2023-01-16 21:43:14 更新

前書き

pixivにも並行して投稿します。https://www.pixiv.net/novel/series/9945534


冬木から遠く離れたところ。木の葉が舞い落ち肌寒くなってきた頃。

少女は夢を見ていた。

どこか見覚えのあるようなないような場所、だけどなんだか身近に感じる場所。

私の体は動かない。縛られているのか、金縛りなのか。視線を正面にするとなんだかお伽噺に出てきそうなひらひら、きらきらした服を着た女性が立っている。見とれてしまうくらいの美人だ。でもそんな美人はこちらを見て固まっている。

改めて周りを見ているとなんだか木が燃えている。体がうまく動かないので自分の後ろはどうなっているのかはわからないけれど火事だろうか。そんなふうに周りを見ているとさっきの美女が何かをこちらに向けている。そして何かをつぶやきながら迫ってくる。

何かが自分にぶつかりそうな瞬間


目の前には天井があった。

カーテンの隙間から朝日が漏れている。ベッドから起き上がると少し肌寒い。変な夢を見たせいでなんだか若干疲れた気がするけどカーテンを開けて軽く伸びをする。

顔を洗って廊下に出るとお味噌汁のいい匂いがしてきた。おいしそうな香りにつられて居間の戸を開けると既においしそうな朝ごはんが用意されていた。朝のニュースも淡々と放送されている。

「おはよ、イオナ」

「うむ。おはよう」

「今日の朝ごはんもおいしそうだね」

「自信作だ。冷めないうちに早く食べよう」

「はーいっ」

テレビの音声をBGMに朝ごはんを食べ始める。


「なぁ詩織。召喚の儀式は明日やるのか?」

何気なくイオナが聞いてくる。

「うん。そろそろかなって。サーヴァントと仲良くなった方が戦いやすいかもしれないしね」

「ふむ…本当に、聖杯戦争に参加するのだな?」

ちょうどご飯を食べ終わったイオナが箸を置いてこちらをじっと見つめてくる。

「参加するよ。家の宿願をかなえたいし」

「死ぬかもしれぬぞ?」

「死なない為にイオナにいろいろ教えてもらってるんだから大丈夫っ!」

「ふふっ……それもそうか」

ここ一週間ほど毎日くらいしている問答である。だが、詩織は聞かれたら必ずそう答えている。

「食器は流しに置いておいてな」

「はーいっ」

皿洗いをイオナに任せて学校へ行く準備をしに部屋に戻る。


「イオナ~!行ってきまーす!」

玄関で靴を履きながらイオナのいるであろう居間に声をかける。

「気を付けていって来いよー」

居間の方からイオナの声が返ってきた。それだけの事でもなんだかうれしい。


「うぅ~……寒くなってきたなぁ…」

寒い風が足に突き刺さる。通学路を歩いてるだけで帰りたくなってくる。

「し~お~りっ!」

少女が後ろから抱き着いてきた。いつもの事なのでもう特に気にしないで対応している。

「はいはい。おはよ。成実」

成実と呼ばれた少女は詩織と違って髪の色も明るく派手目の女の子であまり相性はよくなさそうにも見えるが実はとても仲が良い。

「今日も相変わらずふかふかだなぁ」

「成実こそ今日も派手だねぇ」

「ファッションなんだからいいのいいの!」

「校則に違反しないようにしておきなよ?」

「わかってる分かってるって。それよりさ、今日の帰りに商店街寄ろ?」

「いいよ。ちょうど行きたいところもあったしね」


何事もなく、放課後まで過ぎ商店街に向かった二人。ふらっとまずはゲームセンターに立ち寄った。

「ちょっと詩織!めっちゃ可愛いフィギュアあるよ!」

成実の視線の先には最近彼女のハマっている漫画のフィギュアがあった。

「えぇ……?まさか狙ってるの?」

「もちろん!ちょっと両替してくる!」

そう言って少し離れた両替所に小走りで行ってしまった。

「はぁ…」

しょうがないので筐体の前で待ってることにしてフィギュアを見てみると、確かにかわいいしよく作られている。

「こう見てると欲しくなってくるのもわかる…」

両替から彼女が帰ってくるのを待ちつつしばらくフィギュアを眺めていると隣から少し大きい声で叫んでいる人がいる。

「どうやったらあの人形は取れるのよ…!全然動かないじゃない!も~!」

どうやらUFOキャッチャーをやったことがないようでアクリル板を軽くたたいている。今時の大学生のようなゆったりした洋服を着ていて髪の先が染めているのかほんのり青くなっている。そして目を引くのが右目にガーゼの眼帯をしていることだ。

