鎮守府図書館司書の貸出記録
この物語は、鎮守府の図書館で働く青年が提督や艦娘たちと話したり、遊んだりするお話です。(大井っち~)
というわけで、言ってた新作です。
今回の青年は、割と社交的な部分も多い感じです。
※違う鎮守府ですので、関係はあっちの方の青年との関係はいったん忘れてくださいw
(絡みの希望があれば、やっていただけると嬉しいです)
清掃員
家庭教師
国の平和のために日々、深海棲艦と闘う鎮守府でも、とてつもなく時の流れがゆるく、静かな空間が存在する。それが、ここ、鎮守府内図書館である。この図書館は、提督が艦娘たちの知識養成や、様々なことに関心を持ってほしいとの意図をくんで、用意された場所である。
だが、この図書館には、もう1つの顔がある。
提督「青年、いるか?」
青年「ん~、あ! 提督さん、こんにちは! 本借りていかれますか?」
遅れたが彼がこの図書館で唯一、図書館司書として働いている青年である。普段の仕事は、艦娘たちが本を借りる時などにそれに記録をつけたり、本棚の整理を行っている。彼の基本的な記録はこれくらいだ。
提督「いや、資料を持ち出したい」
青年「……わかりました。では、こちらへ」
彼は提督を案内し、鍵のかかっている部屋の鍵を開ける。そして、中に入ると大量の資料で覆い尽くされた部屋が広がっていた。
これが、この図書館のもう1つの顔……すなわち、鎮守府の資料室である。したがって、青年のもう1つの仕事は、この膨大な資料の管理となる。
提督「……これだ。すまないな、青年」
青年「いえいえ。どういたしまして、本が借りたくなったらいつでも訪れてくださいね。艦娘のみんなにも言っておいてください……ハッキリ言って、この広い図書館で1人でいるのは非常に寂しいので」
提督「ふっ……わかったよ。言っておくよ」
青年「はい、それでは、また」
提督「ああ」
提督が立ち去った後、青年は図書館にある本を一冊手に取り読み始める。基本的な仕事が片付き、特にやることがない場合はこうするのが彼の日常である。そのため、かなりの数の本を既に読み終えてしまった。青年はこの静かな時間が好きだった。しかし、もっと好きなのは、艦娘たちと話をすることであった。その中でも特に、会話が弾むのは―――
伊8「グーテンターク、青年さん」
青年「お、はっちゃん、いらっしゃい」
伊8「これ、この前借りたやつです」
青年「うん、確かに受けとった! はっちゃんは本当に読むの早いね~」
伊8「ふふっ。本が好きだからかもしれません」
このスクール水着を着て、メガネをかけているこの子の名前は、伊8という。艦種でいうと、潜水艦。どういうわけか、潜水艦の艦娘たちはスクール水着を着ていることが多い。(例外もいるが…)おそらく、水に濡れても大丈夫な服装なのだろう。
この伊8は他の潜水艦の艦娘と比べると、読書が好きで、よくこの図書館を訪れてくる。そして、青年と読んだ本について、語り合ったり、時には互いにオススメしあったりするほどの仲だ。『はっちゃん』と青年がアダ名で読んでいることからもその仲の良さは他人から見ても一目瞭然である。
伊8「今回の本、とても面白かったです。特に最後の伏線回収が素晴らしいですよね!」
青年「うんうん! あれは本当に読んでて鳥肌がたっちゃったよ……」
潜水艦の艦娘たちの中では、読書が趣味ということで、落ち着いた雰囲気が強い彼女だが、やはり好きなものの話となると熱くなってしまうようだ。伊8は青年としばらく読んできた本について、時間を忘れて語り合った。
伊8「――っていう感じで……っと大変……演習まで時間がないわ。借りる本、決めてきます」
青年「うん。まぁ、正直はっちゃんなら貸出記録つけなくても安心な気もするんだけどな~」
伊8「さすがに、それはダメですよ」
青年「冗談だって……」
伊8「提督には本当に感謝しないといけませんね……。こんな図書館を用意してくれて……。あ、これ新しく出たやつですか?」
青年「うん。そうだよ~。経費で買えたからね。それ、借りてく?」
伊8「おねがいします」
青年「おっけ~。え~っと……はっちゃん結構借りたね~。気づけばもうこの図書館の本だけだと60冊は借りてるよ」
伊8「そうなんですか? あまり数は気にしたことはないもので」
青年「いや~、ここまで借りてくれるのはっちゃんくらいだよ。他の子にも来てほしいんだけどね。もうこの図書館のイメージガールとして起用したいくらい。というわけで、はいこれ。はっちゃんは読むの早いし、期限とかはあまり気にしなくていいよ」
伊8「ありがとうございます。イメージガールについては、『考えておきます』」
青年「その真意は?」
伊8「『いいえ』、ですね」
青年「そっか~。忙しいから仕方ないか~」
伊8「はい、それでは、いったん失礼します」
青年「また遊びに来てね~」
そう言って、青年は伊8を見送った。青年はやれやれと言った表情で、また自分の席へと戻り本の続きを読み始める。
次にやってくる艦娘は誰なのか……その期待を胸に抱きながら、彼は今日も、本を読む。
青年が1人で本を読んでいると、艦娘が2人図書館の中へと入ってきた。川内型軽巡洋艦の神通と、妙高型重巡洋艦の羽黒である。2人は多少人見知りの気があり、青年は、ちゃんと目を見て話し合えるようになるのには少し時間がかかったと提督から聞いていた。
というよりも、この2人はまだ青年とは完全には打ち解けることはできていない。青年はこの2人が何度か来てくれていることを知ってから、何度か話しかけたことがあったが、遠回しな回答を受けたこともあった。
羽黒「でね……足柄姉さんったら、面白かったの……酔った状態だと私と妙高姉さんの区別がつかないから、私のことを妙高姉さんと思って、甘えてきちゃったの」
神通「そうなんですか……。羽黒さん達のお部屋は本当に、いつも楽しそうですね」
羽黒「うぅん、神通ちゃん達だって楽しそうだよ。川内ちゃんも那珂ちゃんもとっても明るいし……」
青年はできることなら、この鎮守府の艦娘たちとは仲良くなりたいと思っている。幸い、今はその2人が揃って来てくれているのだ。2人は楽しそうに姉妹艦の話をしながら小説が置いてある本棚へと向かっていく。
青年は、今日こそは、と思い2人の貸出記録を見た。貸出記録を見ればその人がどのような本が好きかはある程度推測することができる。他人の趣味を覗き見るようで、なかなか褒められるような行為ではないのだが、仕方なくそうするしかなかった。
羽黒「あ、あの……この本、借りたいんですけど……」
青年が貸出記録を見ていると、羽黒が1冊の本を手渡してきた、青年は慣れた手つきで貸出の記録をつけ、羽黒へと再び返す。どうやら、神通は少しだけ何を借りるか迷っているようだった。青年はここで、すかさず、アプローチをしかける。
青年「羽黒さんって、小説がお好きなんですね」
羽黒「え?! あっ……えっと、その……はい」
先ほどの神通との会話が嘘のように思えるほど、羽黒は緊張してしまっている。
青年「えっと……。羽黒さんって、ミステリー系がお好きだったんですね、ちょっと意外でした」
羽黒「あ……その、ごめんなさい! いつも同じ系統のものばかり借りちゃって……」
なぜか、申し訳なさそうに頭を下げる羽黒にはさすがに驚いた青年は、頭を上げるように頼んだ。
青年「まぁ……えっと、その、何と言いますか、ミステリーって、謎を解くだけじゃなくて人間の色々な面が出るから僕も好きですよ、嫉妬とかだったり、恨みだったり」
羽黒「あっ……そうなんですよね……。ただ、謎を解くだけの物語がミステリーの味じゃないと私も思います!」
自分の好きなジャンルの話を持ちかけられて嬉しかったのか、羽黒も段々と声がはきはきと出てくるようになった。青年は、神通がやってくるまでの間、今まで読んだ中で好きな作品や作家について羽黒と話した。
羽黒「私は、あの作品は本当にすごいと思うんです……あっ。私ったらつい、声を大きくしちゃって……ごめんなさい。図書館では静かにするのがルールですよね?」
青年「あ~、気にしないでください。そこまでたくさんの人はいないんで、むしろ僕はこんな感じで来てくれた艦娘のみなさんと喋りたいんですよ」
羽黒「そうなんですか? ……だったら、また、一緒にお話……したいです」
青年「いつでも待ってますよ。基本的に僕はここにいるので、また何かあれば」
羽黒「はい!」
2人が打ち解けたところで、神通はやっとのことで借りる本を決めたらしく、羽黒に「待たせてしまってごめんなさい」と一言謝罪を入れた後に、青年へと借りる本を手渡した。
青年「神通さんは、どちらかと言うと、歴史小説がお好きなんですね」
神通「え? あ、はい……それが何か?」
青年「あ、いえいえ。特に意味はないのですが……歴史小説は、何と言ってもロマンの宝庫ですよね」
神通「そうですね……。こういった生き様に憧れる……とまでは言いませんが、やはり、すごいなぁ、と思ってしまいます。フィクションではありますが……」
羽黒「青年さんは、本当に色々知っているんですね」
青年「まぁ、暇なので、ここ……。小説はある程度読んでますよ」
神通「青年さんのオススメとかはありますか? たまには歴史小説以外のものも読んでみたいのですが……」
羽黒が青年と打ち解けている雰囲気に感化されたのか、神通も積極的に話すようになってきた。青年は、何をすすめようか考えるが、これと言って何をすすめればいいか分からなかった。伊8とは、気兼ねなくオススメしあえるが、この2人とはまだそこまでは進展していない。
だが、ここで青年はある案を思いついた。
青年「では、たまにはジャンル交換でもしてみたらどうでしょう?」
神通「ジャンル交換?」
青年「はい。ほら、せっかく羽黒さんが、ミステリー系の小説が好きですから、たまには神通さんが、ミステリー系を読んで、羽黒さんが歴史小説を読む……と言った感じで。そうすれば、普段話し合っているそれぞれの好きなジャンルの魅力に直接触れることになりますから、お二人の会話がさらにはずむと思いますよ!」
羽黒「なるほど……じゃあ、神通ちゃん、交換してみる?」
神通「はい!」
そう言って、神通と羽黒は互いに借りた本を交換し合った。青年は、2人の貸出記録をこっそり修正しておく。羽黒と神通は期待を胸にしたような表情で、互いに笑顔を見せ合い、青年に礼を言って帰って行くのであった。
青年「……う~ん」
青年は2人が去った後に、思った。自分が2人と仲良くなったのではなく、2人の仲をさらによくしただけなのでは……と。
青年「キューピットじゃあるまいし……。ってか恋仲じゃないし……あの2人」
青年は、特に面白くもないことを呟き、また自分の読んでいた本へと視線を移すのであった。
青年が再び本を読み始めてからしばらくして、また図書館の扉が開かれる音がした。青年はしおりを本にはさみ、机の上に置いて誰が来たのか確認する。やってきたのは、金剛型戦艦の3番艦、榛名だった。
榛名も、何度かこの図書館に訪れてきてくれている艦娘の1人である。図書館開放をきっかけに、読書を趣味にしてみようと考えていたらしく、最初は緊張した様子で出入りをしていたが今では平然と入ってくる。
榛名「あ、青年さん、こんにちは!}
青年「榛名さん、どうも。いい天気ですね~」
榛名「はい! いい天気だと、榛名も元気になります!」
