりました」

「アイアイサー!」


皆、既に士気は高く、篠原はこの時点で無事を確信していた。

あとは速やかに行動に移すだけ、という所で勢いよく執務室の扉が開かれた。


「わ、私も……連れて行ってください……‼︎」


みんなが声の方向へと顔を向けると、息を切らした瑞鶴ぎ立っていた。

窶れた顔で虚ろな目をしていながら、その表情はどこか焦燥に駆られている。


「お願いします……、私も……私も……!」


「瑞鶴君か……。 身体はもう大丈夫なのか?」


「身体なんてどうでもいいんです‼︎ お願い……」


瑞鶴は皆の視線を集めているにも関わらず、その場に膝をついて、土下座の姿勢に移り頭を下げようとした。


だがその瞬間、加賀が瑞鶴の胸倉を掴んで引き立たせると、パシン!と音を響かせて平手で頬を殴り付けた。

瑞鶴は尻餅をついて、殴られた頬を抑える。


「痛……っ」


「いい加減にして、土下座なんて提督は望んでないわ」


「加賀の言う通りだ。 名だたる軍艦の名を持つ者が、簡単に地に頭を付けるな」


篠原はそう言って瑞鶴の前まで行くと膝を折って顔の位置を合わせた。


「……行って、君はどうするんだ?」


「……わかりません、でも……みんなが……」


「……その眼は、戦う者の眼ではないな。 私は君の様な眼をした子が死んでいく様を、何度も見て来たから分かる」


「……」


瑞鶴は俯いて黙り込み、その様子を見て確信した篠原は口を強めて言った。


「意味も無く死のうとするな。 厳しい事を言うが生き残った者には義務がある。 何故君だけが生き残ったのだとか、そんな事はどうでもいい。 生き残った君が何が出来るのか考えなさい」


篠原は同情して慰める様な態度は取らなかった。

毅然として強かな物言いで、瑞鶴に現実を突き付けたのだ。

瑞鶴は肩を震わせながら顔を上げた。


「貴方に……何が分かると言うの……?」


「分からんよ。 だが、君のやろうとしている事が、何の役にも立たない自分勝手な自殺行為である事はわかるがな」


「う、うるさい‼︎ ……知った様な口を利くなッ‼︎ 何も知らない癖に! ただ一緒のところに行きたいだけなのに、それがどうしていけないの⁉︎」


「例え死んでも、一緒のところには行けないな」


「だから何でそんな事が言えるのよ‼︎ まるで自分が見てきたみたいに!」


「見てきたんだよ。 君の仲間達が深海棲艦へと姿を変えるところをな」


篠原は伝えるか迷っていたが、遂に打ち明けていた。

瑞鶴は眼を見開く。


「なにそれ……、みんなが……深海棲艦に……? 嘘よ……」


「嘘ではない。 証拠写真もある」


篠原はそう言って、パソコンのモニターの角度を変えて瑞鶴の方へと画面を向けた。

そこには離島が捉えられ、禍々しい姿と変わった泊地棲姫と夥しい量の深海棲艦が港を占める姿が映し出されていた。


「そん……、な……」


瑞鶴は力無く項垂れる。

周りの艦娘達はそんな瑞鶴を見て悲しげな表情を浮かべていた。


だが、彼女の零れ落ちる様に呟かれた声を、篠原は確かに聞いていた。


「止めないと」


微かに大気を揺らしたその言葉。 篠原には確かに聴こえていた。

そして愉快げに大笑いを始めたのだ。


「……あははははははははっ‼︎」


「な、何ッ⁉︎」


瑞鶴は篠原を睨み付けるが、彼は構わず言った。



「しかと聴いたぞ! 翔鶴型航空母艦2番艦 瑞鶴! その名の誇りに噓偽りは無いッ‼︎」



彼は信じていたのだ、艦娘の強さを。

かつてこの鎮守府に居た艦娘が、強い意志により立ち直ってみせた時の様に、瑞鶴にもそれが出来るのだと。

呆気に取られる瑞鶴を置いて、篠原は声を張り上げた。


「第4艦隊を再編成する! ゴーヤ、悪いが今回は席を譲ってくれ!」


「ま、しょーがないでち。 使命を抱いた艦娘を止める理由なんてないでち」


「大淀、前に横須賀は同じ艤装をいくつか持っていると言っていたな、瑞鶴の艤装は用意出来るか聞いてみてくれ」


「はっ! 直ちに!」


一気に慌ただしくなった執務室で、瑞鶴は床に膝をついたまま、まだ状況を飲み込めずに呆気に取られていると、加賀が腕を掴んで引っ張り立たせる。


「何を呆けているのかしら? 出撃の準備をなさい」


「へっ⁉︎ ……あ、……い、いいの?」


「貴女が生き残った事に意味があるとすれば、それは今なのではなくて?」


加賀はそう言うと、瑞鶴の瞳に僅かに色が浮かび上がる。

その瞳を見ながら、加賀は続けて言った。


「そうね、先ずはその窶れた顔を少しでも治すのよ。 食堂に案内するわ」


「は、はい……!」


「提督もそれで構わないかしら?」


「ああ、行ってこい。 瑞鶴君、ウチの飯は美味いから覚悟しとけよ?」


まだまだ立ち直ったとは言い難い瑞鶴だったが、その時ばかりは、僅かに口角をあげていた。













大淀が横須賀鎮守府の佐々木と連絡をとった結果、余っている艤装を快く譲ってくれると言う報せが入った。

貴重な空母の艤装であるが、あの戦艦長門の艤装でさえ2つ所持していた鎮守府だ、その運営にもかなり余裕があるのだろう。


補佐を担当する大淀と、篠原は瑞鶴を連れてコマンドシップに乗り込むと、明石の操縦で船は港を出た。

23隻もの艦娘が船の前を行く光景は圧巻だったのか、篠原は甲板に出てその頼もしい背中を眺めていた。

大淀はその隣に立ち、艦娘達の背中を眺めながら篠原に話しかけた。


「冷えますよ、提督」


「ん、大淀か。 ……少し、敵の事を考えていたんだ」


「泊地棲姫の事でしょうか?」


「そうなんだが。 俺は今まで、深海棲艦は単なる化け物としか捉えていなかったんだ」


「今は違うと……?」


「どうなんだろうな。 戦時の強い怨みが形を成したモノ、か。 ……良く分からんが、それすらヒトの想いである事に違いは無い筈だ」


篠原は続けた。


「ヒトは強い。 だから結局、ヒトの手によりヒトは滅びるのだろうな」


「提督……ヒトを救うのはヒトと、ご自分で仰っていたじゃないですか」


「その通りだ。 ……だがな、奴等を……その、なんだ……。 悪いな、言葉が思い浮かばない」


「提督……、少し疲れていませんか? 横須賀までまだ時間が掛かりますので、部屋で休まれては如何でしょうか」


大淀は心配そうな表情をしていたので、篠原は素直に提案を受け入れる事にした。


「そうだな……、そうさせて貰おう」


「はい、何かありましたらすぐに声を掛けますので、ごゆっくりと」


大淀は微笑みを浮かべて篠原を見送った。


篠原は提督用の個室に向かうと、床に固定されたベッドに腰を掛けた。

そのまま後ろに倒れて横になると、目を閉じて頭の中を整理し始めた。


離島泊地での出来事、あの提督が口にしていた言葉を思い返す。

あの言葉通りなら、彼は5年間真っ当に戦い続けている。

終わりの見えない戦い中で焦燥に駆られていたとしても、5年間も戦い続けて離島を守ってきた彼が、殺戮に走る様な真似をするだろうか。

島民を手に掛けて「邪魔をする奴等」とも口にしていた。

そこまで考えていると、唐突なノックの音により思考は妨げられた。


篠原は身体を起こして許可をすると、瑞鶴がドアを開けて顔を出した。

その表情を見ながら、篠原は言った。


「瑞鶴君か。 ……少しはマシな顔色になったな」


「……お、お陰様で……、鳳翔さんのお料理は……本当においしかった、です」


「それは良かった。 ……それで、私に何か?」


「そ、その……、まだ、よく、わかんないけど……。 背中を押してくれて……ありがとうございました……」


「そんな覚えは無いがな……」


瑞鶴が気丈に振る舞っているのは目に見えてわかった。

今の彼女を支えているのは、皮肉にも仲間が闇に堕ちたと言う事実だろう。 篠原は何となくそんな気がしていた。

そして、この際だから聞いてしまおうと、篠原は聞き辛かった事を瑞鶴に尋ねた。


「……瑞鶴君、あの島で何があったんだ?」


「随分直球だね。 ……まぁ、いいけど……」


瑞鶴は話す気があるようで、篠原もそれに気付くと、簡易机にある椅子を引いて彼女の前に差し出した。

瑞鶴はその椅子に座って話し始める。


「……あの提督は、本当はとても真面目な人だったの。 最初は、艦娘だけじゃなく村の人からの信頼も厚かったし、手探りだけど、必死に運営をしてた。


「だけど戦争が続くと、村人達が漁に出れない不満を提督に当てるようになったのよ。やる気があるのか、とか、お前のせいで漁に出れないとか、毎日文句を言われてた。 だけど、どんなに頑張っても戦況は良くならない……、そんな板挟みな状態が何年も続いて……


