～東京都・新宿区～

五郎（ふぅ……）

五郎（まさかこんなにも遅くなってしまうとは思わなかった。もう深夜の１２時か……）

五郎（腹はペコちゃんだし……）

五郎（腹が減ってしまって死にそうだ）

五郎（しかし、この時間になってやっている店ってあるのだろうか……）

五郎（……ん？　そういえば、前に滝山に……）

～回想～

滝山「なぁ、井之頭、知ってるか？」

五郎「何がだ？」

滝山「新宿の裏路地によ、夜中から朝までやってる食堂があるんだよ」

五郎「へぇ」

滝山「何でも、常連からは『深夜食堂』とか呼ばれてるらしくてな」

五郎「どんなメニューがおいてあるんだ？」

滝山「お！　よくぞ聞いてくれました！　あの店はな……具体的なメニューが豚汁定食、ビール、酒、焼酎たったこれだけ！」

五郎「え？！」

滝山「だけどな、何でも、マスターが出来る範囲でなら何でも作ってくれるらしいぞ。お前ももし、機会があれば行ってみればどうだ？」

五郎「それはいい感じだな」

～回想終了～

五郎（滝山の言ってたあの店、探してみるか）

五郎（新宿の裏路地……）

五郎（あんまり、ここらへんは通ったことないなぁ……）

五郎（あんなに騒がしい新宿が、ここではかなり静かに感じる……）

五郎（ふむ……）

五郎（あ、明かりがついてる）

五郎（……『めしや』……ここか？」

五郎（いや、もし間違ってたら……恥ずかしい……）

五郎（……えぇい。何を躊躇っているんだ……）

五郎（俺が今、優先すべきは腹を満たすことだろう……）

五郎（よし、入るか）

時間や社会にとらわれず、幸福に空腹を満たすとき

つかの間　彼は自分勝手になり、自由になる――

誰にも邪魔されず気を使わずものを食べるという孤高の行為。

この行為こそが現代人に平等に与えられた

最高の癒しといえるのである。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「東京都新宿区の裏路地『めしや』のアジフライ定食」

