2016-02-14 06:40:00 更新

概要

前作「電ですが、鎮守府の空気が最悪なのです」
http://sstokosokuho.com/ss/read/2666

※注意事項
・一部に過激な暴力表現、グロテスクな描写を含みます。予めご了承ください。
・特定のキャラクター、及び国家、人種、格闘技を貶める意図がないことをご理解ください。
・あなたの嫁が顔面を割ったり割られたり、あるいはもっと酷いことになる恐れがあります。ご注意ください。
・一部に著しいキャラクター崩壊が見受けられます。ご容赦ください。


前書き

本スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1451576137/


※階級について
艦種を実際の格闘技における重量階級に当てはめており、この作品内では艦種ではなく階級と呼称させていただきます。

戦艦級=ヘビー級

正規空母級=ライトヘビー級

重巡級=ミドル級

軽巡級、軽空母級=ウェルター級

駆逐艦級=ライト級



大会テーマ曲

https://www.youtube.com/watch?v=7IjQQc3vZDQ




明石「皆様、大変長らくお待たせしました! これより第二回UKF無差別級グランプリ、A&Bブロックの2回戦を行います!」


明石「実況はお馴染みの明石、そして解説は大淀さんでお送りします!」


大淀「どうも。立ち技格闘界絶対王者の赤城さんと互角に渡り合える程度の実力を持つ大淀です」


明石「……いや、大会運営委員長もそう言ってましたけど、それって本当ですか? 赤城さん滅茶苦茶強いし、階級も上でしょう」


大淀「だって、考えてみてくださいよ。私は軽巡級王者で、第一回UKF無差別級グランプリの3回戦に進出しているんですよ?」


大淀「16名トーナメントの3回戦って言ったらつまりは準決勝ですよ。出場者の中のベスト4には確実に入る計算です」


大淀「しかも私は勝ち抜く過程で、赤城さんにして唯一再戦したくないと言わしめた翔鶴さんも倒してますし、それくらい強くて当然でしょう」


明石「はあ……で、裏出場枠って何ですか?」


大淀「秘密です。非正規な出場枠なので、そのときまでお話することはできません。私も必死なんですよ、愛車のベンツが借金の抵当になってますから」


明石「……大淀さん、借金があるんですか?」


大淀「保有してた中国企業の株が暴落しましてね、稼がないと本当にまずいんです。もう1000万円以下の車には乗りたくないんですよ」


明石「そんな発言してるとまた人気と好感度が下がりますよ?」


大淀「いいんですよ、格闘家は試合に勝つことが全てですから。ま、今回は出番はありません。あるのは次回ですね。どうぞお楽しみに」


明石「そうですか……話が逸れましたが、早速試合の方に移りましょう!」


明石「本日はA&Bブロックの2回戦、合わせて4試合を開催します!」


明石「予定されていたエキシビションマッチ2戦目は、大会運営委員長の不調により後日に延期となりました! 申し訳ありません!」


大淀「いい加減にしてほしいですよね。放置ブラウザゲームで現実逃避してる場合じゃないですよ」


明石「エキシビションマッチの開催は明日、午後22時より行います! どうかご容赦の程をお願いします!」


明石「それでは試合を始めて参りましょう! まずはAブロック2回戦第1試合! 早くも優勝候補同士のぶつかり合いです!」






試合前インタビュー:赤城


―――これからグランプリ2回戦に挑まれるわけですが、コンディションはどうですか?


赤城「最高です。早く戦いたくてウズウズしてますよ。リングに上がるのが待ち遠しいですね」


―――この試合を勝ち抜けば、因縁の相手である扶桑選手と再戦できる可能性が出てきます。何か意識するところはありますか?


赤城「特にありません。優勝を狙っているんですから、どうせ全ての相手に勝たなければいけませんので」


赤城「扶桑さんが勝ち上がってくるかどうかも興味がないですね。私としては比叡さんのほうがやりやすそうなので、彼女には敗けてほしいくらいです」


―――優勝以外には何一つ興味が無いと?


赤城「ええ、他のことはどうでもいいと思っています。この試合も因縁を賭けた対決だなんて言われていますが、私にとっては通過点に過ぎません」


赤城「もちろん、試合には全力で挑みますよ。こんなところで敗けられませんからね。確実に叩き潰します」


―――武蔵選手が大きくファイトスタイルを変えられたのはご覧になったかと思いますが、赤城選手はどのような印象をお持ちでしょうか?


赤城「まあ……脅威には感じてます。簡単には勝てないでしょう。いつも以上に頑張らないといけませんね」


赤城「もう、いいですか? すみませんが出て行ってください。集中したいので」


(赤城選手の取材拒否により、インタビュー中止)




赤城:入場テーマ「Dark Funeral/King Antichrist」


https://www.youtube.com/watch?v=i_DrP5zlFPQ




明石「かつて行われた第一回UKF無差別級グランプリ! その出場者の中でも、『最も優勝を渇望している選手』と呼ばれたのが彼女でした!」


明石「優勝候補の名に恥じぬ圧倒的実力で勝ち進むも、3回戦でまさかの逆転負け! 優勝という夢は扶桑選手によって粉々に打ち砕かれました!」


明石「しかし、彼女は帰ってきた! 第二回UKF無差別級グランプリ! かつて奪われたものを取り戻すため、より一層冷酷さを増して!」


明石「誰であろうと、私の前に立ちはだかるものは緋色の海に沈んでもらう! ”緋色の暴君” 赤城ィィィ!」


大淀「……珍しいですね。彼女は入場してくるときはいつも笑顔なんですけど、今日は既に表情が殺気立っています」


明石「試合前インタビューにて、赤城選手は『扶桑さんには興味が無い』と発言されたそうですが、その質問以降、空気が変わったそうです」


明石「急に笑顔が掻き消えて、全身から立ち上る殺気が目に見えるようだったとか。インタビュアーの青葉さんも慌てて逃げ出したとのことです」


大淀「やはり赤城さんも扶桑さんのことは意識しているんでしょう。そして、同じくらいこの試合が大事なものだということもわかっていると思います」


大淀「もともと赤城さんは冷酷な試合運びで知られていますが、今日は一段と殺気が研ぎ澄まされているように感じますね」


明石「あと、これもさっき伝わってきた情報なんですが……チーム一航戦のセコンドに、ずっと龍驤選手が付いてらっしゃったのはご存じですか?」


大淀「あ、そうなんですか。彼女は体が薄……小さいのであまり目に入りませんでした。その龍驤さんが何か?」


明石「ご周知の通り、龍驤選手は最近デビューされたUKFの軽空母級ファイターですが……現在、スパーリング中の事故で大破入渠中だそうです」


大淀「……そのスパーリングの相手って、もしかして」


明石「はい、赤城選手です。試合前のウォーミングアップに軽いスパーリングして、それで誤って龍驤選手を大破させてしまったと」


大淀「ドックに運ばれたときの状態はどういうものだったんですか?」


明石「首の骨が完全に折れていたそうです。多分、赤城選手のハイキックをまともに食らったんじゃないかと……」


大淀「……故意かどうかは断定できませんけど、赤城さんは本気で打ち込んだんでしょうね」


明石「詳しいことはわかりませんが、試合前からそれくらい赤城選手の殺気が尋常じゃないそうです。加賀選手すら怖くて近づけないとか」


大淀「それほど武蔵さんのことを脅威に感じているんでしょう。彼女を倒さなければ、扶桑さんへのリベンジも、優勝もなくなってしまいますから」


大淀「そういえば第一回グランプリのときも、赤城さんは『最も優勝を渇望している選手』と呼ばれてましたね」


明石「優勝賞品が10億円プラス、間宮、伊良湖の食事券ですからね。その2人は『赤城さんだけには優勝しないでほしい』と言ってましたよ」


大淀「そりゃあそうでしょう。暴食で知られる赤城さんが給糧艦を好きにできるとなったら、あの2人は過労死寸前まで追いやられるでしょうね」


大淀「その権利を得られる優勝を前回阻んだのが、扶桑さんです。この試合に勝てば、扶桑さんにリベンジを果たすことができる」


大淀「赤城さんにとって、この試合へのモチベーションを上げる要素は盛りだくさんですね。精神的には極めて充実しているんではないでしょうか」


明石「ですが、熱くなるあまり冷静さを失って選択ミスを犯す、ということはありませんか?」


大淀「それはありません。赤城さんの怒り方って怖いんですよ。怒れば怒るほど、試合では冷静になっていくんです」


大淀「この状態の赤城さんは、もはや殺人マシーンですよ。相手を倒すこと以外、何も考えてません。ギブアップなんて何があってもしないでしょうね」


明石「なるほど……ありがとうございます。それでは、青コーナーより選手入場! こちらも扶桑選手に因縁を持つ選手! しかも同じ優勝候補だ!」




試合前インタビュー:武蔵


―――立ち技系トップファイター同士の戦いとして注目度の高いこの試合ですが、意気込みの方をお聞かせください。


武蔵「意気込みか。そのように言われると難しいが……私が勝つ、とだけ言っておこう」


武蔵「この試合を勝てば、再び扶桑に挑む機会を得られる。それを逃すわけには行かないからな」


―――やはり、扶桑選手のことは意識されていらっしゃいますか?


武蔵「もちろんだ。私がこのグランプリに出場した理由は、優勝以前に扶桑への借りを返すためだからな」


武蔵「言っておくが、恨んでいるわけではない。赤城のやつは凄まじい憎悪を扶桑に抱いているようだが、私はむしろ感謝しているくらいだ」


武蔵「扶桑のおかげでここまで強くなれた。この試合の勝利を、ぜひ扶桑に捧げたい。彼女が勝ち上がるのは間違いないからな」


―――相手は立ち技絶対王者と呼ばれる赤城選手です。どのように戦いますか?


