2019-09-22 08:59:01 更新

概要

日常編の続きとなります。
例の如く、前作の設定や世界観を全て引き継いでいますので、初見の方は最初からお願い致します! 完結しました。


前書き

作者は創作初心者な上に小説の書き方など詳しくないので文法が滅茶苦茶かも知れません。

語彙も少なく、とてもお見苦しい文書かと思われます。
それでも良いと言う方は、目を通して読んで頂ければ幸いです。


前作


最初から







切り札

篠原side






6月、まさに梅雨の季節。

俺の鎮守府も鬱陶しい程に長引く雨のお陰で半休止状態と言える有様だった。

出撃も遠征も、俺の指揮下では雨天禁止としているからだ。

それでも普段から遠征組が頑張ってくれたお陰で備蓄も十分あるから、艦娘達にはちょっとした休暇と思って羽を伸ばして貰おう。


それで、俺も手持ち無沙汰だったから6月分の建造を行う事にした。

雨の中では訓練もままならないだろうと思い、建造も一度だけ行ったら香取の艤装が現れた。


そしたら鹿島が少しおかしくなった。


今までの鹿島は比較的大人しい、艦娘だったと思うし、とても女の子らしいお淑やかなイメージもあったんだ。

面倒な頼み事も笑いながら引き受けてくれるし、言動も落ち着いていた、と思う。


少なくとも今に比べれば。


「て、提督さん疲れてませんか? 肩凝ってませんか? よろしければこの鹿島がマッサージしますよ!」


「いや……、仕事もあんまないし疲れてないから……」


「でしたらお茶にしませんか? 私サンドイッチとか作りますよ? うふふ」


「いや、さっき昼を済ませたばかりだろう」


鹿島は執務中に少し鬱陶しいレベルで纏わりつくようになっていた。

ただでさえ湿度が高い梅雨の季節に鹿島は更に湿度を上げてくる。


「提督さん、私のマッサージは気持ちいいって評判なんですよ♪」


「この程度の執務で肩凝る程ヤワな身体はしてないからな? 少し落ち着こう、な?」


「うふふっ♪ そんな遠慮なさらずにぃ」


椅子に座る俺に対して鹿島はジリジリと距離を詰め始めた。

何がこいつをそこまで必死にさせるのか、しかし俺には切り札がある。 だが、今はその時ではない。

鹿島の行動により触発される奴がいるからだ。


「Hey Hey Hey! 私のテートクに何してるネーッ‼︎」


さっきまでソファーに座って比較的大人しくお茶をしていた金剛が勢い良く立ち上がった。


「勝手は! 榛名が! 許しません!」


釣られて榛名も声を上げて立ち上がる。

榛名はとりあえず姉の金剛と同調しているだけな気がする。何か最近になってアホの子に見えてきた。

この前なんて雨のなか裏庭で“バーニングラブ”と叫ぶ練習してたし。


うん、アホだ。姉妹揃って変なポーズしてるし。


鹿島は金剛姉妹の登場にたじろぐも、すぐに果敢に睨み返す。

鹿島が睨んでも全然怖くないし、精一杯の威嚇のつもりか頬を膨らませて怒気を主張するのは可愛いとすら捉える人がいそうだ。


そして例の如く、ソファー占領組の利根、北上、大井、鈴谷は順番に野次を飛ばし始める。


「暑苦しいのぅ」


利根、そう思うなら自室に戻っていいんだぞ? 何かこの部屋、除湿機の効果薄いから。


「毎回ホントよく飽きないよねぇ」


北上、そう思うならたまには止めてくれても良いんだぞ? 頼む。


「北上さんはいつ見ても飽きません!」


ああ、今日も絶好調だな。


「鈴谷も混ざろっか?」


お前は何言ってんの。

絶対ややこしくなるからソファー占領組に関与しないつもりだったが、流石に聞き捨てならないので言葉を差し込んだ。


「ソファーに座ってなさい」


「何それ⁉︎ 鈴谷の事ハブにするとか、いい度胸じゃん!」


やっぱりややこしくなった。

鈴谷は本当に立ち上がり俺の方へとツカツカと歩み寄り始めた。

その行動が鹿島の行動を早まらせる。


「て、提督さんは渡しません!」


鹿島は両腕を広げて俺に覆い被さろうとしていた。

その瞬間、切り札を使うべきだと判断した。

もうどうやったって俺の裁量に収まらないのだから仕方がない。


俺はその切り札を担う者の名を呼んだ。


「神通!」


秘書艦、神通。

彼女は今まで決して傍見していた訳では無い、ただ合図を待っていたのだ。


「はっ!」


返事と共に神通は秘書艦の机から素早く鹿島を羽交い締めして、動きを止めさせた。


「きゃあ⁉︎ な、何するんですか⁉︎」


「それは此方の台詞です。 提督は今、執務中ですよ?」


鹿島は神通の手により身動きが取れなくなったが、今度は金剛が動き出した。


「勝機ッ‼︎ ジンちゃんの手が塞がっている今がチャンスデース!」


「な、何⁉︎」


本当にこいつらは何を競っているんだろうな。

金剛は例の如く両手を広げて助走をつけたまま飛び掛かってきた。

しかし、俺には二の矢があるのだ。


俺は二の矢を担う者の名を呼んだ。


「朝潮……!」


彼女は持ち前の誠実さと忠誠心を神通に買われて、いつの間にか制定されていた護衛役として執務室に身を置く艦娘である。


「司令官の邪魔は、この朝潮が許しません!」


「ホワッ⁉︎」


朝潮は神通の指導により、金剛と対峙する為に自分より身体の大きい相手とも互角以上に渡り合える様に合気道を習得したのだとか。


朝潮は飛び掛かる金剛の腕を取り上げると、相手の勢いをそのまま利用して床へ叩きつけた。


「アウッ⁉︎」


めちゃくちゃ痛そうな乾いた音が響いたが、金剛はわりと平気そうだった。

朝潮に腕を取られたまま組み敷かれつつも、指示を出していた。


「グヌヌ……、榛名ァ! 仇をとるデース!」


「はい、お姉様! 榛名、頑張ります!」


だから何と戦ってるんだ、味方に向かって仇って言ったか今?

今度は榛名が俺に飛び掛かって来た。

だけど小走りで丁寧に机を迂回して回り込んで来るのは榛名らしいと思える。

正直、既に不快なレベルで湿度がうなぎ登りなのでどうでも良くなっているし、榛名の勢いなら怪我の心配も無さそうだし、抱き締めてきても榛名が一方的に照れて金剛が逆ギレして終わるだろうから受け入れても良かったかも知れない。


だがしかし、俺には三の矢があるのだ。

使った事なかったが、俺はその名を呼んでみた。


「不知火!」


不知火、彼女もまた神通の指導により体術に長ける艦娘だ。

たまに何を考えているか分からない時があるけど、大丈夫だろう、多分。


不知火は誰かが勝手に設置した液晶テレビでDVD映画を鑑賞していたが、名前を呼ばれた瞬間、映画を一時停止してから素早く駆け寄った。

そして榛名と俺の間に割って入り、ギラリと眼を光らせた。


「期待に応えて見せます」


「あっ、あぅ……」


不知火の放つ威圧感に榛名は思わずたじろいでいた。

不知火はその様子を見て僅かに口角をあげる。


「不知火は四十八手の使い手です」


「そ、そんな、48個も⁉︎ 多過ぎます……!」


いや榛名、四十八手はそう言う意味じゃないからな?

榛名はやっぱりアホかも知れないと思ったが、冷静になって考えてみるとこの状況よりアホな事なんて無いよな。


鹿島は俺の後ろで神通に羽交い締めされて唸り声をあげて、

金剛は机の正面で朝潮に組み敷かれて呻き声をあげて、

榛名は俺の横で不知火と睨み合ってオロオロしている。


なんだこれ。


そして今回はノーマークが存在していた。


「へへーん、提督ぅ、鈴谷を無視するなんていい度胸じゃーん♪」


鈴谷は勝ちを確信したような表情で余裕綽々と俺に近寄って来た。

だが唯一、手が空いていた不知火が機転を利かせたようだった。


「不知火にお任せを!」


不知火はそう言って軽々と身体を翻して、正面から俺の両肩に膝を乗せたと思えば両手で俺の頭を抱え込んだ。

顔面に不知火のお腹の感触が伝わるが、それ以上に苦しい。


「これで誰も司令に手を出せません!」


「もがーーッ⁉︎」


「司令、ほとぼりが冷めるまで不知火がお守りします!」


と言うかお前本末転倒って言葉知ってるか⁉︎ なぜ顔に張り付いた⁉︎

それに息が出来ない、ほとぼりが冷める前に俺の身体が冷たくなりそうだ。

顔面に張り付いた不知火を引き剥がそうとするも、トリモチみたいに粘り強い。


本当になんだよコレ。


流石の鈴谷と榛名も体制がよろしく無い事に気がついたようだ。


「ちょ、ちょっと何やってんの⁉︎」

「て、提督が窒息しちゃいます!」


「何ですか、不知火に落ち度でも?」


落ち度しかないだろう、俺はそう言いたかったがそれどころじゃなかった。 息が出来ないんだ。

鈴谷と榛名の手が加わっても不知火は剥がれない、鋼の精神で張り付いているのか、更に締め付けが強くなった。


その異様な光景に神通と朝潮も気付いたようだった。


「て、提督⁉︎ 不知火さん何をしているんですか⁉︎」

「し、司令官⁉︎ 今助けます!」


やめろ、2人はこっちに来るんじゃない。

俺はそう言いたかったが、不知火のお腹で口を塞がれて言えなかった。


不知火は俺に殺意か何かあるんじゃないかとすら思える締め付けだ。


そして不知火を引き剥がすのに神通と朝潮が加わった。


「くっ⁉︎ そんなんで不知火は剥がれないわ!」


不知火は最後まで抵抗していたが、流石に4人掛かりとなれば呆気なく引き剥がされた。


ようやく息が吸えると思った矢先、フリーになった鹿島が背中から覆い被さってきた。


「提督さん大丈夫ですかぁーっ⁉︎ 苦しいですか? 鹿島が癒して差し上げますぅ♪」


「んがっ⁉︎」


酸欠気味で脱力していたおかげで、鹿島の体重を支えきれずに机に額を強打した。


トドメ刺しに来たのかお前は……⁉︎


だがフリーになったのは鹿島だけではなかった。


「提督のハートを掴むのは、この私デースッ‼︎」


今度は金剛が正面から助走を付けて机を飛び越えて来た。

なんで助走つけるんだろうな。


「バカお前やめろぉぉぉぉ‼︎」


俺の叫びも虚しく、金剛は椅子ごと俺を張り倒して、更に鹿島も巻き込んで、また更に4人に拘束される不知火達も巻き込んだ。


さながら、ボーリングのピンを薙ぎ倒すような光景だっただろうな。


一瞬で死屍累々と化した机の前の惨状に、ソファー占領組も流石にドン引きしていたようだ。

北上があんぐりと口を開ける程だ。


「う、うわぁ……」


本当に「うわぁ」だよ。

利根は絶句しているし、今回ばかりは大井も同情するような目をこちらに向けている。


とっ散らかった艦娘達の中で、1人だけ俺を抱き締める金剛を見ながら、俺は言った。



「お前ら、次やったら出禁な」



それは、俺に最強の切り札が出来た瞬間だった。






イメージ

加賀side






人にはそれぞれ“印象”と言うものがあります。


それはその人を見た時に思い浮かべるもの、或いは感じたもの、とにかく心に残るものを指すのだと思います。

印象とは、例え本質とはかけ離れていても、それが見えなかったり判りにくかったりすれば、対面する人は本質よりも印象の方を優先させるでしょう。


そして時に印象とは『〜〜は、◯◯だろう』と言う何となくの側面を捉えた抽象的な判断を人にさせます。

その事は決して悪い事では無くて、円滑なコミュニケーションには必要不可欠でしょう。


ですが本質と食い違っていたりすると、少し複雑です。


例えば私が執務室のソファーに座って提督に視線を向けていると、それに気付いた提督はこんな風に言います。


『お腹すいたのか?』


いえ、違いますけど。

自分では話し掛けられないから何か話題を振って欲しかっただけなんですけど。


ですが、これは私も悪いのかも知れません。

提督の好意が嬉しくて、提督が持ってくるお菓子を受け取ってしまいますからね。

普通のお菓子からちょっとした駄菓子とか、あまり見ない珍味であったり、毎回差し出すお菓子に変化が伴うので私も楽しみになりつつあります。


その様子を見た瑞鶴は『餌付け』なんて単語を切り出すものだから言い切る前に絞めました。鎧袖一触よ。


この鎮守府では、私の意思に関係なく『一航戦=食べ物』の印象が極端な程に強くなっている気がします。


十中八九、赤城さんのせいですね。


ここまで極端に印象が強くなってしまったのは、少し前に起きた私達に纏わる事件が起因となります。


今でこそ退屈な梅雨の季節ですが、実は6月に入ったばかりの頃、大本営からとある大規模作戦が発令されました。


ミッドウェー島周辺の太平洋とアリューシャン列島方面に大量の深海棲艦と共に“姫級”の存在が確認されたそうです。

姫級は脅威的な能力を誇る人型の深海棲艦で、とても看過出来ない存在です。


大本営は二箇所同時に深海棲艦を掃討する作戦を発令しました。

それはかつての太平洋戦争と酷似する内容であった為、それに習って作戦名が決定されました。



その名は『AL/MI作戦』。



皮肉にもその名前はあの時と同じでした。


史実で一航戦、二航戦の主力航空母艦4隻が沈んでしまい日本帝国が敗北への道を歩み始めたあの作戦の名前と。


いつも元気な赤城さんも、この作戦が発令された時ばかりは浮かない顔をしていました。

いつもの覇気が無くて、食欲も落ちているような気がしました。

その気持ちは痛い程わかるから、出来る限り励まそうとします。


「赤城さん、大丈夫よ……、今度は上手くいくわ」


「加賀さん……」


最初、提督は私達を艦隊から外そうと提案しましたが、赤城さんはそれを拒みました。

赤城さんは自分の運命に立ち向かおうとしている事が私にも判りました。


赤城さんは艦の記憶で覚えているのです、私と、そして二航戦の蒼龍と飛龍の2隻が沈んでいく姿を。


私は小さくなってしまった赤城さんの背中に手を回して言いました。


「きっと大丈夫よ、赤城さん」


「はい……、負けませんから……」


やっぱり私では赤城さんの緊張や不安を拭う事は出来ないようです。

頑張ってほしい、応援がしたい、でも言葉が出てこない。

自分の不器用さがここまで憎らしく思った事はないわ。

すると、私が肩に回した手を赤城さんは優しく握ってくれました。


「大丈夫です加賀さん、伝わってますから」


「赤城さん……ごめんなさい……」


「くすっ、なにも悪い事してないのに、どうして謝るんですか?」


そう言って赤城さんはおかしげに笑います。

いつの間にか私の方が励まされてしまったようです。


本当に、私はどうしようもないわね。


でも、あの人なら、提督なら、何て声を掛けたでしょうか。


その答えは作戦決行当日になって判りました。

二方面同時に連合艦隊を出撃させると言う、大掛かりな作戦を始める前に執務室に招集が掛かります。


執務室の中では総勢36名もの艦娘が整列して、その先頭を提督が1人1人と目を合わせながら歩いています。


「これより、AL/MI作戦が決行される。 作戦内容は各自叩き込んだと思うから敢えて説明は省こう」


全員の顔を確認し終わった提督は、静かに言いました。


「姫級の深海棲艦も各地に確認され、激戦が予想される。 だがお前たちは……」


提督は一度言葉を溜めると、不敵に笑いながら言いました。



「勝つのだろう?」



提督は既に勝利を確信しているようです。


普段から備蓄に力を注いでいて、相当量の資材が鎮守府にあります。

補給の憂いはありません。


建造数を減らしている代わりに製造は行なっている為、全員が艤装の性能を最大限引き出せる構成となっています。

装備に憂いはありません。


私達の練度は軒並高く、ほぼ全ての艦娘に訓練が行き届いていて、仮に平均が導き出せるなら日本随一と自負できる程です。

連携に憂いはありません。


私達の出撃中の留守ですら、作戦主力艦隊と同等火力を持つ防衛艦隊が待機する手筈です。

後方に憂いはありません。


そして私達にはサムライの信義が宿ります。


盲信ではない確固たる勝利を確信している提督を前にして、どうして私達が不安を感じる必要があったのか。


赤城さんも、同じ心境だったのでしょう。

提督のたったひと言だけで、急に悩んでいた事が馬鹿馬鹿しく思えたのか、おかしげにクスクス笑っていました。


「はい……、提督、勝ちに行きます!私、加賀さん、そしてみんななら必ず敵に打ち勝ちます。今度こそ、必ず……!」


吹っ切れたのでしょうね。 そんな顔をしていました。

私は何となくこうなる気がしていたから、不安に駆られる事が無かったのかも知れませんね。


不意に、提督がこの作戦に関して妙な事を言い始めました。


「余談だがな、このミッドウェー島は丁度アメリカと日本の中間辺りにあるんだよな」


そうですね、ですから戦場として選ばれたのです。

提督は言葉を続けました。


「ここを奴等から奪還すれば、将来的にアメリカとの貿易再開が見込めるかも知れないんだ。 アメリカも日本の伝導体だとか精密部品とか、とにかく輸入品を欲しがっているし、ミッドウェー島の共同基地化計画には乗り気らしい」


「それでな、アメリカは大量生産国だ。仮に一時的でも貿易が再開すれば石油の輸入も可能だし、日本の娯楽も従来以上を見込めるし、それに……」


提督は何故か赤城さんの目を見ながら言いました。


「海外の冷凍精肉など冷凍食品、ジャンクフードの類も日本に雪崩れ込んでくるだろう」


「……な⁉︎ そ、それって……」


ちょっと待って、変な風に流れを変えないで。

この作戦は私達が運命に立ち向かう戦いなのよ、そういう流れとは違うと思うのだけど。

私は目で必死に訴えましたが、提督は構わず具体的に説明してしまいました。




「この鎮守府でも毎週分厚い牛肉のステーキが食えるぞ」




それは激励により勝利を確信していた赤城さんの闘志に、更に食欲が追加された瞬間でした。


それからは酷いものでした。


作戦が始まって、支援に回ってくれた横須賀の佐々木艦隊の通信を覚えています。


『し、支援隊! 味方艦隊に合流出来ません!』


『何だと⁉︎ 敵の妨害工作か⁉︎』


『ち、違います! 連合艦隊の進撃が速すぎるんです‼︎ 通常の三倍はあります、最大戦速ですが追いつけません‼︎』


『なにぃ⁉︎ 連合の航空母艦は化け物か⁉︎』


ごめんなさい佐々木提督、本当にごめんなさい。

赤城さんの艤装は改二だから性能だけなら鎮守府で一番強い空母なの。止められないの。


そんな赤城さんは最大戦速を維持したまま敵を薙ぎ払って行きます。


「MI作戦? 知らない子ですね。 これはただのアメリカ様と繋がる道のお掃除です」


「あ、赤城さん! 待って、確かに掃討だけれど趣旨が違うわ!」


赤城さんは戦意高揚の金色のオーラ以外にも、両目から紅い眼光まで迸っているような気さえします。


ちょっと誰かしら、『肉を得た赤城』なんて通信飛ばしたの。 得ていたら大人しくなるわ。


赤城さんが立ち直ってくれたのは嬉しい、でもこんな形は望んで無い。

五航戦の2人や金剛さん榛名さんも一緒ですが殆ど空気です。


赤城さんが頑張れば頑張る程、何かを大切なものが失われて行く気がするの。


止めなければ、赤城さんより私が成果を上げさえすれば……!


「鎧袖一触よ……!」


このままでは赤城さんは食い意地で敵を殲滅させてしまう、それだけは阻止したい。

そんな思いを込めて私は弓をつがえました。

そして艦載機で敵艦を仕留めたら、金剛さんが引き笑いしながら言いました。



「さ、流石、一航戦ネ……凄い執念デース……」



この時点で私が何をしても無駄だと判りました。

褒め言葉の筈なのに、明らかに込められた意図が違う事が分かったからです。

もうここで私がどんなに頑張っても“食”と切り離す事が出来ません。


戦闘中、“頑張るな”と念じたのはこの日が初めてでしょうね。


急激に冷めていく私とは相対的に赤城さんはヒートアップして行きました。


戦艦である金剛さん榛名さんが目を見張る程の火力で敵を薙ぎ払いながら疾風迅雷の勢いで突き進む連合艦隊を前に、撤退を始める深海棲艦まで現れ始めました。


敵前逃亡する深海棲艦を見たのはこれが初めてです。

赤城さんの艦載機からは逃げられなかったようですが。


誰ですかね、赤城さんに流星改なんて積んだの。


通信でAL方面にいた姫級の一隻が『カエル』と言い残して、戦う前に撤退を始めたそうです。

あちらは確か横須賀の長門さんを素手で絞め落とした神通さんが旗艦ですね。


何が起きているのか想像付くのが自分でも怖いです。


こうして快進撃が続き、ミッドウェー島を占領する中間棲姫が姿を現しました。

有名な観光地だったはずの島は禍々しい姿へと変貌していて、その島の上で大きな艤装を纏う中間棲姫がゆらりと此方を見据えて歩み寄ります。


「ユウバクシテ……、シズンデイケ……」


不吉な言葉を投げ掛けますが、赤城さんは怯まずに言い返します。


「沈みません。 私達が目指す未来は、貴方を越えた先にあります……!」


赤城さんはそう言って勇ましく弓をつがえ始めました。

とても良い言葉なのに私は複雑な思いです。


私達の目指す未来って何なんでしょうね。


そして複雑な心境のまま戦っていたら普通に勝てました。呆気ないほどです。

これは充分な練度と相手の構成を見抜いた装備編成による賜物だと信じたいです。

提督が1つしかない紫電改を私に持たせてくれたお陰で制空で負ける事はありませんでしたし、赤城さんと五航戦の爆撃、金剛姉妹の三式弾が相手に猛威を奮いました。


そのはずなのに、なぜ五航戦と金剛姉妹は妙な目線を私に向けてくるのかしら。


それと赤城さん、今だけは近寄らないで頂けませんか?


「加賀さん、新しい運命を掴みましたね」


もう黙ってて下さい。

貴女の一言一言がいちいち食に繋がるのよ。


貿易再開する未来と、分厚いステーキを食べる運命なんてこの場所で聴きたくないわ。

分かっているのかしら、ここはミッドウェー島なのよ?


勝ったのは嬉しいけど、凄く複雑な気分だったわ。


そしてMI作戦が一瞬で終わって、その余りの速さに潜んでいた敵別働隊も接近前に看破する事が出来たおかげで呆気なく大規模作戦は幕を閉じました。


そして案の定です。


提督は何かにつけて私の行動を食に関連付けるようになりました。

今日も執務室に向かってソファーに座ると、目を合わせただけで提督はお菓子を出してきます。


「今日は栗の羊羹だぞ、食べた事あるか?」


「いえ……」


「だよな。 俺も食べた事ないから一緒に食べようか」


「ええ、そうしましょう」


ですが、完全に食のイメージが定着したおかげで提督との会話が以前よりもずっと増えました。

これだけは、良いことなのかも知れません。


そんな事を考えていると、提督が楽しそうに言いました。


「俺も最近加賀の考えてる事が分かるようになってきたなぁ……!」


やっぱり複雑だわ。

紅い彗星とか呼ばれてたアイツは絞め落としましょう。






イマジネーション

吹雪side






こんにちは、吹雪です!

季節は梅雨真っ盛りで、ジメジメとした嫌な感じの空気ですが私は元気です。

ただ、雨の日が続いて木工作品を天日干し出来ないのが少し辛いですね、レジンを使った物は特に。 それに塗装の乗りも悪い気がします。


だから私は雨の日は製図用紙に向かっている事が多いです。


司令官のおかげで私が作った家具などの木工作品がマーケットサイトで出品されるようになって、それが今も続いています。


ネットに公開された写真を誰かが見て、“いいな”と思ったらお金を払って買ってくれる。


これってとても素敵な事ですよね!


貴重なお金を払ってまで、私の作品を欲しいと思ってくれている証明なのですから!


そして作品を通じて使用者の声も聞けるようになったのもとても嬉しかったです。

それは1人1人が実際に使ってみた使用感や良かったと思う長所から、不満点や改良案など様々です。


その感想をひとつひとつ読んでいくと「次はこうしてみよう」とか、「もっと良く出来たはず」とか、次々と課題が飛び出してくるんですよね。


そして、それらを取り込む時、或いは作り出す時に大切なのがイマジネーション。


想像力です。


私は小物を作る時は特に頭を使っている気がします。

作る時間よりも考える時間の方が長くなる程です。


日常に潜む「あると便利なこと」をひたすら模索するのです。

それが良い製品を作る、近道の無いコツですかね。


具体的な例を挙げれば、そうですね……。


小物入れがあるとします。

次に小物入れが使われる場面を想像します。

例として執務室の場合、執務室では書類などを取り扱いますね?

書類なら小物入れのサイズはA4用紙が入るサイズが標準的ですかね。

そして引き出しの内側の底に、指が通る程度の穴を開けておけば、ひいた引き出しの下から指を穴に入れて書類を押し上げれば、引っ掛かる事なく書類を取り出せるようになります。


こう言った工夫が良い製品への一歩になるのです。


まぁ、完成度を高くしないと買って貰えませんけどね。


私は出撃があるのと前回の反省を活かして、数量限定で販売していますが、バイトしなくても大丈夫な程度には買って貰えています。


そして最近は雨で出撃も無くて、想像を膨らませる時間が増えました。

他の皆はアルバイトに出掛けている人も多いようですが、私はコレがバイトになりつつありますからね。


で、最近部屋にいる事が増えたので判ったのですが、午後三時過ぎあたりから初雪ちゃんの個室から妙な声が聞こえるようになったんですよ。

あ、個室と言っても凄く狭いです。 司令官が1人1人趣味に没頭出来るように、と設けた本当に小さな部屋です。

初雪ちゃんは普段は居間の大きなテレビでゲームしていますが、この時間帯になると個室に籠るんですよね。


そして扉越しに微かに聞こえてくる声が……。



『うん……、司令官、……今日もやる?』



『わかった、いいよ……』



『んっ、ちょっと……待って……』



何ですかねコレ? 何ですかね⁉︎

はにかんだような少し嬉しそうな初雪ちゃんの声が聞こえてきます!

気になりすぎて私が培ってきた想像力が明後日の方向にとんでいっちゃいます。


盗み聞きのようで悪い気もしますが、私は忍び足で扉に近寄って聴き耳を立ててしまいます。



『だめだよぉ……、へへっ』



何がダメなんですかね?

と言うか何をしているんですかね?


ま、まままさかナニですか⁉︎


しかも相手は司令官⁉︎


司令官は食堂で別れて以来見ていませんから、中に居る事はあり得ません。

つまり、初雪ちゃんは司令官と⁉︎ いえ、司令官で……⁉︎



『司令官……、焦り過ぎ……』



『へへっ……まかせて……、実はこーゆーの、得意、なんだぜ……?』



えっ、ちょっと、司令官が受け身⁉︎ 逆でしょ⁉︎

こ、拗らせ過ぎじゃないかな、初雪ちゃん。


司令官は指先が器用だからきっとテクニシャンってイクちゃんが……、いや私は一体何を……。

一旦落ち着こう、受け身な司令官ってそんなのは……。


でも、基本的に司令官は艦娘に対して受け身な面もありますね。

金剛さんが良い例です。 よく押し倒されているのを見かけます。


つまり、司令官は受け身。


いや、そうじゃない、こんな事に想像力を使うのは良くないです。

扉から離れましょう、そして何も聞かなかった事にすればいいんです。


どうせ中で司令官と通信でゲームをしているとかそんなオチです。


そして私が離れようとした瞬間、また声が聞こえてしまいました。



『おぉ……、凄く大きい……』



『えぇ……、まだ大きく、なるの?』



きっと違う筈なのに、私の想像力が変な方向に向かってしまいます!


何が大きくて何がまだ大きくなるんでしょうねっ⁉︎


いや違う、落ち着こう吹雪。

製図の途中だったし、取り乱してはダメ。


モノづくりで養った一意専心の特技をこんな事に使ってはいけない。



『うん……、司令官、掘ってあげる』



うわああああああああっ⁉︎

掘る⁉︎ 掘るって言った今⁉︎ ナンデ⁉︎


司令官を掘るゲームって何⁉︎


そっちの線のが私の中で強くなりつつあるよ!

でもちょっとレベル高過ぎて訳がわからないよ!

何を掘るの⁉︎ 入れ墨かなぁ⁉︎ 吹雪わかんない!



『じゃあ、穴を広げて……』



ダメだよぉぉぉぉぉ‼︎

私の想像力を超えてきてるよ! 司令官に穴なんて無いでしょ! 無いよね?


実はあるのかな?


初雪ちゃん……、もうとっくにお姉ちゃんより大人になっちゃってたんだね、頭の中では。



『ええ……、もうイクの……?』



ラストスパートですかぁぁぁぁ⁉︎


でも待って! 初雪ちゃんがどうやって掘ってどうやって広げてるのか全くわかんない!


どんなラストを遂げるの⁉︎


私の妹がとんでもない事になってるよ!

上級者だよ!