「もうダメだ、なんて口にする様になって……」


話している内に瑞鶴も感情が露わになって、悔しそうに服の裾を握り締めていた。

要約すれば、彼は追い込まれていた。 離島と言う閉鎖空間の中で、何処にも逃げる事も叶わず戦う事しか出来なかったのだろう。


そしてやはり、彼を追い込んだ元凶はヒトだったのだ。


篠原は眉を顰める。


「それで……、耐え兼ねて……」


「違う、違うわよ。 提督は……深海棲艦が、艦娘に変わるところを見たと言ったの」


「なに……?」


「それで、私達を、敵視するようになって……」


深海棲艦の艦娘化、まるで毒が裏返るような物言いに篠原は動揺を隠せずにいた。

同時に、合点が行った。


悲劇だったのだ。


何年も村人達からの文句に耐え、進展の無い戦況に足踏みを続け、極限とも言えるストレスに晒されたネガティブな状態で、敵だった奴が艦娘に姿を変えた。

彼にはその事が、一人二役を演じる役者の様に見えて、戦争は仕込まれた茶番だと疑ったのだろう。


何年も耐え続けて、道化だったと知ったなら、とうとう気が触れてしまってもおかしくは無い。


瑞鶴は俯きながら言った。


「それからは……、ごめん。 ……話したく無い」


「いや、いい。 ……全て繋がった、ありがとう」


錯乱した彼は全て終わらせようとした。

邪魔な村人を殺し、更に本土の艦娘すらも手に掛けようと出撃させた。

同士討ちさせて両方沈めば御の字と言ったところだったのだろう。

篠原はそこまで考えをまとめていた。


「でも、深海棲艦が艦娘に変わると……? どう言う事だ?」


「わかんないけど……、本当よ。 翔鶴姉が来たんだ……、建造もしてないのに」


「……あの、髪が白くて長い艦娘か」


「知ってるの⁉︎ ……翔鶴姉も、深海棲艦になっちゃったの⁉︎」


瑞鶴は椅子から立ち、思わず篠原の両肩を掴んでいた。

篠原はその腕に手を添える。


「……その翔鶴君が、闇に呑まれて姿を変えるのを見たんだ」


「そんな……」


「だけど、君は彼女を止めたいんだろう」


「当たり前よ! 翔鶴姉はとっても優しい人なの、そんな翔鶴姉に、これ以上誰かを傷付けて欲しく無い……‼︎」


瑞鶴は力強くそう言って見せたが、直後に顔に悲壮を浮かべて横に逸らした。


「どの口が……って感じよね……、私は……もうこれ以上ない程傷付けて、取り返しのつかない事をしてきたのに……」


篠原はそれが、人を手に掛けた事実の事を言っていると察すると、あっけらかんと言葉を発した。


「私はもっと人を殺しているぞ」


「な、嘘……」


「嘘ではない、人を守る為に人を殺している。 矛盾している様だが、大事なのは意思なんだ。 私は悪意に染まった奴を殺してきた、そうしなければもっと人が死ぬからだ。 同じ理由で君の提督も私が手を掛けた」


「え、えっ? えっと……、篠原提督は……、一体何者……?」


「元は傭兵部隊の隊長を務めて海外で支援活動をしていた。 ゲリラ戦なんかも何度も経験しているし、そんな俺から言わせてみればな?」


篠原は淡々と述べ始める。


「漁村の奴等は自業自得だな。 聞けば元凶はそいつらで、離島の提督も被害者だ。 平和に胡座をかいて戦う者への感謝を忘れたんだ、あろう事か戦時中に。 私だったら守る価値は無いと切り捨てている」


「そ、そんな言い方……!」


「戦争は兵士だけが戦っている訳じゃないんだ。 紛争とは違い、多くの人々が協力しあって初めて勝てる見込みが出来る戦い……、それが戦争だ。 それを放棄して彼1人に戦わせた村人が悪い」


「そうかも……知れないけど……」


「それより君は私が憎くはないのか? 君の提督を殺したのは私だ」


篠原がそう言うと、瑞鶴は複雑そうな表情を浮かべた。


「……うぅん、半々なの。 よくもやったなって言う感情と、止めてくれたって感情が渦巻いてる」


「そうか……」


「でも、篠原提督が悪意と戦っているって言ってたから。 それは間違ってないと思うから、許します」


どこか上から目線の瑞鶴だったが、篠原は気にせず笑みで返事をした。

瑞鶴もぎこちないながらも笑顔で返すと、そこでノックの音が響いた。

篠原が許可を送ると、大淀が入室して二人の顔を交互に見比べて言った。


「……なんだか二人共、吹っ切れた顔をしてますね」


「ああ、瑞鶴君のおかげだな」


「……篠原提督のおかげだよ。 大淀さん、貴女の提督ぶっ飛び過ぎ」


「ふふふっ、貴女はそんなぶっ飛んだ人の指揮下に入るんですから覚悟して下さいね。 それと、もう間も無く横須賀鎮守府に到着します」


大淀の報せにより、篠原は甲板へと向かった。


すると広大な敷地から大きく海上に突き出る本港と、海上自衛隊の所持する生き残った護衛艦が何隻も停泊する光景が広がっていた。

元は横須賀基地、艦娘の登場と共にその役割を変えたのだ。

篠原はその壮大な景色に胸を躍らせてコマンドシップに追従する艦娘に声を張って話し掛けた。


「青葉ーっ! 圧巻だぞ、写真何枚か撮ってくれ!」


「了解でーす!」


「流石は映えある横須賀海上自衛隊だ。 ……俺の鎮守府が如何に小さいか思い知らされるなぁ。 おっ、金剛! あの艦は日本初のイージス艦“こんごう”だぞ、お前の娘みたいなものじゃないか?」


