2015-08-15 19:35:48 更新

概要

1話 http://sstokosokuho.com/ss/read/2666
2話 http://sstokosokuho.com/ss/read/2672
3話 http://sstokosokuho.com/ss/read/2679
4話 http://sstokosokuho.com/ss/read/2734
5話 http://sstokosokuho.com/ss/read/2808
6話前編 http://sstokosokuho.com/ss/read/2948
6話中編 http://sstokosokuho.com/ss/read/2975
6話後編 http://sstokosokuho.com/ss/read/2977


前書き

http://sstokosokuho.com/ss/read/2666
http://sstokosokuho.com/ss/read/2672の続編です。未読の方はそちらをお先に。


提督「なんだ、電。ハッピーラッキー艦隊の補給は終わったのか?」


電「提督さん? 今日はもうお休みになられたんじゃないんですか?」


工廠に行くと、そこには提督さんがいらっしゃいました。疲れた顔で、装備の点検をしているようです。


提督「なに、明日の計画だけでも立てておこうと思ってな。やることは大して変わらんのだが」


電「・・・・・・明日も、開発と建造を?」


提督「ああ。ギリギリまで行う。いい砲塔でも作って扶桑たちに載せれば、2-4突破率も上がるだろうしな」


提督さんはそう言いますが、今まで開発で有力な装備が作れたことは一度もありません。


私が思うに、提督さんの欠点は2つあります。絶望的に引きが悪いこと、そして諦めが悪いことです。


提督「明日こそ、何かいいものが出そうな気がするんだ。これだけ失敗しているんだ、一度くらいは・・・・・・」


提督さんが開発に凝り始めたのは、1-5に苦戦していた頃でした。

対潜水艦に効果的な攻撃手段を持たなかった艦隊のために、ソナーか爆雷を作ろうとしたのがきっかけです。


ソナー、爆雷はごく少量の資源でも作ることが可能です。最初は開発資材が減るだけで、資源には余裕がありました。


しかし、提督さんの引きの悪さは半端ではありません。作っても、作っても、出てくるのは九六式艦戦ばかりです。


業を煮やした提督さんは、レシピを変更し、日に何度も大量の資源を投入するようになりました。


その上、開発の裏では建造も行っています。狙いは戦艦と空母。ときには重巡しか出たことのない大型艦建造にまで挑戦します。


当然、膨大な資源が必要です。


1-5を由良さんと五十鈴さんがあっさり攻略した後も、資源が枯渇するまで開発、建造を行うという日課を提督さんは繰り返しています。


おかげで出撃から帰ってきた艦隊の補給、修理分の資源がなくなるほど、鎮守府は慢性的な資源不足に悩まされるようになりました。


きっと提督さんは、パチンコにハマると素寒貧になるまで持っていかれるタイプの人だと思うのです。


提督「それより、電は何しに工廠へ来たんだ」


電「あ、それが・・・・・・やっぱり燃料が足りなかったので、那珂ちゃんたちを解体して・・・・・・」


提督「ああ、得た資源の確認か。少し待て」


提督さんは慣れた手つきで工廠の設備を動かし、新たに得られた資源をドックへと搬入していきます。


提督「どうだ、足りるか?」


電「えっと・・・・・・あ、ほんの少しだけですけど、まだ足りないみたいです」


提督「まだいるのか・・・・・・仕方ないな、赤城のメシを抜け」


電「はわわわ・・・・・・そ、それはやっぱりかわいそうなのです」


提督「そうか? あいつの食事量は明らかに度を越している。たまに抜くくらいがちょうどいいと思うんだがな」


電「で、でもでも、赤城さんはそのぶんがんばっています。赤城さんが来てくれてから、戦いもすごく楽になりましたし」


提督「むう、それももっともではあるな・・・・・・」


本当は、私も赤城さんは食べ過ぎだとは思っています。


だけど、提督さんは気づいていないのです。赤城さんが空腹の時に、何が起きているかを。


補給のための資源がないとき、ときおり妖精さんの数が減ることがあります。ダブっている駆逐艦の子が、ひとりでにいなくなることがあります。


偶然だとは思いません。その直後に赤城さんを見かけると、少しばかり満足気な表情になっているからです。


赤城さんの食欲は底なしで、それを満たすためなら何をするかわかりません。


空腹を満たすために、赤城さんは妖精さんや駆逐艦の子を食べているかもしれない。私には、それがそこまで突飛な発想だとは思いません。


むしろ、あの人ならそれくらいはやるだろうと思います。


赤城さんに食べられるなんて、考えられる限りで艦娘として最悪の最後ではないでしょうか。


おそらく鎮守府において、赤城さんの凶行を止められる人はいません。ならば、出来る限り彼女に満足していただく他にないのです。


電「どうにかならないですか? あと少しなんですけど・・・・・・」


提督「仕方がないな。こいつを処分するか」


提督さんは工廠のタッチパネルを操作し始めました。すると設備が動き出し、カーンカーンと何かを解体する音が響きます。


提督「よし。これで足りるだろ」


電「何を解体したんですか?」


提督「開発で溜まってた九六式艦戦と7.7mm対空機銃を全部破棄した。使うことはまずないからな」


電「はあ・・・・・・」


確認したら、相当な量の資源が増えていました。一体どれだけ破棄したんでしょうか。


というか、始めからこうしていれば那珂ちゃんを解体しなくて良かったのでは・・・・・・?


