提督「曙と」曙「約束」
溜まった妄想を消化するためだけに書いた駄作中の駄作なのです
注意書きナリ。このSSには、
・ここで(誤字・脱字)出したら中学生活終わるナリ
・(文章構成)ダメです
……。
唐澤貴洋(授業中に出したら中学生活終わるナリ…)
唐澤貴洋(そうだ、大声出して音をかき消すナリ!)
唐澤貴洋「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
先生「唐澤貴洋くん、ど、どうしたんだいきなり大声出して」
唐澤貴洋「なんでもな(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! )」
「……は?」
いきなり大本営に呼び出され、そこで言い渡されたのは。
「……本当に、すまない」
今日限りで、提督を辞めろという命令だった。
「な、なんで……」
「艦娘に対するパワハラやセクハラだ……表向きはな」
何時になく真剣な顔の元帥は、しかしながら此方に目を合わせずに言う。
「表向き、とは?そもそも、俺はそんなこと……」
身に覚えがない。
「分かってる。君がそんなことをする者ではないと、私が1番知っているのは君も承知の上だろう?」
「……まあ」
暫くして此方を向いた元帥の目には、悔しさが滲んでいた。
「……君も覚えているだろう、奴だ」
元帥の言う『奴』とは、軍学校での級友、同時に提督に着任したA(仮名)のことだろう。
「奴は君を毛嫌いしていた。事ある毎に君の邪魔をしようと企んではいたが、それは全て私が握り潰していた」
「まさか、奴の仕業だと?」
「ああ。奴は小賢しいからな、そこらの奴は言いくるめられてしまったのだろう。適当な嘘をでっち上げて君を弾劾、追放するつもりらしい」
しかし、元帥ならばなんとでもやりようが……。
「もう、止められない所まで来てしまったのだ。ここで私が手を出せば、最悪の場合軍ごと奴に乗っ取られる」
「……乗っ取られる?」
元帥は、より一層悔しそうな表情を浮かべ。
「……奴は、君の鎮守府の後継人になると吐かしている」
「ッ!」
「……こちらも、奴を極刑にかけるための証拠を集める。裏切り者は、極刑が妥当だ。君が直ぐにでも戻れるように努力する。だから、それまで……待っていて、くれないか」
・・・
「……」
「ん、お帰りクソ提督」
鎮守府の執務室に入ると、いつものように曙が。
「……」
「なによ、元気ないわね。クビの宣告でもされたの?」
冗談めかして言う曙。
「……ああ」
「……ぇ」
整理していたらしい資料が、曙の手から滑り落ちる。
「……う、そ」
「……すまない」
曙は、呆然とその場に立ち尽くす。
「……そんな、なんで」
「……説明したら長くなるが……」
かくかくしかじか。
「……な、あ……」
何かを言おうとしては、それを飲み込み。それを幾度か繰り返し、最終的に。
「……ケッコンは?」
「……」
「約束、したわよね。私の練度が最大になったら、って」
「……ああ」
「私、もう98。ケッコン目前なのよ」
「……っ」
「それ、なのに……っ、あんたは……!」
涙が零れる。
「出て……行っちゃうの……?」
「……すまない」
これしか言えない自分を殴りたくなる、いっそ殺したいほどに。
「嫌、いや、いやぁ……!」
顔をくしゃくしゃに歪ませた曙が、震えた声で叫ぶ。
「行かないでよ、あんたがいないと、わたしっ……」
声にならない声を洩らしながらすすり泣く曙。
「……ごめん」
「……!」
今の自分に出来ること。それは、曙を抱きしめることだけだった。
「……クソ、提督」
「俺だって、ここから……お前から離れたくない。でも、こうするしかないんだ。お前達が被る被害を、最も少なくする為に」
「そんなの、いらないからっ……ここに、居てよ……居なさいよ……っ!」
「……曙」
「ぇ……」
より一層、強く抱きしめる。
「……絶対に帰ってくるから。それまでは、待っていてくれ」
「でも……でも……っ!」
「……『約束』、守るために」
「……っ」
自分でも卑怯だと思う。何せ、曙が約束に縛られているのを知っている上でこの言葉を使ったのだから。