「oh! とても逞しいヨー! でもちっちゃいネー! pretty!」


「司令官! 赤煉瓦も見に行きましょう‼︎」


「ちょっとあんた達! 観光に来た訳じゃ無いのよ! バカみたいにはしゃいでないで真面目にやりなさい!」


叢雲により釘を刺された篠原だったが、あまり懲りていないようだ。

まもなく、佐々木と共にそうそうたる面々により出迎えされた篠原一行は、誘導を受けて港へ停泊した。


「よく来たな篠原! おい青葉、サムライが来たぞ写真撮ってくれ!」


「さ、佐々木さんちょっと⁉︎」


「あと大本営の不知火がお前のサインをドヤ顔で自慢してウチの艦娘達が悔しそうだったから後でサインしてやってくれ。 敷紙80枚くらいあるから」


「何ですかそれ⁉︎」


佐々木は篠原の肩に腕を回し、横須賀の青葉は得意顔でカメラを構えている。

その光景を見て叢雲はげんなりしていた。


「緊張感ないわねー……」


「司令官モテモテだねー。 でも叢雲ちゃん、顔にやけてるよ?」


「へっ⁉︎ 吹雪あんた何適当な事口走ってるのよ⁉︎」


「鏡見たら?」


横須賀の提督と艦娘達から熱烈な歓迎を受ける光景は、皆にとって悪くない絵面のようだ。

長門は篠原の手を取って感謝を述べている。


「篠原殿、あの時は本当にありがとう。 鬱屈した戦場に、空を駆ける貴方を見た時は震えが止まらなかった」


「……やめてくれ、結局私は助けられなかった……」


「いいや、貴方は確かに救ったぞ。 我が艦隊の皆も、勇敢に駆ける姿を見て心躍らせた。正に快刀乱麻を断つ、日本が誇る武士の所業だ」


食い気味に手を取る長門に、篠原は押され気味になり後退りを始めるも、長門はその分距離を詰めている。

やかましい位の絶賛にたじろいでいると、港に降りた瑞鶴が感慨深い趣で篠原に言った。


「……そうだね、私も見てたからわかるよ。空から降ってきた人が、そんな無茶をして何をしに来たのか、何となくわかったから……」


瑞鶴はあの時、エアボーンにより降下する姿を見ていた。

ヒトに疲れ失望していたあの時、惨状を食い止める為に危険を顧みず飛び降りるヒトの姿は彼女に眼にどう映っただろうか。

少なくとも瑞鶴は、その姿を見ていたから自分が艦娘のままでいられたのだと思っていた。


長門はそんな瑞鶴に話し掛けた。


「……瑞鶴だな、艤装の用意はしてある。 だが、本当に良いのだな? これから待ち受ける戦場はお前にとって……」


「わかってる。 ……私が行く事に、意味があるんだ」


「……フッ、愚問だったようだ。 ついて来い、工廠に装備一式がある」


「はい!」


佐々木は工廠に向かう2人の背中を見送ると、篠原に話し掛けた。


「……艦娘は強かだな」


「ですね。 見た目よりずっと強い心を持っている事を実感させられます」


「お前に当てられたんじゃねぇのか?」


「まさか」


篠原は冗談と捉えていたが、佐々木は真剣に考えていた。

これから待ち受ける呪われた戦場を前にして、佐々木の艦娘達に比べて、篠原の艦娘達の方が遥かに士気が高いのを実感していたからだ。


深海棲艦とは言えど、かつての仲間だった者を討つ。 それなのに闘志の燃えた瞳をしている。

この時の佐々木は妥当な理由が浮かばなかったが、ひと言「篠原だから」と言うだけで納得していたのだ。












艤装を装備した瑞鶴は第4艦隊に加わり、篠原の指揮下に着いた。

横須賀のコマンドシップと同時に出港し、呉のコマンドシップとは海上で合流を果たした。


総勢72隻の艦娘達が、篠原の艦隊を先頭にヤジリの形を描いて進軍して行く。

これが本来の軍艦だったなら、壮絶な映画の様な光景となっていただろう。


篠原は、既に臨戦態勢に移っている艦娘達を甲板から眺めていた。

その視線の先には、加賀と瑞鶴が何か話をしているようだ。


「瑞鶴、貴女の艤装は初期状態でまだ同調し切れていないわ。 無理はしないで」


「か、加賀さん。 私だってずっと戦ってきたんだから、それくらいわかるって!」


「そう。 良い子ね」


「もしかして子供扱いしてる?」


「ちゃんと艦載機は積んだのかしら。 私達の役割は航空戦よ」


「わかったから! ほら、ちゃんと積んである!」


篠原がそのやり取りを生暖かい視線で見守っていると、その事に瑞鶴が気が付いた。


「な、なに見てるのよッ⁉︎ 爆撃されたいの⁉︎」


「いや何、元気になったな……と」


「爆撃と言ったけれど、艦爆を積んできたのかしら?」


「ち、違うよ! ちゃんと試製烈風積んできたわよ!」


「なら爆撃出来ないと思うのだけれど」


その言葉に神通が反応して瑞鶴に詰め寄った。


「爆撃……? 提督を……?」


「ヒィッ⁉︎ な、何この娘……」


神通の鋭い眼光を受けて瑞鶴はたじろいだ。

そして同時に沢山のヤジが飛んできた。


「鬼よ」「修羅ですわ」「水陸両用軽巡洋艦」「抜刀斎」「神通はヤバイで、ヤバイしか言えへんわ」「香取が苦笑いする教官」「睨まれたイ級がそれだけで沈んだって聞いたことあるわ!」「演習相手が遺書を書き始めるって聞いた事があるのです」