榛名は、金剛型姉妹の中では物腰が柔らかい方なので、一番親しみやすいと言っても過言ではない。図書館開放にすぐ、青年と仲良くなることができた数少ない艦娘である。
青年「今日は何か借りていかれるんですか?」
榛名「はい! 今日は、小説で何か一冊、探してきたいと思ってます」
以前、榛名が借りていった本は、詩集や図鑑、評論本など、ここまでは、手当たり次第に読んでいくといったスタイルでまだ小説は借りたことがなかった。榛名は、青年に一度だけ頭を下げてから小説のコーナーを探す。
青年は「あれでもないですね……これでもないです……」と、本を手に取りパラパラと試しに読みながらつぶやいている榛名の姿を微笑ましく思いながら、榛名が選ぶのをじっと待っていた。
やがて、榛名は、何か直観的に感じるものがあったのか一冊の本を手に取り、内容を見ずにそのまま持ってきた。
榛名「これをお願いします!」
青年「はいは……い?」
榛名「青年さん……どうしたんですか?」
青年は榛名が持ってきた本を一度読んだことがあった。
作者の文章力については、なんの問題もなく、全て読み終えた後に達成感も得られ、内容も小説としてもかなり完成された素晴らしい本であったのは覚えている。
だが、青年の脳裏についてはこのこと以外にもあることが焼き付いていた。
それは、この小説、いわゆる『男女の営み』のシーンが一部に出てくるのである。それも、露骨に表現するのではなく、かなり遠回しに表現し、気づく人は気づいてしまい、結果、下手な官能小説よりも刺激的な内容のシーンになっている。
もちろん、そんなシーンのある小説は探せば山ほどある。だが、この小説は青年が今まで読んだ中でも最も刺激的に感じてしまった小説であった。
そんなことを思い出してしまったために、榛名に貸し出していいものなのだろうかと考えてしまったのだ。
榛名だって、1人の女の子である……。そんな彼女に、それを読ませてしまうのはいいことなのだろうか。だが、今更「貸し出しはできません」と言えるわけがない。
青年「え、え~っと……榛名さん、この小説、僕も読んだんですけど」
榛名「え?! そうなんですか! じゃあ、とってもすごい小説なんですね!」
青年「あ、はい……」
榛名「青年さんはいろんな本を読んでいるから、面白い小説をたくさん知っているんでしょうね……。榛名、なんだか憧れちゃいます」
青年「あ、あはは……」
いつもはかなり明るく振舞っている青年ではあったが、この時ばかりはさすがに罪悪感を感じた。
青年「ま、まぁ、とにかく、かなり素晴らしい本だったので、榛名さんも読んだら……いいと思います」
榛名「はい!」
榛名の笑顔が眩しすぎる。青年は榛名の顔を直視できずに、段々と小声になっていった。青年は貸出記録をつけ、そっと榛名にその小説を手渡した。
榛名は青年も読んだことのある本と知って喜んだのか、意気揚々と図書館を去っていくのであった……。
青年「うん、読むのは自己責任……だし……本人の……自由だし……」
青年は言い訳を言いながらまた、自分の読書へと戻った。しかし、そのことが頭から離れず集中できなかったことは言うまでもない。
後日、榛名がこの小説を返す時、かなり顔を赤面させながら足早に去って行ったのも上に同じである……。
舞風「ワンツーワンツー♪」
野分「……」
舞風「アン・ドゥ・トロワ♪」
野分「……」
青年「……」
舞風が、ステップを踏みながら本を探している。野分は我関せず、と言った表情で先ほど手にとった本を用意されている机のところに座って静かに読み始めている。だが、先ほどから舞風のステップを踏む声は、なかなか野分の集中を妨げるものになっているようだ。野分は先ほどから何度も本を閉じては、ため息をつくのを繰り返している。
ちなみに、この2人の図書館への出入りの頻度は、舞風は今日、初めての図書館で、野分は割と頻繁にやって来ては気にいった本があると、借りて行くという感じだ。野分と青年はそれなりに話すことがあったので、どうして舞風が急にやって来たかを先ほど尋ねたところ、勝手について来た、とのことである。
舞風「あ、青年さーん。ちょっといいかな?」
青年「ん?」
舞風「踊りに関する本を探しているんだけど……」
青年「踊り? どんな感じのやつ?」
舞風「えっと……踊りについて書いてあるやつで、コツとかそういうの」
青年「あ~。なるほど。えっと、舞風は初めてだろうから案内するよ、ついてきて」
舞風「うんっ!」
青年は、舞風のためにダンスのレッスンが書いてあるような本が置いてある場所を探す。おそらく、スポーツ関連のところに置いてあったと記憶している青年は、舞風をそこに案内し、何冊か見つけてはタイトルはあまり見ずに舞風に手渡した。
舞風「わー、こんなにいっぱい……」
青年「あ、借りたくなったら言ってくれたらいいよ。3冊くらいなら一度に借りることができるから……で、えーと……舞風」
舞風「?」
青年「初めてだから分からないと思うんだけど、野分もいるし、図書館で踊るのは遠慮してくれると嬉しい」
野分「まったくよ」
青年「あ、野分」
青年と舞風が2人で本を選んでいる後ろから野分が声をかけてきた。
野分「ついて来るなんて言っておいて……。私に言ってくれたら一緒に探してあげたのに」
舞風「え~、だって、野分、本読み始めちゃったから……何となく迷惑になるかなーって」
野分「そこまで気を遣わなくていいわよ。というより、それがわかってるなら、ステップなんて踏まないでよ……」
青年「あはは。2人とも、仲いいね~」
舞風「あ、青年さん、この3冊にする!」
青年「お、そうか。一気に3冊とはやるな~」
舞風「踊りに関しては人一倍真剣だからね!」
青年「おっけーおっけー。じゃあ、さっきの受付のところまで持ってきて、あ、野分も何か借りて行く?」
野分「ええ。これでお願いします」
そう言って、2人は先ほどの青年の定位置である受付のところまで持っていった。青年は慣れた手つきでまず、野分の借りたい本の貸出記録をつけた。そして、肝心の舞風の方なんだが……。
青年「えっと、舞風。ちょっと聞いていいかな?」
舞風「どうしたの?」
青年「……一体お前はどこを目指しているんだ?」
舞風の借りたい踊りの本、よく見ると全てジャンルがバラバラだった。タイトルはそれぞれ、『ブレイクダンス入門』、『フラダンスで世界を目指す』、『誰でも踊れるフラメンコ』。
野分もそのタイトルを見て、意味がわからない、と言った顔をしていた。確かに、一度くらいは舞風がこれらのダンスを踊るのを見てみたい気もしたのは確かだったが、本当にこんなジャンルがバラバラで大丈夫なのかと青年は思った。
そもそも青年は、このような本があることに一番驚いていた。だが、このような踊りの本は、舞風以外に読むのは基本的にはありえないとも思った。おそらく、舞風がこの図書館にやってきてくれなかったら、この本は、ただの置いてあるだけの本にすぎない。青年は、舞風のおかげで、これらの本が本棚の肥やしにならずに済んでよかったと喜んだのであった。
「踊りについては人一倍真剣」と言ったセリフに嘘はなかったようだ。後日、舞風は、これらの本を全て読み終え、それぞれのダンスを踊れるようになっていたらしく、鎮守府内でちょっとした人気者になったらしい。特に、フラダンスについては、かなりの上達ぶりであったと言う。
この図書館では、リクエストボックス、というものが置かれており、艦娘たちが望む本を書いてくれればよほどの内容のものではない限りは取り寄せを行うことにしている。
ある日、リクエストボックスでリクエストされた本が届いたので青年は重いダンボール箱を持って図書館の中へと入ってきた。そして、机の上に置くと、ダンボールを開け、それぞれの本がちゃんと届いているかどうかを確認する。
青年「えっと……これは、夕張さんが頼んだ、研究者の実験をまとめた本、大井さんの頼んだ、『女性を落とす99のテクニック』」
1人1人の頼んだ本をジャンルごとに分類し、整理していく。
その作業の最中にある艦娘が図書館の中へと入ってきた。陽炎型駆逐艦の初風である。
初風もどちらかと言えば、図書館への出入りが多い艦娘である。だが、何かの本を探しているようで、なかなか見つからずため息をついてはテキトーに本を読んでから去っていくということが多かった。そこで、青年は先日、リクエストボックスの存在を教えてあげるとすぐにリクエストの要望を書いた紙を持ってきてくれた。
初風「あの、この前リクエストされた本、届いているのかしら?」
青年「ん~、ちょっと待ってね。今確認してるから」
初風「わかったわ」
そう言って、青年はダンボール箱の中身を次々と分類していく。その中に、1冊だけ、かなり目立つ表紙の小説のようなものがあった。表紙には上半身裸の2人の少女漫画にでてきそうなイケメンキャラ。
青年「『鎮守府純情物語』……誰だっけな、こんな本頼んだの……」
そんなことを言って、リクエストした艦娘の名前を見ると、かなり小さな字で「初風」と書いてあった。青年はあまりのショックで言葉を失う。さっきの呟きが初風に聞こえはしなかっただろうかと言うことも心配し、初風の方をチラリと見た。どうやら、初風は他の本を読んで時間を潰しているらしく気づいていない。
青年「え、え~っと。初風ー! 頼んでた本、あったぞ」
初風「え?! 本当に!?」
青年「う、うん……」
青年はここぞとばかり気を遣い、表紙は見せずに裏表紙を向けて初風に手渡した。初風はそれを受け取り、表を向けた途端、顔が真っ赤になる。
初風「あ、あの……これ、借りていいかしら?」
青年「うん。いいよ」
青年はできるだけ平常心を保とうとし、表情はいつもの表情を見せることを心がけた。初風から本を受け取ると貸出記録だけをつけて、初風に再び手渡す。
そして、そそくさと図書館を去ろうとした時、図書館の扉が開いた。そして、中に入ってきた艦娘と初風はぶつかった。
初風「いたた……ごめんなさい」
陽炎「あ、初風だったんだ。ごめんね……あ、初風、本落としちゃったね」
どうやらぶつかった相手は陽炎型の長女、陽炎だった。陽炎は姉らしさを見せたかったのか親切に本を拾い、初風に渡してあげようとした。その様子を青年はハラハラとした表情で見ていた。というよりも、「むしろ拾っちゃダメ!」と言いたかった。
初風「だ、大丈夫! 自分で拾うから!」
陽炎「いいのいいの。ぶつかったのは私が悪いんだから……よいしょっと。えーっと……」
初風「あーっ!!!!」
陽炎が表紙を見た。次に、初風の顔を見る。そして、もう一度、拾った本の表紙を見る。
陽炎「……」
初風「……」
陽炎「はつか――「いやあああああああああ!!!」
初風は普段出さないような声を出しながら、陽炎の頬に全力でビンタをくらわせた。その拍子に、陽炎が手放した本を奪い取ると、すぐさま、図書館から出て行ってしまった。
青年はなぜビンタをされたのかわからず困惑する陽炎に近づき、「大丈夫?」と声をかけながら、今後、あの類の本のリクエストに関しては何らかの対策をしてあげた方がいいな、と思ったのであった。
青年「ん~……終わったぁ~!」
青年は一冊の本を読み終え、一度大きく伸びをする。気がつけばもう夕方時である。そろそろ、一度図書館を閉めて夕食を食べにいかなければならない時間だ。
青年「……さてと……」