「あ、あの……よければ代わりに取りましょうか…?」

恐る恐る声をかけるとその女性がこちらを見てニコっと微笑んでくる。

「取ってくれるの?助かったわぁ」

急に雰囲気がやわらかくなって少し驚いてしまった。

「じゃあ失礼して…」

詩織が代わりにお金を入れてものの数回操作すると簡単にコロッとフィギュアが獲れてしまった。久しぶりだけど腕が鈍ってなくてよかった。

「すごいわね、魔法でも使ったの?貴女」

ずっとそばで見ていた女性が少し驚いた顔をしている。

「いえいえ…魔法なんて使ってないですよ。はいどうぞ」

取れた景品の箱を手渡すと女性の顔がぱっと明るくなった。なんだか少し子供っぽさがあって可愛い。

「助かったわ。ありがとうね」

礼を言って景品を手持ちの袋に入れたところでいきなり懐から煙管を取り出して火をつけた。

「ちょちょちょっと?!ここで吸っちゃだめですよ!」

詩織が慌てて喫煙スペースに女性を引っ張っていく。

「え?あそこって吸っちゃいけなかった?悪いことしたわ……」

「あ、いえ……そんなに責めているわけではないので……」

女性がしゅんとしてしまったのでフォローを入れる。感情の起伏がはっきりしていて見ているだけで少し楽しさがある。

「あまりこういうところは慣れていなかったから…次から気を付けるわ」

煙管の煙を詩織のいない方向に吐きつつ申し訳なさそうにしている。


「あれ?詩織どこ行ったかな。まぁいいか。あとで合流しよっと」


「そうだわ!これからちょっと時間あるかしら?お礼をしたいのだけれど」

「そんな、お礼をされるほどのことはしていないですよ」

「いいのよ。私が礼をしたいのだから」

「でも……友達を待たせているので…」

「そう…じゃあ連絡先を教えるわ。都合のいい時私を呼んで」

詩織に連絡先の書かれた便箋を丁寧に折りたたんで渡してくる。流石にそれくらいは受け取ってもいいかと思いその便箋を受け取ってカバンの中に入れる。

「じゃあ、お名前だけでも聞いてもいいですか?私は詩織と申します」

一応、連絡した時に名前を知らないと困るので名前だけ聞いておく。

「私は、千代。ちゃんとお礼させてね?」

「わかりました」

ぺこりと一礼してその場から離れて成実のところへ戻る。


「あ!詩織!どこ行ってたの~?」

さっきのところに戻ると景品を抱えた成実が待っていた。

「ごめん…ちょっと人の案内してて」

「なるほどね。詩織らしいわ」


「次はどこ行くの?」

成実がバッグに景品を入れ終わったところで聞いてみる。

「そうだなぁ。ちょっと本買いたいから大通り沿いのあそこ行かない?」

「ん」

大通り沿いのあそこと言ったら二人の仲では規模の大きめな古本屋で決まりである。



「ただいま~!」

「おかえり」

少し暗くなってから帰ってきたがイオナは晩御飯を作って待っていてくれた。

「ちょっと成実と寄り道してた……遅くなってごめんね」

「大丈夫。明日からは忙しくなるのだ。今日くらいゆっくり羽を伸ばすといい」

「ありがと、イオナ」

イオナの気遣いに少しうれしくなった。

「さ、晩御飯にしよう」



「これ…なんだろなぁ…」

成実は古びた装丁の本を手に取ってつぶやいた。たまたま家の物置を漁っていた時に見つけたものだ。成実の家は昔武士の家だったらしいので古びた本は目新しくないのだが、ほかの本と違って装丁がしっかりしている上に書いてあることが何かを召喚する物らしいのだ。

成実自体はこういう少し中二病チックなものは嫌いではなく興味はあるのだが実際にやるとなると普段なら流石に恥ずかしい。だがこの本を手に取ったとき、心の中からやってみたい気持ちが沸き上がってきた。どうしてなのかはわからない。

つい先日この本を見つけてから手に入れることが出来そうなものをかき集めて今日書いてあるように召喚をしてみる。

「魔法陣ちゃんと描けるのかなぁ…ていうか何召喚できるんだろう…」

謎の召還儀式への想像をつぶやきながら本に書いてあるように魔法陣を描いていく。

「んーっと…これでいいのかな?」

本に書いてあるものと比べてもほとんど同じ模様に見える。

「これであとは呪文を唱えればいいのかな」

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は……」

本に書いてある通りにそれっぽく詠唱をしていく。地面の魔法陣も段々光ってくる。

「……抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

最後の節を唱え終わると同時に目の前が光り輝いてきて目を開けられなくなる。光が落ち着いたところで目を開けると、目の前に同じくらいの身長の、けれどとても大きい帽子をかぶった少女が立っていた。