「み、皆さん⁉︎」


言葉の絨毯爆撃を受けた神通は赤面しながら講義の目を周囲に向けるが、艦娘達は咄嗟に目をそらして明後日の方向を向いていた。

その光景がおかしくて篠原は声を上げて笑い出した。


「あははははっ‼︎」


「て、提督! 笑わないでください‼︎」


「いやなんか水陸両用って聞くたびに何か妙に納得できるんだよなぁ……くふふふ」


「ひ、酷いです提督! もう!」


その余りの緊張感の無さに瑞鶴は呆然とするが、その間も無く、暁が声を上げる。


「……見えたわ!偵察機よ!」


篠原はすぐに声を張った。


「総員、開けッ‼︎ ……加賀、赤城、龍驤、扶桑、山城、そして瑞鶴! ……やれるな?」


「鎧袖一触よ、心配いらないわ」

「腕がなりますね」

「ウチの良いところ、みといてやぁ」

「砲撃が出来ないのは残念だけれど……」

「姉さま、扶桑型は万能であると証明しましょう!」


「は、はい‼︎」


コマンドシップが錨を下ろし、その先を艦娘達が陣形を作りながら進む。


空母と航空戦艦、戦艦と列を作り、その前方に駆逐、軽巡、重巡がそれぞれ対空砲火の構えを取った。


遥か前方の空に無数の点が浮かび上がり、霧のように広く拡がっていく。

瑞鶴は思わず目を見張った。


「あれが全部……艦載機……?」


100や200じゃ効かない数の艦載機が押し寄せて来ているのだ。

だが、加賀はその光景に動じずに、淡々と瑞鶴に言った。


「基地に攻撃を仕掛けるのよ。 これくらい織り込み済みよ」


そう言って弓を番える。

赤城もそれに習い、龍驤も式神を広げ始めた。


「“あの時”とは違いますからね」


「ウチもやる時はやるんやで?」


扶桑と山城も盾のような艤装を前に突き出した。


「折角の青空を台無しにするなんて……許せないわ……」


「提督見ていてください、山城、やります……‼︎」


空を埋める物量を前に、まるで怯みもしない面々に、瑞鶴は遅れを取らない様に気合を入れ始めた。

そして第1艦隊旗艦の加賀の一声により、艦載機は解き放たれる。


「全て撃ち落とすわ。 総員、発艦!」


解き放たれた多くの翼達は、相手に負けず100を優に超える。

敵艦載機の多くがドックファイトにも持ち込めずに1合目のすれ違いで撃墜されて行った。

そして取り零しも間もなく迎撃すると、加賀は静かに声を出した。


「第1波撃墜、第2波に備えて」


再び発艦用意に取り掛かり、着艦を待たずに次の艦載機を解き放った。

そして同じように敵艦載機を撃ち落としつつ、第1波の迎撃に当たった艦載機の着艦を行う。


「第2波撃墜、第3波、来るわよ」


無尽蔵に押し寄せる攻撃機は、凡そ終わりなど無い様にも捉えられる程であった。

しかし、それでも撃ち漏らす事なく迎撃を続けて、第5波を迎える所で扶桑と山城の水上攻撃機が尽き掛けた。


「……ごめんなさい、これ以上は……」

「不幸だわ……」


「いいえ、充分です」

「せやせや、寧ろ航空戦艦でよく戦ったわ!」


加賀と龍驤は二人の健闘を讃えながら、第6波に備える。

そこで加賀は瑞鶴が肩で息をしてるのに気が付いた。


「……瑞鶴?」


「はぁ……、はぁっ、大丈夫……、負けないんだから……!」


瑞鶴は自分に喝を入れて、再び弓を番えた。

龍驤がその様子を見ながら言った。


「これは前哨に過ぎないんやで? 本場の戦いはこれからや。 まともに同調も出来てない艤装であまり無茶せんほうがええで」


「大丈夫……!」


「ほーん……、まぁそういう意地は嫌いやないわ」


瑞鶴は汗を拭いながら、横目で加賀を見た。

加賀は汗一つかいていない上に、艦載機も殆ど撃ち落とされずにかなりの余裕を残していた。

赤城と軽空母である龍驤も同じ様に余裕を残し、扶桑、山城は水上攻撃機が残り僅かと言っていたが、そもそも積める種類が違う。

空母の艦載機より遥かに性能が劣る水上攻撃機で、ここまで粘って航空戦に貢献できた事が、瑞鶴には異常に見えた。

間もなく、加賀が声を発した。


「第6波、来るわ」


その言葉を合図に、空母は一斉に艦載機を解き放つ。

艦載機の量は減りドックファイトに持ち込まれて、入り乱れる空中格闘の中で敵艦載機はみるみる数を減らし、やがて全てが撃ち落とされた。


「……敵機、全滅を確認」


加賀は静かに航空戦勝利を宣言すると、対空に備えていた天龍が軽口を叩き始めた。


「おいおい、オレ達の出番なしかよ〜?」


「当然よ、侮らないで貰いたいわね」


何とか食い付いていた瑞鶴は、その場で膝に手を当てて肩を揺らした。


「はぁ……キッツ……」


「よく持ち堪えたわ。良い子ね」


「う……、うっさい……! な、何で頭撫でるのよ⁉︎ 子供じゃないんだから、やめっ、うがーーッ‼︎」


一方、通信室でその背中を見守っていた篠原は安堵の息をついた。


「米軍も真っ青な戦闘機の量だな……、離島に何隻の空母が居たんだ」


あの艦載機が全て実物だとしたら、一体幾らの損失になるのだろうか。

そんな事を考えて言い得ぬ理不尽さを感じていた篠原に、傍に控えていた大淀は苦笑いしながら話し掛けた。


「……その真っ青な戦闘機の量を、貴方の艦娘6人で全て撃ち落としたのですが」


「流石一航戦の誇りだ……。赤城が食べる時にやたらと口にしていたが、航空戦でも輝いてみせるとは……!」


「赤城さん確実に泥塗ってますよね。提督も分かってて言ってませんか?」


大淀と冗談を興じながら、篠原は通信機を手に取った。


「こちら篠原。 敵機全滅を確認、進軍を再開します」


『見てたぞ篠原ァ‼︎ あの物量を航空戦だけでケリつけるなんて、ウチの空母が青ざめてたぞどうしてくれる』


『東郷だ。噂に違えぬ艦隊だな。後は我々が先行する』


やがて二隻のコマンドシップが、篠原の船を追い越して行く。

篠原の艦隊は殿を務め、背後を守る様に展開した。

これにより、弾薬を一切消費する事なく佐々木と東郷の艦隊は離島へと挑めるのだ。


しかし、篠原の表情は曇り、真剣な顔つきで通信を入れた。


「加賀、燃料は足りているか?」


『……正直、厳しいわね。これ以上の連戦は支障が出ます。 赤城さんも同じね』


『まぁアレだけの量だったしなぁ……、ウチもカツカツや』


どんなに手練れの艦娘も、燃料の消費だけはどうしようもない。

洋上補給が出来る艦娘はまだ発見されておらず、篠原の空母達は半ば心許ない状況となってしまっていた。

篠原は水平線に姿を現し始めた離島を眺めた。

青かった海面は今や漆黒に染まり、禍々しさと気味の悪さが遠目からでもヒシヒシと伝わる程だ。

何処かで見たそんな海を見ながら、大淀に言った。


「艦載機の量からして……、明らかに敵の数は増えている。 掃討は出来るのか……? 泊地棲姫もいるのだろう……」


「横須賀と呉の艦娘達は攻撃的な編成となっております。 計48隻の精鋭艦隊ですよ。 航空艦隊も艦爆を多く積み殲滅に特化していますし……」


「……杞憂だと良いんだがな。 ……嫌な予感がするんだ」


やがて佐々木と東郷の艦隊が離島近海に突入し、大掛かりな空襲を仕掛けてから激しい砲撃戦を繰り広げ始めた。

海を埋め尽くす大群が押し寄せる最中、篠原はその支援の為に指揮を執り、忙しく通信を回していた。


「右翼大きく広がれ! 味方砲撃の隙をカバーして砲撃を仕掛ける‼︎ 当てなくて良い、牽制だ! ……当たった? なら良し‼︎」


「忍び寄る潜水艦に気を付けろ! ……もう沈めたのか? そうか」


「敵爆撃機確認……‼︎ 味方艦に近付く前に迎撃……したのか、早いな」


「その距離で魚雷を投げても当たらな……、冗談だろ……?」


部下が優秀過ぎて篠原は思考に割ける時間の方が多くなってきていた。

開戦から数時間が経過しているが、未だに全艦隊から小破の報せすら届いていない。

過剰とも言える戦力を前に敵は圧倒され、優勢とも思えるが、時間に経つにつれ懸念の方が膨れ上がってきていたのだ。

大淀はそんな篠原に話し掛ける。


「敵が弱過ぎる……気がしますね。 装甲の薄い敵ばかり……」


「……ああ、これは圧勝と言いたい所だが……」


篠原は海図を睨み付けながら声を震わせた。


「負けるぞ……この戦い……」


「な、何故ですか……⁉︎」


「進展率が及ばないんだ……、先程から増援が止まない……、近付く事すら出来ていない」


篠原はすぐに佐々木に通信を回した。


「佐々木さん、戦況は如何ですか?」


『ダメだ、歩を止められて王手をかけられない。 ……雑魚に弾薬を持っていかれちまってる』


「殲滅力より……相手の数が上回ると……」


『……一点突破に賭けるか……?』


今の段階なら敵陣を突き進む特攻作戦を実行するのも可能かも知れない。

不確定要素の多い泊地棲姫との対峙が大きなリスクとなり得るが、此方は72隻と言う異例の過剰戦力を投じている。

だが、大淀が代役した艦娘との通信で事態は一転した。


「て、提督! ……交戦中、港から深海棲艦が湧き出ていると……大和さんの偵察機がその光景を捉えたそうです」


「何だと……⁉︎ いや、まさか……」


『何だ、何が分かった⁉︎』


「佐々木さん、一点突破は困難です。……撤退を提案します」


『待て、この機会を逃せば、また敵の数が増えるかも知れないんだぞ⁉︎』


「焦らせて一点突破を誘っているのでは……? 私がレ級と立ち合った時、余力を残されて作戦が決壊しました。 深海棲艦とは言え、戦えるだけの知性がある筈です」


『グッ……、他ならぬ君がそう言うのなら……、そうなのかも知れないな……』


更にその港には、未知数の泊地棲姫が待ち構えているのだ。

弾薬を消耗した状態で挑むには無謀とも言えるだろう。

同じ説明を東郷にすると、彼も似た考えだったようだ。


『撤退には賛成だ。 進展率3割に対して弾薬消費量が5割を超えている……、まるで踊らされているようだ』


「では……反航した後、殿は私が引き受けます」


そう言って、篠原は通信を切り替えた。


「総員に告ぐ、作戦は失敗。 速やかに撤退せよ」


斯くして、掃討作戦は想定を遥かに上回る物量の前に頓挫し失敗に終わったのだ。

しかし、いざ引き上げようとした瞬間、敵は猛威を奮ってみせた。

絶対に逃がすまいと、港から大量の艦載機が飛び立ち、撤退を続ける艦娘達を目掛け飛来して来たのだ。


通信を受け取った大淀が叫ぶ。


「敵、艦載機発艦を確認! ……その数……最初の航空戦の時と同じと見込まれます」


だが、篠原は冷静だった。

即座に通信機を手に取り、指揮を担う。


「各員に告ぐ、空襲戦に備えよ‼︎ 第1波は……加賀、赤城、龍驤! 調子はどうだ?」


