信義と共に 5【日常編】
信義と共にⅡの舞台からあまり時間が経たない世界から始まる日常編となります。試験的に色々な書き方をしていこうと思います。
完結しました。
この作品は前作 信義と共にⅡ の舞台からあまり時間が経たない世界から始まる日常編となります。
また設定や登場人物の背景など前作から全て引き継いでおりますので、初見の方は最初から読んで頂けると幸いです。
※下のリンクから飛べます。
毎度、表現力に乏しい文書が続きます上に、色々書き方を変えてみたりして、お見苦しい文書となりますが、お付き合い頂けたら幸いです。
前作
最初から
篠原side
季節は流れて3月に入り、まだ冷たい風が吹く中で、赤い花が花壇を彩り、何処か暖かな日差しが春の兆しを感じさせる、そんな日和。
俺は新たな問題に直面していた。
「ヘーイ提督ゥ! ティータイムの時間だヨー! 榛名がマカロンも焼いたヨ!」
「よ、宜しければ召し上がってください!」
「大井っち〜、お煎餅取って〜」
「はい、北上さん!」
「今日は胡椒煎餅じゃ、少し辛いぞ?」
「鈴谷的にクッキーの方がいいかなー」
賑やかだろう? ここ、執務室なんだ。
3月頭に建造を行なったら金剛の姉妹艦の榛名が現れた。 榛名は大人しい子で、俺は最初こそ金剛のブレーキ役になるだろうと思っていた。
だがしかし、この娘は金剛の自制を促す所か背中を押し始めたのだ。
「今日はストレートティーだヨー!」
「流石お姉様です!」
何が流石なのだろうか、俺にはよく分からない。
とにかくこの様に、金剛が何をしようにも「流石お姉様です! 榛名感激です!」と榛名は言うのだ。 その事により金剛の積極性に磨きが掛かってしまった。
デスクの正面で存在の主張を続ける金剛から視界を外せば、北上、大井、利根、鈴谷がソファーを占領して煎餅を齧っている。
いや、まぁ、ここで寛いでくれるのは構わないのだが。 ちょっと入り浸り過ぎでは無いかな?
第六駆の面子だって仕事中は自重してたぞ。
そんな事を考えていると、金剛が紅茶の入ったティーカップをデスクに置いた。
「どーぞ! 私のBurning Loveが詰まった紅茶デース! 火傷しないようにネ!」
「あ、ああ……、ありがとう」
「は、榛名のマカロンもありますよ」
「ああ、頂くよ」
俺は紅茶に手を付けると、金剛が横から顔をのぞいてニコニコと笑っている。 凄く飲み辛い。
気を落ち着かせてカップを口に近付けてひと口飲むと、程よい熱さの紅茶の味が口内に広がった。
「美味いな、それに香りも良い」
「Really? 良かったデース!」
冗談抜きで紅茶は美味かった。
紅茶の色もよく出ているし、口当たりもまろやかで柔らかくとても飲みやすい。
コレだけだったならありがたいだけで済むのだが……。
「提督ゥ、提督のCry of the Burning Loveを近くで聴きたいデース!」
これだ。
前に俺は泊地棲姫への挑発材料として、世界を愛している、と叫んだ。
もう完全に俺の黒歴史。 思い出すだけで俺は大丈夫じゃないです。 振り返さないで欲しいんだけど。
あの時は駆逐艦と明石しか連れていなかったので、他の艦娘達は映像記録からその事を知った訳なのだが、金剛はその場で聞きたかったと駄々を捏ねているのだ。
映像は大本営の命令により抹消されているのが唯一の救いか。
「俺は簡単にそんな台詞は吐かないぞ?」
「ブー、イケずデス」
金剛は拗ねたように口先を尖らせる。
やり取りはここで終わって後は健やかなお茶の時間と思えるのだが、大体いつもここで大井が介入するのだ。
彼女はソファーに座ったまま顔だけこちらに向けて鋭い目付きで話し掛ける。
「何イチャついてるんですか?」
「いやイチャついて見えるのか?」
「オフコース! 提督見せ付けてやりまショー!」
「やめろ!」
大井が妙な煽り方をすると金剛は再起動する。
腕を絡めてしなだれかかって来た為、危うく紅茶を零しかけた。
更にそこへ悪巧みするような笑みを浮かべた北上が大井を煽り始める。
「あっれぇ〜、大井っちてばジェラシー?」
「なっ⁉︎ ち、違います! ただ執務中にベタベタしているのを指摘しただけです! それに私は北上さんひと筋ですから!」
「煎餅が不味くなるから騒がんでくれんかのぅ……」
「榛名さん鈴谷にもマカロンちょーだーい」
「はい、どうぞ!」
この圧倒的マイペースっぷりは何なのだろうか。
大井は大井で、北上がやって来ても相変わらずと言うか、場合によっては北上が着任する以前よりも喧しくなるし、金剛も榛名の登場によりアプローチが激しくなった。
姉妹艦が揃うと言うことは、その艦の個性が更に強く現れてしまうと言う事なのだろうか。
俺は現在のひとりっ子を思い返してみる。
朝潮と不知火はまぁ、大丈夫だろう。曙は多分叢雲ポジションだろうな。
青葉は……どうなるんだろうか。 榛名の様に背中を押す姉妹艦だった場合は目も当てられない事になり得る。
利根は今のところ常識人だから安全そうだな。ただ少し抜けているのか頬に食べカス付けたまま出歩いてたりする。 妹が世話を焼くタイプなら安心だな。
鈴谷はそんな利根を追い掛けてか最近執務室に来るようになったので要観察か。 姉妹艦もまだ想像付かない。
大和は……、すまん。 多分お前の姉妹艦の着任はかなり遅くなるだろう。
と言うより、姉妹にも関わらず性格はバラバラな事が多くて誰か1人を基準にするのはまるでアテにならない。
仮に強い個性を持った艦娘の姉妹艦が揃ってしまうと、いよいよ俺の裁量を突破するかもしれない。
「ヘイ提督ゥ! おかわりもあるヨー!」
「は、榛名のマカロン……」
「わ、わかったわかった、是非頂こう」
榛名がとても寂しげな眼で催促している気がするので、俺はマカロンを口に運んだ。
ちゃんとマカロン生地が出来ていてサクッとした歯応えで、中は柔らかくて甘い。
俺も作ったことがあるが、初心者だと中々この食感は引き出せない筈だ。
「おお……凄いな。 マカロン生地は難しい筈なのによく出来ている……。 うん、美味しいぞこれは! 甘過ぎないチョコ風味なのもポイントが高い……!」
「ありがとうございます! そこまで褒めて頂けるなんて、榛名感激です!」
「グッジョブ榛名! 頑張った甲斐があったネ!」
「ははっ、金剛型はみんな料理が上手そうだな。 残りの姉妹艦が来るのが俺も少し楽しみになってきた」
「……」
「オゥ……」
何故いきなり真顔になるのだろうか。
俺は2人の顔を交互に見ると、2人は目を逸らしてそれぞれ明後日の方向へと視線を向けていた。
「榛名は大丈夫です」
「オ、オフコース!」
これで姉妹艦の中にとんでもない奴が潜んでいる事がわかった。戦艦レシピを回す時は覚悟しておこう。
まぁ、例の離島泊地のお陰で2月の資材は大赤字となり、3月の建造は1回でお終い。
次の建造まで俺の心を鍛えておけば、多少個性が強くても何とかなるだろう。多分。
三十路でも 気持ちだけなら 二十代。
うむ、いい川柳。
しかし、そんな俺の健気な心構えをへし折る様な奴が現れてしまった。
「卯月でっす! うーちゃんと呼ばれてまっす! よろしくぴょん!」
「近海警備中に浮かび上がって来たので保護しました」
俺の鎮守府では初となる睦月型、その4番艦駆逐艦の卯月が朝潮に連れられてやってきた。
神通のお供付きで試験的に旗艦を務めた朝潮の艦隊が保護した、近日報告されるようになったドロップ艦であろう。
「司令官にぃ〜、敬礼っぴょん!」
卯月はウインクをしながら左手を腰に当てて、可愛く敬礼してみせた。
見てわかるこの戦闘力。今の俺はどんな顔をしているだろう。
果たして二十代だったとしても彼女のテンションについて行けるだろうか。
きっと大丈夫だ、俺は遊びに関して無限のスタミナを見せる夕立の相手をして来たんだ。
「俺はここの提督の篠原だ、よろしく頼む」
「あっ! 美味しそうなお菓子があるぴょん! うーちゃんいただきぃ!」
卯月はデスクの上のお皿に並べられたマカロンを手にして、大きく開けた口に放り込んでいた。
これはマズイ、話を聞かないタイプの個性派だ。
「こ、こら卯月! せめてひと言……」
「お煎餅もあるっぴょん!」
「な、なんじゃお主っ⁉︎」
「うわっ、何この駆逐ウザい!」
「マカロンとお煎餅で〜……、オマカセロンだっぴょん! ぷっぷくぷぅ〜っ!」
俺の制止を振り切った卯月は胡椒煎餅でマカロンをサンドして恭しく両手のひらで掲げていた。
作り手に対して余りに酷い仕打ちとネーミングセンスに榛名は顔を青くして狼狽えている。
「は、榛名のマカロンがぁぁぁ……」
「Stop it!! やめるネ! 折角の風味が台無しになりマース!」
「卯月とやら! 食べ物で遊ぶでない!」
「ちょっとやり過ぎだよねぇ……」
「イタズラは楽しいぴょん! うーちゃんは誰にも止められないっぴょーん! ぷっぷくぷぅ〜〜っ‼︎」
過去類を見ないモラル崩壊っぷりに、俺は頭を抱えた。
そのまま朝潮の方へ顔を向けて見ると、彼女は白目を剥いて絶句していた。 朝潮のこんな表情初めて見た。
それでも俺の視線に気がつくと素早く取り繕って、姿勢を正した。
「朝潮」
「はっ」
「もと居た場所に返して来なさい」
「了解しました!」
朝潮は卯月を捕まえようと駆け出すが、卯月は身軽に身体を翻して腕から逃れる。
「うーちゃーんは誰にも捕まらないっぴょん!」
そう言って卯月が出口から飛び出そうと扉に手を掛けた所で、不意に扉が開かれて現れた人影とぶつかり、尻餅をついていた。
「うやぁっ⁉︎ 痛いっぴょん……、うーちゃんに何するぴょん!」
「ほう……、随分と元気の有り余る艦娘がやって来たようですね」
「な、何だっぴょん……」
卯月が見上げると、そこには笑顔の神通が立っていた。
恐らく、この執務室で誰もが彼女の事を待ち望んでいただろう。 俺にも後光が差して見える。
神通は尻餅をつく卯月の前に屈み込むと、笑顔で語り始めた。
「武士道には鉄拳制裁は御座いません。 忠告を聞かずに未熟のままであれば、その分修行で苦しむ事になるからです」
「し、修行ぴょん……?」
「元気が有り余ってそうですので、今から新人訓練を行いましょうか。 安心して下さい私と二人きりですよ?」
「ひ、ひぃっ⁉︎」
その1週間後、新人訓練を終えた卯月は瞳孔が開きっぱなしな眼で
『至誠に悖とる勿かりしか、言行に恥づる勿かりしか、気力に缺くる勿かりしか、努力に憾み勿かりしか、不精に亘る勿かりしか』
『人の一生は重荷を負って行くが如し、堪忍は無事長久の基、己を責めて人を責むべからず』
などと呟きながらドラム缶を抱えて佇んでいたが、入渠させたら普段の卯月に戻っていた。
あと悪戯は治らなかった。
イ級side
やぁ、みんな。 オレの名はイ級。 フフフ、怖いか?
黒光りするヤバい奴、泣く子も黙る深海棲艦と言えばオレの事。
オレはかつての海を駆ける戦士の1人であったが、田中の奴に隠していたチョコを勝手に食べられた直後、空襲による爆発で海の藻屑となった。
そんな身の毛もよだつ恐ろしい怨みが形となった漆黒を纏う絶望の化身、田中は絶対に許さない。
オレは今、後輩のイ級と共に斥候の為に日本近海に接近している。
何でもヤベー鎮守府があるらしい、なんでも戦艦をワンパンするとか、連合艦隊で押し寄せても手も足も出ないとか、そんなデタラメな噂が蔓延っていやがる。
オレ達2人組は、その噂の真相を確かめる為に派遣された、超精鋭部隊って訳よ。 どうだ、凄いだろう?
そして威風堂々と近海に接近し掛けた所で、後輩の奴が妙に騒ぎ出しやがった。
『あ、兄貴! 艦娘の奴等がやってきたっス!』
『オレ達は泣く子も黙る深海棲艦。 黒くて硬くてクールなタフガイさ。 艦娘ども相手にビビってんじゃねーよ』
オレの魚雷は一撃必殺。 どんな奴でも粉微塵だぜ?
『流石兄貴ッス! マジ尊敬ッスよ!』
『ふっ、惚れんなよ?』
艦娘どもはたったの3隻。 おいおいオレを舐めてんじゃねーのか?
ケッ、侮ってくれちゃってよう、特に真ん中の鉢金をした奴、アイツの眼は気に入らねぇぜ。
その綺麗な顔、オレの主砲でぶっ飛ばしてやんよ。 楽勝だぜ!
『ぐわぁぁぁぁぁぁーーッ‼︎』
その直後、後輩の奴が至近弾を喰らって悲鳴をあげた。
『こ、後輩ーーーーッ⁉︎ 馬鹿な、至近弾で一撃だとぉッ⁉︎』
『あ、兄貴ぃ……! 最後に食べたチョコ……美味しかった……ッス!』
テメェ……田中だったのか! この野郎!
そうか……お前はチョコを盗んだ罪悪感でそんな姿になっちまった訳か……。
馬鹿野郎が、水臭ぇじゃねぇか……!
任せとけ、お前の仇はオレがとるぜ!
「近海に接近する反応を検知したので足を運ばせてみたのですが、こんなものですか」
鉢金の艦娘がオレを見下ろしながら近付いて来やがった。
舐め腐りやがって、オレの魚雷の餌食となりやがれ!
「せめてもの情けです」
オレが口の中で魚雷を装填すると、鉢金の艦娘はヤケに冷静に話し掛けて来やがる。
「苦しまぬよう、一撃で仕留めて差し上げましょう」
はっ⁉︎ 何こいつ⁉︎ 見間違いじゃなけりゃ眼から稲妻が迸ってやがる!
うぉぉぉぉ怖ぇぇぇぇえっ⁉︎
無理無理、勝てないこんなん、っべーわ死んだわ。
オレは恐怖のあまりガタガタと歯をカチ鳴らして震えてしまった。
ガクガクブルブル……、ガチッ!
あっ、やべっ、魚雷噛んじゃった。
ーーちゅどーん!
「えっ?」
「は?」
「な、なんや……⁉︎」
「えっ、えっ?」
「イ級が爆発したぴょん……」
「神通あんた……、睨んだだけでイ級を爆破させよったんかぁぁぁぁッ⁉︎」
「ち、違います! か、勝手に爆発したんですよ!」
「そんな訳あるかい! ひと睨みで爆発なんて、ありえへんぞアンタ!」
「ヤバいぴょん。うーちゃん震えが止まらないぴょん……! こ、こっち見ないで欲しいっぴょん!」
「違いますぅ! 何かの間違いですーーっ! な、なんで離れるんですか⁉︎ やめてください!」
◇
「……斥候排除ご苦労だった。……そう、か、見たら爆ぜたか」
「あ、あの……違うんです提督……」
「何も違わへんで! ウチはこの目で見たでぇぇ! 交戦映像も残ってるやろ⁉︎」
「神通さんに睨まれたイ級が突然震え出して爆発したぴょん……」
「……そうか」
「あ、あの提督? どうして眼を合わせて頂けないのですか……? 何故お顔を背けるのですか⁉︎」
「……」
「て、提督! あんまりですぅぅぅ……!」
◇
オレの名はイ級。 黒くて硬くてクールなタフガイさ。
この姿でも勇敢に戦って沈んじまったが、オレみたいなクールガイが居たこと、忘れないでくれよな!
じゃあな!
川内side
3月中旬に入って、少しだけ冬の名残を残した風に、暖かい日差しが差し込む裏庭の庭園、その花壇には色鮮やかな花が咲き始めて、休憩に訪れる艦娘が多くなって来たみたい。
その庭園の奥には、サバゲーフィールドが広がっているんだよね。
前は錆びたフェンスに空いた穴を潜らないと入れなかったけど、今はフェンスが全て撤去されて、吹雪が作ったお洒落な木柵と、西部劇に出てくる酒屋でよく見る、背の低い両開きのウェスタンドアが設けられて、出入りが凄く楽になった。
サバゲーフィールドもかなり整備されて、手作りの塹壕や土嚢を積んで作った障害物や、ブッシュって言う長い草を茂らせた遮蔽物、簡単な小屋まで用意されてる。
そう言えば土嚢を積むとき、提督が正しい積み方を教えてくれたっけ。
正しい積み方をすると、ピッシリした綺麗な台形の形に積み上がるんだってさ。 浸水対策には欠かせないって言ってた。
サバゲーブームはまだ鎮守府で続いてて、妹の那珂とか天龍や青葉は勿論、夕立、時雨、不知火、イク、ゴーヤ、最近じゃ鈴谷とかも来てたかな?
たまーに第六駆の4人が挙って参加したりするね。
提督が混ざるときは普段来ない艦娘まで来たりして、毎回かなり盛り上がってる。
因みに私の愛銃はアサルトライフルのM4SOPⅡ!
提督がM4カービンの実銃を持ってるから何となく買っちゃったんだ。
最近アルバイト出来るようになったから、このエアガン買う為に頑張ったんだよね。
主に漁船の護衛とかでやる事普段とあまり変わらなかったけど。
バッテリー式の電動エアガン、リコイルって言う反動まで再現した、剛性のある金属フレームの結構高いやつ。
で、早速試し撃ちしようと思ったら、提督が本物のM4持ってサバゲーフィールドの野外射撃場に居たんだよね。 それも1人で。
「提督、何やってんのさ」
「ん……、川内か」
近付いてみれば、色んな形の銃弾が入った金属のケースと、何種類かのハンドガン、なんか長い銃とかが雑にテーブルの上に並べられてた。
どっかの組に乗り込むとかじゃないよね?
私がテーブルの上に目を奪われていると、提督が射撃場を見ながら説明してくれた。
「古くなった銃弾の処分をしようと思ってな。 この射撃場の壁は土嚢でこさえたから、跳弾の心配もなくて安全なんだよ。 その奥も丘になっててどっか飛んで行く不安もないしな」
「へぇ〜……、って、銃弾って劣化するの?」
「う〜〜ん、保存状態が良いと何十年も持つけど、俺は1年毎に総取っ替えしてるな。 持ってる量も少ないし」
つまり、ここにある銃弾は撃ち放題って事だよね?
なんだか楽しそう!
「じゃ、じゃあさ……!」
「ふふっ、別に構わないぞ」
「やった!」
エアガン弄ってると本物の銃に憧れる時もあるんだよね。 まぁ、エアガンはエアガンの魅力があるんだけどね? 玩具なのにここまで拘るかぁ……って言う感動とか。
提督はそんな思いを汲んでくれたのか、すんなり銃を持たせてくれた。 ハンドガンのM92Fだ。
でもちょっと意外だなぁ。
「提督、結構簡単に渡してくれるんだね? 本物の銃なのにさ」
「まぁお前は艦娘だし、銃口管理も出来るだろう? それに銃は遊戯やスポーツにも使われる事もあるからな」
「へへっ、やったね」
私はM92Fを手に持って、射撃場のレンジの方へ身体を向けた。
的を用意すると壊しちゃうからか、レンジ内にはただ土嚢が重ねられた壁が広がってる。
とにかく撃てば良いのかな?
マガジンを入れて、スライドを引いて銃弾が装填されたのを確認したら、右手でグリップを握り、左手で右手の指を下から覆うようにして両手でM92Fを構えた。そしたら提督が褒めてくれた。
「うん、良い射撃姿勢だ。サバゲー知識も役に立つもんだな」
「へへっ」
ちょっと緊張するけど、引き金を引いてみた。
パン!と乾いた音をたてて銃弾が放たれ、スライドが後ろに下がって、煙と一緒に薬莢が飛び出して来た。 オートマチックだからスライドが元の位置に戻って銃弾も装填される。それだけで少し感動。
「おお……っ、思ってたより音も小さいし、反動も大きくないんだね」
「ハンドガンだからな。撃ち尽くして良いぞ」
「うん! ……っと、その前に、そこの何か長い銃は何?」
「これか? これはモスバーグ M500って言うショットガンだな。 流石の川内もこの形状だと種類まではわかんないよなぁ……」
「うん……、銃って似た形状多過ぎ……」
ショットガンって言うのは分かってたんだけどねぇ。
大体似たり寄ったりの形状で、私はまだショットガンまで覚えきれてないや。
いや、銃全般に及ぶかも知れない。
大体、頭文字にMが含まれる銃だけで何種類あるのさ。
このハンドガンだってM9だし、アサルトライフルはM4だし、ショットガンはM500だし。
提督の使ってない方の護身用拳銃はM60だっけ?
ダメだ、数字が変わるだけで銃種も変わるし、まだ全然覚えきれてないや。
M1917がリボルバーで、M1919がマシンガンだもんね。そう言えばM500って言うリボルバーもあったね。ショットガンのM500とは会社が違うけど。
なんなのさ、もう覚えさせる気無いでしょ、Mシリーズ。
そんな事を考えていると、突然スパァン!って感じの炸裂音が響いた。
「うわっ⁉︎」
「ははっ、ショットガンは音が凄いからな」
「せ、せめて声掛けてから撃ってよ!」
心臓止まるかと思った……。
提督がショットガンを撃った音みたい。
その後も提督はショットガンを撃ってたけど、反動が強いらしくて撃つ度に身体を揺らしてた。
あの反動は私の体幹じゃ厳しいかも。 艤装展開時の加護があれば別なんだろうけど。
弾が切れると「こめこめタイム〜」って呟きながら、ショットガンシェルって言う専用弾の装填を始めたのは少し可愛かった。
レシーバー下部にある穴から1発ずつ詰め込むんだよね。
それから私もハンドガンの弾を撃ち切って、提督もショットガンを撃ち終わると、今度はM4を手に取った。
今回はM203グレネードランチャーは着けてないみたい。 まあアレ、爆弾だしね。炸裂弾だっけ?
提督はM4を持ったまま、私に話し掛けた。
「川内、こっちはいいのか?」
「うん。 前に撃ったし」
「そうか、ならさっさと終わらすか。 ……時間掛けると夕立あたりが来そうな気がするし」
提督はそう言って、右手をグリップに、左手はハンドガードを掴んで銃を構えると、右肩にストックを当てて頬を乗せる。
ありふれた射撃姿勢なんだけど、提督がすると何か様になっててカッコいいんだよね。
ちょっと不謹慎かも、しんないけどさ。
タタタァン!と大きめな銃声を響かせて、提督は射撃を始めた。
綺麗な三点バースト。 反動で銃口が跳ねるの防ぐ為に連射せずに区切りをつけるんだよね?
沢山練習したんだろうな。
……銃は人を殺す道具で、その技術も人を効率的に殺す為のもの。
だけど、私の提督はそれらを全て、誰かを守る為に使って来たんだ。
そもそも銃だってさ、物騒なんて良く聞くけど、本当は何かを守る為に生まれたのかも知れないね。
提督を見てると、そう思えるよ。
私は何となく離島に行く提督の格好を思い出して、湧いて来た疑問をぶつけてみた。
「そう言えば提督、前に胸にマガジンポーチ着けてたよね。 なんで?」
「ん? ああ……、射撃姿勢から素早くリロードが出来るからだな」
「あっ、本当だ。 銃を構えると右手が胸のすぐ近くに来るんだね」
「地味に嵩張るけどな?」
こう言った些細な隙を埋める知識が、提督が使えば1秒早く状況を打開して、誰かを助ける事に繋がるんだ。
その後、弾薬を全て処理すると提督はクリップボードに挟んだ書類に何か書き込み始めた。 弾薬管理関連の書類かな?
使っているのはお気に入りのペンじゃなくて、屋外だからか普通の三色ボールペン。
だけど書き込み始めた途端に、眉間にシワが寄って物凄く渋い顔になってた。
確か前に、夕立が提督の上着を羽織ったままカレーうどんを食べた後、返って来た斑点模様の上着を見た時もそんな顔をしてた。
「……どしたの? 提督」
「……三色ボールペンの黒と赤の色が入れ替わってる……」
「うわぁ」
「卯月だなコレ……」
卯月が三色ボールペンの芯を入れ替えたみたい。
地味だけど物凄く困るイタズラ、あの子も懲りないよね。
実害出ちゃったみたいだから、後で香取さん……、いや神通に言っとこ。 最近目が合うだけで震え出すみたいだし。
でも提督は悪戯をまるで気に掛けて無いかの様に微笑を浮かべて、手の甲で試し書きをしてペン色を確かめると書類を書き直していた。
「提督、怒らないの?」
「ん? まぁ後で注意するぞ」
「そっか、怒ってないんだね」
「まぁ……、手間が掛かるほど可愛いって時もあるさ」
「うわぁ、父親みたいな事言ってる」
「お前も大概手間ばかり掛けてくれるからな、もう慣れたんだよ」
遠回しに私に可愛いって言ってるよねコレ。
でも待って、私、卯月ポジション⁉︎ 何か嫌だ!
「私がいつ手間を掛けたのさ!」
「身に覚えが無いだと……っ⁉︎」
提督が目を見開いて驚愕してる。
凄く心外なんだけど、朝起きれなくて夜少し騒いじゃうだけじゃん!
「お前は毎朝神通に起こされて、毎晩騒ぎまくってるじゃないか」
「……? いつもの事じゃん」
「判らないって顔をするな。 いつも手間が掛かってるんだよ!」
……前向きに考えれば、これは何時も私が可愛いって事だよね。 うん、そういう事にしておこう。
そんな事を考えている内に提督は書類書き終わったみたい。
空の薬莢も全部集めてたし、そろそろ終わりかな。
「銃弾処理はこれで完了かな」
「やっぱ本物だと大変だね」
「使う分には良いんだが、申請は面倒だな」
「うん、見てて面倒臭そうだもん。 私はエアガンでいいや」
「……お、次世代電動か!」
提督は私が持って来たエアガンを見ると、楽しそうに口角を上げていた。
私はエアガンを自慢するべく、提督によく見せるように手渡した。
「へっへーん! この為にバイトしたんだもんね!」
「某東京会社か……。 造りが良いな、本当に良い仕事しやがる」
エアガンのM4の、ハンドガード部分を握ったり、構えてサイトを覗いたり。 私の想像通り、提督はエアガンの吟味を始めてた。
そしてストックの調節可動域を確かめながら、提督は言った。
「川内は本当に銃が好きなんだな」
「……うん、そうだね」
最初は夜戦が出来れば何でも良かったんだけどね。 今は少し違うんだよね。
銃は提督が何年も使って来た、誰かを守る為の武器だから。
そして何より、提督を守って来た名誉ある武器だから。
「私は銃も好きだよ」
……なんてね。 らしくないかな?
私がそう言って笑うと、提督も笑い返してくれた。
もうすぐ春だから、少し浮かれたっていいよね?