武蔵「私はボクサー出身だが、今は総合格闘家だ。全局面において十全の戦いができるように、入念なトレーニングを積んできた」


武蔵「相手のファイトスタイルなど関係ない。私は培ってきたものを合理的に発揮するだけだ。全身全霊でな」


武蔵「扶桑への復讐を渇望している赤城には悪いが、勝つのは私だ。あの女を倒して、もう一度私は扶桑の前に立つ」




武蔵:入場テーマ「FinalFantasyⅩ/Otherworld」


https://www.youtube.com/watch?v=kXDxYIWAT7Y




明石「パワーファイターの象徴とまで言われたチャンピオンボクサー、武蔵! しかし、私たちは生まれ変わった彼女の姿を目の当たりにしました!」


明石「相手の動きを読む卓越した見切りと、軽やかなフットワーク! そして正確無比のカウンター! しかも、その豪腕は全く衰えず!」


明石「テクニックとパワーを併せ持つ、今の私に一切の隙はない! 過去の雪辱を晴らすため、また一歩覇道へ足を進める!」


明石「邪魔するものは全て、この両の拳が打ち砕く! ”破壊王” 武蔵ィィィ!」


大淀「武蔵さんは見た限りでは落ち着いていますね。初戦のときと変わりない雰囲気です」


明石「見た目はそうですが、武蔵さんも意気込みは相当ですよ。インタビューでは『優勝よりもまず扶桑と戦いたい』と言っていたほどですし」


大淀「そうでしょうね……どうも、武蔵さんは扶桑さんに勝たない限り、これ以上先へは進めないと考えているようです」


大淀「赤城さんも口には出しませんが、端々の言動を見るところでは、扶桑さんに対して腹わたが煮えくり返っているとみて間違いなさそうです」


大淀「いわば、この戦いは扶桑さんへのリベンジを賭けた争奪戦ということになります。どちらも一歩も譲らない試合展開になるでしょうね」


明石「ファイトスタイルとしてはムエタイVSボクシングという構図ですが、有利なのはどちらだと思われますか?」


大淀「そうですね……打撃戦になることはまず間違いないでしょうけど、両者の打撃には大きな差があります」


大淀「赤城さんはパンチだけでなく肘、膝、キックも巧みに使うオールマイティな打撃。武蔵さんはパンチに特化したボクサースタイルです」


大淀「攻撃のバリエーションを見れば赤城さん有利とも言えますが、やはり立ち技において拳の攻防は大きな比重を占めています」


大淀「いくら赤城さんでも、武蔵さんのパンチに付き合うようなことはしないでしょう。単純にどちらが有利、と断言することはできません」


大淀「重要なのは、お互いにどうやって自分の得意分野で戦うかでしょうね。ですから、この試合は間合いが重要になると思います」


明石「間合い……というと、キックとパンチの届く間合いの差、ということでしょうか」


大淀「そうです。武蔵さんの武器がパンチしかない以上、彼女は中距離でしか打ち合うことができません」


大淀「だから赤城さんはそこを突いてくると思います。キックだけの届く間合いで距離を取りつつ戦うか、あるいは密着して肘、膝で一気に決めるか」


大淀「それを武蔵さんも予想していると思うので、どう対策を講じてくるか……彼女がどう出るかは私にもわかりませんね」


明石「武蔵選手の実力には、まだ未知数の部分があると思われますか?」


大淀「ええ。武蔵さんにとって、霧島さんとの試合はリハーサルのようなものだったと聞いています」


大淀「となれば、あの試合で全てを見せたわけではないと思います。まだ何かを隠し持っている気がしてなりません」


大淀「わかりやすい構図に見えて、非常に予想の難しい対戦です。何せ、どちらも優勝候補の実力者ですからね」


明石「ありがとうございます。さあ、両者リングインしました! 睨み合っている! 両者、視線に闘志を滾らせて睨み合っている!」


明石「まったく視線を切らない! ルール確認を終えてもコーナーに戻ろうとしない! まるで、既に試合は始まっていると言わんばかりだ!」


明石「睨み合ったまま、両選手、ゆっくりとコーナーへ戻る! 試合開始前からこの凄まじい緊張感! 一体、この試合はどうなってしまうのか!」


明石「今、ここでゴングが鳴った! 試合開始です! 両選手、颯爽とリング中央へ飛び出した!」


明石「武蔵選手は先の試合で見せたものと同じく、両腕を下げて軽くステップを踏むノーガード戦法! 対する赤城選手、少々構えを変えてきた!」


明石「いつもは側頭部をガードしている腕を下げ、両の拳で顎を守っています! これは武蔵選手に対するパンチへの対策か!」


大淀「赤城さんはディフェンス重視で攻めるつもりですね。カウンターを警戒し、徐々に壊していく作戦でしょうか」


明石「さあ、先に仕掛けるのはどちらか! 武蔵選手はガードを下げたまま、打ってこいとばかりに赤城選手へ間合いを詰めていく!」


大淀「赤城選手、これに応えた! 鋭いローキッ……なっ!? む、武蔵選手が飛び込んだ!」


大淀「えっ、嘘!?」


明石「タックルです! 武蔵選手が足を狙った低空タックル! ローキックの足を素早く掬い取った!」


明石「そのまま赤城選手を地面から引っこ抜くように押し倒す! て、テイクダウン! 赤城選手、UKF初のテイクダウンです!」


大淀「あ、赤城さんからテイクダウンを取った……!」


明石「初めて見る光景です、赤城選手がマットに倒れている! 武蔵選手、その顔面目掛けて豪腕を振り降ろした! ヘビー級ボクサーの下段突きだ!」


明石「間一髪、赤城選手これを躱す! しかし武蔵選手は更にパウンドで追撃! もはや間合いもへったくれもありません!」


明石「赤城選手、立たせてもらえない! どうにか足を胴の間に入れました! ガードポジションで武蔵選手の猛攻を凌ぎ……いや、違う!?」


大淀「あの動き、ブラジリアン柔術!?」


明石「パウンドに来た武蔵選手の腕を取った! 両足を首に絡める! さ、三角絞めだぁぁ! 立ち技王者赤城、まさかの寝技を繰り出した!」


明石「意表を突いたタックルへの意趣返しとばかりに、ムエタイファイター赤城の三角絞め! 綺麗に首と腕が極まりました!」


明石「完全に絞めが入った! まさか赤城選手が柔術を隠し持っていたとは! 武蔵選手、不意を突いたつもりが逆に不意を突かれる形に……」


大淀「いや、でも赤城さん。それは悪手でしょう」


明石「あっ!? 赤城選手の体が浮き上がった! これは……武蔵選手が力づくで持ち上げています!」


明石「す、凄まじい怪力です! やはり、艦娘一と言われた豪腕は健在! ほとんど腕1本で、赤城選手の体を高々と持ち上げた!」


明石「そして……叩き付けたぁ! リングを揺るがすほどの衝撃! 強烈なパワーボムが赤城選手に炸裂しました!」


明石「この衝撃では受け身も取りようがない! 赤城選手の動きが止まった! 三角絞めも解ける! 武蔵選手、難なく危機を脱しました!」


大淀「武蔵さんにとって、三角絞めは1回戦敗退を喫することになった因縁の技ですから。万全の対策を期しているのは当たり前でしょう」


大淀「あの赤城さんが三角絞めを繰り出せば誰だって意表を突かれますけど、武蔵さん相手にその技はまずかったですね」


明石「さあ武蔵選手が腰を下ろした! やはり立って勝負する気はない! このまま赤城をグラウンドで仕留めるつもりのようです!」


明石「赤城選手はダメージが大きいのか、動きが鈍い! どうにか片足だけ挟み込んだハーフガードポジションを取ります!」


明石「まさかの展開となりました! 立ち技トップファイター同士のグラウンド戦! やはりこの勝負、尋常なものではない!」


大淀「武蔵さんがタックルまで習得しているとは思いませんでした。赤城さんの柔術にも驚きましたが……この先の展開、まったく予想が付きません」


明石「さて、ここから武蔵選手はどう攻めるか! 拳を振り下ろした! やはり武蔵、上からの打撃で仕留めに掛かる!」


明石「赤城選手もただではやられない! 降り注ぐ拳を的確に捌く! 同時に襟を抱き込んで密着を試み……あっ、武蔵選手が頭突きを入れた!」


明石「しばらく大人しくしていろと言わんばかりの強烈な頭突き! 更にもう1発! 打たれ強い赤城にもこれは効いたか!?」


明石「いや、それでも赤城は怯まない! もはや打撃にも構わず脇へ腕を差し込んだ! 下から組み付くような形でどうにか打撃を凌ぐ!」


明石「武蔵選手は休みなく赤城の脇腹に拳を叩き込んでいますが、さすがにこの状態では効果が薄い! 一旦膠着にもつれ込むか!」


大淀「いえ、赤城さんは膠着を狙ってはいません。これも柔術の……」


明石「んっ、なんだ? 密着したまま赤城選手が、武蔵選手の足を掴んだ! もう片方の手はマットに着いている!」


明石「あっ……赤城選手が身を起こした! 抱き合ったまま、両者の体がぐるりと反転! 武蔵をひっくり返した! 体勢が入れ替わりました!」


明石「赤城選手、あっさりとハーフガードポジションを返しました! やはり赤城選手、ムエタイの技だけではない! 柔術の技も冴え渡っている!」


明石「今度は武蔵選手がマウントポジションを取られています! これぞ柔術の恐ろしさ! さあ、ここから赤城選手が反撃を仕掛け……はあっ!?」


大淀「うっわ!?」


明石「赤城選手が引き剥がされた! なんだ今のは! テクニックもクソもない! 武蔵選手、単純に赤城の襟を掴み、腕力で引き剥がしました!」


明石「即座にマウントを取り返す! 再び武蔵選手がトップポジションを取りました! しかも、今度は完全なマウントポジション!」


大淀「……怪力だけじゃありません。マウントを取る動きも非常に洗練されています。武蔵さんはグラウンドの攻防も磨いている……!」


明石「赤城選手も呆気に取られたような表情を見せています! こんなはずはない! 今、自分の身に有り得ないことが起きていると!」


明石「しかし、そんな逡巡に付き合う武蔵ではない! 豪腕が振り下ろされた! 1発、もう1発! パウンドのラッシュが始まったぁぁ!」


明石「赤城選手、これには防戦一方! ひたすら顔面のガードを固める! 武蔵選手は構わず殴る! ここは赤城選手、耐えるしか策がない!」


明石「武蔵選手、がら空きの脇腹にすかさずフックを入れる! おまけに鉄槌打ち! も、もう滅多打ちです! 赤城選手も苦悶の表情で耐える!」


大淀「あっ、今の……」


明石「霧島戦で見せた華麗なテクニックが霞むほどの、武蔵選手の荒々しい猛攻! そして、それは着実に赤城の耐久力を削っていく!」


明石「あっ、ここで赤城選手が反撃です! 下から雄叫びを上げながら拳を突き出した! 武蔵選手の顔面へカウンター気味に命中!」


明石「しかし、カウンターと言えどもマウントを取られていては打撃の威力が出ない! 武蔵選手、構わず殴る、殴る、殴る!」


明石「ガードの空いた顔面に武蔵選手の拳が落とされる! だが、赤城選手はもうガードさえ固めない! 咆哮を上げながら拳を突き上げる!」


明石「マウントポジションの上下で凄まじい拳の応酬! 冷静に殴る武蔵と、猛獣のように吠えながらパンチを繰り出す赤城! 顔面の叩き合いです!」


明石「手数は同じでも、ダメージの差は一目瞭然! 武蔵選手にはほとんどダメージはなく、赤城選手の顔面はみるみる朱色に腫れ上がっていく!」


明石「もはや赤城選手の限界は時間の問題! しかし、赤城選手は攻撃の手を緩めません! ダメージにも構わず、効果の薄いパンチを繰り出す!」


明石「柔術の技でマウントを返そうという動きもありません! まるで赤城選手、自らを死地へと追い立てるような捨て身の猛攻です!」


大淀「……赤城さんにはもう、他に打つ手がないんだと思います。悪手だとわかっていても、あの体勢でパンチを出すしかないんです」


明石「打つ手がない? それはどういうことでしょうか」


大淀「武蔵さんの打撃が強力過ぎたんです。さっき、脇腹にフックを入れられたとき……多分、赤城さんは肋骨を折られたんです」


大淀「本来ならブリッジしてマウントを返したいのに、肋骨が折れてるせいで腰に力を入れられない。しかも、また同じ場所を殴られたら致命傷になる」


大淀「ボディと顔面を同時にガードすることはできませんから、守りにも入れない。だから赤城さんはあの体勢で攻めるしかないんです」


明石「な、なるほど。しかし、下からの打撃ではいくら打っても……」


大淀「ええ。腰を入れて打つことができませんから、クリーンヒットでも大した威力はありません。せいぜい、武蔵さんの気を逸らすので精一杯です」


大淀「赤城さんは諦めていないようですが、この状況から勝ちの目を引く可能性は、もう……」


明石「あっ、一際強烈なパンチが赤城選手の顎に入った! 雄叫びが途切れた! 同時に下からのラッシュも止まってしまった!」


明石「ここぞとばかりに武蔵が殴る! もはや赤城選手は無抵抗! 武蔵選手は完全に止めを刺しに掛かっています!」


明石「武蔵選手が更に身を乗り出して拳を振り上げた! 最後の一撃が振り下ろされ……!? いや、躱した! 赤城選手、まだ意識がある!」


大淀「まだ余力があるの!? あんなに打ち込まれたのに……!」


明石「空を切る拳がマットを揺るがした! すかさず赤城が反撃のパンチ……じゃない!? の、喉輪です! 武蔵の喉に指を食い込ませた!」


明石「単純な握力による首絞めです! これには武蔵選手も堪ったものではない! 離せとばかりに顔面へ拳を更に叩き込む! しかし全く離れない!」


明石「赤城選手の顔は既に血で真っ赤に染まっています! しかし、その表情だけはありありと見て取れます! 歯を食いしばる、鬼のような形相が!」


明石「とうとう武蔵選手の限界が先に来た! 最後に一発顔面に叩き込み、手を振りほどいて立ち上がる!」


明石「赤城選手も立ち上がった! 明らかに呼吸が荒い! 顔面からは多量の出血! もはや立っているのがやっとのように見えます!」


明石「対する武蔵選手に大きなダメージは見られません! 首には生々しい指の跡が残っていますが、呼吸も乱れず、スタミナは十分残している!」


明石「絶望的なダメージ差です! しかし、赤城選手は再び構える! 立ち技王者の名に賭けて、もう2度と敗北は許されない!」


明石「その表情にいつもの冷酷さはありません! まるで秘めたる凶暴さを露わにしたような形相! 満身創痍ながらも、赤城選手は未だ戦意高揚!」


明石「これに対し、武蔵選手は相変わらずステップを踏みながらのノーガード……いや、構えた! 赤城の闘志に応えるように、武蔵が構えました!」


明石「両手を上げつつも、ガードは固めない! これはボクシングの『ヒットマンスタイル』! これこそ武蔵選手の真骨頂なのか!?!」


大淀「……これ以上、勝負が長引くことはありません。次のコンタクトで決まる……!」


明石「武蔵選手が間合いを詰めた! それより早く赤城が踏み込んでいく! 速い! 一撃で決める気だ!」


明石「赤城が足を振り上げた! 伝家の宝刀、ハイキッ……き、決まったぁぁぁ! 武蔵選手、カウンターァァァ!」


明石「ハイキックの内側へ滑り込むような右ストレート一閃! 完璧に顎へ入った! 赤城選手、ぐらりと前のめりに倒れていく!」


明石「音を立ててマットへ沈んだ! 血だまりが広がっていく! 動かない! 動きません! 完全に失神しています!」


明石「ゴングが鳴りました、試合終了! 数々の強敵を血の海に沈めてきた、あの緋色の暴君がKO敗け! 自らの血の海に沈んでいきました!」


明石「まさか、まさかの武蔵選手、圧倒的勝利! 立ち技最強と言われた赤城に肘も、膝も、キックさえもろくに打たせず、完全封殺!」


明石「もはや疑いようもありません! 武蔵選手、優勝候補筆頭として、グランプリ制覇への道に大きな一歩を踏み出しました!」


大淀「……こんな展開になるとは思っても見ませんでした。あの赤城さんをほぼ完封して勝ちを収めるだなんて……」


明石「いやあ、予想をはるかに上回る強さでしたね。パワーとボクシングテクニックだけでなく、グラウンドの攻防までできるとは」


大淀「私も驚いています。タックルも、グラウンドの攻防も、一朝一夕で身に付くものではありません。一体、どれだけの鍛錬を積んだのか……」


明石「予想を覆す場面だらけの試合でしたが、やはり武蔵選手の一番の勝因は、最初のタックルを決めてテイクダウンを取ったことでしょうか?」


大淀「確かにタックルは凄かったです。タイミングも、足の取り方も完璧で、入り込むスピードも目を見張るものがありました」


大淀「ただ、あそこで赤城さんがタックルを切っていたとしても……どちらにしろ、赤城さんの敗北という結果は変わらなかったという気がします」


明石「それはその……それだけ、赤城選手と武蔵選手に実力の開きがあったと?」


大淀「負けたにせよ、赤城さんの強さが本物なのは間違いありません。強力な打撃に加え、今日の試合で柔術まで持っていることが明らかになりました」


大淀「彼女はムエタイとブラジリアン柔術を両方会得している、いわば隠れたトータルファイターだったわけです。それは誰一人知らなかったはずです」


大淀「当然、武蔵さんだって予想していなかった。その上で、それら全てをまとめて叩き潰して武蔵さんは勝ったんです」


大淀「赤城さんは強いです。だけど、武蔵さんはそれ以上に強い。それがどれほどのものか、まだ底が見えないくらいに……」


明石「仮に、赤城さんと武蔵さんが正面からのスタンド勝負という展開になっていたとしても……」


大淀「武蔵さんが勝っていたと思います。それほど、先ほどの武蔵さんからは絶対的な実力を感じました」


大淀「1回戦で長門さんの試合を観たとき、彼女を倒せる選手なんているのかって思いましたけど、武蔵さんならもしかすると……」


明石「武蔵選手の実力は、長門選手に匹敵していると思われますか?」


大淀「……わかりません。ここまでレベルが高いと、予想なんてできませんから」


大淀「それに、まだ2回戦です。ここからグランプリで何が起こるかわからない以上、あまり断定的な物言いはしないでおきます」


大淀「1つだけ確かなことは……武蔵さんはとてつもなく強い、ということです」


明石「……ありがとうございます。1試合目から、凄まじい死闘でした……」




試合後インタビュー:武蔵



―――見た限りでは完封勝利という印象でしたが、ご自身としては試合結果をどのように受け止められていますか?


武蔵「そうだな。赤城にやってやろうと思っていた大抵のことはうまく行った。当然の結果だと言ってしまってもいいだろう」


武蔵「ただ、本来ならばあのような試合結果になるほど、私と赤城に力の差はない。あいつの戦い方を、私が全て潰しに行ったというだけだ」


武蔵「真っ向からの打ち合いになれば、赤城ともいい勝負ができただろう。それでも私が勝つという結果は揺るがないがな」


―――武蔵選手は意図的に赤城選手との打撃勝負を避けた、ということでしょうか。


武蔵「そういう言われ方は心外だな。私が赤城との打ち合いを恐れたと思っているのか?」


武蔵「私は勝つために最適な選択をしただけだ。負けるわけにはいかない試合だったからな。ちなみに、これは扶桑から学んだ戦い方だ」


武蔵「今日の結果に文句があるなら、いつでも赤城との再戦を受けて立とう。そのときは、正面から打ち合ってやるとするか」


―――赤城選手に対して、何かコメントはありますか?


武蔵「あいつには気の毒なことをした。それだけだ」



試合後インタビュー:赤城


赤城「おのれぇぇぇ! あの女ぁ、この私にあのような醜態を晒させるとは! 今日という日の屈辱、骨身に刻んででも忘れんぞ!」


赤城「次に戦うときは、必ず武蔵を殺してやる! あの澄ました顔を粉々に踏み砕いてくれる! 二度と修理できないほど、徹底的にな!」


赤城「……貴様、何を見ている! 出て行け! 何なら貴様から殺してやろうか!」


(赤城選手の取材拒否につき、インタビュー中止)




明石「想像を絶する激闘から始まった2回戦! 続きまして、Aブロック第2試合を開始いたします!」


明石「これもまた何が起こるかわからない、異色のカード! 一体、どのような展開になるのか!」


大淀「片方の選手がまったく前例のないファイトスタイルですからね。本当にどうなることやら……」


明石「まずは彼女から登場していただきましょう! 赤コーナーより選手入場です!」




試合前インタビュー:扶桑


―――比叡選手に対する作戦などは何か立てられていますか?


扶桑「一応は……比叡さんみたいな戦い方をする選手のことは全く予想してなかったので、慌てて対策を考えました」


扶桑「具体的には言いませんけど、勝算はあります。ここで負けるわけには行きませんから」


―――比叡選手の毒身術がルールで認められたことに納得はされていますか?


扶桑「運営の方がそう判断されたなら、不満はありません。また、比叡さんを卑怯だと思う気持ちもありません」


扶桑「他の選手が勝つために色んな格闘技を学ぶのと同じように、比叡さんも勝つためにそういった能力を身に付けられたのだと思います」


扶桑「なら、その気持ちにやましいところはないはずです。だから、私も飽くまでルールに則って戦います」


―――この試合を勝ち抜いた後は武蔵選手との対戦が決定していますが、意識するところはありますか?


扶桑「今は何も考えていません。目の前の試合にだけ集中していたいので、比叡さんに勝ってから考えます」


扶桑「ただ……どんな人とも戦う覚悟はできています。この先で戦うことになる選手は、きっと地力では遥かに私を上回る方ばかりでしょう」


扶桑「だからって、負けるためにリングへ上がるようなことはしたくありません。誰が相手だって、私は全力で勝ちに行きます」


扶桑「そういうところは、比叡さんと私は似ているのかもしれませんね。それでも勝ちを譲るようなことはできませんけど」




扶桑:入場テーマ「Chthonic/Broken Jade」


https://www.youtube.com/watch?v=heF_NPJbv8Y



明石「大きな歓声に包まれて入場してきます! 穏やかな表情に秘める不屈の闘志! 彼女が今一度、リング上で奇跡を起こしにやってきた!」


明石「1回戦では天才合気道家、加賀選手に一本勝ち! 第一回グランプリ準優勝者が、中国4000年の妖術に挑む!」


明石「飽くなき勝利への執念は、迫り来る毒の瘴気を打ち破れるか!? ”不沈艦” 扶桑ォォォ!」


大淀「さて、扶桑さんは少々厄介な選手を相手にすることになってしまいましたね」


明石「周囲からの事前予想としては、扶桑選手の勝率は9割と出ています。大淀さんはどう思われますか?」


大淀「同じ意見ではあります。力量、精神性、戦術眼、全てにおいて優っているのは扶桑さんですから」


大淀「ただ、勝率がどうしても10割にはならないんですね。残りの1割、これが怖いところです」


明石「可能性の上では、扶桑選手の敗北も有り得ると……」


大淀「ええ。勝負に絶対はありませんので。また、結果にあるのが勝つか負けるかの二択しかない以上、勝率という数字はあまり意味がないんです」


大淀「扶桑さんはジャイアントキリングで名を挙げた選手です。相手の弱点や隙を冷静に観察し、幾度となく格上のファイターを倒してきました」


大淀「そして今や、扶桑さんこそが狙われるべきトップファイターです。何と言っても、第一回UKF無差別級グランプリの準優勝者ですから」


大淀「下克上を果たした結果、逆に足元を脅かされる立場になったわけです。扶桑さんを倒して名を挙げたいというファイターはごまんといるでしょう」


大淀「比叡さんもその中の1人です。元戦艦級王者の日向さんを倒し、扶桑さんをも倒したとなれば、比叡さんの名は格闘界に響き渡りますからね」


明石「ですが、扶桑さんはトップファイターが起こしがちな慢心や油断とは無縁なタイプですよね?」


大淀「もちろんです。どんな相手であろうと、扶桑さんは全力で戦う人です。精神的な隙が生じるようなことはないでしょう」


大淀「でもですね、それは比叡さんも同じなんです。トップファイターである扶桑さんに挑むなら、そこに慢心や油断が起こるはずもありません」


大淀「加賀さんにはわずかにですが慢心はあったと思います。しかし、比叡さんにそういうことはないでしょう」


大淀「彼女は自分が成り上がるために、扶桑さんに全身全霊で挑みます。勝つためならどんな手段でも使うと思います」


明石「……ありがとうございます。それでは続いて登場していただきましょう! 青コーナーより、選手入場です!」




試合前インタビュー:比叡


―――先程まで食事中だったとお聞きしましたが、どういったメニューだったんでしょうか。


比叡「えーっと、ヤクドクガエルのお刺身と、タランチュラの和え物と、ドリンクにブラックマンバの体液ですね」


比叡「どれもすっごく美味しかったですよ! 体調も良いし、コンディションは万全です!」


比叡「私のファイトスタイルに批判もあるみたいですけど、お姉さま方も勝ちは勝ちだって言ってくれましたから、扶桑さんにも絶対に勝ちます!」


―――グランプリに参加された金剛姉妹の中では唯一勝ち残っている比叡選手ですが、プレッシャーなどは感じられていますか?


比叡「プレッシャーというより、心地良い緊張感ですね。私にこんなに期待が掛かることなんて、今までありませんでしたから!」


比叡「金剛姉妹の名に賭けて、必ず優勝します! お姉さま方に褒めてもらえるよう、頑張りますから!」


―――対戦相手の扶桑選手ですが、作戦としてはどのようなオエッ、ウォエェェェ!


比叡「あれ、どうしたんですか青葉さん。急に倒れて……もしもし? 青葉さーん。寝てるんですか?」


比叡「うわっ、青葉さん2日酔いですか? 寝ゲロなんてしないでくださいよ。しかもガスマスク着けたまま。マスクの中、気持ち悪くないですか?」


比叡「……全然起きなくなっちゃった。ちょっと、スタッフさん。青葉さんを運んであげてくd」


(取材スタッフ全滅により、インタビュー中止)