「……分かったわ、その代わり」
泣き腫らした顔で、しかし気丈に。
「……絶対に、帰ってくること。これも、『約束』だから」
「……ああ、必ず」
・・・
鎮守府を出た。ほんの数年とはいえ、濃い日々を過ごした場所だ。やはり、離れることに抵抗を覚えてしまう。
「……来たか」
元帥からの迎えの車。曰く、証拠が見つかるまでは大本営に住み込みで働いてほしいとのこと。身の危険もないし、最も合理的だと言えよう。
「さ、乗ってください」
運転してきたらしい大淀に急かされる。
「……待ってろよ、みんな。必ず戻ってくるから」
・・・
翌日。
「えー、本日よりこの鎮守府の提督となります。Aと申します。前任の提督と比べればまだ頼りないかもしれませんが、皆さんと共に頑張りたいと思います」
着任してきたのは、クソ提督の言った通りの猫かぶり野郎だった。
「……ふん」
「曙ちゃん。寂しいのは分かるけど、ちゃんと挨拶しなきゃ。あの人、いい人そうだよ?」
「……潮、後で艦娘全員を集めて集会所に来なさい」
「ふぇ?」
・・・
大淀に連れられ、元帥室へ。
「待っていたよ、提督くん。いや、もう提督ではなかったか」
「はぁ」
「釣れないなぁ、もう少し愛想よくしてくれてもいいんだぞ?」
「クビになった後にそんなことができるとでも?」
「ははは、それもそうか。だが安心するといい、絶対に君を提督に戻してやるからな」
「ありがとうございます、先せ……元帥」
うっかり口が滑る。
「まったく、君はまだ学生気分なのか?可愛い奴だな」
「……すいません」
「なに、謝ることはないさ。久しぶりにその呼び方をされたし、君にそう呼ばれると心地いい」
「はぁ」
「さて、話は変わるが、君の職場を紹介しよう。ついてきたまえ」
・・・
「曙、わざわざ皆を呼び出すなんてどういうつもりにゃしぃ?」
「teatimeに遅れるので、早くしてほしいデース!」
「……皆、伝えておかなくちゃいけないことがあるわ。あの提督は、信じちゃいけない」
このことを伝えなければ、皆もいずれ取り込まれてしまう。
「はぁ、何それ?あんた、大丈夫?」
霞が訝しげに聞いてくる。
「大丈夫よ、失礼ね。……とにかく、必要以上に接しないこと。分かった?」
「「「……」」」
周りからの視線は冷たい。やはり、自分の言うことは妄言だと思われているのだろうか。
「……それだけなら、もう行きマース」
「ま、待って!あーもう、最後の手段!青葉さんっ!」
「はい!そうくると思って、準備してました!」
・・・
「ここは……?」
「端的に言えば秘密基地だな」
「秘密基地?」
「うむ。私と君、2人しか出入りできない秘密の部屋だ」
その響きに、なんとも言えないいかがわしさを感じる。ここで補足しておくが、元帥は女性だ。年齢は推定20代後半から30代前半。絶世の美女だ。軍学校時代の恩師で、自分たちが提督になったときに、同時に元帥になったらしい。
「で、ここで何を?」
「証拠集めだ。他の者には奴の息がかかっているかも知れないからな、自分たちで動くほかないだろう」
ごもっともな意見だ。
「必要なものがあれば、何でも言ってもらって構わない。全て経費で落とす」
それでいいのか元帥、とツッコミたくなるが、今はそれどころではない。
「じゃあ、早速。奴に関する資料を全て」
・・・
青葉さんに頼んだのは、盗聴データの公開。『万が一に備えて』という名目で、執務室に備え付けてあるとは青葉さん談。
「……なるほど、司令官が言うのなら間違いなさそうだぴょん」
「せやな、危うく騙されるとこやったわ」
「……と、とりあえず。あの提督は信じちゃいけないってことは分かってもらえたかしら?」
全員から同意を得る。
「私から伝えたいことはこれだけ。他に何かある人は?」
「おう、ちょいと提案があるんだが……」
・・・
「ふむ、奴の経歴を調べるか。しかし、あまり期待は出来ないな」
「と、言うと?」
「奴のことだ、不都合をもみ消すための経歴詐称は当然のようにしているだろう」
「まぁ、調べないよりはマシかと」
「む、それもそうか。では、直ぐに準備しよう」