大淀side
こんにちは、大淀です。
我が鎮守府では、4月に入る前に設備拡大に伴い大規模改装が施工されて現在長期運営休止状態に入りました。
妖精さんの手伝いもありますが、電気系統、キュービクル式高圧受電設備などの新設には、やはり人の業者に頼む必要がありますので、妖精さんの手を借りてもそれなりの時間が掛かるそうです。
今まで別々だった執務室のある本館、食堂、艦娘寮が1つの建物となって外に出なくでも行き来出来るようになるそうです。
そして体育館やグラウンドはそのままに、道場が新たに建設されます。
港にも手が回り拡張工事が行われ、大きな灯台まで設置されるそうです。
そんな大規模工事を伴う為、様子を見に宮本元帥が鎮守府にお見えになりました。
ただ、執務室でソファーに座って提督と話をしている訳なのですが、どう言う訳か提督の表情は明るくありません。
その上、宮本元帥は何処か怒っているような気がします。
「……それで、君は中将にも関わらず4畳半のアパートで生活をしていると……」
「は……、はっ、生活に不自由は無く、特に問題は無いかと……!」
「あるんだよっ! 中将の君が4畳半で寝泊まりしてると知れたら、新人提督はどうなるんだっ⁉︎ 段ボールか⁉︎ 段ボールハウスに住まわせれば良いのか⁉︎ えぇいそれが無理でも私の権限で何かしら段ボールを用意してやる!」
「お、落ち着いてください! 宮本元帥!」
宮本元帥は提督が4畳半の部屋で暮らしている事を知って取り乱しています。
提督には気の毒ですが、世の英雄とされる提督が4畳半で暮らしてたら上の面目丸潰れですよ。体裁を保つ意味でも見栄えは大事ですから。
ここで助け舟は必要ありませんね。
ですが、提督は何故か必死に言い訳を重ねていました。
「い、一応、その、あれですよ。 艦娘達も認めていますし……」
「君は本気でそれを言っているのかね」
「は、はい」
「じゃあ君は自分の両親が4畳半で暮らしていても、何とも思わないんだな?」
「は……っ⁉︎」
宮本元帥の言葉に提督は目を見開いて、やがて真っ白になって愕然とうなだれてしまいました。
想像したら相当堪えたのでしょう、「俺が買うから……」「稼いでるから……」などとうわ言まで呟き始めています。
その様子を見ていた宮本元帥は提督が考え直したのを察したのか、口調を改めて言いました。
「折角改装するんだ、自分の個室を用意しなさい」
「は、い……」
遂に提督が折れて、アパートでは無く鎮守府内で生活する事が決まったようです。
今まで言い訳に使っていた「施設内に銃火器を置く場合は管理に割り当てる人員がいるから」なんて言葉も今は明石さんが居るから使えませんしね。
宮本元帥、グッジョブです。
ですが提督をたったひと言で考え改めさせるなんて、流石は宮本元帥ですね。
それにしても両親、ですか。 私達艦娘には居ない存在ですから、その発想自体が浮かびませんでした。
提督のご両親はどんなお方なのでしょう。
思えば私達艦娘は提督の小さい頃をあまり知りません。 何となく予想は付くんですけどね。
私はいつでも声が掛けられる様に側に控えて談話を見守っていると、宮本元帥が提督に疑問を投げかけていました。
「それにしても何で個室があったと言うのに、わざわざ狭いアパートで暮らしてたんだね」
「最初は長居するつもりはありませんでしたから」
「とは言え、正式着任からそれなりに時間が経っているだろう?」
「それは……ですね……」
宮本元帥の言う事はごもっともですし、私も気になりますね。
提督は言い辛そうにしながらも口を動かし始めました。
「……炊事洗濯掃除……、それまで艦娘の世話になる様じゃ立つ瀬が無いと言いますか……」
「んん? そんな物好きな艦娘がいるのか? 私の娘は私の脱いだ服を触るのを嫌がるし、一緒の洗濯機に入れるとこの世の終わりみたいな顔をして絶叫するぞ」
「……いえ、それが……」
「……君は毎朝幼馴染が起こしに来るとか、お弁当を作ってくれるだとか、そんな事が実際に起こるとでも思っているのかね? 君より生きた私が言おう、そんなものは無い! そんな恭しく世話を焼く奴はいないんだ……!」
何故幼馴染を例に挙げたのか分かり兼ねますが。
宮本元帥……、そこの提督は毎朝鳳翔さんにご飯作って貰ってアパートまで届けて貰ってますよ。
それも鳳翔さんが無理を押して提督が折れた形で。
掃除洗濯も喜んで引き受けそうですね、……鳳翔さんですし。
「篠原君、女性の職場だからって夢を見ちゃいけないぞ。 女性はそこまで優しくないし現実は辛い。 看護婦を良く白衣の天使と例えるだろう? 病院でそんな奴を見たか? 見ないだろう? 適当に愛想笑いして注射針突き刺すだけだ! それも何度もな!」
「は、はい……」
宮本元帥……、そこの提督はちょっとした怪我でも医務室に連行されてますよ。
工具とか良く使ってますので、たまに擦り剥いたりとかしてますけど、その度に雷ちゃんが大騒ぎして腕を引っ張って行きますね。
工具使ってる時は大体作業中ですので、提督は小さな傷なら無視して作業進めますからね、雷ちゃん的にあり得ないらしいです。
「女性は頭を撫でられると喜ぶと言うだろう? それも幻想だ。 私が娘の頭を撫でたら糾弾された上に慰謝料を請求されたぞ!」
「え、あの、はい」
何故か宮本元帥の独白となりつつありますね。
娘さん相当気が立っている様ですし、もしかして可愛がり過ぎているのでは……。 思春期だったとしたら本当にデリケートなんですから……。
それと、提督は駆逐艦と潜水艦の娘だけ頭を撫でますが、大抵喜ばれていますよ。
如何にも思春期っぽい曙ちゃんですら黙るレベルです。
それ以外の艦種の方が羨ましそうに眺めていますが、提督は気付いていないでしょう。
でも夕立ちゃんが改二になってひとまわり大きくなった途端撫でられる事が減ったと落ち込んでました、その辺が節目なのかもしれません。
要観察です。
余談ですが、宮本元帥は各鎮守府に作戦を指示する立場にあられるので、直下の艦娘はいません。
提督の部下が艦娘だとしたら、元帥の部下は各鎮守府の提督と言う事になりますね。
妖精さんの要望によって旧海軍から元帥を名乗っていますが、本来は海上幕僚長です。
そんなお偉い方がこんな話をして鼻息を荒くしているなんて知れたらどうなるんでしょうか。
「壁ドンと言う言葉があるだろう、それをすると女性はキュンと来るらしいがな? それを娘にやったら」
「娘にやったんですか⁉︎」
「腹ドンされた……。 それも膝でだ」
「み、宮本元帥! 僭越ながら、恐らく娘さんは過剰なスキンシップにうんざりしている可能性が……。 因みに娘さんはおいくつで……」
「14歳かな? 今年で中学三年生になるんだ」
「そりゃ不味いですよ!」
思いっきり思春期真っ盛りですね。
提督が思わず席を立って自重を促していますが、宮本元帥はあまり判っていない顔をしています。
それと提督に壁ドンをされた、と言う艦娘はいませんね。
川内さんはあらゆる艦娘から壁ドンされてますけども。別の意味ですが。
その後、宮本元帥は仲良さげに提督とお話をされていましたが、ふいに腕時計を見ました。
「ふむ、とりあえず篠原君は早急に引越しの準備をするんだ。 ……私はそろそろ戻らねばならないからな」
「では迎えの車を……」
「いやいい、電車で帰ろうと思っている。 道中にうまい駅弁があるらしいからな。 蟹を使った弁当だとか」
「……ほほう、と言うと海沿いですね?」
提督の目が露骨に変わりました。 相変わらずそう言うのお好きですね。
私が思わず笑みをこぼしてしまうと、宮本元帥はその事に気付いたのか、私を見て気分良さそうに微笑みかけました。
「見送りは大淀君にお願いしようかな。 篠原君は引越しの準備をしたまえ」
「はっ、道中お気を付けて! 大淀、後は頼んだぞ」
「はい、承りました」
私は宮本元帥と並んで執務室を出ました。
古びた廊下を軋ませて歩きます。
元は校舎だったこの鎮守府も、もうすぐ見納めとなるのでしょう。 そう考えると耳障りで仕方がなかった廊下の軋みも少しだけ名残惜しいですね。
そんな感傷に浸っていると、窓から景色を眺めながら歩いていた宮本元帥が、こう仰せられました。
「大淀君、大分変わったな、ここは」
「……はい、とても変わりました」
「サムライの名は伊達では無いな」
宮本元帥の視線の先には、裏庭で羽を休める艦娘達が見られました。
大規模工事が入っても、あの場所だけは手付かずのまま置かれるそうです。
あの場所はきっと皆さんにとって、自分の手で変えていきたい場所だからでしょうね。
ふと、サムライと言う二つ名に対して、私は疑問が浮かんで来ました。
「宮本元帥、提督は日本ではサムライと呼ばれていますが、海外でもそんな二つ名があったのでしょうか?」
「ふむ、篠原君個人に対しての呼び名はついぞ聞かなかったな。 だが、篠原君の部隊の名前は勝手に決まっていたそうだぞ?」
「部隊の名前ですか……?」
「“Peace Maker”、人々は彼等の事をそう呼んでいた」
ピースメイカー、“調停者”ですか。
提督は少年兵を使った紛争を終わらせる為に尽力した事もあり、その名も納得です。
海外での活動は主に支援活動だったと伺っていますが、人々は子供達を救って争いを鎮めた事を最も評価していたのでしょう。
そこまで考えて私が納得しかけていると、宮本元帥はもうひと言付け足しました。
「“平和を作る”と言う意味も含まれていたそうだ」
「なるほど……、呼び名に遊び心も含まれていたという事でしょうか」
「そう言う事なんだろうな。海の向こうでも親しまれていたんだよ、篠原君はな」
ピースメイカーの呼び名はダブルミーニングですか。 支援活動による環境の変化を平和と捉えていたのでしょうね。
まだまだ提督について、知らない事の方が多いみたいです。
その後、私は宮本元帥を送り出したそのままの足で艦娘寮へと向かいました。
ここは提督が滅多に入ってこない場所であり、並んだ個室の前の空間はちょっとした談話ルームとなっています。
そこにはクリップボードを持った青葉さんが窓際の椅子に腰掛けて、私の事を待っていました。
「ども、大淀さん! ……その様子ですと、何か収穫があったようですね?」
「ええ、提督が遂に鎮守府内で生活するようです」
「……それ、本当ですかね」
「はい、本当です」
私はそこまで言うと対面の椅子に座ります。
青葉さんは、悪巧みする様な表情になっていますが、多分私も似た顔をしている事でしょう。
私は出来るだけ声を小さくして話します。
「艦娘と提督がプライベートで関わる機会が増えますので……、恐らく何かしらの変化が期待出来るかと」
「ほうほう……、ちなみに〜……部屋の場所は決まっているのでしょうかねぇ……?」
「まだ未定の筈です。 なので今の内に妖精さんを買収して……、可能なら寮内に、最悪その付近に部屋を設けて頂ければ……」
「クックックゥ〜……、青葉、何だが楽しくなって参りましたぁ!」
我が鎮守府の提督は、離島泊地での獅子奮迅の活躍を隔てて更に艦娘達から慕われる様になりました。 一部では信仰にすら近い状態です。
無理もありませんね、私達の運命を変えたあの日、提督の信義が託されたと知った時、艦娘達は自分でも恐ろしくなる程の力が、熱と共に身体の底から溢れ出したそうです。
それが神通さんの言う“提督の剣となる”状態の事を指すのでしょう。
私も心よりお慕いしていますし、青葉さんも同じ気持ちでしょう。
ですが、誠に残念な事に提督は枯れています。
これは最早周知の事実。 更に本人談でもあります。
「早速、最後の寮内回覧板でこの事を伝達しますよ……!」
「愛宕さん高雄さんの重巡サンドイッチや、金剛さんのダイレクトアプローチにも一切動じなかった提督ですが……、流石にプライベートとなれば隙が生じる筈ですからね……!」
そう、隙です。
提督が私生活に関して隙だらけと言う事も周知の事実。
鳳翔さん曰く、朝食がバナナとヨーグルトだったとか。
恐らく、それだけでなく他にも付け入る隙はある筈です。
フフフ……、提督がピースメイカーならば、私達はラブメイカーを自称しましょうか。
宮本元帥に4畳半の事を伝えたのもこの私、大淀ですから。
更に、本館、艦娘寮、食堂を全て一つの建物に纏める提案をしたのもこの私です。
提督、これから、変わりますよ……!
篠原side
どうしてこうなった……。
俺は頭の中で何度もその言葉を口にした。
4月に入り、大規模工事も妖精さんのパワーアシストにより異常な速さで完了した。
庁舎が他の建物と合体して利便性が大きく向上して、インフラ設備も軒並み向上している。
そして俺の部屋も設けられ、何とカウンターキッチンと八畳のリビングに六畳の寝室がついて、洗面所からトイレと脱衣所、そこから風呂に繋がっている。
更にクローゼットルームに、奥行きのある収納。
高級な1LDK、最早俺にとって豪邸の域だ。
前のアパートでは、窓から隣の家の壁しか見えなかったが、この部屋からは海が一望出来る。
体育座りをしないと入れなかった浴槽も、ここの風呂は脚を伸ばせそうだ。
換気扇も変な音がしないし、水回りも文句は無い。
だが、1つ問題がある。
「ここが司令官のお部屋ね! とーっても広いじゃない!」
「……」
雷が早速嗅ぎ付けて中に入ってきているが、この部屋は本来の艦娘寮と同じ区画に位置するのだ。 少し廊下を歩けば第六駆の部屋となる。
俺はてっきり執務室の近くに出来るものだと考えていたが、違ったようだ。
流石に不味い気がしていたが、俺は案外早く納得出来ていた。
「ん、そうか。居住区は居住区でまとめた方が管理が楽なのか」
「管理って?」
「消防法とか色々あるんだよ。 火の元があるしな」
「火の元……キッチンのこと?」
「そう言う事だ。 キッチンとか火を使う場所を1つの区画に纏めておけば、消化器とかの設置も少なく済むし、消防点検も楽になるだろう?」
大きな建物は一定距離毎に消化器や報知器、感知器などの消防設備の設置が義務づけられているが、火を使う場があれば更に厳しいルールが課せられるのだ。
つまり、俺の部屋が艦娘達の居住区と同じ区画に割り当てられたのも、そう言った防災面を考慮しての事だろう。
じゃないと納得出来ない。
前任は確か執務室の近くの個室で過ごしてたがこの際どうでもいい。
荷物を運ぶ前に様子を見に来たわけだが、こうしてナチュラルに部屋に入ってきてる雷みたいな艦娘が他にも現れるかも知れない。
なんか妙に心当たりが多いんだ。
「雷、間取りの確認が終わったからもう出るぞ」
「これから荷物を運ぶのよね? 私が手伝ってあげるわ!」
「ん、そうか。 じゃあ頼もうかな」
「任せて! こう見えて力持ちなんだから!」
雷は両手で力こぶを作ってやる気を示して応えて見せたが、荷物を積んだ車を居住区前に運んだ途端に何処からともなく現れた妖精さん達により目に止まらぬ速さで荷物が運ばれていった。
雷は恨めしそうな目で、沢山の妖精さんと共に空を飛ぶ段ボール達を見送っていた。
俺もエアコン設置の時に工事までやられて肩透かしを食らったから雷の気持ちは痛い程わかるつもりだ。妙に悔しい。
それにしても妖精さんの馬力はどうなっているんだろうか。 自分より大きな物でも軽々と運んで見せるし、資材があれば建築もお手の物。
「本当、妖精さんは凄いものだな」
「むぅ〜〜、折角任されたのにぃ」
俺は不貞腐れた雷をあやしながら浮遊する段ボールを追い掛けて部屋に戻ると、そこには響が居た。
リビングの中央でポツンと佇んでいたが、入ってきた俺を見るなり得意顔で挨拶を始めた。
「やぁ」
「や、やぁ……」
「手伝いに来たよ」
「そうかぁ……。 自分の部屋はもう良いのか? 引越しするのはみんな同じだろうに」
「第六駆は4隻揃っているからね。 手が空いたのさ」
姉妹艦は同じ部屋なので、引越し作業も早かったのだろう。
と言うと、艦娘達は手が空き次第やってくる可能性があるという事か。
ヤバいな、特にあの高速戦艦は何するか判らない。 早急に荷物を整理して峠を越えよう。
「……よし、じゃあこの段ボール達を開封してくれ」
「はーい!」
「ダー!」
雷と響には開封を任せて、俺は1番嵩張るベッドの組み立てを寝室で始めた。
アパートで使っていたベッドだが、六畳もあればかなりゆとりがある。 ナイトスタンドテーブルを置いても空間に余裕があるだろう。
この寝室だけでアパートより広いのだから。
ベッドを組み立て終わった俺はリビングに戻ると、段ボールの開封は粗方終えられていた。
流石雷と言ったところか、開封した物は分かりやすく小分けして仮置きされているが、組み立てが必要で細かな部品が多い物は、箱から出されずに説明書と部品だけ丁寧に箱の上に置かれている。
響はその中で新しいテレビに夢中なようだ。
「流石、必要な物はちょっと良い物を買う司令官だね。 大きいテレビ」
「42インチだな、八畳もあるとコレくらいが丁度いいだろう。 お前の部屋にもテレビくらいあった筈だろう?」
「テレビはあるけど、ここまで大きくないよ。 水槽が大き過ぎて前の部屋じゃスペースがね……」
「ああ、そうか……」
すまん響。 アクアテラリウムで魚を飼育するにはそれなりの大きさの水槽が必要なのだ。
俺は心の中で過去の暴走を詫びながらテレビスタンドを組み立てている途中、ふと気になって視線をまわすと雷が洗濯機とその説明書を交互に見ながら首を傾げていた。
「……雷?」
「司令官、ナイアガラ洗浄ってなぁに?」
「ん、あ〜……」
最近の洗濯機ではかなり普及されているが、確かにナイアガラ洗浄がどう言った物か知っている人は少ないかもしれない。 主張の激しい文字でもあるし雷も気になったのだろう。
俺も店員に尋ねたっけな。
「洗浄中にな、ポンプで汲み上げた水を上から滝の様に叩きつけるんだ、そうすると叩き洗いみたいな効果が現れて、しつこい汚れも落ちやすいって訳だ」
「すごいわ! 流石は日本が誇る家電製品ね! コンパクトな見た目からは想像も出来ないパワフルな洗浄力と宣伝しているだけはあるわ! ……でもこれだけ機能が多いとちゃんと使えるか不安だわ」
「ご安心を、洗濯物の重量から水量、時間、洗剤の量が計算されて自動処理されますので、機械が表示する洗剤の量を投入して“おまかせスタート”のボタンを押すだけで全自動で洗濯が始まります」
「それなら私でも出来そうね! 素敵だわ!」
「……はっ⁉︎」
しまった。 雷が余りにもベタな台詞を言うものだからつい丁寧に説明してしまった。
雷はフンスと息巻いて、やる気を身体で表している。
「雷……、俺の洗濯物は自分でやるからな?」
「えっ、どうして?」
「どうしてって……」
こっちが聞きたい気分なんだが。
何故この部屋にだけ洗濯機が置かれているか考えて欲しいものだ。
男臭い俺の服が混ざらない様にと俺なりにかなり気を遣ったんだぞ。
「そう言う住み分けはきっちりするべきだろう? 公私を分けるべきだし、男は男で、女は女だ。だから男の俺の洗濯物を雷が洗う必要はないんだよ」
「よくわからないわ。 確かに男物と女物の服が混ざらない様に分けて洗うのは後が楽だと思うけど、どうして私が司令官の服を洗うとダメなの?」
「俺が情けなくなってしまうからだ。 それに、俺の汗が染み付いた服なんて触りたくないだろう?」
「司令官は情けなくなんてないわ! それに汗が染み付いた服だからこそ洗濯するのよね? みんなやってる事じゃない!」
こいつはあれだ、認識の間に齟齬が生じている。
汚れたからこそ洗うと言う認識は至極真っ当だ。
だけど男女間における生理的観念を理解されていないようだ。
そしてそれ以上に世話を焼きたがっている。
「と、とにかく洗濯物は自分で洗う! 何から何まで艦娘の世話になる訳には行かない」
「もう! なんでよ!」
「……じゃあお前は、俺がお前の服を洗濯しても何も思わないのか? 下着とかも見られる訳だぞ」
「えっ? どうして司令官が私の服を洗うの? そんなのおかしいわ!」
「そうだな、おかしいな。 なんでおかしいんだろうなぁ?」
「司令官は司令官で執務の仕事があるじゃない! ただでさえ忙しい朝はそんな暇無いはずよ!」
「いや違うんだよ。 そうだけど、確かに執務あるけれど!」
恥じらいが無いと言うか、この娘の中では世話役と仕える者の絶対的立場みたいな認識が確定しているらしい。
だから俺が雷の世話をすると言う状況自体に強い違和感を感じているのかも知れない。
話は平行線をたどり暫くやりとりが続いていたが、俺が雷を説得している内に響がテレビ台の組み立てやテレビの配線など全て終わらせていた。
そして呆れたような表情でこちらを見ている。
「2人とも日が暮れちゃうよ」
「……そうだな」
「もう! 司令官ってば頑固なんだから!」
頑固はどっちだ。
普段は何でも言う事をニコニコ笑いながら聞いてくれるが、こういう時だけ頬を膨らませる。
……もういっそのこと俺が徹底的に雷の世話をして常識を塗り替えてやろうか。
絵的にはそっちの方がマシな印象になるだろう。
ただ状況は限りなく悪化しそうだが。
俺は残りの荷物を片付けながらそんな事を考えていた。
だが、その日の晩に早くも考えを改める事になった。
「夜戦だぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッ‼︎」
「サバゲーっぽい! 提督さーんも一緒にぽいぽい!」
「それより私と夜のティータイムにしまショー!」
「は、榛名パンケーキ焼いてみました!」
「ぶるーれいとやらは綺麗じゃのう」
「そだねぇ、色合いが綺麗っていうか、テレビの性能もいいのかもね〜」
「北上さんは何時も綺麗ですぅ! 4Kも目じゃありません!」
「利根さん次はアクション見ない? 提督のDVD沢山あるし良い機会じゃん!」
「不知火はホラーが見たいです。 ゾンビ物はありませんか?」
「お夜食は軽いものがいいわよね♪」
「なのです!」
八畳が狭い……! 何なんだコレ⁉︎
執務室の時より地味に増えてるし、雷なんてまだ可愛い方だったのか。 こいつらをどうすれば良いんだ。
川内うるさいし、金剛しつこいし、夕立絡んでくるし、利根は煎餅の食べカスをポロポロこぼしてるし。
なんで集団で押し掛けた癖にみんなやる事バラバラなんだよ!
こんな日が毎日続くと言うのか⁉︎
三十路に対してあんまりな仕打ちだぞ畜生!
こんにちは、電なのです!
大規模工事も終わって、電達のお部屋はとっても広くなってすこぶる快適なのです。
建物が全体的に大きくなったのもそうですが、特に毎朝司令官さんのお顔がすぐ見れるのはとても嬉しいのです。
朝食も一緒に食べるようになりましたし、そのお陰で今までみたいにパジャマのまま食堂にやってくる艦娘は減りました。
ただ夕方になると司令官さんのお部屋の扉の前で激しい攻防戦を繰り広げている姿をよく見かけるようになりました。
皆さん詰めが甘いのです。
その詰めの甘さよりも司令官さんは甘いので、ちゃんとお願いすればお部屋に入れてくれるのです。 無理に入ろうとするから拒まれるのです。
その辺をあの高速戦艦さんは判っていないようなのです。
それでも司令官さんは訪れる艦娘をもてなす為にゲーム機やお菓子とかジュースを置いたりしているのですから、本当に甘いのです。
それから、鎮守府設備拡張に伴い、鎮守府に専用のサーバーが設けられて独自ネットワークが形成されたようなのです。
難しい話だったので電はよく分からなかったのですが、鎮守府に居る艦娘や司令官さんだけが使える専用の回線、らしいのです。
これにより携帯電話が全員に支給されました。
この事がどんな役に立つのか、と言えば、アルバイトに出掛けた艦娘が例え遠くにいてもスクランブルを受信したり、鎮守府の状況や出撃情報などを随時確認出来るようになったのです。
その時、青葉さんと明石さんが立ち上げたSNSサイト“アカシックレコーダー”はそれ以外の情報交換や雑談で毎日盛り上がる様になりました。
艦娘限定ですけど、好きな時に電話を掛けたりメールをしたり普通の携帯電話としても使えるので、とっても便利になったのです!
初雪さんが更に外に出なくなったと叢雲さんが嘆いていましたけど。
設立間もないSNSですが、既に沢山の書き込みがあって、暇な時にみんなの書き込みを覗くのが日課になりつつあるのです。
そして今日もSNSを起動して見ると、とあるユーザーがこんな書き込みをしていました。
▷Shinohara:花見がしたい。
司令官さんの書き込みなのです!
今はもう4月で、元は学校だったこの鎮守府には沢山の桜の木が植えられていて、今まさに咲き乱れているのです。
お花見にはこの上ない状態なので電は早速お返事を書き込もうと思ったのですが、リアルタイムで次々と書き込みが更新されてビックリしてしまいました。
▷Shinohara:花見がしたい。
├すずやん:いいじゃん! やろーよ!
├First Snow:料理だけ食べたい。デリバリーよろ
│└叢雲:いい加減にしなさい
├ごはん:ご馳走の予感……!
├あたごん:ぱんぱかぱーん♪
├大淀:改装休暇中ですし、問題なさそうですね。
├香取:今日やるのですか?
├Shinohara:お昼なら間に合うかな?
├イク:楽しそうなのね!
├鹿島:私、サンドイッチつくります!
│├ごはん:ありがとうございます!
│└鹿島:えっ?
├ぬい:これは落ち度ですか?
├榛名:榛名はパンケーキ焼きます!
│└ごはん:ありがとうございます!
│ └加賀:いい加減にして
├龍驤:なんかひとり変なのおるな
├響だよ:ユーザー名違うのに誰か分かる
│ └龍驤:名前で自己紹介すんなやっ!
├ずいずい:ここに来て一航戦の印象が変わりました
│ └加賀:道場に来なさい、元に戻してあげる
├ぬい:これは落ち度ですね
├曙:バカじゃないの
├ぽい:ぽいぽーいっ
├鳳翔:
│├Mamiya:私も頑張ります!
│├カカオ:文字なんて飾りですわ
│├りんご姫:私もお手伝いします!
│├大和:僭越ながら私もお力添えを!
凄い勢いで書き込みが増えていくのです!
ここまで反響があればきっとお花見は確定なのです。
そして思った通り、お昼頃には司令官さんはグラウンド横に並ぶ桜の木の下にビニールシートを敷き始めていました。
既に他の艦娘の皆さんも集まっていて、シートを広げるのを手伝っていました。
「みんな集まっているのです!」
「ま、待ってよぅ!」
「対空装備は万全さ」
私は第六駆のみんなに呼び掛けて、司令官さんの元へ駆け寄りました。
司令官さんはビニールシートの端を固定しながら私達に気付くと、声を掛けてくれます。
「おっ、早速来たか」
「書き込みを見たのです!」
「ダー、流石司令官、凄い反響だね」
「そう言えば花見してないなーって思ってな」
お花見は司令官さんの気紛れだった様ですが、それでも続々と皆さん集まり始めています。
お餅付きの時もそうですが、司令官さんは全員が参加出来そうな時に気紛れがよく働くそうです。
「皆さん、お料理をお持ちしました。 片手で食べられる物を作りましたよ」
「トルティーヤやサンドイッチもありますよ〜」
鳳翔さん、間宮さんが沢山のお料理を持ってきました。
他の艦娘の皆さんもそれぞれ自分のお料理を持ち寄って、いよいよ全員が集まった所で司令官さんが音頭を取ります。
司令官さんは紙コップを片手にシートの上に立って、全員の手にコップが回っていることを確認すると言いました。
「みんな、よく集まってくれた、突貫だがお花見開始だ! 乾杯っ!」
みんな同じ言葉を返します。
「かんぱーい‼︎」
乾杯なのです!
電はオレンジジュースですけど、 早くもお酒を飲んでいる方も既にいて、特に龍驤さんと香取さんは日本酒を並べて舌舐めずりしていました。
鳳翔さんは早速司令官さんにお酌をしているようです。
司令官さんの手にした盃に日本酒を注いでいます。
「どうぞ、提督」
「おっ、悪いなぁ」
「いえいえ……」
「では俺からも」
「まぁ……」
司令官さんが日本酒の瓶を取ると、鳳翔さんも自分の盃を手にお酒が注がれるのを待ちました。
お互いの盃が満たされた所で、唇にあてがうとくいっと傾けて口に流し込み、ひと思いに飲み始めました。
「……ん〜〜っ、辛いな」
「ふふっ、辛口ですねぇ」
なんか、大人な感じなのです!