「え……!?誰……?」

成実の問いに彼女は微笑みを浮かべながら答えた。

「サーヴァント、ライダー。召喚に応じて参じたわ。貴女が私のマスター?」

「マス…ター……?」

成実には目の前の少女が何を言っているのかわからない。

「ええ。貴女が私をここに召喚したのよね?」

「えっと…多分そうだけど……」

「貴女のお名前は?」

「成実…」

「成実、ね。素敵な名前だわ」

目の前の少女はにっこりと微笑む。

「えーっと…ライダーさん?でいいのかな…何が何やらわかんないんだけど…」

「聖杯戦争に参加するために私を呼んだのではないの?」

「聖杯戦争?って何…?ただこの本の通りにやってたらあなたが呼べてしまって」

「あらら…それなら一から説明しないといけないかしら」

ライダーはそう言うと丁寧に一からわかりやすく説明してくれた。聖杯戦争とはなんなのか、サーヴァントはどういう存在なのか、何を目的に行動するべきか。

「貴女の手の甲にあるその令呪。それは三回きりの絶対命令権だから大事に使ってね」

「わ、わかった」

「できるだけほかの人に見えないように手袋で隠すといいわ」


「そして最後に一つだけ。成実は聖杯に何を願うの?」

「聖杯に…」

「そう、万能の願望器に貴女は何を願うの?」

「……まだ決まらないかなぁ」

それもそうだ。いきなりそんなことを聞かれても答えようがない。

「ふふっ。じゃあ戦っていく中で決めていきましょう。よろしくね、成実」

ライダーが手を伸ばして握手を求めてくる。

「うん。よろしくねライダー」

成実もそれに応じて握手をする。


翌朝、成実が目を覚ますと目の前にはライダーの顔があった。そういえば昨日召喚してから現世のいろいろなことを教えたりおしゃべりに花を咲かせていたのだった。

「おはよう、成実」

「おはよ…ライダー…」

寝ぼけ眼をこすりながら起き上がる。

「成実、貴女学校というものがあるのでしょう?急がなくて大丈夫?」

ライダーに言われて時計を見るといつも起きている時間を大幅に遅れていた。

「やっば!遅刻する!」

慌てて身支度をして朝ごはんを軽く取ってから家を出る。もちろん霊体化したマリーもついてくる。

『鮮やかな青空ね。すがすがしいわ』

「だねぇ…」


「成実~!おはよ~!」

遠くから聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「詩織おはよ!」

詩織と合流していつもの通り学校へ向かう。マリーはずっと近くにいるがもちろん誰にも見えていない。

「なんか成実今日良いにおいするね。普段と違う香水みたいな」

「え、そう?そんなのつけた覚えがないんだけど…」

「一瞬色気づいたのかと思っちゃった」

「そんなわけないでしょ……」

『素敵なお友達ね』

突然マリーが話しかけてきて反応に困ったがとりあえず頭の中で肯定してみた。

『でも、気を付けてね。ほのかに魔力の香りがするわ』

「えっ?!」

マリーの言った言葉につい驚いて声が出てしまった。

「どしたの?変な声出して」

「あ、あはは……。ちょっと目の前を虫が飛んでびっくりしちゃって」

明らかに不自然ではあったが何とかごまかした。



今日一日詩織は成実といるときに何とも言えない違和感を覚えていた。なんだか成実が挙動不審なときがあってもう一人見えない人がいるかのようだった。そんなことはないはずなのだが。

「まぁいっか」

今日は召喚をする日なのだ。変なことを気にしている暇なんてない。

「ただいま~」

いつものように帰宅するとイオナが地下に水銀の入った瓶を運んでいた。

「お、おかえり」

「運んどいてくれたんだ、ありがとイオナ」

「このくらい構わない」

「私も早く準備しよっと」

準備しているだけであっという間に儀式にちょうどいい午後1時近くになった。


「では、うまくやるのだぞ」

「頑張るわ」

既に地面には魔法陣を書き、何かの破片を魔法陣に置き、手には宝石と金属を持っている。ふぅと一息吐き魔法陣の真ん中に立つ。

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には天に根に行き来る巫。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

魔法陣が淡く光りはじめ手の内にあるものが溶け出していく。

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する———告げる。

何時の身は我が下に、わが命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、


天秤の守り手よ————」

最後まで詠唱すると、魔法陣がまばゆく輝き部屋に風が吹き荒れる。瞼を上げると目の前には巨大な槍を持った物静かそうな女性がいた。

「サーヴァント……ランサー。あなたがマスター……?そう……優しくしないでくださいね……」

伏目がちに目の前の女性は言った。その美しさにしばらく言葉の出なかった詩織であったがやっと口を開くことが出来た。

「綺麗……。これからよろしくね、ランサー」

ランサーに握手を求めて手を伸ばす。ランサーも一瞬戸惑ったがしっかりと握り返してくれた。


少し部屋が散らかってしまったのでランサーを母屋に案内して部屋を決める。

「じゃあランサーはこの部屋使ってね。隣同士だから何かあってもすぐ駆け付けられるし」

「わかりました……」

「それで、ここが居間。ご飯食べる時はここに来てね」

こくりとランサーが頷く。軽く家の案内をしたところで居間に戻って今後の方針を話す。

「まずはね、しばらく式を放って状況を見ながら機を待つことにする。大体敵がわかったら行動していこうと思ってるよ」

「何か見つけたら様子を見に行ってみようと思うから、その時はよろしくね」

「はい……」

「何か気になることがあったら遠慮なく言ってね」


「そうだ、この家のもう一人の住人も紹介しておくね」

詩織がそう言って自室で休んでいたイオナを連れてくる。

「ランサー、この人がもう一人の同居人のイオナ。私の魔術の先生なんだ」

「イオナだ。よろしく頼む」

「……よろしくお願いします」

互いに数秒間見つめ合った後挨拶を交わした。何か感じるところでもあったのだろうか。

「じゃあもう遅いしそろそろ寝るね。今日のところは少し疲れちゃった」

「うむ。ゆっくり休むといい」

「おやすみなさい、マスター……」


翌朝、いつもの通り支度を済ませて霊体化したランサーと学校へ向かう。

「ランサー退屈かもしれないけど、近くにいてね」

「わかりました……」

ランサーの姿がスッと見えなくなった。


「詩織おっはよ~!」

「おはよ、成実」

いつもと変わらない場所で変わらない挨拶をかわすが、二人とも霊体化したサーヴァントを連れていることだけは違った。

勿論二人とも令呪は隠しているしマスターだとばれないようにはしているが。

そんなことは互いに知らずに接している。

そして、もう一つ少しの変化があった。

二人とも、一緒に帰ることが少なくなった。表向きの理由は用事があるだったが、本音は二人とも聖杯戦争で生き残る準備だった。

「ライダー、ここでいいの?」

『そうそう。そこが一か所目』

成実はライダーと一緒に学校に残って人の少ないところに結界の点を打ち込んでいっていた。いざというときの避難場所と、こんな魔術があるというのを実践して学ぼうという目的だ。