～『めしや』～

五郎（客がいない……）

マスター「おお、いらっしゃい。……見ない顔だねぇ」

五郎「あのー……ここって、頼んだものは何でも作ってくれるって聞いたんですけど……」

マスター「何でもは無理だけど、できるものなら何でも作るよ」

五郎「あぁ、そうですか」

マスター「ほら、座って」

五郎「失礼します」

五郎（うん、若干昭和的な感じのする店だなぁ……）

五郎（でも、いい感じじゃないか）

五郎（さて、今日の俺は何が食べたいんだろう……）

五郎（うーん……いざとなればそれが思い浮かばない）

五郎（どうしよう……）

五郎（…………）

五郎（エビフライ……）

五郎（エビフライ？！）

五郎（そうだ、今日はエビフライを食べよう）

五郎「あの……すいません」

マスター「はいよ」

五郎「エビフライって出来ます？」

マスター「エビフライか……ちょっと待ってて」

五郎（……あ、何かやな予感がする）

マスター「あちゃー、ごめんね。エビ切れてたよ」

五郎「そうですか……」

五郎（がーんだな。久しぶりだな～。こんな感じで出鼻がくじかれるの）

マスター「でも、アジフライならあるよ」

五郎「アジフライ……ですか」

五郎（うん、アジフライも悪くないな……）

五郎「じゃあ、アジフライでお願いします。あ、あとライスとかも……」

マスター「あるよ。じゃあ、アジフライ定食にして作ってやろうか」

五郎（おお、これは嬉しい助け船）

五郎「はい。それでお願いします」

マスター「わかったよ」

五郎（……）

マスター「お客さん、珍しいタイプだよ」

五郎「え？」

マスター「この店はこんな時間に営業してるからさ。ちょっと訳ありの客が多かったりするんだよ」

五郎「へぇ」

マスター「いっぱいいるよ、ゲイバーで働いている人とか……ストリップで仕事してる人とか……極めつけにはヤクザまで来るからな」

五郎「え？　そんな人たちまで？！」

マスター「でもな。そういう人たちもよ、ここにくればどういうわけかみんな喋ったり、思わぬことを口走ったり……飽きが来ないよ」

五郎「へぇ」

五郎（ということは……俺はこの店では、若干浮くということか……）

マスター「……」

五郎（あぁ……アジフライが揚がるいい音が聞こえてくるぞ……）

五郎（余計に腹が減ってくる……この音、いい……）

小寿々「こんばんはー」

マスター「ああ、小寿々さんか、いらっしゃい」

小寿々「こんばんはー」

五郎「あ、こんばんは」

小寿々「マスター、私はいつものでお願い」

マスター「あいよ」

小寿々「あら、あなた初めて見る顔ね」

五郎「あ、はい。どうも」

小寿々「私、小寿々っていうの。新宿の二丁目でバーやってるから、よかったら来てね」

五郎「え……は、はぁ」

マスター「あ、そういえば、あんた、酒は飲むの？」

五郎「あぁ、いえ、私、下戸でして……」

マスター「そうなのかい？　結構飲みそうな顔してるけどなぁ……」

五郎「よく言われます」

マスター「……っと。はい、小寿々さん、『甘い卵焼き』ね」

マスター「そして……こっちが、『アジフライ定食』

五郎（お、きたきた）

・アジフライ定食

ご飯、味噌汁、アジフライ２枚（キャベツ千切り添え）、ほうれん草のおひたし

五郎（ほぉ……いいじゃないか。こういうのだよ、こういうの）

五郎「いただきます」

小寿々「いただきまーす」

五郎（さて、まずはご飯から……うん、ちゃんといい味出てる）

五郎（ほうれん草はどうだろう……おおっ……美味い……）

五郎（味噌汁もいい味出てるなぁ……中の豆腐もいいサイズだ）

五郎（さて、メインのアジフライをいただくか）

五郎（おお……うん、美味い……食感といい、味といい……）

五郎（優しい味だ……小さい頃に戻った気分）

五郎（うんうん……）

小寿々「そうだ、あなた初めてだから、ここの卵焼きも食べてみる？　ちょっと箸つけちゃったけど……」

五郎（……これはもらうしかないな）

五郎「では、少しいただきます……」

五郎（ふむ……甘く味付けしてるのか……）

五郎（うん……これも優しい味だ。どういうわけか、この店の食事は昔を思い出させてくれる……）

五郎（卵焼き……お弁当の主役級のオカズだよなぁ……昔のお弁当を思い出す）

五郎（あとは……あぁ……ここにウインナーでもあれば」

ガラッ

五郎「？」

小寿々「あら、竜ちゃん、久しぶり」

竜「…………」

マスター「よう。いつものでいいかい？」

竜「ああ」

五郎（……ヤクザだ）

五郎（……どうしよう。何か空気が……）

小寿々「あ、大丈夫よ。この人、確かにヤクザだけど……結構優しい人だから」

五郎「そ、そうですか……」

小寿々「そういえば、あなたの名前、聞いてなかったわね。何ていうの？」