暁ちゃんもその光景を羨ましそうに眺めています。
「盃を交わす……、レディだわ……」
「い、電にはまだお酒は早いのです……」
司令官さんはその後、龍田さんや香取さん、大淀さんにもお酌を受けていました。
すると、そこへ龍驤さんがアコースティックギターを手に司令官さんの所へと向かいました。
「提督ぅ、ここは一曲どーや?」
「マジかぁ……」
「飲みに歌はつきもんやで! みんなも提督の歌聴きたいやろ!」
はわわ、司令官さんのお歌がまた聴けそうなのです!
クリスマスパーティーの時は「ラストクリスマス」と言うお歌と、「ウィーアーザワールド」と言うお歌を弾き語りしてくれたのです!
英語の歌詞はわからなかったけれど、多分素敵な歌だった筈なのです!
みんなの期待に満ちた目を受けて、司令官さんはアコースティックギターを受け取ると、指先でポロポロと弦を弾いて調律を合わせ始めました。
クリスマスパーティーの時には居なかった方たちは意外そうな顔をして見ています。
鈴谷さんは目を丸くして司令官さんに話しかけていました。
「えっ、提督ギター弾けるの?」
「まぁ、少し練習したし、弾き語りなら」
「料理も出来て物作りも出来て音楽も出来るとか万能じゃん!」
「元自衛隊だしな」
「自衛隊すごい!」
司令官さんは実際に「ある程度何でも出来ないと自衛隊は務まらない」と言っていました。
想定できるあらゆる緊急事態にも対応出来るようにする為だそうです。
調律を終えた司令官さんは桜の木に背中をもたれさせ、膝の上にギターを置いていよいよ演奏を始めました。
ギターをノックをする様にコンコンと叩いてリズムを取ると、弦を弾いて綺麗なメロディーを奏で始めます。
そして、歌詞を演奏に乗せて綴り始めました。
それは切ない歌でした。
◇
僕らはきっと待ってる 君とまた会える日々を
さくら並木の道の上で 手を振り叫ぶよ
どんなに苦しい時も 君は笑っているから
挫けそうになりかけても 頑張れる気がしたよ
霞みゆく景色の中に あの日の唄が聴こえる
さくら さくら 今、咲き誇る
刹那に散りゆく運命と知って
さらば友よ 旅立ちの刻
変わらないその想いを 今
今なら言えるだろうか 偽りのない言葉
輝ける君の未来を願う 本当の言葉
移りゆく街はまるで 僕らを急かすように
さくら さくら ただ舞い落ちる
いつか生まれ変わる瞬間を信じ
泣くな友よ 今惜別の時
飾らないあの笑顔で さあ
さくら さくら いざ舞い上がれ
永遠にさんざめく光を浴びて
さらば友よ またこの場所で会おう
さくら舞い散る道の上で
◇
な、なんだか染みるのです……。
男の人の声色で切ないお歌は反則なのです。
桜を巡る輪廻を人の生と例えた歌だからでしょうか、悲しい想い出と、悲しい台詞を思い出してしまいました。
『俺とお前は同期の桜、一会に咲いた花ならば、一会に散るのが運命だろう』
同期の桜とは、かつて空の下で華々しく散る仲間を桜花に例えた言葉だそうです。
一会の花とは、同じ季節に咲き誇る桜の花弁。
つまり、あの時の司令官さんは、こう言いたかったのでしょう。
『盟友よ、俺をおいていくな』
電もあのお方の名前だけは知っているのです。
神崎さんと言う、何処かお調子者の隊員さん。
色んなお話を聴かせてくれる司令官さんですが、神崎さんの事をお話した事は無いのです。
泣き虫さんな所もあるので、きっと、まだ辛くて、悲しくて泣いてしまうからなのです。
でも、泣いてもいいから、いつかお話して欲しいのです。
その時は一緒に泣いてあげるのです。
電とおんなじ気持ちの方は、きっと沢山いたのでしょう。
艦娘の皆さんは何処かしんみりとして、切なそうな瞳で司令官さんを見ていました。
そんな司令官さんは、その様子に気付くなり驚いた顔をしていました。
「あ、あれ? ……どうした?」
「司令官! 吹雪は、ずっとずっと一緒です!」
「あ、あんたね……歌詞は選びなさいよ……バカ」
「でも、とても素敵な歌ですわ……」
「命も、時代も越えて再開を誓う歌……、提督、後でちゃんと歌詞を教えてください!」
「那珂ちゃんも感動しちゃった……」
みんながここまで感動する姿は想定していなかったのでしょう、司令官さんはバツが悪そうに頬を掻いています。
「しんみりさせちゃったか。 誰か代わりに盛り上げてくれ……」
そんな事言っても、この空気の中、誰も……。
ですが、その空気を壊すべく意外な艦娘が現れたようです。
「では、私が」
え、赤城さん⁉︎
赤城さんがラジカセを手に席を立ったのです。
そしてみんなの視線を集めながら会場の中心へと歩きながら説明を始めました。
「実はこの日の為に練習した曲があるのです」
「ほほう……、赤城の歌か」
「いえ、加賀さんの歌です」
「ん?」
「えっ?」
司令官さんは首を傾げ、加賀さんは少し驚いている雰囲気なのです。
赤城さんはそんな2人に構わず、ラジカセのスイッチを入れました。
デデン!と力強い出だしの和風テイストな音楽が流れ始めます。笛の力強い音色が会場に響いているのです。
「聴いてください。 加賀岬、改め、神レシピ!」
序奏の間リズムを刻んでいた赤城さん、やがて曲にあわせて歌い始めました。
「夜中食べたい そんな時には お手軽レシピ 教えてあげる♪ パスタ束ねて 沸かしたお湯で 茹〜でる〜♪」
「は?」
「なんやこれ⁉︎」
「ソース絡めて 味付けたなら ひと手間加え バジルもかける 香り沸き立つ トマトソースが そ〜そる〜♪」
「こ、この歌って加賀さんの十八番だった……」
「あいつ、死ぬ気か⁉︎」
ひ、酷いのです。 あんまりなのです。余韻がメチャクチャなのです。
それに加賀さんが見た事ない表情しているのです。
瑞鶴さんが震え上がるほどに眉間に皺がよっています。
般若のようなのです! 女の子がしちゃいけない顔なのです!
赤城さん、もうやめた方が……!
「ベーコンエッグ 加えれば そう テーブルの上 きれいね♪ 今夜の料理は 退くに 退けない 譲れはしないっ! お腹すいたわ ねぇ♪」
赤城さんは構わずにサビに入ってしまいました。
「胸ひぃぃぃめたぁあああ「あああああああああッ‼︎」
直後、加賀さんが握り拳で赤城さんを張り倒しました。
赤城さんの頬に加賀さんの拳がめり込んで、赤城さんはきりもみ回転しながらシートの上に叩き付けられました。
加賀さんがあんなに叫んだのを初めて見た気がするのです。
龍驤さんや天龍さんがゲラゲラと笑い転げる中で、加賀さんは押し倒した赤城さんの上に跨って拳を振り下ろしています。
加賀さんの眼は生ゴミを見るそれでした。
「殺します」
「痛い! 痛いです加賀さんやめて! ぐふっ⁉︎」
「あははははははっ‼︎ ちょ、続き聴かせーや! 気になるやんけ!」
「いいぞやれやれーっ!」
しんみりしていた会場の雰囲気は一転。
とんだ修羅場になったのです。
ああ、もう、メチャクチャなのです……。
し、司令官さん⁉︎ 笑ってないで止めた方が良いのです!
「あははっ、ナポリタンの歌かぁ!」
司令官さんが笑う程、加賀さんの拳が強くなってるのです! エキサイトしてるのです!
こんなお花見は嫌なのですぅぅぅ!
加賀side
春の暖かい風が、桜の花びらを空へと舞い上げる。
ひらり、ひらり、風に揺られて浮かぶ姿はまるで青空を薄紅で彩るように。
舞い散る花に、私は想いを馳せます。
いつからだったでしょう、この胸に熱が灯ったのは。
その疑問に、私はきっと答えることが出来るでしょう。
生涯忘れる事は無いのだから。
それとも、もっと早く気付いていれば、何か変わったのでしょうか。
その日は、皮肉にも日本最大の危機。
あの横須賀を破る深海棲艦が現れたあの日。
守る為に出向いた隊員達の敬礼と共に投げかけられた言葉を聴いた瞬間、私の世界は変わりました。
『ヒトを救うのは、ヒトだ。 君達が戦い続けると言うのならヒトの心を忘れないで欲しい。 意思を持ち戦う事が、守る事と誇りに繋がる事を、教えておきたかった』
“これだけは忘れないでくれ”と、自分がもう還れない事を理解して託された言葉。
それが、最期の別れの言葉だと理解した時には、勝手に言葉が溢れていました。
『行かないで』
足らない、足らないの。
今貴方を失えば、私は何も誇れない。
まるで親をねだる子供のように。
でも、貴方は行ってしまった。
あの勇敢な背中には、どれ程の想いが募っているのか。
何が貴方を勇敢にさせるのか。
私はまだ、知らないの。
この願いが通じたのか、多くの仲間を失いながらも提督だけは奇跡的に生き残りました。
この上ない安堵と喜びの感情が涙と変わり溢れ出したのを覚えています。
そしてひとつの天啓を得ます。
彼こそが護るべき誇りの化身なのだと。
それからは、少しでも彼の記憶に残りたくて、色々手を尽くしてみたのですが、成果は芳しくありません。
と、言うより、最悪です。
部屋の床に転がっている赤いののせいで最早私は笑い者です。
この赤いの、どうしましょうか?
しぶとそうですし、燃えるゴミでは無さそうです。
燃えないゴミ、いえ、大きいから粗大ゴミかしら?
全く、捨てるのにもお金が掛かるなんて、とんだ災難だわ。この赤いの。
「か、加賀さん……もう許して下さいぃ……」
あら、最近の粗大ゴミは喋るみたいですね。
そんな知性があるからあんな事をしたのかしら。
その赤いのは、ボロ雑巾みたいに床を這いながら聞き捨てならない事を言いました。
「わ、私は加賀さんの為に頑張ったんですよぉ……」
「……何を頑張ったと言うのかしら。 私の気持ちが分かっていてあんな事をしたのでしょう」
「そ、そうですよ!」
「そう、解体ね」
「や、やめてぇー!」
赤いのには奇しくも私と同じ艤装が付いています。 取ってしまいましょう。
ですが、念の為どんな理由であのような奇行に走ったのか聞いておきましょう。
「どう言うつもりだったと言うのかしら? 提督に変な女だと思われてしまったのよ、恥ずかしくて顔も合わせられないわ」
「そ、そんな、まるで恋する乙女みたいな……」
「え?」
「ん?」
何ですか、その意外そうな顔は。
ちょっと待って、まさか。
私が結論に至る前に赤城さんは言いました。
「え……? 加賀さんの提督のこと好きだったんですか⁉︎」
「く、口に出して言わないで! そ、それに私の気持ちに気付いていたと、この前言ってましたよね?」
「……」
赤城さんの顔がみるみる青くなっていきました。
取り返しのつかない事をした、と言う顔です。
「……ご、ごめんなさい加賀さん」
「……赤城さん。 私は貴女の指示で何をやらされたの?」
「……その」
やけに歯切れが悪いので、赤城さんの指示で行った私の行動を思い返します。
先ず、私は最初は“女性らしく”あろうと思い、大きな口をあけてご飯を頬張る事を、提督の目がある時は控えました。
ゆっくりと綺麗に食べる方が男性には魅力的に見える、と雑誌に書いてあったからです。
そして食べる物も女性らしいメニューを、サラダとか、よく分からないけれど、可愛いメニューとか。
これも雑誌に載っていました。
赤城さんはそれをやめて普段通りで良いと言いました。 むしろ量を増やすべきとも。
次に、雷さんの行動を真似してみました。
非効率ですが、ご飯を口に運んで食べさせると言う行動、俗に言う“あーん”なるものです。
少女漫画にもそう言ったシーンがあったので、恥を忍んで挑戦しました。
ですが赤城さんはそれをやめて寧ろ提督のご飯を食べるべきだと言いました。
意味がわかりませんでしたが、提督のおかずを箸で失敬すると「仕方ないなぁ」と微笑んでくれたのを覚えています。
どこか慈愛に満ちた表情だったのが印象に残っています。
他にも赤城さんは、とにかくグルメの話題を振るようにとレクチャーしました。
実践してみれば、定期的に提督からも美味しいお店のお話を聴かせて頂けるようになりました。
さて、私の気持ちに気付いていなかった赤城さんは、どう言うおつもりだったのでしょう。
「……ごはんイコール私達の印象があれば、お願いしなくても食べ物をくれるように……」
「は?」
「ひぃぃ!」
なんということをしてくれたのでしょう。
魅力的な女性とは程遠い印象を与え続けていたようです。ただの食いしん坊です。
私は本当に沈めてしまおうかと思いましたが、話す機会も増えて内容も充実していたのも事実です。
そこで気を良くしていた私の落ち度かもしれません……。
「もう……、いいわ……」
「か、加賀さん! まだ間に合いますよ!」
赤城さんは必死に励まそうとしていますが、私は携帯画面を突き付けました。
そこにはSNSの書き込みが表示されています。
▷明石:ここの一航戦の方たちはとても面白いですね
├Heavenly Dragon:それ本人に言うなよ!
├響だよ:他所には負けないよ
├青葉:[添付ファイル 動画] 替え歌の動画です
│├那珂ちゃん:地味に歌上手いっ!
│├ぬい:惚れ惚れする右ストレートです
│└龍驤:やめたげてー!
└Shinohara:俺も面白いと思う
└龍驤:死体蹴りやめーや!!
赤城さんは画面から目を逸らして気まずそうな表情を浮かべていました。
「あ、あの……」
「よく食べる面白い2人組。 ……それが私達の印象よ」
ここからどう巻き返せると言うのかしら。
私がそんな事を考えていると、赤城さんが言いました。
「加賀さんは本当に提督の事が好きなんですか?」
「それは……」
いえ、どうなのでしょう。
冷静に考えてみれば、私は提督と、所謂恋人の仲になりたいと言う訳では無いように思えます。
「……わからないわ」
ただ傍に居て、同じ景色を見ていたい。
これから送る日常を共に歩んで、沢山の出来事を共感して行けたら素敵だと思う。
私は感情表現が苦手だけれど、私が嬉しいと感じた時、彼は何時も笑っているから。
きっと、同じ気持ちを感じてくれているのだと思えるの。
私が答えに迷っていると、赤城さんは食い気味に言います。
「ダメですよ! そう言う時はハッキリと言わないと!」
「で、でも……」
「でもじゃありません! 提督はただでさえ倍率高いのでうかうか出来ませんよ!」
「倍率が高い……」
赤城さんはその場で姿勢を正して、説明を始めました。
「提督の特徴を端的に言いましょう」
「は、はい」
「高給取りで運動神経抜群でアウトドア趣味もあってDIYや料理も得意、そして元陸自だけありイレギュラー対応も完璧。 更に見てわかる通り、尽くすタイプです」
「そうね」
「一般女性が放っておく筈ないじゃないですか! 超優良物件ですよ⁉︎」
「はっ⁉︎」
そうでした。 冷静に考えれば艦娘よりも一般女性と交際を始める可能性の方が高いと言えるでしょう。
もしも提督が外の女性と結婚して子供に恵まれたらどうなるでしょう。
私は想像してみます。
『すまない加賀。 俺は世界じゃなくて、これからは家庭を守りたいと思う』
『うふふ、あなたったら。 あっ、今お腹蹴ったわ♪』
『ふふふ、きっと元気な子が産まれるぞ! そう言う訳だから、後は頼んだぞ。元気でな!』
『て、提督⁉︎ お待ち下さい……!』
こ、これは面白くないです。
でも提督の御子息が次に仕える提督になるのだとしたら、素敵かもしれません。
私が手取り足取り執務を教えるの、提督の子供ならきっと立派な子に成長するでしょうから手間は掛からないかも知れませんね。
やんちゃな子だとしてもきっと大丈夫、全て受け入れるわ。 イタズラしたらちゃんと叱ってあげるの。
想像だけで気分が高揚します。上々ね。
でも、提督は私生活において隙だらけです。
そんな隙を突かれて悪女に捕まったとしたら……?
『すまない加賀……、億単位の借金を背負ってしまった……。 更に不祥事が発覚して提督業も続けられそうにない……、妻が軍の備蓄に手を出していたんだ……』
『キャハハ! 海軍の金で買うブランドは最高っすわー! 後でメルカリで転売しよ!』
『て、提督ーーッ⁉︎』
ふふ、殺す、殺すわその女。
世界の果てに逃げようとも鎧袖一触よ、楽に逝けるとは思わない事ね。
私が知り得る全ての苦痛を与えた上でICBMに括り付けて空に打ち上げてあげる。
圏内を出て身体中の水分を沸騰させながら果てるといいわ。
地球の土に還れると思わない事ね、遥か宇宙で摂氏4億度の光に焼かれて影すら残さないわ。
「か、加賀さん凄く怖い顔してますよ⁉︎」
「はっ、……ごめんなさい」
取り乱しました。
冷静に考えればICBMでは無くて核融合炉を使えば手っ取り早いですね。分子単位で分解されるといいです。
私は咳払いをした後、姿勢を正しました。
「でも、一般女性との交際ですか。 提督はほぼ鎮守府に居ますし、接点が無いような」
「油断出来ませんよ、既成事実なんて言葉だってあるんですから。1発仕込まれたらお終いです!」
「1発仕込む」
「男性は責任感が強いので、子供が出来てしまうとそのまま結婚に至るそうです」
嫌な現実を見た気分だわ。
でも、大淀さん曰く、提督は枯れていると。
「提督は枯れているそうだけれど」
「認知させれば良いだけですから」
「ちょっと待って、凄く不穏な話になってきたわ」
「ホトトギスやカッコウの托卵って言葉を知ってますか?」
「やめて」
やっぱりICBMね。
とにかく、これ以上は聞きたく無いわ。
それより赤城さん、何処からその知識を得たのかしら。やけに詳しいような。
そんな事を考えていると、赤城さんは言いました。
「私は、提督に養ってもらう為にも全力は惜しみませんけどね!」
「なっ」
「きっと毎日ご馳走食べ放題ですから!」
赤城さん、貴女はなんて事を言うの。
養ってもらうとか、そう言うのは違うと思うのだけれど。
まさか、その為に調べていたと……?
「……例え赤城さんでも、そこは譲れません」
「ふふ、それで良いんですよ。 加賀さん」
「え……?」
「ただでさえ加賀さんは無表情で判りにくいのですから、自分の中でくらい結論を出しておきましょうよ」
「わ、私は……」
赤城さんは微笑みながら言います。
「貴女は提督が、篠原さんが好き」
「……す、す……」
「ね?」
「……好、き」
ああ、遂に言ってしまった。
取ってつけた言い訳も、理由もいらなかった、ただ好きだったからだ。
同じ景色を見たいのも、彼が好きだから。
同じ場所に居たいのも、彼が好きだから。
彼の笑顔が好き、私も嬉しくなるの。
使命に燃える瞳が好き、私も強くなれる。
その情熱が注がれて、武器となり戦える事が、何よりも誇らしく思える。
だって彼は誇りの化身だから、気高い意思の炎が私の胸にも宿るの。
伝わる想いが、そのまま強さに変わると言うのなら。
想いに応えたいと言う気持ちが、そうさせるのなら。
きっと、彼の事を愛しているのでしょう。
赤城さんは、その事を知っていたのでしょうか?
何処か意地悪な顔をしています。
「……今の顔を提督に見せれば、ドキッとするかもしれませんね?」
「ちょ、ちょっと……」
言われて気が付きました、頬がとても熱いです。
「遠回りし過ぎだったんですよ、加賀さんは」
「……そう」
願わくば、この手をとって素肌で触れて欲しい。
貴方の熱を直接感じてみたい。
もしも願いが叶うのなら、それはどんなに幸福だろうか。
もう迷わないわ。
これから、変わります。
ですが、問題は他にあります。
「でも、ここからどうすれば良いと言うの? よく食べる面白い赤城さん」
「……」
やっぱり沈めてしまいましょうか。
篠原side
大規模工事による休止期間も終わり、鎮守府は運営を再開した。
流石に仕事があれば部屋に入り浸る艦娘はいなくなったが、代わりに執務室に入り浸っていた。
利根が来ると北上が来る、北上が来ると大井が来る、その同期3人を追い掛けるようにして鈴谷が来る。
4人揃って窓の外を覗いているようだった。
「ここからも桜がよく見えるのう」
「そだねぇ、桜って侘び寂びだよねぇ……」
「北上さんは桜よりも綺麗ですぅ……!」
「鈴谷は花より団子かな〜。 利根さんお団子はないの?」
よく食べるなこいつら。 大体何か食べてる。
しかし今日は珍しく加賀の姿もあった。
彼女は何をするわけでもなく、ソファーに腰掛けながら本を読んでいるようだ。
花見の一件以来、赤城との関係が少し不安だったが、執務室の外では共に行動しているし大丈夫そうだな。
とりあえず俺は執務をこなしながら秘書艦の神通に話し掛けた。
「神通、卯月の様子はどうだ?」
「山城さんのリップクリームをスティック糊に入れ替えた罰として道場で吹雪さんと打ち合っています」
「何してんだアイツ……。 いやそうではなく、警備に当てられるかな」
「……失礼しました。 近海の警備でしたら申し分無い仕上がりかと」
「なら警備部隊に組み込んでみるか」
朝潮が見込み通りのリーダーシップを発揮するお陰で警備部隊をよくまとめてくれている。
卯月を預けても大丈夫そうだろう。
加賀もいるし、ついでに空母の事も聞いておくか。
「加賀、瑞鶴と翔鶴はどうだ?」
「……ええ、戦力として十分仕上がっている筈よ」
「……加賀?」
「な、何かしら」
顔は向けているが、眼は合わせてくれない。
前まではキリッとした佇まいだったのだが、何処か余所余所しく視線を泳がせているような。
気になった俺は席を立って加賀の前まで歩き、屈んで目の位置を合わせた。
「大丈夫か? 具合が悪いとか」
「い、いえ、大丈夫よ、心配いらないわ」
「そうか?」
「ええ……」
加賀はそう言うが、眼を合わせない。
何か隠しているような、もしかして体調が優れないのを表に出さないようにしているとか。
だとしたら何故執務室に居るのか判らないが、とにかく熱を測ってみるか。
「ちょっと失礼するぞ」
「えっ?」
俺は加賀の額に手を当てた。
手のひらの温度は28度〜33度と言われている、手より心臓に近い頭はそれより僅かに高いくらいだ。
なので額に手を当てて暖かいを通り越して熱いと感じたなら、それは熱を発している確証にもなりえる。
加賀の額は熱くはない。 でも発汗しているような。
風邪が疑わしいので、俺はそのまま顎の後ろのリンパ線に手をあてがった。腫れてはいない。
「あ、ああああっ!」
「えっ?」
加賀は息を切らせて勢い良く立ち上がった。
物凄く何か言いたげな目で睨んでいるが、その直後に執務室の扉が開かれ赤城が姿を現した。
「すいません提督ッ‼︎ そこのヘタレ回収しにきました‼︎」
「あ、赤城?」
赤城は加賀の手を引いてさっさと執務室から出て行ってしまった。
その手際の良さに呆然と閉じられた扉を見送っていると、遠ざかる声が聞こえてきた。
『2時間無言とかありえませんよ⁉︎』
『言い訳は聞きたくありません!』
『しかも折角振ってくれたのに何ですかあの態度⁉︎』
何か話し合っているようだが、赤城の声しか聞き取れなかった。
次第に声は遠くなり赤城の声も聞き取れなくなった。
よくわからないが、大丈夫だろうか。
俺は神通に顔を向けて尋ねてみた。
「……顔を触るのは不躾だったか」
「私には診察目的とはっきり判りましたが……」
「……ウチの最強の空母は大丈夫だろうか」
「多分大丈夫です。 ですが念の為、滋養強壮効果のある食材を夕食に加えましょう、鳳翔さんに伝えておきます」
「だな、季節の節目は体調を崩しやすいからな」
早速、風邪予防対策を考えてくれる神通は頼もしいな。
春は暖かく油断しがちだが、冷える時は結構冷え込むからな。
そこへ北上が意味深な視線を送りながら話し掛けてきた。
「提督ってさぁ〜……」
「なんだ?」
「鈍いよねぇ」
「馬鹿言うな、こう見えてもキレると良く言われてたんだ」
海外では闇討ちや奇襲が頻繁に仕掛けられたからな、そう言った勘は研ぎ澄まされていた。
ピリッと鋭く突き刺すような殺気は何となくわかるのだ。
だが北上は呆れたような目をしている。
「どうしてわからないかなぁ」
「無駄じゃ、提督のおつむは修羅場を潜りすぎて一般的な感覚が麻痺しておるんじゃ」
「うわ……可愛そう……」
「流石に同情しますね」
「お前ら言いたい放題だな⁉︎」
4人から謂れのない同情を貰った俺は神通に助け舟を求めるべく視線を向けた。
視線に気付いた神通は微笑みながら言った。
「大丈夫です、提督の感覚は人一倍卓越していると言える筈です。 でなければ視覚外の奇襲にも気付けなかったでしょう」
「実は視覚内に視覚外のヒントが隠されている。 周りの状況が情報を教えてくれる、だから常に広い視野が必要なのだ」
「心に刻みます」
流石神通だ、でも哀れみの視線が強くなったような。
「流石イ級は目で殺す神通だよね〜」
「言うな、あれも犠牲者だったのじゃ」
「ホント可愛いそう……」
「最早、救いは……」
「そ、その事は忘れてください!」
ああ、そう言えば前に神通が睨んだイ級が爆発したんだっけ。
にわかには信じがたいが、映像では本当に爆発していた。
爆発の原因を調べる為、映像は大本営に送られ調査されているが未だに原因は解明されていない。
その一件以来演習相手が激減したのが唯一の悩みか。 横須賀ですら陸奥が渋っているらしく取り合ってくれない。
それにしても、風邪か……。
「んー……、たまには全身運動しないとかな?」
「運動ですか?」
「風邪予防になるしな。 ちょっと身体を動かしてくるよ」
「でしたら、私もお付き合いします」
俺はソファーお茶組にも声を掛けたが、ご遠慮された。
まぁ彼女達が執務室にいるなら留守中の来客にも対応出来るし良いだろう。
とりあえずジャージに着替えて神通だけ連れてグラウンドに向かうと、辿り着く頃には夕立と時雨が追加されていた。
「提督さん何して遊ぶっぽい?」
「僕も混ぜてほしいな」
ジャージ姿が目を引いたのかもしれない。
まぁ軽いレクリエーションのつもりだったから丁度いいか。
俺は持ってきたスポーツバックからボールを取り出して、3人の前に翳した。
「これが何だかわかるか?」
「サッカーボールっぽい!」
「寧ろ知らない人は居ないよね」
言葉が通じない相手とも遊べる方法はいくつもあるが、全世界で知らない人は居ないであろうスポーツで、サッカーはその最もたるだ。
ルールも簡単でボール1つで夢中になれる。
俺はサッカーボールを落として、足をボールの上に乗せながら言った。
「そうだ、サッカーをしよう」
4人で広がり、神通に予備のボールを持たせて時雨と向き合って貰った。
俺は夕立と向き合い、ボールを足で抑えながら言った。
「先ずはパスの練習だ。 つま先でボールを抑えて止めて、靴の横で相手の足元に向けてボールを蹴るんだ」
そう言って、俺は夕立にパスを送った。
夕立はぽいぽい呟きながらボールを止めると、思い切りボールを蹴り上げた。
ボールは明後日の空へと高く舞い上がる。
「お、おい! ノーコンか⁉︎」
「ぽ、ぽいぃ〜〜っ⁉︎」
「パスはボールを転がすイメージでいいんだよ!」
時雨は難なくとパスを神通に送っていたようだったが、俺は空高く舞い上がるボール目掛けて疾走を余儀なくされた。
降ってきたボールを胸で受け止めて、足元に落として止める。
夕立と随分と距離が開いてしまったが、構わず声を張り上げた。
「送るぞーっ! 受け止めてみろー!」
「やってやるっぽい!」
俺は夕立目掛けてボールを蹴り上げた。
弧を描いて飛んだボールは何度かバウンドしながら夕立の足元へと転がる。
夕立は気分良さげに笑いながらボールを止めてみせた。
「わっ、提督さん上手っ!」
「これはパスだからな、相手が受け取れないと意味がないんだよ。次はちゃんと狙いをつけるんだ」
「わかったっぽい!」
夕立は今度は優しくボールを蹴り、真っ直ぐとパスを送る事が出来ていた。
その後、何度かパスを繰り返してコツを掴んできたのか夕立は綺麗なパスを繰り出せるようになっていた。
そろそろ次のステップか。
「よし、じゃあ次はドリブルの練習だな」
「ドリブル?」
「こうやってボールを小さく蹴りながら移動をするんだ」
俺はその場で簡単なドリブルを披露してみせた。
走りながら靴の横やつま先を使ってボールを蹴り進み方向転換や不規則な動きを再現する。
「ほら、やってみろ」
「ぽ、ぽい!」
「神通と時雨も交代でドリブルの練習だ」
「はい」
「うん、やってみるよ!」
俺はドリブルの様子を暫く見守る事にした。
慣れない内は真っ直ぐ進む事も難しいのだが、神通は中々いいセンスだ。
蹴ったボールの飛ぶ距離も一定で、三歩走って蹴りを丁寧に繰り返している。
「神通、ダッシュ!」
「は、はい!」
神通は速度を上げてドリブルをしてみせたが、やはりボールの動きに乱れは無い。
ボールは勢い良く蹴られるが、失速する頃には神通が追い付いてドリブルの速度は落ちない。
「神通、方向転換してみせろ!」
「はい!」
神通はつま先で叩いてボール止めつつ飛び越えると、素早く反対方向へのドリブルを始めていた。
「やるじゃないか、いいセンスだ」
「あ、ありがとうございます」
「むぅ〜〜、夕立もそれくらい出来るっぽい!」
「僕だって!」
夕立と時雨にも熱が入ったのか、目付きが真剣になってきた。
そうだ、それで良いんだ、必死になる程スポーツは楽しくなるのだ。
30分も練習すると、夕立の荒削りだったドリブルも綺麗なフォームへと変わり、時雨も同じく丁寧なドリブルが出来るようになっていた。
「夕立、時雨、ダッシュだ!」
「ぽい!」
「夕立には負けないよ!」
2人は勢い良く加速して競い合うようにしてドリブルを繰り出した。
神通はその様子を見て、何処か感心するような表情を浮かべていた。
「競う相手がいると、やはり違いますね」
「俺も学生時代は同級生と良く張り合っていたよ」
「学生時代ですか?」
「ラグビー部だったけどな?」
「部活ですか」
俺はこの時、妙案が思い付いのだがとりあえず心にしまって、夕立と時雨に声をかける。
「よーし、そろそろターンしてみろー!」
「ぽーい!」
「うんっ! 見ててね提督!」
2人は揃って方向転換をして、反対側へとドリブルを続けた。
無駄のない切り返しに、思わず感嘆の息が漏れていた。
「おぉ……、やるじゃないか2人とも!」
「わーい! 提督さんもっと褒めて褒めて〜!」
「へへへ、褒められちゃった」
俺は駆け寄ってきた2人の顔を交互に見ながら頷いた。
頬に汗を伝せながら清々しい表情を浮かべる2人はとても楽しそうだ。
「上出来だぞ」
「むぅ、言葉だけじゃなくて撫でて欲しいっぽいー!」
「ゆ、夕立⁉︎」
撫でる、か。 年頃くらいになれば寧ろ嫌がると聞いているが、まぁ本人が望むなら良いだろう。
俺は夕立のひょこりと跳ねた髪の毛に手を置いてくしゃりと歪ませながら撫でると、再び声をかける。
「良くやった、良いフォームだったぞ」
「えへへぇ、嬉しいっぽい!」
「ゆ、夕立ズルい! ぼ、僕も!」
「ああ、時雨もな。 ちゃんと見てたぞ、綺麗なドリブルだった」
時雨の頭も撫でてやると、心地好さそうに目を細めながら口角をあげていた。
上司のおっさんに撫でられる事はそんなに良い事なのだろうか。
そんな事を考えていると、神通が話し掛けてきた。
「あ、あの提督……」
「どうした?」
「えっと、その……」
「ああ、話の途中だったか」
俺は何となく察して、心にしまっておいた妙案を取り出した。
「新たに部活動を制定しよう。 この鎮守府にとって、新しい風になるはずだ」
部活動申請書類を作って全員に告知すれば、それぞれが立ち上げたい部活を申請する筈だろう。
もしかすると大会などにも参加できるようになるかもしれないし、きっと良い刺激になるはずだ。
しかし、神通は何処か投げやりな視線に変わっていて、夕立と時雨は呆れた表情を浮かべていた。
「提督さん今のは無いっぽい」
「君には失望したよ」
「え? ……部活ダメか?」
「そうじゃないっぽい!」
「ここまで来ると最早罪だよね」
何故謂れのない糾弾を受けなければならないのだ。
俺が分からない顔をしていると、痺れを切らした夕立が言った。
「神通さんもナデナデして欲しいっぽい」
「ゆ、夕立さん……⁉︎」
マジか、あの神通が。 冗談だろう?