比叡:入場テーマ「新機動戦記ガンダムW/思春期を殺した少年の翼」


https://www.youtube.com/watch?v=BGwU363ZAaI




明石「大きなブーイングに両手を上げて応えながら、堂々と入場して来ます! こんなブーイングはお笑い芸人時代に慣れ切ったと言わんばかりだ!」


明石「徒手格闘が絶対原則のUKFルール! しかし、中国4000年の歴史は無手でいながら武器を持つ手段を作り上げてしまった!」


明石「その武器とは、すなわち猛毒! 打たれ強さなど関係ない! 吸い込めば即、全身が毒に侵され、時間と共に命を削っていく!」


明石「笑いを取る気など一切ない! 反則スレスレの毒身術にて、金剛姉妹の最終兵器がグランプリ制覇を狙う! ”蛇蝎の瘴姫” 比叡ィィィ!」


大淀「……あれは本当に比叡さんでいいんですか? 宇宙服みたいなのを着てて、誰だかわからないんですけど」


明石「比叡さんは常時全身から毒を垂れ流しているので、運営側の処置として、観覧の方々の安全を図るために防護服を着用しての入場になりました」


大淀「はあ……防護服の用途が逆ですよね。普通は外側からの脅威を防ぐために着るのに、着てる比叡さんが脅威そのものですから」


明石「何でも、1回戦のときより毒性が強くなっているそうですよ。もう一般に普及しているレベルのガスマスクじゃ防ぎ切れないそうです」


大淀「……まさか防毒フィルターを溶かしてしまうわけじゃありませんよね」


明石「そのまさかです。取材に行ったスタッフも全滅ですよ。ガスマスクがものの3分で使い物にならなくなったそうです」


明石「安全のため、リングサイドにいる関係者やセコンド陣、レフェリーは軍から取り寄せた特殊部隊仕様のガスマスクを着用しています」


明石「そうでもしないとみんな嘔吐と吐血で昏倒してしまうので……試合を観る側も命がけですよ」


大淀「もし第三回UKFグランプリがあるなら、ルールに『いかなる方法でも毒物の使用を禁ずる』と明記しないといけませんね」


明石「一応、明らかになった比叡選手のファイトスタイルについて解説しておいてもらえますか?」


大淀「ああ、はい。比叡さんが中国の修行で身に付けて来たのは『毒身術』という、中国拳法における毒手の無差別攻撃バージョンです」


大淀「長期間、毒物と薬湯を交互に摂取し続けて内蔵を毒袋に変化させ、体内に溜め込んだ毒を汗腺から霧状に放出するという攻撃方法ですね」


大淀「相手は比叡さんの近くで呼吸しただけで毒が回るという、大変厄介な代物ですが、一番恐ろしいのはもう1つの特徴です」


明石「例の『アドレナリンに反応して体内の毒性が強くなる』というやつですね」


大淀「ええ。比叡さんが興奮すればより強い毒を対戦者が吸引することになり、対戦者が興奮すれば、毒の回りが更に強くなるというものです」


大淀「アドレナリンを放出しなければならない格闘試合には最適な毒術です。比叡さんに負けた日向さんは本当に運が悪かったですね」


大淀「しかし、毒性が強くなっているということは……それだけ比叡さんがやる気満々だということでしょうね」


明石「きっと、試合前から興奮しっぱなしなんでしょう。青葉さんをインタビュー中に昏倒させるくらいですし」


大淀「しかも控室では世界各地の猛毒生物をたらふく食べていたそうじゃないですか。溜め込まれた体内の毒が、アドレナリンで更に熟成されて……」


明石「……これって格闘試合ですよね?」


大淀「ルール上で認められたからには、そう捉えるしかありませんよ。扶桑さんは実に厄介な相手と戦うことになってしまいましたね」


大淀「もはや相手は格闘家というより、毒を持った異生物です。普段の戦い方をしても勝ち目がないかもしれません」


明石「でも、いくら毒という武器を持つ比叡選手だって、棒立ちのまま扶桑さんに毒が回るのを待つわけには行きませんよね」


明石「そこは比叡選手も何かしら戦い方を考えていると思いますが、それはどういうものだと思われますか?」


大淀「まず断言できるのは、日向戦で見せた蟷螂拳の構えは単なるブラフでしょう。奇をてらった動きで時間を稼いだだけと見て間違いありません」


大淀「また、走って逃げ回れるほどリングは広くありません。基本的な格闘術もあまり成長していないとすると、比叡さんは『亀』になるでしょうね」


明石「亀、というのはつまり、徹底的に防御を固めてくると……」


大淀「おそらくは。時間を稼げばそれだけ扶桑さんに毒が回って、勝手に倒れてくれるはずですので」


大淀「となると扶桑さんの取れる手段は1つしかありません。速攻、即ち毒が回る前に比叡さんを倒す。これしか手はないでしょう」


明石「でも、比叡さんは防御を固めると考えられるわけですよね。ならば速攻という手段は難しいのでは?」


大淀「もちろんそうなんですけど、そうするしかないんです。毒で倒れるのが数分後か、数十秒後なのかすら、現段階では判断できませんから」


大淀「難しいところです。時間を掛けて戦うことはできないし、下手にラッシュで攻めると息が切れて、それだけ多く毒を吸い込んでしまいます」


大淀「だから理想は一撃で決めることでしょう。果たして、防御を固める比叡さんに対し、それを可能とする技を扶桑さんが持っているかどうか……」


明石「扶桑選手はそういうファイトスタイルではないですしね。誘い受けタイプというか」


大淀「ですね。相手が仕掛けてくるのを待って、的確に対処するのが扶桑さん本来の戦い方ですが、比叡さんにそれはできないでしょう」


大淀「一体、どういう方向に勝負が転がるのか……結局は、扶桑さんが考えた対応策次第ということになりますね」


明石「……ありがとうございます。今、比叡選手がリングインしました! リング中央でのルール確認までは防護服を着用したまま行われます!」


明石「ここで告知させていただきますが、比叡選手の試合に限り、若干のルール修正が入ります!」


明石「UKFルールでは通常、試合を意図的に膠着させる行為を選手が取った場合、試合を一時中断した後に、対象となる選手に警告が出されます!」


明石「しかし、比叡選手の特性を考えると、試合中断という措置自体が比叡選手にとって有利になってしまいます!」


明石「そのため、比叡選手の試合では、膠着が起こっても警告等は行われず、そのまま試合を続行します!」


明石「あまりに著しい不正などが見られた場合のみ、試合を中断することはありますが、原則として比叡戦において試合中断は極力行いません!」


明石「これも試合の公正を期すためのルール修正ですので、どうかご理解の程をお願いします!」


大淀「このルール変更は扶桑さんにとって有利ですね。試合時間は長引けば長引くほど、比叡さんの思う壺でしょうから」


大淀「試合が膠着していても、その間に毒は充満し続けているわけですし、この措置は当然と言うべきでしょう」


明石「さて、両選手がリング中央へ! 扶桑選手は至って落ち着いた様子! 比叡選手は防護服により、その表情は全く窺い知ることができません!」


明石「リング周囲にはガスマスク着用の関係者がずらりと並んだ異様な光景! まるで化学兵器の実験にでも立ち会っているかのようです!」


大淀「嫌な例えですね……確かに今の比叡さんは一種の生物兵器みたいなものですけど」


明石「さあ、両者コーナーに戻ります! 比叡選手が防護服を脱ぎ捨てる! 露わになった表情は闘志満々! つまり、毒もばっちり熟成している!」


明石「正統派ファイター扶桑と、もはや格闘家と呼んでいいのかどうかもわからない比叡選手! この戦い、一体何が起こるのか!」


明石「ゴングが鳴りました、試合開始です! 両者、速くも遅くもない足取りでリング中央に出て行く!」


明石「比叡選手はやはり蟷螂拳の構えは取りません! 重心を低く取り、両腕を盾のようにして顔前をガードした徹底防御の構え!」


明石「大淀さんの予想通り、比叡選手は毒が回る時間を稼ぐつもりです! 対する扶桑選手、いつものように空手の構えを取った!」


明石「ゆっくりと間合いを詰めます! 打撃の射程圏に入った! そして……攻めない! 攻めません!」


明石「じりじりとすり足で間合いを詰めてはいますが、攻めていかない! 両者、近距離で対峙したまま、動きがありません!」


明石「こうしている間にも、扶桑選手は呼吸と共に毒を吸い続けているはず! 扶桑選手、一体何を考える!?」


大淀「これは……何でしょうね。扶桑さんはいつも通りに戦おうとしているんでしょうか。だとしたら、非常に危険ですよ」


明石「またわずかに扶桑選手が間合いを詰める! 比叡選手はじわりと後退! 両者、まったく動きがありません!」


明石「動きのないまま、試合時間は30秒が経過! 日向戦より毒性が強くなっていることを考えると、そろそろ身体に影響が出る頃です!」


明石「時間が経てば経つほど毒は回っていく一方! しかし扶桑選手、仕掛けない! ただ間合いだけを詰めていきます!」


明石「比叡選手も冒険はしません! 前に出る扶桑選手に合わせて後ろに下がる! やはり毒が回るのをただ待っている!」


明石「試合時間は1分を経過! 心なしか扶桑選手の顔色がどす黒くなってきました! しかし、表情だけは冷静そのもの!」


明石「また1歩間合いを詰める! 比叡は下がる! 両者仕掛けない! 完全な膠着状態です! 大淀さん、扶桑選手は何を狙っているんでしょう?」


大淀「……わかるのは、扶桑さんがゆっくりと呼吸をしていて、毒の吸引をできるだけ抑えようとしていることだけです」


大淀「試合を長引かせて扶桑さんが得することは1つもないはずです。一体、どういう考えで仕掛けずにいるのか……」


明石「あっ、扶桑選手がわずかに咳込んだ! 唇の端から血泡が漏れています! 明らかに比叡選手の毒が内蔵まで回っている!」


明石「もはや扶桑選手が昏倒するまで、幾ばくかの時間しかありません! ここで仕掛けなければ、扶桑選手の敗北は確定的です!」


明石「しかしながら、扶桑選手に焦った様子がまったくない! また1歩間合いを詰めました! やはり比叡選手は後退するだけ!」


明石「とうとうコーナー際まで後退しました! 比叡選手にプレッシャーを掛けるように、扶桑選手も詰め寄っていく! 完全に拳が届く圏内です!」


明石「だが攻めない! 間合いすら詰めなくなりました! 扶桑選手、コーナに追い込んだ比叡を前に1歩も動かない! また口から血が溢れました!」


明石「扶桑選手の行動不能まで、長く見積もっても数十秒程度しかありません! それなのに動かない! なぜ動かない!?」


大淀「……ああ、そっか。そういう狙いで……」


明石「極限に張り詰めた時間が過ぎていく! 扶桑選手、咳き込みながら吐血! マットに血が飛び散った! しかし立ち姿だけは揺るがない!」


明石「この状況は一体何なのか! 扶桑選手はただ時が過ぎるのを待っているのでしょうか!? その先に待つのは何が……あっ、仕掛けた!?」


明石「仕掛けたのは比叡選手! 重圧に耐えかねたかのようにジャブを打っ……か、カウンターぁぁぁ!?」


明石「ひ、肘です! 扶桑選手、ジャブに対し肘でカウンター! 狙ったのは比叡選手の拳そのもの! 拳を肘で砕きました!」


明石「指が何本か骨折しています! これは凄まじい激痛だ! 比叡選手の防御が崩れる! そこに扶桑、一気に飛び込んだ!」


明石「き……決まったぁぁぁ! 跳びつき三角絞めです! 扶桑選手、必殺の三角絞め! 砕いた拳を捉えて、一息に技を掛けました!」


明石「比叡選手に三角絞めを振りほどくほどのパワーはない! 今度は比叡選手の顔色がみるみる変わっていく!」


明石「落ちた! 落ちました! 持ちネタの悲鳴を上げる暇もありません! 試合終了のゴングです! 勝者、扶桑選手! 扶桑選手です!」


明石「試合時間は1分半といったところですが、恐ろしく長く感じる時間でした! しかし、最後は扶桑選手、一気に決めてみせました!」


明石「中国4000年の妖術、ここに敗北! 猛毒を持ってしても、奇跡の不沈艦を沈めるには至りませんでした!」


大淀「さすが扶桑さん、と言ったところですね。こんな手段で勝ちに来るとは思ってもみませんでした」


明石「大淀さんは途中で何かに気付かれた素振りを見せていらっしゃいましたが、扶桑さんは具体的にどういう作戦だったんでしょう?」


大淀「これはまあ、そうですね。言うなれば、精神力のゴリ押しです。根性と度胸で比叡さんを寄り切ったようなものです」


大淀「扶桑さんはずっと構えを取ったまま、比叡さんに間合いを詰め続けていたでしょう? あれはプレッシャーを掛けるのが狙いだったんです」


大淀「比叡さんの立場になってみないとわかりにくいことでしょうけど、相手が今にも仕掛けてきそうなのに何もしない、ってのはすごく怖いんです」


大淀「元々比叡さんは精神的にあまり強くない選手ですから、扶桑さんが何もせずに近寄ってくる、という圧力に耐えかねてしまったんです」


明石「なるほど、まるで表情を変えず迫ってくる扶桑選手のプレッシャーに負けて、自分から手を出してしまったと……」


大淀「ええ。比叡さんはきっと、扶桑さんが一気に攻めてくると予想してたんでしょう。それなのに、血を吐くほど毒が回ってきても何もしてこない」


大淀「その姿が比叡さんにはさぞかし不気味に見えたことでしょう。まるで扶桑さんこそ、何かを待ち続けているように思えて」


大淀「初めの内は毒身術への信頼から来る自信と冷静さを維持していた比叡さんも、プレッシャーによってそれらを徐々に失っていったんです」


大淀「最終的に冷静さを失って、比叡さんは不安から逃れるために手を出してしまいました。それこそ扶桑さんの待っていた瞬間だったんですけどね」


明石「非常に正確なカウンターでしたね。左ジャブが来ることも読んでいたんでしょうか?」


大淀「おそらくそうでしょう。恐怖に負けて比叡さんが仕掛けてくるとすれば、反撃される恐れが少ない左ジャブを打つ可能性が一番高いですから」


大淀「そういうわけで、比叡さんの敗因は精神面です。もっと冷静さを保てていれば、試合の結果は逆になっていたでしょう」


明石「それに比べて、扶桑選手のメンタルの強さは驚異的ですね。普通の選手なら、同じ作戦を取っても途中で手を出してしまいそうなものです」


大淀「ええ、しかも最後に技を決めた時点で、扶桑さんには全身に毒が回っている状態ですから、立っていることさえ辛かったはずです」


大淀「そんな状態から、一瞬とは言えあれほどの動きを可能にする精神力は驚嘆に値します。同じファイターとして頭が下がる戦いぶりでした」


明石「ありがとうございます。リングサイドの皆様、ガスマスクをお取りください! 比叡選手という毒ガスの発生源は既に退場しました!」


明石「どうなることかと思われたこの試合、勝ったのはやはり正統派ファイター、扶桑! 皆様、今一度拍手をお願いします!」




試合後インタビュー:扶桑


―――試合の展開としては、扶桑選手の読み通りに進んだのでしょうか。


扶桑「おおむねはそうです。毒の回りが予想以上に早かったことだけが計算外でしたね」


扶桑「最後に技を決めたときは、苦しくてほとんど意識がありませんでした。身体が動いてくれたのは奇跡に近いです。日頃の練習の賜物ですね」


―――なぜこういった作戦を取られたんですか?


扶桑「危険だとは思ったんですけど、他の案が思いつかなかったんです。比叡さんを確実に倒すにはこれ以外にないんじゃないかって」


扶桑「私って戦い方が上手いってよく言ってもらえるんですけど、本当はそうじゃないんです。むしろ、戦い方がすごく下手なんです」


扶桑「色々用意してても、いつも試合ではうまく行かなくて、結局相手の技を一通り受けてしまうんです。ほら、私って毎回追い込まれているでしょ?」


扶桑「今回だってそうです。1分を過ぎた辺りからは手足も痺れて、のたうち回りたいくらいに苦しくて……でも、負けたくなかったんです」


扶桑「だから必死に耐えて、比叡さんが仕掛けてきた瞬間にも動くことができました。あと10秒遅かったら、さすがに意識が飛んでいたと思います」


扶桑「正直、負けててもおかしくなかったギリギリの勝利でしたね。私はいつもそんな感じですけど」


扶桑「危なっかしい試合続きですが、狙っているのは優勝です。どうか皆さん、応援してくれると嬉しいです」


―――比叡選手に何かコメントはありますか?


扶桑「勝ったから言うわけじゃないんですけど……ああいう奇妙な術を身に付けるより、もっと基礎的な練習をされたほうが強くなれると思います」


扶桑「比叡さんのことはお笑い芸人をされていたときから好きでしたので、格闘家に転向されてからもずっと応援していました」


扶桑「彼女には頑張ってほしいと思っています。一生懸命練習すればきっと強くなれますから、そのときにまた、お相手させていただきたいです」




試合後インタビュー:比叡


―――対戦されてみて、扶桑選手はどうでしたか?


比叡「思ってたよりずっと強くて、怖かったです。もう倒れてもおかしくないくらい毒が回ってるはずなのに、怖い顔でグングン近付いてきて……」


比叡「最後は不安で軽いパニックになっちゃって、思わず手が出ちゃいました。あのとき動かなかったら私の勝ちだったと思うと……うう、悔しいです」


比叡「お姉さま方に顔向けができません。優勝してくるって約束してきちゃったのに……毒もなくなったし、これからどうしよう……」


―――入渠で毒が全て消えてしまったというのは本当ですか?


比叡「そうなんです、体に馴染んでた毒が全部浄化されちゃって……もし毒身術を使うなら、また一から修行のやり直しです」


比叡「修行し直してもいいですけど、もう戦い方が知れ渡っちゃいましたから、今後は対策されて通用しないってお姉さまから言われてるんです」


比叡「お笑い界に戻れって声もありますけど……私は格闘家として活躍したいので、やっぱり基礎から練習し直します! お姉さま方と一緒に!」


比叡「次はちゃんとしたテクニックを身に付けてUKFに戻ってきます! そのときは、またよろしくお願いします!」


―――さっきから何を食べてらっしゃるんですか?


比叡「あ、これですか? 自宅で作ってきたカレーです。大会中は毒しか食べられないから、優勝した後でお祝いに食べようと思ってて」


比叡「でも負けちゃったので、仕方ないから今食べてます。いやーやっぱりカレーは美味しいですね!」


―――そのカレーに毒は入れてないんですか?


比叡「あはは、入れてるわけないじゃないですか! そんな間抜けなことしませんよ。これは普通の食材を使ってます!」


―――でも、比叡選手は今までずっと全身から毒を放出していたんですよね。


比叡「そうですね! どこに行くにも厚着して手袋しないと毒が周りに散っちゃうので大変でした! もちろん、自宅では脱いでましたけど!」


―――つまり、料理は素手で行なったということですか?


比叡「そりゃそうですよ。手袋着けて料理なんてやりにくいじゃないですか! もちろん手は洗いましたよ!」


比叡「……あれ? その場合ってどうなるんだっけ。手からも毒が出てるから、食材に毒が染み込んで、カレーの中に毒が混入して……」


比叡「えっ、嘘でしょ。なんか吐きそう。猛烈に気分が悪くなってき……ヒッ、ヒエー!」


(比叡選手の体調不良により、インタビュー中止)




明石「……さて、これよりBブロック1回戦となるわけですが……おそらく、もっとも注目度の高い試合なのではないでしょうか」


大淀「UKFの威信が掛かっていると言っても過言ではない一戦です。壮絶な試合になるのは明らかですからね」


明石「まずは赤コーナーより選手入場! ドイツの怪物に挑むのは、UKFの超新星ファイターだ!」




試合前インタビュー:陸奥


―――ビスマルク選手をどう感じていますか?


陸奥「……とても怖い人。あんなに惨たらしい戦い方をする相手と戦うなんて、考えたこともなかったわ」


陸奥「試合前から、ずっと震えが止まらないの。私も龍田さんみたいになるんじゃないかって、不安でたまらないわ」


―――勝つ自信はありますか?


陸奥「……ある、と言えば嘘になるわね。ずっとイメージトレーニングをしてるんだけど、私の勝つビジョンが全く見えてこないの」


陸奥「ビスマルクさんは底なしに強い。全ての面で私を凌駕してるんじゃないかって思うくらいに。きっと、何をしたって勝てっこないわ」


―――それはつまり、棄権することを検討されているということですか?