青年がそう言って、立ち上がろうとすると図書館の扉が開き、四人の艦娘が入ってきた。暁型の四姉妹、つまり第六駆逐隊の暁、響、雷、電であった。
青年「お、第六駆逐隊のみんな。こんにちは~」
雷「こんにちは!」
暁「電がいい本を見つけたって言うから来てみたけど……レディーの私を楽しませてくれる本なんて本当にあるのかしら?」
電「大丈夫。自信があるのです」
響「楽しみにしてるよ」
そう言って、電が一冊の本を探して持ってきた。それは、独特なタッチで書かれた絵本であった。
青年は実はこう見えて絵本はかなり好きな方で、おそらく、この図書館にある絵本は全て読んだと言っていいほどの絵本好きだった。そして、その絵本は読んだ中でも特に印象の強い一冊であった。
暁「何それ、絵本じゃない。レディーはそんな本、読まないと思うんだけど……」
電「えっ……本当にいい話なんだよ……?」
暁「電は相変わらずお子様なのねっ」
電「うぅっ……」
少し不穏な空気が漂いだした2人の間に青年が割って入る。
青年「はいはーい。ちょっといいかな? 暁、実は絵本のおもしろさ、知らないだろ~?」
暁「な、なによっ。絵本なんて小さなお子様が読むお話じゃない!」
青年「ちっちっち……。絵本は、こう見えてもレディーでも楽しめる魅力がたっぷりつまった本なんだぞ?」
雷「そうなの?」
青年「ああ。むしろ、こう考えてみることのほうが大事かもしれないな……『大人になったからこそわかる魅力がある』。絵本は、そういうお話もたくさんあるから俺は結構読むことをオススメする」
響「そうなんだ……。あっ、いいことを思いついたよ」
暁「何よ?」
響「青年に読んでもらうっていうのはどうだろう」
それから、青年の周りには暁達がひっついて、絵が見えるように図書館の床へと座った。かなり密着した状態になったので、女子特有のニオイがそれなりにした。いくら暁達の見た目が幼いとは言え、女性がこのように密着してくることに、青年はそこまで慣れてはいなかった。青年は理性が飛ばない程度に我慢しつつ、絵本の1ページ目を開ける。
青年「都会から離れた遠い遠いあるところに、おじいさんが1人、つつましく生活していました。おじいさんの日課は自分の植えた木が成長していくのを眺めることで――――
青年は読むのがかなり上手かった。おじいさんの声真似までもしながら、その絵本の魅力を味わってもらおうと力を尽くし、絵本を読み進めていく。四人は青年が絵本を読んでいくのを黙って聞きながらじっとしていた。
青年「―――――それでも、おじいさんは幸せでした。そして、全てに満足したおじいさんは安らかに目を閉じましたとさ……。おしまい」
青年がパタンと絵本を閉じ終えると、暁が嗚咽混じりに号泣していた。確かにしんみりとした物語ではあったが、まさかここまで号泣するとは思ってなかった青年は慌てて、暁に声をかける。
青年「おーい、大丈夫かー」
暁「うわぁぁぁぁん、おじいさんが……おじいさんがぁ……」
響「ハラショー。青年、本当にいいお話だった。」
雷「そうね……まさか絵本にあそこまでの破壊力というか感動させる力があるなんて……」
電「何度読んでも感動するのです……」
雷「というより、青年さん、読むのがとっても上手!!」
青年「そう? 確かに頑張りはしたけど、結構下手だったと思うんだけど……」
響「登場人物にまでなりきっていたし……」
電「あ、いいことを思いついたのです!」
電が思いついたのは週に一、二回程度、青年が紙芝居か、絵本を集まった艦娘のために読んであげる企画でも用意すればいいのではないかということだった。青年は確かに、それを行えば図書館に来てくれる艦娘が増えるかもしれないと思い、実行を決意。
四人が去った後、青年はどの本を艦娘たちに読んであげようかとウキウキしながら、絵本のコーナーにある本を読み漁る。
青年「ふんふーん……あれ」
だが、ここである重大なことに気づいてしまった。
青年「……夕食取るの忘れてたな」
窓の外を見るとすっかり夜になってしまっていた。床を見れば、散乱した絵本の山。
青年「……どうしよう。これ」
次の日、青年がいつものように本を読んでいるとまた、艦娘が一人、図書館の中に入ってきた。
青年「いらっしゃ~い……あ、大和さん!!」
大和「せ、青年さん、どうも」
青年「いや~、今日も相変わらずお綺麗ですね……」
急に青年が活き活きと話しかけているので大和は戸惑っているが、これが大和に対する青年の接し方である。なぜこんな接し方になったかというと理由は簡単、青年は初めて大和をこの鎮守府で見かけた時、いわゆる『一目惚れ』をしてしまったのだ。
それ以来、青年は大和に対し、何度かアプローチをしかけているが、なかなか上手くいかない。青年なりには頑張っているつもりなのだが、どうもただのチャラい男にしか見られていないのが現状である。
大和「そ、そうですか……ありがとうございます」
青年「あ、お茶でも入れましょうか? ちょっと待っていただければすぐ入れますけど……」
大和「あ、いえいえ。遠慮しておきます。今日は借りたい本を借りればすぐ帰りますので……」
青年「えっ……それは残念ですね……。でしたら、今度一緒に、お、お茶でもどうですか?」
大和「か、考えておきます……」
そう言って、大和は本棚のところへ歩き出した。大和が遠くの本棚に行くのを見届けた後、青年は椅子に座り、大きなため息をつき、「今日もダメだったか……」と呟いた。
青年は、大和が提督に惹かれているのは知っているが、アタックをし続ければチャンスがあるのではないかと思い、今でも行っている。だが、これで遠回しに断られたのは通算20回目を突破した。
青年「……はぁ」
またため息を一回。静かな図書館の中では、そのため息は大和にまで聞こえるほどに大きかった。
やがて、大和が借りる本を決め、青年のもとへとやってきた。
青年「あ、大和さん。借りる本、決まりましたか?」
大和「はい……あの、青年さん」
青年「どうかしましたか?」
大和「……青年さんは、ため息をついたり……慣れない会話をしたりするより、静かに本を読んでたり、仕事に励んでいる時が一番素敵ですよ?」
そう言って、青年に向かって、微笑みを向けた。
青年「……」
やっぱり、何度見ても綺麗だった。青年は、少し気恥ずかしく思い、頬をポリポリとかきながら、大和の貸出記録をつけた。
そして、大和に本を手渡す。
大和「ありがとうございます」
青年「……また来てくださいね」
大和「はい、もちろんです」
そう言って、大和は去って行った。
青年「……」
青年は、大和がいなくなり、図書館に誰もいなくなったことを確認すると両手を高く上げてガッツポーズをする。
青年「よしっ! まだ大丈夫。まだ脈ありっ……! いけるっ!」
どうやら、青年はかなり単純な男であるらしい。
大和が去ってから、青年が再び本を読んでしばらく経った後、少しだけ図書館の扉が乱暴に開けられ、一人の艦娘が入ってきた。
青年「あ、天津風じゃん。どした?」
天津風「……別に。何でもないわ」
青年「ふ~ん」
そう言って、青年が天津風のことを見ていると、天津風がこちらをギロリと睨んできた。何があったのかはわからなが、どうやら、あまり機嫌がよろしくないらしい。青年は、口笛を吹きながら、読書をするフリをした。
天津風「……」
天津風は、それから一人で、色んな本棚を見て回っている。見ている限りだとこれと言って、借りたいジャンルや読みたいジャンルは決まっておらず、適当に見て回っているだけのようだ。
青年「何かお探し?」
天津風「べ、別に……」
青年「正直に言えばいいのに~」
天津風「だから、何でもないって言ってるでしょ!」
青年「お~、怖い怖い。ごめんよ~。退屈だからおしゃべりがしたいだけなんだ」
天津風「……」
天津風は、一度ため息をついて、青年の近くに寄ってくる。そして、近くの椅子を取ってそこへと座った。
天津風「……」
青年「本は読まないって感じ?」
天津風「いや、ちょっとここで考え事をしたいだけよ」
青年「……そっか。お茶は?」
天津風「……お願いするわ」
青年はお茶を入れ、天津風に渡す。天津風は少し照れくさいのかどうかはわからないが、「私、猫舌だから」と少しどうでもいいことを呟き、青年のお茶を受け取り、ふーふーと息をかけて冷ましてから飲む。
天津風「あら、結構美味しい……」
青年「ふっふっふ……伊達に、ここにずっといないよ。ここから出ることは滅多にないからね」
天津風「……休館日とかないの?」
青年「今のところはね……。ま、それでもこんな感じで、艦娘のみんなと会話できたら楽しいからいいんだけど……で、考え事は?}
天津風「え?! あ……今からするわ!」
そう言って、何かを思い出し方のように天津風は何かを考え始める。青年はそれを邪魔しないように自分の読書へと戻った。
青年「……」
天津風「……」
静かな時間が流れるが、青年がチラリと、天津風を見てみると、天津風がこっちを少しだけ見ていた。目線は、青年ではなく青年の持っている本に向けられている。
青年「……気になる?」
天津風「あ、いや……ちょっとだけよ!」
青年「今読んでるのは『失敗した人を元気にするおまじない』って本だけど……天津風、もしかして失敗した?」
天津風「……まぁ……うん」
それから天津風は気落ちしながら、色々と教えてくれた。出撃の際に、作戦が伝えられたのだが、天津風のミスで旗艦の艦娘が大破、出撃はできなくなってしまい、今戻ってきたという。
青年「なるほどね……」
天津風「失敗って……結構悔しいのね。この鎮守府に来てからはまだ失敗したことなかったから、ちょっとダメージが大きいわ」
青年「ふむ……えっとね、じゃあ……これでどうかな?」
青年は立ち上がり、天津風に近づき、天津風の頭にポンと手を置いてあげる。天津風は急なことだったので、驚き、青年から勢いよく離れた。
青年「おお、本当に元気になっ――
天津風「ってないわよ! い、いきなり頭に手を置かないでよ……もうっ」
青年「でもちょっとだけ天津風らしくなったよ」
天津風「……」
天津風は、恥ずかしそうに青年を睨みつけ、立ち上がってからそのまま図書館を出て行ってしまった。
青年「……ま、これで元気になるだろう……たぶん」
次の日の出撃で天津風は見事、MVPを取って帰ってくるのだった。
その次の日、青年は朝起きてから図書館を開けるまでに食堂でご飯を食べる。これが彼の図書館外での普段の日常である。青年は仲の良い伊8と朝食をとることもあったが、今日は一人だった。
青年「とほほ、ぼっち飯か~」
そんなことを呟きながら、食事を取っていると何やら騒がしい集団を見つけた。
如月「やっぱり、こういったことが、気を引くためのワンポイントね♪」
卯月「さっすが如月お姉ちゃんだぴょん!! 参考になるぴょん!!」
睦月「本当に、一番大人びてるよね~」
どうやら、如月がいつものように、姉妹艦のみんなにちょっと大人なワンポイント講座を開いているようだった。その様子を見ながら青年は微笑ましく思う。なぜなら、青年は大人びている如月の、意外な一面を知っているからだ。
青年「おそらく、今日辺りに如月が来るな……ちょっと早めに開けておこう」
そう言って、少し早めに食べ終え図書館へと向かうのであった。
青年「……」
如月「こ、こんにちは~」