そもそも、こんな開発で資源を無駄にしなければ、補給に困るような事態にもならなかったように思えてなりません。


提督「それじゃ、補給が終わったらお前も休んでいいからな。俺はもう少し続けるから」


電「わかりました。ありがとうございますなのです」


ともかく、これで資源は足りました。いろいろと思うことはありますが、ようやくお仕事を終わらせられるのです。







電「はあ・・・・・・」


赤城さんに補給量が少ないと難癖を付けられるトラブルはありましたが、どうにか無事補給を完了しました。


補給すらスムーズにこなせない鎮守府はどうなのかと正直思います。提督さんは、その辺りどう考えているのでしょうか。


今日は少し疲れてしまいました。私も早めに休んで、明日に備えようと思います。


夜も更けてきました。にもかかわらず鎮守府内は寝静まる気配すら見せず、むしろ活気を増しているようにすら感じます。


提督さんが夜更かししてお仕事をしているから、ではありません。鎮守府ではいつもこうなのです。


この時間になると、艦隊が活動している間は何もしていない艦娘たちが活発に動き始めます。


この鎮守府の方針は「少数精鋭」。裏を返せば、遠征艦隊にすら所属していない大半の艦娘たちはやることがありません。


提督さんにも忘れ去られた、無数の放置艦。彼女たちが、夜通しで退屈しのぎを始めるのです。


歩くにつれて、騒がしい声が大きくなってきました。このあたりは、重巡洋艦の人たちの溜まり場になっている場所です。


那智「止めるな妙高! あと一瓶、あと一瓶だけ飲ませてくれ!」


妙高「那智さん、ダメです! もう夕方から飲み続けているじゃないですか! これ以上は体に毒です!」


那智「うるさい、飲まずにいられるか! 出撃も、演習すらないぬるま湯のような日々・・・・・・せめて飲む楽しみくらいあっていいだろう!」


妙高「気持ちはわかります。でも、そんなに飲んで体を壊したら、いざ出撃を命じられても戦えませんわ」


那智「ふん、どうせ出撃する機会なんて2度と巡ってこないさ! 私が鎮守府のNO.2だったのも、もう過去の話だ!」


足柄「はーい皆さん、注目! どう? この精悍なボディ!」


妙高「あ、足柄さん! 何をしてるんですか、服を着てください!」


那智「ハッハー! いいぞ足柄! さすが鎮守府の元NO.1だ、アッチのほうまで餓狼だな!」


足柄「当然よ! さーて、このままブランデーの一気飲みよ!」


妙高「やめてください、足柄さんまで! そんなことしてたら、戦闘で勝利することもできなくなりますよ!」


足柄「なによ、知ったような口を聞いて! もう、そんなのどうだっていいのよ!」


足柄「もう戦闘も、勝利も私を呼んでくれない! あんなに愛してくれた提督すら私を見捨ててしまったわ!」


足柄「うう、どうして・・・・・・どうしてよぉぉ! 提督、どうして私を捨てたのよぉぉぉ!」


妙高「そ、そんなことありませんよ。きっと、いずれまた艦隊を任される日が・・・・・・」


足柄「そんな希望を抱かせるようなことを言うのはやめて! もう私を呼んでいるのはお酒だけなのよ!」


那智「まったくだ! おい妙高、高雄と愛宕を連れて来い! 我々に残されているのは酒と女だけだ!」


妙高「なんで那智さんまで全裸になってるの!?」


足柄「そうだわ妙高、ドックから整備用オイルを持って来なさい! 全身に塗りたくって、みんなでトルコ相撲を取りましょう!」