『心配いらないわ』

『まだまだ行けます』

『人使いが荒いんちゃう提督ぅ〜? ま、頼られて悪い気はせぇへんけど』


『ちょ、ちょっと! 私も空母なんですけど⁉︎』


「瑞鶴も元気そうだな。 よし、頼むぞ……皆……」


コマンドシップと、その先を行く横須賀、呉の艦娘達を守るように篠原の艦娘達は広がり、飛来する艦載機に対して複縦陣形を描いた。


案の定、敵は余力を残していた訳であるが、今回は艦娘達も同じだったのだ。


空母が艦載機を解き放つと、扶桑姉妹も水上攻撃機で支援を始めた。

その結果、第1波の航空戦は味方の艦載機が制した。


「やりました」


「か、加賀さん……、でも、もう飛べない……」


燃料がもう心許なく瑞鶴の表情には焦りが見て取れたが、加賀は澄ました顔で言って退けた。


「大丈夫よ。 対空砲火に関して、私達の右に出る者は居ないわ」


「空襲を受けるのよ……⁉︎ 対空砲火の命中率を考えれば、あの量は無理よ……!」


その質問に神通が答えた。


「全て払い退けます。 もう二度と、あの涙は見たくありませんから……」


「な、涙……?」


「もしかしたら貴女も知る事になるかも知れません。 ただ今は、信じて見守って下さい」


そう言って神通は背中を向けて、第2波の艦載機を強く睨み付け始めた。

吹雪は付け加えた様に瑞鶴に説明する。


「親の仇……ですかね? そんな感じなんですよ。 とにかく、絶対に撃ち漏らしませんから!」


「な、なんで……、そんなに自信が持てるの……?」


「そりゃあ司令官の艦娘だからですよ」


瑞鶴には分からなかったが、最初期から篠原と共に居た艦娘達にとって、敵艦載機の空襲は並ならぬ因縁があったのだ。

かつて、手が届かない背中が撃ち抜かれる姿を見てきた彼女達が何を想っていたのか。

その時の心情が今、万全を期して、号令と共に遺憾無く発揮された。


「対空射撃、よーーいっ!」


「てぇーーーーッ‼︎」


殺到する艦載機に対して一斉に張られた弾幕。

その1発1発がことごとく艦載機の胴体を貫き翼をもぎ取り始めた。

航空戦の時と負けるとも劣らない速さで艦載機の数は減っていき、瑞鶴はその光景に眼を見張る。


「う、嘘……」


「その目は節穴かしら? もう第2波は全滅するわね」


加賀の言った通り、第2波は間もなく全てが撃ち落とされた。

そして続く3波、4波と完全迎撃を達成し、その圧巻な光景は、撤退する横須賀や呉の艦娘までも足を止めて見惚れる程であった。


そして全てを撃ち落とした頃、神通は熱で赤くなった砲身を眺めながら言った。


「敵機全滅確認。 皆さん、引き続き撤退任務を再開します」


さも当然のように皆は別れ、コマンドシップを囲み護衛に移り始める。


瑞鶴は口を開けてその様子を見ていた。


「……イージス艦が紛れてるんじゃ」


「イージスシステムを知っているのね」


「貴女の提督が横須賀で、頼んでも無いのに教えてくれたのよ……」


「そう。 でも良くイージス艦が混ざっていると気が付いたわね」


「う、嘘ッ⁉︎」


「嘘よ」


瑞鶴は筆舌に尽くしがたい表情をしていたが、加賀は澄まし顔で言った。


「私達の提督は、こんなものじゃ無いわ」


「そ、それってどう言う……」


「今に見ていなさい」


一方で、篠原は通信室で作戦を練り始めていたのだが、通信機からは驚くような声が響いていた。


『正気か篠原⁉︎ ……いや、理屈はわかるが……』


『リスクが大き過ぎる……』


「あの離島は放置すれば必ず人類の脅威となります。 故に目には目を、ですよ……。 特に東郷提督、貴方の力をお借りしたい」


作戦は失敗したが、持ち帰る事が出来た情報は潤沢だ。

出来るだけ早急に次の手を打つべく、行動を始めていたのだ。






Promise





如何なる銃の達人と言えど、10発の弾丸で100の敵は倒せない。

どんなに鋭い刃でも重ねた鉄は切り裂けない。

泊地棲姫は三ヶ所の団結を遥かに超える物量を持って過剰戦力を押し退けた事が、その事を深く痛感させた。


その雪辱を晴らすべく、少数精鋭に賭けて、作戦は敢行される。


横須賀鎮守府の連合艦隊を務める長門は、遥か遠くに映る離島を睨み、声高らかに宣言する。


「これより突貫を仕掛ける‼︎ 全艦隊、この長門に続けぇーーッ‼︎」


長門を旗艦に置く、陸奥、伊勢、日向、大鳳、摩耶の打撃部隊。

そして阿武隈を旗艦に置く、綾波、朧、潮、漣、曙の水雷戦隊。


離島泊地近海に接近すると、彼方の空を見上げた阿武隈は声を振るった。


「艦載機来るよ! どっかの夜戦バカだってやって見せたんだ! 対空射撃、用意!」


「は、はいぃ!」

「絶対に守ります」

「ひ、ひゃぁぁ……」

「ご、ご主人様! こいつぁヤベー量ですぜ⁉︎」

「うっさい! やるっきゃないのよ!」


目の前に広がる艦載機群、先に大鳳が動いた。


「第一次攻撃隊、発艦!」


大鳳も艦載機を解き放ち航空戦に持ち込む。 だが戦況は芳しくない。


「制空権劣勢……‼︎ 空襲に備えて!」


敵艦載機は多く数を減らしたが、生き残った攻撃機が阿武隈達に襲い掛かった。

阿武隈は声を張り上げる。


「対空射撃、用意! てぇーーーーッ‼︎」


先の戦いで空襲は織り込み済みだ。

対空装備を固めた水雷戦隊は猛威を振るい、降り注ぐ火の粉を払い除ける。


「っしゃあ! 対空だったらアタシも負けてねーぜ!」


摩耶が最後の1機を撃ち落とし、空襲を凌ぎ切った。

しかし長門の表情は明るくはない。


「これだけか……、第2波は?」


「長門、誘われているのよ」


陸奥がそう言うと、長門は不敵に笑った。


「ふっ、我々は飛んで火に入る夏の虫か、良いだろう」


そして声を張り上げた。


「進撃するぞ、最大戦速だ!」


連合艦隊は果敢に攻めに徹して、ただ目の前の敵を薙ぎ払い、決して歩みを止めずに突き進んだ。

快進撃が続いたが、駆逐や軽巡ばかりだった敵の布陣が旗色を変えてきた。

阿武隈が敵を前に叫ぶ。


「敵艦見ゆ! 戦艦リ級2隻、空母ヲ級2隻、駆逐イ級2隻、確認!」


「遂に主力を交えてきたか……、だがこの程度……迎撃、用意!」


大鳳と伊勢、日向が艦載機を放ち、制空権を勝ち取り先制空襲を仕掛け、連合艦隊の主砲が火を吹いて一気に叩き潰す。

攻撃は最大の防御と言う言葉を体で表すように繰り広げられる怒涛の攻勢は止まらない。


だが、次の会敵でとうとう反撃を許してしまう。


「敵艦、戦艦リ級、空母ヲ級……、オーラを纏ってるわ。 Elite……! た、大鳳さん……!」


「だ、ダメ……、連戦でもう、艦載機が……っ‼︎」


「み、みんなぁ‼︎ 空襲に備えてぇぇーーーーッ‼︎」


必死の叫びと同時に、対空射撃を繰り出すが、撃ち漏らした艦載機が頭上から爆弾を降り注がせた。


「じょ、冗談きついっすよこれ〜っ!」

「うわっ⁉︎ もうなんなのよッ!」

「ひゃぁぁぁあッ⁉︎」


「ひ、被害確認……、漣、曙が中破! 潮が小破……!」


「くっ、反撃するぞ。 全主砲斉射、この長門に続けぇーーッ‼︎」


先制を許すも連合艦隊の打撃部隊は未だ健在。

しかし、度重なる連戦による弾薬の消耗が、その火力を低下させ、一巡の砲撃で仕留めきれなかった。

生き残ったリ級が、駆逐艦目掛けて砲撃を放った。


「きゃあッ⁉︎」


「あ、綾波⁉︎ しっかり!」


「ま、まだ……、うぅ……、戦える……っ!」


「何言ってんの⁉︎ 下がってなさい!」


被弾した綾波を庇うように曙が前に立つ。

その光景を見ながら阿武隈は悔しそうに顔を顰める。


「あ、綾波が大破……っ」


「や、やべーっすよ……一撃で大破なんて……」


リ級Eliteの火力に動揺が走るが、長門は怯まずに檄を飛ばした。


「だが敵は残り1隻、次で決めるぞ‼︎」


長門達の打撃部隊は先行して果敢に砲を唸らせた。

そしてリ級を仕留めると、水雷戦隊の盾になるように広がり先陣を切り始めた。


そこでようやく、泊地棲姫が港から姿を現したのだ。


禍々しい化け物の上に乗った、長い白髪と血の赤に染まる呪われた瞳を持つ人型の泊地棲姫。

泊地棲姫は長門達の姿を見ると、ニヤリと口を三日月に歪めた。


「コノサキハ 通サヌゾ……フフフ……」


見たことも無い球状の艦載機を従え、凶悪な長い砲身を携えている。

それはまるで、この泊地に沈んだ幾つもの怨念が重なって形を成した様な、極めて鋭利な殺意が身を突き刺すように感じられる。


「イマイチド 水底ヘト 返ルガ イイワ……」


迫る深海棲姫の周りから、金色のオーラを纏う深海棲艦が姿を現した。

長門はその光景に驚愕して目を見開く。


「な……に……?」


空母ヲ級Flagshipが3隻。

最早、連戦に次ぐ連戦により艦載機が枯れた連合艦隊にとって、この上なく凶悪な相手だったのだ。

長門は急ぎ、声を張り上げた。


「ダメだ……‼︎ 撤退する、反転急げぇーーッ‼︎」


その光景は、泊地棲姫にとって滑稽だったであろう。


「逃ラレル ト オモウナ……」


間もなく、ヲ級から一斉に艦載機が放たれる。

泊地棲姫は勝利を確信して、喜劇を見ているような笑みを浮かべている。


一撃必殺の雀蜂が群を為して敵を刺し殺すがごとく、艦載機は明らかな殺意を持って殺到する。


だが、そこで、長門は不意に言葉を綴った。


「ああ……、これで戦場は、我等が完全に掌握した……!」


次の瞬間、ヲ級が放った艦載機群は、その上空から飛来する試製烈風により次々と撃ち落とされて行った。


予想だに無いその光景に、泊地棲姫にも動揺が見られた。


「ナ…… バカナ……」


長門は不敵に笑って声を張り上げた。


「聞け、泊地棲姫とやら! ……我々には伝家の宝刀が握られている!」


その言葉が終わると同時に、泊地棲姫の背後から大きな声が響いた。


「あー、あー……、聴こえるかーッ⁉︎」


泊地棲姫は声の方向へと振り返ると、拡声器を持った篠原の姿が目に映った。

無防備にも港の桟橋に立ち、声を張り上げている。


「ナッ⁉︎ ナゼ ニンゲン ガ ココニイル……⁉︎」





ーーそれは、刻を昨日までに遡る事となる。





『……工廠に侵入して稼働させるだと⁉︎ そんな事が出来るのか⁉︎ あの物量を前に、離島に近付く事すら難しいのだぞ⁉︎』


佐々木の声が響く通信室で、篠原は淡々と答えていた。


「例え敵が無尽蔵に沸き続ける湧き水のようだったとしても速さばかりは平凡な筈。 映像を見直しても、敵が湧き出るのは港の海であり陸地ではありません。 故に、離島の港とは正反対側に回り込んで、背後から工廠に侵入を試みれば……」