そんな事を考えていると、いつの間にか帰って来ていた叢雲ちゃんが引いた顔でこっち見てました。


「吹雪……アンタ何やってんの……、扉に張り付いて……。 盗み聞き?」


「叢雲ちゃん⁉︎ ……これは違うの!」


「何がどう違うのよ」


「初雪ちゃんが上級者だったの!」


「はぁ?」


私は想像上の事の顛末を叢雲ちゃんに伝えました。

すると叢雲ちゃんは顔を真っ赤にして声を荒げました。


「は、はぁぁぁぁッ⁉︎ 掘るって何よ⁉︎」


「わかんないよ!」


「それに穴を広げるって……、いやまさか……」


「叢雲ちゃん何か知ってるの⁉︎」


「う、うっさい! 知らないわよ!」


怪しいですね。

これは何か知っている顔です。 叢雲ちゃんは誤魔化す時は目を合わせませんから。


「叢雲ちゃん隠し事は良くないよ! 司令官の穴って何⁉︎」


「し、知らないって言ってるでしょ! 耳の穴とかそんなんじゃないの⁉︎」


「耳の穴⁉︎ 耳の穴でナニするの⁉︎」


「ああもう、うっさいわねぇ! 酸素魚雷ぶつけるわよ⁉︎」


初雪ちゃん司令官の耳の穴で一体どんな想像、いや妄想を……⁉︎


ダメ、私の想像力じゃ足らない。


妹の想像力がこんなにも豊かだったなんて思いませんでした。 遥か高みの領域です。


そこへ、私達が相当騒がしかったのか、扉が開かれて初雪ちゃんが出てきてしまいました。

私と叢雲ちゃんは驚いて声も出ません。


「……うるさいんだけど、何?」


初雪ちゃんの格好は、シャツに下着だけ。

これはいつも通りだったのですが、今回ばかりはリアルティーを上げてしまいました。 何のとは言いませんけど。


「な、何じゃないよ! 初雪ちゃん司令官の穴にナニしてたの⁉︎」


「えっ?」


叢雲ちゃんも加わりました。


「そ、そうよ! アブノーマル過ぎるんじゃない⁉︎ 掘るんじゃないわよ! 逆でしょ逆!」


「えっ、えっ?」


「いくら妹でも司令官の穴を広げる妄想でシてるのは姉として看過できないよ! それに耳の穴は頭蓋骨だから広がらないでしょ!」


私達がそう言うと、初雪は呆れた顔をしながら、身体を横に逸らして部屋の中を見せました。


小さなモニターにゲーム画面が映っています。


あれはマインクラフトですね。

箱庭ゲーとして最も有名なゲームで、非常にクリエイティブなゲームです。

ゲーム内で建築を行なったり、建築の為に採掘や栽培をして素材を集めたり、地形まで作る方が出来ます。


初雪ちゃんは言いました。


「マイクラで司令官と一緒に宝石とか掘ってただけなんだけど……」


「……」

「……」


知ってました。 分かってました。

ゲームだと気付いていたのに何故こうなってしまったのか。

私の豊かな想像力の弊害ですね。


初雪ちゃんはボイスチャットを使うから、私に気を使ってわざわざ個室でゲームしていたようです。


そんな初雪ちゃんは何かを察したのか、拗ねたように口を尖らせました。



「このスケベ」



えへへ、えへへへへ!

な、何言ってるんですかねこの妹は!


「ち、違うもん!」


「違わないでしょ⁉︎ アンタが騒いでるから私もてっきり……」


「てっきり、何? 叢雲ちゃん、私には何のことかわかんないなぁ⁉︎」


「アンタはっ倒すわよ⁉︎」


私と叢雲ちゃんが罪をなすりつけ合っていると、そこへ白雪ちゃんがやって来て恨めしそうな目で私を見ました。


「ズルい、ズルいよ吹雪ちゃん……、工作属性に飽き足らず、むっつり属性まで盛ろうと言うの……? 盛り過ぎだよぉ……」


「な、何のこと⁉︎ 白雪ちゃんそれどう言う意味⁉︎」


「モノづくりだけじゃなくて、子づくりにも興味津々なんだッ‼︎」


「ひ、酷いよ白雪ちゃん! そんな言い方ないでしょ!」


「この……、吹雪ちゃんの……」


白雪ちゃんは言葉を溜めて背中を向けました。



「むっつり工作艦〜〜〜ッ‼︎」



そう言い捨てて走り去って行きます。

酷い言われようです。


「いくらなんでも怒るよ⁉︎」


「うるさーい! 司令官に言いつけてやるぅぅぅ‼︎」


「や、やめてぇぇぇぇぇぇーーッ‼︎」


私は急いで白雪ちゃんを追いかけようとしました。

ですが、初雪ちゃんが何か察したような半笑いで言います。



「ごめん吹雪……、マイク切ってないから全部司令官に筒抜け……」



そう言って初雪ちゃんは、長い髪の毛を手で退かして、隠れていたイヤホンマイクを私と叢雲ちゃんに見せました。

それが何を意味するのか分かった途端、私と叢雲ちゃんは声を揃えて悲鳴あげました。



「嘘でしょぉぉぉ⁉︎ 司令官これは違うんですぅぅぅぅ‼︎」

「ぎゃあああああああああッ‼︎ 吹雪アンタのせいよどうしてくれんのよぉぉぉぉ⁉︎」



イマジネーション、それは想像力です。


創作には欠かせないイマジネーションは、時に思いもよらぬ事件を引き起こす事もあるそうです。


想像もほどほどにしないと本当に痛い目を見ますね。


……明日から何て顔して司令官に会えば良いんだろう。



それにしてもやっぱり、叢雲ちゃんは明らかに……、いえ、何でもありません。






※オマケ[篠原と初雪のマイクラ会話]

台本書きです。


篠原「うーし、今日も早く終わったからマイクラするか」


初雪「うん……、司令官、今日もやる……?」


篠原「勿論、昨日の探検の続きだな」


初雪「わかった、いいよ……」


篠原「よし、じゃあ早速やるか」


初雪「んっ、ちょっと……待って……」


篠原「初雪なら装備の準備しなくてもいけそうだけどな」


初雪「だめだよぉ……、へへっ」






篠原「うわっ⁉︎ 自爆ゾンビ来た! こいつ苦手なんだよ!」


初雪「司令官、焦り過ぎ……」


篠原「流石初雪だな……、自爆ゾンビも余裕で倒すか……」


初雪「へへっ……まかせて……、実はこーゆーの、得意、なんだぜ……?」






篠原「実は昨日の夜、1人で建築してたんだよ」


初雪「おぉ……、凄く大きい……」


篠原「もっとデカくしたいな、鎮守府を再現したい」


初雪「えぇ……、まだ大きく、なるの?」


篠原「その為には素材が必要だし、今日はツルハシで採掘しよう」


初雪「うん……、司令官、掘ってあげる」


篠原「それで昨日、採掘スポットに繋がる穴を見つけたんだよな。 ちと狭いが中に結構鉄とか宝石とかあった」


初雪「じゃあ穴を広げて……」


篠原「流石採掘の手際もいいな、採掘場の入り口みたいになってきた。 でも今日は奥に進もう」


初雪「ええ……、もう行くの?」


篠原「ああ、まだ奥に宝石とかありそうだし、先に掘っちゃおう」



※この後、初雪が騒ぎに気付きました。






血より濃いもの

時雨side






やあ、時雨だよ。

梅雨真っ盛りのこの季節は雨ばかりだね、ジメジメして暑苦しいったら無いね。

僕は雨が好きだけど、それはこの季節の雨じゃ無いんだ。

冬時の乾いた空に降るような、冷たくて染みるような雨が好きかな。


雨は好きなんだけど、この季節に振られても湿気で髪の毛が大変な事になるし、ちょっと動いただけで身体中ベトベトになるし、流石に私生活に弊害が出るような雨は好きじゃないよね。


隣人もうるさいし。


ほら、また聴こえてきた。

防音対策バッチリな壁なんだけど、窓を少しでも開けてると、隣人も窓を開けているせいか声がダイレクトに入ってくるんだよね。



『やーせーんーッ‼︎ 夜戦したぃぃぃぃよぉぉぉぉ‼︎』



あっ、これ違う。

窓を開けて外に向かって叫んでるんだ、そんな感じの声だ。 迷惑だなぁ。

夕立もテーブルに突っ伏してたけど、この叫び声に反応して顔をあげてた。


「うぅ〜……、また川内さんっぽい?」


「うん……、雨の日はサバゲーフィールドも使えないから……」


ここの鎮守府は安全第一で雨の日は出撃が無いから当然夜戦も無いんだよね。

警備任務も今は海上に無数に浮かんでる“監視塔”のお陰で殆ど無くなっているし。

そしてサバゲーで発散もできないから、川内さんの欲求不満は溜まる一方。

因みに今はお昼の2時過ぎ、ちょっと早過ぎるよね。

日に日に夜戦コールが早くなってとうとうこんな時間になったよ。


そして欲求不満なのは夕立も同じみたいだ。


「夕立も退屈っぽいぃ〜……、提督さーん……」


「ダメだよ、提督は今、仕事中なんだから……」


「うぅ……、金剛さんとか執務室に入り浸ってるのに……」


「金剛さんの真似すると、提督は夕立を見るたび身構えるようになったり、苦笑いするようになっちゃうよ? いいの?」


「それは嫌ぁ〜……ぽひぃ」


そう言って夕立は再びテーブルに突っ伏しちゃった。

湿気と退屈で押し潰されてるんだね、このまま放置すればキノコとか生えてきそう。

でも執務の邪魔をしちゃいけないからね、第六駆の子達に何されるか判らないし。


あの子達は大人しそうな見た目だけど、遠征中に卯月ちゃんが凄いシゴきにあってたし。

確か倍の量の資材を持たせて、


『司令官さんのお仕事増やしちゃう卯月ちゃんは、自分のお仕事が増えちゃっても文句は言えない筈なのです』


なんて可愛い笑顔で言ってたかな?

駆逐艦に序列があるとしたら、間違いなく第六駆が筆頭になりそうなんだよね、この鎮守府。


あ、また叫び声が聞こえてきた。



『雨のバカヤローーーーッ‼︎』



何か青春だね。

でも仕方ないよ、雨の日だと本当に視界が悪いから危険なんだよ。

視認性が低くなるお陰で必然的に近距離戦を強いられるからね。

更に霧なんて発生したらゲリラ戦も良いところだよ。

雨天訓練で身を持って実感したからね。


そんな事を考えていると、今度は別の声が聴こえてきた。



『うるっせぇぞ川内テメェこらぁぁッ‼︎』



あっ、天龍さんの声だ。

天龍さんの怒鳴り声が室内にまで響くと、夕立がまた顔をあげた。


「今日は天龍さんっぽい?」


「そうだねぇ……、うるさいから窓閉めてエアコンまわそっか」


「賛成っぽい……」


僕は夕立が再び突っ伏したのを見送ると、窓を閉めてエアコンをつけた。


さっき視認性が……、って話をしたけれど、その問題を“監視塔”は解消しているらしいんだよね。

深海棲艦はレーダーに映らない、と言うのは、レーダーは電波を発射して何かに当たって反射した電波を受信して位置を測定する装置なんだけど、深海棲艦がレーダーの放つ電波に当たっても吸収しているのか一切反射しないせい、みたい。

だけど確かに物体として存在しているから電波を遮る事は出来るみたいで、それを利用した新たなレーダーの試作品が搭載されているみたい。


技術って凄いよね、電波が遮られただけでその位置が特定出来るなんてさ。 2つ以上の装置が必要らしいけど。


まぁ、そんなこんなで艦娘達の負担が科学の力で軽減されている訳だけど、この季節ばかりは武闘派のフラストレーションは溜まる一方だね。


夕立もどっちかと言えば武闘派……だよね?

刺激的で面白い事に興味が絶えないみたいだし。

それでいて負けず嫌いなトコあるしね。


サバゲーの装備も勝ちに拘っている、ような気がする。

メインはM4パトリオット。

M4カービンをそのまま縮小したようなサブマシンガンかな? 架空銃っぽいけど似たような実銃が実在するみたい。

夕立のはドットサイト含め2kg以下の軽量、そしてハイサイクル仕様で秒間24発の弾を発射できるみたい。

川内さんのM4が本体だけで3kg超えて、更にグレネードとか付けてるから取り回しに結構な差があるよね。


僕はふと思い出して、夕立に聞いてみた。


「そういえば夕立、サバゲーで川内さんに勝った事あるっけ?」


「ゔっ……、あんまり無い……」


「装備は夕立の方が有利なはずなのにねぇ……」


「最近また手強くなったっぽい……」


川内さんは衣装がどこか忍者っぽいけど、普段は全然忍んでない。寧ろ目立ってるし。

だけどサバゲーの時はとことん忍ぶよね。


さっき駆逐艦の序列を何となく挙げたけれど、軽巡の序列をつけるとしたら殆どの人が神通さんの名前を挙げると思う。

確かに神通さんは秘書艦だし、普段の立ち振る舞いも強かで、実戦でも恐ろしく強いからね。


でも僕は、川内さんが真っ先に候補に出てくる。


普段は騒がしくてうるさくて、落ち着きがなくてそそっかしい川内さん。

そのせいで真っ当な評価は得られにくい。

その実、サバゲーや実戦など戦う場面では冷徹になる。


これはある意味、普段は実力を隠している、忍ばせている事になり得るよね。


性格は真逆だけど龍田さんの昼行灯に似ていて、川内さんはある意味忍んでいるんだ。


そして夕立は夕立なりに分析していたみたい。


「川内さんがサバゲー中動かないのは銃が重いのと、M4の方がパトリオットより精度が良いからっぽい?」


「うーん、どうだろうね? あのサバゲーフィールドは雑木林の中で遮蔽物も沢山だから、動かずに相手の動きを把握する事が勝ち方として確立しているんじゃないかな?」


「でも動く時は動くっぽい。 なんか提督さんみたい」


「へぇ……」


元陸自だった提督の動きを真似してるのかな?

でも見よう見まねで夕立が負け続けるなんて事あり得るのかな。

夕立も戦闘センスは悪くない筈だし、やっぱり川内さんには何かあるね。


僕はこの鎮守府で川内さんだけ見ているものが違うような違和感を覚えて、その正体を確かめるべく考え始めた。


すると夕立がおもむろに立ち上がりながら言った。


「うぅ〜……、こうなったら直接聞くっぽい!」


「ええ⁉︎」


「ちょっと呼んでくる!」


「よ、呼ぶの? ここに?」


「アクション映画見せれば一時的に静かになるって神通さんが言ってたぽいー!」


「それ見終わったあと余計フラストレーション溜まって煩くなるって提督が言ってたよ⁉︎」


「ぽいぽ〜い!」


制止も聞かずに夕立はさっさと行っちゃった。

僕と違って夕立は行動力があるからね、悩むより行動って感じで、こんな時は頼もしいよ。


僕も聞きたいことがあるしね。


夕立は扉を出てからすぐに川内さんを連れて戻ってきた。

まだ何も言ってないのに川内さんはハキハキと喋り出してた。


「何かな⁉︎ 夜戦かな⁉︎」


「ち、違うっぽい……」


「えっ? じゃあなんで呼んだのさ」


「川内さん、最近サバゲーで強くなった理由が知りたいっぽい!」


「強くなった理由……?」


夕立の言葉を聞き返した途端に、川内さんは凄く得意気に口角をあげてた。俗に言うドヤ顔だね。


「えぇ〜〜……、どぉしよっかなぁ?」


「あーーっ⁉︎ やっぱり何か強くなる秘策があるっぽい! ズルいっぽいズルいっぽいぃぃぃぃ!」


「でもこれ教えちゃうとねー? ちょっとねぇ? 私も参っちゃうしなぁ」


「勿体ぶらずに教えるっぽい!」


夕立がぷりぷりと怒りだすと、川内さんははにかんだ笑顔に変わって謝り始めた。


「ごめんごめん夕立。 大したことはしてないよ、ただ提督に聞いただけ」


「やっぱり提督さんっぽい?」


「うん、状況に応じた銃の構え方とかちょっとね?」


「じゃあ夕立も提督さんに教えて貰えば……!」


「今は梅雨だからなかなかフィールド使えないけどねー? 電動ガン濡らしても良いなら別だけど」


「むぅ〜〜〜っ! 雨が止んだら真っ先にお願いするっぽい!」


電動ガンは強めのバッテリーを搭載しているから漏電の危険もあって水気厳禁なんだってね。

私達は艦娘だから漏電しても平気だろうけど、銃が壊れちゃうしね。


電動ガンはとっても高い。

夕立のも川内さんのも3万円以上はしたかな?

だから自分のエアガン買った人は、何かに躓いて転んじゃった時とか真っ先にエアガン庇うんだよね。 そのせいで余計な怪我しちゃっても先ずエアガンの無事を確認するし。


さて、夕立も聞きたいこと聞けたみたいだから、今度は僕の番だよね?


「川内さん、どうして提督から教わったんだい?」


「ん? そりゃあ提督が銃に詳しいからだよ?」


「んー、少し質問を変えようかな。 川内さんは提督の真似をしたいのかい?」


もう少し言葉を選ぶべきだったかな?

でも川内さんは、一瞬だけ真顔になったかと思うと、次の瞬間には何か含みがある笑みを浮かべていた。


「……そうだね、真似事だね」


「そ、それはどうして……」


「深海棲艦との戦争を終わらせるのは、きっと私達の提督だろうと思ってね」


川内さんがそう言うと、夕立も黙ったまま強く頷いていた。


そして僕もその通りだと思っていた。

ちゃんと根拠もある。


昔の海軍は変わることを嫌った、諸説あるけど敗戦の原因とも言われているね。

新型レーダー然り、新戦法然り、伝統や習わしを遵守し過ぎていたきらいがあった。


だけど今は新しいものをどんどん取り入れて行こうと言うスタイルだ。


監視塔が良い例だね、昔の海軍だったら成果が出るかもわからない物をすぐに設置してみようとは思わない筈だからね。


空撮ドローンもそうだね、長時間飛行用のバッテリーと広角カメラを積んだ高コストな代物だけど、艦娘が現れてすぐに専用のドローンが開発されたみたい。

とにかく艦娘達のサポートをする為に技術を惜しみなく使ってくれている。

瑞鶴さんから聞いたんだけど『戦争は兵士だけが戦っているんじゃない』って言葉、本当にその通りだと身をもって体感したよ。


そして次に、提督の艦隊運用。


提督は第1に手掛けたのは新海域開放よりも備蓄計画だった。

相当量の資材を集めながら、艦娘達1人1人の練度を上げて建造で比率が増えても高い水準を保とうとしている。

その結果、出撃に戦力を割いても同等以上の戦力が常に鎮守府の防衛力として残る事になって、的中率100%の建造のお陰で製造に注力出来て待機メンバーの装備も取り上げられる事はなく、正しく鉄壁の守りだね。


そして全艦娘が三日三晩全力で戦い続ける事が可能なほど資材を貯め込む備蓄計画。

現状44名の艦娘が吐き出し続ける最高火力に打ち勝てる敵が現れたとしたら、その時は世界の終わりだろうね。

仮に均衡に持ち込まれたとしても提督は味方の鎮守府と連携が取れるんだ。

時間を掛けたら敵は勝ち目は無くなるだろうから、一気に叩き潰すくらいの火力がないとダメだろうね。


そして時間が経つにつれて戦力も増えていく訳だから、この戦争では時間が経てば経つ程、提督が有利に展開出来る。


深海棲艦側が勝つには、僕達の戦力を上回る戦力を奇襲的に仕掛けるしかないから殆ど無理に近いよね。

勿論、相手の戦力も未知数だから僕達が必ず勝てるとは限らないけれど、堅実な負けない戦い方の土台は既に組み上がっているんだ。


だから慢心とかじゃなくて、いつか必ず戦争は終わるだろうね。


川内さんは続けて言った。


「私は提督の武器じゃなくて、武器にもなれる右腕になりたいのさ」


「右腕?」


「そう、右腕。 提督が提督じゃなくなった時、多分また海外に行くと思うんだよね」


戦争が終わった時の話かな?

確かに提督なら戦争が終われば、今度は小さな戦争を止めに行くだろうね。


「その時、一緒に行けたらなって。 だから私は提督の戦闘技術や培ったセンスを出来るだけモノにしたいって訳」


「戦闘技術って……」

「感覚っぽい?」


「私は、深海棲艦としか戦えないまま終わるつもりは無いよ」


これは流石に僕も驚いたな、川内さんはPeace Makerを目指しているんだ。

そんな川内さんは何か思い悩むような素振りを見せていた。


「でも提督はまだまだ計り知れないんだよね。 レンジャーだから、大体50kgの荷物背負って三日間ほぼ飲まず食わずで山岳行動出来るってのは分かるんだけどさぁ」


「ぽ、ぽぃぃぃ⁉︎ そんなん死ぬっぽい!」


「でも夕立、提督は少なくとも5年以上は戦地に身を置いていたから多分それよりキツイ場面何度もあったと思うよ」


「……オムライスがあれば夕立も頑張れるっぽい」


「無いよ」


「じゃあ無理っぽい」


この様子を見る限りまだまだ進展は無いようだ。

提督は中々自分の過去を話さないからね。


多分、提督は危険だから憧れて欲しくはない、真似して欲しく無いって側面もありそう。

そして艦娘達の趣味や特技を全力で応援するのも、戦後は自分のやりたいように過ごしてもらう為、と言うのも大いにあるだろうね。


でも提督、手遅れだ。


既に川内さんみたいに戦後の戦いにも付き従おうとする艦娘が現れているよ。


僕はそんな川内さんに言った。


「右腕、素敵だね。 つまり川内さんは提督の想いだけじゃなくて、骨の髄に染み込んだ感覚まで得ようとしているんだね」


「な、なにその不気味な言い回し⁉︎」


「センスを学ぶってそう言う事じゃないかな? 川内さんは口頭では説明出来ない、提督の5年間で研ぎ澄まされた感覚を得たいんだ。 それって尋常じゃない事だと思うよ?」


川内さんは気付いていないのかな? 自分がなにを望んでいるのか。

それは提督の身体の一部として成り得ようとしているんだよ。


流石、神通さんの姉なだけはあるね。



でも、素敵だね。

ふふふ、僕も真似したくなっちゃうな。






続・クライシス小話

大淀side






こんにちは、大淀です。

長い梅雨もようやく終わり7月を迎えた頃、まだ新人のイムヤさんはとにかく、同期の長門さんは出撃を控えていて血が騒ぐのか落ち着かない様子ですね。

先輩として大和さんが同行しているので、資材が心配なのかやたらと自分で遠征に行きたがりますね。


遠征に長門さんを起用すると燃費の関係で効率が落ちるので長門さんが遠征に行く事は無いのですけどね。

主に警備や実戦経験を詰む方向で計画を立ててますので。


そして6月中旬に、提督は神通さんと相談しながら新たに腕試しのような特殊訓練を追加しました。

内容は主に低配給での応戦と迅速行動で、この訓練の趣旨は支援が途切れた場合、孤立した場合などを想定したものです。


今では跡形も無いのですが、以前ここが“ブラック鎮守府”なんて呼ばれていた時期がありました。

この訓練はその時よりも少ない弾薬と燃料で指定された課題を達成すると言う、熟練の艦娘ですら尻込みしてしまう程の内容になっています。


提督はコレを“上級訓練”として、参加は任意で希望者だけを募る方式を取りましたが早くも予約で埋まったそうです。


その時の面子は主に提督が着任した時から居た艦娘達ですね。


あの初雪さんも自ら名乗り出たと言うのだから相当な意気込みがあるのが伺えますね。

そして今や出撃が無く半ば非戦闘員となっている鳳翔さんですら参加を希望していました。


訓練実施期間は5日間。

その間娯楽の一切が禁止されて更に訓練を受けている人以外との交流も制され、鎮守府から隔離されるような形に入ります。

食事すら質素な物に変わり、まともな休息は殆どありません。


訓練内容自体はとても単純です。


三隻編成でチームを組んで訓練を行い、1日目は日本近海に位置する諸島まで往復するだけです。

勿論最低限の燃料と弾薬のみで、更に仮想敵部隊の艦娘が不定期に襲撃します。

チームには応戦が許可されていますが、無闇に弾薬を消費してしまえば後の航行に大きな懸念が残るでしょう。

戦闘から逃げる事も許可されていますが、仮想敵部隊は追い掛けますので燃料にも気を配らねばなりません。

模擬弾を使用していますが、轟沈判定とされたら即脱落となります。


故に、最高の選択は襲撃を察知して戦闘を回避する事に尽きますね。


3日目までは似たような内容が続きますが、日を追うごとに補給量が減っていき、それに反比例して航行距離は伸びていきます。

極限状態にまで追い込まれる事を想定していますからね。


4日目を迎えると更に難易度が上がり、訓練内容も“少ない補給で敵地に突っ込んで味方艦娘を救出する”と言う限定的な内容に変わります。


更に対象に接触して救出を行う艦娘には一切弾薬が補給されません。

なので援護を担当する艦娘は死に物狂いで、かつ、少ない弾薬で救出対象と担当を守らなければなりません。

そして迅速撤退を行う為に燃料も残さなければならないので限界を超えた挑戦という事になりますね。


内容が内容の為、実施前に3日目の予習期間が設けられていますが、訓練実施時には残念ながら多くの脱落者が出てしまいました。


18名の艦娘が参加して、乗り越えられたのは6名だけです。


明らかに無理がある事は分かりきっている為、提督は『また挑戦すればいい』なんて軽く励ましていましたが、本人達はとても悔しそうでした。


そして見事に全ての課題を達成した艦娘にはちょっとしたご褒美のようなアクセサリーが進呈されました。


小さな盾を象った銀色のブローチです。


訓練を乗り越えて疲労困憊と言った艦娘達に『本来なら勲章をあげたいんだがな』なんて言いながら1つ1つ提督が配っていたのを覚えています。

途方も無い困難を乗り越えた艦娘は証として勲章代わりのブローチを貰えただけです。


ですがとても嬉しそうでしたね。


そしてそのせいで、私の計画も始まる前に頓挫し掛かっています。

7月と言えば海、海といえば水着ですね?

普段ガードが硬すぎる提督も艦娘達の水着を前にすれば何か揺さぶりが掛けられるだろうと思って梅雨の間はずっと作戦を練っていました。


しかし、もう7月だと言うのにここの艦娘は水着の準備をしやがりません。

過半数の艦娘達が盾のブローチの為に暇を訓練に費やしています。


それが提督の“ちょっとした特別扱い”だったからか、それとも普段はクソ煩いだけの川内さんが満遍の笑みで胸元にブローチを飾って闊歩しているからかは分かりません。


中でも「5日間も満足に食べられないなんて」と、相方がゴネたおかげで参加を断念した加賀さんは凄い剣幕で弓道場の的に向かうようになりました。


いや皆さん、水着の準備をしましょうよ。


提督の特別扱いを受けたいのなら、この夏勝負を仕掛けるべきではありませんかね?


私はそもそも訓練受けられないのですけど?

大本営から出撃許可を降りている筈なのですが、提督の中で私は非戦闘員のままらしいです。


そして同じく訓練を受けられない鹿島さんなんて嫉妬でおかしくなっていました。

食堂で休憩しているのですが、カウンターの奥に居るブローチを飾る鳳翔さんを見て爪を噛んでいます。


「うぐぐぐぅ……何故私は練習艦なんですかぁぁぁぁぁ⁉︎」


「いや知りませんよ」


「提督さんのブローチ欲しいですぅぅぅぅ!」


「知りませんって」


「それは正規の余裕ですかぁぁぁ⁉︎」


「だ、だからその事は謝ったじゃないですかぁ!」


鹿島さんは派遣です。

香取さんは鎮守府で艤装が建造されてしまったおかげで仕方無くふたつ返事をして正規になりました。


派遣は形式上、本当に仕方の無い事なのですが鹿島さんは荒れる一方ですね。

鹿島さんはその容姿性格から骨抜きにされる男性が多いそうですが、枯れている提督からすれば普通の艦娘の1人なのでしょう、結構大胆なアプローチを仕掛けていますが暖簾に腕押しですね。

そんな鹿島さんはため息をつきながら言いました。


「はぁ……、この様子じゃあ海水浴も無理そうですね……。 皆さん納得行くまで訓練するでしょうし……」


「上級訓練とその準備のおかげで水着買う暇も無かったですからね」


提督は、既に熟練の領域に達した艦娘達が更に強くなれるように、或いは慢心してしまわないようにと上級訓練を設けました。


その結果、猛者達のプライドに火を付ける事になりました。

隙あらば訓練ですからね、みんな水着も用意できていなそうです。


「提督がまさかこんな事を考えているなんて予想外でした……」


「ですが提督さんなりに私達の事を思ってのことですよ、きっと……。 でも私にもブローチ貰えるチャンスくらい欲しかったですぅぅ……」


「その気持ちはとてもわかりま……んん?」


私が話している途中、突然携帯の通知音が鳴りました。

通知はSNSからで、その内容を見た私は絶句してしまいます。



▷Shinohara:海の日に全体の休み取れたから海で遊ぶか。



それは何の準備も出来ていない艦娘達にとって、余りにも突然な知らせだったでしょう。


鹿島さんも白目を剥いています。

鳳翔さんも頬に手を添えてオロオロしています。


それもそのはず、海の日まであと1週間です。


その日は鎮守府が騒然とした日になりました。






どこまでも甘い人

加賀side






6月中旬、提督は全員に“上級訓練”の実施を告知しました。


参加は任意である事と、大掛かりな訓練のため定員が18名までと言う事。

そして訓練内容は告げられた課題をクリアしていく形式で、クリア出来なかった者はその場で脱落して訓練から外されるそうです。

訓練と言うよりテストに近い内容ですが、敢えて訓練という名を取るのは、現実に起こりうる最悪な状況を乗り越える為の内容だからだと思います。


提督はこの上級訓練を必修では無い事を念を押して説明していました。


あくまで仮想訓練であり内容も理不尽である事。

そしてこの訓練を乗り越えても、待遇が良くなる事や賞与が出る事は無いと言う事。


早い話、腕試しだと言う事を告げました。


訓練内容の詳細説明が行われた時、私はその訓練が何を想定しているのか何となく判りました。


それは他の皆さんも同じだった筈です。


駆逐、軽巡の艦娘から真っ先に参加希望が出たのは言うまでもなく、提督も優先的に受理していました。

当然、私も参加を希望していましたが、赤城さんが哀しそうな顔をしてこんな事を言っていました。


『食事がレーションのみですか』


『あの、赤城さん?』


『それも5日間ですか……』


『あの?』


『いえ加賀さん、この訓練は受けて立つ所存ですよ!』


赤城さんは食事制限にかなり抵抗があったようですが、この時は引く気は無かったようでした。


ですが、上級訓練には五航戦の瑞鶴と翔鶴も希望を出していたようなので、今回は譲る事にしました。

提督が参加者を選定するために執務室に向かったのを追い掛けて、私はその事を伝えます。


『提督、訓練の事だけれど、私と赤城さんは五航戦の2人に席を譲るわ』


『……ん、そうか。 後輩には強くなって欲しいもんな』


『そう……、ね』


『実は辞退したのはお前だけじゃないんだよ、他にも後輩に席を譲るつもりの艦娘がいてな』


そう言って提督は嬉しそうに笑っていました。


提督も深い理由があって上級訓練を受けたい艦娘を優先的に選ぶつもりだったようですが、その私達がこうして辞退する事は想定していなかったようです。

提督は恐らく、とある悪夢を経験した私達の為に訓練を考えた筈です。

ただその機会を、他の者の成長の為にと、場所を譲った艦娘がいた事を嬉しく思ったようです。


ただ少しだけ、気になる事がありました。


『提督、何故18名なのかしら?』


『潜水艦には仮想敵側に回ってもらうつもりだからな。 ……それに、多分、必要無いかもしれないからな』


『最終項目の事ね。 ……そう、確かにあの子達はやってみせたわね』


『危なっかしいけどな? それはそうと艦種がバラけてしまったから編成考え直さないとな……』


そうして本来なら6名で1組の3艦隊編成は小分けされて、3名1組の6艦隊編成となりました。

名指しで指示を出せばこの様な手間を避ける事が出来た筈ですが、それをしないで、敢えて訓練と銘打って参加を募ったのは提督の配慮だったのでしょう。

私はその事に関してそれ以上言及する事はありませんでした。


そこへ、大淀さんが私に話し掛けました。


『加賀さん、本当によろしいのですか?』


『いいのよ、滅多に出来る経験では無いのだから。今回は五航戦に譲るわ』


『ふふっ、後輩想いですね』


『そ、そうでも無いわ。 赤城さんがレーションに不満そうだったから……』


『はいはい、そういう事にしておきますね、五航戦の2人にもそう伝えておきます。 それはそうと空母枠という事で、仮想敵部隊として加わってくれませんか?』


『ええ、構わないわ』


そして、仮想敵部隊として加わった私は、上級訓練の本懐を見届ける事が出来ました。


5日目の事です。

海上で、心許ない燃料だけを積んだ川内さんが那珂さんを見つめていました。

川内さんは連日に次ぐ無茶な訓練のおかげで既にボロボロな格好で、息を切らして疲労を隠せない様子でしたが、表情だけは輝いていました。


『那珂……、気付いている? あの時と一緒だ』


『うん、お姉ちゃん。 ……そうだね』


5日目の訓練、それは敵陣に突撃して味方艦隊を救出すると言うもの。


しかし捉え方によっては、そして、特に因縁深い川内さんにとっては違う形に見えたかも知れません。


“敵陣の中に置いてきてしまった艦娘を救出する”と言う、川内さんが後悔と共に何千何万と思い浮かべていたであろう望むべき形へと。


『帰るよ那珂……っ! あの時とは違うんだって、私達はずっとずっと強くなったんだから!』


『うん……!』


降り頻る砲弾の雨の中で、川内さんは那珂さんの手を引いて走り出しました。

ここに至るまで数々の無理難題を前に、体力をこそぎ落とされ極度にまで追い込まれている筈の川内さんは、なんだかとても嬉しそうでした。


それは、一つの悲願を叶える為の茶番だったのかも知れません。


それでも、かつての悲劇を変える為には必要な事だったと思いました。


今度は鳳翔さんが龍驤さんの手を取ります。

普段はお淑やかな笑顔を絶やさない鳳翔さんですが、この時ばかりは何時になく真剣な表情で、龍驤さんも少しばかり照れた様な素振りを見せていました。


『し、しかし不謹慎っちゅーか悪趣味っちゅーか……、ここまでしてあの状況を再現するんかいな……』


『……あの状況で、貴女は私かも知れなかった。 あの時の行き場の無い想いを晴らす事が出来る機会です。 悪趣味でも大目に見ますよ』


『や、やめーや! そういう空気苦手なんや! は、はよ終わらせて帰ろ帰ろ!』


“あの時、こうしていればよかった”、そんな積年の想いが今こうして、ことごとく晴らされていきます。


そして席を譲った艦娘達の、芽生えたばかりの想いも叶えられていきます。


海上で救出対象を目の前に惜しくも被弾して轟沈判定を受けてしまった瑞鶴が悔しそうに膝をつきました。


『く、くそぉ……! ここまで来たのに……! 誰かを助ける事が、こんなに……っ』


決して慢心してはいけない。

この訓練はその事を身をもって体感させる良い機会だと考える者が多かった様です。

そして改めて提督の余裕ある運営体制がどんなに力強いものだったか思い知る事でしょう。


この状況下で脱落した者は皆、同じ事を考えていたでしょうね。

『備えさえあれば』と、備蓄とバックアップの重要性を再確認した筈です。

どんなに優れた手腕を持とうが、遺憾なく発揮出来る環境あってこそのものであると。


そこまでは良かったのですが、提督は自分の命令で艦娘が無茶をしている現実に大変心を痛めていたようです。


無理を言って自分もレーションだけで済ませたり、普段は飲まないお酒に手を付けて眠りについていたり、決してそんな事は無いのだけれど罪悪感が芽生えてしまったようでした。