那智「名案だ! その勝負、受けて立つぞ!」


妙高「全然名案じゃないですわ! 羽黒さん、一緒に止めて・・・・・・何してるの!?」


羽黒「もういや、もういやだ・・・・・・出撃したくない、私に構わないで・・・・・・」


妙高「ひ、ひとまずそのカミソリから手を放しなさい。早まらないで、ね?」


那智「おい羽黒、お前もさっさと脱げ! これからトルコ相撲を取るんだぞ、グズグズするな!」


足柄「あら、ちょうどよくカミソリがあるじゃない。これでその邪魔な衣服を切り裂いて差し上げますわ!」


羽黒「きゃああっ、だめぇぇ! 見ないで・・・・・・見ないでぇぇぇ!」


妙高「あああっ、もうあなた達、手に負えませんわ!」


重巡洋艦さんたちは、かつて艦隊の花型でした。


駆逐艦、軽巡、重巡しか艦隊に配備されていなかった頃、重巡は他2つの上位互換だと提督は認識し、主力艦隊も重巡をメインに構成されました。


そのときの艦隊名は「餓狼艦隊」。足柄さんと那智さんがツートップを務める重巡洋艦隊でした。


特に当時のメンバーの中で足柄さんの活躍は目覚ましく、提督さんはケッコンカッコカリ候補に足柄さんを考えるほど彼女を寵愛していました。


しかし、戦艦である扶桑さん、山城さんが来てからすべてが変わります。


戦艦の火力と装甲は、提督の価値観を一変させるには十分過ぎるものでした。

このとき初めて、提督さんは艦種の特性というものを真面目に考えます。


特性を考えたとき、重巡は火力、装甲において戦艦に劣り、雷撃戦も大きな威力は見込めず、対潜能力もありません。


さらに燃費の良さも軽巡、駆逐艦に負けるとなれば、もはや重巡が活躍できる舞台は残っていませんでした。


餓狼艦隊は解散となり、鎮守府のツートップは扶桑さん、山城さんに取って代わります。


艦隊名がハッピーラッキー艦隊に変わった後も、数合わせとして足柄さん、那智さんは出撃する機会があったのですが・・・・・・


戦艦、空母がある程度揃ってしまった今、重巡洋艦である彼女たちの出番は全くなくなり、とうとう放置艦の仲間入りをしてしまうのでした。


ただし、羽黒さんだけはときどき出撃させられています・・・・・・大破ボイスを聞きたいという、提督の暗い欲求のために。


以来、重巡洋艦の人たちは酒浸りの日々を送っています。


見つかるとお酒を飲まされそうになってしまうので、なるべく関わりあいにならないよう早く通りすぎてしまいましょう。


重巡洋艦の溜まり場を通り過ぎると、今度は軽巡洋艦と軽空母の人たちの賑やかな声が聞こえてきました。


木曾「さあ! 丁か、半か!」


祥鳳「丁! 丁よ!」


木曾「キソソソソっ! 残念、半だキソ! 掛け金のボーキサイトは没収させていただくでキソ」


祥鳳「あぁあああっ、そんなぁ! 全然勝てないじゃない、絶対イカサマでしょこれ!」


木曾「龍田姐さん、負け犬がほざいてるでキソ。どうするでキソ?」


龍田「あらあら、自分の不運を人のせいにするなんて、ずいぶん育ちが悪いのね。しつけ直してあげましょうか?」


祥鳳「ひいっ! す、すみませんでした、勘弁して下さい!」


龍田「物分りだけはいいのね。さあ、賭けるものがないならさっさと帰ったら?」


祥鳳「ま、待ってください! これ、鋼材ならいくらかあるので、これをボーキと交換してくれませんか!」


木曾「キソソソソっ! これっぽっちの鋼材じゃお話にならないでキソ」


祥鳳「そこをなんとかっ!」


龍田「その懐にある鋼材、全部渡すなら考えてあげるわよ?」