『……成る程、背面の海上の敵を一掃して増援が来るまでの間に移動が挟まれ、確かに猶予があるかも知れないが……。 その隙を突くには完璧なタイミングでなければ……』


「その辺も問題ありません。 呉鎮守府にある、とある護衛艦が、修理を終えて港にうかんでいるそうですよ?」


『……ほほう』


そして次の日、作戦は実行に移され、篠原は艦娘達を連れられるだけ連れて、その護衛艦に乗り込んだ。


加賀、赤城、瑞鶴、扶桑、山城、大和の6隻はその護衛艦に同伴して並んで航行している。


護衛艦は呉の明石と妖精さんの手により操縦されている。

篠原はその広過ぎるデッキから、海面を行く加賀を眺めながら通信を飛ばした。


「はっは……、こいつは壮観だな、加賀」


『ええ、そうね』


「お前の娘みたいなものじゃないか? こいつは」


『護衛艦かが、ですか……、そうとも捉えられるわね』


護衛艦かがは、立派な空母である。

大型エンジンを四基搭載し速力も速く、輸送ヘリを格納できる。


艦娘は艤装をつけたままでは乗り物には乗れず、艤装の持ち運びは適合者が居なければ困難であったが、資材は違う。

資材はタンカーでも運ばれている為、空輸も可能な筈なのだ。

その飛行甲板の上では輸送ヘリの他に、主に駆逐艦達が元気に走り回っている。


「ひ、ひろいのです! 駆けっこが出来るのです!」

「今日は特別な日なのに、なんで僕はここにいるんだろう……」

「げ、元気だすっぽい。 また次があるっぽい……」

「みんなおっそーい!」



その様子を篠原は眺めながら、島風辺りが勢い余って海に落ちる可能性を懸念していると、加賀が唐突な言葉を発した。


『私はこの艦が羨ましいわ』


「ん……? あぁ、その気になればジェット戦闘機積めるしな」


篠原は最新鋭機器の事を思い浮かべたが、全くの見当違いだった。


『いいえ、貴方を乗せた艦だもの』


「……」


『あら、貴方もそんな顔をするのね』


「……目が良過ぎるのも考えものだな」


『……やりました』


篠原は頭を掻きながらその場を離れると、駆逐艦達に向かい声を張り上げた。


「まもなく近海付近に接近する! 輸送ヘリに乗り込み、機会を待て!」


駆逐艦はそれぞれ返事をすると輸送ヘリの中へと乗り込んでいった。

そこは東郷がヘリの座席に乗り込みながら、資材を纏め出す駆逐艦を見ながら言った。


「俺も一応自衛隊だったが、乗り心地は保証しない。 飛行中は振り落とされない様にな」


そして横須賀が近海に突入した段階で、加賀旗艦の艦隊が先行、第1波空襲報告を受け取った段階でヘリは飛翔した。


離島裏側はそり立つ崖となっていて、島中心に掛けて急な勾配を待つ山となっている。

その手前の海には、港方面の迎撃に回った深海棲艦が多いのか敵数は少なかった。

加賀、赤城、瑞鶴の艦載機がそれらを撃沈させ、輸送ヘリは崖側に幅寄せを行い、駆逐艦達はそれぞれ資材を担ぎながら大地に降り立った。


同時に篠原も降り立ったのたが、東郷は大きな資材を担ぐ駆逐艦を見て不安そうな表情を浮かべた。


「……資材抱えたままダウンヒルするのか?」


「大丈夫です。 我々の艦隊は全員陸自のブートキャンプを経験してますので」


「マジか……」


ヘリが離れ、護衛艦の方へと戻っていくのを見送った篠原は、通信機を使い加賀に言った。


「……加賀、後は長門が敵主力を連れ出すのを待て」


『わかったわ』


斯くして、篠原は陽動作戦の元で泊地内部に侵入を果たし、手を回した後にタイミングを見計らい、篠原は拡声器を手に桟橋の上へと移動したのだ。


「あー、あー……、聴こえるかーッ⁉︎」


「ナッ⁉︎ ナゼ ニンゲン ガ ココニイル……⁉︎」


動揺を隠せない泊地棲姫、しかし篠原は構わずに演説を始めた。


「……おう喋れるんだな。 お前は強い怨念が祟った絶望の化身なんだってな〜? じゃあちょっと俺の自己紹介をしようかーっ!」


「俺は30年以上生きてきて、色んなものを見てきたんだ! そんな俺が毎日思っている事を、今ここに打ち明けよう……!」


「俺は、ヒトと、その文明と、艦娘達も全部、全部引っくるめて……ッ‼︎」



篠原は恭しく手を掲げて、息を大きく吸い込んだ後に、吐き出すと共に喉が張りさけんばかりに叫んだ



「その全てを愛している‼︎」



余りにも場違いな告白が、周囲の大気を大きく揺さぶった。

長門すらも呆気に取られるほどであったが、篠原は構わずに続けた。



「俺が抱く愛の前に、お前が大層大事に抱えた取るに足らない怨念とやらは、余りにも些細にして粗末……ッ‼︎ お前が世界を呪うその数百倍を俺は祝福出来るッ‼︎」



篠原は泊地棲姫に煽るような仕草を向ける。



「どうだぁぁーーッ⁉︎ 悔しいか⁉︎ 俺が憎いかぁぁーーッ⁉︎ だったらその、ちっぽけな怨念と絶望とやらで、この俺を捻り伏せてみろよぉぉぉーーっ‼︎」



大胆に手招きまでしてみせる、余りにも露骨過ぎる挑発であったが、泊地棲姫は無視など出来なかったようだ。

激しい怒りに顔を歪めて篠原目掛けて突き進んだ。


「貴様ァァァッ‼︎ コロス コロス コロスッ‼︎ 灰燼ト化スガイイ……ッ!」


距離を詰めて一撃で消し飛ばそうと、泊地棲姫は篠原に長い砲身を向けるが、その瞬間、彼は吠えた。


「今だぁぁぁぁぁーーーッ‼︎」


その声に応えるべく、彼女達は姿を現した。


「さぁ、舞踏会を始めましょう?」

「信頼の名は伊達じゃない……」

「させないわよー?」

「電の本気を見るのです!」


「バ……、バカナ……⁉︎」


必中の距離を詰める泊地棲姫に対して、魚雷を構えた第六駆の4隻が魚雷を構えて待ち構えていたのだ。

とんだ足止めを食らった泊地棲姫は、回避行動を余儀なくされる。

篠原はその様子を見ながら、言った。



「理不尽には、理不尽だな。 ……悪いが、泥沼戦になるぞ……!」



一方、その光景を通信室で見ていた佐々木は大声をあげて笑っていた。

彼は重要な情報管理の役割を担っていた訳なのだが、最早その時の緊張などは忘れている様だ。


「あっはっはっ! やりおったぞあの男!」


側に控える横須賀の大淀は、目を丸くしながらモニターを見ていた。


「だ、大胆ですね。 愛してる、だなんて……」


その言葉を聞いた佐々木は、ニヤリと笑った。


「知らないのか? 今日はバレンタインだ。 妬けちまうなぁ」


「そ、そうですが、それは女の子がチョコレートをあげる日……」



「いいや、世界じゃその日を、愛の誓いの日と呼ぶんだぜ?」



それは、厳密には恋人の愛を指すのだが、この際佐々木は気にしていなかった。 大言壮語も甚だしい彼の啖呵に、少なからず当てられていたからだ。


泊地棲姫に最大級の侮辱を送った彼の言葉は、艦娘達にはどう伝わっただろうか。


離島の奪還した工廠では、駆逐艦達が建造カプセルを前に、連れてきた妖精と共に作業を行う明石に詰め寄っていた。


「わ、私の艤装はまだなの⁉︎」「夕立のも早く建造するっぽい〜! あ〜か〜し〜さーん!」「ぼ、僕も!」「不知火の艤装もお願いします」「オォゥッ⁉︎ これ私の艤装出ない奴だ……遅いとかじゃない……こない」


「み、皆さん落ち着いて下さい! 最低値レシピで兎に角、数を回してますからっ!」


激しい催促を受けながら、明石は持ち運ばれた資材と高速建造材を投げ捨てるかのように妖精に預けて建造を行い続けている。


「でました! 吹雪ちゃんの艤装です!」


「やった! 司令官、吹雪が参りますよ!」


「つ、次は……、暁型のですね。 重複です」


「判ったから早く次回して!」


「ひ、ひぇぇ、えっと! 此方は初雪ちゃんの艤装です!」


「ん、まぁ……、やるだけやる」


建造された艤装は、初期状態であり性能こそ引き出せないものの、弾薬や燃料は完全まで補給されている。

適合した艤装を得た艦娘は、意気高く駆け出して果敢に海へと抜錨していった。

篠原は桟橋から離れ、通信機を手に指揮を飛ばし続ける。


「とにかく撃て‼︎ 全弾撃ち尽くすまで戻るな!」


『了解ッ‼︎』


初期状態の艤装の、頼りない威力の砲撃だが、その1発1発は確実に泊地棲姫を追い詰め始めていた。


「オノレ オノレェェ! 忌々シイ カンムスドモ メ……!」


怨嗟を撒き散らしながら泊地棲姫は集中砲火を浴び続ける。


連合艦隊が工廠を守る為に港付近の敵の盾となり、更には離島を飛び越えて艦載機が飛来して爆撃が行われている。

そして大和や扶桑、山城も闘志の炎を更に熱くしていた。


「……あの様に激しく愛を叫ばれて、滾らぬ性根は持ち合わせてはおりません! 大和、推して参ります!」


「弾着観測射撃ね……、扶桑型の火力、今こそお見せしましょう」


「はい姉さま! 露払いをしましょう!」


しつこい程に纏わり付く駆逐艦が雨の様な弾幕を繰り出してくる。


「ここで応えなきゃレディの名折れよ!」

「ダーッ‼︎ 負けられないよ!」

「司令官にもーっと頼って貰うんだから!」

「電の、電の本気はまだまだこんなものじゃないのですっ!」


「皆さん! 吹雪も加勢します!」

「頑張る……から……、弾薬が減ったら、補給に戻って……」


その駆逐艦が被弾しても、弾が切れても、入れ違いに他の駆逐艦が参入するだけ。

脚を止めれば威力の高い魚雷が待ち受けて、泊地棲姫は踊る様に耐えるしかなかったのだ。


この事により、港は完全に篠原の手により掌握されたのだ。

戦況が進み、輸送完了と敵空母撃沈の報せを受けた加賀はその場で指示を出した。


「艦娘の輸送が終わったわ。 私達も港に向かうわよ」


役割を終えた護衛艦も海域から離れ、加賀達は離島の迂回を始めた。

そして港では、吹雪の放つ魚雷により泊地棲姫の乗る大きな深海棲艦に似たユニットが砕かれた。

泊地棲姫は二本脚で海の上に立ち、何かを察した様に笑みを浮かべた。


「フフフ…… ソウカ、ソウイウコトカ……!」


泊地棲姫は一つの結論に至ったのだ。

邪魔な駆逐艦の砲撃の一撃は大した事は無い、ならば構わず頭を潰してしまえばいい。

泊地棲姫は陸を目指して一気に突き進み始めた。


しかし、それすらも阻まれる。



「王手だ。 貴様の負けだ、諦めろ」



到底無視出来ない火力の持ち主、戦艦長門が桟橋から海に降り立ったのだ。


「補給施設を使わせて貰った。 鋼材の関係で入渠はままならないが、貴様を倒すだけの弾薬は残している」


「オノレ……小癪ナ真似ヲ……」


「言っただろう? 伝家の宝刀はこの手に握られている」


駆逐艦は時間稼ぎに過ぎなかったのだ。

本命は連合艦隊の火力を泊地棲姫の前で取り戻す事。

そして陸奥、日向、伊勢、大鳳、摩耶と次々海に降り立つ姿を見た泊地棲姫は、遂にその膝を折って海の上に膝をついた。


「コンナ 筈デハ……」


艦娘に包囲された泊地棲姫は項垂れ、その姿を見ながら長門は主砲を構える。


「工廠を奪還された時点で、貴様に勝ち目は無かったのだ」


いよいよ砲弾が解き放たれるその瞬間、桟橋に移動した篠原の声によって待ったが掛かる。


「いや、少し待ってくれ長門君」


「し、篠原殿⁉︎ ーー今出てきては……」


長門が言い切る前に、泊地棲姫は動き出していた。

既に自分に無数の砲身が向けられているにも構わず、篠原へ砲を向ける。


「道連レニ シテヤル……‼︎」


いざ撃ち抜かんとしたその時、声が掛かった。



「翔鶴姉ぇ!」



泊地棲姫はビタリと動きを止めて、震えながら声の方向へと振り向くと、そこには息を切らした瑞鶴が立っていた。


「わかるよ……、翔鶴姉なんでしょう? 私にはわかるよっ!」


「ズイ……カ、ク……?」


「そんなに……、なっても……、私の事は、覚えててくれたんだね……」


瑞鶴はそっと膝をついて、泊地棲姫の前に屈んだ。


「ねぇ……、もう、やめようよ。 優しい翔鶴姉は、こんな事する人じゃ無かったでしょう?」


「ニン、ゲン……ガ……」


「……ねぇ知ってた? ……みんな貴女を止めに来たんだよ?」


「……、……ワタシ……ハ……」


「お願い……、もうやめよう……?」


瑞鶴は泊地棲姫の肩を掴んで、大粒の涙をポロポロと流しながら叫んだ。



「最後まで……大好きな……、優しい翔鶴姉のままで、いてよぉぉ……っ‼︎ 嫌いになりたくないよ‼︎ 優しい翔鶴姉が、ずっとずっと好きだったの! こんなの、こんなのヤダよぉぉぉ! うぁぁぁ……っ」