そして本来、訓練を乗り越えても何も無い筈なのですが、せめて“個人的なご褒美”を、と銀の盾のブローチを贈りました。

本当にそれ以外に何も無かったのですが、銀のブローチを川内さんに渡す時にこんなやり取りをしていました。


『……銀の盾、これどういう意味?』


『銀は魔除けや災いを遠去ける事で有名だな、そして盾もそうだ。 困難を力強く跳ね除けた証になり得るだろう?』


『へ、へぇ……、勲章みたいだね』


『本来ならちゃんとした勲章を用意したいんだがな……』


『ううん、これでいいよ。 寧ろこっちのが良いね』


川内さんはそう言って、受け取った3センチほどの小さな盾のブローチを目の前に翳しました。

執務室の蛍光灯の光を反射して眩しく輝いています。

その様子を見ながら、提督は言いました。


『実は銀色はな、俺が一番好きな色なんだ』


『へぇ〜、そう言えばペンも銀色だしね』


『磨かれた銀は周りの色を反射して、まるで何色にもなれるようだ。 そして周りの色に染まってなお、美しく銀色に輝く』


『言われてみれば、そうかも……。 銀色って他の色を映しながら、しっかりと銀色だってわかるもんね』


『ふふっ、お前達にそっくりだな。 色んな事に手をつけながら決して自分を忘れない辺り、よく似ている』


その一件以来、川内さんは胸元にそのブローチを飾るようになりました。

そして参加出来なかった艦娘達や、脱落してしまった艦娘達の羨望の眼差しを集めています。


提督が心を鬼にしきれなかったせいで、溢れんばかりの想いを込めた贈り物のせいで、受け取る機会すら無かった鹿島さんなど嫉妬でおかしくなっています。


そして団結した艦娘達により抗議を受けた提督は、話し合いの結果いつか必ず上級訓練を再実施する約束をしました。

そして上級訓練を乗り越えたなら盾のブローチを贈ると。

そうすれば盾のブローチの価値は確かなままですし、艦娘達も納得しました。


まあ、こうなる事は贈り物の時点で目に見えていましたね。

参加を見送った高雄さんに30回程『馬鹿め!』と言われていましたからね、提督。

そのせいで『馬鹿め!』と言う言葉が鎮守府内で少し流行りました。


そして私も来たるべく上級訓練の為に弓道場で通常訓練に精を出していると、提督が1週間後に海水浴場で皆で遊ぶ予定を入れている事がわかりました。


突然の知らせでしたし、水着の準備もしていません。

念の為、自室でエアコンの下で寛いでいる赤城さんにも聞いてみました。


「新しい水着ですか? ……特に用意はしていませんね」


赤城さんはそう言いながらチョコモナカを食べてました。


「赤城さん、水着を着るかも知れないのに間食なんて余裕そうですね」


「……むっ、それを言うなら加賀さんも提督にお菓子貰ってますよね? 間食増えたんじゃないですか?」


「私は動いてますから大丈夫です」


「慢心、ダメ絶対ですよ?」


赤城さんはそう言いながらチョコモナカを食べ終えました。


提督は何かにつけて私達に栄養価の高い物を食べさせようとしたり、小まめな水分補給を促す傾向があります。


この季節では素麺やうどん、冷やし中華など涼しげな食べ物に目が行きがちですが、提督はウナギの蒲焼や生姜焼きなどわざわざ用意して食べるように促していました。


そして道場やドックにも新しく冷蔵庫を置いて、いつでも水分補給出来るように徹底しています。

道場は基本的に飲食厳禁なので指摘したら『習わしを遵守して倒れたら元も子もない』と軽く流されてしまいました。


本当、艦娘にはとことん甘いですね。


私に渡すお菓子の類にも同じ傾向が現れて、この前は大粒の塩キャラメルでした。


総じてカロリーも高い気がしますね。


大淀さんが前に『提督は私達を太らせるつもりだ』なんてボヤいてた理由も何となくわかります。


まあ、私は食べた分身体を動かしているので大丈夫な筈ですが、念の為。

本当に念の為、艦娘専用の共有浴場の脱衣場まで向かって体重計の前に立ちました。


あまり測った事はありません。


そのせいか、なかなか体重計に乗る覚悟が出来ません。


「大丈夫、きっと大丈夫よ……」


私は自分にそう言い聞かせて体重計に乗ります。

すると目盛り板の針が、まるでGT-R並の加速を表すメーターの様に急回転を始めたかと思えば火花を散らして弾けました。


何が起こったと言うのでしょう。


体重計が、壊れた?


そんな、馬鹿な……。


黒煙をあげはじめる体重計を前に、私は眩暈を覚えましたが、そのままふらふらと覚束ない足取りでその場を後にしました。


何が起きたのかまだ理解したくありませんが、とにかく私には水着以前の問題があるようです。


そして自室に戻ると新しいモナカを開封しようとしている赤城さんからモナカを取り上げて言いました。



「赤城さん、断食をしましょう」



この時の赤城さんの表情は何と表現すれば良いのかしら。

まるで自分の世界から全ての色が取り除かれたような、生気の失われた瞳をしていました。


「……加賀さん、何ておぞましい言葉を……」


「断食です、私達にはそれが必要です」


「に、2度も言わないで! 不謹慎です!」


断食って不謹慎な言葉だったかしら。

とにかく1週間の内に僅かでも身体を軽くしなければなりません。

このままでは泳ぐ事も叶わず水中歩行して、浮き輪と共に沈んで、乗ったボートも沈没する未来が待ち受けている事でしょう。


ですが、やはりと言うか赤城さんは断固拒否していました。


「い、嫌です! “断食”なんて言葉知りません! 知らない子です!」


「今教えたわ。 それに前提督の時は断食に近い日々を送っていたのだから、出来るはずよ」


「そ、それは、無かったから仕方なくですよ⁉︎ 恵まれた環境に居るからこそ日々感謝を込めて食べる、それも一航戦の誇りです!」


赤城さんは何かにつけて“一航戦の誇り”を口にします。

そのおかげで私がどんな気持ちで日々を過ごす羽目になっているかも知らずに。



「ドブに捨てちまえよ、そんな誇り」



「いままでに無いくらい口が悪い⁉︎」


「人としての尊厳が掛かっているのよ」


「わ、悪い子です! 加賀さんは一航戦の悪い子ですっ‼︎」


「とにかく、根付いた印象を払拭するのにも良い機会です。 断食を行なって、赤城さんは少なくとも食欲を抑えて自制出来るようになりましょう」


「い、いやぁぁぁぁぁぁーーーーッ‼︎」


赤城さんは逃げ出そうとしましたが捕まえて簀巻きにしました。 鎧袖一触ね。


幸いにもこの1週間は出撃も無く、部屋にこもる事が出来るので一日中赤城さんを見張れます。

そして夕食と称してミネラルウォーターを赤城さんの前に置くと、すんすんと泣き始めました。


「こんなのが夕食だなんて……、上級訓練でもレーションが支給されていたのに……」


「アレは以前私達が口にしていた戦闘糧食よりも高カロリーな代物だったわね。 やはり提督は甘過ぎるわ」


「川内さん曰く、味が濃過ぎるけど地味においしいと……」


「貴女の口に入る事は無いのだけれど」


「畜生! てめえの血は何色だぁぁーーッ‼︎」


「貴女も大概口が悪いのね」


お互いに意外な一面を見れたところでこの日は終わりました。

私のはとある映画の台詞でしたが。


そして2日目、1日抜いただけでゲッソリしている赤城さんを起こすと朝食のミネラルウォーターを差し出しました。


「……もう嫌、こんな生活」


「我慢しなさい。 熊は食事を摂らない間は溜め込んだ脂肪を燃やして栄養に変えているのよ」


「私は熊じゃありません……、それに言うほど溜め込んではいません」


「そうかしら?」


私は赤城さんのお腹を摘みました。

指先が柔らかいものに沈んでいく感触が伝わって来ますね。


「これは溢れ出た慢心ではなくて?」


「……」


「身から出た赤城ね」


「やめてぇぇぇぇぇぇ! 人の名前を脂肪の化身みたく言わないでーー!」


「こんなんじゃ貴女も水着は着れないわね」


赤城さんも辛うじて女性の側面を持ち合わせていたようです。

ようやく断食の意図が伝わって赤城さんも少しばかり大人しくなりました。


しかし、お昼を迎えようとしたところで思わぬ妨害が入ってしまいます。

私達が食堂に来ていないと言う報せを聞いた提督が、私達を執務室に呼び出したのです。

私と赤城さんはソファーに座り、テーブルを挟んで対面のソファーには提督が複雑な表情を浮かべながら座っています。

一応、ここに来て断食の事を掻い摘んで説明しましたが、納得はしていないようです。


「全く、鳳翔さんが心配してたぞ? 何で断食なんて真似をしたんだ?」


「……貴方には関係ないわ」


「まぁ何となくダイエットかなんかだと察しがつくけどな」


私は口を噤んだつもりでしたが、呆気なく看破されました。


「いいか、食事を断てば痩せると言う事は無い。 寧ろ栄養が途絶えた身体はより栄養を溜め込もうと機能し始める、そうなると次に食べた時脂肪がつきやすくなる。 リバウンドを聞いた事があるだろう? それを幇助させる働きが起こるんだ」


「く、詳しいのね……」


「……無理なダイエットを始めたのはお前だけじゃないんだよ……」


そう、でもそれは多分貴方のせいよ。

鳳翔さんの料理のレパートリーが細かな差を含めれば800種を軽く超えているも貴方のお陰らしいですからね。

ここの鎮守府のエンゲル係数はかなり高めだとも聞きますし。


「とにかく断食はやめるんだ。 ちゃんと食べた分だけ動いているんだから、大丈夫だろう?」


「……大丈夫では無かったから、断食をしているのだけど」


「さては体重計に乗ったな?」


「えっ……、何故それを……」


提督はまるで見ていたかのように言い当てました。

そしてひと呼吸入れると、説明を始めました。


「アレは卯月のイタズラだ」


「は?」


「何でも体重計に乗ると、エンジン音が唸り声をあげる演出と共に自壊する仕掛けを施したらしい。 やけに凝ってるから聞いた時は笑ってしまったな……」


そう、だから私は映画で見たGT-Rの加速を思い浮かべたのね。

それに提督、これは断じて笑い事では無いわ。


「卯月は何処かしら? ぶっ殺してやるわ」


「お、落ち着け!」


「ええ冷静よ、半殺しを2回に分けるもの」


「まぁまぁ、ちょっと待ってろ、な?」


そう言って提督は執務室に置いてある冷凍庫からピンク色のアイスクリームを取り出して、私達の前に並べ始めました。

赤城さんは既にアイスに目を離さないようです。

提督はテーブルの上にアイスを並べ終えると、再び対面のソファーに腰を掛けて言いました。


「卯月の件に何とか寛大な処置をしてくれるのなら、そのアイスを食べても良いぞ?」


「……私を買収するつもりですか?」


アイス1つで手を打とうなんて、甘過ぎるわ。

ですが、赤城さんは即答していました。


「はい、一航戦は卯月ちゃんの罪を全て水に流して赦しましょう!」


「ちょっと⁉︎ 貴女そういうところよ⁉︎」


「まぁまぁ加賀さん、可愛いイタズラじゃないですか!」


可愛くなんて無いわ、勇気と純情を弄ばれた気分よ。

すると提督がアイスについて説明を加え始めました。


「因みにそのアイスは俺の試作品でな。 種から育てたイチゴを一度冷凍させて、細かく刻んでバニラアイスに加えたものだ」


「ちょ、ちょっと……」


「遠征のご褒美用と思ってたけど、コストと手間が凄くてな? イチゴの栽培も結構難しくて数用意出来なかったんだよな。 だが、味は保証するぞ?」


「や、やめて……」


「イチゴの果肉と一緒に味が染み込んだバニラアイスは、試食した鳳翔さんや間宮さんが思わず拳をつくる程だったな。 その1つのアイスにたっぷりイチゴを使っているから、味も濃厚だぞ?」


ええ、分かっているわ。

顔から離れたテーブルにアイスが置かれていると言うのに、さっきから濃ゆい苺の香りが漂ってきているもの。

断食して味覚に飢えたこの身体に対してこれ以上ない凶悪な猛毒ね。

ふと、隣から赤城さんの囁き声が聞こえてきました。


「2, 3, 5, 7, 11, 13, 17, 19, 23, 29, 31, 37, 41, 43, 47,……」


こ、これは素数かしら?

まだ提督が許可を出さないから素数を数えて理性を保っている……?


赤城さん、貴女本当にそういうところよ。


しかし、私も提督の次の言葉で心を折られました。

少し残念そうに眉を潜めて言いました。



「折角作ったんだけどな……」



これは狡いと思います。卑怯です。


提督はかなり甘いですが、この言葉で流されてしまう私も甘いのかも知れません。


「……わかりました、これで買収されておきます」


「ん、そうか。 じゃあ味わって食べてくれよ?」


提督はそう言ってスプーンをそれぞれのアイスに差し込みました。


ダイエットはとにかく、今回もまた印象を払拭する事は叶いませんでした。

ですが、聞けば提督は卯月のイタズラの被害に遭った他の艦娘にもこうして矛を収めて貰っていたようなので、今回だけは良いでしょう。






ビーチ作戦

大淀side






7月20日の朝8時、朝食を終えた後すぐに鎮守府内全ての艦娘達はバスに揺られて海水浴場へと向かっています。

1週間前に急に告知された総出の海水浴ですが、私達は何とか水着の用意などが間に合いました。

速配を頼んだ者、隣町にまで買いに行った者とそれぞれでしたが、中には妖精さんが用意してくれた水着までありました。


妖精さんの水着には加護が宿っていて、何とそのまま艤装を纏えば実戦に耐えられるそうです。

この報告を受けた提督は思い切り眉を顰めていましたが。


『艦娘の鋼材はポリエステルにもなるのか』


なんて遠い目をしながら呟いていたのを覚えています。

確かに鋼材を使っているので、その疑問も分かりますけどね。

艦娘側からしても妖精さんは不思議が多いので、あまり深く考えない方が良いと思います。

まあ、提督は言われるまでも無く考えないようにしていたようですが。


そして現在、バスに揺られながら作戦会議を始めています。

バスは2台で、提督は駆逐や軽巡の乗るもう1台のバスに乗っているので堂々と作戦を練れるわけです。


枯れているせいで鎮守府の防衛力に劣らないガードの硬さを見せる提督ですが、普段とは違う水着姿の乙女を前にすれば何かしら反応があるはずです。


最早自分が何をしたいのかすら不明瞭になりつつありますが、この際どうでもいいんです。


私は艦娘の中でも特に気を引きたいであろう鹿島さんに問い掛けます。


「鹿島さん、ちゃんと例の物は持って来ましたか?」


「はい! 伸びにくいサンオイルを持って来ました! 肌に馴染ませるには何度も塗り込まなければならないクリームタイプです!」


「ヨシ!」


ある意味定番、『オイルを塗るのを手伝って貰う』と言うシチュエーション……。

男性は合法的に肌に触る事が許されて、少し際どい所まで塗り込んで、大胆な女性を前にドギマギすること請け合いです。

枯れている人への効力は未知数ですが、提督の封印されし欲望を少しでも刺激する事が出来れば御の字でしょう。


そんな事を考えていると、鹿島さんは不安そうな声で言いました。


「それと本当にあの水着、着るんですか……?」


「何言ってるんですか、提督の好きな色ですよ? 他にその色を選んだ人は居ませんし提督の視線を独り占め出来るかも知れません!」


「ええっ、でもぉ……」


鹿島さんの水着は銀色のビキニです。

提督の一番好きな色は銀色です、これは本人の口から確認が出来ました。

綺麗な銀髪を持つ鹿島さんはその事にとても喜んでいましたが、銀色の水着を着る事はかなり渋っていましたね。


「シルバーの水着、探すのに苦労したんですからね!」


「で、でもでも、アレ絶対遊泳用じゃないですよね……」


「銀髪に銀の水着、鹿島さん以上に銀が似合う艦娘はいませんよ?」


「そ、そうでしょうか……」


鹿島さんのポテンシャルは確かなものです。

胸だって私より大きいですし。


そして戦艦、空母の方も大抵大きいです。

瑞鶴さんはこの際置いておきます。

更に空母の艦娘には、つい最近建造された蒼龍さんも居ますので全体的な戦闘力はかなり高いでしょう。


そんなグラマー勢に負けたくない鹿島さんは、私に相談して来たので銀の水着を用意したのですが、この期に及んでまだ着る決心が付いていないようです。

私はその背中を強引に押してみせます。


「でも鹿島さん、替えの水着もありませんし、着るしかありませんよ?」


「う、うぅう……」


相当恥ずかしいのかも知れません。


用意しといて何ですが、私もあんな派手なのは遠慮したいです。


ただ提督の反応は気になりますので今回鹿島さんは人柱と言うわけですね。

そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫です。

実は替えの水着も用意してありますから……。


私は自分の席から見える範囲の艦娘達を見回して、その戦力の分析を始めます。


2つの意味で最高戦力、グラマー勢の扶桑姉妹はどんな水着を用意したのでしょうか。

私達の鎮守府の扶桑さん山城さんはあまり不幸を口にしていませんが、あなた方には定番のハプニングを期待していますよ。

とにかくこの海水浴では、提督から多くの情報を得られる絶好のチャンスなのですから。


そんな2人は窓から外の景色を眺めながら話をしているようでした。


「見て、山城。 雲ひとつない快晴よ」


「ええ姉さま、幸先はとてもよろしいかと!」


「水着もすぐに用意出来たし、最近ツイているわね」


良いですね、その調子でフラグを立てて下さいね。


そして五航戦の2人は……、片方はとにかく翔鶴さんは中々の戦闘力だと思います。

少しドジっ子なのもポイントが高いですね、扶桑姉妹と同じく定番のハプニングを期待しております。


そして瑞鶴さんと話をしている蒼龍さん。

まだこの鎮守府に来て3日も経ちませんが、水着での戦闘力は既に瑞鶴さんを超えていますね。

愛宕さんとも張り合えるのでは……?

そんな蒼龍さんは瑞鶴さんからちょっとした忠告を受けているようです。


「今のうちに楽しんでおくと良いよ……、新人訓練本当にキッツイから……」


「や、やだやだぁ、そんなん聞いたら気になって楽しめないよぉ〜!」


なんだか地味に瑞鶴さんが先輩風吹かせていますね。


でも瑞鶴さん、水着では恐らく勝ち目ありませんよ?


一航戦の2人は……、どうなんでしょうね。

鎮守府内に留まらず、MI作戦を隔てて、3日は掛かるとされていた大規模作戦を半日で完遂すると言う偉業から全国最強とまで呼ばれた空母の2人ですが、加賀さんは最強と言う割に相手が提督だと物凄くヘタレです。


どれくらいヘタレかと言いますと、提督が隣に座っただけで、気を落ち着かせる為か下を向いたまま動けなくなってしまいます。

ただ少し離れれば、ちゃんと目を見て話したり、落ち着いた行動も取れるようなので、要するにパーソナルスペースに入られると一気に弱体化するようですね。


何というか空母らしい弱点ですね。


赤城さんは省きます。


そんな2人はそれぞれ別の事をしていますね。

加賀さんは熱心に本を読んでいますね。

カバーを付けているので何の本かは判りませんが、本を見ながら頬を指先でグイグイいじっている辺り表情筋のトレーニングとかでしょうか?

その直向きさは応援したくなってしまいますね。


赤城さんは何か食べてますね。


戦艦の金剛さんと榛名さんは恐らく普段通りにアプローチを仕掛けるでしょうね。

そして普段通りにあしらわれる未来が見えます。

特に金剛さんは好意を文字通り体当たりで伝えるので、彼女と向かい合うだけで提督は察したような達観した瞳に変わりますね。

そこには全ての感情を感じられませんので、水着になろうときっと同じような気がします。


榛名さんは金剛さんの無茶振りに健気に応えていて、そして今回も何か無茶振りされているようです。


「フフフ、ジャパニーズ水着といえばフンドシデス! 榛名、これでヤマトナデシコアピールだヨ!」


「お、お姉様! お願いですから私が用意した水着を着てくださいぃぃ〜っ!」


一応、榛名さんは常識的観点を持ち合わせているようです。


長門さんは何故かもう1つのバスに乗っています。

燻し銀のようにジワジワと内に秘められた個性を露わにしてきているようですが、提督は気付いていませんね。

横須賀の武人然とした長門さんを見て安心しているようですが、此方の長門さんは貴方の艦娘である事を忘れないように。

周りが自由過ぎると感化されるでしょうし、自由な武人ほど手が付けられない可能性だってありますよ?


曰く、第六駆を見る眼が怖い、と。


早めに陸奥さんを招くのが好ましいかと思われます。


手遅れになりますよ。


大和さんは今回どのように振る舞うのでしょうか。

我が鎮守府では珍しくあまり拗らせていない艦娘のようです。

と言うかアプローチを仕掛けるのかも判りません。

たまに箱入り娘のような言動があると聞きますが、少なくとも提督の前では静かですね。

今は静かに窓の景色を眺めています。


そして水着の戦闘力、最早説明不要、高雄さんと愛宕さん。

提督着任時から身を置く、所謂初期勢の艦娘で、改二こそ実装されていませんが秘められたポテンシャルを発揮して攻守共に器用万能の働きを見せています。


それにしても何を食べたらそんな大きさの果実が実るのでしょうか。

本人曰く『バランスの取れたボディ』らしいですが、どう見てもフロントヘビーですよ。


普段はとても大人しくて、たまに提督に絡んだりしますが、本当に迷惑にならない程度の戯れですね。

2人とは私もよくお話をしますが、内容も至って平凡なものが多くて、とても安心感があります。


ただ、怒らせるととても怖いです。


普段はとても温厚で、怒る姿など想像も出来ない程ですが、卯月さんの体重計トラップに引っ掛かった時は『ぱんぱかぱーんしちゃうゾ♪』等と言いながら消火器を鈍器のように担いで卯月さんを追いかけ回していました。


提督が必死に止めていましたね。


そんな2人はとても取り留めのない健やかな会話をしています。


「もうすぐ海水浴場につきますね」


「うふふ、吹雪ちゃんが砂浜で砂のお城とか作りそうです」


「何かリクエストに応じてくれるかしら?」


素直にビーチを楽しむ所存のようですね。


いやいや、その凶悪なフロントヘビーな武器を活かす時ですよ!


そして昨今、提督から問題児扱いされ始めた鈴谷さん。

本人は好意を隠しているつもりですが、提督には見て分かる好意全開でイタズラな絡み方をしています。

水着戦闘力も高いですし、今回も何らかのアクションを仕掛けてくれる事でしょう。

ただ振る舞いに対してウブなのか守備力は低めで、決定打に欠けるので期待値はそこまでですね。


そんな鈴谷さんと話をしている利根さんは、実は何を考えているかよくわかりません。

暇があれば執務室に入り浸っていますが、ただ静かに過ごしているだけで、静かなマスコットのような立ち位置にいますね。

ただ、ジワジワと才能の頭角を現し始めていて、神通さんが席を外している時に金剛さんの接近を察知して提督に報せたりしています。


普段少しだらしなくて頼りなさそうですが、戦闘では切れ者かも知れません。

ただ水着戦闘力は皆無でしょう。私の方がありますね。


そんな2人は、主に鈴谷さんが一方的に話題を振り掛けて会話をしていますね。


「見て見て、このネイル! 海だから綺麗な青色〜〜っ!」


「死人の爪のようじゃのぅ」


「そ、そんな言い方ないじゃん!」


利根さんはネイルアートに関心が無いのか素っ気ない対応ですね。


バスには他の艦娘も乗っていますが、私の座っている席から見れるのはここまでですかね。

艦娘は色取り取りで、何かと接触を試みる人は多いようですから、今回は提督の様々な反応を調べる絶好のチャンスです。


この夏決めたい、なんて早計な考えは最早ありません。

提督は枯れていますから、その枯れた蓋の上から試行錯誤をして、どの様な女性を好むのか探らなければなりません。

一泊二日と時間はたっぷりありますので、じっくりと解析を進める所存です。

この海水浴もその情報収集手段の1つに過ぎないのですからね……!


焦りのせいか鹿島さんがやたらと献身的ですので、その容姿性格から“有明の女王”なんて呼ばれていた彼女を有効活用させて頂きましょう。


多少、不健全な事態も夏の暑さのせいにして!


そうしてバスはいよいよ海水浴場へと到着しました。

両サイドを崖で挟んだ綺麗な海岸が広がっていて、まるで僻地の観光スポットのような絶景です。

完全なプライベートビーチで、海岸手前の大きな館のような宿舎も無人です。


私達はまず宿舎に向かって荷物を部屋に置きます。

部屋は簡素でしたが、水道や電気もちゃんと通っていて泊まる程度なら申し分ないでしょう。


ただ、あれほど美しい海岸と大きな宿舎を貸しきるなんて、今回の企画に一体幾ら注ぎ込んだのか気になりますね。


流石に無視できない疑問だったので、私は宿舎に着くなり提督の元へ向かって聞いてみました。

提督は自分の個室で荷物をまとめながら微笑を浮かべて答えてくれました。


「経費が気になるなんて、流石大淀だな」


「この規模ですし、100万じゃ効かなそうですし……」


「だけど安心してくれ、今回はタダだぞ?」


「えっ?」


「ミッドウェー島奪還により、横須賀がアメリカとの物流を成功させたのは知っているよな?」


「ええ、かなり話題になっていましたからね」


横須賀鎮守府の艦娘は、ミッドウェー島を経由してアメリカと日本を往復するタンカーの護衛を務める大規模輸送作戦を遂行しました。

敵が少ない内に、可能な限り物資を積んだタンカーで太平洋を横断すると言う、架け橋を担う大掛かりな作戦でしたが横須賀は難なく完遂させたようです。


私達の鎮守府にその護送の話が来なかったのは、港の大きさから仕方の無い事だったのでしょう。

使用されたタンカーは、かつての超弩級戦艦 大和よりも遥かに巨大で、あまりにも大き過ぎて停泊出来る港も限られているそうですからね。


提督は話を続けました。


「その輸送作戦を成功させるにはミッドウェー島は無くてはならなかった。 だからコレは国からのご褒美の1つと言う訳だ」


「な、なるほど……。 1つ、と言う事は他にも……?」


「そうだなぁ……、億単位で予算が割り当てられるそうだぞ」


「億単位っ⁉︎ ミッドウェー島と輸送作戦でそんなに⁉︎」


「いやいや、輸送作戦ではかなり経済が動いたからな? それこそ何十兆円と言う規模でだ」


提督はサラッと口にしていますが、コレって何気に歴史に名を残すレベルの偉業なのでは……?