青年が図書館を開け、如月が来るのを待ちながら読書をしていると、青年の予想通り如月がやってきた。青年は楽しそうな表情をしながら、本を閉じる。
青年「こんにちは。如月は今日どんな本を借りに来たの?」
如月「い、いつものやつです」
青年「おっけー。じゃあ、待ってるよ~」
そう青年が言うと、如月は少々気恥ずかしそうにお目当ての本棚へと向かっていった。その本棚においてあるのは、『恋愛小説』。そう、これが青年の知る如月の意外な一面だった。
普段は、睦月型の中では一番大人びていて、いかにも様々な恋愛のいろはを知っていそうな雰囲気を醸し出している如月であるが、恋愛小説を借りる時は、彼女もまた、一人の純粋な乙女なのである。しかも、誰にも見られないように、時間を見計らって借りに来る。
こんな如月が、初めて恋愛小説を借りに来た時の照れっぷりに青年は最初かなり驚いたが、今ではそのギャップを見るのを楽しみにしている。もちろん、如月にはそのようなことは言えないが。
如月「あ、あの、今日はこれで……」
青年「お~、なかなか大人な恋愛小説を借りて行くね」
如月「も、もう、意地悪しないでくださいっ……」
青年「はいはい。今すぐにやりますよ~」
少しニヤニヤしながら青年は、貸出記録をつける。それも、かなりゆっくり目に。自分でもなかなかひどいことをしているのはわかっているが、何となくやりたくなってしまう。今の如月にはそんな魅力があるのである。
如月「い、いつもより遅くないですか?」
青年「気のせい気のせい……ということで、はい、これね」
如月「ありがとうございます……では、失礼します」
青年「また来てね~。いつでも、待ってるよ~」
そう言って、如月はそそくさと立ち去って行った。今日はかなり時間を稼いでしまったので、帰る途中で誰かと遭遇しているのではないかと考えながら青年はまた、自分の本へと目を向け、読書を始めるのであった。
青年「さて、本棚、『整理』するかな~」
そう言って、一度閉じて本棚の整理をやり始める。青年はまず、1つの本棚にコーナーをしぼり、整理を行う。作家名順ではなく、タイトル順で並べるのは青年の好みである。青年は慣れた手つきでテキパキと本棚を整理していく。
さて、普段は軽い態度でありながらも、仕事だけは真面目?にやっている印象のある青年だが、彼には1つ秘密がある。簡単に言えば、自分の仕事を利用して、あるものを隠しているのだ。
青年はその隠しているものがある本棚へと向かう。この本棚だけは、ほとんどの者が届かない高さにも本が置いてある。一応上の方にある本が読みたい場合は、青年の許可が必要というルールに青年が勝手に設定しているのだ。
青年は自分の仕事机の下から脚立のようなものを取り出して、その本棚の上の方を整理し始める。
青年「いや~……いいねぇ……」
青年が読んでいるのは俗にいう同人誌である。それも、自主規制がかかる内容のものだ。青年は、普段誰も読みたがらない高さの棚にこの同人誌を隠しているのだ。
青年「おぉっ……これはエロい……」
秋雲「そんなところで何してるの?」
青年「うおっ!? 秋雲?! 急に声かけるなよ、びっくりするじゃん……」
青年が声のした方を見ると、どうやら秋雲が本を返しに図書館へと入ってきたらしい。幸いかなり距離が離れていたために、おそらく秋雲の立ち位置からは青年が読んでいた内容はバレてはいないはずだ。
青年「あ、本返しに来てくれたんだ。そこに置いておいていいよ~。後は自分で何とかしておくから」
秋雲「了解~。……ねぇ、そう言えばそこの本棚って何が置いてあるの?」
青年「ん~。……難しい本かな」
秋雲「何の本?」
青年「哲学」
秋雲にバレたら面倒くさそうだと感じた青年は、『哲学』という興味のない人が聞けばすぐさま離れていくようなジャンルを口に出した。
予想通り、秋雲は「ふ~ん」と言って興味なさそうに立ち去ろうとした。
青年「ふぅ……ギリギリセーフ……って、あー!!!」
青年は安心したせいか、気づけば、その本を何故か手元から落としていた。拾うために下に降りようとしたが、秋雲の方が妙に反応が早かった。秋雲はその本を手に取り、内容を読み始める。
青年「あ、あわわわ……」
終わった。青年はここでの鎮守府生活は終わりだと思った……。
秋雲「……へ~。青年さん、こういうのが好きなんだ……」
青年「あ、いや、たまたまそういうのが……友人からもらっただけだから……」
秋雲「ね、他に何か持ってるでしょ?」
青年「え?!」
秋雲「ほらほら、出しなさいよ!」
青年「ちょっ……勘弁してっ……」
秋雲「その上ね!」
そう言って、秋雲は青年より先に脚立に登って青年の秘密の花園を荒らしていった。青年は、脚立を揺らしたりすれば秋雲が怪我をしてしまう可能性があったために何もできず、その花園が荒らされていくのをただ見守る他はなかった。
秋雲「ふむふむ……おおっ……コスプレ系ホント好きなんだね~」
青年「も、もういいだろ……」
秋雲「だめだめっ。青年さんの性癖を明らかに――
青年「しないで!!」
何だかんだで、青年と秋雲はその後、このような会話を何度も続けた。
青年は、秋雲の荒らしが終わった後、なぜか「もうお婿にいけない」と悲しそうに呟いたそうな……。
秋雲も秋雲で収穫があったそうで、「イラストの参考になった」とのこと。
普段軽い調子で、艦娘をからかっている青年が珍しくこてんぱんにされた瞬間であった……。これ以降、青年はそう言った本の隠し場所を改めることになったらしいが、それがどこにあるのかは未だに謎に包まれている。
青年が本を整理する中で、何だかんだで一番時間がかかるのは『漫画』である。この図書館では、リクエストさえあれば漫画も取り寄せることはできるが、図書館の名目上、一度に大量には取り寄せることはできないルールになっている。
マンガを暇つぶしに読みに来てくれる艦娘も多い。その中でも一番頻繁にやって来るのが、今青年の仕事机の近くの机に座ってマンガを読んでいる鈴谷である。
鈴谷「ねーねー。前から気になってることがあったんだけどさぁー」
青年「ん?」
鈴谷「せーねんってずっとここにいるけど暇じゃないの?」
青年「うーん……よく聞かれる質問だけど、こうやって喋ってくれる艦娘がいるだけで全然退屈しないよ、特に鈴谷はよく来てくれるし」
鈴谷「もう~、そんなこと言ったって何も出ないよ?」
青年「それは残念」
鈴谷と青年は毎回こんな感じで軽い会話を続けている。鈴谷がどう思っているのかは知らないが、青年的にはこの会話はとても楽しいものであった。そのため、青年は他の重巡洋艦の艦娘たちは「さん」付けで呼ぶのだが、鈴谷に対しては呼び捨てで呼んだり、タメ口で話している。だが、あまり鈴谷もそのことは気にしてはいないようだ。
鈴谷「そういえばさ~、せーねんって好きな子とかいないの?」
青年「え~、教えてもいいけど、タダでは無理だなぁ……」
鈴谷「あ、やっぱりいるんだ! へぇ……誰だろ?」
青年「当ててみる?」
鈴谷「うーん……あ! 鳳翔さん!」
青年「何で?」
鈴谷「だって、せーねんって結構寂しがりやな気がするし、どことなくマザコンというか、大人な女性には弱い気がする」
青年「おお、すごいなんかバカにされた気がする」
鈴谷「で、当たってるの?」
青年「大人な女性って部分は当たってるかな?」
鈴谷「おっ。これは一歩前進かな?」
どうやら、鈴谷は段々乗ってきたようだ。マンガもいつの間にか閉じて、机の上に放置したままにし、青年との話に夢中になっている。
鈴谷「えーっと……大人な女性だから……翔鶴さん!」
青年「あ~、あの人も綺麗だよね……うん」
鈴谷「え~、とどのつまり結局誰なのさー。鈴谷にだけ教えてくんない?」
青年「……誰にも言わない?」
鈴谷「あったりまえじゃん! 鈴谷のこと信頼してよぉ!」
青年「ここまで信頼できない宣言も初めてだなー」
青年と鈴谷は、傍から見ればかなり、楽しそうに会話をしている。内容だけを除けば、イチャイチャしているバカップルに見えなくもないだろう。鈴谷は、自信満々に、「さぁ、言ってみて!」と青年に頼んだ。
青年「えっと……大和さん」
鈴谷「えー、うっそ~!? マジ?」
青年「マジ」
鈴谷「でも、大和さん、提督にゾッコンラブだよ?」
青年「わかってるけど、好きになったんだから仕方ないじゃん……というより、表現古い」
ノリノリで会話をしていたのにもかかわらず、さすがに、好きな艦娘を他人に教えるのは恥ずかしかったようだ。青年は少し顔を赤くしている。そんな青年を見て、鈴谷はさらにノリノリになってきている。
鈴谷「告白はしないの? というより告白しちゃいなよー!」
青年「今のままだと結果わかってるだろ?」
鈴谷「しちゃいなよー。大和さんだって、直球には弱いって!」
青年「それでフられたらどうするんだよー」
鈴谷「ん~、鈴谷が付き合ってあげよっか?」
青年「はいはい。そんなこと、軽い気持ちで言わない方がいいよ」
鈴谷「え~、ちょっとくらい冗談に付き合ってよ!」
鈴谷は、青年の仕事机にまで乗り込んできて、前にかがみ込むような、胸のサイズが強調される例のポーズを取ってみせる。
鈴谷「それとも、鈴谷じゃ、不満?」
青年「え、ま、まぁ……不満ではないけど……。何て言うか、鈴谷は……軽い」
鈴谷「えー?! それ、青年が言っちゃうの!?」
そう言って、鈴谷はついに仕切りを超えて青年の近くに寄ってきた。そして、鈴谷は「うりゃー!」と叫んで、青年をくすぐり始める。もはや、ただのバカップルである。
青年「ちょっ、すず、っ……やめっ……」
鈴谷「このぉ! まだ、鈴谷さんの魅力がわからんと言うかー!」
青年「わ、わかった、からっ……ひひっ……ちょっ、ほんとにやめっ……」
鈴谷「よろしい!」
青年「はーっ……はーっ……死ぬかと思った」
鈴谷「じゃあ、言ってみよっか。『鈴谷さんはとても素敵な女性である』、はい!」
青年「……鈴谷さんはとても素敵でなおかつセクシー、美しい素晴らしい女性ですね、ぜひお嫁にしたいです」
鈴谷「お、おおっ!? まさかそこまで言うとは、なかなかやるねっ、このっこのっ!」
青年「あはは。もちろん、冗談ですけど」
熊野「何をしていらっしゃるんですの……」
2人「「あ………」」
青年「え、マジですか?」
提督「うむ。本だけじゃなく、DVDとかも貸し出す図書館があるらしくてな。少し、そうしたコーナーを設けようと思うんだが、どうだ? そうすれば、艦娘たちももっと来てくれると思うんだが……」
青年「なるほど……いいかもしれません」
提督「じゃあ、そのコーナーを設けるために空き場所を作ってほしいんだが、頼めるか?」
青年「あ、はい。何とかします」
青年は執務室を出て、図書館へと向かう。今青年が提督と話していたのは、この鎮守府図書館でもDVDコーナーを設けようとの話だ。青年は、来てくれる艦娘が増えてくれるなら、と思い軽く返事をしてしまったが、図書館の前に立つと、あることに気がついてしまう。
青年「そうか……古い本は処分しないといけないのか……」
青年は、図書館を開けて、中へと入り、かなり古い本が置いてあるコーナーに近づく。
青年「うわ~、もうこんなになってるのかぁ……でも、これ、処分どうしよっかな……。……とりあえず、いらなさそうなもの、ピックアップしていくか」