その本人に目を向ければ、確かに何処か期待しているような瞳をしている。
神通にはかなり世話になっているし、撫でると言う、何処か上からの行為は気が引けるんだよな。
まあ、本人が望むなら。
俺は神通の髪に触れて、手を動かして撫でてみると彼女もまた目を細めて、少しくすぐったそうに肩を小さくしていた。
神通は頬を僅かに朱に染めて、ぽそぽそと小さく唇を動かした。
「ありがとう、ございます……」
「あ、ああ」
神通もこんな表情を浮かべる事があるのか。
もうすぐここに来て1年が経とうとしているが、まだまだ知らない事の方が多いのかも知れないな。
大井side
私は今、執務室で北上さん、利根さん、鈴谷さんと4人で執務室でお茶をしています。
私は別に執務室に用事は無いけど、北上さんが居るので仕方なくです。
お煎餅なら私も用意できるのに、北上さんは利根さんについて行って執務室に籠ってしまいます。でもそんな何処かつれない北上さんも素敵。
本人曰く「煎餅のチョイスが渋い」らしいです。
利根さんは執務室や提督の私室に良く入り浸っています。 なので利根さんを追い掛ける北上さんも必然的に入り浸り、運命共同的に私が居るわけです。
執務室ですが、今は提督は不在です。
なんでも、風邪予防に運動をするとか。
私達にも声が掛かりましたが、利根さんは食べ掛けのお煎餅を理由に断り、北上さんは駆逐艦が来そうだからと断り、鈴谷さんは皆残るなら自分も、とそれぞれ断っていました。
提督が居ない執務室で、利根さんが窓際に移動してグラウンドを眺め始めました。
そして感心するような声色で声をあげました。
「ほほう、サッカーか」
その言葉に、北上さんも窓際に移動します。
「へぇ〜、良くやるよねぇ提督も」
「あれなら誰でも参加できそうじゃ、今こそ夕立と時雨だけじゃが、そのうち他の艦娘も集まって暫く帰ってこれぬやも知れんなぁ」
「うわっ、本当だ。 遠くで駆逐が見てる、行かなくて良かった」
釣られて私も窓の外へ視線を向けると、提督とサッカーをして遊ぶ夕立さんと時雨さんが楽しげに走り回っています。
神通さんも何処か普段とは違う雰囲気に見えました。
ふと背後から軋む物音がしたので、振り向くと鈴谷さんが提督の椅子に腰掛けてました。
「なにやってるの鈴谷さん……」
「へっへーん、鈴谷提督!」
「……暇なら混ざってくれば良いじゃ無いですか」
「ん〜……、それもそうなんだけどさぁ」
何でしょう、何か含みがある言い方ですね。
「鈴谷さん?」
「なんていうかさぁ」
鈴谷さんはデスクの上で頬杖をつくと、つまらなそうな表情をして、ため息と共に呟きました。
「……蚊帳の外じゃん、私」
「え……?」
「提督、ずーーっと最初から居た子とばかり話してて、鈴谷の事あまり構ってくんないし〜……」
……言いたい事は、何となく分かる気がしました。
提督が自分から話しかける相手と言えば、主に古参の艦娘達です。
その艦娘達とは本当に濃厚な時間を過ごして困難を乗り越えて来ただけあって、かなり強固な絆がある事が見てわかります。
だから、無意識にその艦娘に意識が行くのも仕方のない事。
それに、艦娘の人数も増えて来ていますから、管理だけでも大変なのでしょう。
「まぁ、時間が築く信頼関係とかありますし……」
「でも瑞鶴さんと翔鶴さんとは普通に話してたじゃん! それも楽しそうにさ! 鈴谷の方が早く着任したじゃん!」
確かにそうだけど。
あれ、鈴谷さんヤキモチ焼いてるだけ? やだ、すごく面倒臭いわこの子。
と言うか何で私は提督のフォローしてるんでしょうね。 急にバカバカしくなって来ました。
「あっ、じゃあアレですよ。 提督の好み」
「鈴谷の魅力が無いって事⁉︎」
「……知りませんよ」
少なくとも北上さんには敵いませんね。
何で私が睨まれているんでしょうか。 こうなったのも全て提督のせいですね。
「言っとくけど鈴谷、結構ルックスに自信あるんだけど⁉︎」
「だから知りませんって!」
「さっき提督の好みって言ったじゃん!」
「私は北上さんさえ居れば何でもいいんで、興味ありません!」
ちょっと、矛先こっちに向いてません?
提督遊んでないで早く戻ってきてこの子何とかして下さい、魚雷20本ぶつけますよ。
北上さんと利根さんは気付かぬふりですね。
何とも言えない表情で窓の外に視線を固定しています。
「さ、サッカーじゃのう……」
「……サッカーだねぇ」
あぁ、外を眺める北上さんの横顔も素敵、でも利根さんは酷いと思う。助けて下さいよ。
もうとっくにサッカー見るの飽きてますよね。話題枯れてますし。
頬を膨らませた鈴谷さんに睨まれながら、私はとにかく助け船を求めていました。 本当に面倒臭い。
「ねえ、聞いてるの大井さん!」
「聞いてません。 提督に言ってくださいよ……」
「ひ、酷くない⁉︎」
酷いのはこの状況ですよ。
提督にその事伝えれば考えてくれるんじゃないですか、知りませんけど。
そこへノックと共に扉の方から大淀さんの声が聞こえてきたので、私は留守を任されたのを思い出して早急に対応に向かいます。
「提督、いらっしゃいますか?」
「あっ、提督は外に出てますよ」
「ちょっと、鈴谷の話まだ終わってないんだけど!」
話始まってすらいませんし、面倒臭いですし。
大淀さんはそんな鈴谷さんと私の顔を交互に見ると、顎に手を当てて少し考える素振りを見せた後で手に持った封筒を差し出しました。
「あの、大井さん。 この封筒をデスクの引き出しにしまっておいてくれませんか? 上から3番目です」
「な、何で私が……」
「私は工廠に用事があるので、よろしくお願いします」
いや、助けて下さいって。
見てくださいよ面倒臭い子が面倒臭い顔して面倒臭い事言ってるのよ。
でも大淀さんは封筒を手渡すとさっさと行ってしまいました。
私は仕方なく提督のデスクに向かうと、未だに主張の激しい鈴谷さんの横で、上から3番目の引き出しを引きました。
すると鈴谷さんも視線を降ろして引き出しの中に目を向けます。
引き出しの中にはファイル分けされた沢山の書類、そして使い込まれた一冊のノートが入ってました。
鈴谷さんはその使い込まれたノートを手に取ります。
「なにこれ、提督の日記とか……? 読も‼︎」
この子も中々性根が腐ってますね。 普通日記と気付いたら読みませんよ。
まあ提督の日記で矛先が私から外れるのなら良いでしょう。見て見ぬふりです。
間もなくして、ノートを開いた鈴谷さんが意外な声をあげていました。
「え、何これ……」
私も釣られてノートの中身に目を向けると、内容は日記ではなく、艦娘の事が詳細に書き込まれていました。
今開いてるのは吹雪さんのページですね。
何度も消しゴムで書き直して、少し汚れたページ一杯に吹雪さんの事が書き綴られています。
基本的に何でも喜んで食べるが特にサッパリした物を好む、などと言った簡単な好物の情報から、趣味に使う工具のメーカーと仕入先の住所と電話番号、それに習い取り寄せる雑誌やカタログ等の名前がつらつらと綴られています。
いつのまにか北上さんと利根さんもデスクに集まっていて、ノートの中を覗き込んでいました。
「うっへぇ、提督こんな事してたんだ……」
「適正職業の考察まで書かれておる、吹雪は工作だけじゃなく塗装業もいけるのか……、大したものじゃ」
アルバイト解禁で、選定基準として必要になる情報を纏めていたのでしょう。
その事に気がついた鈴谷さんはページを巡らせて自分のページを探しました。
「あ、あった!」
鈴谷さんのページもちゃんと書き込まれていました。
ただ、疑問符が多いですね。
洋菓子を好む? や、ネイルアートに関しての考察と取り寄せる雑誌の種類などが、大雑把に記載されています。
吹雪さんとは違い、判断に迷っているのか雑誌の候補も多いようです。
ただそれでも、鈴谷さんは嬉しそうでした。
「ネイル……気づいてたんだ」
「提督は鈴谷の事もちゃんと見ておる、ただ慎重なだけじゃな。臆病な程であるが……」
「でも疑問符多くない……?」
「お主、ちゃんと提督と話した事はあるのか? 少なくとも提督は鈴谷の事を知ろうと頑張っているように見えるがの」
利根さんの言葉に、鈴谷さんはノートをデスクに置いて勢い良く席を立ちました。
「す、鈴谷もサッカーしてくるっ!」
そう言って執務室から駆け出していきました。
どこか女の子の顔してましたね。
と言うかアレですね、言ってしまいましょう。
「鈴谷さんチョロくないですか」
「言うな。ずっと飢えていたんじゃ……、仕方あるまい……」
要するに提督が構ってくれないから隠れ蓑として私達に付いて回っていたんですね。
少し拗らせ過ぎやしません?
この先大丈夫ですかね。
そんな事を考えていると、北上さんが楽しげな声をあげました。可愛い。
「あははっ、大井っちの事も書かれてる〜」
北上さんはノートを開いて翳して見せました。その一挙一動が素敵。
開かれたページは私の事が記されたページのようです。
ただ内容が 「北上」 としか書かれてませんね。
好物や趣味、職業適性についてもひと言もなしです。
ただ二文字、ノートの余白たっぷり残して「北上」とだけ。
成る程、提督は私の事をよくご存知のようで。
これほど私の事を的確に記した情報も無いでしょう。
北上さんが居れば何でも良いですから、どんな職でもこなせます。
利根さんが哀れむような視線を送ってきました。
「お主……寝ても覚めても北上北上じゃからな……」
「……別にいいですよ、あってますし」
ただヤケクソ気味に「北上」って書いてますけど提督、貴方は北上さんの何を知って「北上」と自信満々に書いたんですかね。
北上さんの魅力ちゃんと分かってるんですかね、お風呂上がりの殺人的な色気とか、たまに見せる無邪気な笑顔とか。思い出すだけでムラムラしますね。
要するにどれだけの想いを込めて「北上」と書いたかですよ。
例えば好物の情報とか、単に情報不足だから書かなかったのか、それとも私が北上さんをオカズにすればご飯30杯くらい行けることをちゃんと理解して「北上」の二文字で纏めたんですかね。
趣味も情報不足じゃなくて、北上さんを眺める事に尽きますからね。
職業適性? 北上さんが居れば何だってやりますよ!
故にこの「北上」の二文字は的確と言えます。ですがやはり、その二文字にどれだけの考慮があるかですね。
そんな事を考えていると、北上さんが嬉しそうな声が聞こえてきました。 耳が蕩けそう。
「あはっ、アタシがヘアゴムの色毎日変えてるの気付いてたみたい」
北上さんは自分のページ開いているようです。
と言うか提督、これは北上さんの事をジロジロ見てたって事ですかね。
私も北上さんのページに目を向けると、食べてるお煎餅の種類とか、ヘアゴムから思考を巡らせたのか、ワンポイントアクセサリーの雑誌が候補に上がってますね。
「へ、へぇ……、あの食堂に置いてある雑誌、アタシの為だったんだ……。なんか照れるねぇ……」
て、照れ笑い……⁉︎ 北上さんの照れ笑いを浮かべていらっしゃる!
そのあまりの眩しさに見事に角膜が焼かれました。
失明してもいい、焼き付いた照れ笑いがいつでも見られるから。
ただ北上さんをこんな顔にさせた提督は許しません。
けどヘアゴムの着眼点は見事です。
私も願いが叶うのなら北上さんのヘアゴムになりたいと思ってますから。
知ってますか? 朝起きて髪まとめる時、北上さんはヘアゴム口にくわえるんですよ?
その破壊力たるや、最早最終兵器。
その破壊力を秘める北上さんは、最早究極の艦娘……、いや、神。
「もう一度、あの雑誌見てこようかなぁ。 提督の前で着けたら喜んでくれたりして?」
「へ? 北上さん……?」
「大井っちも来る?」
「わ、私は……提督に文句言った後に向かいます」
「へぇ〜、大井っちも素直じゃないよね」
何を言ってるんですか北上さん。
冷静に考えて二文字は失礼ですよ、もう少しやりようがありましたよコレ。
あのやかましい卯月のページもそれなりの情報量がある上に「要職業訓練」とまで書かれてますし、普段接点が無さそうな曙さんだって音楽好きだとか釣り好きだとか書かれているのに。
私は二文字。
二文字っておま。考えるの止めてますよね。
失礼にも程があると言うか、北上さんの件についても一度ちゃんとお話しする必要がありますね。
私はノートを元あった場所に戻して、ふと利根さんの方へ振り向きました。
「そう言えば利根さんは気にならないんですか? 自分が何て書かれてるか」
「吾輩か? 吾輩はみるまでもないからのう」
「……うん? どう言う事ですか?」
「吾輩の好物も趣味も全て提督は知っておる、ちゃーんと話しているからのぅ」
もしかして、利根さんがいつも食べてるお煎餅って……。
毎日執務室にいるのも、まさか。
「……利根さん、もしかしてお茶とかお菓子とか全て用意してもらってるんじゃ」
「気にするでない、その代わり吾輩は提督に癒しを与えておるからな!」
「い、癒し?」
「こんなに可愛らしい吾輩が常に視界に居るのじゃぞ? 癒されぬ筈があるまい! なーはっはっはっ!」
「……あ、はい」
常識人だと思っていた利根さんですが、印象が変わりました。
ここの鎮守府の艦娘は、色々拗らせた子が多いようですね。
少しだけ提督に同情の余地もありますし、魚雷は勘弁してあげましょう。
篠原side
4月下旬。
グラウンドを桃色に飾っていた桜の花びらも殆どが散ってしまい、排水溝に詰まるなどして美しさの弊害を与え始めた。
そんな季節の早朝、目を覚ました俺は洗面所で顔を洗いながら部活動に制定に関する準備の事を考えていた。
部活動の制定には“部費”の申請が避けては通れないから、先ずは大本営の意見を聞かないとだな。
娯楽費で賄う事になれば、部活動の幅がかなり狭まってしまうだろうし。
顔を洗った俺は窮屈な制服に着替えて玄関に向かうと、扉を開ける前にノックの音が響いた。
それと同時に雷の声が響いた。
『司令官! 朝よ!』
「もう出るぞー」
『また起きてたの? お世話し甲斐がないわ!』
雷は俺にどうあって欲しいんだろうな。
硬い革靴を履きながらドアを開けると、第六駆のそうそうたる面々がニコニコと笑いながら並んでいた。 最早見慣れてきた光景だ。
「おはよう、みんな」
「おはよう司令官、いい朝だわ!」
「ドーヴラエウートラ」
「おはよう司令官! 朝ごはんにしましょ♪」
「おはようございますなのです!」
寮ではなく居住区となった訳だが、俺は艦娘達と同じ区画に押し込まれた身となる。
執務が終わると一部の艦娘が自室を占領し始めるのは厄介だが、こうして少しばかり賑やかな朝を迎えられるのは確かな美点だろう。
俺は廊下を歩きながら、身の回りを囲む4人に聞こえるようにありふれた言葉を投げ掛けた。
「今日は何食べるかな」
「日本のレディなんだから、もちろん私は秋刀魚定食だわ! 大和撫子だもの!」
「やめたほうがいい、無残な秋刀魚のスプラッタは見たくない」
「な、なによう! 綺麗に食べられるわよ! ぷんすか!」
「あ、朝からぷんすかしちゃダメなのです!」
「大丈夫よ暁、私が小さい骨抜いてあげるわ!」
この4人はたったひと言で三者三様の反応を見せるが、最早慣れてきた。
ここで俺が余計な突っ込みを入れるから話が更に脱線するのだと最近になって気がついたからな。
様子を見守る、これは俺が提督業をこなす中で見出した1番の発見かもしれない。
どんなに個性が強くても見守れば良いのだ、あの金剛ですら見守ればやり過ごす事が出来る、素晴らしい発見だ。
そんな事を考えながら廊下の角を曲がったら金剛が待ち構えていた。もう慣れた。
「グッモーニン! 提督ゥ! バーニィーング……」
ほら来た、だがここで反応してはいけない。
「ラァーーーーブッ‼︎」
金剛は俺の周りに暁達が居るのにも関わらず飛びかかってきた。
暁は間もなく自分に襲いくる衝撃を予想して顔を青ざめさせていたが、俺は動じない。
ここでは余計に騒がず、流れに身を任せるのだ。
「おはようございます、提督。 ……それと金剛さん」
「What⁉︎」
突如として現れた神通が目にも留まらぬ速さで金剛の手を取り、飛び掛かる勢いを利用して巴投げを敢行して、軌道を逸らした上で投げ飛ばした。
「チィッ‼︎」
金剛は投げ飛ばされながら空中で身体を捻り、受け身を取るまでもなく両足で着地していた。
「フッ、流石はジンちゃんデース……、Wonderfulネ」
「ほう、あの姿勢で空中受け身を取りますか……」
神通が行ったのは柔道の技だが、柔道に空中受け身なんて言葉は存在しない。
艤装特有の加護によりブーストされた艦娘達が作り出した造語だ。
艤装展開こそしてないが、衣装に宿る加護だけでそこまで身体強化をしてみせている。
見てわかるだろう、もう俺はどうする事も出来ないから、見守るしかないんだ。
何かした所でなるようにしかならない。
第六駆は癒しだな、個性的だけど俺の裁量に収まってくれる。
そんな事を考えていると、金剛がニヤリと笑った。
「フッ、ジンちゃんいくら強くても……、二方向から同時なら対処出来ない筈デース!」
「な、何を……⁉︎」
神通が異変に気付く時には既に遅く、俺の前には榛名が現れていた。
「榛名、参ります!」
そうやってすぐ俺の裁量から突破するんだもんな金剛型は。
榛名は勢いよく俺に向かって駆け出した。
「ば、ばーにんぐらぶ〜!」
しかし榛名は直前でかなり失速して最終的に、ぽふんと優しく俺の胸に飛び込んできた。何だこれ。
神通をマークしていた金剛は元気よくサムズアップしていた。
「榛名グッジョブデース!」
「や、やりましたお姉様! で、でも恥ずかしい……」
「……って、これじゃ意味ないデース⁉︎ 榛名デレデレし過ぎデス、私を裏切ったネ⁉︎」
「そ、そんな⁉︎ お姉様あんまりです!」
榛名、お前は何をやらされているんだ。ちゃんと断る事も覚えなさい。
金剛は榛名に矛先を変えたので、俺は唖然と立ち尽くしていた第六駆と、何処か悔しそうな表情を見せる神通に話しかけた。
「……早く朝食にしよう」
「……なのです」
「挟撃とは、不覚……」
ここで何もしない事により、体力の温存を計るのだ。そうすれば消費が抑えられ後の執務に体力を回せる。
その後、朝食を終えた俺は神通と共に執務室に向かい、馴染んだ椅子に腰を落とした。
先ずは大本営に部活動に関してメールで一報だな。
俺はパソコンに向かい始め、神通も完全に執務スイッチが入っているが一応始業前である。
そこへ大淀と共に、本日の秘書艦補佐である朝潮がやって来ていよいよ始業となる。
執務で忙しいのは最初の1時間だろうか。
先ずは午前の遠征部隊と警備部隊に招集を掛ける。
最低でも3日前にはメンバーが決まっているので指名された艦娘は大体執務室前で待機している事が多い。
執務室でそれぞれ内容を説明した後で揃って出撃ドックに向かい、海へと送り出す。
余談だが、警備部隊に限って意味が薄くなりつつある。
海上に浮かぶ監視塔が建てられ艦娘達に頼らない警備を可能にしたのだ。
迎撃能力こそ皆無だが、最新鋭のカメラとコンピューターの演算により敵空母の艦載機を素早く察知したり、押し寄せる艦隊の艦種の特定が出来て迅速な情報伝達が可能となり、有効な編成で迎撃出来るようになっている。
深海棲艦は人が作るレーダーには映らないが、姿は見える。
ならば原点回帰、見て位置を特定してやろうと言う発想から誕生した文明の利器と言ったところか。現在の課題は潜水艦らしい。
見た目は大きなブイから聳える電波塔の様な姿をしていて、波の上下を利用してタービンを回す水力発電で自給自足している。
乗り物では無いので艤装をつけた艦娘でもブイの上に乗る事が出来て、度々ブイに座って休憩する艦娘の姿がカメラに映るとか。
本題に戻り、艦娘達の出撃を見送ったなら次はアルバイトに出向く艦娘達を纏める人材派遣会社のような仕事が始まる訳だ。
大体の艦娘が漁の護衛などの仕事なのでドックから海上を出て向かってもらうのだが、中には陸で仕事をする者もいるので、その場合は事前に送迎の足を手配する。
暇を持て余す憲兵の1人が運転役をしてくれているので非常に助かる。
見送りが済んだなら執務室に戻り、パソコンで何事も無かった時の報告書のテンプレを仕立てて終了だ。
後は適当に新しい派遣先を探したり、備品確認や取り寄せる雑貨を綴ったマークシートを起動したり。
新海域開放など行わない日はこんなものだろう。
大体この手が空いてくるタイミングで利根がやってくるのだが、今日は1番に白雪が執務室の扉を叩いた。
「司令官、折り入って相談があるのですが」
ちょっとしたカウンセリングも提督の仕事の1つだろう。
しかし白雪が相談に来るとは珍しい。朝潮も少しだけ驚いた顔をしていた。
「どうしたんだ?」
「……私に、個性を下さい!」
個性はあげられる物だっただろうか。
早くも幸先に不安を感じたが、俺は出来るだけ表に出さないように聞き返した。
「個性?」
「はい……、このままでは白雪はこの鎮守府で1番目立たない艦娘になってしまいます」
「……個性はそんな理由で欲しがるものじゃない気がするが。 周りが濃すぎるだけだ、白雪は白雪のままで良いんだよ……、最早珍しい普通な艦娘なのだから……」
「司令官!」
白雪は両手に握り拳を作って声を上げた。
「普通じゃ戦えないんですっ!」
息巻いてそう主張する白雪は何と戦っているのだろうか。少なくとも敵ではないよな。
白雪は淡々と説明を始めた。
「司令官は吹雪ちゃんを魔改造しました」
「魔改造て」
「他所の鎮守府では吹雪ちゃんと言えば普通、普通と言えば吹雪ちゃんだったんです。 最も地味な子は、と言われれば真っ先に吹雪ちゃんの名前があがる程度には……」
「普通の何が悪いんだ。 それにうちの吹雪も十分普通な子じゃないか」
「司令官、普通の艦娘は金属加工の為に卓上旋盤を欲しがったり、砂型鋳造法の勉強を始めたりしません」
吹雪は主に木工だったが、最近になって金属加工に興味を示している。金属特有の光沢や剛性は確かに惹かれるものがあるからな。
卓上旋盤か……、確かそこまで値は張らなかった筈だ。
俺が取り扱いメーカーに心当たりを探していると白雪は続けて言った。
「それに最近、吹雪ちゃんは推しのメーカーの名前を呼ぶとき敬称をつけるようになったんですよね。 牧田さんとか、小松さんとか……、これ司令官の影響ですよね」
「……そうかも知れない」
実際、小松さんは尊敬に値するメーカーだ。
海外でも小松の名は目にするし、とある地区でも子供達の未来を守る為に地雷処理重機が投入され、爆発を身に受けながらこの上無く頼もしい勇姿を見せている。 推しに敬称の何がいけないと言うのか。良いじゃないか別に。
白雪は悔しそうな表情で言った。
「地味と普通の代名詞だった吹雪ちゃんはどこに行ったんですか、キャラ濃過ぎますよ! 前まではパンツしか取り得なかったのに!」
「お前結構口悪いのな」
「お陰で、私が鎮守府で1番目立たない地味な子になってしまいました……!」
「料理が得意だろう? この前振舞ってくれたカレーは美味かったぞ」
「そんな普通じゃ戦えないんですよぉ! 鳳翔さんのレパートリーには到底敵いませんし!」
一体何が白雪を駆り立てるのだろうか。
俺としては普通でいて欲しいのだが、白雪はお笑い芸人みたいな事を言っている。
頼むから普通でいて欲しい。
俺は神通と朝潮の顔を交互に見た後で、白雪に説得を試みた。
「あのな白雪、神通と朝潮も普通の艦娘だが、堂々としているだろう?」
「司令官、普通の艦娘はイ級を爆破させません」
「……朝潮も普通な艦娘だが、堂々としているだろう?」
「て、提督⁉︎ 何故言い直したのですか⁉︎」
神通ヤバいって話はよく聞くからな。抗議の目を送って来ているがとりあえず無視だ。
朝潮は普通だろう。 模範的な優等生だ。
しかし、白雪はお気に召さないようだ。
「……朝潮ちゃんは十分キャラ立ちしてますよ」
「はて、私がキャラ立ちですか?」
そう言うことか、白雪は自分の影が薄くなる事を懸念しているのだろう。 それで、個性が欲しいと。
俺としては特に問題も起こさず大人しいままでいて欲しいのだが、仕方ない。
「神通、那珂を呼んでくれないか?」
「はい、分かりました」
俺が知り得る超個性派、那珂。
彼女の力を借りれば、白雪は何か掴めるかも知れないしな。
神通が携帯を弄って3分もすると、ノックと共に那珂が入室してきた。
「ハローーーッ‼︎ 那珂ちゃんだよーー!」
このポテンシャルだ、強過ぎる。
そのキャラの濃い助っ人に、白雪の表情に期待から来る笑みが浮かんでいた。
俺は決めポーズをとる那珂に、かいつまんだ説明を始めた。
「急に呼び出して悪いな」
「ううん、ダイジョーブだよ!」
「実は白雪が、影が薄くなってしまうとキャラ立ち云々で悩んでいてな、何かアドバイス出来ないか?」
「あははー、那珂ちゃんにそれ言うんだー……」
「那珂……?」
那珂の表情に陰りが出来ていた。
何故だろう、地雷を踏んでしまったような。
やがて那珂は貼り付けた笑顔のまま説明を始めた。
「那珂ちゃんは〜、アイドルなのにぃ、提督が弾き語りなんてしちゃうからぁ、折角のお歌もそこまでウケないんだぁ……」
「えっ」
「それに〜、赤城さんの替え歌のインパクトが強過ぎてぇ……。もう普通じゃやってけないよね」
「急に真顔になるな」
那珂は途中まで一応笑顔を維持していたが一転して真顔になっていた。
そしてあろうことか白雪も同調を始めた。
「や、やっぱ普通じゃダメですよね⁉︎」
「うん、ダメ! 普通じゃ負けちゃう!」
「な、那珂さんは何か対策とか考えていますか⁉︎」
「那珂ちゃんアイドルだけど、もう脱ぐか、土食べるしか無いかなって」
やめろ、ドン底アイドルみたいな事をするんじゃない。 そんなんただの変な人だぞ。
寧ろ変態だ。
この2人を立ち会わせたのは失策だったようだ、同じ境遇だったからか物凄い息が合うようだ。
「よぉーし! 那珂ちゃん食べられる土探してくるゾ!」
「那珂さん、私もお手伝いします!」
「やめろっ! 艦娘が土食ってる所見られたら大問題だぞ⁉︎」
「売名にはスキャンダルもありかなって」
「ああ有名人だな! そんな事をさせた俺がなッ⁉︎ お前は俺をクビにしたいのか⁉︎」
「那珂さん、腐葉土は栄養満点って吹雪ちゃんが!」
「お前も那珂を煽るな! なんで土食う事に躊躇いがないんだよ!」
本当にどうしてこんな事になっているのか判らない。 まして土食う発想が意味不明だ。
憲兵に見られたら何て説明すればいい?