陸奥「……そうね、棄権も本気で考えてたわ。さっきまではね」


陸奥「でも、気付いたの。ビスマルクさんは強い。でも、最強の艦娘と言われる長門姉さんはそれより更に強いはず」


陸奥「私の目標は長門姉さんを超えること。なら、ビスマルクさんは私の通過点でしかない。それなのに戦いもせず負けを認めるなんて、馬鹿らしいわ」


陸奥「怖いし、勝算もないけど、勝つためにリングへ上がるわ。ここで躓いてたら、私は一生姉さんを超えられないと思うから」


陸奥「それにね、私がビスマルクさんに勝てないっていうのは、今この瞬間の話。リングに上るときの私は、きっと今の私じゃなくなってるわ」


陸奥「確かに今は怖いって気持ちでいっぱいよ。でも、もう少しなの。もう少しでビスマルクさんに挑む覚悟が決まる。覚悟さえ決まれば勝算はあるわ」


陸奥「この恐怖を乗り越えて、必ずビスマルクさんに勝つ。姉さんが3回戦で待っていてくれるもの、絶対に負けられないわよね」




陸奥:入場テーマ「Dimmu Borgir/Progenies of The Great Apocalypse」


https://www.youtube.com/watch?v=40wRv4yjres




明石「将来のUKFチャンピオン候補筆頭! 太気拳の不知火選手に辛勝したのも束の間、再び大きな受難が舞い降りました!」


明石「立ちはだかるのはドイツから来た正体不明の怪物! この障壁を乗り越えずして、絶対王者である実姉、長門選手を超えることは不可能!」


明石「怪物だろうと何であろうと、この私の進撃を止めさせはしない! ”ジャガーノート” 陸奥ゥゥゥ!」


大淀「……いい顔をされてますね。どうにか覚悟を決めることができたみたいです」


明石「強張りのない、透き通った表情ですね。今までの陸奥選手とは何か違う雰囲気を感じますが……」


大淀「ビスマルクさんに挑むという恐怖に打ち勝ったことで、内面に何かしらの変化があったのだと思います」


大淀「目に指を突っ込まれても微笑を崩さず、こちらの手足を食い千切るような相手と戦うとなれば、誰だってとてつもない恐怖を抱くでしょう」


大淀「陸奥さんは精神的に未熟なところがあったので、そういう恐怖は人一倍感じられていたと思います。ですが、今の陸奥さんにそれはありません」


大淀「あのビスマルクさんと対峙するなら、気持ちで負けないことが大前提になるでしょう。その条件は満たされたと判断しても良さそうです」


明石「なら、勝算は間違いなくあるわけですね。陸奥さんはどういう風に戦われると予想されますでしょうか?」


大淀「陸奥さんはトータルファイターです。打撃、組み合い、グラウンド勝負、どれを取っても一流ですから、選択肢は豊富にあります」


大淀「ですが、やはりレスリングの技を中心に使うんじゃないでしょうか。自分が最も得意で、なおかつビスマルクさんの動きを制御できますから」


明石「ということは、グラウンド勝負に持ち込むのではないかと?」


大淀「そうです。トップポジションを維持していれば、不意を突かれない限り噛み付きをやられることはまずないでしょう」


大淀「そのためにはテイクダウンを取る必要がありますが、私としてはその手段として『手四つ』の体勢に持ち込むことをおすすめしたいですね」


明石「手四つと言うと、プロレスなどでよく見られる、互いに両手を掴み合った状態ですね。そこに陸奥選手の勝機があると?」


大淀「ええ。ビスマルクさんの一番恐ろしい武器は噛み付きです。受ければ致命傷を負いかねませんから、これを確実に封じなくてはいけません」


大淀「噛み付きには大きな欠点があります。動き回る相手には使えず、組み伏せるなり抑え込むなりして動きを止めないと使えないということです」


大淀「両手を掴み合えば、レスリングの技術とパワーを併せ持つ陸奥さんが動きの主導権を握れます。また、噛み付いて来たら頭突きで迎撃できます」


大淀「陸奥さんなら、その体勢からテイクダウンを取ることもできます。そのままグラウンドに持ち込んで、関節技を決めるのが一番確実でしょう」


明石「陸奥選手は打撃も優れていますが、大淀さんとしては打撃はおすすめできないと考えられていますか?」


大淀「……ビスマルクさんのもう1つの武器は、どんなダメージを受けても全く怯まないというところです」


大淀「あれは打たれ強さとは別次元のものです。きっと、彼女はパンチで顔面を砕かれても平然と打ち返して来るでしょう」


大淀「ダメージに怯まない相手との打撃戦は非常に危険です。陸奥さんもそれは理解しているところではないでしょうか」


大淀「とにかく、陸奥さんには慎重に、冷静な試合運びをしてほしいですね。冷静でさえあれば、きっと彼女が勝ちます」


明石「ありがとうございます。さて、それでは青コーナーより選手入場! UKF史上最凶最悪のファイターの登場です!」




試合前インタビュー:ビスマルク


―――陸奥選手との対戦を前にして、今はどういうお気持ちですか?


ビスマルク「すっごく楽しみ! あの子って、最強って言われてる長門さんの妹なんでしょ? だったら、同じくらい強いに決まってるわよね!」


ビスマルク「陸奥さんにはとにかく遠慮せず向かってきてもらいたいわ! 殺してやるくらいの勢いで私のことをムチャクチャにしてほしいの!」


ビスマルク「彼女は龍田さんよりパワーがあるから、そういう攻め方をしてほしいわね! 抵抗する私を力づくで犯しまくるような、そんな戦い方よ!」


―――ビスマルク選手は痛めつけられるのがお好きなんですか?


ビスマルク「うーん、ちょっと語弊があるわね。別にただ痛いのは好きじゃないの。自分で爪を剥がしたときも、あんまり気持ちよくなかったし」


ビスマルク「例えば、相手が私を殴ろうとしてくるでしょ? 私はそれから逃げるの。でも、その人はすごく強くて、どうやっても全然逃げられないの」


ビスマルク「結局捕まっちゃって、私は頭が砕けて脳みそが溢れるまで殴られ続けるの。そういうね、無理やりされるのが大好きなのよ!」


ビスマルク「だから、陸奥さんには私を目一杯痛めつけて欲しいわ! そのために私、頑張って戦うわよ!」


―――それは試合の過程こそが大事で、勝敗にはあまり頓着されないということでしょうか?


ビスマルク「そういうわけにも行かないのよ。上の人たちに全試合必ず勝てって言われてるから、試合にはちゃんと勝たせてもらうわ」


ビスマルク「それに、痛めつけられた後は、どうせ陸奥さんのことを食べちゃうもの。だから結局は私が勝つと思うわ」


―――痛めつけられた後だと動けなくなるのでは?


ビスマルク「なんで? 痛めつけられるって言っても、別に殺されるまでしてもらうわけじゃないのよ?」


ビスマルク「つまり死んではないから、動けるのは当たり前でしょ? 本当は殺されるまでやってほしいんだけどね!」


ビスマルク「ああっ、もう興奮してきちゃった! すっごく濡れてる……試合前にショーツ、履き替えて行かなきゃ!」


(通訳は呂-500さんが泣いて固辞したため、伊8さんにご協力していただきました)