そう言って、青年はいる本といらない本の選別を行い始めた。いつもの整理とは違って、かなり慎重な作業が必要とされる。なぜなら、それらの本を読みたがる人にとってはかなり重要なことになるからだ。
青年「おっとっと。処分することも連絡しとかないとな……急に捨てられたら読みたい人、可愛そうだし」
そう言って、青年は安物の紙に、DVDコーナー開設と古書処分についての説明書きを準備し、図書館の入り口のところへと貼り付ける。
青年「これでよし……」
青年がそう言い終えて、また作業を始める。
しばらく、作業を続けると、図書館の扉が開き、一名の艦娘が作業をしている青年に近づいてきた。
古鷹「あ、あのっ……本当に処分しちゃうんですか……?」
青年「古鷹さん……えっと……まぁ……そうなるかと……」
古鷹「……そうですか……悲しいですね……。また、読みたいと思っていたのに……」
青年「あっ……。古鷹さん、ちょっとお話でもしましょうか」
古鷹「えっ? あ、はいっ」
青年は、古鷹を椅子に座らせ、お茶を入れ、古鷹の前に出した。そして、まず一言、「ごめんなさい」と古鷹に伝える。
青年「僕が、あまりよく考えなかったもので……古本がこのようなことに……」
古鷹「い、いえいえ。青年さんは悪くないと思います……でも、どうにかならないんでしょうかね……」
青年「……」
古鷹「せっかく、ここまで集まったのに、捨てちゃうなんて……。きっとこの中の本にも、読まれてない本はたくさんあると思うんです。私も読んでいないのはありますけど……」
青年「そうですね……。やっぱり、本は読んでもらわないと、その魅力や価値が発揮されずになってしまいますから……」
古鷹「……寂しいです。古い本にだって、書いた人の知恵だったり……思いだったり……たくさんの伝えたいことや魅力があるのに……」
青年「はい……」
古鷹「あ、あのっ。青年さんの力でどうにかできませんか?」
青年「そうですね……捨てずにそのままというのは、おそらく無理ですが……」
古鷹「そうですか……なっ、なんでしたら私が全部もらいうけ――青年「それは、さすがにダメですよ……加古さんにも迷惑かけちゃいますよ?」
古鷹「うぅっ……そうですよね……」
古鷹が非常に残念そうな顔をする。だが、青年はここまで、一生懸命に古い本のことを考えてくれている古鷹の思いを踏みにじるようなことはできない。青年は必死にどうするかを考えた。
青年「……じゃあ、こうしましょう。僕の仕事スペース、狭くしますよ」
古鷹「えっ……」
青年「大丈夫ですよ。狭くても頑張れば仕事はできますし、それに僕、結構整理得意ですから大丈夫です!! 大船に乗ったつもりで信じてください!!」
古鷹「……青年さん……」
青年「……でもまぁ、さすがに捨ててしまう本は出てきてしまいそうですがね……ですがなるべく捨てないための努力はします」
古鷹「……」
青年「売らずに、今後の未来を担う若者たちに読んでもらうために、街にある本格的な図書館に頑張って引き取ってもらうつもりですが……どうでしょう?」
古鷹「青年さん……青年さんも、若者ですよね……?」
青年「え、そこ……そこはもっとこう……『青年さん、ありがとうございます!』的な言葉があるかと……」
古鷹「えっ!? あ、ごめんなさい。ノリが悪くて……」
青年「いやいや、いいんですよ。ま、頑張ります!」
古鷹「はい! お願いしますね!」
その後、青年は古鷹を見送った後にどの本を本当に処分しなければならないかを一生懸命に考えた。そして、数日後、提督の言った通り、DVDのコーナーができた。まだ本数は少ないものの、これから忙しくなりそうな気がする青年だった。
古鷹と約束した古本は、ちゃんと地域の図書館へと寄贈し、残った古本は青年の仕事机のスペースを占領しすぎない程度に綺麗に置かれていた。そして、DVDコーナーの開設後、古鷹は一番最初に図書館へと来てくれた。
古鷹「すいません。借りたいものがあるんですけど」
青年「わかってますよ」
古鷹「はいっ! では、持っていきますね」
古鷹は青年の机の上に置いてある本を取り、青年に手渡した。青年は、すぐに貸出記録をつけ、古鷹へと手渡す。古鷹は嬉しそうに、青年に微笑みを向けて、一礼をして去って行った。
青年「ま、読んでくれる人がいたら、本も嬉しいだろうな……ん?」
青年がふと見ると机の上に置いてある山積みの本がグラグラと揺れているのがわかった。青年が、次にどうなるかは予想できるだろう。
青年「え、古鷹さん、どんな取り方したの―――
青年は古本の山の中に埋もれて一瞬だけ思ったことを口にする。
青年「処分した方がよかったかな……」
鈴谷「というわけで、せーねん、大和さんに告白するステップを踏むために、せーねんの男としての魅力を鍛えていくよ!!」
青年「いきなりどうした……」
鈴谷が突然、読んでいたマンガを閉じてそう叫んだのを聞いて青年は呆れた顔でそれに答える。青年がふと、鈴谷の読んでいたマンガの表紙を見ると、明らかに恋愛系のマンガだった。つまり、鈴谷は青年と大和が結ばれるための秘訣をこのマンガの中から見出したということなのだろう。
鈴谷「というわけで、この前も言ったけど大和さんは直球に弱そうなところがあるから、直球での告白パターンを考えてみよう!」
青年「めんどくさい……しかもそのメガネ、どこから用意したんだ?」
鈴谷はメガネをかけて、まるで自分が恋愛教室の教師になった気分で話しを進めていく。地味にそのメガネが似合ってるとは青年は恥ずかしくて口には出さなかった。
鈴谷「いい? 鈴谷は今、せーねんの先生だから、『先生』と呼ぶこと! いい?」
青年「はい、『先生』」
鈴谷「うん、じゃあ、せーねんなりに考えた直球の告白を練習していくよ!」
青年「うーん……」
鈴谷「ほら、鈴谷のことを大和さんだと思って告白して!」
青年「……す、好きです! 付き合ってください!!」
鈴谷「うーん、直球だけどイマイチだね……」
鈴谷は、青年がさっきやった告白をメモ用紙に書いてボツ、と付け加えた。青年は、それからも色々考えて鈴谷に告白の言葉をぶつけている。
青年「初めて見た時から、あなたしか見えなくなってしまったんです! 付き合ってください!!」
鈴谷「ちょっとクドい」
青年「え~っと……月が綺麗ですね」
鈴谷「何か胡散臭い」
青年「……結婚してください!!!」
鈴谷「いきなり段階飛びすぎ! もうちょっと遠慮した方がいーんじゃない?」
青年「難しい……やっぱりいきなり告白は早いんじゃないかと思うんだが……」
鈴谷「う~ん……」
鈴谷は腕を組んで考え始めた。青年はここで、ある秘策を1つ思いつき、鈴谷にふっかけてみることにした。
青年「じゃあさ、鈴谷が俺に手本見せてよ」
鈴谷「え?!」
青年「いや~、鈴谷は俺の『先生』だから、もちろんすごい告白をしてくれることを期待してるよ」
鈴谷「しょ、しょーがないなぁ! じゃあ、一回だけだからね」
そう言って、鈴谷は告白の言葉を腕を組んで考え始める。しばらくしてから考えがまとまったようで、腕組みを止めてオホンと一回咳払いをした。そして、青年の目を真っ直ぐ見つめて、ほどよい間を空ける。
青年「あ、俺のことは提督と思ってくれていいから」
鈴谷「わ、わかってるよ。今集中してたんだから、変なタイミングで声かけないでよー」
青年「ごめんごめん。さ、先生、お願いします」
鈴谷「あのね……鈴谷……ずっと提督のことが好きだったの!! 提督のこと考えると……ココが締め付けられて……。もう我慢するのは嫌……だから、提督……鈴谷だけを見て……お願い……」
青年「……うわぁ」
鈴谷「……恥ずかしい……」
青年「な、なんかごめん……」
恥ずかしそうに顔を赤らめる鈴谷を青年はなだめる。だが、不覚にも青年は鈴谷の告白にはときめいてしまったことは言うまでもない。もし、その対象が自分であったら……少しだけそう思ってしまった。
青年「……でも、さすが先生。すごい参考になった」
鈴谷「で、でしょー?! 自信あったんだ!!」
そう言いながら、二人はまた盛り上がり始める。そして、しばらく盛り上がった後、どういうわけか疲れた二人は改めて大和への告白プランを考え始める。
鈴谷「……ていうかさー。今思ったんだけど……告白の言葉がいくらよくてもシチュとか、ファッションとかダサかったら意味ないよね」
青年「そうだな」
鈴谷「はぁ……何盛り上がってたんだろ、私達」
青年「……ちょっとふざけすぎたな」
鈴谷「うん……私なんか、提督にするはずの告白の言葉、せーねんに教えちゃったし」
青年「別に俺に教えてくれたっていいだろ……」
鈴谷「うーん、ほら。何となくこういうのは後々聞くもんじゃん。『何と言って告白しましたか?』みたいな感じで」
青年「言われてみれば……」
鈴谷「はぁ、何か疲れたぁ~……あ、そうだ。せーねん、一緒に間宮さんとこにアイス食べにいこー」
青年「はいはい……どうせ、俺の奢りとかなんだろ?」
鈴谷「今日の恋愛相談の講義代ってことで」
青年「まったく参考になってないけどな」
軽口を叩き合いながら、二人は間宮のところへと一緒に歩いていった。もちろん、青年は図書館はちゃんと閉めておいた。だが、その様子を他の艦娘たちに見られていたのは言うまでもない。
青年「お、おおっ……女優さんが……ってあれ……うわっ!!!」
青年は、ちょうど今、先日できたDVDコーナーのDVDを自分のパソコンに入れてからヘッドホンを付けて鑑賞中である。その内容は、かなりサイコな物語で、青年はその映画の中でも最もヤバイシーンを現在視聴中である。もちろん、艦娘たちがいないからこそ見れるシーンなのではあるが……。
青年「うっ……これは……うぷっ……やばい。油断したら吐きそう」
青年がそんなことを一人で呟きながら、映画を楽しんでいると、提督が図書館の中に入ってきた。青年はそれに気づかず、まだ「うわっ……」とか「ひえっ……」などと言っている。そして、提督が図書館の受付カウンターのところへ来た瞬間やっとのことで青年は提督のことに気づいた。
青年「ん? あ、提督さん、こんにちは!」
提督「やあ、お楽しみのところすまない」
青年「いえいえ……むしろ、止めてくれて助かりました……」
提督「?」
青年「こちらの話です……。ところで、今日は何のご用件で?」
提督「いやな……今日も資料室に入る用があるのだが……ついこの間、深海棲艦に誘拐されていた君と同じ歳くらいの清掃員の青年が、昨日、無事に帰ってきたらしい」
青年「マジですか……それって前代未聞ですよね?」
提督「ああ。……まあ、それの件について元帥から、深海棲艦について今持っている資料をあるだけ持ってこいと頼まれているのでな。青年、頼めるか?」
青年「了解で~す」
そう言って、青年は資料室の鍵を取り、提督の前を歩いて、資料室へと向かい歩く。青年は、この時、少なからずその深海棲艦達のもとから生きて帰ってきた清掃員のことが気になっていた。ただ、深海棲艦達の生活風景がどのようなものか、青年の知的好奇心は非常にくすぶられた。
青年「しかし、まぁ……聞けば聞くほどにびっくりする話ですね」
提督「ああ。私も近々、呼び出されるかもしれんな……。その清掃員の話を聞くために各地の提督が集まるとのことだ」
青年「うわっ……ただの清掃員がそこまでなんて、スケールでかすぎですよ」
提督「そうだな……もしかしたら、君もそうなるかもしれんな」
青年「縁起でもないこと言わないでくださいよっと……開きました」