瑞鶴は駄々をこねる子供のように泣き噦ると。泊地棲姫は指先で彼女の頬の涙を掬ってみせた。


「泣カナイデ、ズイカク……」


「翔鶴姉ぇ……!」


「……ズイ、カク……、アナタ ハ ワタシ ノ ヨウニ……ナラナイ、デ……」


「翔鶴姉ぇ……、翔鶴姉っ⁉︎」


泊地棲姫の身体から、黒い粒子が舞い上がり始めた。 それは深海棲艦が沈む時に見える粒と余りにもよく似ていた。


「貴女ハ 救ワレタ ノネ……?」


「うん……、うん! ……ほらっ、あそこにいる、提督さんが、助けてくれたんだよ……っ!」


「ソウ、……ヨカッタ……」


「本当……、変な人なんだけど……。 翔鶴姉にも、紹介するね……っ! 篠原 徹さんって言うんだって……」


「ソ……、カ……、メイワク……、カケナイ、ヨウニ、ネ」


「もう! ……子供じゃ、ないんだから、さぁ……」


「キット……サイゴ、ダカラ……」


「や、やだよぉ……翔鶴姉ぇ……」


「……」


消え掛かる泊地棲姫は、篠原の方を見た。

既に殺意の色は消えていて、何かを頼むような瞳を向けている。

篠原は意図を汲んで頷いた後に、話し掛けた。


「……俺からも、ひと言だけ」


泊地棲姫は黙って頷くと、篠原は胸を張って言った。



「生まれ変わったら、また日本に来なさい。 それまでに俺がもっと良い世界に変えてみせる」



その言葉に、泊地棲姫は一瞬目を見開いた後で、静かに微笑んだ。


「アア……、モドレルノ……、アオイ、海ノ……ウエ、二……」


言い残すと同時に身体の影が薄くなり、輪郭が透けて粒子に変わり、やがて風と共に消えていった。

瑞鶴はその場で蹲り、ただ名前を呼んでいた。


「翔鶴姉ぇ……! 翔鶴姉! 生まれ変わっても……、一緒だからね……っ」


こうして、深い悲しみを残して離島の悲劇は幕を閉じる。


港にいる全ての艦娘が彼女を想い、瞳に涙を浮かべていた。

電と雷は哀しげな表情で、篠原の手を取った。

優しい2人は、彼女に掛ける言葉を探しても見当たらずに彼に頼ったのだろう。


「司令官さん……」

「司令官……」


「……大丈夫だ、彼女は強いから……」


篠原は、今にも泣き出しそうな2人の顔を見ると同時に、一つの結論に至ったのだ。

彼は、声高らかに叫んだ。



「沈みゆく敵艦に敬礼!」



桟橋から海を目掛けて敬礼を行う。

続いて電と雷も篠原に習い、敬礼を行なった。


その行動は込められた意思と共に伝播されて、全ての艦娘がその場で不動の敬礼を行なっていた。


コマンドシップで通信を耳にした佐々木や、護衛艦で待機する東郷もまた、同じ場所を目掛けて敬礼を行なっていた。

そして最後に、涙を隠さずに瑞鶴もその場で敬礼を始めた。


健闘を讃えたのだ。


篠原の見出した結論は、深海棲艦との戦いですら結局は意思と意思の戦いである、と言う事だった。


奴等がかつて沈んだ無念ならば、恨みを晴らしに牙を剥くのならば、その牙を折った上で敬意を示すのだ。

よく戦った、立派であったと。

それで少しでも晴らされる想いがあるのなら、この敬礼にも意味があるだろう。


無論、今の敬礼に込められた想いはそれだけでは無いが。


凡そ1分間の黙祷と共に捧げられた敬礼は、とある異変により解かれる事になった。


瑞鶴が慌ただしく叫び始めたのだ。


「え……、えっ⁉︎ 何これ……海が光って……⁉︎」


瑞鶴の目の前の海面が白く輝きだしたのだ。

その光は工廠で見掛ける光と酷似していて、篠原はその光景を見て何かを察したようだ。


「いや、まさか……」


光の中から人影が浮かび上がり、それは姿を現した。


「……翔鶴型航空母艦1番艦 しょ」

「翔鶴姉ぇぇぇーーーーーーーーッ‼︎」


「きゃぁぁあっ⁉︎」


光の中から現れた翔鶴は、感極まった瑞鶴により押し倒された。

瑞鶴がコマンドシップで言っていた現象はこの事だったのだろう。


「こんな神々しく現れて、敵と見間違えるなんてな……」


そう呟くと、雷は満遍の笑みで愉快げに篠原の

手を取ってぶんぶんと振り回した。


「司令官! さっきの敬礼、そう言う事よね!」


「そうだとも、雷。 お前の真似をしただけだ」


「ううん、素敵よ! カッコいいじゃない!」


篠原もつられて笑顔を見せると、しがみ付く瑞鶴を引き剥がそうとする翔鶴に話し掛けた。


「君が、翔鶴君だな? 私はーー」


「あっ、篠原提督……ですね? ……沢山、迷惑を掛けてしまったみたいで……」


「ああ……、覚えているのか」


「は、はい……。薄っすらとですが……」


なんだか前にも同じ様な事があったと、篠原はひとりごちる。

そこへ、電が篠原の袖を取り、雷と同じ様にぶんぶんと振り回した。


「司令官さんはやっぱり凄いのです‼︎ 電、感動なのですぅ!」


「お、おう待て待て待て服が伸びるから袖は引っ張るな」


篠原は興奮する電をあやしていると、長門が腕を組みながら話し掛けてきた。


「フッ、貴方は何処までも規格外だな。 この長門も感動のあまり、胸がずっと熱いままだ」


「ええ、でもあの2人はこれからどうなるんですかね?」


「ふむ……、この泊地はもう機能しないだろうからな……。 所属無しになると思うが」


長門はそこまで言うと、今度は得意気な表情をして2人の方へ顔を向けた。


「瑞鶴、翔鶴、お前達は無所属になるのだが……、希望する鎮守府とか心当たりは無いのか?」


すると2人はお互いの顔を見合った後で、ゆっくりと篠原の方へと顔を向けた。 篠原は思わず面食らっていた。


「……そう来たか」


「な、何よ、不満なの⁉︎」

「お、お嫌ですか……?」


「寧ろ2人こそ良いのか? ウチには変な奴が多いぞ」


篠原がそう言うと、叢雲と白雪は一斉に吹雪の方を見た。

視線に気付いた吹雪の手を目の前に翳して否定する。


「えっ⁉︎ 私⁉︎ ……へ、変じゃないですよぉ! 艦娘の中で1番平凡を自負しています!」


「あんたの工具が部屋を侵食し始めてんのよ! 何とかしなさいよアレ!」

「ちょっと擁護出来ないよねぇ」


電はポソリと呟いた。


「変わっている、と言う意味では司令官さんが1番変なのです」


「聞こえたぞ電、もう肩車してやらないぞ」


「はわわっ⁉︎ それは困るのです!」


「あっ! 夕立も肩車やりたいっぽい!」


「しまった夕立に聞かれた」


「ねぇ〜提督さーん夕立も! 夕立もやりたいっぽい〜!ねぇ〜〜、てーいとーくさーん!」


「あーっ、やっぱこうなるのか……!」


篠原は袖を引き駄々を捏ね始める夕立を抑え始めたが、ぽいぽい叫び始めた辺りで折れてヤケクソ気味に肩車をしていた。


篠原は頭の上に夕立を乗っけたまま、疲れた表情で翔鶴と瑞鶴に向き合った。


「……ホント、変な奴が多いんだよ……」


「何でそんなに駆逐艦に好かれるのよ」

「ふふふ、楽しそうですね」


こうして、悲劇は少しだけ形を変えて終わりを迎える事になったのだ。


残した悲しみは確かに多いが、悲しみから学ぶ事は多くあったようだ。


そしてこの一連の悲劇は大本営の意向により、粛々と闇に葬られる事となった。

ただ、襲撃に遭い壊滅したと日本で報じられた際に、沢山の花束が離島へと届けられたのだが、その中には3人の提督から贈られた青い花が混ざっていたと言う。


それから翔鶴の様に海上に姿を現わす艦娘の姿が稀に報告される様になったのだが、その原因は解明される事は無かった。


そして篠原の鎮守府は、前より少しだけ騒がしくなった。


「あーーーーっ‼︎ もう‼︎ 何で加賀さんに勝てないのよぉぉぉ!」


瑞鶴は加賀と航空戦訓練に励みスコアを競っていた様だ。


「言ったでしょう? 対空に関して私達の右に出る者はいないの」


「知ってるけど! その覚悟も分かったけど! ……でも加賀さんの艦載機1機に私の艦載機5機が撃ち落とされるのは納得いかない‼︎」


「無様ね」


「なによーっ! この鉄面皮!」


「……私を怒らせたいのかしら?」


「ひっ⁉︎ か、加賀さんが先に言ったんじゃん!」


2人が張り合う姿は、ちょっとした名物になりつつある。 その甲斐もあってか鎮守府に馴染むのは早かった。


その一方で、翔鶴は裏庭の庭園に足を運ばせる姿が見られた。

ベンチに腰を掛けて、まだ肌寒い乾いた空と、これから春に掛けて色鮮やかになるであろう土色の花壇を眺めて、ほぅ、と息を吐いた。


「……何の花が咲くのでしょう」


「手前の段はペチュニアだな。 もうすぐ芽吹く筈だ」


「そうなんですか……って、提督⁉︎」


「1人黄昏ているものだからな、来てしまった」


篠原はそう言って、花壇の前にしゃがみ込んだ。

そして新芽が出ていないか探していると、その隣に翔鶴が並んだ。


「ここは素敵な所ですね」


「そうだろう? みんなで作ったんだ」


「そうみたいですね、良くお話を聞きます」


「最初は草が生え散らかしてたんだがな。 こうして見ると、アレから随分と変わったなぁ……」