「つぎは…っと。にしてもこういう感じに結界って作るんだね」

『そうそう。成実には生き残ってほしいもの。いろいろ教えるわ』

「ありがとね、ライダー」

『さ、次に行きましょう成実』

「はーい」


「うーん…まだ流石に誰も動いてないからどこにいるかわかんないなぁ…」

家から持ってきた式を飛ばしながら街を眺める。

「今日のところは収穫なし、かな。帰ろっかランサー」

ランサーは特に答えることはしなかったがしっかりとついてきてくれているようだった。

買い物をするために商店街によって帰っているときふと詩織が思い立ったようにつぶやいた。

「明日ランサーに街を案内しようかな……」

『マスター?何かおっしゃいましたか…?』

「あ、ううん。あとで言うね」

はたから見たらひとりごとをつぶやく変な女子になるのでとりあえず買い物を済ませてしまうことにした。


「ねぇランサー」

買い物を終えて家に帰る途中で人気がなくなったのでランサーに話しかけてみる。

『どうかされましたか…?マスター』

「次のお休みに…明日か、街を案内してあげる。一緒にお出かけしよ?」

『…よいのですか?』

「いつ戦闘になって死んじゃうかもわかんないしさ、おおっぴらに始まる前にランサーとお出かけしたいなって」

『…もちろん、マスターが望むのなら…』

「ありがとう」

家に着くとイオナが玄関で待っていた。

「ただいま」

「うむ。おかえり」

さっと詩織の買ってきたものを預かってそのままキッチンへ消えていく。


イオナの作ってくれたご飯を食べた後、詩織がどんな服を着ていこうかと選んでいたらそういえばランサーに何を着せようかと思い立った。おしとやかなお姉さん風味のランサーには落ち着いた服が似合うだろうか、それともギャップを狙ったひらひらの服か。

「最初は服屋に行って、ランサーの服選ぼうかな」

などと、あーだこーだコースを考えているうちに夜も更けてきていた。

「流石にもうこんな時間だし寝ようかな…」

電気を消した時、隣の部屋から少しだけ光が漏れていた。


次の日目を覚ますとランサーが顔を覗き込んでいた。

「んあ…ランサー……?」

驚きがあったがいまいち脳が覚め切ってないので変な反応になってしまった。

「マスター……もう朝ですよ……?」

「ほんとだ……起こしに来てくれたのね」

ランサーはいつもと変わらない調子でこくりと頷く。

「ありがとうね。ちゃっちゃと身支度しちゃうから先にリビング行ってていいよ」

やっと目が覚めてきたのでベッドから出て、足早に洗面所で顔を洗う。


朝ごはんを食べ終わって洗い物を済ませたところで詩織がランサーに服を持ってくる。

「マスター、これは……」

「流石にその戦闘服じゃ外出歩けないでしょ?だから、個人的に似合うんじゃないかな?って服を選んでみたから着てみて?」

「……かしこまりました」

受け取った洋服をもって自室に戻って行く。その姿を少し満足げに見ながら着替え終わるのを待つ。


「マスター、似合っていますか……?」

数分して着替えて戻ってきたランサーが声をかけてくる。華美な服ではないが銀色の髪と落ち着いた服がよく似合っている。

「お、おお……やっぱり綺麗だなぁランサー」

改めてみるととても美人で驚いてしまう。上手な感想が出てこない。

「……ありがとう……ございます」

何時も物静かでクールに見えるランサーがほんの少し照れている。

「じゃあ…いこっか」

ランサーに手を差し出して案内し始める。


予定していた通り最初は駅前の服屋に向かう。駅前は当然人通りも多いので銀髪と黒髪の美女が歩いているだけで人目を引いた。

「ねぇ、ランサーってどんなお洋服が好きなの?」

「……服のこだわりは特に……」

「うぅん……そっか」

特にないと言われると選ぶのも少し難しくなる。クールめなランサーにはやはり落ち着いた雰囲気の服が似合うだろうが思い切ってガーリーな服を着てもらうのもありかもしれない。かっこよくパンツルックにするのも似合いそうだ。

「……よし、決めた!」

悩んでいるより試着してもらって似合うのを片っ端から買うことにした。魔術師の家だ、お金には困っていない。

「ランサーこれ着てみて!」

早速似合いそうな服を見繕ってランサーに渡す。ランサーも戸惑いなくこくりと頷いて試着室に入る。

「どうでしょうか……」

カーテンを開けてランサーが出てくる。ガーリーな服を渡してみたがクールな雰囲気と服の可愛さのギャップでとてもいい。

「うん、素敵!じゃあ次これ着て!」

すっと次のコーデを渡す。こうして5,6着を試着させて全部買うことにした。

「やっぱランサーはいろんな服が似合うね」

「ありがとうございます……マスター」

「次は、商店街の方案内するね。おいしいものがあれば食べていこ?」

「かしこまりました……マスター」

会計を済ませたら買ったものは配達で家に送り詩織たちは店を出て商店街の方へと向かった。

商店街は地方都市としてはかなり規模が大きくできている。ただ規模が大きいでだけではなくしっかり店も展開されている。

「ねぇねぇ、ランサーは好きな食べ物とかあるの?」

「好物…ですか?サーヴァントは食料を食べなくてもよいのでそういう物は……」

「特にないのかぁ…でもせっかくだし現代のものいろいろ一緒に食べよう?」

一瞬の逡巡があったが、ランサーは頷いた。

「って言っても最近はチェーン店が多いから珍しいものはないんだけどね……」

独り言でさらっと愚痴をつぶやく。


ランサーの隣をしばらく歩きながら入ってみたそうな反応をする店がないか観察していたが、特に何も反応を示してくれなかった。

なんとなくランサーは主張の強いタイプではなさそうだなぁと思っていたので予想通りといえば予想通りではあるが。

「ランサー、あそこ入ろっか!」

たまたま目についたご飯屋に入ってみることにした。

店内に案内され、詩織がメニュー選びに迷っているとランサーはメニューを閉じてこちらを見ていた。

「ランサーもう決めたの?」

「はい……」

「じゃあ、注文しちゃうね」

注文した料理が来て、食べ始めるとランサーの一つ一つの所作に目が行ってしまう。それくらい綺麗な食べ方だ。流石英雄と呼ばれるだけあるなぁと思った。

「どう?おいしい?」

「ええ……マスター、現世の食べ物もおいしいですね」

「お口に合ってよかった」

地元の名産品を食べてもらっておいしいと言ってもらうのはなかなかうれしいものだ。まだまだいろいろ一緒に食べてみたいものがあるのでランサーとたまにお出かけをするのも悪くないかもしれない。