五郎「井之頭五郎です」

マスター「へぇ……じゃあ、ゴローちゃんって言ったところかね……」

小寿々「じゃあ、これからはゴローちゃんって呼ばせてもらおうかしら」

五郎「あ、はい。お好きにどうぞ……」

五郎（しまった……いつの間にかペースに乗せられて箸が進んでないぞ……）

五郎（よし、食べるか……）

五郎（うん……添えてあるキャベツに少しついてあるマヨネーズがアクセントになっている）

五郎（フライ系には千切りキャベツはやっぱり合うなぁ）

マスター「はい、竜ちゃん。いつもの『赤いウインナー』ね」

竜「……」

五郎（……え！？　タコの形だ……）

五郎（……人間、顔だけではわからないものだなぁ……）

小寿々「竜ちゃん、今日も一つもらってもいいかしら？」

竜「……ああ」

小寿々「じゃあ、私からは卵焼きね。あなたも一つどうかしら？」

五郎「え？」

竜「……食うかい？」

五郎「……え、じゃあ……いただきます」

五郎（あぁ……願いがこんな形で叶うとは……ウインナー……）

五郎（このタコの形……本当に小さい頃を思い出す）

五郎（小さい時って、タコのウインナーはどこか特別な感じがあったよな、ウサギの形をしたリンゴみたいに）

五郎（見ているだけでお弁当が楽しくなる……。そんな形をしたオカズ……）

五郎（そして、卵焼きと並んでのオカズの定番だったなぁ……）

五郎（美味い）

五郎（さてと……いつまでも、昔を思い出してるだけではダメだな……）

五郎（しかし、このアジフライ、本当にサクサク）

五郎（美味すぎる……）

マスター（……しっかし、美味しそうに食べるねぇ）

マスター（なんか、サービスしたくなっちゃうな）

マスター「なぁ」

五郎「はい？」

マスター「いももち、作ってやろうか」

五郎「いももち？　何ですか……それ」

マスター「いももちってのは北海道でよく食べられてるんだけどな。じゃがいもで作るおもちかな」

五郎「では……いただきます」

小寿々「あら、マスターが自分からサービスなんて珍しい」

マスター「初めての客にはよくこうするよ」

五郎（ふぅん……ちょっと得した感じ）

五郎（！　気づいたらほうれん草のおひたしがなくなってしまっていた……）

五郎（アジフライも若干食べ過ぎた感があるな……）

五郎（しまったな、調子にのってオカズを食べ過ぎた）

五郎（でも、いいじゃないか。こういうのも）

五郎（美味い……）

五郎（料理によって心も体も温まる）

五郎（この店はそういう店なんだな……）

マスター「はいよ。いももち」

五郎「あ、ありがとうございます」

五郎（ではでは……まだ見知らぬ味を……）

五郎（おっ……なんだこれ、もちなのに、伸びはしないが……いもの感触が残ってる）

五郎（ちょうどよい、味付けに……この触感）

五郎（どちらかと言うとおやつ感覚でも食べれそうなオカズだな）

五郎（うんうん……）

五郎（三枚あるけど……これは、チーズが乗っているのか。どれどれ）

五郎（うわぁ……これ、いい。チーズの甘みといもの味がちゃんと混ざってる）

五郎（ちょっとプチぜいたく的な感じもするが……美味い）

五郎（アジフライも……）

五郎（ふぅ……お腹いっぱいだ）

五郎「ごちそうさまでした」

マスター「おっ。どうだった？」

五郎「はい。とても美味しかったです」

マスター「そうかい……また来なよ。今度はまた別の料理作ってやるから」

五郎「はい。ぜひ機会があれば」

五郎（夜中だけに営業している『めしや』）

五郎（いい店だった。味も……雰囲気も）

五郎（また来たいなぁ）

五郎（さて、今日はかなり遅くなったな……）

五郎（でも、まぁ……こういう日もいいじゃないか）

五郎（さて、帰るか……）

孤独のグルメ×深夜食堂～完～

次回、孤独のグルメ　Season Extra　第９話

「東京都某所『古美門事務所』の服部さんによる手作りランチ」

孤独のグルメ×リーガル・ハイ×？？？？

～ボツネタ～

μ'sメンバー「「「「前回の孤独のグルメ！」」」」

穂乃果「いつものように、仕事帰りにお腹が空いた五郎さん」

穂乃果「そこで見つけた和菓子屋『穂むら』の揚げまんじゅうを食べた数日後、彼は秋葉原へとまた向かう」

穂乃果「そこで、初めて見た『スクールアイドル』のライブに心踊らされた五郎さんはまたお腹が減る」

五郎（腹が……減った）

穂乃果「そこで向かったのは何と、私達がいた焼肉店」

五郎（『うおォン、俺はまるで人間火力発電所だ』）

穂乃果「そこで、絡まられていた酔っぱらいのおじさんから私達を助けて、その場を去っていったのでした」

第１話

第２話

第３話

第４話・前

第４話・後

第５話

第６話パート１

第６話パート２

第６話パート３

第７話