・・・
「天龍さん、何?」
「いっそ謀反でも起こしちまえばいいんでねえの?そしたら直ぐにビビって出ていくだろうに」
「……駄目ね。クソ提督にやめとけって言われてるわ。反逆の罪で、最悪全員解体も有り得るそうよ」
「……そうかい、そりゃあ野暮なことを聞いちまった」
・・・
「……ふむ」
資料を流し読んでいると、どの資料にも、ある一点だけ、不自然に辻褄合わせがされているように感じる。
「これは……1年前か」
ちょうど、Aが鎮守府の場所を変えたときのことだった。
・・・
「他にはない?」
全員から同意の頷き。
「じゃあ、解散。この話は、あいつにはもらさないこと」
・・・
「……1年前にも、同じ手口を?」
「はい、その可能性は高いかと」
「なるほど、奴の前の提督に当たってみよう」
「ありがとうございます」
「ああ、それと」
くるっと此方に向き直り。
「二人きりのときは、私のことは先生と呼びたまえ。これは命令だ」
「え」
「それだけだ。では、引き続き頑張ってくれ」
元帥が何を考えているのか、全くもって理解ができなかった。
・・・
「これ、お願いします」
「ああ、分かった」
秘書艦は長門さんが指名された。恐らくこの鎮守府で最も心が強いからだろう。
「……あー、長門さん」
「む、何だ。用がないのなら後にしてほしい」
「うっ……いや、なんでもない」
私の忠告通り、無駄な会話は控えている。クソ提督が帰ってくるまで持ち堪えることが出来ればと思う半面、何故か胸騒ぎを覚えていた。
・・・
「提督くん、恐ろしいことが分かったよ」
元帥によると、以前奴の元で働いていた艦娘達は、例外なく洗脳を施されていたらしい。
「……」
「君の部下が心配なのは分かるが、今はまだ其の時ではない。機を見計らって、最高のタイミングで仕掛けよう」
「……はい」
しかし、その機は中々回ってこなかった。
・・・
異変を感じたのは数日後。長門さんが、あいつと馴れ馴れしく話をしている所を聴いてしまった。
「……なんか、怪しいわね」
「そうネー、不自然すぎマス」
「次の秘書艦はどうするクマ?」
「……加賀さんに指名が来てるわ」
「……私?」
「ええ。クソ提督にもなびかなかった、鉄の心の持ち主よ」
「……鎧袖一触ね」
・・・
「……くそっ」
時間が経つにつれ、焦りはより一層大きくなる。
「何か、何かないのか……!」
しかし、何もない。探せど探せど、不自然な資料が出てくるだけだ。
「……そうだ、あいつらに……」
・・・
「加賀さんが、陥落……?」
青葉さんから、とんでもない情報を聞く。
「はい。青葉の盗聴器から、とんでもないものが聞こえたんです」
「……それは、どんな内容だったの?」
「ある一点。そこを過ぎたあたりから、急に」
……ここで動かずして、いつ動くと言うのか。
「……次、青葉さん。秘書艦お願い。あいつのことだから、頼めばOKでしょ」
「えぇっ?あ、青葉ですか!?まあいいですけど……」
「それと、秘書艦になるにあたってしてほしいことが……」
・・・
「……で、俺の所まで来たと」
「ああ。何か知っていることはないか?」
訪ねたのは、Aと仲が良かったBの所。
「……1つだけならあるが」
「ほ、本当か!?」
Bは顔を顰め。
「……口にするのも恐ろしいことなんだが」
「頼む、緊急時なんだ……!」
「……分かった」
・・・
「……ほう、面白そうですね!直ぐに準備します!」
「任せたわ。潮、あんた確かクソ提督のメアド知ってたわよね」
「う、うん」
「教えなさい。今すぐ」
恥ずかしながら、『常に傍にいるから』という理由でメアドの交換をしていなかった。ここで裏目に出るとは思いもしなかったが。
「今の状況だけでも、あのクソ提督に知らせなきゃ……!」
・・・
「……と、言う訳なんだ」
「……あの下衆め」
あらかた話を聴き終わった所に、1件のメールが。
「……これは」
携帯に登録こそしていないものの、このアドレスは……。
「曙……」
すぐさまメールを開く。
【長門、加賀が】
うちの鎮守府の2強と呼ばれる2人の名。2人がどうしたというのだろうか……?
