深海との前日譚(題名仮
12月某日。
何の変哲のない天気のいい日だった。
しかし、変化は突然。未明に起こった。
鹿屋基地の近く、柏原海岸の近辺。何もない海から何かが出てきた。
見た目は何とも言えない怪物が先頭に海から上がってくる。
続いてまぶしいくらいの白い体の人型の何かが上がってくる。
「なんだ、あれ…」
「気持ち悪い…」
最初に発見した人は慌てて警察に通報した。だが、駆け付けた警察が見たのは焼かれた町と倒れる人。
「おいおい…嘘だろ…」
得体のしれない飛行機のような物が飛んでいる空。増え続ける敵。
化け物の一匹がこちらを視認し襲い掛かってくる。
「クソっ!」
警察が拳銃で発砲する全く効かず喰われてしまう。
一瞬で辺りが占領されてしまう。
その後鹿屋の防衛隊が出動して足止めしつつ増援を待つ。
住民が慌てて逃げ、それを追う禍々しいもの。
「やめろおおお!」
「ぐあああっ」
さながら地獄絵図である。
なんとかぎりぎりで食い止める守備軍も徐々に後退していく。
地面が血塗れていく。
小一時間して日本中にこのニュースが広まって内閣も対策を始めた。
テレビ局のヘリは向かったと思ったらすべてが帰ってこなかった。
故に彼らの映像が放送されることはなく、本州ではパニックは起こらなかった。
三時間ほどして、すでに基地の近くまで占領されていて防衛軍も基地を守るのに精いっぱいになっている。
滑走路からはありったけの出せる戦闘機が出動している。何機かはすでに通信が途絶してしまった。
敵の航空機のような何かは小回りが利くのでうまく対応しにくいのだ。その分速さはこちらが上回っているので振り切ることは簡単だが。
相手が化け物の間はいくらでも殺すことが出来るのだが、敵の隊長級が人型のためなかなか撃てなかったのもここまで後退した原因だ。
そうこうしてるうちにも滑走路には何発も爆弾が落とされボロボロになっていく。
一部は建物の方に着弾する。
ここには戦車が配備されていないので盾がなく、さらに戦況を厳しくしている。
そうこうしてるうちに一部の守りが破られる。
一般人の避難が済んでいないのに防御側はどんどん数を減らしていく。
既に敵は海岸線を北上して手薄なところを次々進撃する。
ビルも家も燃え上がっている。
避難できなかった人はもうすでに喰われて胴と頭が分かれている。
耳川まで敵が迫った頃やっと北から援軍がやってくる。
航空機がミサイル、爆弾で前線の化け物を攻撃しそのまま鹿屋の基地まで飛んでさらに攻撃していく。
同時に官邸に敵の姿が送られて、対策が練られ始めるとともに名称が決められる。
民間人がやっと一定地点以降に避難した知らせを受け、守備隊もじわりじわりと撤退を始める。
「少しずつ下がれ!」
残った人員で固まりつつ少しずつ撤退する。
車もいくつかは破壊されていてうまく載せないと全員撤退できない。
「少しずつ車に乗れ!一気に撤退するぞ!」
化け物も口から砲のようなもので攻撃してくる。
『こちらから最後の航空支援をする。それを合図に撤退してくれ。以上』
「了解した」
「次の航空支援で撤退する!」
「グルルルァ!」
爆弾ミサイルが最前線の敵に降り注ぎこちらへの攻撃が止む。
「撤退ィィィィ!」
全車両一気に発進し撤退する。
基地は放棄して建物を爆破する。
いったん防衛隊は国見岳、祖母山、傾山付近で体勢を整えなおし化け物を迎え撃つことにした。
一方海の方からも同じ化け物のようなものが進撃。
陸よりはるかに進撃が早く、艦隊と交戦を始めていた。
ここより彼らは深海より至る、深海に棲むフネという意味の深海棲艦と言われた。
それぞれいろは歌で名前が付与された。
イ級、ロ級、ハ級のように。
既に関門海峡の攻防戦に及んでおり、本州と九州の間の海路が寸断されかけていた。
「砲撃を続けろ!!」