今まさに執務室を飛び出そうとする2人を抑えて、俺は声を張り上げた。
「もうお前らこれ以上ないくらい個性的だよ! いい加減にしろ!」
この一件以来、2人は定期的に暴走するようになったのだが、それはまた別のお話。
因みに今回の騒動は2人が本当に腐葉土を目の前に生唾を呑んでいたので神通の手刀2発で解決した。
憲兵side
私の名前は斎藤 智之 63歳、老いぼれではあるが憲兵を務めている。
日本は本来軍を持たないから厳密には憲兵では無いのだが、艦娘達とその妖精が大本営を求めたので致し方ない。
憲兵隊は元陸自の面子で編成される軍警察と思ってくれて構わないだろう。
仕事と言えば大体見ているだけだ。
鎮守府に務めているのだが、鎮守府の本当に外側の小さなスペースに佇んで鎮守府の運営を見守る、それが憲兵の仕事だ。
一般人は我々を憲兵とは気付かず、鎮守府の門を管理する門衛か警備員かなんかだと思っている人が多いようだ。
あながち間違いでもないのだが、なんだかなぁと思う時がある。
本来なら鎮守府に勤める提督の不祥事取締なども仕事なのだが、ここの提督の篠原さんは温厚な人柄で事件なんて起こしそうもない。
艦娘との関係もかなり良好と言えるだろう。
更に私に気遣って定期的に差し入れを持って来てくれる、仕事中はそれが少しばかり楽しみだったりするのだ。
私は守衛室で監視カメラの映像やテレビを見ながら暇を潰していると、早速篠原さんがやって来たようだ。
「斎藤さーん、賄賂ですよー」
「おお篠原さん! ま〜た持って来たんですかぁ!」
「ウチの艦娘が世話になってますからねぇ。 聞きましたよ、不知火に傘を貸してくれたと」
「スーパーに買い物に行ったあの子ですかぁ、覚えててくれたんですねぇ」
篠原さんは守衛室の受付小窓にあるカウンターに肘をついて寄り掛かりながら、紙袋を私に差し出して来た。
私は会釈しながらその紙袋を受け取ると、ずっしりと重い。
さて今度の賄賂は何だろうな? そんな事を考えていると篠原さんが笑いながら先に答えを言ってくれた。
「4月なんで桜餅ですよ。 みんなで作りました」
「おぉ〜〜……桜餅ですかぁ! いいですなぁ!」
「桜散っちゃいましたけどね」
「大丈夫大丈夫、私は花より団子ですからなぁ」
私は受け取った紙袋を開いて中をのぞいてみる。
プラ容器の中に、桜の葉っぱに包まれた桜色の和菓子が沢山並んでいる。
ほほう、この形は。
「ふむふむ、関東風ですなぁ」
「流石斎藤さん、物知りですねぇ」
「なぁにこれくらい、それに関東風の巻物みたいな形は特徴的ですからなぁ」
「因みに漉し餡と粒餡が半々です」
「両方いけますとも。 帰ったら酒の肴にしましょうかねぇ」
私は甘い物に目がないんでね。
篠原さんは週に一度はこうして何か持って来てくれる。
必要無いと私は言うのだが、何でも艦娘達が世話になっているからと聞かないのだ。
憲兵の仕事はハズレだと言う輩がいるが、私がここに来て一度もそう感じた事が無いのは、訪れた地に篠原さんが居た僥倖であったと言うことか。
さて、この桜餅はどれ程甘いのだろうか。
私は想像に心躍らせていると、篠原さんが深刻な顔をしながら話し掛けて来た。
「……それでですね、最近白雪と那珂が変なので目を見張らせといて下さい」
「ふぅむ、那珂君はとにかく、白雪君もですか」
「特に土とか、変なキノコとか持って帰ろうとしてたら絶対に没収してください」
「つ、土? ま、まぁわかりました」
栽培でもするのかな?
篠原さんは定期的に妙な問題に頭を抱えているようだ。
この前は半裸のような格好で門を飛び出した島風君を必死の形相で追いかけていたような。
かつてレンジャー資格を得ていただけあって見事な健脚で、速さ自慢の島風君をあっという間に捕まえて連れ戻していたな。
島風君の年頃なら奇抜過ぎる格好をしてみたい時もあるだろうが、篠原さんからしたらたまったものでは無いのだろうな。気苦労が絶えなそうだ。
篠原さんが鎮守府の中に戻ると、再び暇な時間がやってくる。
もうすぐお昼時か、妻の作った弁当を頂くとするか。 今日は桜でんぶか、乙じゃないか。
私は弁当をぱくつきながらテレビを眺めていると、ふと守衛室の小窓からこちらを覗く艦娘の姿が視界に入った。
あの姿は、一航戦として名高く、この鎮守府の最大戦力の一角……赤城君。
敵対する艦隊は彼女の姿を拝む事無く水底に沈むとまで言われている赤城君は定期的にこの時間を狙ってやってくるのだ。
最強と名高い彼女が何故こんなところに。
思わず箸が止まってしまった。
その獲物を見つけた鷹のような鋭い目付きは、私の勤務態度を確認しているかのようだった。
遥か遠くの敵を射抜く千里眼の持ち主、その歴戦の眼で私の一体何を見抜こうと言うのか、今は休憩時間であるから食事をしているだけだと言うのに。
よもや休憩ですら気を抜いてはならない、と言う事をその力強い眼で教えようとしているのか。
もう、こうなったらただ無事に審査が終わるのを耐え凌ぐしかあるまい。
やがて少しばかり時間が経つと、もう1人の最大戦力、加賀君がやって来て赤城君を連れ去って行った。耳を引っ張っていたようにも見える。
品定めが終わったのだろうか。
そうして、あの舐めるような視線から解放された私はようやく食事を再開することが出来た。
毎回毎回生きた心地がしないが、ここは知る人ぞ知る有名な鎮守府であり、その艦娘でしかも主力となればその眼も厳しいのも納得だ。
私とてこの仕事を気に入っている、不足が無かったのか或いは見逃されたのか判らないが、とにかく無事に審査が終わった事に感謝しよう。
血圧が上がりそうな昼を乗り越えれば再び暇な時間が始まる。
私は再び監視カメラの映像とテレビを見ながら暇を潰していると、守衛室の小窓から、今度はつぶらな瞳が此方の様子を伺っていた。
背伸びしているのだろうか、目から下がカウンターに隠れていてまるで小さくて可愛らしい海坊主のようだ。
そんな瞳の持ち主は、元気な声で私に話しかけて来た。
「こんにちはなのです、憲兵さん! 電達は海岸まで行ってくるのです!」
「こんにちは電君、今度は何しに行くんだい?」
「コレを集めに行くのです!」
電君がポケットを弄って取り出したのは、綺麗な貝殻と、角が削れて丸くなった緑色のガラスのカケラだった。
シーグラスと言う、ちょっとした蒐集品だ。
珍しい色の物は高値で取引される事もあるのだとか、私も小さい頃集めていたような気がするな。
「シーグラスか、懐かしいなぁ。 黒やオレンジ色の物を見つけたら、みんなに自慢出来るぞ?」
「はわわ、それは良い事を聞いたのです。 見つけたら憲兵さんにも見せてあげるのです!」
「そうかい、楽しみにしているよ。 気をつけてね」
「なのです!」
電君は元気よくお辞儀すると、待っていた暁君、響君、雷君と混ざり、海岸沿いの道へと走って行った。 控えの憲兵隊にこの事を伝えておこう。
ここの鎮守府の艦娘達はこんな私に話し掛けてくれる事が多い。
たまに雷君からポカリの差し入れを頂いたり、この前は大和君からラムネを頂いたっけな。
中でも鳳翔君は篠原さんのアパートに朝食を届ける際に何度も顔を合わせていたので、ちょっとした小料理の差し入れをして頂けるようになったのだ。
それは今も続いていて、毎日ではないが小料理を持ってきてくれるのだ。
こんな見窄らしい老いぼれに気を遣ってくれるなんてな。
誰かに似たのかも知れないなぁ。
日が暮れ始めると、電君達は鎮守府へと帰って来たようだ。
その時に収穫であろう小さな青い貝殻を1枚頂いてしまったのだが、さてどうしたものか。
星砂と一緒に小瓶につめてお返ししたら、喜んでくれるかも知れないなぁ。
そんな事を考えている間に、防犯カメラに不審な影が横切ったのを私は見逃さなかった。
「ふむ……」
憲兵の仕事は、実はもう1つある。
敵ではなく、人から鎮守府を守る事だ。
艦娘の姿はうら若き乙女。 邪な目で見る者が一定数いるようだ。
特に午後の遠征から艦娘達が帰ってくるこの時間帯はそんな不祥事が多いような気がするなぁ。
どれ、今度はどんなネズミかな?
私はカメラが捉えた影の場所まで歩いて行くと、そこは鎮守府を囲む塀の一部が雑木林に差し掛かる場所だった。
男が3人、何やら話しているようだ。
『この時間帯で間違いないな?』
『ああ、入渠するならこのタイミングだろう』
『よし、忍び込んでカメラで撮影しよう』
ふむ、遠目だが読唇術で捉えた内容は大体こんなものか。
見ない顔だしこの街の住民ではないな。 さぁて、どんなものか。
私は堂々と彼等の元へと歩み寄った。
「おい、ここは鎮守府の敷地内だ。 一般人の立ち入りは禁止されている、すぐに立ち去りなさい」
男達は私の声を聴くと最初こそ面食らっていたが、私の容姿を見るなりすぐに強気な態度で返して来た。
「んだよ、パートの警備員か?」
「うるせぇなジジイ、すっこんでろ!」
「ほら、安らかな老後が台無しになるぞ?」
威圧的な態度でけしかけて来るが、私は再び同じ言葉を伝えた。
「もう一度言うぞ、すぐに立ち去りなさい」
私がそう言うと、男の1人が私の胸ぐらを掴んできた。
「パートのジジイはすっこんでろって言ってんだよ! こちとら仕事なんだよ!」
「ほう、組織的とな」
「あ?」
やれやれ、青いなぁ此奴らは。
私は男の手首を掴むと捻りを加えながら、素早く鳩尾を突いた。
「ごほっ」と噎せる声と共に男の身体が下に落ちる。
その頭を掴んで膝を叩き込んだ後に思い切り地面に叩きつけた。
「がっ⁉︎」
男の短い悲鳴と、鼻の潰れる手応えが私の手に伝わった。折れたかな?
ちゃんと鍛えていれば、たかが1発で伸びる事もなかっただろうに。情け無い話だ。
その様子を見ていた男2人は狼狽え始めた。
「お、おい⁉︎ テメェなにしやがる⁉︎」
「良いのかよ警備員がこんな事して⁉︎」
全く、なんだかなぁである。
仕方ない、こいつらには説明する必要がありそうだ。
「私は警備員でも警察でもない、憲兵だ。 そして憲兵とはーー」
私は言いながら懐から拳銃を引き抜くと男達に突き付けた。
「軍人なのだよ」
艦娘達と妖精たちが求めるから、致し方なく、ではあるがな。
男達は目を見開いて震え出したが、忠告を聞かなかった貴様等が悪い。
「軍事施設への故意による侵入は発砲もやむなしだが。貴様等は共犯者がいるな」
「こんなの滅茶苦茶だ! た、例え罪を犯しても日本の法律で俺達は保護されるはずだし、まだ未遂だろ⁉︎」
「なにを言っているかわからんがなぁ……、これから貴様等が向かうのは警察署でも留置所でも裁判所でも無いぞ。不穏因子だからな。 この意味が分かるかね?」
やっと自分の立場を理解したのか、男の目に絶望の色が浮かび上がっていた。
まもなく控えていた憲兵隊により男達の身柄が拘束され、今日中には東京の大本営へと連行されるだろう。
手応えのない連中だ、銃を突きつけただけで戦意喪失とはな。
かつて篠原さんの隊員達は銃を突きつけても怯まなかった上に素手で私を組み伏せたと言うのに。
煮え湯を飲まされた気分だったが後に大本営公認となった隊員達はお咎め無しだった。
それから紆余曲折を経て打ち解けたが、その事は我々には良い刺激になった。
如何に私が黒帯とて、実戦に勝る経験はないと言う証明なのかもしれないなぁ。
ああ、今日も暇な1日だったなぁ。
はて、そう言えば、篠原さんのお手並みを私はついぞ知らなかったな?
もしかしたら、明日は退屈しないかもしれないなぁ。
大淀side
こんにちは、大淀です。
5月に入り世間は連休に賑わいを見せていますが、私達の鎮守府は平常運転です。
提督は4月の建造を行なっていませんが、5月の中頃に埋め合わせをする算段を立てています。
その間に出来るだけ心を鍛えようとしているようにも見えました。
水を得た魚の如く、趣味や個性を得た艦娘により提督は翻弄されつつあるからですね。
最近では憲兵さんの1人が熟練の武闘家だったらしく、提督のCQC[近接格闘]に挑んで掛かるようになり意外過ぎる伏兵に頭を抱えているそうです。
私も一度2人の立ち会いを見ましたが、打ち合う時間より睨み合う時間の方が遥かに長く、隣で一緒に見ていた神通さんが武者震いを抑え切れない程緊迫した様子でしたね。
後にその映像は青葉さんの手により編集された後にSNSサイトにより共有されました。
“歴戦vs熟練”なんてタイトルが付けられてましたね。
さて、そんな提督は私の術中により確実に外堀を埋められている筈なのですが、現状は思った程進展を見せていません。
まずは同じ居住区に身を移した提督ですが、私生活の隙を見せるかと思われましたが想定を遥かに超えるガードの硬さを見せました。
私室に入り浸っている艦娘がどんなにゴネようとも20時には必ず締め出しています。
なんでも言う事を聞いてしまう神通さんが厄介ですね。
それと、加賀さんがやっと動き出したようですが、ウブ過ぎて目も当てられません。
その容姿や佇まいから、他鎮守府でも彼女を側に置く提督は多いようですし最初こそ期待はしていたのですが、攻めるのは苦手なのでしょうね。
感情表現が苦手という事実が壁となっています。ヤキモキします。
そして金剛さんを前にすると提督は達観した表情に変わります。 覚悟が早くなりました。
そんな中で意外にも進展を見せていたのが神通さんでした。
青葉さんの情報曰く、彼女は軽巡にも関わらず頭を撫でられていた、と。
いや、神通さんズルくないですかね? 未だに抱き締められた艦娘も神通さんだけで、誠実というだけで誰よりもリードしているようにも思えます。
ですが、その事は吉報です。
神通さんの背丈は成人女性の平均値に近いので、そんな彼女が撫でられたなら他の艦娘にもそう言った機会が訪れる可能性があるという事。 悔しいですがグッジョブです。
でも誠実さなら私も負けていない筈。
少なくとも表向きなら。
そんな事を考えながら、私は執務室でパソコンに向かう提督の様子を眺めています。
提督は画面を見ながら独り言を呟いていました。
「精密旋盤……30万、うーん……。 でも他も欲しくなるなぁ……3桁かぁ……」
ん? なんか聞き捨てちゃ行けない独り言ですね?
何を買うおつもりですか提督。 またポケットマネーから捻出するつもりじゃ。
他にお金の使い道は無いのでしょうか、本当に仕方の無い人ですね。
提督は自分の艦娘の些細なワガママですら、可能な限り聞いてあげようと耳を傾ける優しいお方です。
その甲斐性に利根さんなんかは甘え切っていますし、最近では鈴谷さんや北上さんも良く絡んでいますね。
日が浅い艦娘達も順調に打ち解けてきているようで、私の見込み通りですね。
そんな提督が、不意に私の方を向いて声を掛けてきました。
「あ、そうだ大淀」
はい、何でしょうか? 貴方の大淀ですよ!
なんて言える筈もないので、顔だけ向けて次の言葉を待ちます。
すると提督は爽やかな表情で言いました。
「お前今日で任期切れるから、明日大本営に帰るんだってさ」
神は死んだ。
鳳翔side
今晩は、鳳翔です。
前回の大規模工事に伴い食堂も大幅に拡張されて、間宮さんも厨房に加わったおかげで、夜遅くまで食堂を運営する事が出来るようになりました。
夕餉を終えた夜の食堂では、主にお酒を嗜む艦娘達が集まってきます。
まだお酒の種類は少なくて基本的な物しか提供出来ませんが、それでも一部の艦娘からは非常にありがたい憩いの場となっているようです。
提督は普段アルコールは摂らないそうなので、そればかりは少し残念ですけどね。
なんでも酔いで思考力が下がる事をよく思っていないのだとか。
ただ海外にいた頃は、銃撃戦などが予想される前日に“気付けの一杯”と度数の強いお酒をひと口飲んで、験担ぎとしてお酒を嗜んでいた事があるらしくお酒に弱いと言う事は無いそうです。
設備は大きいですが、まだお酒を嗜む艦娘自体は少ないので訪れる艦娘は大体決まっていますね。
龍驤さん、香取さん、扶桑さん、大和さん、赤城さん、加賀さん、龍田さん、高雄さん、利根さんはほぼ毎日ここに来ています。
そして駆逐艦の中では響ちゃんだけたまに顔を出してくれますね。
提督は最初こそ響ちゃんがお酒を飲む事を渋っていましたが、艦娘だからと言う事で大目に見ているようでした。
このお酒の席では、普段とは違う一面が見られますね。
そういった一面を眺めるの事が、私の日課になりつつあります。
例えば龍驤さんと香取さん。
2人は意外な組み合わせかと思われますが、実はとても仲がよろしいんです。
「最近鹿島が口を開けば“提督が、提督が”って……、ここに来た理由忘れてるんじゃないかしら」
「言うてあんたもまだまだ居座るつもりなんやろ? 似たようなもんやんけ」
「提督の手腕を見極めるまでは、ですね」
「ウチの目から見てもまだまだ計り知れんぞあの男はぁ……。最近じゃ裁縫も行けるって噂もあるらしいで、制服のとれたボタンあっちゅー間に直して雷がヘソ曲げたとか」
「お、お裁縫ですか?」
「机ん中にちっさい裁縫セットあるんやて」
「提督って女子力高いですよね」
「ほんまそれな」
龍驤さんは聞き上手ですので、香取さんの相談をよく聞いてあげているそうです。
ただ相談と言う割には話が脱線しがちですけどね。
扶桑さんと大和さんは共通の悩みを抱えているようですね。
「……育成の事を考えると仕方ないのですが、最近出番が少ないわ……」
「うふふ、4月出撃数ワーストの私にそれ言いますか?」
「大和さん4月は何回出ましたか?」
「2回です」
「私は3回です……」
「……」
「……」
ま、まぁ提督は最近、榛名さんや大井さん達の育成に力を注いでいますからね。
それと同じくらい備蓄にも力を注いでいますし。
何でも緊急防衛時に全艦娘が総力を挙げて三日三晩全力で迎撃できる程度の備蓄、と言う事で相当量の備蓄計画を立てています。
この事に関して反対意見は出ませんでしたし駆逐艦や潜水艦の皆さんも張り切っていましたが、戦艦や空母の方の出番が減るのは仕方がありませんね。
それでも、少しでも現場に不安要素があれば真っ先に抜選されるので、扶桑さんもそこまで不満は無いように見えますけどね。
扶桑姉妹は一航戦の2人と一緒の艦隊になる事が多くて仲も良いですね。本日は別のテーブルの様ですけど。
扶桑型と一航戦の先制爆撃と砲撃は“白昼の稲光”なんて例えられています。
それだけ凄い轟音と閃光が海原に轟くそうです。
そんな一航戦の方達は何やら反省会の様な事をしていますね。
「今日は会話すら出来ませんでした」
「なんか加賀さん日に日に症状酷くなってません? 」
「き、今日は提督、忙しそうでしたから」
「夕立さん見習ったらどうです?」
「あれは夕立さんだから許されるのよ。 私が真似しようものなら鎧袖一触よ、跡形も無く消え去るわ」
「えっ、提督が⁉︎」
「私が」
なんだか甘酸っぱいですね。
提督が忙しい、と言うのは恐らくですが、一番奥のテーブルで間宮さんと鹿島さんに介抱されてるドス黒いオーラを纏っている大淀さんに起因してそうですね。
彼女は飲み散らかして空になったジョッキに囲まれて呻き声を上げています。
「うぇぇぇ〜〜……ヒッ、ひひひひ……」
完全に壊れてますね。
鹿島さんは苦笑いしながらも自制を促しています。
「お、大淀さん……飲み過ぎですよ」
「だってぇぇぇ……」
「な、何かの間違いですよ、きっと!」
「そんな筈ないですよぉお……、契約の更新を提督が承認していたら私が大本営に戻る必要ないんですよぉぉぉ………」
たまに忘れてしまいますが、大淀さんは派遣された艦娘なんですよね。
大淀さんは半年契約を重ねて、今回で1年目、2回目の更新になるのですが、そこでどうやら提督が更新を突っぱねたらしく、大淀さんは大本営に戻る事になったとか……。
鹿島さん間宮さんが介抱にあたっているのも、同じ派遣の立場だからでしょうか。 香取さんも気にしている様ですし。
普段真面目な大淀さんは今では完全に落ちこぼれています。
「私は掛け替えのない仲間だと思っていたのにぃぃ……、所詮は派遣だったんですよぉぉ……うぇぇぇん」
「そ、そんな事は……」
「そうですよ、私達にも良くしてくれるじゃないですか」
「だったら何で契約切るんですかぁぁ……」
かなり重症ですね、これは。
でもおかしいですね、1年もお世話になった大淀さんを、提督が周りに何も言わずに契約を切る様な真似をするでしょうか?
鹿島さんの言った通り、私も何かの間違いだと思うのですが……。
そんな事を考えていると、響さんに連れられた提督が食堂に入ってきました。
「司令官、あそこに大淀さんがいるよ」
「みたいだな、助かった」
そう言って提督は奥のテーブルまで歩いていきます。
そして潰れた大淀さんを見るなり声を掛けました
「ここに居たのか! お前半日もどこ行ってた……って、酒くさっ⁉︎」
立ち込める酒気に提督は思わず鼻をつまんでいました。
鹿島さんと間宮さんも苦笑いして見守っている中で、大淀さんは顔をあげて提督を黙ったまま睨みつけ、提督は目を丸くしていました。
「なんだそのブー垂れた顔は」
「……ふん!」
「お、おい?」
「契約切ったくせに、今更私に何の御用がおありですか!」
「お前、あのなぁ……」
怒りを露わにしてそっぽを向く大淀さんを前に、提督は呆れた様な表情で言いました。
「今日の警備に当たっていた利根が、海上でお前の艤装が顕現したのを報告してきたんだよ」
「え……? 私の、艤装?」
「そう、それで従来の契約のままじゃ居られないから一度大本営に戻って、別途契約するか、或いはウチに正式加入する手続きをする必要があったんだよ……」
「……正式加入……」
大淀さんの周りを覆っていた、どよんとしたオーラは一転、お花畑です。
ですが大淀さんは、その嬉々としたオーラを隠し切れていないにも関わらず、まだそっぽを向いて不貞腐れた素振りを見せました。
「そ、それならちゃんと説明してくださいよ!」
「説明する前に飛び出して行ったんだろ! 探してもいねぇし!」
「そ、そうですね、すいません……。 そ、それで提督は……、どうなんですか? 私が……、その……正式に……」
「……ん、そうだな。 情報部を任せるなら、俺はお前がいいな」
「そ、そうですかぁ……えへへ……」
「それはそうとお前覚えとけよ……、お前いないせいで俺は執務室で明日を迎える事になる……」
提督はそう言って恨めしそうな目で大淀さんを一喝した後に、すぐに踵を返して出口に向かい始めました。
そして大淀さんは漸く我に返りました。
「はっ⁉︎ て、提督申し訳ありません! すぐに業務に取り掛かります!」
「俺は酒臭い奴と仕事はしない。 ……まぁ、お互い齟齬があったようだし、今日はお前も大人しくしとけ、明日早いんだから」
そう言って提督はさっさと食堂を出て行ってしまいました。
加賀さんが言っていた“忙しい”とは正に今の執務室の修羅場を指していたようですね。
後で差し入れを用意しましょうかね。
一方、取り残された大淀さんは、にへらと口元を歪めていました。
「ふふふ……、篠原艦隊“大淀”ですか……悪くない響きですねぇ……」
契約ではなく正式となった事が余程嬉しいのでしょうね。
まだそうと決まった訳ではありませんが、既に大淀さんの中で結論が出ている様です。
そんな彼女を慰めていた鹿島さんは複雑そうな顔をしていました。
「むぅ……、私だって艤装が顕現すれば……」
「あらあら大変ですねぇ、“大本営”の鹿島さんは……」
「むぅぅぅぅ! 大淀さん酷いです!」
「はい、そうですよ! 篠原艦隊の大淀ですよ! おほほほ!」
「むぅぅぅう〜〜……ッ‼︎」
大淀さん、酔ってますね。それも悪い方に。
派遣の前でその態度はどうかと思いますよ?