【2人が奴に取り込まれた。どちらも秘書艦になって数日したら、人が変わったかのように親密に。様子を見て、何か分かり次第報告する】
「おう、こいつぁマズいな。早めに手を打った方がいい」
Bに促され、そのままメールに返信する。
【気をつけろ】
話によると、Aは既に軍学校の頃から洗脳を図っていたらしい。奴がBに教えた内容としては、『この催眠は、他の誰かへの忠誠心が高い者ほど効果が出やすい。また、催眠の条件は、二人きりであること』とのこと。長門や加賀は、恐らく俺のことを慕っていてくれたのだろう。それが裏目に出たか。となると、曙は……。
【奴の秘書艦には、死んでもなるな】
・・・
「……きたわ」
【奴の秘書艦には、死んでもなるな】
「……ふん、そんなの当たり前よ。あんたの横以外に立つ気は無いわ」
「……曙ちゃん、青葉さんが入ったよ」
青葉さんには、監視カメラの設置を頼んだ。何故急に親密になったのか、その原因を探るためだ。話術が巧みだというのなら対策のしようがある。
「……とりあえず、数日は様子を見るわ。潮、交代要員も確保しておいて」
「う、うん!任せて!」
……奴は、もしかすると……。
・・・
「……」
ここのところ、中々進展が無い。奴の空白期間、そこに何があったのかを調べなければ……。
「提督くん、いい情報が入ったよ。直ぐに来てくれ」
・・・
「……ん?」
カメラを見ていると、不意に画面が光る。
「ちょ、巻き戻しってどうだっけ」
「んぁ?あー、そのボタン」
横になっている秋雲に教えてもらい、直ぐにリピート。
「……これは!」
「なになに?どしたの?」
「重要な証拠よ。あいつを蹴落とすための」
……数日後、やはり青葉さんは奴に取り込まれていた。
・・・
「ええと、君たちが1年前にAの下にいた?」
「はい、赤城です」
「同じく、陸奥よ」
聞けば、2人は現在の長門や加賀同様に、催眠にかけられていたという。
「……訊きたいことは色々あるけど、まずひとつ。催眠された瞬間の前後の記憶とかは?」
「すみません、全て消されてしまっているようです。催眠にかかっているときの記憶はあるのですが……」
「私たちも彼を訴えようとは思ったんだけど、最も重要なそこが欠けているせいでね……」
溜息交じりに話す陸奥。
「催眠について、何か分かることは?」
「そうですね……強い艦娘から順に、という感じです」
「自分から秘書艦になりにいった娘は別だけどね」
強い艦娘と言われ、長門や加賀が頭に浮かぶ。うちの鎮守府であの2人に続いて強いのは……。
「曙……」
練度もほぼ最大、実力も申し分なしだ。とても駆逐艦とは思えない働きぶりで、自分の右腕を担ってもらっている。
「無事だと……」
いいんだが、と言いかけ、直ぐに止める。言霊が宿るようなことはしないほうがいい。
「……催眠の解き方とか、分かるか?」
「いえ……。彼が去った日に、身体に自由が戻りました」
「ええ。それ迄の間は、こちらからは干渉できなかったわ。内側から解く方法は、恐らくないと思ってもらっていいと思うわよ」
催眠のコントロールは奴が?いや、それなら今も催眠状態にあるはず……。
「とりあえず、二人ともありがとう。また、何か思い出したら連絡してくれ」
「はい、お任せ下さい」
「そっちも頑張ってね」
・・・
「……ついに、か」
あいつからの指名。尻尾を掴むいいチャンスだ。
「潮、しっかり見てなさい。三日目あたりでボロを出すはずよ」
「う、うん」
・・・
何か胸騒ぎがしてならない。とてもマズい事が起きている気がする。
「提督くん、大丈夫か?凄い顔をしているが……」
「は、はい……。大丈夫ですよ、先生」
「……ならいいが。私は君が心配なのだ、何せ愛しているからな」
……先生の『愛してる』は、恋愛の方ではなく慈愛の方だ。この人は、少なくとも自分にはそういった感情は抱いていない……はずだ。