篠原がそう言って、庭園を見回し始める。

すると翔鶴は、その背中に手を添えて触れると、静かに言った。



「私も、あれから変わりました」



2月下旬の冷たい空の下で、少しだけ暖かい風が流れていた。


「まだまだ、こんなものじゃないさ」


篠原はそう口にすると、新しい季節に思いを巡らせた。


彼女は思い知るだろう。


これから守って行く世界が、どんなに美しい世界かを。

祝福に彩られたまだ見ぬ日々が、願わくば彼女の誇りとならん事を。





◇end

続き





後書き

完結しました。

ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました。

ちょっとご都合主義成分多いですが、ヒーロー物はハッピーエンドしかあり得ないのです。

それから描写されていませんが、離島泊地の建造でニューフェイスが現れなかったのは海が呪われていたから、という後付け設定でなんとか……


地球防衛軍プレイ中の思い付きから書き始めたこの作品ですが、書き始めた6/30〜7/19現在の間で何と文字数27万超えです。ラノベ2冊分くらいありそうです。
この数週間でフリック入力の速度が倍速になりました。

評価や応援、コメントからメッセージまで、それらが本当に嬉しくて尻尾振って筆を走らせました。
また書き始めたら、よろしくお願い致します!



※装備についてちょっとした小ネタ

◇アサルトライフル M4A1
M4A1は世界中で幅広く使われる銃で、篠原がメインアームとして使っていたのもその流通量からです。
流通量が多ければカスタムパーツも多く、弾薬の補充も比較的容易な為採用されました。

◇ハンドガン M92F
此方も流通量で採用されています。
創作物ではM92Fを改造したサムライエッジが有名ですね。
筆者の1番好きな銃の1つです。

◇トマホーク
近距離投擲ではナイフを上回る殺傷力を誇ります。制式に採用している軍隊もあるとか。フフフ怖い。

◇サブマシンガン MP5
此方は本編で紛失しておりますが、採用理由は流通量からです。
またカスタムパーツも多く自分好みに改造も容易です。
某ゲームではまるゆ扱いされてます。

◇離島泊地提督が持っていた拳銃
描写されていませんが、ニューナンブM60です。日本警察が持つ物を護身用として使っていました。
気になる威力は大体M4A1の10分の1で、殺傷力は低く防弾チョッキは貫けません。

◇セラミックプレート
防弾チョッキに仕込まれるセラミックプレートは、本来トラウマプレートと呼ばれるらしいです。
なんか皮肉い名前ですが、小銃の殺傷力の高い銃弾を受け止める事が出来ます。ですが衝撃は突き抜けるので負傷は免れませんね。

◇メリケン付きグローブって?
ナックルガードと言う手の第3関節を保護するプロテクターが着いたグローブです。
強い衝撃から手を守りバイクのグローブにも使われていますね。 このグローブで殴られるとかなり痛いです。


目障りでしたらすぐに消します〜


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このSSへのコメント

22件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2019-07-14 20:30:17 ID: S:Cz9Hts

今回も期待しております!無理なくお願いします。

2: りぷりぷ 2019-07-14 20:41:31 ID: S:pIrd3v

コメントありがとうございます!

マイペースに励んでいこうと思います〜!

3: SS好きの名無しさん 2019-07-14 23:39:00 ID: S:_08jMB

やっと篠原の暗殺術が見れる!

4: SS好きの名無しさん 2019-07-14 23:41:28 ID: S:Su0RV6

ありがとうございます。
続編楽しみにしていました。

5: SS好きの名無しさん 2019-07-14 23:42:32 ID: S:FI4Sdz

待ってました‼️

6: りぷりぷ 2019-07-15 00:38:53 ID: S:mk0rCA

コメントありがとうございます!

>>3さん
ご期待に添える描写が出来るかどうか分かりませんが、頑張りますw

>>4さん >>5さん
お待たせしてすいませんw
まだ創作に慣れていないので、脱字など多いかもしれませんが頑張っていきますー!

7: SS好きの名無しさん 2019-07-15 00:46:57 ID: S:I4Cbb3

とても良い作品なので、応援してます。
頑張って下さい(^^)

8: りぷりぷ 2019-07-15 00:51:54 ID: S:KFvuk4

コメントありがとうございます!

ご期待に添える様がんばります!

9: SS好きの名無しさん 2019-07-15 01:43:29 ID: S:1wbsaa

続きかと思って来たら続きじゃなかった...

10: りぷりぷ 2019-07-15 07:05:06 ID: S:PTWE9t

コメントありがとうございます〜!

一応続編なのですが、日常編のぼのぼのとは違いますね……
新章と切り出すべきでした、申し訳ありません……

ぼのぼの系は、この第2章が終わったらモチベ次第で検討するつもりです!

11: SS好きの名無しさん 2019-07-15 18:00:47 ID: S:M-7As9

期待!‼

12: りぷりぷ 2019-07-15 18:12:19 ID: S:5Y7Io7

コメントありがとうございます〜!

頑張ります!

13: りぷりぷ 2019-07-16 20:54:18 ID: S:Gr712L

オススメありがとうございました!
励みになります!

14: SS好きの名無しさん 2019-07-17 21:05:10 ID: S:IrxF1Z

ほのぼの系も、シリアス系もどっちも良いですね(*´∀`)

15: りぷりぷ 2019-07-17 21:31:31 ID: S:PuoIRc

コメントありがとうございます!

そう言って頂けるとうれしいです!

16: SS好きの名無しさん 2019-07-19 18:38:06 ID: S:j4NxMX

もうこの作品の中毒になりつつある(;´д`)
なぁ作者様よ、続きはまだかの(・ε・` )

17: りぷりぷ 2019-07-19 19:42:57 ID: S:7ATYLu

コメントとオススメありがとうございます!

日常編の方が反響大きかったようですし、書くとしたら日常編でしょうかね……?

またネタを考えてみますー!

18: SS好きの名無しさん 2019-07-19 20:14:28 ID: S:LjmQYz

日常にチョイエロを足したら反響が大きいと思いますよ。
自分は、シリアス系も日常系もどっちも楽しめました(*´∀`)

19: りぷりぷ 2019-07-19 21:30:56 ID: S:G4IlXP

コメントありがとうございます!

エ、エロ要素ですか⁉︎
創作初心者にはかなり厳しい気がします……!

個人的に今作のシリアスは、今後の日常にも必要な経験(敵艦への認識やドロップ艦など)として綴った物ですが、楽しめて頂けて何よりです!

20: りぷりぷ 2019-07-19 21:34:14 ID: S:vCOPeI

オススメありがとうございます!

キャラにプラス属性はかなり迷いましたが、好評なようで安心しました。
荒削りな所も自分で見直して痛感していますが、文章力が……

21: SS好きの名無しさん 2019-07-20 21:01:08 ID: S:aZCx5a

次も期待しております。

22: りぷりぷ 2019-07-21 01:06:20 ID: S:VviWu0

コメントありがとうございます!

何とか頑張ってみますー!


このSSへのオススメ

3件オススメされています

1: SS好きの名無しさん 2019-07-15 18:40:15 ID: S:j2-iNc

おすすめは初めてですが、尻すぼみになっている艦これSSの今に、この期待度です。無理なく頑張って欲しくて、おすすめに手を出しました。(2個減らしてるのは単なる遠慮です)

2: SS好きの名無しさん 2019-07-19 19:05:15 ID: S:YoUFHy

皆の者読めヽ( ̄▽ ̄)ノ
スミマセンm(__)m皆様何卒お読み頂ますよう宜しくお願い致します。
そして、作者様に書く気力をお与え下され。

3: SS好きの名無しさん 2019-07-19 20:23:56 ID: S:0EJRJv

やや、荒削りな所もあるけど原作未プレイと思えないキャラ描写と工作艦吹雪を始めとしたプラスの肉付け。
スッキリとした読後感。
お時間があれば是非じっくりとお読み下さい。


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