無論、派遣なんてただの肩書きに過ぎないと分かっていても、やっぱり本人は気になるでしょうし。
鹿島さんがいじけた表情になり、遠巻きに見ていた香取さんが不敵に笑っていました。
今夜は荒れそうですね。
鹿島さんは顔を引きつらせながら言いました。
「……正式に配属されるなら、緊急時に戦えないといけませんよねぇ」
「へ?」
ポカンと口をあける大淀さんの前に、教鞭をしならせて笑みを浮かべる香取さんも加わりました。
「そうね鹿島、私達が指導して差し上げますよ……、骨の髄に至るまで、みっちりと」
「はい香取姉ぇ、篠原艦隊に相応しくなるまで徹底的に扱き抜きましょう♪」
「えっ、あの……」
まぁ、酔い覚ましにはなるでしょうね。
今のは大淀さんが悪いですから、助け船は無しです。
さてと、提督のお夜食の準備をしないとですね!
その翌日、大淀さんは真っ白に燃え尽きて入渠施設に浮かんでいたので正式配属が1日遅れたそうです。
そのお陰で提督もその日は徹夜したみたいです。
お酒の席でも、節度はとても大切ですね。
龍田side
私は今、午前遠征の帰路についています。
天龍ちゃんと一緒に改二改装してもらったお陰で遠征班の他に、艤装の性能から緊急防衛機動艦隊なんて大それた肩書きを任されてしまったわ。
防衛機動隊は敵艦隊が港に押し寄せた際、市民を逃がすために時間を稼ぐ重大な役割があるそうで、任命された時なんて天龍ちゃんは震える程喜んでいたわ。
思い返すだけで面白いわぁ。
薄暗い執務室で提督が、いかにも演技掛かった真剣な趣で言うの。
『天龍……お前には緊急防衛機動艦隊のリーダーを務めて貰いたい……』
『き、緊急防衛……機動艦隊……⁉︎』
『Emergency Defense Mobile Fleet、通称、“E.D.M.F”をここに結成する』
『E.D.M.F……だと……⁉︎ な、なんかカッコいいじゃねぇか……‼︎ 英語の意味わかんないけど!』
『引き受けてくれるか……?』
『任せろよぉぉぉッ‼︎』
天龍ちゃんは鼻息を荒くして引き受けていたけど、確かに緊急時には真っ先に敵を食い止めるのだけど、その後は避難誘導にまわるのよね。
それ以外にも鎮守府内で火災発生時に艦娘の避難誘導とかもあるけれど天龍ちゃん本当に判っているのかしら?
大それた名前だけど役割分担の一つなのよ? 避難誘導員よ?
私は何となく、隣で資材を運ぶ天龍ちゃんを横目で見てみました。
「フフフ……、EDMF……」
本人は幸せそうだし、別にいいけれど。
それはそうと、私がいない間に天龍ちゃんは凄く丸くなっていたわ。
そうね、具体的言えば……、新人の艦娘を庇った時に負傷してしまって、それでもまだ戦闘が続いていた時に『死ぬまで戦わせろ』とは言わなくなったわね。
大人しく下がって迎撃を私に任せてくれるの。
“死”に対する概念が変わったと言うべきかしら?
死に場所はここじゃないって考えている様な。
きっと“あの人達”の事もあるのでしょう。
私は直接会った事はないけれど何となく覚えているの。
真っ暗闇の中でゆらりと浮かんだ人の形をした光。
朧げに消えてしまいそうな私の手を引いて、ここまで導いてくれた儚い光。
『グッドラック』と、最後に笑って見送ってくれた様な気がする優しい光。
きっと彼等はまだこの海の何処かにいるのだと思う。
天龍ちゃんもそんな彼等に情け無い姿は見せたくはないものね。
きっと呆れられて、笑われてしまうから。
それと『隊長の事、よろしく頼むよ』なんてお願いされちゃったけれど、貴方達の隊長は私がお世話するまでもなくちゃんとやっているわ。
執務中は全く隙が無いんだもの。
そんな事を考えているうちに遠征完了していたわ。
けど何時もドックで出迎えてくれる提督の姿が見当たらないわね。
天龍ちゃんも拍子抜けした様子だわ。
「あれ……、提督いねーのか?」
「みたいだわ。 忙しいのかしら?」
「仕方ねぇなぁ……。 龍田、オレとチビ達で資材運んでおくから報告頼まれてくんねーか?」
「わかったわ〜」
そうして私は遠征結果をまとめた報告書を手に執務室に向かったのだけれど、意外な光景に思わず声を漏らしてしまいました。
「あ、あらあら〜……」
執務室の扉は開かれていて、窓も全開でした。
恐らく部屋の空気を入れ替えようとしていたのでしょうね。
そして、腕を組んでソファーに座ったまま、すやすやと寝息をたてる提督の姿が。
昨日、大淀さんがポカしたせいで徹夜だったとか、それで換気している間に気が緩んで眠ってしまった?
や、やだわ、今までに無いレベルで隙だらけ。
とりあえず私は執務室の扉を閉めました。
こんな無防備な姿、金剛さんや卯月ちゃんに見られたら提督の身が危険だわ。
神通さんも居ないみたいだし、こんな事ってあるのかしら。
「ど、どうしましょう……。 あの〜……提督……」
小さく声を掛けてみましたが、提督は起きる気配はありません。
なら揺すって起こそうと肩に手を掛けた所で、思い留まりました。
……なんだか疲れた表情しているわ。
起こすのも悪い気がしてきたわ。 なんて顔して寝ているのかしら。
……首、辛くないかしら? 寝違えたら大変よね。
気が付けばソファーに提督を横にさせていて、私は膝枕をしていました。
普段なら絶対にこんな事しないけれど、天龍ちゃんが様子を見に来るまでの間だけこうして寝かせておいてあげるわ。
開いた窓からそよ風が流れてきて心地良い、うたた寝してしまうのも何となく頷けるわ。
もうすぐ春が終わって、湿った風に変わるのかしら?
そうしたら提督はまた何か始めるのでしょうね。
今のうちに様子を見に来た天龍ちゃんへの言い訳を考えておかないと〜。
それにしても、本当に意外だわ。
あの提督がここまで無防備になるなんて、余程疲れが溜まっていたのね。
そもそも大淀さんが勘違いして暴走しなければこんな事にはならなかったのだけど、疲れた時くらい誰かに頼って欲しいわね。
貴方が倒れたら、天龍ちゃんが悲しむから。
あら? よく見たら白髪が一本生えているわ。 抜いた方がいいのかしら。でも抜くと増えるとも言うし……。
……提督の髪の毛は私とは違って随分硬いのねぇ、それに脚に伝わる重みも天龍ちゃんとはだいぶ違う。
無精髭? と言うのかしら、結構チクチクしてるのね。大根おろしが出来そう。
綺麗に剃った方がいいと思うのだけど……、初対面では顔が怖いって駆逐艦の子が言ってたわよ?
でも駆逐艦はすぐに貴方に懐くから、あばたもえくぼってやつかしら?
そんな事をしている間に、扉の外から声が聞こえてきました。
「あれ? 換気してる筈じゃあ……」
ま、不味いわ。 何も言い訳を考えてなかった!
それに天龍ちゃん以外の訪問は想定外……と言うよりこの状況で言い訳なんて出来るのかしら?
「提督さーん、入りますよ〜?」
ど、どうしましょう!
提督を膝枕しているので動き出す事も出来ずに扉が開けられてしまいました。
中に入ってきた鹿島さんは私の姿を見るなり目を丸くしています。
「あ、あれ? 龍田さん……」
「あ、あのね? これは違うの」
「膝枕……」
「い、言わないでぇ〜〜……」
鹿島さんは対面のソファーに腰掛けて、提督の顔を覗き込みました。
「提督さん、ぐっすりですね……」
「そ、そうなの〜! 中々起きなくて、大変なの……」
「気持ち良さそうに寝てますね……」
私からは提督の顔は見れないから、その言葉を聞いて少し安心したわ。
やっぱりあの姿勢で寝てもあまり疲れは取れないから……。
って、そうじゃないわ、この状況をなんとかしないと……。
そんな事を考えていると、鹿島さんは頬を膨らませて私を見てきました。
「……ずるいです」
「へ?」
「膝枕とかで提督を甘やかすのは私の仕事だと思うんですけど!」
何を言っているのかしらこの子。
私が膝枕するのがそんなに意外かしら。
……自分でも意外だったわ、ガラじゃないわね。
「私も提督さんに膝枕したいです……」
「変わってあげたいのだけど〜、起こしちゃうから……」
「む、むぅぅぅ……! 私の前じゃそんな隙見せなかったのにぃ」
確か大淀さんは大本営に手続きに行っているから、その間鹿島さんが代役を務めていたのかしら?
でもそれにしたって、何で私が睨まれるの。
「やっぱり私が派遣だからですか……」
「えぇと……、それは関係ないと思うわ〜。 偶然成り行きでこうなったと言うか……」
「くっ、羨ましいぃ……!」
ここの艦娘達は提督が関わると頭おかしくなるみたいだわ。
それと大淀さん、とんでもない火種残していってくれたみたいね。
私からもお灸を据えようかしら〜?
「せめて寝顔だけでも……!」
何でこの子はこんなに必死なのかしら。
でも遠征報告もあるし、そろそろ起きて貰わないと。
私は提督の肩を揺すろうと手を掛けると、鹿島さんがその手を止めました。
「ダメです……折角寝ているのですから、暫くはこのまま……」
「えぇ……、でも報告が」
「私が神通さんに頼んで受理して貰いますから……」
「ちょっと待って、それだと私が膝枕したってみんなに伝わっちゃうわ……」
「自慢ですか⁉︎」
「ち、違いますぅ!」
貴女みたいに面倒臭い艦娘が増えかねないのよ……!
膝枕だなんて、遠征でよく一緒になる雷ちゃんが黙ってなさそうだもの。
騒がしかったのか、私が起こすまでもなく提督はひとりでに目を覚まし始めました。
「う……、ん……?」
もう私は何も言えません、成り行きに身を任せるしか無かったわ……。
鹿島さんが物惜しそうな表情で見守る中、提督は状況を確認しながら私の膝の上から頭を持ち上げました。
「悪い、寝てしまったか……」
「い、いえ……」
「膝枕ありがとな龍田。 お前みたいな美人に膝枕して貰ったとあれば、きっとみんなに自慢出来るだろうな……」
そう言って提督は微笑みました。
あ、あらあら……、想定とは違う反応だわ。
なんて言葉を返したらいいのかしら〜……。
『またやってあげる』なんか違うわ、『気が向いたらまたやってあげる』これなら良いかしら?
私が言葉に迷っていると鹿島さんが提督に詰め寄っていました。
「提督さん、鹿島も膝枕出来ますよ〜?」
「ん? ああ、そうか」
「沢山甘えていいんですよ♪」
「……いや執務あるし」
「そ、そんなぁ……」
提督は、女性に甘えるという事に抵抗があるみたいね。 でも行為自体は満更でもないみたい。
これはちょっとした発見じゃないかしら?
鹿島さんも少しアプローチの仕方を変えれば受け入れてくれるかも知れないわね。
まぁ、教えてあげないけれど♪
私はいつもの笑顔で提督に話し掛けます。
「提督ってば酷いわ〜……、天龍ちゃん出迎えなくて寂しがってたわよ?」
「あちゃー……、あとで埋め合わせしないとなぁ」
「そうねぇ、期待しているわ〜」
本当は天龍ちゃんもあまり気にしていないのだけど、たまにはゆっくりお話してみたいから利用させて貰うわね。
その時は私の得意料理も教えてあげようかしら?
提督、喜んでくれるといいけれど。
吹雪side
こんにちは、吹雪です!
私は今、自分の部屋に篭ってカタログと睨めっこしています。
金属加工の工具が欲しいんですけど、中々値が貼るんですよねぇ……。
卓上精密旋盤が安い物でも30万円以上します。
ですが、これがあれば細かい部品をある程度自分で作る事が出来るようになります。
フライス盤が安い物でも20万円以上します。
ですが、これがあれば金属の塊を自在に加工出来るようになります。
そして少しでも良いものを選ぼうとすると、この2つだけで100万超えちゃうんですよね。
アルバイトで重工系のお仕事あれば触る機会もあるかもしれないと思うんですけどね、ままならないです。
私はカタログを読みながら何となくつぶやきました。
「やっぱりアンビルと糸鋸からかなぁ……」
思わず溢れてしまった独り言を、叢雲ちゃんに聞かれていたようです。
途方もなく呆れた目線を投げかけてきました。
「……アンビルって何よ」
「金床だよ? 鍛冶屋さんが良くハンマー振り下ろして金属の形整えてる奴あるでしょ?」
「……アンタまさかそれ部屋に置くとか言わないわよね」
「やだなぁ! アンビルは部屋に置かないよぉ〜!」
私がそう言うと、叢雲ちゃんは私の机に視線を投げました。
私の机の上には沢山の工具が並べられています。
「置くスペースも無いもんね……」
「そ、そうじゃないよぉ! アンビルは金属加工に使うからここに置いても持ち運び大変なだけなの! すごく重いんだよ!」
「あっそ、これ以上増えないなら何でもいいわよ」
「そっちも増える予定あるけどねっ!」
「アンタいい加減にしなさいよ⁉︎」
そんなに多いかなぁ?
ドリルとインパクトとディスクグラインダーとジグソーとサンダーとトリマーとミニルーターと対応する各種ビットを揃えてるくらいだし。
ホールソーまで揃えたらビットが少し嵩張ったけれど。 ビット専用の工具箱も欲しいなぁ。
でも叢雲ちゃんは納得できないみたい。
「これ以上何が増えると言うのよ⁉︎」
「ドリルのトルクがちょっとね……。 最初だからって安いの買わなきゃ良かったよ……」
「トルクって何⁉︎」
「回転する力だよ? 普段使いは良いんだけどホールソーとか使うとやっぱり気になって」
「ホールソーって何よ⁉︎」
「木材に穴を開けるまーるい刃がついたビットだよ?」
「でもアンタ2つ持ってるじゃない……!」
「違うよぉ、あっちはインパクトドライバーで、こっちがドリルドライバー」
「インパクト⁉︎ 何が違うって言うのよ⁉︎」
「回転に打撃が加わってね」
「もういいわ! わかんないから‼︎」
どうして叢雲ちゃんこんなに怒ってるんだろう?
ちゃんと説明してあげようと思ったのに。
「そんなに変かなぁ? 工具持ってるの」
「工具持って“打撃が加わる”とか説明始める艦娘がいたらそりゃ変でしょーが! アンタの事この鎮守府に留まらず大本営にまで知れ渡ってんのよ⁉︎ 木工作艦吹雪って!」
「えぇ⁉︎ どうして……⁉︎」
「アンタが敷地内のベンチ手当たり次第に改造したからよ‼︎ ドックにアラビア模様のベンチ置いたでしょ⁉︎」
「アラベスク模様の事?」
「なんだって良いわよもう‼︎」
でもそっか、私有名人なんだ……。
それも私が作ったベンチを見て名前が広がったんですよね。 それは嬉しいなぁ。
「えへへ……、えへへへへ」
「何笑ってんのよ、張っ倒すわよ⁉︎」
「む、叢雲ちゃん酷い! そこまで言わなくていいじゃん!」
「酷いのはアンタの頭とアンタの机とアンタをこんな風に魔改造した司令官よッ‼︎」
「ダメだよ! いくら叢雲ちゃんでも司令官の悪口は許さないよ!」
「はぁぁぁぁ〜〜〜……ッ! もう!」
叢雲ちゃんはわなわなと震えて、やがて痺れを切らしたように部屋の隅で丸くなる白雪ちゃんを指差しました。
「アンタのキャラが濃すぎるせいで、アンタの妹が大変な事になってんのよ⁉︎ 」
「へ? 白雪ちゃん?」
「へへ……、無理だよ……敵わないよ吹雪ちゃんには……。 木工作艦って何よ……意味わかんない……」
そう呟きながら白雪ちゃんは明後日の方向を見ながら遠い目をして体育座りしていました。
白雪ちゃんは最近色んな事に挑戦しているみたいです。 趣味を探しているのかな?
司令官は言ってました。
自分がやりたい事や趣味を見つける事は簡単そうに見えて凄く大変な事で、これと言った趣味を持たないまま過ごす人が多いんだって。
だから幸運にも趣味と巡り会えたなら、全力で没頭するべきだって。
仕事とは違って趣味はその人の魅力になって一生涯支えるから、絶対に無駄にならないんだってね。
みんなは『変』って言うけど、私は楽しくてただ夢中になってるだけなのになぁ。
「叢雲ちゃんも、白雪ちゃんも“艦娘”って事に囚われすぎだと思うよ?」
「アンタねぇ……、艦娘が艦娘であること軽く見てどうすんのよ……」
「でも、戦う事しか出来ないって寂しくない? 折角なんでも出来る身体があるんだし、勿体無いと思うなぁ」
「そ、そりゃ……」
叢雲ちゃんは何か言い掛けてやめました。
きっと叢雲ちゃんも白雪ちゃんも夢中になれる事が見つかればすぐにわかると思うよ。
戦ってばかりの世界はきっと狭いのだと思う。
でも私は木工だったけど工作に手を出して、世の中に溢れる作品や職人さん達を見た途端に、途方もなく世界が広い事を実感しました。
果てがあるなんて到底思えないんですよね、凄いです!
そんな事を考えていると、突然部屋にノックの音が響いて司令官の声が聞こえてきました。
「おーい、吹雪〜っ!」
「あっ、司令官! 今開けますよ!」
「嘘でしょ⁉︎ 待って私着替えなきゃ⁉︎」
「初雪ちゃんに服着せないと……! せめて下履いて!」
「ん……? えっ、司令官?」
司令官の声が聞こえた途端、叢雲ちゃんも白雪ちゃんも慌てて服装のチェックをし始めました。
ず〜っとゲームしてた初雪ちゃんの格好は、シャツに下着だけだしどうかと思うけど、2人は大丈夫じゃないかな?
私はツナギですけど。油性塗料使いますしね。
とりあえず司令官さんをお待たせするのも悪いので、私が部屋の外に出て対応する事にしました。
「す、すいません司令官、なんか騒がしくて」
「いや、急に押し掛けたのは俺の方だしな。 それでな、吹雪」
「はい、何でしょう?」
「大本営が部活動を容認した訳だが、お前の欲しがってる工作機械までは難しい……」
「あ、あはは……、やっぱりそうですよね」
値段が値段ですからね……、簡単に買ってもらえる筈も無いです。
ですか司令官は何処か楽しそうな表情でした。
「でも工作機械を買う算段はまだあるぞ!」
「え……? ほ、本当ですか⁉︎」
「ちょっと着いてきてくれ」
そうして司令官の後をついて行ったら、何故か工作室では無く、執務室の中に居ました。
大淀さんと神通さんも控えていますが、2人は普通に執務に当たっているようでした。
そんな中で司令官はパソコンを弄りながら、私に説明を始めます。
「吹雪、フリーマーケットって知ってるか?」
「わ、わかりますけど……」
「実は今流行りのマーケットサイトがあってな。 ……吹雪の作品をここで出品してみないか?」
「えっ⁉︎ ……私の作品を?」
「そうだ、お前の作品を世界中の人に見てもらって“いいな”って思ったらお金を出して買ってもらうんだ」
それ、最高に嬉しいやつだと思うんですけど‼︎
本当に買って貰えるのか判りませんが、凄く楽しそうです!
「や、やります‼︎ 不肖吹雪、頑張ります!」
「そう言うと思った。 不肖じゃなくて名匠になれるように頑張ろうな」
「で、でも良いんでしょうか……。 素材とか部費から出るんですよね? それを売るなんて……」
私の疑問には、大淀さんが答えてくれました。
「心配ありませんよ、売り上げから素材費だけ差し引けば何の問題もありませんから」
「え、えっと、じゃあ……」
「残りの手間賃とかは全て吹雪のポケットに入る訳だな。 それだけやる気を示せば大本営も工作機械も検討してくれるだろうし、売れ筋次第じゃ吹雪もアルバイトしないで工作だけで工具揃えられるかもな?」
「わぁ! わぁぁぁっ!」
す、素敵です! ありがとうございます!