店を出てまた商店街を探索していく。

「ランサー、ゲーセンいこっか」

「げーせん…?」

ランサーの手を引いてゲームセンターの中に入っていく。唐突に騒がしい店内に入って少しだけランサーがびっくりしたそぶりを示すがすぐに慣れたようで素直に詩織についてきてくれる。

「マスター……ここは少し騒がしいですね」

「確かにね……まぁでも楽しいところだから、ね?」

そういえばここのゲームセンターで誰かと何かの約束をした気がするが、いまいち思い出せないので今は気にしないでおく。

「ほらほら、クレーンゲームしよ!」

クレーンゲームで小さめのぬいぐるみを取ってプレゼントしてみたらランサーは少し喜んでくれた。

その後初めてのクレーンゲームをランサーもやってみたら思いのほか上手でとあるアニメのフィギュアを300円くらいで取っていた。

二人で半ば景品を乱獲して、音ゲーをしていたらいつの間にか時間が過ぎていた。


「さて、次のところいこっか」

ゲーセンを出ると腕時計は1600頃を指していた。

「そろそろかな……」

大通りを通るバスに乗り込んでしばらく揺られると小高い山に到着する。

「こっちこっちー!」

見晴らしのいい場所に行ってランサーに向かい手招きをする。

「ここは……とても見晴らしのいい場所ですね……」

「でしょ?ここって昔お城だったんだって、あの銅像の人が作った」

そう言ってそびえ立つ騎馬像を指さす。月の前立てが目立つ騎馬だ。

その像の近くで同じように像を眺めている女性がいる。何だかどこかで見たことがある気がする。

「ランサー、今日はありがとね」

「いえ……マスターとの外出はとても楽しかったです」

「聖杯戦争が本格的に始まる前に来れてよかった」

しばらく二人でオレンジ色に染まった街並みを眺めていた。だんだん外が暗くなってきた。

「さて……ランサー、一つ聞いていい?大事な事」

「どうしました……?マスター」

「ランサーの真名は何?」

「そういえば……まだ言っていませんでしたね。私はランサー、ブリュンヒルデです」

「ブリュンヒルデ……北欧の……」

「ええ……そうです」

「そっか。教えてくれてありがとうね」

くるっとランサーの方を向いて笑みを見せる。

「改めてだけど、これからよろしくね。ブリュンヒルデ。絶対に聖杯を手に入れて見せるから」

「ええ……マスター。よろしくお願いしますね」

今日のおかけで二人の関係は深まった、少なくとも詩織はそうだと確信している。

その日はその後何も起こらずに家に帰った。


「ついた~!長かったわね……」

「ついに、ですね。姉さん」

何時間も新幹線に揺られてやっと着いた桜ヶ丘。聖杯を手にするためやってきた桜ヶ丘。

「まずは荷物を置きに行きましょう、姉さん」

「そうね、桜」

さらに電車に乗って数分。荷物はすでに届いているはずだから少ない。

ありふれた住宅地の中に少しだけ広めのお家があり、その中に二人の少女が入っていく。中の良さそうな姉妹だ。

「今日のうちに召喚まで済ませてしまいましょうか」

「はい」

しばらく住む新しい家に置く荷物を整理してとっぷり夜も更けた頃地下に二人で歩いていく。少女に似合わない刀を持って。

地下には魔法陣のような物が書いてあってその場に黒髪の少女の方が立つ。桜と呼ばれた少女は魔法陣の外に立っている。

「素に銀と鉄…」

詠唱を順調に終えると魔法陣が光り、目の前に跪いた腰に刀を付けた袴を着た人が現れる。鋭い雰囲気が伝わってくる。

「来たっ……!最強のサーヴァント……!」

「サーヴァント、アサシン。推参いたしました。マスター」

「うんうん。って…アサシン?」

「ええ。アサシンです」

「その刀は……セイバーじゃなくて?」

「アサシンです」

「あぁ…そっかぁ……」


「「やっちゃったー!!」」


「まぁまぁ姉さん。召喚には成功したんですから……」

「そうだけど……」

「ご安心を。マスターの敵はすべてこの剣で」

「……まぁいいわ。これからよろしくね、アサシン。私は遠坂凛、好きに呼んで」

「よろしくお願いします、アサシン。桜と呼んでください。」

「かしこまりました」

「とりあえず疲れたし上に行きましょうか」

凛が少しふらつきながら階段を上っていく。桜とアサシンもその後についていく。

「姉さん、大丈夫ですか……?」

「こんくらい平気よ」


次の日、凛が目覚ましの音で目を覚ますと傍らにアサシンがいた。

「おはようございます。マスター」

「ぁ…おはよう、アサシン」

まだ眠そうな凛だが着替えを済ませて朝ごはんがもう作られているであろうリビングへ降りていく。

「ごちそうさま」

朝ごはんを食べ、紅茶を飲みながら話を続ける。

「さて、アサシン。貴女の真名は何?」

早速アサシンに真明を聞いてみる。