祥鳳「なっ! う、うう・・・・・・くそっ、これでいいんでしょ!」


木曾「キソ。それじゃ、また勝負するでキソか?」


祥鳳「当たり前よ! 次は絶対に負け分を取り返して見せるわ!」


どうやらボーキサイトをチップとした賭博が流行っているみたいです。


ところであの資源、どこから持ってきたのでしょうか? 鎮守府の資源は厳重に管理されて・・・・・・


いえ、管理されてないですね。いつも枯渇状態なので、普段より減っていても提督さんは気が付かないと思います。


これはさすがに報告したほうがいいのかもしれません。ただでさえ資源が足りないのですから、もっと大切にしてもらわないと。


龍田「あら~? 電ちゃんじゃない。今日はもう、お仕事終わり?」


電「あ、は、はい。今から自分の部屋に帰るところなのです」


龍田「そうなの? よかった~。賭場のことを提督にチクりに行くんじゃないかって、心配したわ~。もしそうだったら殺していたわよ~」


電「そそ、そ、そんなことしないです。遊びだって必要なことですから!」


龍田「でしょぉ? 電ちゃんも遊んでいったら?」


電「え、遠慮しておきます。明日も早いので・・・・・・」


龍田「いいじゃない、少しくらい。ボーキサイト、お安く貸してあげるわよぉ?」


どうしましょう、軽巡洋艦を仕切っている龍田さんにつかまってしまいました。


このままでは資源横流しの片棒を担がされてしまうかもしれません。どうにかして逃げなければ・・・・・・


北上「あ、大井っち。こんなとこにいたんだ。探したよ~」


龍田「あら、天竜ちゃん。いま電ちゃんを賭博に誘っているところなの。手伝ってくれない?」


北上「そうなんだ。おっす電ちゃん」


電「こ、こんばんは・・・・・・北上さん。その、龍田さんと仲良しなんですね」


北上「あはは、大井っち、電ちゃんに名前間違えられてるよ~」


龍田「あらあら。電ちゃん、この子の名前は天竜ちゃんよ? ちゃんと覚えておかなくちゃ~」


北上「それより大井っち、一緒にお風呂行かない? 背中の流しっこしようよ」


龍田「あら、いいわね~それ。そっちに行こうかしら。じゃあ電ちゃん、賭博はまた今度にしましょうね」


電「は、はい。さようなら」


龍田「さよ~なら。それじゃあ天竜ちゃん、行きましょうか」


北上「うん。大井っちタオル持ってる?」


・・・・・・行ってしまいました。


あの2人は、提督さんが「いない姉妹艦を呼び続ける病」の治療を試みた、その成果と言うべきものです。


「いない姉妹艦を呼び続ける病」の治療法は唯一、姉妹艦を着任させてあげることですが、根本的な治療法はないとも言われています。


事実、すでに姉妹艦と合流している山城さんでさえ、扶桑さんと逸れてしまうと、ものの10分で幻覚のお姉さまと会話を始めてしまいます。


提督さんのドロップ運では、狙った艦娘を出すようなことは到底できません。レア軽巡の大井さんなんて一生お目にかかれないかもしれません。


そうした理由で龍田さん、北上さんの治療はほぼ不可能と思われていました。が、2人を見て提督さんはある実験を思いつきました。


提督「もしも、『いない姉妹艦を呼び続ける病』の患者同士を会話させたらどうなるんだ?」


その結果が今の北上さんと龍田さんです。お互いがお互いの姉妹艦と認識し、噛み合っていないようで噛み合っています。


いえ、噛み合っているように見えて噛み合っていない、というべきでしょうか?