いえ、現に石碑まで出来る位ですから、確実に歴史に名を残している訳ですが。


最早、生きる伝説ですよ提督……。


でも提督からしたら、それは違うのかも知れませんね。

提督は笑いながら言いました。



「お前達のお陰だな、俺も誇らしいぞ」



これですね。

提督はどの様な功績をあげたとしても、偉業を成し遂げたとしても、必ず艦娘を讃えます。


そして自賛はしません。


私達は『貴方の指揮があったから』と何度も伝えましたが、こればかりは変わりませんね。

思うところがあったのか、前に神通さんが「私は貴方の武器です」と前置きしてから、何故素直に功績を自分のものとしないのか聞いた事がありました。

すると提督は“当たり前だ”といった風に答えました。


『陸自とか軍属に近しい場所に身を置くとな、一般とは武器や道具、武器や兵器に対する印象や認識というのが変わるんだよ』


『印象ですか?』


『簡単な話だ。 そうだな……コレは軍属に限らないが、例えばプラスドライバーがあるとしよう。 多くの人はプラスドライバーを持てば「ネジを締められる」と思うだろう』


『そうですね……』


『ただそれが専門の立場になれば「ドライバーがあるからネジを締める事が出来る」と言った風に、思考に前提が挟まれる訳だ。 それだけで何処までもドライバーを大事に出来るし感謝も忘れない。 実はこの差って結構大きいんだよな』


『え、えっと……』


『つまり、だ。 俺が戦えるのは、何かを守れるのは、お前が居たお陰なんだよ。 いつもありがとうな』


こういった態度が艦娘達の心を刺激して止まないのですが、本人は無自覚でしょうね。

突然の不意打ちで頭から湯気を出し始めた神通さんに気付かずに、『陸自では、道具を大事にしないと、とんでもない折檻が……』なんてうんちくを語り始めていましたし。


そしてあそこまで乙女の顔をしていた神通さんも、恐らく自分の好意に無自覚でしょうね。


自分から『私は貴方のもの』なんて言っちゃうくらいですし、普通は気付くと思うのですが、流石は神通さんです。


その後、聞きたい事を聞けた私は自分に割り当てられた部屋に向かいました。

水着に着替えて砂浜に集合と言う事で、着替えるために部屋の中に入ると、香取さんが顔を痙攣らせながら鹿島さんを見ていました。


「か、鹿島……あなた……」


「ぎ……銀色は……、提督さんの好きな色ですから……」


「そ、そう……」


香取さんはそのまま目を逸らしました。

鹿島さんは銀色のビキニに着替えていました。

銀色の生地はラメ入りでキラキラしてますね。


すごい既視感があります。


私はつい思った事を口に出してしまいました。


「コ、コンパニオンみたいです」


「お、大淀さん⁉︎」


「あっ、失礼しました。 とてもお似合いですよ?」


「ほ、本当にコレで提督さんが見てくれるんですよね⁉︎」


「保証はできませんけど……、多分」


何でしょうね……、銀色の水着だとコンパニオンか、怪しいお店の人にしか見えませんでした。

それと生地の量は普通の筈なのに、やけに色気が……。

鹿島さんの大きな胸を銀色が際立たせているような……。


可愛い、と言うより、コレは寧ろアレですね。

私は続く言葉を口にして本人に伝えました。


「大丈夫です、鹿島さん。 十分エロいです」


「そ、それって大丈夫って言うんですか⁉︎ やらしい娘だって思われちゃうんじゃ……」


「提督は枯れてるんで、やらしいなんて思わないですよ。 せいぜい“奇抜”くらいです」


「お、大淀さん……? 本当に、ほんっとーに、この水着で良かったんですよね……?」


「……保証はしかねます」


「ひ、酷いですぅぅぅ!」


大丈夫です、一応ですけど替えの水着もありますから。

そちらはフェミニン感溢れるチョイスですよ?


銀色の水着は、実は買う時に“コレはないな”って思いましたが、とにかく情報が必要だったのです。


因みに私の水着は妖精さんが用意してくれたチューブトップにパレオと言う無難な水着ですね。


さて、では私も着替えて砂浜に急ぎましょう。


提督は私達の水着姿を前にどのような反応を示すのか、その事ばかりを考えながら砂浜に向かうと、サーフパンツに白地のシャツを着た提督が先に待っていました。


そして水着に着替えた艦娘達が全員揃ったところで声を張らせて言いました。


「よーし、集まったな? それじゃあ先ずは準備運動だぞーっ!」


そう言ってホイッスルを口にあてがいました。

そのまま言葉を続けて声をあげます。



「体操の隊形に、ひらけーっ!」



日頃の指導や訓練の甲斐もあり、突然の号令にも関わらず私達は素早く対応して整列すると、ワンピースタイプの水着を着た朝潮さんがラジカセを手に提督の横へと向かい、足元にラジカセを置いてスイッチを入れました。


するとラジオ体操の前奏が流れ始めます。


これ以上無いレベルで健全な海水浴のスタートを切った瞬間でした。






尽くすタイプ

大淀side






これは修学旅行の臨海学校か何かでしょうか。


私達は軽やかなラジオ体操の音楽に合わせてストレッチを行なっています。

鎮守府のトップが先頭に立って向き合いながらラジオ体操を行うので、私達もやらざるを得ません。

提督に水着をお披露目するべく駆け出した艦娘達の多くが壮絶に出鼻を挫かれて、何処か投げやりな表情をして体操を行っています。

提督はそんな私達に構わずアキレス腱を伸ばしながら数を数えています。


「いっち、にっ、さんっ、しっ……」


艦娘が50人近いからか、大きく広がった私達に体操が見れるように提督と間隔をあけて朝潮さんが向き合って体操を行なっています。


「ごー、ろく、しち、はち」


彼女は至って真面目な顔で体操を行いますが、それだけになんと言うか、修学旅行感が強くなっていきました。


提督は学校の先生か何かですか?


天職かってくらい似合いますね。

流石は元陸自と言いますか、この手の準備運動に抜け目がありませんね。

誰にでもひと目で分かる、徹底した安全対策の1つです。


ラジオ体操が終わると、提督は整列したままの私達の顔を見回しながら言いました。


「よーし、じゃあ今日は思い切り羽目を外して良いぞ! ただし沖には出ないのと、必ず誰かと一緒に行動、或いは遊泳する事。 わかったかー?」


だから修学旅行の先生ですか?

そして第六駆の面々が「はーい!」と元気よく返事をして提督の横を抜けて海岸へと走り出しました。


「今度こそ灰色のシーグラスをみつけるわよ!」

「なのです!」

「ダー!」


提督は微笑を浮かべながらその背中を見送ると、駆け足でその場を離れて何処かへ行ってしまいました。


まさか提督が立ち去るとは思っていなかったので、金剛さんや鹿島さんは呆然と立ち尽くしています。


「……水着の感想、ナッシング……?」


「この水着着るのに凄く勇気使ったのにぃ……」


金剛さんは榛名さんの忠告のお陰か褌では無く、普通にお洒落で少し大胆なワンショルダービキニを身に付けていますが、提督がその事に構う事はありません。

何かしらアプローチを仕掛けるつもりでいた艦娘達は失望の色を瞳に乗せていましたね。


加賀さんも心なしか落ち込んでいるような気がします。

青い三角ビキニに短い丈のパレオとシンプルかつ結構大胆な水着で、ダイエット騒動を起こしたとは思えない程、引き締まったお腹をしています。

薄っすらと割れる腹筋がとてもセクシーですね。 かなりハイレベルで水着を着こなしていると言えるでしょう。


ちょっと納得いかないのが赤城さんですかね。


加賀さんとは相対的な赤い水着で、普段の暴飲暴食を少しも感じさせないグラマーのような体型です。


流石に加賀さんよりも柔らかそうなお腹ですけど。


さりげなく那珂さんも気になっていたのか、出来るだけオブラートに包んで赤城さんに聞いていました。


「わっ、赤城さん、どうやってそのお腹維持してるの?」


「お腹ですか? 私食べても太らない体質なので特に何も」


「へ、へぇーっ!」


何でしょうかね、この妙な敗北感は……。

無理やり納得の声をあげた那珂さんも同じ気持ちかもしれませんね。


加賀さんのプロポーションは納得ですよ、毎日鍛錬を欠かさずに汗を流していますから。

赤城さんが汗を流す時は食事中に辛い物か熱い物を食べてる時くらいじゃないですかね?

あまり道場で見かけないですし。


加賀さんより食べてて加賀さんより動いてないのに、どうして加賀さんと似たような体型をしているのでしょうか。

出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる、なんとも羨ましいワガママボディです。


私が有りっ丈の妬み嫉みを籠めた視線を赤城さんのお腹にぶつけていると、鹿島さんが不安そうな声で話し掛けてきました。


「あっ、あのっ、提督さん戻ってこないのでしょうか?」


鹿島さんのひと言は多くの視線を集めました。

提督が艦娘を海岸に放り出して何もしないで放置とも考えにくいのですが、何よりも大勢を連れてのレジャーは初めての事でしたから、判断材料が少なくて何とも言えません。


私がそうやって思慮に耽っていると、近くにいた川内さんが顎に手を当てながら言いました。


「これは……“ドヤ離脱”の可能性もありうる……?」


何でしょうか、その妙な造語は。


「川内さん、ドヤ離脱とは……」


「提督がたまにやる『この場に俺は不粋だな』とか言って、要らない気を使って微笑を浮かべながら無言でフェードアウトして行く現象の事だよ。 それがドヤ離脱」


「成る程、ドヤ離脱……」


過去何度かありましたね、ドヤ離脱。

主に姉妹艦の再開だとか、少しでも感動的なシチュエーションに遭遇すると提督は気を使ってその場を離れます。


それにしても、駆逐艦達の様に私達が海岸に居れば自動で遊び始めると思っているのでしょうか。

艦娘達は、誰に見せる為に水着を選んだのか、もう少し考えて欲しいですね。


そんな事を考えていると、沢山の荷物を荷台に積んだ軽トラが海岸に侵入して来ました。


運転席には提督が乗っています。


軽トラは宿舎に置かれていたものですね。


そういえば、宿舎は無人でした。

海岸にはパラソルやベンチなど定番の器具もありません。


いや、まさか……。


提督が軽トラを停めて荷物を降ろし始めた所を見計らって、私は聞いてみました。


「て、提督……、これは一体……?」


「あ、ああ……、手違いで本来なら居るはずのスタッフが居ないでやんの……。 ちょっと急いでセッティングしないと昼に間に合わん……」


どうやら早足に立ち去った理由は変な気を遣ったわけでは無く、別にあった様です。

荷台には折り畳まれたパラソルやベンチが沢山積んであるので、これから何をするのかすぐにわかりました。


そしてこういう時、誰よりも先に動くのが第六駆の子達です。

その4人は提督が軽トラで現れた瞬間、海岸探索を中断して駆けつけていたのです。


「ここはレディとしてお手伝いしないとね!」


「いくら司令官でもこの量は凶悪だ」


暁ちゃんと響ちゃんが提督の返事も待たずに荷台に飛び乗ると、下で待機する雷ちゃんと電ちゃんに折り畳まれたビーチパラソルを手渡し始めました。


提督はその様子を見ながら申し訳なさそうに笑いました。


「悪いな、折角の海水浴なのに準備を手伝わさせて」


「準備も含めて海水浴なのです!」


「もっともーっと頼って良いのよっ!」


彼女達が率先して手伝い始めれば、周りも触発されて動き始めます。

小さな身体で一生懸命荷物を運ぶ姿を見れば、誰だって手を貸したくなる原理が働いているのかも知れませんね。


長門さんも微笑を浮かべながら、折り畳まれたビーチチェアを纏めて担ぎ始めました。


「フッ、胸が熱くなるな……!」


何故このタイミングで熱くなるのでしょうね。

提督、早く陸奥さんを……!


それにしても、どうしてスタッフがいらっしゃらなかったのでしょうか?

私はその事が気になったので提督に聞いてみました。


「提督、どう言った手違いで従業員の方々が不在に……?」


「うん、ああ。 調理人はいらない、と伝えたつもりだったんだが……。 まさかこんな事になるなんてな」


「調理人はいらない?」


「たまには俺が腕を振るおうと思ってな」


提督がそう言うと、電ちゃんが目を輝かせました。


「はわーっ! 司令官さんの手料理なのです⁉︎」


「そうなるかな? オムライス以来だったかな」


「はわわわっ、こうしちゃいられないのです! ちゃっちゃかセッティングを終わらせるのです〜っ‼︎」


電ちゃんはそう言って忙しく荷物を運び始めます。

それ程、提督の料理が楽しみなのでしょうね。


提督は以前、1人で厨房を取り仕切っていた鳳翔さんの手伝いをする為に、こっそりと料理を振る舞った事がありました。

そして、その手腕は鳳翔さんが感嘆の声をあげる程。

更に流行の物を取り入れた、当時の鎮守府では非常に珍しい味付けのオムライスだった為、おかわりを頼む艦娘が続出して、手伝いの筈が仕事を数倍に増やして共倒れする結果に終わりました。


その時の“チーズオムライス”は今でも人気のメニューですね。


しかし流石に提督も懲りたのか、それ以来は厨房に入ることは無く、残念に思う艦娘が多かったのです。


それだけに今回料理を振る舞うと言うことは反響も大きかったのか、提督の最初の素っ気ない態度もついぞ忘れて張り切る艦娘達が増えました。


主にあの人ですかね。


「一航戦はビーチパラソルの設置も完璧であると証明しましょう、加賀さん」


「私を巻き込まないで」


「提督は先程、“お昼に間に合わない”なる言葉を発していました。 それはつまり、この作業が素早く終わればお昼に間に合います、加賀さん!」


「名前を呼ばないで」


「さぁ行きましょう、加賀さん!」


「こっちに来ないで」


加賀さんは距離をとりますが、赤城さんは詰め寄りながらビーチパラソルを担ぎ、空いている砂浜に設置に向かいました。


最早名物となりつつある一航戦漫才です。


龍驤さんは苦笑いしながら2人を見送ると、言いました。


「最近赤城の顔見るだけで笑うやつおんねん」


赤城さんは一応、鎮守府のエースなのですけどね。

ただ逸話が多くて、MI作戦では通常の3倍の進撃速度を見せたのと、イメージカラーが赤なので、横須賀の佐々木提督から、某有名ロボットアニメから因んで“赤い彗星”なんて例えられていました。


ただ、その事を聞いた私達の提督は事情を知っているので


『赤い彗星のシェフ』


と小さく呟き、その呟きを拾った加賀さんが恨めしそうな瞳をしながら


『消費者ですよ』


と小声で返すと、提督は改めて


『赤い彗星の食』


と言いなおし、すると加賀さんは遠い目をしながら


『彗星なんて可愛いものじゃないわ、赤いブラックホールよ』


と小さく呟いたのをひと通り聞いていた利根さんが、お茶を盛大に吹き出したのを覚えています。

ブラックホールは光すら歪める程の引力ですから、加賀さんの健気な努力が全て赤城さんのインパクトに吸われている現状が何だかそっくりですね。


そんな面白い一航戦を見守る龍驤さんの横に、愛宕さんが立ちました。


「でも、張り切る気持ちも分かる気がしますわ」


「ん、そうやなぁ。 取り敢えず愛宕、隣に立たんでくれんか?」


「えっ、どうしてかしら?」


「ちょっとウチら、対称的過ぎんのやで……」


そのやり取りを見ていた私も、愛宕さんの水着には思わず二度見しましたね。

薄暗い水色の大人しい色合いのビキニですが、“小さな三角巾で大きなスイカを吊るしている”、そんな錯覚を覚えました。

あの水着は胸を包んでいるのではありません、吊るしているのです。

隣に立たれたら嫌でも意識してしまいます。


コレはぱんぱかぱーんですよ。


その凶悪な圧倒的質量を前に龍驤さんはそそくさと逃げ出して、瑞鶴さんの方へ向かいました。


「よ、よぉーし頑張ってセットしよか瑞鶴!」


「……なんでこっちきたの?」


「ま、まー気にすんなや」


「私、さっきのやり取り見てたんだけど?」


「瑞鶴、器くらい大きくせなあかんで!」


「な、何よっ⁉︎」


これには翔鶴さんも苦笑いです

翔鶴さんもそれなりにありますからね、この時ばかりは反応に困っていた事でしょう。


そうしてパラソルやチェアの設置は全員の協力を隔ててあっという間に終わりました。

艦娘だけで48人、提督も含めたら49と相当数の物量でしたが全員が手を合わせれば一瞬でしたね。


そこでやっと、ようやく、手の空いた提督が水着に興味を示したようでした。

提督は関心するように腕を組み、金剛さんの水着姿を見ながら言いました。


「へぇー……、最近の水着はお洒落だな。 似合っているじゃないか金剛」


「Really? 嬉しいデース!」


「肩紐が片方だけなんだな、初めて見るな」


「ワンショルダーってヤツデース!」


金剛さん、褌だったら褒めてもらえませんでしたね。

密かに榛名さんに感謝していたことでしょう。


続いて提督は近くにいた川内さん、那珂さん、神通さんを交互に眺め始めました。

川内さんは黒基調の水着で、那珂さん神通さんは鮮やかなオレンジ色ですが、種類は同じですね。


「肩紐が無いタイプもあるんだな」


「チューブトップの事?」


「ちゃんと名前あるんだな……。 個人的にその巻きスカートみたいな水着は結構いいと思う。 綺麗だと思うしな」


「えへへぇ、パレオって言うんだよぉ〜? 知らなかったの?」


「いやいや、男がそんな水着に詳しいと思うなよ? 俺は海パンで統一してるしな」


「提督のそれは、サーフパンツですよ」


「な、名前あったのかこれ⁉︎」


流石の提督も水着の種類には疎いようですね。

好評だったパレオを身に付けた艦娘は小さくガッツポーズしていました。

余談ですが、神通さんは那珂さんの入れ知恵ですね。

那珂さんと似た水着と言うだけでどんな背景があるか手に取るように分かります。


そして提督が水着の感想を述べ始めた途端、見て欲しい艦娘はさりげなく提督の視界に映るように移動を始めました。

観察に徹しているとその様子がハッキリと判りますね。


提督は駆逐艦に多く見られる種類の水着を見て、特に島風ちゃんを見ながら言いました。


「お前は水着になると逆に露出が減るんだな……」


「ちょっと⁉︎ それどう言う意味ですか⁉︎」


「ワンピースタイプってやつか? 活発なお前にはピッタリだな」


理由はとにかく、こうして提督が女性の身体をまじまじと見るのは初めての事では無いでしょうか?


だと言うのに、何でしょうかこの健全な空気は。


水着程度では刺激にすらならないとでも……?


愛宕さん高雄さんの吊るされたスイカの水着を前にしても一切動揺せず朗らかな笑顔で「セクシーだなぁ」なんて月並みな言葉で褒めていました。

その爽やかな笑顔からは下心が一切感じられないと言うか、精一杯お洒落した娘を贔屓目に褒めちぎる父親のような……。


提督は鳳翔さんや加賀さんの容姿を見ても“10代後半”なんて言いますからね。

恐らく、今の提督の心境は、大衆の保護者か、或いは修学旅行の担任気分でしょうか。


枯れている人間がこんなにも厄介だとは……。


そして鹿島さんの姿が見えないと思ったら、曙さんと一緒に人影に隠れてやり過ごそうとしていました。

水着に対して割と率直な感想を述べる提督に対して怖気付いたようですね。


「何やってるんですか、鹿島さん」


「だ、だってぇ……」


「それに曙さんも」


「な、何よ……」


鹿島さんはとにかく、曙さんは普通の水着なのですけどね。

私から見てもお洒落だと思います。


「そんな隅っこに居たら提督に気づいてもらえませんよ?」


「うぅ……」


「別に私はどうだっていいし……」


臆病風に吹かれたのと素直になれないコンビですか、少し厄介ですね。


私はどうにかして提督に見てもらおうと算段を練っていると、提督の方から私に尋ねて来ました。


「おーい、大淀、少し頼みたい事が」


「はい、何でしょうか?」


「昼まで少し抜けるからその間みんなを……、って、何やってんだその2人は」


提督は何か言いかけて私の背後に隠れる2人に気付いたようですね。

最初は訝しげな表情を浮かべていましたが、やがて何か察したように曙さんに言いました。


「大丈夫だ曙、ちゃんと似合っているぞ? いつもの花飾りもあってとても夏らしいじゃないか」


ああ、提督。

曙さんに対してそんな風に言うと逆効果ですよ。

瞬間、曙さんは赤面しながら牙を剥きました。


「う、うるさい! こっち見んなクソ提督〜っ‼︎」


その照れ隠しから出た言葉に、朝潮さんが反応しました。


「ちょっと! 司令官になんて汚い言葉を使うの⁉︎ 訂正しなさい!」


「うわっ、出た!」


「今日と言う今日は許さないんだから!」


「うっ、うるさいうるさーい! アンタしつこいのよ! こっち来んな‼︎」


朝潮さんが現れた瞬間、曙さんはその場から逃げ出しましたが、朝潮さんも追いかけ始めます。

ドタバタと慌ただしく駆け出した2人を眺めていた提督は、何処かやり切ったような表情でした。


「あいつら面白いよなぁ……」


提督は“クソ提督”と呼ばれる事を全く気にしていません。

それどころかクソ提督と呼ばれた事による連鎖反応を何処か楽しんでいるような節がありますね。


大体朝潮さんが現れますから。


そして提督が改めて向かい合うと、近くにいた鹿島さんが身体を手で隠すようにして蹲り始めました。


「み、見ないでぇ…… 、恥ずかしい……」


銀色の水着を隠して蹲る鹿島さんを見て、提督は呆れたように言いました。


「なんで見られて恥ずかしいような水着を着て来たんだ……」


ぐうの音も出ない正論が鹿島さんに突き刺さります。

提督は水着自体はとにかく、その水着を着て見せたくない程恥ずかしがる鹿島さんの事が気になっているようですね。


しかしなんでそんな水着着てるんですかね、サッパリですねぇ。


私が他人事のような視線を向けていると、鹿島さんは赤面しながらも恨めしい目付きで睨んできました。


すると提督は何時もの“仕方ないなぁ”と言う笑みを浮かべながら、軽トラの助手席からバックを取り出すと目の前で中身を漁り始めました。


「予備のシャツがある、濡らしても構わないから上から着けとけ」


「そ、そんなっ、悪いですよ」


「予備だから大丈夫だ。 新品じゃないけれど、ちゃんと洗濯してるからな」


提督は言いながら取り出した白いシャツを鹿島さんに差し出しました。

鹿島さんは躊躇いながらも、そのシャツを受け取ります。


「あ、ありがとうございます……」


「ふふん、そのシャツは良いシャツだぞ? 汗で濡れてもベタつかないし速乾性だから常にサラサラで、水に濡れても透けないんだ」


「そ、そうなんですか?」


提督特有の身の回りの物は“ちょっと良いものを買う”シリーズの1つですね。

鹿島さんに手渡したシャツは、ワンポイントのロゴだけ入った無地のシンプルなTシャツですが、歴としたブランド物です。


そして何処かで聞いたフレーズに、満遍の笑みで反応を示した艦娘がいました。


「透けないシャツはシャツじゃないのね!」


潜水艦のイクさんですね、ゴーヤさんとイムヤさんも一緒です。

そして“透けないシャツ”の下りは、イクさんと提督が初めて対面した時と一緒です。


その事に提督も気が付いたのか、何処か普段より暖かい笑みを浮かべていました。


「出たな、イク。 言っておくが、透けないシャツと言うのは糸密度を高めるとか様々な工夫から生み出された逸品なんだぞ?」


「でもロマンがないのね! 白シャツに透ける地肌にエロスを感じるのね!」


「普段着にそんなもん求めるな」


「提督は夢がないのね、可愛そうなの」


「こんな嬉しくない同情貰ったの初めてだよ」


イクさんは今日も普段通り絶好調ですね。

水着も普段のスクール水着のような衣装ではなく、鮮やかな青のフリルビキニです。

ゴーヤさんとイムヤさんも同じ意匠で、並んでとても乙女チックに纏まっていますね。

そんなゴーヤさんは提督に言いました。


「提督、手が空いたなら一緒に泳ぐでち!」


「ん、いや、そうしたいのも山々なんだが。 これから準備しないとお昼抜きになっちゃうんだよな」


「ぐぬ……、お昼ご飯が人質なら仕方ないでっち……」


「悪いな」


「その代わり、美味しいご飯を約束するでち!」


「なんならイクも手伝うのね!」

「イムヤも頑張るよっ!」


「いやいや、若さ迸る麗しい美女達相手におっさんが格好つけてるんだ、手伝いなんていらないさ」


提督がそう言うと、ゴーヤさんはおかしげに笑いました。


「ゴーヤから見ても、提督はまだまだ若いでちよ? お兄さんでっち!」


「お、おぉ……? 嬉しい事言ってくれるじゃないの! よぉーし、お兄さん張り切っちゃう!」


提督はそう言って調子良さげに腕をぐるぐると回して肩をほぐし始めました。


実際、提督は30代ですが、まだまだ20代でも通用すると思いますね。

無精髭さえなんとかなればもっとお若く見えるはずなのですが、勿体無いですね。


そして提督は、そのまま私の方へ振り向きます。


「そんな訳だから大淀、準備があるから俺は少し外すけど、もし何かあったらすぐに伝えてくれ」


「はい、わかりました。 ところで何をお作りに……?」


「すぐにわかるさ。 では、頼んだぞ」


そう言って提督は宿舎の方へと戻って行きました。

頼まれたからにはちゃんとやらなければなりませんね……。


「提督はこんな時でも多忙のようですし、サンオイル作戦は頓挫ですかね……、鹿島さん」


私が言いながら鹿島さんの方へと振り向くと、鹿島さんはシャツの匂いを夢中になって嗅いでいました。


何やってんですかね。


「あの、鹿島さん?」


「はっ⁉︎」


「良い趣味してますね」


「い、いや! 違うんですこれは! 私達が普段使っている洗剤の香りと違うなって……!」


「そりゃあ提督はご自分で洗濯していますから当然ですよ。 そう言うのは人目につかない場所でやってください!」


「違うんですってばぁ!」


鹿島さんも来るところまで来たような気がします。


余談ですが、夕立ちゃんも甘えるついでに提督の匂いを直でよく嗅いでいます。

犬猫は主人の匂いを覚えてから好きになっていくようですし、それに近いものがあるのかも知れませんね。


それと提督本人の名誉のために言っておくと、匂う程体臭がすると言うわけではありませんね。

嗅ごうとしなければわからない程で、提督は提督なりに女性職場であるエチケットを守り、清潔面に気を使っているようですね。

なので夏場は薄っすらとメントール系の制汗剤の匂いがします。


男性はスースーするメントール系を好みますね、私にはよくわかりませんが。


それから少しすると、艦娘達は思い思いに海を満喫し始めました。

泳ぎ始める者、海岸で海の生き物や貝殻を見つけるもの、ビーチチェアのリクライニングでくつろぐ者、本当に人それぞれですね。


私は提督にアクションを引き起こす機会を根こそぎ失われてしまったので、ビーチチェアに座りながら海岸を眺めていました。


サンオイル作戦、スイカ割り目隠し誘導ドッキリ作戦、人工呼吸作戦などなど……。


不謹慎ですがアニメやマンガでは定番と言えば定番の人工呼吸作戦は、恐らく提督には通用しないので元からお蔵入りでしたけどね。

そこまで鹿島さんを誘導できそうに無いのもありますが、提督は死戦期呼吸と言う心肺停止状態を見極められる程らしいですし、仮に演技をしようものなら一瞬で看破されるでしょう。

“らしい”と言うのは、提督が海に出る前に座学で『AEDと人工呼吸、胸骨圧迫による心肺蘇生法』の講習を開いて、その時に聞いたものなので実際に現場を見たわけでは無いからです。

急だったので全員に教える事は叶わないと判断したのか、提督は一部の艦娘にだけ講習を開きました。


その時にはもう、お蔵入り確定してましたね。


アニメやマンガでは主人公が躊躇いなくヒロインと口に行きますが、提督なら先ず指を喉奥まで突っ込むのでしょうね。


意識があったら大惨事です。


そんな事を考えていると、私の目の前の海岸で龍驤さんが瑞鶴さんに埋められていました。


あれは、砂風呂ですかね?


ひと通り砂を盛り終わった瑞鶴さんが龍驤さんに話しかけています。


「こんな感じかな?」


「ええ感じや! あぁ〜……、たしかに砂で蒸される感じするわぁ」


「こんなので本当にお肌ツルツルになるのかなぁ」


「いや、これは“砂に埋まった”感を楽しむ方面がでかいと思うで。 なんやろなぁ……大地と一体化した気分や……」


「……胸も大地のように平らだしね。 私も埋まろうかな」


「……ははっ」


そう言って2人して落ち込み始めました。

もうちょっとマトモに海を楽しみませんか?


そんな2人に卯月ちゃんが得意げな表情で駆け寄りました。

あの顔は何かやらかす顔ですね。


「うーちゃんが盛り上げてあげるっぴょん!」


「な、なんやぁ⁉︎」


そう言って卯月ちゃんは龍驤さんの砂風呂の胸の部分に山を2つ作り始めました。


お椀の様な山です。


卯月ちゃんが自分の上で何を作っているのか理解した龍驤さんは叫びました。


「やめーやぁぁぁぁ! 余計惨めになるやんけ! 砂で胸を盛るなアホー!」


「うっうー! これで龍驤さんも愛宕さんに負けてないっぴょん♪」


ヤケクソ気味に盛られた山2つを前に、龍驤さんの瞳からホロリと涙が溢れました。

その様子を見ていた瑞鶴さんは大笑いしています。


「あはははっ! 龍驤さん超巨乳じゃん!」


「わ、笑うなぁぁぁーーッ‼︎ ちくしょう、ウチが何したって言うねん‼︎ なんやねんこの仕打ちはー!」


「ぷっぷくぷぅー!」


「やかましいわ! 卯月お前しばくぞ!」


卯月ちゃんはそのまま駆け足で逃げ出して行きました。

体重計の事で散々怒られても懲りずにイタズラを続けている様です。


その近くを通りかかった吹雪さんを瑞鶴さんが呼び止め始めました。


「吹雪ちゃん、見て見て龍驤さんが爆乳になってる!」

「おい、人を呼ぶなや瑞鶴! お前もしばくぞぉぉぉ⁉︎」


「はい?」


呼び止められた吹雪さんは、龍驤さんの山2つを見るなり顎に手をあて何か考え始めました。

吹雪さんは真顔のまま無言だったので、龍驤さんが訝しい表情に変わります。


「……なんか言えや」


この時、龍驤さんは嫌な予感がしていたのか、若干顔が引き攣り始めていました。

吹雪さんは無言のまま、足元の砂に手を付けて指先で擦り具合を確かめ、今度は波際の濡れた砂に触れてその具合を確かめると、黙ったまま頷いて龍驤さんの前へと戻ってきました。


そして海水を組んだバケツとヘラを何処らか取り出して龍驤さんに盛られた砂の改造を始めました。


「おまっ、何する気や吹雪っ⁉︎」


「……いいから」


「よくないっちゅーねん‼︎ なに職人オーラ出してんねん⁉︎ あとそのヘラなんやねん、何種類あんねん、つか海になに持ってきてんのや⁉︎ なんか彫刻する気マンマンやんけ!」


「……」


「だから黙んなやぁーーッ‼︎ せめてなんか言えや! 怖いわ!」


「……」


「……だ、誰かぁぁぁぁ! ここに変な娘おるでーーッ‼︎ はよ止めてくれんと龍驤さんが大変なことになるよーッ⁉︎ 助けてぇぇ!」


延々と龍驤さんは喚いていましたが、吹雪さんが次の言葉を発したのは30分後の事でした。


「出来ました!」


龍驤さんの首から下が、グラビアアイドル並みのプロポーションに変わっていましたね。

スラッとした長い足に、綺麗な曲線を描く悩ましいクビレ、重力に逆らう様に主張するたわわな胸、それらが全て精密に砂で再現されていました。


合成写真のような出来です。


ずっと隣で見ていた瑞鶴さんは素直に感嘆の声を漏らしていましたね。

しかし龍驤さんは心底打ちのめされた様子で投げやりな表情をしていました。



「笑えや……、いっそ笑えやぁぁぁぁぁぁッ‼︎」



「……あは、あはは……」


「なに笑とんねん⁉︎ 次はお前が埋まる番やで瑞鶴ぅぅ‼︎」


「なにそれ酷い⁉︎」


グラビアボディから小さな本体が飛び出したかと思えば、瑞鶴さんを拘束し始め、大いに騒ぎ始めました。

何だかんだ全力で海を満喫しているようですね。


それから暫くすると、提督が軽トラで砂浜に戻ってきて、荷台からドラム缶を縦に真っ二つにしたような形状のモノを幾つも降ろし始めました。


あれはバーベキューコンロですね。


この時点で殆どの艦娘が提督がなにを振る舞うのか察しがついたのでしょう。

『すぐにわかる』と言っていたのも納得です。


しかし約50人分、コンロの数も7台と多いですし、本当に1人で大丈夫なのでしょうか?