ビスマルク:入場テーマ「SAW/Hello Zepp」


https://www.youtube.com/watch?v=vhSHXGM7kgE




明石「1回戦ではUKF最凶とまで呼ばれた龍田選手を凶悪さで圧倒! 第三帝国ナチス・ドイツはとんでもない怪物をUKFに送り込んで来ました!」


明石「こいつにはあらゆる常識が通用しない! 目を潰されようと、骨を折られようと揺るがぬ微笑! その上、格闘テクニックも超一流!」


明石「捕まれば最後、猛獣のような捕食攻撃の餌食となる! そのおぞましい戦いぶりは、まさしく人喰い鬼!」


明石「狂気のジャーマンファイターが再びUKFのリングを戦慄させる! ”ベルリンの人喰い鬼” ビスマルクゥゥゥ!」


大淀「さて、大問題児の登場ですね。UKF側としての意見を述べるなら、彼女のような選手にこれ以上の勝ち抜きを許すわけには行きません」


明石「まったくです。えーここで、ビスマルク選手の素性に関して、運営側から2つの情報が入ってきております」


大淀「ビスマルクさんの情報? 彼女は素性について一切非公開となっていましたが、何かわかったんですか?」


明石「はい、少しだけ。まずはドイツに派遣された運営の情報員が軍関係者から聞き出した、匿名のタレコミです」


明石「どうもビスマルクさんはナチス親衛隊に直接所属しているのではなく、親衛隊の管轄となっている研究機関が所持している艦娘だそうです」


大淀「研究機関って……何の研究をしているところなんですか?」


明石「それはドイツ軍の機密らしくて、さすがに教えてはもらえませんでした。ビスマルクさんは、その研究機関の『実験体』だとか」


大淀「……実験体?」


明石「ええ。対深海棲艦用に特別な訓練を施されているそうで、ビスマルクさんは訓練の一環としてフェアバーン・システムを学んでいたようです」


大淀「フェアバーン・システム……世界中の軍で最も普及している軍隊格闘術ですね。龍田戦の動きから予想はしていましたが、やっぱりそうでしたか」


明石「ただですね、ビスマルクさんは実験体ですが、既に『失敗作』の烙印を押されているらしいんですよ」


大淀「……まあ、言動を見る限り成功ではなさそうですね。やはり精神面の問題で?」


明石「いえ、精神面は成功らしいんです。元々、ああいう風になるように教育を受けていたそうで……」


大淀「あれが成功って……じゃあ、何が失敗なんです?」


明石「実地試験の結果によるものだそうです。深海棲艦との戦闘に僚艦付きで出撃させたところ……敵だけでなく、味方も皆殺しにしたとかで」


大淀「ああ……それくらいはやりそうですね、彼女は」


明石「取材でわかったのはそれくらいです。ビスマルクさん自体が軍の機密扱いらしく、ここまでしか調査できませんでした」


大淀「そうですか……もう1つの情報はなんです?」


明石「これは運営がドイツに直接問い合わせた……というか、ドイツ軍部へビスマルク選手に対する苦情を入れたときに言われたことなんです」


明石「ドイツ側は運営からの苦情、質問には一切答えませんでした。ただ1つだけ……『ビスマルクが敗北したら、修理は結構』と」


大淀「……は?」


明石「戦艦級だから大破した場合の修理費用は結構なものでしょう、だから負けた場合は入渠させず、そちらで適当に解体してくれ……って」


大淀「そんな、国の威信を背負わせて送り出した大事な艦娘を使い捨てるような……」


明石「つまり、そういうことじゃないですか? どうせ失敗作だから、負けるようなら、もういらないって……」


大淀「……そのことをビスマルクさんは知っているんでしょうか」


明石「ビスマルク選手は取材でも軍上層部からの命令でUKFに参加している、ということを口にしているので……知ってる可能性はゼロではないです」


大淀「それは……どうコメントしたらいいのか。使い捨てられることがわかっていて戦っていると?」


明石「どうなんでしょうね……そもそも、ビスマルク選手自体、まともな物の考え方をしているとは思えない艦娘ですし」


大淀「……もし、ビスマルクさんが自分の境遇を理解しているとするなら……彼女は、本当の意味で命を賭けて戦っていることになります」


大淀「自分の身を顧みないファイターほど恐ろしいものはありません。それほどの覚悟でリングに上がる選手は、UKFにもそうはいないでしょう」


大淀「もしかしたら……ビスマルクさんは、私たちが目の当たりにしているものより、更にとてつもない怪物なのかもしれません」


明石「……何やら雲行きが怪しくなってきましたが、ついに両選手がリングインします! 陸奥選手とビスマルク選手が向かい合う!」


明石「ビスマルク選手は相変わらずの微笑! これに応えるように、陸奥選手も静かに笑う! その笑顔が意味するのは余裕か、それとも覚悟か!」


明石「普段は熱気に包まれている会場に異様な静寂と緊張が舞い降りています! 誰もが知っています、今から始まるのは、尋常な試合ではないと!」


明石「両者がコーナーに戻る! ビスマルクはやはり笑っている! 陸奥選手は既に笑みを消し、闘志を燃やした覚悟の表情!」


明石「超新星ファイター、陸奥はベルリンの人喰い鬼を超えて行けるのか! それとも、文字通り人喰い鬼の狂気に喰らい尽くされてしまうのか!」


明石「再び地獄の門は開かれる! ゴングが鳴りました、試合開始です!」




※注意事項

・一部に過激な暴力表現、グロテスクな描写を含みます。予めご了承ください。

・特定のキャラクター、及び国家、人種、格闘技を貶める意図がないことをご理解ください。

・あなたの嫁が顔面を割ったり割られたり、あるいはもっと酷いことになる恐れがあります。ご注意ください。

・一部に著しいキャラクター崩壊が見受けられます。ご容赦ください。




明石「まずはビスマルク選手が颯爽とコーナーから飛び出した! ファイティングポーズを取り、陸奥選手を虎視眈々と待ち構える!」


明石「対する陸奥選手、ガードは上げません! 重心を低く、両腕を大きく広げました! キャッチ・アズ・キャッチ・キャンスタイルです!」


明石「不知火選手を破ったレスリングの構え! 陸奥選手は打撃に付き合うつもりはありません、タックルでテイクダウンを狙う気だ!」


大淀「ビスマルクさんがストライカーとして優れていることは龍田戦で既に判明済みです。やはり、打撃は避けたほうが賢明でしょうね」


大淀「このまま一気にタックルで倒してもいいし、組み合いも陸奥さんの土俵です。ビスマルクさんはこれにどう対応してくるか……」


明石「さあ、陸奥選手がじりじりと詰め寄る! タックルの射程圏に入れば、即組み付いてやろうと言わんばかりの前傾姿勢!」


明石「ビスマルク選手はタックルを警戒してか、やや後退! どうやら、あまり組み合いはしたくない様子!」


明石「陸奥選手は迷いなく間合いを詰めに行きます! ビスマルクはそれを嫌って距離を取る! 先の扶桑VS比叡戦と似た展開になってきました!」


明石「ここで陸奥選手が大きく踏み込んだ! タックルへ行くか!? いや、ビスマルクはバックステップで退避! やはり組み合いを嫌っている!」


明石「しかし、ビスマルク選手は少々後退し過ぎました! 気が付けばコーナー際に追い詰められています! もはや逃げ場がない!」


明石「迫り来る陸奥選手に、後退する場はどこにもありません! どうするビスマルク! ここでタックルの餌食となるのか!」


大淀「……まずい展開かもしれません。ここまではビスマルクさんの計算通りです」


明石「はい? 計算って……コーナーに追い込まれることが作戦だったってことですか?」


大淀「追い込まれてるわけじゃないんです。タックルっていうのは、接触と同時に相手の後ろに手を回さないと、テイクダウンは取れません」


大淀「ビスマルクさんはコーナー際で、フェンスに半ば背中を預けています。あれでは後ろに手が回せないから、タックルしても意味が無いんです」


明石「あっ……」


大淀「本当なら、陸奥さんはもっと早いタイミングでタックルに行きたかったんです。ただ、ビスマルクさんの距離の取り方が絶妙過ぎました」


大淀「おそらく、既にタックルの射程を読まれています。その距離から上手く逃れて、ビスマルクさんは自らコーナー際に身を置いています」


大淀「だからこの状況は陸奥さんがビスマルクさんを追い込んだのではなく、ビスマルクさんが陸奥さんをコーナー際に誘い込んだんです」


明石「つまり、そこからビスマルク選手が狙っているのは……」


大淀「ええ。どうやらビスマルクさんは、スタンド勝負をご所望のようです」


明石「事前予想で、ビスマルク選手との打撃戦は危険だとおっしゃられていましたが……」


大淀「もちろん危険です。ですが、状況としては互角ですよ。陸奥さんは立ち技も得意ですから」


大淀「その上、相手は打撃を避けるスペースのないコーナー際です。地の理ではビスマルクさんのほうが不利と言えるでしょう」


大淀「フェンスに頭を押さえつけて殴る、という戦い方もできます。打撃戦の誘いに応じるかどうかは陸奥さんの判断次第ですが……」


明石「えー、陸奥選手はやや距離を取ってビスマルク選手と対峙! やはりタックルには行けない様子! ビスマルクはコーナーから動く気配はない!」


明石「一般的にはコーナーに追い詰められることは不利とされていますが、相手はベルリンの人喰い鬼! 常識が通用する相手ではありません!」


明石「何を企むビスマルク! 陸奥選手はこれにどう応え……あっ、構えを変えた! ガードを上げました!」


明石「陸奥選手がファイティングポーズを取りました! 打撃勝負に挑むつもりです! ビスマルクの誘いに乗りました!」


明石「しかし、その表情は澄み切ったまま、焦りや動揺は一切ありません! これは打撃であろうと勝てるという自信の現れか!」


大淀「やはり陸奥さんは非常に強い気持ちで試合に臨まれています。この程度の予定変更で動揺したりはしませんね」


大淀「こうなると、あるいはビスマルクさんこそ迂闊だったかもしれません。組み合いを避けたとはいえ、ここから打撃で打ち勝つのは難しいですよ」


明石「さあ、陸奥選手が踏み込む! その歩みに恐れは微塵もない! 一気に打撃の射程圏へと距離を狭めていく!」


明石「間合いに入った! 迷わず陸奥選手が打ち込む! 初手から懇親の右ストレート! ビスマルク、これを腕で逸らした!」


明石「すかさずビスマルクが右フック、しかし陸奥選手のほうが速い! 左ジャブが先に入った! ツーワンのコンビネーションパンチです!」


明石「衝撃でビスマルクがフェンスに頭を打ち付ける! だが怯まない! 今度はビスマルクがジャブを放つ! 陸奥選手、自ら額で受けに行った!」


明石「拳を頭突きで迎撃する形になりました! これはビスマルク選手、拳を痛めたのではないでしょうか! しかし表情は相変わらずの微笑!」


明石「続く陸奥選手の右フックをダッキングで回避! そのままビスマルク、踏み込んでアッパー! 当たらない!スウェーバックで躱された!」


明石「ビスマルクがやや前に出ようとしますが、陸奥選手、それを許さない! 両腕でパンチを連打! ビスマルクはガードを固めます!」


明石「コーナー際である以上、後ろと左右には避けられない! ビスマルク、防戦一方! 陸奥選手が手数で打撃を押し込んでいく!」


明石「陸奥選手の猛攻をまともに受け止める形になりました! ビスマルク選手、どこにも逃げ場がない! ラッシュに圧倒されて反撃もできません!」


大淀「……でも、ビスマルクさんのディフェンスは非常に上手いです。あのパンチのラッシュを両腕で正確に横へ流しています」


大淀「何発か当たっている打撃もありますが、クリーンヒットは皆無です。こうなると、陸奥さんのスタミナ切れが心配です」


明石「陸奥選手のラッシュが続いています! ビスマルクはガードし続けていますが、だんだんと両腕が赤黒く腫れ上がって来ました!」


明石「しかし、ベルリンの人喰い鬼は痛みなど意に介さない! やはりビスマルクより、陸奥選手のスタミナが先に限界を迎えるのか!」


明石「いや、ビスマルクがガードをし損ねた! 左ストレートが顔面に直撃! とうとう陸奥選手の豪腕が炸裂しました!」


大淀「……違う、今のは自分で受けに行ってます!」


明石「あっ、効いてない!? ビスマルクが無理やり前に出た! 鼻血を迸らせながら拳を振り上げた! 左右のフック連撃!」


明石「陸奥選手、回避のために後退! ここでビスマルクが仕掛けに行く! コーナー際から拳を掲げて飛び出……ああっ!?」


明石「ビスマルク、再びコーナーに叩きつけられた! 陸奥が繰り出したのはローリングソバット! 豪快な蹴り技がまともにボディへ入りました!」


大淀「陸奥さんはコーナーからビスマルクさんを逃がす気がないみたいですね。このまま打撃で押し潰すつもりでしょう」


明石「パワーファイター陸奥の全体重を乗せたボディ蹴り! これにはさすがのビスマルクも悶絶! すかさず陸奥が追い打ちを掛ける!」


明石「繰り出すのは必殺の右ストレー……いや、ストレートはフェイント! 前蹴りです! フェイントでガードを上げさせてからの前蹴り!」


明石「つま先がビスマルクのみぞおちを貫きました! しかも背後はフェンス、衝撃を後ろへ逃せない! これは内蔵まで届くダメ……あれっ!?」


大淀「なっ!?」


明石「む、陸奥選手がテイクダウン! なんだ今のは! 渾身の蹴りを決めたはずの陸奥選手がマット上に転がされました!」


明石「信じられません! ビスマルク選手、前蹴りがみぞおちに突き刺さると同時に、無理やり前進しました!」


明石「片足立ちで不意に押し込まれた陸奥選手、バランスを崩して転倒! 予想外の形でグラウンド戦に移行しました!」


大淀「い……痛みへの反応が狂っています。ただでさえ地獄の苦しみを味わうみぞおちへの蹴りを、自分で更に深く突き刺すような真似を……!」


明石「まずい展開になりました! ビスマルクが陸奥選手の足を掻い潜りながら覆い被さろうとする! こいつにトップポジションを許すのは危険だ!」


明石「引き剥がそうと、陸奥が下から蹴り付ける! ビスマルク、顔面に食らうも微動だにせ……あっ!? ビスマルクが血を吐いた!」


明石「いきなり大量の吐血です! 尋常な量ではありません、優にコップ2杯分は血を吐いている! 大淀さん、これはおそらく……!」


大淀「ええ、前蹴りによるものです。みぞおちに深く入り過ぎて、胃が破れたんだと思います」


大淀「自分の内臓が潰されているんですから、その苦痛は我慢できる、できないの次元ではありません。普通の選手ならのたうち回っているはずです」


大淀「なのに、ビスマルクさんはまったく動きが落ちてない。呼吸さえ乱れていないなんて、異常過ぎる……!」


明石「とうとうビスマルクが覆い被さった! 陸奥選手はガードポジションに移行! 龍田戦の悪夢が頭をよぎる状況です!」


明石「ビスマルクとの密着状態は危険だ! 陸奥選手、足を上手く使ってビスマルクを押しのけようとしています! ビスマルクはパスガードを狙う!」


明石「あっ、ビスマルクが足を掴んだ! 口を大きく開ける! これはまず……いや、振り払った! 陸奥選手、噛み付きから間一髪で回避!」


明石「危うく足を食いちぎられるところでした! 陸奥選手、トップポジションを取られながらもどうにかビスマルクの動きを制御しています!」


明石「ビスマルクはなおも噛み付きを狙う! 口から自分の血液をボタボタと滴らせ、どこを食いちぎってやろうかと虎視眈々と狙っている!」


大淀「陸奥さんには苦しい展開です。一手読み違えれば致命傷を負いかねません。ビスマルクさんは噛み付きだけでなく、グラウンドの打撃もあります」


明石「どうにか立ち上がりたい陸奥選手、しかしビスマルクがそれを許さない! このガードポジション状態から陸奥を料理する気だ!」


明石「現在、両者の間には陸奥選手の膝が差し込まれています! ビスマルクはここからどう攻める! 足に噛み付くか、パスガードを狙うか!」


明石「どちらも何かを仕掛けたいという雰囲気はありますが、様子を伺い合って動かない! やや膠着状態にもつれ込んで来ました!」


大淀「陸奥さんはあの状態から顔を蹴りたいんでしょうけど、足を振り上げるとパスガードされる恐れがありますから、下手に動けないんですね」


大淀「ビスマルクさんが動かないのも、蹴りを待っているからのように思えます。どちらかが動けば一気に状況が変わるんじゃないでしょうか」


明石「おっと……ここでビスマルクが立ち上がりました! 再びスタンド勝負を狙っているのか!? 陸奥選手も様子見程度に身を起こす!」


明石「いや、違う! ビスマルクが太ももへローキックを入れた! 立たせるつもりはない、猪狩アリ状態で陸奥選手を痛めつけるのが狙いです!」


明石「陸奥選手も反撃に蹴りを出す! 躱された! また太ももへ痛烈なローキック! 肉の弾けるような音がしました! 非常に良くない展開です!」


大淀「ええ、まずいです。あの体勢のまま蹴り続けられたら、足の痛みで二度と立てなくなってしまいます」


大淀「これがビスマルクさんの本当の怖さではないでしょうか。やってることは狂気に満ちているのに、試合運びは極めて冷静で、合理的です」


明石「またローキック! 今度は陸奥選手、手でガードしました! ひとまずはガードを固めて耐えるしか、今はできることがありません!」


明石「ビスマルクは構わず蹴る、蹴る! 徹底的に足を痛めつけようとしています! 一発一発のローキックから弾けるような重い音が鳴り響きます!」


明石「ここは立ちたい陸奥選手! しかし下手に立とうとすれば大きな隙が出来てしまう! それを見逃すビスマルクではありません!」


明石「慎重にならざるを得ないものの、状況は悪くなる一方! このまま耐えてビスマルクのスタミナ切れを待つのか! そのとき、足は動くのか!?」


明石「あっ、ビスマルクが一瞬踏み付けに行く動きを見せました! フェイントまで使って陸奥選手を立たせない! 陸奥選手、為す術がない!」


大淀「まずいです、完全にビスマルクさんが試合の主導権を握っています。本当なら胃が破れた時点で戦闘不能になっているはずなのに……!」


明石「再びローキックを再開! もはや噛み付きを使うまでもなく、このまま陸奥選手を仕留めようとしているのではないかというほどの猛攻!」


明石「冷静な表情を維持していた陸奥選手にも、さすがに焦りの色が見られ始めました! この状況を脱しない限り、陸奥選手に勝ち目はありません!」


明石「陸奥はここからどう逆転する!? ビスマルクは休みなくローキックを放ち続け……あっ、サイドに回っ、な、なんだ!?」


大淀「そ、側転!?」


明石「ビスマルクがいきなり側転を繰り出しました! 体操選手ばりの身のこなしで陸奥の体を跳び越えた! ぱ、パスガードに成功!」


大淀「あ、あんなアクロバティックな動きまでできるなんて……!」


明石「陸奥選手のサイドを取った! ビスマルク、即座に覆い被さる! 陸奥選手がサイドポジションを取られました!」


明石「逃れようと陸奥選手が身を捩りますが、一度捉えた獲物をビスマルクが逃すはずもない! 血まみれの口を開いた! 噛み付く気だ!」


明石「させまいと陸奥選手が顔を手で押しのける! だが振り払われます! もはやビスマルクの凶行を止める術はない……あっ!?」


大淀「やった、入った!」


明石「ビスマルクの頭が大きく揺れた! 足元がふらつく! そのままリングにへたり込んでしまった! ビスマルク、ダウン!」


明石「ベルリンの人喰い鬼からダウンを奪ったのは、陸奥選手の右フック! マットに背中を着けた状態からの右フックです!」


明石「打撃の威力が激減する、トップポジションを取られた状態からのパンチでビスマルクの顎を打ち抜きました! 信じられない打撃力です!」


大淀「やはりグラウンドの攻防は陸奥さんが一枚上手でしたね。サイドポジションなら、上になられていても腰は抑えつけられていません」


大淀「レスリングで鍛えた陸奥さんの体幹なら、あの体勢でも十分威力のあるパンチを打てます。選択を誤ったのはビスマルクさんだったようですね」


明石「陸奥選手、素早く立ち上がった! 立ち上がろうとするビスマルクにサッカーボールキック! 頭部を思いっきり蹴り飛ばしました!」


明石「いくらビスマルクの打たれ強さが異常でも、脳震盪には耐えようもない! マットに転がされたビスマルク、立つことができません!」


明石「このチャンスを逃す手はない! 陸奥が一気に仕掛ける! 再び頭部を狙った回し蹴り! ビスマルク、辛うじてブロック!」


明石「足元が覚束ないまま、ビスマルクが立ち上がろうとする! そこに陸奥が渾身のローキック! 散々蹴ってくれたお返しと言わんばかりだ!」


明石「これもまともに入った! 膝が妙な方向へ曲がりました! 膝の靭帯を痛めたか!? 足元のふらつきが更に酷くなる!」


大淀「やりましたね。膝が壊れれば、痛みのあるなしに関係なく、足をまともに動かすことができなくなります。足さえ壊せばこっちのものですよ」


明石「もはやビスマルクは風前の灯火! 回復を図ろうとガードを固めていますが、休む暇を与える陸奥選手ではありません!」


明石「ふらふらと後退するビスマルクに、陸奥が一気に詰め寄る! 両手を広げた! ここで陸奥選手、タックルを繰り出す!」


明石「あっ!? ビスマルク、これに対応! 陸奥選手が伸ばした両手を掴み取った! 『手四つ』の体勢になりました!」


大淀「あら。ビスマルクさん、意識がもうろうとして判断力も失っているんでしょうね。とっさとはいえ、自ら陸奥さんと手四つをするなんて」


明石「大淀さんの言うとおり、この体勢は陸奥選手の土俵! ビスマルク選手、またもや悪手を選んでしまいました!」


明石「さあ、陸奥選手が決めに掛かります! まずは一気に両腕を押し込む! ビスマルクはまだダメージが残っている、踏み留まれない!」


明石「念には念をとばかりに陸奥が頭突きを入れた! ビスマルクの足がまたふらつく! さあ、満を持して陸奥選手がテイクダウンを……?」


大淀「……え、なんで?」


明石「な……何が起こった!? 陸奥選手が膝を着きました! 表情は苦悶に歪んでいる! 体勢は手四つのまま、それ以外の動きはありません!」


明石「ビスマルクは未だ焦点が定まらず、脳震盪のダメージから回復していないことは明らか! この状態で陸奥選手を抑え込むなんて有り得ない!」


明石「しかし、現にビスマルクは上から押し込むようにして陸奥選手の動きを封じています! 一体なぜ!?」


大淀「まさか……古流柔術の指関節!?」


明石「これは……ビスマルクが両手で陸奥選手の指、および手首の関節を極めています! 手の甲のツボに指を突き立て、握力を奪っている!」


明石「もはや掴み合いではありません! ビスマルクが陸奥選手の手を一方的に掴み上げている! 今にもへし折り、握り潰さんばかりの力で!」


明石「ビスマルク、陸奥選手のパワーを技でねじ伏せています! まさか、陸奥選手が手四つの組み合いで押し込まれるとは!」


大淀「……確かにフェアバーン・システムの源流は日本の古流柔術と言われています。それでも、ここまで高度な技を持っているなんて……!」


明石「び、ビスマルクが笑っています! 脳震盪から回復してしまった! このまま陸奥選手の指を折ろうとするかのように、上から手を押し込む!」


明石「両手の関節を極められ、陸奥選手は抵抗でき……いや、立ちます! 陸奥選手、痛みに耐えて強引に立ち上がる!」


明石「戦艦級トップの怪力がここでも発揮されます! 力ずくで立った! 再び手四つの体勢に戻ります! 指の関節は極められたまま!」


明石「テクニックで勝てないなら、パワーで押し切る! 陸奥が前に出た! 仕掛ける技は大内刈り! ビスマルクの足を豪快に刈った!」


明石「決まった、決まりました! ビスマルク、テイクダウン! 陸奥選手、とうとうトップポジ……ぎゃあああっ!?」


大淀「ひぃっ!?」


明石「な……何してるんだコイツ!? あ、頭に噛み付いている! ビスマルク、陸奥選手の頭に大口で喰らいついています!」


明石「目を疑う光景です! リンゴに齧りつくかのように、ビスマルクが陸奥選手の頭に歯を突き立てている! 陸奥選手、頭部からおびただしい出血!」


明石「これには陸奥選手、さすがに痛みで悲鳴を上げた! 逃れようとするが、頭を抱え込まれて逃げられない!」


明石「胴も足で挟み込まれ、完全に捕獲されてしまった! 必死にビスマルクの脇へパンチを入れますが、人喰い鬼はこの程度ではびくともしない!」


明石「もはや猛獣の捕食ですらありません! まさに人喰い鬼! まごうことなき怪物の所業! どう考えても人外の行為です!」


大淀「ず、頭蓋骨ごと食いちぎる気……!?」


明石「あっ!? 陸奥選手がビスマルクを引き剥がそうと、髪の毛を引っ張っています! 髪を引っ張るのは反則です! 陸奥選手に警告が出される!」


明石「膠着ではないため、中断は行われません! 陸奥選手に反則を気にしている余裕はない! 万力を込めてビスマルクの髪を引っ張っている!」


明石「どうにかビスマルクを離し……いや、同時に頭皮の一部を食いちぎった! 陸奥選手の頭部から大量の出血!」


明石「とにかくビスマルクから距離を取りたい陸奥選手! 上から肘打ちを顔面に一発! ビスマルクの拘束が僅かに緩む、一瞬の隙を突き脱出!」


明石「肘をまともに食らったビスマルクですが、やはり平然と立ち上がった! 口には陸奥選手の髪の毛付きの頭皮を咥えている!」


明石「とうとう食事の時間がやってきた! ビスマルク、微笑を浮かべて食いちぎった頭皮を咀嚼する! か、髪の毛ごと飲み込んでいます!」


明石「陸奥選手は呆然とした表情でその様を見つめる! 相手が本物の怪物だと再認識してしまった今、彼女に戦う意志は残っているのか!?」


明石「ビスマルクが短い食事を終え、再びファイティングポーズを取る! もう一度打ち込んで来いと、陸奥選手を誘っている!」


明石「陸奥選手もガードを上げますが、その表情には動揺が色濃く現れています! 体以前に、精神のダメージから立ち直れていない!?」


大淀「まずい、気持ちで飲まれてる……! ビスマルクさんは膝が壊れています。冷静に行けば十分勝機があるのに!」


明石「ビスマルクがやや足を引きずりながら前へ出る! 陸奥選手も動揺を押し殺しながら再び距離を詰める!」


明石「両者が間合いに入る! 先に動いたのは陸奥選手! 打撃、と見せかけて鋭い胴タックル! か、カウンターァァァ!」


明石「ビスマルク、タックルを膝蹴りで迎撃! 壊れてるほうの膝を陸奥の顔面に叩き込んだ! 血しぶきがマットに迸る!」


大淀「やっぱり、陸奥さんのタックルを読んでいた……!」


明石「陸奥選手が大きくぐらついた! ビスマルク、そのまま陸奥を抱える! なっ……も、持ち上げた!?」


明石「陸奥選手を高々と担ぎ上げた! そして……叩き付けたぁ! パワーボム炸裂! ビスマルク、陸奥に負けずとも劣らない怪力を見せつけた!」


大淀「嘘でしょ、さっきので左膝は完全に壊れてるのよ!?」


明石「意識の揺らいだ陸奥選手に、迷わずビスマルクが覆い被さった! マウントポジション! 最悪の展開が訪れてしまいました!」


明石「ビスマルク、まずは1発顔面に拳を入れる! まともに入った! 陸奥選手、まだ動くことができるのか!?」


明石「続けてもう1発! 今度はガードされました! 陸奥選手は健在! しかし、ダメージが大きすぎる! ここから挽回できるのか!」


明石「ブリッジで陸奥選手がエスケープを試みる! が、ビスマルクはそれを許さない! ロデオのように陸奥選手を乗りこなし、逃がそうとしない!」


明石「更に1発顔面に入った! たまらず陸奥選手、反撃のパンチを繰り出す! ビスマルクは難なくブロック……いや、腕を捉えた!」


大淀「待って、やめて!」


明石「ああーっ! て、手首に歯を突き立てた! 戦慄の捕食攻撃が始まってしまった! 陸奥選手の絶叫が会場に響き渡る!」


明石「く、食いちぎりました! 右手首が半切断状態! 骨がむき出しになっています! ビスマルク、食いちぎった肉と骨を微笑みながら咀嚼!」


明石「陸奥選手の右手はもはや使用不能! 残る左手で殴りに行くようなことはしません、片腕で必死にガードを固めている!」


明石「その表情は完全に怯え切っています! 陸奥選手、もはや戦意喪失か!? しかし、そんなことに気を掛けるビスマルクではない!」


明石「ビスマルクが更に身を乗り出した! 陸奥選手のガードを引き剥がそうというのか、左腕に手を掛ける!」


明石「陸奥選手、ガードを空けられまいと必死に抵抗! 更にビスマルクが体を前に……あっ、これは!?」


大淀「あっ……お、終わった……」


明石「ビスマルクがポジションを変えました! 両膝を陸奥選手の肩に乗せて抑えつける、変形のマウントポジション!」


明石「これでは片腕どころか、肩が抑えつけられているので両腕がまったく使えません! つまり、陸奥選手は完全に動きを封じられた!」


明石「陸奥選手は必死にもがいていますが、まるで動けない! ガードすら固められない! そこへビスマルクの拳が降り注ぐ!」


明石「大きく振りかぶったパンチが容赦なく陸奥選手の顔面へ落とされる! 陸奥選手は抵抗できない! あまりに一方的な攻撃です!」


明石「もはや戦いではなく、公開処刑! UKFの超新星ファイターが、ベルリンの人喰い鬼に打ち砕かれていく!」






―――中継:長門選手控室


長門「……何をしているんだ、陸奥。そんなやつに遅れを取るお前ではないはずだ……」


長門「もういい、やめろ。やめろ……おい、いつまで続ける気だ! やめろ!」


長門「くそっ! そこをどけ、私が行く! 決まっているだろう! あのドイツ女を殺す! 今すぐだ!」


長門「止めるな、どけ! どけと言っているだろうが!」





明石「あっ……ああーっ! ビスマルクが頬に噛み付いた! 今度は陸奥選手の頬を食いちぎりました!」


明石「既に陸奥選手の顔は流血で真っ赤に染まり、表情すら伺い知れません! しかし、もう反撃の余力がないのは明らかです!」


明石「もはや左腕さえろくに動かせず……あっ、ビスマルクがその腕を取った! な、何をする気だ!」


大淀「ちょ、ちょっと待って!」


明石「うげぇえ! ゆ、指を食いました! 親指を除く四指を根こそぎ持って行った! 耳を覆いたくなるような陸奥選手の悲鳴が響きます!」


大淀「もう試合を止めてください! 今、陸奥さんは左手でタップしようとしたんです! ビスマルクさんはそれをさせないために……!」


明石「た、確かにそうです! レフェリーは今すぐ……うぁっ!? び、ビスマルクが陸奥選手の喉笛に噛み付きました!」


大淀「止めて! 止めて、早く!」


明石「く……食いちぎったぁぁぁ! ち、血しぶきが噴水のように……リングがみるみる血の海へと変わっていく!」


明石「ゴング、ここでゴングです! 試合終了! ビスマルク、いい加減にしろ! いつまで噛み付いてるんだ!」


明石「れ……レフェリーに引き剥がされ、ようやくビスマルクが攻撃を中止しました! その顔には満足気な微笑が浮かんでいます……!」


明石「会場には拍手も、歓声も何もありません。観客席からは水を打ったような静寂と……わずかに、すすり泣くような声が聞こえます」


明石「し、信じたくない結果になってしまいました。UKFの誇る超新星ファイター陸奥、ドイツの怪物ビスマルクの手によって敢えなく敗北……!」


明石「あっ……おぞましい高笑いが聞こえて来ました! 笑っているのは他でもない、ビスマルク! ベルリンの人喰い鬼が声高らかに笑っている!」


明石「まるで陸奥選手を、そして我々をあざ笑うかのような勝利の哄笑が響き渡る! こんな笑い声は聞きたくなかった! 無念、無念です!」


明石「優勝候補筆頭と言われた陸奥選手、ここで敗退! 3回戦へと駒を進めるのは、ベルリンの人喰い鬼、ビスマルク!」


明石「狂気の怪物相手に善戦するも、力及ばず! 実姉である長門選手へ挑戦するという夢は、無残にも打ち砕かれてしまいました……!」


大淀「……言葉が出てきません。あの陸奥さんをここまで徹底的に打ち負かすなんて……」


明石「本当に残念です……展開としては何度も勝機はあったと思うのですが……」


大淀「陸奥さんに勝機があったのは間違いありません。しかし、ビスマルクさんがあまりにも強すぎました」


大淀「身体能力に優れ、多彩な技を持ち、計算し尽くされた試合運びで確実に相手を仕留める。加えて、あの並外れた凶悪さです」


大淀「ファイターとしては完璧以上の力を持つ相手です。残念ですが……陸奥さんは、まだその領域に達していなかったと言わざるを得ません」


明石「……確かに、ゴングが鳴るよりもっと早い段階で勝負は決まっていましたよね。試合終了があまりに遅すぎたと思いませんか?」


大淀「運営側も陸奥さんに勝って欲しかったんです。だから陸奥さんが逆転することを願って、ギリギリまで終了の合図を出さなかったんです」


大淀「それが完全に裏目に出ましたね……頭を噛みちぎられた時点で、陸奥さんは心が折れていました。後半で逆転できる可能性はなかったでしょう」


大淀「しかし、陸奥さんを臆病だと言うことは誰にもできません。相手は正真正銘の怪物でした。まともな選手が勝てるはずがない……」


明石「……あの、ビスマルク選手は試合終了のゴングの後も噛み付きをやめませんでしたよね。それを理由に反則負けということにしては……」


大淀「……できなくもないかもしれませんが、さすがに無理です。レフェリーの制止そのものには従っていましたし、第一、誰も納得しません」


大淀「何より、そんな形でビスマルクさんを敗退させるのは、UKFそのものの敗北を意味します。やられっぱなしのまま彼女をドイツへは帰せません」


明石「……ビスマルク選手が優勝してしまう可能性は?」


大淀「あります。しかし、陸奥さんが破れたからといって、UKFの全ての選手が破れたわけではありません」


大淀「ビスマルクさんを倒せる可能性を持つ選手はまだ残っています。彼女たちに希望を託すしかないでしょう」


明石「……ありがとうございます。あまりにショッキングな試合でした……」




試合後インタビュー:ビスマルク


―――陸奥選手はどうでしたか?