そのあと、私の携帯ではマーケットサイトに登録出来ないので司令官のアカウントで登録して貰いました。
そして先ずは見た目が第1と言う事で、青葉さんの協力を得て商品となる作品の撮影を始めました。
ペンやハサミの小物入れとか、木製ラックとか、椅子や小さなテーブルとか、ちょっとした本棚とか。
司令官はそれらの画像を纏めて、1つ1つ私の目の前でチェックを始めました。
「吹雪、このペン立てはお前から見ていくらだと思う?」
「え、えぇと、彫刻の練習も兼ねた奴なので……300円くらい?」
「よし、1500円と」
「えぇ⁉︎」
「この木製シェルフはどうだ?」
「え、え、えぇと、素材費が結構嵩んでた気がするので、4000円くらいで元が取れる……」
「20.000円、と……」
「ちょっと司令官⁉︎」
司令官はかなり強気な価格設定と言うか、私の意見無視して素材費だけ確認しているような気がしました。
そしてひと通り纏めた後、最後に司令官は言いました。
「吹雪、どれくらいの期間があれば同じ物を作れる?」
「えっとぉ、1週間あれば大体は出来ますよ! それくらい時間が取れれば出撃挟んでも大丈夫です!」
「じゃ10日以内に発送可能、と書いておくか……」
こうして私の作品が商品としてマーケットサイトに並べられる様になりました。
司令官曰く、個人の作品で、更に新参者の商品は影に埋もれがちで、週に一度注文があれば良い方らしいです。
私もそれを聞いて油断していました、もっと警戒するべきだったんですよね。
私の商品を出品したアカウントが“司令官のアカウント”だと言う事を、ちゃんと考えるべきでした。
◇
大本営にて、常務理事部職員の1人がパソコンに向かいながら声をあげた。
「あれ? 篠原さんのアカウントでマーケットサイトに登録されていますよ?」
「マーケットだと? 無いとは思うが不正売買の可能性もある、中身をチェックしてくれ」
「はい。 ……これは、木製商品? Fubuki製作って……」
「……噂の木工作艦のではないか……?」
「なんかいっぱいある。 あっ、調味料入れ良いなぁ」
「ちょっと俺にも見せて」
「うわっ、桜の彫刻すごい!」
「これテレビ台にもなりそうだなぁ。 ちょっと高いけど木目のテレビ台がリビングにあったらお洒落だよね」「ちょっと俺もご布施してみようかな」「色合いも選べるんだ?」「篠原さんにゃ世話になってるしなぁ」「友達にも紹介してみよ」「事務所に本棚欲しかったんだよなぁ」
◇
次の日の早朝、司令官が私の部屋を尋ねて言いました。
「吹雪、大変な事になった」
ノックの音にドアを開けたら暗い表情をした司令官がいて、開口一番にそんな言葉が飛び出したので私は少しびっくりしました。
「おはようございます司令官、どうしたんですか?」
「こ、これを見てくれ……」
「えっと……」
司令官の携帯画面にはマーケットサイトのページが映っていて、その内容が……。
私は敢えて音読してみせます。 自分に言い聞かせる意味が大きいです。
「注文数……はちじゅう……なな、点……」
「……」
「……」
注文数87……⁉︎ 何ですかソレ⁉︎
私は司令官に説明を求めました。
「ど、どどどどう言う事ですか⁉︎ き、昨日登録したばっかですよね⁉︎」
「恐らく大本営の連中が纏めて注文したんだろう。 ……そのせいでお前の商品がサイトの“ウィークリーランキング”に載って一気に注目を集めたんだ」
「ウィークリーランキング⁉︎」
「週間人気度みたいなものだ……、新参は影に埋もれがちと言ったが、そこに載れば常に日の光があたる訳だからな……」
注文内容を確認すると小物が多かったですが、量が量です。
大本営のある東京都からの注文が多かったのは事実ですが、それでも全国から注文が届いているのも事実です。
「や、やるしかないですよねコレ⁉︎」
「そ、その意気だ! 発送が遅れたら信用度が落ちてしまう! スケジュールも俺が調整するから吹雪はとにかく製作に集中してくれ!」
「は、はいぃぃ!」
その後、1週間程本当に缶詰になって何とか全ての注文を捌き切りました。
司令官と明石さんも手伝ってくれたお陰でギリギリなんとかなりました。
ですが、艦娘が副業みたいになるのは流石にどうかと思います。
趣味も程々にしないとダメですね……。
篠原side
色々あったが5月下旬に差し掛かった頃、俺は姉妹艦を揃えるために建造を2回、それぞれ戦艦と駆逐艦レシピで行った訳だが、現れた艦娘は予想外の者だった。
「私が戦艦長門だ、よろしく頼むぞ。 敵艦隊との殴り合いなら任せておけ」
彼女の事は横須賀でよく知っていて頼もしい限りで、俺の所にも来てくれたのは非常に光栄なのだが、またひとりっ子が増えてしまった。
殴り合いなら任せろ、と胸を張っていたので道場に連れて行って神通に任せたら30分後に部屋の隅で体育座りしていた。
その後に殴り合いが砲撃戦の事だと説明して貰ったが大和を見るなりまた体育座りしていた。
そしてもう1人の艦娘は姿を見ただけで何となく艦種が分かってしまった。
「伊168よ。何よ、言いにくいの?じゃ、イムヤでいいわ、よろしくねっ!」
俺はイクの事があり物凄く警戒していたが、格好以外は常識人らしく普通に明るい良い子だった。
ゴーヤも特徴的な口調であるが常識人だし結構頼りになる。 イクは非常識だ。
最初の1週間は神通主導による新人訓練が行われるので、イムヤがゴーヤ達と一緒に潜水出来るのは1週間先だろうか。
共に戦えると思ってくれれば、だが。
潜水艦は対空砲火が行えないので最終試験は長門と別々に執り行う必要があるが、香取のお陰で既にプランが出来上がっているとのこと。
任せっきりで恐縮だが、また頼らせてもらおう。
そしてやる事をやった俺は特に予定もなかったので、防波堤に沿って広がるテトラポッドの上に島風と2人並んで釣竿を持って糸を垂らしていた。
サボり? いいや、これも仕事だ。
「釣れるのおっそーい……」
島風は退屈そうな表情で海面に浮かぶウキが波に煽られて上下に揺れている姿を眺めていた。
その姿はどこか哀愁が漂っていたが、俺は構わず言った。
「こうやって釣竿を構えながらボーッとしているのがいいんだよ……、多分」
「てーとく、私と遊ぶ時いつも遅いのばっか」
「……気のせいだろー」
「気のせいじゃないもん。 前はトランプでしたし」
実際俺は島風と遊ぶ時はゆっくりした遊びを選んでいる。
何故なら少しでも動きがある遊びだと島風は最終的に競争に派生させるからだ。
協調性を第六駆に叩き込まれたせいかサッカーなどでは真面目にやるのだが、俺と2人だとか少人数だったりするといつの間にか競争へと変わっている。
この前全力疾走で島風に追い付いたのが行けなかったのか、ライバル認定された。
そもそも男と女で体格や歩幅が違くて走りに関しては男がかなり有利なのだが、島風はどう考えているのだろうか。
いや、何も考えてないな。 考えるまでもなかった。
考えていたら速さを求めてあんな格好で外に飛び出したりしないだろう。
そんな島風はかれこれ30分手応えのない釣竿をぶっきらぼうに構えている。
「……釣れない」
「釣れないなぁ」
俺も釣りはあまり詳しくは無いし、釣れた事も無い。
だが、この前は曙が釣れたな。
何か釣れるかもと思って適当に借りて来た竿を振ったら、曙が駆け寄ってきてこんな事を言い出したんだっけか。
『ちょっとアンタ、なにを釣るつもりなの?』
『いや判らん。 なにが釣れるんだろうな』
『ったく、そんな事だろーと思ったわ。 道糸に何の仕掛けも付いて無かったし、疑似餌なんて使ってるし』
『疑似餌……ルアーの事か? 借り物だからよくわからん……』
『とにかく! 釣りはただ糸にハリつけて垂らしとけば良いってもんじゃないの! 舐めないでよね‼︎』
その後は流れる様に釣竿を引ったくられた後、早口で説明をしながらウキやオモリなどの仕掛けを施した糸を垂らして、お手本とばかりに曙が釣りを始めていた。
凄くキラキラしていて楽しそうだったな、あの時の曙は。
だけど曙も何も釣れなくて最終的に『笑うな! このクソ提督ゥ‼︎』と捨て台詞を吐いた瞬間、偶然近くに通り掛かった朝潮に追い掛けられて2人して何処かに行ってしまったが。
曙は良く朝潮に追われるが、なんか最近になってあの2人はずっとあのままでいて欲しい気もして来た。ピタゴラスみたいで面白い。
毎回どこかに消えるので最後まで見る事は叶わないが。
俺が思い出に浸っていると島風が突然声をあげた。
「おぉう!」
「どうした?」
「か、掛かったみたいです!」
確かにウキが激しく浮き沈みしているし、魚が餌に食いついたのかもしれない。
島風は慌てながらも俺に尋ねた。
「ど、どうすればいいの⁉︎」
「引けばいいんじゃ無いかな」
「て、適当っ⁉︎ どうなっても知らないもん!」
俺も知らないもん。
島風はヤケクソ気味に釣竿を振り上げると、ザバァッと水飛沫を上げながら海面から獲物が姿を現した。
「おぉう⁉︎」
島風は釣りあげた獲物を凝視して物凄く怪訝そうな表情を浮かべていた。
「サザエ?」
「サザエ釣れるのか、すごいな」
「いやおかしいですよ⁉︎ てーとく考えるの放棄してません⁉︎」
考えるだけ無駄な事が多いんだよ。
俺はここの鎮守府に着任してから“考えるだけ時間の無駄”という局面に何度も遭遇して来た。
ゴーヤの制服にスカートを履かせようとしたら怒られた、意味が分からなかった。
大和のラムネが何処から出てくるのが尋ねたら赤面された、意味が分からなかった。
大井に好きな食物、やりたい事、得意な事を聞いたら全て「北上さん」と返って来た、何も分からなかった。
要するにそういうモノと割り切るしかないのだ。
島風はサザエの蓋に挟まった釣り針を抜きながら、何処か不安そうな表情で再び釣竿を振った。
するとそう時間もかからない内に今度は別の獲物が釣れて、さっきより怪訝そうに眉間に皺を寄せていた。
「ウニ釣れた」
「ウニかぁ……」
「だからおかしいですよ⁉︎」
「多分海の中に変なのがいるんだろう」
流石の俺も釣り糸で両結びされたウニが引き上げられたらマトモな思考が働いた様だった。
そして俺の言葉に反応した奴が海中から姿を現した。
「変とは失礼なのね!」
してやったりと言った顔をしたイクが浮上して来た。
魚が釣れなかったのはイクが潜んでいたからでは無いだろうか。
「遠征終わったのか、予定より早いじゃないか」
「イムヤが来たから張り切っちゃったのね! 提督にはそのお礼にプレゼントがあるの!」
「プレゼント?」
そう言ってイクは一度海に潜ると、間も無くして沢山の貝を抱えて浮上し、それらをテトラポッドの上に並べ始めた。
確かこの辺の海は素潜りなら採って良いんだったな、無断で漁船など大掛かりな漁を使えば罰せられるが。
だが、いつのまにかゴーヤも混ざって貝類の山を積み上げ始めている光景を見ると不安に駆られて来た。
素潜りに違いないのだろうが、これは良いのだろうか。
潜水艦の艤装は凡そ衣装と一体化しているらしく、ゴーヤとイクはその服を纏っていれば無尽蔵に潜水出来るらしい。 酸素ボンベも真っ青な性能だ。
イクとゴーヤが採って来た貝は殆どがサザエだったが、アワビやカキも多かった。
島風はその海の宝石とさえ例えられる貝類に投げやりな目を向けていた。
「これ密猟では」
「素潜りだから大丈夫……」
「潜水艦ですよ」
「……お前は速さ以外ならマトモな判断が出来るんだな」
「何ですかソレ⁉︎」
少しでも“速さ”が関与すると張り合うからだ。 速ければ何でも良いと思って川内と“早寝早起き”を競ってもらう様に嗾けてみたが思う様にはならなかった。 なんか違うらしい。
そうやって島風と話している内にイクとゴーヤは貝類を積み終わった様だ。
「サザエがキリよく30個なのね! 大量なのねん!」
「アワビとカキもキリよく10個ずつでち! なんかまだまだ沢山いるでちよ? 岩に張り付いてるでち!」
「季節の節目と何か関係あるのかな? しかし数は多いがどうしたものか……」
「鳳翔さんに頼むでち! お刺身お刺身♪」
「他にも壷焼き、ステーキ、炊き込みご飯、なんでも行けるな……」
俺はバケツに貝類を入れながら、2人に言った。
「とりあえず2人は資材降ろして来てくれ。 アイスココアもすぐに用意するよ」
「やったのね! アイスも浮かべて欲しいの!」
「提督は優しいでっち♪」
そうして2人は笑顔のままドックに向かい、俺と島風も片付けを始めた。
すると片付けをしている最中に島風が不意に呟いた。
「あの2人どこに資材しまってるんだろ」
「……艦娘のお前がそれを言うかぁ……」
折角考えないようにしてたのになぁ。
「まぁ分かるだろう島風、考えたって意味が無い事が世の中には多いんだ」
「それは私が何故速いのか、と言う疑問と通じるものがありますね」
「お前は……いやなんでもない」
「理由なんてないよ、だって速いもん!」
「そうだな、速いな」
良いんだ、意味がわからなくたって。
我々人類が宇宙が始まる依然の世界を知らなくても何も問題が無かったのと同じ様に、そしてもしも知る事が出来ても、どうする事も出来ないのと同じ様に。
世の中にはどうしようもない不思議が沢山あるのだ。
片付けが終わり、ドックに戻ろうと防波堤の上を歩いていると島風が妙な事を言い出した。
「てーとく、潜水艦に好かれる提督は珍しいらしいですよ?」
「……ん、そうなのか?」
「大本営の朝潮ちゃんがそう言ってました」
「へぇ……、何となく察しが付くが、俺のところは労基に基づいて運営してるからな」
「てーとく以外は、ですね。 何連勤してるんですか」
「自営みたいな所あるしな。ある意味ブラック鎮守府だよここは……」
そう言うが、結構な時間息抜き出来るのも事実、俺がそうなる様に仕向けたのもあるが、艦娘達が優秀なお陰でかなり余裕の持てる運営が出来ている。
「でも提督、最初にココア用意したのって潜水艦の娘達でしたっけ?」
「そうだったかな? まぁ一番寒そうな格好してたし、そうかも知れないな」
時に、意味を知ろうとする事が不粋となる事がある。
イクは潜水艦にも関わらず、戦艦であるレ級の目の前で浮上し、危険も顧みず体当たりを敢行した。
ゴーヤも同じように、潜水艦にも関わらずレ級の目の前で浮上して低速にも関わらずそのまま泳いでいた。
その時、体当たりを敢行したイクは反撃を受けて大破していた。
俺が着任して初の大破は自滅に近いものだったが、俺は当時の出来事に対して感謝の言葉を送っていた。
そして何故そのような危険な真似をしたのか、聞いたことはなかった。
イクの体当たりで俺はレ級の手から逃れる事が出来た。
ゴーヤの的の様な航行のお陰で素早い救援が可能となっていた。
命の恩人だ、感謝以上の言葉は必要あるまい。
それでも足らないと思うから、こうして些細な所で恩返しをしてるつもりなのだが。
島風にはわからないようだった。
「提督も十分不思議ですよね、忙しい時も甲斐甲斐しくお世話するし」
「そうか?」
俺は適当に返事をすると、ゴーヤとイクが待つドックへと向かい歩き出した。
艦娘にとって人を助ける事は当たり前なのかも知れない。
提督とあらばそれは尚更で、危険ですら顧みないのかも知れない。
俺はその事にとても感謝しているのだが、艦娘に言っても中々伝わらずキョトンとした顔をされるのだ。
“当然でしょ”と言ってのける。
戦いに生きる艦娘達の世界を広げたいのもあるが、それ以上に感謝の気持ちが強いのだ。
その事を艦娘達が理解する日は来るのだろうか。
いや、これすら口に出すのは不粋だな。
“共に戦っている”のだから。
島風は不思議そうに小首を傾げていたが、やがて関心が失せたのかその場で屈伸運動を始めていた。
それだけでこの先何が始まるか分かった気がする。
「丁度いいや提督! ドックまで競争しましょう」
「おい待て、釣竿とバケツで両手塞がってるんだが」
「待たないよ! だって速いもん!」
そう言って島風は駆け出して、俺は出来るだけ早足で追いかけ始めた。
島風は少しばかり走ると、すぐに振り返った。
「提督おっそーい!」
「荷物が嵩張るし重いんだよ……!」
待っていてくれているのだろう。
俺を待つくらいなら、走らなければ良いのにな。
お前も大概不思議な奴だ。
川内side
私は昨日、寝る前に映画を見たんだ。
近未来SF映画で失っていた感情を取り戻していく主人公が大立ち回りするアクション映画。
その戦い方が凄くカッコよくってさ、その日は妙にウズウズして中々寝付けなかった。
こう銃を使ってズバババーン!ってなってシャキーン!てなるヤツ!
よくわからない? 私もわかんない!
それで、今日!
銃のプロに教えを請うために、暇になるタイミングを見計らって提督をサバゲーフィールドまで引っ張って来たの。
興奮気味な私に対して提督はやけに冷静と言うか、達観した表情だったけど、射撃場まで手を引いて連れてきたら私は声を張って提督に言った。
「提督、二丁拳銃を教えて!」
その映画の主人公は二丁拳銃で踊るように敵を倒してて、物凄く真似したくなっちゃった。
すると提督は達観した表情から、なんだか生暖かく見守るような表情になってた。
そして提督は射撃場テーブルに置いてあるM92Fのエアガンを見ながら言った。
「川内……、このハンドガンを両手に持ってみよう」
「わ、わかった!」
とりあえず私は言われた通りに両手に一丁ずつハンドガンを持って、二丁のハンドガンを構えてみた。
もうこれだけでカッコいい。最強。
だけど提督は相変わらず生暖かい目で見ながら私に言った。
「よし、そのまま両方マガジン抜いてみろ」
「へへっ、わかったよ!」
M92Fのマガジンを抜くには、親指でマガジンキャッチを押せばいいだけだもんね。
だけど私は思うようにできなかった。
「あ、あれ? 左手の銃が……」
「そう、そうなんだ川内。 出回っている銃の殆どが右利き用で、右手に構えて撃つように設計されているんだ」
右手で銃のグリップを握ると、親指は銃の左側に来て、その親指の近くにマガジンキャッチって言うマガジンを抜く為のボタンが付いてる。
だけどこのマガジンキャッチは反対側には無いから、左手で持った銃は凄く押しにくかった。
「で、でもコレM9だからだよね……?」
「実はM9は左利きで持てるように簡単にカスタム出来るけどな、“アンビデクストラス”ってヤツだな」
「へぇ〜、そう言えばエアガン買う時もそんな説明あったかも」
「まぁやった所で管理が面倒になるだけだと思うぞ?」
「でも二丁拳銃すごくカッコいいじゃん……! ショットガンとかアサルトライフルとかでもやりたい」
「凄くわかる。 と言うか川内あれか」
提督は微笑を浮かべながら私の目を見て言った。
「ガン=カタを見たな?」
そう、それ! ガン=カタの戦闘シーンが頭から離れないんだよね。
「知ってるならガン=カタ教えて!」
「待て待て待て、アレはフィクションだぞ? 確かにカッコいいんだけど、実際に真似したら銃口管理が出来てない危ない人だ」
「でも近距離ならワンチャンあるよね⁉︎」
「近距離でわざわざ二丁構えるのもおかしな話だぞ? 小回りが優先される室内戦とかでそんな取り回しが悪い事しないだろう?」
「確かに……。 でも映画の人は敵の弾も避けながら撃ってたし……」
「至近距離で正しい射撃姿勢から撃たれた秒速350mで進む銃弾を避けられたら、多分二丁拳銃が強いんじゃなくてその人が強いんだと思う。最悪銃いらないんじゃないかな」
なんか凄い勢いで二丁拳銃のイメージが崩れてきた。
冷静に考えればハンドガン二丁構えるんだったらサブマシンガン持ちなよってなるよね。
ハンドガンのマガジンは確か15発とかだし、二丁で30発だし。
連射速度だってサブマシンガンなら30発撃つのに1秒掛からないし。そっちの方が制度も高いし。
ならサブマシンガン二丁……、いやどんな状況なのさそれ。
ダメだ、サブマシンガン二丁構えて有効な状況が思い浮かばない。 牽制射撃にしたって片方ずつ使った方が多分有効だよね。 弾幕は密度より途切れさせない事が何よりも大事だし。
私は残念な現実を口に出した。
「ガン=カタはファンタジーだった……」
「まぁサバゲーなら盛り上がるんじゃないか? 近寄り難いけど」
「ダメだよ提督! サバゲーはある程度リアリティがないと!」
「お前も拘って来たよなぁ……」
私の装備は提督を参考にしてるしね。
防具もそっくりなレプリカを買ったんだよ? 気付いてるかなぁ。
エアガンだから多連装マガジンとか300発くらい装填できるマガジンあるけれど、私からしたらアレは邪道だね。
シャカシャカうるさいし、あとマガジン交換の必要無くなるし。
マガジン交換の必要無くなればマグポーチも必要無くなるし。 そんなんダメだし。
私は提督の格好を思い出していると、ある事に気が付いた。
「あ……、提督さ、室内だと銃の構え方違ったよね?」
「あ〜……、クローズ・クォーター・バトルって言う室内とかの至近距離での戦闘を想定した戦闘術があるんだよ。 CQBって聞いた事あるだろ?」
「そ、それもガン=カタじゃない⁉︎」
「……違うと思うが」
「私のM4貸すからちょっとやってみせて!」
そう言って提督に私の愛銃のアサルトライフルのM4を押しつけるように手渡した。
すると提督は普通にM4を構えると、そのまま手首を折って銃口を真下に向け、ストックは肩に当てたまま、銃身が全て身体の内側に収まる構え方をしてみせた。
「所謂、射撃準備姿勢だな。 これがストレートダウンで、銃口を下に向けて誤射を防ぐのと、肩に当てたストックを起点に銃身を起こせばすぐに射撃できる」
「でも動きにくそうだね」
「そうだな、少なくとも走る様な時にはこんな構え方はしないな」
「映画とかでは普通に銃を構えたまま室内行くのよく見かけるけど」
「あれはコンバットレディポジションだな、見て分かる通り1番早く撃てる。 けどそれは敵の位置が明確な場合に限るぞ?」
「なんで?」
「何処に敵が潜んでいるか判らない室内だと、銃を突き出したまま歩いてたら奪われるかもしれないからな。 だから構え方もその場の状況に応じて丁寧に変えていくわけだ」
「あぁ〜……」
サバゲーでは無かったしね、相手の銃を奪う状況なんて。
身体の内側に銃身を収める理由も、銃を隠す以外にも、素早く体術を繰り出せるとかそんな理由もありそう。
「でも銃に相手の手が届く様な至近距離だと、アサルトライフルは不利になりそうだね、長いし」
「そこまで行くとアドリブ効かせるしかない気がするな、味方が居なけりゃ危機的状況な訳だし。 対策として俺は前に格闘射撃術なんて呼んでたが……」
「格闘射撃……?」
「肉薄する程の至近距離で、ハンドガンやナイフも抜く暇も無く、どうしてもぶっ放したい時用の戦闘術だな。 米軍では特殊射撃術なんて呼ばれてたりするが……多分正解はない」
提督はそう言って、まるで槍を構えるように銃を持ってみせた。
そして頭上に持ち上げて銃口を下に向けて、高い位置から大雑把な射撃が出来そうな構えを見せてくれた。
狙いなんて付かなそうだけど、確かに頭より高い位置なら奪われにくそうだし、例え相手が自分の身体を掴んだりしても、そのまま撃てそう。
「ここまで至近距離だと狙うまでもないから、とにかく“撃てる”事が大事だ。 だからこんな型破りな構え方まで考えた、左手の上下で銃身の角度を決めて、右手で引き金を引けばとりあえず撃てる」
「そ、そんな暇もない時は……?」
「銃で殴るかな。 構造上ストックとバレルの強度はそこそこあるんだ、鈍器みたく使えない事は無いからその為の訓練もあるんだぞ」
「もうガン=カタじゃん!」
「ただ銃で殴ると、銃口が何処向くか判らないから本当に緊急時だぞ? 銃剣と言う手もあるし」
「ガン=カタだぁぁぁ!」
「聞いてるか?」
いや提督何言ってんのさ、槍みたいに銃を取り回しながら射撃したらもうガン=カタでしょ!
実際に提督にやってみてもらうと、ストックを使って殴る素振りから素早く射撃姿勢に派生させてた。
色んな殴り方があるけど、やっぱり殴り終わると射撃可能な姿勢にスムーズに派生されてた。
1番カッコよかったのが『メット砕き』って言う安直なネーミングセンスの荒技で、両手で槍を地面に突き刺すみたいに銃身を振り下ろした中屈姿勢から、器用に銃身を半回転させて射撃姿勢に移る奴。
防具着込んだ相手を怯ませるためにストック壊れるの覚悟で全力で叩き込むんだって。 だから派生した射撃姿勢も肩にストックを付けない簡易的なものだった。
でもアサルトライフルがクルッて回りながら腕の中に戻ってくるのがカッコいい!
「提督ッ‼︎ それ教えてぇッ‼︎」
「サバゲーで使うのか⁉︎」
「流石に使わないけど使えるようになりたい!」
「……あー……、じゃあ吹雪に頼んで銃のハリボテ作ってもらうか。流石にエアガンだと間違い無く壊れる」
「やったね!」
ついでにCQBも教えて貰おっと!
最近サバゲーで夕立が手強くなってきたけど、提督の秘密訓練があれば私がまた巻き返せるもんね。
多分だけど実際に軍隊で使われているような技術はサバゲーでも発揮されると思う!
……あれ、コレって海上の砲雷撃戦にも活かせないかな?
至近距離まで近づく事もある夜戦なら、もしかして。
そういえば私の艤装、両腕に砲身ついてるし。 これってある意味二丁拳銃と同じ……?
いや艤装だから二丁拳銃のデメリットが存在しない上位互換になるかも?
それに加えてCQBや提督の部隊が使ってた格闘射撃術を加えたら……。
私は夜戦の神になれるかも知れない。
私の艤装で砲撃可能な姿勢を数多く模索して、1つ1つ型を当てはめていけば、提督みたいに私もガン=カタを扱えるかも知れない!
その為には少しでも提督の技術を知る必要があるね。
「提督、アサルトライフルのCQBは分かったけど、ハンドガンは?」
「ハンドガンも似たようなものだな。 ただ構える時は左脇を締めて小さく構える感じだ」
提督はそう言って左脇を締めて、右脇は開いて腕は地面と水平に、銃を両手に顔の目の前で構えた。
突き出した形より小回りが利きそうだし、銃も奪う事が難しそう。
オートマチック拳銃はスライドが動かないと撃てない種類も多くて掴まれたら大変だもんね。
「ただ構え方とかに拘り過ぎるのは良く無いぞ。 近距離ならとにかく素早く撃つ事を優先させたいからな」
「まぁ制度より速さと撃つ事が大事なのは何となく察しがついたよ。 提督の構え方も勘で当てに行ってる感じだったし」
「インスティンクトなんて呼ばれてたりするかな? “大体この辺かな?”って言う直感を頼りにするんだ」
「へぇ〜……、“直感”ね」
結局、最終的には個人のセンスなんだなぁ。
もうそれってさ、第六感に近いと思うんだよね。
人の歴史の中では、理屈じゃ説明出来ない事が結構多かったんだってね。
未来予知とか、千里眼だとか、そんな常識を疑うような言葉を使わないと納得が出来ないような局面とか。
ヒトがヒトの限界を超えて、時に武器の性能すらも超えて、危機的状況を常識外れな奇跡的な力で打開させる、第六感。
その第六感を呼び醒ますのが、弛まぬ努力と執念だとしたら。
私にも、それが出来る筈だ。
ああ、なんだろう。
夜戦でもないのに身体が熱くなってきたなぁ。
確かめなくちゃね、私の“持ち主”の努力を、そのセンスを。
昨日とは別の胸の疼きを抑えながら私はエアガンを弄ぶ提督に話し掛けた。
「ねぇ提督、折角だし一戦やってこうよ」
そう言うと、提督は最初の達観したような表情に変わってた。
「……お前とタイマンだと終わらないんだよ」
「提督が動かないからじゃん」
「お前も動かないからな!」
隠れる場所の多いアウトドアフィールドで元気よく走り回るバカは居ないよね。 あ、天龍がそうだっけ?
とにかく私が提督とサバゲーで勝負すると間違い無く長期戦になるんだよね。
提督が最初に達観したような表情だったのは、この事を予測してのかな?
早速、第六感が働いたんだね!
それは、とある艦娘のたったひと言から始まった。
『お買い物くらい1人で行けるわよ! ぷんすか!』
これは、ひとりの少女の笑顔を守る為に戦った勇敢な男達の物語である。
夏の兆しが早くも現れ、ジメッとした湿った風が流れ始めた鎮守府。
その居住区の片隅にある第六駆の部屋では、丸いテーブルを囲んだ4人の艦娘が揃ってテレビを眺めていた。
テレビの液晶画面では、とある商店街で話題となっているスイーツの宣伝が報道されていた。
その名は、『スペシャルいちごサンド』。
苺の女王様と名高いヒト粒600円もする、温室育ちの高級品『真紅姫』。
北海道で厳選された高品質な素材を持って作られた高品質生クリーム。
そんな大粒な苺を丸ごと4粒、そしてたっぷりと生クリームを乗せて包んだ上に優しくサンドした贅沢な逸品だ。
報道していたアナウンサーも、ひと口食べた途端頬を綻ばせて宣伝を忘れてしまうほど夢中になっていた。
そんな贅沢なスイーツが、隣町の商店街で期間限定で販売されているらしい。
4人はうっとりとした表情でその映像を眺めていた。
「……た、食べてみたいのです」
「ダー……、女子アナが宣伝忘れてテロップで説明が入ってたね……。 きっと想像している以上に美味しいんだ」
「すごく甘いんだって、食べたら虫歯になっちゃいそう……!」
「でも隣町よね? 買いに行けばいいじゃない!」
暁はそう言って勇ましく立ち上がるが、他の三名の表情は浮かないものだった。
「電と雷ちゃんは午後の遠征があるのです……」
「私も対空訓練の指導があるんだ……、だから私達は行けない」
暁は自分以外動けない事実に衝撃を受けた。
ならば他の手の空いている艦娘と一緒に、と途中まではマトモな思考が働いていた暁であったが、響の余計なひと言により瓦解する。
「隣町に行くには電車に乗る必要がある、そんなのは暁には無理だ」
この時点で、憲兵や提督に頼めば車くらい出してくれる筈だったのだが、暁の中でその選択肢が消え去っていた。
「それにおっちょこちょいの暁が1人でお買い物なんて危険過ぎるよ。 ここは諦めた方がいい」
この時点で、誰かと一緒に行く選択肢は暁の中で消え去っていた。
響は真剣に暁の事を心配してその言葉を発していたのだが、暁にはそれが分かってしまったからこそ引くに引けなくなってしまった。
鎮守府で1番のレディである暁が、電車に乗って隣町にお買い物が出来ない筈がないのだ。
「なによう! お買い物くらい1人で行けるわよ! ぷんすか!」
暁はそう言って、お気に入りのネコ型のポーチに財布を詰め込んで肩紐をくくると、皆の制止を振り切ってさっさと部屋を出て行ってしまった。
一応、暁はレディとしてお出掛け前に執務室に向かい篠原に報告をしているのだが、今回ばかりは急かされているのか言葉足らずだった。
「司令官、お買い物に行ってくるわ!」
「ん、そうか。 何買うんだ?」
「ちょっとしたスイーツよ!」
「ふふ、そうか。 気を付けてな」
この時、篠原は近所のスーパーかコンビニに行くとばかり思っていたので、何も心配する事なく送り出してしまっていたのだ。
執務を執りながら暁の背中を見送った篠原は、微笑を浮かべながら秘書艦の神通に話し掛けていた。
「暁はどんなスイーツを買うんだろうな? クレープならコンビニでも売ってたなぁ」
「プリンとか容器に入った物かも知れませんよ?」
なんとも平和な話題であったが、間も無く勢いよく開かれる扉の音で遮られていた。
何事かと篠原と神通は目を丸くして扉の方へ顔を向けると、そこには息を切らした電が膝に手を当てながら必死の形相で佇んでいた。
そしてそのままの姿で電は声をあげた。
「た、大変なのです! 暁ちゃんが……、暁ちゃんが!」
「ど、どうした電⁉︎」
「暁ちゃんが“スペシャルいちごサンド”を買いに行ったのですぅぅぅぅ‼︎」
電の必死の叫びに、篠原は目を見開いた。
そして篠原は1拍子置いて息を整えると、冷静に言葉を綴った。
「それがどうしたんだ?」
電は必死過ぎて言葉を欠いていた事に気付くと、改めて言い直した。
「スペシャルいちごサンドは隣町なのです! 暁ちゃんは電車に乗って行くつもりなのです!」
「なん……だと……⁉︎」
それから篠原の行動は素早かった。
冷静かつ迅速な判断により直ちに憲兵隊に連絡をまわした。
「斎藤さん……、暁はもう鎮守府の外に⁉︎」
『ええ、はい、スイーツを買いに行くと自転車で……』
「くっ……遅かったか‼︎」
『大丈夫ですよ、毎度の如く、元機動隊の憲兵に見張らせていますから』
「ち、違います! 暁は近所のスーパーやコンビニに買い物に行くんじゃない……、隣町の商店街まで行くつもりだッ‼︎」
『なん……だとぉぉ⁉︎』
連絡を受け取った斎藤の行動もまた素早かった。
通信機を手に回線を開いて素早く招集を掛け始めた。
「憲兵隊総員に告ぐ‼︎ 暁君が隣町まで買い物を敢行……ッ‼︎」
たったそれだけの放送であったが、夜間警備を務めて今は就寝中の憲兵すら飛び起きる。
男達は統制のとれた一糸乱れぬ動きで迅速に招集応え、門前に整列を始めていた。
斎藤は鬼のような鋭い目付きに打って変わり、並ぶ男達を睨み付ける。
「聞いての通りだ、暁君が買い物に隣町まで行くそうだ。 この街はとにかく、隣町にはどんな人間が潜んでいるかもわからん。 そんな街中で万が一艦娘であることが露見してしまったら……」
斎藤はひと呼吸入れ、続く言葉を綴った。
「心無い人間により、暁君が傷ついてしまうかも知れない……」
実のところ、艦娘が隣町に行くことはコレが初めての事では無いのだが、その時は戦艦や空母など冷静な判断が出来る艦娘だった上に体術にも長けていたので、護衛に当てられる人員も普段通りであった。
暁も体術の心得はあるはずなのだが、暁の人柄が提督の、そして憲兵隊の庇護欲に火を付けてしまったのだ。
海に出れば頼もしい筈なのに、普段だとおっちょこちょいなドジっ子で、頑張り屋さんだけどいまいち成果に結び付かない。
レディを自称して一生懸命背伸びする姿は、憲兵隊の目にも癒しを与えていたのだ。
憲兵の男達は、仕事中に労ってくれた暁の姿を思い出す。
『え、えっと、いつもきんべ……、勤勉に勤めて? ええと、えっと……、とにかくお仕事お疲れ様ね!』
レディを目指す為に無理して難しい言葉を選んで結局毎回ちゃんと言い切れてない。
しかし彼等は彼女に労わられると明日も頑張れる気がしていた。
そんな純粋な彼女が、人間の汚れた部分に触れてグレてしまったらどうなるだろうか?