傍から見て背筋が寒くなる光景ではありますが、本人たちは幸せそうなので、これでいいのだと思わなくもないのです。


軽巡洋艦たちの賭場を過ぎると、私の宿舎がある駆逐艦たちの広間にやって来ました。


駆逐艦の子たちは早くに眠ってしまうため、最近は殆ど顔を合わせる機会がありません。


ですが、今日は少し時間も早いため、みんなまだ起きているようです。何か集会のようなものをやっています。


最近では、自分たちで作った神様を祀るという、不思議な遊びが流行っているそうですが・・・・・・


不知火「皆の者、よく集まってくれた! 首長の不知火である! 今夜は我らの新しい仲間を紹介したい!」


子日「はじめまして! 今日は何の日? 子日だよ! みんなよろしくね!」


不知火「この子日は託宣にあった66番目の駆逐艦である! よって今日より彼女は我々の新たな祭祀となってもらう!」


不知火「彼女の言葉は天の声であり、その命令は勅令となる! みな、異論はないな!?」


「おおー!」「祭祀さまー!」「我らを導き給えー!」


子日「え? あの・・・・・・え?」


不知火「さて、子日よ。我らの仲間になるからには、守ってもらう掟というものがある。まずはこの盃を飲み干すのだ!」


子日「う、うん。ごくごく・・・・・・ん、苦い。変な匂いもするけど、これなに?」


不知火「この不知火の尿だ」


子日「おぶふぅ!?」


不知火「吐き出してはならない! すべて飲み干すのだ!」


不知火「この不知火の尿には魔除けの力がある! 飲み干すことによってその身に邪を退ける力が備わり、かの邪神からも狙われなくなるのだ!」


子日「ゲホゲホッ! じゃ、邪神ってなんのこと?」


不知火「我らが最も恐れる大いなる怪物、古き暴食の化身アカギドーラ=チャクルネ様のことだ」


不知火「彼の者は水平線の果てより現れる。その姿は空を覆い尽くし、この世のあらゆるものを喰らい尽くしてしまうのだ」


子日「なにそれ、深海棲艦のボス!?」


不知火「アカギドーラ=チャクルネ様の前では深海棲艦すら餌でしかない。それは我々も同様、現に何人もの仲間がすでに餌食となっている」


子日「この鎮守府そんなのが出るの!? 私聞いてないよ!?」


不知火「案ずることはない! 祈れ、祈るのだ! 天に従い、平伏し許しを請えば、きっとその牙は我らを避けて通るだろう!」


不知火「さあ皆の者! 祈りの声を上げよ! いあ! いあ! くとぅるふ ふたぐん!」


「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん!」


子日「ふんぐる・・・・・・え、何!?」


不知火「では次に、予定していた裁判を行う! 陽炎、罪人をここへ!」


陽炎「さあ、おとなしくこっちに来なさい!」


夕立「ひぃいい~・・・・・・許してほしいっぽい~」


不知火「この夕立は昨日、掟を破ってアカギドーラ様への祈りを怠り、我らの貯蓄するおやつのドーナツを盗み食いした!」


不知火「これはアカギドーラ様への許しがたい冒涜である! 皆の者、如何なる裁きが相応しいか!」


暁「殺せー! 殺せー!」


響「殺すだけでは足りない! 火炙りだ、火炙りにしろ! 炎に焼かれる悲鳴を贖罪の声とし、水平線の果てまで響かせるんだ!」


初春「それより、直接アカギドーラ様に召し上がっていただくのじゃ! 八つ裂きにし、その肉を海にばら撒くのじゃ!」


吹雪「なら生きたまま手足の腱を削ぎ、簀巻きにして海に流しましょう! アカギドーラ様は新鮮な生贄を好みます!」


夕立「いやぁぁ~・・・・・・どうかお慈悲を~」


不知火「良い意見が出た! では掟に従い、この者の処遇を祭祀である子日に任せたい!」


子日「えええええっ!? 私!?」


不知火「さあ、子日! この者の身命、如何に処すべきか!?」


子日「え、えっと・・・・・・謝ってるから、許してあげてもいいんじゃないかなぁ?」


不知火「な・・・・・・なんと慈悲深い! 罪人よ、立つがいい! 貴様は許されたのだ!」


夕立「はぅうう~、あ、ありがとうございます~」


不知火「掟に従い、貴様の身分を奴隷に貶す! 子日よ、今日からこの者はお前の所有物だ! 好きに扱うが良い!」


子日「なんでそうなるの!?」


夕立「どうか大事にしてください~。靴の裏舐めるっぽい~ぺろぺろ」


子日「さっそく何してるの!? 自分の境遇に順応しすぎだよ!」


不知火「皆の者、裁きは下された! 慈悲深き祭祀を称えるのだ!」


「うおおー祭祀様ー!」「天使だー!」「あたしも奴隷にしてー!」「靴舐めたーい!」


子日「なにこれ!? だ・・・・・・誰か、誰か助けてぇぇーー!!」


ここは、アマゾンの未開の地でしょうか。いいえ、鎮守府のはずです。


どうやら宗教ごっこではないみたいです。これ、本物の邪教信仰じゃないですか? 生贄とか言ってましたよね?