ビスマルク「美味しかったわよ! 龍田さんと比べるとちょっとだけ物足りなさはあるけど、それでもすっごく楽しめたわ!」


ビスマルク「パワフルな子で、怖がりなくせに精一杯私に向かってくるところがとっても可愛かった! 最後のほうなんて、あの子泣いてたのよ!」


ビスマルク「泣いてる顔が可愛すぎて、キスしちゃいそうだったわね! 試合じゃなかったら、もっともっと可愛がってあげたかったわ!」


―――ビスマルク選手は痛めつけるのではなく、痛めつけられるほうがお好きなのでは?


ビスマルク「どっちも好きなの! ほら、言うじゃない? 自分にして欲しいことは、他人にもしてあげたくなるって!」


ビスマルク「痛めつけるのも、痛めつけられるのも大好き! それが両方できるUKFって、すごく素敵なところよね!」


ビスマルク「次の試合はぜひ長門さんに勝ち抜いて来て欲しいわ! 陸奥さんがあれだけ美味しいなら、長門さんはもっと美味しいに決まってるもの!」


ビスマルク「ああっ、想像したらムラムラしてきちゃった……ねえ、あなたハチちゃんだっけ? これから時間ある?」


ビスマルク「良かったら私と……あっ、待って! 待ってよ、ねえ! 逃げないで! もっと私の話を聞いてよ!」


(伊8さんの逃亡により、インタビュー中止)





試合後インタビュー:陸奥


―――今はどういうお気持ちですか?


陸奥「うっ、うっ……すみません、泣いてしまって。あんな負け方をしてしまったことがショックで……」


陸奥「すごく、惨めです。試合の最中に心が折れるなんて……ファイターとして失格です」


陸奥「怖かった、逃げ出したいくらい怖かった……最後には心の中で、長門姉さんに助けを求めていました。そんな自分が恥ずかしくてたまりません」


陸奥「姉さんとの約束を破ってしまった……もう、帰ります。ここにいたくありません」


陸奥「取材もこれくらいで許してください。今は……誰とも話したくないんです」


(陸奥選手の取材拒否につき、インタビュー中止)




明石「えー大淀さん。あの……」


大淀「わかってますよ。試合内容の過激さが放送コードに引っ掛かって、またテレビ放送が中断されてるんでしょう?」


明石「その通りです。一応、ラジオ放送は続いています」


大淀「それもわかっています。以前と同じ轍は踏みませんよ」


明石「その件はどうも……ここで1つ、気になる情報が入ってきました」


大淀「情報って、またビスマルクさんについてですか?」


明石「いえ、長門選手についてです。控室で試合中継を見られていたそうなんですが……試合の有り様を見て、人が違ったように怒り狂っていたと」


大淀「……あの長門さんが?」


明石「ええ、あの冷静さで知られる長門選手がです。我を忘れて周囲に怒鳴り散らし、そのまま試合中のリングへ乗り込もうとしていたらしいですよ」


大淀「長門さんがそこまで……よっぽど陸奥さんのことを想ってらしたんですね。妹をあんな目に合わされて、じっとしていられなかったんでしょう」


大淀「今は落ち着かれているんですか? リングの清掃があるとはいえ、すぐに長門さんの試合が始まりますが……」


明石「それが……良くない状態みたいです。高速修復を終えた陸奥選手に会いに行ったときは、若干落ち着きを取り戻していたそうですが……」


明石「肝心の陸奥選手が、試合に負けたショックからか既に帰られてしまっていて。長門選手は陸奥選手に会うことができなかったんです」


明石「そこからまたピリピリし始めて、セコンドも取材陣も全て追い出し、今は控室にこもりっきりだそうです」


大淀「……つまり、精神的なコンディションは最悪というわけですね。3回戦進出を決めたビスマルクさんに対し、長門さんが最後の砦なんですが……」


明石「まさか……長門選手が3回戦出場を果たせず敗退する可能性があると?」


大淀「勝負に絶対はありません。その可能性は初めからあったわけですが……それが今、更に大きくなったように思います」


明石「もし、長門選手が敗退すれば、次にビスマルク選手と戦うのは島風選手になりますよね……」


大淀「……島風さんを過小評価するつもりはありませんが、彼女ではビスマルクさんには勝てないでしょう」


大淀「怪物を倒せるのは怪物だけです。肉体、技術、精神、全ての面で超越した力を持つ選手でなくてはビスマルクさんに勝つことはできません」


大淀「その超越した実力を持つ選手の1人が長門さんです。しかし、持ち前の冷静さを失っているとなると……先行きが不安です」


明石「……とにかくは次の試合の結果次第、ということになりますね」


大淀「はい。もうすぐ再開ですね……どうなるかは長門さんと島風さん次第です。まずはその戦いを見届けましょう」


青葉「お待たせしましたー。放送、再開します。5,4,3……」


明石「……はい、ご視聴の皆様、申し訳ありません! またもや試合内容に問題があり、放送が中断されてしまいました!」


明石「結果はご想像の通りかと思いますが……陸奥選手、無念の敗退! ビスマルク選手が3回戦進出決定です!」


明石「あの怪物を誰が止めるのか! 今から始まる試合で、次にビスマルクへ挑む選手が決まります!」


明石「まずは彼女から登場していただきましょう! 一気にトップファイターへのし上がった、新進気鋭の駆逐艦ファイターです!」




試合前インタビュー:島風


―――相手は絶対王者と呼ばれる長門選手です。勝機はあると考えられていますか?


島風「もちろん! 金剛さんに勝ったからって満足してないわ! 私が狙ってるのは優勝なんだから!」


島風「長門さんがとんでもなく強いことなんて百も承知よ! だからって、戦う前から諦めるようなことは絶対にしたくない!」


島風「今まですっごく練習してきたし、長門さん対策だって考えてきた! 金剛さんとの試合で見せてない技だってあるわ!」


島風「この試合でもう一度証明するの! 駆逐艦でも、最強になれるんだって! ここまで勝ち残ってる選手で、戦艦じゃないのは私だけでしょ?」


島風「だから、私は駆逐艦を代表するつもりで戦うわ! 必ず長門さんに勝ってみせる! 絶対に!」


―――勝った場合、次の対戦相手がビスマルク選手であることは意識されていますか?


島風「全然! だって私、さっきの試合見てないもん! 試合前の調整で大忙しだったんだから!」


島風「何があったかは知らないけど、今一番大事なのは次の試合でしょ? なら、その次のことを考えるような余裕なんてないわ!」


島風「とにかく、長門さんとの試合を全力で勝ちに行く! 今の私にはそれだけ! 以上、取材終わり! もう一回イメトレするから出て行って!」


(島風選手の取材拒否につき、インタビュー中止)




島風:入場テーマ「Michael Angelo/Double Guitar」


https://www.youtube.com/watch?v=rutyA12z3Ok




明石「大歓声に包まれて入場してきます! 今や可愛いだけでなく、最速最強の証明に王手を賭けた駆逐艦級トップファイター!」


明石「そのスピードは最速にして神速! 相手の動きを刹那に見切り、あらゆる攻撃をすり抜ける! 隙を許せば、急所を狙った足技が炸裂する!」


明石「戦艦級最速の金剛選手を倒し、次なる相手は戦艦級絶対王者! しかし、その瞳には決意と自信が満ち溢れている!」


明石「最速の駆逐艦級ファイターは、世紀の大番狂わせを起こせるか!? ”神速の花嫁” 島風ェェェ!」


大淀「すごくいい表情をしてますね。自信に溢れ、かと言って奢っているわけでもない。この試合で島風さんは最高のパフォーマンスができるでしょう」


明石「試合前も入念に準備されていたそうで、長門選手対策は万全とのことです。島風選手に勝機はあると思われますか?」


大淀「普通に考えれば、島風さんの勝利は絶望的でしょう。いくら島風さんが実力を上げていようと、相手は戦艦級の絶対王者です」


大淀「しかし、今回は島風さんの勝てる可能性が2つあります。まず1つ目は、金剛戦で見せたスピードを生かしたファイトスタイルです」


大淀「長門さんは全ての面において最高峰の実力を持っていますが、スピードにおいては戦艦級として多少優れている程度に過ぎません」


大淀「となると、戦艦級最速の金剛さんを下したあの戦法は長門さんにも通用すると見ていいでしょう。問題は2つ目です」


明石「……長門選手の精神状態についてですか?」


大淀「ええ。今から入場してくる長門さんがどういう状態なのか……それで勝率は大きく変わってくるでしょう」


大淀「長門さんは相手に合わせてファイトスタイルを変えます。しかし、過去の戦歴に島風さんのようなタイプの選手と戦った経験はありません」


大淀「いつもの長門さんなら戦いの中でそれに対応しようとするでしょうが、もし冷静さを失っているとなると……」


明石「……駆逐艦級ファイターがUKFの無差別級チャンピオンを倒すという、世紀の大番狂わせが起こると?」


大淀「その可能性はゼロではありません。いえ、今の島風さんなら、2割以上の確率はあるでしょう」


大淀「島風さんはスピードで戦艦級を倒すということを目的に、徹底的なトレーニングを積まれてきました。その結果が今のファイトスタイルです」


大淀「そのトレーニングで仮想敵としていたのは、長門さんなんじゃないでしょうか。島風さんは優勝するつもりでグランプリに臨まれていますから」


大淀「島風さんは本気で長門さんに勝つつもりでいます。そして、今の島風さんはそれを可能とする実力を身に着けています」


大淀「2度目の大番狂わせが起こってもおかしくはありません。長門さんにとって、決して油断できる相手ではないことは確かでしょう」


明石「ありがとうございます。それでは、続いて青コーナーより選手入場! 絶対王者が再びリングに降り立ちます!」



(長門選手の取材全面拒否につき、インタビューなし)