一年半、この戦いは続いた。いくら倒してもきりのないほど湧いてくる深海棲艦にじわりじわりと追い詰められ現在は名古屋から岐阜、手取川にかけてが最前線だ。
そしてこの一年半に艦娘という新たな存在が生まれた。深海棲艦の出現の少し後に出てきた存在でそのすべてが少女だ。
唯一深海棲艦と対等に戦うことのできる存在だ。最初期には各地でぽっと出だったので個々で戦い果てていったが、いまでは組織化され鎮守府のもとで提督を中心に戦いを続けている。
最初は女子を指揮するのは女子が妥当だろうと女提督が多かったが段々男の提督も増えてきた。
特に三人の提督が最前線で鬼神の如く戦っている。
しかし、この提督たちの活躍も愉快に思わない軍の人間ももちろんいた。
今はしぶしぶ従っているがこれからどうなるかはわからない。
制海権もすでに東日本の近海までは取り返している。
最初に上陸された場所がとてつもない要塞と化しているらしく、西に行けば行くほど抵抗が激しくなっていく。
そこに住んでいた数千万の人々は避難した人ももちろんいるが生死不明の人も数多くいる。
彼らがどうなっているのかは全く分かっていない。様々な憶測が飛び交っているが政府は沈黙を保っている。
艦娘たちにもいろいろな種類がいて、敵と同じく戦艦から駆逐艦まで多種多様である。
身体的特徴もあって駆逐艦は比較的幼めな娘が、戦艦空母になると大人びた娘が増える。
各自艤装を付けていて大型艦になればなるほど迫力が増してゆく。
そんな彼女たちも最前線で戦っているわけだが無傷の娘は誰もおらず、高速修復材という一度に艤装と傷を修復できるものが全く足りていないので大きく傷ついたまま放置されていることも多く叫び声も聞こえる地獄絵図と化している。
「痛い…痛いぃぃぃぃぃ!!」
「助けて…!!姉様…!!!」
「今行きますから待ってください!」
その娘たちの叫び声は建物から離れても耳から離れない。
建物の外では軽傷の娘や、普通の兵隊たちが軽い治療を受け休んでいる兵舎がある。
もちろん間違いがあっては困るので艦娘と一般兵では兵舎は分けられている。
兵舎の中にいてもいつ襲撃を受けるかはわからないから一瞬たりとて気が抜けない。
だから心が休まるときは来ない。
一方提督は上からの命令が来ていて作戦を練っていた。
傍らには秘書艦と呼ばれる特別な艦娘がいる。
「提督、この作戦では…皆生き残れるでしょうか…」
「とりあえず小破以上の損壊のない艦を全員投入だね。じゃないと数が足りない」
「ですがそれでは守りが…」
「兵隊さんに頑張ってもらうしかないよ。この娘たちにはありったけの装備を持たせて、戦闘回数は一回」
「一回…まさか」
「特攻じゃないよ。この損害じゃ二回以上の戦闘はいっぱい死者を出すから」
「なるほど」
「奇襲で一気に敵の大将を叩く」
「わかりました」
秘書艦が急いで段取りへ向かう。
「ごめんね…みんな」
秘書艦が各場所に指令を出して一気にあわただしくなる。
被害の少ない艦は広場のようなところに集められる。総数100。
武器と弾薬。できるだけの修復をして出撃に備える。
事前に出た偵察隊が敵の所在を確認しに行ったのでその報告を待つ。
空中からはすぐに撃墜されてしまう恐れがあるので陸地から偵察だ。
一般の兵隊も防備の準備をする。
「これしかいないのね…」
「私たちが勝たなきゃもうここも…」
「頑張りましょう」
しばらくして提督が皆の前に出てくる。
「みんな。集まってくれてありがとう。これからみんなには名古屋の方へ急襲作戦をしてもらうよ。ここにあるだけの武器と弾薬をあなたたちに託してやってもらうわ。この作戦は怪我も死ぬこともあるかもしれないけど、私の作戦ならぜったいに誰も死なせないわ。この作戦にすべてがかかっているわ。皆の武運を祈るわ」
提督がその場を去って、各人最終調整を行う。
「はぁ…なんでこんなことに…」
「今更ぶつくさ言ってもしょうがないですわ」