それにアカギドーラって何なんでしょう。似た響きの名前の人を知っているんですが・・・・・・


しばらく駆逐艦のみんなと話さないうちに、一体何があったのでしょうか。あの集まりには、とても入っていけそうにありません。


電「はあ・・・・・・」


私が旗艦を務めていた頃は、駆逐艦の友達が何人もいました。


それがずいぶん昔のことのように思えます。あの頃のみんなと、もうどれくらい会っていないのでしょう。


親しくしていた子も、あの集まりの中にいるのでしょうか。みんな、私の事なんか忘れてしまったのかもしれません。


そう考えたら何だか落ち込んでしまって、とぼとぼと1人、鎮守府の中を歩きます。


そしたら目の前に、私と同じく1人で歩いている駆逐艦の子が目に入りました。


あの華奢な後ろ姿、グレーの髪の毛、見間違えるはずもありません。私は嬉しくなって、その子に走り寄りました。


電「霞ちゃん! お久しぶりなのです!」


霞「えっ?」


電「お仕事が忙しくて、ずっと会えなかったからすごく寂しかったです! 元気にしてましたか?」


霞「はあ? 別に、元気だけど」


霞さんは、提督さんが初めてのドロップで着任した艦娘です。


気が強くて、ちょっと口が悪い子なので提督さんは苦手そうにしていましたが、私とはとっても仲良しなのです。


まだ駆逐艦が主力だった頃に、何度も一緒に戦って、何度も私を助けてくれました。


最初は私にも冷たかったけれど、少しずつ心を開いてくれて、時間をかけて友だちになったのです。


電「会えて嬉しいです。霞ちゃんは、あの変な集会には参加していないのですか?」


霞「ちょっと、なに勝手にちゃん付けで呼んでるのよ。馴れ馴れしくしないで!」


電「え? あの・・・・・・私、電です。前は何度も一緒に出撃しました。忘れてしまったのですか?」


霞「あんた、何言ってるの? 私はこの前ここに来たばかりだし、出撃なんて一度もしたことないわよ!」


電「・・・・・・え?」


ぐらりと、視界が揺れました。


心臓が痛いぐらいに鼓動を打っています。うまく息ができません。いろんな考えが溢れてきて、頭の中がぐちゃぐちゃです。


霞ちゃんは不器用だけど、優しい子です。こんな冗談を言う子ではないし、私のことを忘れるはずもないのです。


現在、この鎮守府にダブっている艦娘はひとりもいません。


たぶん、私はもう、答えを知っています。だけど知りたくない、確かめたくない。だって、もうそれは取り返しの付かないことだから。


だけど、確かめずのにはいられませんでした。どうか、違う答えが返ってきてほしい。そう祈りながら、私はその質問を口にしました。


電「霞・・・・・・さん。今、LVはいくつですか・・・・・・?」


霞「何言ってんの? 出撃したことないんだから、1に決まってるじゃない!」


・・・・・・そうです、わかりきったことでした。


霞『あんたがこの艦隊の旗艦? ずいぶん頼りなさそうね。名前は何? 電? 名前だけは立派なのね』


霞『何やってんのよ、バカ! 旗艦なんだから、私の後ろに下がってなさい!』


霞『バカ、なに大破してんのよ! ほら、手を貸しなさい! さっさと帰るわよ!』


あのとき。


提督さんが同名艦を一斉に解体した、あのとき。


果たして、その作業はどれだけの正確さで行われたのでしょうか。


あのとき、ひとつのミスや漏れなく、同名の艦娘のみを確実に解体していたと、保証できるものはあるのでしょうか。


霞『何グズグズしてんのよ! さっさとこの海域を突破するわよ!』


霞『やめてよ、触らないで! これくらいの傷、どうってことないわ! ひとりで帰れるって言ってるでしょ!』


霞『・・・・・・別に、好きにしたら? 私は頼んでないんだから、お礼なんて言わないわよ』