鳳翔さんと間宮さんが提督の様子を見てソワソワとし始めましたが、提督は流れるように並べたコンロに木炭と着火剤を投入して火をつけ始めました。

そして1台のコンロの上には大きな鉄板を乗せて火で温め始めます。


火を付けると一旦軽トラで宿舎に戻りますが、すぐに荷物を積んで戻って来て、今度は椅子と一体型の折り畳みテーブルを次々と広げていきます。

テーブルは6人掛けで折り畳みでもそこそこの大きさと重量の筈なのですが、素早い手際であっという間に8台並べ終えていました。


そして、その間に熱された鉄板の具合を確かめ、油を広げるといよいよ調理を始めました。


あれは焼きそばですね。


そして焼きそばを作りながらも頃合いを見て、他のコンロの上に串刺しにした肉ブロックやトウモロコシなどを次々と並べていきます。


沢山の白い煙と、肉の焼ける香ばしい香りにつられて海に出ていた艦娘も戻って来たようですね。 いつのまにか沢山の注目を集めています。


その中で赤城さんが涎を垂らしながら言いました。


「7台の大型コンロでも効率を落とさない……。 元支援部隊なだけあって、炊き出しの技術などが活かされているのでしょう……! 流石です!」


加賀さんは諦めたような顔をして何も言いませんでしたが、蒼龍さんは素直に目を丸くしていました。


「て、提督って何者……? 元支援部隊って……?」


蒼龍さんは本当に何も知らない状態ですからね。

そしてその蒼龍さんの質問に、翔鶴さんが答えました。


「何でもやろうと頑張っちゃう人、ですかね? 貴女もきっとすぐにわかりますよ」


「とにかく、もしかしなくても凄い人?」


「ええ、きっと驚くと思いますよ?」


「へ、へぇ〜……!」


早くも蒼龍さんが提督に関心を示し始めたようですね。


壮絶でしたからね、提督がここに来るまでと、ここに来てから少しの間も。


そんな提督は額に汗を浮かべながらも調理を続けていますが、不思議と大変そうには見えませんでした。

忙しく動いているわけでは無く、余裕があるのか丁寧に調理を行なって、今は焼きそばに集中しているようですね。


そして、周りを見る余裕もあるようです。


提督はソワソワと落ち着かない鳳翔さんと間宮さんをひと目見ると、言いました。


「鳳翔さん間宮さん、串焼きがそろそろ火が通るから取り分けてくれないか?」


「は、はい!」

「わかりました!」


2人は嬉しそうに指示に従い始めます。

鎮守府の調理担当として、ここで何もしない訳には行きませんもんね。


そして提督は全体に届くように声を張りました。


「焼けたのは食べ始めていいぞー! 飲み物は纏めて氷水に漬けて冷やしてあるから好きなの持って行っていいぞ! そして牛肉は30キロある! 頑張れよお前らーッ‼︎」


そのひと言を合図に艦娘達は返事をしてコンロを囲み始めます。


砂浜でバーベキューです。

とても贅沢な時間でしょう。


取り分けられた串焼きを紙皿に並べて、それぞれのテーブルに着いて行きます。


それにしても30キロって多過ぎやしませんか?

1人600グラム以上の計算になるのですが?

やはり提督は艦娘を太らせる気じゃ……。


しかし、目の前で油の滴る焼けた牛肉を見てしまうと食べざるを得ないのでした。

焼けたお肉の匂いが自制を許しません。


スパイスの効いた濃いめの味付け、お肉の厚みもあって食べ応えのある串焼きで、私は口に含むと思わず感想を漏らしてしまいました。


「や、柔らかくてすごく美味しいぃ……」


すると、隣で一緒に食べていた鹿島さんがウンウンと頷きました。


「大淀さん、提案なのですが……」


「何でしょう?」


「今日だけはカロリーと言う言葉を忘れましょう」


「……そうですね!」


こう言うのは割り切る事が大事なのです。


そして私がもうひと口お肉を頬張っていると、龍驤さんがやってきて飲み物を目の前のテーブルに置きました。


「カラッカラに晴れてる日やからなぁ……、ビールが美味いでぇ……?」


「こ、これは……」


置かれたのは瓶ビールとグラスです。

龍驤さんは香取さんのグラスにビールを注ぎ始めています。

そして何も言っていないのに、鹿島さんは私のグラスに注ぎ始めました。


「ど、どうぞ……」


「ありがとうございます……。 では鹿島さんもどうぞ」


「ありがとうございます」


注がれたなら仕方ありませんね。

私は鹿島さんのグラスも黄金で満たすと、自分のグラスを持ってひと思いに喉に流し込み始めました。


白昼の砂浜で堂々と飲むビールは殺人的なものです。

濃いめの味付けのお肉とは凶悪な組み合わせ。


「あぁ〜……、なんかもうどうでもいい〜……、幸せ……」


「あはは、今日くらいは許されますって」


「ですよねー!」


まさに至福のひと時です。

持ち込んだプランも悉く頓挫されてますし、もうヤケですよ。

そして私は思わす愚痴をこぼしてしまいました。


「はぁ〜……、艦娘がヒトに対して好意を抱くなんて、どうすれば正解なんですかねぇ」


「それは……、どうすれば良いんでしょうかね……」


「前例も無いような気がしますしねぇ……」


私は提督から好意を寄せて頂くべく色々根回ししたりした事もありましたが、正直に言えばどうなって欲しいのかも、どんな形に収まるのかもまだよく分かっていません。


艦娘は沢山、提督は1人。


ままなりませんよ、これは。

そして艦娘と人の差も拭い切れませんしね。


ふと提督の方へ視線を投げると、提督は焼きそばをお皿に盛り付けて、夕立さんに手渡していました。


「焼きそばなのに白いっぽい?」


「塩やきそばって奴だな。 人によっちゃこっちの方が好きってタイプも多いらしいぞ?」


「こ、これは確かに美味しいっぽい!」


「こらこら立ち食いするなって、テーブルに座って食べなさい」


「ぽーい!」


塩やきそば、ですか。

お肉も濃いめのスパイスですし、焼きもろこしも醤油の味付け、今日は塩分過剰摂取な日になりそうですね。


更に見渡せば、殆どの人達がお肉や料理に舌鼓を打って満足そうな笑みを浮かべています。


お肉の魔力、恐るべしと言うか、50人近くいても不足なく仕立ててしまう提督の奉仕スキル半端ないと言いますか。


そんな提督はまだまだ隠し球を持ち合わせているようです。


30キロもあったお肉も少なくなってきた頃、提督は空いたコンロの上にもう1枚鉄板を乗せて温めると、トロリとした肌色の生地を流し込み薄く伸ばし始めました。


とても甘い匂いが漂って来ます。

恐らくクレープ生地を作っていますね。


そして、いつの間にかカキ氷器まで用意されていますし、早くもデザートの準備でしょうか。


私は浮かんできた感想を鹿島さんに呟きました。


「提督ってとんでもなく尽くすタイプですよね」


「……ダメ艦娘になってしまいそうです」


「もう大半がなってますよ……」


私も白昼堂々、お肉をビールで流し込んでますしね。

ただ、まだお昼なのであまり酔わないようにセーブしていますが、満足度はかなり高いですね。

それだけに留まらず、沢山食べたと言うのに漂ってくる甘い香りが先程から鼻先を刺激してなりません。


まだお肉が残っているのに、甘いもの好きな叢雲さんは食べるのを躊躇い始めていました。


「こ、ここでセーブしておかないと……」


「ん……、現実はコンテニュー出来ない……」


「そのセーブじゃないわよ! 胃袋に空きが無いとクレープ入らないでしょ!」


「叢雲って……、食べ物の前にだけ素直になったよね……」


「るっさい!」


甘味の魔力、恐るべし。

そしてクレープの前に、アイスを浮かべた飲み物が鳳翔さん間宮さんの手により配られ始めました。


「コーラ、メロン、コーヒーのフロートですよ〜、お好きなのどうぞ」


「すごく冷えてますよ〜!」


そこまで用意していましたか……。

もういろんな意味でダメ艦娘製造機ですね。


鹿島さんもフロートに反応していました。


「メロンフロート美味しそう……」


「こんな贅沢許されるんでしょうか……。 一応、戦争中ですよね?」


「そうかも知れませんが、出されたら仕方ないですって! 取って来ましょう大淀さん!」


「そうですね、仕方ないですね。 行きましょう!」


もうどうにでもなれって感じです。

こんな破壊力の高い物を次々と用意する提督がいけないのです。

ちゃっかり冷蔵車まで砂浜に運び込んでいますし、何処から借りて来たんですかねアレ。






手にしたもの

大淀side






お肉ばかりのお昼を終えて、それぞれ食休みする艦娘が増える中、私もリクライニングチェアに腰を深く落としてひと息ついています。


強い日差しを遮るビーチパラソルの下で、白い泡を作る波を眺めながらゆっくりと過ごす午後はとても長閑ですね。


戦いが嘘のように感じられます。


それでも少しばかり視界を横に向けると、ちょっと異常な光景が広がっている訳ですが。


あろう事か龍田さんにイタズラをした卯月ちゃんが処刑されていますね。

何でも、天龍さんと一緒に肌を焼いていた龍田さんの背中に、日焼け止めクリームで“特盛”と落書きをしたそうです。


「やぁぁぁぁ⁉︎ 辞めるっぴょん! やり過ぎだっぴょん‼︎」


「あらあら〜? やり過ぎたのは何方かしらぁ〜? 変な事言うと沈めるわよぉ〜?」


「もう沈む余地が無いくらい沈んでるぴょん!」


卯月ちゃんは首から下を全て砂浜に埋められて頭だけ出しています。

そして目の前で振り子のように揺れるスレッジハンマーの頭を目で追いかけて酷く怯えていますね。

龍田さんは相当ご立腹なのか笑顔が消えています。


「スイカ割りとゴルフ、どっちが良いかしら〜?」


「うやぁぁぁぁぁーー! 謝る、謝るから勘弁して欲しいっぴょん‼︎」


スレッジハンマーは本来、その大きさと重量を活かして壁などを破壊する為に使われたりするもので、そんな物を人体に当てたらどうなるんでしょうね。


まぁ流石に本気で当てるはずは無いですし、卯月ちゃんも懲りるかも知れませんし、見なかった事にしましょう。


それにしても、卯月ちゃんのイタズラの対象が徐々に怒らせると怖そうな人に向かっていますね。

スリルを求めての事なのか、とんだ愉快犯になりつつあります。


そして視界の端では、実は今日ずっとテンションがやたらと高い艦娘がいます。

ちょっと余りにも酷いのであまり視界に入れたくは無いのですが、こうして落ち着いた空気になれば嫌でも目に入りますね。

先程からずっと騒がしいです。


「はぁぁぁぁん! 北上さん素敵ぃぃぃ!」


「あははー……」


「その愛想笑いだけでもご飯10杯いけますぅぅ!」


北上さんの水着に興奮する大井さんですね。

いつもは軽く流している北上さんも今日ばかりは鬱陶しそうです。


「お、大井っちも少しは海を楽しみなよ〜」


「これ以上無いくらい楽しんでます‼︎ ちょ、ちょっとその太腿触って良いですか⁉︎ 良いですよね!」


「も〜、やめてよぉ〜」


完全なセクハラ親父と化した大井さんは誰にも止められないのでしょう。

中でも利根さんが哀しい物を見る目で眺めながら言いました。


「女もああなったらお終いじゃな……」


確かに色々な物を失っていますね、大井さんは。


主に理性とか。


大井さんは着任当初から北上さんにご執心で、当時、まだ北上さんが着任していないと知ってからしつこく建造を催促していました。

余りにも騒がしい上にしつこかったので提督も折れて、そして建造で北上さんを招く事が叶い、これで大井さんも大人しくなると思われましたが別にそんな事はありませんでした。


ご覧の有様です。


大井さんは水着に着替えた北上さんの一挙一動に興奮して止まないようで、逐一実況しながら叫んでいます。


「んぁぁぁぁ! コーラフロートのアイス食べる北上さん素敵ぃぃぃ! んん、アイスになりたい! 私もアイスになって食べられたぃぃぃ!」


私には普通にアイスを食べているようにしか見えませんが、大井さんには官能的に見えるのかも知れませんね。

北上さんは北上さんで、一生懸命無視しようとしているようです。


「……コーラフロートもいいけど、ソーダ味とかも良さそうだよねぇ〜……、ちょっと提督に出来ないか聞いてみようかなぁ」


そう言って興奮する大井さんを横目に席を立とうとしていました。

無視するだけでなく離れようとしているようにも見えますね。


しかし大井さんは制止します。


「ダメです‼︎ 北上さんの神にも等しい水着ボディーを男の視界に晒したら何されるか判りませんよ⁉︎」


「て、提督は大丈夫でしょ……」


「いいえ! 油断大敵です!」


「私的にはさぁ、この状況の方が危ないと思うんだけど?」


「な、何ですって⁉︎ 北上さんが危ない⁉︎ 何処ですか、私の北上さんに危害を加えようとする輩は⁉︎」


大井さんは殺意剥き出しで辺りを頻りに見回して警戒し始めます。

先程まで舐めるように北上さんの水着姿を見て鼻の下を伸ばしていたのですが、一応引き締まりました。


多分ですが、大井さんに対して北上さんが身の危険を感じ始めているのでは?

大井さんは気付いていないようでした。


ですが、北上さんはいつもの口調でストレートに気持ちを伝えるようです。


「大井っちさぁ……」


「はい! 何でしょう⁉︎」


「ウザい」


瞬間、大井さんは真っ白な塩の柱へと変わり崩れ落ちました。


余程ショックだったのでしょうか、崩れ落ちた大井さんは砂浜と一体化して再起不能な有様です。

北上さんはそんな大井さんを気にも留めない様子で、コーラフロートのアイスをスプーンで掬って食べていました。


利根さんだけが、酷く痛いものを見るような表情で呟きました。


「哀れじゃ……」


哀れですね。

朝から延々とセクハラ発言を繰り返していたらこうなる事は分かっていたでしょうに。


そのセクハラ現場を目撃していた艦娘達は、崩れ落ちた大井さんを見ても誰一人声をかけようとはしませんでした。


本当に哀れです。


私が、恐らく利根さんと同じ顔をしながら大井さんの残骸を眺めていると、鹿島さんがフルーツを使った綺麗な盛り付けがされたグラスを待ってきました。


「大淀さん、トロピカルカクテルですって♪」


「カクテルですか……?」


「はい♪ 提督さんが作ってますよ!」


私は鹿島さんの持ってきた、メロンが盛り付けされた綺麗な水色のお酒、ブルーハワイを見た後に、提督が調理を行なっている屋台の方へ振り向くと、そこでは提督が頻りに携帯を見ながらグラスに様々な原料を注いでいました。

慣れてないのか、ぎこちない不馴れな手つきで、独り言を零しています。


「後は……オレンジと……、レモンで……、スコーピオン、か……? これで出来てるかな」


普段お酒を飲まない提督は、当然お酒には疎いのですが、この機会で振る舞うために勉強して来ていたようです。


尽くすタイプの人は、例外なく努力を惜しまないのでしょう。

やり過ぎだとは思いますが……。


その横で作業の様子を見ながら、鳳翔さんがメモを取って間宮さんがカメラで提督の手元を撮影していますね。


「ブランデー、ラム酒、オレンジ、レモン、ライム……」


「度数は高そうです」


提督が携帯で調べながら調合する様子を鳳翔さんがメモすると言う、不思議な光景が出来上がっています。

流石の提督もやりにくいのでしょうか、真剣にカメラを回す間宮さんをひと目見ると、苦笑いしながら言いました。


「教えるから、一緒に作ろう」


「は、はい!」

「す……すいません……」


食に対して何でも出来るようになりたい鳳翔さんと間宮さんです、こうなるのも判っていた気がします。

そして今度は3人並んでグラスに向かい始めました。


なんだかホッコリしますね。


私は鹿島さんが持って来てくれたブルーハワイを受け取りながら言いました。


「ありがとうございます、至れり尽くせりですね」


「本当ですね。でも鳳翔さんは何だかいつも通りですね、赤城さんとは違う意味で、こんな時でも食に関してとても熱心です」


「まぁ……そのお陰でずっと提督の隣ですけどね……」


「それは……まぁ」


ブルーハワイは爽やかなミントの香りがしてスッキリとした口当たりで飲みやすい物でした。

ただ、こちらはノンアルコールですね、まだ泳ぎたい艦娘に配慮しての事でしょう。


余談ですが、海水浴に来ても今まで通りの艦娘も結構多い気がします。


第六駆の皆さんは泳ぐ事も忘れて海岸で貝殻とシーグラスを探しています。

因みにシーグラスは無いところでは全く見つからない蒐集品ですが、本人達はあまり気にしていないのでしょう。

日常でも定期的に海岸で拾い集めているそうです。


夕立さんは何が面白いのか、波に押されて揺さぶられているだけで大笑いしています。

開放的な気分でとにかく何でも楽しく感じてしまうのでしょう。

その傍で、浮き輪で浮かびながら静かに寛いでいるのが時雨さんですね。


吹雪さんは砂浜でお城を作って、天龍さんがアレコレ野次を飛ばしています。


「スッゲーなこれ! モデルとかあるのか?」


「特に無いですよ、なんとなーく和風なお城を再現しています!」


「マジかよ⁉︎ それにしちゃ立派じゃねーか、オレもこんな城に住んでみてぇなぁ!」


その“なんとなく”で、積み上がった石垣の模様まで砂で再現してしまう吹雪さんの彫刻技術は如何程に。


艦娘は個性的な方達が多いのですが、提督の元で趣味を得た艦娘は特に活き活きとしています。

私は全ての艦娘の趣味までは判りませんが、最近わかった事を挙げるとすれば、不知火さんが映画鑑賞にお熱なようです。


執務室にシアターテレビを設置したのも不知火さんで、お陰で全く関係ない川内さんがアクション映画に触発されてフラストレーションが加速しました。

名前の通り変な所に着火材を仕込む事に定評がある不知火さんです。


そうして燻し銀が輝くように頭角を現し始める個性は、元々個性的な艦娘の影が薄れる程です。


その個性にやられて薄れそうな那珂さんが提督に絡みに行った様ですね。

那珂さんが目の前に現れただけで、既に提督の表情には不安が現れ始めています。

そんな提督に構わず、那珂さんは歌い始めました。



「那珂ちゃんはね♪ アイドルなんだよ本当だよ♪」



有名な童謡の「サッちゃん」のよくある替え歌ですが、既に不穏です。

提督が沈黙を貫いて見守る中で、那珂さんは続けました。



「だけど それだけだと 周りが濃すぎて 目立たない〜♪」


「……」


「悲しいねっ! 那珂ちゃん♪」



那珂さんは両人差し指を頬に当てて可愛くポーズを決めました。

とんだ自虐ネタに鳳翔さん間宮さんも思わず苦笑いです。


提督は静かに言いました。


「十分目立ってるだろ……。 なんだよこの空気…」


「ううん、こんなんじゃダメ! 負けちゃう!」


「お前は俺にどうして欲しいんだ……」


「提督はそこで見てるだけでいいよぉ! いっくよぉ〜♪」


那珂さんは言いながらパレオ越しにビキニパンツに指を掛けました。

そして「見とけよぉ〜?」と気合を入れ始めた瞬間、提督が叫びます。


「おい神通‼︎ 那珂を抑えろぉぉぉ‼︎」


那珂さんが脱衣しようとした瞬間、素早く駆け寄った神通さんが全力でパレオを抑えて阻止します。


「那珂ちゃん! な、何をしているんですか⁉︎」


「離して‼︎ これ以上目立たなくなるくらいなら、いっそ桃肌晒してトップに立ってやるんだから‼︎」


「こんな形で目立たないで下さい‼︎ 恥をかくのは那珂ちゃんだけじゃ無いんですよ⁉︎」


提督が額を抑えて空を仰ぐ側で、とても酷い攻防戦が繰り広げられています。

すると待ってましたと言わんばかりに白雪さんが参戦しました。


「流石那珂さんです! 誰もやらない様なことを躊躇いなく実行する勇気、尊敬します!」


「お前は那珂を煽るな‼︎ おいっ、誰か⁉︎ 那珂を止めてくれ!」


猛烈に抵抗する那珂さんは神通さん1人では厳しい相手のようです。

鳳翔さん、間宮さんは作業中で、提督は辺りを頻りに見回して常識人を探していました。

そして割りと近くのテーブルで項垂れる大井さんを見つけたようです。


「お、大井! ちょっと那珂を止めてくれ! わりと本気で艦娘の沽券に関わるぞ⁉︎」


「ケッ……、みんな死ねばいいのに」


「お前は何があった⁉︎」


大井さんの余りにもやさぐれた返事に戸惑いながらも、提督は神通さんに言います。


「もうアレだ、手刀しろ‼︎」


遂に提督が艦娘に武力行使を指示するようになったようです。

ですがこの事態を目の当たりにすれば誰も咎めないでしょう。

神通さんは思い切り鋭い手刀を那珂さんに打ち込みました。


「はっ‼︎」


「ぎゃ!」


事態は収束したようです。

神通さんは周りに何度も頭を下げた後、気を失った那珂さんを引き摺って退散して行きました。

彼女も歴としたエースの筈なのですが、今は跡形もありませんね。

砂浜に線を描きながら引き摺られていく那珂さんを見ながら、提督は言いました。


「どうしてこうなった……、俺は何か間違っていたのか……?」


自らを問い質す言葉に、鳳翔さんが答えます。


「いいえ、ただ単に那珂さんが暴走気味なだけかと……。 それに本気で脱ぐつもりも無かったと思いますよ、そう言う前振りと言うだけで……」


「そもそも那珂の言うアイドルって何だ? もうお笑い芸人にしか見えないんだが」


「えぇと……私はそういうの疎くて……」


「うーむ……」


海外生活が多かった提督は、日本の芸能人にも疎いくらいですし、そう言った業界には詳しくなくて、那珂さんにどうレクチャーすれば良いか判らないようでした。


そして今はその事よりも、目の前の問題に着手するつもりのようですね。

カクテルを作り終えた提督は、大井さんの項垂れるテーブルまで行くと、対面の椅子に腰を落とします。

そして目の前に座っても落ち込んだままの大井さんに、提督は話し掛けます。


「それで、何があったんだ?」


「……放っておいてください……」


「そう言う訳にも行かないんだよ、どうせ北上だろう?」


「何故わかったんですか」


「寧ろそれ以外で凹んでたらビビるわ」


提督は中々に酷い言い草ですが、大井さんはあまり気にしていない風です。


「北上さんに嫌われてしまった……、もう夢も希望もありません……」


「何でまたそんな」


「ウザいって……」


「ああ、大丈夫だろ」


提督がそう言って軽く受け止めると、大井さんは少し眉を顰めます。


「何故そう言い切れるんですか?」


「北上は駆逐艦によく“ウザい〜”とか言うけど、結構面倒見良いんだよな。 不知火を執務室に呼んだのも北上らしいし、良く映画を一緒に見てるし」


「で、でも……」


「正直言うと一部始終見ていたからな。 ちょっとやり過ぎただけだ、少し時間を置いたら一緒に謝りに行こう、な?」


「だ、大丈夫です、1人で平気ですよ!」


大井さんの言葉に、提督は微笑を浮かべながら話題を変え始めました。


「そうそう、俺も最近北上の良い所に気が付いて来たんだよ」


「はい……? 何ですか宣戦布告ですか?」


「違う違う」


「まぁ提督風情が北上さんの魅力をちゃんと理解出来ているとは思えませんが……」


「あいつ凄く猫好きだろ、テレビに映ると必ず釘付けにされてるし。 一見普段通りだけど、その時だけ目の輝きが違うんだよなぁ」


「それ凄くわかります‼︎」


素っ気ない態度だった大井さんが一瞬で食いつきましたね。


提督が大井さんと同じ話題を振りかけるには、北上さんの事が1番の近道だった為か、2人して北上さんの良い所を言い合っていました。


「北上さんは猫のよく分からない行動がとても好きなようです。 突然走り出したりとか、明後日の方向ずっと眺めてたりとか、その様子を見るのが好きなんです」


「へぇ〜、可愛い所あるのな」


「でしょう、そうでしょう⁉︎ アンタが私の子猫ちゃんだよ、って感じですよね⁉︎」


「えっ、いやそれは……」


早くも提督が反応に困り始めました。

大井さんは構わず熱弁を振るい始めます。


「そして最近、私は北上さんのある事に気付いてしまったんです」


「ある事?」


「北上さんは雷撃が得意ですよね?」


「そうだな、あの魚雷攻撃は圧巻だ」


「そして北上さんの“上”と言う文字。 これは上位の者を意味する文字でもあるそうです」


「確かに、昔からよく使われる言葉だ」


「上位者で……雷撃が得意……、つまり北上さんは天空神ゼウスの生まれ変わりでは⁉︎」


「んんー?」


提督は物凄く反応に困り始めました。


ギリシャ神話、天空神ゼウス。

全知全能の最高神であり、雷を自在に操り、その威力は全宇宙を焼き払う程らしいです。


余りにも話が飛躍した為、提督は若干表情を引攣らせながら言いました。


「天空神ゼウスってお前……」


「前から北上さんの凡ゆる破壊力は神懸かりだと思っていましたから、納得ですよね?」


「いや、そうじゃなくて」


「寝起きの北上さんの微睡んだ表情……、その破壊力があれば宇宙程度簡単に焼き払えますね」


「寝起きの度に宇宙滅んでると言いたいのか」


「北上さんなら可能ですね! その圧倒的可愛さだけで! まさに神の所業ッ‼︎」


熱弁を振るい始める大井さんに提督が押され始めました。

そしてその騒がしさに、少し離れた場所のビーチチェアで1人涼んでいた北上さんも気が付いたようです。

その騒ぎの渦中に自分の名前が頻繁に出て来ていると知って物凄く複雑な顔をしています。


そんな北上さんに気付かず大井さんは熱を振りまいています。


「改二で実装されたおヘソとかもうヤバイですよね、提督もそう思いませんか?」


「ヘソはみんなあるだろ。 なんだ実装って、前まで北上が爬虫類だったと言いたいのか?」


「違います、変な事言うと魚雷ぶつけますよ?」


「それとアレだ、仮に北上がゼウスの生まれ変わりだとしたら、ゼウスは沢山の妻と愛人を抱えているし娘にも手を付けたとか何とか、結構ドロ沼だぞ?」


「は?」


大井さんの表情が一転し、影が差しました。



「ちょっと天空神ぶっ殺して来ます」



そう言って殺気を撒き散らしながら席を立ち始め、提督が制止します。


「落ち着け、神話だし架空の存在だぞ!」


「焚書します」


「やめろ!」


北上さんが関わると大井さんは凡ゆる常識を置き去りにするようですね。

ただ今回はどうしても看過出来なくなった張本人がやって来たようです。


「お、大井っち〜……、ちょっと向こうで話そっか?」


「き、北上さん⁉︎ こんな私に話し掛けてくれるなんて!」


「うん、いいから。 向こうで話そ?」


「あんな人目につかない所でお話を⁉︎ い、良いんですか⁉︎」


「あははー」


北上さんは口では笑っていますが目は笑ってませんね。

そうして大井さんの手を引いて岩陰へと歩いて行きました。 多分折檻でしょうか。


その顛末を見届けていた提督は1人呟きます。


「紀元前から伝わる英雄の物語は守られたか……」


解決したのか甚だ疑問ですが、少なくとも2人に話し合う機会が得られたのは良い事だとは思いますね。

その様子を一緒になって眺めていた鹿島さんが言いました。


「提督さん……あんな調子で疲れないんですかね……」


「レ、レンジャー資格ありますから、ある程度逆境に強いんですよ……」


「私が癒してあげないと!」


「鹿島さん、提督に追い打ちですか?」


「そ、そんな酷いですぅ!」


提督が猛抵抗するの目に見えてますからね。

ただ朝からずっと動きっぱなしの提督はまだまだ体力を振るうようです。


カキ氷やクレープ、カクテル作りを鳳翔さん間宮さんに任せたかと思えば、宿舎に戻って行きました。

そして五分もしない内に戻って来たかと思えば、車に乗って水上オートバイをトレーラーで牽引してやって来ました。


その光景はそれなりに目立つので多くの視線を集めますが、提督は構わず水上オートバイを波際まで運び、着水作業をし始めます。


結構大掛かりな作業でしたので、手を貸そうと席を立つ艦娘も居ましたが、運転席の助手席から憲兵隊の1人と思われる男性が出てきて手を貸し始めたので、私達が手を貸すまでも無さそうでした。