提督「ご苦労」
そう言うと、提督は資料室の中に入りたくさんある資料を漁り始めた。とてもじゃないが、いつもよりはすんなりとは見つけられなさそうな気がした青年は提督に手伝った方がいいかどうかを尋ねた。だが、提督は「一人でやる」と言って、しばらくの間そこから出てこなかった。
青年「まったく、真面目な人だね……はぁ……」
そう言って、青年はもう一度、パソコンの前に座って、映画の続きを見始める。
青年「あー! だめっ! それ、食べちゃだめっ! ふおー!!」
後々になって、青年が大声の出しすぎで提督から一喝を喰らったのは言うまでもない。
それから、提督は資料を全て整理できたのか、青年にお礼を言ってから図書館から出て行った。先ほど一喝を喰らったせいで、若干テンションが下がってしまった青年は気を取り直そうと読書を始めることにした。
青年「……」
しばらく読んでいると、また一人、艦娘が図書館へと入ってきた。球磨型軽巡洋艦の大井だった。とは言っても、改造により、今は重雷装巡洋艦となっているのだが……。
大井「……」
大井は、基本的には黙って本を借りて行くタイプの艦娘だった。青年はいつも話そうとするが、大井からの話かけてほしくなさそうなオーラを感じ取り、いつも話しかけずに終わってしまう。そして、大井の借りて行く本は、『女性を落とす99のテクニック』やら『女子力アップで、最高の親友に』、『女の子にゲキウケ! メイクアップ講座』などと言った本を借りて行くことが多い。おそらく、その理由はこの鎮守府の誰もがわかっていることなのだが……。
青年「……はぁ、大井さん、結構美人だと思うんだけどなー」
大井「……」
青年が大井を尻目に少し呟いてみるが、大井には聞こえなかったようだ。
そして、しばらくして、大井が借りる本を見つけてこちらへと持ってきた。いつもなら、1冊しか借りないのにもかかわらず、今回は3冊も借りて行くらしい。
青年「……では、少しお待ちくださいね」
大井「……」
だが、ここで青年はあることに気づいてしまった。
いつものジャンルのものが2冊……そして、その2冊の間に挟まれた本が、大井が借りて行く本としては滅多に、いや、一度も見たことがないものが混じっていた。
『ズバリ、男は女のここを見る』
青年「え……」
思わず声が出てしまった。ちらりと大井を見るとものすごい目つきでこちらを睨みつけている。目で「早くしてください」と命令されているようで、青年は怖くなり、急いで手続きを済ませていく。
大井「……」
青年「……で、では返却期限を守ってくれれば……いいです、はい」
大井「……変ですか?」
青年「へ?」
大井「私がこういった本を借りるのは、変でしょうか?」
青年「……別に変だとは思いませんが、ただ、珍しいな……と」
大井「……」
大井が果たしてどのような気持ちでその言葉を言っているのかはわからなかった。
青年は、先ほどの大井の睨みつけにおびえてしまっていたために、若干、視線を外している。
だが、大井の声はそれなりにしおらしいものになっているということだけはわかった。
大井「そうですよね……急にこんな本を借りるなんて、私も思いませんでした……」
青年「ま、まぁ……いいんじゃないでしょうか……」
大井「……」
そう言うと、大井は少しだけ青年に微笑みを向けた。その微笑みが、どういった意味かはわからなかったが、そこまで悪い意味ではなさそうだった。
――――青年が余計なことを言わなければの話だったが。
青年「あ、大井さん、提督さんに頑張ってアタックですよ!」
大井「……青年さん……後で少し演習に付き合ってくださるかしら? ちょうど提督から頂いた新しい魚雷があるの」
青年「……なんでもねっす」
大井「そうですか。それは残念ですね……かなり強力な魚雷みたいなので、一度性能を確かめてみたかったんですが……」
青年「それは深海棲艦に向けて撃ってくださいお願いします」
大井「くすっ……冗談ですよ。……いつもありがとうございます。……青年さんには、リクエストの本を取り寄せてもらっているので……『そこは』感謝しているんですよ?」
青年「そ、そうですか……」
大井「はいっ。では、失礼します」
そう言い残し、大井は悠々と去って行った。青年は、大井の魚雷発言のせいで、寿命が5年は縮んだと思うのであった。
北上「まー。大井っちらしいよね~」
青年「え、いつから見てたんですか?」
北上「う~ん、青年君が大井っちに対して『結構美人だよなぁ……』とか、ちょっとイイ感じの声で呟いた辺りからかな」
青年「どこから見てたんですか?」
北上「まー、どうでもいいじゃーん……それに、何となくだけど青年君のタイプがわかった気がするよー」
青年「……ヤバイ」
次の日、青年がいつものように、何気なく適当に本を読んでいると、普段は姿を見せない艦娘が図書館の中へと入ってきた。巫女服を基調としたような上の服に黒いスカート、金剛型戦艦の長女・金剛だ。
青年は普段金剛が提督にベッタリなのを知っているために、初めて図書館に来て少し緊張している金剛を見れただけで何やら嬉しい気分になる。金剛はあちらこちらをキョロキョロとしながら、何かの本を探しているようだった。
青年「金剛さん?」
金剛「あ、青年! Good Morning!!」
青年が話しかけると、金剛はさっきまでの緊張した態度が嘘のような笑顔を向けて挨拶をしてくれた。青年も、挨拶を返し、何か本を探しているのかを尋ねる。すると、金剛は少しだけ淋しげな表情を見せ、話し始めた。
金剛「実は……生まれ故郷、英国についての本が読みたいデース……」
青年「ああ、イギリスについてですか? それなら探さなくてもいっぱいありますし、そこまで緊張なさらなくても……」
金剛「でも、数が多すぎてどれから読めばいいかわからないデース! 青年が何かオススメしてくれたら、Good なのに……」
青年「う~ん……その質問はやってくれる人が多いですけど……何だかんだ言って困るっていうのが本音なんですけどね……」
そう、何かオススメをしてくれと言われても、その人物というのをよく理解していない限り、下手に自分が面白いと思ったものをいきなり他人にオススメしてもその人の好みに合わないということはよくあることである。
青年は、何度か他の艦娘にもその質問をされたことがあるが、いつも『自分がこれだと思ったやつでいい』と答えることにしている。だが、金剛の期待を裏切るわけにもいかず、青年はイギリスの王室の歴史についての本を手にとって金剛を手渡した。
金剛「な、なんだか難しそうな本デース……」
青年「でも、やはり英国について知るには、それが一番ですよ。『温故知新』という言葉があるのをご存知ですか?」
金剛「Hmm....よくわからないデース……」
青年「『温故知新』というのは、昔のことを学ぶことによって新しいことを知る……と言ったことです。歴史の勉強って言うのはまさにそれに近いかもしれませんね。金剛さんも、英国の古い事柄について詳しくなれば、何か新しいアイデアが思いつくかもしれませんよ。イギリスは特に王室の変遷が激しかった国の一つですからね……」
金剛「なるほど……勉強になりマース! 頑張ってよんでみるネ!」
そう言って、金剛は嬉しそうに図書館から出て行った。
そして、青年はふとこうつぶやく。
青年「久しぶりに図書館にいる人としての勤めを果たした気がする……」
気持ちのいい朝日を浴びながら青年は図書館の鍵を閉めた。そして、『本日、休館』という札を下げてから鎮守府の出口へと向かい、歩き出す。
今日の青年は、鎮守府の外にある地域の図書館へと行き、いらなくなった本を譲ってもらいに行くのである。その青年について来てくれるのは……。
鈴谷「おっはよ~」
青年「今日は鈴谷か」
鈴谷「何? 嫌?」
青年「まぁ、あんまり話したことのない艦娘と一緒になるよりはマシだからなぁ……。さて、鈴谷行くか。今日いっぱい手伝ってくれたらなんか奢るよ」
鈴谷「ほんと!? じゃあクレープね!」
青年「はいはい、ちゃんと手伝ってくれたらな」
そう言って、青年と鈴谷は歩き始めた。先ほどの会話でお気づきだろうが、青年がこうして地域の図書館へと向かうのは定期的なことになっていて、その際は必ず艦娘を1人連れて行く事になっている。
青年「……」
鈴谷「それにしてもいい天気だね~」
青年「そうだな……」
鈴谷「そう言えば、せーねんさ。最近、大和さんとはどうなの? 会話してるの?」
青年「いや、できてないな……」
鈴谷「そんなんじゃいつまで経っても大和さんとくっつくなんてムリと思うけど……」
青年「仕方ないじゃないか……。そりゃ、俺だって話したいけど……」
鈴谷「……あと、せーねん、ところどころニブイよね。私、今日いつもと違うんだけど、それにも気づかないなら、大和さん振り向かせるなんてムリ」
青年「い、いつになく厳しいな」
鈴谷「まあね~……」
青年「……気づいてほしかったのか?」
鈴谷「うっ……。そ、そりゃあ、せーねんに気づいて貰えないと提督にも気づいて貰えないだろうし……」
いつもと比べて2人の会話が暗く感じるのは、2人とも今朝起きたのがいつもより早めだったからなのだ。地域の図書館に行く際、なかなかの距離があるため、鎮守府のみんなが朝ごはんを食べる頃にはもう出発しているのだ。
2人はそれでも、いつもと違って活気はないものの、軽口を叩きながら地域の図書館へと向かっていくのであった。
しばらく、歩いて2人は地域の図書館へとたどり着いた。
青年「鈴谷、俺は図書館の人と話してくるから少し図書館の中で時間を潰しててくれないか?」
鈴谷「ん? おっけ~」
青年がそう言うと鈴谷はテキトーにそこら辺の本棚から一冊興味がありそうな本を取って、着席した。青年はそれを見届けると、図書館の職員さんと話に受付へと向かうのであった。
職員「はい、ありがとございます」
青年「いえいえ、こちらこそ。本当にお世話になります」
職員「捨てられるより、マシですよ……」
青年「……そうですね。では、今後共よろしくおねがいします」
職員「こちらこそ」
青年と職員は、これと言って何の波風もなく話し合いを終えた。青年が時間を確認すると、波風はなかったものの、意外にも時間は経っていた。青年は鈴谷を待たせすぎたかもしれないと思い、鈴谷のもとへと向かう。
鈴谷「……」
青年「鈴谷? 終わったぞ」
鈴谷「ん……」
よく見てみると、鈴谷は目を閉じてこくりこくりと眠りかけていた。青年は何だか鈴谷のこうしたところを見るのは初めてだったので面白いと思い、しばらく様子を見ることにした。
鈴谷「ん……」
青年「……起きないな」
青年は、何とかして鈴谷のことを起こしてあげたかったが、これと言って急ぐ用事もないのでそのままにしてあげることにした。ひょっとしたら、普段の疲れが溜まっているかもしれない……と青年なりの気を利かせて。
青年「……」
とりあえず、起きるまで、近くの本棚にあった本を一冊手に取り、読み始める青年。鈴谷は、目を開ける様子はなくスヤスヤと静かに眠っていた。青年は本を読みながら普段見ることのない鈴谷の寝顔をチラチラと見る。「なんだか、可愛い」―――。そう、思ってしまった。