「だって鈴谷前はこんな生活じゃなかったのに…」
「しょうがないですわ…良くも悪くも艦娘になってしまったのですから」
「そりゃそうなんだけどさ…」
活発そうな女の子がぶつぶつ愚痴を漏らしていて、隣の栗毛の娘がそれをたしなめている。
しばらくして偵察していた兵士が戻ってくる。
すぐに提督のもとへ行って報告をする。
「民間人が人質に取られてるの…敵は三百…まだ駆逐軽巡が主なのが救いか」
「街はすでに荒廃しておりまする。ゆめゆめお気を付けを」
「ええ。よく言っておくわ」
得た情報を今回の旗艦に伝える。
「了解した」
「よろしくお願いね」
今回は海と陸。両方からの攻撃だ。
海の方はすでに横須賀から出撃していて、あとは陸側からの攻撃だ。
「では、出撃!」
百人の艦娘が出撃した。
目立たないようにそれでいて急いで名古屋へ向かう。
名古屋に近づくにつれ、廃墟と化した建物が増えてくる。
激戦の跡が見て取れる。
「もう名古屋には入りましたの…?」
「もう入ったんじゃない…あれ見てみなよ」
指さす先には道路標識があって十五キロ先名古屋駅と書いてある。
「あら…ほんとですわね」
廃墟の中で一つある建物にいったん集まって最後の作戦の確認をする。
「絶対に一人での行動はしないこと」
「「了解」」
二部隊に分かれて一定の距離を保ちながら進んでいく。
「まもなく名古屋城ですね…」
「敵もいそうです」
「…見た感じはいなそ…いえ、いるわね」
「正門に三…」
「周りには特にいなそう…もっと奥に隠れてるのかしらね…」
「あの三匹を仕留めて進みましょうか…」
「そうだな」
「じゃあ…いくぞ、私と一緒に5人ついてこい」
「了解!」
「3、2、1…行け!」
すっと後ろから急所を狙い刃物で刺し殺す。
「クリア」
「クリア」
「よし、門を少し開けて全員入れよう」
「全員そろいました」
「よし。5人はここに残って退路の確保。残りは全員突っ込む」
周りに敵のいないことを確認して段々敵のいると想像される場所へ近づく。
「いる…一斉射撃で初撃を叩きこんで一気に殲滅」
各々近接武器を取り出して陸上装備の砲を出して構える。
「「撃て!!」」
約50人の砲撃が一斉に叩き込まれたところに声が響く。
「突撃ぃぃぃぃぃいぃぃぃぃぃ!!」
体勢を立て直される前に一気に刺し殺していく。
「おらぁぁ!」
ある娘は頭を横薙ぎに。
ある娘は胸を一突きに。
おそらく指揮官級の敵を殺した。
たった三十分ほどで敵を全滅させる。
「とりあえずはひと段落…皆けがはないか!」
「ありません」
「そうか」
すぐに態勢を整えて次なる目標を目指す。
数人がまた偵察に出る。
既に敵もこちらが攻めてきているのに気づいていて警戒している。
堀には水が満たされていて橋以外から入るのは厳しそうだ。
正門は固く閉ざされていて強引に入るのは難しそうだ。
報告を聞いた旗艦は回り込むことを決める。
「見つかる前に突撃をして一気に入り込むぞ」
「了解」
敵の一部が偵察をしようと顔を出すが、何も見つけられないとなると引っ込んでしまう。
裏の門はあまり警備が厳重ではなく、扉は閉ざされているが突入は正門よりは楽そうだ。
「よし…そろそろ行くぞ」
「総員突撃!」
先頭の艦娘が攻城用の武器で扉を破壊する。
深海の守衛のロ級ハ級が慌てたようにこちらへ攻撃をしてくるが、勢いのまま来た艦娘がそのまま粉砕していく。
「止まるな!進め!!」
瓦礫の山となった扉を乗り越え場内へ侵入。中にいたロ級とハ級を次々撃破していく。
目の前にあった倉庫はすでに炎上している。
じわりじわりと城の内部へ侵攻していくと敵の数が減ってきて、待ち伏せが増えていく。
が、慎重に敵を全滅させながらどんどん進んでいった。
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