・・・
「えーと、じゃあ宜しくね」
「はっ、宜しくするつもりはさらさら無いわ」
軽く牽制の意を込めて暴言を吐く。
「……そっか。ま、とりあえず執務をしよう」
・・・
「……ん?」
着信が入る。この番号は……。
「もしもし、曙」
『悪いわね、クソ提督。今、奴の秘書艦を担当してるわ』
「なっ……!?」
『安心して。私はまだ洗脳されてない』
「……洗脳のことを、知っているのか」
『気づいたのは数日前だけどね。あいつは……奴が戻ってきたわ、ここでおしまい。何か分かったら、すぐ報告するから』
通話を切り、大きく息を吐く。
「……頼むから、無事で居てくれよ」
・・・
そして、数日が経過。
「……」
恐らく、奴は今日仕掛けてくる。
「……潮、あとは任せたわ」
「う、うん。曙ちゃんも、危ないと思ったら直ぐに逃げるんだよ?」
「分かってるわよ、そんなこと」
携帯のカメラモードをonにして、執務室へと向かう。クソ提督の顔を思い浮かべると、不思議と怯えは無くなった。
・・・
「……!?」
体中を、妙な悪寒が駆け巡る。と同時に、1件のメールが。
「……」
恐る恐る開いてみると、曙から1枚の写真が送られてきたようだった。しかし画像はブレブレで、とても見られたものでは無かった。
「……しかし、これは……」
背景の色合いから考えて、執務室だろう。解析班に持っていくことにした。
・・・
目を覚ますと、真っ暗な空間にいた。
「……どこよ、ここ」
返事はない。しばらくすると、突然目の前が明るくなった。空間に、スクリーンで映像が映し出されたように見える。そこに映っていたのは。
「……執務室」
先程まで自分が立っていた場所だった。
・・・
「……結果が出ました。これは……」
解析班の班長も、驚いているようだ。
「……いえ、ご自分でご覧になったほうが早いでしょう」
そう言って、現像された写真を手渡してくる。
「……」
映っているのは、やはり執務室。そこにはAと、その手の中には……。
「……イ級!?」
およそ1尺ほどの、駆逐イ級が乗せられていた。
・・・
となると、これは自分の視界。
「……しくじった、か。後は野となれ山となれ、ね。どのみち、私はもう元には戻れないでしょうし」
しかし、そんな諦めを邪魔してくる者が1人。頭の中で、あの声が響き渡る。
『……約束、守るために』
「……っ」
その声で、諦めの意思は消える。
「……くっ」
そうしている間にも、『曙』は動き出す。自分では考えられないほどに、馴れ馴れしくあいつに接する。嫌だ。こんなの、嫌だ。いくら叫んでも、声は届かない。
・・・
「……」
頭の中を、様々な可能性が駆け巡る。しかし、最終的に残ったのは……。
「……まさか」
曙が、奴の手中に堕ちた。それしか考えられない。
「どうした、提督くん」
元帥が何時もの笑みを浮かべて此方に来る。
「……なんとか、しないと」
「ん、どうした。元気がないな」
事情を理解していない故、未だ呑気な口調で話しかけてくる。
「そんな時は、1杯茶でもどうかな。落ち着くぞ?ん?」
「……そんなことしてる暇、無いんですよ!ああもう、どうすれば……」
それを聞いた元帥は、大きく息を吸って。
「……狼狽えるな、この大馬鹿者っ!」
「!」
「……すまない。いやなに、私の教えに背いている気がしたのでな」
言われて、学生時代を思い出す。
『……軍人たるもの、非常時にこそ落ち着きを持つことだ。いざと言う時に狼狽えてしまっては、自分の大事なものすら護れない』
あの言葉に憧れて、常に背中を追っていたあの頃。それを思い出す。
「……すみません」
「分かればいいんだよ、君は優秀なんだから」
優しい抱擁。それだけで、心は平穏を取り戻す。……別の意味で平穏ではなくなるが。
「……あ、あの」
「ん、どうした?もしや、照れているのではあるまいな」
普段の凛々しい笑みから、ニヤニヤとした薄ら笑いに一変。