「私の真明は……沖田総司です」

「沖田……新選組かぁ」

「貴女歴史上じゃ病弱だったみたいだけど……戦いは得意なの?」

「ええ、問題ありませんとも。一撃で葬るので」

「なるほどね、アサシンとしての能力も申し分なさそうだし普通に戦うこともできそうね」

「それでマスター、もう標的は決まったのですか?」

「まだ。とりあえずはほかのマスターが誰なのかを探ってから手を組むか潰すか決めるわ」

「ということは……今夜からお出かけですか?」

「そうね。今日から街の方に出ましょう」


その夜、街にはほとんどのマスターが出ていた。もちろん互いのことを認識はしていないが。

「ランサー、今日は誰か派手に戦ってるね」

「そのようですね」

見晴らしのいいビルの屋上から街を見渡している。


「もう始まってるのね」

「早く地形を把握しないとですね、姉さん」

別のビルの屋上から凛達がとある場所を眺めている。


ほとんどのマスターが直接、間接的に見ている場所は町中にある大きい神社だ。公園も兼ねていてとても広い。

二人のマスターとサーヴァントが対面し合っている。

数分だけ何かを話してから一気に二組とも戦闘態勢に入った。

片方は王冠を抱えたドレスの女性、もう片方はガタイのいい見るからに強そうな男だ。

先に動いたのは男の方だ。何やら雄たけびを上げながら両手の斧を振りかぶって大きく飛びかかる。

尋常ではない脚力のようで一気に数十メートルくらい飛び上がっている。

しかし女性の方が手をかざすだけで突然大きな氷塊が現れ男に向かって打ち出す。ちょうどぶつかったところで男が氷塊を砕いていったん下がる。

「あれは……キャスターと……バーサーカーっぽい?」

「とても……激しいですね」

その後バーサーカーの周りからスケルトン兵のような物がいくつか出現するたびキャスターが砕きバーサーカーに氷塊をぶつければすべて砕かれた。

マスター同士は特に戦うことはなくしばらく戦闘を続けて撤退をした。


「いやぁ…すごかったなぁ」

そう言っていると偵察に出した式神のような物が帰ってくる。

「ほかの偵察も見つけはしたけどマスターは確認できなかったかぁ……仕方ない」

「今日は帰りますか……?マスター」

「うん。そうしよっか」


「うん。とりあえず二組は確認できたわね」

「偵察もたくさんいましたね、姉さん」

「そうねぇ。まぁ見るもの見たし帰りましょっか」


「ねぇ、ライダー。サーヴァントの戦いってあんなに激しいんだね」

「そうね、あんまり正面から戦いたくないわ」

「やっぱり誰かと手を組まないと大変そうかも……」

その夜、数人が街から姿を消した。そのことは小さいがニュースとしても取り上げられた。


「ライダー、今日も学校に行ってその後魔術の練習だよね」

「そうね。結界の様子も見ておきましょうか」

成実が学校に行くと三、四人クラスの生徒が休んでいた。といっても別段何かを思うわけではなかった。高校生なら唐突に休みたくなるときだってあるだろう。

しかし、授業が終わって学校に設置した結界を見に行ってみると何かが刺さっていた。

「……なにこれ?知ってる?ライダー」

「いいえ。杭のような物だけれど…ん?紙が括り付けてあるわよ?」

ライダーが刺さっている杭から小さい手紙くらいの紙を取り出して成実に渡す。

「えーっと……生徒を返してほしければ今夜月瀬橋に来い……って、誘拐?!」

手紙を詳しく見るとどうやら結界を張っていることがばれているようだ。誰かしらマスターがこの学校にいることもばれている。

「どうするの?成実。絶対に罠だと思うけれど」

「……行く」

数十秒だけ悩んだが行くことにした。

「わかったわ。じゃあ準備するために今日はもう帰りましょうか」

「わかった」

「でもどうやって助けようか、ライダー」

「最優先はさらわれた子の救出なのよね?」

ライダーが成実に問う。

「もちろん!」

「それならわたしの馬車で救出しましょう」

「馬車あるの?」

「ええ。その時になったら見せてあげるから楽しみにしててね」

「うん!」


「ランサー、今日も外見にいこっか」

「わかりました、マスター……」

霊体化して詩織の後についてくる。いつもの通り見晴らしのいい場所を目指して人通りの少ない夜道を歩いていると前方に見知った後ろ姿が見えた。

「……成実?」

こんな遅くに外に出てるなんて普通じゃ考えられない。

『マスター……?』

「……ちょっと後ろついていってみようか」

少し気になったので距離をある程度離しながら後ろからついていくことにした。しばらく歩いていると市内でも有数の大きい橋に近づいてきた。深夜なので全く人影も車も通っていない。成実が橋の真ん中の方に歩いていくとそこに三人の制服を着た生徒が倒れているのが見える。