青年はこれまで鈴谷のことを仲の良い悪友のような感覚でしか見ていなかったため、こうした意外な一面を見たせいで、少しだけ違った目で見てしまう。だが、彼の中での本命は大和である。そこは、変わらなかった。だが、不思議にも頭の中では鈴谷と2人で歩いたり、手を繋いだりすると言った光景を思い浮かべてしまう。大和と付き合ってすらいないのに、何だか浮気をしているように思えた青年は、本に意識を集中させることにした。
青年「……気のせいだ」
小さな声で言い聞かせるように呟いた。しかし、青年の胸の鼓動は少し、まだ早いままであった。
鈴谷「んぁっ……あれ、私……」
青年「あっ……鈴谷、起きたのか」
鈴谷「あ、あれ、せーねん、もしかして私寝ちゃってた……?」
青年「まぁ……な。結構グッスリ」
鈴谷「や、やだっ……その間に私、せーねんに寝顔見られた?」
青年「まあな」
鈴谷「う、うぅ……まさか初めて見せたのがせーねんだなんて……」
鈴谷は少し恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
そして、しばらくして二人で図書館を出て昼食を取りに某有名ファミレス店へと入った。向い合って、座り、青年はメニューを取ると、鈴谷に渡してあげる。
青年「まあ、お先に決めてくださいな」
鈴谷「おっけ~。……え~と……」
二人で、頼むメニューを決めた後で店員を呼んで、注文をし、料理が届くのを待った。
鈴谷「う~ん、まさかせーねんに寝顔見せちゃうなんて……」
青年「そんな気にするところなのか……」
鈴谷「気にするに決まってるでしょ! は、恥ずかしいんだから……」
青年「あ、いや……。ね、寝顔……アレだ。可愛かったぞ?」
鈴谷「ナニソレ。ナンパ? 遠回しな告白?」
青年「するわけないだろ」
鈴谷「だよね~、せーねんの本命は大和さんだもんね~」
青年「……」
鈴谷「で、告白とかするの? と言うより、最近大和さんと話してる?」
青年「……実は……全然」
鈴谷「えぇ!? もう……いくら図書館からなかなか離れられないとは言え、食事とかには誘わなきゃ! 滅多に会えないのに、自分から会いに行かなくてどーするのさ!」
青年「俺だってそうしたいけど……」
いつの間にか青年の恋愛相談が始まってしまうこの二人の会話。鈴谷も先ほどのムスッとした表情がだんだん柔らかくなって、笑顔をこちらへと向けていた。二人の仲は、親友と言うより、悪友に近いだろう。二人が楽しそうに話していると、料理が運ばれてきた。青年と鈴谷は手を合わせて、「いただきます」とつぶやき、昼食を取り始める。
鈴谷「……ねぇ、今思ったんだけどさ」
青年「ああ」
鈴谷「朝に、手伝ったらクレープ奢ってくれるって約束したじゃん?」
青年「したな」
鈴谷「……手伝ってなくない? 私」
青年「……そうだな」
鈴谷「そもそも、『手伝って』とか言われてなくない?」
青年「……」
視線をそらす。
しかし、もちろんごまかせるわけもなく……。
鈴谷「んん~。んまいっ!」
青年「はぁ……結局こうなるのか……」
クレープを奢らされた青年であった。
次の日、図書館が開くと同時に図書館の中へと入ってきた艦娘がいた。時雨である。
青年「時雨か……珍しいな」
時雨「そうかな。今ままでも何回か来てるけど……気づいてないかい?」
青年「えっ、そ、そうなの?」
時雨は、黙って頷いた。青年は少しだけ記憶を遡ったがなかなか思い出すことはできなかった。青年の記憶に残っているのはやはり、どちらかと言うと、頻繁に本を借りる手続きをしにくる艦娘と常に話しかけてくれる艦娘の方なのだ。時雨も確かに来ていたかもしれないが、あまり会話をした印象もないし、どんな本を読むのかもわからなかった。
青年「ご、ごめん。記憶にない……」
時雨「そう……仕方ないさ。僕は、借りることはあまりないからね」
青年「お、おう……。そう言えば、今日は何で開館と同時に?」
時雨「……昨日は閉まってたからね。読みたいものが読めなかったのさ」
青年「へぇ……その口ぶりだと昨日開いてなくて迷惑かけたみたいだな……ごめん」
時雨「謝ることはないよ。青年にも仕事があるからね」
青年「あ、あぁ……」
時雨は、駆逐艦の割にはかなり落ち着いた雰囲気のある艦娘なので、少しだけ他の駆逐艦と話すよりは感覚が違うよういに思う青年。しかし、これと言って、苦手ではないので、青年はむしろ話すことができて嬉しいという思いの方が強かった。
青年「ところで、時雨はどんな本を読むんだ?」
時雨「僕は詩集を読むけど……何かおかしいかい?」
青年「おっ、大人だなぁ……」
時雨「む……」
青年「あれ……?」
一瞬だけ時雨がムスッとした表情を見せたような気がした青年。もしかして、『大人』と呼ばれることに抵抗があるのだろうか。そう思った、青年はすぐに謝罪の言葉を述べた。
時雨「どうして謝るんだい?」
青年「いや、一瞬不満そうな顔したから……」
時雨「……そんなに顔に出てたかい?」
青年「うん。まあ、それなりには」
時雨「そうか……実は、僕、他の駆逐艦と違うと大人っぽいと言われることがあるのはもちろん知ってるんだけど……何と言えばいいのかな……僕も駆逐艦なんだ」
青年「……うん。言葉にするのは難しそうだな。時雨の気持ち。無理に言わなくても何となくはわかるよ。ごめんな」
そう言って、時雨の頭にポンッと手を置いた。時雨は小さな声で「うん」と言ってから、下を向いてしまったためにその表情は見えなかった。
時雨はしばらくしてから、気恥ずかしそうに図書館から出て行ってしまった。また、図書館に静寂が訪れる。青年はそんなことは気にせずに、自分の読書へと戻る。しかし、それとほぼ同時に図書館の扉が静かに開かれるのがわかった。青年は、誰が入ってきたのかはわからなかったが、それを予想しながら読書を行った。
中に入ってきた艦娘と思わしき者は、本棚を行ったり来たりする音を出しているのに、自分で気づいていないみたいだ。そして、「うーん……」と唸りながら何やら迷っているみたいであった。
さすがに気になった青年がチラッと音のした方を見ると、見たことのある髪の毛のくくり方が見えた。
青年はそれを見てから、彼女が「曙」であることをすぐに理解して、少し笑みを浮かべた。
青年「曙かー? 何か本選びに迷ってるのか?」
曙「んなっ……そんなわけないでしょ! クソ青年!」
青年「図書館では静かになー」
曙「うっ……ごめん」
青年はそんなことを言って曙をからかってみる。曙は口こそ悪いものの、そこまで悪い艦娘ではないことは青年はそれなりに理解しているつもりだった。青年は、「やれやれ」と言った表情をしながら、立ち上がり、曙の近くまで歩いて行く。
青年「……」
曙「えっ!? ちょ、何勝手に近づいてんのよ! 帰れ!」
青年「……いやいや、本を直しに来ただけだから」
曙「あ、そ、そう……」
青年は、そう言って、手に持っている本を直す。曙はバツが悪そうな顔をして、青年から顔をそらしている。そして、青年はその去り際にこうつぶやいてみることにした。
青年「本当に素直になりたいなら、読むだけじゃなく実践が大切だぞ」
そう言って、曙の反応を伺うことにした。
青年は曙が手元に持っている本は見えていなかった。しかし、曙が手元に持っていたのは、『素直にコトを伝える方法』という本であった。青年なりに、曙の性格を考えた上での優しさのこもったからかい方であった。
青年が立ち止まって、曙を見ると、曙はプルプルと震えている。
そして―――――
曙「死ね!!!!!」
青年の顔面に曙の手元から繰り出された本という名の凶弾が着弾した。
青年「いってて……何もあそこまで本気で叩きつけることもないと思うけどな……」
青年は、本をぶつけられ赤くなった鼻を優しく撫でながらつぶやいた。そして、自分の席へと戻り、また自分の積んでいる本を読み進めていく。すると、図書館の扉が開けられ、その向こう側から足柄が現れた。
青年「あ、足柄の姐(あね)さん、どうも」
足柄「毎回思うけど、その呼び方ってどうなのかしら……?」
表情は笑顔であるが、その後ろにあるオーラが完全に穏やかなものではないと感じとった青年はすぐに謝った。足柄は青年のことを許すと、目的の本のあるコーナーへと歩き出した。
足柄の借りる本は、メインは戦闘モノ、つまり、戦記や軍記と言われる類の小説である。足柄は一度に多く借りては行くが、ちゃんと全部読んでから返してくれる。そもそも、ここは鎮守府であるのに、あまり返却期限には厳しくしていないので、借りて行ってくれるだけでもありがたいことなのである。
足柄「何か新しいのはないのかしら?」
青年「そんなに読みたいんですか?」
足柄「当たり前じゃない! この私の心の奥底から溢れ出てくる戦いに関する情熱を保ちつづけるには、こうした本を読むしかないもの!」
青年「そ、そうなんですか……」
足柄の熱意には青年もたじろいでしまった。ここまで、彼女が求めるのだから提督もたまには出撃させてあげればいいのに。そう、思ったが、軍のことをよくわかっていない自分が口出しできることではないと思った青年は、苦笑する他なかったのであった……。
その日は、足柄の後に、図書館へと寄る艦娘はいなかった。そのため、せっかくなので、今日は早めに、図書館を閉めることにし、青年は図書館の鍵をしめてから、夕食を食べに食堂へと向かった。
青年「……」
相変わらずだが、青年は、もう少し艦娘たちと仲良くはしたいのだが、やはり、図書館へと来ない艦娘からは少し警戒されているみたいだった。妙な視線を感じてしまい、食堂は落ち着かない場所となっていた。
青年「……」
鈴谷「おっ、せーねんじゃん! 大和さん、ここ座りましょ!」
大和「ど、どうも」
青年「あっ……! え、あ、その……どうも」
鈴谷が青年のことを見つけて急に寄ってきたかと思えば、大和も一緒だったことに驚いた。以前にも説明したが、青年は大和に対して、片想い中なのである。
鈴谷(せーねん、今度ジュース奢ってよね)
青年(しかたないな……)
シメシメと言った顔をしながら、青年に耳打ちする鈴谷。そんな二人の様子を見て、何やら大和が困惑した表情を浮かべていた。
青年「ど、どうしたんですか?」
大和「いえ、お二人とも仲がとてもよろしいんだなと思いまして……もしかして……そういうことだったり……?」
青年と鈴谷は同時に、「まさか!」と答えた。
鈴谷「そんなわけないじゃないですか~。せーねんは好きな人いるもんね~」
大和「え? そうなんですか?」
青年「ま、まぁ……僕も男の子なので……」
ここで、大和に対して「好きなのはあなたです」なんて死んでも言えない青年。その様子を鈴谷はもどかしく見ている様子だった。鈴谷は青年と大和の仲を近づけさせようと必死に話題を探してみる。
鈴谷「そ、そうだ、青年! 今度休暇もらいなよー! 鈴谷さんがてーとくに話通しといたげるからさ~、ここはその好きな子を誘っちゃいなよ!」
青年「え、ええ?!」
大和「それはいい案だと思います……! 青年さんの恋が実るといいですね」
大和の一言が青年の胸を突き刺した。さすがに、ダメージが大きすぎたのか青年はその場に突っ伏してしまう。
大和「え? どうかしましたか?!」
青年「い、いや、なんでもないです……」
作者のどうでもいい呟き
というわけで、青年シリーズ。
はっきり言って、これもみなさんのリク次第でいい作品になるかも~、的な感じです
期待
清掃員から見てます!はっちゃんとの絡みよろしくお願いします!