「……」
「まったく、可愛い奴め。耳まで真っ赤では無いか」
ケラケラと笑いながら、そっと抱擁を解く。
「……性格が悪いですよ、先生」
「よく言われるぞ。それより、何が起きた?」
話の切り替えが雑だ、という話は置いておいて。
「実は……」
・・・
「……」
クソ提督は何をしているのだろうか。大本営で大人しくしてくれているのだろうか。
「……」
潮は何をしているのだろうか。言いつけ通りに、クソ提督の所まで行ってくれただろうか。
「……」
私は何をしていたのだろうか。あれほど警戒していたにも関わらず、あっさりと洗脳されてしまった。
「……」
自分の不甲斐なさが嫌になる。全てを投げ出してしまいたい。
・・・
「提督〜!」
秘密基地に戻って作戦を練っていると、どこかで聞いたどこか自信の無い声が。
「……潮?」
部屋から出てみると、潮は丁度此方に向かって駆けてきていた。
「はぁ、はぁ……。提督……」
「どうした、何があった!?」
息も切れ切れの潮は、ショルダーバッグから1枚のSDカードを取り出す。
「これ、曙ちゃんに、頼まれて……」
「……詳しく聞かせてくれ」
・・・
私とクソ提督の夢を見た。提督と艦娘を辞め、ただの民間人として暮らす2人の夢。しかし目が覚めると、そこは相変わらず暗闇の中。
「……いっそ、夢の世界にでも逃げてしまおうかしら」
そうぼやいても、反応は帰ってこない。それどころか、闇が一層深まった気までしてくる。
・・・
「……つまり、そのカードが証拠だと」
「は、はい!」
このカードがあれば、皆を、曙を取り戻せる。
「ありがとう、潮。今はゆっくり、ここで休んでくれ……」
「感心しないなぁ、提督くん」
そのよく通る声に振り返ると、元帥が立っていた。
「せ、先生か……。丁度良かった、これ……」
「それは後だ。私は言ったはずだぞ?ここには私と君の2人しか入れないと」
「うっ」
「まさか、私がいない隙にうら若き乙女を連れ込むとは……。先生は悲しいです」
そう言って、わざとらしく泣き真似をする。
「あんたそんなキャラじゃないでしょ」
「黙りたまえ、ロリコン」
「ロリ……!?」
元帥の口から出た思わぬ言葉に、あっけにとられてしまう。
「それとも何かな?君はロリコンではないと?」
「……」
否定はできない。何せ、自分がケッコンしようとしているのは駆逐艦、外見も推定14ほどの少女だ。……中身の年齢はともかく。
「悔しいか?なら証明してみせろ!君がロリコンではないことをっ!」
「今はそんなこといいんで、とにかくこれを」
「……全く、愛想が悪いぞ。そこは私を抱きしめる所だろうが」
いつまでも冗談ばかりを吐かす元帥に、流石に苛立ちを覚える。
「……いい加減にしてください」
「……えっ?」
想定外の方向からの反論。意外にも、潮が弁護してくれるようだ。
「て、提督は確かにロリコンの気があります。でも、ロリコンは悪いことなんですか?」
悪い。というより、潮は純真無垢だった筈だ。恐らく、漣か誰かに教えられたのだろう。
「悪いのはロリコンじゃなくて、ぺドフィリアなんです!」
自信満々に語る潮に、苛立ちも削がれる。
「……はぁ、面白いことを言うのだな。君のところの艦娘は」
「本当に、何故こうなってしまったのか……」
とりあえず、帰ったら漣はお仕置きということにして。
「……先生、これを。多分これで奴を追放できます」
元帥にカードを手渡して、外に出る支度をする。
「準備が整い次第、直ぐに向かってください。場所はうちの鎮守府、執務室まで」
「……ふ、君も強くなったな」
何も言わずとも、直ぐに察してくれる。こんな大人な所に、憧れたのだ。
「潮、行くぞ。帰ろう、俺たちの鎮守府に」
・・・
「……?」
何やら、外が騒がしい。
「……警報?」
滅多に聞かない、不気味なサイレン。この音は、侵入者……?