「なにあれ……うちの生徒……?」

成実がその三人の生徒に駆け寄ってけがをしていないかを確認していると、そばにどこからともなくきらびやかな馬車が現れる。

同時に明らかに一般人ではない人も。

馬車に倒れていた生徒を収容して成実ともう一人の女性が馬車に乗ると上空から何かが降ってくる。

馬車の上に盾のような物が展開されて降ってきた何かが弾かれ電灯の下に姿を現す。どうやら降ってきた何かはバーサーカーのようだった。

「もしかしてバーサーカーのマスターに成実嵌められたのかな……?」

一つの予測を立ててバーサーカーと成実のサーヴァントの戦いを見ながら詩織はこの後の動きをどうするか考えていた。

「……ううん。迷う必要ないわ」

「ランサー、行くよ。あの二人を助けに」

「かしこまりました、マスター……」

詩織の横に実体化して、大きな槍を展開する。

「じゃあランサー、あそこまで一気に突撃しちゃおうか」

こくりと頷いて詩織のことをお姫様抱っこする。そしてそのまま一気に加速して橋の方に突っ込んでいく。


「まずいわ……」

「大丈夫……ライダー……?」

馬車の外ではかなり激しい音が鳴り響いている。

「早く逃げたいところだけど……」

バーサーカーの攻撃が激しくてなかなか逃げるに逃げれない。


突然轟音が鳴ってバーサーカーの攻撃が止む。

「あれ……?ライダー倒した?」

「いいえ……?」


「大丈夫?成実」

馬車の中にひょっこりと顔だけ見せる。

「詩織!?なんで!?」

「それは後で説明するからとりあえず逃げましょ?」

「そ、そうね」

バーサーカーの攻撃がランサーに向いてるうちにライダーの馬車が橋から離れていく。

「そうね…聞きたいこともあるだろうけどとりあえず私のお家に来ていろいろお話しましょ?」

詩織が成実に尋ねる。もちろんそれを断る理由はなかった。詩織がライダーに道案内をしながら家から少し離れた公園に着地してもらう。

「ランサー、バーサーカーは?」

「うまく距離を取って撤退できました……マスター」

いつの間にかランサーも詩織の隣に控えている。

「よし。じゃあとりあえず家に来てその子たちの手当ても含めていろいろしましょ、成実」

「う、うん。わかった」

普段と少し違う様子の詩織に戸惑いつつも後ろをライダーと一緒についていく。


「おかえり……っと成実も一緒だったのだな」

「ただいま」

「イオナさん、お久しぶりです」

成実と一緒に見知らぬ女性とランサーに抱えられた制服姿の学生が入ってくる。


「ふぅ……」

一通りの手当てをして布団に寝かせて成実を待たせている居間に向かう。成実の後ろには派手な服の女性が控えている。

「さて……成実。魔術師だったの……?」

今まで成実が自分と同じ魔術師だったなんて夢にも思わなかったので開口一番聞いてみた。

「違うよ流石に!なんか倉庫の古文書読みながらやったら召喚できちゃったの!」

「えぇ……そんなことあるの……?」

魔術師でもない一般人が召喚なんて聞いたことがない。

「まぁ、召喚に関してはできちゃってるしいいんだけど……これからどうするの?」

「ライダーと聖杯?ってやつを取りたいなって思ってる」

「なるほどね」

目標はかぶっている。やはりマスター同士である以上将来的にぶつかることは疑いないようだ。

「それでさ、詩織。手を組まない?」

何となく予想はできていたがやはり同盟関係の申し入れがあった。

「共闘ってこと?最後には絶対ぶつかることはわかってるのよね?」

「わかってるよ。一応。でも私の力じゃ最後まで残るのに不安あるから詩織と一緒に戦いたいなって」

友達であるから一緒に戦いたくはあるのだが、魔術師として、根源を目指すものとして今ここで倒すことのできる敵を見逃すのは甘くないだろうがという気持ちもある。

だが、結局詩織は友達であることを優先した。

「……わかった。一緒に戦いましょ。最後まで」

その返答を聞くと成実の顔がパッと明るくなる。もし断られたら友達とはいえもう一緒にいられなかっただろうからだ。

「ありがとっ!詩織!」

そのまま机を乗り越えて抱き着いてきそうな勢いである。

「もう……落ち着いて、成実。私と組むからには絶対に死なせないからね」

「私も頑張って詩織の役に立てるようにするね!」


「とりあえず知っている情報を交換しよっか」

「詩織の知らないことは多分わかんないと思うけど……学校に結界を設置したのは私だよ」

「ああ、そういえば結界あったね」

「バーサーカーのマスターは見ることができなかったなぁ」

「遠くから見ている限り近くにいなかったから近接戦闘で強いマスターじゃないのかも」

「そういえば……詩織のサーバントはなんてお名前なの?」

「あ、そういえば言ってなかったわね。ランサーのサーバントよ」

「ランサーかぁ……」

「ところせ成実は普段身を守る方法はあるの?」

「身を守る方法?ライダーが一緒にいるから大丈夫じゃないの?」

「確かにずっといるなら安心だけど…念のために私をすぐに呼べるように発信機みたいなの渡しておくね?」

そう言ってライダーと成実にひとつづつ小さいガラスのアクセサリーを渡した。

「本当に危なくなったらそれをつぶしてくれれば私がそっちに行けるから」

「わかった」

ある程度互いの掴んでいる情報を交換したところで時計の針は早朝を指しかけていた。

「今日はもう泊っていったら?成実」

「……眠いしそうする」

「布団はいつもの部屋に用意してあるからそれ使って」

「ん。ありがと詩織」


数日たったところ詩織たちの学校に転校生が現れた。

黒髪の姉妹だ。片方はツーサイドアップ、もう片方はロングの黒髪姉妹のようだ。

二人が自己紹介で「遠坂」という名字を名乗ったところで、少し違和感を覚えた。別に二人の名字が珍しいからというだけで違和感を覚えたのではない。昔にどこかで聞いたことある気がするのだ。ただ、しばらく思い出そうとしても思い出せなかったので思考を中断して学校生活にいったん戻った。