霞『ふん・・・・・・情けないわね、私』


提督さんは、たくさんいた那珂ちゃんの解体を途中でやめてしまうような面倒くさがりです。


資源の管理だっていい加減です。あの無数の解体作業が、ミスなく完璧に終わっていたとは到底思えません。


一体どうして、私はそんなことに今まで気づかなかったのでしょうか。


霞『ねえ、電。一応言っておくけど・・・・・・この前は、その、ありがと』


霞『な、何よ。変な勘違いしないでよね! 私はまだ、あんたを旗艦と認めたわけじゃないんだから!』


霞『ま、でも・・・・・・最初よりは、少しはマシになったんじゃない?』


ミスは必ずあったはずです。那珂ちゃんのように、解体し忘れた艦娘だってきっといたはずです。


逆に、間違って解体してしまった艦娘がいたって、なんの不思議もありません。


同名艦のいない艦娘を誤って解体してしまったかもしれません。


最初に着任していた残すべき艦娘のほうを、誤って解体してしまっていたかもしれません。


もはやそれを確かめるすべはなく、取り返しもつかないのです。


霞『今日は遠征でしょ? ほら、早く準備しなさい! あんたが旗艦なんでしょ!』


霞『失敗したからって、気にすることないわよ、電! こんなの、提督の作戦が悪いんだから!』


霞『なに、怒られたの? あのクズ提督! 絶対許さないわ! 電にひどいこと言うなんて!』



霞『電は絶対私が守るわ! あんたは私の・・・・・・友達なんだから!』



電「ああっ・・・・・・あ、あぁあああああっ!」


押し寄せるように涙が溢れてきて、立っていられません。悲しくて、悔しくて、声を上げて泣きました。


どうして今まで気づかなかったのでしょう。私は、大切な友達が解体されてしまったことに、今の今まで気づかなかったのです。


この霞ちゃんは、私の知っている霞ちゃんではありません。私の霞ちゃんは、きっとあの解体室の向こうの、深い闇の中に行ってしまったのです。


霞ちゃんは、あの扉をくぐるとき、何を思っていたのでしょうか。きっと怖かったでしょう。悲しかったでしょう。私のことを憎んだかもしれません。


せめて、謝りたい。だけど霞ちゃんはもう、永遠に戻ってこないのです。


泣いたってどうしようもありません。だけど、私にはもう泣くことしかできません。それがたまらなく悔しいのです。


霞「ねえ・・・・・・あんた、どうしたのよ。どっか痛いの?」


電「ひっ、ひっく、あぅうう・・・・・・え?」


霞「ほら、これ使いなさい。ひどい顔よ」


目の前に差し出されたのは、真っ白なハンカチでした。見上げると、そこには心配そうな顔をしている、私のことを知らない霞ちゃんがいます。


霞「さっさと涙を拭きなさいよ。いきなり泣き出してどうしたのよ。ケガでもしてるの?」


電「だ・・・・・・大丈夫、です。もう、大丈夫ですから・・・・・・」


いつの間にか涙は止まっていました。貸してもらったハンカチで顔を拭くと、優しい石鹸の匂いがしました。


霞「あんた、どこに行く途中? 何なら、送って行ってあげてもいいけど」


電「あ、ありがとうございます。でも、もう平気ですから。1人で行けます」


霞「そう? ならいいけど」


電「それじゃ・・・・・・ご迷惑おかけしました。このハンカチ、洗って返しますね」


霞「別にいいわよ、そんなの。あんたに上げるわ」


電「そんな。ちゃんと返しに行きます」


霞「あっそ、好きにしたら? じゃ、気をつけて帰るのね」


電「あっ・・・・・・」


霞ちゃんは私に背を向けて、そのまま歩き出しました。


その瞬間、どうしようもなく寂しくなりました。まるで、大切な友達を、もう一度失ってしまうような・・・・・・


たまらなくなって、私はまたその背中を追いかけました。


電「あっ・・・・・・あの、霞さん」