私はその光景を見ながら、驚いて目を丸くしている鹿島さん聞こえるように言いました。


「……なるほど冷蔵車は憲兵隊の方々が持って来た訳ですか……」


「何故憲兵さんとあんなに仲が良いんですかね」


「男同士、気が合うのかも知れません……」


影で協力者を得ていた提督は、浮かべた水上オートバイに黄色くて細長いボートを連結し始めます。

憲兵はその作業を見送ると、また宿舎の方へと戻って行きます。


あの黄色くて細長いボートは、バナナボートですね。

そして、あの水上オートバイは……、コマンドシップに格納されている特殊仕様の物だった筈です。


ちょっとヤバいですね。


連結を終えた提督は辺りを見回し始めたので、私は咄嗟に目をそらします。

すると提督は比較的近くにいた金剛さんに話しかけ始めました。


「おーい、金剛。 お前は食らいついたら離さないって言ってたな? ……少し試してみるか?」


「フフーン、受けて立つヨ!」


バナナボートは猛スピードで海上を滑るように走るので、しがみ付いていないとすぐに振り落とされてしまうスリリングなボートです。

金剛さんはその意図を察して勇ましくバナナボートに向かいました。


そしてその後を追い掛けるように夕立さん、その夕立さんに手を引かれて時雨さんもボートに向かいます。


「提督さーん! 夕立も乗りたいっぽーい!」


「ぼ、僕も乗るの⁉︎」


「早く行くっぽい‼︎」


バナナボートは4人乗りの小型のもので、金剛さんも榛名さんを連れて来たのでこれで丁度ですね。

全員がボートに跨ったのを見た提督は不敵に笑いながら言いました。


「よーし、お前ら絶対に振り落としてやるから覚悟しとけよー?」


「この私を舐めないで欲しいデース! 食らいついたら離さないヨー!」

「榛名は大丈夫です……!」


「夕立も絶対に離さないっぽい!」

「ね、ねぇこれひっくり返らない? ちょっと細過ぎない?」


そして皆が見守る中で、水上オートバイに牽引されたバナナボートはゆっくりと加速し始めました。


その様子を見ていた鹿島さんが笑みを浮かべながら話しかけて来ました。


「わぁ! 凄く楽しそうっ! 大淀さん、次のせて貰いましょうよ!」


「い、いえ……私は……」


「えっ? どうしてですか? きっと爽快ですよ?」


「あのバイク、時速160キロ出るんですよ……」


「えっ?」


コマンドシップに格納された水上オートバイは大本営から特別に用意された、緊急時に高速離脱を可能にする提督専用機です。

160キロで海面に叩き付けられたなら、普通の人間では即死、良くて重症は免れない危険な領域となるので流石にそこまで速度は出さない筈ですが、その加速力は健在です。


現に早くも性能が発揮されているようですね。

加速から旋回を始めた水上オートバイに牽引されたバナナボートは強烈な遠心力を生み出しながら振り回され始めました。

波の凹凸もあり激しく荒ぶり始めます。


両手を挙げて優雅に風を楽しんでいた夕立さんは真っ先に吹き飛ばされてしまいました。


「ぽぃぃぃぃッ⁉︎」


「ゆ、夕立ーーッ‼︎」


時雨さんの叫びも虚しく、夕立さんは海上に投げ出されてしまいました。

ですが安全対策として、浮きの入った小型ライフジャケットを事前に着せていたので溺れることはありません。


ただ、浮かび上がって来た夕立さんはとても悔しそうな顔をしていました。


「ゆ、夕立がぽいされちゃったっぽい、不意打ちは卑怯っぽい!」


残された3名は懸命にしがみ付きますが、提督は反時計回りにグルグルと回り始めると、次々と振り落とされ始めます。


「榛名は大丈夫ですぅぅぅぅーーっ! あぁぁぁぁッ⁉︎」


波に掬われたバナナボートが一瞬空へ舞い上がった時、榛名さんが水飛沫と共に飛んで行きました。


「榛名ァーッ‼︎」


「これが運命ならば受け入れます……」


「シィィット‼︎ 私だけでも生き残りマース‼︎」


榛名さんは全て成し遂げた様な表情で安らかに海上に浮かんでいて、金剛さんはあたかもバナナボートにやられた様な口振りです。


楽しそうで何より。


一方、時雨さんは青い顔をしています。


「て、提督! 少し速すぎるよ⁉︎ 酔っちゃうよ!」


「えーっ⁉︎ 聴こえないなぁ⁉︎」


「絶対聴こえてるでしょ⁉︎ あーっ! その旋回やめて! ボートがひっくり返っちゃうよ!」


提督は時雨さんの制止も聞かずに、より小回りの効いた旋回を始めると、バナナボートはとうとうひっくり返り激しい横回転を始めました。

ローラーの様に海面を転がるバナナボートに、流石の金剛さんも時雨さんと一緒に振り落とされていました。

海に投げ出された2人は浮かびながらか恨めしそうな表情をしています。


「wats⁉︎ ひっくり返るなんて聞いて無いヨ!」


「うう……、だから言ったのに」


提督は静止して、投げ出された艦娘を見て愉快そうに笑っていました。


「あはははっ! これで4人抜きか!」


「まだまだっぽい! きりもみ回転しても夕立が本気出せば余裕っぽい〜っ!」


夕立さんはそう言って、泳いでバナナボートにしがみ付きました。


「とりあえず順番だな。 向こうで並んでる奴も乗せてやらんと、岸に帰るぞ」


「むぅー!」


提督の言う通りバナナボートに乗ってみたいと言う艦娘は多いようで、海岸で目を輝かせていますね。

なかなか出来る体験ではありませんし、普段真面目な朝潮さんまで強い興味を示しているようです。


そして、その中には扶桑姉妹も。


「山城、私達も乗ってみましょう?」


「扶桑姉さま、大丈夫でしょうか……。結構スピードが出ているような」


「でも滅多に出来る事ではないと思うわ」


他の鎮守府では、扶桑姉妹がバナナボートに乗ろうものなら牽引フックが千切れたりして大惨事が容易く想像出来ますが、思い返せば私の鎮守府のお二人はそこまで不幸な目にあっていません。


精々卯月ちゃんのイタズラの標的にされる位です。

その卯月ちゃんも現在進行形で龍田さんの標的にされたままなので暫くは何事も無いでしょう。

その扶桑姉妹に、鹿島さんも同様の疑問を抱いていたようです。


「この鎮守府に来て驚いた事の一つですけど、扶桑姉妹のお二人、とても健やかに過ごされていますよね」


「不幸体質な筈なのですが……。 佐々木提督曰く、一緒に海水浴をしようものなら漏れ無く雨が降るとかなんとか」


「きっとそんな不幸を打ち消すくらい強く、誰かに幸運を祈って貰えているのかも知れませんね♪」


幸運を祈って貰えたお陰で定番のハプニングも起きそうにありませんけどね。


「それより鹿島さんは行かなくて良いんですか? 提督と一緒に遊べるチャンスですよ?」


「あ、あはは……、あそこまで激しいと少し怖くて……」


「怖気付きましたか」


「むっ! それを言うなら大淀さんだって!」


「私は何かあったら知らせると言う役目がありますから、海岸を見張っているのです。 アルコールも入ってますしね」


「ず、ずるいです!」


提督が海に出ている間は私が見張らなければなりませんしね。

ただ、皆きちんと言い付けは守っていますし、あまりやる事はありません。


それでも退屈はしませんね、見ているだけでも十分楽しめますからね。


現在提督は第六駆の4人をバナナボートで引っ張っているようです。

ただ4人は振り回されても、統一された体重移動で横転を防いで、凶悪な急旋回を凌いでいました。


「みんな! 今度は右回りよっ! 重心を低くボートのバランスを保つの!」


「反作用の法則を思い出すのです! そうすれば振り回されてもある程度ボートの制御が出来るのです!」


号令と共に一糸乱れず身体を傾ける第六駆の4人の動きは、観戦する艦娘達の歓声を呼ぶほどでした。

神通さんも唸りを上げるほどです。


「……成る程、あの様に振り回されながらも技術があれば乗り切れる、と……。 訓練に活かせそうですね」


神通さんの指導が更なる悲鳴を呼びそうな予感がし始めていました。

そして隣にいた川内さんがあっけらかんとした顔で言いました。


「うわぁ、普段艦娘に振り回されてる提督が艦娘を振り回してる」


「ね、姉さん……、振り回してる自覚あったのですね」


「えっ、私なんて可愛い方でしょ?」


「何を言っているのか分かり兼ねます」


「少なくとも那珂よりマシだね。 提督は私を見ても“ヤベーのが来た”って言う顔しないもん」


「“騒がしいのが来た”、と言う顔になりますね」


川内型の3人は騒音修羅奇行と突き抜けた個性が密集していますので、全体的に見ても特に個性的と言えるでしょう。


それにしても、バナナボートの登場と言うだけで大分空気が変わりましたね。

先程までは穏やかな午後と言った感じでしたが、少しずつ沸き立ち始めています。

私は一緒になってボートを眺めている鹿島さんに話し掛けました。


「艦娘を退屈させない為にプランびっしり詰まってそうですね……」


「結局サンオイルも自分で塗りましたしね……。 そうしないとヒリヒリしちゃいますし」


「この分だと夜も何かやりそうですね」


「何をするのでしょうか……、花火とか……?」


「定番ですね、後は肝試しとかですか?」


「き、肝試し……、オバケですか?」


臆病な一面もあるのか鹿島さんが少々不安そうな顔をしています。

私は所詮肝試しと言いたかったのですが、あの提督と憲兵隊の方が手を組んで本気で怖がらせに掛かったら何が出てくるかも分かりません。

日本人形に細工とかしてエゲツない事を平気でやりそうです。


ちょっとそれはわかっていたとしても本気で怖そうです。


やがて日が落ち始めてきた頃、提督は皆に招集をかけて言いました。


「そろそろ宿舎に戻ろう。 皆、後片付けをして元の白い砂浜に戻してから帰るんだ、わかったかー?」


篠原先生再び、です。


ですが立つ鳥跡を濁さずと言う風に、きちんと掃除をするのはとても大事です。

言われるまでもなく念入りにチェックを入れて砂浜を確認してから、私達は宿舎の隣にある小屋のシャワーを使って水着のまま海水を洗い流し始めました。


小屋と言う割には結構広めで、中を見渡せば既にこんがり焼けている艦娘が何名か伺えました。

全力で遊び続けて、何度も海に放り投げられていた夕立さんは、元は真っ白な肌でしたが今はこんがりキツネ色です。


艦娘なので入渠で元に戻りそうではありますが。


そんな夕立さんは疲労を表情で表して時雨さんに話し掛けています。


「うぅ〜〜……流石に疲れたっぽいぃ……」


「だねぇ……、もうヘトヘトだよ」


貴重な夕立さんの遊び疲れシーンです。

提督に見せてあげたいところですが、今は屋台の撤去に勤しんでいるでしょう。


疲れを露わにする艦娘が多いですが、皆満足そうな表情を浮かべています。


ですが何名か浮かない表情の方もいらっしゃいますね。

シャワーで海水を流しながら赤城さんが加賀さんに話し掛けていました。


「あれだけチャンスがあったのに結局一度も話しかけていませんね、加賀さん」


「……」


「水着だってあんなに時間かけて選んだのに……」


「……」


「ちょっと奥手過ぎませんか? バーベキューにクレープにカクテルにバナナボート、沢山話題ありましたよ?」


「……バーベキューの時に近寄っただけで何も言ってないのに沢山のお肉を渡されたわ。 それも良い笑顔で」


「そんなの私も同じですよ、何が問題なんですか?」


「同じなのが問題なのよ」


無意識で印象を強くしてしまう赤城さんと、その印象を払拭したい加賀さん。

奥手も相まってまだまだ進展は望めそうにありませんね。


その後、それぞれの個室に戻って、髪が痛まないように早めのお風呂も済ませてしまいます。

銭湯のような広さだったので待ち時間もなく湯船に浸かれたのは僥倖でした。


そして部屋に戻って最初に気が付いたのは、窓の外から漂ってくる香ばしいカレーの香りでした。


覗いてみれば広い庭で提督と憲兵隊の方が2人、3人揃って炊き出しを行っているようでした。


大きな鍋や炊飯釜が並んで火にかけられていて、もう殆どの準備が終わっているのか今は楽しく談笑しているようです。

提督が崩した敬語を使って親しげに話し掛けています。


「昔を思い出しますねぇ、50人分くらいなら3人でもあっという間でしたね」


「実際50人分より多いですけどね。 やー、でも暫くジャガイモは見たくないですわ」


「惚れ惚れする包丁さばきでしたよ江口さん。産業機械かと思いましたわ」


提督とお話をしている憲兵のお二人は、艦娘が鎮守府から外出する際にこっそり護衛として追従する野田さんと江口さんです。

非常に優れた潜伏尾行技術をお持ちですが、勘の良い艦娘には気付かれていて地味にその名前も浸透していますね。


一見、ストーカーの様な扱いを受けてしまわれそうですが、何故護衛が必要なのか艦娘もよく分かっていますので何も言いませんし、艦娘がデパート等大きな建物に入るなどしない限りは基本的に同じ建物に入る事は無いので、プライバシーの尊重もされています。


そして、お二人はとても優しい人柄で、財布を忘れてきてしまった艦娘に気前良くお金を貸してあげた事もあるそうです。


ただ、不穏因子を見付けると一転するそうです。

ヤクザのようなメンチを切って恐喝紛いな方法で速やかに除外させるとか、何とも恐ろしい話です。

あの憲兵隊長仕込みなだけはあるかと思います。


そんな提督達の前に、カレーの匂いに釣られたのか庭に出て来て姿を現した艦娘がいるようです。


「あっれー? ノッチとグッチじゃん!」


気安いあだ名で2人の憲兵を呼んだのは鈴谷さんです。

呼ばれ慣れているのか2人もあだ名を気にしていません。


「こんばんは鈴谷さん」

「もう20分くらいでカレー出来ますよ」


「うっそ、鈴谷がお風呂はいってる間にもうそこまで準備出来たの⁉︎」


「まあ元陸自ですし」

「この10倍くらいの量の炊き出しを行った事もありますよ?」


「自衛隊凄い!」


そんな彼等を簡単に動かしてしまう提督も大概かと思われます。

そして私が窓から外の様子を眺めている事に提督が気が付いたようで、私の方を見て言いました。


「大淀、見てないで降りてきたらどうだ? もうすぐ出来上がるから」


「あっ、はい。 髪を乾かしたらすぐに行きます」


髪の毛を乾かして整えてから、鹿島さんを待って2人で広い庭に向かうと、すでに人集りが出来ていてテーブルなどのセッティングが終わっていました。


「カレーの匂いで、みんな出て来たようですね」


「沢山遊びましたからね、私もお腹ペコペコです♪」


因みにビーフカレーでした。

大量生産形態で流石に味は落ちるかも、と懸念していましたがそんな事はなく、とてもスパイスの効いたコクのあるカレーです。

辛いのが苦手な艦娘の為に甘口も用意されていますが、それ以外は少し辛めで、鎮守府で食べるカレーとはまた違った風味です。


鳳翔さんはその違いを敏感に感じ取ったようで、炊き出し釜の近くで憲兵のお二人と並んでカレーを食べる提督の元まで行って話し掛けていました。


「て、提督……、このカレーは」


「気が付いたか? 輸送作戦で香辛料の類も沢山入って来たから、それでな? 要するに特産の香辛料だ」


「まぁ……!」


鳳翔さんはとても嬉しそうに反応していました。

きっとそう遠く無いうちに、本場のスパイスも鎮守府内で使える日が来るだろうと思ったからでしょう。


エンゲル係数がまた高くなりそうですね。


そして炊き出し釜の近くに、空のお皿を持った鈴谷さんがやって来ました。


「提督、おかわりー!」


「もう食べたのか! 早いなぁ……」

「篠原さん、若いから胃袋が違うんですよ」

「俺達基準にしちゃ失礼ですわ、あはははっ!」


「そんな事ないって、鈴谷と言えばカレーじゃん! カレー好きなんだよね!」


「そうかそうか、好きによそって食べて良いぞ」


「やった!」


憲兵達に野次を飛ばされながら提督が許可を出すと、鈴谷さんは嬉しそうにカレーを盛り始めました。


提督はその様子を見ながら憲兵に話し掛けます。


「このカレーも、一概に艦娘のお陰ですな」


「ありがたい話ですね、足を向けて寝れませんわ」

「もうこれは“様”を付けないと失礼かも知れませんね」


「あははっ、じゃあ鈴谷様ですね。 よっ、鈴谷様!」


「ちょ、ちょっと止めてってば! 鈴谷そんなんじゃないし!」


3人に上機嫌に絡まれ始めた鈴谷さんは困惑し始め、カレーをよそるとそそくさと退散していきました。

その背中を眺めながら提督は言います。


「逃げられちゃいましたね」


「そりゃあオッサンに絡まれたら逃げますよ」

「俺達は角で小さくなってた方が良いんですよ、オッサン連盟組みましょうオッサン連盟」


「でもお二人まだ20代ですよね? 何言ってんですか」


「一応アラサーですよ。 あっ、妻子持ちですが」

「俺も嫁がいますね。子供はまだです」

「江口さん、そろそろ子供考えた方が良いですよ。 子守も大変ですから」


「羨ましい悩みですな」


「またまた、篠原さんなら選り取り見取りじゃないですか?」


「いやー……、少なくとも深海側と蹴りがつくまでは」


何気に有益な情報ですね、憲兵の方々、グッジョブです。


ただ、沢山のカレーに誰より食いつきそうな方がずっと大人しいのがいよいよ気になって来ました。

実はバーベキューの時も大人しくて、こんな時も大人しければ逆に気味が悪くなってくるというものです。


私は近くのテーブルでゆっくりとカレーを食べている赤城さんに話し掛けました。


「あ、赤城さん……」


「はい? 何でしょう」


「どうしたんですか? てっきり、いつもの様に大食いを見せると思っていたのですが……」


沢山のお肉が並ぶバーベキューでも、特別に仕立てられた極上のカレーを前にしても赤城さんが大人しいまま、これは少しおかしいです。

私の質問に、加賀さんも気になっていたのか、顔を向けて聞いていました。


すると赤城さんは、少し照れ臭そうに言いました。


「このカレーもそうですが、今回は良く味わって食べたいな、と思いまして。 あっ、普段もちゃんと味わって食べてますよ!」


「え、ええ、はい、わかりました」


「でも今回は、その、あのMI作戦のお陰で食べられるようになった食材ですよね?」


「そうですね……」


赤城さんは食べる手を止めてゆっくりと語り始めました。


「本当はMI作戦が発令された時、とても不安だったんです。 かつて私が、そして加賀さんも蒼龍さんも沈んでしまった作戦でしたし、内容もそっくりでしたから……」


「ですが提督がこう言ったんです。 “ここを奪還出来ればアメリカとの足掛かりになる”って」


赤城さんはそう言って、加賀さん、そして蒼龍さんと目を合わせました。


「あの時はアメリカと雌雄を決する為の戦いでした。 でも今のMI作戦は、お互いに手を取り合って協力するための足掛かりで……、そのお陰でこうして美味しいものを食べられる……」


「お互いの幸せの為の戦いだったんです。 こんなに名誉な戦いが他にありますか? 確かに私達に因縁深いMI作戦でしたが、決定的な違いに気付いたんです」


赤城さんはとても満足そうな笑みを浮かべ言いました。


「私達は“今”を生きているんです」


MI作戦で赤城さんが大きな成果を挙げたのは、そう言った想いが力に変わっていたのかも知れません。


“今を生きている”


その認識は私達艦娘にとって、とても大事な事だと思いました。

何故なら、深海棲艦は旧戦場を彷彿させる因縁深い海や陣を組んで待ち構えていたりしますが、私達艦娘は今の時代に生きて立ち向かっているわけです。

かつて血で血を洗う戦いが、今では手と手を取る戦いに変わっているわけですから。


ただ、なんというか……。


失礼ながら、赤城さんがそんな事を考えていたなんて全く想像していませんでした。


そんな赤城さんを見ながら、加賀さんが言いました。


「赤城さん……」


「何ですか、加賀さん」



「急いで帰って入渠した方が良いわ。 早くしないと元に戻らなくなるわよ」



加賀さんも私と同じ心境だったのでしょう。

赤城さんはとても心外と言う顔をしています。


「ちょっと⁉︎ どういう意味ですか! “元”って何ですか、私は元々こうですよ!」


「そんな筈無いわ。 元々そうだったら一航戦の名もマトモだった筈だもの」


「ひ、酷いです! 私あんなに頑張ったのに……、佐々木提督から“紅い彗星”とまで呼ばれるくらい頑張ったのに!」


「その“紅い彗星”を調べたのだけれど、その名の持ち主は赤城さんよりも知的で、何より食い意地は張っていないわ、笑わせないで」


何故か口論が始まってしまいましたね、そのお陰で注目を集め始めています。


そんな事にも気付かずに加賀さんは言いました。


「強いて貴女をアニメで例えるなら“紅の豚”よ、飛行機も出て来るしお似合いね」


「ひ、酷い! あの知る人ぞ知る名作をそんな風に使うなんて!」


「知る人ぞ知る一航戦の名前をこんな風にした貴女が言いますか」


実際問題、赤城さんが抱いた気持ちをMI作戦当日に述べていれば『食い意地で敵を殲滅した』なんて逸話は生まれなかったかも知れませんね。


もしもそうなっていたら、深海棲姫に敵前逃亡させた神通さんの気迫にターゲットが向いていた事でしょう。アレはアレで相当ヤバイです。


今回は赤城さんがやや理不尽な目にあっていますが、外野は気にしていないようです。

龍驤さんや香取さんが楽しそうに観戦しています。


「おっ、始まったか一航戦漫才!」


「今日も絶好調ですねぇ〜」


こうして楽しい晩餐は過ぎて行くのでした。







結局はいつも通り

大淀side






夕食を終えた後、提督なら何かすると思っていましたが予想に反して“各々自由に過ごすように”と告げました。

最初こそ意外だと思いましたが、周りを見て納得です。

全力で遊び倒した艦娘が既に眠たそうな顔をしていましたし、疲れ気味な艦娘が多かったりと、この辺が丁度いい塩梅なのかも知れませんね。


ただ、夕食を終えてもテーブルがすぐに片付けられる事は無く、そこで食休みしている方や食後のデザートを楽しむ方が結構いました。


提督はと言えば、相変わらず一番隅っこのテーブルで憲兵達と談笑をしています。

その3人はアルコールも入ってとても機嫌がよろしいようで、彼処に絡みに行く艦娘は大体絡まれ返されるようです。

たった今声を掛けに行った夕立さんが身をもって実証していました。


「ていとーくさーん、何話してるっぽい?」


「ん? 特にこれと言った話題はないんだがな。 それにしても夕立お前焼けたなぁ」


「うん、ちょっとヒリヒリするっぽい」


「髪の色も相まってコッペパンみたいだなぁ」


「ぽぃ⁉︎」


コッペパンと呼ばれた夕立さんは複雑そうな表情を浮かべていますが、私も思わず納得してしまいました。

焼ける前は金色の長髪より肌の色の方が薄かったのですが、今ではこんがりとしてますので、少し強引ですが、焼きあがったパンのようです。

そして提督がそう言うと、周りの憲兵も絡み始めます。


「眼が赤いから中はイチゴジャムですかね?」

「イチゴジャムですか……、斎藤さんが放っておきませんね」


「夕立の中にジャムは入ってないっぽい!」


「じゃあピーナッツバターかな」

「つぶあんも有りですね」

「全部斎藤さんが放っておきませんね」

「あの人いつか糖尿で死にますわ、マックスコーヒーを水みたいに飲んでますもん」


「あははははっ!」


2人は声を揃えて笑い合い、突然話が脱線したので夕立さんはポカンとしています。


「な、なんなのぉ……」


困惑する夕立さんに提督が答えました。


「オッサンだぞ」


「い、意味がわからないっぽい!」


「そう、それがオッサンだ」


おおよそ答えにならない答えに、夕立さんの困惑はより一層強くなりました。

そのやり取りを見ていた北上さんがジト目で提督を見ながら言いました。


「うわ……、ウザ絡みしてる……」


「おっと、ここで北上の“ウザい”を頂いたか……!」


「いやそこまでは言ってないし……」


「でも残念だったな、“ウザい”とか“キモい”とか、酔っ払いには通用しないんだなコレが」


「うわっ! ウザい! これウザい!」


滅多にアルコールを摂らない提督が飲酒するのも珍しいのですが、更に珍しい酔い方をしています。

恐らくは、憲兵のお二人と気が合うのが行けないのでしょう。


男性は気が合う者同士で集まると、精神年齢が下がる場合があるようです。


包んで申し上げれば、童心に返る、と。


そして北上さんと提督のやり取りを見ていた憲兵お2人も騒ぎ始めます。


「ひゃー……俺も娘にいつか“ウザい”とか言われんのかなぁーッ⁉︎」


「大丈夫ですよ野田さん、宮本元帥よりかは酷くはならないでしょうし」


「確かに。あの人、実の娘にビンタ食らったらしいですよ」


「えっ、なんでまた」


「お弁当の具が同じだったらしいです」


「うわっ、すっげ理不尽! あははははっ!」


大本営で一番偉いお方も、酔っ払いを前にすればこの有様です。

それよりも話のネタが想像すると普通に面白いので、聞き耳を立てていた龍田さんなど笑いかけていました。


斯くして、一番隅っこのテーブルに居ながら、提督と憲兵のやり取りは一番注目を集めているのでした。


そんな様子に気付かないまま、憲兵の江口さんは顎に手をあてがいながら言いました。


「俺は子供できるんだったら男の子がいいなぁ」


「男の子ですか、なんでまた?」


「俺がバイク趣味ですしね。 篠原さん居ればいつかはガス代も落ち着くでしょうし、そん時は譲ってやろうかとね。 今よりも老けた時の夢ですな」


2人の話題に自分の名前が挙がった為、提督が反応しました。


「責任重大ですな。 まぁ頑張るのは俺じゃなくて艦娘達ですけどね、それでも心配はいらなそうですけど」


そう言って頂けるなら、艦娘として冥利に尽きますね。

周りも同じ気持ちなのか、何処か照れくさそうな表情をした娘や、誇らしげにしている娘がチラホラと伺えました。


……それだけ聞き耳を立てている艦娘がいると言うことは、この際伏せておきましょう。


提督が中々珍しいテンションですからね、致し方ないのです。


その提督の関心は別にもあったのか、江口さんに質問をしていました。


「それよりもバイクですか?」


「ええ、大型のバイクが家の車庫にありますね」

「江口さんはスピード狂なところあるんですよ」

「ちょっと野田さん、スピード狂は言い過ぎですって」

「またまた、高い金払ってサーキットで乗り回してるじゃないですか」


「へぇ〜……、スピード狂ならウチにも島風がいますよ」


島風ちゃんが巻き込まれ始めました。

島風ちゃんは先程まで食後のデザートに舌鼓を打っていたのですが、提督達3人の視線が自分に集中している事に気付いてギョッとした顔をしています。

訝しむような表情を浮かべ始める島風ちゃんを見ながら、提督は江口さんに言いました。


「スピード自慢なら良い勝負出来るんじゃないですかね?」


「いやぁ……流石に水の上と路上じゃあ違いますって」


「アイツ路上も走るんで、相手してやってくださいよ」


「それ自分の足で走ってんじゃないですか! それに島風さんめっちゃ足早いじゃないですか、100m13秒切りとか行くんじゃないですかね? 流石にキツイっすわ……」

「……艦娘衣装の島風さんと並走してたら嫁に殺されそうですしね……」

「……マジキツイっすわ……、息子に譲る前にバイク売られそう……」


「……格好と速さ以外なら結構マトモですよ?」


「ちょっと! それどーゆー意味ですかてーとく!」


流石に聞き捨てられなかった島風ちゃんは提督の元へと駆け寄って追求を始めていました。


「私の格好がマトモじゃないみたいじゃないですか!」


「大丈夫だ、お前は悪くないのかも知れない」


「だからどういう意味⁉︎」


「いやー、でも無自覚なんだよなぁ、コレなぁ……」


「ちょっと!」


島風ちゃんの服は確かに際どいところありますからね。

あらゆる事に寛容な提督が、あの衣装のまま外出するのを断固として許さない程です。

提督は憤慨する島風ちゃんをあやしながら話題を変え始めました。


「それよりどうだ? 江口さんスピードに自信あるんだってさ」


「おぉ……っ⁉︎ スピード勝負なら受けて立ちます」


「いやいや勘弁して下さいって!」


たったひと言で目を輝かせた島風ちゃんが江口さんに詰め寄り始めました。

対する江口さんは遠慮したいようで、また話題を逸らし始めます。


「俺は二輪車にロマンを感じるクチですから、島風さんとはまた少し違いますよ」


「二輪車? そんなに速いの?」


「そうそう、速い物なら時速300くらい出るかな?」


「オォウ⁉︎ 300ッ⁉︎ 162ノットですか!」


「なんでノットで表したのか判らないけど、提督におねだりしましょう。 “ニンジャ欲しい”って」


「ニンジャ?」


「超速いっすよ島風さん」


提督が顔を顰めて「オイ」と小さくツッコミを入れる中、島風ちゃんはより一層瞳を輝かせながら言いました。


「てーとく! ニンジャ欲しい!」


「いやいやいや……、大型バイクだし足届かないだろお前……」

「ニンジャは車高低いんで女性でも乗れますよ?」


「だってさ、てーとく! ニンジャ欲しいです!」


「江口さん勘弁してくださいよ……、現代だとアレ一台で家建ちますわ……」


「へへへ、開戦前に買えたのはラッキーでしたわ」


「てーとく〜……」


石油輸入量が激減した今、多くの乗り物が電気化していき、ガソリンを使った物は生産終了と共に箔がついて軒並み値上がりした上に、ガソリンの値段も数十倍と膨れ上がっています。

唯一、今まで通りガソリンを使用しているのは自衛隊や警察や消防、救急隊くらいでしょう。


それでも島風ちゃんが瞳を潤ませて上目遣いで訴え始めると、提督は溜め息をつきながら言います。


「……ポケバイな、まずはそこから」


「ポケバイ?」


「小さいバイクだ。大型バイクにゃ劣るがポケバイも十分速いぞ? 港も大きくなったし簡易サーキットくらいなら用意できるだろう……」


「やった! ありがとてーとくぅ!」

「マジですか篠原さん! 俺も回していいっすか!」


「江口さん、そのかわりバイク選びで後で相談に乗ってくださいよ……」


ヤダ、私達の提督甘過ぎっ⁉︎

いや、お酒も入って普段の甘さに磨きが掛かっているのでは……⁉︎


島風ちゃんにポケバイを渡しても、最初は良くても次第にスピードに満足できなくなって大きなバイクを求める事請け合いですよ?