二人はそれぞれ詩織、成実の近くに着席した。近くで見てもやっぱり綺麗な娘だなということしか感じない。

しかし、異変は一つ起こっていた。

昼休みも半分過ぎた頃に成実がこっそり耳打ちしてきた。

「ねぇねぇ……結界っていじったりした?」

「いや……何にもしてないけど」

「なんか……少し壊されてるみたいなんだけど」

「本当?」

「こんなんで嘘つくわけないでしょ」

「……とりあえず帰りに見てみよっか」

「わかった」


放課後、すぐに結界の基点を見に行くことはせずいったん二人で家に帰った。

「すぐに見に行かなくてよかったの?」

「人の目が多いから夜に行きたいなって」

「なるほどね」

「とりあえず23時に学校裏で集合でいい?」

「オッケー!」

「危ないと思ったら家に向かって逃げてよ」

「わかってるって」

そう言っていったん二人は分かれた。


そして深夜。先についたのは成実だった。

「深夜の学校なんてちょっとわくわくしちゃうなぁ」

なんて独り言をつぶやいていると、10メートルほど先に人の気配がした。街灯がちょうどないところに立っているので相手が何人か、どのような容姿なのかは見えない。

「こんばんは」

謎の人物の声は若い女の声だった。しかもつい最近聞いたことあるような。

「まさかこんなところで会うなんて思わなかったわ」

「……誰?」

街灯の光が届くところに二人組の女が現れた。

「夕方振りね、成実さん……だったかしら」

「えーっと……遠坂さん……?」

「こんな夜更けに何をしているの?」

凛が若干の圧を掛けながら成実に問う。

「あー……えっと……」

まさか人に話しかけられるなんて思ってもいなかったからまともな理由をすぐに出せない。

「もしかして……結界の様子を見にきた、とか?」

「えっ?」

思いがけない言葉に動揺してしまう。

「まぁ…ここに来てるってことは大体そうよね」

「まさか遠坂さん達も……」

「そういうこと」

その瞬間ぐいっと体を後ろに引っ張られる。ライダーが思いっきり引っ張ってくれたようだ。

「ライダー!?」

「前を見て」

前を見ると刀を振り上げ残身をしたはかま姿の女性がいる。どうやら腕のあったあたりを刀が通ったようだ。

「来るわ」

「えっ!?」

そのままライダーが成実を引っ張って刀を避けていく。刀と一緒に黒い球が頬をかすめていく。

「危なっ…」

「マスター。彼女を呼びましょ」

その言葉に応じて懐のアクセサリーをつぶそうとしたところで後ろから刀を弾く銀髪の女性が現れた。

「お待たせ」

詩織がアサシンの懐に槍を投げつける。当然弾かれるが距離をとることに成功する。

「無事?」

「な、なんとか」


「まさかあなたたちが魔術師だとは」

「ええ、宮桜さん。貴女に大聖杯を奪われた遠坂よ」

「遠坂……なるほど!思い出した……」

「まぁ、別に昔の話だから恨んでいるわけじゃないけど……ね!」

話し終えるタイミングで凛が突然ガンドを打ち出す。しかし、二本目の槍を伸ばしてガンドを弾く。

「ランサー、サーバント任せたよ」

「……かしこまりました」

アサシンをランサーに任せて凛の方に槍で攻撃しに行く。

(普通の魔術師なら近接で圧倒できるはず……)

脇に槍を叩きこもうとしたところ凛がガンドの構えをやめ、蹴りを詩織に放ってくる。詩織も攻撃をいったん中止しその攻撃を防ぐ。

(普通に近接も強いのね……)

懐から拳銃を取り出して三発凛に向かって発砲する。

「やばっ……」

凛に銃弾が届きかけたところで黒い何かが銃弾を吸ってしまう。

「ん……?」

不審に思ったもののもう一度凛に向けて槍で攻撃を仕掛ける。倒すつもりで横薙ぎをしようとしたところで先ほど放った銃弾が正面から飛んでくる。

踏みとどまろうとしたところでランサーが銃弾をすべて切り払う。

「大丈夫ですか……マスター」

「あ、うん……ありがとう」

敵のアサシンも凛の隣に降り立つ。

「倒し切るのは難しそうね……」

少しずつ後退していって成実の手を取る。

「成実、ここはいったん帰りましょ。簡単に倒せる敵じゃない」

「わ、わかった」

ランサーに警戒させながら走って撤退する。凛も追いかけたりせずいったんはその場を退いた。

「あんな身近に魔術師がいたんだね……驚いちゃった」

「私もよ……にしてもあの二人強かったわね」

「私がもっと戦えればよかったんだけど…」

「無理しないで。ちょっと前まで魔術なんて知らなかったんだから」

離しているうちにとりあえず詩織の家に到着する。

「詩織、成実、おかえり」

「ただいまイオナ」


「そういえば結界どうしよっか」

「あー……とりあえずは放棄でいいかも。別の魔術師にばれちゃってるし」

「学校はどうする?遠坂さん達隣の席だけど……」

「サーバントを連れていれば大丈夫じゃないかしら……。流石に真っ昼間から殺しには来ないと思う。でも一人で行動するのは危険だから私と一緒に動きましょ」

「わかった」


「そういえば、詩織拳銃なんて持ってたんだね」

お風呂上りに少しくつろいでいたところで成実が問いかける。

「あ、これ?いろんな伝手があるから遠距離対策でね」

机の上にゴトっと置いて見せてみる。

「なんか不思議な模様彫ってあるんだね」

成実の言う通り目の前の拳銃には何やら見たことのない文字のような模様のような物が掘ってある。

「これが普通の銃と違うところなの。いろいろ恩恵があっていいんだよね」

「へぇ~」

「さ、軽く寝て朝に備えましょ」

「わかった」

銃を隠しなおして布団に向かう。


翌朝、二人そろって少し遅れて学校に行くとなんと遠坂姉妹も学校にいた。

正直いるとは思ってはいなかったので少し驚いた。特に普段から話すわけではないので多少の警戒をしながら普段通り授業を受ける。

当然、互いに魔術師だと知っていても昼間こんなに人の目があるところでおっぱじめるわけにはいかないのだ。

「ねぇねぇ、詩織。どうするの?あの二人も学校に来てたけど……」

放課後になって成実が聞いてくる。少し不安そうだ。

「今のところこちらから手を出す気はない……あっちが何もしてこないなら」

「結界はどうするの?」

「しばらくは放置かな。拠点はうちにすればいいし。そうだ、しばらく成実うちに泊まらない?」

唐突に提案をする。

「え?いいの?」

「もちろん。一緒に戦うんだし、安全な拠点は必要でしょ?」

一般家庭にいるよりは確かに詩織の家の方が安全だ。

「じゃあ、しばらく泊まる!」

少しテンション高めに答える。

「ん。じゃあ成実の家にしばらくの荷物取りに行かなきゃだね」

「確かに!」

手早く帰り支度をして学校を出る。道中で遠坂姉妹を見ることはなかったがもう帰ってしまったのだろうか。


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