・・・
「どけぇい!提督さまのお帰りじゃあ!」
門番を押しやって無理やり鎮守府に入る。
「ん?ああ、提督じゃん。お帰り〜」
「北上さん?一体どうs提督!?」
警報が鳴って真っ先に駆けつけたのであろう北上と、少し遅れた大井が。
「んもう、どこ行ってたのさ。寂しかったんだよ〜?」
「遠征から帰ってきたら提督が代わってたんですもの、びっくりしましたよ!」
「悪い悪い。それより……」
「なになに?北上様になんでも任せて!」
「ああ、間宮に行って元気が出た北上さんも美しい……!」
ブレない2人の会話に和んだところで。
「例の、新しく着任した提督の所まで連れてってくれ」
・・・
『……くそっ!何故だ、何故誰も奴を止めに行かん!』
既に猫を被る余裕もないのか、荒っぽい口調で叫ぶ。
「あんたよりも信頼を置いてるからよ、皆ね」
此方で言ったところで聴こえることは無いが、言ってやった。
『……くぅ、止むを得ん。長門、加賀、青葉、……曙。行け』
身体が動き出す。
「……え」
『自分』達が艤装を着け、向かった先は……。
・・・
「……あれは!」
前から向かって来た4人に、敵意が感じられる。あれは……。
「曙ちゃん……」
潮が悲しそうな声を漏らす。
「……」
無表情な4人は、さも当然だと言わんばかりに砲塔や弓を此方に向ける。
「……さて、ここが勝負所か」
「……提督?」
不安そうな様子で聞いてくる潮の頭を軽く撫でる。
「お前は多分当たらないだろ、なんたって運値が異様に高いからな」
「え……?で、でも提督は……」
「まあ、見てろって」
・・・
「やめ、て、来ないで……!」
今近づかれたら、間違いなく撃ってしまう。
「お願い……だから……」
しかし、彼は近づいてくる。それに対応して狙いを定めた『曙』は。
「だめぇぇぇぇっ!」
無慈悲に首から上を吹き飛ばした……筈だった。
「……あ、れ?」
・・・
「……あっぶね、首狙ってたろ今の」
ギリギリで滑り込み、砲弾を回避。
「……」
なおも無表情の曙たちは、次々と砲撃や射撃を仕掛けてくる。
「……ほっ、よっ、ていやっ!」
後ろで物凄い音が聴こえる気がするが、気にしない。床や壁が壊れている音でも、気にしない。したくない。
「よし、ここを抜ければ……!」
4人の脇を潜り抜けようと……。
「……ぐっ!?」
右脚に感じる衝撃。恐らく折れているが、吹き飛んでいないのをみると、駆逐艦……曙の仕業らしい。
「おま、後で覚えとけよ!」
折れたてということもあり、痛みを感じない今がチャンスだ。折れた右脚を引き摺りながら、執務室へと全力で移動した。
・・・
「あ、ああ、あぁぁぁぁぁぁ……」
撃ってしまった。最愛の人を、自分の手で。
「わた、し……」
何も考えられない。思考が纏まらない。
「……あはは、なにやってんだろ」
自虐を込めて嗤う。
「まんまと操られて、その上クソ提督の脚まで壊して……」
自分を否定する。自分を嫌悪する。
「……こんな私、要らないわよね」
・・・
「……着いた!」
執務室の扉を勢いよく開ける。
「ぐっ……、まだ俺の邪魔をするかッ!」
「こっちの台詞だこの馬鹿野郎!」
奴に飛びつき、腕を後ろで縛り上げる。
「なっ……」
「お前はもう終わりだ。大人しく着いてこい!」
「ふっ、生憎だが証拠はあるのか?」
未だ抵抗の意思を見せるA。
「ああ、あるとも。それに、そろそろ来るはずだ」
「……来る?」
と、そのタイミングで扉が開く。
「憲兵だ!A、貴様を連行する!」
「なっ!?」
そりゃあ、憲兵が動くのは当然だ。
「お勤めご苦労様です、憲兵さん」
「其方も、見た感じだと脚が折れたのだろう?ことが片付くまで、そこで休んでいるといい」
そう言って、Aを連れて行こうとする憲兵に。
「待ってください。数分だけAを貸してくれませんか?」
「……よかろう。早めに済ませろ」
・・・
映し出されていた偽物の景色が壊れる。
「……クソ提督」
どうやらそれは他の3人も同じようで、消える視界の端に倒れる3人が映った。
「……もう、いいや」
景色が壊れるのに任せ、自分は意識を手放した。
・・・
数時間後。
「……ん、ここは……」
「……」
2人が目を覚ます。
「おはよう、二人とも。身体に異常はないか?」
声を掛けると、凄まじい勢いで顔を上げる。
「……そうか、戻ってこられたんだな」
「……そう」
対照的な反応を見せる2人。
「……あれ、司令官?」
その声のほうに顔を向けると、青葉が目を覚ましていた。
「起きたな。大丈夫か?」
「……ぐすっ」
「……ん?」
「司令官、黙って出ていくなんて酷いじゃないですかぁ!青葉がどれだけ心配したと思ってるんですか!?」