1の名無しさん
出来るだけ頑張りますのでよろしくおねがいします~。
2の名無しさん
ありがとうございます!!
もちろん、はっちゃんは最初から絡ませる候補ですぜw
面白そうですね…
ラインさんの書く話がとても好きなので更新が楽しみです!!
たぬポンさん
ありがとうございます~。
清掃員とは性格が全然違うと思うので、そちらも楽しんでいただけると嬉しいです。
更新できるだけ頑張ります!
みいにゃんです、こっちもなかなか面白そうな予感が!
リクエストは神通さんと、羽黒さんで如何でしょう?
2人とも小説とか好きそうな気もするし♪
みいにゃんさん
神通と羽黒さんですね、了解です!
イメージはそんな感じでいきたいと思います。
榛名お願いします!!
リク案件ありがとうございました~、うん、この羽黒ちゃんも可愛いの~、なんていうか頭なでなでしたくなる・・・
というか、自分の鎮守府に入れたらどんな感じなんだろうかなって最近思ってしまう今日この頃、主様はいかがお過ごしですか?
たぬポンさん
榛名、了解です!頑張りますよ~
みいにゃんさん
いえいえ、こちらこそリクありがとうございます。
羽黒の頭はぜひ、なでなでしたいです。
最近は忙しくて放置気味の提督業でございますw
わー50です。こちらの青年君のお話も面白くて好きになれそうですね。
ダンスに関係する本を元気に探す舞風と本は静かに読みたい野分をリクエストしたいと思います。
面白いですし、はっちゃん可愛い(可愛い)
リクエストで初風お願いします!
よく図書館に入り浸っている初風が腐女子の好むような本を借りていき、いざ図書館から出ようとした瞬間、陽炎型の誰かと鉢合わせしてしまうような感じでお願いします。
注文が多くてすみません。
リクエスト拾っていただきありがとうございます!!
さすが榛名、かわいいですねえ……癒されます…
たぬポンさん、あなたとは良い酒が呑めそうだ!
俺提督の最初の嫁艦が榛名です♪可愛いですよね榛名!ほかの子も可愛いけどね!
リクで第6駆逐隊でお願いします♪
わー50さん
こちらの青年もぜひ気に入っていただけると嬉しいですw
リク、了解です~。頑張ります!
ワッフルさん
好きなことについて話している時の女の子は、一番可愛くなる的なお話でしたw
初風、と他の陽炎型、了解でございます。
たぬポンさん
いえいえ、こちらこそありがとうございます。
榛名は、かわいいですよねw
14の名無しさん
ぜひ、お酒を……
みんな、可愛いですよね!
リク、了解しました!
たびたびすみません!!大和さんお願いします!!
たぬポンさん
いえいえ、いくらでもしちゃってくださいw
大和さんですね、了解です!
どうしよう、初風のお話でニヤニヤが止まらない。
リクエスト反映していただきありがとうございます!
度々お願いしたいのですが天津風お願いします!
ワッフルさん
こっちも書いててニヤニヤが……w
いえいえ、こちらこそリクありがとうございます~。
いくらでも、お願いしますw
天津風、了解です。
かつて司書のアルバイトをしていた頃を思い出し、経過した年数に凹んだ、わー50です。
姉妹の前ではお姉さんぶっていても恋愛小説を借りる時は恥ずかしがってしまう如月をリクエストしたいと思います
わー50さん
おぉ……そんな過去が……(実際の司書の仕事とはたぶん色々違うんだろうなぁ…)
如月、了解です!
リクエスト拾っていただきありがとうございます!!
大和さん、美人ですねぇ…青年君ファイトです
たぬポンさん
いえいえ、リク、ありがとうございました!
果たして青年の恋は成就するのでしょうか?今後もお付き合いいただければ嬉しいですw
新しい青年シリーズ思いついたとは……
楽しみが増える一方です!!
どうも、駆逐艦最高です。
ついにこっちにもきてきてしまいまして。この青年は、見ている側まで気恥ずかしくなってきますね。暁マジ可愛い!
更新ガンバでーす
たぬポンさん
今度の青年は……どうなるかな……。
余裕が出来次第投下の可能性があります
駆逐艦最高さん
こっちにも来て下さり、ありがとうございます~。
清掃員君とは、性格はある程度反対に設定してる(つもり)ですw
リクエスト反映していただきありがとうございます!
ふむ、陽炎型はやはり可愛いですね。
しかし、次作ですか...楽しみです
(俺もこのくらいのss書けりゃあいいのになあ(白目)
青年シリーズの新作、だと…
ただでさえ自分のSS更新サボってるのに読み専になっちゃうヤバいヤバい
因みにリクエストで、
本の片付け中、何かの拍子に落とした(自主規制)な本を拾って
中身を読んで赤くなりつつもノッてくる秋雲とか如何でしょうか
そして毎度ながらリクエスト内容が細かくて申し訳ない
うちの鎮守府では出来なさそうな話を、と考えると必然的に細かくなってしまうのです
ワッフルさん
いえいえ、こちらこそ、ありがとうございます~。
陽炎型の子は可愛い子多いですね(みんなかわいいけど)
次作はいつになるかわかりませぬ……
E8a7da3さん
秋雲、了解です~
いえいえ、細かくても別にいいんですよ~。
細かい方が結構それにつながる展開とかを逆に真剣に考えるのでw
こっちの青年君はノリが軽いな~と思いつつもそんなキャラは嫌いじゃない、わー50です。
ノリが軽い繋がりで鈴谷をリクエストしたいと思います。でもマンガ以外は読まないで青年君とダベってるんだろうなぁw
年度末の書類デスパレードも終わったことだし、PixivでやってるSS続き書こうかな……間空きすぎてヤバいけどw
わー50さん
確かにノリは軽いですねw
鈴谷、承りました~。こちらの青年君は話好きなのでかなりダベると思いますw
親友(悪友?)ポジの鈴谷にヒロインフラグが立ったー♪とテンションが上がった、わー50です。彼女にはこのまま突っ走ってほしいものですね。
リクエスト連続になってしまいますが、古本に想いを馳せる古鷹をリクエストしたいと思います。
司書のアルバイトの時、新書との入れ替えで色々と考えらさることがあったので、心優しい古鷹ならどんなリアクションをしてくれるのかと思いましたので
わー50さん
いや~、書いててつい、自分もノッてしまった結果がこれですよw
果たして、こっちの青年は誰と結ばれるのか……
古本と古鷹ですね、了解です!
確かに古本の処分とかは色々考えちゃいますよね…
ドブリー・ヴェチェル どうも十米の奴です
司書の方も楽しく読ませていただいてます。こちらの青年君はなかなか面白い性格ですなぁ、嫌いじゃないぞー
複数の同時進行は大変だと思われますが頑張ってください!
十米名無しさん(なんか呼び方定着してる……)
司書の方は明るい印象でいきたかったんですw
はい、複数更新ですが、頑張ります(作者のやる気がちゃんと続けば…)
ラインさんの青年シリーズはほんとに面白いです!しかし図書館からどんどんかけ離れていってるような気が…wwww
でも面白くするためのラインさんの工夫でもあるのでただの読者である自分が言うことではないですけども…
ピースケさん
そうですね……DVDまで貸し出すようになるとどちらかと言うと……。
TS◯TAYAみたいになってる気が自分でも少々……w
古書処分の話を考えた結果このようなノリになってしまいましたw
でも、あくまでも図書館はメインですので、ご安心を!
実際、販売業務をしてないだけでDVDの貸し出しとかで某書店と化しそうな図書館はあったりするんで概ね間違いはなかったり……。
古本も処分を回避しようとすると、倉庫で埃被ってるとか、バザーなどで次の主探しだったりと世知辛いのが現実でしたね。
本の良さも時代の流れには中々逆らえないようで寂しいわー50でした
わー50さん
なるほど……そうなのですか…‥…。
やはり、古本処分はなかなか世知辛いものがありますね……
最近は電子書籍などもありますが、古本の魅力は本当にいっぱいあると思います。
ドーブロ・ヴェーチェ どうも十米の奴です
なんでや!大井さん美人やろ!
元練習艦だし面倒見いいし嫁さんにぴったしやで!……たぶん(目逸らし
清掃員と司書の邂逅は番外編でやったらどうかなー、とおこがましく言ってみます
呼び方ですけど十米名無しでいいのであしからずー
十米名無しさん
お、大井さんは美人ですよ……たぶんw
そうですね~。
番外編とかでは絡むかもですw
まさかのコラボですか!両方とも面白い作品ですからとても楽しみです、期待してます!
ピースケさん
もうちょっと先の話になるかもしれませんけど……頑張ります!
コラボ楽しみにしてます(清掃員と司書に、清掃員と多分丸)
かなり厚かましいリクエストなんですが、こちらのssも多分丸とクロスさせていただけないでしょうか...無理でしたら本当にすみません。OKならお手数おかけしますm(_ _)m
ワッフルさん
返信遅れました……。
う~む、コッチの方はできるかどうかわかりませんが、頑張ってみます。
更新をしてくれー
時雨をお願いします。
更新頑張って
曙お願いします。(o_ _)o
清掃員シリーズから楽しく読ませていただいております。
更新楽しみにしてます!
リクエストなのですが、戦闘物の小説をたくさん借りにくる足柄さん…をお願いしたいですm(_ _)m
matuさん
時雨、了解です!
48さん
曙了解です!
49さん
ありがとうございます!足柄お姉さん了解でございます!
リクしていいかな?
夕立ですね。 よろしくお願いします。
更新ガンバ
いつもお疲れ様です。
他作品も含め、楽しく拝見させて貰っています。
二航戦のお二人をリクエストしてもよろしいでしょうか?
matuさん
コメントありがとうございます!夕立、もう少しお待ち下さい!
みっけさん
コメントありがとうございます!読んでくださって光栄です!
二航戦、了解です!
更新お疲れ様です。
久しぶりに読みに帰ってきたら進んでて驚きました!
続き楽しみにしてます!