純粋な彼女がグレて汚い言葉を使う様になってしまったら?
妙な連中に触発されてレディでは無く、レディースのようになってしまったら……。
『シャーーッス! 今日もおっかれぇーっす!』
なんて解読が必要な挨拶に変わってしまうかも知れない。
そんな事は絶対にあってはならないのだ。
ーー守護らねばならない。
ただその一心に男達は動き出した。
篠原は執務があり動けないが、斎藤には護衛と言う大義名分がある。
そんな斎藤は己に宿る庇護欲に任せて声を張り上げた。
「情報班、偵察班、護衛班を編成する! 各員、持ち場に付けッ‼︎」
「サー、イエッサーッ‼︎」
男達は声を揃えて力強く返事をし、事情を知らぬ艦娘に奇異の眼で見られるが誰も気にしていなかった。
その一方、暁は海岸線に沿った道を悠々と潮風を切って自転車を漕いでいた。
地元の漁の護衛を務めて稼いだお金で買った、真新しい赤い自転車である。
海上では随一の索敵能力を遺憾無く発揮して誰よりも早く接敵に気付ける彼女だが、自分の背後にオリーブ色の走破性の高そうな250ccオートバイが2台、徐行で跡をつけている事には気付いていないようだった。
そのバイクはフレームに補強が施されていたり通信機が搭載されていてカラーもミリタリー調で、少しでもバイクに詳しい人が見ればひと目で一般二輪車とは違うと気付けるのだが、暁はその2台が走っている事すら気付く気配は無かった。
やがて暁はこじんまりとした田舎らしい駅に到着して、駐輪場に自転車を停めると駅内に入っていった。
バイクで尾行していた2名は同じく駐輪場にバイクを停めると、暁が置いた自転車の前に集まって耳のインカムに手をあてがった。
「自転車に防犯対策無し」
『盗まれたら大変だ。 U字ロックを施せ』
「はっ‼︎」
男は情報班の指示通りに、本来は自分のバイクに使う為のU字ロックを暁の自転車に施した。
因みに、男2人が乗っていたバイクは1台95万円の価格であり現在は生産終了している為値上がりが続く代物である。
対して暁の自転車は2万円前後だが、男達にとっては関係の無い話だろう。
男2人は暁を追い掛けて駅内に駆け込むと、券売機を前に狼狽える暁の姿が見受けられた。
ここは田舎特有の無人駅で、彼女に使い方を教える駅員もいないのだ。
更に、憲兵隊の2人だが今回は私服で偽装しており、人見知りする暁がそんな2人に話し掛けて券売機の使い方を教えて貰うなんて事はしないであろう。
男の1人は小声で、しかし焦燥に駆られた言葉を通信機に発した。
「……ターゲットが泣きそうです、サーッ!」
『く……っ、現場の判断に任せる他はない……! 上手くやれ……ッ‼︎』
涙目でオロオロし始めた暁を前に、男は手をこまねいた。
突然話し掛ければ警戒されてしまうかも知れない。
憲兵だと明かせば、子守りに来たと悟られてレディの面目を潰してしまうかも知れなかった。
しかし今現在、レディの顔は涙で崩れ掛かっているのだ。
ーーお前を泣かすものか。
強い使命感に突き動かされた男は賭ける事にした。
そして2人はわざとらしく今来た風を装いながら駅内に入ると声を張り上げた。
「あーっ! あったあった、券売機があった!」
「おお、本当だ! 券売機だな! でもお前使い方わかるのか〜?」
「券売機ってスッゲー難しいから、大人の俺でもたまにわからなくなるけど、今回はちゃんと勉強して来たから大丈夫だぜ!」
「へぇーーーっ! じゃあちょっとやってみろよぉ!」
「任せとけって!」
あまりにもワザとらしい演技だったが、暁の目は彼等2人に釘付けにされていた。
男達はそんな暁に気付かないフリをしながら、空いている券売機の前に並び始めた。
「先ずは、1番右上の、往復券って書いてあるボタンを押すんだよ」
「へぇっ‼︎ 往復券ってボタンを押すのかぁ!」
男は自分の白々しさを自覚して冷や汗をかきながらも横目で暁の姿を確認し始めた。
暁は“往復券”のボタンを押してコッソリと様子を伺っているようだった。
「次は、行きたい駅までの値段を調べて、画面に表示された、同じ値段のボタンを押せばいいんだよ」
「と、隣町だと幾らのボタンを押せばいいんだ?」
「さ、320円のボタンだな! 320円、のボタンをおしたら、硬貨を投入すればいいのさ」
「へぇーっ! 隣町に行くには“320円”のボタンを押して、お金を入れて切符を買えば良いのかぁ‼︎」
説明を終えた男は横目で暁を確認した。
暁は券売機から飛び出して来た切符を見て目を丸くした後、ニコニコと笑いながら改札機へと向かっていた。
そして更に男はワザとらしく声を張り上げた。
「で、出て来た切符は行き用と帰り用の2枚だから、ちゃんと確認しないとなぁ! 切符に書いてあるからなぁ!」
その言葉に、暁は1度ピタリと足を止めて、手に持った切符を確認した後でもう1度歩き始めていた。
その様子を男2人は額の汗を拭いながら眺めている。
「……第1関門、突破」
『……良くやった、一時はどうなるかと思ったが。 勲章ものだな』
情報班として鎮守府で待機する斎藤は2人を褒めたが、護衛班の2人はまだ安心してはいなかった。
「我々はこのまま電車に乗りターゲットの護衛を続けますが……、機動偵察班はどうなっていますか?」
『隣町の商店街スイーツ売り場に急行している。 恐らく電車よりも速く到着する筈だ。 君は電車内で暁君の護衛を務めつつ扇動したまえ』
「はっ‼︎」
まもなくすると、4両編成の小さな電車が構内に止まり、そして暁と男2人を乗せて次の街を目指して走り出した。
護衛班は電車内の情報を斎藤に飛ばした。
「車内は人が多いです。 恐らく番宣の影響かと思われます」
『不審者を見つけたら軍警察の名義で素早く拘束しろ。 暁君に手を出そうものなら発砲を許可する』
「イエス、サー」
男2人は小さく返事をすると、窓の外に流れる景色に夢中な暁を視界から外さないようにしながら周囲に目を光らせ始めた。
この男達はまだ若い見た目ながら、かつて自衛隊内でレンジャー、空挺、射撃、格闘などの訓練を受けた熟練隊員であり、ターゲットに1番近い護衛班なのもそれが理由である。
その間、機動偵察班と呼ばれた男達は数十人にも及ぶ団体でスイーツ売り場周辺にと差し掛かっていた。
暁が来るまでに不安要素を少しでも排除するためである。
仮にここが敵地ならば威力偵察と部隊名を変えていたかも知れない彼等は、散り散りに行動を始めていた。
その部隊を纏める隊長は部下達の報告を纏めて引き受けていた。
『隊長、放し飼いの犬を発見!』
「飼い主に動物愛護管理法に基づき厳重注意しろ」
『隊長、不良少年グループと思しき集団が』
「マークしておけ、迷惑行為に及んだら張り倒せ」
『隊長、若者達が歩道に広がって通行妨害をしている模様』
「……ああ、それは俺からも見えている」
それはスイーツ売り場で賑わう人集りの前で、まだ10代後半程度の学生と見受けられる若者達が携帯を手に寄ってたかって撮影している光景だった。
隊長はその様子を見ながら通信を飛ばした。
「なんだあの棒は?」
『自撮り棒ですかね? スイーツ売り場の繁盛と人集りを背景に自撮りしているようです』
「構わん、折れ」
『待ってました!』
間もなく、通行妨害も構わず自撮り棒を振り回していた若者は、隊員の手によって棒をヘシ折られていた。
憲兵は警察だが守るのは法律では無いのだ。
自撮り棒を折られた上に携帯を踏み壊された若者達はその隊員に文句を言い始めたが、隊員の仲間がその場に集まり始めると、明らかにカタギでは無いという異様な剣幕を目の前にして逃げる様に退散して行った。
『やれやれ、ケツの青いガキ共だぜ』
「口を慎め。 その言葉はターゲットに悪影響を及ぼす危険性がある」
『は、はっ‼︎ 失礼しました‼︎』
艦娘達の目の前では、特に駆逐艦の前では汚い言葉を使わないと言うのは憲兵隊の暗黙のルールであった。
機動偵察班による不安要素排除は滞りなく進む中で、隊長の耳に良くない報せが入った。
『た、隊長……』
「なんだ」
『スペシャルいちごサンド……売り切れました……』
「な、なにぃぃぃぃッ⁉︎」
更に追い討ちを掛けるように斎藤からの通信が届く。
『こちら情報班。 間もなく暁君が商店街前の駅に到着する』
「は、はっ! ……しかし、スペシャルいちごサンドは品切れとの報告が……」
『な……、なんという事だ……』
隊長は襲い来る失望感からその場で膝を折ってしまいたかったが、部下のひと言により思い留まる事が出来ていた。
『隊長! 店員に尋ねてみたところ、材料さえ何とかなれば特別に作ってくれるそうです‼︎』
「そ、そうか……! 良くやった‼︎」
部下の1人が身分を明かしながら直談判したようだった。
強行策にも近いが、隊長には微かな希望となっていた。
しかし、まだ足りないのだ。
「ターゲットはもうすぐここに来てしまう……」
圧倒的に時間が足りない。
既に部下の1人が調達班として、明日の分の素材を預かっている集積地へと向かっているが、暁の歩行ペースでも15分足らずでこのスイーツ売り場に辿り着くだろう。
最早打つ手なしと思われたその時、隊長の通信機に鎮守府から連絡が入った。
『こちら篠原、取り急ぎお伝えしたい事がありまして直接回線を繋がせて頂きました』
「し、篠原さん⁉︎」
『話は斎藤さんから聞かせて頂きました、時間を稼げれば良いんですよね?』
「は、はい! ですが……」
『付近に自衛隊の音楽隊が滞在しているようで、たった今連絡を取った所ですが、10分もあれば急行してゲリラ演奏をして頂けるとの事です。 ……10分です、足りますかね?』
「……ええ、十分ですよ。 駄洒落ではありませんよ?」
隊長の表情に笑顔が舞い戻った。
反則的とも言えるが、篠原は自分の知名度を利用して音楽隊の温情に賭けたのだ。
たった1人の笑顔を守る為に、演奏をして頂けないだろうか、と。
その結果、商店街で突発的なオーケストラ演奏が始まり、道行く人の多くの関心を集めて人集りが出来始める中で、何も知らない暁も足を止めてその演奏に夢中になっていた。
「聴いたことある曲だわ! 素敵ね!」
暁が思わず足を止めてしまう選曲、それは彼女がよく視聴するアニメのサウンドトラックのオーケストラなのだが、いまいちピンと来ていないようだった。
それでも時間は稼ぐ事ができて、調達班の運送が完了していた。
演奏に満足した暁がスイーツ売り場に行く頃には一定数のスペシャルいちごサンドの販売が再開されていて、暁もその列に並ぶ事が出来ていた。
そしてその列と言うのも、機動偵察班による陽動、俗に言うサクラ客であり、スムーズな誘導により暁はカウンターの前まで移動していた。
そして暁は緊張しながらも店員に声を掛ける。
「えっと、えっと、スペシャルいちごサンドを4つ……、ううん、5つ下さい!」
若い女性の店員は判っていたかの様に、特別に用意していたスペシャルいちごサンドを保冷剤と一緒に箱詰めして差し出した。
「はい、どうぞ! あまり揺らさない様にして下さいね」
「えっと、5つだから、これで足りるかしら?」
「あっ、えーっと……」
実は仕入れた分のお金は既に機動偵察班により支払われているのだが、今回ばかりは愚策だった。
余分なお金を貰うわけには行かないし、かと言って貰わないのも怪しまれる。
そこで、目の前の少女に大勢が動く程のなにかしらの理由があると判っている女性は、素早く機転を効かせた様だ。
「実はドーナツも一緒に購入して頂ければ、お値段3000円のキャンペーン中なのですが、如何でしょうか?」
「本当? じゃあお願いするわ!」
暁は目を輝かせながら頷いて、店員も微笑みながら3000円分のドーナツをこさえて、今度は二段に重ねた箱を紙袋に入れて暁に差し出した。
暁は千円札を三枚渡しながら紙袋を受け取ると、その場でお辞儀をしてお礼を言った。
「ありがとうお姉さん!」
「お買い上げありがとうございました。 また来てね?」
「うん!」
暁は元気よく返事をしてその場を離れて行き、店員も爽やかな笑みでその背中を見送っていた。
暁が見えなくなると、スイーツ売り場のカウンターには機動偵察班の男達が集まり、店員に敬礼を行った。
「御協力、感謝致します。 お陰で助かりました」
「い、いえ……」
「では、我々はこれで失礼致します」
「あの〜〜、余ったいちごサンド持って帰ってくれませんか? 10個以上あるんですが」
「我々で話し合ったのですが、それは貴女に差し上げましょう。 甘い物が苦手な隊員が多いのです」
「えっ? いや、10個以上も困るんですが⁉︎ ちょっと⁉︎」
「では」
男達はやり切ったと言う朗らかな笑顔でその場を離れようとしたが、ダッシュで追い付いた店員に無理矢理いちごサンドを押し付けられていた。
そして帰路についた暁も、今度は迷う事なく電車に乗る事が出来て、先行した男達によりU字ロックが外された自転車に跨り、再び海岸線の道を走っていた。
その途中、暁は少しだけコンビニに寄り道していたが、その理由も鎮守府に辿り着く頃には明らかになった。
守衛室の前で、暁は声をあげる。
「憲兵さーん!」
「はいはい、お帰り暁君」
「ただいま! 私電車で隣町までスイーツ買ってきたのよ!」
「ほぉ〜〜っ! そりゃすごいなぁ」
「それでね? 思ったよりもスイーツが安かったから、いつも頑張っている憲兵さん達に差し入れよ!」
「んん?」
そう言って暁は守衛室のカウンターに沢山のマックスコーヒーを並べ始めた。
「みんなで飲んでね、大人のコーヒーよ!」
「そ、そうか……ありがたいなぁ……」
「レディはコーヒーを嗜むものよ!」
「そうだな、このコーヒーは苦手な大人も多いのに、暁君はすごいなぁ」
「とーぜんじゃない! だってレディだもの!」
沢山のマックスコーヒーをカウンターに置き終わると暁はニコニコと笑いながら鎮守府内に戻って行った。
後に男達はそのマックスコーヒーとスペシャルいちごサンドで祝杯をあげた後、糖尿病になりそうな程の強烈な甘さに泣き笑いしていたが、甘党の斎藤だけは至って普通に舌鼓を打っていた。
そして第六駆の部屋でも、大いに賑わいを見せていた。
「す、すごいのです! テレビで見たのと同じスペシャルいちごサンドなのです!」
「わ、私は夢でも見ているのかい?」
「凄いわ暁! 本当に買ってくるなんて!」
「へっへーん! 暁はレディだからこれくらい当然よ!」
暁はテーブルにスペシャルいちごサンドとドーナツを並べ始めた。
そして5つ目のスペシャルいちごサンドを取り出した時、思い出した様に言った。
「あっ、司令官の分も買ってきたんだけど、司令官は今どこにいるの?」
暁は帰って来た時に先ず執務室に向かったのだが、その時に篠原の姿は確認できなかったのだ。
そしてその質問には何処か遠い目をした電が答えた。
「……少し前に赤城さんが何かを察知してソワソワし始めたので司令官さん自ら道場に連れて行って組手の相手をしているのです」
「えっ?」
「……加賀さんが瑞鶴さんと一緒に出撃しているからなのです」
「えっ、えっ? それじゃあ帰ってくるまで待ってるしかないのかな?」
「な、なのです……。 電も司令官さんと一緒に食べたいのです」
こうして第六駆の4人は本物のスペシャルいちごサンドを前にお預けを食らってしまったのだ。
そんな彼女達の笑顔を守る為、男は戦い続ける。
「て、提督!艤装が無くても衣装を纏った艦娘を相手にするのは不利ですって!」
「今、お前を行かせる訳には行かないんだよ! さぁ、もう一本だッ‼︎」
「妙にお腹が疼きますが、良いでしょう! 一航戦として受けて立ちます‼︎」
その戦いは夕方頃まで続いたと言う。
◇end
◇本来ならちゃんとした〆の微シリアス回を予定していましたが時間の流れと文字数の都合上無理が生じてしまいましたので、迷いましたがこのパートは暁回を最後に完結とさせて頂きます。
第3章の予定はありませんが、この日常編を通して沢山の応援のコメントや評価を頂いた為、皆様のご期待に応えるべく日常編の続投を検討しております。
例の如く、書き始めたらこの場で告知させて頂きます!
コメントをして頂いた方、オススメをして頂いた方、評価をして頂いた方、応援をして頂いた方、そしてこんなお見苦しい文章を最後まで読んで頂いた方、本当にありがとうございました。
若輩者ですが、ここまで書き続けられたのも皆様のお陰です!
ちょっとした本作品に対しての余談ですが、本来なら本編の『信義と共に 2』で終わる予定だったんですよね。
ですので、ここまで続いたのも本当に皆様のお陰です!
見返してみれば、地球防衛軍プレイ中の思い付きから始まったとは思えない文字数になりつつありますね。自分でも驚いています。
【6/30〜8/6現在 計362,673文字】
日常編の憲兵隊ではありませんが、皆様のコメントや評価、応援などを見て
ーー書かねば。
となったのを覚えています。
新パートを書き始めた時も、応援よろしくお願い致します!
では、長文乱文失礼致しました!
※現在鎮守府に所属する艦娘一覧
暁、響[Верный]、雷、電
吹雪、初雪、白雪、叢雲
夕立、時雨、島風、朝潮、不知火、曙、卯月
川内、神通、那珂、天龍、龍田、北上、大井
高雄、愛宕、青葉、鈴谷、利根
扶桑、山城、金剛、榛名、大和、長門
鳳翔、龍驤、赤城、加賀、瑞鶴、翔鶴
伊58、伊19、伊168
大淀、香取、鹿島、間宮、明石
計47隻(内、4隻が派遣)
まじ神ってる
タイトルを見つけた瞬間、プラトーンのポーズが出た。
マジこの作品楽しみヽ(・∀・)ノ
タイトルを見つけた瞬間、プラトーンのポーズが出た。
マジこの作品楽しみヽ(・∀・)ノ
ところで、翔鶴や瑞鶴は新兵訓練ってやったのかな?
コメントありがとうございます!
>>3さん
描写こそされていませんが、前作最後の瑞鶴の「覚悟が分かった」と言う発言から、同様の訓練を乗り越えて例の映像を見た、言う事を表している……つもりですw
このシリーズしゅき
コメントありがとうございます!
頑張ります!
応援してます!ストーリーが超好み!
応援ありがとうございます!
頑張りますー!
予測変換のせいか、肝心なところで台詞ミスってたので修正しました。
投稿前に見直ししているのですが、どうしても抜けがあるみたいです。
申し訳ありません……。
今後文字数変わらず更新されたら誤字修正と思って下さい……。
真面目な大淀が悪い顔をしてらっしゃる。
コメントありがとうございますー!
大淀はそう言うポジ似合いそうだったのでつい……
シリアスとギャグとラブストーリーがいい塩梅で配合されていてとても良いです!続きが楽しみです。
サバゲー好きの川内に夕立と聞いたら、そのうちアクション映画顔負けのガンアクションを見せてくれそうな気がしてきました。
司令官への思いで強くなる、という設定も好きです!
愛は偉大なり!
神通さんの睨まれてセルフ轟沈で大笑いしました。
10です。魚雷はもうそうゆうもんだと思っとけ
コメントありがとうございます!
>>50AEさん
川内と夕立は見た目的にストライクガンとか厳つい銃が似合いそうですよね。
感想、ありがとうございます! ご都合主義設定ですが、今後もよろしくお願いします!
>>14さん
回答ありがとうございます!
魚雷はそう言うものなのですね……! わかりました!!!!
続編きてたー!
元帥が……w
魚雷ついては艦底の数m下(水面から約10m下)で起爆する信管(磁気信管など)があるのでゲームにもそれに類似したシステムがあるのかも?
コメントありがとうございます!
>>森のくまさん
元帥は親馬鹿ですので……
魚雷は一定範囲内に敵を捉えたら自動爆破する超高性能爆弾だと思うようにしました。
字足らずあったので赤城の台詞を修正しました
いや~マジ面白い(*´∀`)
神レシピ、マジで聴いてみたい。そして作者もマジ神ってる。
コメントありがとうございます!
替え歌は2番頑張って考えてましたwww
神レシピ、替え歌で歌ってくれる人居ないかなぁヽ( ̄▽ ̄)ノ
たすくこまさんお願い致します(笑)
想像以上に替え歌気に入って頂けて嬉しいです!
こまさんの手に掛かればもっと面白おかしくなりそうですな……
一応替え歌の歌詞載っけておきます。
2番まで考えてありましたが、字足らずがあったので1番だけ……。
本来なら2番まで歌わせるつもりでしたが、引っ張り過ぎになってしまったので省きました。
神レシピ(加賀岬)
夜中食べたい そんな時には
(この手によせる 袱紗 朱の色)
お手軽レシピ 教えてあげる
(この目ひらいて その顔見れば)
パスタ束ねて 沸かしたお湯で 茹でる
(翼束ねて 波濤を超えて あげる)
麺を絡めて 味付けたなら
(指を絡めて 抱きしめたなら)
ひと手間加え バジルも掛ける
(炎の海も 怖くはないの)
香り沸き立つ トマトソースが そそる
(翼を放ち 戦の空へ 駆ける)
ベーコンエッグ 加えれば そう
(私とあなた 射掛ければ そう)
テーブルの上 きれいね
(朧月夜が きれいね)
今夜の料理は
(今夜の勝負は)
退くに 退けない 譲れはしない
(退くに 退けない 譲れはしない)
お腹空いたわ ねぇ
(女心よ ねえ)
胸秘めた 想い一つ
(胸秘めた 想い一つ)
いいのよ このまま
(いいのよ このまま)
身体に残るのなら
(心が残るのなら)
奥深い 香り放つ
(海向かい 願い一つ)
パスタ料理の
(百万石の)
基本よ 神レシピ
(誇りよ 加賀岬)
神レシピ見事ですヽ(・∀・)ノ
加賀さ~ん、頑張るんやで。何とか提督に振り向いて貰うんや。
そして赤いの。あんた良い味出してるな(*´∀`)
今回も作者マジ神ヽ( ̄▽ ̄)ノ
コメントとオススメありがとうございます!
今回の投稿は不安でしたが楽しめて頂けたようで何よりです!
慣れない描写ですが頑張ります!
他に見ない切り口❗期待しております。
コメントありがとうございます!
頑張りますー!
毎回面白いから大丈夫!!
コメント、オススメありがとうございます!
頑張りますぞー!
かなりの期待度❗だと思いますよ。無理なく頑張って下さい!!!
コメントありがとうございます!
期待に応えられるか分かりませんが、微力を尽くします!
語彙に関しては差があるなら、自由で良いですよ。正解は無いのですから‼期待しております。
コメントありがとうございます!
毎度、名前の呼び方とか凄く悩んでましたが、自分のイメージでやりたいと思いますー!
ファイトです!!!!!
頑張ります!
帰って来た艦娘にも話題も振って欲しいです。白雪か龍驤
レクリェーションの時の赤青コンビが面白かった。
そしてビックリ‼利根が常識人枠じゃ無かった(゜ロ゜;
コメントありがとうございます!
>>37さん
リクありがとうございます!
那珂ちゃん龍田さん含めて構成練ってますのでお待ち下さい〜!
>>38さん
得意分野外は鎧袖一触とは行かないようです!
利根さんは自信家というイメージが強かったのでw
吹雪ちゃん、気づいたら工業・工作系の資格コンプリートしそうな勢いですね。
そのうち工作船になるのでは?
興味を持つと、その周辺分野にも波及していくのはよくあることです。
自分も銃に興味を持ってから戦場医療(銃や爆弾の傷はどう処置するのか?)や格闘術(弾が無いなら拳で闘う!)の本を読み漁ったり筋力トレーニングにのめり込んだりです。
>>50AEさん
コメントありがとうございます!
吹雪ちゃんは何となく好奇心強そうですからね、何となく色んな挑戦をして貰いたかったのです
そして時に趣味はあらぬ飛び火したりしますからね。
私も銃好きでエアガンに走り、エアガンのストック自作する為に木工に走ったら工作好きになってました
吹雪が鋳造で何を作るか楽しみです♪
コメントありがとうございます!
今後も何かしら作るかと思いますよ!
出た赤いの(笑)
そのうちに、艦載機で憲兵さんの弁当を掻っ払うんじゃ。そして憲兵隊で噂になる、レッドホークアイに見入れたらヤられると(笑)
今回の憲兵さんみたいな話しも良いですね。
コメントありがとうございます!
赤い人は流石の人気ですね、レッドホークアイとかめちゃカッコいい上に強そうですけど、青い方が居ますので問題は起きなそうですな!
今回はめっちゃ強い憲兵さんいたら面白そうだなぁって思ったお話でした!
吹雪回きた!
楽しく読ませて頂きました、いつもありがとうございます!
後書きについてですが
好きに書いて良いと思いますよー!
コメントありがとうございます!
一応私も色々調べましたが、本当に艦娘はふわふわした存在のようですね……。
お応えありがとうございます!
後書きは次回更新で変更しますー!
木工作艦は、いい響きですね。姉妹との掛け合いも面白いです。
コメントありがとうございます!
キャラ崩壊気になるところですが、吹雪にはこのまま突っ走って貰おうと思います!
当然、3章熱望ヽ( ̄▽ ̄)ノ
大変でしょうが、頑張って欲しいですね。
しかし何時もながら、原作未プレイなのに良くキャラの特徴を出していると思います。
コメントありがとうございます!
日常編続けても良いかもと考えております!
キャラはwikiと他作者様の作品と妄想で補っているので不安でしたが、まだそこまで崩壊してなさそうで安心です!
程よく調べて。妄想で爆走してください‼期待!!!
コメントありがとうございます!
妄想は得意なんで頑張ります!
このシリーズ好きだから続けて欲しい‼️
コメントありがとうございます!
日常編の延長は検討しておりますー!
何時も楽しく読んでます。
この作品もとりあえず完了との事で、お疲れ様でした。そして、楽しませて貰いましてありがとうございました。
今回の憲兵隊の活躍には、笑わせて貰いましたよ。そして最後に出た赤いの、物凄い索敵能力というか第六感だな。
完結お疲れ様でした。いつも楽しく読ませていただきました。気長に待っていますので、気が向いたらまた執筆をお願いします。
コメントありがとうございます!
>>56さん
此方こそ応援ありがとうございました!
赤いのは名前で呼ばれなくなりつつありますな……w
>>57さん
此方こそ読んでいただきありがとうございました!
続編と言うか外伝? を只今執筆中で、日常編の続投はその後になりますので、暫しお待ち下さい〜!