普段より思考力が落ちている可能性がある提督は、何故か悪巧みする顔になっていました。


「それにな、ニンジャなら川内が何か知っているんじゃないか? ほらアイツ忍者っぽい格好だし、普段の騒音も大型バイクの排気音そっくりだ」


「おぉう! 確かに! 全然忍んでないと思ってましたが、そう言うことだったんですね!」


「速きこと島風の如し、排気音は川内が如し、だ。 ほら行ってこい島風。 あわよくばニンジャ貰ってこい」


「はーい!」


島風ちゃんは勢いよく宿舎の中へ走って行きました。

川内さんは今頃、館内に据え置きされた卓球台で身体を動かしているようですが、さてどうなる事やら。


そして、とりあえず島風ちゃんを追い払った提督は顎に手を当てながら、早速憲兵達に相談をしていました。


「ポケバイ……、県内大会くらいなら艦娘でも出れますかね? 前から検討していますが中々思うようにならなくて」


「……本人が望むなら、そう言う場所にも出してあげたいですしね」

「学校とはまた違いますし、先ずは我々が表立ってそう言う場を設けるなど……」


3人の空気は一転して真剣な雰囲気へと変わります。


鎮守府内で部活動が制定されてから少しばかり時が流れましたが、提督1人の現状だと管理が難しいため大雑把な組み分けがされているだけです。


身体を動かすなど、スポーツが目的の運動部。

物作り、絵画、裁縫などを手掛ける創作部。

料理やお菓子など食品作りに纏わる調理部。


以上3つの組み分けで、艦娘がとりあえず自分の趣旨にあった部活に参加している現状です。

なので公の大会などの場に出向く事はまだありません。


この状況を変える組織体制の見直しは定期的に提督が頭を抱えている難題の1つでもありました。


現状でも不満はないと言うのに、働き過ぎですね、あのお方は。


少し邪魔をしてあげましょう。

私は席を立って提督達の元へ行って話し掛けました。


「提督、少し良いですか?」


「ん、どうした大淀」


「大したことでは無いのですが、少し聞きたい事がありまして」


「んん? 何だ?」


問いかける前に心当たりを探し始めた提督を見ながら、私は少しだけ声量をあげて言いました。



「今日の水着、誰が一番良かったですか?」



瞬間、辺りが一瞬だけ静まり返りました。

爆弾投下完了です、後は適当に外堀を埋めて退散しましょう。


「な、なんだ急に。 それに、みんな良かったぞ? 似合ってたし」


「いえ、やはり女性としてそこは気になりますので、今後の水着選びの参考にもなりますし」


「そう言われてもなぁ……」


提督が困ったように笑い始めると、同じく席を立った龍田さんも追撃し始めました。


「私も気になるわぁ〜、みんなそれぞれ選んだ水着だものねぇ〜?」


龍田さんはまるで提督の困った反応を楽しんでいるようです。

そしてこう言う時に積極的になれない加賀さんが視線だけ飛ばす傍で、楽しげな声をあげて瑞鶴さんが席を立ちます。


「確かにねぇ〜? あっ、でも翔鶴姉の事変な目で見てたら承知しないからね!」


「ちょ、ちょっと瑞鶴?」


そして鈴谷さんも、なんだか悪戯な目つきで提督に話し掛けます。


「丁度いい機会じゃん! 提督白状しちゃいなよー?」


無論、金剛さんも飛び付きます。


「ンフフー、まぁ当然この私の水着ですよネー?」

「流石お姉様! 一度褒められていましたしね!」


提督の表情が引きつり始めました。見慣れた表情です。

恐らく『これ収拾がつかないやつだ』とでも思っているのでしょう。


さて、私の役目はここまでです。


恨めしい視線を提督から頂いておりますが、ここで席に戻るとしましょう。


艦娘に詰め寄られた提督は縋るように憲兵のお二人に言いました。


「ち、因みに江口さん野田さん……」


「い、いえ……俺は妻いますし」

「俺も……」


「……」


確かに既婚者にこの話を振るのは間違いですね。

纏める立場の提督はポリシーとして誰か1人を贔屓目に見ると言う事は避けて来たはずですし、こう言った局面は想定していないはずです。


なので、もう仕事の事は考えられないでしょうね。

側から見れば執務中よりも疲れそうな光景ですが、辛気臭い顔をされているよりかずっとマシですから。


「俺の好みなんて何の参考にもならないだろ! 歳を考えろ歳を! アラサーだぞ!」


「あらあら〜? 提督ともあろうお方が、まさかはぐらかすおつもりですか?」

「とっとと白状しちゃいなよ、その方が楽だと思うけとなぁ〜?」

「さっきのお返しじゃん! 言うまで逃がさないかんね!」

「モチロン私の水着ですよネ!」


言いたくないのか、それともそんな事考えてすらいなかったのか。

恐らく後者が当て嵌まる提督は苦し紛れの策に出ました。


「よし……、わかった。 じゃあ俺と腕相撲で勝ったら教えてやってもいいかな?」


提督はそう言って得意げな表情で席に座りなおしました。

お酒が入っているせいなのか、それとも逆境を楽しんでいるのか、普段とは変わって物凄く自分に有利な条件を付けています。


艤装の無い艦娘は姿相応の体力であるため、当然ブーイングが巻き起こります。


「あ、あら〜? それだと私達が不利じゃないかしら〜?」


「女の子に腕相撲で勝負とか恥ずかしくないの⁉︎」


「アンフェアだヨー!」


「でも条件付けたって事は1番の候補があるって事だよね? やってやろーじゃん!」


1番に名乗りを上げたのは鈴谷さんでした。

肩を回しながら提督と対面の席に座り、提督がテーブルに置いた手を掴みました。


「腕力で俺に勝てるとでも?」


「やってみなきゃわかんないし? ……それに、鈴谷が負けても挑戦者は他にもいるし?」


そう言って鈴谷さんは周囲に視線を投げかけました。

皆で連戦を仕掛けて提督の腕力を削いで行けば勝率が上がっていくという算段なのでしょうか。


周りの艦娘もそれに気付いたのか、傍観していた方も席を立ち始めました。

天龍さんなどは、理由はとにかく勝負事がお好きなので最初から挑む気満々だったようですが。高雄さんや愛宕さんなど普段大人しい方も、イベントに参加するような楽しげな顔で列に並び始めました。


そして、出来上がった長蛇の列に提督は青ざめました。


「オイオイオイオイ……、他にやる事ないのかお前ら……」


「先に艦娘に勝負を仕掛けたのは提督だよ? ほら、早くやろーよ?」


一番手、鈴谷さんから、龍田さん、天龍さん、瑞鶴さん、金剛さん、榛名さん、赤城さんと、赤城さんに腕を引かれた加賀さん、愛宕さん、高雄さん、北上さんと、北上さんの前に割り込んだ大井さん。仲直り出来たんですね。


「……北上さんの手に触れるなんて許せません」


「お、大井っち、これ腕相撲だよ分かってる?」


それぞれの参加動機はとにかく、艤装が無くても陸上訓練を経由した比較的体格の良い艦娘達が集まっています。

流石に旗色が悪いと思われましたが、提督はやる気なのか不敵な笑みを浮かべました。


「……やってやろうじゃねぇか……、おっさん舐めるなよ! 大淀、審判頼む!」


「は、はい!」


とにかく私は合図をすれは良いのでしょうか、提督と鈴谷さんの準備はとっくに出来ているようなので、取り敢えず適当にそれっぽい言葉を言いました。


「で、では始め!」


「っしゃ来い!」

「やってやるじゃーん!」


いよいよ勝負が始まりました。


ただ威勢の良い声とは裏腹に、鈴谷さんは腕に力を込めてプルプルと震えるだけでした。

提督も拍子抜けと言った顔をしています。


「……これで全力か?」


「ふぬぅぅぅぅぅぅ!」


「全力っぽいなぁ……」


やはり体格差は揺るがないのか、提督は余裕綽々と鈴谷さんの腕を倒し始めました。


「ちょ、ちょっとぉぉ! 少しは手加減……」

「するもんか、威厳が掛かっているんだ」


鈴谷さんの手の甲がテーブルに着いて、呆気なく敗北です。


私はその後も審判を続けていましたが、提督の連戦連勝が続いていました。


天龍さん龍田さんも呆気なく敗れ、中でもフィジカルな金剛さんとの勝負に当たった時は、提督は瞬発力に物を合わせて一瞬で張り倒していました。

榛名さんも大丈夫じゃなかったようです。


勝負事なら真剣になる赤城さんや加賀さんも、提督瞬発力を抑え切る事はできずに折り曲げられていました。

大人気なくなった提督には勝てないようで、そして痛かったのか二の腕あたりを抑えて蹲ってしまっています。


そして制覇も間も無くと言ったところで、新たに名乗り出る艦娘が現れました。


「ほう、面白そうな事をやっているな。 私も混ぜてもらおうか……」


「その声は、長門か……?」


艦娘の中でもかなり体格の良い長門さんです。


少々危なっかしい性格をしていますが、体力面は神通さんのお墨付きで、厳しいと評判の新人訓練も余裕を持って乗り越えた実績があります。


典型的な脳筋とも言いますね。


そんな長門さんは順番を待っていた大井さんに断りを入れて、自信満々に提督の前の席に座りました。


「連戦で消耗しているだろうが、私は手加減が苦手でな」


「なぁに一瞬で勝負が付けばそこまで疲れないさ。 全力で来い」


「フッ、そう来なくてはな……」


もしかしたら良い勝負になるかも知れません。

ひと握りの期待を込めて、私は息を呑みながら合図を送ります。


「で、では……始め!」


「ふんッ‼︎」

「ぬ……ッ‼︎」


双方、同時に力を込め始めました。

そしてその瞬間、長門さんは目を見開いて驚いています。


「動かな……い……⁉︎」


「体脂肪率5%まで絞った事もあるからな……! 俺の身体に隙は無い……!」


どこのアスリートですかね?

と言う野暮な疑問はとにかく、ピースメイカーとしての活動、そして何より水上オートバイで駆け回るにはそれくらいしなければならなかったのでしょう。


更に言えば、鍛えていたとしても男女の筋力差は1.5倍以上も男性の方が強く。力比べで鍛えた男性に女性が勝つのは相当苦しいかと思われます。


とは言え、瞬殺ではなく粘りを見せてゆっくりと倒された長門さんは、女性でもかなり腕力があると言える筈ですね。

皆が皆、長門さんのように粘る事が出来れば提督も消耗して勝負は分からなかったかも知れません。


「くっ……、この長門が……!」


「いや十分強いよ、結構驚いたな……」


「せめて衣装の加護があれば……! いやいかんな、加護に頼らず自分をもっと鍛えなければ」


「加護あったら俺の腕がもげそう。 それに女性があまり鍛えると体調に異常出るって言うから程々にな?」


衣装に宿る加護だけでも身体は飛躍的に強化されますからね、艦娘は。 鍛えていれば尚更。

艦娘の水着に追い詰められた提督は艦娘の私服で救われたようです。

そんな提督に憲兵の野田さんが声を掛けました。


「じゃあ次は俺の番ですね」


「いやちょっと待って」


提督は冷静にツッコミを入れました。

鎮守府の憲兵隊は殆どが元自衛隊で、その中でも斎藤さん率いる憲兵隊は化け物染みた体力を誇る精鋭部隊です。

流石の提督も負けてしまうかも知れません。


「この腕相撲は俺の威厳が掛かってるんですよ」


「いやでも目の前で腕相撲なんてされちゃ挑戦したくなりますわ。 俺相手じゃ不満ですかね?」

「篠原さん俺もやってみたいです、やりましょうよ」


「現役相手はちょっと厳しいですよ! しかも2人!」


流石に部が悪い提督は抑えようとしますが、憲兵2人を鈴谷さんが応援し始めました。


「良いじゃんグッチにノッチ! 2人も元陸自なんでしょ? 良い勝負出来そうじゃん!」


「おい鈴谷お前……!」


「俺実はジム通ってるんです」

「体力には自信あります」


「でしょうね!」


たしかに憲兵のエースと提督との勝負は見応えありそうですね。

私も見てみたいですし、出来るだけ引くに引けない状況を作るべきですかね?


こう言っておけば、後には引けなくなるのでは無いでしょうか。


「提督、男見せる時じゃないですか?」


「大淀、お前俺を陥れようとしてない? さっきから何」


「私も提督のちょっと良いとこ見てみたいわ〜」

「そうそう! 男らしく勝負を受けなきゃ!」

「私達の提督が負ける筈ありまセーン!」

「ほらほらぁ、提督今度こそ観念しなよー?」


「ち、畜生! やってやろうじゃねぇか‼︎」


観念した提督は泣き笑いしながら勝負を引き受け、先程とは比較にならない迫力の腕相撲が繰り広げられ、この夜は普段とは違う盛り上がりを見せたのでした。


ただ残念なのが、腕相撲中に使用していたテーブルが耐えきれずにひっくり返り、その後片付けなどで勝負が有耶無耶になってしまった事でしょうかね。


そして片付く頃には良いお時間になってしまい、それぞれ就寝の準備に入りました。


明日の朝、朝食を済ませて私達は鎮守府に帰るのです。


案の定、あまり進展は見られませんでしたが、とても新鮮な時間を過ごせたと思いますね。


そんな事を考えていると、同室の鹿島さんは何処か残念そうな顔をして敷布団にうつ伏せになって埋もれながら嘆いていました。


「はぁ〜……楽しかったけど全然アピール出来なかったですぅ……」


「仕方ないですよ。 今回は主に提督が艦娘に対してアピールしてたような気さえしますね」


「どういう事です?」


「今回の一連のやり取りを隔てて、新人の蒼龍さんの中で提督の株が上がったのか来たるべく訓練に向けて燃えているそうです」


「あ〜……、提督さんのサービス精神にやられましたか……。 カクテル美味しかったですし、フロートも」


「贅沢三昧でしたね」


「全くです」


提督は今回エンターテイナーとして奮闘していたので特定の艦娘と何か進展を見せるような展開は当然ありませんでした。


ふと、同室の香取さんが呟きます。


「島風ちゃんのポケバイ……本当に購入されるのでしょうか」


「するでしょうね、経費で落とせなくても自費で」


「どうしてそこまで……」


この事に関して、香取さんがご存知ないのも無理はありませんね。

練習艦として日頃訓練内容や1人1人艤装の性能など数値化したりなどして、あまり提督と一緒にお仕事はされませんので。


「艦娘に世界を知ってもらう為ですよ。 趣味を通じて見解を広め、私達が何を守り戦うのかを知れば活力になりますし」


「なるほど……、道理で」


「好きなものが増える、それだけで頑張れますから」


「素敵な事です。 ただ、提督がオーバーワーク気味なのが気掛かりです。 大淀さんもずっと忙しそうですね」


「んー……私はそこまでですが、提督は明らかに作業量は増えてますね……」


「2人目の秘書艦……、と言うより、艦娘による業務課を制定するなど……」


「成る程、部活動やアルバイトの営業案内等は私達艦娘でも出来る筈ですし、良い案かも知れません」


話が纏まり掛けた所で、鹿島さんが仰向けに寝返り、拗ねたような引き笑いと共に言いました。


「ふふ……そして私の艤装を早急に建造する案をですね……」


「鹿島、貴女まだそんな事言っているの」


「だってぇぇぇぇ〜〜……!」


「もう、駄々捏ねないの」


また発症しました、鹿島さんの面倒臭い病気が。

川内さんとは別のベクトルの五月蝿さです。

あちらは無視できますが、こちらは無視すると悪化していきます。悪質です。


「か、鹿島さん疲れているんですよ、もう寝ましょう?」


「大淀さん! 銀の水着は結局何だったんですかぁ〜っ‼︎」


「シャツ貰えたじゃないですか」


「それはそうですけどぉ……。 って、あーっ! 私だけ水着を見て貰えていません!」


「ああもう……、騒がないで下さい」


「なんでそんな面倒臭そうな顔してるんですか!」


「はい、もう寝ましょうね。 電気消しますよー」


「大淀さん!」


「はい、オレンジの豆球はつけときますよ。 コレで夜中トイレに起きても誰か踏む事はありません」


「そんな事聞いてませんよぉ!」


折角楽しい1日を、どうしようもない愚痴を聞いて終えるなんてしたくありませんからね。

悪化するでしょうが無視です。

鹿島さんはチョロそうなので、提督が適当にご機嫌取るのが一番効果がありそうですからね。


そして鹿島さんは寝付くまで割と長い時間拗ねたままでしたが、翌日の帰りのバスの座席を提督の隣にしたらすっかり復活していました。


チョロいです。


今も上機嫌に提督に話し掛けています。


「えへへぇ〜、提督さーん」


「何だ?」


「呼んだだけですぅ♪」


「そうか……」


鹿島さんは機嫌良くても面倒くさい事が新たに分かりました。


提督、ファイトです!






ライセンス

篠原side






楽しい海水浴が終わり幾日か、太陽から殺意か何か感じるレベルで強い日差しが降り注ぐようになり非常に蒸し暑い日が続くようになってきた。

俺は素直に文明の利器に頼っているため室内は快適そのものであるが、一歩外に踏み出せばそこは灼熱と化したアスファルトが牙を剥く。

以前は土の地面だった為そこまで熱気を溜め込むような事は無かったのだが、拡張工事の思わぬ弊害である。


とは言え、こうしている間にも草は茂るもので、丁度昼下がりに暇になったので裏庭の草毟りを行なっていた。


裏庭には大きな屋根が無い為、日差しは容赦なく降り注ぎシャツを避けて肌を焼いている。

最初は耳障りだった蝉の鳴き声がいつしか慣れていき、今では無音の晴れた空を奏でるかのようだ。


ただ、耳を澄ませば何処からか騒がしい黄色い声が聞こえてくるのだが。


そして俺は草毟りは好きではないが、草を毟った後の光景を見るのが好きだ。

これ程分かりやすく“コツコツ積み上げる”事の大事さを体感できる事はないだろう。

しかし、どう言うことか去年に比べて今回はあまりにも草が少なかった。

去年は確か、半日以上は費やした筈なのだが今回は1時間足らずで殆どの雑草が視界から消えていたのだ。


毟った草の山もちょこんとした小山で、俺は何故か残念なような気がしていた。

いや、恐らく艦娘達が定期的に草を毟ってくれているのだからコレは喜ぶべきだな。


そんな事を考えながら、俺はお馴染みの麦茶のペットボトルの蓋を開けて、水分補給のために喉奥に流しこもうと口を付けた。


肉体労働の後の麦茶は何よりも美味い。

水分補給ならば電解質の物が良いのだろうが、俺は麦茶の方が好きだ。


しかし、その瞬間可愛い悲鳴により遮られた。


「あーーーっ‼︎」


「ぶはっ⁉︎」


虚を突かれた俺は思わず吹き出すが、声の持ち主は御構い無しに此方に詰め寄ってきた。


「ちょっと! なんでひとりでやっちゃうのよ!」


「い、雷か? ……前にもこんな事あったな」


「司令官、草毟りをするなら私達も呼びなさいよ!」


いつの間にか裏庭にやって来ていた雷が、まるで暁のようにぷんすかと怒っていた。

姉妹なんだなぁ、と感じるが、雷は妙に真っ当な理由で怒る時もあるから思想の差を感じる。

そんな雷は腰に手を当てて顔を突き出し、小さいながら目一杯の主張をしながら言った。


「それに麦茶よりポカリ飲みなさい!」


「麦茶好きなんだよ。それにポカリ程じゃないが麦茶も十分水分補給出来るぞ?」


「もう……、しょうがないわね。 ジュースよりずっとマシだから許してあげるわ」


「そりゃどーも」


そう言えば、去年は昼をおにぎりで済ませようとして怒られたっけな。

そんな雷は、あの時とは別の理由でご立腹のようであるが。


「草毟り、みんなでやればすぐ終わるのに、司令官ひとりでやっちゃうんだから」


「まぁ良いじゃないか。お陰でこうしてお前と駄弁る時間が出来たわけだ」


「司令官ってば言い回しが上手くなったわよね」


「そう言うお前も肝が座って来たな。 ……いや最初からそうだったか?」


俺がこの鎮守府に来てから1年。

艦娘達は精神的にも各々大きく成長してみせたが、その中でも第六駆の4人は目を見張るものがある。

見た目相応の言動であるが、思考は良い意味で不相応だ。


TPOを弁えている。ただそれだけで俺がどれ程救われているだろうか。


……いや、いかんな。

これでは艦娘に問題児が多いと言っているようなものでは無いか、改めなければ。

いや実際多いのかも知れない。


俺が複雑な葛藤に悶々としていると、雷が草毟りの終わった場所を見ながら話しかけてきた。


「この場所ってまだ手付かずの場所よね? わざわざこんな所まで、どうして突然草毟りを始めたの?」


「ん、ああ……、少し詰まってて気分転換にな」


「えっ? 司令官、何か悩み事?」


「そうかもな? 島風のバイクで色々考え巡らせている内に少し気になる事があってだな」


「気になる事って?」


「なんか艦娘は俺がゴーサイン出せば車やバイク運転しても良いみたいなんだよ。 全責任は俺に来るけどな」


運転免許の前提条件は義務教育を終えて最低限の社会適合性と責任能力を得ている事だ。

その為、年齢制限が設けられている。


そして、艦娘の身体は艤装がある限り成長しないらしい。

それでも代謝はしっかりと行われているので不思議な話であるし、道徳的にも物理的にも相当思う所はあるが今回は置いておく。


身体は成長しないが最初から最低限の知識を持ち合わせている上に学習する事が出来て、社会適合性を持ち合わせていると言えるだろう。


“見た目は子供、頭脳は大人”がまかり通るのだ、


なのでキチンと教育した上でなら運転させても良いと、宮本元帥が電話で教えてくれた。


思い返せば明石や大淀も船の操縦してるしな。


だったら運転免許の定期講習でも開催しようかと考え始めたら色々行き詰まってきてしまったと言う訳だ。

艦娘が欲しがる資格や学びたい事は運転だけに留まらず多岐に渡るだろうが、妖精の見えない人は鎮守府に入る事が出来ないので専門講師を雇う訳にも行かないし、かと言って全て俺が教えるのではいつか間違った知識を与えてしまう可能性がある。


その事を掻い摘んでダラダラと雷に話していたら、彼女は相槌を打ちながら親身になって聞いてくれていた。


「そうだったのね、確かに頭抱えちゃうくらい複雑な問題ね。 吹雪さんなら溶接の講習ちゃんと受けたいだろうし、フォークリフトもあれば便利と言っていたわ。 フォークリフトも特殊免許よね?」


「溶接とフォークなら俺でなんとかなるんだがな。 ちなみにお前は何か欲しい資格とかあるのか?」


「私? 私は看護師資格か介護福祉士の資格が欲しいわ!」


「おぉっと飛躍的に話が複雑になった」


看護も介護も取得に年単位の時間を費やす必要がある。

運転免許は生活に必要と誤魔化し通して、いつかの終戦後に正式な免許証を発行すれば良いのだろうが、4年間学校に通ったりなどして専門知識を蓄える必要がある資格はそうも行かないだろうし、確実に俺の手に負えるものでは無い。


「そ、その手の国家資格は終戦後だな……時間が掛かり過ぎる」


「大丈夫よ、大体22年以内に決着がつけば間に合うから」


22年とはまた具体的であった。

未来の事はわからないが、戦争が終わっているのかも知れないし、少なくとも今よりはずっと健やかになっている筈だろう。

深海棲艦が核兵器のような大量殺戮兵器を持ち合わせていなければの話であるが、それは考え難い。

これは艦娘にも言える事だが、どうにも深海棲艦の兵器は高性能とは言い難いからだ。

仮に高性能な兵器を搭載しているのなら、戦艦の類は姿を消すだろう。

現代の軍艦は装甲の防御力が意味を持たない程に搭載兵器の火力が凄まじく、大きな戦艦は的に変わるからだ。

砲弾ではなくミサイルが主流になった為だろうな。


それはとにかく、何故雷が22年と言ったのかが俺は気になっていた。


「やけに具体的な数値だな。 22年後に何かあるのか?」


「自衛官も司令官も定年は60歳よね? そしたら22年以内なら艤装を解体した後の身体の成長を加味しても司令官の介護が間に合うわっ!」


「うーん、ちょっと待って」


「どうしたの?」


「まるで俺が60超えたら速攻要介護者みたいな言い方だし、そもそもその為に資格をとるのかと言うツッコミも入れたいし、何より身体の成長を加味ってお前、俺がその事でどれだけ悩んだか……」


艤装がある限り身体の成長は止まると知った時、俺は居た堪れない気持ちで眠れない夜を多く過ごした。

特に暁の『一人前のレディ』を聞くたびに不憫に思い胸を痛めた。


だがコイツは空前絶後の発想で恐ろしくポジティブな捉え方をしている。

自分の身体が成人する頃には俺は手頃なご老体、前向きな姿勢は結構だが何か嫌だ。


そして何よりも雷が看護師資格や介護福祉士資格の存在を知っている事に戦慄を覚えた。


「うん、とにかくだな、俺はお前の将来まで縛る気は毛頭無いからな?」


「自分で決めた事よ? ずーっと一緒って言ったじゃない! もっともーっと頼れるようになるんだから!」


「国家資格は確かに頼もしいが理由がおかしい」


「おかしくないわ。 看護師資格があればもしもの時に堂々と付きっきりのお世話が出来るし、介護福祉士の資格があればお世話だけじゃなくて司令官専用の施設を運営出来るじゃない。 あっ、そうなったら経理のお勉強もしないと」


「専用の建築物は施設とは呼ばない!」


「そうなの? じゃあ不要ね!」


「そうじゃないだろう! 福祉社会に役立てるとか他に理由はないのか? 看護師資格も医療界でも相当重宝するだろう、そもそも医者の補佐だぞ?」


「何を言っているの? 資格って自分がやりたい事をする為に必要な物と言うだけで、やる事を縛るものでは無いはずだわ」


雷はたまに凄く鋭い事を言う。

中々どうして考えさせる事を言ってくれるじゃ無いか。

資格を取れば多くの人が苦労して取った資格に見合った事を探すだろう。

だがそれは視界が狭まっているとも言えるのではないだろうか?

運転免許を持つ人が全員ドライバーとしての仕事につくわけでは無いのと同じ様に、あくまでも1つの手段として目的を成し遂げる為の足掛かりにする事はよくある事だ。

雷の場合は、それがたまたま長い年月を費やす必要がある国家資格だったと言うだけではないか。


「成る程な……、資格と言う言葉に惑わされないのはいい事だ。 単なる出来る事の証明に過ぎないんだったなアレは」


「ふふん♪ 欲しいのは資格じゃなくて知識なのよ! 暁じゃあないけれど、沢山お勉強して立派な大人になるわ!」


「殊勝な心掛けだな。 ただ俺は老後までお前の世話にはならないからな?」


「もう! なんでよ!」


「その頃には俺の息子が出来ていて介護いらずかも知れないしな?」


「えっ? だったら後10年以内に戦争を終わらせてくれないと! 出来なくなっちゃうわ!」


「……今回は絶対に追求しないぞ」


雲行きが怪しいので俺は無理矢理話を中断させた。


今回わかった事。

艦娘は見た目以上に色々考えているのだという事だ。

そして資格も、俺の専門外の分野で暴走されると壮絶に困った事になると言うことが分かったので、鎮守府にいる間に取得出来る資格は俺の範疇で決めさせて貰おう。


あと万が一に備えて、隠居も視野に入れておこう。


そんな事を考えていると雷はこんな事を言い出した。


「でもね、司令官。 沢山ある資格も、司令官が私達に頼ればすぐに解決できる問題よ?」


「ん、どう言う事だ?」


「確かに何年も掛かる資格は難しいと思うわ。 だけど、それ以外なら出張と言う形で艦娘に受講して貰えばその後講師として周りに教える事も出来るでしょう?」


「ん……確かに……」


その通りだ。 そうすれば少ない人員で効率的に資格取得が叶うだろう。

厳密に言えば講師にも資格がいるのだが、鎮守府にいる間に限れば必要なのは“正しい知識”となり、それ以外の事は俺の管轄になる。


“本当に必要なのは正しい知識”、その考えが根底にあるからこそ雷はあんな突拍子も無い事を思い付いたのだろうが、今回ばかりは関心が上回る程だ。


「ありがとう雷、俺もまだまだ例外に染まりきれてないみたいだな」


「どう? うまく出来そう?」


「ああ、お前に相談して良かったよ」


俺がそう言うと、雷は満足そうな笑みを浮かべた。

八重歯が主張して何処かイタズラに見えるが、それでもとても優しい笑顔だ。


「それでね、司令官! 私他にも欲しい資格があるの!」


「なんだ?」


「栄養士と生活習慣アドバイザーと運動指導士! 最新の情報を取り入れて常に最適な生活を司令官に送ってもらえるわ!」


「一周回って地獄だろそんなん!」


「もう、なんでよぉ!」


「先ずは響で実験するんだ、答えがわかるだろう」


俺はこの日、初めて正しい知識が怖いと思った。

雷が栄養の知識をつけたなら俺は金輪際ラーメンとか食べられないかも。

そう考えてみれば、場合によって正しい知識と言う物はあくまでも指標であり、囚われずに適当に済ませてしまう事も大事なのかも知れないな。


もう少し、気楽に考えてみても良かったのか。


さて、そろそろ良い頃合いだな。

俺は頬を膨らませたままの雷に話し掛けた。


「食堂でアイスでも食うか、あっついしなぁ……」


「本当? じゃあみんなも呼んできていい?」


「おう、良いぞ」


「あっ、でもその前に司令官、ちゃんと手を洗うのよ。 草毟りして汚れてるじゃない!」


「わかったわかった」


コロコロと表情を変える雷は怒っている時すらも何処か楽しそうだ。

そう言う時だけは歳相応で可愛げはあるのだが、たまに怖い。


「やっぱり心配だわ! 私が洗ってあげる!」


そう言って雷は俺の手を取ると引っ張って歩き始めた。

もしかして、わざとやっているのか。

俺は何処か懐かしさを感じながら振り解こうとした。


「やめろって、そんな事をされたら末代まで笑い者にされてしまう!」


「私は笑わないわ!」


「そう言う問題じゃないんだよ!」


今回も雷は、食堂に着くまで離してはくれないのだろう。

色々な物に触れながら、やっぱり根っこは変わってないんだなと改めて感じた瞬間だった。






ベターデイズ

山城side






去年の夏とは違って猛暑日が続く7月末の事です。

午前の出撃任務で海上輸送線上に出現した深海棲艦を撃退する為に、私は旗艦として出撃しました。

任務は滞りなく遂行され、新人訓練を終えたばかりの蒼龍さんも一緒でしたが瑞鶴さんのフォローによりつつがなく終える事が出来ました。


そしてドックで報告を終えた私は提督からご褒美を頂いたので、その箱を両手に自室に戻って扉を開けながら声を弾ませました。


「ただいま戻りました姉さま! 提督からロールケーキを頂きました、早速食べましょう!」


「おかえりなさい山城。 その様子だと任務は上手くいったようね」


「はい、扶桑型の火力を持ってすれば洋上の有象無象など一撃です!」


私は言いながらロールケーキの入った箱をテーブルに置いて、切り分ける為の包丁とお皿の用意を始めました。

その間、扶桑姉さまはまじまじとロールケーキの箱を見ながら私に言いました。


「要冷凍……? 山城、これはロールケーキよね?」


「えっと、近所にオープンした洋菓子屋さんの“アイスロールケーキ”だそうです。 憲兵長から頂いたのを提督が皆さんに配っていたようです」


「あら、赤城さんが鎧袖一触する前に頂けたのね」


「ええ姉さま、赤城さんは商店街の椀子そばを食べに行っていましたので、今日はツイてますね!」


バイトで稼いだお金の9割が食費に回ると名高い赤城さんを前にすればこのロールケーキは跡形もなかった筈です。


切り分けたロールケーキを2人分のお皿に分けて、フォークで一切れ掬って口元に運びます。


「いただきます」


アイスクリームのバニラが冷気を纏って口内に広がり、生地も少し風変わりでモチモチとした面白い食感です。


「んんっ、姉さまコレ美味しいですね」


「そうね、食べた事の無い食感だわ。 この生地、まるでお餅みたい」


「近所の洋菓子屋さんでしたね、後で場所を聞いておきましょう」


そして暫くロールケーキに夢中になっていると、姉さまが私に言いました。


「そういえば山城、貴女最近“不幸”を口にしないわね」


「えっ? ……ま、まぁそうですね、卯月ちゃんのイタズラを除けばそこまで不幸に心当たりはありませんし」


「そうね、私もよ」


「いきなりどうしたんですか、姉さま」


「ねぇ山城、私達は本当にこのままで良いのかしら?」


「えっと、どういう意味ですか?」


「……私達、影が薄く無いかしら?」


姉さまは真剣な趣でそう言いました。

真相はとにかく、その思想だけは危険という事が私には分かります。


「ふ、扶桑姉さま、その発想は危険です! キャラ立ちを気にし過ぎた那珂さんが今どんな事になっているか知っていますよね?」


「ええ、一瞬だけ周りを賑やかした途端飽きられて消えていく一発屋の芸人みたいになっているわね」


「姉さまもう少し包んだ方が」


「それに提督は那珂さんを見ると目を細めて口を噤みますね。 前に秘書艦補佐を務めた時知ったのだけど、手付かずの書類の山が出て来た時も提督は同じ顔をしていたわ」


「流石扶桑姉さま、よく見ています。そして包んでいるようで包みきれていません」


「だって航空戦艦だもの、他に真似出来ない攻め口を常に用意しているものよ」


「攻撃の意思がお有りですか」


「何を言うの山城」


姉さまは影が薄いと言いますが、私達扶桑型の火力が叩き出すスコアはこの鎮守府の一航戦のお二人に並んで、時には上回る事も珍しくはありません。

ただ一航戦のお二人が成果を挙げると何かと騒がれますが、私達が同等の戦果を挙げても特に騒ぎもありませんでした。

姉さまはその事を気にしているのでしょうか?