「ご、ごめん。でもいいじゃないか、こうして帰ってきたから」
「それはそうですけど……!」
ここであることに気づく。
「……曙は?」
3人はほぼ同タイミングで目を覚ましたが、未だ曙だけが目覚めない。
「明石、曙に何か異常は?」
「ないですね。問題点……恐らくは、曙ちゃんの精神が問題かと」
・・・
反射的に目を覚ました。とても、嫌な夢を見た。
「……」
思い出したくもない、『前』の夢。
「……はぁ」
目が覚めると、そこはやはり暗闇の中。
「……」
不意に、何処かから声が聞こえてくる。
『曙が悪い』
『曙のせいだ』
何度も聞いた言葉だが、今ほど心に刺さったことはない。
「……クソ提督も、きっとそう思ってるんでしょうね」
戻りたくない。最愛の人に嫌われる世界なんて、戻りたくない。
・・・
日付を跨いだ。曙は目覚めない。
「……曙」
「あの、提督?そろそろお休みになったほうが……」
明石が心配そうに声をかけてくる。
「脚も、今は応急処置でなんとかなってますけど……。また痛みはぶり返してきますよ?お身体に障りますって」
「……自分の身体なんかより、曙のほうが心配なんだ」
「またそんなこと言って……」
・・・
この世界は何も無い。
「……」
だから、私を受け入れてくれる。
「……」
向こうは駄目だ、きっと皆に嫌われている。
「……」
いっそもう、このまま覚めないで。
・・・
数日が経った。
「……」
曙は動かない。
「……ご主人様、そろそろ寝てください。漣、今とっても心配してます。私だけじゃない、艦隊の皆も」
「……」
「ぼのたんが心配なのは分かりますけど、ご主人様がお身体を壊すのはぼのたんも望まないと思います」
「……でも」
俯いた漣に声をかける。
「それでも、曙から離れたくないんだ。約束、したんだ……!」
目から温かいものが零れる。
「ご主人様……」
そのときだった。
・・・
何もかも捨てようか、そう思ったとき。
「……雨?」
頬に、水滴が何粒か当たる。しかし、雨ではない。この温かさは……。
「涙……」
その温かさに呼応するかのように、自分の目から溢れ出るものが。
「……クソ、提督……!」
浮かぶのは彼の顔、聴こえるのは彼の声。気づけば、彼を呼んでいた。
「……」
この温かさは、いつもあの人といる時に。
「会い……たい、会いたいよぉ……!」
自分の涙の粒が、もう1つの涙の粒に当たった途端、それは起こった。
・・・
「……ん」
聞こえた。確かに、今聞こえた。
「……曙!」
「……クソ、提督?」
曙は、ベッドから身体を起こす。
「……良かっ、た……」
そこで、意識は途切れてしまった。
・・・
辺りを見回す。医務室だ。自分のお腹のあたりを見る。クソ提督の頭が乗っている。
「……帰って、きた……?」
「……zzz」
返事は寝息だけ。
「……はぁ、ぼのたん。ちょいとご主人様に心配を掛けすぎですぜ?」
聞き慣れた声だ。声のほうへと目をやる。
「お帰り、ぼのたん。随分と遅いご登場で」
「……これは?」
腹部を指さす。
「ご主人様、3日ほど寝ずの番をしてたの。さっきはorzみたいな体勢になってた」
「……はぁ」
クソ提督の頭を撫でる。
「ま、あとは2人でゆっくりしなよ。別にあれしたっていいのよ?このあとめちゃくちゃセ……」
「しないわよ!」
・・・
「……ん」
意識が覚醒する。頭の上に、優しい感触が。
「……曙?」
「!」
その感触、手の主は、曙だった。
「……おはよ、クソ提督」
「お、おう」
現状を理解する。
「ごめんな、大事なときに寝ちゃって」
「……私こそ、悪かったわね。中々起きなくてごめん」
そこで、ある言葉を掛けていないことに気がつく。
「……ただいま、曙」
それを聞いた彼女は。
「……お帰り、クソ提督っ!」
涙を流しつつ、とびっきりの笑顔でそう言った。
艦!
後日、2人はケッコン、もとい結婚をしたそうな。約束を守ってもらえた曙ちゃんは、ご満悦な様子で。司令官は、照れくさそうに。今後の2人の行く末を案じる鎮守府のメンバーであった。
……よし、こんなところですかね。では、取材の続きに行ってきまーす!
ーー青葉新聞 編集後記
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NHKニュース(2月6日(水)0521)
戦艦『比叡』発見
アメリカの調査チームが発見
『長年の国防の任、本当にありがとう。ゆっくり眠れ。』
駄作とか言っておきながら面白いじゃん。
こういうの結構好きよ
文章構成もしっかりしてて普通に面白い。
上から目線ですまん