長門:入場テーマ「クロノトリガー/魔王決戦」


https://www.youtube.com/watch?feature=player_detailpage&v=1y_DS691Vhc#t=48




明石「最強! その言葉は即ちUKF無差別級王者を意味する! 彼女を知る者は、誰一人それを疑わないでしょう!」


明石「しかし、今やその名を我が物にせんとする艦娘が集っています! 武蔵、扶桑、ビスマルク! そして、ここにまた1人!」


明石「その名は艦娘最速ファイター、島風! 史上最も小柄な挑戦者に、絶対王者はどのように受けて立つのか!」


明石「勝つのはスピードファイターか、それともアルティメットファイターか! ”ザ・グレイテスト・ワン” 長門ォォォ!」


大淀「……明らかに落ち着きのない様子ですね。殺気立っているというより、苛立っているというほうがしっくりくる表情です」


明石「やはり、長門選手は陸奥VSビスマルク戦のショックを引きずっていると?」


大淀「間違いなくそうです。いつもの長門さんは、どんなときも平然とした王者の風格を放っていますが、今日はそれがありません」


大淀「まるで霧島さんのような、荒々しい殺気を隠そうともしてません。長門さんらしくない落ち着きのなさです」


明石「その落ち着きのなさは、試合に臨むコンディションにも影響してくるでしょうか?」


大淀「確実に影響するでしょう。いくら長門さんが強いといっても、冷静さを欠けば必ずどこかに隙が生まれます」


大淀「長門さんの強みはどんなときでも揺るぎない冷静さ、そして冷静さから来る隙の無さです。今の長門さんにそれがないとすれば……」


明石「……島風選手に足元を掬われると?」


大淀「可能性は大いにあり得ます。少なくとも、今日の長門さんは過去最悪のコンディションだということです」


大淀「格上の相手に挑む以上、島風さんに長門さんの心中を察するような甘さはないでしょう。長門さんの不調は願ってもない幸運です」


大淀「長門さんの苛立ちに島風さんも気付いているはずです。となると、おそらくその苛立ちに付け込むような戦い方をするんじゃないでしょうか」


明石「それは具体的にどういうものだと思われますか?」


大淀「おおよそは金剛戦で見せたものと変わりません。相手に打たせて、カウンターでローキックを入れて離れる、この繰り返しです」


大淀「それを島風さんはより挑発的に、苛立ちを煽るように行うと思います。もしその挑発に長門さんが乗るようなことがあれば、大きな隙が生じます」


大淀「その隙を島風さんは絶対に見逃さないでしょう。普段の長門さんなら決してそんな挑発に乗るようなことはしませんが……」


明石「……絶対王者が、今日ばかりは絶対ではないかもしれない、ということですね」


大淀「そういうことになります。この試合で長門さんがどう戦うのかは、私にも予測が付きかねます」


大淀「できることなら、陸奥さんのことを今だけは忘れて、目の前の試合に集中してもらいたいのですが……難しいでしょうね」


明石「ありがとうございます。さて、両選手がリングインしました! またしてもこの体格差! 長門選手を傲然と島風選手が見上げています!」


明石「その視線には覚悟と自信が漲っている! その瞳は語っています、必ずやお前から王者の座を奪ってみせると!」


明石「対する長門選手、どうしたことでしょう、目を合わせない! 島風選手を見るでもなく、苛立たしげに視線を泳がせています!」


明石「両選手がコーナーに戻りますが、明らかに長門選手の様子が思わしくない! 一体、この試合はどうなってしまうのでしょうか!」


明石「ゴングが鳴りました! 試合開始……あっ、長門選手が飛び出した! 様子見もなく、ズンズンと歩を前に進める!」


明石「いきなり島風選手に殴り掛かった! 大振りの右フック! かすりもしません! 島風選手、いともあっさりと打撃をすり抜けた!」


明石「離れざまにローキックを一発! やはりスプリントファイター島風、速い! 早くも長門選手に一撃を入れました!」


明石「長門選手、即座に島風選手を追撃! 両腕を振り回すようなフックの連打! まったく当たらない! 再び島風がローキックを入れる!」


明石「駆逐艦級の蹴りとは思えない重い音が鳴り響きます! しかし、長門選手は意に介さない! またもや大振りのパンチを繰り出した!」


明石「当然当たらない! 島風選手、完全に長門選手の動きを見切っています! 今度は膝へのストンピングキック! 長門選手がやや揺らいだ!」


大淀「……長門さんの動きがあからさまに精彩を欠いています。攻撃も防御も大雑把過ぎる、試合に全く集中できていない……!」


明石「ここで島風選手、一旦長門選手と距離を取ります! あっ、手招きしています! その場を飛び跳ねながら、露骨に長門選手を誘っている!」


明石「この挑発に対し、長門選手、顔色が変わった! 殺気をより剥き出しにして島風選手に詰め寄っていきます!」


明石「一気に間合いを詰め、前蹴り! やはり躱された! 島風、一瞬で脇をすり抜けつつ再びローキック!」


明石「長門選手の足に赤黒いアザが目立ってきました! しかし、長門選手はお構いなし! サイドを取ろうとする島風に向き直ると同時に左フック!」


明石「またも島風、これをすり抜けた! またローキッ……いや、違う! バックに回った! 膝裏に痛烈なサイドキック!」


明石「長門選手の体がガクンと沈んだ! バランスを崩したところに島風が飛びつく! ば、バックチョーク! 島風選手が首を絞めに掛かった!」


大淀「あ、あんなにあっさり……!」


明石「まさか、決まってしまうのか!? い、いや! 長門選手、これには素早く反応! 手を差し込んで絞めつけを防いでいます!」


明石「島風選手、決まらないと見るやいなや、あっさりとチョークを解いた! 再び距離を取る! その表情は実に落ち着いています!」


明石「体勢を立て直した長門選手、ギロリと島風選手を睨みつける! 誰もが震え上がる絶対王者の怒気、それを島風、平然と受け止めている!」


大淀「……やはり長門さんは試合に臨める精神状態ではないようです。普段の長門さんなら、あんな簡単にバックを許したりしません」


大淀「動きが荒すぎる。完全に島風さんのスピードに翻弄されています。まったく長門さんらしくない戦いぶりです」


明石「展開としては島風選手が優勢ですが、長門選手のダメージはどう思われますか?」


大淀「だいぶ足を蹴られていますが……ダメージはまだ致命的ではありません。不幸中の幸いというか、怒りで痛みが麻痺しているようにも見えます」


大淀「しかし、長くもらい続ければ動きに支障が出ます。何より、島風さんはさっきの膝裏へのサイドキックのような、急所への蹴りを狙っています」


大淀「このままだと、いずれ長門さんはそういう蹴りをもらってしまうでしょう。そのとき、長門さんは果たして立ち上がれるのか……」


明石「あっ、今度は島風選手のほうから間合いを詰めます! 長門選手、仁王のような形相で島風を待ち構える!」


明石「先に長門選手が打ち込んだ! 右ストレート! 島風、あっさり躱しつつローキック! 同時にバックへ回ろうとする!」


明石「振り向きながら長門選手のミドルキック! かがんで躱した! 起き上がりざまに子安キック! 下腹部へ入りました!」


明石「長門選手の表情が苦悶に歪む! しかし構えは揺るがない! 怒りで痛みを感じていないのか、急所への蹴りを耐え切った!」


明石「しかし、わずかに出来た隙を島風は逃さない! 膝に再びストンピングキック! そして離れた! 順調に足へのダメージを蓄積させている!」


大淀「ここまで、島風さんの戦い方は完璧です。ヒット・アンド・アウェイで長門さんの耐久力をじわじわと削っています」


大淀「長門さんのパワーなら一撃で島風さんを葬れますが、冷静さを欠いて今の島風さんに一撃を当てられる可能性は皆無でしょう。このままだと……」


明石「再び島風が間合いを詰める! もはや苛立ちが爆発寸前といった長門選手! 長門選手も同時に踏み込んで行った!」


明石「ワンツーのコンビネーションパンチ! 島風、これはバックステップで回避! ローキックには行きません!」


明石「長門選手の追撃! ミドルキック! 左フック! これもフットワークで躱した! またローキックに行こうとしない!」


明石「何かを狙っているような島風選手、しかし長門選手、それを意に介さない! サイドに回る島風をなおも打撃で攻める!」


明石「長門のハイキック! スウェーで躱した! 右フック! これも空振り! 長門のラッシュをことごとくフットワークで躱して行く!」


明石「心なしか、長門選手の足取りが重くなったように思われます! これは足へのダメージが響いているのか!?」


大淀「足に蓄積されたダメージに加え、長門さんのスタミナが切れつつあります。打撃の空振りは見た目以上に疲れますから」


大淀「あれだけ大きな打撃を見境なしに打てば、すぐ息が切れます。長門さんはそんなことにも気付けないほど冷静さを失っているようですね……」


明石「島風選手は挑発的に長門選手の周囲を動き回り、更なる打撃を誘っています! これ以上、島風選手の誘いに乗るのは危険だ!」


明石「し、しかし絶対王者長門、完全に平常心を失っている! またもや打撃のラッシュ! 蹴り、パンチを見境なく島風に繰り出していく!」


明石「まるで弁慶と牛若丸のような光景! 大振りの打撃を島風選手、華麗に避ける、避ける! 1発たりとも当たりません!」


明石「とうとう長門選手の息が荒くなってきた! それでも休むことなく、長門選手が再び左フッ……き、決まったぁぁぁ!」


大淀「ああっ……!」


明石「と、跳び後ろ回し蹴りです! フックでやや前かがみになった長門選手の顔面を狙った、島風のカウンターキック!」


明石「長門選手の顔から鮮血が迸った! これは……目です! 島風選手が狙ったのは、顔面ではなく右目です!」


明石「長門選手が右目を手で抑えています! 指の隙間からおびただしい出血! 島風選手、跳び後ろ回し蹴りで右目を叩き潰しました!」


大淀「すごい、リングの上であんな大技を決めるなんて……!」


明石「しかし、まだ長門は立っている! 島風も気を抜いてはいない! 再び足を振り上げた! とどめのハイキックだぁぁ……あ?」


大淀「なっ!?」


明石「なっ……ななな……なんということでしょう! け、決着! 決着です! まったく立ち上がりません! し……試合終了! 試合終了です!」


明石「勝ったのは……長門選手、長門選手です! 目の前の光景が信じられません! 圧倒的優勢だった島風選手が、今やぴくりとも動きません!」


明石「致命傷を負ったかに思われた長門選手ですが……最後の最後で、ハイキックに来た島風選手の足を素早く捉えました!」


明石「そのまま、足を掴んでの一本背負い! 島風選手をマットに凄まじい勢いで叩きつけました!」


明石「戦艦級最強の投げ技を喰らって、駆逐艦級の島風選手が立ち上がれるはずもありません! 受け身も取り損ね、島風選手、完全に失神!」


明石「あの長門選手をあと一歩というところまで追い込むも、一撃の前に敢えなく敗退! 島風選手、ここへ来て無念の敗退!」


明石「荒々しい試合ぶりでしたが、最後には絶対王者の矜持を見せつけました! 勝者はやはり長門、長門選手です!」


大淀「……あの跳び後ろ回し蹴りは、あるいは悪手だったのかもしれませんね」


明石「あの蹴りがですか? あれは長門選手にも大きなダメージを与えていたと思いますが……」


大淀「だからこそです。一撃で意識を奪うような技なら良かったんですが……あの蹴りは痛みと傷を与え、長門さんの戦力を削るための蹴りでした」


大淀「普通の選手なら、目を潰されたダメージで戦意喪失するでしょう。しかし、長門さんは普通の選手ではありません」


大淀「あの痛みで、長門さんは本来の自分を取り戻してしまったんです。どんな状況にも揺るがない、不動の絶対王者としての自分を」


明石「ということは、あそこで追い打ちのハイキックを放った島風選手が迂闊だったと……」


大淀「いえ、あそこでハイキックを打ったのは正解です。しかも、ちゃんと失明させた右目の死角に回り込んで蹴りを放っていました」


大淀「おかしいのは長門さんの方です。普通、右目を潰された直後に死角から来たハイキックを、一本背負いに繋げられるはずがありません」


大淀「それを可能としたのは、やはり長門さんの冷静さでしょう。左目で捉えた島風さんの動きからハイキックの軌道を読み、投げに繋げたんでしょう」


大淀「本当にわずかな分かれ目だったとは思います。ですが、勝負は結果が全てです。長門さんのほうが強いから勝った、その事実は動かないでしょう」


明石「……島風選手には申し訳ないですが、これで3回戦でビスマルク選手と戦うのは、長門選手になりましたね」


大淀「そうですね。この試合では精神の不安定さが見られましたが、既に長門さんは自分を取り戻しました。こういうことは二度とないでしょう」


大淀「あるいは、島風さんとの戦いで長門さんは一層揺るぎない強さを身に着けたかもしれません。熱くなっては勝てないと学ばれましたからね」


大淀「あのビスマルクさんを倒す可能性が一番高いのは、やはり長門さん以外にはありません。彼女には3回戦も大いに期待できると思います」


大淀「島風さんにとっては残念な結果になりましたが、長門さんを相手に見事な戦いぶりでした。この敗北もまた、成長の糧にしてほしいものです」


明石「ありがとうございます。接戦となりましたが、どちらも素晴らしい選手でした! 皆様、両選手を讃え、もう一度拍手をお願いします!」




試合前インタビュー:長門


―――決着の直前以外、失礼ながら長門選手は非常に冷静さを欠いているように思いました。やはり、陸奥戦を見られた動揺があったのでしょうか。


長門「そうだな、試合に全く集中できていなかったことを認めよう。あのときの私は陸奥のことで頭がいっぱいだった」


長門「恥じるべきことだが、島風との試合など、まるで眼中になかった。こんなものは3回戦に向けた消化試合に過ぎない、とな」


長門「それがあの体たらくだ。相手の良いように翻弄され、安い挑発に軽々しく乗った。まさしく愚か者の戦いぶりを演じてしまったな」


長門「その愚か者に落ちぶれた私の目を覚まさせたのは、他でもない島風だ。一瞬の隙を突き、今まで味わったことのない痛みを私に叩き込んだ」


長門「あれほどの一撃を許したのは、今までに経験がない。右目を潰された、灼けつくような痛みが私に正気を取り戻させたのだ」


―――試合を終えてみて、島風選手のことはどのように思われていますか?


長門「今まで戦ってきた中でも、指折りの強者だ。あいつを軽々しく扱おうとした私は本当に愚かだったと感じている」


長門「見劣りする体格で、よくぞあれほどまで技を練り込んだ。一撃で終わったのは時の運に過ぎない。全力の私でさえ、島風には手を焼くだろう」


長門「彼女には惜しみない賛辞を送りたい。素晴らしい選手だった。あいつと戦えて、私はとても嬉しく思っている」


―――次の相手はビスマルク選手です。何か……


長門「黙れ。あの女の名前を口にするな」


(長門選手の取材拒否につき、インタビュー中止)




試合前インタビュー:島風


島風「うっ……うわぁああん! 悔しい、悔しい、悔しい! もうちょっとだったのに! あとちょっとで私が勝てたのに!」


島風「ううっ……こ、こんなことで私、諦めないから! 今日は負けたけど、次は必ず勝つわ!」


島風「帰る! 帰ってまた練習する! 取材終わり! じゃあ、さよなら!」


(島風選手の帰宅につき、インタビュー中止)




明石「ご視聴の皆様、お疲れ様でした! これにて、本日の放送は一旦終了です!」


明石「持ち越しとなったエキシビションマッチ2戦目は、明日の午後22時より放送です! どうかお見逃しなく!」


大淀「それでは、今日のところはお別れしましょうか。またすぐお会いできると思いますので」


明石「そうですね! 出場者のほうも明日発表します! では、また明日お会いしましょう! ご視聴、ありがとうございました!」


―――2/13 22:00よりエキシビションマッチ2戦目放送確定。


―――最強の矛と最強の盾が、己の誇りを賭けて雌雄を決する。



―――翌日。2/13 22:00 大会運営委員長、寝坊する




大淀「……まだですか?」


明石「まだらしいですよ。さっき、大会運営委員長が本日2回目のカフェイン錠剤を摂取していました」


大淀「それって時間をおいて飲まないとダメな薬じゃありませんでしたっけ?」


明石「もうそんなことに構っていられないそうです。さっきまで寝てたから、寝起きでエンジンが掛からないんですよ」


大淀「あとどのくらいで始まりそうです?」


明石「……もう1時間?」


大淀「……そろそろ視聴者の方々もキレ出す頃ですよ」


明石「じゃあ、さっさと準備しろって急かしてきますね」


大淀「よろしくお願いします。キツ目の言い方でお願いしますね」


―――1時間後



大淀「えっ、まだなんですか?」


明石「はい。『あと30分!』って大会運営委員長が気違いのように叫んでましたよ」


大淀「これはもう、アレですね。赤城さんが『誰でも良いから殺したい』って呟いていたそうなので……」


大淀「これ以上遅れるなら、赤城さんを部屋に寄越すと言って来てください」


明石「わかりました。ついでにビスマルクさんもオマケしておきますか?」


大淀「いいですね。ビスマルクさんも追加で」


明石「了解です。早くしないと死ぬより恐ろしいことが待ってますよ、と伝えてきます」




大会テーマ曲

https://www.youtube.com/watch?v=7IjQQc3vZDQ




明石「はい、皆様大変長らくお待たせしました! これよりエキシビションマッチ、第2戦目を開催します!」


明石「昨日に引き続き、実況は明石、解説は大淀さんでお送りいたします!」


大淀「どうも皆さん。本当に申し訳ないです、こんなにお待たせした上に、今日もこの私の活躍をお見せできないなんて」


明石「誰も見たいなんて言ってませんよ! さて、本日はエキシビションマッチ2戦目の1試合のみの放送となります!」


明石「事前に告知があったかとは思いますが、エキシビジョンマッチは当初2戦のみの予定でしたが、リクエストを受け、3戦へと変更になりました!」


明石「そのため、本来2戦目に予定されていた対戦カードは3戦目に持ち越しとなり、本日の対戦はまた新たに組まれたカードとなっております!」


明石「あの2人のビッグマッチを楽しみにされていた方々には申し訳ありませんが、その対戦は次回放送日まで暫しお待ち下さい!」


大淀「ええ、どうぞお楽しみに。私にも出番があるはずですからね」


明石「……ありませんよ?」


大淀「まあ、いずれわかることですよ。そろそろ試合を開始しませんか?」


明石「はあ、そうですね……それではエキシビションマッチ2戦目、出場者の発表です!」


明石「まずは赤コーナーより選手入場! あの赤城さえ恐れさせた、脅威の立ち技ファイターです!」




試合前インタビュー:翔鶴


―――翔鶴選手は第一回UKF無差別級グランプリにも出場されていますが、今大会の出場選手に選ばれなかったことに不満はお持ちでしょうか。


翔鶴「悔しい想いはありますが、理解はしています。私はここのところ、敗北続きですから」


翔鶴「赤城さんを倒せず、榛名さん、日向さん、大淀さんにも敗北を喫しています。選ばれなかったのは、純粋に私が弱いからです」


翔鶴「エキシビションマッチに呼んでいただいたときも、何かの間違いだと思いました。私にそんな大舞台に立つ資格はないはずですから」


―――翔鶴選手は敗北してもなお実力を高く評価されていますが、今は自信を喪失していらっしゃるのでしょうか。


翔鶴「ふふっ、自信喪失だなんて。私、自分に自信があったことなんて今まで一度もありません。私は自信がないから練習ばかりしているんです」


翔鶴「試合ギリギリまで猛練習して、負けたら死ぬくらいのつもりで試合に臨むんですけど、それでもなかなか勝てないんです」


翔鶴「勝てないから自信がつかないのか、自信がないから勝てないのか、どっちなんでしょうね……どちらにしろ、私は精一杯やるしかないんですけど」


―――本日の試合に対する意気込みをお聞かせください。


翔鶴「そうですね……きっと今日負けたら、UKFの試合にもなかなか出られなくなってしまうでしょうね。運営側に干されてしまって」


翔鶴「余計なことは考えないようにして、とにかく勝ちに徹します。負けたら全部終わり、そういう覚悟で臨みたいと思います」




翔鶴:入場テーマ「Norther/Death Unlimited」


https://www.youtube.com/watch?v=EUUo9crSdf8




明石「立ち技格闘界に閃光の如く現れた不死身のファイター! 幾多の死闘に臨みながら、打撃によるダウン経験一切なし!」


明石「プロレスラーも裸足で逃げ出す打たれ強さ! 死神にすら嫌われ、地獄からも出入り禁止を食らった! もはや彼女の居場所は戦場のみ!」


明石「死してなお倒れない、五航戦の戦いざまを目に焼き付けろ! ”ウォーキング・デッド” 翔鶴ゥゥゥ!」


大淀「今日も沈んだ顔をされてますね。あんなに不幸オーラをまとって試合に臨む選手なんて、他にいませんよ」


明石「大淀さんは第一回UKF無差別級グランプリで、翔鶴選手と2回戦で対戦されていらっしゃいますよね」


大淀「ええ。そのときは私が勝ちました。目を潰して、足を折ってからフロントチョークを決めて一本勝ちです」


明石「……えげつない倒し方ですね」


大淀「仕方ないんですよ。そこまでやらないと翔鶴さんは倒せなかったんです。現に、足を折られても立とうとしてましたからね」


明石「はあ……では、実際に戦われてみて、翔鶴選手のことはどのように感じられましたか?」


大淀「最初からわかっていたことなんですけど、打撃で倒すのは無理だなと思いました。赤城さんとK-1で対決したときの例もありますからね」


明石「ああ、あの完全に意識を失っているのに打ち合いを続けたっていう……」


大淀「それですね。赤城さんとの3度目の対戦で起こった出来事ですが、翔鶴さんは3ラウンドの途中、まともにハイキックを食らったんです」


大淀「いわゆる操り人形の糸が切れた感じというか、一瞬そういう風に倒れ込みそうになったんですけど、直後に何もなかったように起き上がりました」


大淀「すぐに起き上がったのでカウントも取られず、また打ち合いを始めました。それからラウンドが終わって、コーナーに戻ったところ……」


明石「椅子に座って、それから2度と立ち上がらなかったんですよね。後日受けた取材によると、ハイキックの前後からまったく記憶がないと」


大淀「ええ。つまりは、ハイキックを受けた後からは、全部無意識というか、夢遊病患者のような状態で戦い続けていたということです」


明石「そんなことが有り得るんですかね……実際に起ったことではありますが」


大淀「それを可能としたのは、彼女の流派による練習の量と質ですね。彼女はあまりにも打たれ慣れているんですよ」


明石「翔鶴選手の流儀と言いますと、それはラウェイとなっていますよね。それはどんな格闘技なのでしょうか」


大淀「ミャンマーで行われている、ムエタイと似た格闘技です。肘ありの立ち技限定ルールという面では同じですが、いくつか異なる点があります」


大淀「まずはスタンド状態での投げ技が認められていること。首から下への頭突き、脊髄への打撃が認められていること」


大淀「何より大きな特徴は、グローブを嵌めず手に荒縄を巻いて試合を行うこと、即ちほとんど素手と変わらない状態で打ち合いをするんです」


大淀「フルコン空手も素手で試合を行いますが、顔面への打撃は許されていません。ですが、ラウェイではそれすら許されています」


大淀「彼女ほど素手の打撃勝負に慣れ親しんだ選手はいないでしょう。打撃に対する耐性においては、UKFの中でもトップクラスです」


大淀「下手をすると、ビスマルクさんに並ぶかもしれません。翔鶴さんは脳震盪にさえ対応してしまいますからね」


明石「情報を聞くと非常に実力のある選手に聞こえますが、翔鶴選手の戦績はあまり良いものではありませんよね」


大淀「そうなんですよね。新人ながら実力が高いぶん、誰も戦いたがらないような強い選手と試合を組まされることが多いんです」


大淀「関節や寝技が苦手という弱点を突かれることもあれば、榛名さんや赤城さんのような立ち技トップファイターに正面からぶつかるときもあります」


大淀「それでも、打撃でKOされたことはありません。負けるときは関節などの一本負けか、時間切れによる判定負けのみです」


大淀「翔鶴さんは強いんですけど、今までの相手が強すぎてあと一歩届かない、彼女の負け試合はそんなのばかりなんですよ」


大淀「要は運がないんです、彼女は。悪いのは運営ですね。スター選手への当て馬に使われているんですよ。本来ならもっと勝ち星は多いはずなのに」


明石「なるほど。なら、今回の舞台はうってつけですね。注目度の高い試合ですから、勝てばきっとスターダムにのし上がれますよ」


大淀「……どうでしょうね。相手が相手ですから、運営はまた当て馬として彼女を呼んだようにも思います」


大淀「まあ、それは翔鶴さん次第です。仮に当て馬扱いされても、勝てばいいんですから。ぜひ頑張っていただきたいですね」


明石「ありがとうございます。それでは、青コーナーより選手入場! 吹雪選手に続き、駆逐艦級二大王者のもう一角が姿を現します!」




試合前インタビュー:夕立


―――既に先の試合でライバルの吹雪選手が活躍されていますが、何か意識するところはありますか?


夕立「そうね~、元気になったみたいでよかったっぽい? 不知火ちゃんに負けた直後は、ずっと部屋に引き篭って泣いてたっぽいからね~」


夕立「ま、私も不知火ちゃんに負けてるんだけど、次は勝つっぽい! もちろん吹雪ちゃんにも勝つっぽいよ!」


―――本戦に出場した不知火選手、島風選手は既に敗退しております。同じ駆逐艦級として、ご自身が出場されていたら、どうなったと思われますか?


夕立「もちろん、優勝してるっぽい! 特に昨日の長門さんは調子が悪そうだったから、私なら絶対に勝てたっぽいよ!」


夕立「夕立の打撃は一撃必殺! 長門さんだってきっとKOしちゃうっぽいよ!」


―――初めての無差別級の試合に望まれるわけですが、緊張などはされていますか?