「姉さま、戦闘面を見るに私達は間違いなく主力です。銀のブローチこそ持っていませんが、それでも影が薄いなんて事は無いかと思います」


「提督はここぞと私達を頼って下さいますからね、これ程名誉な事はありませんわ。 それに銀のブローチも、いつか上級訓練を実施するでしょうから焦る問題でもないわ……」


「では姉さま、現状の何処にご不満が……? お力になれるか判りませんが、この山城が扶桑姉さまの為に尽力致します」


私がそう言うと、姉さまは儚げに笑いました。


「なんて事は無いわ……、ただ……」


「ただ?」


「特に不幸が訪れない、それこそ不幸なのでは、と思っていただけよ」


「ね、姉さま⁉︎」


不幸が訪れない事が不幸なんてとんでもありません!

先程の“影が薄い”と言う発言から、まるで私達のアイデンティティが不幸そのもののようではありませんか。


「ふ、扶桑姉さま! そんな不幸を望むような言い方よろしくありません! 大本営にいた頃を思い出して下さい、私達は持ち前の不幸でどれ程理不尽な目にあっていたか!」


「大本営の敷地内を歩いていたら特に理由も無く犬に襲われたわね。 新品の靴を持っていかれたのを覚えているわ」


「そうですね、あの時は災害救助犬の謀反かと思いました」


「寮の隣人が川内さんでしたね」


「姉さま、それは人災です」


「この居住区の壁に施されている防音技術は素晴らしい発明だわ」


今は窓さえ開けなければ静かな夜を過ごせます。

高度の防音性を誇るこの部屋は、どう言う訳か映画館のように室内の音響効果も高めるらしく、音楽を流せば普段よりも綺麗に音が響くのだとか。

川内型の部屋はその音響効果によって、きっと世界中の鉄橋の下の騒音を一斉に解き放ったような破滅の音が響いている事でしょう。 事実夜中に近付く艦娘はあまりいません。

そして実際大本営の寮の管理人は『アポカリプティックサウンド』と例えてました。 意味はよく分かりません。


「とにかく姉さま、姉さまは突然不幸を感じていない事に気付いて驚いているだけですよ。 きっと今の日常は今まで不幸だった分の反動かも知れません、そう言うことにして受け入れましょう?」


「私も過去を振り返って自覚して驚いたのも確かだし、山城がそう言うのならそうかも知れないわね。 でもそう言う事なら少し試してみようかしら」


「た、試すって、何をするおつもりですか?」


「不幸の反動なら、これもきっと……」


姉さまはそう言いながら寝室からポーチを持って来て、目の前で財布を取り出しました。

私が何事かと眺めていると、財布から二枚折りにされたポイントカードを取り出し、目の前に翳してゴクリと唾をのみます。


「商店街にあるスーパーの福引きのポイントが貯まったの。 今の平和な日常が前の不幸の反動だと言うのなら、この福引きを回す事が出来るはずよ……」


「ね、姉さま……」


「ええ、わかっているわ山城。 大本営にいた頃の催しで触る機会があったけれど、あの六角形のガラガラ……抽選器と言うのかしら? 回した途端に軸が壊れて転がった挙句自壊して企画そのものを台無しにしてしまった事があったわね」


「私達が運試しをする事自体が間違っていたのだと思い知らされましたね……」


「でも今なら……、少なくとも残念賞のティッシュ箱くらいなら頂けるはずよ……」


「姉さま……っ! 運試しなのに最低を狙うなんて!」


そう言うわけで、私達はお昼に隣町の商店街に向かう事にしました。

鎮守府を出て海岸沿いの道を歩いて行けば無人の駅に着くので、そこから電車で行けばすぐ商店街に辿り着けます。


憲兵さんが1人跡をつけてますが、いつもの事なので気にしないようにしています。


彼等は世間と艦娘の間に問題が生じないように、有事の際に出て来て速やかに対処して下さるのです。

前に高圧的な男性に絡まれてしまった時、素早く駆け付けた憲兵さんは男性に肘打ちしたかと思えば、気絶した男性を引き摺って何処かへ行ってしまいました。10秒ほどの出来事でした。


その後男性がどうなってしまったのか私達は知りません。

興味も無いので良いですが。


ただ姉さまは現在私達の護衛を担っている憲兵さんが気になるようでした。

姉さまは電車の中で別車両にいるであろう憲兵さんの方角を見ながら言いました。


「堂々とそばに来てくださっても構いませんのに……」


「呼べば来るらしいですが、用事が無いと基本的に関与しませんから……。 事情があるのですよ、きっと」


対処法はとにかく、絡まれていたところを助けて頂いたその日の帰り際、お礼を言いに守衛室に向かったら憲兵さんは『知らない』の一点張りでした。

憲兵隊の方々は外で問題が起きても、その規模が小さければ対処法は“一般人同士のイザコザ”と言う事にして自分達は関与していないと言う体裁を保ちたいようです。


大人の事情と言う事ですね。


『艦娘が絡まれていたからその相手を殴って沈静化した』なんて普通に物騒ですからね。

いろんな意味で強かな人が集まる鎮守府です。


さて、商店街に到着しました。

私達の鎮守府近辺でもお買い物は出来るのですが、やっぱり買える種類も少ないので、こうして隣町の商店街にまで足を運ばせる艦娘は私達を除いても結構多いです。


特に服とか、装飾品なんか欲しい時はとりあえずここを見て回りますね。

お昼過ぎでまだ人の少ない路地を姉さまとお話ししながら歩きます。


「山城、折角商店街にまで来たのだから、福引きだけじゃなくて他のお店も見て回りましょう?」


「いいですね♪ 何か新しいお洋服とか……」


「流石に服までは……、水着も買ったばかりだし……」


「それもそうでしたね。 では小物を見て回りましょう」


と言うわけで、私達は歩きながら商店街の路地に点在する露店の棚に飾られたアクセサリーなどを見て回り始めました。


煌びやかなネックレスやイヤリング、ペンダントやお土産にお手頃そうな小物などが並べられていて、姉さまはその中で願いが叶うと宣伝されている星の砂が入った小瓶をまじまじと眺めていました。


「見て、星砂よ山城」


「そうですね姉さま」


「コレって本当は砂ではなくて小さな生き物の死骸なのよね」


「姉さま相変わらず縁起物には手厳しいですね!」


「何を言うの山城、私達が縁起物にどれ程騙されたか覚えていないの?」


「いいえ、忘れる筈もありません……!」


大本営に居た頃のお話です。

外に出れば犬に追われて、空を仰げば鳩が爆撃を仕掛けて、道を歩けば黒猫の群れが通り過ぎて行ったり、とにかくろくな事が無かったので私達は縋る思いで幸運を呼ぶとされる四葉のクローバーを探し始めました。

寮の庭でシロツメクサが自生しているので時間は掛かりましたが四葉のクローバーを見つける事が出来たのですが、その日の晩、別の寮に居た金剛型の比叡さんがカレーのお裾分けにやって来ました。

私達艦娘は何とか大丈夫でしたが寮の管理人さんは駄目でした。翌日別の方が管理人を引き継いでいました。


また別の日、私達は幸運の象徴とされる、エメラルドに美しく輝く玉虫が窓際の冊子に這っているのを見つけました。

虫は苦手だったのですが、玉虫はとっても綺麗で、扶桑姉さまと2人で窓際に寄って眺めていたのを覚えています。

ですがその瞬間、賢い筈のカラスが玉虫目掛けて捕食しに飛来して来たかと思えば、勢い余ってガラス窓に衝突、更に突き破って破片もろとも私達に襲い掛かりました。

幸いにも私達と、そしてカラスも怪我はなかったのですが、それ以来外に出ればカラスに襲撃されるようになりました。


とにかく私達は、縁起物のご利益にすがろうとすれば返って悲惨な目にあって来たのでした。


ですが今は何も起こっていないような気がします。

相変わらず縁起物には手を付けていないのですが、それを差し引いてもです。

扶桑姉さまもその事が気になるのか、そしてやっぱり一概の不安があるのか辺りを警戒しつつも星砂を眺めています。ちょっと挙動不審です。


「扶桑姉さま、それでも星砂が気になるようですね。 手に取って見てみては?」


「いえ……、綺麗ですが辞めておきましょう。 手に持った瞬間小瓶が割れそうだもの」


「そ、そうですか、でしたらコレはそっとしておきましょう」


露店の店主さんには申し訳ないのですが、私達は星砂から離れて再び路地を歩き始めました。

そして私は浮かび上がって来た疑問を口にします。


「でも縁起物と言えば、普段の食事でも頻繁に出て来ていますよね、提督が良く季節物を仕入れてますし」


「それもそうね……、やっぱり提督には何かあるのだと思うわ。 こう、厄を払い除ける力が……、それとも……」


「それとも?」


「いいえ、なんでもないわ……」


そう言って姉さまは楽しそうな笑顔を見せました。

どうしてかは判りませんが、この時私は姉さまが何故私達に不幸が訪れないのか気が付いたような気がしていました。


それから私達は少し歩いてお目当てのスーパーへと辿り着きます。

ここのスーパーは少し規模が大きくて、お惣菜やパンなど食品、消耗品など生活必需品に留まらず、ケーキやアイスクリームなどのスイーツから、ちょっとした衣類や電化製品までも幅広く販売していて、大抵の物はここで揃ってしまう程の品揃えなので利用している艦娘は多いと思います。


ポイントカードを発行すると買い物額に応じてポイントが貯まって行き、一定ポイント毎に福引きを引けるサービスまであります。

常に開催しているサービスなので景品はそこまで豪華なものではありませんが、ポイントが間近なら少し買い足して福引きを行おう等と考える程度には販売促進はある気がしますね。

その景品も月毎で入れ替わるのでかなり力の入ったサービスだと思います。


姉さまはサービスカウンターでポイントカードを提示して福引券を受け取ると、先ずは景品一覧の一番下の欄をひと目見て私に声をかけました。


「残念賞はティッシュかと思ったけれど、今回は好きなペットボトルジュースを1本選べるのね。山城、ツイているわね」


「ね、姉さま……確かにティッシュなど生活必需品は常に配給されているのでお気持ちは判りますが、最初から残念賞を引くつもりなのはどうかと思います」


「そうだったわね、抽選器が壊れない事を祈りましょう」


「姉さま……」


何処までもハードルが低い姉さまは、そのままサービスカウンターで抽選器の取っ手に手を掛けました。

そして覚悟を決めた表情で取っ手を回し始めました。


カラカラ、ジャラジャラと軽快な音を立てて回り始めた抽選器はやがて赤色の玉を弾き出します。

サービスカウンターの店員さんが、その赤色の玉を拾い上げて言いました。


「二等ですね、おめでとうございます」


その言葉が耳に届いた瞬間、姉さまは目を丸くして私を見ました。


「や、山城……!」


私も嬉しくなって声を弾ませて返事をしてしまいました。


「や、やりましたね扶桑姉さま!」


「ええ、こんな日が訪れるなんて夢にも思わなかったわ……!」


「これも全て姉さまの日頃の行いのお陰ですよ!」


私達が手を合わせて喜びを分かち合っていると、店員の方がわざわざカウンターを出て景品を持って来て下さいました。

そして姉さまに発泡スチロールの箱を差し出しながら言いました。


「あ、あの……お取り込み中すいません。 こちら景品の“蟹しゃぶセット”になります」


「か、蟹しゃぶ……?」


「もうお買い物はお済みですか? まだでしたら冷凍品なのでコチラでお預かりしておきますが。 勿論、宅配も承りますよ」


「えっと、あの、少しお待ちください」


扶桑姉さまは一旦断りを入れて私の方へ身体を向けました。


「や、山城、どうしましょう」


「想像よりずっと高級品でしたね……」


「……皆も食べたいと思うわよね……」


鎮守府の皆で食べるには量が少な過ぎますし、かと言って、こんなに良さそうな物をコッソリ頂くのも忍びないような気がします。

部屋にはお鍋もありませんから食堂で借りる必要がありますし、そうなったら当然注目を集めますからね。


スイーツとか手軽に食べられて間食で間に合う物ならともかく、こんなにしっかりしたご飯です。

因みに一等は和牛ステーキセット、三等は特産果物ゼリーの詰め合わせでした。


私達が話し合っていると、様子を見ていた店員の方が申し訳なさそうに言いました。


「これは失礼致しました、お客様は大変お若そうですし……、少々お待ちください」


「え、あの……」


そう言って店員さんは発泡スチロールの箱を仕舞うとカウンターを出て走って何処かへ行ってしまいました。

今度は姉さまが申し訳なさそうなお顔をしています。


「私、お店の人に迷惑をかけてしまったのかしら……」


「ね、姉さま大丈夫ですよ」


落ち込む姉さまを励まそうとした時、先程の店員さんが女性の店員さんを連れて戻って来ました。


「お待たせ致しました。 お客様さえ宜しければ、コチラの景品と同額分のスイーツと交換と言うことも出来ますが、如何でしょうか?」


「交換の時はお手数ですがお店の外に回ってスイーツ売り場まで移動して選んで頂けませんか?」


「えっ……、宜しいのですか?」


「はい、同列のお店なので何の問題もありませんよ」


まさか景品を交換して頂けるなんて思っていなかったので驚きです。

普段やらない運試しのつもりで足を運ばせただけだと言うのに、こんなにも手厚い対応をして頂けると私まで申し訳なくなってしまいます。


サービスカウンターの店員さんの提案を喜んで受け入れた私達は、女性の店員さんに連れられて、スイーツ売り場へと足を運ばせました。


テレビでも紹介された事のある売り場なだけあって本当に種類が多くて決めるのに時間が掛かってしまうので、その女性の店員さんにお願いしてオススメを適当に袋に包んでいただきました。


そして、その帰路に当たる電車に乗って私達はその事を振り返ります。

姉さまは電車に揺られながら機嫌良さそうに話します。


「ふふふ、“スペシャルプリンサンド”は楽しみね」


「はい姉さま、しゃぶしゃぶは流石に手間が掛かりますし、鎮守府で食べるには少し無理がありますからね……」


「でもやっぱり何だか悪い気がしますね、お金も払っていないのにこんなに……」


「け、景品ですから良いんですよ。 姉さまは気にしすぎです!」


「でも食べ切れるかしら」


「でしたら提督と……駆逐艦の皆さんも喜びそうですし、お裾分けしましょう」


「そうね、そうしましょう。 後は憲兵の方にもすこし分けたら喜んで頂けるかしら?」


「暁ちゃんからマックスコーヒー頂いてますし、憲兵の皆様もきっと甘いのが大好きに違いありません」


「それを聞いて安心したわ……、帰るのが楽しみね」


「はい、姉さま」


ふと、姉さまは意外そうな表情を浮かべていました。

そして口にした言葉をもう一度呟きました。


「“楽しみ”……」


「姉さま?」


「……山城、私は思うことがあるの」


「どうしました?」


「きっと、不幸が訪れないのも、理由があるのだとしたら……」


姉さまは言葉を区切って、私の目を見て言いました。


「些細な不幸などまるで感じさせないほど、今が幸せなのだからだと思うわ……」


「姉さま……」


「帰れば笑顔の皆がそこにいるの。 騒がしくて落ち着きがなかったり、素直じゃなくてそっぽを向いてしまったり、人それぞれだけど、皆はこのお土産で喜んで頂けるかしら」


「きっと大喜びですよ、姉さま」


「こんなに明るい未来が簡単に想像出来る……。 幸せね、山城」


「はい、幸せです、扶桑姉さま」


今でも転んだりしてツイてないと思う日もあります。

他にも卯月ちゃんに執拗に狙われたり、割り箸が横に割れたりだとか、水溜りを踏み抜いて泥が跳ねてしまったりだとか、大きなスズメバチに遭遇したりだとか、毎日が最高という事はありませんが、今日みたいに素直に幸運だったと思える日もたまにあります。


姉さまは過去の経験から縁起物には疑いの目を向けますが、とある縁起の良い言葉だけは信じているのだと思います。

私達が不幸だと感じないのも、そして或いは本当に不幸な事が起こっていないのかも知れないと感じる事も、その言葉だけで証明できる気がするからです。



“笑う門には福来る”ですね、姉さま!







◇End




後書き

文字数限界につき本パートはここで〆ます!
長く間が空いてしまったりしましたが、ここまでお付き合い頂き本当にありがとうございました!

本当は某黒いクールガイ使って爆発オチにしたかったのですが脈絡なさすぎたのでやめました。

そして毎度の事ですが、応援や評価、オススメをして下さった方々、本当にありがとうございました。

とても励みになりますし、拙いながら少しでも良い文章にしようと言う気持ちになります。
それでも相変わらずの文章力で至らないばかりですが……。
勿論、コメントも一つ一つ大切に読ませて頂いてます!

誤字や脱字が多くて読み難い文章ですが、今後ともよろしくお願い致します!






※現在鎮守府に所属する艦娘一覧

暁、響[Верный]、雷、電
吹雪、初雪、白雪、叢雲
夕立、時雨、島風、朝潮、不知火、曙、卯月

川内、神通、那珂、天龍、龍田、北上、大井

高雄、愛宕、青葉、鈴谷、利根

扶桑、山城、金剛、榛名、大和、長門

鳳翔、龍驤、赤城、加賀、瑞鶴、翔鶴、蒼龍

伊58、伊19、伊168

大淀、香取、鹿島、間宮、明石

計48隻(内、3隻が派遣)


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1: SS好きの名無しさん 2019-08-10 18:14:38 ID: S:y6Daqn

楽しみにしてました!物語の続きが読めることに感謝です!

2: りぷりぷ 2019-08-10 19:06:47 ID: S:MBMppi

コメントありがとうございますー!

またマイペースに投稿していくので、よろしくお願いします!

3: SS好きの名無しさん 2019-08-10 19:52:59 ID: S:i2jw-_

油断してた‼(゜ロ゜)
前の作品が完結した時、続きを書くかは分からないとあったから、書くとしても暫くは更新されないだろうと思ってたが、始まってるやんけ(* ̄∇ ̄)ノ
うぉっしゃー、また楽しませて貰えそう( ・∇・)

4: りぷりぷ 2019-08-10 19:57:02 ID: S:FMo2dO

コメントありがとうございます!

ちょっと特殊な番外編がありまして、そちらは公開するか迷ってましたので……(5.5のお話です

ややこしくて申し訳ありませんでした!
そしてコレからもよろしくお願いしますー!

5: SS好きの名無しさん 2019-08-10 21:21:09 ID: S:-2DWuR

まさかの続編❗期待!!!

6: りぷりぷ 2019-08-10 21:53:48 ID: S:kg7QfI

コメントありがとうございます!
頑張りますー!

7: SS好きの名無しさん 2019-08-11 17:59:53 ID: S:sTPryw

いや~青いの苦労しとるなぁ頑張ってや(笑)
赤いのが出ると、笑わせて貰えて楽しい。
しかし、赤いののカッコいいセリフを上手い事、食に結びつける作者も見事ですヽ(・∀・)ノ
赤い彗星(笑)(*´∀`)なら青い方は、青い稲妻なんてどうかな(笑)

8: りぷりぷ 2019-08-11 19:11:57 ID: S:bmuaXC

コメントありがとうございます!

創作で良くある
『主人公のひと言で流れが変わる』
と言う展開を考えていたら、こんな話が出来てしまいました。
提督の余談から「あ、勝ったな」って感じて頂けたら大成功です!
青い稲妻はカッコ良さそうですな……。
ちょっと加賀さんの異名も真面目に考えてみますか……。

9: りぷりぷ 2019-08-12 21:04:52 ID: S:bFPCc9

おススメありがとうございます!
頑張ります!

10: SS好きの名無しさん 2019-08-13 01:17:55 ID: S:1vHMnC

"『小さな小物』を作る"

落ち着いて吹雪ちゃん

11: りぷりぷ 2019-08-13 11:23:01 ID: S:ugx3Ou

コメントありがとうございます!

作者が「小物入れ」に念頭を置きすぎてポカしたようです……
ご報告ありがとうございましたー!

12: 50AE 2019-08-14 20:06:39 ID: S:G-SbI0

全火力、敵が土下座で命乞いしそうです。
だって、提督さんとの愛を引き裂こうとするなら・・・。

りぷりぷさんも台風にはお気をつけて。

~台風+投稿された話で思いついた事~

台風で出撃無し+サバゲーフィールド使用不可

昼に夜戦コールするようになった川内さんが叫び始める

那珂ちゃんはアイドル+川内型の末妹

アイドル&川内型の血が騒いだ那珂ちゃんが猛烈な台風の中
TMRごっこを始める

上下2人の狂乱にキレた神通さんが台風の比ではないカミナリを落とす

13: りぷりぷ 2019-08-14 21:35:51 ID: S:oRqI8c

コメントありがとうございます〜!

まじめに軍艦44隻密集してると考えると過剰戦力にも程がありますからね……

そして那珂ちゃんがあのコスチュームを着るのは見たい気もしますね。
生足魅惑な那珂ちゃん……はとにかく、那珂ちゃんアイドルネタはいつかやりたいと思ってます!

14: SS好きの名無しさん 2019-08-16 15:52:03 ID: S:4FpwcN

次回は水着回か‼️

15: りぷりぷ 2019-08-16 16:39:50 ID: S:_zmYSI

コメントありがとうございます!

次回は水着……と言いたいところですが、一悶着あるようです。
ただ今、間食が増えてしまって何かと不憫なあの艦娘目線の構想を練っております!

16: SS好きの名無しさん 2019-08-16 20:10:37 ID: S:21hniK

次回は水着ですね!

17: りぷりぷ 2019-08-16 21:04:51 ID: S:LYTozJ

コメントありがとうございます!

次回は1/3ほど水着回かも知れません……!

18: SS好きの名無しさん 2019-08-16 23:02:02 ID: S:nqch3D

10分の1でも、大丈夫です♪

19: りぷりぷ 2019-08-16 23:37:11 ID: S:9g8A10

コメントありがとうございますー!

皆さん水着大好きなんですね!!!
只今の構想上ですと、次回は篠原の通知から海水浴に行き着くまでの1週間に当たるお話を予定しております!

20: SS好きの名無しさん 2019-08-17 20:01:31 ID: S:4-kaVZ

加賀さん、律儀に相方がゴネたからって上級訓練参加しないなんて。
ブローチを貰ったのは、川内と鳳翔さんの他は誰だ。まあその内の一人は神通だろうな。

21: りぷりぷ 2019-08-17 21:42:22 ID: S:xbhEe_

コメントありがとうございます!

上級訓練に関しては次の回で少し触れますすので、そこで何か分かるかと思います!

ブローチ貰った人も追々明らかにしていくつもりです!

22: SS好きの名無しさん 2019-08-19 19:58:33 ID: S:iSzUEI

ヤベェ、口の悪い赤青コンビ良いな(*´ω`*)
い、いや、べ、別にMってわけじゃないんだからね(〃ω〃)

23: りぷりぷ 2019-08-19 21:19:17 ID: S:fKRkeH

コメントありがとうございます!

普段大人しい人がいきなり暴言吐くとインパクト強いですからね!

綺麗な一航戦の姿もお見せしたいのですがどうしても食で〆ちゃいます…

24: SS好きの名無しさん 2019-08-19 21:31:14 ID: S:ORg0qL

断食とドブのくだりで腹抱えて大笑いしました!
埃は汚泥と一緒にドブで涼んでな!

25: りぷりぷ 2019-08-19 23:35:28 ID: S:KLdvOj

コメントありがとうございます!

埃かも知れませんが一応彼女も鎮守府のエースなので暖かい目で見守って下さい!

26: SS好きの名無しさん 2019-08-23 07:00:41 ID: S:A_rpel

ついに海水浴回が!どんな面白ハプニングが起こるのか楽しみw

27: りぷりぷ 2019-08-23 16:49:22 ID: S:GcfNJX

コメントありがとうございますー!

多分ですけど健全な海水浴になる予定ですよっ!

28: SS好きの名無しさん 2019-08-24 20:25:45 ID: S:FJOyFI

海水浴回なのに笑った。
大淀の腹黒さよ。ハプニングを期待される扶桑姉妹に翔鶴。操られる鹿島。そして、とりあえず置いとかれるズイズイ。
金剛。フンドシはジャパニーズ水着ではなく、ジャパニーズ下着だ(笑)。
ぱんぱかぱーんしちゃうゾ🎵の愛宕、恐ろしそうだが見てみたい。
今回はマジで楽しかったヽ(・∀・)ノ

29: りぷりぷ 2019-08-25 10:51:55 ID: S:CSooMW

感想ありがとうございます!

ネタはありますが時間がない日々が続いております……
9月になるまで多忙な予感なので更新遅れ気味です、お待たせして本当に申し訳ないです(汗

30: SS好きの名無しさん 2019-08-31 20:01:24 ID: S:FE13J6

赤いブラックホール、いい得て妙だな(笑)
一航戦漫才、確かに面白。

31: りぷりぷ 2019-08-31 21:36:34 ID: S:Y8_OTT

コメントありがとうございます!

全く関係ありませんが、私はブラックホールに物凄いロマンを感じます……。

重過ぎて空間壊れるとか凄い(語彙力

32: SS好きの名無しさん 2019-09-10 11:59:58 ID: S:_ptTsU

待ってました‼️忙しい中ありがとう‼️

33: りぷりぷ 2019-09-10 22:49:09 ID: S:b5v0i_

コメントありがとうございます!
文字数も増えて遅れがちですが頑張っていきます!

34: SS好きの名無しさん 2019-09-14 20:20:27 ID: S:oU24Jb

今回の一航戦漫才も面白かったよ(  ̄▽ ̄)

35: りぷりぷ 2019-09-15 07:40:14 ID: S:LhFE7i

コメントありがとうございます!

カッコいい一航戦を書きたいです……。

36: 50AE 2019-09-18 19:57:03 ID: S:_BxV26

他作者さんの作品を見ていた時、ふと思い出したことですが・・・

ここの提督さんは優秀+しっかり者
取れた制服のボタンを自分で付けて雷ちゃんがヘソ曲げた

提督さん、雷ちゃんのこと少し頼ってあげないと、そのうちこんな感じになりそうですよ。
参照:seiga.nicovideo.jp/seiga/im6938297

37: 50AE 2019-09-18 19:58:51 ID: S:g6ZJdP

他作者さんの作品を見ていた時、ふと思い出したことですが・・・

ここの提督さんは優秀+しっかり者
取れた制服のボタンを自分で付けて雷ちゃんがヘソ曲げた

提督さん、雷ちゃんのこと少し頼ってあげないと、そのうちこんな感じになりそうですよ。
参照:seiga.nicovideo.jp/seiga/im6938297

38: 50AE 2019-09-18 19:59:45 ID: S:427-nG


申し訳ありません。ミスで二重投稿になってしまいました。

39: りぷりぷ 2019-09-18 22:45:58 ID: S:yJzy5o

コメントありがとうございます!

雷ちゃんを執筆中に雷ちゃんのコメント頂いたので少し驚きました!

私も他の作者様の作品を拝見して思うのですが、私の書く雷は他と何処かベクトルが違うような気がしてなりません……。
“お節介焼き”と言う印象が一人歩きしてしまった感じがしてますが、このまま行かせて頂きます!

あとリンクの絵可愛いですね!
頼られたい駄々っ子も大変よろしいです!

40: SS好きの名無しさん 2019-09-21 20:21:29 ID: S:i9C6s5

この作品の雷ちゃんに世話されたい(*´ω`*)

41: りぷりぷ 2019-09-22 09:05:29 ID: S:zQvlr4

コメントありがとうございます!

家政婦或いはメイドよろしく衣食住でお世話するお節介な子が雷だと思っていて、まさか膝枕だとか耳掻きだとかバブみ的な事をする提督は居ないだろうと思っていましたがそんな事はありませんでしたね!
むしろそっちが普通なんですね!

少し違うかもですが、好評なようで良かったです!


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1: SS好きの名無しさん 2019-08-11 23:38:19 ID: S:KeFm8H

期待を込めて❗

2: SS好きの名無しさん 2019-08-12 20:49:15 ID: S:kXu0Vh

毎度上手い事キャラの特徴が出て面白い(*´∀`)


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