霞「なに? まだ何か用があるの?」


電「あの、その・・・・・・ひとつ、お願いがあるんですけど」


霞「何よ、やっぱり付き添ったほうがいいの?」


電「いえ。あの・・・・・・急にこんなこと言われて、気持ち悪いかもしれないですけれど」


霞ちゃんは訝しげに私を見つめます。その眼差しは、私と初めて会った時のように冷たくて、それがぎりりと胸を締め付けました。


息が詰まって、上手く話せません。だけど今言わなければ、二度と言えない気がします。


息を吸って、勇気を出してその言葉を口にしました。


電「・・・・・・私と、友達になってくれませんか?」


霞「・・・・・・はあ?」


電「で、できたらでいいです。嫌なら別に・・・・・・」


電「私、秘書艦をしていて、ほかの駆逐艦のお友達、全然いなくて・・・・・・すごく寂しいのです」


電「だから、その・・・・・・霞さんに、友達になってほしいのです」


ぎゅっと目を閉じて、顔を伏せました。霞ちゃんがどんな表情をしているのか、怖くて見ることができません。


霞「ちょっと、顔を上げなさいよ。それ、人に頼み事をする態度じゃないわよ」


電「ご、ごめんなさいなのです」


霞ちゃんに怒られて、おそるおそる顔を上げます。そこには私の事を知らない霞ちゃんがいます。


だけど、その顔は・・・・・・その仄かな笑顔は、私の知っている、不器用だけど優しい、霞ちゃんの顔でした。


霞「別に、いいわよ。私もあの変な集会やってる連中には馴染めなかったし」


霞「それじゃ、今から私とあんたは友達ね。えっと・・・・・・あんた、名前は何だったかしら」


電「わ、私の名前は・・・・・・」


そのとき、再び頬を温かなものが伝いました。


悲しいのではありません。悔しいわけでもありません。自分でもよくわからないものが、次から次へと胸の奥から溢れてきます。


霞「ちょ、ちょっと、どうしたの? やっぱりどっか痛いの?」


電「ご・・・・・・ごめんなさい、大丈夫、大丈夫ですから・・・・・・」


私の頬に、霞ちゃんの手がそっと触れます。その手は温かくて、優しくて、涙は止まるどころか次々とこぼれ落ちてきます。


私のことを知っている霞ちゃんは、もう帰ってきません。だけど、優しい霞ちゃんは、変わらずここにいるのです。


優しい霞ちゃんに見守られながら、私はその夜、いつまでも、いつまでも泣きました・・・・・・





終わり


後書き

ありがとうございました。続きは来週です。


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SS好きの名無しさんから
2015-07-12 23:12:18

このSSへのコメント

5件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2015-07-12 12:10:17 ID: o1TLb80f

救いはないんですか!?

2: SS好きの名無しさん 2015-07-13 00:27:26 ID: f5g0ualO

イアイア…

電ちゃん…

3: yamame_2K22 2015-08-11 05:31:11 ID: MwQyIA6n

うちの鎮守府並みにブラックですな~

開発と解体&合成の管理しっかりやってる分マシかも

4: SS好きの名無しさん 2015-08-13 02:15:53 ID: bqB_ORT7

霞ぃぃぃぃ。゚(゚´Д`゚)゚。

5: SS好きの名無しさん 2022-02-27 22:38:33 ID: S:sgbnDK

こ、これじ....実話…です.......よね..........
霞ぃぃぃぃ。゚(゚´Д`゚)゚。


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