夕立「全然。ていうか、私ずっと運営に言ってたっぽい? 吹雪ちゃん以外の駆逐艦級は物足りないって!」


夕立「私の打撃は戦艦級にも通用するっぽいから、今日はそれを証明するっぽい! 夕立は初めから無差別級ファイターっぽいよ!」


夕立「目標は10秒! 10秒で翔鶴さんをKOするっぽい! ファンのみんな、応援よろしくっぽい~!」




夕立:入場テーマ「Devil May Cry 4/Shall Never Surrender」


https://www.youtube.com/watch?v=xIIYt5lcq3A




明石「一撃必殺! 格闘家なら誰もが夢見るその一撃を、完璧に体現したファイターがたった1人だけ存在する!」


明石「究極までに練り上げられたその技は、神速にして強力無比! 受ければガードごと骨をへし折り、内臓を破壊する!」


明石「戦艦級をも超えるその一撃が、無差別級の舞台ではどのように披露されるのか! 駆逐艦級二大王者! ”鋼鉄の魔女” 夕立ィィィ!」


大淀「登場としては、最後の駆逐艦級トップファイターですね。前回出場された吹雪さんと、唯一互角に戦える駆逐艦級の選手です」


明石「夕立選手の流儀は八極拳ですね。名前は中国拳法の一派としてよく聞きますが、どんな格闘技かはあまり知られていないんじゃないでしょうか」


大淀「そうですね。八極拳は超至近距離での白兵戦を想定した、一撃必殺の破壊力を重視する、中国拳法としては異色の流派です」


大淀「八極とは『八方の極遠にまで達する威力で敵の門を打ち開く』、つまり相手の防御を打ち崩して一撃を入れるということを意味しています」


大淀「近距離での威力に優れる分、射程距離には難があるわけですが、夕立さんは相手の動きを見切って懐に滑り込む、という技量でカバーしてます」


明石「となると、完全なストライカー型の選手というわけですね。投げ技や寝技は持っていないと?」


大淀「寝技は全くありませんね。ストライカーとしての能力が優れていますから、グラウンドに持っていかれること自体が皆無ではありますが」


大淀「投げ技に関してですが、実は八極拳には投げ技もあります。しかし、夕立さんはそれを全く使うことができません」


大淀「それ以前に、夕立さんの八極拳は正統派のものではないんです。彼女の八極拳にはより一撃に特化した、独自のアレンジがなされています」


大淀「八極拳には『頂肘』という肘打ち、『鉄山靠』という背中で相手に激突する技があります。彼女の必殺技は、これを組み合わせたものです」


大淀「『鉄靠背肘撃(てっこうはいちゅうげき)』。後ろ回し蹴りのように体を回転させ、遠心力と震脚による踏み込みで全体重を肘に乗せて叩き込む」


大淀「これが夕立さんの必殺技です。当たれば内臓が破壊され、ガードしても腕ごと肋骨を叩き折る。戦艦級をも一撃で葬りさってしまうでしょう」


明石「夕立さんはほぼ全試合をこの技で決めていらっしゃいますよね。しかも、試合開始30秒以内に」


大淀「ええ。一見、大振りで隙の多い技ですが、彼女のファイトスタイルはこの一撃を確実に叩き込むために組み立てられていますので」


大淀「まず、技の練り込みが半端ではないので、大振りなのに凄まじく速いんです。射程距離に入られて打たれたら、絶対に躱せません」


大淀「となると間合いに入られないよう距離を保って戦うのが良さそうですが、震脚による夕立さんの踏み込みは、一気に間合いを詰めてしまいます」


大淀「更には鉄靠背肘撃に見せかけた後ろ回し蹴り、裏拳などの打撃技も警戒すべき威力を持っています。スタンドではまるで隙がないんですね」


明石「なら……一番安全そうなのは寝技に引き込むことですね。吹雪選手も夕立戦ではそれで勝利を収められていますが……」


大淀「それは間違いありませんけど、相手の翔鶴さんも寝技は全くない選手ですからね。せいぜい、テイクダウンを取って上から殴る程度です」


明石「となると、展開としては完全なスタンド勝負、ということになるんでしょうか?」


大淀「ええ。武蔵VS赤城戦ではその予想をものの見事に外してしまいましたが、この試合ばかりは間違いなくそうなると思います」


大淀「ただですね……夕立さんのファイトスタイルは今お話した通りですが、問題なのは翔鶴さんのファイトスタイルなんですよ」


明石「えーと、翔鶴選手もストライカータイプの選手ですよね。何か問題が?」


大淀「ええ。翔鶴さんのファイトスタイルで最も特徴的なところはですね、相手の攻撃を避けないんですよ。ガードすらしないことだってあります」


明石「それは……それだけ自分の打たれ強さに自信があるからでしょうか」


大淀「それもありますが、打たれ慣れているぶん、受け方を知っているんです。つまり、打点をずらして打撃のダメージを半減させる受けですね」


大淀「避けたりガードすると、それだけ攻撃の手が止まりますから。打たれながらも相手を徹底的に打ち負かす、それが翔鶴さんのスタイルです」


大淀「赤城さんや榛名さんの打撃に耐え抜くくらいですから、その耐久力は計り知れないものがあります。しかし、今日の相手は……」


明石「……UKFでも最強の一撃を放つと言われる夕立さんですよね。まさか、夕立さんの打撃も避けないと……?」


大淀「わかりません。ただ、翔鶴さんが打撃を躱すところは今まで見たことがないんです。そういう戦い方だけを磨いてきた人ですから」


大淀「注目すべきは、どちらが先に一撃を入れるかです。夕立さんは打撃力こそ戦艦級でも、打たれ強いというわけではありませんから」


大淀「階級が上の翔鶴さんも、夕立さんを一撃でKOする打撃力を持っています。もしかしたら、一瞬で試合が決まるかもしれません」


明石「なるほど……ありがとうございます。さあ、両選手がリングインしました! この身長差、無差別級グランプリではもはや見慣れた光景です!」


明石「余裕の笑みで相手を見上げる夕立選手、それを静かな眼差しで受け止める翔鶴選手! 一流のストライカー同士、どのような戦いになるのか!」


明石「ゴングが鳴りました、試合開始! 両者、迷いなくリング中央へ歩みを進めます! みるみる間合いが狭まっていく!」


明石「自信に満ちた笑みの夕立選手に対し、戦いに臨む者とは思えないほど静かな表情の翔鶴選手! 両者の接触まであとわずか!」


大淀「えっ、ちょっと……まさか!」


明石「間合いに入っ……あっ、ああーっ! だ、ダウン! 両選手が同時にダウンしました! 相打ち、相打ちです!」


明石「夕立の鉄靠背肘撃が翔鶴選手に炸裂! しかし、同時に翔鶴選手も打ち込んでいた! こめかみへの肘打ちです!」


明石「当たったのは全くの同時! どちらの打撃も完全に入りました! 立ち上がれない! 両選手、立ち上がれません!」


大淀「ほ……本当にやるなんて。翔鶴さんは初めからこれを狙っていたんです。夕立さんの一撃を受け切っての肘打ちを……」


大淀「離れた距離からの打撃だと、懐に飛び込まれて一撃を受ける可能性が高い。だから確実に自分の打撃を入れるために、あえて打たせた……!」


明石「夕立選手は仰向けに倒れ、立とうとはしていますが意識が定かではない! 翔鶴選手は脇腹を抑えてうずくまり、動けないでいます!」


明石「まさか、ダブルKOとなるのか!? 先に立ったほうが勝者となる! どちらが先に立つのか!」


明石「あっ、夕立選手が立ちます! 足元はふらついていますが、辛うじて立ちました! 夕立選手、健在!」


明石「頭部からは肘打ちで皮膚を切ったのか、かなりの出血が見られます! 焦点も定かではありませんが、しかし立っている! 翔鶴選手はどうか!」


明石「翔鶴選手も立ちます! ゆっくりと立ち上がり、足取りもしっかりしている! 表情も穏やかで、ダメージを一切感じさせません!」


明石「両選手が再び対峙しました! 改めて構えを取ります! 夕立は八極の構え、翔鶴選手はライトアップ気味のファイティングポーズ!」


明石「先ほどの壮絶な相打ち劇はほんの挨拶! ここから本当の戦いが始まるとでもいうような緊張感です! 両選手、ダメージはどうなのか!」


大淀「一見するとダメージが大きいのは夕立さんですが、脳震盪ですから時間で回復します。翔鶴さんのほうは、むしろ立っているのが不思議です」


大淀「夕立さんの鉄靠背肘撃は完全に入っていました。おそらくレバーにまともに当たってしまったんじゃないかと思います」


大淀「本来なら、KO必至の地獄のような痛みが翔鶴さんを襲っているはずです。しかし、翔鶴さんは精神力でそれに耐えています」


大淀「限界が近いのは翔鶴さんのほうでしょう。これ以上、勝負が長引くことはない……」


明石「両者、じりじりとサイドに回り、距離を取り合っております! 警戒している! 互いに一撃を警戒しています!」


明石「夕立選手に先ほどのような余裕の笑みはありません! 無理もありません、あの一撃を入れて立ち上がられたのは初めての経験!」


明石「翔鶴選手、恐るべし! 翔鶴選手にとっても、打撃でうずくまるような経験は初めてだったに違いありません!」


明石「今までの相手とは違う! 互いにそれを認め合っている! ならばこそ負けられない、その気迫がリング上に渦巻いています!」


明石「まずは夕立選手が間合いを詰める! 振りかぶった! 再び出るか、鉄靠背肘撃!」


明石「いや、フェイントです! フェイントからのローキック! 翔鶴選手はびくともしない! フェイントにも全く反応しません!」


明石「再び夕立が仕掛ける! 振りかぶった! 今度は脇腹へのバックハンドブロー! 先ほど打撃を入れた傷口を狙う!」


明石「当たっ、いやカウンター!? 翔鶴選手、同時に右ストレートを放った! 夕立選手、紙一重で回避!」


明石「あわやKOというパンチを辛うじて躱しました、夕立選手! 追撃を警戒してか、再び大きく距離を取った! 翔鶴選手も追い打ちはしない!」


明石「再び間合いを取って対峙! 手に汗握る攻防が続きます! どうやって先に一撃を入れるかというこの勝負、どちらが制するのか!」


大淀「どちらも危なっかしい戦い方をしますね。さっきの打ち合い、どちらがKOになっていてもおかしくありませんでしたよ」


大淀「夕立さんの裏拳を、翔鶴さんは打点をずらして受けました。でも、傷が深いからずらしても痛みが響いたんでしょう」


大淀「その痛みでカウンターパンチの軌道がブレて、夕立さんも運良く打撃を躱せました。夕立さんはゾッとしたでしょうね」


大淀「翔鶴さんは立っている方がおかしい傷を負っています。あえてその傷付近を打たせてカウンターを取ろうなんて、危なっかしすぎますよ」


明石「さあ、対峙した両選手! 今度は互いに動きがなくなりました! 夕立選手もなかなか仕掛けようとしない!」


明石「様子を伺うように、ゆっくりと翔鶴選手の周囲を回ります! 翔鶴選手も自らは仕掛けない! 相手から来るのを待っています!」


大淀「もしかしたら、翔鶴さんは動かないのではなく、動けないのかもしれませんね。限界に近いダメージを負っていますから」


大淀「内臓へのダメージは、回復するどころか時間が経つほど響いてきます。既に翔鶴さんは、立っているのが精一杯なのかもしれません」


明石「なるほど! 確かに翔鶴選手、表情は穏やかですが、額には玉のような汗が浮かんでいます! もはや動くことすら出来ないのか!」


明石「夕立選手もそれに気付いた模様! じわりと間合いを詰めます! 夕立選手も冷たい汗を掻いている! その汗は緊張からか、恐怖からか!」


明石「翔鶴選手の拳の間合いに入りました! この距離、夕立選手の必殺の間合いでもあります! そこで歩みを止めた! 両者、動かない!」


明石「まったく動かない! 互いに死の間合いに位置しながら、動こうとしません! これはおそらく、どちらもカウンターを狙っている!」


明石「まるで剣豪の立ち会いです! 先に動いたほうが負ける、それをどちらも理解している! だから動かない、動きたくても動けない!」


明石「両者が近距離で対峙してから30秒が経過! どちらもこの数十秒が永遠のように長く感じていることでしょう! 先に動くのはどちらか!」


大淀「こうなると、集中力の持久戦になります。先に集中力を切らしたほうが負ける……!」


明石「時間は1分を経過! 心なしか、互いの表情が張り詰めて参りました! どちらも精神的な限界が間近に迫っている!」


明石「八極拳とラウェイの構えが対峙し続ける! 次の瞬間に勝負が決まってもおかしくありません! 勝つのは夕立か、翔鶴か!」


明石「動いた! 同時、同時です! まったく同時に仕掛け合った! 必殺の鉄靠背肘撃が放たれる! 翔鶴、再び肘打ちで迎え撃つ!」


明石「きっ……決まっ……!? 両者、お互いの技をまともに食らった! しかし、リングにただ1人だけが立っている!」


明石「立っているのは翔鶴、翔鶴選手です! 信じられません、夕立選手の一撃必殺を、2度に渡って受け切りました!」


明石「夕立選手はこめかみへの肘打ちでダウン! 今度は完全に失神しています! 立ちません! 文句なしのKO勝ち!」


明石「壮絶な幕切れとなりました! 翔鶴選手、UKF最強の一撃を受け切ってのKO勝利! 五航戦の強さをここに知らしめ……あっ!?」


大淀「無理もないですよ……本当に、とんでもない戦い方をする人ですね、翔鶴さんは」


明石「翔鶴選手が倒れました! か、完全に意識を失っています! これは……どうやら、立っていた時点で既に意識がなかったようです!」


明石「えー、少々お待ち下さい! 審議のほうを……はい、はい! わかりました!」


明石「ルール上、ダブルKOの場合は一旦引き分けとし、再試合となります! しかし、翔鶴選手は確かにリング上に立ち続けていました!」


明石「よって、勝者は変わらず! 勝ったのは翔鶴選手、翔鶴選手です!」


大淀「たぶん、レバーは完全に潰されていますよ。意識を失ったのは、限界を超えた激痛によるものでしょうね」


大淀「夕立さんの打撃を受け切って勝とうとするなんて、無謀過ぎます。まるで死にたがっているかのような戦い方ですよ」


明石「それでも、翔鶴選手は勝ちましたね。ほとんど相打ちに近い形ですが……」


大淀「私も驚いています。まさか、夕立さんの一撃必殺を正面から2度受け止めて、それで勝つなんて。まったく有り得ないことですよ」


大淀「翔鶴さんは以前から個人的に注目しているファイターでしたが、ここまで常軌を逸しているとは思ってもみませんでした」


大淀「彼女はあと1歩でトップファイターに仲間入りする実力を身に着けるでしょう。今日の勝利をその足がかりにしてほしいですね」


明石「ありがとうございます。どちらの選手も素晴らしいファイトでした! 皆様、両選手を讃え、もう一度拍手をお願いします!」




試合後インタビュー:翔鶴


―――接戦を制しての勝利となりましたが、今のお気持ちをお聞かせください。


翔鶴「嬉しいといえば、嬉しいです。ただ……変な気持ちです。死力を尽くして勝ったのに、まだ物足りないような……」


翔鶴「今日の試合を通してわかったんですけど、もしかしたら……本当は、私はあまり勝ちたくないのかもしれませんね」


翔鶴「死力を尽くして、限界を超えて、その果てで燃え尽きるように敗北する……それが私の望んでいる戦いなのかもしれません」


翔鶴「夕立さんはとても強かったです。今まで私を負かした選手たちに全く劣らない実力だと思います。勝てたのは……珍しく運が良かったんです」


翔鶴「というより、実質は引き分けですよね。ルールに救われたというか……後で、ファイトマネーを半分お渡ししに行こうかと思っています」


―――今日の勝利を通して、今後に対する心境の変化などはありますか?


翔鶴「少しだけですが、これからの展望が明るくなったように思います。一応勝ちましたから、またUKFにも出してもらえるでしょうし」


翔鶴「今後も練習に励みます。もっと強くなって、もっと強い人たちと戦いたい、というのが私の望みです」


翔鶴「夕立さんとも、また戦いたいです。今日は引き分けだと思いますから、もう一度、心ゆくまで勝負したいですね」



試合後インタビュー:夕立


―――翔鶴選手をどのように思いましたか?


夕立「強いっていうより……とんでもないっぽい。私の必殺技を受けて立ち上がった相手なんて、今までいなかったのに……」


夕立「しかも2回受けても立ってるなんて、ちょっと自信を失くしちゃうっぽい……まだまだUKFには強い人がたくさんいるっぽいね」


夕立「でも……絶対次は勝つっぽい! 忙しくなってきちゃったね、吹雪ちゃんに不知火ちゃん、翔鶴さんにもリベンジしなくちゃ!」


夕立「今日は負けちゃったけど、次は絶対グランプリに出られるよう、頑張るっぽい! 本戦には、もっと強い人がたくさんいるんでしょ!?」


夕立「私、そんな人たちともっと戦いたい! だから、もっともっと強くなって、どんな相手にも勝てるようになるっぽい!」


夕立「今、島風ちゃんが練習してるんだよね? 私の練習にも付き合ってもらうっぽい! それじゃ、バイバイ!」


(夕立選手の帰宅により、インタビュー中止)



明石「えー皆様、お疲れ様でした! これにて本日の放送は終了となります!」


明石「次回はUKF無差別級グランプリ、3回戦! A&Bブロックそれぞれの決勝戦と共に、エキシビションマッチ3戦目、計3試合を行います!」


大淀「3回戦ともなると、残っている選手のレベルはぐっと高くなります。今まで以上に激しい戦いになるでしょうね」


明石「では、対戦カードのほうを確認してみましょう! こちらです!」


Aブロック決勝戦


戦艦級”不沈艦” 扶桑 VS 戦艦級”破壊王” 武蔵



Bブロック決勝戦


戦艦級”ベルリンの人喰い鬼” ビスマルク VS 戦艦級”ザ・グレイテスト・ワン” 長門



エキシビションマッチ3戦目

非公開



明石「これは……Aブロック、Bブロック、どちらの対戦もアレですね。因縁の対決というか……」


大淀「ええ。性質としては真逆ですが、どちらも『リベンジ』を賭けた戦いになります」


大淀「勝敗がどうなるか、まったく予想が付きません。死闘になることは間違いありませんけどね」


明石「エキシビションマッチも楽しみですね。実質、リクエストの1位と2位ですから、もう誰が出るかは予想が付くかとは思います」


大淀「ええ、本当に楽しみです。私もしっかり準備しておきたいと思います」


明石「……大淀さんになぜ準備の必要が?」


大淀「知ってますか? エキシビションマッチ3戦目のみ、ファイトマネーの額が違うんです」


大淀「1戦、2戦目は3000万円勝者総取りでしたが、3戦目のみ5000万円なんです。どちらも注目選手同士ですからね」


明石「はあ……だからなんです?」


大淀「うふふ、秘密です。でも、お約束します。きっと視聴者も、明石さんもびっくりすると思いますよ」


明石「はあ、そうですか……では、次回の放送予定日ですが、既に確定しております!」


明石「次回は2/26(金) 22:00より放送予定です! ぜひお見逃しなく!」


大淀「次は放送が遅れるようなことは絶対にしてほしくないですね。大丈夫でしょうか?」


明石「大丈夫です。薬と栄養ドリンクの貯蔵は十分ありますから」


大淀「そうですか……では、次回放送日にお会いしましょう」


明石「はい! それでは皆様、また次回! 本日は放送が遅れて申し訳ありませんでした! 次回放送日のほうも是非見に来てください! よろしく!」



―――かつての借りを返すため。愛する者を辱められた復讐のため。2つの因縁の対決が幕を開ける。


―――死闘の裏で、欲に目の眩んだ大淀が暗躍する……次回放送日、2/26(金) 22:00より



後書き

今後の参考にさせていただくため、良かったらアンケートのご協力をお願いします。

UKF無差別級グランプリアンケート

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2017-06-26 07:55:58

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このSSへのコメント

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1: SS好きの名無しさん 2016-02-15 21:04:34 ID: VXUuc6AX

龍驤・・・独特なシルエットが更に独特に・・・
そして部屋に引き篭って泣いてた吹雪ちゃんkawaii


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